本発明は、チップコンデンサやチップ抵抗器などのチップ状の電子部品を回路基板に実装するための電子部品装着機に好適に用いられる真空吸着ノズルに関するものである。
従来より、チップコンデンサやチップ抵抗器などのチップ状の電子部品は、電子部品装着機に具備された真空吸着ノズルの吸着面に真空吸引によって吸着された後、そのまま回路基板上に搬送されて回路基板の所定の位置へ実装される。このとき、このチップ状の電子部品の位置の測定は、光を照射して、このチップ状の電子部品によって反射された反射光をCCDカメラで受光し、画像解析装置でそのチップ状の電子部品の形状や電極の位置を解析することによって行なわれている。
図7は、真空吸着ノズルを具備した電子部品装着機を用いた、チップ状の電子部品を回路基板に実装する電子部品装着装置の構成を示す概略図である。
図7に示す電子部品装着装置50は、電子部品装着機44に具備された真空吸着ノズル31と、電子部品45を並べたトレイ46と、真空吸着ノズル31に吸着された電子部品45に向けて光を照射するライト47と、電子部品45からの反射光を受光するためのCCDカメラ48と、CCDカメラ48で受光した反射光を画像処理するための画像解析装置49と、で構成されている。
そして、この電子部品装着装置50において、真空吸着ノズル31がトレイ46まで移動し、トレイ46上に並べられた電子部品45を吸着すると、ライト47が真空吸着ノズル31に吸着された電子部品45へ向けて光を照射し、この光が電子部品45の本体や電極に当たって反射する反射光をCCDカメラ48で受光する。CCDカメラ48で受光された画像を基に画像解析装置49によって電子部品45の位置を測定して、そのデータを基に、回路基板(図示せず)の所定の位置に電子部品45を吸着した真空吸着ノズル31を移動させて、回路基板上に電子部品45を実装している。
図6は、電子部品装着機の保持部材に組み付けられた状態の真空吸着ノズルの構成の一例を示したものであり、(a)は斜視図であり、(b)は縦断面図である。
この真空吸着ノズル31は、真空吸引することによって電子部品を吸着して保持するための吸着面32を先端の端面側に有する円筒部35と、円筒部35の吸着面32と相対する側に円筒部35に向かって先細りの形状で設けられた円錐部34と、円錐部34が吸着面32と相対する根元の端面側に設けた頭部36と、を有する。そして円筒部35の中心部を貫く内孔は、円錐部34と頭部36とに延設されて吸引孔33とされている。
また、保持部材40は真空吸着ノズル31の頭部36と嵌合する受け部41を中央に有し、その中心部に吸引孔33と連通するように吸引孔42を有しており、受け部41に真空吸着ノズル31の頭部36を嵌合して電子部品装着機に取り付けられるようにしてある。そして、真空吸着ノズル31の材質としては耐摩耗性に優れるセラミックスや超硬合金などが用いられている。
例えば、特許文献1には、チップ部品を吸着する吸着ノズルの先端部に耐摩耗性の優れたセラミックスを用いることや、このような吸着ノズルの先端部がカメラで撮影したときにチップ部品よりも画像入力レベルの低い色で構成されることによって、チップ部品の位置検出が行なえることが開示されている。そして、この吸着ノズルは耐摩耗性に優れ、チップ部品をノズルでピックアップした際の画像処理を確実に行なえることが開示されている。
そして、特許文献2には、このような吸着ノズルを用いて真空吸引するときに、周囲の空気とともに大気中の微小なゴミや埃などの異物が同時に吸引されるため、吸引孔内での目詰まりを防止する目的で真空吸引回路内に異物除去用のフィルタを挿入することが開示されている。すなわち、吸着ノズルが着脱自在に装着されるノズル装着部と、このノズル装着部に装着された吸着ノズルと真空吸引源とを連通させる吸引孔と、この吸引孔に設けられ、吸着ノズルから吸引された異物を捕集するフィルタ部と、を備え、このフィルタ部が金属製の細線を編んで製作された薄膜状のメッシュ膜と、このメッシュ膜を保持体に固定する固定手段と、保持体を吸引孔内に着脱自在に装着するフィルタ装着手段と、を備える電子部品吸着用の吸着ヘッドが開示されている。
そして、従来のフィルタに用いられていた多孔質材料では連通した状態の多数の微細孔を介して気体が流れるために真空吸引時の圧力損失が大きく高真空度の吸引源を必要としていたが、この吸着ヘッドによれば、金属製の細線を編んで製作された薄膜状のメッシュ膜と、このメッシュ膜を保持体に固定する固定手段と、保持体を吸引孔内に着脱自在に装着するフィルタ装着手段とで構成することにより、フィルタ部による圧力損失を小さく保つことができるとされている。
また、特許文献3には、電子部品を実装ツールによって保持して樹脂接着材が塗布された基板に搭載する電子部品実装装置であって、下端部に電子部品を真空吸着して保持する吸着ノズルを備えた実装ツールと、吸着ノズルの下端部外周を閉囲する形状の樹脂遮断部を有し吸着ノズルに対して上下方向に可動可能に配設された樹脂付着防止部材と、この樹脂付着防止部材を上下動させる上下動手段と、を備え、吸着ノズルに吸着保持された状態の電子部品の上面に樹脂付着防止部材の樹脂遮断部が当接することにより、電子部品の搭載時に電子部品の上面に回り込んだ樹脂接着材の吸着ノズルの下端部への付着を防止する電子部品実装装置が開示されている。フリップチップなど電子部品を基板に実装する方法で用いられるエポキシ樹脂などの樹脂接着材を用いる場合に、塗布された樹脂接着材の量が多いと、電子部品を樹脂接着材上に着地させた後に樹脂接着材が電子部品の側面からさらに上面まで回り込む現象が発生する場合がある。しかし、当該電子部品実装装置によれば、上面に回り込んだ樹脂接着材が吸着ノズルの下端部に付着すると、吸着ノズルを上昇させて電子部品を離脱させる際に、電子部品が吸着ノズルとともに上昇する、という実装ミスを防止できるとされている。
また、特許文献4には、吸着ノズルのノズル穴内に向けて高温ガスを吹き付ける高温ガス吹付工程と、高温ガス吹付工程の後にノズル穴内に所定圧のエアを吹き付けるエア吹付工程と、を有する吸着ノズル洗浄方法が開示されている。これによれば、吸着ノズルのノズル穴の内部に付着物が頑固に付着している場合でも短時間に確実に且つきれいに洗浄することができ、また電子部品実装装置に装着している状態でも洗浄することができて稼働率の低下を起こさないとされている。
さらに、特許文献5には、被吸着物を真空吸着して搬送する吸着ノズルの先端に付着した異物を除去する吸着ノズルの清掃装置であって、弾性体を貼り付けた清掃パッドと、弾性体に吸着ノズルの先端を押し付けたり離したりする上下機構と、吸着ノズルまたは/および清掃パッドに超音波振動を与える超音波振動発生器とで構成された吸着ノズルの清掃装置が開示されている。これによれば、吸着ノズル先端を弾性体に沈み込ませて超音波振動を与えて弾性体表面を破り、異物を弾性体内に埋め込み捕捉させるため、確実性および均一性が良く、比較的安価な合成樹脂フィルムを用いた消費量の少ない清掃ができるとされている。
特開平2−90700号公報
特開2002−301677号公報
特開2003−249793号公報
特開2007−98241号公報
特開2004−146477号公報
しかしながら、近年、真空吸着ノズルを高速で移動させてトレイ上の電子部品を吸着し、そのまま電子部品を回路基板まで移動して実装する工程等において、回路基板およびこれに実装する電子部品がますます小型化されて、実装する電子部品の数が増加する傾向にある。そのため、真空吸着ノズルが電子部品を吸着して回路基板へ実装する効率を向上することが課題となっている。特に、電子部品の小型化に伴って真空吸着ノズルも小型化が求められて、ますます真空吸着ノズルの吸引孔の径は小さくなっている。これにより、周囲の空気とともに大気中の微小なゴミや埃などの異物が同時に吸引されて、吸引孔内での目詰まりを起こす問題が顕著になっていた。さらに、近年の環境対応の観点から鉛フリー半田への切り替えが図られており、そのために電子部品上に形成された電極が軟化されることとなり、より多くの電極材が真空吸着ノズルに付着するようになってきていた。
これに対して、特許文献1では、そのような問題の解決の示唆はない。また、特許文献2では、真空吸着ノズルとは別の真空吸引回路内にフィルタを設けることが開示されているだけであり、真空吸着ノズルの吸引孔の内面に付着する付着物の除去については何の示唆もされていなかった。
また、特許文献3では、電子部品の上面に回り込んだ樹脂接着剤が吸着ノズルの下端部に付着することに対する防止策は開示されているが、吸引孔の内面に付着する付着物の防止策については何の示唆もない。
さらに、特許文献4では、真空吸着ノズルの吸引孔内に付着物が頑固に付着した場合の洗浄方法が開示されているが、これは吸引孔の内面に付着物を付着し難くするという根本的な解決とはならないものであった。
また、特許文献5では、被吸着物を真空吸着して搬送する吸着ノズルの先端に付着した異物を除去する吸着ノズルの清掃方法は開示されているが、特許文献4と同様に、吸引孔の内面に付着物を付着し難くするという根本的な解決とはならないものであった。
したがって、本発明は、真空吸着ノズルの吸引孔の内面に付着物の付着が少なく、洗浄の必要性が少ない、稼働効率のよい真空吸着ノズルを提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、真空吸着ノズルにより電子部品を真空吸引して吸着する際に、引き込まれた塵や埃および電子部品の表面に形成された電極の半田屑などに静電気が帯電し、このように帯電した塵や埃等および半田屑などにより当該真空吸着ノズルの吸引孔が塞がれてしまうという知見を得た。そして、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、吸引孔の内面に、真空吸着ノズルを構成するセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい突起を形成することにより、吸引孔の内面に形成した電気抵抗の小さい突起との接触により、塵や埃および半田屑などに帯電した静電気が真空吸着ノズルを経由して電子部品吸着装置へ放電されることから、塵や埃および半田屑などによる吸引孔の目詰まりをより効果的に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の真空吸着ノズルは、吸着面を先端に有する基体と、前記基体を貫通して前記吸着面に連通する吸引孔と、を備える真空吸着ノズルにおいて、
前記基体の、少なくとも前記吸着面を含む先端部がセラミックスからなり、
前記吸引孔の内面に前記セラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起が形成されていることを特徴とするものである。
本発明の真空吸着ノズルは、先端に吸着物を真空吸着する吸着面がセラミックスからなり、吸着面に吸引孔を備えた真空吸着ノズルであって、吸引孔の内面にセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起が形成されていることから、電子部品を真空吸引によって吸着するときに、空気中の塵や埃および電子部品の表面に形成された電極の半田屑などをが空気とともに吸引孔から取り込まれ、これらは静電気を帯びていることが多いためものであるが、吸引孔の内面に形成された突起と接触することにより突起の方へ静電気が放電されることによって、静電気による空気中の塵や埃および電子部品の表面に形成された電極の半田屑などが吸引孔の内面に付着して堆積するのを抑制することができる。
したがって、本発明によれば、真空吸着ノズルの吸引孔の内面に付着物の付着が少なく、洗浄の必要性が少ない、稼働効率のよい真空吸着ノズルを提供することができる。
(a)は本発明の真空吸着ノズル実施の形態の一例を示す、保持部材を実装した状態の斜視図であり、(b)は(a)に示す例の縦断面図である。
本発明の真空吸着ノズルを用いた電子部品装着機の構成を示す概略図である。
本発明の真空吸着ノズルの吸着面側から見た吸引孔内面の突起の構成の一例を示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図である。
真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を測定する方法を示す正面図である。
真空吸着ノズル1の吸引孔3の内面の突起7の形状の例を示す概略図であり、(X)は半球状の形状を、(Y)はクレーター状の形状を、(Z)は山形状の形状を表しているものである。
従来の真空吸着ノズルが、電子部品装着機の保持部材に組み付けられた状態の真空吸着ノズルの構成の一例を示す、(a)は斜視図であり、(b)は縦断面図である。
従来真空吸着ノズルを具備した電子部品装着機を用いた、チップ状の電子部品を回路基板に実装する電子部品装着装置の構成を示す概略図である。
符号の説明
1:真空吸着ノズル
2:吸着面
3:吸引孔
4:円錐部
5:円筒部
6:頭部
7:突起
10:保持部材
以下、本発明の真空吸着ノズルの実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の真空吸着ノズルを電子部品装着機の保持部材に組み付けたときの構成の一例を示すものであり、(a)はその斜視図であり、(b)は(a)に示す例の縦断面図である。
図1に示す例の真空吸着ノズル1は、真空吸引することによって電子部品(図示せず)を吸着して保持するための吸着面2を先端の端面側に有した円筒部5と、円筒部5の吸着面2と相対する側に円筒部5に向かって先細りの形状で設けられた円錐部4と、円錐部4が吸着面2と相対する根元の端面側に設けた頭部6と、を有する。そして、円筒部5を貫通して吸着面2に開口した内孔は、円錐部4と頭部6とに延設して頭部6の表面に開口させて、吸引孔3としてある。本発明に係る「基体」とは、円錐部4と円筒部5とを併せたものに相当し、「基体の、吸着面2を含む先端部」とは、円錐部4と円筒部5とからなる基体のうち、吸着面2を含むある一定範囲を意味する。本発明に係る真空吸着ノズルにおいて、少なくとも吸着面2付近がセラミックスで形成されていれば良く、勿論円錐部4および円筒部5の全部、すなわち基体の全部がセラミックスで形成されていても良い。
また、保持部材10が、真空吸着ノズル1の頭部6を凹部11で嵌合して取り付けられており、この保持部材10を介して真空吸着ノズル1が電子部品装着機(図示せず)に取り付けられるようにしてある。ここで、保持部材10は、真空吸着ノズル1の頭部6と嵌合する受け部11と、真空吸着ノズル1の吸引孔3と連通するように形成された吸引孔12と、を有している。
次に、図2に、本発明の真空吸着ノズル1を具備した電子部品装着機を用いて、チップ状の電子部品を回路基板に実装する電子部品装着装置の構成を概略図に示す。
図2に示す電子部品装着装置20は、電子部品装着機14に具備した真空吸着ノズル1と、電子部品15を並べたトレイ16と、真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15に向けて光を照射するライト17と、ライト17の反射光を受光するためのCCDカメラ18と、CCDカメラ18で受光した反射光(画像)を画像処理するための画像解析装置19と、で構成されている。
そして、この電子部品装着装置20において、真空吸着ノズル1がトレイ16まで移動し、トレイ16上に並べられた電子部品15を吸着する。そして、ライト17により、真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15へ光を照射し、この光が電子部品15の本体や電極に当たって反射する反射光をCCDカメラ18で受光する。そして、CCDカメラ18で受光した画像を基に画像解析装置19によって電子部品15の位置を測定して、そのデータを基に回路基板(図示せず)の所定の位置に電子部品15を吸着した真空吸着ノズル1を移動させて、回路基板の表面に電子部品15を実装する。
そして、本発明の真空吸着ノズル1において、吸着物を真空吸着する吸着面2を先端に有する円筒部(基体)5と、円筒部(基体)5を貫通して吸着面2に連通する吸引孔3と、を備え、円筒部(基体)5の、少なくとも吸着面2を含む先端部がセラミックスからなり、吸引孔3の内面にセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起が形成されていることが肝要である。
また、ここでいう主成分とは、セラミックスを構成する全成分100質量%のうち、50質量%以上を占める成分であり、真空吸着ノズル1に求められる耐磨耗性や機械的強度等に優れたセラミックスを主成分として用いることが好適である。
図3は、本発明の真空吸着ノズルの吸着面側から見た吸引孔内面の突起の構成の一例を示したものであり、(a)はその斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図である。
図3(a)および(b)に示すように、真空吸着ノズル1は、吸引孔3の内面に、吸着面2のセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起7が形成されている。
電子部品(図示せず)を吸引すると、同時に、空気中の塵や埃および電子部品の表面に形成された電極の半田屑などが空気とともに吸引孔3から取り込まれ、取り込まれたこれらの塵や埃および半田屑などは静電気を帯びていることが多い。しかし、上述のように、吸引孔3の内面に吸着面2のセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起7を形成することにより、これらの塵や埃および半田屑などは突起7と接触し、これらに帯電した静電気は真空吸着ノズル1を経由して電子部品装着装置20へ放電される。これにより、空気中の塵や埃および半田屑などが静電気によって吸引孔3の内面に付着して堆積することを抑制することができる。
そして、このような突起7は、真空吸着ノズル1を導電性付与材を含んだセラミックスで作製することにより形成することができる。また、吸着面2をセラミックスとし、その他を金属で形成する場合には、吸引孔3の内面に放電加工機によりシボ加工を施せば突起7を形成することができる。この場合には、セラミックスが絶縁体である場合でも、吸引孔3の内面に導通性が確保できていれば、上記と同じ効果が得られる。
このような突起7としては、導電性付与材を含んだセラミックス,金属,あるいは超硬合金などの導電性素材を用いて形成すればよい。
また、本発明の真空吸着ノズル1は、吸引孔3の内面の突起7が半球状であることが好ましい。この突起7が半球状であるときには、吸着物を真空吸着する際に吸引孔3から引き込まれた塵や埃および半田屑などの付着物が吸引孔3の内面に形成した突起7に当たったときでも空気の流れとともに転がりやすい。そのため、塵や埃および半田屑などの付着物が突起7に引っかかり、その引っかかりが原因で次々と吸引孔3の内面に付着物が堆積するということを抑制することができる。
また、本発明の真空吸着ノズル1は、突起7の高さが30μm以下であることが好ましい。
空気中の一般的な塵や埃および電子部品15の表面に形成された電極の半田屑のサイズは、数μmから数十μm以下である。突起7の高さが30μm以下であれば、このような付着物が吸引孔3に吸い込まれ、突起7に当たっても転がりやすい。そのため、塵や埃および半田屑等の付着物の流れを完全に止めてしまうことがなく、付着物が吸引孔3の内面に堆積して吸引孔3内の空気の流れを止めることがない。これにより、長期間にわたって安定して吸着することができ、吸着物の脱落や位置ずれが生じることがほとんどないものとなる。なお、突起7の高さは、一般的な室内粉塵の平均的な大きさである1μm以上であるのが好ましい。
さらに、本発明の真空吸着ノズル1は、突起7の高さが吸引孔3の径の10%以下であることが好ましい。
突起7の高さは前述の通り30μm以下であることが好ましいが、このとき吸引孔3の径が小さいと、例えば空気中の一般的な塵や埃および電子部品15の表面に形成された電極の半田屑のサイズである数μmから数十μm以下の付着物が複数個同時に吸引された場合に吸引孔3の一部に付着して吸引口3を塞いでしまう可能性がある。この塞いだ場所に付着物がさらに堆積してしまい、空気を吸引するのが困難になって、吸着物の脱落や位置ずれを起こしたりするという問題が生じる。この点で、突起7の高さは吸引孔3の径の10%以下が好ましく、10%を超えると付着物が複数個同時に吸引されて吸引孔3を塞いでしまう可能性が高くなる。すなわち、突起7の高さが吸引孔3の径の10%以下であるときには、吸着物を真空吸着するために空気を吸引孔3内へ吸引するときに吸引孔3内を流れる空気への抵抗が抑えられるので、吸引力が低下することがなく十分な吸着力を確実に得ることができる。この突起7の高さは、真空吸着ノズル1の吸着面2の側を上面にして吸引孔3の内部を工具顕微鏡にて100倍以上の倍率で観察し、突起7の最も高いポイントと吸引孔3の内周底面との高低差を計測することで、測定することができる。
また、本発明の真空吸着ノズル1は、吸引孔3の内面の表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.5μm以下であることが好ましい。この表面粗さ(算術平均粗さRa)を0.5μm以下とし、吸引孔3の内面を平滑とすることにより、電子部品15を真空吸引した際に、塵や埃および半田屑などが吸引された場合においても、付着物が吸引孔3の内面に引っ掛かる虞が少ない。これにより、吸引孔の内面に付着して堆積することをより効果的に抑制することができるので好ましい。
また、本発明の真空吸着ノズル1は、吸引孔の内面の表面粗さ(最大高さRmax)が0.6〜5.5μmであることが好ましい。この吸引孔3の内面の表面粗さ(最大高さRmax)が0.6〜5.5μmであると、突起7が導電性付与材で形成されていることから、電子部品15を真空吸引によって吸着するときに塵や埃および半田屑などが吸引されて突起7に接触した場合においても、それらが突起7に引っ掛かって付着し、堆積することもない。そして、突起7から電子部品装着装置20を介して静電気が放電されることから、静電気によって吸引孔3の内面に塵や埃および半田屑などが付着して堆積することをより効果的に抑制することができる。特に、この表面粗さ(最大高さRmax)が0.6μm未満であると、突起7に電子部品15を真空吸引したときに塵や埃および半田屑などが接触しにくくなる傾向があり、付着物に帯電した静電気を効果的に放電することができない。一方、この表面粗さ(最大高さRmax)が5.5μmを超えると、電子部品15を真空吸引によって吸着するときに塵や埃および半田屑などが突起7に引っ掛かる傾向があり、吸引孔3の目詰まりの原因となる。さらに好ましくは、この表面粗さ(最大高さRmax)は0.66〜4.8μmである。この範囲内であれば、静電気が帯電することによる塵や埃および半田屑などの付着や堆積を抑制することができる。そして、吸引孔3の中を通過する空気の流れの一部が、突起7に当たり渦流を発生させ、渦流が空気の流れの本流と吸引孔3の内面との摩擦抵抗を減らすことから、流量の低下を抑制し電子部品15の吸着ミスをより効果的に低減できる。
ここで、表面粗さ(算術平均粗さRaおよび最大高さRmax)の測定方法は、まず、真空吸着ノズル1を軸方向にレーザ加工などにより切断し、切断した吸引孔3の内面を真空吸着ノズル1の軸方向に一般的に使用される表面粗さ測定器を用いて測定する。測定条件はJIS B 0601(2001)に準拠し、測定長を4.8mm、カットオフ値を0.8mm、触針径を5μmとして測定すればよい。
また、本発明の真空吸着ノズル1は、突起7が酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
突起7が酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトのうちの少なくとも1種を含むことによって、これらを含むセラミックスからなる、あるいはこれらからなる突起7に導電性を付与することができる。これら酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトは、真空吸着ノズル1に用いる主成分のセラミックスに比べて電気抵抗が小さいために好適である。特に、これら酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトは、大気焼成したときに、特に析出し易い点で他の導電性付与材に比べて好ましい。また、これらは、異常な形状に析出することがなく、安定して析出させることができる。そのため、焼成後冷却をする際、主成分であるセラミックス組成の粒界から析出し始めた酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトが有する表面張力により、突起7を半球状に容易に形成することができる。
酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトは、特に電気抵抗値の小さい導電性付与材の中でも、大気焼成で表面層に突起7として析出され易く、かつセラミックス焼結体の中で安定して存在することができる。また、これらは、セラミックスの主成分として一般的に用いられているジルコニアやアルミナと混ぜ合わせても好適に半導電性を得ることができる。
すなわち、突起7を酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルト等の酸化物により形成することにより、突起7が静電気を帯びたとしても、電気抵抗が小さい突起7とすることができるので、突起7により静電気を放電し易いものとすることができる。さらに、これら酸化物は化学的に安定であることから、電気抵抗の経時変化が少なく、静電気を放電し易いという効果を長期間にわたって安定して得ることができる。しかも、焼成の温度設定で突起7の形状を半球状とすることができるので、空気中の塵や埃および電子部品の表面に形成された電極の半田屑などの付着物が吸引孔3の内面に付着して堆積するのを長期間にわたって安定して抑制することができる。
なお、本発明の真空吸着ノズル1は、絶縁性であっても半導電性であっても構わないが、半導電性である場合には、例えば、真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を103〜1011Ωとすれば、真空吸着ノズル1が高速で移動して空気との摩擦で発生する静電気の帯電を抑制することができる。これにより、帯電した静電気の反発力により電子部品15が動いたり吹き飛んだりするという問題や、逆に真空吸着ノズル1が静電気によって電子部品15を吸着したままで回路基板に実装できずに持ち帰るという問題の発生を抑制することができる。
真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を103〜1011Ωとすると、真空吸着ノズル1に静電気が帯電したとしても、この静電気は保持部材10と電子部品装着機20とを通してアース(除電)できる。このため、真空吸着ノズル1から周囲の部品などに静電気が急速に放電して周囲の部品が放電破壊するのを抑制することができる。また、真空吸着ノズル1が電子部品15に近づいても、真空吸着ノズル1の静電気は除電されているので、静電気の反発力で電子部品15が吹き飛ぶという現象や静電気により電子部品15が吸着面2にくっついてしまい吸着面2から離れられず、回路基板に載せられずに持ち帰るという現象をなくすことができる。また、この抵抗値が103Ω未満になると、真空吸着ノズル1の周囲にある部品などに静電気が帯電しているとそれらから放電されやすくなり、吸着している電子部品15を静電破壊してしまうという問題が生じるようになる。また、1011Ωを超えると、真空吸着ノズル1に発生した静電気は帯電しやすくなる。これにより、真空吸着ノズル1が電子部品15に近づくと静電気の反発力により電子部品15が吹き飛んだり、真空吸着ノズル1が帯びている静電気によって電子部品15が吸着面2にくっついてしまい、吸着面2から離れられず、回路基板に載せられずに持ち帰ったりするという問題が生じるので好ましくない。
ここで、図4は真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を測定する方法を示す正面図であり、真空吸着ノズル1の先端となる吸着面2に一方の電極60を接触させ、後端となる頭部6の端面に他方の電極60を接触させた状態を示している。そして、これら電極60・60には電気抵抗測定器(図示せず)が接続されており、先端側と後端側との電極60・60間に任意の電圧を加えて真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を測定すればよい。なお、測定に際して加える電圧は真空吸着ノズル1の形状や材質などに合わせて設定すればよく、おおよそ10〜1000Vの範囲であれば問題はない。
また、吸着面2の径についてはその直径を0.7mm以下とするのが好ましい。長辺が1mm以下の矩形状の電子部品15を吸着して、高密度に実装される回路基板に、電子部品15を他の部品とともに実装するときに、吸着面2や円筒部5が先に実装してある電子部品や周囲に実装してある他の部品に接触して欠けるという問題を生じ難くするためである。吸着面2の直径が0.7mmを超えると、長辺が1mm以下の矩形状の電子部品15を吸着して高密度に実装される回路基板に実装しようとすると、吸着面2や円筒部5が実装箇所の周囲にある他の部品と接触して破損しやすくなる。例えば、電子部品15が0603タイプ(寸法が縦0.6mm×横0.3mm)のチップ部品である場合には、回路基板に実装された部品の間隔が約0.1mmとなる箇所もある。そのために、電子部品15が吸着面2に吸着されたときに僅かにずれただけでも、実装時に吸着面2や円筒部5が実装箇所の周囲にある他の部品に接触して破損することがある。
また、真空吸着ノズル1にセラミックスを用いると、電子部品15の着脱を繰り返すことにより吸着面2が磨耗することを抑制することができる。このセラミックスとしては公知の材料のジルコニアあるいはアルミナを含んだジルコニアを用いることができる。
さらに、本発明の真空吸着ノズル1に用いるセラミックスは導電性付与材を含むのが好ましい。
真空吸着ノズル1に用いるセラミックスに導電性付与材を含むものを用いることにより、適度な抵抗値を有する真空吸着ノズル1を作製することができる。
例えば、アルミナは絶縁性のセラミックスであるが、安価で耐摩耗性が優れているという特長があり、炭化チタンや窒化チタンなどの導電性付与材を添加して真空吸着ノズル1に用いれば、耐摩耗性に優れ、適度な導電性も有する真空吸着ノズル1を作製することができる。同様に、ジルコニアは強度の高い材料であり、酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムまたは酸化コバルトなどの導電性付与材を添加すれば、細い形状でも折れにくくなり、適度な導電性も有する真空吸着ノズル1を作製することができる。また、炭化珪素を用いる場合は、導電性付与材として炭素を添加することによって、抵抗値を調整した真空吸着ノズル1を作製することができる。
そして、本発明の真空吸着ノズル1に用いるセラミックスは黒色系セラミックスであることが好ましい。
真空吸着ノズル1で吸着した電子部品15をライト17で照射してCCDカメラ18で撮影したときに、電子部品15はライト17の反射光で鮮明に写る。上述のように、真空吸着ノズル1に黒色系セラミックスを用いると、電子部品15の背景は真空吸着ノズル1が黒色系セラミックスであるために暗い状態となり、電子部品15の輪郭は明瞭に認識できるようになる。そのため、画像解析装置19は真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15の位置を正確に認識できるので、回路基板に実装する際の位置精度が高くなるという利点がある。
黒色系セラミックスとしては、黒色系の導電性付与材を添加したジルコニア,アルミナおよび炭化珪素などがある。また、茶色系や青色系など他の色調を有するセラミックスでも、濃い色調とすることにより黒色系セラミックスと同様の効果を得ることができる。
例えば、アルミナセラミックスに添加する黒色系の導電性付与材あるいは茶色系や青色系であっても濃い色調として用いることができる導電性付与材としては、酸化鉄,酸化マンガン,酸化コバルト,酸化ニッケル,炭化チタン,窒化チタンなどが挙げられる。中でも、酸化鉄,酸化マンガンおよび炭化チタンが黒色系セラミックスを得られる導電性付与材として好ましい。ジルコニアセラミックスに添加する黒色系の導電性付与材あるいは茶色系や青色系であっても濃い色調として用いることができる導電性付与材としては、酸化鉄,酸化チタン,酸化クロム,酸化コバルト,酸化ニッケルなどが挙げられる。中でも、酸化鉄および酸化クロムは黒色系セラミックスを得るための導電性付与材として好ましい。また、炭化珪素セラミックスでは、導電性付与材として炭素を使用したものが黒色系セラミックスとして好ましい。
さらに、本発明の真空吸着ノズル1に用いるセラミックスは、安定化剤を含むジルコニアであることが好ましい。
真空吸着ノズル1に用いるセラミックスに安定化剤を含むジルコニアを用いることが好ましいのは、当該セラミックスに安定化剤を含むジルコニアを用いることにより、セラミックスとしての機械的強度が高くなるためである。特に、図1(a)に示す真空吸着ノズル1のように、円筒部5を有しており、その円筒部5の径が細い形状の真空吸着ノズル1の場合には、吸着面2に吸着した電子部品15を基板に実装したときに隣接する他の部品と真空吸着ノズル1の先端とが接することによって円筒部5が破損しやすい。そのため、セラミックスとして強度の高い、安定化剤を含むジルコニアを使用することが好適である。
このときのジルコニアに含ませる安定化剤にはイットリア,セリア,マグネシアなどを用いればよく、これら安定化剤を2〜8モル%程度含んでいれば実用上で強度が十分なジルコニアとなる。また、ジルコニアの平均結晶粒子径は1μm以下のものが好ましい。ジルコニアの平均結晶粒子径を1μm以下とすることで、真空吸着ノズル1の作製や補修の際に吸着面2に対して研削加工や鏡面加工をするときに、結晶粒子が脱落しにくくなることから吸着面2に欠けが生じにくくなる。特に、ジルコニアの平均結晶粒子径が0.3〜0.8μmの範囲にあることがより好ましい。
さらに、本発明の真空吸着ノズル1は、セラミックスが安定化剤を含むジルコニアであり、導電性付与材が酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムおよび酸化コバルトのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これらを含む導電性付与材は、ジルコニアセラミックスに導電性を付与することができるとともに、例えば酸化鉄だと黒色系、酸化チタンだと黄色系、酸化クロムだと緑色系、酸化コバルトだと青色系といった色に着色することができる。
ここで、導電性付与材の平均結晶粒径は、0.5〜3μmの範囲にあることが好ましい。真空吸着ノズル1の吸着孔3の内面は焼き肌面であり、焼き肌面には導電性付与材の結晶粒子が突起7として現われるが、導電性付与材の平均結晶粒径が0.5〜3μmの範囲であれば、吸引孔3の内面の表面粗さ(算術平均粗さRa)を0.5μm以下とすることができる。さらに、導電性付与材の平均結晶粒径が0.5〜3μmの範囲であれば、表面粗さ(最大高さRmax)を0.6〜5.5μmの範囲内とすることができる。このことから、吸引孔3の内面に塵や埃および半田屑などが付着し堆積することを低減することができ、吸引力の低下を抑制することができ電子部品15の吸着ミスを低減することができる。
そして、この真空吸着ノズル1で電子部品15を吸着すると、ライト17が真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15に向けて光を照射し、CCDカメラ18でその反射光を受光するときに、電子部品15の色合いに対して真空吸着ノズル1の色合いを濃色系に変えたものを選択できる。このため、画像解析装置19が真空吸着ノズル1と電子部品15とを区別しやすい色合いのものとすることができ、認識エラーや誤動作を低減させることができる。
一般的に、電子部品15は色合いが白色系,銀色系あるいは灰色系のものが多く、そのために真空吸着ノズル1の色合いとしては黒色系などの濃色系の色合いが求められることが多い。このような黒色系の色合いの真空吸着ノズル1を得るためには、例えば、ジルコニアが65質量%に酸化鉄を30質量%,酸化クロムを3質量%,酸化コバルトを2質量%の組成としたものが好適である。また、電子部品15が銀色系のときは、真空吸着ノズル1の色合いは濃い黒色系を用いるのが好ましいが、これは、酸化鉄を25質量%以上とすることによって得ることができる。
さらにまた、本発明の真空吸着ノズル1は、セラミックスが安定化剤を含む高強度のジルコニアである場合には、黒色系の色調と導電性を付与するために多くの導電性付与材を含ませて反応焼結させると、強度が低下する傾向がある。そのため、それを抑制するために、焼成されたセラミックスが焼成後の冷却中に1000℃付近の高温域から400℃付近まで1時間以内に冷却されるように、炉内に冷却のための空気を注入して当該セラミックスを急冷すると良い。このとき、特に析出しやすい酸化鉄や酸化チタンや酸化クロムなどの酸化物系の導電性付与材によって、急冷されにくい吸引孔3の表面にごく僅かな突起高さを有した多数の突起7を形成することができる。この突起7は、大気圧中で析出しようとする酸化物系の導電性付与材である酸化鉄,酸化チタン,酸化クロムなどの表面張力により、形状を半球状とすることができる。
次に、本発明のセラミックス製の真空吸着ノズル1の製造方法を説明する。
本発明の真空吸着ノズル1を構成するセラミックスとしては、炭化珪素,アルミナ,安定化剤を含むジルコニアなど公知の材料を用いることができる。
例えば、炭化珪素(95質量%)に焼結助剤としてアルミナを5質量%の割合で混合した原料をボールミルに投入して所定の粒度まで粉砕してスラリーを作製し、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して顆粒を形成する。
次に、この顆粒と熱可塑性樹脂とをニーダに投入して加熱しながら混練し、これにより得られた坏土をペレタイザーに投入すれば、インジェクション成形用の原料となるペレットを得ることができる。なお、ニーダに投入する熱可塑性樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体やポリスチレンやアクリル系樹脂などが挙げられ、これらをセラミックスの質量に対して10〜25質量部程度添加すればよい。ニーダを用いた混練中の加熱温度は140〜180℃に設定すればよい。また、混練の条件はセラミックスの種類や粒度、および熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよい。
そして、得られたペレットをインジェクション成形機に投入して射出成形すれば、真空吸着ノズル1となる成形体が得られる。このとき、得られた成形体には通常は射出成形したときの余分な原料が冷えて固まったランナが付随しているので、脱脂する前に成形体を切断しておく。
炭化珪素の焼成条件としては、以下のように設定すればよい。すなわち、最高温度を1900〜2200℃とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として、真空雰囲気中またはアルゴンやヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で当該炭化珪素セラミックスを焼成すればよい。また、突起7を形成するためには、焼成温度を昇温時において低温域(1000℃〜1300℃)に一定時間(約1時間)保持するとよい。
さらにまた、本発明の真空吸着ノズル1を構成するセラミックスとして、安定化剤を含むジルコニア,アルミナなどを用いる場合には、導電性付与材としては、酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロムおよび酸化チタンのうちの少なくとも1種か、または炭化チタンや窒化チタンを含むものを用いることができる。
例えば、安定化剤としてイットリアを含むジルコニアを65質量%に対して酸化鉄を35質量%の割合で混合し、この原料をボールミルに投入して所定の粒度まで粉砕してスラリーを作製する。そして、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥させて顆粒を形成し、インジェクション成形機に投入して上述と同様の方法で射出成形すれば、真空吸着ノズル1となる成形体が得られる。
ここで、ジルコニア,アルミナの焼成条件については、以下のように設定すればよい。すなわち、導電性付与材が酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロムおよび酸化チタンのうちの少なくとも1種の場合には、最高温度を1300〜1500℃の範囲として、最高温度での保持時間を1〜5時間とし、大気雰囲気中で焼成し、冷却中に1000℃付近の高温域から400℃付近まで1時間以内に冷却されるようにする。このようにすれば、特に析出しやすい酸化鉄や酸化チタンや酸化クロムなどの酸化物系の導電性付与材の働きによって、急冷されにくい吸引孔3の表面にごく僅かな突起高さを有する多数の突起7を形成することができる。また、導電性付与材が炭化チタンの場合には、最高温度を1400〜1800℃の範囲として、最高温度での保持時間を1〜5時間とする。そして、突起7を形成するためには、焼成温度を昇温時において低温域(1000℃〜1300℃)に一定時間(約1時間)保持し、続けて真空雰囲気中またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成すればよい。また、導電性付与材が窒化チタンの場合には、真空雰囲気中または不活性雰囲気中に代えて、窒素ガス雰囲気中で焼成してもよい。これにより、セラミックス製の真空吸着ノズル1に適度な導電性を付与することができる。
(実施例1)
以下、本発明の真空吸着ノズルの実施例を説明する。
まず、セラミックスとして、安定化剤としてイットリアを3モル%含むジルコニアを選択した。そして導電性付与材として酸化鉄をジルコニア100質量部に対して合計で10質量部添加した原料に水を加えて、ボールミルで粉砕し混合してスラリーを作製した。これらのスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥させ、それぞれの顆粒を作製した。また、これらの原料には焼結助剤として秤量時にマグネシア,カルシア,チタニア,ジルコニアなどを適宜添加した。
そして、この顆粒100質量部に対してエチレン酢酸ビニル共重合体,ポリスチレン,アクリル系樹脂を合計20質量部加えてニーダに投入し、約150℃の温度に保ちながら混練して坏土を作製した。次に、得られた坏土をペレタイザーに投入して、インジェクション成形用の原料となるペレットを作製した。そして、このペレットを公知のインジェクション成形機に投入し、インジェクション成形方法で成形体を作製し、これらの成形体を乾燥機に入れて乾燥させた。その後、公知の一般的なセラミックスの焼成方法を用いて、図1に示す真空吸着用ノズル1となる成形体を作製した。焼成条件は、以下のように設定した。すなわち、最高温度を1300〜1500℃の範囲とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として、大気雰囲気中で成形体を焼成した。焼成後の冷却時に1000℃から400℃までに1時間で急冷できるように温度が1000℃となった時点で炉内に冷却空気を注入した。得られた焼結体はバレル加工でセラミックスの表面を数μm研磨し、その後、真空吸着ノズル1の吸着面2となる部分を研削加工して平面とした。そして、真空吸着ノズル1の円筒部5の長さが3.2mm,外径が0.7mm,内径が0.20〜0.4mm、円筒部5の肉厚が0.15〜0.25mmとなるように真空吸着ノズル1を作製した。これらを本発明の実施例の試料No.2〜8,10〜17とした。
このとき、真空吸着ノズル1の吸着面2の側を上面にして吸引孔3の内部を工具顕微鏡にて100倍の倍率で観察して、突起7の最も高いポイントと吸引孔3の内周の底面との高低差を、任意の場所を10ヶ所選んで測定した。その平均を吸引孔3の内面に形成された突起7の高さとした。また、各突起7の高さ調整は、大気雰囲気中での焼成の場合は、1000℃付近の高温域から400℃付近までの急冷時間を調整することで行なった。
また、本発明の範囲外として、吸引孔3の内面に突起7のない試料を作製した。突起7のない試料は、上記と同一の組成の材料と同一の製造方法とを用い、焼成時の1000℃付近の高温域から400℃付近まで急冷せずに自然冷却することによって、作製した。これらを本発明の比較例の試料No.19とした。
次に、これらの真空吸着ノズル1の試料を電子部品装着機14に取り付けて、電子部品15の真空吸着テストを行ない、電子部品15の実装不良および真空吸着ノズル1の吸引力について調べた。真空吸着テストは、0603タイプ(寸法が0.6mm×0.3mm)の電子部品15を用い、吸引孔3の内面に塵や埃および電子部品15の表面に形成された電極の半田屑が付着した際に起こる吸引力不足の発生を評価することにより行なった。このとき、隣接する電子部品15の間隔は最小で0.1mmとした。
まず、電子部品15の実装不良については、電子部品装着機14を稼動させて2000万個の吸着を行ない、ダミー基板上に電子部品15を実装して、電子部品15同士が重なり、きれいに配列されなかった個数を数えることで、電子部品15の実装不良の個数を確認した。実装無しや電子部品15同士が重なり、きれいに配列されなかった数の合計が3個以下のときは◎とし、4〜10個のときは○とした。また、電子部品15が実装できないか、または電子部品15同士が重なり、きれいに配列されなかった数の合計が11個以上の場合は、従来と差がないか従来より劣るので不合格とし×とした。
また、真空吸着ノズル1の吸引力については、電子部品装着機14を稼動させて、まず2000万個の吸着を行ない、それから連続して100個の実装テストを行なうことで真空吸着ノズル1の吸引力を確認した。その結果、連続して100個の電子部品15が位置ずれなく吸引し続けられたものは◎とし、位置ずれは少し確認できるが吸引し続けられたものは○とし、吸引し続けられず電子部品15がノズルから落下したものは、従来のノズルと同じか従来より劣るので不合格とし×とした。得られた結果を表1に示す。
表1に示す結果から、電子部品15の実装不良および吸引力については、本発明の真空吸着ノズルの実施例である試料No.2〜8,10〜17は、実装不良については10個以下であり、吸引力についても落下するものはなかったことが分かる。一方、本発明の比較例である試料No.19は、実装不良については11個以上であり、吸引力についても吸引し続けられず落下するものがあったことから、本発明の実施例のものは比較例のものよりも良好であることが分かる。すなわち、通常、電子部品を真空吸引によって吸着するときに同時に空気中の塵や埃および半田屑などの付着物が空気とともに吸引孔3から吸引され、これらの付着物に静電気が帯電する。これにより、吸引孔3の内面にこれらの付着物が堆積し、真空吸着ノズル1の吸引力が低下してしまう。しかしながら、本発明の試料No.2〜8,10〜17では、吸引孔3の内面にセラミックスの主成分よりも電気抵抗の小さい複数の突起7が形成されていることから、吸引された付着物が吸引孔3の内面に形成された突起7と接触することで、真空吸着ノズル1から電子部品装着装置20を介して付着物の静電気がアースされて放電される。これにより、静電気により空気中の塵や埃および半田屑などが吸引孔3の内面に付着して堆積することがほとんどない。一方、比較例である試料No.19は、真空吸着ノズル1の吸引孔3の内面に電気抵抗の小さい突起7がなく、吸引孔3の内面に静電気により塵や埃および半田屑などが付着しやすく、吸引孔3の孔詰まりによる実装不良が11個以上発生し、吸引力については落下するものがあり、従来品と同等かまたは劣るものであった。
また、本発明の実施例の中でも、突起7の高さが30μm以下である試料No.2〜7,10〜13,16では実装不良が3個以下であり、30μmを超える試料No.8,14,15,17では実装不良が4〜10個であったことから、突起7の高さは30μm以下が良好であることが分かる。すなわち、突起7の高さが30μm以下である試料No.2〜7,10〜13,16では、半田屑や空気中の一般的な塵や埃のサイズである数十μm以下の付着物が吸引孔3に吸い込まれても突起7を越えて転がり易く吸引孔3の内面にひっかかり難い。このため、これらの付着物が吸引孔3の内面に堆積し難いために、吸引孔3が詰まらずに電子部品15を安定して吸引して実装できたと考えられる。
さらに、本発明の実施例の中でも、突起7の高さが吸引孔3の径の10%以下である試料No.2〜5,10〜13,16では、電子部品15を真空吸着するために空気を吸引孔3内へ吸引するときに吸引孔3内を流れる空気への抵抗が抑えられる。このため、吸引力が低下することがなく、半田屑や空気中の一般的な塵や埃が堆積することもなく、十分な吸着力が得られたものと考えられる。
(実施例2)
次に、突起7の形状による実装不良の差と、導電性付与材による実装不良の差とを確認するために、以下のようにして試料を作製した。まず、実施例1で使用したセラミックス、すなわち、安定化剤としてイットリアを3モル%含むジルコニアを主成分としたセラミックスを用いた。導電性付与材として酸化鉄,酸化チタン、酸化コバルト,酸化クロム,酸化ニッケルおよび炭化チタンをそれぞれ22質量%となるように上記セラミックスに添加した組成とし、成形体を作製するところまでは同一の工程を用いた。焼成条件として、導電性付与材が酸化鉄,酸化チタン、酸化コバルト,酸化クロムの場合は、最高温度を1300〜1500℃の範囲とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として、大気雰囲気中で焼成した。焼成後の冷却時に1000℃から400℃までを1時間で急冷できるように、温度が1000℃となった時点で炉内に冷却空気を注入して試料を作製した。そのときの試料を本発明の実施例の試料No.18〜21とした。また、同じく本発明の実施例として、導電性付与材が酸化ニッケルの場合は、最高温度を1340℃とし、最高温度での保持時間を2時間として、大気雰囲気中で焼成した。そして焼成後の冷却時に1000℃から400℃までに1時間で急冷できるように、温度が1000℃となった時点で炉内に冷却空気を注入して試料を作製した。そのときの試料を試料No.22とした。さらに、導電性付与材が炭化チタンの場合は、温度を昇温時において1000℃に(1時間)保持し、最高温度を1300℃として、その最高温度の保持時間を15時間として、真空雰囲気中で焼結して試料を作製した。そのときの試料を試料No.23とした。
得られた焼結体はバレル加工でセラミックスの表面を数μm研磨し、その後、真空吸着ノズル1の吸着面2となる部分を研削加工して平面とした。そして、真空吸着ノズル1の円筒部5の長さが3.2mm,外径が0.7mm,内径が0.40mm、円筒部5の肉厚が0.15mmとなるように真空吸着ノズル1を作製した。なお、突起7の形状は、1000倍のSEM(電子顕微鏡)写真にて観察して確認した。その突起7の形状の概略図を図5(X)〜(Z)に示す。図5(X)は半球状の形状を、(Y)はクレーター状の形状を、(Z)は山形状の形状を表しているものである。
そして、これらの真空吸着ノズル1を電子部品装着機14に取り付けて稼働させて0603タイプ(寸法が0.6mm×0.3mm)の電子部品15の実装を3000万個迄行なうことにより、真空吸着ノズル1の真空吸着テストを行ない、電子部品15の実装不良についてさらに細かく確認を行なった。このときの隣接する電子部品15の間隔は最小で0.1mmとした。
その結果、3000万個迄実装不良が全く発生しなかったものは◎とし、2000万〜3000万個の間に実装不良が1個のみ発生したものは○とし、2000万〜3000万個の間に実装不良が2個〜3個発生したものは△とした。
得られた結果を表2に示す。
表2に示す結果から、本発明の実施例の中でも、突起7の形状が半球状である試料No.18〜21では、実装不良が3000万個迄全くなかったのに対して、同じく本発明の実施例である試料No.22,23では、その形状がクレーター状または山形状であり、実装不良が△または○であったことから、突起7の形状が半球状のものが、より良好であることが分かる。すなわち、本発明の実施例の中でも試料No.18〜21では、突起7の形状が半球状であることから、真空吸着する際に引き込まれた塵や埃および半田屑などの付着物が、空気の流れとともに突起7を越えて転がり易くなり、付着物が吸引孔3の内面に付着して堆積するのを抑制したからである。従って、導電性付与材として酸化鉄,酸化チタン,酸化コバルト,酸化クロムを使うと、突起7の形状を容易に半球状とすることができる。それにより、真空吸着する際に引き込まれた塵や埃および半田屑などの付着物が、空気の流れとともに突起7を越えて転がり易くなり、付着物が吸引孔3の内面に付着して堆積するのを効果的に抑制することができることが分かった。
(実施例3)
次に、真空吸着ノズル1の先端と根本との間の抵抗値によって、電子部品の静電破壊および吸着物の吹き飛びの発生状況の変化について確認をするために、以下のようにして試料を作製した。まず、セラミックスとして炭化珪素を選択し、炭化珪素を91〜95質量%と、焼結助剤としてアルミナを5質量%と、導電性付与材としてカーボンを0.2〜4質量%との割合で混合した。これに、水を加えてボールミルで粉砕し混合してスラリーを作製し、これらのスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、顆粒を作製した。そして、この顆粒100質量部に対してエチレン酢酸ビニル共重合体,ポリスチレン,アクリル系樹脂を合計で20質量部加えてニーダに投入し、約150℃の温度に保ちながら混練して坏土を作製した。次に、得られた坏土をペレタイザーに投入してインジェクション成形用の原料となるペレットを作製した。そして、このペレットを公知のインジェクション成形機に投入し、図1に示す真空吸着用ノズル1となる成形体を作製した。
次に、これらの成形体を窒素雰囲気の乾燥機に入れて乾燥した後、公知のアルゴン雰囲気の焼成方法で焼結体を得た。すなわち、温度を昇温時において低温域(1000℃〜1300℃)に一定時間(約1時間)保持し、続けて最高温度を1900〜2200℃とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として焼成して焼結体とした。得られた焼結体はバレル加工でセラミックスの表面を数μm研磨した。その後、真空吸着ノズル1の吸着面2となる部分を研削加工して平面とした。そして、真空吸着ノズル1の円筒部5の長さが3.2mm,外径が0.7mm,内径が0.4mmであり、円筒部5の肉厚が0.15mmである真空吸着ノズル1を得た。これらを試料No.24〜28とした。
次に、セラミックスとしてアルミナ,安定化剤としてイットリアを3モル%含むジルコニア,炭化珪素を選択した。続いて、当該セラミックスに、導電性付与材として酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロム,酸化ニッケル,炭化チタン,炭素をそれぞれセラミックスと導電性付与材の合計100質量部に対して0.2〜50質量部添加した原料と、導電性付与材を添加しなかった原料とを各々秤量した。そして、これらに水を加えてボールミルで粉砕し混合してスラリーを作製し、これらのスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥させ、それぞれの顆粒を作製した。また、これらの原料には焼結助剤として秤量時にマグネシア,カルシア,チタニア,ジルコニアなどを適宜添加した。
そして、上述したインジェクション成形方法で成形体を作製し、これらの成形体を乾燥機に入れて乾燥させた。その後、公知の一般的なセラミックスの焼成方法を用いて、導電性付与材が酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロムおよび酸化ニッケルのうちの少なくとも1種の場合には、最高温度を1300〜1500℃の範囲とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として、大気雰囲気中で焼成し、焼成後の冷却時に1000℃から400℃までを1時間で急冷できるように、温度が1000℃となった時点で炉内に冷却空気を注入した。導電性付与材が炭化チタンの場合には、温度を昇温時において低温域(1000℃〜1300℃)に一定時間(約1時間)保持し、続けて最高温度を1400〜1800℃の範囲とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として、それぞれアルゴン雰囲気中で焼成して焼結体とした。得られた焼結体はバレル加工でセラミックスの表面を数μm研磨し、その後、真空吸着ノズル1の吸着面2となる部分を研削加工して平面とした。そして、真空吸着ノズル1の円筒部5の長さが3.2mm,外径が0.7mm,内径が0.4mmとなり、円筒部5の肉厚が0.15mmとなるように真空吸着ノズル1を作製した。これらを試料No.29〜43とした。
次に、これらの真空吸着ノズル1の試料を電子部品装着機14に取り付けて0603タイプ(寸法が0.6mm×0.3mm)の電子部品15の真空吸着テストを行ない、電子部品15の吹き飛びおよび電子部品15の静電破壊の発生状況について調べた。このとき、隣接する電子部品15の間隔は最小で0.1mmとした。
まず、電子部品15の吹き飛びについては、電子部品装着機14を稼動させて2000万個の吸着を行ない、ダミー基板上に電子部品15を実装してその個数を数えることで、電子部品15の吹き飛びの個数を確認した。吹き飛んだ数が3個以下のときは◎とし、4〜10個のときは○とした。また、電子部品15の吹き飛んだ数が11個以上のときは従来と差がないかまたは従来より劣るので不合格とし×とした。
また、電子部品15の静電破壊については、電子部品装着機14を稼動させて2000万個の吸着を行ない、回路を形成したダミー基板上に電子部品15を実装し、ダミー基板の通電試験を行なって電子部品15を実装した回路基板が通電するか否かの確認をして、電子部品15の静電破壊の有無を確認した。今回の試験では、1枚のダミー基板に100個の電子部品15を実装して、一般に使用される回路の導通試験機を用いてダミー基板毎に導通試験を実施した。その後、問題のあったダミー基板についてのみさらに個別に実装した電子部品15の導通試験を実施して、良否の判断を行ない、静電破壊した個数を数えた。その結果、静電破壊した個数が3個以下のときは◎とし、4〜8個のときは○とし、9〜10個のときは△とした。得られた結果を表3に示す。
表3に示す結果から、電子部品15の吹き飛びおよび静電破壊については、本発明の真空吸着ノズルの実施例の中でも試料No.24〜27,30〜34,38〜42では、電子部品15の吹き飛びおよび静電破壊が2000万個中で8個以内であり、同じく本発明の実施例である試料No.28,29,35〜37,43ではいずれも9〜10個であったことから、これらよりもさらに改善されていることが分かる。すなわち、本発明の実施例の中でも試料No.24〜27,30〜34,38〜42では、真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値が103〜1011Ωであることから、真空吸着ノズル1に静電気が発生しても適切に速やかに除電することができ、電子部品15が静電気で反発して吹き飛ぶことや静電破壊することがほとんどないものであった。
また、本実施例では、セラミックスとして炭化珪素,アルミナまたはジルコニアを用いたが、これらを用いた試料No.24〜27,30〜34,38〜42については、いずれにおいても真空吸着ノズル1の先端と根元の間の抵抗値を103〜1011Ωとすることにより、電子部品15が静電気の反発力により吹き飛ぶという問題や電子部品15が静電破壊するという問題を大幅に抑制できることが分かった。
以上のことから、本発明の真空吸着ノズル1を用いて電子部品装着機14に組み付けて電子部品装着装置20を稼動させた場合には、電子部品15を吸引するときに吸引孔3内の突起7から静電気が放電され、真空吸着ノズル1で電子部品15を吸着したときに静電気の影響を受けることがない。そのため、真空吸着ノズル1からの静電気の反発力により電子部品15が吹き飛ばされるということがなくなることが確認された。また、電子部品15への放電による静電破壊を抑制することができ、吸引孔3の内面に静電気が溜まることが回避される。そのため、空気中の塵や埃および電子部品15の表面に形成された電極の半田屑などの付着物が吸引孔3の内面に付着して堆積するのを抑制することができるので、電子部品15の吸引不良や実装不良がほぼなくなることが確認された。
(実施例4)
次に、真空吸着ノズル1の吸引孔3の内面の表面粗さ(算術平均粗さRaおよび最大高さRmax)の相違による、電子部品15の吸着ミスや吸着した電子部品15の落下の発生状況の変化について確認した。
真空吸着ノズル1の主成分のセラミックスおよび導電性付与材の組成や、成形体の成形方法ならびに成形体の焼成方法は実施例1と同様とし、原料として用いる粉末の粒径ならびに焼成の最高温度を調整することにより、真空吸着ノズル1の吸引孔3の内面を、所望の表面粗さ(算術平均粗さRaおよび最大高さRmax)となるように作製した。なお、真空吸着ノズル1の円筒部5の長さは3.2mm,外径は0.7mm,内径は0.20mmであり、円筒部5の肉厚は0.25mmである。
ジルコニアの粉末は粒径が0.2〜0.3μmのものを、導電性付与材の粉末は粒径が0.2〜0.4μmのものを用い、焼成条件の最高温度を表4に示す焼成温度で焼成し、吸引孔3の内面において所望の表面粗さ(算術平均粗さRaおよび最大高さRmax)を有する試料を作製した。
次に、吸引孔3の内面の表面の表面粗さ(算術平均粗さRaおよび最大高さRmax)を測定するために、真空吸着ノズル1を軸方向にレーザ加工でほぼ二分割となるように切断し、この片方の内面の表面粗さを測定した。
測定は、表面粗さ測定器(Taylor Hobson社製のTalySurf S4C型面粗さ測定器)を使用し、測定長を4.8mm、カットオフ値を0.8mmに設定し、触針径は5μmのものを使用し、吸引孔3の内面について真空吸着ノズル1の軸方向に測定を行なった。測定数は各10個で、その平均値をデータとした。
次に、各試料の評価方法は、以下のようにして行なった。まず各試料の真空吸着ノズル1を電子部品装着機14に装着し、0603タイプの電子部品15の2000万個について吸着を行なった。その後、それから連続して100個の実装テストを行なうことで、真空吸着ノズル1の吸引力を確認した。その結果、連続して100個の電子部品15が位置ずれなく吸引し続けられたものは◎とし、1〜5個の電子部品15に位置ずれが少し確認できるが吸引し続けられたものは○とし、6〜10個の電子部品15に位置ずれが少し確認できるが吸引し続けられたものは△とし、11個以上の電子部品15に位置ずれが少し確認できるが吸引し続けられたもの、あるいは、吸引し続けられず電子部品15がノズルから落下したものが1個以上あるものは、不合格とし×とした。
ここで、電子部品装着機14の吸引力の変化を確認するためのテストは合計3回行なった。1回目は、まず電子部品15の2000万個の吸着を吸引力が100kPaで行ない、そしてその後に、吸引力を確認するために電子部品15の100個の吸着を吸引力が100kPaで行なった。その後、各試料を一旦、電子部品装着機14から外し、純水中で30分間、超音波洗浄してから乾燥後、2回目の吸着テストを行なった。2回目は、各試料を再度、電子部品装着機14に装着し、1回目と同様に2000万個の吸着を吸引力が60kPaで行ない、次に100個の電子部品15について吸引力を60kPaとして吸着テストを行なった。ここで、最近の特に薄型チップになると真空圧による破壊等の問題が発生することや、電子部品15の実装時間短縮のために吸着解除動作時間を短くする目的で吸引力の設定値を低くする方向にあることから、一般的な吸引力の設定値より低い60kPaという条件を追加したものである。
また、上記テストにおいて、電子部品15の位置ずれや落下の原因が、吸引孔3の内面への塵や埃および半田屑が付着したことによるものかどうかを推測するために、2回目の吸着テストの後に、再度、各試料を洗浄し、同様に電子部品装着機14に装着し、吸引力を60kPaとして電子部品15の100個の吸着テストを3回目として行なった。得られた結果を表4に示す。
表4に示す結果から、真空吸着ノズル1の吸引孔3の内面の表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.5μm以下である試料No.101〜128では、1回目の吸着テストにおいて吸引力を100kPaとして100個の電子部品15を吸着した結果は、電子部品15が落下したものはなく、また、吸着したときの位置ずれが10個を超えたものもないことから、判定は全て○または◎であった。しかし、表面粗さ(算術平均粗さRa)が、0.60μmである試料No.129〜135のうち、表面粗さ(最大高さRmax)が0.48μmと5.9μmとである試料No.129と135とでは、電子部品15の落下はなかったものの、11個以上の電子部品15に吸着したときの位置ずれがあったことから判定は△であった。
また、吸引力を60kPaに変更して100個の電子部品15を吸着した2回目の吸着テストの結果は、電子部品15が落下したものや、また、10個を超える位置ずれはなかった。しかしながら、全ての電子部品15を位置ずれがなく吸着できたものは、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.06μmと0.45μmとの試料のうち、表面粗さ(最大高さRmax)が0.66〜4.80μmである試料No.110〜112と117〜119とであり、判定は◎であった。
また、真空吸着ノズル1を洗浄したあと、吸引力を60kPaのままとして、3回目の吸着テストを行なった。その結果は、全ての試料において電子部品15を吸着したときの位置ずれや落下の発生はなかった。このことから、1回目および2回目の吸着テストにおいて電子部品15の位置ずれが発生した原因は、テスト前の2000万個の電子部品15の吸着により、電子部品15を真空吸引する際に引き込まれた塵や埃および半田屑が吸引孔3の内面に付着し堆積したことにより、吸引孔3の空気の流量が付着物の影響を受けて低下したためであると考えられる。
さらに、電子部品15の位置ずれは、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.50μm以下の時にもっとも発生が少ない。このことから、この値が大きくなると、塵や埃および半田屑などが突起7に直接引っ掛かり、付着し、さらに堆積する。これにより、吸引孔3を通過する空気の流量が低下して位置ずれが多発すると考えられる。
以上の結果から、吸引孔3の内面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、0.5μm以下が好ましいことが分かる。
また、表面粗さ(最大高さRmax)と電子部品15の位置ずれの発生との関係については、吸引力を60kPaとした2回目の吸着テストの結果から、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.05〜0.50μmの範囲にあって表面粗さ(最大高さRmax)が0.60〜5.50μmである試料No.102〜106,109〜113,116〜120,123〜127では、電子部品15の位置ずれの判定は全て○または◎であった。さらに、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.06と0.45μmとであって表面粗さ(最大高さRmax)が0.66〜4.80μmである試料No.110〜112,117〜119では、位置ずれはなく判定は◎であった。
このことから、電子部品15を真空吸引する際に引き込まれた塵や埃および半田屑の付着と表面粗さ(最大高さRmax)との間には相関関係があることが分かる。表面粗さ(最大高さmax)が小さいときには、内面の突起7の高さが低いことから、静電気を帯びた塵や埃および半田屑が、突起7に接触する機会が少ない。そのため、帯電した静電気が塵や埃および半田屑から放電されず、この静電気により、これらが吸引孔3の内面に付着して堆積する。このことにより、吸引される空気の流量が低下し、電子部品15の位置ずれが発生すると考えられる。
また、表面粗さ(最大高さRmax)が大きくなると、吸引孔3の流路の有効な断面積が狭くなることから、電子部品15を真空吸引によって吸着する際に引き込まれた塵や埃および半田屑が突起7に引っ掛かり易くなり、付着して堆積する。これにより、さらに吸引力が低下することから流量も低下し、電子部品15の位置ずれが発生することが考えられる。
以上の結果から、吸引孔3の内面の表面粗さ(最大高さRmax)は、0.60〜5.5μmが好ましく、より好ましくは、0.66〜4.80μmである。
(実施例5)
次に、実施例4において確認した、表面粗さ(最大高さRmax)と位置ずれとの関係を、実施例5においてさらに詳細に確認した。実施例4における3回目の電子部品15の吸着テストを行なった際、試料No.115〜121について、各々の真空吸着ノズル1で電子部品15を吸着したときの、電子部品装着機14内での空気の流量を、フロート式流量計を用いて測定した。得られた結果を表5に示す。
表5に示す結果から、表面粗さ(最大高さRmax)が0.48μm〜5.5μmと変化するにつれて流量は0.541〜0.535L/分と徐々に低下し、表面粗さ(最大高さRmax)が5.90μmでは流量が0.524L/分と急減している。
一般的に、空孔を通過する流体の流量は、吸引力が同一ならば、孔の断面積と、流速と、空気が吸引されるときの吸引孔の内面との摩擦抵抗とに比例するが、表面粗さ(最大高さRmax)が0.48μm〜5.5μmの範囲にある場合は、流量の低下は僅かである。
以上のことから、吸引孔3の中を通過する空気の流れの一部が、突起7に当たり渦流を発生させ、渦流が空気の流れの本流と吸引孔3の内面との摩擦抵抗を減らすことができ、流量の減少が抑制されたものと考えられる。