JPWO2016006102A1 - 円弧歯形を用いて形成した連続接触歯形を有する波動歯車装置 - Google Patents

円弧歯形を用いて形成した連続接触歯形を有する波動歯車装置 Download PDF

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Abstract

波動歯車装置では、その軸直角断面において、剛性の内歯車の外歯(24)における歯末歯形の主要部を、その歯山中心線上に中心をおく半円(26)を用いて規定する。外歯車の外歯(34)の歯末歯形の主要部を、外歯(34)の内歯(24)に対するラック近似による移動軌跡Maにおける所定範囲の曲線部分Ma(A,B)に対して、半円(26)の半径r1に等しい距離にある平行曲線(38)を用いて規定する。外歯(34)と内歯(24)の間で、歯末歯形同士の連続的で広範囲のかみ合いを実現でき、波動歯車装置のトルク容量を高めることができる。

Description

本発明は、波動歯車装置における剛性の内歯車および可撓性の外歯車の歯形の改良に関する。詳しくは、両歯車が歯筋方向の各軸直角断面において連続的にかみ合うように、円弧歯形を用いて形成した連続接触歯形を有するフラット型の波動歯車装置に関する。また、本発明は、両歯車が歯筋方向の各軸直角断面において連続的にかみ合い、かつ、歯筋方向の全体に亘って連続的にかみ合うように、円弧歯形を用いて形成した3次元の連続接触歯形を有するカップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置に関する。
一般に、波動歯車装置は、剛性の内歯車と、この内側に同軸に配置された可撓性の外歯車と、この内側に嵌めた波動発生器とを有している。フラット型の波動歯車装置は、可撓性の円筒体の外周面に外歯が形成された外歯車を備えている。カップ型およびシルクハット型の波動歯車装置の可撓性の外歯車は、可撓性の円筒状胴部と、この円筒状胴部の後端から半径方向に延びているダイヤフラムと、円筒状胴部の前端開口側の外周面部分に形成した外歯とを備えている。典型的な波動歯車装置では、円形の可撓性の外歯車が波動発生器によって楕円状に撓められ、楕円状に撓められた可撓性の外歯車における長軸方向の両端部が剛性の内歯車にかみ合う。
波動歯車装置は、創始者C.W.Musser氏の発明(特許文献1)以来、今日まで同氏を始め、本発明者を含め多くの研究者によって本装置の各種の発明考案がなされている。その歯形に関する発明に限っても、各種のものがある。本発明者は、特許文献2において基本歯形をインボリュート歯形とすることを提案し、特許文献3、4において、剛性内歯車と可撓性外歯車の歯のかみ合いをラックで近似する手法を用いて広域接触を行う両歯車の歯末歯形を導く歯形設計法を提案している。
一方、カップ型、シルクハット型の波動歯車装置において、楕円状に撓められた可撓性の外歯車の歯部は、その歯筋方向に沿って、ダイヤフラムの側から前端開口に向けて、ダイヤフラムからの距離にほぼ比例して、半径方向への撓み量が変化する。また、波動発生器の回転に伴って、可撓性の外歯車の歯部の各部分は、半径方向の外方および内方への撓みを繰り返す。このような波動発生器による外歯車の撓み動作(コーニング)を考慮した合理的な歯形の設定法については、これまで十分には考慮されてこなかった。
本発明者は、特許文献5において、歯のコーニングを考慮した連続的なかみ合いを可能にした歯形を備えた波動歯車装置を提案している。当該特許文献5において提案している波動歯車装置では、その可撓性の外歯車の歯筋方向の任意の軸直角断面を主断面と定め、主断面における外歯車の楕円状リム中立線における長軸位置において、その撓み前のリム中立円に対する撓み量2κmn(κは撓み係数、mはモジュール、nは正の整数)が、2mn(κ=1)の無偏位状態に撓むように設定している。
また、外歯車および内歯車のかみ合いをラックかみ合いで近似し、外歯車の歯筋方向における主断面を含む各位置の軸直角断面において、波動発生器の回転に伴う外歯車の歯の内歯車の歯に対する各移動軌跡を求め、主断面において得られる無偏位移動軌跡における頂部の点から次の底部の点に至る曲線部分を利用して、内歯車および外歯車の歯末の基本歯形を設定している。
これに加えて、主断面よりもダイヤフラム側における負偏位状態(撓み係数κ<1)に撓む各軸直角断面において得られる各負偏位側移動軌跡、および、主断面よりも前端開口側における正偏位状態(撓み係数κ>1)に撓む各軸直角断面において得られる各正偏位側移動軌跡の双方が、主断面における無偏位移動軌跡のそれぞれ底部および頂部で接する曲線を描くように、外歯車の歯形において、主断面を挟み、それらの歯筋方向の両側の歯形部分に転位を施している。
このように歯形が形成されている波動歯車装置では、両歯車の主断面における外歯と内歯の歯末歯形同士の広範囲に亘る連続的なかみ合いだけでなく、歯筋方向の全範囲において、外歯と内歯の歯末歯形同士の有効なかみ合いを実現できる。よって、従来の狭い歯筋範囲でかみ合う波動歯車装置に比べて、より多くのトルクを伝達することができる。
米国特許第2906143号明細書 特公昭45−41171号公報 特開昭63−115943号公報 特開昭64−79448号公報 国際公開第2010/070712号
現在、波動歯車装置の負荷トルク性能の向上を望む市場の強い要求がある。これを達成するには、フラット型の波動歯車装置においては、外歯車の歯底リム応力を軽減でき、外歯と内歯の歯末歯形同士の広範囲に亘る連続的なかみ合いを実現できる合理的な歯の形状が必要である。また、カップ型、シルクハット型の波動歯車装置においては、外歯車の歯底リム応力を軽減でき、外歯と内歯の歯末歯形同士の広範囲に亘る連続的なかみ合いを実現でき、かつ、外歯の歯筋に沿っての撓み量の変化に伴うコーニングを考慮して歯筋方向においても連続的なかみ合いを可能にする合理的な歯の形状が必要である。
本発明の課題は、外歯車の歯底リム応力を軽減でき、かつ、広範囲の連続的なかみ合いを実現できる連続接触歯形を有する波動歯車装置を提供することにある。
また、本発明の課題は、外歯車の歯底リム応力を軽減でき、所定の軸直角断面における広範囲の連続的なかみ合い、および、歯筋に沿った方向における連続的なかみ合いを実現できる3次元連続接触歯形を有する波動歯車装置を提供することにある。
本発明の波動歯車装置では、その外歯車の軸直角断面上において、剛性の内歯車の歯末歯形を、その歯山中心線上に中心をおく半円における、圧力角が所定の値以上の円弧部分と、この円弧部分の端点に接続した直線(当該端点に引いた接線)とによって規定している。また、外歯車の歯末歯形を、外歯の内歯に対する移動軌跡における頂部の点から底部の点に亘る範囲の曲線部分の平行曲線であって、当該曲線部分に対して、前記半円の円弧半径に等しい距離にある平行曲線によって規定している。さらに、内歯車の歯元歯形は外歯車の歯末歯形と干渉しないように、逃げを与えた形状としてある。
本発明によれば、両歯車の歯末歯形同士の連続的なかみ合いを実現できる。また、内歯車と外歯車が、楕円状に撓められた外歯車の長軸上の位置でかみ合わないようすることができるので、外歯車の長軸上の位置において、楕円状変形の応力と、歯面荷重による応力とが重畳して、大きな応力が外歯車の歯底リムに生じることが回避される。よって、波動歯車装置の伝達トルク容量を高めることができる。
次に、本発明のカップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置では、可撓性の外歯車の開口端部の軸直角断面(主断面)において、剛性の内歯車の歯末歯形を、その歯山中心線上に中心をおく半円における、圧力角が所定の値以上の円弧部分と、当該円弧部分の端点に接続した直線(当該端点に引いた接線)とによって規定している。また、主断面における外歯車の歯末歯形を、外歯の内歯に対する移動軌跡における頂部の点から底部の点に亘る範囲の曲線部分の平行曲線であって、当該曲線部分に対して、半円の円弧半径に等しい距離にある平行曲線によって規定している。さらに、内歯車の歯元歯形は外歯車の歯末歯形と干渉しないように、逃げを与えた形状としてある。これに加えて、外歯の歯筋方向における主断面以外の各軸直角断面において、外歯の内歯に対する移動軌跡が主断面における外歯の移動軌跡に対して底部で接するように、主断面以外の外歯の部分に転位を施してある。
本発明によれば、主断面上において、歯末歯形同士の連続的で広範囲のかみ合いを実現できる。また、内歯車と外歯車が、楕円状に撓められた外歯車の長軸上の位置でかみ合わないようすることができるので、外歯車の長軸上の位置において、楕円状変形の応力と、歯面荷重による応力とが重畳して、大きな応力が外歯車の歯底リムに生じることが回避される。これに加えて、外歯の歯筋に沿っての撓み量の変化に伴うコーニングの影響を考慮して、外歯には歯筋方向の各位置において転位が施されている。これにより、歯筋方向においても両歯の連続的なかみ合いが実現され、歯幅全体に歯面荷重が分散する。この結果、波動歯車装置の伝達トルク容量の向上を実現できる。
本発明を適用した波動歯車装置の一例を示す概略正面図である。 カップ形状およびシルクハット形状の可撓性外歯車の撓み状況を示す説明図であり、(a)は変形前の状態を示し、(b)は楕円形に変形した可撓性外歯車の長軸を含む断面の状態を示し、(c)は楕円形に変形した可撓性外歯車の短軸を含む断面の状態を示す。 外歯の歯筋方向における開口端部(主断面)、歯幅中央部および内端部における両歯車の相対運動をラックで近似した場合に得られる外歯の移動軌跡を示すグラフである。 開口端部(主断面)の両歯車のそれぞれの歯形と、両歯車の相対運動の移動軌跡と、移動軌跡の一部の平行曲線を示すグラフである。 主断面における内歯車の歯形を示すグラフである。 外歯の歯筋方向における開口端部(主断面)と、転位を施した後の外歯の歯幅中央部および内端部における両歯車の相対運動をラックで近似した場合に得られる外歯の移動軌跡を示すグラフである。 転位が施された外歯の歯筋方向の輪郭形状の一例を示す説明図である。 (a)、(b)および(c)は、それぞれ、外歯の開口端部(主断面)、歯幅中央部、および内端部における内歯とのかみ合い状態を示す説明図である。
(波動歯車装置の構成)
図1は本発明を適用した波動歯車装置の正面図である。図2は波動歯車装置の可撓性の外歯車の開口部を楕円状に撓ませた状況を示すための説明図であり、(a)は変形前の状態、(b)は変形後における楕円形の長軸を含む断面、(c)は変形後における楕円の短軸を含む断面をそれぞれ示す説明図である。なお、図2(a)〜(c)において実線はカップ状の可撓性外歯車のダイヤフラムおよびボスの部分を示し、破線はシルクハット状の可撓性外歯車のダイヤフラムおよびボスの部分を示す。
これらの図に示すように、波動歯車装置1は、円環状の剛性の内歯車2と、その内側に配置された可撓性の外歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円状輪郭の波動発生器4とを有している。内歯車2と、変形前の外歯車3はモジュールmの平歯車である。内歯車2と外歯車3の歯数差は、nを正の整数とすると、2n枚である。初期形状が円形の外歯車3は、楕円状輪郭の波動発生器4によって楕円状に撓められている。楕円状に撓められた外歯車3の長軸L1の両端部分において、外歯車3の外歯34は内歯車2の内歯24にかみ合っている。
波動発生器4を回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が周方向に移動し、両歯車の歯数差に応じた相対回転が両歯車2、3の間に発生する。図2に示すように、外歯車3は、可撓性の円筒状胴部31と、円筒状胴部31の一方の端である後端31bに連続して半径方向に広がるダイヤフラム32と、ダイヤフラム32に連続しているボス33と、円筒状胴部31の他方の端である開口端31aの側の外周面部分に形成した外歯34とを備えている。
楕円状輪郭の波動発生器4は、円筒状胴部31の外歯形成部分の内周面部分にはめ込まれている。波動発生器4によって、円筒状胴部31は、そのダイヤフラム側の後端31bから開口端31aに向けて、半径方向の外側あるいは内側への撓み量が漸増している。図2(b)に示すように、楕円状曲線の長軸L1(図1参照)を含む断面では、外側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増する。図2(c)に示すように、楕円状曲線の短軸L2(図1参照)を含む断面では、内側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増する。開口端31a側の外周面部分に形成されている外歯34も、その歯筋方向の内端部34cから開口側の開口端部34aに向けて、後端31bからの距離に比例して撓み量が変化している。
外歯34の歯筋方向における任意の位置の軸直角断面において、楕円状に撓められる前の外歯34の歯底リムの厚さ方向の中央を通る円がリム中立円である。これに対して、楕円状に撓められた後の歯底リムの厚さ方向の中央を通る曲線は、リム中立円から楕円状曲線に撓められる。この楕円状曲線を、楕円状リム中立線と呼ぶものとする。楕円状リム中立線の長軸L1の位置におけるリム中立円に対する長軸方向の撓み量wは、2κmnで表される。ここで、κは1を含む実数であり、撓み係数と呼ぶ。κ=1の場合の撓みを「無偏位撓み」と呼び、κ>1の場合の撓みを「正偏位撓み」と呼び、κ<1の場合の撓みを「負偏位撓み」と呼ぶ。
換言すると、外歯車3の外歯34の歯数をZ、内歯車2の内歯24の歯数をZ、波動歯車装置1の減速比をR(=Z/(Z−Z)=Z/2n)とすると、外歯車3のピッチ円直径mZを減速比Rで除した値(mZ/R=2mn)が、長軸位置におけるκ=1の無偏位撓みであり、これを正規(標準)の撓み量wと呼ぶ。波動歯車装置1は、一般に、その外歯車3の歯筋方向における波動発生器4のウエーブベアリングのボール中心が位置する部位において、正規の撓み量w(=2mn)で撓むように設計される。撓み係数κは、可撓性の外歯車3の歯筋方向の各軸直角断面における撓み量wを正規の撓み量で除した値を表している。
本例の波動歯車装置1では、外歯車3の外歯の歯形は、その開口端部34aにおける軸直角断面において、κ=1の無偏位撓み(撓み量w=wo=2mn)が生じる無偏位歯形に設定されている。したがって、外歯の歯筋方向において、開口端部34aを除く外歯の歯形は、κ<1の負偏位撓みが生じる負偏位歯形になる。
図3は波動歯車装置1の両歯車2、3の相対運動をラックで近似した場合に得られる、内歯車2の内歯24に対する外歯車3の外歯34の移動軌跡を示す図である。図において、x軸はラックの併進方向、y軸はそれに直角な方向を示す。y軸の原点は移動軌跡の振幅の平均位置としてある。曲線Maは、外歯34の開口端部34a(図2参照)において得られる。この開口端部34aの軸直角断面を、「主断面」と呼ぶ。この主断面34aでは、撓み係数κ=1の無偏位撓みの移動軌跡Maが得られる。曲線Mbは、外歯34の歯幅中央部34b(図2参照)において得られる、撓み係数κ<1の負偏位撓みの移動軌跡である。同様に、曲線Mcは、外歯34の内端部34c(図2参照)において得られる、撓み係数κ<1の負偏位撓みの移動軌跡である。内歯車2の内歯24に対する外歯車3の外歯34の移動軌跡は、次式で示される。
x=0.5mn(θ−κsinθ)
y=κmncosθ
説明を簡単にするために、モジュールm=1、n=1(歯数差2n=2)とすると、上式は次の式1で表される。
(式1)
x=0.5(θ−κsinθ)
y=κcosθ
(主断面における歯形形状)
図4Aは主断面34aにおける外歯34および内歯24のラック歯形形成の原理を示す説明図である。図4Aにおける上側には、内歯歯形25、外歯34の主断面34aにおいて得られる無偏位移動軌跡Ma、および、無偏位移動軌跡Maの一部の曲線部分の平行曲線38を示す。図4Aの下側には、外歯34の主断面34aにおける外歯歯形35を示す。この主断面34aにおける外歯歯形35を「外歯基本歯形35」と呼ぶものとする。図4Bは、内歯歯形25を拡大して示す説明図である。
図4A、図4Bを参照して、内歯歯形25について説明する。内歯歯形25において、その歯末歯形の主要部(歯末歯形部分)は、内歯の歯山中心線26に中心をおく半円27における、圧力角αが所定の角度の点を両側の端点27a、27bとする円弧部分27Aによって規定されている。圧力角αの値の下の限界値は、半円弧のかみ合い領域を広げるうえでは可能な限り小さな値が望ましいが、歯切り加工のための逃げ角を確保する必要があるので、0°よりも大きく取ることが必要である。圧力角αの上の限界値は、これが大き過ぎるとかみ合いに有効な円弧歯形の領域が減少してしまうので、実用上、15°程度以下にしておくことが望ましい。すなわち、圧力角αは次の範囲内の値であることが望ましい。
0° < α ≦ 15°
内歯歯形25における歯元歯形は、外歯34の歯末歯形と干渉しない適宜の凹曲線28によって規定されている。歯末歯形の主要部を規定している円弧部分27Aと、歯元歯形を規定している凹曲線28との間は、直線29によって規定される直線歯形部分となっている。
図4Bから分かるように、直線29は、円弧部分27Aの端点27aに引いた歯元側に延びる接線によって規定される。端点27aは、この端点27aに引いた直線29の圧力角αが上記のように15°以下となる点である。
これに対して、外歯34の主断面34aにおける外歯基本歯形35における歯末歯形の主要部(歯末歯形部分)は次のように規定されている。図4Aにおいて、無偏位移動軌跡Maの右側に示すように、当該無偏位移動軌跡Maにおける頂部の点Aから次の底部の点Bに至る範囲(上記の式1におけるパラメータθが0からπまでの範囲)の曲線部分Ma(A,B)の平行曲線38をとる。平行曲線38は、当該曲線部分Ma(A,B)に対して、内歯歯形25の歯末歯形の主要部を規定する円弧部分27Aの円弧半径r1に等しい距離にある平行曲線である。この平行曲線38を用いて、外歯基本歯形35における歯末歯形の主要部が規定されている。
外歯歯形35の歯元歯形は、内歯歯形25における円弧部分27Aと直線29によって規定される歯末歯形と干渉しないための若干の頂隙を確保できるように、当該円弧部分27Aよりも若干大きな凹曲線39によって規定されている。したがって、内歯24および外歯34のいずれの歯元歯形も、かみ合いには加わらない。
ここで、内歯24の歯末歯形部分を規定している円弧部分27Aの円弧半径r1(内歯24の歯末の丈)、および、外歯車と内歯車の歯末の丈の比は、次のように設定することが望ましい。
波動歯車装置では、外歯車の楕円状変形によって生ずる曲げ応力を抑えるために、外歯車の歯溝幅を歯厚よりも若干広くすることが望ましい。この場合、移動軌跡Maの平均線(ピッチ線)上の両歯車の歯厚の比は1:1ではなく、外歯車の歯厚が内歯車より薄くなる。実用上、内歯車と外歯車の歯厚比の限界は、3:2程度とされる。従って、内歯車と外歯車の歯厚比は、1:1〜3:2に設定される。
円弧部分27Aの円弧半径r1は内歯車のピッチ線上の半歯厚であるので、当該円弧半径r1は、内歯車の半ピッチ(0.5πm)の0.5倍〜0.6倍の範囲、すなわち、モジュールmの0.785倍〜0.942倍に設定すればよい。
また、円弧部分27Aの円弧半径r1は内歯車の歯末の丈であるので、上記のように円弧半径r1を設定すると、外歯車と内歯車の歯末の丈の比は1以上になる。すなわち、無偏位の移動軌跡Maの全振幅は2mであり、両歯車の歯末の丈の和が移動軌跡Maの全振幅2mである。よって、理論上の外歯車の歯末の丈は振幅2mから内歯車の歯末の歯丈を引いた値となり、モジュールmの1.215倍〜1.058倍となる。換言すると、外歯車と内歯車の歯末の丈の比は1より大きくなる。これにより、外歯車の歯溝幅を歯厚よりも広くして曲げ応力を減らすことができる。よって、外歯車と内歯車の歯末の丈の比は1に設定することも可能であるが、1より大きな値に設定することが望ましい。
(外歯の主断面以外の位置の歯形形状)
外歯車3の外歯34の歯形には、主断面34aから内端部34cに掛けて撓み係数κの値に応じた転位を施す。外歯34の歯形に施す転位量をmnhとすると、m=1、n=1の場合の転位量はhになる。主断面34aは無偏位撓みであり、撓み係数κ=1である。転位歯形の歯筋方向の各位置での転位量hは、次の式(2)で示される。
(式2)
h=1−κ
図5は、外歯34における主断面34aの移動軌跡と、上記のように転位が施された外歯34の歯幅中央部34bおよび内端部34cの移動軌跡を示すグラフである。上記のように外歯基本歯形35に転位を施すことで、図3に示す歯幅中央部34bの移動軌跡Mbおよび内端部34cの移動軌跡Mcは、それぞれ、図5に示す移動軌跡Mb1、Mc1に変化する。すなわち、外歯34の各位置で移動軌跡の底部が主断面34aの移動軌跡Maの底部に接する(一致する)。
図6は、転位を施すことによって得られた外歯34における歯筋方向の輪郭形状を示す説明図である。
このように、外歯車3においては、その主断面34a以外の歯形は、主断面での外歯基本歯形35に対して、上記の式2で与えられる転位量hの転位が施された転位歯形とされる。この結果、移動軌跡の底部近傍における近似的な一致から、外歯34は、主断面34aだけでなく、その歯筋方向の各軸直角断面においても内歯24の歯末歯形に連続的にかみ合う。
図7(a)、(b)および(c)は、上記のように設定した内歯24および外歯34におけるかみ合いの様相をラック近似で示したものである。図7(a)は主断面34aでのかみ合い状態を示し、図7(b)は歯幅中央部34bでのかみ合い状態を示し、図7(c)は内端部34cでのかみ合い状態を示す。これらの図から、外歯の歯筋の全般に亘って両歯のかみ合いが得られることが分かる。
なお、図7に示す外歯34の歯末の歯形は、内歯との間に頂隙を確保するために、平坦な歯先面40を備えている。この歯先面40は、上記のように設定した外歯歯形の歯先を一部取り除くことによって形成したものである。
以上説明したように、波動歯車装置1では、内歯24の歯末歯形を、円弧部分27Aに直線29を挿入した形状としてある。また、内歯24の歯元歯形は外歯34の歯末歯形と干渉しないように、逃げを与えた形状としてある。これにより、主断面において、両歯の歯末歯形同士の連続的なかみ合いを実現できる。また、内歯車2と外歯車3は、楕円状に撓められた外歯車3の長軸上、その直近位置でかみ合わないようすることができる。この結果、外歯車3の長軸上の位置において、楕円状変形の応力と、歯面荷重による応力とが重畳して、大きな応力が外歯34のリムに生じることを回避できる。さらに、転位によって、外歯34の歯筋方向においても両歯の連続的なかみ合いを実現でき、歯筋方向の全体へ歯面荷重を分散させることができる。これらの相乗効果によって、波動歯車装置1のトルク容量を高めることができる。
(その他の実施の形態)
上記の説明は、カップ形状の外歯車を備えたカップ型の波動歯車装置、および、シルクハット形状の外歯車を備えたシルクハット型の波動歯車装置に本発明を適用した例である。本発明は、2個の剛性の内歯車と、これらにかみ合い可能な円筒状の外歯車と、外歯車を楕円状に撓めて内歯車のそれぞれにかみ合わせる波動発生器とを備えたフラット型の波動歯車装置にも適用可能である。この場合には、外歯車の歯形は、その歯筋方向において上記の基本歯形形状とすればよい。

Claims (6)

  1. 剛性の内歯車と、この内側に同軸に配置された可撓性の外歯車と、この内側に嵌めた波動発生器とを有し、
    前記外歯車は前記波動発生器によって楕円状に撓められ、楕円状に撓められた前記外歯車の外歯は、その長軸位置の両端部において前記内歯車の内歯にかみ合っており、
    前記内歯車および前記外歯車は共にモジュールmの平歯車であり、
    前記外歯車の歯数は、nを正の整数とすると、前記内歯車の歯数より2n枚少なく、
    前記外歯の歯筋方向の所定の位置の軸直角断面を主断面とすると、当該主断面における前記長軸位置において、楕円状に撓められる前の前記外歯車のリム中立円に対する、楕円状に撓められた後の前記外歯車のリム中立線の撓み量は、2mnに設定されており、
    前記内歯の歯末歯形は、当該内歯の歯山中心線上に中心をおく半円における、圧力角が所定の値以上の円弧部分と、当該円弧部分における前記圧力角が前記所定の値の端点から歯元側に延びる当該端点に引いた所定長さの接線とによって規定され、
    前記外歯の前記主断面における歯形を当該外歯の基本歯形とすると、当該基本歯形の歯末歯形は、前記外歯の移動軌跡における所定範囲の曲線部分の平行曲線であって、当該曲線部分に対して、前記半円の半径に等しい距離にある平行曲線によって規定され、
    前記移動軌跡は、前記波動発生器の回転に伴う前記内歯に対する前記外歯のかみ合いをラックかみ合いで近似した場合に得られる前記内歯に対する前記外歯の移動軌跡であり、
    前記移動軌跡の前記曲線部分は、前記移動軌跡における一つの頂部の点から次の底部の点に至る範囲の曲線部分である波動歯車装置。
  2. 前記圧力角の前記所定の値をαとすると、
    0° < α° ≦ 15°
    である請求項1に記載の波動歯車装置。
  3. 前記内歯の歯元歯形は、前記接線の歯元側の端点に接続した凹曲線によって規定され、
    前記外歯の前記基本歯形の歯元歯形は、前記平行曲線の歯元側の端点に接続した凹曲線によって規定され、
    前記内歯の歯元歯形を規定する前記凹曲線は、前記外歯の基本歯形の歯末歯形と干渉しないように設定され、
    前記外歯の歯元歯形部分を規定する前記凹曲線は、前記内歯の歯末歯形と干渉しないように設定されている請求項1に記載の波動歯車装置。
  4. 前記外歯の前記基本歯形と前記内歯の歯形との間において、それらの歯末の丈の比が1以上に設定されている請求項1に記載の波動歯車装置。
  5. 前記外歯の前記基本歯形の歯先部は、前記内歯の歯元歯形部分と所要の頂隙を保つように所定量だけ除去されている請求項3に記載の波動歯車装置。
  6. 前記外歯車は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、当該円筒状胴部の後端から半径方向の内方あるいは外方に広がるダイヤフラムとを備え、前記外歯は、前記円筒状胴部の前端開口部の側の外周面部分に形成されており、
    前記外歯は、歯筋方向における前記ダイヤフラム側の内端から前記前端開口部の側の開口端部に向けて、前記ダイヤフラムからの距離に比例して前記撓み量が変化し、
    前記外歯の歯筋方向の各軸直角断面における前記撓み量は2mn以下であり、
    前記撓み量が2mnの前記主断面は、前記外歯の前記開口端部の軸直角断面であり、
    前記外歯の前記主断面以外の歯筋方向の各軸直角断面における歯形は、前記主断面における前記基本歯形に転位を施した転位歯形であり、
    前記転位歯形は、当該転位歯形の前記移動軌跡が、前記主断面における前記基本歯形の前記移動軌跡の底部で接するように、前記基本歯形に転位を施したものである請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項に記載の波動歯車装置。
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