JP5456941B1 - 3次元接触歯形を有する波動歯車装置 - Google Patents

3次元接触歯形を有する波動歯車装置 Download PDF

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Abstract

波動歯車装置(1)では、両歯車(2、3)の歯末歯形形状として、無偏位(κ=1)の可撓性外歯車(3)の外歯(34)の主断面(34c)における内歯(24)に対する移動軌跡Mから導いた相似曲線歯形BC、ACを採用する。主断面(34c)から内端(34b)に掛けては、外歯(34)の移動軌跡Mが主断面(34c)の移動軌跡Mとその底部を共有するように、歯筋に沿って外歯(34)に転位を施して、歯筋方向の歯の連続的なかみ合いを実現する。主断面(34c)から外端(34a)に掛けては、外歯(34)の直線歯形部分の移動軌跡が主断面(34c)の直線歯形部分の移動軌跡に一致するように、歯筋に沿って外歯(34)に転位を施して、歯筋方向の歯のかみ合いを実現する。

Description

本発明は、剛性内歯車および可撓性外歯車が3次元接触状態でかみ合う、3次元接触歯形を有する波動歯車装置に関する。剛性内歯車および可撓性外歯車の3次元接触状態では、これら両歯車の歯筋方向における所定位置に設定した軸直角断面において両歯車が連続接触するかみ合い状態が形成され、当該軸直角断面以外の歯筋方向における各軸直角断面においても、両歯車が部分的に接触したかみ合い状態が形成される。
波動歯車装置は、創始者C.W.Musser氏によって発明された(特許文献1)。それ以後、本発明者を含め多くの研究者によって、波動歯車装置に関する各種の発明がなされた。その歯形に関する発明に限っても、各種のものがある。例えば、本発明者は、特許文献2において基本歯形をインボリュート歯形とすることを提案し、特許文献3、4において、剛性内歯車と可撓性外歯車の歯の噛み合いをラックで近似する手法を用いて、広域接触を行う両歯車の歯末歯形を導く歯形設計法を提案している。
典型的な波動歯車装置は、円環状の剛性内歯車と、この内側に同軸状に配置された可撓性外歯車と、この内側に嵌めた波動発生器とを有している。可撓性外歯車は、可撓性の円筒状胴部と、この円筒状胴部の後端から半径方向に延びているダイヤフラムと、円筒状胴部の前端開口側の外周面部分に形成した外歯とを備えている。
可撓性外歯車は、波動発生器によって楕円状に撓められ、楕円の長軸方向の両端部において剛性内歯車に噛み合っている。楕円状に撓められた可撓性外歯車の外歯は、その歯筋方向に沿って、ダイヤフラムの側の外歯内端から前端開口の側の外歯外端に向けて、ダイヤフラムからの距離にほぼ比例して撓み量が増加している。波動発生器の回転に伴って、可撓性外歯車の歯部の各部分は、半径方向の外方および内方への撓みを繰り返す。このような可撓性外歯車の歯の撓み動作は「コーニング」と呼ばれる。
可撓性外歯車が波動発生器によって楕円状に変形すると、可撓性外歯車の外歯のリム中立円は楕円状のリム中立曲線に変形する。このリム中立曲線の長軸位置において、変形前のリム中立円に対する半径方向の撓み量をwとすると、リム中立円の半径を波動歯車装置の減速比で除した値を、正規(標準)の撓み量woと呼んでいる。また、これらの比(w/wo)を偏位係数κと呼んでいる。正規の撓み量woの撓みを「無偏位撓み」と呼び、正規の撓み量woよりも大きな撓み量(κ>1)の撓みを「正偏位撓み」と呼び、正規の撓み量woよりも小さな撓み量(κ<1)の撓みを「負偏位撓み」と呼んでいる。可撓性外歯車のモジュールをm、可撓性外歯車と剛性内歯車の歯数差をn(nは正の整数)とすると、撓み量wは「2κmn」である。
本発明者は、特許文献5において、可撓性外歯車の歯のコーニングを考慮して、連続的な噛み合いが可能な歯形を備えた波動歯車装置を提案している。特許文献5において提案している波動歯車装置では次のようにしている。
可撓性外歯車の歯筋方向の任意の軸直角断面位置を「主断面」と定め、主断面における可撓性外歯車の撓みを無偏位撓み(κ=1)に設定する。可撓性外歯車および剛性内歯車の噛み合いをラック噛み合いで近似する。可撓性外歯車の歯筋方向における主断面を含む各位置の軸直角断面において、波動発生器の回転に伴う可撓性外歯車の歯の剛性内歯車の歯に対する各移動軌跡を求める。主断面において得られる無偏位撓みの移動軌跡における頂部の点から次の底部の点に至る曲線部分を、底部の点を相似の中心としてλ倍(λ<1)に縮小した第1相似曲線を求める。当該第1相似曲線を剛性内歯車の歯末の基本歯形として採用する。
第1相似曲線の端点を中心として、当該第1相似曲線を180度回転することにより得られた曲線を、当該端点を相似の中心として(1−λ)/λ倍して、第2相似曲線を求める。第2相似曲線を可撓性外歯車の歯末の基本歯形として採用する。
可撓性外歯車の外歯における主断面よりもダイヤフラム側における負偏位撓み(偏位係数κ<1)が生ずる各軸直角断面において得られる各移動軌跡、および、主断面よりも開口端側における正偏位撓み(偏位係数κ>1)が生ずる各軸直角断面において得られる各移動軌跡の双方が、主断面における無偏位撓みの移動軌跡の底部で接する曲線を描くように、可撓性外歯車の歯形において、主断面を挟み、それらの歯筋方向の両側の歯形部分に転位を施す。
このように歯形が形成されている波動歯車装置では、主断面における広範囲に亘る連続的な歯形の噛み合いを中心とし、主断面より外歯外端に至る歯筋の範囲および主断面より外歯内端に至る歯筋の範囲において、有効な噛み合いを実現することができる。よって、従来の狭い歯筋範囲で噛み合う波動歯車装置に比べて、より多くのトルクを伝達することができる。
米国特許第2906143号公報 特公昭45−41171号公報 特開昭63−115943号公報 特開昭64−79448号公報 WO2010/070712号のパンフレット
本発明の課題は、剛性内歯車および可撓性外歯車の歯形が、曲線歯形部分と直線歯形部分を備えた複合歯形となっている波動歯車装置において、可撓性外歯車のコーニングを考慮して、歯筋全般に亘って両歯車の歯形のかみ合いを実現できる3次元接触歯形を提案することにある。
本発明の波動歯車装置では、剛性内歯車および可撓性外歯車の歯形を、それぞれ、直線歯形部分と曲線歯形部分を備えた複合歯形としている。曲線歯形部分を規定する曲線は、両歯車のかみ合いをラックかみ合いで近似した場合における可撓性外歯車の歯の移動軌跡の一部を相似変換して得られた相似曲線である。
可撓性外歯車の歯における歯筋方向の中央付近の軸直角断面を、無偏位撓みが生ずる主断面に設定している。これにより、可撓性外歯車の歯において、主断面よりも歯筋方向の内端側に位置する部分は負偏位撓みが生じ、主断面よりも前端開口側に位置する部分は正偏位撓みが生ずる。
可撓性外歯車の外歯における正偏位撓みが生ずる外歯部分に、歯丈方向および歯厚方向にマイナスの転位を施して、剛性内歯車の内歯との間において直線歯形部分同士を接触させて、両歯のかみ合い状態を形成する。負偏位撓みが生ずる外歯部分には、歯丈方向にのみマイナスの転位を施して、剛性内歯車の内歯との間において曲線歯形部分同士を連続的に接触させて、連続的なかみ合い状態を形成する。これにより、歯筋方向の全般に亘る両歯車のかみ合いを実現している。
本発明の波動歯車装置では、可撓性外歯車の主断面の歯筋方向の両側において、コーニングを考慮した歯形のかみ合いが成立するように、外歯に対して異なる形態で転位を施している。これにより、歯筋の全範囲において、両歯車間の有効なかみ合いを実現することができる。この結果、本発明によれば、より多くのトルク伝達が可能な波動歯車装置を実現できる。
一般的な波動歯車装置の概略正面図である。 可撓性外歯車の撓み状況を示す説明図であり、(a)は変形前の状態を示し、(b)は楕円状に変形した可撓性外歯車の長軸を含む断面の状態を示し、(c)は楕円状に変形した可撓性外歯車の短軸を含む断面の状態を示す。 可撓性外歯車の外歯の歯筋方向の外端位置、主断面位置、内端位置の軸直角断面において、可撓性外歯車と剛性内歯車の相対運動をラックで近似した場合に得られる外歯の内歯に対する移動軌跡を示す説明図である。 可撓性外歯車の外歯の主断面(無偏位断面)における移動軌跡から、両歯車のそれぞれの歯末歯形を導くための手順を示す説明図である。 外歯の軸直角断面(主断面)における外歯の基本歯形形状および内歯の歯形形状の一例を示す説明図である。 可撓性外歯車の歯筋の各断面の縦の転位量を示す図である。 転位が施された外歯の歯筋方向の歯形形状および各軸直角断面での歯形形状を示す説明図である。 可撓性外歯車の歯筋の主断面から外端に掛けての3箇所の位置での転位による移動軌跡を示す図である。 可撓性外歯車の歯筋の主断面から内端に掛けての3箇所の位置での転位による移動軌跡を示す図である。 可撓性外歯車の歯筋の外端、主断面、内端における外歯の移動軌跡と、両歯車のラック近似のかみ合いを示す図である。
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置を説明する。
[波動歯車装置の全体構成]
図1は波動歯車装置の正面図である。図2はその可撓性外歯車の開口部を楕円状に撓ませた状況を含軸断面で示す断面図であり、図2(a)は変形前の状態、図2(b)は変形後における楕円状曲線の長軸を含む断面、図2(c)は変形後における楕円状曲線の短軸を含む断面をそれぞれ示してある。なお、図2(a)〜(c)において実線はカップ状の可撓性外歯車を示し、破線はシルクハット状の可撓性外歯車を示す。
これらの図に示すように、波動歯車装置1は、円環状の剛性内歯車2と、その内側に配置された可撓性外歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円状輪郭の波動発生器4とを有している。剛性内歯車2と可撓性外歯車3は共にモジュールmの平歯車である。また、両歯車の歯数差は2n(nは正の整数)であり、剛性内歯車2の方が多い。可撓性外歯車3は、楕円状輪郭の波動発生器4によって楕円状に撓められ、楕円状曲線の長軸L1方向の両端部分において剛性内歯車2に噛み合っている。波動発生器4を回転すると、両歯車2、3の噛み合い位置が周方向に移動し、両歯車の歯数差に応じた相対回転が両歯車2、3の間に発生する。可撓性外歯車3は、可撓性の円筒状胴部31と、その後端31bに連続して半径方向に広がるダイヤフラム32と、ダイヤフラム32に連続しているボス33と、円筒状胴部31の開口端31aの側の外周面部分に形成した外歯34とを備えている。
円筒状胴部31の外歯形成部分の内周面部分に嵌め込まれた楕円状輪郭の波動発生器4によって、円筒状胴部31は、そのダイヤフラム側の後端31bから開口端31aに向けて、半径方向の外側あるいは内側への撓み量が漸増している。図2(b)に示すように、楕円状曲線の長軸L1を含む断面では外側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増し、図2(c)に示すように、楕円状曲線の短軸L2を含む断面では内側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増している。したがって、開口端31a側の外周面部分に形成されている外歯34は、その歯筋方向における各軸直角断面において撓み量が変化している。すなわち、外歯34の歯筋方向におけるダイヤフラム側の内端34bの位置から開口端側の外端34aの位置に向けて、後端31bからの距離に比例して撓み量が漸増している。
本発明では、可撓性外歯車3の外歯34における歯筋方向の中央付近の軸直角断面34cを、無偏位撓みが生ずる断面となるようにしている。この断面を「主断面34c」と呼ぶ。これにより、可撓性外歯車3の外歯において、主断面34cよりも歯筋方向の内端側に位置する部分は負偏位撓みが生じ、主断面よりも外端側に位置する部分は正偏位撓みが生ずる。
[両歯車の歯形形状]
図5は両歯車2、3の歯形の基本となる歯形形状の一例を示す説明図である。この図に示す外歯34の歯形形状は、外歯34の歯筋方向の中央付近に設定した主断面34cの歯形形状を規定するための基本となる基本歯形形状である。基本歯形形状は、凸曲線状の外歯歯末歯形部分41、これに連続する外歯直線歯形部分42、これに連続する凹曲線状の外歯歯元歯形部分43、および、これに連続する外歯歯底部分44によって規定されている。主断面34cは、例えば、図2に示すように、ウエーブベアリングのボール中心線が通る軸直角断面である。
外歯34における主断面34cから外端34aに掛けての歯形形状は、後述のように、図3に示す基本歯形形状に、歯丈方向および歯厚方向にマイナスの転位を施して得られた転位歯形である。外歯34における主断面34cから内端34bに掛けての歯形形状は、後述のように、図3に示す基本歯形形状に、歯丈方向にのみマイナスの転位を施して得られた転位歯形である。
内歯24の歯形形状は、歯筋方向の全体に亘って同一であり、図3に示す歯形形状に設定されている。すなわち、内歯24の歯形形状は、凸曲線状の内歯歯末歯形部分51、これに連続する内歯直線歯形部分52、これに連続する凹曲線状の内歯歯元歯形部分53、および、これに連続する内歯歯底部分54によって規定されている。
[両歯車の歯形の形成方法]
次に、図3、図4および図5を参照して、外歯34の基本歯形形状および内歯24の歯形形状の設定方法を説明する。
(ラック近似による歯の移動軌跡)
図3は可撓性外歯車3の外歯34の移動軌跡を示す図である。波動歯車装置1の両歯車2、3の歯の相対運動をラックで近似すると、剛性内歯車2の内歯24に対する可撓性外歯車3の外歯34の移動軌跡が得られる。図において、x軸はラックの併進方向、y軸はそれに直角な方向を示し、θは波動発生器の回転角を示す。可撓性外歯車3の外歯34の歯筋方向における任意の位置の軸直角断面において、当該外歯34の楕円状リム中立線における長軸位置L1における当該外歯34が楕円状に撓む前のリム中立円に対する撓み量は、κを偏位係数として2κmnである。可撓性外歯車3の外歯34の移動軌跡は次の(1)式で与えられる。
x=0.5mn(θ−κsinθ)
y=κmncosθ (1)
説明を簡単にするために、m=1、n=1(歯数差が2)とすると、移動軌跡は次の(1a)式で与えられる。
x=0.5(θ−κsinθ)
y=κcosθ (1a)
図3のy軸の原点は移動軌跡の振幅の平均位置としてある。移動軌跡のうち、主断面34cにおいて得られる移動軌跡Mは、偏位係数κ=1である無偏位撓みの場合に得られる。移動軌跡Mは、偏位係数κ>1である正偏位撓みの場合のものであり、移動軌跡Mは、偏位係数κ<1である負偏位撓みの場合に得られる。本発明では、両歯車2、3の歯形形成の基礎となる主断面34cを、図2に示すように、可撓性外歯車3の外歯34の歯筋方向における中央付近の位置における軸直角断面としてある。正偏位移動軌跡Mは外歯34の歯筋方向における主断面34cに対して外端34a側の軸直角断面において得られる軌跡であり、負偏位移動軌跡Mは外歯34の歯筋方向の主断面34cに対して内端34bの側の軸直角断面において得られる軌跡である。
(主断面における歯形の形成方法)
図4は、外歯34および内歯24の歯末歯形の設定方法を示す説明図である。この図には、歯末歯形を設定するために、無偏位撓み状態の移動軌跡Mに設定した利用範囲を示してある。まず、主断面34cの移動軌跡Mのパラメーターθがπ(B点:移動軌跡の底部)から0(A点:移動軌跡の頂部)までの範囲の曲線部分を取る。B点を相似の中心として、この移動軌跡Mの曲線部分をλ倍(0<λ<1)に相似変換して第1相似曲線BCを得る。図4には、λ=0.6の場合を示してある。第1相似曲線BCを剛性内歯車2の歯末歯形を規定するために用いる歯形曲線として採用する。
第1相似曲線BCの端点Cを中心として、当該第1相似曲線BCを180度回転して曲線B’Cを得る。曲線B’Cを、端点Cを相似の中心として(1−λ)/λ倍して、第2相似曲線ACを得る。第2相似曲線ACを可撓性外歯車3の基本歯形形状の歯末歯形を規定するために用いる歯形曲線として採用する。
これらの歯末歯形を規定する歯形曲線は式で表わすと次の(2)式および(3)式のようになる。
剛性内歯車の歯末歯形の基本式:
Ca=0.5{(1−λ)π+λ(θ−sinθ)}
Ca=λ(1+cosθ) (2)
(0≦θ≦π)
可撓性外歯車の歯末歯形の基本式:
Fa=0.5(1−λ)(π−θ+sinθ)
Fa=(λ−1)(1+cosθ) (3)
(0≦θ≦π)
(外歯の主断面の基本歯形形状)
上記のように求めた歯末歯形を規定するための歯形曲線ACを用いて、次のように外歯34の主断面34cにおける基本歯形形状を設定する。図4および図5を参照して説明すると、可撓性外歯車3の基本歯形形状における歯末歯形を規定するための歯形曲線ACに対して、点Cを通る圧力角αの直線Lを引き、歯形曲線ACにおける端点Aから直線Lとの交点Dまでの間の曲線部分ADを求める。この曲線部分ADを正規の歯末歯形を規定する歯形曲線として採用し、当該歯形曲線を用いて外歯歯末歯形部分41を形成する。また、交点Dから延びている直線Lの直線部分によって外歯直線歯形部分42を規定する。この際、外歯直線歯形部分42が内歯24に対して所定の頂隙が確保されるように、当該外歯直線歯形部分42と所定の外歯歯底曲線によって規定される外歯歯底部分44との間を繋ぐ所定の凹曲線によって外歯歯元歯形部分43を規定する。
(内歯の歯形形状)
同様にして、歯末歯形を規定するために用いる歯形曲線BCを用いて内歯24の歯形を形成する。図4および図5を参照して説明すると、前記直線Lと曲線BCとの交点をEとし、この曲線部分BEを正規の歯末歯形を規定する歯形曲線として採用し、当該歯形曲線を用いて内歯歯末歯形部分51を形成する。また、交点Eから延びている直線Lの直線部分によって内歯直線歯形部分52を規定する。さらに、内歯直線歯形部分52が外歯34に対して所定の頂隙が確保されるように、当該内歯直線歯形部分52と所定の内歯歯底曲線によって規定される内歯歯底部分54との間を繋ぐ所定の凹曲線によって内歯歯元歯形部分53を規定する。
なお、両歯車の歯元の歯形部分43、44、53、54は噛み合いに参加しない。従って、これらの歯元の歯形部分43、44、53、54は、それぞれ相手の歯末の歯形部分51、52、41、42と干渉しなければよく、自由に設定できる。
このようにして、図5に示す外歯34の主断面34cにおける基本歯形形状および内歯24の歯形形状が設定される。本例では、直線歯形の圧力角αが9度である。αの小さい値は、歯車加工の面から避けた方が望ましく、圧力角が6度ないし12度付近の点から直線歯形とし、歯元の歯形につなぐようにすればよい。
以上のようにして設定される主断面34c上における内歯24の歯形と外歯34の歯形のかみ合いは、両歯24、34の歯末歯形部分同士の接触によるかみ合いと、直線歯形部分同士の接触によるかみ合いとなる。移動軌跡Mに沿って可撓性外歯車3の外歯34が剛性内歯車2の内歯24に対して移動するとき、歯末歯形同士は共に移動軌跡から導かれる相似曲線によって規定されているので、連続的な接触が保証され、両歯車の連続的なかみ合いが形成される。
(外歯における主断面以外の位置における歯形形状)
主断面34cにおける両歯車2、3の歯末歯形同士の噛み合いにおいては、図3に示す移動軌跡Mに沿って可撓性外歯車3が剛性内歯車2に対して移動するとき、歯末歯形同士は相似曲線の性質から連続的に接触する。
これに対して、主断面34cから外端側の外歯34の各軸直角断面では偏位係数がκ>1であり、主断面34cから内端側の外歯34の各軸直角断面では偏位係数κ<1である。図3に示すように、正偏位の移動軌跡M、および負偏位の移動軌跡Mは共に無偏位の移動軌跡Mと干渉し、このままでは両歯24、34が相互に接触するかみ合い状態を形成することができない。
そこで、外歯34における主断面34cから外端34aに掛けての部分においては、その各軸直角断面における歯形の直線歯形部分が、主断面34cにおける歯形の外歯直線歯形部分42と一致するように、図5に示す基本歯形形状に対して転位を施す。得られた転位歯形を主断面34cから外端34aに掛けての各軸直角断面の歯形とする。
このとき必要な横の転位量xと縦の転位量yは次の(4a),(4b)式で与えられる。同式は、転位したラック歯形の直線部分の圧力角をαとし、当該軸直角断面における転位後の直線歯形部分が主断面34cの外歯直線歯形部分42に一致するものとして求めたものである。
Figure 0005456941
次に、外歯34における主断面34cから内端34bにかけての各軸直角断面では、偏位係数がκ<1であり、主断面34cに比べて撓み量が少ない。このため、移動軌跡の底部で外歯の部分が内歯24の部分に干渉し、このままではかみ合いを維持できない。
そこで、主断面34cから内端34bにかけては、外歯34に対して縦の転位を施す。この転位量は、可撓性外歯車3の外歯34の剛性内歯車2の内歯24に対する移動軌跡Mの底部が、主断面34cにおける当該移動軌跡Mの底部の点B(図4参照)に接するように、求めたものである。この場合は横の転位は行わない。
具体的に説明すると、外歯34の主断面34cの位置からダイヤフラム側の内端34bの位置に掛けての各軸直角断面において、それらの各軸直角断面位置での偏位係数κに応じて、各軸直角断面での移動軌跡Mが主断面34cでの移動軌跡Mの底部の点Bに接するように、転位の量mnyを設定する。m=1、n=1とした場合には転位の量がyになり、次の(5)式によって表わされる負の値をとる。
y=κ−1 (5)
図6は、上記の(4b)式と(5)式で示される可撓性外歯車3の外歯34の歯筋の各位置での縦の転位量の一例を示すものである。この図の横軸は可撓性外歯車3の各軸直角断面の偏位係数κを示し、縦軸は偏位係数κに対応する(4b)式および(5)式で与えられる縦の転位量を示している。
実用的には、(4b)式で表される転位曲線C1は、近似的に、当該曲線における偏位係数κ=1の点に引いた接線C2で代用してもよい。この場合、かみ合いで生ずる歯厚の干渉はバックラッシ除去のプリロードとして利用できる。図6において、転位直線C3は、(5)式で表される主断面34cから内端34bの各位置での転位量を示す直線である。
ここで、転位曲線C1あるいは接線C2と、転位直線C3に基づき、主断面34c以外の外歯部分に転位を施すと、歯筋方向に沿って見た場合の外歯34の歯形輪郭は主断面34cの位置を頂点とした折れ線状になる。頂点を含む部分を滑らかに連続させるためには、図6に示す4次曲線C4を用いて、主断面34cを含む部分を滑らかに連続した歯形形状にすることが望ましい。この4次曲線C4は、接線C2および転位直線C3の双方に接し、κ=1の点を頂点とする曲線である。
このようにすると、主断面34cの付近の歯筋に平坦部が形成され、転位の滑らかな変化が補償される。また、可撓性外歯車3の歯切り時の寸法管理も容易になる。
図7(a)は、上記のように設定した外歯34、内歯24の歯筋方向に沿った歯形輪郭を示す説明図であり、長軸L1での状態(最深のかみ合い状態)を示している。この図において、外歯34における主断面34cを含む部分は、4次曲線C4によって規定され、これよりも外端34aの側の部分は、転位曲線C1を近似する接線C2によって規定され、主断面34cよりも内端34bの側の部分は、転位直線C3によって規定されている。
図7(b)、(c)、(d)は、それぞれ、外歯34の外端34a、主断面34cおよび内端34bの各位置における軸直角断面上での歯形形状を示す説明図である。これらの図も、長軸L1の位置での状態(最深のかみ合い状態)を示している。内歯24の歯形形状は歯筋方向の各軸直角断面において同一である。外歯34の歯形形状は、主断面34cでは図5に示す基本歯形形状によって規定されているが、その頂部は僅かに削り取られて平坦部が形成されるように、直線45によって規定されている。主断面34cよりも外端34a側の軸直角断面での歯形形状は、基本歯形形状に対して、縦および横のマイナス転位を施した形状となっている。主断面34cよりも内端34bの側の軸直角断面での歯形形状は、基本歯形形状に対して、縦のマイナス転位を施した形状となっている。
図8は、可撓性外歯車3の外歯34の主断面34cから外端34aに掛けての3箇所の軸直角断面における、外歯34の内歯24に対するラック近似による移動軌跡M、M(1)、M(2)を示したものである。外歯34における主断面34cから外端34aに掛けての部分では、外歯34の直線歯形部分42が内歯24の直線歯形部分52に接触した状態で、双方の歯34、24のかみ合いが形成される。
図9は、可撓性外歯車3の外歯34の主断面34cから内端34bに掛けての3箇所の軸直角断面における、外歯34の内歯24に対するラック近似による移動軌跡M、M(2)、M(2)を示したものである。この図に示すように、転位を施した後の外歯34の歯形上の点の移動軌跡M(1)、M(2)は、主断面34cの移動軌跡Mに対してその底部において接する。また、これらの移動軌跡の底部近傍の部分の軌跡は、移動軌跡Mに良く近似する。このことは、本発明者によって見出されたことである。これにより、歯末歯形部分同士の連続的な接触によるかみ合いが形成される。
次に、図10(a)、(b)、(c)は、上記のように歯形を設定した外歯34と内歯24のかみ合いの様相をラック近似で示す説明図である。図10(a)は外歯34の外端34aの位置、図10(b)は外歯34の主断面34cの位置、図10(c)は外歯34の内端34bの位置において得られるものである。主断面34cでは、平坦部を設けた場合の移動軌跡を示してある。これらの移動軌跡から分かるように、近似的ながら可撓性外歯車3の外歯34は、その外端34aから主断面34cを経て内端34bに至るすべての断面で、内歯24に対して十分な接触が行われている。

Claims (5)

  1. 剛性内歯車と、この内側に同軸に配置した可撓性外歯車と、この内側に嵌めた波動発生器とを有し、
    前記可撓性外歯車は、可撓性の円筒状胴部と、この円筒状胴部の後端から半径方向に延びているダイヤフラムと、前記円筒状胴部の前端開口の側の外周面部分に形成した外歯とを備え、
    前記可撓性外歯車は前記波動発生器によって楕円状に撓められて、前記剛性内歯車の内歯に部分的に噛み合っており、
    前記剛性内歯車および前記可撓性外歯車は、共にモジュールmの平歯車であり、
    前記可撓性外歯車の歯数は、nを正の整数とすると、前記剛性内歯車の歯数より2n枚少なく、
    前記外歯の歯筋方向の任意の位置での軸直角断面において、前記可撓性外歯車の楕円状のリム中立曲線の長軸位置における、楕円状に撓む前のリム中立円に対する撓み量は、偏位係数をκとすると、2κmnであり、
    前記撓み量は、前記外歯の歯筋方向に沿って、前記ダイヤフラムの側の外歯内端から前記前端開口の側の外歯外端に向けて、前記ダイヤフラムからの距離に比例して増加しており、
    前記外歯の歯筋方向における前記外歯内端から前記外歯外端まで間の途中の位置の軸直角断面を主断面とすると、当該主断面の撓み状態は偏位係数κ=1の無偏位撓みに設定され、前記外歯内端の撓み状態は偏位係数κ<1の負偏位撓みであり、前記外歯外端の撓み状態は偏位係数κ>1の正偏位撓みであり、
    前記波動発生器の回転に伴う前記外歯の前記内歯に対する移動軌跡は、前記外歯と前記内歯のかみ合いをラックかみ合いで近似した場合に、前記外歯の各軸直角断面において、x軸をラックの併進方向、y軸をそれに直角な方向、y軸の原点を前記移動軌跡の振幅の平均位置に設定した場合に、次の(1)式により規定され、
    x=0.5mn(θ−κsinθ)
    y=κmncosθ (1)
    次の(2)式で規定される第1相似曲線は、前記外歯の前記主断面において得られる前記移動軌跡における一つの頂点をAとし、当該頂点Aの次の底点をBとし、λを1未満の正の値とすると、頂点Aから底点Bに至る第1曲線部分ABを、前記底点Bを相似の中心としてλ倍して得られる相似曲線BCであり、
    Fa=0.5(1−λ)(π−θ+sinθ)
    Fa=(λ−1)(1+cosθ) (2)
    (0≦θ≦π)
    次の(3)式で規定される第2相似曲線は、前記第1相似曲線BCにおけるC点を中心として、当該第1相似曲線BCを180度回転することによって得られる第2曲線を、当該C点を相似の中心として、{(1−λ)/λ}倍して得られる相似曲線ACであり、
    Ca=0.5{(1−λ)π+λ(θ−sinθ)}
    Ca=λ(1+cosθ) (3)
    (0≦θ≦π)
    前記外歯における前記主断面上の歯形を規定する基本歯形は、αを20未満の正の値とし、前記第2相似曲線ACにおけるC点を通り、y軸に対する傾斜角度がα度の直線をLとし、当該直線Lと前記第2相似曲線ACの交点をDとすると、前記第2相似曲線AC上におけるA点から交点Dまでの間の曲線部分によって規定される歯末歯形部分と、前記交点Dから延びている前記直線の部分によって規定される直線歯形部分と、前記直線歯形部分に接続した歯元歯形部分とによって規定され、この歯元歯形部分を規定する曲線は、前記内歯に干渉することのないように設定した両歯のかみ合いに関与しない曲線であり、
    前記外歯における前記主断面から前記外歯外端に至る各軸直角断面上の歯形は、各軸直角断面上における前記基本歯形形状が描く前記移動軌跡における前記直線歯形部分が、前記主断面における前記基本歯形形状が描く移動軌跡における前記直線歯形部分に一致するまで、各軸直角断面上における前記基本歯形形状に対して前記x軸方向および前記y軸方向に転位を施すことにより得られた転位歯形によって規定され、
    前記外歯における前記主断面から前記外歯内端に至る各軸直角断面上の歯形は、各軸直角断面上の前記基本歯形形状が描く前記移動軌跡が、前記主断面における前記基本歯形形状が描く前記移動軌跡の底部に接するように、各軸直角断面上における前記基本歯形形状に対して前記y軸方向に転位を施すことにより得られる転位歯形によって規定され、
    前記内歯の歯形は、前記直線Lと前記第1相似曲線BCとの交点をEとすると、前記第1相似曲線BC上におけるB点から交点Eまでの間の曲線部分によって規定される歯末歯形部分と、前記交点Eから延びている前記直線の部分によって規定される直線歯形部分と、当該直線歯形部分に接続した歯元歯形部分とによって規定され、この歯元歯形部分を規定する曲線は、前記外歯に干渉することのないように設定した両歯のかみ合いに関与しない曲線である、
    3次元接触歯形を有する波動歯車装置。
  2. 次の(4a)式および(4b)式により、前記外歯の前記主断面から前記外歯外端に至る外歯部分に施すx軸方向およびy軸方向の転位量がそれぞれ規定されている請求項1に記載の3次元接触歯形を有する波動歯車装置。
    Figure 0005456941
  3. y軸方向の前記転位量として、前記の(4b)式のy軸方向の転位量を規定する転位曲線の代わりに、当該転位曲線における撓み係数κ=1の点に引いた接線で表される転位直線によって規定される転位量を採用する請求項2に記載の3次元接触歯形を有する波動歯車装置。
  4. 前記外歯における前記主断面から前記外歯内端に至る外歯部分に施すy軸方向の転位量を次の(5)式により与える請求項1乃至3のうちのいずれか一つの項に記載の3次元接触歯形を有する波動歯車装置。
    y=(κ―1)mn (5)
  5. 前記主断面を境として、前記外歯外端の側および前記外歯内端の側に施すy軸方向の転位によって生ずる当該主断面の位置を頂点とする折れ線状の歯筋輪郭における、前記頂点を含む歯筋輪郭部分を、前記主断面の位置に頂点を持つ4次曲線を用いて滑らかに繋がる輪郭にした請求項1乃至4のうちのいずれか一つの項に記載の3次元接触歯形を有する波動歯車装置。
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