以下、本実施形態の一例を説明する。
図1は本実施形態の真空吸着ノズルを電子部品装着機の保持部材に組み付けたときの構成の一例を示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)の縦断面図である。
図1に示す真空吸着ノズル組み立て体7は、真空吸着ノズル1が、真空吸引することによって被吸着物である電子部品(図示せず)を吸着して保持するための吸着面2を先端の端面側に有した円筒部5と、円筒部5の吸着面2と相対する側に円筒部5に向かって先細
りの形状で設けられ円錐部4と、円錐部4の吸着面2と相対する根元の端面側に設けられた頭部6とを有する構成である。そして、円筒部5を貫通して吸着面2に開口した内孔は、円錐部4と頭部6とに延設して頭部6の表面に開口させて、吸引孔3としてある。
また、真空吸着ノズル1の頭部6と嵌合する受け部11を有し、吸引孔3と連通するように吸引孔12を有している保持部材10が、真空吸着ノズル1の頭部6と受け部11とを嵌合させて取り付けられており、保持部材10を介して真空吸着ノズル1が電子部品装着機(図示せず)に取り付けられるようにしてある。
次に、図2に、本実施形態の真空吸着ノズル1を具備した電子部品装着機を用いて、チップ状の電子部品を回路基板に実装する電子部品装着装置の構成を概略図で示す。
図2に示す電子部品装着装置20は、電子部品装着機14に具備した真空吸着ノズル1と、電子部品15を並べたトレイ16と、真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15に向けて光を照射するライト17と、ライト17の反射光を受光するためのCCDカメラ18と、CCDカメラ18で受光した反射光(画像)を画像処理するための画像解析装置19とで構成されている。
そして、この電子部品装着装置20は、真空吸着ノズル1がトレイ16まで移動し、トレイ16上に並べられた電子部品15を吸着すると、ライト17が真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15へ向けて光を照射し、この光が電子部品15の本体や電極に当たって反射する反射光をCCDカメラ18で受光し、CCDカメラ18で受光した画像を基に画像解析装置19によって電子部品15の位置を測定して、そのデータを基に回路基板(図示せず)の所定の位置に電子部品15を吸着した真空吸着ノズル1を移動させて、回路基板の表面に電子部品15を実装するものである。
そして、本実施形態の真空吸着ノズル1は、先端に被吸着物を真空吸着する吸着面2を備えた真空吸着ノズル1であって、吸着面2は、特定の方向の粗さ曲線における、JIS
B 0601(2001)に記載の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下で
あり、輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であることが重要である。
なお、本実施形態では、吸着面2において、複数の溝を有しており、これらの溝が平行にまたはほぼ平行となるように配列されている。なお、ほぼ平行とは、溝が吸着面上において、互いに交差していない状態を意味する。そして、特定方向としてはこの溝に対して直交する方向を意味しており、以下同意である。なお、特定方向はこの溝に対して直交する方向に限られるものではなく、任意に設定することができる。
図3は本実施形態の真空吸着ノズルの吸着面の一例を示し、(a)は吸着面の外形形状が円形状の場合を示す図であり、(b)は吸着面の外形形状が矩形状の場合を示す図であり、(c)は吸着面の外形形状が楕円形状の場合を示す図である。
図3(a)〜(c)に示すように、真空吸着ノズル1は、被吸着物を真空吸着する吸着面2に、ほぼ平行に配列された複数の溝8を有している。この図3(a)〜(c)に示す溝8によって、被吸着物を真空吸着したときに被吸着物と真空吸着ノズル1の吸着面2との間で溝8を介して僅かな隙間が生じ、この隙間から空気の流入が生じるため、真空吸着ノズル1が被吸着物に近付いて吸着するときに、急激な吸着が起こらず、被吸着物の位置ずれを抑制できる。また、被吸着物が吸着面2から離脱するときに真空による貼り付きが少なくなるために、被吸着物を離脱することなく真空吸着ノズル1がトレイ16まで移動する不備(以下、離脱不良という。)が発生しにくく、さらに離脱にかかる時間が短縮でき
応答動作が速いため、装着精度や移送効率を向上することができる。
さらに、吸着面2は、溝8に対して直交する方向(特定方向)の粗さ曲線におけるJIS B 0601(2001)に記載の粗さ曲線の最大断面高さRtを0.18μm以上0.4μm以下
であるものとしたため、例えば、吸着面2の溝8の横断面形状が波状であれば、溝8の表面で吸着面2に照射された光を乱反射させたり、場合によってはCCDカメラの方向とは違う方向へ反射させたりすることもできる。このとき、真空吸着ノズルの吸着面の反射光と被吸着物からの反射光とは識別しやすくなるため、位置検出が容易にできるようになって装着精度が向上する。
特に、溝8に対して直交する方向における粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であると、被吸着物を真空吸着するときに溝8からの適度な空気の流入があ
るので、急激な吸着によって位置ずれを抑制できるとともに、吸着の強さは大きく低下しない。したがって、移送中に被吸着物の落下が少なく、移送先で、吸着面2から被吸着物を離脱するのにかかる時間を短縮することができるので、装着精度や移送効率が向上する。
なお、この最大断面高さRtが0.18μm未満になると、溝8からの空気の流入が少なくなるので吸着するときの位置ずれに注意が必要となるとともに、移送先での吸着面2への貼り付きが生じやすくなることから、被吸着物の離脱不良が発生し易くなり、被吸着物を離脱するのに時間を要するようになる。逆に、この最大断面高さRtが0.4μmを超える
と、溝8からの空気の流入が多くなって、被吸着物を吸着する力が低下する傾向となる。
さらに、溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmを0.01mm以上0.08mm以下としたので、例えば電子部品15を回路基板の実装位置に載置するための位置検出を画像解析する場合に、光を電子部品15に照射しても周囲の真空吸着ノズル1の吸着面2からの反射光は電子部品からの反射光とは別の方向へ反射するため、その反射光は電子部品15の反射光とは識別が可能となり、位置検出が容易にでき、装着精度が向上する。
なお、この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.08mmを超えると、吸着面2において、乱反射することが少なくなり、吸着面2からの反射光と電子部品15からの反射光との識別が難しくなるため、位置検出が容易にできなくなる傾向にある。逆に、この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm未満になると、溝8の間隔が小さくなるために吸着面2での乱反射が多くなり、吸着面2の輝度が高くなって電子部品15からの反射光との識別が困難になる傾向にある。
なお、吸着面2において、ほぼ平行に配列された複数の溝8は、吸着面2の面上にどのような方向に形成されていても構わないが、例えば図2に示す電子部品装着装置20のような装置で本実施形態の真空吸着ノズル1を用いる場合には、ライト17から照射した光が吸着面2で反射してCCDカメラ18で受光する反射光の量が多くならないようにすることが好ましいため、ライト17から照射する光が吸着面2に形成した列状の溝8にできるだけ垂直に当たるように、真空吸着ノズル1を電子部品装着装置20に取り付けるのが好ましい。
この点から、電子部品装着装置20の真空吸着ノズル1は、図2の矢印方向に移動するものであるが、吸着面2が円形状や矩形状ではなく長方形状や楕円形状のような形状で、長短のあるような場合には、真空吸着ノズル1はその移動方向がその形状の長手方向に垂直な方向になるように取り付けられることが多いので、吸着面2に形成する溝8は、図3(b)および(c)に示すように、吸着面2の形状の長手方向に平行に形成することが好ましい。
また、真空吸着ノズル1の吸着面2は、溝8に対して直交する方向における算術平均粗さRaが0.02μm以上0.06μm以下であることが好ましい。
本実施形態の真空吸着ノズル1によれば、吸着面2が、溝8に対して直交する方向の算術平均粗さRaが0.02μm以上0.06μm以下であるときには、溝8の表面で吸着面2に照射された光を乱反射させたり、場合によってはCCDカメラの方向とは違う方向へ反射させたりすることができる。よって、被吸着物からの反射光と吸着面2から反射光との識別がしやすく、位置検出が容易にできるようになって、装着精度が向上する。また、被吸着物を真空吸着するときに溝8からの適度な外気の流入があるので位置ずれを抑制できるとともに、吸着の強さは大きく低下しない。したがって、移送中の被吸着物の落下が少なく、移送先での吸着面2から被吸着物を離脱する時間を短縮することができるので、装着精度や移送効率が向上する。
なお、この算術平均粗さRaが0.02μm以下になると、溝8からの空気の流入が少なくなることから、被吸着物を吸着するときの位置ずれが発生しやすくなるとともに、移送先で吸着面2から被吸着物を離脱する時間が長くなることとなる。逆に、算術平均粗さRaが0.06μmを超えると、溝8からの空気の流入が多くなることから、被吸着物を吸着する力が低下することにより被吸着物を移送するときの被吸着物を落下させてしまうことがある。
なお、吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における、最大断面高さRt,輪郭曲線要素の平均長さRsmおよび算術平均粗さRaは、JIS B 0601(2001)に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ4.8mmおよび0.8mmとし、触針径を5μmとして触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られ
た10箇所の平均値とする。
また、真空吸着ノズル1は、吸着面2をセラミックスより構成することが好ましい。吸着面2をセラミックスにより作製すると、例えば被吸着物として電子部品15を用いて着脱を繰り返しても、早期に吸着面2が摩耗したり破損したりすることを抑制できる。このようなセラミックスとしては、例えばアルミナセラミックス,ジルコニアセラミックス,あるいは窒化珪素セラミックスなどを好適に用いることができる。なお、吸着面2に限らず真空吸着ノズル1全体をセラミックスからなるものとすれば、摩耗や破損の低減に対してより有効となる。
さらに、本実施形態の真空吸着ノズル1に用いるセラミックスは導電性付与剤を含むことが好ましい。
真空吸着ノズル1に用いるセラミックスに導電性付与剤を含むものを用いると、単体では絶縁性のセラミックスであっても、導電性付与剤を含ませることによって所望の適度な抵抗値を有する真空吸着ノズル1を作製することができる。
本実施形態の真空吸着ノズル1は、半導電性を有する場合には、例えば真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を103〜1011Ωとすれば、真空吸着ノズル1が高速で移動して空気との摩擦で発生する静電気により帯電したとしても、この静電気は保持部材10と電子部品装着機20とを通してアース(除電)できるために、真空吸着ノズル1から周囲の電子部品15などに静電気が急速に放電して周囲の電子部品15が放電破壊するのを抑制することができる。また、真空吸着ノズル1が電子部品15に近付いても、真空吸着ノズル1の静電気は除電されているため、静電気の反発力で電子部品15が吹き飛ぶという現象を抑制できる。この抵抗値が103Ω未満になると、真空吸着ノズル1の周囲にある部品などに
静電気が帯電しているとそれらから放電されやすくなり、吸着している電子部品15を静電破壊してしまうという問題が生じるおそれがある。また、1011Ωを超えると、真空吸着ノズル1に発生した静電気を帯電しやすくなり、真空吸着ノズル1が電子部品15に近付くと静電気の反発力により電子部品15が吹き飛ぶという現象が発生するようになるおそれがある。
ここで、図4は真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値を測定する方法を示す正面図であり、真空吸着ノズル1の先端となる吸着面2に一方の電極60を接触させ、後端となる頭部6の端面に他方の電極60を接触させた状態を示している。そして、これら電極60・60には電気抵抗測定器(図示せず)が接続されており、真空吸着ノズル1の先端側と後端側の電極60・60間に任意の電圧を加えて真空吸着ノズル1の先端と後端の間の抵抗値を測定すればよい。測定に際して加える電圧は真空吸着ノズル1の形状や材質および抵抗値などに合わせて設定すればよく、おおよそ10〜1500Vの範囲であれば問題はない。
このような半導電性を有するセラミックスとして、例えば、アルミナセラミックスは絶縁性のセラミックスであるが、安価で耐摩耗性が優れているという特長があり、炭化チタンや窒化チタンなどの導電性付与材を添加すれば適度な導電性を有するものとなるため、これを用いることによって、耐摩耗性に優れ、適度な導電性も有する真空吸着ノズル1を作製することができる。同様に、ジルコニアセラミックスは強度の高い材料であり、酸化鉄,酸化チタン,酸化亜鉛などの導電性付与材を添加すれば適度な導電性を有するものとなるため、これを用いることによって、細い形状でも折れにくくなり、適度な導電性も有する真空吸着ノズル1を作製することができる。また、炭化珪素セラミックスは、炭素を添加することで抵抗値を調整した真空吸着ノズル1を作製することができる。
さらに、本実施形態の真空吸着ノズル1に用いるセラミックスは黒色系セラミックスであることが好ましい。
真空吸着ノズル1に黒色系セラミックスを用いると、真空吸着ノズル1で吸着した電子部品15をライト17で照射してCCDカメラ18で撮影したときに、電子部品15はライト17の反射光で鮮明に写るが、電子部品15の背景は真空吸着ノズル1が黒色系セラミックスであるために暗い状態となり、電子部品15の輪郭は明瞭になる。そのため、画像解析装置19は真空吸着ノズル1に吸着された電子部品15の形状を認識しやすくなるため、回路基板に実装する際の装着精度がよくなるという利点がある。
黒色系セラミックスとしては、黒色系の導電性付与材を添加したジルコニア,アルミナおよび炭化珪素などがある。また、茶色系や青色系など他の色調を有するセラミックスでも、濃い色調とすることにより黒色系セラミックスと同様の効果を得ることができる。
例えば、アルミナセラミックスに添加する黒色系あるいは茶色系や青色系であっても濃い色調として用いることができる導電性付与材としては、酸化鉄,酸化ニッケル,炭化チタン,窒化チタンなどが挙げられ、中でも酸化鉄,炭化チタンが黒色系セラミックスを得られる導電性付与材として好ましい。ジルコニアセラミックスに添加する黒色系あるいは茶色系や青色系であっても濃い色調として用いることができる導電性付与材としては、酸化鉄,酸化チタン,酸化コバルト,酸化クロム,酸化ニッケルなどが挙げられ、中でも酸化鉄が黒色系セラミックスを得られる導電性付与材として好ましい。炭化珪素セラミックスは、炭素を含有させて導電性を付与したものが黒色系セラミックスとして好ましい。
また、真空吸着ノズル1は、セラミックスの主成分が安定化剤を含むジルコニアであって、この主成分よりも硬度が低い金属酸化物を含む添加剤を含有していることが好ましい。
真空吸着ノズル1に用いるセラミックスに安定化剤を含むジルコニアセラミックスを用いることが好ましいのは、セラミックスとしての機械的強度が高いためである。特に、図1(a)に示す真空吸着ノズル1のように、円筒部5を有しており、その径が細小さい形状の真空吸着ノズル1の場合には、吸着面2に吸着した電子部品15を基板に実装したときに隣接する部品と真空吸着ノズル1の先端とが接することによって円筒部5が破損しやすいため、セラミックスとして機械的強度の高いジルコニアセラミックスを使用することが好適である。このときのジルコニアセラミックスに含ませる安定化剤としてはイットリア,セリア,マグネシアなどを用いればよく、これら安定化剤を2〜8モル%程度含んでいれば実用上で機械的強度的に十分なジルコニアセラミックスとなる。また、ジルコニアの平均結晶粒子径は3μm以下のものが好ましい。ジルコニアの平均結晶粒子径を3μm以下とすることで、真空吸着ノズル1の作製や補修の際に吸着面2に対して研削加工や鏡面加工をするときに、結晶粒子が脱落しにくくなることから吸着面2に欠けが生じにくくなる。
また、吸着面2の径が0.7mm以下と小さな真空吸着ノズル1であるときにも、被吸着
物である電子部品15を回路基板に配設し実装したときに、真空吸着ノズル1の吸着面2の一部が先に実装してある電子部品や周囲に実装してある部品に接することによって破損するという問題が発生するのを抑制することができる。
また、真空吸着ノズル1は、添加剤である金属酸化物が少なくとも酸化鉄を含有していることが好ましい。ジルコニアを主成分とするセラミックスに、金属酸化物として少なくとも酸化鉄を含有しているときには、大気雰囲気中での焼成であっても容易に所望の抵抗値とすることができる。また、酸化鉄は主成分のジルコニアよりも硬度が低いため、焼成後の真空吸着ノズル1の吸着面2に研削や研磨等により溝8を形成するときに加工性が向上して、所望の溝を作製できる。
なお、金属酸化物の含有量は、10〜40質量%が特に好ましく、その全てが酸化鉄であっても構わないが、酸化鉄に加えて酸化コバルトや酸化クロム,酸化ニッケルおよび酸化チタンの少なくとも一種を含むものであってもよい。つまり、添加剤である金属酸化物が少なくとも酸化鉄を含有していると、ジルコニアを主成分とするセラミックスは半導電性となり、かつ、より好ましい黒色系の色調が得られると共に、いずれの酸化物もジルコニアよりも硬度が低いため、焼成後の吸着面2の研削や研磨等による溝8の加工性が向上する。また、酸化鉄に加えて、酸化チタンを含有するときには、酸化鉄やジルコニアの中に含まれる不純物と酸化チタンとが化合物を生成し、この化合物が酸化鉄の粒成長を抑制することからジルコニアを主成分とするセラミックスの機械的強度を向上することができる。なお、酸化チタンの含有量は、0.5〜1%であることが、より好ましい。これは、酸化チ
タンの含有量が0.5%未満であれば、酸化鉄の粒成長を抑制する効果が少なく、また、1
%を超えるとジルコニアを主成分とするセラミックスの色調がやや薄くなる傾向があるからである。
このように、酸化鉄を含む金属酸化物の含有量が10〜40質量%の範囲で有れば、真空吸着ノズル1の先端と後端との間の抵抗値が105〜109Ωの範囲の半導電性となり真空吸着ノズル1への静電気の帯電が発生しにくくなり、真空吸着ノズル1が電子部品15に近付くと静電気の反発力により電子部品15が吹き飛ぶという問題や、帯電した静電気が一瞬にして放電することによって吸着している電子部品15を静電破壊してしまうという問題の発生が低減できる。また、少なくとも酸化鉄を含む金属酸化物の含有量が10〜40質量%の範囲であれば、金属酸化物の含有量が10質量%より小さい範囲にあるものよりも色調が好ましく、さらに、少なくとも酸化鉄を含む金属酸化物の含有量が40質量%よりも大きな範囲にあるものよりも、主成分であるジルコニアの含有量が比較的多いため、機械的強度が高く
なる傾向があり好ましい。
また、真空吸着ノズル1は、真空吸着する吸着面2の酸化鉄の単位面積当たりの面積が20%以上40%以下であることが好ましい。主成分であるジルコニアに酸化鉄を含有し焼成した真空吸着ノズル1の吸着面2は黒色となり、単位面積当たりの酸化鉄の面積が20%以上であれば、吸着面2に光を照射したときの反射光は少なくなり、その輝度は100以下を
満足し、吸着面2に電子部品15が吸着されているときは、電子部品15は本体(図示しない)が白色系のセラミックや、あるいは、電極(図示しない)に金メッキや銀メッキされていることが多く、これらは反射光が多く、輝度が100を超えるために画像解析装置19によ
り画像処理することにより吸着面2と電子部品15の識別が容易で位置検出が容易にできる。また、単位面積当たりの酸化鉄の面積が40%以下であれば、焼成後の真空吸着ノズル1の吸着面2に研削や研磨等により溝8を形成するときに吸着面2の表面の酸化鉄の粒子が適度に脱粒して溝8が形成されるため、異常な脱粒により面粗度(例えば、Rt)が大きくなることで吸着面2の表面の状態が粗くなりにくいので、電子部品15を真空吸着し搬送するときに、吸着面2から空気が漏れにくく、電子部品15を落下させにくい。
また、真空吸着ノズル1は、真空吸着する吸着面2の酸化鉄の最大結晶粒径が2μm以上9μm以下であることが好ましい。酸化鉄の最大結晶粒径が2μm以上であれば、焼成後の真空吸着ノズル1の吸着面2に研削や研磨等により溝8を形成するときに吸着面2の表面の酸化鉄の粒子を適度に脱粒させて溝8が形成されるので、加工性が向上し、所望の溝8を作製できる。また、酸化鉄の最大結晶粒径が9μm以下であれば、研削や研磨等により溝8を形成するときに、異常な脱粒により面粗度(例えば、Rt)が大きくなることで吸着面2の表面の状態が粗くなりにくいので、電子部品15を真空吸着し搬送するときに、吸着面2から空気が漏れにくく、電子部品15を落下させにくい。
次に、本実施形態のセラミックス製の真空吸着ノズル1の製造方法を説明する。
本発明の真空吸着ノズル1を構成するセラミックスとしては、炭化珪素,アルミナ,安定化剤を含むジルコニアなど公知の材料を用いることができる。
例えば、炭化珪素を95質量%に焼結助剤としてアルミナを5質量%の割合で混合した原料をボールミルに投入して所定の粒度まで粉砕してスラリーを作製し、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して顆粒を形成する。
次に、この顆粒と熱可塑性樹脂とをニーダに投入して加熱しながら混練して得られた坏土をペレタイザーに投入すれば、インジェクション成形(射出成形)用の原料となるペレットを得ることができる。なお、ニーダに投入する熱可塑性樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体やポリスチレンやアクリル系樹脂などをセラミックスの質量に対して10〜25質量%程度添加すればよく、ニーダを用いて混練中の加熱温度は140〜180℃に設定すればよい。また、混練の条件はセラミックスの種類や粒度、および熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよい。
そして、得られたペレットをインジェクション成形機(射出成形機)に投入して射出成形すれば、真空吸着ノズル1となる成形体が得られる。このとき、得られた成形体には通常は射出成形したときの余分な原料が冷えて固まったランナが付随しているため、脱脂する前に切断しておく。
炭化珪素の焼成条件としては、真空雰囲気中またはアルゴンやヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で焼成すればよく、最高温度は1900〜2200℃とし、最高温度での保持時間を1〜5時間とすればよい。
さらにまた、本実施形態の真空吸着ノズル1を構成するセラミックスとして、安定化剤を含むジルコニアセラミックス,アルミナセラミックスなどを用いる場合には、導電性付与材としては、酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロムおよび酸化ニッケルの少なくとも1種か、または炭化チタンや窒化チタン、さらには酸化チタンを含むものを用いることができる。また、導電性付与材として、少なくとも酸化鉄を含むことが好ましい。
例えば、安定化剤としてイットリアを含むジルコニアを65質量%に対して酸化鉄を35質量%の割合で混合し、この原料をボールミルに投入して所定の粒度まで粉砕してスラリーを作製し、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して顆粒を形成し、インジェクション成形機に投入して上述と同様の方法で射出成形すれば、真空吸着ノズル1となる成形体が得られる。
なお、本実施形態の真空吸着ノズル1の形状を得るには、一般的な射出成形法に基づいて、真空吸着ノズル1の形状が得られる成形型を作製し、これをインジェクション成形機に設置して射出成形すればよい。これによって、容易に所望の形状の真空吸着ノズル1が得られる。
ここで、ジルコニアセラミックス,アルミナセラミックスの焼成条件としては、導電性付与材に酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロム,酸化ニッケルおよび酸化チタンの少なくとも1種を含む場合、または導電性付与材に少なくとも酸化鉄を含む場合には、大気雰囲気中での焼成で最高温度を1300〜1500℃の範囲として、最高温度での保持時間を1〜5時間とすればよい。また、導電性付与材が炭化チタンの場合には、最高温度を1400〜1800℃の範囲として、最高温度での保持時間を1〜5時間とし、真空雰囲気中またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成すればよい。また、導電性付与材が窒化チタンの場合には、これら真空雰囲気中または不活性雰囲気中に加えて、窒素ガス雰囲気中で焼成してもよい。これにより、セラミックス製の真空吸着ノズル1に適度な導電性を付与することができる。
また、吸着面2の単位面積に占める酸化鉄の面積割合を制御する方法として、酸化鉄の含有量の調整または、焼成時の最高温度の調整や最高温度での保持時間の調整により焼結体の表層への酸化鉄の析出量を制御することができる。なお、焼成時の降温時間の調整をすれば、焼結体の表層への酸化鉄の析出量をより制御することができる。さらに酸化鉄の含有量を多くし過ぎると機械的強度の低下を招くおそれがあることから、酸化鉄の含有量をある一定の範囲に抑えておき吸着面2の単位面積あたりの酸化鉄の面積を増やすには、最高温度を高くし、その保持時間を長くすることがもっとも効果的である。
また、酸化鉄の最大結晶粒径は、焼成の最高温度と最高温度の保持時間により制御することができる。酸化鉄の最大結晶粒径を大きくするには、最高温度を高くする、もしくは保持時間を長くすることにより酸化鉄の結晶の粒成長が促進され最大結晶粒径を大きくすることができる。また、酸化鉄の最大結晶粒径を小さく抑えたいときには、焼成の最高温度とその保持時間を短くして酸化鉄の粒成長を抑制するか、もしくは、酸化チタンを追加含有することにより、ジルコニアに含まれている不純物と化合して酸化鉄の粒成長を抑制することできる。
また、本実施形態では、酸化鉄とはFe203、酸化クロムはCr2O3、酸化コバルトはCoO、酸化ニッケルはNiO、酸化チタンはTiO2を指すが、価数の異なる酸化物であっても何ら構わない。
なお、焼成後の真空吸着ノズル1は、セラミックスの表面の導電性が、内部よりも低下
したり、ばらついて不安定となったりしないように、バレル加工などで研磨してセラミックスの面状態を一様にしておいてもよい。
そして、真空吸着ノズルの吸着面2に互いに実質的に平行な溝8を作製する方法としては、吸着面2を平面研削盤を用いて加工する方法を採用すればよい。
以下、本実施形態の実施例を説明する。
セラミックスの主成分として,安定化剤としてイットリアを3モル%含むジルコニアを選択し、これに酸化鉄,酸化クロムおよび酸化チタンをそれぞれセラミックスの全体量に対して表1の試料No.1,2となる様に秤量した。そして、表1の試料No.1,2の原料に水を加えてボールミルで粉砕・混合してスラリーを作製し、これらのスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、顆粒を作製した。そして、この顆粒100質量部に
対してエチレン酢酸ビニル共重合体,ポリスチレン,アクリル系樹脂を合計20質量部加えてニーダに投入し、約150℃の温度に保ちながら混練して坏土を作製した。次に、得られ
た坏土をペレタイザーに投入してインジェクション成形用の原料となるペレットを作製した。そして、このペレットを公知のインジェクション成形機に投入し、図1に示す真空吸着用ノズル1とフランジ(保持部材)10となる成形体をそれぞれ作製した。
そして、この成形体を乾燥機に入れて乾燥した後、酸化雰囲気である大気雰囲気中で最高温度を1400±50℃の範囲とし、最高温度での保持時間を1〜5時間としてそれぞれ焼成して焼結体を得た。
そして、得られた焼結体に対して、真空吸着ノズル1の吸着面2となる部分の円筒部5に、図3(a)に示すような、吸着面2にほぼ平行に配列された溝8を、三井ハイテック株式会社製のMSG−612CNC型平面研削盤を使用し、砥石番手を#400〜#1500,砥石の送り速度を50〜300mm/分および砥石の切込量を1〜5μmとして、表2に示すよう
な真空吸着ノズルの各試料を作製した。
次に、得られた真空吸着ノズル1の焼結体について、吸着面2の粗さ曲線の最大断面高さRtおよび輪郭曲線要素の平均長さRsmと、吸着時の位置ずれの発生率,吸着搬送時の落下発生率,吸着解放時の離脱不良の発生率および反射光との関係について調べた。
なお、真空吸着ノズル1の吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における、最大断面高さRtおよび輪郭曲線要素の平均長さRsmを、各試料を作製したときと同一条件で外形サイズが10mm×10mmで厚みが0.5mmの測定用の試料を別途作製して、測
定した。このときの測定器には、Taylor Hobson社製のTalySurf S4C型面粗さ測定器を使用し、JIS B 0601(2001)に準拠して測定した。このときの測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ4.8mmおよび0.8mmとし、触針径を5μmとして触針の走査速度は0.5mm/秒に設定して、測定試料の研削溝の方向である溝8に対して垂直方向に測定し
た。なお、測定数は10個とし、測定結果はその平均値とした。
これらの真空吸着ノズル1とフランジ10とを組み付けた真空吸着ノズル組み立て体7の試料を電子部品装着機14に取り付けて稼動させて0603タイプ(寸法が0.6mm×0.3mm)の電子部品15の真空吸着テストを行ない、電子部品15の吸着時の位置ずれ発生率,搬送時の落下発生率および電子部品15を装着位置まで運んだが電子部品15が吸着面2から離れずに真空吸着ノズル1が元の位置に戻ったいわゆる離脱不良の発生率について各試料について10万回の繰り返し動作を実施して調べた。
また、吸着面2からの反射光については、輝度を測定することによって反射光の量の比較を行なった。
真空吸着ノズル1の吸着面2の輝度測定は、光源に波長が400〜750nmの白色LEDを用いて、吸着面2との距離が20〜40mm,照射角度が45°となるようにセットし、さらに、汎用CCDカメラ(KEYENCE社製 倍速白黒カメラ 型式CV−020)を真空吸着ノズル1と向かい合わせでセットして、256階調で画像処理を行なって輝度値の算出をした。な
お、測定個数は10個とし、測定結果はその平均値とした。
得られた結果を表1,2に示す。
表2に示す結果から、本実施形態の範囲外である、吸着面2の状態が鏡面である試料No.1−1,2−1の場合には、溝8からの適度な空気の流入がなく、電子部品15の吸着時の位置ずれ発生率および離脱不良の発生率が3%と高く、さらに吸着面2からの反射光が多くなり、輝度が非常に高くなった。また、吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における最大断面高さRtが0.18μm未満である試料No.1−2,2−2は、溝8からの空気の流入が少なくなるので、吸着するときの位置ずれの発生率と、移送先からの離脱不良の発生率とが、いずれも0.05%とやや高かった。また、吸着面2の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.4μmを超える試料No.1−6,2−6は、溝8からの空気の流
入が多くなって吸着する力が低下したために、電子部品15の落下発生率が0.5%とやや高
くなった。また、吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm未満である試料No.1−7,2−7は、輝度が100以上と
やや高くなったことから、吸着面2からの反射光が多くなったことが分かる。また、この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.08mmを超える試料No.1−10,2−10も、輝度が100以上とやや高くなったことから、吸着面2からの反射光が乱反射することが少なくな
り、電子部品15からの反射光との識別が難しくなるので位置検出が容易にできなくなったことがわかる。
これに対して、本実施形態の範囲内である、吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であり、吸着面2の溝8に
対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下である試料No.1−3〜1−5,1−8〜1−9,2−3〜2−5,2−8および2−9は、溝8からの適度な空気の流入があるので、被吸着物の位置ずれの発生率が0.02%以下で、被吸着物の吸着の強さが大きく低下しないので、移送中に電子部品15の落下がなく、移送先からの離脱不良の発生率が0.02%以下となり、吸着面2から電子部品15を離脱するのにかかる時間を短縮することができるので、装着精度や移送効率が向上することが分かる。
また、吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であることから、吸着面2に照射した光の反射光は適度な乱反射となるため輝度は100未満であった。電子部品15は本体が白色系であれば輝
度は高く、黒色系であったとしても周囲には金またはニッケルや銀等のメッキされた電極やリードを備えているので、このような電子部品15の輝度は150以上になることが多く、
吸着面2と電子部品15の輝度の差による識別が容易であり、電子部品15の位置検出が容易にできる。
以上のように、本実施形態の真空吸着ノズル1によれば、先端に被吸着物を真空吸着して移送する際に被吸着物の位置ずれや落下がなく、その移送先で吸着面2から被吸着物を離脱する時間を短縮することができ、被吸着物が吸着面2から離脱するときに真空による貼り付きが残らないために被吸着物の離脱不良の発生を低減することができ、その結果、装着精度や移送効率のよい真空吸着ノズルとすることができる。
次に、真空吸着ノズル1の吸着面2の溝8と直交する方向の算術平均粗さRaが、吸着面2で電子部品15を吸着、搬送、離脱の動作を繰り返したときの電子部品15の吸着の不具合との関係について調べた。
実施例1に用いた試料No.1−4および2−4と各々同等の最大断面高さRtならびに平均長さRsmを有する試料の中から、表3に示すように、吸着面2の溝8に対して、垂直方向の算術平均粗さRaが、0.02μm未満,0.02μm,0.06μmおよび0.06μmを超える試料を選択し、これらの試料を用いて実施例1と同様な方法で、吸着した電子部品15の位置ずれの発生率,落下発生率および離脱不良の発生率を調べた。
その結果を表3に示す。
表3の結果から、吸着面2の溝8と直交する方向の算術平均粗さRaが0.02μm未満である試料No.1−4−1と2−4−1は、電子部品15の吸着時の位置ずれ発生率および離脱不良の発生率が、いずれも0.01〜0.03%と、やや高かった。ただし、落下の発生は少なかった。粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18〜0.4μmであって、かつ、輪郭曲線要素
の平均長さRsmが0.01〜0.08mmであるときには、算術平均粗さRaが0.02μm未満のときには、溝8からの空気の流入が少なく吸着位置のずれや被吸着物の離脱不良の発生がやや高い結果となった。
また、算術平均粗さRaが0.06μm超える試料No.1−4−4と2−4−4は、被吸着物の位置ずれは0.004%で、離脱不良の発生率は、いずれも0%と、いずれも良好な結
果であったものの、落下発生率が0.006%と0.005%とやや高かった。電子部品装着装置20においては、位置ずれや離脱不良が発生したときには自動的に修正動作が行えるようにプログラムされていることが多いが、移送の途中で落下した場合には、電子部品装着装置20が自動停止され、人が落下物を排除してから復旧させる必要があり、落下発生率は0%が求められている。
試料No.1−4−2,1−4−3と2−4−2,2−4−3は位置ずれの発生率が0〜0.01%と僅かに発生したものの、落下と離脱不良の発生率は、いずれも無く良好な結果であった。
このことから、溝8を有した吸着面2は、算術平均粗さRaが0.02〜0.06μmの範囲であれば、吸着不具合の発生を、さらに低減できることが分かる。
次に、主成分は実施例1と同じくジルコニアで、添加剤として金属酸化物である酸化鉄(Fe2O3)を0〜45質量%、さらに、酸化クロム(Cr2O3),酸化コバルト(CoO),酸化ニッケル(NiO)および酸化チタン(TiO2)を表4に示す範囲で含有させた真空吸着ノズル1を作製し、大気焼成における焼成最高温度および最高温度の保持時間をそれぞれ変更して真空吸着ノズル1を作製した。
なお、焼結体の表層への酸化鉄の析出量と酸化鉄の最大結晶粒径は、焼成の最高温度を高くすることおよび、最高温度の保持時間を長くすることと相関があると考えられるため、最高温度を1400〜1500℃の範囲、最高温度の保持時間を1〜4時間の範囲で変化させて焼成した。
また、得られた焼結体は、実施例1,2と同様な研磨により吸着面2の溝8に直交する方向の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.3μm、輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.02m
m、さらに、算術平均粗さRaが0.03μmとなるように試料を作製した。なお、所望の粗さを得るためには、砥石のドレスを通常の銅から鉄に変更することにより、砥石の凹凸の微調整が可能で、したがって、吸着面2の面粗さの制御が可能になるのである。
また、酸化鉄の最大結晶粒径は、金属顕微鏡にデジタルカメラを取り付け、任意の場所を選び、倍率を200倍で撮影した画像を、1.0×0.8cm角の面積について画像解析ソフト
(A像くん:旭化成エンジニアリング(株)製)で解析することで求めた。
また、表4には記載しないが、参考までに三点曲げ強度の測定も実施した。組成および焼成条件は表4に記載のものと同一で、予め長さが30mm,幅が10mm,厚みが0.8mm
の板状体を作製し、ISO17565:2003(JIS R 1601)に準拠して、板状体のスパンが20mmの中央部に、0.5mm/分の荷重を印加し、板状体が破壊するまでの最大荷重を
測定した(図示せず)。なお、各試料につき、それぞれ10個の強度測定用の試料を作製して測定し、測定値の平均値を各試料の機械的強度の参考値とした。
以上の結果を表4に示す。
表4の結果から分かるように、添加剤として、少なくとも酸化鉄を含有する、試料No.4−1〜4−4,5−1〜5−4,6−1〜6−4,7−1〜7−7,8,9,10および11は、添加剤として酸化物を含まない試料No.3および添加剤として酸化鉄以外の酸化物を有する試料No.12に比べ吸着面2の輝度は低い傾向があり、位置ずれの発生率や離脱不良率が比較的低く良好であることがわかった。また、表4には記載していないが、試料No.4−1〜4−4,5−1〜5−4,6−1〜6−4,7−1〜7−7,8,9,10および11は、試料No3に比べて吸着面2への溝8の加工性が良好であった。
また、添加剤として金属酸化物を10〜40質量%含有する試料No.4−1〜4−4,5−1〜5−4,6−1〜6−4,7−1〜7−7,9および10は、試料No.8および12に比べて吸着面2の輝度は低い傾向があり、位置ずれの発生率や離脱不良の発生率が比較的低く良好であることがわかった。また、試料No.4−1〜4−4,5−1〜5−4,6−1〜6−4,7−1〜7−7,9および10は、試料No.11に比べて、主成分であるジルコニアの比率が比較的大きいため、機械的強度が高い傾向があった。
また、吸着面2の単位面積あたりの酸化鉄の面積が20〜40%である試料No.5−1〜7−3および11は、吸着面2の輝度が80未満と良好であり、吸着の位置ずれや落下および離脱不良の発生率の合計が0.05%以下であって良好であった。また、さらに、酸化鉄の最大結晶粒径が2〜9μmの範囲である試料No.4−2,4−3,5−2,5−3,7−
2,7−3,7−5,7−6および8〜10は、落下の発生がなく優れた結果であった。
このことから、金属酸化物として酸化鉄を含み、吸着面2の単位面積あたりの酸化鉄の面積が20〜40%であれば、吸着面2の輝度が低く抑えられ、かつ、吸着不良率も低くすることができることが分かる。さらに、落下の発生を抑制するには、酸化鉄の最大結晶粒径が2〜9μmであればよいことか分かる。そして、これらの製造方法は、酸化鉄を20〜40質量%含有し、焼成の最高温度を1400〜1460℃、最高温度の保持時間を1〜3時間の範囲で調整することにより所望の真空吸着ノズル1を得ることができる。
また、酸化鉄を含む金属酸化物の合計量が10質量%未満である試料No.8と12は、吸着時の位置ずれと離脱不良の発生率の合計が0.05%を超えることと、輝度が80とやや高めで、さらに、表には記載していないが溝8の加工性がやや悪い結果であった。また、酸化鉄を含む金属酸化物の含有量が40質量%を超える試料No.11は、輝度や溝8の加工性は優れているが、表への記載はないが機械的強度が低い結果であった。
金属酸化物の含有量が10〜40質量%の範囲である試料No.9と10は、吸着不良の発生率も低く、また、輝度や溝8の加工性や機械的強度のいずれも良好であった。
また、試料No.8〜10から、焼成の最高温度を順次変化させているが、酸化チタンを含む場合には、酸化鉄の最大結晶粒径の抑制が働いていることがわかった。
これらの結果から、金属酸化物としては、酸化鉄を含有することが好ましいが、酸化クロム、酸化コバルトおよび酸化ニッケルを含有するものであってもよいことがわかった。
また、表4には記載していないが、表4の試料No.6−4と同じ製造方法で、添加剤
として酸化鉄の代わりに、ジルコニアセラミックスより硬度の高い金属酸化物である酸化アルミニウムを30質量%含有させた試料Xを作製した。この試料Xと試料No.6−4の
溝8の加工性について実施したところ、試料No.6−4の方が溝8の切削時間が短く、
加工性がよいことがわかった。