本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子(以下、単に微粒子とも呼ぶ)とは、エーテル系セルロース誘導体からなる多孔質微粒子であり、粒子表面に微細な孔を有し、かつ粒子内部にも微細な孔を有する、多孔質な外観を持つエーテル系セルロース誘導体微粒子である。
(エーテル系セルロース誘導体)
本発明の実施形態におけるエーテル系セルロース誘導体とは、セルロース誘導体であって、セルロースの水酸基の一部または全てがエーテル化されたセルロースから誘導されるものである。セルロースの水酸基の一部または全てがエーテル化されてなるエーテル系セルロース誘導体の具体例としては、例えばアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースが挙げられる。
(アルキルセルロース)
本発明の実施形態においてアルキルセルロースとは、セルロースの水酸基の一部が、エチル基、メチル基、プロピル基等の炭化水素基でエーテル化されたものである。アルキルセルロースを具体的に例示するならば、エチルセルロース、メチルセルロースが挙げられる。
(ヒドロキシアルキルセルロース)
本発明の実施形態においてヒドロキシアルキルセルロースとは、セルロースの水酸基が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドとの反応によって生成したものである。ヒドロキシアルキルセルロースを具体的に例示するならば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。
(カルボキシアルキルセルロース)
本発明の実施形態においてカルボキシアルキルセルロースとは、セルロースの水酸基が、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等のカルボキシアルキル基でエーテル化されたものである。カルボキシアルキルセルロースを具体的に例示するならば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
本発明の実施形態に用いられるエーテル系セルロース誘導体は、得られる微粒子にどのような溶解性を付与するかによって、微粒子の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコール可溶性と水不溶性の両立が必要な用途には、エチルセルロースを選択することができる。また、水への溶解性にLCST(Lower Critical Solution Temperature;下限臨界溶解温度)のような臨界温度を設けたい用途には、ヒドロキシプロピルセルロースを選択することができる。
その中でも、多孔性が良く、優れたアマニ油吸油量を示すエーテル系セルロース誘導体微粒子を得るためには、エーテル系セルロース誘導体は、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが好ましい。エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましく、エチルセルロースが特に好ましい。
また、これらエーテル系セルロース誘導体は、本発明の目的を達するのであれば単独で使用しても良いし、上記を組み合わせて使用しても良い。
本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体は、得られるエーテル系セルロース誘導体微粒子の種類(用途)にもよるが、セルロースのグルコース単位あたりの水酸基のうちエーテル化された水酸基の平均数を表わす置換度(DS、degree of substitution)が0.1以上であることが好ましい。前記置換度は、より好ましくは0.5以上であり、より一層好ましくは1以上であり、さらに好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは2以上であり、著しく好ましくは2.2以上であり、最も好ましくは2.45以上である。また、上限としては、好ましくは2.9以下であり、より好ましくは2.85以下であり、さらに好ましくは2.8以下である。置換度が0.1未満であったり、置換度が2.9を超えると、エーテル系セルロース誘導体の種々溶媒への溶解性が低下してしまい、エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒種が少なくなってしまうため、本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を産業上利用する上で扱いにくくなるため好ましくない。なお、セルロースはグルコール単位あたりに3個の水酸基を持ち、置換度の最大値は3である。
本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体は、エトキシ基を含むものが好ましい。エトキシ基を含む場合には、エトキシ基による置換度が2以上のものがより好ましく、2.2以上のものがさらに好ましく、2.45以上のものが特に好ましく使用できる。また、エトキシ基による置換度は2.8以下のものが好ましい。エトキシ基による置換度を上記範囲とすることで、エーテル系セルロース誘導体の種々溶媒への溶解性が向上し、広い用途に使用可能な微粒子が得られるようになる。
さらに、本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体は、トルエン80質量部とエタノール20質量部の混合溶媒に5質量部のエーテル系セルロース誘導体を溶解させて得られる溶液の粘度が、25℃の温度条件下において、以下のようであることが好ましい。すなわち、下限は1mPa・s以上のものが好ましく、3mPa・s以上のものがより好ましく、5mPa・s以上のものがさらに好ましく、8mPa・s以上のものが特に好ましく、12mPa・s以上のものが著しく好ましく、20mPa・s以上のものが最も好ましい。また、その上限としては、500mPa・s以下のものが好ましく、350mPa・s以下のものがより好ましく、250mPa・s以下のものがさらに好ましく、110mPa・s以下のものが特に好ましく、70mPa・s以下のものが著しく好ましく、55mPa・s以下のものが最も好ましい。
上記範囲の溶液粘度を持つエーテル系セルロース誘導体で微粒子を構成することで、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を部分的にまたは全部を溶解処理して使用する用途において、目的に応じて処理の程度を調節しやすくなり、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の有用性が向上するため好ましい。例えば、後述する表面改質した製剤用粒子として使用する際に、微粒子表面の形態を適度に改質した製剤用粒子が得られやすくなる。
本発明の実施形態の微粒子は、本発明の目的を損なわない範囲でエーテル系セルロース誘導体以外の成分が含まれていてもかまわない。その場合、エーテル系セルロース誘導体の含有率が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、著しく好ましくは95質量%以上である。実質的にエーテル系セルロース誘導体以外の成分を含まないことが好ましく、エーテル系セルロース誘導体の含有量の上限は100質量%である。
本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、粒子表面と内部のそれぞれに、多数の孔を有する。
本発明の実施形態において、微粒子がその粒子表面と内部にそれぞれ孔を有するとは、微粒子がその粒子表面に開孔する細孔(表面細孔)を有し、かつ粒子の内部にも空隙(内部細孔)を有する特徴を指す。
本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が有する孔は、表面細孔と内部細孔のそれぞれについて、各孔は独立していても良いし、孔同士が連続的に連なった多孔構造を形成していても良い。後述するアマニ油吸油量が増大し、より多くの目的成分を粒子内部に取り込むことが可能になることから、孔同士が連続的に連なった多孔構造を形成していることが好ましい。
さらに、本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、平均表面細孔径が0.05〜5μmという特徴を有する。
ここでいう平均表面細孔径とは、前述した表面細孔の微粒子表面における開孔(表面開孔)の平均径である。平均表面細孔径の下限としては、好ましくは0.07μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、著しく好ましくは0.7μm以上である。上限としては、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2.5μm以下、特に好ましくは2μm以下、著しく好ましくは1.5μm以下である。
平均表面細孔径が小さすぎると、例えば0.05μm未満になると、分子量の大きい成分が孔の中に入りにくくなり、そのような成分を粒子内部に取り込み保持しにくくなる。一方、平均表面細孔径が大きすぎると、例えば5μmを超えると、細孔が示す毛管力が小さくなり目的成分を粒子内部に取り込もうとする作用が小さくなるため、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の実用上、好ましくない。
前記の平均表面細孔径は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した画像から測長される表面細孔径の平均値である。具体的には、1個の粒子の表面を高倍率で拡大し、1枚のFE−SEM画像に10個以上の表面細孔が写るような倍率と視野で観察したとき、2個以上の微粒子の表面を対象に、計100個の表面細孔についてその直径(細孔径)を測長し、下記式により求まる算術平均値を平均表面細孔径とする。そのようなFE−SEMの倍率としては、表面細孔径にもよるが、5,000倍〜100,000倍の範囲とすることができる。具体的に例示するならば、表面細孔径が0.05μm以上0.1μm未満の場合は100,000倍以上、0.1μm以上0.3μm未満の場合は50,000倍以上、0.3μm以上0.5μm未満の場合は30,000倍以上、0.5μm以上1.0μm未満の場合は10,000倍以上、1.0μm以上5μm以下の場合は5,000倍以上とすればよい。なお、画像上で表面細孔が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を細孔径として測定する。また、細孔同士が連なって不規則な形状になっている場合は、連結した孔の最長径を細孔径として計測する。
(式中、Piは表面細孔個々の細孔径を表わし、Pは平均表面細孔径を表わす。nは測定数を表わし、本実施形態では100である。)
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、上記のような表面細孔を有するだけでなく、粒子の内部にも内部細孔を有する点に特徴がある。そのため、本発明の実施形態の微粒子は、表面開孔から微粒子の内部へと目的物質を取り込み、かつ保持することができると考えられる。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が目的物質を取り込み、かつ保持する程度は、微粒子の多孔度の影響を受けると考えられる。しかしながら、微粒子の多孔度を直接的に測定することは難しい。そこで、多孔度の間接的指標として、BET等による単位重量当たりの気体吸着量や、日本工業規格に定められている顔料試験方法であるアマニ油吸油量(精製あまに油法:日本工業規格(JIS)K5101−13−1)等が指標として用いられる。
BETによる比表面積法は平均粒子径に強く依存するため、本発明の実施形態では、微粒子の多孔度として、アマニ油吸油量を指標とする。また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が示す担持、吸着、濃縮といった性質を良く反映するという観点からも、本発明の実施形態の微粒子の多孔度として、アマニ油吸油量を指標としている。
アマニ油吸油量の値は、日本工業規格(JIS)K5101−13−1に準じて測定される値である。具体的には、多孔質の微粒子をガラス板の上に置き、精製アマニ油をビュレットから徐々に加え、その都度パレットナイフで精製アマニ油を多孔質の微粒子に練り込む。このことを繰り返し、精製アマニ油および多孔質の微粒子を完全に混練するようにし、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点として、消費したアマニ油の容量をビュレットから読み取る。このペーストは、割れたり、ぼろぼろになったりせず広げることができ、かつガラス板に軽く付着する程度のものである。アマニ油吸油量は、多孔質の微粒子100g当たりに消費したアマニ油の容量で示す。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、50〜1000mL/100gのアマニ油吸油量を示す特徴を有する。その下限としては、好ましくは75mL/100g以上であり、より好ましくは100mL/100g以上であり、さらに好ましくは150mL/100g以上であり、特に好ましくは200mL/100g以上であり、著しく好ましくは250mL/100g以上である。またその上限としては、好ましくは900mL/100g以下であり、より好ましくは800mL/100g以下であり、さらに好ましくは700mL/100g以下であり、特に好ましくは600mL/100g以下であり、著しく好ましくは500mL/100g以下である。
アマニ油吸油量が小さすぎると、例えば50mL/100g未満になると、微粒子が内部に取り込むことができる目的物質の量が少なくなり、例えば微粒子を吸着剤として使用する用途において、微粒子の必要量が増えてしまうため実用上好ましくない。一方、アマニ油吸油量が大きすぎると、そのような微粒子のかさ密度は小さくなる傾向にあるようであり、微粒子が極端に飛散しやすくなるため、微粒子を取り扱う環境の面で好ましくない。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、水銀圧入法により算出した細孔容積が0.05〜5cm3/gの範囲であることが好ましい。その下限としては、好ましくは0.08cm3/g以上、より好ましくは0.1cm3/g以上、さらに好ましくは0.25cm3/g以上、特に好ましくは0.4cm3/g以上、著しく好ましくは0.5cm3/g以上である。また、その上限としては、好ましくは4cm3/g以下、より好ましくは3.5cm3/g以下、さらに好ましくは3cm3/g以下、特に好ましくは2.5cm3/g以下、著しく好ましくは2cm3/g以下である。
細孔容積が0.05cm3/g未満だと、細孔容積が小さく目的物質を保持できる容量が小さくなるため好ましくない。また、細孔容積が5cm3/gを超えると、保持した物質の放出挙動を制御することが困難となり、均質な徐放能を得るのが困難となるため好ましくない。
なお、本発明の実施形態において、水銀圧入法により算出した細孔容積とは、粒子間隙由来の容積を除く、細孔由来の容積の積算値を指す。すなわち、細孔直径Rを横軸とし、積算細孔容積Vpを縦軸とした積算細孔径分布曲線において、平均粒子径付近または平均粒子径以上の領域にあらわれる容積を除いた積算値である。
また、本発明の実施形態において、水銀圧入法により算出される細孔モード径が、前記平均表面細孔径の0.2倍〜2.5倍であることが好ましい。その下限としては、好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは0.6倍以上、特に好ましくは0.7倍以上、著しく好ましくは0.8倍以上である。また、その上限としては、好ましくは2.2倍以下、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1.7倍以下、特に好ましくは1.5倍以下、著しく好ましくは1.3倍以下である。
細孔モード径が平均表面細孔径の0.2倍未満になると、表面開孔に対して粒子内部の孔径が小さくなり、粒子内部に目的物質を保持する効率が低下するため好ましくない。また、細孔モード径が平均表面細孔径の2.5倍を越えるようになると、毛管力で物質を粒子内部に保持する作用が弱くなりやすく、目的物質の放出挙動を制御するのが困難となるため好ましくない。
なお、本発明の実施形態において、水銀圧入法により算出される細孔モード径とは、水銀圧入法で測定される、細孔直径Rを横軸とし、微分細孔容積dVp/d(logR)を縦軸とした微分細孔径分布曲線のうち、細孔由来のピークの中で最も高いピークのピークトップが示す細孔径とする。すなわち、細孔径分布のうち、平均粒子径付近ではなく、平均表面細孔径付近にあらわれるピークの中で最も高いピークのピークトップが示す細孔径である。
図1には、水銀圧入法により測定される細孔径分布の模式図と、本発明の実施形態における細孔容積ならびに細孔モード径の算出方法の略図を示す。
加えて、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、その粒子表面の開孔から他成分を取り込むことで担体や吸着剤として機能する性質上、粒子表面の開孔が高密度で設けられていることが好ましい。
具体的には、粒子表面の隣接する開孔間の距離を表す平均表面細孔間距離が、前記平均表面細孔径の0.05倍〜2.5倍であることが好ましい。その下限としては、好ましくは0.07倍以上、より好ましくは0.1倍以上、さらに好ましくは0.2倍以上、特に好ましくは0.3倍以上、著しく好ましくは0.4倍以上である。また、その上限としては、好ましくは2.3倍以下、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1.8倍以下、特に好ましくは1.5倍以下、著しく好ましくは1.3倍以下である。
表面細孔が過度に密となり、平均表面細孔間距離が小さくなり過ぎると、例えば平均表面細孔径の0.05倍未満になると、得られる微粒子が脆くなってしまうため実用上好ましくない。一方、平均表面細孔間距離が前記基準の2.5倍を超えるような場合は、粒子表面の開孔の数が少なく、微粒子が有効成分を粒子内部に取り込む効率が悪くなってしまうため好ましくない。
平均表面細孔間距離は、前記の平均表面細孔径の測長に用いたFE−SEM画像から求めることができる。ここでいう表面細孔間距離とは、任意の表面細孔とそれに隣接する細孔群との距離のうち、最も近い細孔までの最短距離を表す。平均表面細孔間距離とは、上記画像において無作為に選択した30個の表面細孔について、各細孔に最も近い隣接細孔までの距離を測長し、下記式にて求まる算術平均値である。
(式中、Liは任意の細孔とその最隣接細孔までの最短距離を表わし、Lは平均表面細孔間距離を表わす。nは測定数を表わし、本実施形態では30である。)
本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、上記のような細孔構造を有しながら、走査型電子顕微鏡で観察した粒子画像から測長される粒子径の算術平均値(平均粒子径)が1〜1000μmという特徴を有する。その下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは25μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上であり、特に好ましくは60μm以上であり、著しく好ましくは70μm以上である。また、その上限は、好ましくは800μm以下であり、より好ましくは600μm以下であり、さらに好ましくは500μm以下であり、特に好ましくは400μm以下であり、著しく好ましくは300μm以下である。
平均粒子径が1μmよりも小さくなると、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が凝集したりダマになりやすくなるため、微粒子の流動特性が低下してしまうため好ましくない。一方、平均粒子径が1000μmを超えるような場合は、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が沈降しやすくなるため、実用上好ましくない。
上記の平均粒子径は、表面細孔径と同様に、FE−SEMで観察した画像から測長される粒子径の平均値である。具体的には、1枚のFE−SEM画像に2個以上100個未満の微粒子が写るような倍率と視野で観察し、複数の視野にて100個の微粒子についてその直径(粒子径)を測長し、下記式により求まる算術平均値を平均粒子径とする。そのようなFE−SEMの倍率としては、微粒子の粒子径にもよるが、50倍〜5,000倍の範囲とすることができる。具体的に例示するならば、粒子径が1μm以上20μm未満の場合は1,000倍以上、20μm以上50μm未満の場合は500倍以上、50μm以上75μm未満の場合は300倍以上、75μm以上200μm未満の場合は150倍以上、200μm以上500μm未満の場合は100倍以上、500μm以上1000μm以下の場合は50倍以上とすればよい。なお、画像上で微粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を粒子径として測定する。また、微粒子が不規則に寄せ集まった凝集体を形成している場合は、凝集体を形成する最小単位の微粒子の直径を粒子径として測定する。ただし、前記凝集体が複数の微粒子同士が融着したもので、微粒子間の境界が定かでない場合は、融着体の最大径を粒子径として測定する。
(式中、Diは微粒子個々の粒子径を表わし、Dは平均粒子径を表わす。nは測定数を表わし、本実施形態では100である。)
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の真球度は、80以上が好ましく、より好ましくは85以上、さらに好ましくは90以上、特に好ましくは95以上、著しく好ましくは98以上である。真球度が低いと、得られる微粒子の流動特性が低くなる傾向にあり、そのような微粒子は取扱性が悪くなるため好ましくない。
本発明の実施形態における多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の真球度は、FE−SEMで観察した画像中で、無作為に選択した微粒子30個の真球度の算術平均値であり、下記式に従い算出できる。個々の微粒子の真球度は、個々の微粒子の長径(最大径)と、長径の中心において長径と垂直に交わる短径の比であり、下記式に従い算出できる。なお、個々の微粒子の長径と短径は、平均粒子径を求めるために粒子径を測長するための既述した倍率および視野にて測長することができる。
(式中、Smは平均真球度(%)を表わし、Siは微粒子個々の真球度を表わし、aiは微粒子個々の短径を表わし、biは微粒子個々の長径を表わす。nは測定数を表わし、本実施形態では30である。)
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、粒子径分布の広さを示す指標である粒子径分布指数(PDI)が1〜3であることが好ましく、より好ましくは1〜2.5、さらに好ましくは1〜2.0、特に好ましくは1〜1.8であり、著しく好ましくは1〜1.5である。なお、PDIの下限値は理論上1である。PDIが小さければ、微粒子間における見掛けの体積差が小さくなるため、目的成分の保持能力のバラつきも小さくなり、微粒子の担持、吸着、濃縮性能がより信頼性の高いものとなる。粒子径分布の幅が広く、PDIが大きいような微粒子では、前記保持能力のバラつきが大きくなるだけでなく、微粒子を粉体として取り扱う際に、大粒径と小粒径に分離してしまうため好ましくない。
本発明の実施形態における多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子のPDIは、平均粒子径の算出時に行なった粒子径の測長結果を用いて、次の式により算出される。
(式中、Diは粒子個々の粒子径、PDIは粒子径分布指数とする。nは測定数を表わし、本実施形態では100である。)
また、本発明の実施形態における多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、かさ密度が0.05g/mL以上であることが好ましく、0.08g/mL以上であることがより好ましく、0.09g/mL以上であることがさらに好ましく、0.10g/mL以上であることが特に好ましい。また、その上限としては、1.0g/mL以下であることが好ましく、0.8g/mL以下であることがより好ましく、0.6g/mL以下であることがさらに好ましく、0.5g/mL以下であることが特に好ましく、0.45g/mL以下であることが著しく好ましい。
かさ密度が小さいと、例えば0.05g/mLより小さいと、微粒子が飛散しやすくなり、作業環境を悪化させてしまうおそれがあるため好ましくない。一方、かさ密度が大きいと、例えば1.0g/mLよりも大きい場合は、媒体中で微粒子が沈降して分離しやすくなるため好ましくない。
本発明の実施形態における多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子のかさ密度は、微粒子4.00gを精秤し(このときの微粒子の質量をWとする)、続いて精秤した質量W(g)の微粒子を100mLメスシリンダー(最小目盛1mL)に静かに入れた後、粉体層の容量V(mL)を目視で測定して、下記式に従って算出することができる。このとき、粉体層の容量が25mL以上50mL未満だった場合は50mLメスシリンダー(最小目盛1mL)を用い、粉体層の体積が10mL以上25mL未満だった場合は25mLメスシリンダー(最小目盛0.5mL)を用い、5mL以上10mL未満だった場合は10mLメスシリンダー(最小目盛0.2mL)を用い、5mL未満だった場合は5mLメスシリンダー(最小目盛0.1mL)を用いて、同様の測定操作を再度行い、再測定して得られた読み取り値を粉体層の容量として微粒子のかさ密度を算出する。
(式中、Wは微粒子の質量であり、∨はメスシリンダーで測定した粉体層の容量である。)
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、微粒子の結晶化度が1%以上であることが好ましい。その下限としては、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上、著しく好ましくは3%以上、最も好ましくは3.5%以上である。そのような結晶化度を示す多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、微粒子の表面細孔と内部細孔が特に発達した多孔構造を有するようであり、微粒子表面の開孔部から粒子内部へと目的物質を取り込み保持させる用途に好適である。また、微粒子の結晶化度の上限としては、用途に応じて種々選択できるが、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下、著しく好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。微粒子の結晶化度を上記範囲とすることで、微粒子の種々溶媒への溶解性が向上し、微粒子が広範な溶媒に溶解性を示すようになるため、本発明の実施形態の微粒子を使用可能な用途の範囲を広げることができる。例えば、媒体中の目的成分を微粒子に吸着させて選択的に回収した後、微粒子のみを選択的に溶解して目的成分を取り出す等、濃縮剤として使用する用途に好適に使用できるようになる。
本発明の実施形態において、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の結晶化度は、以下のようにして求めることができる。すなわち、粉末X線回折にて、X線にCuKαを用いて、X線の回折角度を5〜70°、2°/minの速度で走査し、サンプリング幅を0.02°として測定した後、回折パターンを波形分離することで、結晶部分と非晶部分とに分ける。そして、(結晶部分からの散乱強度)/(全散乱強度)×100として、上記結晶化度を算出すればよい。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、粉体として使用しても良いし、所望の分散媒に分散させ、分散液として使用することもできる。
エーテル系セルロース誘導体が、完全に溶解してしまったり、微粒子としての形態を失ったりしてしまわない範囲であれば分散液の分散媒を特に選ぶものではない。分散媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、脂肪族炭化水素および脂環式炭化水素が挙げられる。これら溶媒として具体的に例示するならば、水、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、石油ナフサが挙げられる。
多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の製造方法は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が得られるのであれば、従来公知の技術を用いても良い。例えば、エーテル系セルロース誘導体のO/WエマルションやW/O/Wエマルションを作製した後に溶媒を留去したり、油相から有機溶媒を浸透圧によって拡散除去して微粒子を得る方法;エーテル系セルロース誘導体の樹脂をボールミル、ビーズミル、ジェットミル、あるいは乳鉢等の機械的粉砕処理によって粉末とする方法;エーテル系セルロース誘導体の樹脂と海成分樹脂とを溶融混練させ、海成分樹脂のみを除去させる強制溶融混練法;エーテル系セルロース誘導体を高揮発性溶媒に溶解させた後、溶解液をスプレードライや静電噴霧を用いて微粒子とする方法;エーテル系セルロース誘導体を溶媒に溶解させた後、溶解液を冷却して析出させる方法;上記のいずれかの方法で微粒子を形成時に発泡剤を用いて多孔構造を形成させる方法、が挙げられる。
その中でも、高分子溶液の相分離現象を利用した以下に示す微粒子化方法によって得るのが最も好ましい。高分子溶液の相分離現象を利用した微粒子化方法を採用することで、エーテル系セルロース誘導体の自発的な自己組織化によって、粒子表面に微細な開孔が形成され、かつ粒子内部にも微細な孔が形成された多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が得られる点で好ましい。
高分子溶液の相分離現象を利用した微粒子化法とは、エーテル系セルロース誘導体(A)と、エーテル系セルロース誘導体とは異なるポリマー(B)と、アルコール系溶媒(C)とを混合したときに、エーテル系セルロース誘導体(A)を主成分とする溶液相と、ポリマー(B)を主成分とする溶液相との2相に相分離し、前記2相に相分離した各相の溶媒が実質的に同じになる系において、エーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)とアルコール系溶媒(C)とのエマルションを形成させた後、前記エマルションと、エーテル系セルロース誘導体(A)の貧溶媒(D)とを接触させ、エーテル系セルロース誘導体微粒子を析出させる方法である。
従来の2種以上の溶媒からなる液−液系エマルションを用いた方法では、エーテル系セルロース誘導体が特異な溶解特性を持つため、液−液相分離を形成し得る溶媒の組み合わせで、かつ一方の溶媒にはエーテル系セルロース誘導体が溶解しないような条件を汎用溶媒で作ることは困難であった。そのため、微粒子表面で開孔する表面細孔と内部細孔とを有する多孔質状のエーテル系セルロース誘導体微粒子を得ることは、極めて困難であった。
本願の発明者らは、エーテル系セルロース誘導体(A)と、エーテル系セルロース誘導体とは異なるポリマー(B)を、アルコール系溶媒(C)に混合溶解すると、エーテル系セルロース誘導体(A)を主成分とする溶液相と、ポリマー(B)を主成分とする溶液相とに2相分離し、かつ2相分離したときの各相の溶媒が実質的に同じになる系が存在することを見出した。さらに、驚くべきことに、前記2相分離の系をエマルション化した後、前記エマルションと、アルコール系溶媒(C)に可溶でかつエーテル系セルロース誘導体(A)の貧溶媒となる貧溶媒(D)を接触させることで、表面で開孔する表面細孔と内部細孔とを有する多孔質状のエーテル系セルロース誘導体微粒子が得られることを見出した。なお、上記した2相分離したときの各相の溶媒が実質的に同じであるとは、各相の溶媒が、アルコール系溶媒(C)である場合だけでなく、アルコール系溶媒(C)に対してさらに他の成分が含まれる場合を含む。
前記エマルションと貧溶媒(D)を接触させると、エーテル系セルロース誘導体(A)を主成分とする液滴相からアルコール系溶媒(C)が抽出されてエーテル系セルロース誘導体(A)が粒子状に固化する過程で、エーテル系セルロース誘導体が自発的な自己組織化によって多孔構造を形成すると考えられる。
前記ポリマー(B)としては、エーテル系セルロース誘導体(A)とは異なるポリマーのうち、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられるが、アルコール系溶媒(C)に溶解しやすいという観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(完全ケン化型や部分ケン化型のポリビニルアルコールであってもよい)等が挙げられる。得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の粒子径を制御しやすく、かつ真球度が高くなることから、好ましくはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(完全ケン化型や部分ケン化型のポリビニルアルコールであってもよい)を用いることができる。
ポリマー(B)の分子量については、重量平均分子量1,000以上のものを使用することが好ましい。そのようなポリマー(B)を用いることで、エーテル系セルロース誘導体(A)溶液相と、ポリマー(B)溶液相の2相分離が誘発されると考えられる。また、そのようなポリマー(B)を用いることで、エマルションを形成したときに、表面細孔と内部細孔とを有する多孔質状のエーテル系セルロース誘導体微粒子が得られ、かつ得られる微粒子の真球度が高くなると考えられる。
ポリマー(B)の分子量は、重量平均分子量で1,000〜10,000,000の範囲であることが好ましい。より好ましい上限としては5,000,000以下、さらに好ましくは2,000,000以下であり、特に好ましい上限は1,000,000以下である。また、相分離が起こりやすくなる観点から、より好ましい下限は2,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、特に好ましい下限は10,000以上、著しく好ましい下限は20,000以上である。
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として水を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコールで換算した重量平均分子量を指す。溶媒として水を用いると測定できない場合には、溶媒としてジメチルホルムアミドを用い、それでも測定できない場合にはテトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合にはヘキサフルオロイソプロパノールを用いる。
アルコール系溶媒(C)とは、エーテル系セルロース誘導体(A)および前記ポリマー(B)を溶解する溶媒である。ここで、ポリマーを溶解する溶媒とは、実際に実施する温度、すなわちエーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)を溶解混合させる温度において、アルコール系溶媒(C)に対し、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)を、1質量%を超える濃度で溶解することを意味する。
アルコール系溶媒(C)は、前記エマルションと貧溶媒(D)とを接触させてエーテル系セルロース誘導体(A)の微粒子を得る工程での温度において、エーテル系セルロース誘導体(A)を溶解できることが好ましい。
前記アルコール系溶媒(C)としては、好ましくは、エタノール、メタノール、2−プロパノール、1−プロパノールが挙げられる。これらの溶媒は、複数種用いても単独で用いてもかまわない。エーテル系セルロース誘導体(A)の溶解度、および作業環境の安全性の観点から、エタノールがより好ましい。
前記貧溶媒(D)とは、エーテル系セルロース誘導体(A)の貧溶媒であり、貧溶媒を接触させる温度における貧溶媒に対するエーテル系セルロース誘導体(A)の溶解度が1質量%以下のものを言う。貧溶媒(D)に係る上記溶解度は、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
なお、使用するエーテル系セルロース誘導体(A)の種類によっては、溶媒との組み合わせでLCSTを示す場合がある。そのため、使用するエーテル系セルロース誘導体(A)と組み合わせたときにLCSTを示す溶媒については、LCST以上の温度で貧溶媒として作用するか否かを判断すればよい。
加えて、前記貧溶媒(D)としては、ポリマー(B)を溶解する溶媒であることが好ましい。これにより、エーテル系セルロース誘導体(A)を効率良く微粒子化し析出させることができる。また、貧溶媒(D)は、前記アルコール系溶媒(C)に可溶な溶媒であって、前記アルコール系溶媒(C)と任意の割合で均一に混合することができる溶媒であることが好ましい。
前記貧溶媒(D)としては、具体的には、エーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)、およびアルコール系溶媒(C)の種類によって変わるが、水;エチレングリコールおよびジエチレングリコール等の多価アルコール系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、の中から選ばれる少なくとも1種類の溶媒が挙げられる。エーテル系セルロース誘導体(A)を効率良く微粒子化できることから、好ましくは水、エチレングリコール、またはジエチレングリコールであり、作業環境の安全性の観点で優れることから、最も好ましくは水である。
相分離状態になりやすい条件を得るためには、エーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)のSP値(溶解パラメーター)が離れていた方が好ましい。この際、SP値の差としては、1(J/cm3)1/2以上、より好ましくは2(J/cm3)1/2以上、さらに好ましくは3(J/cm3)1/2以上、特に好ましくは5(J/cm3)1/2以上、著しく好ましくは8(J/cm3)1/2以上である。SP値の差がこの範囲であれば、容易に相分離しやすくなる。また、相分離がしやすくなることから、エーテル系セルロース誘導体(A)の含有率のより高い微粒子を得ることができる。また、エーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)の両者がアルコール系溶媒(C)に溶解するのであれば特に制限はないが、SP値の差の上限としては、好ましくは20(J/cm3)1/2以下、より好ましくは15(J/cm3)1/2以下であり、さらに好ましくは10(J/cm3)1/2以下である。SP値の差がこの範囲より大きくなると、エーテル系セルロース誘導体(A)とポリマー(B)の両者がアルコール系溶媒(C)に溶解しなくなる場合があり好ましくない。
なお、ここでいうSP値とは、Fedorの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるもの(以下、計算法と称することもある)である(「SP値 基礎・応用と計算方法」 山本秀樹著、株式会社情報機構、平成17年 3月 31日発行)。本方法により計算できない場合においては、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による、実験法によりSP値を算出し(以下、実験法と称することもある)、それを代用する(「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)。
相分離状態になる条件を選択するためには、エーテル系セルロース誘導体(A)、ポリマー(B)およびこれらを溶解するアルコール系溶媒(C)の3成分の比率を変化させた状態の観察による簡単な予備実験で作成可能な3成分相図に基づいて、相分離するか否かを判別することができる。
3成分相図の作成は、エーテル系セルロース誘導体(A)、ポリマー(B)およびアルコール系溶媒(C)を任意の割合で混合溶解させ、静置を行った際に、界面が生じるか否かの判定を少なくとも3点以上、好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の点で実施し、2相に分離する領域および1相になる領域を峻別することで、相分離状態になる条件を見極めることができるようになる。
この際、相分離状態であるかどうかを判定するためには、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)を、実際にエマルションを形成させる際の温度および圧力において、エーテル系セルロース誘導体(A)、ポリマー(B)およびアルコール系溶媒(C)を任意の比に調整し、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)を完全に溶解させた後に十分な攪拌を行い、3日静置し、巨視的に相分離をするかどうかを確認する。しかし、十分に安定なエマルションになる場合においては、3日放置しても巨視的な相分離をしない場合がある。その場合は、光学顕微鏡、あるいは位相差顕微鏡等を用い、微視的に相分離しているかどうかで相分離を判別する。
アルコール系溶媒(C)に対するエーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)の濃度は、アルコール系溶媒(C)に溶解する可能な限りの範囲内であることが前提であるが、全質量に対して好ましくは、それぞれその下限は1質量%超であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また、それぞれの上限は50質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
相分離して得られるエーテル系セルロース誘導体(A)溶液相とポリマー(B)溶液相の2相間の界面張力は、両相ともアルコール系溶媒(C)を主とするから、その界面張力が小さい。その性質により、生成するエマルションが安定であり、液滴径分布の非常に狭いエマルションが得られることから、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の真球度が高く、かつ粒子径分布が狭くなると考えられる。この傾向は、アルコール系溶媒(C)として単一溶媒を用いて、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)の両方を溶解して相分離させる際に顕著である。
相分離した2相間の界面張力は、界面張力が小さすぎることから、通常用いられる溶液に異種の溶液を加えて測定する懸滴法等では直接測定することはできないが、各相の空気との表面張力から推算することにより、界面張力を見積もることができる。各相の空気との表面張力をr1、r2とした際、その界面張力r1/2は、r1/2=r1−r2の絶対値で推算することができる。
この際、このr1/2の好ましい範囲は、その上限は10mN/m以下であり、より好ましくは5mN/m以下であり、さらに好ましくは3mN/m以下であり、特に好ましくは2mN/m以下である。また、その下限は0mN/m超である。
界面張力r1/2がこの範囲より大きくなると、得られる2相分離系を後述する工程によりエマルション化した際に、生成するエマルションの安定性が低下してしまい、液滴径分布の幅が広いエマルションが得られる。その結果、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の粒子径分布が広くなると考えられる。
相分離した2相の粘度比は、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の平均粒子径およびPDIに影響を与える。粘度比の好ましい範囲は、その下限としては0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、著しく好ましいのは0.8以上である。また粘度比の上限としては10以下が好ましく、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、著しく好ましくは1.2以下である。ここでいう2相の粘度比は、実際に実施しようとする温度条件下での、「エーテル系セルロース誘導体(A)溶液相の粘度」/「ポリマー(B)溶液相の粘度」と定義する。
2相の粘度比がこの範囲より大きかったり小さかったりすると、後述のエマルション化時に系に十分な剪断力をかけることが困難となり、均一な液滴のエマルションを形成しにくくなるため好ましくない。
以上のようにして得た相分離状態になる条件をもとに、相分離するポリマー溶液を調製し、それを混合してエマルションを形成させた後に、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を製造する工程に供する。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の製造方法では、通常の反応槽でポリマー溶液の調製、エマルションの形成、および微粒子化工程が実施される。
ポリマー溶液の調製工程では、相分離性を示す任意組成のエーテル系セルロース誘導体(A)、ポリマー(B)、およびアルコール系溶媒(C)を混合した後、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)をアルコール系溶媒(C)に完全に溶解させることで、相分離するポリマー溶液が得られる。本工程を実施する温度は、エーテル系セルロース誘導体(A)やポリマー(B)がアルコール系溶媒(C)に溶解する温度以上である。その好ましい温度はポリマーの種類によって変わるため一義的に決めることはできないが、工業的な実現性の観点から0℃〜300℃が好ましい。温度範囲の下限は、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)の溶解性の観点、および工業的な実現のしやすさから、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。また、温度範囲の上限は、エーテル系セルロール誘導体(A)やポリマー(B)の分解を抑える観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
ポリマー溶液の調製工程における圧力は、工業的な実現性の観点から、常圧から100気圧(10.1MPa)の範囲である。本工程時の温度におけるポリマー溶液の飽和蒸気圧によるが、好ましい上限としては75気圧(7.5MPa)以下であり、さらに好ましくは50気圧(5.0MPa)以下であり、特に好ましくは、30気圧(3.0MPa)以下である。この範囲以上の圧力で工業的に実施しようとすると、装置や配管の耐圧設計等が特殊で煩雑となるため好ましくない。
また、好ましい下限は、ポリマー溶液の沸騰や過度な蒸発を抑えるために、エマルション形成工程時の温度におけるポリマー溶液の飽和蒸気圧以上である。
また、ポリマー溶液の調製工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素が好ましく、より好ましくは、窒素またはアルゴンである。
上記工程で得られたポリマー溶液は攪拌混合され、エマルション形成が実施される。エマルション形成工程の温度は、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)がアルコール系溶媒(C)に溶解する温度以上であれば特に制限はないが、工業的な実現性の観点から0℃〜300℃が好ましい。温度範囲の下限は、エーテル系セルロース誘導体(A)やポリマー(B)とアルコール系溶媒(C)の種類によって適正な温度が変わるため、一義的に決めることはできないが、エーテル系セルロース誘導体(A)が析出する温度より高ければ特に制限はなく、前記ポリマー溶液の調製工程と同様に制御することができる。
また、エマルション形成工程の圧力および雰囲気も、前記ポリマー溶液の調製工程と同様に制御することができる。
エマルションを形成させるのに十分な剪断力を得るためには、公知の攪拌方法を用いることができる。例えば、攪拌羽による液相攪拌法、連続2軸混合機による攪拌法、ホモジナイザーによる混合法、超音波照射等を用いることができる。
攪拌羽による攪拌の場合、攪拌羽の形状にもよるが、攪拌速度は好ましくは50rpm〜1,200rpm、より好ましくは100rpm〜1,000rpm、さらに好ましくは200rpm〜800rpm、特に好ましくは300rpm〜600rpmである。
攪拌羽としては、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型、ヘリカルリボン型等が挙げられるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。また、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。
また、エマルションを形成するためには、必ずしも攪拌機である必要はなく、乳化機、分散機等の装置を用いてもよい。具体的に例示するならば、ホモジナイザー(IKAジャパン(株)社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業(株)社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー((株)荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業(株)社製)、コロイドミル((株)日本精機製作所社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(日本コークス工業(株)社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサー等が挙げられる。
このようにして得られたエマルションは、エーテル系セルロース誘導体(A)溶液相が分散相に、ポリマー(B)溶液相が連続相になる。本実施形態では、このようなエマルションを、引き続き微粒子を析出させる微粒子化工程に供する。具体的には、貧溶媒(D)を前記工程で形成したエマルションと接触させることで、エマルションの液滴径に応じた径で多孔質状のエーテル系セルロース誘導体微粒子が析出する。
貧溶媒(D)を接触させるときの反応槽内温度は、エーテル系セルロース誘導体(A)およびポリマー(B)がアルコール系溶媒(C)に溶解する温度以上であれば特に制限はないが、工業的な実現性の観点から0℃〜300℃が好ましい。温度範囲の下限は、エーテル系セルロース誘導体(A)やアルコール系溶媒(C)の種類によって適正な温度が変わるため、一義的に決めることはできないが、エーテル系セルロース誘導体(A)が析出する温度より高ければ特に制限はない。具体的に挙げるとすれば、温度範囲の下限は、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上である。また、温度範囲の上限は、貧溶媒(D)を接触させるときの槽内圧力において、貧溶媒(D)が沸点に達しない温度であることが好ましい。具体的に挙げるとすれば、好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
貧溶媒(D)とエマルションの接触方法は、貧溶媒(D)にエマルションを入れる方法でも良いし、エマルションに貧溶媒(D)を入れる方法でも良いが、エマルションに貧溶媒(D)を入れる方法がより好ましい。
この際、貧溶媒(D)を投入する方法としては、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が得られる限り特に制限はなく、連続滴下法、分割添加法および一括添加法のいずれでも良い。貧溶媒(D)添加時にエマルションが凝集、融着または合一し、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が異形化し、PDIが大きくなるのを防ぐために、好ましくは連続滴下法または分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは連続滴下法である。
貧溶媒(D)を加える時間としては、5分以上とすることが好ましく、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは30分以上である。また、上限としては、好ましくは50時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは5時間以下であり、特に好ましくは2時間以下である。この時間の範囲内で貧溶媒(D)の添加を行うことにより、エマルションから多孔質状のエーテル系セルロース誘導体微粒子を析出させる際に、粒子間の凝集を抑制することができ、真球度が高く、かつPDIが小さい微粒子を得ることができる。
貧溶媒(D)を加える時間を上記範囲より短くすると、貧溶媒(D)を加える量にもよるが、貧溶媒(D)の滴下速度が速くなるため、槽内で貧溶媒(D)を撹拌して混合する効率が低下してしまうため好ましくない。また、貧溶媒(D)を加える時間を上記範囲より長くすることは、タイムサイクルが長くなるため実用上好ましくない。
この範囲よりも短い時間で貧溶媒(D)の添加を実施すると、エマルションの凝集融着または合一に伴い、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の真球度が小さくなったり、PDIが大きくなったりする場合がある。また、これ以上長い時間で実施する場合は、工業的に不利である。
貧溶媒(D)を加える量は、ポリマー(B)の分子量、およびエーテル系セルロース誘導体(A)のアルコール系溶媒(C)への溶解度によってエマルションの状態が変化するため最適量は変化するが、エマルション100質量部に対して、通常10質量部から1000質量部であることが好ましい。より好ましい上限としては、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下であり、特に好ましくは、200質量部以下であり、最も好ましくは、150質量部以下である。また、好ましい下限は、10質量部以上、さらに好ましくは、50質量部以上である。
貧溶媒(D)とエマルションとの接触時間は、微粒子の析出が十分に完了する時間であればよいが、自己組織化により、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の多孔構造を十分に発達させるためには、貧溶媒(D)添加終了後5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは20分以上であり、最も好ましくは30分以上である。また、効率的な生産性を得るためには、上限としては、貧溶媒(D)添加終了後50時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは5時間以下であり、特に好ましくは4時間以下であり、最も好ましくは2時間以下である。
このようにして作られた多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の分散液は、ろ過、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ等の通常公知の方法で固液分離することにより、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を回収することができる。
固液分離した微粒子は、必要に応じて溶媒等で洗浄を行うことにより、付着または含有している不純物等の除去を行い、精製を行う。
その際に使用できる洗浄溶媒としては、不純物として残存している可能性の高いポリマー(B)およびアルコール系溶媒(C)の除去に寄与し、かつ得られた多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の多孔構造に影響を及ぼさない溶媒であることが好ましい。そのような溶媒としては、前記貧溶媒(D)を洗浄溶媒として使用することができる。
本製造方法で使用できるエーテル系セルロース誘導体(A)は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を製造できるのであれば特に制限はないが、結晶化度が2%以上のエーテル系セルロース誘導体(A)を使用することが好ましい。エーテル系セルロール誘導体(A)の結晶化度は、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上、著しく好ましくは4.5%以上、最も好ましくは5%以上である。そのようなエーテル性セルロース誘導体(A)を使用することで、結晶化度が1%以上の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を得ることができる。また、エーテル系セルロース誘導体(A)の結晶化度の上限としては、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に必要な溶解性に応じて適宜選択することが好ましいが、例示するならば、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましく、30%以下が特に好ましく、20%以下が著しく好ましく、15%以下が最も好ましい。エーテル系セルロース誘導体(A)の結晶化度を上記範囲とすることで、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の種々溶媒への溶解性が向上し、微粒子が広範な溶媒に溶解性を示すようになり、本発明の実施形態の微粒子を使用可能な用途の範囲を広げることができる。
エーテル系セルロース誘導体(A)の結晶化度は、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の結晶化度と同様に、粉末X線回折で測定した回折パターンから算出することができる。
本製造方法では、既述したエーテル系セルロース誘導体をエーテル系セルロース誘導体(A)として用いて、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を製造することができる。
本方法においては、粒子を得る際に行った固液分離工程で分離されたアルコール系溶媒(C)およびポリマー(B)を、再度利用するリサイクルが実施可能である。
固液分離工程で分離される溶媒は、ポリマー(B)、アルコール系溶媒(C)および貧溶媒(D)の混合物である。この溶媒から、貧溶媒(D)を除去することにより、エマルション形成用の溶媒として再利用することができる。貧溶媒(D)を除去する方法としては、公知の方法が使用可能である。具体的には、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離等が挙げられるが、好ましくは単蒸留、減圧蒸留または精密蒸留による方法である。
単蒸留、減圧蒸留等の蒸留操作を行う際は、系に熱がかかり、ポリマー(B)やアルコール系溶媒(C)の熱分解を促進する可能性があることから、極力酸素のない状態で行うことが好ましく、より好ましくは不活性雰囲気下で行う。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素雰囲気下で実施することが好ましい。また、蒸留操作を行う際に、酸化防止剤としてフェノール系化合物を添加しても良い。
溶媒等をリサイクルする際、貧溶媒(D)は極力除くことが好ましい。具体的には、貧溶媒(D)除去後の溶媒において、貧溶媒(D)の残存量がアルコール系溶媒(C)およびポリマー(B)の合計量に対して、20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、著しく好ましくは1質量%以下であると良い。この範囲よりも超える場合には、エマルション形成用の溶媒として再利用した際に、得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の真球度が低くなったり、PDIが大きくなったりするので好ましくない。リサイクルする溶媒中の貧溶媒(D)の量は、ガスクロマトグラフィー法、カールフィッシャー法等の公知の方法で測定できる。
貧溶媒(D)を除去する操作において、現実的にはアルコール系溶媒(C)やポリマー(B)も同時に失われることもあるので、回収した溶媒を再利用する際には、適宜、組成を調整し直すのが好ましい。
このように、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、粒子表面と内部にそれぞれ孔を有し、かつ粒子表面の開孔部から粒子内部へと目的物質を取り込み保持できるような表面細孔径を有していることから、目的物質を選択的に担持させるための担体や、媒体中の目的物質を選択的に吸着させるための吸着剤として好適に使用することができる。
加えて、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を構成するエーテル系セルロース誘導体は、他の合成ポリマーには見られない特異な溶解挙動を示すことから、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、例えば、媒体中の目的成分を微粒子に吸着させて選択的に回収した後、微粒子のみを選択的に溶解して目的成分を取り出す等、濃縮剤として使用することができる。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、前記目的物質もしくは目的成分として、生理活性のない有効成分を使用することができ、前記生理活性のない有効成分を微粒子の内部に取り込んだ後に、該生理活性のない有効成分を微粒子の内部から外部へと徐放させる、生理活性のない有効成分の徐放性基材として使用することができる。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、生理活性のない有効成分を微粒子の内部に取り込んだ後に、該生理活性のない有効成分を微粒子の内部から外部へと徐放させる基材として使用することができることから、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と生理活性のない有効成分とを含んだ複合微粒子とすることで、生理活性のない有効成分を徐放する性質を示す複合微粒子とすることができる。
前記複合微粒子は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と生理活性のない有効成分の2種を複合化していても良いし、その他の成分として賦形剤やバインダー等の添加剤を含んで複合化していても良い。
さらには、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、微粒子を粉体として実用的に取り扱うのに適した粒子径を有するため、種々の用途において担体、吸着剤、濃縮剤、生理活性のない有効成分徐放性基材として好適に利用することができる。
特に、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は吸油性に優れることから、環境中に漏洩したオイルの回収等に使用することができる。オイルを回収した後、エーテル系セルロース誘導体のみを選択的に溶解する溶媒で処理すれば、回収したオイルのみを選択的に取り出すことが可能である。また、エーテル系セルロース誘導体はカーボンニュートラルな材料なので、オイルを選択的に回収した本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を、固体燃料として使用するのも好適である。
本発明の実施形態における生理活性のない物質とは、人体に効果をおよぼす医療用に供される医薬品もしくは健康補助食品(サプリメント)に含まれる生理活性物質を除く物質であり、医薬品であれば薬理活性を示す物質、健康補助食品であれば身体の健康の保持増進機能を有する物質を除く物質である。また、ここでいう医薬品もしくは健康補助食品とは、将来的に医薬品として承認されることを目的として開発しているものならびに健康補助食品として販売することを目的として開発しているものも含まれる。
本発明の実施形態における生理活性のない有効成分とは、前記生理活性のない有効成分であれば特に制限はされない。生理活性のない有効成分を具体的に例示するならば、香料、甘味料、酸味料、酸化防止剤、保存料、殺菌料、着色料(色素、顔料、染料、インク、塗料)、農薬、肥料、虫や動物等の忌避剤もしくは誘引剤、防カビ剤、滅菌剤、殺菌剤、除菌剤、抗菌剤、防腐剤、消毒剤、消臭剤、潤滑油等が挙げられる。
例えば、甘味料としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、アスパルテーム、ソルビトール、ステビア等;酸味料としては、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、d−酒石酸、乳酸、dl−リンゴ酸等;酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、ルチン等;保存料としては、ペクチン分解物、安息香酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル類、ソルビン酸カリウム等;殺菌料としては、さらし粉、過酸化水素、次亜塩素酸等;着色料としては、赤キャベツ色素、ぶどう果皮色素、エルダベリー色素、カラメル、クチナシ色素、コーン色素、サフラン色素、カロチン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。
本発明の実施形態において、滅菌剤、殺菌剤、除菌剤、抗菌剤、防腐剤、消毒剤、防カビ剤を次のように定義する。滅菌剤とは、すべての微生物を死滅させ除去する作用を示すものを指す。ここで、すべての微生物を死滅させ除去するとは、例えば、微生物の存在する確率が100万分の1以下になる作用のことを指す。殺菌剤とは、その効果の程度にかかわらず、細菌やウイルス等の微生物を死滅させる作用を示す物質である。除菌剤とは、限られた空間内の微生物の数を減らす効果を持つ物質を指す。抗菌剤とは、細菌の増殖を阻止する作用を示す物質を指す。防腐剤とは、微生物の増殖を阻害あるいは阻止したり、微生物の付着を抑制する作用を示す物質を指す。消毒剤とは、物体や生体に付着した病原性微生物を、害のない程度まで減らしたり、感染力を失わせたりすること等により、その毒性を無くし感染を防止する作用を示す物質を指す。防カビ剤とは、カビの発生または増殖を阻害あるいは阻止する作用を示す物質を指す。
上記の殺菌剤、除菌剤、抗菌剤、防腐剤、消毒剤、防カビ剤の作用を示す物質としては、グルタールアルデヒド、グリオキザール、α−ブロムシンナムアルデヒド、ホルマリン等のアルデヒド系;エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール系;ヨードチンキ、ヨード化フェノール、ヨードホルム、ヨードホール、ポピドンヨード等のヨウ素化合物系;次亜塩素酸塩、二酸化塩素、1,3−ジクロル−5,5−ジメチルヒダントイン、p−トルエンスルフォクロルアミドソーダ塩、ポリクロルイソシアヌル酸塩等の塩素化合物系;過酸化水素、過炭酸ソーダ、過酸化ピロリン酸ソーダ、過酢酸等の過酸化物系;フェノール、リゾール、クレゾール、キシレノール、パラクロロメタキシレノール、ジフェニール化合物等のフェノール系;ホウ酸、安息香酸、サリチル酸、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、およびそれらの塩類等の酸類;トリクロロカルバアニリド、ハロカルバン、トリブロムサラン等のアミド化合物系;グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンピグアナイド等のピグアナイド系を挙げることができる。その他、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルベンゼトニウム等の4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ソーダ、アルキルジアミノエチルグリシン酸塩、ベタイン等の界面活性剤も挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。
特に、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、香料の徐放性基材として好適に使用することができる。本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に香料を担持させると、香料が徐々に放出され、経時的に残香性を示す香料剤として使用することができる。
香料としては、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に香料を担持させて得られる複合微粒子が徐香性を示すならば特に制限はないが、例えば、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、カーボネート類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、ニトリル類、カルボン酸類、ラクトン類、およびその他の天然精油や天然抽出物から選ばれるものを使用することができる。
前記香料を具体的に例示するならば、炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、シトロネロール、ゲラニオール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、1−(2−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール等が挙げられる。
フェノール類としては、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、バニリン等が挙げられる。
エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が挙げられる。ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート等;酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−(t−ブチル)シクロヘキシルアセテート、p−(t−ブチル)シクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート等;プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート等;酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート等;ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエート等;安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエート等;桂皮酸エステルとしては、メチルシンナメート、ベンジルシンナメート等;サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレート等;ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレート等;チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレート等;ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート等;グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデート等;アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレート等が挙げられる。
カーボネート類としては、メチル−シクロオクチルカーボネート(花王株式会社製、JASMACYCLAT(商品名))、エチル−2−(tert−ブチル)シクロヘキシルカーボネート(花王株式会社製、FLORAMAT(商品名))、メチル−3−シクロオクテニルカーボネート(インターナショナルフレーバー・アンド・フレグランス社製、VIOLIFF(商品名))、エチル−シクロオクチルカーボネート、メチル−トランスー3,3,5−トリメチルシクロヘキシルカーボネート、エチル−トランス−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルカーボネート、メチル−シス−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルカーボネート、メチル−1−エチニルシクロヘキシルカーボネート、メチル−2−(tert−ブチル)シクロヘキシルカーボネート、エチル−2−(tert−ブチル)シクロヘキシルカーボネート、メチル−4−(tert−ブチル)シクロヘキシルカーボネート、エチル−4−(tert−ブチル)シクロヘキシルカーボネート、メチル−4−シクロオクテニルカーボネート、エチル−4−シクロオクテニルカーボネート等が挙げられる。
アルデヒド類としては、n−オクタナール、n−デカナ−ル、n−ドデカナ−ル、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、2−シクロヘキシルプロパナール、p−(t−ブチル)−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
ケトン類としては、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3−メチル−2−(シス−2−ペンテン−1−イル)−2−シクロペンテン−1−オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、マルトール、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデカノン等が挙げられる。
アセタール類としては、ホルムアルデヒドシクロドデシルエチルアセタール、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタール等が挙げられる。
エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、デカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2.1−b]フラン等が挙げられる。
ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリル等が挙げられる。
カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリド等が挙げられる。
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等が挙げられる。
これら香料は1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。
また、本発明の実施形態では、前記目的物質もしくは目的成分として、生理活性を示す有効成分、すなわち生理活性物質を使用することができる。本発明の実施形態で得られる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と生理活性物質とを含んだ複合微粒子とすることで、生理活性物質を担持したり、目的に応じて担持させた生理活性物質を溶出したり徐放したりする性質を示す製剤用の複合微粒子(以下、単に製剤用粒子とも呼ぶ)を得ることができる。
本発明の実施形態において、製剤用粒子に用いる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子には、本発明の目的を損なわない範囲でエーテル系セルロース誘導体以外の成分が含まれていてもかまわない。その場合、エーテル系セルロース誘導体の含有量は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、著しく好ましくは95質量%以上である。ただし、実質的にエーテル系セルロース誘導体以外の成分を含まないことが好ましい。エーテル系セルロース誘導体の含有量の上限は100質量%である。
製剤用粒子に用いる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子中のエーテル系セルロース誘導体の含有量が100質量%未満である場合、エーテル系セルロース誘導体以外の成分として、一般的な医薬品添加剤(例えば、賦形剤、崩壊剤、防湿剤、安定化剤、結合剤、滑沢剤等)が含まれていてもよい。
本発明の実施形態における製剤用粒子とは、表面細孔と内部細孔とを有する本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に対して、後述する生理活性物質を担持させたものである。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子からなる製剤用粒子を用いることで、製剤を得ることができる。本発明の実施形態における製剤とは、固形製剤や液体製剤等の生理活性物質を含有する医薬品およびサプリメント(健康補助食品)に使用される全ての製剤が含まれる。固形製剤としては、粉末製剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、ドライシロップ、フイルム製剤、経鼻剤、経肺剤、注射用の凍結乾燥製剤、経皮投与用のバッチ剤等が挙げられる。液体製剤としては、懸濁剤、ローション剤、シロップ剤、軟膏剤、エアゾール剤、クリーム、ジェル、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、およびペースト等が挙げられる。
本発明の実施形態において粉末製剤とは、本発明の実施形態の製剤用粒子の粉末である。粉末製剤には、必要に応じて添加剤を加えることが可能で、製剤用粒子と添加剤を含んだ混合粉末とすることができる。
本発明の実施形態において、錠剤とは、経口投与する一定の形状の固形の製剤である。製剤用粒子を圧縮成形することで錠剤とすることができ、圧縮成形時に必要に応じて添加剤を加えることが可能である。錠剤に加えることができる添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤等が挙げられる。錠剤としては、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、分散錠が挙げられ、本発明の実施形態の製剤用粒子は、特に口腔内崩壊錠に好適に使用することができる。
本発明の実施形態において顆粒剤とは、製剤用粒子を粒状に造粒した製剤である。造粒の途中もしくは前後で添加剤を加えて混和することができ、そのような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤等が挙げられる。顆粒剤の平均粒子径を例示するならば、本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体微粒子の平均粒子径にもよるが、500〜1500μmである。前記顆粒剤のうち、18号(850μm)ふるいを全量通過し、30号(500μm)ふるいに残留するものが全量の10%以下のものを細粒剤と称する。細粒剤の平均粒子径を例示するならば、本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体微粒子の平均粒子径にもよるが、75〜500μmである。
本発明の実施形態において散剤とは、製剤用粒子を粉末状に造粒した製剤である。製剤用粒子と添加剤を混和して均質とした後に造粒することができ、そのような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤等が挙げられる。散剤は、18号(850μm)ふるいを全量通過し、30号(500μm)ふるいに残留するものが全量の5%以下の製剤である。散剤の平均粒子径を例示するならば、本発明の実施形態のエーテル系セルロース誘導体微粒子の平均粒子径にもよるが、10〜500μmである。
顆粒剤、細粒剤、散剤の平均粒子径は、前記多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の平均粒子径の算出方法と同様に、走査型電子顕微鏡で観察した画像から測長される粒子径の算術平均値から求めることができる。
本発明の実施形態において丸剤とは、製剤用粒子に添加剤を加えた後、球状に成形した製剤である。丸剤に加えることができる添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤等が挙げられる。
カプセル剤とは、上記の粉末製剤、顆粒剤、細粒剤、または散剤をそのままカプセルに充填するか、上記の粉末製剤、顆粒剤、細粒剤、または散剤を乳糖やマンニトール等と混合した後、カプセル基剤で被包成型したものである。カプセル基剤としては、例えばゼラチンが挙げられる。
また、固形製剤としては、胃液中に浮遊し長時間にわたり生理活性物質を放出する製剤も含まれる。浮遊させる固形製剤は、本発明の実施形態の製剤用粒子を慣用の方法に従って、顆粒や錠剤にしても良く、カプセルに充填したカプセル剤であってもよい。また、経鼻剤には、長時間にわたり生理活性物質を放出する経鼻剤も含まれる。経鼻剤としては、例えば噴霧薬または粉末噴霧剤の形態で用いることができる。
本発明の実施形態の製剤用粒子を用いて得られる製剤は、徐放性製剤とすることができる。徐放性製剤は、製剤からの生理活性物質の放出速度、放出時間、放出部位を調節した製剤である。徐放性製剤には、口腔内で生理活性物質の苦味を感じ難くするために、僅かに放出遅延した苦味マスキング製剤も含まれる。
本発明の実施形態の製剤に含有される生理活性物質は、人体に効果をおよぼす医療用に供される医薬品もしくは健康補助食品(サプリメント)に含まれる物質であり、医薬品であれば薬理活性を示す物質、健康補助食品であれば身体の健康の保持増進機能を有する物質である。また、ここでいう医薬品もしくは健康補助食品とは、将来的に医薬品として承認されることを目的として開発しているものならびに健康補助食品として販売することを目的として開発しているものも含まれる。
生理活性物質は目的に応じて適宜選択することができるが、例えば滋養強壮保健薬、漢方薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、抗アレルギー薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用剤、利胆剤、慢性動脈閉塞症治療薬、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮けい剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤、アルツハイマー病治療薬、止痒薬等からなる群から選ばれた1種または2種以上の成分が挙げられる。
上記の生理活性物質の中でも特に、製剤中に高含量を配合する必要がある生理活性物質、油状の生理活性物質、低融点の生理活性物質等は、常温で圧縮すると流動性不良やスティッキング現象(杵面への付着)等の打錠障害が生じやすい。このような生理活性物質は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と複合化して製剤用粒子とすることで、流動性を改善することができる。さらに、このような生理活性物質は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と複合化して微粒子に担持することで、打錠障害を改善することができる。
健康補助食品としては、例えばルテイン、葉酸、脂肪酸(例えばドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸等)、果実または野菜抽出物、ビタミンまたはミネラル補助食品、ホスファチジルセリン、リポ酸、メラトニン、グルコサミン、コンドロイチン、アロエベラ、グッグル、アミノ酸(例えばグルタミン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン等)、緑茶、リコピン、ホールフード、植物栄養素、酸化防止剤、果実のフラボノイド成分、月見草油、亜麻仁油、魚油または海洋動物油、プロバイオティクス等が挙げられる。
また、例えば苦味を有する生理活性物質、放出制御を必要とする生理活性物質は、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持することで、当該微粒子が多孔質であることを利用して、僅かな放出遅延による苦味マスキング、または放出を遅延させない苦味マスキングをすることができる。さらに、好ましい様態では、当該微粒子が球形であることを利用することで、生理活性物質を担持した製剤用粒子を核粒子として均一に徐放性の被膜を積層することが可能であり、利用価値が高い。
さらに、製剤用粒子に用いる本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、無機物により形成された多孔粒子と比較して低吸湿性である。一般的に高吸湿性の添加剤に接触した生理活性物質は、添加剤からの水分の移行により不安定化することが知られている。本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は水を担持し難いため、得られる製剤用粒子は、低安定性の生理活性物質を担持させた状態や、潮解性の生理活性物質を担持させた状態で、長期間に渡って安定に保管することが可能となる。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、好ましい様態では高い真球度を有するため、極めて流動性が高い。そのため、得られる製剤用粒子は、生理活性物質の流動性を改善するだけでなく、カプセル充填顆粒、打錠顆粒等の流動性を改善する目的で用いることができる。
さらに、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、エーテル系セルロース誘導体の含有量が好ましくは50質量%以上であるため、微粒子の表面エネルギーが小さくなり、疎水性や難溶性の生理活性物質を優位に担持することができる。疎水性や難溶性の生理活性物質を担持する方法としては、例えば、非晶質状態の生理活性物質を、エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持させる方法が挙げられる。また、高分子、界面活性剤、油、脂肪、ワックス、脂肪アルコールおよび脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1種において、分散状態または固溶体状態となっている生理活性物質を、エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持させる方法が挙げられる。これらの方法を用いることで、生理活性物質を担持した多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の溶解性が改善され、生物学的利用能を向上させることができる。
本発明の実施形態において油および脂肪とは、脂肪酸とグリセリンとのエステルであって、常温で液体のものを油、常温で固体のものを脂肪と称する。本発明の実施形態においてワックスとは、脂肪酸と一価または二価のアルコールとのエステルを指す。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に生理活性物質を担持させるとは、生理活性物質が少なくとも多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の孔内に吸着または付着している状態、および/または生理活性物質が多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を被覆している状態にすることを示す。このような生理活性物質を担持した多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を製造するにあたっては、生理活性物質の形態に制限はなく、生理活性物質を固体および/または液体として、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加することができる。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子からなる製剤用粒子において、生理活性物質は、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持された状態だけでなく、目的の溶出能や徐放能が得られる限り、生理活性物質が多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子から独立した状態で製剤用粒子中に含まれていてもよい。
生理活性物質を固体状態として多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法に限定はないが、例えば粉砕処理等した微細な生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子と混合する方法、水もしくはエタノール、メタノール等、またはこれらの混合溶液に懸濁した生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法、界面活性剤等を用いてミセル化した生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法等が挙げられる。
生理活性物質を液体状態として添加する方法に限定はないが、例えば生理活性物質の融点以上に加温した溶融体として多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法、水もしくはエタノール、メタノール等またはこれらの混合溶液に生理活性物質を溶解した溶液として多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法、さらに溶解補助剤として界面活性剤、塩基性物質、酸性物質等を用いて生理活性物質を溶解した溶液として多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加する方法、低融点物質に生理活性物質を加熱溶解した溶融液として多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に添加して混合する方法等が挙げられる。
その中でも、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔中に生理活性物質をより多量に担持させるためには、生理活性物質を懸濁液または溶液の状態で添加する方法や、前記懸濁液または溶液の表面張力を低下させてから添加する方法がより好ましい。具体的に例示するならば、生理活性物質をエタノ−ル等の有機溶媒もしくはエタノ−ル等の有機溶媒と水の混合溶液に溶解または懸濁して添加する方法、前記溶液または懸濁液に界面活性剤を加えて表面張力を減少させてから添加する方法が挙げられる。好ましい界面活性剤としては、ラウリル硫酸塩が挙げられる。
また、生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子により強く担持するために、添加する生理活性物質含有液に、水溶性高分子をさらに含有させることもできる。水溶性高分子としては、ゼラチンおよびアラビアガム等の天然高分子、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体ならびにポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコール等の合成高分子等が挙げられる。
生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持する装置としては、一般的に使用されている混合、造粒、コーティング装置を用いれば良い。例えば、混合機、押し出し造粒機、回転造粒機、流動層造粒機、撹拌造粒機、真空乳化装置、遠心機、減圧ろ過機、加圧ろ過機が挙げられる。多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔に生理活性物質を効率良く担持するためには、遠心力または加圧もしくは減圧を用いることが好ましい。また、簡便な担持方法としては、流動層造粒機または攪拌造粒機が、生理活性物質が細孔に担持された多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を得られやすいため好ましい。さらに、流動層造粒機を用いる場合、ワースター(登録商標)や接線スプレー装置の装着された顆粒コーティングタイプの流動層造粒機を用いることがさらに好ましい。
また、エーテル系セルロース誘導体の別の利点として、非イオン性の高分子であり、生理活性物質と化学的な相互作用が強くない点が挙げられる。そのため、本発明の実施形態により得られる製剤用粒子は、担持された生理活性物質を100質量%放出することが可能であり、一般的に用いられている無機多孔性物質に生理活性物質を担持させた場合にしばしば認められる不完全な溶出が生じない。
本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子からなる製剤用粒子には、徐放層を形成することが可能である。徐放層は、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持された生理活性物質の外表面に徐放先の媒体が浸入・接触するのを抑えて、製剤用粒子からの有効成分の放出を抑えるためのものである。すなわち、徐放層は、製剤用粒子からの生理活性物質の放出速度を緩やかにする機能を有する。徐放層を形成するためには、例えば、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔を徐放層で埋める方法および/または該微粒子の外表面に徐放層の被膜を積層する方法を用いることができる。徐放層は、生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持した後に形成してもよい。また、徐放層は、生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持させる際に、生理活性物質と徐放剤とを混合して、生理活性物質の担持と同時に形成してもよい。生理活性物質を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持させた後に徐放層を形成する場合には、生理活性物質と徐放層は接している必要はなく、間に隔離層を形成することもできる。
徐放層を構成する徐放剤は、高分子、界面活性剤、油、脂肪、ワックス、脂肪アルコールおよび脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
徐放層に使用される前記高分子としては、分子内に繰り返し単位構造を有する化合物であって、膨潤して微粒子上に徐放層を形成する水溶性高分子、あるいは、水不溶性の被膜を微粒子上に形成する有機高分子や無機高分子が挙げられる。ここで有機高分子とは、主として炭素骨格からなる繰り返し単位を有する化合物のことであり、無機高分子とは、主としてケイ素骨格からなる繰り返し単位を有する化合物のことである。
このうち好ましくは、水不溶性の有機高分子としては、アクリル系ポリマーおよび/またはエチルセルロースを用いることができ、水不溶性の無機高分子としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タルクを用いることができる。アクリル系ポリマーとしては、例えばアミノアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等が挙げられ、市販品としては、例えば、“オイドラギット(登録商標)”E、“オイドラギット(登録商標)”L、“オイドラギット(登録商標)”S、“オイドラギット(登録商標)”RL、“オイドラギット(登録商標)”RS、“オイドラギット(登録商標)”NE、“オイドラギット(登録商標)”FS等(それぞれエボニック株式会社製)が挙げられる。これら高分子は、粉末、溶液、懸濁液のいずれの形態で添加してもよい。
また、徐放層に使用される前記界面活性剤としては、分子内に親水基と親油基の双方を持つ構造を有する物質のうち、任意の低HLB(親水性−疎水性バランス)であるもの、例えばアルキルアリルポリエーテルアルコール、脂肪酸のショ糖エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン水添ヒマシ油、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、ラウリル硫酸塩、ステアリン酸塩、脂肪酸のソルビタンエステル、脂肪酸のポリエチレングリコールエステル、脂肪酸のポリオキシエチレングリセロールエステル、脂肪酸のグリセロールエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸のポリオキシエチレンソルビトールエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、アルキルアリルスルホン酸塩、ココナッツ脂肪酸ジエタノールアミド、または脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステルまたはこれらの混合物を使用することができる。特に、脂肪酸のショ糖エステルの使用が好ましい。
本発明の実施形態において油および脂肪とは、脂肪酸とグリセリンとのエステルであって、常温で液体のものを油、常温で固体のものを脂肪と称する。本発明の実施形態においてワックスとは、脂肪酸と一価または二価のアルコールとのエステルを指す。徐放層に使用される前記油、脂肪、ワックス、脂肪アルコールまたは脂肪酸としては、例えばアマニ油、キリ油、大豆油、ピーナッツ油、ゴマ油、パーム油、乳脂肪、菜種油、コーン油、カルナウバロウ、綿実油、エステル化コーン油、オレンジ油、アーモンド油、ベニバナ油脂肪酸、酢酸トコフェロール、カミツレ油、水添大豆油、ステアリン酸、ラウリン酸、ベニバナ油、硬質脂肪、ツバキ油、ヌカ油、ヒマシ油、ココナッツ油、オリーブ油、ワセリン、オクチルデシルトリグリセリド、カカオバター、中鎖脂肪酸トリグリセリド、スクアラン、オレイン酸、クローブ油、サラシミツロウ、麦芽油、ステアリルアルコール、シリコーン類、またはこれらの混合物を使用することができる。
さらに徐放層は、薬学上許容される水溶性物質を混合することにより放出時間を調整することができる。水溶性物質は、徐放層中で相溶することが好ましく、クエン酸トリエチル、トリアセチン、ポリエチレングリコ−ル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコ−ル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロ−スナトリウム等をその例として挙げることができる。特に好ましいのはポリエチレングリコ−ルであり、目的に応じて適切な分子量のものを選ぶことができる。徐放層に含有する水溶性物質の混合比は、特に限定されず目的に応じて適宜選ぶことができる。
多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面に徐放層を形成する操作には、一般的に使用されている混合、造粒、コーティング装置を用いれば良い。このような装置としては、例えば、回転造粒機、流動層造粒機、撹拌造粒機、真空乳化装置、遠心機、減圧ろ過機、加圧ろ過機が挙げられる。徐放層を多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔を埋める方法で形成する場合、好ましくは乳化装置、攪拌造粒機を使用することができる。また、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面に徐放層の被膜を積層する場合、好ましくは流動層造粒機、転動層造粒機を使用することがでる。これらの運転は一般的な条件を用いることができる。
多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面に徐放層の被膜を積層した微粒子(以下、単に、徐放被膜微粒子とも呼ぶ)とする場合、生理活性物質を担持した多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を湿式造粒装置中で転動させながら、徐放剤を含む溶液または懸濁液を連続的に噴霧と乾燥を繰り返し、徐放被膜微粒子とする。あるいは多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を湿式造粒機中で流動させながら、徐放剤を含む溶液または懸濁液中に生理活性物質を溶解あるいは懸濁させた液を連続的に噴霧と乾燥を繰り返し、徐放被膜微粒子とする。これらの順番は、生理活性物質の種類等に応じて適宜選ぶことができる。
なお、上記した説明では、生理活性物質を有効成分として含む製剤用粒子に徐放層を設ける構成について説明したが、生理活性を有しない物質を有効成分として含む複合微粒子においても、同様の徐放層を同様の方法により設けることができる。このような場合であっても、生理活性物質を有効成分として用いる場合と同様の効果が得られる。すなわち、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持された有効成分の外表面に徐放先の媒体が浸入・接触するのを抑えて、複合微粒子からの有効成分の放出速度を緩やかにすることができる。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の溶媒への溶解性を利用して、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面に徐放層の被膜を積層させることなく、該多孔質微粒子の表面を改質することで、製剤用粒子に徐放性を付与することも可能である。
具体的には、例えば、多孔質エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒中で、または多孔質エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒と多孔質エーテル系セルロース誘導体が不溶な溶媒との混合溶媒中で、生理活性物質を担持する工程を行なうことで、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面改質が起こり、該多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔に生理活性物質を内包した製剤用粒子を得る方法;多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に生理活性物質を担持する工程に引き続いて、多孔質エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒、または多孔質エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒と多孔質エーテル系セルロース誘導体が不溶な溶媒との混合溶媒を噴霧する工程を行うことで、該多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔に生理活性物質を内包した製剤用粒子を得る方法;多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に生理活性物質を担持する工程に引き続いて、多孔質エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒の蒸気を接触させる工程を行うことで、該多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の細孔に生理活性物質を内包した製剤用粒子を得る方法、が挙げられる。上記方法に使用する各溶媒の種類や、混合溶媒にするときの混合比率は、エーテル系セルロース誘導体の溶解性に応じて適宜選択して使用することができる。
さらに、上記方法で多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面を改質する際、各溶媒の種類や、混合溶媒にするときの混合比率を制御する方法や、各溶媒や混合溶媒との接触時間または接触量を制御する方法により、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面を改質する度合いを制御することができる。これにより、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持された生理活性物質の溶出速度を制御することができる。
エーテル系セルロース誘導体が可溶な溶媒とエーテル系セルロース誘導体が不溶な溶媒との混合比率を制御する方法としては、具体的には、混合溶媒中、可溶な溶媒の比率を10〜90体積%とすることが好ましく、20〜70体積%とすることがさらに好ましく、30〜50体積%とすることがさらにより好ましい。
本発明の実施形態に用いる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、好ましい様態において、賦形剤等の他の添加剤と混合した際に特に良好な流動性を示す。流動性が不良な場合、カプセル剤または錠剤化の際の充填工程において充填量が不均一となり、製剤均一性の低下に繋がる。本発明の実施形態の製剤用粒子は、高い真球度を有することで、良好な流動性を有し、良好な製剤均一性を示すだけでなく、機能性コーティングを付与する際に真球度の低い粒子を使用した場合発生する粒子同士の融着および/または付着を防ぐことで、二次粒子の生成および徐放層の積層の不均一化を防ぎ、効率良く機能性付与を行うことができる。
本発明の実施形態で得られる製剤が、錠剤または口腔内崩壊錠の場合、製剤用粒子に用いる多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子が圧縮後も破壊されず形状が維持されることが望ましい。本発明の実施形態の製剤用粒子は、エーテル系セルロース誘導体の含有量が50質量%以上である多孔質微粒子を用いることにより、一般的な無機多孔粒子と比較して、脆性破壊せず形状を維持することができるため好ましい。
本発明の実施形態の製剤には、必要に応じて薬学的に許容される糖または糖アルコール(例えば、D−マンニトール、乳糖、エリスリトール、トレハロース、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、ショ糖)、崩壊剤、無機賦形剤(例えば、無水リン酸水素カルシウム)、澱粉類、その他、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を含んでいても良い。このような添加剤として、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、流動化剤、矯味剤、香料、着色剤、甘味剤、界面活性剤等が挙げられる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、酒石酸カリウムナトリウム、軽質無水ケイ酸、カルナウバロウ、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、硬化油、硬化ナタネ油等が挙げられる。
結合剤としては、ゼラチン、プルラン、カラギーナン、キサンタンガム、タマリンドガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、アルファー化デンプン、デンプン糊等のデンプン類、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール等の合成高分子等が挙げられる。
流動化剤としてはタルク、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
崩壊剤としては、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
矯味剤としてはグルタミン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、メントール等が挙げられる。
香料としてはオレンジ、バニラ、ストロベリー、またはヨーグルト風味の香料、およびメントール等の他、前述のものが挙げられる。
着色剤としては酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、タルク、食用赤色3号、食用黄色5号、食用青色1号等の食用色素、リボフラビン等が挙げられる。
甘味剤としてはアスパルテーム、サッカリン、グリチルリチン酸二カリウム、ステビア等の他、前述の甘味料が挙げられる。
界面活性剤としては、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
また、本発明の実施形態の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子は、上記のような担体、吸着剤、濃縮剤、生理活性のない有効成分徐放性基材、または生理活性物質を含んだ製剤用粒子としての用途に限定されるものではなく、各種用途においても実用的に利用することが可能である。
具体的には、射出成形、微細加工等に代表される成形加工用材料;該材料を用いて得られる電子電気材料部品部材およびエレクトロニクス製品筐体パーツ部材;各種成形加工時の増粘剤および成形寸法安定化剤等の添加剤;分散液、塗液、塗料等の形態としての塗膜、コーティング用材料;粉体としての流動性改良剤、潤滑剤、研磨剤および増粘剤;プラスチックフイルムやシートの滑り性向上剤、ブロッキング防止剤、光沢調節剤およびツヤ消し仕上げ剤;プラスチックフイルム、シート、レンズの光拡散材、表面硬度向上剤および靭性向上剤等の各種改質剤;各種インク;トナーの光沢調節剤、ツヤ消し仕上げ材等の用途としての添加剤;各種塗料の光沢調節剤、ツヤ消し仕上げ材等の用途としての添加剤;液晶表示操作用スペーサー;クロマトグラフィー用充填剤;化粧品用添加剤;消臭剤;重油、オイル等の汚染物質の回収剤;ガス吸着剤等の用途に用いることができる。
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(平均表面細孔径の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子の平均表面細孔径を求めるために、走査型電子顕微鏡(FE−SEM;日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)を用いて、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の表面を10,000倍〜50,000倍で観察し、100個の表面細孔径の直径(粒子径)を測定した。その際、バラつきを反映した正確な平均表面細孔径を求めるために、1枚の画像に10個以上の表面細孔が写るような倍率と視野で観察し、2個以上の多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を対象にして、表面細孔径を測長した。続いて、下記式により100個の表面細孔径につき、その算術平均を求めることで平均表面細孔径を算出した。なお、画像上で表面細孔が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を細孔径として測定した。また、細孔同士が連なって不規則な形状になっている場合は、連結した孔の最長径を細孔径として計測した。
(式中、Piは表面細孔個々の細孔径を表わし、Pは平均表面細孔径を表わす。nは測定数を表わし、以下に説明する各実施例等では、n=100とした。)
(アマニ油吸油量の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子のアマニ油吸油量は、日本工業規格(JIS)K5101−13−1に記載の方法に準拠して測定した。
(水銀圧入法による細孔容積の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子の細孔容積および細孔モード径を求める際には、水銀ポロシメータ(Micrometrics社製AutoPoreIV9510)を用いて、0.1gの試料をガラスセルに封入し、以下の条件で測定を行ない、積算細孔径分布曲線と微分細孔径分布曲線とを得た。得られた積算細孔径分布曲線をもとに、平均粒子径付近または平均粒子径以上の領域にあらわれる粒子間隙由来の容積を除く、細孔由来の容積の積算値を求めて、細孔容積とした。また、得られた微分細孔径分布曲線をもとに、平均粒子径付近ではなく、平均表面細孔径付近にあらわれるピークの中で最も高いピークのピークトップが示す細孔径を、細孔モード径とした。
<測定条件>
細孔径測定範囲:0.004〜400μm
水銀接触角:141degrees
水銀表面張力:484dynes/cm
(平均表面細孔間距離の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子の平均表面細孔間距離は、平均細孔径を測長するのに用いたFE−SEM画像中で、無作為に選択した30個の表面細孔について、各細孔に最も近い隣接細孔までの距離を測長した値の算術平均値である。具体的には、下記の式に従い算出した。
(式中、Liは任意の細孔とその最隣接細孔までの最短距離を表わし、Lは平均表面細孔間距離を表わす。nは測定数を表わし、以下に説明する各実施例等では、n=30とした。)
(平均粒子径の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子の平均粒子径を求めるために、FE−SEMを用いて、多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子を100〜500倍で観察し、100個の微粒子についてその直径(粒子径)を測定した。その際、粒子径のバラつきを反映した正確な平均粒子径を求めるために、1枚の画像に2個以上100個未満の微粒子が写るような倍率と視野で観察し、粒子径を測長した。続いて、下記式により100個の微粒子の粒子径につき、その算術平均を求めることで平均粒子径を算出した。なお、画像上で微粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を粒子径として測定した。また、微粒子が不規則に寄せ集まった凝集体を形成している場合は、凝集体を形成する最小単位の微粒子の直径を、粒子径として測定した。ただし、前記凝集体が複数の微粒子同士が融着したもので、微粒子間の境界が定かでない場合は、融着体の最大径を粒子径として測定した。
(式中、Diは微粒子個々の粒子径を表わし、Dは平均粒子径を表わす。nは測定数を表わし、以下に説明する各実施例等では、n=100とした。)
(真球度の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子の真球度は、平均粒子径を求めるために用いたFE−SEM画像中で、無作為に選択した微粒子30個の真球度の算術平均値であり、下記式に従い算出した。真球度は、個々の微粒子の長径(最大径)と、長径の中心において長径と垂直に交わる短径の比であり、下記式に従い算出した。
(式中、Smは平均真球度(%)を表わし、Siは微粒子個々の真球度を表わし、aiは微粒子個々の短径を表わし、biは微粒子個々の長径を表わす。nは測定数を表わし、以下に説明する各実施例等では、n=30とした。)
(粒子径分布指数PDIの測定)
多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の粒子径分布指数PDIは、平均粒子径の算出時に行った個々の微粒子の粒子径の測長結果を用いて、次の式により算出した。
(式中、Diは粒子個々の粒子径を表わし、PDIは粒子径分布指数を表わす。nは測定数を表わし、以下に説明する各実施例等では、n=100とした。)
(かさ密度の測定)
以下に説明する各実施例等の微粒子のかさ密度は、微粒子4.00gを精秤し(このときの微粒子の質量をWとする)、続いて精秤した質量W(g)の微粒子を50mLメスシリンダー(最小目盛1mL)、25mLメスシリンダー(最小目盛0.5mL)、または10mLメスシリンダー(最小目盛0.2mL)に静かに入れた後、粉体層の容量∨を目視で測定し、下記式にて算出した。
(式中、Wは微粒子の質量であり、∨はメスシリンダーで測定した粉体層の容量である。)
(結晶化度の測定)
エーテル系セルロース誘導体と多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子の結晶化度を求めるために、粉末X線回折装置(株式会社リガク製RINT2100)で、X線にCuKαを用いて、X線の回折角度を5〜70°とし、2°/minの速度で走査し、サンプリング幅を0.02°としてX線回折パターンを測定した。その後、回折パターンを波形分離することで結晶部分と非晶部分とに分けた後、結晶化度=(結晶部分からの散乱強度)/(全散乱強度)×100を算出した。
(香料を含有する複合微粒子の芳香性の経時変化評価)
香料を含有する複合微粒子について、任意量の複合微粒子をシャーレに採取し、それを35℃のホットプレートに乗せ、複合微粒子の芳香性の経時変化を5人のパネラーの官能評価により次のとおり点数付けして評価した(5:きつく匂う、4:良く匂う、3:適度に匂う、2:微かに匂う、1:ほとんど匂わない)。
[実施例1]
200mLセパラブルフラスコに、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)47mPa・s、結晶化度2.0%)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(株式会社日本触媒製、K−85N、重量平均分子量1,100,000)5質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)90質量部を入れた。これらの原料を、攪拌羽の回転数300rpmで撹拌しながら70℃まで15分かけて昇温した後、70℃で保持したまま回転数300rpmで2時間撹拌を行なった。続いて、300rpmで撹拌しながら、貧溶媒(D)としてイオン交換水200質量部を、送液ポンプを経由して、1.7質量部/minの速度で滴下し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を減圧濾過で固液分離し、イオン交換水100質量部で洗浄し、瀘別した固形物を50℃で真空乾燥することで、エチルセルロース微粒子を得た。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は0.68μm、平均表面細孔間距離は0.49μm(平均表面細孔径の0.72倍)、アマニ油吸油量は151mL/100g、平均粒子径は44.7μm、真球度は94.4%、PDIは1.32、かさ密度は0.28g/mL、微粒子の結晶化度は3.8%であった。
[実施例2]
原料を、実施例1に対して以下のように変更した。すなわち、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)45mPa・s、結晶化度13%)9質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(和光純薬工業株式会社製、K−30、重量平均分子量50,000)8質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)83質量部、貧溶媒(D)としてイオン交換水140質量部を用いた。送液ポンプを経由して貧溶媒(D)を滴下する際の速度を、2.8質量部/minの速度とした以外は、実施例1と同様の操作で微粒子化を行なった。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は1.4μm、平均表面細孔間距離は1.2μm(平均表面細孔径の0.86倍)、アマニ油吸油量は102mL/100g、平均粒子径は213μm、真球度は91.9%、PDIは1.13、かさ密度は0.38g/mL、微粒子の結晶化度は3.1%であった。
[実施例3]
原料を、実施例1に対して以下のように変更した。すなわち、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)45mPa・s、結晶化度13%)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(和光純薬工業株式会社製、K−30、重量平均分子量50,000)10質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)85質量部、貧溶媒(D)としてイオン交換水140質量部を用いた。送液ポンプを経由して貧溶媒(D)を滴下する際の速度を、2.8質量部/minの速度とした以外は、実施例1と同様の操作で微粒子化を行なった。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は0.79μm、平均表面細孔間距離は0.75μm(平均表面細孔径の0.95倍)、アマニ油吸油量は100mL/100g、平均粒子径は122μm、真球度は99.0%、PDIは1.19、かさ密度は0.46g/mL、微粒子の結晶化度は2.9%であった。
[実施例4]
原料を、実施例1に対して以下のように変更した。すなわち、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−T50、エトキシ基含有率50.3質量%(エトキシ基置換度2.64)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)41mPa・s、結晶化度18%)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(株式会社日本触媒製、K−85N、重量平均分子量1,100,000)5質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)90質量部を用いた。実施例4では、実施例1と同様の操作で微粒子化を行なった。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は0.47μm、平均表面細孔間距離は0.16μm(平均表面細孔径の0.34倍)、アマニ油吸油量は466mL/100g、平均粒子径は55.4μm、真球度は78.5%、PDIは1.31、かさ密度は0.11g/mL、微粒子の結晶化度は4.2%であった。
[実施例5]
原料を、実施例1に対して以下のように変更した。すなわち、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)47mPa・s、結晶化度2.0%)7質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(和光純薬工業株式会社製、K−30、重量平均分子量50,000)10質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)83質量部、貧溶媒(D)としてイオン交換水140質量部を用いた。送液ポンプを経由して貧溶媒(D)を滴下する際の速度を、1.0質量部/minの速度とした以外は、実施例1と同様の操作で微粒子化を行なった。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は1.3μm、平均表面細孔間距離は1.5μm(平均表面細孔径の1.2倍)、アマニ油吸油量は73mL/100g、平均粒子径は152μm、真球度は75.9%、PDIは3.10、かさ密度は0.41g/mL、微粒子の結晶化度は1.7%であった。
[実施例6]
10Lオートクレーブに、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)45mPa・s、結晶化度13%)7質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(和光純薬工業株式会社製、K−30、重量平均分子量50,000)10質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)83質量部を入れた。これらの原料を、攪拌羽の回転数170rpmで撹拌しながら70℃まで60分かけて昇温した後、70℃で保持したまま回転数170rpmで2時間撹拌を行なった。続いて、170rpmで撹拌しながら、貧溶媒(D)としてイオン交換水125質量部を、送液ポンプを経由して、2.8質量部/minの速度で滴下し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を減圧濾過で固液分離し、イオン交換水100質量部で洗浄し、瀘別した固形物を50℃で真空乾燥し、エチルセルロース微粒子を得た。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEM(倍率600倍)で観察すると、表面多孔であった。平均表面細孔径は0.63μm、平均表面細孔間距離は0.57μm(平均表面細孔径の0.90倍)、アマニ油吸油量は103mL/100g、平均粒子径は101μm、真球度は98.7%、PDIは1.10、かさ密度は0.39g/mL、微粒子の結晶化度は3.0%であった。水銀圧入法により算出される細孔容積は0.41cm3/g、細孔モード径は0.65μm(平均表面細孔径の1.01倍)であった。得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで600倍の倍率で観察した画像を図3に示す。
[比較例1]
原料を、実施例1に対して以下のように変更した。すなわち、エーテル系セルロース誘導体(A)としてエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−K50、エトキシ基含有率45.8質量%(エトキシ基置換度2.29)、粘度(80質量%トルエン/20質量%エタノール溶液、エチルセルロース濃度5質量%、25℃)42mPa・s)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルピロリドン(株式会社日本触媒製、K−85N、重量平均分子量1,100,000)5質量部、アルコール系溶媒(C)としてエタノール(甘糟化学産業株式会社製、1級)90質量部を用いた。比較例1では、実施例1と同様の操作で微粒子化を行なった。
なお、比較例1で使用した‘Aqualon(登録商標)’EC−K50の結晶化度を粉末X線回折で評価したところ、エチルセルロースの結晶部に起因するメインピークが検出されず、非晶性のポリマーであることが分かった。
得られたエチルセルロース微粒子をFE−SEMで観察すると、微粒子表面に細孔は見られず、微粒子表面が平滑な孔の無いエチルセルロース微粒子(無孔エチルセルロース微粒子)であった。得られたエチルセルロース微粒子のアマニ油吸油量は32mL/100g、平均粒子径は31.2μm、水銀圧入法により算出される細孔容積は0.015cm3/gであった。また、得られたエチルセルロース微粒子のX線回折パターンは、原料として用いたエチルセルロースのX線回折パターンと同様に、エチルセルロースの結晶部に起因するピークを持たず、微粒子は非晶質であった。
実施例1〜6および比較例1についての各測定結果を、以下の表1に示す。
[比較例2]
実施例2、3、および6に使用した原料エチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm、エトキシ基含有率49.0質量%(エトキシ基置換度2.54)の粉末の細孔容積を水銀圧入法で測定した。算出された細孔容積は0.02cm3/gであり、原料エチルセルロースの粉末は多孔質構造ではなかった。
[実施例7]
実施例1で得た多孔質エチルセルロース微粒子のシリコーンオイル回収剤としての利用を検討した。シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製、SRX310)5mLが浮かんでいる水中に、実施例1の多孔質エチルセルロース微粒子を5g加えたところ、実施例1の多孔質エチルセルロース微粒子が水に浮遊したシリコーンオイル滴に選択的に集まる様子が確認された。その後、水中に浮かんでいる多孔質セルロース微粒子を回収したところ、水中に浮かんでいたシリコーンオイル滴がなくなっていた。続いて、回収した多孔質エチルセルロース微粒子を50gのエタノールに加え、50℃で攪拌したところ、多孔質エチルセルロースがエタノールに溶解し、エタノール中にシリコーンオイル滴が沈んでいるのが確認された。多孔質エチルセルロースが水中のオイル滴を選択的に回収することを確認し、かつオイル吸油多孔質エチルセルロース微粒子からオイル滴を回収できることが示された。
[実施例8]
バニリン(和光純薬工業株式会社製)45質量部をイオン交換水2955質量部に40℃で溶解し、3000質量部の1.5質量%バニリン水溶液を得た。続いて、桐山ロート(有限会社桐山製作所製)にセットした桐山ロート用濾紙No.5C(φ21mm)(有限会社桐山製作所製)の上に、実施例6で得た多孔質エチルセルロース微粒子100質量部を採取し、吸引濾過しながら1.5質量%バニリン水溶液3000質量部を桐山ロートに注いだ。バニリン水溶液の吸引濾過後、濾紙上の微粒子を50℃で真空乾燥し、バニリンの芳香を示す白色微粒子の粉体を得た。得られた微粒子の粉体をFE−SEMで500倍、1500倍および3000倍の倍率で観察すると、微粒子の表面は多孔形状であった。また、微粒子の外表面に粗大なバニリン結晶が担持されている様子はなく、また粗大なバニリン結晶が単独で微粒子と混在している様子もなく、多孔質エチルセルロース微粒子の細孔内にバニリンが含有された複合微粒子が得られたことを確認した。
[比較例3]
実施例6で得た多孔質エチルセルロース微粒子の代わりに、比較例1の無孔エチルセルロース微粒子を使用した以外は、実施例8と同様のバニリン担持操作を行ない、バニリンの芳香を示す白色微粒子の粉体を得た。得られた微粒子の粉体をFE−SEMで500倍、2000倍および5000倍で観察すると、微粒子の表面にバニリンの粗結晶が付着している様子が見られ、バニリンとエチルセルロース微粒子が混在した粉体であることを確認した。
[試験例1;実施例8、比較例3で得た粒子による徐放性評価]
実施例8で得たバニリンおよび多孔質エチルセルロースの複合微粒子と、比較例3で得たバニリンおよび無孔エチルセルロースの混合粉体とを、同質量だけ別々のシャーレに採取し、35℃のホットプレートに乗せ、各サンプルの芳香性の経時変化を5人のパネラーの官能評価によって点数付け評価した。5人のパネラーの官能評価によって点数付けされた芳香強さについて、平均点の経時変化を図2に示した。実施例8で得たバニリンおよび多孔質エチルセルロースの複合微粒子は、比較例3で得たバニリンおよび無孔エチルセルロースの混合粉体に比べて、優れた香料徐放性を示した。
[試験例2;水蒸気吸着等温線の測定]
実施例6で得た多孔質エチルセルロース微粒子、多孔質ケイ酸カルシウム(富田製薬株式会社製、“フローライト(登録商標)”R)、シリカゲル(GRACE株式会社製、“SYLOID(登録商標)”3150)の各々について、水蒸気吸着等温線を下記条件にて測定した。
装置 :VTI−SA+(TA−Instruments株式会社製)
乾燥温度 :60℃
測定温度 :25℃
最大平衡時間:60分
平衡基準 :0.01重量%/5分
RHステップ:5〜95%RH(5%RH毎)
結果を図4に示す。図4に示されるように、実施例6の微粒子は、既存の無機多孔粒子と比較して低吸湿性であった。このことから、実施例6の微粒子は、外的水分に不安定な生理活性物質を安定に保管することが可能であることが確認された。
[試験例3;粒子強度の測定]
実施例6で得た多孔質エチルセルロース微粒子とシリカゲルの粒子強度を、下記の方法で評価した。微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製MCT−210)を用いて、微粒子に荷重を加えたときの荷重−圧縮率曲線を導出し、得られた荷重−圧縮率曲線に基づいて、荷重に対する強度を評価した。具体的には、微小圧縮試験機の圧盤上に微粒子を配置し、その中から無作為に選んだ微粒子について直径Dを測定した後、ダイヤモンド製の直径50μmの圧子で、圧縮速度13.3240mN/secの条件で100mNまで荷重を加えたときの微粒子の変位Lを測定した。得られた変位Lを用いて、横軸に微粒子の圧縮率C(%;C=L/D×100)、縦軸に荷重F(mN)とした荷重−圧縮率曲線を作図し、その曲線の形に基づいて、微粒子が荷重に追随して変位を示すか、または荷重を受けて脆性破壊するかを評価した。なお、各々の微粒子について、荷重の変更を伴う上記測定は計6回実施し、各測定について荷重−圧縮率曲線を作図し、微粒子の荷重に対する強度を評価した。
結果を図5および図6に示す。図5は、シリカゲル粒子に関する結果を示し、図6は、実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子に関する結果を示す。なお、図5および図6では、6回実施した各測定による荷重−圧縮率曲線をまとめて示している。図5に示されるように、既存の無機多孔粒子であるシリカゲルは脆性破壊するのに対して、図6に示されるように、実施例6の微粒子は圧縮応力に対して弾性的であった。以上より、実施例6の微粒子を用いて有効成分を含む複合微粒子を製造する場合、あるいはこのような複合微粒子を含む製剤を製造する場合には、製造工程において粒子が破損し難いことが確認された。そのため、上記複合微粒子の錠剤化に際しても、多孔質エチルセルロース微粒子が有する徐放溶出プロファイルを維持することが可能であると考えられる。
[試験例4;真球度の測定]
実施例6において原料エチルセルロースとして使用した、多孔を有しない粒子形状であるエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)の粉末、実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子、シリカゲル(GRACE株式会社製、“SYLOID(登録商標)”3150)、および多孔質ケイ酸カルシウム(富田製薬株式会社製、“フローライト(登録商標)”R)のそれぞれの真球度を測定した。
表2に示されるように、実施例6の微粒子の真球度は極めて高いことが示された。
[試験例5;生理活性物質との相互作用]
キニーネ塩酸塩2水和物(和光純薬工業株式会社製、1級)20mgを、200mLメスフラスコを用いてイオン交換水で希釈し、0.1mg/mLキニーネ塩酸塩2水和物水溶液を得た。チアミン塩酸塩(アクロスオーガニクス株式会社製)20mgを、200mLメスフラスコを用いてイオン交換水で溶解し、0.1mg/mLチアミン塩酸塩水溶液を得た。上記2種類の生理活性物質の水溶液5mLを、それぞれ10mLガラス管に移して原液とした。各々の原液に、実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子、またはシリカゲル(GRACE株式会社製、“SYLOID(登録商標)”3150)を0.5g添加して、ボルテックスミキサー(ヤマト科学株式会社製、MT−31)を用いて1分間攪拌し、その後一晩静置した。静置後の各溶液を0.45μmフィルターでろ過してHPLCサンプルとした。
<HPLC条件>
移動相A : 20mMリン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=95/5(v/v)
移動相B : 20mMリン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=40/60(v/v)
カラム : “Capcellpak(登録商標)” MGII(株式会社資生堂製、3.0×150mm)
カラム温度 : 40℃
検出波長 : 280nm
注入量 : 10μL
グラジエント: 0分 ・・・移動相A:100%
10分・・・移動相A:100%
25分・・・移動相B:100%
30分・・・移動相A:100%
HPLCの結果として得られた、溶液中の生理活性物質の残存率を、表3に示す。なお、残存率(%)は、以下の式より算出した。
表3に示されるように、シリカゲルを用いた場合には、溶液中の生理活性物質濃度が大きく低下して、残存率が30%以下であった。そのため、シリカゲルは、生理活性物質であるキニーネ塩酸塩2水和物およびチアミン塩酸塩との相互作用が比較的強いと考えられる。これに対して、実施例6の微粒子を用いた場合には、生理活性物質濃度の低下が抑えられ、残存率が85%以上であった。そのため、実施例6の微粒子は、生理活性物質との相互作用が弱いことが示された。
[試験例6;アマニ油吸油量]
実施例6の微粒子、または結晶セルロース(旭化成株式会社製、“セルフィア(登録商標)”CP102)と、アマニ油(関東化学株式会社製)とを、ヘラを用いて少しずつ混ぜた。ペーストが滑らかな硬さになったときのアマニ油吸油量(試料100g当たりの消費したアマニ油の容量)を算出した。
表4に示されるように、既存の結晶セルロース核粒子と比較して、実施例6の微粒子はアマニ油吸油量が大きかった。したがって、実施例6の微粒子は、生理活性物質を、より多量に担持することが可能であると考えられる。
[実施例9]
サリチル酸ナトリウム(関東化学株式会社製、特級)25gを、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水で溶解し、0.5g/mLサリチル酸ナトリウム水溶液を得た。実施例6の微粒子10gを濾紙上に移し、上記0.5g/mLサリチル酸ナトリウム水溶液18mLを加えて吸引ろ過した。上記0.5g/mLサリチル酸ナトリウム水溶液18mLを再度加えて吸引濾過し、濾紙上の固形物を真空乾燥機で50℃4時間乾燥して、多孔質エチルセルロース微粒子にサリチル酸ナトリウムを担持した製剤用粒子を得た。
図7には実施例9の製剤用粒子のFE−SEM画像(倍率700倍)を示す。700倍、1500倍および3000倍でのFE−SEM観察から、サリチル酸ナトリウムの粗結晶が微粒子とは別に単独で混在している様子は観察されず、微粒子の細孔内および表面にサリチル酸ナトリウムが担持されていることが確認された。
[比較例4]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、市販品のエチルセルロース粒子(Dow Chemical株式会社製、“ETHOCEL(登録商標)”100プレミアム)を用いたこと以外は、実施例9と同様の方法でサリチル酸ナトリウムを担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例5]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、市販品のエチルセルロース粒子(Dow Chemical株式会社製、“ETHOCEL(登録商標)”10プレミアム)を用いたこと以外は、実施例9と同様の方法でサリチル酸ナトリウムを担持したエチルセルロース粒子を得た。
[試験例7;粒子の流動性の測定]
粒子の流動性を評価するため、原料であるエチルセルロース(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)、実施例6の微粒子、シリカゲル(“SYLOID(登録商標)”3150)、多孔質ケイ酸カルシウム(富田製薬株式会社製、“フローライト(登録商標)”R)の安息角を測定した。各サンプルをパウダテスタ(ホソカワミクロン株式会社製、PT−N型)を用いて測定用テーブル上に堆積させ、円錐状に形成された堆積物の水平面に対する側面の角度をそれぞれの安息角として測定した。また、同様にして実施例9の製剤用粒子ならびに比較例4および5のエチルセルロース粒子についてもそれぞれの安息角を測定した。
表5の結果から、実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子は、多孔を有しないエチルセルロース粒子および既存の無機多孔粒子と比較して安息角が小さく、流動性が極めて良好であることが示された。また、表6の結果から、実施例9の生理活性物質を担持した製剤用粒子も高い流動性を有していることから、生理活性物質を含む製剤の連続製造に適した粒子であることが示された。
[実施例10]
イオン交換水100mLとエタノール100mLとを混合し、50体積%エタノール水溶液を得た。サリチル酸(関東化学株式会社製、1級)230mgを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、23mg/mLサリチル酸溶液を得た。実施例6の微粒子30mgを限外ろ過膜(日本ポール株式会社、“ナノセップ(登録商標)”100K)に充填し、上記サリチル酸溶液500μLを添加して遠心機(エッペンドルフ株式会社製、冷却遠心機5417R)を用いて遠心ろ過(10600G、5分間)した。フィルター上の固形物を真空乾燥機で25℃16時間乾燥して、多孔質エチルセルロース微粒子にサリチル酸を担持した製剤用粒子を得た。
[実施例11]
テオフィリン(関東化学株式会社製、特級)70mgを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、7mg/mLテオフィリン溶液を得た。実施例10と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にテオフィリンを担持した製剤用粒子を得た。
[実施例12]
キニーネ塩酸塩2水和物(和光純薬株式会社製、1級)2.2gを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、220mg/mLキニーネ塩酸塩2水和物溶液を得た。実施例10と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にキニーネ塩酸塩2水和物を担持した製剤用粒子を得た。
[実施例13]
チアミン塩酸塩(アクロスオーガニクス株式会社製)480mgを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、48mg/mLチアミン塩酸塩溶液を得た。実施例10と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にチアミン塩酸塩を担持した製剤用粒子を得た。
[実施例14]
アセトアミノフェン(関東化学株式会社製)200mgを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、20mg/mLアセトアミノフェン溶液を得た。実施例10と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にアセトアミノフェンを担持した製剤用粒子を得た。
[実施例15]
イブプロフェン(アクロスオーガニクス株式会社製)50mgを、10mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、5mg/mLイブプロフェン溶液を得た。実施例10と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にイブプロフェンを担持した製剤用粒子を得た。
[比較例6]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例10と同様の方法で、サリチル酸を担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例7]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例11と同様の方法で、テオフィリンを担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例8]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例12と同様の方法で、キニーネ塩酸塩2水和物を担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例9]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例13と同様の方法で、チアミン塩酸塩を担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例10]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例14と同様の方法で、アセトアミノフェンを担持したエチルセルロース粒子を得た。
[比較例11]
実施例6の微粒子の代わりに、多孔を有しない粒子形状である、原料のエチルセルロース粉末(Ashland社製、‘Aqualon(登録商標)’EC−N50Pharm)を用いたこと以外は実施例15と同様の方法で、イブプロフェンを担持したエチルセルロース粒子を得た。
[試験例8;担持量の比較]
生理活性物質を担持させた実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子(実施例10〜15)と、同生理活性物質を担持させた原料エチルセルロース粉末(比較例6〜11)について、各生理活性物質の担持量をHPLCで測定した。同一の生理活性物質を担持させた実施例と比較例の各微粒子について、下記の式に基づいて、生理活性物質の担持量比を算出した。
なお、HPLC測定は次のように行なった。各実施例および比較例の微粒子を25mg秤量し、50mLメスフラスコにいれた。5mLエタノールを添加して完全に溶解した後、イオン交換水を加えて希釈し、0.45μmフィルターでろ過してHPLCサンプルとし、試験例5と同一の条件で測定した。
表7に示されるように、すべての生理活性物質で担持量比は1を超えており、多孔質構造が生理活性物質の担持に有効であることが示された。
[実施例16]
イオン交換水100mLとエタノール100mLとを混合し、50体積%エタノール水溶液を得た。無水カフェイン(関東化学株式会社製、1級)1gを、50mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で溶解し、20mg/mL無水カフェイン溶液を得た。実施例6の微粒子10gを濾紙上に移し、20mg/mL無水カフェイン溶液を加えて吸引ろ過し、濾紙上の固形物を真空乾燥機で50℃4時間乾燥した。得られた乾燥物をFE−SEMで500倍の倍率で観察したところ、微粒子表面等において、カフェインの粗結晶が混在する様子はなく、実施例6の微粒子と同様の外観を有する微粒子であった。得られた微粒子について、試験例8と同様の操作でHPLCサンプルを調製し、以下の条件で微粒子に担持された無水カフェインを定量した。
<HPLC条件>
移動相 : 20mMリン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=90/10(v/v)
カラム : L−Column2 ODS(化学物質評価研究機構製;3.0mmφ×250mm)
カラム温度: 40℃
検出波長 : 264nm
得られた無水カフェインの担持量を用いて、以下の式で無水カフェインの担持率(%)を算出すると0.3%であった。これにより、多孔質エチルセルロース微粒子に無水カフェインを担持した製剤用粒子が得られたことを確認した。
[実施例17]
(乳鉢(攪拌造粒法)による生理活性物質の微粒子への担持例)
サリチル酸ナトリウム5gを、10mLメスフラスコを用いてイオン交換水で希釈し、0.5g/mLサリチル酸ナトリウム水溶液を得た。実施例6の微粒子1gを乳鉢に移し、0.5g/mLサリチル酸ナトリウム水溶液を少量ずつ0.7g添加して混合し、得られた微粒子を真空乾燥機で50℃1時間乾燥した。得られた乾燥物をFE−SEMで500倍の倍率で観察したところ、微粒子表面等において、サリチル酸ナトリウムの粗結晶が混在する様子はなく、実施例6の微粒子と同様の外観を有する微粒子であった。得られた微粒子について、試験例8と同様の操作でHPLCサンプルを調製し、微粒子に担持されたサリチル酸ナトリウムを実施例16のHPLC条件で定量した。上記式から算出した担持率は28%であり、多孔質エチルセルロース微粒子にサリチル酸ナトリウムを担持した製剤用粒子が得られたことを確認した。
[実施例18]
(流動層造粒法による生理活性物質の微粒子への担持例)
サリチル酸ナトリウム2.5g、ラウリル硫酸ナトリウム(日光ケミカルズ株式会社製)0.1gをイオン交換水100gに溶解した。微少量流動層コーティング装置(株式会社ダルトン製)に実施例6の多孔質微粒子を10g仕込み、吸気温度75℃、噴霧液速度0.3g/分、排気温度33℃付近の条件で上記のサリチル酸ナトリウムおよびラウリル硫酸ナトリウム水溶液を噴霧した。得られた乾燥物をFE−SEMで500倍の倍率で観察したところ、微粒表面上等において、サリチル酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムの粗結晶が混在する様子はなく、実施例6の微粒子と同様の外観を有する微粒子であった。得られた微粒子について、試験例8と同様の操作でHPLCサンプルを調製し、実施例16の条件で微粒子に担持されたサリチル酸ナトリウムを定量した。上記式から算出した担持率は12%であり、多孔質エチルセルロース微粒子にサリチル酸ナトリウムを担持した製剤用粒子が得られたことを確認した。
[実施例19]
(製剤用粒子の表面に徐放層の被膜を積層した例)
腸溶性のメタクリル酸コポリマー(エボニック株式会社製、“オイドラギット(登録商標)”L30D−55)を43.5質量部、ポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製、PEG−6000)を2.6質量部、クエン酸トリエチル(Pfizer株式会社製、“シトロフレックス(登録商標)”2)を1.7質量部、および蒸留水152質量部を混合して徐放剤懸濁液を調製した。微少量流動層コーティング装置(株式会社ダルトン製)に実施例9の製剤用粒子10gを仕込み、徐放剤懸濁液を吸気温度28℃、噴霧液速度0.1g/分、排気温度26℃付近の条件で噴霧した。なお、流動状態を確認しながら適時タルク(松村産業株式会社製、クラウンタルク局方PP)を粉末添加した。実施例9の製剤用粒子に対して70%被覆した時点で回収し、40℃相対湿度75%RHで16時間成膜した。これにより、実施例9の製剤用粒子に対し放出制御層でコーティングした、徐放層を有する製剤用粒子を得た。
図8に示される実施例19の製剤用粒子のFE−SEM観察(倍率600倍)から、表面は平滑であり、徐放層の被膜が積層していることが確認された。
[実施例20]
(製剤用粒子の表面に改質を行った例)
実施例16の製剤用粒子250mgとタルク50mgを混合し、ガラスバイアルに移し、上部をガーゼで覆った。25mLスクリューバイアルに対して、エタノール5mL添加して、さらに、エタノールと接触しないように上記ガラスバイアルを入れて、密栓した。スクリューバイアルを55℃48時間静置した。これにより、実施例16の製剤用粒子に対しエタノール蒸気により表面を改質した、表面に改質を行った製剤用粒子を得た。
[実施例21]
(製剤用粒子の表面に改質を行った例)
実施例12の製剤用粒子110mgとタルク40mgを混合し、ガラスバイアルに移し、上部をガーゼで覆った。25mLスクリューバイアルに対して、エタノール5mLを添加して、さらに、エタノールと接触しないように上記ガラスバイアルを入れて、密栓した。スクリューバイアルを60℃1時間静置した。これにより、実施例12の製剤用粒子に対しエタノール蒸気により表面を改質することで、苦味マスキングを行った製剤用粒子を得た。
[実施例22]
(製剤用粒子の細孔を疎水性物質で埋める方法で徐放層を形成した例)
ラウリン酸(本油脂株式会社製、NAA−122)70質量部とポリエチレングリコール(PEG−6000)30質量部を加熱溶融した。実施例9の製剤用粒子1gを乳鉢に移し、溶融液0.5gを加熱しながら混合した。得られた粒子を目開き355μmの篩で篩過し、疎水性物質の混合を行った。これにより、実施例9の製剤用粒子に対し徐放層で被覆した、徐放層を有する製剤用粒子を得た。
[実施例23]
(錠剤の製造例)
実施例9の製剤用粒子50質量部、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製株式会社製、HPC−L FP)50質量部を混合し、IR打錠機(理研精機株式会社製)を用いて圧力24kN/cm2で打錠し、全重量100mg、直径6mmの平面形状の錠剤を作製した。得られた錠剤の錠剤硬度をロードセル式錠剤硬度計(岡田精工株式会社製、ポータブルチェッカーPC−30)を用いて測定したところ、3回の測定値の平均値は112Nであり、実用硬度を取り扱い上十分な硬度を有していた。
[実施例24]
(口腔内崩壊錠の製造例)
実施例20の表面に改質を行った製剤用粒子50質量部と、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製、“セオラス(登録商標)”KG−1000、旭化成株式会社製)10質量部、マンニトール(ロケットジャパン株式会社製、“ペアリトール(登録商標)”200SD)40質量部、クロスポビドン(BASF株式会社製、“Kollidon(登録商標)”CL)9質量部、フマル酸ステアリルナトリウム(株式会社日生化学工業所製)1質量部を混合して、IR打錠機を用いて圧力15kN/cm2で打錠し、全重量110mg、直径7mmの平面形状の錠剤を作製した。得られた錠剤の錠剤硬度をロードセル式錠剤硬度計(岡田精工株式会社製、ポータブルチェッカーPC−30)を用いて測定したところ、3回の測定値の平均値は45Nであった。また、口腔内崩壊時間として、水を服用せずに錠剤を口に含み噛まずに錠剤が口腔内で崩壊する時間を測定したところ、3回の測定値の平均値は10秒であり、口腔内崩壊錠として十分な特性を示した。
[試験例9;溶出試験]
実施例16、19、20、23および24、ならびに無水カフェインの粒子の溶出試験を、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により、以下の条件にて実施した。
試験液:0.1%Tween80を含有した蒸留水
0.1%Tween80を含有した人工胃液(JP1液)
0.1%Tween80を含有した人工腸液(JP2液)
パドル回転数:50rpm
サンプリングした溶液をそのままHPLCサンプルとした。
<HPLC条件>
移動相 : 20mMリン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=90/10(v/v)
カラム : L−Column2 ODS(化学物質評価研究機構製;3.0mmφ×250mm)
カラム温度: 40℃
検出波長 : 264nm
HPLCの結果から、下記の式で生理活性物質の溶出率(%)を算出した。なお、式中の「生理活性物質を100%溶出したときのHPLCピーク面積値」は、試験例8の手法と同様の操作で、各微粒子をエタノールに完全に溶解した後、イオン交換水を加えて希釈し、0.45μmフィルターでろ過した溶液を上記条件で測定することで得た。
図9は、実施例19の徐放層を有する製剤用粒子を溶出試験にかけた結果を示す。図9に示すように、腸溶性の徐放層の被膜を積層した多孔質エチルセルロース微粒子は、人工胃液(JP1液)中では生理活性物質の溶出が顕著に抑制され、人工腸液(JP2液)中では生理活性物質が速やかに放出されることを表わす所望される溶出率を示した。
図10は、実施例23の錠剤を溶出試験にかけた結果を示す。図10に示すように、多孔質エチルセルロース微粒子を含有する錠剤からの生理活性物質の溶出は、徐放性を持つことが示された。
図11は、無水カフェインを担持した実施例16の製剤用粒子、実施例20の製剤用粒子、実施例24の口腔内崩壊錠、および無水カフェイン(関東化学株式会社製、1級)の粒子を溶出試験にかけた結果を示す。図11に示すように、各粒子および口腔内崩壊錠からの生理活性物質の溶出は、無水カフェインそのままの粒子と比較して徐放性を示した。さらに、実施例16の製剤用粒子からは、100%生理活性物質を放出することが可能であることが示された。また、実施例16の製剤用粒子を表面改質して得られた実施例20の製剤用粒子は、実施例16の製剤用粒子と比較してより放出速度が遅延し、徐放性を付与可能であることが示された。さらに、実施例20の製剤用粒子を通常の打錠圧で圧縮して得られた、実施例24の口腔内崩壊錠は、実施例20の製剤用粒子と同様の溶出率を示し、圧縮圧に対して安定な徐放性製剤が得られることが示された。
[試験例10;苦味のマスキング効果]
比較例8のキニーネ塩酸塩2水和物を担持したエチルセルロース粒子、ならびに、キニーネ塩酸塩2水和物を担持した実施例12および21の製剤用粒子の風味をテストした。健康な3名の試験者が各粒子を1分間口に含み感じた苦味を下記のスコアで評価した。3名のスコアを平均して得られた苦味の平均スコアを表8に示す。表8から分かるように、実施例12および21の製剤用粒子は、比較例8に比べて苦みのマスキング効果が優れていることが示された。
<苦みのマスキングスコア>
1.全く苦味を感じない
2.ほとんど苦味を感じない
3.少し苦味を感じる
4.強い苦みを感じる
5.激しい苦みを感じる
[試験例11;エマルションの選択的担持に関する溶出試験]
α―トコフェロール1.5gをエタノール18.5gにて溶解させた。ここから2mLを採取し、水2mLを加えスターラーにて撹拌しエマルション試液1とした。遠心分離機用限外ろ過膜(ポール社製、“NANOSEP 100K OMEGA(登録商標)”)の膜上に実施例6の微粒子約44mgを静置し、ここにエマルション試液1を400μL加え、遠心分離した。ろ液をアセトニトリル/メタノール=6/4(v/v)混合液で10倍希釈し、HPLCサンプルとした。
<HPLC条件>
移動相 : アセトニトリル/メタノール=6/4(v/v)
カラム : YMC−Pack Pro C18(株式会社ワイエムシィ製;4.6mmφ×250mm)
カラム温度 : 35℃
検出波長 : 210nm
HPLCサンプルをHPLCに流した結果得られたピークから、α―トコフェロールの実施例6の多孔質微粒子への吸着率(%)を、以下の式より算出した。
結果として得られたα―トコフェロールの実施例6の微粒子への吸着率は99.8%であり、ろ液中のα―トコフェロールの大部分が実施例6の微粒子へ吸着され、微粒子に担持されていることが示された。
[実施例25]
イオン交換水100mLとエタノール100mLとを混合し、50体積%エタノール水溶液を得た。ベラプロストナトリウム20mgを、5mLメスフラスコを用いて50体積%エタノール水溶液で希釈し、4mg/mLベラプロストナトリウム溶液を得た。実施例6の微粒子3.2gを乳鉢に移し、4g/mLベラプロストナトリウム溶液を少量ずつ1mL添加し混合した。得られた微粒子を真空乾燥機で50℃2時間乾燥し、多孔質エチルセルロース微粒子にベラプロストナトリウムを担持した製剤用粒子を得た。さらに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク0.8gを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[実施例26]
実施例25で用いた溶媒を、50体積%エタノール水溶液から40体積%エタノール水溶液に変えたこと以外は、実施例26と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にベラプロストナトリウムを担持した製剤用粒子を得た。さらに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク0.8gを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[実施例27]
実施例25で用いた溶媒を、50体積%エタノール水溶液から30体積%エタノール水溶液に変えたこと以外は、実施例26と同様の方法で、多孔質エチルセルロース微粒子にベラプロストナトリウムを担持した製剤用粒子を得た。さらに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク0.8gを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[比較例12]
実施例6の多孔質エチルセルロース微粒子のかわりに、結晶セルロース(旭化成株式会社製、“セルフィア(登録商標)”CP102)を用いたこと以外は、実施例25と同様の方法で、ベラプロストナトリウムを担持した結晶セルロースを得た。さらに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク0.8gを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[比較例13]
実施例6のエチルセルロース粒子のかわりに、結晶セルロース(旭化成株式会社製、“セルフィア(登録商標)”CP102)を用いたこと以外は、実施例26と同様の方法で、ベラプロストナトリウムを担持した結晶セルロースを得た。さらに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク0.8gを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[試験例12;ベラプロストナトリウムの溶出試験]
実施例25〜27、ならびに比較例12および13の溶出試験を以下の条件にて実施した。
試験液:0.1%Tween80を含有した蒸留水
パドル回転数:50rpm
サンプリングした溶液に等量のメタノールを混合して、HPLCサンプルとした。
<HPLC条件>
移動相 : 酢酸/蒸留水/メタノール=1/350/650(v/v)
カラム : YMC−Pack ODS−AM(株式会社ワイエムシィ製;3.0mmφ×150mm)
カラム温度: 40℃
検出波長 : 励起波長285nm、蛍光波長614nm
図12は、実施例25〜実施例27の製剤用粒子とタルクの物理混合物、ならびに、比較例12および比較例13の結晶セルロースとタルクの物理混合物を、ベラプロストナトリウムの溶出試験にかけた結果を示す。図12から、エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持させる生理活性物質としてベラプロストナトリウムを用いる場合であっても、好ましい徐放性を得られることが示された。
また、生理活性物質をエーテル系セルロース誘導体微粒子に担持する際の溶媒を選択することで、製剤用粒子の徐放性を調整することが可能であることが示された。具体的には、生理活性物質を担持させる際の溶媒として50体積%エタノール水溶液を使用した実施例25の溶出速度に対して、40体積%エタノール水溶液を使用した実施例26、さらに30体積%エタノール水溶液を使用した実施例27を比較すると、エーテル系セルロース誘導体微粒子が可溶な溶媒であるエタノールの比率が下がるにしたがって、生理活性物質の溶出速度が速やかになった。したがって、担持溶媒の濃度を変更することを含めて、担持溶媒を選択することで、徐放性を調整することが可能であることが示された。また、さらに、比較例12および比較例13の結晶セルロース粒子は、エタノールに対しても水に対しても不溶であるため、担持溶媒によらず徐放性を示さず、速やかな放出が示された。
[実施例28〜30]
実施例25で得られた物理混合物2gを、ガラスバイアルに移し、上部をガーゼで覆った。スクリューバイアルに対して、エタノール5mLを添加して、さらに、エタノールと接触しないように上記ガラスバイアルを入れて、密栓した。スクリューバイアルを60℃で静置し、エタノール蒸気による表面を改質した時間を30分間、1時間、2時間と変化させた製剤用粒子を得た。なお、表面を改質した時間が30分間のものを実施例28、表面を改質した時間が1時間のものを実施例29、表面を改質した時間が2時間のものを実施例30とする。
[試験例13;表面改質後の溶出試験]
実施例25および実施例28〜30の溶出試験を、試験例12と同一の条件で行なった。
実施例25の製剤用粒子とタルクの物理混合物、ならびに、表面を改質した時間を変更した製剤用粒子とタルクの物理混合物(実施例28〜30)を、それぞれ溶出試験にかけた結果を図13に示す。実施例28〜30の製剤用粒子は、表面改質の時間に依存して放出速度が遅延し、徐放性の制御が可能であることが示された。
[実施例31]
α―トコフェロール1.5gをエタノール18.5gにて溶解させた。ここから2mLを採取し、水2mLを加えスターラーにて撹拌し、エマルション試液1とした。実施例6の微粒子を約1.2g、乳鉢に移し、1mLのエマルション試液1と混合した。混合物を真空乾燥機で室温下2時間乾燥し、多孔質エチルセルロース微粒子にα―トコフェロールを約3%担持した製剤用粒子を得た。
[実施例32]
実施例31で得られた製剤用粒子約320mgに、製剤用粒子間の付着防止のためタルク約80mgを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。この混合物をガラスバイアルに移し、上部をガーゼで覆った。スクリューバイアルに対して、エタノール5mLを添加して、さらに、エタノールと接触しないように上記ガラスバイアルを入れて、密栓した。このスクリューバイアルを60℃で2時間静置し、実施例31の製剤用粒子に対して、表面に改質を行った製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[実施例33]
α―トコフェロール約3gをエタノール6mLにて溶解させた。ここから1mLを採取し、水1mLを加えスターラーにて激しく撹拌し、エマルション試液2とした。実施例6の微粒子を約1.2g、乳鉢に移し、1mLのエマルション試液2と混合した。混合物を真空乾燥機で室温下2時間乾燥し、多孔質エチルセルロース微粒子にα―トコフェロールを約10%担持した製剤用粒子を得た。
[実施例34]
実施例33で得られた製剤用粒子約320mgに、粒子間の付着防止のためタルク約80mgを混合し、製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。この混合物をガラスバイアルに移し、上部をガーゼで覆った。スクリューバイアルに対して、エタノール5mL添加して、さらに、エタノールと接触しないように上記ガラスバイアルを入れて、密栓した。このスクリューバイアルを60℃で2時間静置し、実施例33の製剤用粒子に対して、表面に改質を行った製剤用粒子とタルクの物理混合物を得た。
[試験例14;α―トコフェロールの溶出試験]
実施例31〜34の溶出試験を以下の条件にて実施した。
試験液:1%Tween80を含有した人工腸液(JP2液)
パドル回転数:50rpm
<HPLC条件>
サンプリングした溶液を試験例9と同一の条件で測定した。
図14は、実施例31の製剤用粒子、実施例32の製剤用粒子とタルクの物理混合物、実施例33の製剤用粒子、および、実施例34の表面に改質を行った製剤用粒子とタルクの物理混合物を、α―トコフェロールの溶出試験にかけた結果を示す。図14から、α―トコフェロールを多孔質エーテル系セルロース誘導体微粒子に担持した場合、微粒子からα―トコフェロールが経時的に溶出され好ましい徐放性を得られることが示された。また、表面に改質を行うことによって、更に溶出速度が低下し、48時間においても薬物溶出率が20%以下に抑制されており、製剤用粒子の徐放性能が向上することが示された。