本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の基板、ハードディスク、フィルタ−、センサ−等の基板およびCMOS等の固体撮像素子等のカバーガラスに好適な無アルカリガラスおよび無アルカリガラス基板に関する。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のディスプレイ、ハードディスク、フィルタ−、センサ−等の基板およびCMOS等の固体撮像素子等のカバーガラスにガラス基板が広く使用されている。特に、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、薄膜トランジスタ(以下、TFTと称する)に代表されるアクティブ素子で画素が駆動されるアクティブマトリックス型ディスプレイが主流になっており、これらは液晶テレビ、ノートパソコン、液晶モニター、携帯電話およびデジタルカメラのディスプレイ等のカラー表示や動画表示のディスプレイに広く用いられている。アクティブマトリックス型ディスプレイは、ガラス基板の表面にTFT素子や信号線等のミクロンオーダーの高精細な電子回路が薄膜により形成されている。
以上のような用途のガラス基板は、以下に示す種々の特性が要求される(要すれば、特許文献1参照)。
(1)ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないこと。
(2)フォトエッチング工程で使用される薬品(種々の酸、アルカリ等)によって劣化しないような耐薬品性を有すること。
(3)成膜、アニール等の熱処理工程で熱収縮しないような高い歪点を有すること。
(4)ディスプレイの軽量化を達成するために、密度が小さいこと。
(5)周辺部材の熱膨張係数と整合が取れていること。
また、この種のガラス基板は、以下の(6)〜(8)ような特性も要求される。
(6)溶融欠陥がガラス基板中に存在しないように、溶融性に優れていること。特に泡欠陥が存在しないこと。
無アルカリのガラス系(無アルカリガラス)は、融剤成分として効果が高いアルカリ金属酸化物を含んでいないため、高度な溶融技術が必要とされる。無アルカリガラスを溶融する方法として、溶融窯の温度を上昇させる方法等の溶融設備・溶融条件を最適化する方法やガラスの融点を下げて、ガラスを溶かしやすくする方法が挙げられる。後者の方法において、ガラスの溶融性の指標として、高温粘度102.5dPa・sにおける温度があり、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを溶かしやすくなる。つまり、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを低温で溶融できるとともに、溶融ガラスの泡切れ性が良くなり、ガラス基板中の泡欠陥を低減することができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高いと、ガラスを均質に溶融するために溶融窯を高温に保持する必要があり、これに付随してアルミナやジルコニア等の溶融窯に使用される耐火物が侵食されやすくなり、結果として、溶融窯のライフサイクルが短くなり、ガラス基板の製造コストの高騰を招く。一方、溶融温度を低くすれば、耐火物や白金族元素等のブツの発生確率を低下できることに加えて、ガラスを溶融する上でのエネルギーコストを低廉化、且つ環境負荷を低減することができる。以上の点を考慮すれば、溶融温度の低下は、無アルカリガラス基板を製造する上で、重要な技術的課題である。
従来の無アルカリガラスは、上記要求特性(1)〜(5)を満足させるために、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高く、具体的には高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃より高かった。つまり、従来の無アルカリガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下にするために、種々の要求特性の一部を犠牲にする必要性、特に液相粘度を高くする必要性があった。また、泡のないガラスを得るためには、ガラス化反応時から均質化溶融時に至る温度域で清澄ガスを発生する清澄剤(泡切れ剤、消泡剤)を用いることが重要である。つまり、ガラスの清澄は、ガラス化反応時に発生するガスを清澄ガスによってガラス融液から追い出し、さらに均質化溶融時に再び発生させた清澄ガスによって残った微小な泡を大きくし、これを浮上させて除去する。ところで、既述の通り、液晶ディスプレイ用ガラス基板に使用される無アルカリガラスは、ガラス融液の粘度が高く、アルカリ成分を含有するガラスに比べて、より高温で溶融が行われる。従来まで、清澄剤には幅広い温度域(1200〜1600℃程度)で清澄ガスを発生させるAs2O3が広く使用されてきた。しかし、As2O3は、毒性が非常に強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性があり、後述の要求特性(8)を満たすことができない。よって、環境に配慮しつつ、泡欠陥を低減するために、As2O3以外の清澄剤を用いる必要がある。そのような場合、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下にすると、泡抜け性が良好になるため、As2O3と同等の清澄効果を得やすくなる。
(7)溶融、成形中に発生する異物がガラス中に存在しないように、耐失透性に優れていること。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに用いるガラス基板の代表的な成形方法は、オーバーフローダウンドロー法である。オーバーフローダウンドロー法を用いると、表面を研磨しなくても、大面積で肉厚の薄い、表面が非常に平滑なガラス基板を成形することができる。したがって、オーバーフローダウンドロー法は、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板の成形方法として最も適している。
オーバーフローダウンドロー法を採用するためには、ガラスの耐失透性が重要な特性である。ここで、失透とは、高温で融液状になったガラス原料を冷却してガラスを成形する工程において、ガラスの内部や表面に結晶質の異物が析出することをいう。このような結晶質の異物は、光を遮断するため、ディスプレイ用ガラス基板としては致命的な欠陥になる。また、オーバーフローダウンドロー法は、同じガラス組成を用いた場合であっても、フロート法に比べてガラス成形時の温度が低い。よって、オーバーフローダウンドロー法を採用するためには、ガラスに失透が生じ難い、つまり耐失透性が良好なガラス組成を設計する必要がある。具体的には、ガラスが成形される温度を勘案して、ガラスの液相粘度ができるだけ高くなるようにガラス組成を設計する必要がある。
従来の高温粘度が低い無アルカリガラスは、上記要求特性(1)〜(5)を満足させるために、液相粘度が低く、具体的には液相粘度が105.2dPa・sより低かった。つまり、高温粘度が低く、且つ液相粘度が高い無アルカリガラスを得ることが困難であった。このような背景から、表面品位が良好なガラス基板を得る目的で、液相粘度を105.2dPa・s以上とするためには、種々の要求特性の一部を犠牲にして、液相粘度を上昇させていたのが実情である。
(8)環境的配慮から、ガラス中の環境負荷化学物質の含有量を極力低減すること、或いは全く含有しないこと。
欧州におけるRoHS指令の発効等に見られるように、近年、工業製品に対する環境的配慮の要求が高まっている。特に、環境負荷化学物質は、製品中の含有量に厳しい規制を設けるか、或いは製品によっては全く含まないことが求められている。ディスプレイ用ガラス基板であっても、その対象の例外ではなく、ガラス基板中の環境負荷化学物質の含有量をできるだけ減らす、或いは全く使用しないことが求められている。
ガラス組成に含まれる成分のうち、環境負荷化学物質として問題視されるのは、Pb、Cd、Crなどの重金属類のほか、As、Sb等が挙げられる。As、Sbは、ガラスの清澄剤として用いられる成分であり、無アルカリガラス等の高温溶融を必要とするガラスに好適であるが、環境的な側面から、その使用は好ましくない。特に、Asは、毒性が高いため、その使用は厳しく制限される傾向にある。
さらに、アルカリ土類金属成分であるBaは、その原料である化合物が環境負荷化学物質であることから、その使用量を低減する、或いは全く含有しないことが望ましい場合がある。
したがって、本発明は、溶融性および耐失透性等の特性を充足した上で、環境に有害な成分を低減した、或いは実質的に含有しない無アルカリガラスを提案し、環境に配慮した無アルカリガラス基板を得ることを技術的課題とする。
本発明者等は、鋭意努力の結果、アルカリ金属酸化物、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、ガラス組成を、モル%表示で、SiO2 55〜75%、Al2O3 7〜15%、B2O3 7〜12%、MgO 0〜3%、CaO 7〜12%、SrO 0〜5%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜5%、SnO2 0.01〜1%に規制し、且つ液相粘度を105.2dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下に規制することで、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、アルカリ金属酸化物、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、モル%表示で、SiO2 55〜75%、Al2O3 7〜15%、B2O3 7〜12%、MgO 0〜3%、CaO 7〜12%、SrO 0〜5%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜5%、SnO2 0.01〜1%を含有し、且つ液相粘度が105.2dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下であることを特徴とする。
ここで、本発明でいう「アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)の含有量が0.1モル%以下の場合を指す。本発明でいう「As2O3を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のAs2O3の含有量が0.05モル%以下(望ましくは重量%で50ppm以下)の場合を指す。本発明でいう「Sb2O3を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のSb2O3の含有量が0.05モル%以下の場合を指す。本発明でいう「高温粘度102.5dPa・sに相当する温度」は、周知の白金球引き上げ法によって測定した値を指す。本発明でいう「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を周知の白金球引き上げ法で測定した値を指す。また、「液相温度」は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(目開き500μm)を通過し、50メッシュ(目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、ガラス中に失透(結晶異物)が認められた温度を測定したものである。
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成、液相粘度および高温粘度102.5dPa・sにおける温度を厳格に規制しており、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適に使用することができる。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成を上記範囲に厳格に規制しているため、上記要求特性(1)〜(8)を満足することができる。特に、本発明の無アルカリガラスは、溶融性および耐失透性に優れているため、ガラス基板の生産性を飛躍的に高めることができる。
本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。アクティブマトリックス型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに用いられるガラス基板中にアルカリ金属酸化物を含有させると、ガラス基板の表面に形成されたTFT素子にアルカリ成分が拡散し、その性能に異常が発生するおそれがある。本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないため、TFT素子にアルカリ成分が拡散し、その性能が損なわれることはない。
本発明の無アルカリガラスは、液相粘度が105.2dPa・s以上である。このようにすれば、ガラスの成形時に溶融ガラスの粘度が高くても、ガラスに失透が生じ難くなり、ガラス基板の製造効率が向上するとともに、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすくなり、ガラス基板の表面品位を高めることができる。また、液相温度が高いと、大型および/または薄型のガラス基板を効率よく製造することができる。
本発明の無アルカリガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下である。このようにすれば、ガラスを低温で溶融することができ、ガラスの泡切れ性等が向上するとともに、溶融窯に使用される耐火物が侵食され難くなり、溶融窯のライフを長期化することができ、結果として、ガラス基板の製造コストを下げることができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いと、溶融窯の温度を高く保持する必要がなくなり、ガラスを溶融する際のエネルギーコストや環境負荷を低減することができる。さらに、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いと、白金元素等のブツの発生も抑制でき、液晶ディスプレイの製造工程で、回路電極等が断線、ショートする確率を低減することができる。
本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、必須成分でSnO2を0.01モル%以上含有する。このようにすれば、環境的影響が懸念されるAs2O3、Sb2O3を実質的に使用しなくても、SnO2により清澄効果を享受することができ、結果として、泡欠陥のないガラス基板を得ることができる。なお、SnO2は、高温域で起こるSnイオンの価数変化により多数の清澄ガスを発生させることができ、無アルカリガラスの清澄剤として、好適に使用することができる。
BaOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を改善する成分であるが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から、その含有量を制限することが望ましい場合がある。本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量を厳しく規制しており、具体的にはBaOの含有量を2モル%以下に制限しているので、環境的配慮したガラスとなっている。また、本発明の無アルカリガラスは、BaOを実質的に含有しないガラスとすることもできるため、環境に及ぼす影響を更に軽減することもできる。さらに、BaOは、密度を上昇させる成分であるが、本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量を厳しく制限しているため、ガラスの低密度化の観点からも有利である。なお、環境負荷化学物質の含有量を低減、或いは実質的に含有しない構成とすれば、ガラス原料(ガラス)をリサイクルしやすくなる。
第二に、本発明の無アルカリガラスは、ROの含有量が10〜20%であることに特徴付けられる。ここで、ROは、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO(MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの合量)を意味する(以下同様)。
第三に、本発明の無アルカリガラスは、モル比CaO/ROの値が0.5〜1であることに特徴付けられる。
第四に、本発明の無アルカリガラスは、モル比CaO/Al2O3の値が0.8〜1.2であることに特徴付けられる。
第五に、本発明の無アルカリガラスは、モル比Al2O3/B2O3の値が0.8〜1.3であることに特徴付けられる。
第六に、本発明の無アルカリガラスは、BaOを実質的に含有しないことに特徴付けられる。本発明でいう「BaOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のBaOの含有量が0.1モル%以下の場合を指す。
第七に、本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量が0.01〜1モル%であることに特徴付けられる。
第八に、本発明の無アルカリガラスは、Clの含有量が0〜1モル%であることに特徴付けられる。
第九に、本発明の無アルカリガラスは、MgOの含有量が0〜0.5モル%未満であることに特徴付けられる。
第十に、本発明の無アルカリガラスは、歪点が630℃以上であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「歪点」は、JIS R3103に基づいて測定した値を指す。
第十一に、本発明の無アルカリガラスは、密度が2.50g/cm3未満であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「密度」は、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
第十二に、本発明の無アルカリガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が33〜39×10−7/℃であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、JIS R3102に基づき、ディラトメーターで30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値を指す。
第十三に、本発明の無アルカリガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が34×10−7/℃より大きいことに特徴付けられる。
第十四に、本発明の無アルカリガラスは、液相粘度が105.5dPa・s以上であることに特徴付けられる。
第十五に、本発明の無アルカリガラスは、液相温度が1100℃未満であることに特徴
付けられる。
第十六に、本発明の無アルカリガラスは、比ヤング率が29.5GPa以上であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「比ヤング率」はヤング率を密度で割った値を指し、「ヤング率」は共振法で測定した値を指す。
第十七に、本発明の無アルカリガラスは、オーバーフローダウンドロー法によって成形されてなることに特徴付けられる。
第十八に、本発明の無アルカリガラス基板は、前記の無アルカリガラスによって構成されていることに特徴付けられる。
第十九に、本発明の無アルカリガラス基板は、ディスプレイに使用することに特徴付けられる。
第二十に、本発明の無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイに使用することに特徴付けられる。
第二十一に、本発明の無アルカリガラス基板は、フラットテレビ用液晶ディスプレイに使用することに特徴付けられる。
以下に、上記のようにガラス組成範囲を限定した理由を詳述する。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、モル%表示を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は55〜75%、好ましくは60〜70%、より好ましくは62〜68%である。SiO2の含有量が55%より少ないと、耐薬品性、特に耐酸性が悪化するとともに、低密度化を図り難くなる。また、SiO2の含有量が75%より多いと、高温粘度が上昇し、溶融性が悪化するとともに、クリストバライトの失透が出やすくなり、ガラス中に失透異物の欠陥が生じやすくなる。
Al2O3は、ガラスの歪点を高める効果があるとともに、ガラスのヤング率を向上させる成分であり、その含有量は7〜15%、好ましくは8〜14%、より好ましくは9〜12%、更に好ましくは9.5〜11.5%である。Al2O3の含有量が7%より少ないと、液相温度が上昇し、ガラス中にクリストバライトの失透異物が生じやすくなることに加えて、歪点が低下しやすくなる。また、Al2O3の含有量が15%より多いと、耐バッファードフッ酸性(以下、耐BHF性と称する)が悪化し、ガラス表面に白濁が生じやすくなることに加えて、ガラス中にアノーサイト等のSiO2−Al2O3−RO系の失透が生じやすくなる。
B2O3は、融剤として働き、ガラスの粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は7〜12%、好ましくは8〜11.5%、より好ましくは9〜11%、更に好ましくは9.5〜10.5%である。B2O3の含有量が7%より少ないと、融剤としての働きが充分に発揮されず、耐BHF性が悪化することに加えて、耐失透性が低下する。B2O3の含有量が12%より多いと、歪点が低下したり、耐熱性が低下したりすることに加えて、耐酸性が悪化する傾向がある。
BaOは、ガラスの耐薬品性、ガラスの耐失透性を改善する成分であるが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から、その含有量を制限することが望ましい。具体的には、BaOの含有量は0〜2%、好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.5%(但し、0.5%は含まない)、更に好ましくは0〜0.2%、特に好ましくは実質的にBaOを含有しない。BaOの含有量が2%より多いと、環境に及ぼす負荷が大きくなることに加えて、低密度化を図り難くなる。環境に及ぼす影響に配慮しながら、ガラスの耐失透性を改善させる必要性がある場合には、BaOの含有量を0.01〜1%とするのが好ましく、0.1〜0.6%とするのがより好ましい。また、BaOは、高温粘度を低下させるものの、アルカリ土類金属酸化物の中では、最も高温粘度を低下させる効果が小さい。高温粘度が低下し過ぎると、液相温度が同じでも、ガラスが失透しやすくなる。よって、高温粘度と液相粘度を最適化する観点から、BaOの含有量を制限する必要がある。
SrOは、ガラスの耐薬品性を向上させるとともに、ガラスの耐失透性を改善する成分である。一方、SrOは、高温粘度を低下させるものの、アルカリ土類金属酸化物全体の中では溶融性を改善する効果が小さい。また、ガラス組成中に過剰にSrOを含有させると、密度、熱膨張係数が上昇する傾向がある。したがって、SrOの含有量は0〜5%、好ましくは1〜4%、より好ましくは2〜3%である。SrOの含有量が5%より多いと、密度、熱膨張係数が上昇し過ぎるおそれがある。
MgOは、ガラスの高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分であるとともに、アルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分である。しかし、ガラス組成中に過剰にMgOを含有させると、液相温度が上昇し、成形性が悪化する。しかも、MgOは、BHFと反応して生成物を形成し、その生成物がガラス基板の表面の素子上に固着したり、ガラス基板に付着してガラス基板を白濁させるおそれがある。したがって、MgOは、その含有量を制限するのが好ましく、具体的には、その含有量は0〜3%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.5%未満、特に好ましくは実質的に含有しない。MgOの含有量が3%より多いと、ガラスの耐失透性が悪化し、オーバーフローダウンドロー法を採用し難くなることに加えて、耐BHF性が悪化するおそれがある。なお、本発明でいう「MgOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のMgOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
CaOは、ガラスの高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善するとともに、ガラスの耐失透性を改善する効果を有し、本発明の無アルカリガラスにおいて、必須の成分である。また、CaOは、二価のアルカリ土類金属酸化物の中で最もガラスのヤング率を向上させ、且つガラスの密度の上昇を抑制する成分であり、液晶ディスプレイに使用するガラス基板に好適な特性を付与することができる成分である。MgOもCaOと同様の効果を有するが、耐失透性が悪化しやすく、ガラス組成中に少量しか添加できない。以上のことを勘案すると、本発明の無アルカリガラスでは、CaOの含有量を比較的多くすることが重要であり、CaOの含有量は7〜15%、好ましくは7.5〜14%、より好ましくは8〜13%、更に好ましくは9〜12%である。CaOの含有量が7%より少ないと、上記効果を十分に享受できないおそれがある。CaOの含有量が15%より多いと、耐BHF性が損なわれ、ガラス基板の表面が侵食されやすくなることに加えて、反応生成物がガラス基板の表面に付着し、ガラスを白濁させるおそれがある。
ZnOは、ガラスの耐BHF性を改善するととともに、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、ZnOの含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなる。また、ZnOの含有量が5%より多いと、歪点が低下しやすくなり、所望の耐熱性が得られ難くなる。さらに、ZnOは、環境に及ぼす影響は大きくないものの、環境負荷化学物質に準じた物質として扱われる場合があるため、その含有量をできるだけ少なくすることが望ましい。具体的には、ZnOの含有量は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましく、0.5%以下が特に好ましく、理想的には実質的に含有しない。ここで、「ZnOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のZnOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
ZrO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善する成分であるが、ZrO2の含有量が5%より多いと、液相温度が上昇し、ジルコンの失透異物が出やすくなる。したがって、ZrO2の含有量は0〜5%が好ましく、0〜1%がより好ましく、0.01〜0.5%が更に好ましい。なお、ZrO2導入源としてZrO2を主成分とする原料を用いてもよいが、ガラス溶融炉を構成する耐火物等の溶出等を利用して、ガラス組成中にZrO2を含有させても差し支えない。
TiO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善し、且つ高温粘性を下げて溶融性を向上させる成分である。また、TiO2は、紫外線着色を防止する効果がある成分である。近年、液晶ディスプレイは、一般的に、紫外線硬化樹脂を用いて、2枚のガラス基板間を封止している。紫外線硬化樹脂の硬化時間を短縮させるために、TiO2の含有量を少量とするのが好ましく、具体的にはTiO2の含有量は0〜3%が好ましく、0〜1%がより好ましい。TiO2の含有量が3%より多いと、ガラスが着色し、ガラス基板の透過率が低下するため、ディスプレイ用途に使用し難くなる。
本発明の無アルカリガラスは、本発明の特徴となる特性が損なわれない範囲で他の成分、例えばY2O3、Nb2O5、WO3等を5%以内で含有させることができる。なお、これらの成分は、耐失透性の向上やヤング率の向上に効果がある成分である。
既述の通り、ガラスの清澄剤として、As2O3が広く使用されてきたが、本発明の無アルカリガラスは、環境的観点からAs2O3を実質的に含有しない。さらに、本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、Sb2O3も実質的に含有しない。Sb2O3は、As2O3に比べ、その毒性は低いが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から使用を制限するのが好ましい。
さらに、Cl、F等のハロゲンは、ガラスの融剤として添加されるが、ガラス溶融時に発生する揮発物に毒性があることから、その使用量を低減するのが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。したがって、Cl、Fの含有量は、0〜1%が好ましく、0〜0.2%がより好ましく、実質的に含有しないことが更に好ましい。ここで、「Cl、F等のハロゲンを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のCl、F等のハロゲンが0.01%以下の場合を指す。
本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、SnO2を使用し、その含有量は0.01〜1%、好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.2%である。SnO2は、高温域で生じるSnイオンの価数変化により多数の清澄ガスを発生させるが、無アルカリガラスは、融点がアルカリ含有ガラスより高いため、清澄剤として好適に使用することができる。一方、SnO2の含有量が1%より多いと、ガラスの耐失透性が悪化するおそれがある。なお、SnO2導入源としてSnO2を主成分とする原料を用いてもよいが、ガラス溶融炉に設置される電極等の溶出等を利用して、ガラス組成中にSnO2を含有させても差し支えない。また、後述の通り、SnO2の含有量が多いと、ガラスの耐失透性が悪化するため、ガラスの耐失透性を考慮すれば、SnO2の含有量を0.2%以下とするのが好ましい。
本発明の特徴となるガラス特性が損なわれない限り、SO3、或いはC、Al、Siの金属粉末等を清澄剤として用いることができる。CeO2、Fe2O3等も清澄剤として使用することができるが、ガラスを着色させるおそれがあるため、その含有量は0.1%以下とするのが好ましい。
ROは、ガラスの密度を低下させ、ガラスの高温粘性を下げる成分であり、その含有量は10〜20%が好ましく、11〜18%がより好ましい。ROの含有量が10%より少ないと、高温粘性が上昇しやすくなる。一方、ROの含有量が20%より多いと、密度が上昇しやすくなる。
モル比CaO/ROの値を規制すれば、ガラスの密度を低下させつつ、ガラスの高温粘性を効果的に低下させ、更にはガラスのヤング率、比ヤング率を向上させることができる。具体的には、モル比CaO/ROの値は0.5〜1が好ましく、0.6〜0.8がより好ましい。モル比CaO/ROの値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
モル比CaO/Al2O3の値を規制すれば、ガラスの耐失透性を顕著に向上させることができ、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすくなる。具体的には、モル比CaO/Al2O3の値は0.8〜1.2が好ましく、0.85〜1.15がより好ましい。モル比CaO/Al2O3の値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
モル比Al2O3/B2O3の値を規制すれば、ガラスの歪点を上昇させつつ、ガラスのヤング率、比ヤング率を向上させ、しかもガラスの耐薬品性を向上させることができる。具体的には、モル比Al2O3/B2O3の値は0.8〜1.3が好ましく、0.9〜1.2がより好ましい。モル比Al2O3/B2O3の値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
既述の通り、オーバーフローダウンドロー法は、大面積で肉厚の薄く、且つ表面が平滑なガラス基板を成形できるため、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板の成形方法として最も適している。一方、フロート法は、窓板ガラスの成形工程として周知であるが、この方法は薄いガラス基板を成形する際に、ガラスの引き出し方向に平行なスジ状の凹凸が発生する。ガラス基板上のスジは、画像のゆがみやガラス基板間の液晶層の厚みバラツキに起因した表示ムラ等を惹起しやすくなり、ディスプレイの映像品位に重大な影響を与えるおそれがある。このような事情から、フロート法で成形したガラス基板をアクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板に使用する場合には、研磨工程を経て、凹凸を除去する必要がある。しかし、研磨工程は、コストアップの一因になることに加えて、研磨で発生するガラス基板表面の微細なキズが、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイの製造工程において、ガラス基板表面に形成される電子回路の断線を惹起するおそれがある。
既述の通り、オーバーフローダウンドロー法を適用するためには、ガラスに失透が生じ難い、つまり耐失透性が良好なガラス組成を設計することが不可欠となる。具体的には、ガラスが成形される温度を勘案して、本発明の無アルカリガラスの液相粘度は105.2dPa・s以上、好ましくは105.5dPa・s以上、より好ましくは105.8dPa・s以上である。ガラスの液相粘度が105.2dPa・s未満であると、オーバーフローダウンドロー法を採用することができず、ガラスの成形方法に不当な制約が課され、ガラス基板の表面品位を確保することが困難になる。
また、本発明の無アルカリガラスにおいて、液相温度は1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下が更に好ましく、1100℃未満が特に好ましい。液相温度が1200℃より高いと、オーバーフローダウンドロー法を採用することができず、ガラスの成形方法に不当な制約が課され、ガラス基板の表面品位を確保することが困難になる。
本発明の無アルカリガラスは、下記酸化物換算で、SnO2を0.01〜0.2%含有する場合において、ガラス組成として、SnO2が0.2%となるまで、SnO2を添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましい。ガラス中に泡等の内部欠陥があれば、光の透過を妨げるため、ディスプレイ用ガラス基板としては致命的な欠陥不良となる。一般的に、ガラス基板が大型化するにつれて、泡が残存する確率が高くなり、ガラス基板の生産性が低下する。よって、ガラスの中の泡を低減する技術が重要となる。ガラス中に含まれる泡を低減する方法には、清澄剤を使用する方法と、高温粘度を低くする方法がある。前者の方法において、無アルカリガラスの清澄剤として、As2O3が最も効果的であるが、既述の通り、As2O3は環境負荷化学物質であることから、その使用を低減する必要がある。そこで、環境的観点から、As2O3の代替清澄剤としてSnO2の導入が想定されるが、SnO2は結晶性異物(失透)の原因になりやすく、これがガラス基板の内部欠陥となるおそれがある。したがって、SnO2に対して失透を生じ難くすれば、清澄剤としてSnO2を導入しても、それに起因する失透が生じ難くなるため、ガラス基板の製造効率および環境的配慮の両立を図ることができる。その上、ガラス基板の製造工程では、Sn電極がガラス中に溶出する事態もある程度想定されるため、SnO2に対して失透を生じ難くすれば、更に有利となる。その点、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中のSnO2の含有量が0.2%に上昇しても、得られるガラスの液相温度を1150℃以下にすることができるため、上記効果を最大限に享受することができる。一方、ガラス組成中のSnO2の含有量が0.2%となった場合、得られるガラスの液相温度が1150℃より高ければ、上記効果を享受し難くなる。ここで、「SnO2が0.2%となるまで、SnO2を添加したとき、得られるガラスの液相温度」は、原料となるバッチに、ガラス組成においてSnO2が0.2%となるまでSnO2を添加(ガラス組成として、合計100%となる)した上でガラスを溶融、成形し、その後、得られたガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましい。泡・異物等の内部欠陥を低減する以外にガラス基板の製造コストを低下させる方法として、溶融窯のライフを長期化し、窯の修理頻度を少なくすることが効果的である。そのための手段として、溶融ガラスに侵食され難いZr系耐火物を使用することが好ましいが、Zr系耐火物の使用個所を増やす程、Zr系の結晶性異物(失透)が発生しやすくなり、これがガラス基板の内部欠陥となるおそれがある。したがって、ZrO2に対して失透を生じ難くすれば、溶融窯の耐火物として、Zr系耐火物を使用しても、このことに起因する失透が生じ難くなるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。その点、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加しても、得られるガラスの液相温度を1150℃以下とすることができるため、上記効果を最大限に享受することができる。一方、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃より高ければ、上記効果を享受し難くなる。ここで、「ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度」は、原料となるバッチに、ガラス組成にZrO2を0.3%に相当する量添加(ガラス組成として、見掛け上、合計100.3%となる)した上でガラスを溶融、成形し、その後、得られたガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュを通過し、50メッシュに残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の無アルカリガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1550℃以下、好ましくは1540℃以下である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃より高いと、ガラスを均質に溶融するために溶融窯を高温に保持する必要があり、これに付随してアルミナやジルコニア等の溶融窯に使用される耐火物が侵食されやすくなり、結果として、溶融窯のライフサイクルが短くなり、ガラス基板の製造コストが高騰しやすくなる。また、ガラスを低温で溶融できれば、ガラスの溶融に要するエネルギーコストを抑制することができるとともに、環境負荷を低減することができる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、歪点は630℃以上が好ましく、640℃以上がより好ましく、650℃以上が更に好ましい。TFTおよび配線等の電子回路を形成する工程で、ガラス基板の表面には、透明導電膜、絶縁膜、半導体膜および金属膜等が成膜され、更にフォトリソグラフィーエッチング工程によって種々の回路、パターンが形成される。これらの成膜およびフォトリソグラフィーエッチング工程において、ガラス基板は、種々の熱処理、薬品処理を受ける。例えば、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイでは、ガラス基板上に絶縁膜や透明導電膜が成膜され、更にアモルファスシリコンや多結晶シリコンのTFTが、フォトリソグラフィーエッチング工程を経て、ガラス基板上に多数形成される。ガラス基板は、これらの工程で300〜600℃の熱処理を受ける。この熱処理によりガラス基板が数ppm程度の寸法変化(ガラス基板1mの長さ寸法に対して数μm:一般的に、この寸法変化は熱収縮と呼ばれている)を起こすことがある。ガラス基板の熱収縮が大きいと、TFTのパターンにズレが発生し、多層の薄膜が積層された素子を正確に形成し難くなる。熱収縮を小さく抑えるためには、ガラスの耐熱性を上げること、具体的には歪点を上げることが効果的である。しかし、歪点を上げ過ぎると、ガラス基板の溶融、成形時の温度が上昇するため、ガラス製造設備の負荷が大きくなり、コストアップの要因となり得る。したがって、他の特性とのバランスを考慮すれば、歪点は、680℃以下、特に670℃以下に設計するのが目安になる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、密度は2.54g/cm3以下が好ましく、2.50g/cm3以下がより好ましく、2.50g/cm3未満が更に好ましく、2.47g/cm3以下が特に好ましい。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイには、薄型化、軽量化の要求があり、同様にガラス基板にも軽量化、薄型化の要求がある。この要求を満たすために0.4〜0.7mm厚の薄いガラス基板が用いられるが、更にパネルの軽量化を図るために低密度のガラスも要求されている。ガラスが低密度である程、ガラス基板が軽量になり、モバイル機器用途に好適となるが、ガラスを過度に低密度にすると、ガラスの溶融性や耐失透性が悪化し、大面積で泡、ブツ等が存在しない無欠陥のガラス基板を製造することが困難になり、フラットテレビ用ガラス基板を安定して製造し難くなる。したがって、他の特性とのバランスを考慮すれば、密度は2.40g/cm3以上(望ましくは2.44g/cm3以上、2.45g/cm3以上)に設計するのが目安になる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、熱膨張係数は33×10−7/℃より大きいことが好ましく、33〜50×10−7/℃がより好ましく、34超〜45×10−7/℃が更に好ましく、35〜42×10−7/℃が特に好ましく、37〜39×10−7/℃が最も好ましい。従来、無アルカリガラス基板の熱膨張係数は、ガラス基板上に成膜されるa−Si、或いはp−Siの熱膨張係数に整合させるのが望ましいとされ、具体的には35×10−7/℃以下が望ましいとされてきた。しかし、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用ガラス基板は、その表面にa−Si、或いはp−Si膜だけでなく、より熱膨張係数が低いSiNxや、より熱膨張係数が高いCr、Ta、Al等の金属配線およびITO等が成膜される。これらの部材に熱膨張係数を整合させる観点に立てば、無アルカリガラスの熱膨張係数は、必ずしも低膨張、具体的には35×10−7/℃以下が適正とは言い切れない。そこで、本発明者等が鋭意調査したところ、無アルカリガラスの熱膨張係数は上記範囲が適正であり、無アルカリガラスの熱膨張係数が上記範囲内であると、各種膜との熱膨張係数が整合するだけでなく、耐熱衝撃性が向上することが明らかになった。しかし、熱膨張係数がこの範囲から外れると、各種膜と熱膨張係数の整合が取れず、且つ耐熱衝撃性が悪化するおそれが生じる。
本発明の無アルカリガラスは、比ヤング率(ヤング率を密度で割った値)が27GPa/g・cm−3以上が好ましく、28GPa/g・cm−3以上がより好ましく、29GPa/g・cm−3以上が更に好ましく、29.5GPa/g・cm−3以上が特に好ましい。比ヤング率を27GPa/g・cm−3以上とすれば、大型で薄板のガラス基板であっても問題が生じない程度のたわみ量に抑えることができる。ここで、「ヤング率」は、JIS R1602に基づく、共振法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、ビッカース硬度が560以上が好ましく、570以上がより好ましく、580以上が更に好ましい。ビッカース硬度が560未満であると、ガラス基板に傷が付きやすく、この傷が原因でガラス基板上に形成した電子回路の断線を引き起こすおそれがある。なお、本発明でいう「ビッカース硬度」は、JIS Z2244−1992に準拠した方法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、104dPa・sにおける温度をT3(℃)、軟化点をT4(℃)としたときに、T3−T4≦330℃の関係を満たすことが好ましい。ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状は、溶融ガラスの温度が成形温度から軟化点に達するまでにほぼ決定される。そのため、T3−T4を小さく(T3−T4を好ましくは330℃以下、より好ましくは325℃以下、更に好ましくは320℃以下)にすれば、ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状を制御しやすくなる。また、T3−T4≦330℃に規制すれば、冷却時に粘性が早く上昇し、板形状に素早く成形することができる。すなわち、T3−T4を330℃以下にすれば、薄板のガラス基板を平坦に成形しやすくなる。また、T3−T4を330℃以下にすれば、大型のガラス基板を平坦に成形しやすくなる。さらに、ダウンドロー成形の場合、徐冷に供される炉内距離には、設備設計上の制限があり、それに伴いガラス基板の徐冷時間も制限を受け、例えば成形温度から室温まで数分程度で冷却しなければならない。したがって、上記粘度特性は、大型および/または薄板のガラス基板を成形する上で非常に有利である。一方、T3−T4が330℃より高いと、ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状を制御し難くなる。なお、T3は、成形温度に相当している。ここで、「104dPa・sにおける温度」は、周知の白金球引き上げ法で測定した値を指し、「軟化点」は、JIS R3103に基づいて、測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスにおいて、80℃の10質量%HCl水溶液に24時間浸漬したとき、その侵食量は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。また、本発明の無アルカリガラスにおいて、20℃の130BHF溶液(NH4HF:4.6質量%,NH4F:36質量%)に30分間浸漬したとき、その侵食量は2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。さらに、本発明の無アルカリガラスは、80℃の10質量%HCl水溶液に3時間浸漬したとき、目視による表面観察で白濁、荒れが認められないことが好ましい。また、本発明の無アルカリガラスは、20℃の63BHF溶液(HF:6質量%,NH4F:30質量%)に30分間浸漬したとき、目視による表面観察で白濁、荒れが認められないことが好ましい。液晶ディスプレイ用ガラス基板の表面には、透明導電膜、絶縁膜、半導体膜、金属膜等が成膜され、しかもフォトリソグラフィーエッチングによって種々の回路やパターンが形成される。また、これらの成膜、フォトリソグラフィーエッチング工程において、ガラス基板には、種々の熱処理や薬品処理が施される。一般的に、TFTアレイプロセスでは、成膜工程→レジストパターン形成→エッチング工程→レジスト剥離工程の一連のプロセスが繰り返される。その際、エッチング液として、硫酸、塩酸、アルカリ溶液、フッ酸、BHF等の種々の薬液処理を受け、更にはCF4、S2F6、HCl等のガスを用いたプラズマによるエッチング工程を通る。これらの薬液は、低コスト化を考慮して、使い捨てではなく、循環の液系フローになっている。ガラスの耐薬品性が乏しいと、エッチングの際、薬液とガラス基板の反応生成物が、循環の液系フローのフィルターを詰まらせたり、不均質エッチングによってガラス表面に白濁が生じ、或いはエッチング液の成分変化によって、エッチングレートが不安定になる等の様々な問題を引き起こす可能性がある。特に、BHFに代表されるフッ酸系の薬液は、ガラス基板を強く侵食するため、上記のような問題が発生しやすく、薬液に対するガラスの侵食量を少なくすることは、薬液の汚染や反応生成物による工程中のフィルタの詰まりを防止する観点から非常に重要である。以上の事情から、ガラス基板は、耐BHF性に優れていることが要求されている。また、ガラスの耐薬品性に関して、侵食量が少ないだけでなく、外観変化を引き起こさないことも重要であり、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ等のディスプレイ用ガラス基板は、光の透過率が重要であるため、薬液処理によって白濁や荒れ等の変化が生じ難いことが重要である。侵食量と外観変化の評価結果は、特に耐BHF性について必ずしも一致せず、例えば同じ侵食量を示すガラスであっても、その組成によって薬品処理後に外観変化を引き起こしたり、引き起こさなかったりする場合がある。本発明の無アルカリガラスは、20℃の130BHF溶液に30分間浸漬しても、その侵食量が2μm以下、且つ20℃の63BHF溶液に30分間浸漬しても、目視による表面観察で白濁、荒れが認められない状態にすることができるため、上記問題点を解消することができる。
液晶ディスプレイ等では、大きなガラス基板(マザーガラスと称される)から何枚ものディスプレイを作製する所謂多面取りが行われており、多面取りを行うと、ディスプレイの製造コストを低減できることから、近年、ガラス基板の面積は次第に大きくなっている。一方、ガラス基板の面積が大きくなると、ガラス基板中に失透物が現れる確率が高くなり、ガラス基板の良品率が急激に低下する。したがって、本発明の無アルカリガラス基板は、耐失透性が良好であるため、大型のガラス基板を作製する上で大きなメリットがある。例えば、基板面積が0.1m2以上(具体的には、320mm×420mm以上のサイズ)、特に0.5m2以上(具体的には、630mm×830mm以上のサイズ)、1.0m2以上(具体的には、950mm×1150mm以上のサイズ)、更には2.3m2以上(具体的には、1400mm×1700mm以上のサイズ)、3.5m2以上(具体的には、1750mm×2050mm以上のサイズ)、4.8m2以上(具体的には、2100mm×2300mm以上のサイズ)、5.8m2以上(具体的には、2350mm×2500mm以上のサイズ)、6.5m2以上(具体的には、2400mm×2800mm以上のサイズ)、8.5m2以上(具体的には、2850mm×3050mm以上のサイズ)に大型化する程、本発明の無アルカリガラス基板は有利になる。また、本発明の無アルカリガラス基板は、低密度、高比ヤング率の特性を付与できるとともに、薄板のガラス基板を精度良く成形することが可能であるため、薄板のガラス基板に好適であり、具体的には肉厚が0.8mm以下(好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下、更に好ましくは0.4mm以下)のガラス基板に好適である。また、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス基板の板厚を薄くしても、従来のガラス基板に比べて、ガラス基板のたわみ量を小さくできるため、カセットの棚へ出し入れする際、ガラス基板の破損等を防止しやすくなる。
本発明の無アルカリガラス基板は、フラットテレビ用液晶ディスプレイに使用することが好ましい。近年、フラットテレビ用液晶ディスプレイの画面サイズは、大型化する傾向があり、本発明の無アルカリガラス基板は、生産性に優れるため、基板面積の大型化を容易に図ることができる。さらに、本発明の無アルカリガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法で成形することができるため、表面品位を高めることができ、フラットテレビ用液晶ディスプレイの映像品位を損ない難い。
本発明の無アルカリガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましい。ガラスの理論強度は本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度が損なわれ難くなり、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の平均表面粗さ(Ra)は、10Å以下であることが好ましく、7Å以下がより好ましく、4Å以下が更に好ましく、2Å以下が最も好ましい。平均表面粗さ(Ra)が10Åより大きいと、液晶ディスプレイの製造工程において、回路電極等を正確にパターニングし難くなり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差は20μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましい。ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差が20μmより大きいと、回路電極等を正確にパターニングし難くなり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「最大板厚と最小板厚の板厚差」は、レーザー式厚み測定装置を用いて、ガラス基板の任意の一辺に板厚方向からレーザーを走査することにより、ガラス基板の最大板厚と最小板厚を測定した上で、最大板厚の値から最小板厚の値を減じた値を指す。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板のうねりは、0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がより好ましく、0.03μm未満が更に好ましく、0.01μm以下が最も好ましい。さらに、理想的には、実質的にうねりが存在しないことが望ましい。うねりが0.1μmより大きいと、回路電極等の正確なパターニングを行うことが困難になり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定したものである。
本発明の無アルカリガラス基板において、目標板厚に対する誤差は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。ガラス基板の目標板厚に対する誤差が10μmより大きいと、回路電極等のパターニング精度が低下し、所定の条件で高品質の液晶ディスプレイ等を安定して製造することが困難となる。ここで、「目標板厚に対する誤差」は、目標板厚から上記方法で得られる最大板厚または最小板厚の値を減じた値の絶対値のうち、大きな方の値を指す。
ガラス基板の汚染防止等の観点から、ガラス製造設備の多くは、白金族元素または白金族元素合金からなる、或いは白金族元素または白金族元素合金で被覆されている。溶融炉や成形体に白金族元素又は白金族元素合金が使用されていると、これらが溶融ガラス中に取り込まれ、ブツとなるおそれがある。白金族元素等のブツの発生確率は、ガラスの溶融温度と相関があり、ガラスの溶融温度が高い程、ガラス融液中に白金族元素等が溶け込みやすくなる。白金族元素等のブツが溶け込んだ溶融ガラスをガラス基板に成形する際、溶融ガラスは所定の厚みに延伸されるが、ガラス中に存在する白金族元素等のブツは固体であり、ほとんど延伸されない。そのため、白金族元素等のブツが存在する部分は、白金族元素等のブツの厚みが減少しない分だけ板厚が増大する。この板厚の増大は、白金族元素等のブツ近傍のガラスの粘性流動および延伸によりやがて緩和される。しかし、白金族元素等のブツがガラス基板表面近傍に存在する場合、白金族元素等のブツ近傍のガラス量が少ないため、板厚増加が緩和されないうちにガラスが固まり、ガラス基板表面に突起として現れやすくなる。白金族元素等のブツがガラス基板の表面上に存在すると、液晶ディスプレイの回路電極の断線、ショートを惹起する。ここで、本発明の無アルカリガラス基板は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下であるため、白金族元素等のブツの発生確率を低減することができる。また、本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板表面の突起は2ヶ/m2以下であることが好ましく、1ヶ/m2以下であることがより好ましく、0.4ヶ/m2以下が更に好ましく、0.25ヶ/m2以下が特に好ましく、0.1ヶ/m2以下が最も好ましい。ガラス基板表面の突起が2ヶ/m2以下であると、成膜工程における回路電極の断線やショートの確率が低くなる。また、突起を少なくすれば、研磨が不要となるため、ガラス基板の表面品位を高めることができる。ガラス基板表面の突起を2ヶ/m2以下にするには、突起の原因となる白金族元素ブツを40ヶ/kg以下(好ましくは20ヶ/kg以下、10ヶ/kg以下、5ヶ/kg以下、特に1ヶ/kg以下)にすることが望ましい。ここで、「突起」とは、表面粗さ計にて1000μmの距離を検査したときに、突部の先端とガラス基板表面との高低差(突部の高さ)が1μm以上となる部位を指す。また、「白金族元素ブツ」とは、最長径が3μm以上のものを指す。
本発明の無アルカリガラス基板は、所望のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融し、脱泡した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の無アルカリガラス基板は、表面品位が良好なガラス基板を製造する観点から、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ディスプレイ用ガラス基板に使用できる品位
を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の無アルカリガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法で高品位のガラス基板を成形することができる。
なお、本発明の無アルカリガラス基板は、成形方法として、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の方法を採用することができる。例えば、フロート法、スロットダウンドロー法、リドロー法等の種々の方法を採用することができる。特に、フロート法は、オーバーフローダウンドロー法に比べて、得られるガラス基板の表面品位が劣り、別途、ガラス基板の表面に研磨処理を施さなければならないものの、ガラス基板を効率良く成形することができる。
以下、実施例(試料No.1〜56)に基づいて、本発明を詳細に説明する。
ガラス試料は次のように作製した。定められた割合に原料を調合したバッチを白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融し、その後カ−ボン板上に流し出し、板状に成形した。
このガラス試料を用いて密度、歪点、高温粘度等の各種特性を測定した。
密度は、周知のアルキメデス法で測定した。
熱膨張係数は、JIS R3102に基づいて、ディラトメーターで平均値を測定した。測定温度範囲は、30〜380℃とした。
歪点Ps、徐冷点Taおよび軟化点Tsは、JIS R3103に基づいて測定した。
高温粘度102.5dPa・sにおける温度、103dPa・sにおける温度および104dPa・sにおける温度は、周知の白金球引き上げ法を用いて測定した。
液相温度TLは、各ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(目開き500μm)を通過し、50メッシュ(目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、ガラス中に失透(結晶異物)が認められた温度を示している。液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を周知の白金球引き上げ法で測定した値を示した。
SnO2を添加したときの液相温度(表中では耐SnO2失透性)は、原料となるバッチに、ガラス組成においてSnO2が0.2%となるまで添加し、上記と同様の条件でガラスを溶融・成形し、その後、ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持して、結晶の析出する温度を測定した。次いで、1150℃で失透が認められないものを「○」、1150℃で失透が認められたものを「×」とした。なお、本評価と並行して、ガラスの清澄性を評価したところ、SnO2を0.2%となるまで添加したとき、ガラスに泡欠陥は認められなかった。
ZrO2を添加したときの液相温度(表中では耐ZrO2失透性)は、原料となるバッチに、ZrO2をガラス組成において0.3%に相当する量を添加し、上記と同様の条件でガラスを溶融・成形し、その後、ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持して、結晶の析出する温度を測定した。次いで、1150℃で失透が認められないものを「○」、1150℃で失透が認められたものを「×」とした。
ヤング率は、共振法で測定した。比ヤング率は、ヤング率を密度で割ることにより、算出した。
耐BHF性と耐HCl性については、次の方法で評価した。まず各ガラス試料の両面を光学研磨した後、一部をマスキングしてから所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬した。薬液処理後、マスクをはずし、マスク部分と浸食部分の段差を表面粗さ計で測定し、その値を浸食量とした。耐BHF性の浸食量が、1μm未満であれば「◎」、1μm以上2μm未満であれば「○」、2μm以上であれば「×」と評価した。また、耐HCl性浸食量が、5μm未満であれば「◎」、5μm以上10μm未満であれば「○」、10μm以上であれば「×」と評価した。外観評価に関しては、各ガラス試料の両面を光学研磨した後、所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬してから、ガラス表面を目視で観察し、変化が無いものを「○」とし、ガラス表面が白濁したり、荒れたり、クラックが入っているものを「×」とした。薬液および処理条件は、以下の通りである。耐BHF性は、130BHF溶液を用いて20℃、30分間の処理条件で測定した。外観評価は、63BHF溶液を用いて、20℃、30分間の処理条件で行った。また耐HCl性は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、24時間の処理条件で測定した。外観評価は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、3時間の処理条件で行った。
各ガラス試料は、密度が2.43〜2.50g/cm3、熱膨張係数が37〜42×10−7/℃、歪点が656〜677℃、徐冷点が704〜730℃、軟化点が914〜963℃、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1484〜1550℃、液相温度が1065〜1130℃、液相粘度が105.2〜105.9dPa・s、ヤング率が72〜76GPa、比ヤング率が29〜31GPa/g・cm−3であった。
したがって、各ガラス試料は、As2O3、Sb2O3等の環境負荷化学物質を含有していないため、環境的配慮がなされている。また、各ガラス試料は、密度が2.50g/cm3以下であり、ガラス基板の軽量化を図ることができ、熱膨張係数が35〜45×10−7/℃の範囲内にあるため、各種薄膜との整合性が良好であり、歪点が640℃以上であるため、ディスプレイ製造工程における熱処理工程でガラスが熱収縮し難い。更に、各ガラス試料は、液相温度が1200℃以下であり、且つ液相粘度が105.2dPa・s以上であるため、耐失透性に優れているとともに、ガラスの成形性に優れており、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1550℃以下であるため、ガラスの溶融、成形性に優れていた。更に、各ガラス試料は、耐薬品性、特に耐BHF性、耐酸性も優れていた。
さらに、各試料No.1〜56を試験溶融炉で溶融し、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板に成形し、900mm×1100mmの基板サイズ、厚み0.5mmのディスプレイ用ガラス基板を作製したところ、このガラス基板の反りは0.05%以下、うねり(WCA)は0.1μm以下、表面粗さ(Ra)は50Å以下(カットオフλc:9μm)であり、表面品位に優れ、LCD用ガラス基板に適したものであった。なお、オーバーフローダウンドロー法によるガラス基板の成形に際し、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、溶融ガラスの温度、ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することで、ガラス基板の表面品位を調節した。また、「反り」は、ガラス基板を光学定盤上に置き、JIS B−7524に記載のすきまゲージを用いて測定したものである。「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定したものである。「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値である。
本発明の無アルカリガラスは、環境に配慮したガラスであり、ガラス原料をリサイクルしやすいとともに、環境汚染を招く可能性が低いため、次世代のガラス基板として好適である。また、本発明の無アルカリガラスは、種々の要求特性を満足しており、特にガラスの溶融性、耐失透性に優れるため、ガラス基板の製造コストを低廉化できるとともに、大型および/または薄型のガラス基板の製造効率を高めることができる。
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の基板、ハードディスク、フィルタ−、センサ−等の基板およびCMOS等の固体撮像素子等のカバーガラスに好適な無アルカリガラスおよび無アルカリガラス基板に関する。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のディスプレイ、ハードディスク、フィルタ−、センサ−等の基板およびCMOS等の固体撮像素子等のカバーガラスにガラス基板が広く使用されている。特に、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、薄膜トランジスタ(以下、TFTと称する)に代表されるアクティブ素子で画素が駆動されるアクティブマトリックス型ディスプレイが主流になっており、これらは液晶テレビ、ノートパソコン、液晶モニター、携帯電話およびデジタルカメラのディスプレイ等のカラー表示や動画表示のディスプレイに広く用いられている。アクティブマトリックス型ディスプレイは、ガラス基板の表面にTFT素子や信号線等のミクロンオーダーの高精細な電子回路が薄膜により形成されている。
以上のような用途のガラス基板は、以下に示す種々の特性が要求される(要すれば、特許文献1参照)。
(1)ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないこと。
(2)フォトエッチング工程で使用される薬品(種々の酸、アルカリ等)によって劣化しないような耐薬品性を有すること。
(3)成膜、アニール等の熱処理工程で熱収縮しないような高い歪点を有すること。
(4)ディスプレイの軽量化を達成するために、密度が小さいこと。
(5)周辺部材の熱膨張係数と整合が取れていること。
また、この種のガラス基板は、以下の(6)〜(8)のような特性も要求される。
(6)溶融欠陥がガラス基板中に存在しないように、溶融性に優れていること。特に泡欠陥が存在しないこと。
無アルカリのガラス系(無アルカリガラス)は、融剤成分として効果が高いアルカリ金属酸化物を含んでいないため、高度な溶融技術が必要とされる。無アルカリガラスを溶融する方法として、溶融窯の温度を上昇させる方法等の溶融設備・溶融条件を最適化する方法やガラスの融点を下げて、ガラスを溶かしやすくする方法が挙げられる。後者の方法において、ガラスの溶融性の指標として、高温粘度102.5dPa・sにおける温度があり、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを溶かしやすくなる。つまり、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラスを低温で溶融できるとともに、溶融ガラスの泡切れ性が良くなり、ガラス基板中の泡欠陥を低減することができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高いと、ガラスを均質に溶融するために溶融窯を高温に保持する必要があり、これに付随してアルミナやジルコニア等の溶融窯に使用される耐火物が侵食されやすくなり、結果として、溶融窯のライフサイクルが短くなり、ガラス基板の製造コストの高騰を招く。一方、溶融温度を低くすれば、耐火物や白金族元素等のブツの発生確率を低下できることに加えて、ガラスを溶融する上でのエネルギーコストを低廉化、且つ環境負荷を低減することができる。以上の点を考慮すれば、溶融温度の低下は、無アルカリガラス基板を製造する上で、重要な技術的課題である。
従来の無アルカリガラスは、上記要求特性(1)〜(5)を満足させるために、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高く、具体的には高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃より高かった。つまり、従来の無アルカリガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下にするために、種々の要求特性の一部を犠牲にする必要性、特に液相粘度を高くする必要性があった。また、泡のないガラスを得るためには、ガラス化反応時から均質化溶融時に至る温度域で清澄ガスを発生する清澄剤(泡切れ剤、消泡剤)を用いることが重要である。つまり、ガラスの清澄は、ガラス化反応時に発生するガスを清澄ガスによってガラス融液から追い出し、さらに均質化溶融時に再び発生させた清澄ガスによって残った微小な泡を大きくし、これを浮上させて除去する。ところで、既述の通り、液晶ディスプレイ用ガラス基板に使用される無アルカリガラスは、ガラス融液の粘度が高く、アルカリ成分を含有するガラスに比べて、より高温で溶融が行われる。従来まで、清澄剤には幅広い温度域(1200〜1600℃程度)で清澄ガスを発生させるAs2O3が広く使用されてきた。しかし、As2O3は、毒性が非常に強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性があり、後述の要求特性(8)を満たすことができない。よって、環境に配慮しつつ、泡欠陥を低減するために、As2O3以外の清澄剤を用いる必要がある。そのような場合、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下にすると、泡抜け性が良好になるため、As2O3と同等の清澄効果を得やすくなる。
(7)溶融、成形中に発生する異物がガラス中に存在しないように、耐失透性に優れていること。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに用いるガラス基板の代表的な成形方法は、オーバーフローダウンドロー法である。オーバーフローダウンドロー法を用いると、表面を研磨しなくても、大面積で肉厚の薄い、表面が非常に平滑なガラス基板を成形することができる。したがって、オーバーフローダウンドロー法は、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板の成形方法として最も適している。
オーバーフローダウンドロー法を採用するためには、ガラスの耐失透性が重要な特性である。ここで、失透とは、高温で融液状になったガラス原料を冷却してガラスを成形する工程において、ガラスの内部や表面に結晶質の異物が析出することをいう。このような結晶質の異物は、光を遮断するため、ディスプレイ用ガラス基板としては致命的な欠陥になる。また、オーバーフローダウンドロー法は、同じガラス組成を用いた場合であっても、フロート法に比べてガラス成形時の温度が低い。よって、オーバーフローダウンドロー法を採用するためには、ガラスに失透が生じ難い、つまり耐失透性が良好なガラス組成を設計する必要がある。具体的には、ガラスが成形される温度を勘案して、ガラスの液相粘度ができるだけ高くなるようにガラス組成を設計する必要がある。
従来の高温粘度が低い無アルカリガラスは、上記要求特性(1)〜(5)を満足させるために、液相粘度が低く、具体的には液相粘度が105.2dPa・sより低かった。つまり、高温粘度が低く、且つ液相粘度が高い無アルカリガラスを得ることが困難であった。このような背景から、表面品位が良好なガラス基板を得る目的で、液相粘度を105.2dPa・s以上とするためには、種々の要求特性の一部を犠牲にして、液相粘度を上昇させていたのが実情である。
(8)環境的配慮から、ガラス中の環境負荷化学物質の含有量を極力低減すること、或いは全く含有しないこと。
欧州におけるRoHS指令の発効等に見られるように、近年、工業製品に対する環境的配慮の要求が高まっている。特に、環境負荷化学物質は、製品中の含有量に厳しい規制を設けるか、或いは製品によっては全く含まないことが求められている。ディスプレイ用ガラス基板であっても、その対象の例外ではなく、ガラス基板中の環境負荷化学物質の含有量をできるだけ減らす、或いは全く使用しないことが求められている。
ガラス組成に含まれる成分のうち、環境負荷化学物質として問題視されるのは、Pb、Cd、Crなどの重金属類のほか、As、Sb等が挙げられる。As、Sbは、ガラスの清澄剤として用いられる成分であり、無アルカリガラス等の高温溶融を必要とするガラスに好適であるが、環境的な側面から、その使用は好ましくない。特に、Asは、毒性が高いため、その使用は厳しく制限される傾向にある。
さらに、アルカリ土類金属成分であるBaは、その原料である化合物が環境負荷化学物質であることから、その使用量を低減する、或いは全く含有しないことが望ましい場合がある。
したがって、本発明は、溶融性および耐失透性等の特性を充足した上で、環境に有害な成分を低減した、或いは実質的に含有しない無アルカリガラスを提案し、環境に配慮した無アルカリガラス基板を得ることを技術的課題とする。
本発明者等は、鋭意努力の結果、アルカリ金属酸化物、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、ガラス組成を、モル%表示で、SiO2 55〜75%、Al2O3 7〜15%、B2O3 7〜12%、MgO 0〜3%、CaO 7〜12%、SrO 0〜5%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜5%、RO(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO) 11〜20%、SnO2 0.01〜1%に規制すると共に、モル比CaO/ROの値を0.64〜1に規制し、且つ液相粘度を105.2dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度を1550℃以下に規制することで、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、アルカリ金属酸化物、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、モル%表示で、SiO2 55〜75%、Al2O3 7〜15%、B2O3 7〜12%、MgO 0〜3%、CaO 7〜12%、SrO 0〜5%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜5%、RO(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO) 11〜20%、SnO2 0.01〜1%を含有し、モル比CaO/ROの値が0.64〜1であり、且つ液相粘度が105.2dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下であることを特徴とする。
ここで、本発明でいう「アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)の含有量が0.1モル%以下の場合を指す。本発明でいう「As2O3を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のAs2O3の含有量が0.05モル%以下(望ましくは重量%で50ppm以下)の場合を指す。本発明でいう「Sb2O3を実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のSb2O3の含有量が0.05モル%以下の場合を指す。本発明でいう「高温粘度102.5dPa・sに相当する温度」は、周知の白金球引き上げ法によって測定した値を指す。本発明でいう「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を周知の白金球引き上げ法で測定した値を指す。また、「液相温度」は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(目開き500μm)を通過し、50メッシュ(目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、ガラス中に失透(結晶異物)が認められた温度を測定したものである。
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成、液相粘度および高温粘度102.5dPa・sにおける温度を厳格に規制しており、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適に使用することができる。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成を上記範囲に厳格に規制しているため、上記要求特性(1)〜(8)を満足することができる。特に、本発明の無アルカリガラスは、溶融性および耐失透性に優れているため、ガラス基板の生産性を飛躍的に高めることができる。
本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。アクティブマトリックス型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに用いられるガラス基板中にアルカリ金属酸化物を含有させると、ガラス基板の表面に形成されたTFT素子にアルカリ成分が拡散し、その性能に異常が発生するおそれがある。本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないため、TFT素子にアルカリ成分が拡散し、その性能が損なわれることはない。
本発明の無アルカリガラスは、液相粘度が105.2dPa・s以上である。このようにすれば、ガラスの成形時に溶融ガラスの粘度が高くても、ガラスに失透が生じ難くなり、ガラス基板の製造効率が向上するとともに、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすくなり、ガラス基板の表面品位を高めることができる。また、液相温度が高いと、大型および/または薄型のガラス基板を効率よく製造することができる。
本発明の無アルカリガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下である。このようにすれば、ガラスを低温で溶融することができ、ガラスの泡切れ性等が向上するとともに、溶融窯に使用される耐火物が侵食され難くなり、溶融窯のライフを長期化することができ、結果として、ガラス基板の製造コストを下げることができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いと、溶融窯の温度を高く保持する必要がなくなり、ガラスを溶融する際のエネルギーコストや環境負荷を低減することができる。さらに、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いと、白金元素等のブツの発生も抑制でき、液晶ディスプレイの製造工程で、回路電極等が断線、ショートする確率を低減することができる。
本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、As2O3、Sb2O3を実質的に含有せず、必須成分でSnO2を0.01モル%以上含有する。このようにすれば、環境的影響が懸念されるAs2O3、Sb2O3を実質的に使用しなくても、SnO2により清澄効果を享受することができ、結果として、泡欠陥のないガラス基板を得ることができる。なお、SnO2は、高温域で起こるSnイオンの価数変化により多数の清澄ガスを発生させることができ、無アルカリガラスの清澄剤として、好適に使用することができる。
BaOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を改善する成分であるが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から、その含有量を制限することが望ましい場合がある。本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量を厳しく規制しており、具体的にはBaOの含有量を2モル%以下に制限しているので、環境的配慮したガラスとなっている。また、本発明の無アルカリガラスは、BaOを実質的に含有しないガラスとすることもできるため、環境に及ぼす影響を更に軽減することもできる。さらに、BaOは、密度を上昇させる成分であるが、本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量を厳しく制限しているため、ガラスの低密度化の観点からも有利である。なお、環境負荷化学物質の含有量を低減、或いは実質的に含有しない構成とすれば、ガラス原料(ガラス)をリサイクルしやすくなる。
本発明の無アルカリガラスは、ROの含有量が11〜18%であることが好ましい。ここで、ROは、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO(MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの合量)を意味する(以下同様)。
本発明の無アルカリガラスは、モル比CaO/ROの値が0.64〜0.8であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、モル比CaO/Al2O3の値が0.8〜1.2であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、モル比Al2O3/B2O3の値が0.8〜1.3であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。本発明でいう「BaOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のBaOの含有量が0.1モル%以下の場合を指す。
本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量が0.01〜1モル%であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、Clの含有量が0〜1モル%であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、MgOの含有量が0〜0.5モル%未満であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、歪点が630℃以上であることが好ましい。ここで、本発明でいう「歪点」は、JIS R3103に基づいて測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、密度が2.50g/cm3未満であることが好ましい。ここで、本発明でいう「密度」は、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が33〜39×10−7/℃であることが好ましい。ここで、本発明でいう「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、JIS R3102に基づき、ディラトメーターで30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が34×10−7/℃より大きいことが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、液相粘度が105.5dPa・s以上であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、液相温度が1100℃未満であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、比ヤング率が29.5GPa以上であることが好ましい。ここで、本発明でいう「比ヤング率」はヤング率を密度で割った値を指し、「ヤング率」は共振法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、オーバーフローダウンドロー法によって成形されてなることが好ましい。
本発明の無アルカリガラス基板は、前記の無アルカリガラスによって構成されていることが好ましい。
本発明の無アルカリガラス基板は、ディスプレイに使用することが好ましい。
本発明の無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイに使用することが好ましい。
本発明の無アルカリガラス基板は、フラットテレビ用液晶ディスプレイに使用することが好ましい。
以下に、上記のようにガラス組成範囲を限定した理由を詳述する。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、モル%表示を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は55〜75%、好ましくは60〜70%、より好ましくは62〜68%である。SiO2の含有量が55%より少ないと、耐薬品性、特に耐酸性が悪化するとともに、低密度化を図り難くなる。また、SiO2の含有量が75%より多いと、高温粘度が上昇し、溶融性が悪化するとともに、クリストバライトの失透が出やすくなり、ガラス中に失透異物の欠陥が生じやすくなる。
Al2O3は、ガラスの歪点を高める効果があるとともに、ガラスのヤング率を向上させる成分であり、その含有量は7〜15%、好ましくは8〜14%、より好ましくは9〜12%、更に好ましくは9.5〜11.5%である。Al2O3の含有量が7%より少ないと、液相温度が上昇し、ガラス中にクリストバライトの失透異物が生じやすくなることに加えて、歪点が低下しやすくなる。また、Al2O3の含有量が15%より多いと、耐バッファードフッ酸性(以下、耐BHF性と称する)が悪化し、ガラス表面に白濁が生じやすくなることに加えて、ガラス中にアノーサイト等のSiO2−Al2O3−RO系の失透が生じやすくなる。
B2O3は、融剤として働き、ガラスの粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は7〜12%、好ましくは8〜11.5%、より好ましくは9〜11%、更に好ましくは9.5〜10.5%である。B2O3の含有量が7%より少ないと、融剤としての働きが充分に発揮されず、耐BHF性が悪化することに加えて、耐失透性が低下する。B2O3の含有量が12%より多いと、歪点が低下したり、耐熱性が低下したりすることに加えて、耐酸性が悪化する傾向がある。
BaOは、ガラスの耐薬品性、ガラスの耐失透性を改善する成分であるが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から、その含有量を制限することが望ましい。具体的には、BaOの含有量は0〜2%、好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.5%(但し、0.5%は含まない)、更に好ましくは0〜0.2%、特に好ましくは実質的にBaOを含有しない。BaOの含有量が2%より多いと、環境に及ぼす負荷が大きくなることに加えて、低密度化を図り難くなる。環境に及ぼす影響に配慮しながら、ガラスの耐失透性を改善させる必要性がある場合には、BaOの含有量を0.01〜1%とするのが好ましく、0.1〜0.6%とするのがより好ましい。また、BaOは、高温粘度を低下させるものの、アルカリ土類金属酸化物の中では、最も高温粘度を低下させる効果が小さい。高温粘度が低下し過ぎると、液相温度が同じでも、ガラスが失透しやすくなる。よって、高温粘度と液相粘度を最適化する観点から、BaOの含有量を制限する必要がある。
SrOは、ガラスの耐薬品性を向上させるとともに、ガラスの耐失透性を改善する成分である。一方、SrOは、高温粘度を低下させるものの、アルカリ土類金属酸化物全体の中では溶融性を改善する効果が小さい。また、ガラス組成中に過剰にSrOを含有させると、密度、熱膨張係数が上昇する傾向がある。したがって、SrOの含有量は0〜5%、好ましくは1〜4%、より好ましくは2〜3%である。SrOの含有量が5%より多いと、密度、熱膨張係数が上昇し過ぎるおそれがある。
MgOは、ガラスの高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分であるとともに、アルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分である。しかし、ガラス組成中に過剰にMgOを含有させると、液相温度が上昇し、成形性が悪化する。しかも、MgOは、BHFと反応して生成物を形成し、その生成物がガラス基板の表面の素子上に固着したり、ガラス基板に付着してガラス基板を白濁させるおそれがある。したがって、MgOは、その含有量を制限するのが好ましく、具体的には、その含有量は0〜3%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.5%未満、特に好ましくは実質的に含有しない。MgOの含有量が3%より多いと、ガラスの耐失透性が悪化し、オーバーフローダウンドロー法を採用し難くなることに加えて、耐BHF性が悪化するおそれがある。なお、本発明でいう「MgOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のMgOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
CaOは、ガラスの高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善するとともに、ガラスの耐失透性を改善する効果を有し、本発明の無アルカリガラスにおいて、必須の成分である。また、CaOは、二価のアルカリ土類金属酸化物の中で最もガラスのヤング率を向上させ、且つガラスの密度の上昇を抑制する成分であり、液晶ディスプレイに使用するガラス基板に好適な特性を付与することができる成分である。MgOもCaOと同様の効果を有するが、耐失透性が悪化しやすく、ガラス組成中に少量しか添加できない。以上のことを勘案すると、本発明の無アルカリガラスでは、CaOの含有量を比較的多くすることが重要であり、CaOの含有量は7〜15%、好ましくは7.5〜14%、より好ましくは8〜13%、更に好ましくは9〜12%である。CaOの含有量が7%より少ないと、上記効果を十分に享受できないおそれがある。CaOの含有量が15%より多いと、耐BHF性が損なわれ、ガラス基板の表面が侵食されやすくなることに加えて、反応生成物がガラス基板の表面に付着し、ガラスを白濁させるおそれがある。
ZnOは、ガラスの耐BHF性を改善するととともに、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、ZnOの含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなる。また、ZnOの含有量が5%より多いと、歪点が低下しやすくなり、所望の耐熱性が得られ難くなる。さらに、ZnOは、環境に及ぼす影響は大きくないものの、環境負荷化学物質に準じた物質として扱われる場合があるため、その含有量をできるだけ少なくすることが望ましい。具体的には、ZnOの含有量は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましく、0.5%以下が特に好ましく、理想的には実質的に含有しない。ここで、「ZnOを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のZnOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
ZrO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善する成分であるが、ZrO2の含有量が5%より多いと、液相温度が上昇し、ジルコンの失透異物が出やすくなる。したがって、ZrO2の含有量は0〜5%が好ましく、0〜1%がより好ましく、0.01〜0.5%が更に好ましい。なお、ZrO2導入源としてZrO2を主成分とする原料を用いてもよいが、ガラス溶融炉を構成する耐火物等の溶出等を利用して、ガラス組成中にZrO2を含有させても差し支えない。
TiO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善し、且つ高温粘性を下げて溶融性を向上させる成分である。また、TiO2は、紫外線着色を防止する効果がある成分である。近年、液晶ディスプレイは、一般的に、紫外線硬化樹脂を用いて、2枚のガラス基板間を封止している。紫外線硬化樹脂の硬化時間を短縮させるために、TiO2の含有量を少量とするのが好ましく、具体的にはTiO2の含有量は0〜3%が好ましく、0〜1%がより好ましい。TiO2の含有量が3%より多いと、ガラスが着色し、ガラス基板の透過率が低下するため、ディスプレイ用途に使用し難くなる。
本発明の無アルカリガラスは、本発明の特徴となる特性が損なわれない範囲で他の成分、例えばY2O3、Nb2O5、WO3等を5%以内で含有させることができる。なお、これらの成分は、耐失透性の向上やヤング率の向上に効果がある成分である。
既述の通り、ガラスの清澄剤として、As2O3が広く使用されてきたが、本発明の無アルカリガラスは、環境的観点からAs2O3を実質的に含有しない。さらに、本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、Sb2O3も実質的に含有しない。Sb2O3は、As2O3に比べ、その毒性は低いが、環境負荷化学物質であるため、環境的観点から使用を制限するのが好ましい。
さらに、Cl、F等のハロゲンは、ガラスの融剤として添加されるが、ガラス溶融時に発生する揮発物に毒性があることから、その使用量を低減するのが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。したがって、Cl、Fの含有量は、0〜1%が好ましく、0〜0.2%がより好ましく、実質的に含有しないことが更に好ましい。ここで、「Cl、F等のハロゲンを実質的に含有しない」とは、不純物成分として原料等から混入する量以外に含まないという意味であり、ガラス組成中のCl、F等のハロゲンが0.01%以下の場合を指す。
本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、SnO2を使用し、その含有量は0.01〜1%、好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.2%である。SnO2は、高温域で生じるSnイオンの価数変化により多数の清澄ガスを発生させるが、無アルカリガラスは、融点がアルカリ含有ガラスより高いため、清澄剤として好適に使用することができる。一方、SnO2の含有量が1%より多いと、ガラスの耐失透性が悪化するおそれがある。なお、SnO2導入源としてSnO2を主成分とする原料を用いてもよいが、ガラス溶融炉に設置される電極等の溶出等を利用して、ガラス組成中にSnO2を含有させても差し支えない。また、後述の通り、SnO2の含有量が多いと、ガラスの耐失透性が悪化するため、ガラスの耐失透性を考慮すれば、SnO2の含有量を0.2%以下とするのが好ましい。
本発明の特徴となるガラス特性が損なわれない限り、SO3、或いはC、Al、Siの金属粉末等を清澄剤として用いることができる。CeO2、Fe2O3等も清澄剤として使用することができるが、ガラスを着色させるおそれがあるため、その含有量は0.1%以下とするのが好ましい。
ROは、ガラスの密度を低下させ、ガラスの高温粘性を下げる成分であり、その含有量は11〜20%が好ましく、11〜18%がより好ましい。ROの含有量が10%より少ないと、高温粘性が上昇しやすくなる。一方、ROの含有量が11%より多いと、密度が上昇しやすくなる。
モル比CaO/ROの値を規制すれば、ガラスの密度を低下させつつ、ガラスの高温粘性を効果的に低下させ、更にはガラスのヤング率、比ヤング率を向上させることができる。具体的には、モル比CaO/ROの値は0.64〜1が好ましく、0.64〜0.8がより好ましい。モル比CaO/ROの値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
モル比CaO/Al2O3の値を規制すれば、ガラスの耐失透性を顕著に向上させることができ、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすくなる。具体的には、モル比CaO/Al2O3の値は0.8〜1.2が好ましく、0.85〜1.15がより好ましい。モル比CaO/Al2O3の値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
モル比Al2O3/B2O3の値を規制すれば、ガラスの歪点を上昇させつつ、ガラスのヤング率、比ヤング率を向上させ、しかもガラスの耐薬品性を向上させることができる。具体的には、モル比Al2O3/B2O3の値は0.8〜1.3が好ましく、0.9〜1.2がより好ましい。モル比Al2O3/B2O3の値が上記範囲外になると、上記の効果を享受し難くなる。
既述の通り、オーバーフローダウンドロー法は、大面積で肉厚の薄く、且つ表面が平滑なガラス基板を成形できるため、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板の成形方法として最も適している。一方、フロート法は、窓板ガラスの成形工程として周知であるが、この方法は薄いガラス基板を成形する際に、ガラスの引き出し方向に平行なスジ状の凹凸が発生する。ガラス基板上のスジは、画像のゆがみやガラス基板間の液晶層の厚みバラツキに起因した表示ムラ等を惹起しやすくなり、ディスプレイの映像品位に重大な影響を与えるおそれがある。このような事情から、フロート法で成形したガラス基板をアクティブマトリックス型液晶ディスプレイ用ガラス基板に使用する場合には、研磨工程を経て、凹凸を除去する必要がある。しかし、研磨工程は、コストアップの一因になることに加えて、研磨で発生するガラス基板表面の微細なキズが、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイの製造工程において、ガラス基板表面に形成される電子回路の断線を惹起するおそれがある。
既述の通り、オーバーフローダウンドロー法を適用するためには、ガラスに失透が生じ難い、つまり耐失透性が良好なガラス組成を設計することが不可欠となる。具体的には、ガラスが成形される温度を勘案して、本発明の無アルカリガラスの液相粘度は105.2dPa・s以上、好ましくは105.5dPa・s以上、より好ましくは105.8dPa・s以上である。ガラスの液相粘度が105.2dPa・s未満であると、オーバーフローダウンドロー法を採用することができず、ガラスの成形方法に不当な制約が課され、ガラス基板の表面品位を確保することが困難になる。
また、本発明の無アルカリガラスにおいて、液相温度は1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下が更に好ましく、1100℃未満が特に好ましい。液相温度が1200℃より高いと、オーバーフローダウンドロー法を採用することができず、ガラスの成形方法に不当な制約が課され、ガラス基板の表面品位を確保することが困難になる。
本発明の無アルカリガラスは、下記酸化物換算で、SnO2を0.01〜0.2%含有する場合において、ガラス組成として、SnO2が0.2%となるまで、SnO2を添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましい。ガラス中に泡等の内部欠陥があれば、光の透過を妨げるため、ディスプレイ用ガラス基板としては致命的な欠陥不良となる。一般的に、ガラス基板が大型化するにつれて、泡が残存する確率が高くなり、ガラス基板の生産性が低下する。よって、ガラスの中の泡を低減する技術が重要となる。ガラス中に含まれる泡を低減する方法には、清澄剤を使用する方法と、高温粘度を低くする方法がある。前者の方法において、無アルカリガラスの清澄剤として、As2O3が最も効果的であるが、既述の通り、As2O3は環境負荷化学物質であることから、その使用を低減する必要がある。そこで、環境的観点から、As2O3の代替清澄剤としてSnO2の導入が想定されるが、SnO2は結晶性異物(失透)の原因になりやすく、これがガラス基板の内部欠陥となるおそれがある。したがって、SnO2に対して失透を生じ難くすれば、清澄剤としてSnO2を導入しても、それに起因する失透が生じ難くなるため、ガラス基板の製造効率および環境的配慮の両立を図ることができる。その上、ガラス基板の製造工程では、Sn電極がガラス中に溶出する事態もある程度想定されるため、SnO2に対して失透を生じ難くすれば、更に有利となる。その点、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中のSnO2の含有量が0.2%に上昇しても、得られるガラスの液相温度を1150℃以下にすることができるため、上記効果を最大限に享受することができる。一方、ガラス組成中のSnO2の含有量が0.2%となった場合、得られるガラスの液相温度が1150℃より高ければ、上記効果を享受し難くなる。ここで、「SnO2が0.2%となるまで、SnO2を添加したとき、得られるガラスの液相温度」は、原料となるバッチに、ガラス組成においてSnO2が0.2%となるまでSnO2を添加(ガラス組成として、合計100%となる)した上でガラスを溶融、成形し、その後、得られたガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましい。泡・異物等の内部欠陥を低減する以外にガラス基板の製造コストを低下させる方法として、溶融窯のライフを長期化し、窯の修理頻度を少なくすることが効果的である。そのための手段として、溶融ガラスに侵食され難いZr系耐火物を使用することが好ましいが、Zr系耐火物の使用個所を増やす程、Zr系の結晶性異物(失透)が発生しやすくなり、これがガラス基板の内部欠陥となるおそれがある。したがって、ZrO2に対して失透を生じ難くすれば、溶融窯の耐火物として、Zr系耐火物を使用しても、このことに起因する失透が生じ難くなるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。その点、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加しても、得られるガラスの液相温度を1150℃以下とすることができるため、上記効果を最大限に享受することができる。一方、ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度が1150℃より高ければ、上記効果を享受し難くなる。ここで、「ガラス組成中にZrO2を0.3%添加したとき、得られるガラスの液相温度」は、原料となるバッチに、ガラス組成にZrO2を0.3%に相当する量添加(ガラス組成として、見掛け上、合計100.3%となる)した上でガラスを溶融、成形し、その後、得られたガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュを通過し、50メッシュに残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の無アルカリガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1550℃以下、好ましくは1540℃以下である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃より高いと、ガラスを均質に溶融するために溶融窯を高温に保持する必要があり、これに付随してアルミナやジルコニア等の溶融窯に使用される耐火物が侵食されやすくなり、結果として、溶融窯のライフサイクルが短くなり、ガラス基板の製造コストが高騰しやすくなる。また、ガラスを低温で溶融できれば、ガラスの溶融に要するエネルギーコストを抑制することができるとともに、環境負荷を低減することができる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、歪点は630℃以上が好ましく、640℃以上がより好ましく、650℃以上が更に好ましい。TFTおよび配線等の電子回路を形成する工程で、ガラス基板の表面には、透明導電膜、絶縁膜、半導体膜および金属膜等が成膜され、更にフォトリソグラフィーエッチング工程によって種々の回路、パターンが形成される。これらの成膜およびフォトリソグラフィーエッチング工程において、ガラス基板は、種々の熱処理、薬品処理を受ける。例えば、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイでは、ガラス基板上に絶縁膜や透明導電膜が成膜され、更にアモルファスシリコンや多結晶シリコンのTFTが、フォトリソグラフィーエッチング工程を経て、ガラス基板上に多数形成される。ガラス基板は、これらの工程で300〜600℃の熱処理を受ける。この熱処理によりガラス基板が数ppm程度の寸法変化(ガラス基板1mの長さ寸法に対して数μm:一般的に、この寸法変化は熱収縮と呼ばれている)を起こすことがある。ガラス基板の熱収縮が大きいと、TFTのパターンにズレが発生し、多層の薄膜が積層された素子を正確に形成し難くなる。熱収縮を小さく抑えるためには、ガラスの耐熱性を上げること、具体的には歪点を上げることが効果的である。しかし、歪点を上げ過ぎると、ガラス基板の溶融、成形時の温度が上昇するため、ガラス製造設備の負荷が大きくなり、コストアップの要因となり得る。したがって、他の特性とのバランスを考慮すれば、歪点は、680℃以下、特に670℃以下に設計するのが目安になる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、密度は2.54g/cm3以下が好ましく、2.50g/cm3以下がより好ましく、2.50g/cm3未満が更に好ましく、2.47g/cm3以下が特に好ましい。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイには、薄型化、軽量化の要求があり、同様にガラス基板にも軽量化、薄型化の要求がある。この要求を満たすために0.4〜0.7mm厚の薄いガラス基板が用いられるが、更にパネルの軽量化を図るために低密度のガラスも要求されている。ガラスが低密度である程、ガラス基板が軽量になり、モバイル機器用途に好適となるが、ガラスを過度に低密度にすると、ガラスの溶融性や耐失透性が悪化し、大面積で泡、ブツ等が存在しない無欠陥のガラス基板を製造することが困難になり、フラットテレビ用ガラス基板を安定して製造し難くなる。したがって、他の特性とのバランスを考慮すれば、密度は2.40g/cm3以上(望ましくは2.44g/cm3以上、2.45g/cm3以上)に設計するのが目安になる。
本発明の無アルカリガラスにおいて、熱膨張係数は33×10−7/℃より大きいことが好ましく、33〜50×10−7/℃がより好ましく、34超〜45×10−7/℃が更に好ましく、35〜42×10−7/℃が特に好ましく、37〜39×10−7/℃が最も好ましい。従来、無アルカリガラス基板の熱膨張係数は、ガラス基板上に成膜されるa−Si、或いはp−Siの熱膨張係数に整合させるのが望ましいとされ、具体的には35×10−7/℃以下が望ましいとされてきた。しかし、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用ガラス基板は、その表面にa−Si、或いはp−Si膜だけでなく、より熱膨張係数が低いSiNxや、より熱膨張係数が高いCr、Ta、Al等の金属配線およびITO等が成膜される。これらの部材に熱膨張係数を整合させる観点に立てば、無アルカリガラスの熱膨張係数は、必ずしも低膨張、具体的には35×10−7/℃以下が適正とは言い切れない。そこで、本発明者等が鋭意調査したところ、無アルカリガラスの熱膨張係数は上記範囲が適正であり、無アルカリガラスの熱膨張係数が上記範囲内であると、各種膜との熱膨張係数が整合するだけでなく、耐熱衝撃性が向上することが明らかになった。しかし、熱膨張係数がこの範囲から外れると、各種膜と熱膨張係数の整合が取れず、且つ耐熱衝撃性が悪化するおそれが生じる。
本発明の無アルカリガラスは、比ヤング率(ヤング率を密度で割った値)が27GPa/g・cm−3以上が好ましく、28GPa/g・cm−3以上がより好ましく、29GPa/g・cm−3以上が更に好ましく、29.5GPa/g・cm−3以上が特に好ましい。比ヤング率を27GPa/g・cm−3以上とすれば、大型で薄板のガラス基板であっても問題が生じない程度のたわみ量に抑えることができる。ここで、「ヤング率」は、JIS R1602に基づく、共振法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、ビッカース硬度が560以上が好ましく、570以上がより好ましく、580以上が更に好ましい。ビッカース硬度が560未満であると、ガラス基板に傷が付きやすく、この傷が原因でガラス基板上に形成した電子回路の断線を引き起こすおそれがある。なお、本発明でいう「ビッカース硬度」は、JIS Z2244−1992に準拠した方法で測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスは、104dPa・sにおける温度をT3(℃)、軟化点をT4(℃)としたときに、T3−T4≦330℃の関係を満たすことが好ましい。ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状は、溶融ガラスの温度が成形温度から軟化点に達するまでにほぼ決定される。そのため、T3−T4を小さく(T3−T4を好ましくは330℃以下、より好ましくは325℃以下、更に好ましくは320℃以下)にすれば、ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状を制御しやすくなる。また、T3−T4≦330℃に規制すれば、冷却時に粘性が早く上昇し、板形状に素早く成形することができる。すなわち、T3−T4を330℃以下にすれば、薄板のガラス基板を平坦に成形しやすくなる。また、T3−T4を330℃以下にすれば、大型のガラス基板を平坦に成形しやすくなる。さらに、ダウンドロー成形の場合、徐冷に供される炉内距離には、設備設計上の制限があり、それに伴いガラス基板の徐冷時間も制限を受け、例えば成形温度から室温まで数分程度で冷却しなければならない。したがって、上記粘度特性は、大型および/または薄板のガラス基板を成形する上で非常に有利である。一方、T3−T4が330℃より高いと、ガラス基板の厚み、板幅方向の反りやうねりの形状を制御し難くなる。なお、T3は、成形温度に相当している。ここで、「104dPa・sにおける温度」は、周知の白金球引き上げ法で測定した値を指し、「軟化点」は、JIS R3103に基づいて、測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラスにおいて、80℃の10質量%HCl水溶液に24時間浸漬したとき、その侵食量は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。また、本発明の無アルカリガラスにおいて、20℃の130BHF溶液(NH4HF:4.6質量%,NH4F:36質量%)に30分間浸漬したとき、その侵食量は2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。さらに、本発明の無アルカリガラスは、80℃の10質量%HCl水溶液に3時間浸漬したとき、目視による表面観察で白濁、荒れが認められないことが好ましい。また、本発明の無アルカリガラスは、20℃の63BHF溶液(HF:6質量%,NH4F:30質量%)に30分間浸漬したとき、目視による表面観察で白濁、荒れが認められないことが好ましい。液晶ディスプレイ用ガラス基板の表面には、透明導電膜、絶縁膜、半導体膜、金属膜等が成膜され、しかもフォトリソグラフィーエッチングによって種々の回路やパターンが形成される。また、これらの成膜、フォトリソグラフィーエッチング工程において、ガラス基板には、種々の熱処理や薬品処理が施される。一般的に、TFTアレイプロセスでは、成膜工程→レジストパターン形成→エッチング工程→レジスト剥離工程の一連のプロセスが繰り返される。その際、エッチング液として、硫酸、塩酸、アルカリ溶液、フッ酸、BHF等の種々の薬液処理を受け、更にはCF4、S2F6、HCl等のガスを用いたプラズマによるエッチング工程を通る。これらの薬液は、低コスト化を考慮して、使い捨てではなく、循環の液系フローになっている。ガラスの耐薬品性が乏しいと、エッチングの際、薬液とガラス基板の反応生成物が、循環の液系フローのフィルターを詰まらせたり、不均質エッチングによってガラス表面に白濁が生じ、或いはエッチング液の成分変化によって、エッチングレートが不安定になる等の様々な問題を引き起こす可能性がある。特に、BHFに代表されるフッ酸系の薬液は、ガラス基板を強く侵食するため、上記のような問題が発生しやすく、薬液に対するガラスの侵食量を少なくすることは、薬液の汚染や反応生成物による工程中のフィルタの詰まりを防止する観点から非常に重要である。以上の事情から、ガラス基板は、耐BHF性に優れていることが要求されている。また、ガラスの耐薬品性に関して、侵食量が少ないだけでなく、外観変化を引き起こさないことも重要であり、アクティブマトリックス型液晶ディスプレイ等のディスプレイ用ガラス基板は、光の透過率が重要であるため、薬液処理によって白濁や荒れ等の変化が生じ難いことが重要である。侵食量と外観変化の評価結果は、特に耐BHF性について必ずしも一致せず、例えば同じ侵食量を示すガラスであっても、その組成によって薬品処理後に外観変化を引き起こしたり、引き起こさなかったりする場合がある。本発明の無アルカリガラスは、20℃の130BHF溶液に30分間浸漬しても、その侵食量が2μm以下、且つ20℃の63BHF溶液に30分間浸漬しても、目視による表面観察で白濁、荒れが認められない状態にすることができるため、上記問題点を解消することができる。
液晶ディスプレイ等では、大きなガラス基板(マザーガラスと称される)から何枚ものディスプレイを作製する所謂多面取りが行われており、多面取りを行うと、ディスプレイの製造コストを低減できることから、近年、ガラス基板の面積は次第に大きくなっている。一方、ガラス基板の面積が大きくなると、ガラス基板中に失透物が現れる確率が高くなり、ガラス基板の良品率が急激に低下する。したがって、本発明の無アルカリガラス基板は、耐失透性が良好であるため、大型のガラス基板を作製する上で大きなメリットがある。例えば、基板面積が0.1m2以上(具体的には、320mm×420mm以上のサイズ)、特に0.5m2以上(具体的には、630mm×830mm以上のサイズ)、1.0m2以上(具体的には、950mm×1150mm以上のサイズ)、更には2.3m2以上(具体的には、1400mm×1700mm以上のサイズ)、3.5m2以上(具体的には、1750mm×2050mm以上のサイズ)、4.8m2以上(具体的には、2100mm×2300mm以上のサイズ)、5.8m2以上(具体的には、2350mm×2500mm以上のサイズ)、6.5m2以上(具体的には、2400mm×2800mm以上のサイズ)、8.5m2以上(具体的には、2850mm×3050mm以上のサイズ)に大型化する程、本発明の無アルカリガラス基板は有利になる。また、本発明の無アルカリガラス基板は、低密度、高比ヤング率の特性を付与できるとともに、薄板のガラス基板を精度良く成形することが可能であるため、薄板のガラス基板に好適であり、具体的には肉厚が0.8mm以下(好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下、更に好ましくは0.4mm以下)のガラス基板に好適である。また、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス基板の板厚を薄くしても、従来のガラス基板に比べて、ガラス基板のたわみ量を小さくできるため、カセットの棚へ出し入れする際、ガラス基板の破損等を防止しやすくなる。
本発明の無アルカリガラス基板は、フラットテレビ用液晶ディスプレイに使用することが好ましい。近年、フラットテレビ用液晶ディスプレイの画面サイズは、大型化する傾向があり、本発明の無アルカリガラス基板は、生産性に優れるため、基板面積の大型化を容易に図ることができる。さらに、本発明の無アルカリガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法で成形することができるため、表面品位を高めることができ、フラットテレビ用液晶ディスプレイの映像品位を損ない難い。
本発明の無アルカリガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましい。ガラスの理論強度は本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度が損なわれ難くなり、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の平均表面粗さ(Ra)は、10Å以下であることが好ましく、7Å以下がより好ましく、4Å以下が更に好ましく、2Å以下が最も好ましい。平均表面粗さ(Ra)が10Åより大きいと、液晶ディスプレイの製造工程において、回路電極等を正確にパターニングし難くなり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差は20μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましい。ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差が20μmより大きいと、回路電極等を正確にパターニングし難くなり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「最大板厚と最小板厚の板厚差」は、レーザー式厚み測定装置を用いて、ガラス基板の任意の一辺に板厚方向からレーザーを走査することにより、ガラス基板の最大板厚と最小板厚を測定した上で、最大板厚の値から最小板厚の値を減じた値を指す。
本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板のうねりは、0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がより好ましく、0.03μm未満が更に好ましく、0.01μm以下が最も好ましい。さらに、理想的には、実質的にうねりが存在しないことが望ましい。うねりが0.1μmより大きいと、回路電極等の正確なパターニングを行うことが困難になり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、液晶ディスプレイ等の信頼性を担保し難くなる。ここで、「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定したものである。
本発明の無アルカリガラス基板において、目標板厚に対する誤差は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。ガラス基板の目標板厚に対する誤差が10μmより大きいと、回路電極等のパターニング精度が低下し、所定の条件で高品質の液晶ディスプレイ等を安定して製造することが困難となる。ここで、「目標板厚に対する誤差」は、目標板厚から上記方法で得られる最大板厚または最小板厚の値を減じた値の絶対値のうち、大きな方の値を指す。
ガラス基板の汚染防止等の観点から、ガラス製造設備の多くは、白金族元素または白金族元素合金からなる、或いは白金族元素または白金族元素合金で被覆されている。溶融炉や成形体に白金族元素又は白金族元素合金が使用されていると、これらが溶融ガラス中に取り込まれ、ブツとなるおそれがある。白金族元素等のブツの発生確率は、ガラスの溶融温度と相関があり、ガラスの溶融温度が高い程、ガラス融液中に白金族元素等が溶け込みやすくなる。白金族元素等のブツが溶け込んだ溶融ガラスをガラス基板に成形する際、溶融ガラスは所定の厚みに延伸されるが、ガラス中に存在する白金族元素等のブツは固体であり、ほとんど延伸されない。そのため、白金族元素等のブツが存在する部分は、白金族元素等のブツの厚みが減少しない分だけ板厚が増大する。この板厚の増大は、白金族元素等のブツ近傍のガラスの粘性流動および延伸によりやがて緩和される。しかし、白金族元素等のブツがガラス基板表面近傍に存在する場合、白金族元素等のブツ近傍のガラス量が少ないため、板厚増加が緩和されないうちにガラスが固まり、ガラス基板表面に突起として現れやすくなる。白金族元素等のブツがガラス基板の表面上に存在すると、液晶ディスプレイの回路電極の断線、ショートを惹起する。ここで、本発明の無アルカリガラス基板は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1550℃以下であるため、白金族元素等のブツの発生確率を低減することができる。また、本発明の無アルカリガラス基板において、ガラス基板表面の突起は2ヶ/m2以下であることが好ましく、1ヶ/m2以下であることがより好ましく、0.4ヶ/m2以下が更に好ましく、0.25ヶ/m2以下が特に好ましく、0.1ヶ/m2以下が最も好ましい。ガラス基板表面の突起が2ヶ/m2以下であると、成膜工程における回路電極の断線やショートの確率が低くなる。また、突起を少なくすれば、研磨が不要となるため、ガラス基板の表面品位を高めることができる。ガラス基板表面の突起を2ヶ/m2以下にするには、突起の原因となる白金族元素ブツを40ヶ/kg以下(好ましくは20ヶ/kg以下、10ヶ/kg以下、5ヶ/kg以下、特に1ヶ/kg以下)にすることが望ましい。ここで、「突起」とは、表面粗さ計にて1000μmの距離を検査したときに、突部の先端とガラス基板表面との高低差(突部の高さ)が1μm以上となる部位を指す。また、「白金族元素ブツ」とは、最長径が3μm以上のものを指す。
本発明の無アルカリガラス基板は、所望のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融し、脱泡した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の無アルカリガラス基板は、表面品位が良好なガラス基板を製造する観点から、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ディスプレイ用ガラス基板に使用できる品位
を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の無アルカリガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法で高品位のガラス基板を成形することができる。
なお、本発明の無アルカリガラス基板は、成形方法として、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の方法を採用することができる。例えば、フロート法、スロットダウンドロー法、リドロー法等の種々の方法を採用することができる。特に、フロート法は、オーバーフローダウンドロー法に比べて、得られるガラス基板の表面品位が劣り、別途、ガラス基板の表面に研磨処理を施さなければならないものの、ガラス基板を効率良く成形することができる。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜8は試料No.1〜58を示している。
ガラス試料は次のように作製した。定められた割合に原料を調合したバッチを白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融し、その後カ−ボン板上に流し出し、板状に成形した。
このガラス試料を用いて密度、歪点、高温粘度等の各種特性を測定した。
密度は、周知のアルキメデス法で測定した。
熱膨張係数は、JIS R3102に基づいて、ディラトメーターで平均値を測定した。測定温度範囲は、30〜380℃とした。
歪点Ps、徐冷点Taおよび軟化点Tsは、JIS R3103に基づいて測定した。
高温粘度102.5dPa・sにおける温度、103dPa・sにおける温度および104dPa・sにおける温度は、周知の白金球引き上げ法を用いて測定した。
液相温度TLは、各ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(目開き500μm)を通過し、50メッシュ(目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、ガラス中に失透(結晶異物)が認められた温度を示している。液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を周知の白金球引き上げ法で測定した値を示した。
SnO2を添加したときの液相温度(表中では耐SnO2失透性)は、原料となるバッチに、ガラス組成においてSnO2が0.2%となるまで添加し、上記と同様の条件でガラスを溶融・成形し、その後、ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持して、結晶の析出する温度を測定した。次いで、1150℃で失透が認められないものを「○」、1150℃で失透が認められたものを「×」とした。なお、本評価と並行して、ガラスの清澄性を評価したところ、SnO2を0.2%となるまで添加したとき、ガラスに泡欠陥は認められなかった。
ZrO2を添加したときの液相温度(表中では耐ZrO2失透性)は、原料となるバッチに、ZrO2をガラス組成において0.3%に相当する量を添加し、上記と同様の条件でガラスを溶融・成形し、その後、ガラス試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に1週間保持して、結晶の析出する温度を測定した。次いで、1150℃で失透が認められないものを「○」、1150℃で失透が認められたものを「×」とした。
ヤング率は、共振法で測定した。比ヤング率は、ヤング率を密度で割ることにより、算出した。
耐BHF性と耐HCl性については、次の方法で評価した。まず各ガラス試料の両面を光学研磨した後、一部をマスキングしてから所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬した。薬液処理後、マスクをはずし、マスク部分と浸食部分の段差を表面粗さ計で測定し、その値を浸食量とした。耐BHF性の浸食量が、1μm未満であれば「◎」、1μm以上2μm未満であれば「○」、2μm以上であれば「×」と評価した。また、耐HCl性浸食量が、5μm未満であれば「◎」、5μm以上10μm未満であれば「○」、10μm以上であれば「×」と評価した。外観評価に関しては、各ガラス試料の両面を光学研磨した後、所定の濃度に調合した薬液中で、定めた温度で定めた時間浸漬してから、ガラス表面を目視で観察し、変化が無いものを「○」とし、ガラス表面が白濁したり、荒れたり、クラックが入っているものを「×」とした。薬液および処理条件は、以下の通りである。耐BHF性は、130BHF溶液を用いて20℃、30分間の処理条件で測定した。外観評価は、63BHF溶液を用いて、20℃、30分間の処理条件で行った。また耐HCl性は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、24時間の処理条件で測定した。外観評価は、10質量%塩酸水溶液を用いて80℃、3時間の処理条件で行った。
各ガラス試料は、密度が2.43〜2.50g/cm3、熱膨張係数が37〜42×10−7/℃、歪点が656〜677℃、徐冷点が704〜730℃、軟化点が914〜963℃、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1484〜1550℃、液相温度が1065〜1130℃、液相粘度が105.2〜105.9dPa・s、ヤング率が72〜76GPa、比ヤング率が29〜31GPa/g・cm−3であった。
したがって、各ガラス試料は、As2O3、Sb2O3等の環境負荷化学物質を含有していないため、環境的配慮がなされている。また、各ガラス試料は、密度が2.50g/cm3以下であり、ガラス基板の軽量化を図ることができ、熱膨張係数が35〜45×10−7/℃の範囲内にあるため、各種薄膜との整合性が良好であり、歪点が640℃以上であるため、ディスプレイ製造工程における熱処理工程でガラスが熱収縮し難い。更に、各ガラス試料は、液相温度が1200℃以下であり、且つ液相粘度が105.2dPa・s以上であるため、耐失透性に優れているとともに、ガラスの成形性に優れており、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1550℃以下であるため、ガラスの溶融、成形性に優れていた。更に、各ガラス試料は、耐薬品性、特に耐BHF性、耐酸性も優れていた。
さらに、各試料No.1〜56を試験溶融炉で溶融し、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板に成形し、900mm×1100mmの基板サイズ、厚み0.5mmのディスプレイ用ガラス基板を作製したところ、このガラス基板の反りは0.05%以下、うねり(WCA)は0.1μm以下、表面粗さ(Ra)は50Å以下(カットオフλc:9μm)であり、表面品位に優れ、LCD用ガラス基板に適したものであった。なお、オーバーフローダウンドロー法によるガラス基板の成形に際し、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、溶融ガラスの温度、ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することで、ガラス基板の表面品位を調節した。また、「反り」は、ガラス基板を光学定盤上に置き、JIS B−7524に記載のすきまゲージを用いて測定したものである。「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定したものである。「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値である。
本発明の無アルカリガラスは、環境に配慮したガラスであり、ガラス原料をリサイクルしやすいとともに、環境汚染を招く可能性が低いため、次世代のガラス基板として好適である。また、本発明の無アルカリガラスは、種々の要求特性を満足しており、特にガラスの溶融性、耐失透性に優れるため、ガラス基板の製造コストを低廉化できるとともに、大型および/または薄型のガラス基板の製造効率を高めることができる。