以下、図面を参照しながら、本発明による蓄電材料および蓄電デバイスの実施形態を説明する。本実施形態では、リチウム二次電池を例に挙げて本発明による蓄電デバイスおよび本発明による蓄電材料を説明する。しかし、本発明はリチウム二次電池やリチウム二次電池の正極活物質に限られず、化学反応を利用したキャパシタなどにも好適に用いられる。
図1は、本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるリチウム二次電池を模式的に示した断面図である。図1に示すリチウム二次電池は、正極31と、負極32と、セパレータ24とを備えている。正極31は正極活物質層23および正極集電体22を含み、正極活物質層23は正極集電体22に支持されている。同様に、負極32は負極活物質層26および負極集電体27を含み、負極活物質層26は負極集電体27に支持されている。
以下において詳細に説明するように、正極活物質層23は、正極活物質として本発明による蓄電材料を含む。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、金、銀、ステンレス、アルミニウム合金等からなる金属箔や金属メッシュあるいはこれらの金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどが用いられる。
負極活物質層26は、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する公知の負極活物質が用いられる。例えば天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物、等のリチウムを可逆に吸蔵放出することの出来る材料、もしくは、活性炭などの電気二重層容量を有する炭素材料、π電子共役雲を有する有機化合物材料などを用いることができる。これら負極材料は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の負極材料と混合して用いてもよい。負極集電体27には、例えば銅、ニッケル、ステンレスなど、リチウムイオン二次電池用負極の集電体として公知の材料を用いることができる。正極集電体22と同様、負極集電体27も金属箔や金属メッシュあるいは金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどの形態で用いることができる。
正極活物質層23および負極活物質層26は、それぞれ正極活物質および負極活物質のみを含んでいてもよいし、導電剤および結着剤のいずれか一方、または、両方を含んでいてもよい。導電剤には、正極活物質および負極物質の充放電電位において、化学変化を起こさない種々の電子伝導性材料を用いることができる。例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などを単独又はこれらの混合物として用いることができる。また、イオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を正極中に含ませてもよい。
結着剤は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)をはじめとするフッ素系樹脂やそれらの共重合体樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸やその共重合体樹脂などを結着剤として用いることができる。
正極31および負極32は正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向し、電極群を構成している。セパレータ24は、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた多孔膜である。耐有機溶剤性および疎水性に優れるという観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを単独または組み合わせたポリオレフィン樹脂が好ましい。セパレータ24の代わりに、電解液を含んで膨潤し、ゲル電解質として機能するイオン伝導性を有する樹脂層を設けてもよい。
電極群はケース21の内部の空間に収納されている。また、ケース21の内部の空間には電解液29が注入され、正極31、負極32およびセパレータ24は電解液29に含浸されている。セパレータ24は、電解液29を保持する微細な空間を含んでいるため、微細な空間に電解液29が保持され、電解液29が正極31と負極32との間に配置された状態をとっている。ケース21の開口は、ガスケット28を用いて封口板25により封止されている。
電解液29は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解する支持塩とから構成される。非水溶媒としては、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることのできる公知の溶媒を使用可能である。具体的には、環状炭酸エステルを含んでいる溶媒を好適に用いることが出来る。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートに代表されるように、非常に高い比誘電率を有しているからである。環状炭酸エステルの中でもプロピレンカーボネートが好適である。なぜなら、凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低く、蓄電デバイスを低温でも作動させることができるからである。
また、環状エステルを含んでいる溶媒もまた好適に用いることが出来る。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンに代表されるように、非常に高い比誘電率を有していることから、これら溶媒を成分として含むことにより、電解液29の非水溶媒全体として非常に高い誘電率を有することができる。
非水溶媒としてこれらの1つのみを用いてもよいし、複数の溶媒を混合して用いてもよい。その他の溶媒として用いることの出来る溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状あるいは鎖状のエーテル等が挙げられる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非水溶媒を用いることができる。好ましくは、非水溶媒の比誘電率は55以上90以下である。
支持塩としては、以下のアニオンとカチオンとからなる塩を使用することが可能である。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどを用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンや、マグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオン等を用いることができる。
なお、カチオン種としては、4級アンモニウムカチオンやリチウムカチオンを用いることが好ましい。4級アンモニウムカチオンはイオン移動度が高く、導電率の高い電解液を得ることが出来ること、また対極として反応速度の速い活性炭等の電気二重層容量を有する負極を用いることが出来ることから、高出力な蓄電デバイスを得ることが出来るからである。また、リチウムカチオンは、対極として反応電位が低く、容量密度の高い、リチウムを吸蔵放出可能な負極を用いることが出来ることから、高電圧、高エネルギー密度な蓄電デバイスを得ることが出来るからである。
図2は、正極31の構造を拡大して示す模式的な断面図である。正極集電体22に支持された正極活物質層23は正極活物質粒子41と、導電剤および結着剤からなる導電剤部42とを含んでいる。導電剤部42は、電解液29を保持しうるように多孔質になっている。図2では、正極活物質粒子41を模式的な円形で示しているが、正極活物質粒子41は、鎖状の重合体が折り重なって凝集した粒子形状を備えている。鎖状の重合体が折り重なることによって粒子の内部にまで電解液29が侵入し得る空孔が形成されている。正極活物質粒子41は、概ね球形状を備えているが、重合体が凝集することによって形成する形状であれば特に制限はない。正極活物質粒子41の大きさは、1μmから10μm程度である。
以下、正極活物質粒子41として用いる蓄電材料を詳細に説明する。本発明の蓄電材料は、可逆的に酸化還元反応を行う有機化合物であり、具体的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有する重合体である。テトラカルコゲノフルバレン骨格は、下記一般式(1)で表わされる。
ここで、Xはカルコゲン、すなわち、周期表第16元素である。具体的には、カルコゲンは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子である。R1からR4のうちから選ばれる2つは、隣接する一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格あるいは一般式(1)以外の化学構造を有するモノマーとの結合を表し、他の2つはそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
一般式(1)で示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格は、2つの5員環のそれぞれにおいて、不対電子を有するカルコゲン原子と、二重結合とを含む。これにより、5員環が非局在化したπ電子共役雲を形成している。このため、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、この2つの5員環から1つずつπ電子を放出した酸化状態をとっても安定な状態を維持し得る。
以下の式(R1)に示すように、一般式(1)に示すテトラカルコゲノフルバレン骨格が1電子酸化を受けると、2つの5員環のうち一方の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に1つ配位する。さらに、1電子酸化を受けると、他方の5員環の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、もう1つ、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に配位する。
酸化された状態でも、テトラカルコゲノフルバレン骨格は安定であり、電子を受け取ることによって還元され、電気的に中性な状態に戻ることができる。したがって、この可逆的な酸化還元反応を利用することにより、テトラカルコゲノフルバレン骨格を、電荷の蓄積が可能な蓄電材料として用いることができる。例えば、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を、リチウム二次電池の正極に用いる場合、放電時には、テトラカルコゲノフルバレン骨格が電気的に中性の状態、つまり、式(R1)の左側の状態をとる。また、充電状態では、テトラカルコゲノフルバレン骨格が正に帯電した状態、つまり、式(R1)の右側の状態をとる。
本発明の蓄電材料は、一般式(1)に示すテトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる。一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格が重合されていることによって、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む分子の分子量が大きくなり、有機溶媒に対する溶解度が低下する。したがって、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスにおけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。特に、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。
なお、π電子共役雲を有する高分子として、ポリアニリンやポリチオフェンおよびこれらの誘導体が知られている。これらの高分子はπ電子共役雲を主鎖に含むという点で本発明の蓄電材料の重合体と類似している。しかし、ポリアニリンやポリアセチレンおよびこれらの誘導体では、主鎖全体に共役二重結合による共鳴構造が形成されるため、主鎖から電子を引き抜くと、それにより生じる正電荷は主鎖において、ある程度広がって分布する。その結果、隣接する繰り返単位から続けて電子を引き抜こうとした場合、最初の電子を引き抜くことによって生じた正電荷が隣接するユニットにわたって非局在化し、電気的反発によって隣接するユニットから電子を引き抜きにくくなる。
これに対し、一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体の場合、π電子共役雲はそれぞれの5員環内においてのみ電子が非局在化する。このため、重合体の5員環ごとに酸化還元反応が完結し、ある5員環の酸化状態は、隣接する5員環の酸化還元反応に大きな影響を与えないと考えられる。このため、重合体に含まれる5員環の数に対応した電子の授受が可能である。つまり、本発明の蓄電材料は高い蓄電容量を達成することができる。
前述したように一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体が有機溶媒に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むこと、つまり、重合体の重合度(以下の一般式または化学式で示すn、あるいは、nとmとの和)は4以上であることが好ましい。これにより、有機溶媒に溶けにくい蓄電材料が実現する。より好ましくは、重合体の重合度は、10以上であり、より好ましくは、20以上である。
また、重合体に一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格が含まれる限り、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を有するモノマーと、一般式(1)以外の化学構造を有するモノマーとの共重合体であってもよい。ただし、より高いエネルギー密度を得るためには、ラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合することにより、重合体の主鎖を構成していることが好ましい。この場合、例えば、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格のR1からR4のうち、隣接するテトラカルコゲノフルバレン骨格との結合に用いられないものが互いに異なるテトラカルコゲノフルバレン骨格をそれぞれ含む2つ以上のモノマーの共重合体であってもよい。言い換えれば、いずれもテトラカルコゲノフルバレン骨格を含むが置換基が互いに異なる2つ以上のモノマーを共重合させた重合体であってもよい。
以下、本発明による蓄電材料の重合体をより具体的に説明する。
まず、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格のR1およびR3つまり、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1位および4位が隣接するテトラカルコゲノフルバレン骨格の4位および1位とそれぞれ結合する以下の一般式(2)で示される重合体を本発明による蓄電材料に用いることができる。一般式(2)で示される重合体では、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合し、重合体の主鎖を形成している。したがって、主鎖における酸化還元反応に寄与する構成部分の割合が高く、蓄電材料として高いエネルギー密度で電荷を蓄積することができる。
ここで、一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5およびR6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽炭化水素基は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。つまり、炭素原子以外に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含んでいてもよい。nは重合度を示し、2以上の整数である(以下の一般式または化学式においても同じ)。
Xは硫黄原子であることが好ましく、また、R5およびR6は鎖状の炭化水素基または芳香族基であることが好ましい。Xが硫黄原子である場合、その原子量はセレン原子、テルル原子と比較して小さいため、重量あたりのエネルギー密度が大きくなる。また、Xが酸素原子である場合と比較して、酸化還元電位が高いため、正極材料として用いる場合には放電電圧を高くできる。例えば、本発明による蓄電材料の重合体は、X=Sであり、R5およびR6はC
6H
13、C
10H
21、C
8H
17またはC
6H
5である以下の化学式(21)から(24)で表わされる。
また、本発明の蓄電材料は、以下の一般式(3)および(4)で表わされる繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。これらは、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1、4位同士が直接結合した重合体であるが、繰り返し単位のテトラカルコゲノフルバレン骨格が異なる置換基を有している。一般式(3)および(4)で表わされる繰り返し単位を含む共重合体も、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合し、共重合体の主鎖を形成している。したがって、主鎖における酸化還元反応に寄与する構成部分の割合が高く、蓄電材料として高いエネルギー密度で電荷を蓄積することができる。
ここで一般式(3)および(4)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5からR8はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。ただし、R5およびR6の組み合わせはR7およびR8の組み合わせと異なる。
例えば、R5およびR6はそれぞれフェニル基であり、R7およびR8はそれぞれ鎖状炭化水素基であってもよい。鎖状炭化水素基がデシル基である以下の化学式(25)で示される重合体であってもよい。ここで、nとmとの和は重合度を示し、2以上の整数である。2つのテトラカルコゲノフルバレン骨格を有する繰り返し単位は規則的に配列されていてよいし、ランダムに配列されていてもよい。また、nとmとの比は任意である。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むこと、つまり、重合体の重合度(nとmとの和)は4以上であることが好ましい。
また、本発明の蓄電材料は以下の一般式(5)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、主鎖において、リンカーとしてのアセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格と交互に配置されている。一般式(5)で表わされる重合体では、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
ここで、一般式(5)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。R9は、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はそれぞれフェニル基であり、R9は、下記化学式(6)に示す構造を備える、以下の化学式(26)で示される重合体であってもよい。
また、本発明の蓄電材料は下記一般式(7)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、主鎖において、リンカーとしてのチオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格と交互に配置されている。一般式(7)で表わされる重合体でも、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化基を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
ここで、一般式(7)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和、炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。R10は、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はそれぞれフェニル基または鎖状の炭化水素基であり、R10は、下記化学式(8)から(12)に示すいずれかの構造を備えていてもよい。
より具体的には、また、本発明の蓄電材料は下記化学式(27)から(32)で表わされる重合体であってもよい。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、下記化学式(27)から(31)におけるnは4以上、また、化学式(32)におけるmは4以上であることが好ましい。化学式(32)で表わされる重合体において、テトラチアフルバレン骨格を有する繰り返し単位とチオフェン骨格を有する繰り返し単位とは規則的に配列されていてよいし、ランダムに配列されていてもよい。また、nとmとの比は任意である。
また、本発明の蓄電材料は、下記一般式(13)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格がシス位およびトランス位で交互に重合することによって主鎖がジグザグ構造を有している。
ここで、一般式(13)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5からR8はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
また、R11、R12はそれぞれ独立に、アセチレン骨格およびチオフェン骨格の少なくともいずれかを含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はチオヘキシル基であり、前記R7およびR8はフェニル基であり、前記R11、R12は、下記化学式(14)で示される構造を備える、下記化学式(33)で示される重合体であってもよい。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、下記化学式(33)におけるnは2以上であることが好ましい。
また、本発明の蓄電材料は、下記一般式(15)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(15)中、Phは芳香族炭化水素二価基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
より具体的には、下記一般式(16)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(16)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5からR6およびR13からR16はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はチオアルキル基であり、前記R13からR16は水素原子である下記化学式(34)で示される重合体であってもよい。
あるいは、下記一般式(17)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(17)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5、R6およびR13からR16はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
一般式(15)から(17)で表わされる重合体でも、アセチレン骨格やベンゼン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、鎖状不飽和炭化水素がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
本発明の蓄電材料に用いる上述の各重合体は、一般式(1)で示される繰り返し単位を含むモノマーを重合させることにより合成することができる。上述した一般式(2)から(17)で示す構造を有する限り、どのような方法でモノマーを合成してもよい。しかし、重合中の活性な結合手の転位を防止し、規則性の高い重合体を形成するためには、カップリング反応による重合によって重合体を合成することが好ましい。具体的には、上述した一般式(2)から(17)で示す所定の置換基を含む分子構造を有し、重合の際、結合手となる位置に、ハロゲンやその他の官能基を有するテトラカルコゲノフルバレン骨格のモノマーを用意し、薗頭カップリング反応やその他のカップリング反応による重合によって、重合体を合成することが好ましい。
より具体的には、本発明の蓄電材料に用いる重合体の例として挙げた化学式(21)から(34)で表わされる化合物は、以下の4つの方法のいずれかによって合成することができる。以下、化学式(21)から(34)で表わされる化合物を化合物21から34と呼ぶ。
化合物21から25は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R2)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨウ素化体とNi(0)錯体を用いた脱ハロゲン化重縮合法を用いることによって合成することができる。ここで、式中、Xは硫黄または酸素原子を表し、codは1,5−シクロオクタジエン、bpyは2,2’−ビピリジンを表す。
化合物27から30および32は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が少なくともチオフェン骨格を介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R3)で示すように、Pd触媒を用い、テトラチアフルバレンのトリメチルスタニル体とチオフェン骨格のヨウ素化体とから、スチルカップリング反応によって合成することができる。テトラチアフルバレンのヨウ素化体とチオフェン骨格のトリメチルスタニル体とを用いても、同様にスチルカップリング反応によって合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
化合物31および34は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が、三重結合/芳香族/三重結合を介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R4)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨード体と3重結合部位を有する化合物との薗頭反応を用いて合成することができる。反応式R4から分るように、3重結合部位を有する化合物であれば特に制限なくテトラカルコゲノフルバレン骨格同士を結合させることができる。反応式R4においては、リンカー部位はチオフェン骨格を含んでいるが、リンカー部位は芳香族であればよく、例えばチオフェンの代わりにベンゼン環であっても同様の反応によって、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が、三重結合/芳香族/三重結合を介して結合した重合体を合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
化合物26、33は、テトラカルコゲン骨格同士が、三重結合のみを介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R5)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨード体と3重結合部位を有する化合物との薗頭反応により合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
上述の化合物21、26、31、32の合成方法は、例えば、J. mater. chem., 1967, 7(10), 1997に示されている。また、上述の化合物22、23、24の合成方法は、例えば、Mol. Cryst. Liq., Vol. 381, 101-112, 2002に示されている。
化合物23、25、27から30、34の合成方法は、以下の実施例において詳細に説明する。
上述したように本発明の蓄電デバイスは、テトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる蓄電材料を備えている。このため、蓄電材料が有機化合物で構成されてはいるが、分子量が大きく、有機溶媒に対する溶解度が低い。したがって、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスにおけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。また、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。このような特徴から、本発明の蓄電デバイスは、ハイブリッド自動車などの車両や携帯型電子機器に好適に用いられる。本発明の蓄電デバイスを備えた車両および携帯型電子機器は、蓄電デバイスが軽量であり、また、出力が大きく、かつ、繰り返し寿命が長いという特徴を有する。このため、特に、重量の点で従来の無機化合物を用いた蓄電デバイスでは達成し難かった軽量化が可能となる。
本実施形態では、本発明の蓄電材料を蓄電デバイス、より具体的には、リチウム二次電池に用いた形態を説明した。しかし、本発明の蓄電材料は、上述したように、二次電池以外の電気二重層キャパシタなどに用いてもよいし、生化学反応を利用するバイオチップなどの電気化学素子や、電気化学素子に用いられる電極にも好適に用いることができる。
この場合、上述の蓄電材料を用いた電極は、乾式法、湿式法、気相法の三つの方法により作製することができる。まず、乾式法による電極作製法を説明する。乾式法では、一般式(2)から(17)で示される重合体と結着剤とを混合し、得られたペーストを導電性支持体上に圧着させる。これにより膜状の蓄電材料が導電性支持体に圧着した電極が得られる。膜の形状としては、緻密膜であっても多孔質膜であってもよいが、乾式法による膜は多孔質になることが一般的である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、あるいは、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、セルロース系樹脂などの炭化水素系樹脂を用いることができる。安定性の点から、好ましくはフッ素樹脂を好適に用いることができる。
導電性支持体としては、Al、SUS、金、銀等の金属基板、Si、GaAs、GaNのような半導体基板、ITOガラス、SnO2のような透明導電性基板、カーボン、グラファイト等の炭素基板、または、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性有機基板を用いることができる。
導電性支持体としては、上述の材料によって単独で膜形状を有する緻密膜であってもよいし、網やメッシュのような多孔質膜であってもよい。あるいは、非導電性支持体であるプラスチックやガラス上に上述の導電性支持体の材料が膜状に形成されていてもよい。また、重合体および結着剤に加えて、膜中の電子伝導性を補助するべく、必要に応じて例えば導電助剤を混合してもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子が用いられる。また、膜内部にイオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を含ませてもよい。
次に、湿式法による電極作製法に関して説明する。湿式法では、一般式(2)から(17)で示される重合体を溶媒に混合分散させ、得られたスラリーを導電性支持体上に塗布あるいは印刷し、溶媒を除去することによって、膜状に形成することができる。電極膜中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
最後に、気相法による電極作製法を説明する。気相法では、一般式(2)から(17)で示される重合体を真空中でガス化させ、ガス状態の重合体を導電性支持体上に堆積、製膜することによって、膜状に形成することができる。本方法で用いることのできる製膜方法としては、真空蒸着法や、スパッタリング法、CVD法などの一般的な真空製膜プロセスが適応しうる。また、電極膜中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
以下、本発明による蓄電材料の合成例および本発明の蓄電デバイスの作製例およびその特性を評価した結果を示す。
まず、本発明による蓄電材料の合成例を説明する。
1.化合物23の合成
化合物23を以下に示す反応式(R7)に従って合成した。
1.1 化合物23bの合成
デカン−1−エン(化合物23a、126.4g、0.09mol)を2000mlのナスフラスコに取り、DMSO(1500ml)、蒸留水(88ml)、NBS(320g、1.8mol)を加え4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、無色透明液体を得た。収率は98%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ3.76、3.41、2.20、1.58〜1.29、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3400、2924、2854、1028cm-1にピークが観測された。元素分析の結果は、理論値が炭素50.64、水素8.92、臭素33.69重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.46、水素9.06、臭素33.58であった。以上の結果から、得られた液体は化合物23bであることが確認された。
1.2 化合物23cの合成
化合物23b(210g、860mmol)を2000mlナスフラスコに取り、アセトン(900ml)に溶解させ、蒸留水(900ml)に硫酸(160ml)、2クロム酸ナトリウム2水和物(260g、880mmol)を溶解させたものを加え1.5時間攪拌した。その後、エーテルを加え、さらに1時間攪拌した。エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、白色固体を得た。収率は92%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ3.93、2.65、1.65〜1.29、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1718、1066cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素51.07、水素8.14、臭素33.98重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.23、水素7.67、臭素34.59重量%であった。以上の結果から、得られた白色固体は化合物23cであることが確認された。
1.3 化合物23dの合成
2000mlのナスフラスコに、アセトン(1400ml)を取り、化合物23c(150g、620mmol)を加え50℃に加熱した。キサントゲン酸カリウム(100g、620mmol)を少量ずつ加え、4時間還流した。その後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルで抽出した後、乾燥、溶媒除去し、黄色透明液体を得た。収率は77%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ4.63、3.99、2.59、1.66〜1.23、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1719、1049cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素56.48、水素8.75、硫黄23.20重量%であるのに対し、実験値は、炭素57.86、水素9.04、硫黄21.79重量%であった。以上の結果から、得られた液体は化合物23dであることが確認された。
1.4 化合物23eの合成
2000mlのナスフラスコに、脱水トルエン(1300ml)を取り、化合物23d(130g、450mmol)を溶解し、沸点近くまで加熱した。その後5硫化2リン(171g、770mmol)をゆっくり加え20時間還流した。得られた溶液を濾過し、5硫化2リンを除去、エーテル抽出を行った。乾燥、溶媒除去し、黄色粉末を得た。収率は82%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ6.62、2.59、1.60〜1.25、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3040、2924、2852、1062cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素53.61、水素7.36、硫黄39.03重量%であるのに対し、実験値は、炭素54.42、水素6.76、硫黄39.13重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23eであることが確認された。
1.5 化合物23fの合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に化合物23e(3.1g、12mmol)を取り、アセトン140mlに溶解させ、20℃に温度を保持した。そこにあらかじめアセトン(210ml)に溶解させたm−クロロ安息香酸(48g、300mmol)を滴下し、滴下後30分攪拌し、アセトン除去後塩化メチレン(220ml)に溶解させた。そこへヘキサフルオロリン酸ナトリウム(20g、120mmol)を加えた。室温で1時間攪拌後、アセトニトリル(200ml)を加え、温度を20℃に保ちながら15分間攪拌し、トリエチルアミン(56ml)を加えさらに1時間攪拌した。その後、エーテル抽出、乾燥、溶媒除去し、橙色粉末を得た。収率は23%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ6.34、2.36、1.44、1.24、0.84ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3050、2922、2850、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素61.62、水素8.46、硫黄29.91重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.90、水素8.52、硫黄30.19重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23fであることが確認された。
1.6 化合物23gの合成
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に化合物23f(0.99g、2.3mmol)を取り、THF(25ml)に溶解させ−78℃まで冷却した。そこにブチルリチウム(4.4ml、1.53mol/Lへキサン溶液)をシリンジで滴下し、10分間攪拌した。その後、パーフルオロヘキシルジヨード(PFHI、1.5ml)を滴下し、−78℃で1時間、室温で1時間攪拌し、蒸留水を加え反応を終了させた。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒除去し、ヘキサンで再結晶を行ったのち、橙色粉末を得た。収率は40%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ2.42、1.53、1.27、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2952、2922、2852、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素38.83、水素8.46、硫黄18.85重量%であるのに対し、実験値は、炭素39.13、水素4.93、硫黄19.44重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23gであることが確認された。
1.7 化合物23の合成
窒素ガス気流下、50mlのシュレンク管に、Ni(cod)2(0.28g、1.0mmol)、1,5−cod(0.11g、1.0mmol)を加え、DMF7mlに溶解させた。そこに2,2’−ビピリジン(0.19g、1.2mmol)を加え、溶液の色が紫色になったことを確認したのち化合物23g(0.46g、0.67mmol)を加えた。50℃で24時間攪拌後、メタノールに反応溶液を直接投入した。得られた粉末を洗浄、濾過、メタノールを用い再沈殿を行い、乾燥し、茶色粉末を得た。
数平均分子量(Mn)は3600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素58.16、水素8.21、硫黄28.24重量%であるのに対し、実験値は、炭素56.31、水素6.96、硫黄26.99重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23であることが確認された。
2.化合物25の合成
以下、化合物25の合成例を説明する。
2.1 1−ブロモ−2−ドデカノールの合成
1000mlのナスフラスコ中、800mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に16.9gの1−ドデカンを溶解し、25mlのH2O、および100gのN−ブロモスクシンイミド(NBS)を加え、室温で4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を減圧除去した。精製後、無色透明液体を得た。収率は59%であった。
2.2 1−ブロモ−2−ドデカノンの合成
1000mlのナスフラスコ中、110mlのアセトンに14gの1−ブロモ−2−ドデカノールを溶解し、150mlの蒸留水および25mlの硫酸に35gのニクロム酸ナトリウム2水和物をあらかじめ溶解させた溶液を滴下した。室温で1.5時間攪拌後、250mlのエーテルを加え、脱水、溶媒除去後、白色固体を得た。収率は80%であった。
2.3 O−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オンの合成
1000mlのナスフラスコ中、400mlのアセトンに9.2gの1−ブロモ−2−ドデカノンを溶解し、50℃に加熱した。その後、5.6gのキサントゲン酸カリウムを加え、4時間還流した。還流後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルにて抽出し、乾燥、溶媒除去を行い、黄色結晶を得た。収率は45%であった。
2.4 4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオンの合成
1000mlナスフラスコ中、600mlの脱水トルエンに44gのO−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オンを溶解し、沸点近くまで加熱した。その後、120gの5硫化2リンを徐々に投入し、約20時間還流した。得られた溶液をろ過し、エーテルで抽出、乾燥、溶媒除去後、赤色油状の目的物を得た。収率は63%であった。
2.5 2,6−ジデシルテトラチアフルバレンの合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に3.3gの4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオンを入れ、40mlのアセトンに溶解させた。あらかじめ210mlのアセトンに溶解させた48gのm−クロロ過安息香酸を滴下した。滴下後30分攪拌し、アセトンを除去後、220mlの塩化メチレンに溶解し、均一になったところで20gのヘキサフルオロリン酸ナトリウムを加えた。室温で1時間攪拌し、200mlのアセトニトリルを加えた。15分攪拌し、56mlのトリエチルアミンを加え、さらに1時間攪拌した。その後、エーテル抽出し、乾燥、溶媒除去後、精製、再結晶を行い、橙色粉末を得た。収率は22%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、5.62(s,4H,Sr−H)、2.27(t,4H,J=7.6Hz,α−CH2−)、1.53(m,4H,β−CH2−)、1.29(m,28H,−CH2−)、0.88(t,6H,J=6.4Hz.−CH3)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3050、2952、2920、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素64.41、水素9.15、硫黄26.45重量%であるのに対し、実験値は、炭素64.64、水素9.18、硫黄26.40重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジデシルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.6 2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンの合成
式(R8)にしたがって、2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンを合成した。
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に1.1gの2,6−ジデシルTTFを25mlのTHFに溶解し、ドライアイス−メタノール浴で−78℃まで冷却した。その後、4.4mlのブチルリチウム(BuLi)を滴下し、10分攪拌した。その後、1.5mlのパーフルオロヘキシルジヨード(PFHI)を滴下し、−78℃で1時間、室温で1時間攪拌した後、蒸留水を滴下し反応を終了させた。エーテルにて抽出、脱水、溶媒除去後、精製、再結晶を得て橙色粉末を得た。収率は35%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、2.37(t,4H,J=7.6Hz,α−CH2−)、1.54(m,4H,β−CH2−)、1.27(m,32H,−CH2−)、0.88(t,6H,J=6.4Hz,−CH3)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2954、2916、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素42.39、水素5.75、硫黄17.41、ヨウ素34.45重量%であるのに対し、実験値は、炭素42.18、水素5.33、硫黄17.75、ヨウ素36.00重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.7 2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンの合成
式(R9)にしたがって、2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンを合成した。
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に2.8mlのジソプロピルアミン、15mlのTHFを入れ、−78℃に保持した。そこに13.7mlのBuLiを加え、約1時間攪拌し、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を合成した。次に、窒素ガス気流中下のシュレンク管に3.0gの2,6−ジフェニルテトラチアフルバレン(アルドリッチ社製)を加え、50mlのTHFに溶解させ−78℃に保持した。その後、9.33gのパーフルオロヘキシルジヨードを滴下し、1時間攪拌し、さらに室温にて1時間攪拌した。反応後、蒸留水を加え反応を停止させたのち、ろ過、洗浄、再結晶を行い、赤色針状結晶を得た。収率は52%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、7.4〜7.5(フェニル基,10H)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3052、734、691cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素35.53、水素1.64、硫黄21.05、ヨウ素41.78重量%であるのに対し、実験値は、炭素35.43、水素1.68、硫黄22.79、ヨウ素37.67重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.8 化合物25(ポリ(3,7−ジフェニルテトラチアフルバレン−3,7−ジデシルテトラチアフルバレン))の合成
式(R10)にしたがって、化合物25を合成した。
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に0.35gのNi(Cod)2、0.14gの1,5−codを投入し、10mlのDMFに溶解させた。そこに0.16gの2,2’−ビピリジンを加え、溶液が紫色になったことを確認後、0.21gの2,6−ジヨード3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンと0.26gの2,6−ジヨード3,7−ジデシルテトラチアフルバレンを加えた。50℃で24時間攪拌後、反応液をメタノールで再沈殿させた後、ろ過、アンモニア水で洗浄を行った。その後、EDTA・2K水溶液、熱水で洗浄後、再沈殿、乾燥後茶色粉末を得た。収率は88%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、0.88、1.25、2.4(アルキル基)、6.5、7.5(フェニル基)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2800〜2700、1600〜1450、1200〜1300cm-1にピークが観測された。以上の結果から、得られた化合物は化合物25であることが確認された。
3. 化合物27の合成
化合物27を以下に示される式(R11)にしたがって合成した。
3.1 化合物27aの合成
化合物27aの合成は、出発物質にドデカン−1−エンを用い、それ以外は化合物23gと同様の方法にて合成し、橙色粉末の化合物27aを得た。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、2.37、1.54、1.27、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2954、2916、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素42.39、水素5.75、硫黄17.41重量%であるのに対し、実験値は、炭素42.18、水素5.33、硫黄17.75重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物27aであることが確認された。
3.2 化合物27の合成
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に市販の化合物27b(2,5−ビストリメチルスタニルチオフェン、0.15g、0.36mmol)を取り、DMF(25ml)を加えた。そこへPd(PPh3)4(40mg、0.035mmol)および化合物27a(0.26g、0.36mmol)を加え、70℃で48時間攪拌した。反応後、フッ化カリウム水溶液(400ml)に反応液をそのまま投入し、1時間攪拌した。この操作を3回繰り返した後、さらに1NHCl(400ml)を加え、3回繰り返し洗浄を行った。得られた粉末を濾過、メタノールを用いて再沈殿を行い、乾燥した後赤色粉末の化合物27を得た。収率は91%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、7.01、2.85、1.65、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。数平均分子量(Mn)は6800であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.21、水素7.41、硫黄26.80重量%であるのに対し、実験値は、炭素59.17、水素7.04、硫黄26.06重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物27であることが確認された。
4.化合物28の合成
化合物28を、以下に示される式(R12)にしたがって合成した。
4.1 化合物28aの合成
化合物28aは、反応式(R9)にしたがって、上記2.7で記載した方法にしたがい、合成した。
4.2 化合物28の合成
窒素雰囲気中、50mlのシュレンク管に市販の2,5−ビス(トリメチルスタニル)チオフェンを0.366g取り、DMFを40ml加えた。そこに、96mgPd(PPh3)4と化合物28aを0.5g加え、90℃で48時間攪拌した。反応後、フッ化カリウム水溶液500mlに反応液を滴下し、2時間攪拌後、ろ過。1NHCl500mlで洗浄し、メタノールで洗浄、乾燥後茶色粉末の化合物28を得た。収率は51%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、6.61、1.25〜0.88ppm付近に化学シフトが観測された。数平均分子量(Mn)は4400であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.51、水素2.77、硫黄36.72重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.51、水素2.76、硫黄35.73重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物28であることが確認された。
5. 化合物29の合成
化合物29を、以下に示される式(R13)にしたがって合成した。
化合物29aは、市販のジフェニルテトラチアフルバレンをTHFに溶解させ、そこへリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を加え、その後トリメチルスタニルクロライドを滴下することにより得られたものを用いた。化合物29aおよび化合物29bを用いて、化合物28の合成と同様の方法により合成した。合成物は茶色粉末で収率は46%であった。
得られた化合物の数平均分子量(Mn)は3600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素66.42、水素5.57、硫黄28.00重量%であるのに対し、実験値は、炭素64.31、水素5.85、硫黄26.11重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物29であることが確認された。
6. 化合物30の合成
化合物30を以下の式(R14)にしたがって合成した。
2,5−ビス(トリメチルスタニル)チオフェンの代わりに、2,5−ビス(トリメチルスタニル)ジチオフェンを用いたこと以外、化合物28と同じ方法で合成した。合成物は茶色粉末で収率は68%であった。
得られた化合物の数平均分子量(Mn)は6600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素56.70、水素2.56、硫黄34.94重量%であるのに対し、実験値は、炭素56.21、水素2.62、硫黄33.78重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物30であることが確認された。
7. 化合物34の合成
化合物34を、以下に示される式(R15)にしたがって合成した。
具体的には、化合物34の合成は、4,5位にヨウ素を置換基として有する化合物34fと、アセチレン部位を有する1、4―ジエチニルベンゼンとを脱ハロゲン化水素重縮合させることにより行った。
7.1 化合物34a(4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3−ジチオール−2−チオン)の合成
1000mlのナスフラスコに、エチレントリチオカルボナート(20g、146mmol)およびジメチルアセチレンジカルボキシレート(21.6ml、176mmol)を反応容器に入れ、トルエン(75ml)に溶解させ、6時間還流を行った。還流後、ヘキサン(200ml)を加え、沈殿を生成させ、さらに氷冷を行い、析出した結晶をろ過、乾燥し、黄色結晶を得た。収量は29gであった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により行った。H−NMR測定の結果、3.90ppmに化学シフトが観測され、IR測定の結果、1741−1718(C=O振動)、1058(C=S伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が化合物34aであることを確認した。
7.2 化合物34b(4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3−ジチオール−2−オン)の合成
500mlのナスフラスコに酢酸水銀(7.9g、25mmol)を入れ、氷酢酸(65ml)を加えた。その後、クロロホルム(55ml)に溶解させた化合物34a(2.5g、10mmol)を滴下し、室温で二時間撹拌した。撹拌した溶液をろ過、炭酸水素ナトリウムを用い中和し、クロロホルムを用いて抽出した。乾燥、溶媒除去後、淡黄色結晶を1.9g得た。収率は83%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、3.85、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2952−2926(C−H伸縮振動)、1730(C=O振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が化合物34bであることを確認した。
7.3 化合物34c(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオン)の合成
200mlのシュレンク管に21.6mlの二硫化炭素(120mmol)をいれ、金属ナトリウム(2.76g)を加え1時間撹拌した後、DMF(24ml)を加え、一晩還流させた。還流後、10℃に保ち、ヘキシルブロマイド(16.9ml)を加え室温で1時間ほど撹拌した。得られた溶液に水を少量加え、クロロホルムで抽出し、乾燥、溶媒除去を行い、オレンジ色のオイル状化合物を得た。収量は21.9gであった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、2.87、1.78−1.20、0.90ppmに化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2945−2854(C−H伸縮振動)、1067(C=S伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34cであることを確認した。
7.4 化合物34d(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−4',5'―ビス(メトキシカルボニ)ルテトラチアフルバレン)の合成
300mlのナスフラスコに化合物34c(2.93g、8.0mmol)および化合物34b(1.87g、8.0mmol)をいれ、トルエン(100ml)に溶解させ、さらにトリエチルフォスファイト(13ml、80mmol)を加え、16時間還流した。還流後、精製を行い、濃赤色のオイル状物質を1.53g得た。収率は35%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、3.85、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2952−2926(C−H伸縮振動)、1730(C=O振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34dであることを確認した。
7.5 化合物34e(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−テトラチアフルバレン)の合成
200mlのシュレンク管に化合物34d(0.6g、1.08mmol)を加え、DMF(140ml)に溶解させ、そこにリチウムブロマイド(8.4g、97.2mmol)を加え140℃で3時間撹拌した。撹拌後、室温まで冷却し、ブリン(100ml)を加え、塩化メチレンで抽出を行った。乾燥、溶媒除去後、茶色のオイル状物質が0.36g得られた。収率は77%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定により同定した。H−NMRの結果、6.32、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、3066(C=C−H振動)2952−2926(C−H伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34eであることを確認した。
7.6 化合物34f(4、5−ビス(ヘキシルチオ)−4,5'−ジヨードテトラチアフルバレン)の合成
アルゴン雰囲気下、−78℃において、25mlのシュレンク管にジイソプロピルアミド(0.35ml)をとり、THF(3ml)を加えた。そこに1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液(1.56ml、2.5mmol)を加え、1時間撹拌することにより、リチウムジイソプロピルアミド(以下、LDA)溶液を得た。
次に、窒素雰囲気下、−78℃において、50mlのシュレンク管に化合物34e(0.36g、0.82mmol)をとり、THF(10ml)を加えた。この溶液にLDAを滴下し、30分間撹拌した。続けて、パーフルオロヘキシルジヨード(以下、PFHI)(0.46ml、2.13mmol)を加え、1時間撹拌し、室温でさらに1時間撹拌した。少量の水を加え、反応を止め、エーテルにより抽出し、乾燥、溶媒除去後、ヘキサンにより再結晶を行った。黄色粉末が得られ、収量は0.13gで収率は23%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定、IR測定(KBr法)および元素分析により同定した。H−NMRの結果、2.80、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。化合物34eでは観測されたTTF環の2つのプロトン由来の6.3ppm付近のピークが、得られた化合物では観測されなかった。このことからTTFはヨウ素化されていることがわかる。IR測定の結果、2950−2852(C−H伸縮振動)cm-1にピークが観測された。化合物34eで観測された3060cm-1付近にみられるTTF環のC−H伸縮振動が消失していることからもTTF環のプロトンがヨウ素化されていることが確認できた。元素分析の結果については、理論値が炭素31.40、水素3.81、硫黄27.94、ヨウ素36.85重量%であるのに対し、実験値は、炭素31.67、水素3.78、硫黄27.97、ヨウ素37.16重量%であった。これらの結果から、得られた化合物は、化合物34fであることを確認した。
7.7 化合物34(ポリ−1,2−(p−アセチルフェニル−テトラチアフルバレン))の合成
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に化合物34f(138mg、0.2mmol)を入れ、THF20mlに溶解させ、ヨウ化銅(2mg、0.01mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(以下、Pd(PPh3)4)(12mg、0.01mmol)を加えた。さらにトリエチルアミン(15ml)を加え、撹拌した。ここに、化合物34gである1,4−ジエチニルベンゼン(25mg、0.2mmol)を加え、60℃で48時間撹拌した。反応後メタノール(500ml)に反応液を移しさらに撹拌した。洗浄、THFに溶解させメタノールを用い、再沈殿を行い、乾燥後黒色粉末を得た。収率は91%であった。
得られた化合物の構造は、分子量測定、H−NMR(CDCl3)測定、IR測定および元素分析から同定した。以下、結果を順に示す。
得られた化合物の分子量測定はTHFを用いたGPCによって行った。得られた重量平均分子量は、ポリスチレン換算で5500(Mw/Mn=1.49)であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.17、水素5.41、硫黄34.42重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.45、水素5.09、硫黄33.46重量%であり、実験値と理論値はある程度一致している。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、モノマーの場合と比較して、全てのピークがブロードになっており、分子が重合体であることが示唆された。0.95(−CH3)、1.15−1.80(−(CH2)4―)、2.85(SCH3)、7.10−7.60(芳香族)に化学シフトが観測された。
IR測定の結果、2990−2800、2172、2150、1480、1285、650−800cm-1付近にピークが観測された。ジエチニルモノマーの場合に観測された3重結合伸縮振動に由来する3282cm-1付近のピークおよび1置換アセチレンの伸縮振動に由来する2090cm-1付近のピークが観測されず、2置換のアセチレン伸縮振動由来の2172、2150cm-1付近のピークが観測された。このことから重合が進行していることが確認できる。また、650−800cm-1付近にTTF骨格由来のC−S伸縮振動、環面外変角振動由来のスペクトルが観測されたことから、TTF骨格を有する重合体であることが確認された。これらの結果から得られた粉末は化合物34であることが分かった。
以下、本発明の蓄電デバイスを作製し、特性を評価した結果を説明する。
1. 蓄電デバイスの作製
1.1 化合物29を用いた蓄電デバイスAの作製
正極は、以下の様にして作製した。正極活物質として、化学式(29)で示される重合体であるPoly−1,4−(p−thiol−TTF)を用いた。用いたPoly−1,4−(p−thiol−TTF)の平均分子量はおよそ10000、理論最大容量は78mAh/gであった。Poly−1,4−(p−thiol−TTF)は混合前に、乳鉢で粉砕してから用いた。乳鉢粉砕後の重合体の粒子径はおよそ10μm程度であった。活物質としてPoly−1,4−(p−thiol−TTF)37.5mgと、導電剤としてアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにバインダとしてポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、正極活物質合剤を得た。この正極合剤をアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行ない、これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き裁断して正極電極Aを作製した。正極活物質の塗布重量は、電極単位面積あたり1.7mg/cm2であった。
負極活物質としては金属リチウムを用いた。金属リチウム(厚み300μm)を直径15mmの円盤状に打ち抜き、同じく直径15mmの円盤状の集電板(ステンレス製)に貼り付けて、負極を作製した。
電解液には、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)を体積比1:1で混合した溶媒を用い、塩としてこれに1mol/L濃度の6フッ化リン酸リチウムを溶解した。用いた溶媒の比誘電率は78である。なお、電解液は、正極、負極、多孔質ポリエチレンシート(厚み20μm)に含浸させて用いた。
これらの正極、負極、および電解液を、図1を参照して説明したようにコイン型電池のケースに収納し、ガスケットを装着した封口板で挟み、プレス機にて、かしめ封口した。これにより、コイン型蓄電デバイスAを得た。
1.2 化合物34を用いた蓄電デバイスBの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物34を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Bおよびコイン型蓄電デバイスBを得た。
1.3 化合物23を用いた蓄電デバイスCの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物23を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Cおよびコイン型蓄電デバイスCを得た。
1.4 化合物25を用いた蓄電デバイスDの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物25を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Dおよびコイン型蓄電デバイスDを得た。
1.5 化合物27を用いた蓄電デバイスEの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物27を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Eおよびコイン型蓄電デバイスEを得た。
1.6 化合物28を用いた蓄電デバイスFの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物28を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Fおよびコイン型蓄電デバイスFを得た。
1.7 化合物30を用いた蓄電デバイスGの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物30を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Gおよびコイン型蓄電デバイスGを得た。
1.8 比較例の蓄電デバイスの作製
比較例として下記化学式(36)で示される重合体(poly−TTF化合物)を正極活物質として用いた蓄電デバイスを作製した。poly−TTFはポリビニルアルコールとテトラチアフルバレンカルボキシル誘導体を脱水縮合により反応させて合成した。用いたpoly−TTFの重量平均分子量はおよそ50000であった。用いた重合体以外は蓄電デバイスAと同様の方法で、比較例の蓄電デバイスを作製した。
2. 電極の評価
作製した電極A〜Gの電気化学的な酸化還元反応に伴う安定性評価を行った。安定性評価は、作用極として電極A〜G、あるいは比較例の電極を作用極とし、対極としてリチウム金属、参照極としてリチウム金属を用いた。電解液を浸したビーカーセル内にこれらの電極を配置した。電解液としては、炭酸プロピレン(PC)を溶媒とし、濃度1mol/Lの6フッ化りん酸リチウムを支持電解質塩として溶解したものを用いた。
安定性評価は、リチウム参照極に対して下限3.0−上限4.0Vの電位範囲を、浸漬電位からまず貴な方向へ0.05mV/secの走査速度で走査し、上限−下限間を繰り返し走査することで行った。走査は10回行った。電極表面の吸着ガスや、電解液中の溶存酸素による影響を排除するために、3回目の走査で得られた走査結果と、10回目の走査で得られた走査結果との比較から、安定性を評価した。
測定の結果、電極A〜Gならびに比較例の電極において、テトラチアフルバレン骨格に由来する2段階の酸化還元電流ピークが観測され、これらの電極が酸化還元活性を有していることが確認できた。安定性に関しては、電極A〜Gでは、10サイクル目の測定結果における各段階での酸化還元ピーク電流値と3サイクル目のピーク電流値とは一致していたが、比較例の電極においては、10サイクル目のピーク電流値は3サイクル目の値に比べ20%の減少が見られた。このことから、実施例の電極は、酸化還元時の安定性が高いのに対して、比較例の電極の酸化還元活性は20%低下したものと考えられる。
3. 蓄電デバイスの評価
蓄電デバイスA〜Gおよび比較例の蓄電デバイスの充放電容量の評価を行った。充放電電圧範囲は、各材料の酸化還元が起こる電位領域で実施した。具体的には、蓄電デバイスAは充電上限電圧を4.1V、放電下限電圧を3.1Vとし、蓄電デバイスBは、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.2Vとし、蓄電デバイスC〜Gは、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.0Vとした。0.1mAの定電流充放電を行い、充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はゼロとした。
図3から図9は、それぞれ蓄電デバイスA〜Gの充放電評価における3サイクル目の電池容量と電池電圧との関係を示すグラフである。図3から図9に示されるように、蓄電デバイスA〜Gは、いずれもおよそ3〜4Vの電圧範囲で可逆な充放電動作が可能であることが確認された。以上の結果から、本発明の重合体が蓄電デバイス活物質として動作することを確認した。
蓄電デバイスの容量評価は、3サイクル目の充放電時の放電容量を活物質重量で割った値、すなわち活物質重量あたりの放電容量で評価した。また、活物質の放電容量の理論容量に対する値を百分率で示した。また、充放電評価は50サイクルまで行った。3サイクル目の放電容量を100%とした場合の、10サイクル目および50サイクル目の放電容量維持率から、繰り返し特性を評価し、結果を表1に示した。
表1に示すように、本発明の蓄電デバイスである蓄電デバイスA〜Gでは、50サイクル目まで繰り返しても容量維持率がいずれも97%以上と高く、容量低下が発生せず、良好なサイクル特性が得られた。この結果より、本発明の蓄電材料は、可逆的な充放電反応が可能な化合物であることがわかる。さらに、およそ3.0〜4.0V(リチウムを基準電位として)の電位範囲で可逆的な充放電反応が可能であることが分かった。
一方、比較例の蓄電デバイスは、初期には良好な充放電特性を示していたが、充放電容量が、10サイクル目では初期容量の80%、50サイクル目では40%まで低下した。本願発明者が検討したところ、これは、充放電サイクルの初期段階では、テトラチアフルバレン骨格から2電子酸化還元反応が正しく行われているが、充放電を繰り返すうちに何らかの構造変化やテトラチアフルバレン骨格の周囲の環境の変化が生じ、50サイクル目では1電子酸化還元反応しか生じなくなり、実質的に容量が低下したものと考えられる。
以上の結果から、テトラカルコゲノフルバレンを重合体化すれば、どのような重合体でも良好な繰り返し特性が得られるわけではなく、分子設計が非常に重要であることを確認した。すなわち、本発明のテトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有する重合体を設計することにより、良好な繰り返し特性を得る蓄電材料を提供できることを明らかにした。
蓄電デバイスの放電容量が理論容量に対して低下している、すなわち利用率が低い例が見られるが、これは電極活物質と電解液の濡れ性の問題などが推測される。電極活物質が充放電反応するためには、電極活物質が電解液と接触することが必要であるが、活物質と電解液との濡れ性が低いと活物質のすべてが反応に寄与できなくなることが起こりうるからである。これは、電解液組成の最適化などのデバイス設計により回避できると推測される。
表1に示すように、蓄電デバイスC、Dは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体であり、理論容量は126〜128mAh/gと高いものの、利用率は60〜70%にとどまっており、本発明の蓄電デバイスの中では、利用率が比較的低い。したがって、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体の利用率を高めるためには、デバイス設計上の最適化を必要とする材料であると考えられる。
一方、表1に示すように、蓄電デバイスA、E〜Gは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士がチオフェン骨格を介して結合した重合体であり、利用率は93%以上である。このことから、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士がチオフェン骨格を介して結合した重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格以外の置換基の種類に依らず利用率が高く、高容量な好ましい電極活物質であるといえる。また、理論容量は78〜128mAh/gと高い。
蓄電デバイスBは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が(―C≡C―ph―C≡C―)骨格を介して重合した重合体であり、利用率が96%と高い。すなわち、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が(―C≡C―ph―C≡C―)骨格を含んで重合した重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格以外の置換基の種類に依らず利用率が高く、高容量な好ましい電極活物質であるといえる。また、理論容量は96mAh/gと高い。
また、表1に示すように、本実施例で用いた蓄電デバイスの理論容量は、78〜128mAh/gであるが、本発明の蓄電デバイスの理論容量は、この範囲の値に限られない。一般式(1)から(17)で示す範囲において、蓄電材料の分子設計を行うことによって、この範囲よりも大きな理論容量を有する蓄電デバイスを実現することが可能である。
たとえば、蓄電デバイスCにおけるオクチル基をメチル基にすれば容易に分子を軽量化することができ、それによって高容量化することができる。蓄電デバイスCにおけるオクチル基をメチル基にした場合、理論容量は、126mAh/gから233mAh/gに増大する。また、例えば、蓄電デバイスEにおけるデシル基をメチル基にすれば理論蓄電容量を95mAh/gから172mAh/gに増大させることができる。
このように、本発明の電極活物質によれば、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明による蓄電材料および蓄電デバイスの実施形態を説明する。本実施形態では、リチウム二次電池を例に挙げて本発明による蓄電デバイスおよび本発明による蓄電材料を説明する。しかし、本発明はリチウム二次電池やリチウム二次電池の正極活物質に限られず、化学反応を利用したキャパシタなどにも好適に用いられる。
図1は、本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるリチウム二次電池を模式的に示した断面図である。図1に示すリチウム二次電池は、正極31と、負極32と、セパレータ24とを備えている。正極31は正極活物質層23および正極集電体22を含み、正極活物質層23は正極集電体22に支持されている。同様に、負極32は負極活物質層26および負極集電体27を含み、負極活物質層26は負極集電体27に支持されている。
以下において詳細に説明するように、正極活物質層23は、正極活物質として本発明による蓄電材料を含む。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、金、銀、ステンレス、アルミニウム合金等からなる金属箔や金属メッシュあるいはこれらの金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどが用いられる。
負極活物質層26は、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する公知の負極活物質が用いられる。例えば天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物、等のリチウムを可逆に吸蔵放出することの出来る材料、もしくは、活性炭などの電気二重層容量を有する炭素材料、π電子共役雲を有する有機化合物材料などを用いることができる。これら負極材料は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の負極材料と混合して用いてもよい。負極集電体27には、例えば銅、ニッケル、ステンレスなど、リチウムイオン二次電池用負極の集電体として公知の材料を用いることができる。正極集電体22と同様、負極集電体27も金属箔や金属メッシュあるいは金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどの形態で用いることができる。
正極活物質層23および負極活物質層26は、それぞれ正極活物質および負極活物質のみを含んでいてもよいし、導電剤および結着剤のいずれか一方、または、両方を含んでいてもよい。導電剤には、正極活物質および負極物質の充放電電位において、化学変化を起こさない種々の電子伝導性材料を用いることができる。例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などを単独又はこれらの混合物として用いることができる。また、イオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を正極中に含ませてもよい。
結着剤は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)をはじめとするフッ素系樹脂やそれらの共重合体樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸やその共重合体樹脂などを結着剤として用いることができる。
正極31および負極32は正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向し、電極群を構成している。セパレータ24は、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた多孔膜である。耐有機溶剤性および疎水性に優れるという観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを単独または組み合わせたポリオレフィン樹脂が好ましい。セパレータ24の代わりに、電解液を含んで膨潤し、ゲル電解質として機能するイオン伝導性を有する樹脂層を設けてもよい。
電極群はケース21の内部の空間に収納されている。また、ケース21の内部の空間には電解液29が注入され、正極31、負極32およびセパレータ24は電解液29に含浸されている。セパレータ24は、電解液29を保持する微細な空間を含んでいるため、微細な空間に電解液29が保持され、電解液29が正極31と負極32との間に配置された状態をとっている。ケース21の開口は、ガスケット28を用いて封口板25により封止されている。
電解液29は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解する支持塩とから構成される。非水溶媒としては、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることのできる公知の溶媒を使用可能である。具体的には、環状炭酸エステルを含んでいる溶媒を好適に用いることが出来る。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートに代表されるように、非常に高い比誘電率を有しているからである。環状炭酸エステルの中でもプロピレンカーボネートが好適である。なぜなら、凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低く、蓄電デバイスを低温でも作動させることができるからである。
また、環状エステルを含んでいる溶媒もまた好適に用いることが出来る。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンに代表されるように、非常に高い比誘電率を有していることから、これら溶媒を成分として含むことにより、電解液29の非水溶媒全体として非常に高い誘電率を有することができる。
非水溶媒としてこれらの1つのみを用いてもよいし、複数の溶媒を混合して用いてもよい。その他の溶媒として用いることの出来る溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状あるいは鎖状のエーテル等が挙げられる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非水溶媒を用いることができる。好ましくは、非水溶媒の比誘電率は55以上90以下である。
支持塩としては、以下のアニオンとカチオンとからなる塩を使用することが可能である。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどを用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンや、マグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオン等を用いることができる。
なお、カチオン種としては、4級アンモニウムカチオンやリチウムカチオンを用いることが好ましい。4級アンモニウムカチオンはイオン移動度が高く、導電率の高い電解液を得ることが出来ること、また対極として反応速度の速い活性炭等の電気二重層容量を有する負極を用いることが出来ることから、高出力な蓄電デバイスを得ることが出来るからである。また、リチウムカチオンは、対極として反応電位が低く、容量密度の高い、リチウムを吸蔵放出可能な負極を用いることが出来ることから、高電圧、高エネルギー密度な蓄電デバイスを得ることが出来るからである。
図2は、正極31の構造を拡大して示す模式的な断面図である。正極集電体22に支持された正極活物質層23は正極活物質粒子41と、導電剤および結着剤からなる導電剤部42とを含んでいる。導電剤部42は、電解液29を保持しうるように多孔質になっている。図2では、正極活物質粒子41を模式的な円形で示しているが、正極活物質粒子41は、鎖状の重合体が折り重なって凝集した粒子形状を備えている。鎖状の重合体が折り重なることによって粒子の内部にまで電解液29が侵入し得る空孔が形成されている。正極活物質粒子41は、概ね球形状を備えているが、重合体が凝集することによって形成する形状であれば特に制限はない。正極活物質粒子41の大きさは、1μmから10μm程度である。
以下、正極活物質粒子41として用いる蓄電材料を詳細に説明する。本発明の蓄電材料は、可逆的に酸化還元反応を行う有機化合物であり、具体的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有する重合体である。テトラカルコゲノフルバレン骨格は、下記一般式(1)で表わされる。
ここで、Xはカルコゲン、すなわち、周期表第16元素である。具体的には、カルコゲンは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子である。R1からR4のうちから選ばれる2つは、隣接する一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格あるいは一般式(1)以外の化学構造を有するモノマーとの結合を表し、他の2つはそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
一般式(1)で示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格は、2つの5員環のそれぞれにおいて、不対電子を有するカルコゲン原子と、二重結合とを含む。これにより、5員環が非局在化したπ電子共役雲を形成している。このため、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、この2つの5員環から1つずつπ電子を放出した酸化状態をとっても安定な状態を維持し得る。
以下の式(R1)に示すように、一般式(1)に示すテトラカルコゲノフルバレン骨格が1電子酸化を受けると、2つの5員環のうち一方の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に1つ配位する。さらに、1電子酸化を受けると、他方の5員環の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、もう1つ、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に配位する。
酸化された状態でも、テトラカルコゲノフルバレン骨格は安定であり、電子を受け取ることによって還元され、電気的に中性な状態に戻ることができる。したがって、この可逆的な酸化還元反応を利用することにより、テトラカルコゲノフルバレン骨格を、電荷の蓄積が可能な蓄電材料として用いることができる。例えば、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を、リチウム二次電池の正極に用いる場合、放電時には、テトラカルコゲノフルバレン骨格が電気的に中性の状態、つまり、式(R1)の左側の状態をとる。また、充電状態では、テトラカルコゲノフルバレン骨格が正に帯電した状態、つまり、式(R1)の右側の状態をとる。
本発明の蓄電材料は、一般式(1)に示すテトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる。一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格が重合されていることによって、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む分子の分子量が大きくなり、有機溶媒に対する溶解度が低下する。したがって、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスにおけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。特に、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。
なお、π電子共役雲を有する高分子として、ポリアニリンやポリチオフェンおよびこれらの誘導体が知られている。これらの高分子はπ電子共役雲を主鎖に含むという点で本発明の蓄電材料の重合体と類似している。しかし、ポリアニリンやポリアセチレンおよびこれらの誘導体では、主鎖全体に共役二重結合による共鳴構造が形成されるため、主鎖から電子を引き抜くと、それにより生じる正電荷は主鎖において、ある程度広がって分布する。その結果、隣接する繰り返単位から続けて電子を引き抜こうとした場合、最初の電子を引き抜くことによって生じた正電荷が隣接するユニットにわたって非局在化し、電気的反発によって隣接するユニットから電子を引き抜きにくくなる。
これに対し、一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体の場合、π電子共役雲はそれぞれの5員環内においてのみ電子が非局在化する。このため、重合体の5員環ごとに酸化還元反応が完結し、ある5員環の酸化状態は、隣接する5員環の酸化還元反応に大きな影響を与えないと考えられる。このため、重合体に含まれる5員環の数に対応した電子の授受が可能である。つまり、本発明の蓄電材料は高い蓄電容量を達成することができる。
前述したように一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体が有機溶媒に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むこと、つまり、重合体の重合度(以下の一般式または化学式で示すn、あるいは、nとmとの和)は4以上であることが好ましい。これにより、有機溶媒に溶けにくい蓄電材料が実現する。より好ましくは、重合体の重合度は、10以上であり、より好ましくは、20以上である。
また、重合体に一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格が含まれる限り、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を有するモノマーと、一般式(1)以外の化学構造を有するモノマーとの共重合体であってもよい。ただし、より高いエネルギー密度を得るためには、ラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合することにより、重合体の主鎖を構成していることが好ましい。この場合、例えば、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格のR1からR4のうち、隣接するテトラカルコゲノフルバレン骨格との結合に用いられないものが互いに異なるテトラカルコゲノフルバレン骨格をそれぞれ含む2つ以上のモノマーの共重合体であってもよい。言い換えれば、いずれもテトラカルコゲノフルバレン骨格を含むが置換基が互いに異なる2つ以上のモノマーを共重合させた重合体であってもよい。
以下、本発明による蓄電材料の重合体をより具体的に説明する。
まず、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格のR1およびR3つまり、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1位および4位が隣接するテトラカルコゲノフルバレン骨格の4位および1位とそれぞれ結合する以下の一般式(2)で示される重合体を本発明による蓄電材料に用いることができる。一般式(2)で示される重合体では、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合し、重合体の主鎖を形成している。したがって、主鎖における酸化還元反応に寄与する構成部分の割合が高く、蓄電材料として高いエネルギー密度で電荷を蓄積することができる。
ここで、一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5およびR6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽炭化水素基は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。つまり、炭素原子以外に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含んでいてもよい。nは重合度を示し、2以上の整数である(以下の一般式または化学式においても同じ)。
Xは硫黄原子であることが好ましく、また、R5およびR6は鎖状の炭化水素基または芳香族基であることが好ましい。Xが硫黄原子である場合、その原子量はセレン原子、テルル原子と比較して小さいため、重量あたりのエネルギー密度が大きくなる。また、Xが酸素原子である場合と比較して、酸化還元電位が高いため、正極材料として用いる場合には放電電圧を高くできる。例えば、本発明による蓄電材料の重合体は、X=Sであり、R5およびR6はC
6H
13、C
10H
21、C
8H
17またはC
6H
5である以下の化学式(21)から(24)で表わされる。
また、本発明の蓄電材料は、以下の一般式(3)および(4)で表わされる繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。これらは、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1、4位同士が直接結合した重合体であるが、繰り返し単位のテトラカルコゲノフルバレン骨格が異なる置換基を有している。一般式(3)および(4)で表わされる繰り返し単位を含む共重合体も、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合し、共重合体の主鎖を形成している。したがって、主鎖における酸化還元反応に寄与する構成部分の割合が高く、蓄電材料として高いエネルギー密度で電荷を蓄積することができる。
ここで一般式(3)および(4)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5からR8はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。ただし、R5およびR6の組み合わせはR7およびR8の組み合わせと異なる。
例えば、R5およびR6はそれぞれフェニル基であり、R7およびR8はそれぞれ鎖状炭化水素基であってもよい。鎖状炭化水素基がデシル基である以下の化学式(25)で示される重合体であってもよい。ここで、nとmとの和は重合度を示し、2以上の整数である。2つのテトラカルコゲノフルバレン骨格を有する繰り返し単位は規則的に配列されていてよいし、ランダムに配列されていてもよい。また、nとmとの比は任意である。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むこと、つまり、重合体の重合度(nとmとの和)は4以上であることが好ましい。
また、本発明の蓄電材料は以下の一般式(5)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、主鎖において、リンカーとしてのアセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格と交互に配置されている。一般式(5)で表わされる重合体では、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
ここで、一般式(5)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。R9は、アセチレン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はそれぞれフェニル基であり、R9は、下記化学式(6)に示す構造を備える、以下の化学式(26)で示される重合体であってもよい。
また、本発明の蓄電材料は下記一般式(7)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、主鎖において、リンカーとしてのチオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格と交互に配置されている。一般式(7)で表わされる重合体でも、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化基を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
ここで、一般式(7)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和、炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。R10は、チオフェン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はそれぞれフェニル基または鎖状の炭化水素基であり、R10は、下記化学式(8)から(12)に示すいずれかの構造を備えていてもよい。
より具体的には、また、本発明の蓄電材料は下記化学式(27)から(32)で表わされる重合体であってもよい。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、下記化学式(27)から(31)におけるnは4以上、また、化学式(32)におけるmは4以上であることが好ましい。化学式(32)で表わされる重合体において、テトラチアフルバレン骨格を有する繰り返し単位とチオフェン骨格を有する繰り返し単位とは規則的に配列されていてよいし、ランダムに配列されていてもよい。また、nとmとの比は任意である。
また、本発明の蓄電材料は、下記一般式(13)で表わされる重合体であってもよい。これらの重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格がシス位およびトランス位で交互に重合することによって主鎖がジグザグ構造を有している。
ここで、一般式(13)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5からR8はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
また、R11、R12はそれぞれ独立に、アセチレン骨格およびチオフェン骨格の少なくともいずれかを含む鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はチオヘキシル基であり、前記R7およびR8はフェニル基であり、前記R11、R12は、下記化学式(14)で示される構造を備える、下記化学式(33)で示される重合体であってもよい。重合体が有機溶媒に溶解しないよう、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、下記化学式(33)におけるnは2以上であることが好ましい。
また、本発明の蓄電材料は、下記一般式(15)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(15)中、Phは芳香族炭化水素二価基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5、R6はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
より具体的には、下記一般式(16)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(16)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5からR6およびR13からR16はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
例えば、Xは硫黄原子であり、R5およびR6はチオアルキル基であり、前記R13からR16は水素原子である下記化学式(34)で示される重合体であってもよい。
あるいは、下記一般式(17)で表わされる重合体であってもよい。
ここで、一般式(17)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R5、R6およびR13からR16はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
一般式(15)から(17)で表わされる重合体でも、アセチレン骨格やベンゼン骨格を含む鎖状不飽和炭化水素を介してテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖を構成している。このため、鎖状不飽和炭化水素がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全ての各テトラカルコゲノフルバレン骨格を可逆的に酸化還元することができ、高い容量の蓄電体を実現することができる。
本発明の蓄電材料に用いる上述の各重合体は、一般式(1)で示される繰り返し単位を含むモノマーを重合させることにより合成することができる。上述した一般式(2)から(17)で示す構造を有する限り、どのような方法でモノマーを合成してもよい。しかし、重合中の活性な結合手の転位を防止し、規則性の高い重合体を形成するためには、カップリング反応による重合によって重合体を合成することが好ましい。具体的には、上述した一般式(2)から(17)で示す所定の置換基を含む分子構造を有し、重合の際、結合手となる位置に、ハロゲンやその他の官能基を有するテトラカルコゲノフルバレン骨格のモノマーを用意し、薗頭カップリング反応やその他のカップリング反応による重合によって、重合体を合成することが好ましい。
より具体的には、本発明の蓄電材料に用いる重合体の例として挙げた化学式(21)から(34)で表わされる化合物は、以下の4つの方法のいずれかによって合成することができる。以下、化学式(21)から(34)で表わされる化合物を化合物21から34と呼ぶ。
化合物21から25は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R2)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨウ素化体とNi(0)錯体を用いた脱ハロゲン化重縮合法を用いることによって合成することができる。ここで、式中、Xは硫黄または酸素原子を表し、codは1,5−シクロオクタジエン、bpyは2,2’−ビピリジンを表す。
化合物27から30および32は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が少なくともチオフェン骨格を介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R3)で示すように、Pd触媒を用い、テトラチアフルバレンのトリメチルスタニル体とチオフェン骨格のヨウ素化体とから、スチルカップリング反応によって合成することができる。テトラチアフルバレンのヨウ素化体とチオフェン骨格のトリメチルスタニル体とを用いても、同様にスチルカップリング反応によって合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
化合物31および34は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が、三重結合/芳香族/三重結合を介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R4)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨード体と3重結合部位を有する化合物との薗頭反応を用いて合成することができる。反応式R4から分るように、3重結合部位を有する化合物であれば特に制限なくテトラカルコゲノフルバレン骨格同士を結合させることができる。反応式R4においては、リンカー部位はチオフェン骨格を含んでいるが、リンカー部位は芳香族であればよく、例えばチオフェンの代わりにベンゼン環であっても同様の反応によって、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が、三重結合/芳香族/三重結合を介して結合した重合体を合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
化合物26、33は、テトラカルコゲン骨格同士が、三重結合のみを介して結合した重合体である。これらの化合物は、以下の反応式(R5)で示すように、テトラチアフルバレンのジヨード体と3重結合部位を有する化合物との薗頭反応により合成することができる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
上述の化合物21、26、31、32の合成方法は、例えば、J. mater. chem., 1967, 7(10), 1997に示されている。また、上述の化合物22、23、24の合成方法は、例えば、Mol. Cryst. Liq., Vol. 381, 101-112, 2002に示されている。
化合物23、25、27から30、34の合成方法は、以下の実施例において詳細に説明する。
上述したように本発明の蓄電デバイスは、テトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる蓄電材料を備えている。このため、蓄電材料が有機化合物で構成されてはいるが、分子量が大きく、有機溶媒に対する溶解度が低い。したがって、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスにおけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。また、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。このような特徴から、本発明の蓄電デバイスは、ハイブリッド自動車などの車両や携帯型電子機器に好適に用いられる。本発明の蓄電デバイスを備えた車両および携帯型電子機器は、蓄電デバイスが軽量であり、また、出力が大きく、かつ、繰り返し寿命が長いという特徴を有する。このため、特に、重量の点で従来の無機化合物を用いた蓄電デバイスでは達成し難かった軽量化が可能となる。
本実施形態では、本発明の蓄電材料を蓄電デバイス、より具体的には、リチウム二次電池に用いた形態を説明した。しかし、本発明の蓄電材料は、上述したように、二次電池以外の電気二重層キャパシタなどに用いてもよいし、生化学反応を利用するバイオチップなどの電気化学素子や、電気化学素子に用いられる電極にも好適に用いることができる。
この場合、上述の蓄電材料を用いた電極は、乾式法、湿式法、気相法の三つの方法により作製することができる。まず、乾式法による電極作製法を説明する。乾式法では、一般式(2)から(17)で示される重合体と結着剤とを混合し、得られたペーストを導電性支持体上に圧着させる。これにより膜状の蓄電材料が導電性支持体に圧着した電極が得られる。膜の形状としては、緻密膜であっても多孔質膜であってもよいが、乾式法による膜は多孔質になることが一般的である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、あるいは、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、セルロース系樹脂などの炭化水素系樹脂を用いることができる。安定性の点から、好ましくはフッ素樹脂を好適に用いることができる。
導電性支持体としては、Al、SUS、金、銀等の金属基板、Si、GaAs、GaNのような半導体基板、ITOガラス、SnO2のような透明導電性基板、カーボン、グラファイト等の炭素基板、または、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性有機基板を用いることができる。
導電性支持体としては、上述の材料によって単独で膜形状を有する緻密膜であってもよいし、網やメッシュのような多孔質膜であってもよい。あるいは、非導電性支持体であるプラスチックやガラス上に上述の導電性支持体の材料が膜状に形成されていてもよい。また、重合体および結着剤に加えて、膜中の電子伝導性を補助するべく、必要に応じて例えば導電助剤を混合してもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子が用いられる。また、膜内部にイオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を含ませてもよい。
次に、湿式法による電極作製法に関して説明する。湿式法では、一般式(2)から(17)で示される重合体を溶媒に混合分散させ、得られたスラリーを導電性支持体上に塗布あるいは印刷し、溶媒を除去することによって、膜状に形成することができる。電極膜中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
最後に、気相法による電極作製法を説明する。気相法では、一般式(2)から(17)で示される重合体を真空中でガス化させ、ガス状態の重合体を導電性支持体上に堆積、製膜することによって、膜状に形成することができる。本方法で用いることのできる製膜方法としては、真空蒸着法や、スパッタリング法、CVD法などの一般的な真空製膜プロセスが適応しうる。また、電極膜中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
以下、本発明による蓄電材料の合成例および本発明の蓄電デバイスの作製例およびその特性を評価した結果を示す。
まず、本発明による蓄電材料の合成例を説明する。
1.化合物23の合成
化合物23を以下に示す反応式(R7)に従って合成した。
1.1 化合物23bの合成
デカン−1−エン(化合物23a、126.4g、0.09mol)を2000mlのナスフラスコに取り、DMSO(1500ml)、蒸留水(88ml)、NBS(320g、1.8mol)を加え4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、無色透明液体を得た。収率は98%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ3.76、3.41、2.20、1.58〜1.29、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3400、2924、2854、1028cm-1にピークが観測された。元素分析の結果は、理論値が炭素50.64、水素8.92、臭素33.69重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.46、水素9.06、臭素33.58であった。以上の結果から、得られた液体は化合物23bであることが確認された。
1.2 化合物23cの合成
化合物23b(210g、860mmol)を2000mlナスフラスコに取り、アセトン(900ml)に溶解させ、蒸留水(900ml)に硫酸(160ml)、2クロム酸ナトリウム2水和物(260g、880mmol)を溶解させたものを加え1.5時間攪拌した。その後、エーテルを加え、さらに1時間攪拌した。エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、白色固体を得た。収率は92%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ3.93、2.65、1.65〜1.29、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1718、1066cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素51.07、水素8.14、臭素33.98重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.23、水素7.67、臭素34.59重量%であった。以上の結果から、得られた白色固体は化合物23cであることが確認された。
1.3 化合物23dの合成
2000mlのナスフラスコに、アセトン(1400ml)を取り、化合物23c(150g、620mmol)を加え50℃に加熱した。キサントゲン酸カリウム(100g、620mmol)を少量ずつ加え、4時間還流した。その後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルで抽出した後、乾燥、溶媒除去し、黄色透明液体を得た。収率は77%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ4.63、3.99、2.59、1.66〜1.23、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1719、1049cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素56.48、水素8.75、硫黄23.20重量%であるのに対し、実験値は、炭素57.86、水素9.04、硫黄21.79重量%であった。以上の結果から、得られた液体は化合物23dであることが確認された。
1.4 化合物23eの合成
2000mlのナスフラスコに、脱水トルエン(1300ml)を取り、化合物23d(130g、450mmol)を溶解し、沸点近くまで加熱した。その後5硫化2リン(171g、770mmol)をゆっくり加え20時間還流した。得られた溶液を濾過し、5硫化2リンを除去、エーテル抽出を行った。乾燥、溶媒除去し、黄色粉末を得た。収率は82%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ6.62、2.59、1.60〜1.25、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3040、2924、2852、1062cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素53.61、水素7.36、硫黄39.03重量%であるのに対し、実験値は、炭素54.42、水素6.76、硫黄39.13重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23eであることが確認された。
1.5 化合物23fの合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に化合物23e(3.1g、12mmol)を取り、アセトン140mlに溶解させ、20℃に温度を保持した。そこにあらかじめアセトン(210ml)に溶解させたm−クロロ安息香酸(48g、300mmol)を滴下し、滴下後30分攪拌し、アセトン除去後塩化メチレン(220ml)に溶解させた。そこへヘキサフルオロリン酸ナトリウム(20g、120mmol)を加えた。室温で1時間攪拌後、アセトニトリル(200ml)を加え、温度を20℃に保ちながら15分間攪拌し、トリエチルアミン(56ml)を加えさらに1時間攪拌した。その後、エーテル抽出、乾燥、溶媒除去し、橙色粉末を得た。収率は23%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ6.34、2.36、1.44、1.24、0.84ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3050、2922、2850、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素61.62、水素8.46、硫黄29.91重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.90、水素8.52、硫黄30.19重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23fであることが確認された。
1.6 化合物23gの合成
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に化合物23f(0.99g、2.3mmol)を取り、THF(25ml)に溶解させ−78℃まで冷却した。そこにブチルリチウム(4.4ml、1.53mol/Lへキサン溶液)をシリンジで滴下し、10分間攪拌した。その後、パーフルオロヘキシルジヨード(PFHI、1.5ml)を滴下し、−78℃で1時間、室温で1時間攪拌し、蒸留水を加え反応を終了させた。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒除去し、ヘキサンで再結晶を行ったのち、橙色粉末を得た。収率は40%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、δ2.42、1.53、1.27、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2952、2922、2852、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素38.83、水素8.46、硫黄18.85重量%であるのに対し、実験値は、炭素39.13、水素4.93、硫黄19.44重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23gであることが確認された。
1.7 化合物23の合成
窒素ガス気流下、50mlのシュレンク管に、Ni(cod)2(0.28g、1.0mmol)、1,5−cod(0.11g、1.0mmol)を加え、DMF7mlに溶解させた。そこに2,2’−ビピリジン(0.19g、1.2mmol)を加え、溶液の色が紫色になったことを確認したのち化合物23g(0.46g、0.67mmol)を加えた。50℃で24時間攪拌後、メタノールに反応溶液を直接投入した。得られた粉末を洗浄、濾過、メタノールを用い再沈殿を行い、乾燥し、茶色粉末を得た。
数平均分子量(Mn)は3600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素58.16、水素8.21、硫黄28.24重量%であるのに対し、実験値は、炭素56.31、水素6.96、硫黄26.99重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物23であることが確認された。
2.化合物25の合成
以下、化合物25の合成例を説明する。
2.1 1−ブロモ−2−ドデカノールの合成
1000mlのナスフラスコ中、800mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に16.9gの1−ドデカンを溶解し、25mlのH2O、および100gのN−ブロモスクシンイミド(NBS)を加え、室温で4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を減圧除去した。精製後、無色透明液体を得た。収率は59%であった。
2.2 1−ブロモ−2−ドデカノンの合成
1000mlのナスフラスコ中、110mlのアセトンに14gの1−ブロモ−2−ドデカノールを溶解し、150mlの蒸留水および25mlの硫酸に35gのニクロム酸ナトリウム2水和物をあらかじめ溶解させた溶液を滴下した。室温で1.5時間攪拌後、250mlのエーテルを加え、脱水、溶媒除去後、白色固体を得た。収率は80%であった。
2.3 O−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オンの合成
1000mlのナスフラスコ中、400mlのアセトンに9.2gの1−ブロモ−2−ドデカノンを溶解し、50℃に加熱した。その後、5.6gのキサントゲン酸カリウムを加え、4時間還流した。還流後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルにて抽出し、乾燥、溶媒除去を行い、黄色結晶を得た。収率は45%であった。
2.4 4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオンの合成
1000mlナスフラスコ中、600mlの脱水トルエンに44gのO−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オンを溶解し、沸点近くまで加熱した。その後、120gの5硫化2リンを徐々に投入し、約20時間還流した。得られた溶液をろ過し、エーテルで抽出、乾燥、溶媒除去後、赤色油状の目的物を得た。収率は63%であった。
2.5 2,6−ジデシルテトラチアフルバレンの合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に3.3gの4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオンを入れ、40mlのアセトンに溶解させた。あらかじめ210mlのアセトンに溶解させた48gのm−クロロ過安息香酸を滴下した。滴下後30分攪拌し、アセトンを除去後、220mlの塩化メチレンに溶解し、均一になったところで20gのヘキサフルオロリン酸ナトリウムを加えた。室温で1時間攪拌し、200mlのアセトニトリルを加えた。15分攪拌し、56mlのトリエチルアミンを加え、さらに1時間攪拌した。その後、エーテル抽出し、乾燥、溶媒除去後、精製、再結晶を行い、橙色粉末を得た。収率は22%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、5.62(s,4H,Sr−H)、2.27(t,4H,J=7.6Hz,α−CH2−)、1.53(m,4H,β−CH2−)、1.29(m,28H,−CH2−)、0.88(t,6H,J=6.4Hz.−CH3)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3050、2952、2920、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素64.41、水素9.15、硫黄26.45重量%であるのに対し、実験値は、炭素64.64、水素9.18、硫黄26.40重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジデシルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.6 2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンの合成
式(R8)にしたがって、2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンを合成した。
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に1.1gの2,6−ジデシルTTFを25mlのTHFに溶解し、ドライアイス−メタノール浴で−78℃まで冷却した。その後、4.4mlのブチルリチウム(BuLi)を滴下し、10分攪拌した。その後、1.5mlのパーフルオロヘキシルジヨード(PFHI)を滴下し、−78℃で1時間、室温で1時間攪拌した後、蒸留水を滴下し反応を終了させた。エーテルにて抽出、脱水、溶媒除去後、精製、再結晶を得て橙色粉末を得た。収率は35%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、2.37(t,4H,J=7.6Hz,α−CH2−)、1.54(m,4H,β−CH2−)、1.27(m,32H,−CH2−)、0.88(t,6H,J=6.4Hz,−CH3)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2954、2916、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素42.39、水素5.75、硫黄17.41、ヨウ素34.45重量%であるのに対し、実験値は、炭素42.18、水素5.33、硫黄17.75、ヨウ素36.00重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.7 2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンの合成
式(R9)にしたがって、2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンを合成した。
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に2.8mlのジソプロピルアミン、15mlのTHFを入れ、−78℃に保持した。そこに13.7mlのBuLiを加え、約1時間攪拌し、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を合成した。次に、窒素ガス気流中下のシュレンク管に3.0gの2,6−ジフェニルテトラチアフルバレン(アルドリッチ社製)を加え、50mlのTHFに溶解させ−78℃に保持した。その後、9.33gのパーフルオロヘキシルジヨードを滴下し、1時間攪拌し、さらに室温にて1時間攪拌した。反応後、蒸留水を加え反応を停止させたのち、ろ過、洗浄、再結晶を行い、赤色針状結晶を得た。収率は52%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、7.4〜7.5(フェニル基,10H)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3052、734、691cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素35.53、水素1.64、硫黄21.05、ヨウ素41.78重量%であるのに対し、実験値は、炭素35.43、水素1.68、硫黄22.79、ヨウ素37.67重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は2,6−ジヨード−3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンであることが確認された。
2.8 化合物25(ポリ(3,7−ジフェニルテトラチアフルバレン−3,7−ジデシルテトラチアフルバレン))の合成
式(R10)にしたがって、化合物25を合成した。
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に0.35gのNi(Cod)2、0.14gの1,5−codを投入し、10mlのDMFに溶解させた。そこに0.16gの2,2’−ビピリジンを加え、溶液が紫色になったことを確認後、0.21gの2,6−ジヨード3,7−ジフェニルテトラチアフルバレンと0.26gの2,6−ジヨード3,7−ジデシルテトラチアフルバレンを加えた。50℃で24時間攪拌後、反応液をメタノールで再沈殿させた後、ろ過、アンモニア水で洗浄を行った。その後、EDTA・2K水溶液、熱水で洗浄後、再沈殿、乾燥後茶色粉末を得た。収率は88%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、0.88、1.25、2.4(アルキル基)、6.5、7.5(フェニル基)ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2800〜2700、1600〜1450、1200〜1300cm-1にピークが観測された。以上の結果から、得られた化合物は化合物25であることが確認された。
3. 化合物27の合成
化合物27を以下に示される式(R11)にしたがって合成した。
3.1 化合物27aの合成
化合物27aの合成は、出発物質にドデカン−1−エンを用い、それ以外は化合物23gと同様の方法にて合成し、橙色粉末の化合物27aを得た。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、2.37、1.54、1.27、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2954、2916、2848、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素42.39、水素5.75、硫黄17.41重量%であるのに対し、実験値は、炭素42.18、水素5.33、硫黄17.75重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物27aであることが確認された。
3.2 化合物27の合成
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に市販の化合物27b(2,5−ビストリメチルスタニルチオフェン、0.15g、0.36mmol)を取り、DMF(25ml)を加えた。そこへPd(PPh3)4(40mg、0.035mmol)および化合物27a(0.26g、0.36mmol)を加え、70℃で48時間攪拌した。反応後、フッ化カリウム水溶液(400ml)に反応液をそのまま投入し、1時間攪拌した。この操作を3回繰り返した後、さらに1NHCl(400ml)を加え、3回繰り返し洗浄を行った。得られた粉末を濾過、メタノールを用いて再沈殿を行い、乾燥した後赤色粉末の化合物27を得た。収率は91%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、7.01、2.85、1.65、0.88ppm付近に化学シフトが観測された。数平均分子量(Mn)は6800であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.21、水素7.41、硫黄26.80重量%であるのに対し、実験値は、炭素59.17、水素7.04、硫黄26.06重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物27であることが確認された。
4.化合物28の合成
化合物28を、以下に示される式(R12)にしたがって合成した。
4.1 化合物28aの合成
化合物28aは、反応式(R9)にしたがって、上記2.7で記載した方法にしたがい、合成した。
4.2 化合物28の合成
窒素雰囲気中、50mlのシュレンク管に市販の2,5−ビス(トリメチルスタニル)チオフェンを0.366g取り、DMFを40ml加えた。そこに、96mgPd(PPh3)4と化合物28aを0.5g加え、90℃で48時間攪拌した。反応後、フッ化カリウム水溶液500mlに反応液を滴下し、2時間攪拌後、ろ過。1NHCl500mlで洗浄し、メタノールで洗浄、乾燥後茶色粉末の化合物28を得た。収率は51%であった。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、6.61、1.25〜0.88ppm付近に化学シフトが観測された。数平均分子量(Mn)は4400であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.51、水素2.77、硫黄36.72重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.51、水素2.76、硫黄35.73重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物28であることが確認された。
5. 化合物29の合成
化合物29を、以下に示される式(R13)にしたがって合成した。
化合物29aは、市販のジフェニルテトラチアフルバレンをTHFに溶解させ、そこへリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を加え、その後トリメチルスタニルクロライドを滴下することにより得られたものを用いた。化合物29aおよび化合物29bを用いて、化合物28の合成と同様の方法により合成した。合成物は茶色粉末で収率は46%であった。
得られた化合物の数平均分子量(Mn)は3600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素66.42、水素5.57、硫黄28.00重量%であるのに対し、実験値は、炭素64.31、水素5.85、硫黄26.11重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物29であることが確認された。
6. 化合物30の合成
化合物30を以下の式(R14)にしたがって合成した。
2,5−ビス(トリメチルスタニル)チオフェンの代わりに、2,5−ビス(トリメチルスタニル)ジチオフェンを用いたこと以外、化合物28と同じ方法で合成した。合成物は茶色粉末で収率は68%であった。
得られた化合物の数平均分子量(Mn)は6600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素56.70、水素2.56、硫黄34.94重量%であるのに対し、実験値は、炭素56.21、水素2.62、硫黄33.78重量%であった。以上の結果から、得られた化合物は化合物30であることが確認された。
7. 化合物34の合成
化合物34を、以下に示される式(R15)にしたがって合成した。
具体的には、化合物34の合成は、4,5位にヨウ素を置換基として有する化合物34fと、アセチレン部位を有する1、4―ジエチニルベンゼンとを脱ハロゲン化水素重縮合させることにより行った。
7.1 化合物34a(4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3−ジチオール−2−チオン)の合成
1000mlのナスフラスコに、エチレントリチオカルボナート(20g、146mmol)およびジメチルアセチレンジカルボキシレート(21.6ml、176mmol)を反応容器に入れ、トルエン(75ml)に溶解させ、6時間還流を行った。還流後、ヘキサン(200ml)を加え、沈殿を生成させ、さらに氷冷を行い、析出した結晶をろ過、乾燥し、黄色結晶を得た。収量は29gであった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により行った。H−NMR測定の結果、3.90ppmに化学シフトが観測され、IR測定の結果、1741−1718(C=O振動)、1058(C=S伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が化合物34aであることを確認した。
7.2 化合物34b(4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3−ジチオール−2−オン)の合成
500mlのナスフラスコに酢酸水銀(7.9g、25mmol)を入れ、氷酢酸(65ml)を加えた。その後、クロロホルム(55ml)に溶解させた化合物34a(2.5g、10mmol)を滴下し、室温で二時間撹拌した。撹拌した溶液をろ過、炭酸水素ナトリウムを用い中和し、クロロホルムを用いて抽出した。乾燥、溶媒除去後、淡黄色結晶を1.9g得た。収率は83%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、3.85、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2952−2926(C−H伸縮振動)、1730(C=O振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が化合物34bであることを確認した。
7.3 化合物34c(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオン)の合成
200mlのシュレンク管に21.6mlの二硫化炭素(120mmol)をいれ、金属ナトリウム(2.76g)を加え1時間撹拌した後、DMF(24ml)を加え、一晩還流させた。還流後、10℃に保ち、ヘキシルブロマイド(16.9ml)を加え室温で1時間ほど撹拌した。得られた溶液に水を少量加え、クロロホルムで抽出し、乾燥、溶媒除去を行い、オレンジ色のオイル状化合物を得た。収量は21.9gであった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、2.87、1.78−1.20、0.90ppmに化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2945−2854(C−H伸縮振動)、1067(C=S伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34cであることを確認した。
7.4 化合物34d(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−4',5'―ビス(メトキシカルボニ)ルテトラチアフルバレン)の合成
300mlのナスフラスコに化合物34c(2.93g、8.0mmol)および化合物34b(1.87g、8.0mmol)をいれ、トルエン(100ml)に溶解させ、さらにトリエチルフォスファイト(13ml、80mmol)を加え、16時間還流した。還流後、精製を行い、濃赤色のオイル状物質を1.53g得た。収率は35%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定(NaCl液膜法)により同定した。H−NMR測定の結果、3.85、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、2952−2926(C−H伸縮振動)、1730(C=O振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34dであることを確認した。
7.5 化合物34e(4,5−ビス(ヘキシルチオ)−テトラチアフルバレン)の合成
200mlのシュレンク管に化合物34d(0.6g、1.08mmol)を加え、DMF(140ml)に溶解させ、そこにリチウムブロマイド(8.4g、97.2mmol)を加え140℃で3時間撹拌した。撹拌後、室温まで冷却し、ブリン(100ml)を加え、塩化メチレンで抽出を行った。乾燥、溶媒除去後、茶色のオイル状物質が0.36g得られた。収率は77%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定およびIR測定により同定した。H−NMRの結果、6.32、2.81、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。また、IR測定の結果、3066(C=C−H振動)2952−2926(C−H伸縮振動)cm-1にピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物が、化合物34eであることを確認した。
7.6 化合物34f(4、5−ビス(ヘキシルチオ)−4,5'−ジヨードテトラチアフルバレン)の合成
アルゴン雰囲気下、−78℃において、25mlのシュレンク管にジイソプロピルアミド(0.35ml)をとり、THF(3ml)を加えた。そこに1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液(1.56ml、2.5mmol)を加え、1時間撹拌することにより、リチウムジイソプロピルアミド(以下、LDA)溶液を得た。
次に、窒素雰囲気下、−78℃において、50mlのシュレンク管に化合物34e(0.36g、0.82mmol)をとり、THF(10ml)を加えた。この溶液にLDAを滴下し、30分間撹拌した。続けて、パーフルオロヘキシルジヨード(以下、PFHI)(0.46ml、2.13mmol)を加え、1時間撹拌し、室温でさらに1時間撹拌した。少量の水を加え、反応を止め、エーテルにより抽出し、乾燥、溶媒除去後、ヘキサンにより再結晶を行った。黄色粉末が得られ、収量は0.13gで収率は23%であった。
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)測定、IR測定(KBr法)および元素分析により同定した。H−NMRの結果、2.80、1.70−1.22、0.89ppm付近に化学シフトが観測された。化合物34eでは観測されたTTF環の2つのプロトン由来の6.3ppm付近のピークが、得られた化合物では観測されなかった。このことからTTFはヨウ素化されていることがわかる。IR測定の結果、2950−2852(C−H伸縮振動)cm-1にピークが観測された。化合物34eで観測された3060cm-1付近にみられるTTF環のC−H伸縮振動が消失していることからもTTF環のプロトンがヨウ素化されていることが確認できた。元素分析の結果については、理論値が炭素31.40、水素3.81、硫黄27.94、ヨウ素36.85重量%であるのに対し、実験値は、炭素31.67、水素3.78、硫黄27.97、ヨウ素37.16重量%であった。これらの結果から、得られた化合物は、化合物34fであることを確認した。
7.7 化合物34(ポリ−1,2−(p−アセチルフェニル−テトラチアフルバレン))の合成
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に化合物34f(138mg、0.2mmol)を入れ、THF20mlに溶解させ、ヨウ化銅(2mg、0.01mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(以下、Pd(PPh3)4)(12mg、0.01mmol)を加えた。さらにトリエチルアミン(15ml)を加え、撹拌した。ここに、化合物34gである1,4−ジエチニルベンゼン(25mg、0.2mmol)を加え、60℃で48時間撹拌した。反応後メタノール(500ml)に反応液を移しさらに撹拌した。洗浄、THFに溶解させメタノールを用い、再沈殿を行い、乾燥後黒色粉末を得た。収率は91%であった。
得られた化合物の構造は、分子量測定、H−NMR(CDCl3)測定、IR測定および元素分析から同定した。以下、結果を順に示す。
得られた化合物の分子量測定はTHFを用いたGPCによって行った。得られた重量平均分子量は、ポリスチレン換算で5500(Mw/Mn=1.49)であった。元素分析の結果については、理論値が炭素60.17、水素5.41、硫黄34.42重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.45、水素5.09、硫黄33.46重量%であり、実験値と理論値はある程度一致している。
H−NMR(CDCl3)測定の結果、モノマーの場合と比較して、全てのピークがブロードになっており、分子が重合体であることが示唆された。0.95(−CH3)、1.15−1.80(−(CH2)4―)、2.85(SCH3)、7.10−7.60(芳香族)に化学シフトが観測された。
IR測定の結果、2990−2800、2172、2150、1480、1285、650−800cm-1付近にピークが観測された。ジエチニルモノマーの場合に観測された3重結合伸縮振動に由来する3282cm-1付近のピークおよび1置換アセチレンの伸縮振動に由来する2090cm-1付近のピークが観測されず、2置換のアセチレン伸縮振動由来の2172、2150cm-1付近のピークが観測された。このことから重合が進行していることが確認できる。また、650−800cm-1付近にTTF骨格由来のC−S伸縮振動、環面外変角振動由来のスペクトルが観測されたことから、TTF骨格を有する重合体であることが確認された。これらの結果から得られた粉末は化合物34であることが分かった。
以下、本発明の蓄電デバイスを作製し、特性を評価した結果を説明する。
1. 蓄電デバイスの作製
1.1 化合物29を用いた蓄電デバイスAの作製
正極は、以下の様にして作製した。正極活物質として、化学式(29)で示される重合体であるPoly−1,4−(p−thiol−TTF)を用いた。用いたPoly−1,4−(p−thiol−TTF)の平均分子量はおよそ10000、理論最大容量は78mAh/gであった。Poly−1,4−(p−thiol−TTF)は混合前に、乳鉢で粉砕してから用いた。乳鉢粉砕後の重合体の粒子径はおよそ10μm程度であった。活物質としてPoly−1,4−(p−thiol−TTF)37.5mgと、導電剤としてアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにバインダとしてポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、正極活物質合剤を得た。この正極合剤をアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行ない、これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き裁断して正極電極Aを作製した。正極活物質の塗布重量は、電極単位面積あたり1.7mg/cm2であった。
負極活物質としては金属リチウムを用いた。金属リチウム(厚み300μm)を直径15mmの円盤状に打ち抜き、同じく直径15mmの円盤状の集電板(ステンレス製)に貼り付けて、負極を作製した。
電解液には、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)を体積比1:1で混合した溶媒を用い、塩としてこれに1mol/L濃度の6フッ化リン酸リチウムを溶解した。用いた溶媒の比誘電率は78である。なお、電解液は、正極、負極、多孔質ポリエチレンシート(厚み20μm)に含浸させて用いた。
これらの正極、負極、および電解液を、図1を参照して説明したようにコイン型電池のケースに収納し、ガスケットを装着した封口板で挟み、プレス機にて、かしめ封口した。これにより、コイン型蓄電デバイスAを得た。
1.2 化合物34を用いた蓄電デバイスBの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物34を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Bおよびコイン型蓄電デバイスBを得た。
1.3 化合物23を用いた蓄電デバイスCの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物23を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Cおよびコイン型蓄電デバイスCを得た。
1.4 化合物25を用いた蓄電デバイスDの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物25を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Dおよびコイン型蓄電デバイスDを得た。
1.5 化合物27を用いた蓄電デバイスEの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物27を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Eおよびコイン型蓄電デバイスEを得た。
1.6 化合物28を用いた蓄電デバイスFの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物28を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Fおよびコイン型蓄電デバイスFを得た。
1.7 化合物30を用いた蓄電デバイスGの作製
正極活物質として、上述の合成方法で合成した化合物30を用いた。正極活物質材料以外はすべて蓄電デバイスAと同様の方法で蓄電デバイスを作製し、電極Gおよびコイン型蓄電デバイスGを得た。
1.8 比較例の蓄電デバイスの作製
比較例として下記化学式(36)で示される重合体(poly−TTF化合物)を正極活物質として用いた蓄電デバイスを作製した。poly−TTFはポリビニルアルコールとテトラチアフルバレンカルボキシル誘導体を脱水縮合により反応させて合成した。用いたpoly−TTFの重量平均分子量はおよそ50000であった。用いた重合体以外は蓄電デバイスAと同様の方法で、比較例の蓄電デバイスを作製した。
2. 電極の評価
作製した電極A〜Gの電気化学的な酸化還元反応に伴う安定性評価を行った。安定性評価は、作用極として電極A〜G、あるいは比較例の電極を作用極とし、対極としてリチウム金属、参照極としてリチウム金属を用いた。電解液を浸したビーカーセル内にこれらの電極を配置した。電解液としては、炭酸プロピレン(PC)を溶媒とし、濃度1mol/Lの6フッ化りん酸リチウムを支持電解質塩として溶解したものを用いた。
安定性評価は、リチウム参照極に対して下限3.0−上限4.0Vの電位範囲を、浸漬電位からまず貴な方向へ0.05mV/secの走査速度で走査し、上限−下限間を繰り返し走査することで行った。走査は10回行った。電極表面の吸着ガスや、電解液中の溶存酸素による影響を排除するために、3回目の走査で得られた走査結果と、10回目の走査で得られた走査結果との比較から、安定性を評価した。
測定の結果、電極A〜Gならびに比較例の電極において、テトラチアフルバレン骨格に由来する2段階の酸化還元電流ピークが観測され、これらの電極が酸化還元活性を有していることが確認できた。安定性に関しては、電極A〜Gでは、10サイクル目の測定結果における各段階での酸化還元ピーク電流値と3サイクル目のピーク電流値とは一致していたが、比較例の電極においては、10サイクル目のピーク電流値は3サイクル目の値に比べ20%の減少が見られた。このことから、実施例の電極は、酸化還元時の安定性が高いのに対して、比較例の電極の酸化還元活性は20%低下したものと考えられる。
3. 蓄電デバイスの評価
蓄電デバイスA〜Gおよび比較例の蓄電デバイスの充放電容量の評価を行った。充放電電圧範囲は、各材料の酸化還元が起こる電位領域で実施した。具体的には、蓄電デバイスAは充電上限電圧を4.1V、放電下限電圧を3.1Vとし、蓄電デバイスBは、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.2Vとし、蓄電デバイスC〜Gは、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.0Vとした。0.1mAの定電流充放電を行い、充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はゼロとした。
図3から図9は、それぞれ蓄電デバイスA〜Gの充放電評価における3サイクル目の電池容量と電池電圧との関係を示すグラフである。図3から図9に示されるように、蓄電デバイスA〜Gは、いずれもおよそ3〜4Vの電圧範囲で可逆な充放電動作が可能であることが確認された。以上の結果から、本発明の重合体が蓄電デバイス活物質として動作することを確認した。
蓄電デバイスの容量評価は、3サイクル目の充放電時の放電容量を活物質重量で割った値、すなわち活物質重量あたりの放電容量で評価した。また、活物質の放電容量の理論容量に対する値を百分率で示した。また、充放電評価は50サイクルまで行った。3サイクル目の放電容量を100%とした場合の、10サイクル目および50サイクル目の放電容量維持率から、繰り返し特性を評価し、結果を表1に示した。
表1に示すように、本発明の蓄電デバイスである蓄電デバイスA〜Gでは、50サイクル目まで繰り返しても容量維持率がいずれも97%以上と高く、容量低下が発生せず、良好なサイクル特性が得られた。この結果より、本発明の蓄電材料は、可逆的な充放電反応が可能な化合物であることがわかる。さらに、およそ3.0〜4.0V(リチウムを基準電位として)の電位範囲で可逆的な充放電反応が可能であることが分かった。
一方、比較例の蓄電デバイスは、初期には良好な充放電特性を示していたが、充放電容量が、10サイクル目では初期容量の80%、50サイクル目では40%まで低下した。本願発明者が検討したところ、これは、充放電サイクルの初期段階では、テトラチアフルバレン骨格から2電子酸化還元反応が正しく行われているが、充放電を繰り返すうちに何らかの構造変化やテトラチアフルバレン骨格の周囲の環境の変化が生じ、50サイクル目では1電子酸化還元反応しか生じなくなり、実質的に容量が低下したものと考えられる。
以上の結果から、テトラカルコゲノフルバレンを重合体化すれば、どのような重合体でも良好な繰り返し特性が得られるわけではなく、分子設計が非常に重要であることを確認した。すなわち、本発明のテトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有する重合体を設計することにより、良好な繰り返し特性を得る蓄電材料を提供できることを明らかにした。
蓄電デバイスの放電容量が理論容量に対して低下している、すなわち利用率が低い例が見られるが、これは電極活物質と電解液の濡れ性の問題などが推測される。電極活物質が充放電反応するためには、電極活物質が電解液と接触することが必要であるが、活物質と電解液との濡れ性が低いと活物質のすべてが反応に寄与できなくなることが起こりうるからである。これは、電解液組成の最適化などのデバイス設計により回避できると推測される。
表1に示すように、蓄電デバイスC、Dは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体であり、理論容量は126〜128mAh/gと高いものの、利用率は60〜70%にとどまっており、本発明の蓄電デバイスの中では、利用率が比較的低い。したがって、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合した重合体の利用率を高めるためには、デバイス設計上の最適化を必要とする材料であると考えられる。
一方、表1に示すように、蓄電デバイスA、E〜Gは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士がチオフェン骨格を介して結合した重合体であり、利用率は93%以上である。このことから、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士がチオフェン骨格を介して結合した重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格以外の置換基の種類に依らず利用率が高く、高容量な好ましい電極活物質であるといえる。また、理論容量は78〜128mAh/gと高い。
蓄電デバイスBは、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が(―C≡C―ph―C≡C―)骨格を介して重合した重合体であり、利用率が96%と高い。すなわち、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が(―C≡C―ph―C≡C―)骨格を含んで重合した重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格以外の置換基の種類に依らず利用率が高く、高容量な好ましい電極活物質であるといえる。また、理論容量は96mAh/gと高い。
また、表1に示すように、本実施例で用いた蓄電デバイスの理論容量は、78〜128mAh/gであるが、本発明の蓄電デバイスの理論容量は、この範囲の値に限られない。一般式(1)から(17)で示す範囲において、蓄電材料の分子設計を行うことによって、この範囲よりも大きな理論容量を有する蓄電デバイスを実現することが可能である。
たとえば、蓄電デバイスCにおけるオクチル基をメチル基にすれば容易に分子を軽量化することができ、それによって高容量化することができる。蓄電デバイスCにおけるオクチル基をメチル基にした場合、理論容量は、126mAh/gから233mAh/gに増大する。また、例えば、蓄電デバイスEにおけるデシル基をメチル基にすれば理論蓄電容量を95mAh/gから172mAh/gに増大させることができる。
このように、本発明の電極活物質によれば、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。