明 細 書
摺動材料およびその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、鉛フリーの摺動材料、特に高速回転する機械の摺動部に適した摺動材 料およびその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 自動車、産業機械等には、多数の回転部があり、回転部には必ず摺動部品が設置 されている。例えば、自動車では回転シャフトを受ける部分に軸受のような摺動部品 、油圧機械のギヤ一ポンプでは歯車の側面を押さえるサイドプレートのような摺動部 品、そしてコンプレッサーでは斜板のような摺動部品が設置されて 、る。
[0003] ところで摺動部品を設置した機械が故障して修理に多大な費用が力かったり、古く なって使い勝手が悪くなつたりした場合は廃棄されるが、省資源の関係から機械を構 成する材料の多くは回収して再使用されている。し力しながら機械に設置された摺動 部品は回収されることなく埋め立て処分されていた。なぜならば摺動部品の多くは裏 金となる鋼板と摺動材料とを容易に分離できないからである。つまり摺動部品は、機 械的強度を高めるため摺動材料と鋼板とが金属的な接合、即ち、摺動材料の金属と 鋼板とが、それぞれの金属原子中に侵入した状態で金属的に接合されているため、 摺動材料と鋼板を分離して回収することができない。従って、鉄の占める割合が多い 摺動部品を溶解して鉄材として回収しょうとしても、鉄中に他の成分が大量に混入さ れるため鉄材として使用できなくなる。このように摺動部品は再使用ができないことか ら、摺動部品の多くは産業廃棄物として埋め立て処分されていた。
[0004] 従来の摺動材料の多くは、 Cu合金に Pbが添加された鉛青銅 (LBC3)であった。鉛 青銅は、 Cu-Sn合金のマトリックス中に Pbが点在しているものであり、硬い Cu-Sn合金 のマトリックスが磨耗することなく相手側部材を保持し、 Pbがマトリックスの表面に薄く 延び広がって潤滑油の作用をすることにより摺動性を良好にする。この鉛青銅は安 価で、し力も適度な摺動性を有することから、古くから各種の摺動部品に使用されて きたものである。
[0005] このように摺動材料中に Pbが点在すると、優れた摺動特性を奏することから、さらに 摺動材料に Pbを多く使用することが考えられ、そのような摺動部品の表面に Pb合金 をメツキするというオーバーレイも使われていた。オーバーレイとしては、摺動部品の 表面に Pb合金をメツキしたものと、銅合金粉末を焼結して多孔質部を形成し、該多孔 質部に溶融した Pb合金を含浸 (impregnation)させたものがある。例えば、特開昭 56— 16603号公報および特開昭 49 54211号公報参照。
[0006] し力しながら、鉛青銅使用の摺動部品や Pb合金をオーバーレイした摺動部品が埋 め立て処分され、該摺動部品に酸性雨が接触すると、摺動材料中の Pbが溶出して地 下水を汚染するようになる。この Pbを含んだ地下水を人間や家畜が長年月にわたつ て飲用するうちに、 Pbが体内に蓄積されて、ついには、鉛中毒を起こすと云われてい る。そのため、現在は地球規模で Pbの使用が規制されるようになってきており、摺動 部品を使用する業界においても Pbを含まない摺動材料が強く要求されている。
[0007] Pbを含まな!/、摺動材料とは、 Cuを主成分として Sn、 Ag、 Bi、 Ni、 Fe、 Al、 Mn、 Co、 Zn 、 Si、 P等を添カ卩したものである力 近時は Cu、 Sn、 Biからなる合金の銅系摺動材料が 多数提案されている。特開平 10— 330868号公報、特開 2001— 81523号公報、特開 2001— 220630号公報、特開 2002— 285262号公報。
[0008] 従来のこれらの銅系摺動材料は、 Cu-Sn-Bi合金や Cu-Sn系合金粉末に Bi粉末を 混合して作った焼結合金であり、 Biが従来の鉛青銅の Pbと同様の作用、即ち、 Biが Cu-Sn合金のマトリックス表面を薄く覆って潤滑油の作用をし、摺動特性を良好にす るようになっている。
[0009] ところで従来のこの種の摺動材料 (以下、 Bi入り摺動材料と 、う)は、図 1に示すよう に、裏金 1に形成される Cu- Sn- Bi合金の焼結合金層 2からなるものである。従来の Bi 入り摺動材料の組織は、 Cu合金相 3の間に Bi相 4が点在している組織であり、この Bi 相は液相線温度が 200°C以上であった。
[0010] ここで摺動材料が使われる例としてコンプレッサー用の斜板について簡単に説明 する。図 2にその 1部を示すようにコンプレッサー 10のシリンダー 11内にはピストン 12 が矢印 Aのように往復自在に設置されて!、る。ピストン 12の中央には一対のシユー 1 3、 13が回動自在に配置されている。この一対のシユー 13、 13は斜板 14を傾斜した
状態で挟み込んでいて、さらに斜板 14はシリンダー 11の近傍に設置された軸 15に 傾斜した状態で取り付けられて!/ヽる。
[0011] 斜板 14の両面には摺動材料 16、 16が貼り付けられている。従って、軸 15が回転 すると、斜板 14はピストン 12に対して左右に振れながら回転する。そして回転する斜 板 14の両面の摺動材料 16、 16がピストン 12に配置されているシユー 13、 13に対し て摺動し、ピストン 12は矢印 Aのように往復動する。このピストン 12の往復動により左 右のピストン室にある冷媒ガスが圧縮されて図示しないコンデンサーに送り込まれる ようになっている。
[0012] 図 3は斜板の略式斜視図であり、斜板 14には、前述のように円板状の裏金 17の両 面に摺動材料 16、 16が貼り付けられている。斜板 14は軸に傾斜して取り付けるため 、中央に取り付け孔 18が穿設されており、該孔の周囲には軸に固定するための複数 のネジ孔 19 · · ·が穿設されている。またネジ孔のところまで摺動材が存在するとネジ による軸への取り付けに支障をきたすようになるため、摺動材 16は、ネジ孔 19 · · 'の 外側部分だけ、つまり中央を除!、て環状に設けられてる。
発明の開示
[0013] 従来の Bi入り摺動材料は、高速回転する機械、例えば前述のコンプレッサーの斜 板のようなものに使用されたときに焼き付きを起こすことがあった。また従来の Bi入り 摺動材料の製造方法、つまり Cu-Sn-Bi合金や Cu-Sn系合金粉末に Bi粉末を混合し て焼結する方法は、摺動特性に優れた B减分が多孔質部の中に閉じ込められた状 態となつていて表面に露出する量が少ないため、 Biの持つ摺動特性が充分に発揮で きなかった。
[0014] 摺動材料の表面に摺動特性に優れた金属を大量に露出させる方法として前述の 含浸法 (impregnation)がある。しかし、従来の含浸法は、裏金に多孔質部が形成され たものを溶融金属中に浸漬する際に、裏金と多孔質部全体を溶融金属中に浸潰す るため、不要箇所、例えば斜板のような摺動部品では側面や中央部に溶融金属が付 着したり、或いは高価な溶融金属が必要以上に付着したりすることがあった。
[0015] 高速回転する機械は摺動部が稼動時に摩擦熱で略 200°Cまで昇温するが、従来の Bi入り摺動材料は、この温度では充分な摺動特性を発揮できな力つた。つまり従来の
摺動材料は、金属の固体潤滑剤が稼動時の温度で溶融状態になって 、な 、ため、 充分な摺動特性が発揮できな力つたのである。
[0016] 摺動材料では、稼動時の温度で固体潤滑剤が溶融状態となっていると、これがあ た力も潤滑油のような作用を呈して摺動特性を良好にする。ところが従来の Bi入り摺 動材料は機械の稼動時の温度が 200°Cでは、前述のように B湘が未だ溶融状態にな つていないことから摺動特性が良好とならな力つたわけである。そのため、高速回転 する機械において、従来の Bi入り摺動材料は 200°Cで Biが溶融状態とならないことが 焼き付きを起こす原因となっていた。
[0017] そこで本発明者らは、 Biを含有する合金力 ¾00°C以下で溶融状態になっていれば 優れた摺動特性が発揮できることを見い出し本発明の摺動材料を完成させた。 ところで、従来の含浸法は、多孔質部にフラックスを塗布して力 溶融金属中に浸 漬して多孔質部に溶融金属を含浸させるものであったため、溶融金属が不要箇所に 付着したり、必要以上に大量に付着したりするものであった。
[0018] 本発明者らは、ソルダペーストによるはんだ付けに着目した。すなわち、電子部品 のはんだ付けに用いるソルダペーストは、はんだ粉とフラックスが混ぜ合わされて!/、る こと力ら、はんだ付け部にソルダペーストを塗布して加熱するだけで所定の箇所だけ にはんだ付けができる。つまり加熱時、ソルダペーストはフラックスが先に流動しては んだ付け部の酸ィ匕物を還元除去し、清浄化する。その後、溶融したはんだが清浄ィ匕 した部分に濡れ広がってはんだ付けがなされる。ソルダペーストは必要箇所だけに 塗布されれば、はんだが不要箇所に付着せず、またソルダペーストの塗布量をコント ロールするだけで所定量のはんだ、つまり低融点金属材料を付着させることができる こと、等に着目して本発明の摺動材料の製造方法を完成させた。
[0019] ここに、本発明は、高速回転する機械に設置しても優れた摺動特性を発揮すること ができる摺動材料であり、また摺動特性に優れた金属を必要箇所だけに、しかも適 量を付着させることができる摺動材料の製造方法である。
[0020] より具体的には、本発明は、裏金上に形成される Cu合金の多孔質部に低融点合金 が溶浸された摺動材料であって、該低融点合金が、少なくとも Biを 20質量%以上含 有するとともに、 200°C以下の液相線温度を有する Pbフリーの低融点合金であること
を特徴とする摺動材料である。
[0021] また別の面カゝらは、本発明は、(1)裏金上に Cu合金粉末を散布する合金粉の散布 工程;
(2) Cu合金粉末が散布された裏金を当該 Cu合金の液相線温度以下に加熱して裏金 に Cu合金の多孔質部を形成する焼結工程;
(3) Biを 20質量%以上含有するとともに、液相線温度が 200°C以下の Pbフリーの低融 点合金粉とフラックス力 成る低融点合金ペーストを前記多孔質部に載置するペース ト載置工程;
(4)多孔質部に載置した低融点合金ペーストを当該低融点合金の液相線温度以上に 加熱して溶融させ、溶融した低融点合金を多孔質部に溶浸させる溶浸工程;および
(5)低融点合金が溶浸した多孔質部を所定の厚さまで切削する切削工程; から成ることを特徴とする摺動材料の製造方法である。
図面の簡単な説明
[0022] [図 1]図 1は、従来の摺動材料の断面組織の模式的説明図である。
[図 2]図 2は、コンプレッサーの一部の略式断面図である。
[図 3]図 3は、図 2に示す斜板の斜視図である。
[図 4]図 4は、本発明にかかる摺動材料の断面組織の模式的説明図である。
[図 5]図 5Aないし図 5Dは、本発明にかかる摺動部材を製造する印刷法の各工程の 略式説明図である。
[図 6]図 6Aおよび図 6Bは、本発明にかかる摺動材料を製造する吐出法の各工程の を略式説明図である。
[図 7]図 7は、同じく間接載置法の略式説明図である。
[図 8]図 8は、摩擦係数測定試験の結果を示すグラフである。
発明を実施するための形態
[0023] 本発明の摺動材料は、図 4に示すように、裏金 1の上に Cu合金の多孔質部 5が形 成されており、多孔質部 5に Bi含有の低融点合金 6が溶浸 (infiltration)されている。 従って、本発明の摺動材料は、比較的硬い Cu合金の多孔質部 5が摺動する摺動体 、例えばコンプレッサーではシユーを支える。この摺動体の摺動にともなって、多孔質
部 5に溶浸されていた低融点合金 6が引き出され、多孔質部 5の表面を覆う。そして 摺動部の稼動が連続して行われるうちに、摩擦熱で摺動材料の温度が上昇し、表面 を覆っていた低融点合金が溶融して潤滑油の役目をすることにより摺動特性を良好 にする。
[0024] 本発明にかかる摺動材料で使用する低融点摺動成分には Biが少なくとも 20質量% 添加されている。即ち、 Biは温度の上昇に伴って軟ィ匕するため、摺動材料の固体潤 滑剤として適しているが、 Biの摺動特性が充分に発揮されるのは、 Biが溶融状態とな つたときである。従って、稼動時の摺動部の温度が 300°C以上になるようなところでは 、融点が 271°Cの Bi単体でも使用できる力 高速回転する機械では稼動時の最高温 度が略 200°Cであるため、 Bi単体では使用できない。ところが Biと Sn、 Biと Inを合金に すると液相線温度を 200°C以下に下げることができるため、本発明では Biの液相線温 度を下げる金属と合金にする。し力しながら、液相線温度が 200°C以下の Bi含有の低 融点合金であれば如何なる合金でも使用可能というわけではない。即ち、 Biの摺動 特性が表れるためには、 Biは少なくとも 20質量%以上とする。
[0025] Biと Snの合金では Biが 20— 81質量%の範囲で液相線温度が 200°C以下となる。 Bit Inの合金では Biが 85質量%以下で液相線温度が 200°C以下となる力 前述のように Bi-In系においても Biは少なくとも 20質量%とする。従って、本発明では、 Bi-Sn二元 合金であれば Biの含有量は 20— 81質量%であり、 Bi-In二元合金であれば Biの含有 量は 20— 85質量%となる。
[0026] 本発明で多孔質層に溶浸する Bi含有低融点合金で最も適した合金組成は、 Biと Sn 、あるいは Biと Inの共晶組成である。つまりこれらの共晶組成は、固相線温度と液相 線温度の差がないため最も低い温度で溶融し、潤滑剤としての効果が著しくなる。ま た共晶組成は、 Biともう一成分とが均一分散しているため、 Bi合金の如何なる部分に おいても、常に一定の摺動特性が得られる。
[0027] また本発明に使用する低融点合金は、 Bi20質量%以上が含有され、しかも液相線 温度が 200°C以下であれば、低融点合金の特性、例えば焼き付き、多孔質部との接 合、多孔質部との濡れ、融点降下、等の特性を向上させる目的で第三元素を添加す ることもできる。低融点合金の摺動特性を向上させる第三元素としては、 Ag、 Cu、 Fe、
Mn、 Co、 Zn、 P、 Sn、 Inであり、これらの群から選ばれた 1種または 2種以上を添加して ちょい。
[0028] 本発明に使用して好適な低融点合金を表 1に示す。表 1の本発明例では全て Biが
20質量%以上含有され、しかも液相線温度が 200°C以下のものである。一方、表 1の 比較例では Biが 20質量%未満であったり、液相線温度が 200°C以上であったりするも のであり、本発明の使用に適さないものである。
[0029] [表 1]
[0030] 本発明に使用する多孔質部を形成する合金は、 Cuを主成分とする合金が適してい る。つまり Cuは適度な硬さと摺動性を有しており、また溶融状態の低融点合金が濡れ やすいからである。本発明に使用する Cu主成分の合金としては、 Cu-Sn系合金が好 適である。
[0031] 本発明における力かる焼結 Cu合金の多孔率は特に制限はないが、通常は 60— 80vol%が好ましい。
なお、本発明で「系合金」とは、表記された元素の合金の他、第三元素を 1種以上 添加した合金も含まれる。例えば Bト Sn系合金とは Biと Snからなる合金と、さらに Bト Sn 合金に Ag、 Cu、 Fe、 Mn、 Co、 Zn、 P、 Sn、 Inのような第三元素を 1種以上添カ卩した合 金等である。また本発明で言う「溶浸」とは、溶融した合金が毛細管現象で多孔質部
に侵入するとともに、多孔質部に濡れて金属的な接合、即ち多孔質部に低融点合金 がはんだ付けされて 、る状態である。
[0032] ここで、本発明にかかる摺動材料の製造方法の各工程について説明すると、次の 通りである。
(0裏金上への Cu合金粉の散布工程:
コンプレッサー用の斜板の場合、通常は裏金は鋼板であるが、黄銅などの非鉄金 属も用いてもよい。これは所定寸法に切断した板状のものであっても、あるいは摺動 材料を連続的に製造する場合には、帯状のものであってもよい。これに所定厚さにま で Cu合金粉を所定厚さまで散布して圧粉層を構成する。このときの Cu合金としては、 目的とする摺動材料の種類によって適宜選択すればよいが、本発明の場合、純 Cu、 Cu- Sn合金 (Sn:5— 20%)、リン青銅などが例示される。
[0033] 本発明において、粒径などについては焼結による従来の銅系摺動材料と同様であ つてもよぐ所定の多孔質焼結層が形成できれば特に制限はない。
(ii)Cu合金焼結工程;
これは、裏金上に設けられた Cu合金散布層が設けられた裏金を当該 Cu合金粉の 液相線温度以下に加熱して焼結を行う工程であって、これにより裏金上に Cu合金の 多孔質部を形成する。液相線温度以下の焼結温度に加熱された Cu合金散布層は、 通常還元性雰囲気下において所定の多孔質度が達成されるまで焼結されるが、か 力る処理はすでに慣用の条件を用いて行えばよぐ本発明においても特に制限はな い。
[0034] (iii)Bi含有低融点合金ペーストの載置工程:
これは、本発明において使用する前述の Biを 20質量%以上含有するとともに、液相 線温度が 200°C以下の Pbフリーの低融点合金粉とフラックス力 成る低融点合金べ 一ストを前記多孔質部に載置する工程である。ペーストそれ自体は、すでにはんだ 付けの技術分野で周知であり、本発明においてもそれを利用して上記低融点合金の はんだペーストを用意すればよい。すでに述べたように、本発明において用いる好適 合金としては、 Bi:20— 81%、残部 Snおよび Bi:20— 85%、残部 Inが挙げられる力 そ れらの場合には、平均粒度: 150 mアンダーのはんだ合金粉末榭脂をベースにする
フラックスと混練して、ペーストを構成すればよい。
[0035] 多孔質部上に上記ペーストを載置する方法には、後述するように、印刷法、吐出法 、そして間接載置法が例示される。
本発明によれば、載置するペーストの位置および量を調整するだけで多孔質部内 に溶浸する低融点合金の量を容易に調節可能であるため、摺動特性の調整も可能 となるのである。し力も含浸法のように高温に溶融する必要はなぐまた操作を大気下 で行うことができ、雰囲気調整も不要である。
[0036] (iv)溶浸工程:
これは、上述のように多孔質部に載置した低融点合金ペーストを低融点合金の液 相線温度以上に加熱して溶融させ、溶融した低融点合金を多孔質部に溶浸させる 工程である。
[0037] (V)切削工程:
これは低融点合金が溶浸した多孔質部を所定の厚さまで切削する工程である。 ここに、本発明の製造方法で低融点合金ペーストを載置する手段としては、印刷法 、吐出法、間接載置法等がある。
[0038] 印刷法とは、低融点合金ペーストを載置する部分のみ開口したメッシュスクリーンや メタルマスクを多孔質部に被せ、その上に低融点合金ペーストを載置してから、該低 融点合金ペーストをスキージで搔き均し、開口にソルダペーストを充填して必要箇所 に低融点合金ペーストを印刷塗布する方法である。印刷法に用いるメッシュスクリー ンとは、細線の網を榭脂で板状にしたもので、印刷すべき部分の榭脂が除去されて 開口となっている。
[0039] 吐出法とは、例えばシリンジ形状のディスペンサー内に充填された低融点合金べ 一ストを圧縮空気で吐出させて多孔質部の必要箇所だけに塗布する方法である。 間接載置法とは、耐熱性板状材の上に低融点合金ペーストを印刷法や吐出法で 多孔質部の必要箇所と同一形状に塗布しておき、該板状材の低融点合金ペースト が多孔質部の上になるようにして載置する方法である。
[0040] ここで低融点合金ペーストを多孔質部に載置する方法について簡単に説明する。
図 5A—図 5Dは、印刷法でコンプレッサーの斜板に低融点合金ペーストを載置する
工程の模式的説明図である。
[0041] 本発明の摺動材料の製造方法に使用するメッシュスクリーン 20には、斜板の多孔 質部と略同一形状の環状の開口 21が形成されている。
図 5A:裏金 17の両面に多孔質部 16、 16が形成されたものの上に開口 21と多孔質 部 16がー致するようにして矢印のようにメッシュスクリーン 20を被せる。
[0042] 図 5B :メッシュスクリーン 20の開口 21の一端に低融点合金ペースト 22を置き、スキ ージ 23を矢印 X方向に移動させて、低融点合金ペースト 22を搔き均す。
図 5C:スキージ 23で低融点合金ペーストを搔き均すことにより、低融点合金ペース ト 22が開口 21内に充填される。
[0043] 図 5D :メッシュスクリーン 20を持ち上げると、メッシュスクリーンの開口 21内に充填さ れていた低融点合金ペースト 22は多孔質部 16上に印刷塗布される。
斜板のように両面に多孔質部を有するものでは、片面に低融点合金ペーストを印 刷塗布してから、加熱して多孔質部に低融点合金を溶浸させ、その後、もう一方の面 に同様にして低融点合金ペーストを印刷塗布して加熱してもよいし、或いは一方の 面に低融点合金ペーストを印刷塗布後にペーストが塗布されて 、な 、中央部を支え て、もう一方の面に低融点合金ペーストを印刷塗布してから両面を同時に加熱しても よい。
[0044] 次に吐出法で斜板に低融点合金ペーストを載置する方法を図 6Aおよび図 6Bで説 明する。
吐出法では回転治具を用いる。図 6Aに示すように、回転治具 24は、上部が細径 の挿入部 25、下部が太径の保持部 26となっている。挿入部 25は、斜板の孔 18を容 易に挿通でき、保持部 26は環状の多孔質部 16よりも僅かに細径となっている。図 6 Aのように両面に多孔質部 16、 16が形成された裏金 17の孔 18を回転治具 24の揷 入部 25に挿入する。このとき下面は保持部 26の段部で保持される力 保持部 26の 直径が環状の多孔質部 16の内径よりも細径となって 、るため、保持部は多孔質部に 接触しない。このようにして裏金を回転治具で保持したならば、ノズル幅が多孔質部 16の横幅と略同一となったディスペンサー 27を多孔質部 16から少し離した状態で 設置する。そして回転治具 24を回転させながら、ディスペンサー 27から低融点合金
ペースト 22を吐出する。すると図 6Bに示すように低融点合金ペースト 22が多孔質部 16上に環状に塗布される。このようにして片面に低融点合金ペーストが塗布されたな らば、すぐに低融点合金ペーストを加熱溶融して多孔質部に溶浸してもよいが、片面 に低融点合金ペーストを塗布後に、裏金を引っくり返してもう一方の面に同様にして 低融点合金ペーストを塗布してもよ 、。
[0045] 次に、図 7によって、間接載置法で斜板に低融点合金ペーストを載置する方法を説 明する。耐熱性があって、しかも溶融した低融点合金が付着しない板材 28、例えば セラミック板、ステンレス板、耐熱性榭脂板等に印刷法で多孔質部と略同一形状に低 融点合金ペースト 22を塗布しておく。このようにして低融点合金ペーストが塗布され た板材 28を反転させ、塗布された低融点合金ペースト 22と多孔質部 16がー致する ようにして重ね合わせる。その後、板材とともに低融点合金ペーストを加熱して低融 点合金を溶融させ、多孔質部に溶浸する。
[0046] 本発明の摺動材料は、摺動特性に優れた Bi含有低融点合金が多孔質部に溶浸さ れているため、多孔質部の Cu-Sn系合金が高荷重を支え、多孔質部に溶浸された Bi 含有低融点合金が摺動する摺動体から引き出されて多孔質部表面を覆い、それが 摩擦熱で溶融することにより、高速回転に対して焼き付きを起こさないようにする。
[0047] 特に本発明の摺動材料は、 Bi含有低融点合金の液相線温度力 ¾00°C以下となって いるため、斜板が高速回転するコンプレッサーのように摺動部の稼動時の温度が 200 °Cまで昇温しても、この温度で溶融した Bi含有低融点合金が円滑な摺動特性を発揮 して焼き付きを起こさな ヽようになる。
[0048] さらにまた本発明の摺動材料は、 Pbが全く含まれていないため、使用できなくなつ た摺動部を埋め立て処分しても地下水を汚染するという公害問題も発生させない。 本発明の摺動材料の製造方法は、低融点合金ペーストを用いて必要箇所だけに 必要量だけの低融点合金ペーストを載置することができるため、従来の裏金に多孔 質部が形成されたもの全体を溶融金属中に浸漬したときのように不要箇所に低融点 合金が付着するようなことがないば力りでなぐ高価な低融点合金が大量に付着する ようなこともない。
[0049] 以上、本発明をコンプレッサーの斜板を例にとって説明してきた力 回転軸受など
摺動材料としても同様に利用できることはこれまでの発明からも当業者には明らかで ある。例えば、帯鋼に連続して多孔質の焼結層を形成し、その片面または両面に低 融点合金ペーストを塗布し、片面ずつ、あるいは両面同時に加熱して低融点合金を 多孔質部に溶浸させてもよい。
[0050] なお、本明細書において合金組成を示す「%」は特にことわりがない限り「質量%」 である。
次に、実施例によって本発明の摺動材料の作用効果をさらに具体的に説明する。 実施例 1
[0051] 本例では、下記材料を用いて斜板用摺動材料を製造した。
〇多孔質部用 Cu-Sn系合金: Cu-10%Sn(Cu-10Snと記載する、以下同じ)合金粉末 (粒 径:粒度 150 mアンダー)
〇裏金:直径 90mm、厚さ 6mm、材質 JIS S45C
〇低融点合金ペースト: 58Bi-Sn粉末 (粒度 60 μ mアンダー)と下記組成のはんだ付け 用ペースト状フラックスの混合物。
[0052] 重合ロジン 50質量%
ジフェニールグァ-ジン臭化水素酸塩 2質量%
水素添加ヒマシ油 5質量%
アジピン酸 0.5質量0 /0
ジエチレングリコールモノへキシエーテル 42.5質量0 /0。
[0053] 本例における斜板用摺動材料は次の各工程を経て製造した。
(1)合金粉の散布工程:裏金を水平に置いて裏金上に Cu-lOSn合金粉を厚さ約 0.5mmに散布する。
[0054] (2)焼結工程: Cu-Sn合金粉が散布された裏金をアンモニア分解ガス雰囲気の焼結 炉中 800— 850°Cで焼結して、裏金上に多孔質部を形成する。同様にして裏金のもう 一方の面にも多孔質部を形成する。
[0055] (3)ペーストの載置工程:多孔質部の必要箇所が開口したメッシュスクリーンを多孔質 部に載置し、該開口に低融点合金ペーストを置いてから、低融点合金ペーストをスキ 一ジで搔き均して多孔質部に低融点合金ペーストを印刷塗布する。もう一方の面に
も同様にして低融点合金ペーストを印刷塗布する。
[0056] (4)溶浸工程:多孔質部に印刷塗布された低融点合金ペーストを加熱炉で 200°Cに 加熱して低融点合金粉を溶融させる。溶融した低融点合金はフラックスで清浄ィ匕さ れた多孔質部に毛細管現象で浸透して、金属的に付着する。
[0057] (5)切削工程:裏金両面の多孔質部を切削加工して所定の厚さに仕上げる。
実施例 2
[0058] 本例では、下記材料を用いて斜板用摺動材料を製造した。
〇多孔質部用 Cu- Sn系合金: Cu- 10Sn合金粉末 (粒度 150 μ mアンダー)
〇裏金:直径 90mm、厚さ 6mm、材質 JIS S45C
〇低融点合金ペースト: Sn- 2Ag- 0.5CU- 20Bi粉末 (粒度 150 μ mアンダー)とはんだ付 け用ペースト状フラックス (実施例 1に同じ)の混合物。
[0059] 本例における斜板用摺動材料の製造は次の工程により行った。
(1)合金粉の散布工程:実施例 1と同様。
(2)焼結工程:実施例 1と同様。
[0060] (3)ペーストの載置工程:回転治具の挿入部に裏金の孔を揷通するようにして裏金を 置く。該裏金力 少し離して多孔質部の巾と略同一巾のノズルを有するデイスペンサ 一を載置し、回転治具を回転させながらディスペンサー力 低融点合金ペーストを吐 出塗布する。もう一方の面にも同様にして低融点合金ペーストを吐出塗布する。
[0061] (4)含浸工程:多孔質部に印刷塗布された低融点合金ペーストを加熱炉で 250°Cに 加熱して低融点合金粉を溶融させる。溶融した低融点合金はフラックスで清浄ィ匕さ れた多孔質部に毛細管現象で浸透して、金属的に付着する。
[0062] (5)切削工程:実施例 1と同様。
[比較例 1]
本例では下記材料を用いて斜板用摺動材料を製造した。
〇多孔質部用 Cu- Sn系合金: Cu- 10Sn- 15Bi合金粉末 (粒度 150 mアンダー) 〇裏金:直径 90mm、厚さ 6mm、材質 JIS S45C
本例における斜板用摺動材料の製造工程は次の通りであった。
[0063] (1)合金粉末の散布:実施例 1と同様。
(2)焼結工程: Cu- 10Sn- 15Bi合金粉が散布された裏金をアンモニア分解ガス雰囲気 の焼結炉中 800— 850°Cで焼結して、裏金上に摺動部を形成する。同様にして裏金 のもう一方の面にも摺動部を形成する。
[0064] (3)切削工程:実施例 1と同様。
[比較例 2]
本例では下記材料を用いて斜板用摺動材料を製造した。
〇多孔質部用 Cu- Sn系合金: Cu- 10Sn合金粉末 (粒度 150 μ mアンダー)
〇裏金:直径 90mm、厚さ 6mm、材質 JIS S45C
〇低融点合金: Bi
本例における斜板用の摺動材料は以下の工程により製造した。
[0065] (1)散布工程:実施例 1と同様。
(2)焼結工程:実施例 1と同様。
(3)含浸工程:多孔質部にはんだ付け用のフラックス (実施例 1に同じ)を塗布し、 Biを 溶融させた浴中に浸漬して多孔質部に Biを含浸する。
[0066] (4)切削工程:実施例 1と同様。
[比較例 3]
本例では下記材料を用いて斜板用摺動材料を製造した。
〇多孔質部用 LBC3合金粉(Cu-10Sn-10Pb) (粒度 180 μ mアンダー)
〇裏金:直径 90mm、厚さ 6mm、材質 JIS S45C
本例における斜板用の摺動材料は以下の工程によりを製造した。
[0067] (1)合金粉の散布工程:実施例 1と同様。
(2)焼結工程: LBC3合金粉が散布された裏金をアンモニア分解ガス雰囲気の焼結炉 中 800— 850°Cで焼結して、裏金上に摺動部を形成する。同様にして裏金のもう一方 の面にも摺動部を形成する。
[0068] (3)切削工程:実施例 1と同様。
上記実施例と比較例について摺動特性を測る試験を行った。試験条件は以下のと おりであった。
[0069] (I)試験環境:無潤滑起動
(II)軸受面圧:約 2MPa
(ΠΙ)周速:約 15m/sec
(IV)運転パターン: 90sec/lサイクル。
[0070] 摩擦係数測定試験結果を図 8に、また耐久回数試験結果と摩耗速度試験結果を 表 2に示す。
摩擦係数測定試験:スラスト摩擦試験機を用い、周速 15m/sec到達後の摩擦係数 を測定する。
[0071] [表 2]
[0072] ここで耐久回数試験とは、試験材料の裏金に熱電対を挿入し、裏金の温度が 200 °Cに達するまでのサイクル回数を測定するものである。また摩耗速度とは摩耗深さ( μ m)をトータルの運転時間(上記サイクル試験において裏金温度が 200°Cに達する までに要した運転時間 (分)で除した値)である。
[0073] 図 8の摩擦係数測定試験結果力 分力るように、比較例 1は 9サイクル、比較例 2は 1サイクル、比較例 3は 4サイクルで温度が 200°Cに達した力 本発明の実施例 1は 18 サイクル、実施例 2は 42サイクルであり、比較例との差が歴然としている。
[0074] また耐久回数試験結果では、比較例 1が 8回、比較例 2が 0回、比較例 3が 3回に対 して、実施例 1では 17回、実施例 2では 41回であった。そして摩耗速度試験では比較 例 1が 1.27 μ m/min、比較例 2が 1.11 μ m/min、比較例 3が 2.4 μ m/minであり、実施 例 1が 0.78 μ m/min,実施例 2が 0.70 μ m/minであった。
産業上の利用の可能性
[0075] 実施例ではコンプレッサーの斜板について説明した力 本発明は斜板に限らず一 般の軸受、油圧機械の摺動部、等如何なる摺動部品にも適用できるものである。