図26に、従来の一般的な光ヘッド装置の構成が示される。この光ヘッド装置は、半導体レーザ1、コリメータレンズ2、偏光ビームスプリッタ3、1/4波長板4、対物レンズ6、円筒レンズ8、凸レンズ9、光検出器10を具備する。光源である半導体レーザ1が出射する出射光は、コリメータレンズ2で平行光化される。この光は、偏光ビームスプリッタ3にP偏光として入射し、そのほぼ100%が透過して1/4波長板4に入射する。1/4波長板4は、入射した光を直線偏光から円偏光に変換して透過させる。円偏光に変換された光は、対物レンズ6で光記録媒体であるディスク7上に集光される。ディスク7により反射される反射光は、対物レンズ6を逆向きに透過して1/4波長板4に入射する。1/4波長板4は、入射した光を円偏光から直線偏光に変換して透過させる。この復路の直線偏光は、往路の直線偏光とは偏光方向が直交している。直線偏光に変換された光は、偏光ビームスプリッタ3にS偏光として入射し、そのほぼ100%が反射されて円筒レンズ8に入射する。この光は、円筒レンズ8、凸レンズ9を透過して光検出器10で受光される。
このような、偏光ビームスプリッタと1/4波長板を組み合わせた光学系は偏光光学系と呼ばれる。偏光光学系を用いた光ヘッド装置は、往路の光と復路の光とを分離する偏光ビームスプリッタにおいて、往路、復路とも光量の損失が殆んど生じないという特徴を有する。このため、記録時には高い光出力、再生時には高いS/Nが得られ、追記型および書換可能型の光記録媒体に対応した光ヘッド装置として主に用いられる。また、再生専用型の光記録媒体に対応した光ヘッド装置としても用いられる。
追記型および書換可能型の光記録媒体には、通常はトラッキングを行うための溝が形成されている。これらの光記録媒体に対してトラック誤差信号を検出する場合、通常はプッシュプル法による検出が行われる。プッシュプル法においては、光記録媒体からの反射光を、光軸に垂直な面内で光軸を通り光記録媒体の接線方向に対応する方向の直線で2つの領域に分割して光検出器で受光する。この2つの領域に対応した光検出器からの出力信号をIa、Ibとすると、和信号はIa+Ib、プッシュプル信号はIa−Ibで与えられる。プッシュプル法によるトラック誤差信号は(Ia−Ib)/(Ia+Ib)で与えられる。プッシュプル法によるトラック誤差信号の品質を表す指標としてプッシュプル信号変調度がある。これは、光記録媒体上に形成された集光スポットが光記録媒体の溝を横断したときの、プッシュプル信号の振幅を和信号のレベルで割ったものである。すなわち、プッシュプル信号変調度は、プッシュプル法によるトラック誤差信号の振幅に相当する。
一方、再生専用型の光記録媒体には、通常はトラッキングを行うためのピットが形成されている。この光記録媒体に対してトラック誤差信号を検出する場合、通常はDPD(Differential Phase Detection)法による検出が行われる。DPD法においては、光記録媒体からの反射光を、光軸に垂直な面内で光軸を通り光記録媒体の半径方向に対応する方向の直線および接線方向に対応する方向の直線で4つの領域に分割して光検出器で受光する。この4つの領域のうち一方の対角に位置する2つの領域に対応した光検出器からの出力信号をIa、Ic、他方の対角に位置する2つの領域に対応した光検出器からの出力信号をIb、Idとすると、DPD法によるトラック誤差信号(DPD信号)は(Ia+Ic)と(Ib+Id)との時間差で与えられる。DPD法によるトラック信号の品質を表す指標としてDPD信号振幅がある。これは、光記録媒体上に形成された集光スポットが光記録媒体のピットを横断したときの、DPD信号の振幅をチャンネルクロックの時間で規格化したものである。すなわち、DPD信号振幅は、DPD法によるトラック誤差信号の振幅に相当する。
一般に、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅は、光記録媒体の面内の位置により変化する。光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化が大きい場合、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅が高い位置においてトラックサーボのゲインを最適に調整すると、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅が低い位置においてはトラックサーボのゲインが過度に低くなり、トラックサーボに残留誤差が生じてしまう。逆に、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅が低い位置においてトラックサーボのゲインを最適に調整すると、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅が高い位置においてトラックサーボのゲインが過度に高くなり、トラックサーボが発振してしまう。従って、光記録媒体の面内の全ての位置において安定したトラックサーボを行うためには、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化を小さくする必要がある。
光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化の上限は、光記録媒体の規格書で定められている。プッシュプル信号変調度の最大値、最小値をそれぞれPPmax、PPminとすると、例えば、DVD−Rにおける規定は、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)<0.15となっている。プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化の上限が上に述べたDVD−Rにおけるプッシュプル信号変調度の変化の上限以下であれば、光記録媒体の面内の全ての位置において安定したトラックサーボを行うことが可能である。しかし、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化の上限が上に述べたDVD−Rにおけるプッシュプル信号変調度の変化の上限を越えると、光記録媒体の面内の全ての位置において安定したトラックサーボを行うことが困難になる。従って、このような光記録媒体に対して記録/再生を行う光ヘッド装置ならびに光学式情報記録/再生装置においては、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化を抑制するための対策が必要になる。
ところで、通常、光記録媒体の保護層には安価なポリカーボネートが用いられるが、ポリカーボネートは複屈折を有する。偏光光学系を用いた光ヘッド装置により、保護層が複屈折を有する光記録媒体に対して記録/再生を行う場合、光検出器における受光量が低下する。光記録媒体の保護層の複屈折には、面内複屈折と垂直複屈折とがある。ここで、図27に示されるように、光記録媒体であるディスク7とXYZ座標の関係を定める。X軸はディスク7の半径方向、Y軸はディスク7の接線方向、Z軸はディスク7の法線方向である。通常、光記録媒体の保護層は2軸の屈折率異方性を有しており、その3つの主軸はX軸、Y軸、Z軸とほぼ一致する。これに対応する3つの主屈折率をそれぞれnx、ny、nzとし、面内複屈折の値、垂直複屈折の値をそれぞれΔni、Δnvとすると、面内複屈折の値Δniは、Δni=nx−nyで定義され、垂直複屈折の値Δnvは、Δnv=(nx+ny)/2−nzで定義される。
面内複屈折の値Δniは、保護層の作製条件に依存し、光記録媒体の面内の位置により変化する。これに対し、垂直複屈折の値Δnvは、保護層の材料によりほぼ一意的に決まり、光記録媒体の面内の位置によらずほぼ一定である。保護層にポリカーボネートを用いた場合、面内複屈折の値Δniは、約±3×10−5の範囲内で変化し、垂直複屈折の値Δnvは、約6×10−4〜約8×10−4の範囲内でほぼ一定である。このように、保護層の複屈折を面内複屈折と垂直複屈折とに分けて測定する方法は、例えば、特開2004−163225号公報に記載されている。本発明の発明者は、上に述べた光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化は、垂直複屈折の存在下で面内複屈折が光記録媒体の面内の位置により変化することが原因で生じることを見出した。この複屈折の影響は、光源の波長が短くなるほど大きくなる。そのため、波長が約405nmの光源を用いて記録/再生を行うHD DVD−RやHD DVD−ROMは、波長が約660nmの光源を用いて記録/再生を行うDVD−RやDVD−ROMに比べ、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化が大きくなる。
図28に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値と和信号レベルとの関係の計算例が示され、図29に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号振幅との関係の計算例が示される。また、図30に、図28に示される和信号レベルと図29に示されるプッシュプル信号振幅とから求められる、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号変調度との関係の計算例が示される。計算条件は、光源の波長が405nm、対物レンズの開口数が0.65、光記録媒体の保護層の厚さが0.6mm、溝のピッチが0.4μm、溝の深さが25nmである。これらはHD DVD−Rの条件に相当する。図28、図29の縦軸は、光記録媒体に溝が形成されていない場合の和信号レベルで規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合の計算結果である。
図28に示されるように、和信号レベルは、垂直複屈折がない場合、垂直複屈折がある場合のいずれも、面内複屈折の値Δniが0のときに最大になり、面内複屈折の値Δniの絶対値が増加するに従って減少する。一方、図29に示されるように、プッシュプル信号振幅は、垂直複屈折がない場合は、和信号レベルと同様に面内複屈折の値Δniが0のときに最大になり、面内複屈折の値Δniの絶対値が増加するに従って減少するが、垂直複屈折がある場合は、面内複屈折の値Δniが正から負へ変化するに従って単調に減少する。その結果、図30に示されるように、プッシュプル信号変調度は、垂直複屈折がない場合は、面内複屈折の値Δniによらず一定であるが、垂直複屈折がある場合は、面内複屈折の値Δniが正から負へ変化するに従って単調に減少する。
垂直複屈折の値Δnvが7×10−4の場合、面内複屈折の値Δniが±3×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は6×10−5)で変化すると、上に述べた(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)は、DVD−Rにおける規定の上限である0.15を大きく上回る。光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策を不要にするには、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)が、DVD−Rにおける規定の上限である0.15を下回る必要があり、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.15×10−5の範囲内(最大値と最小値の差は2.3×10−5)に抑える必要がある。逆に、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.15×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は2.3×10−5)に抑えられなければ、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策が必要になる。
垂直複屈折の値Δnvが6×10−4の場合、同様の計算によれば、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策を不要にするには、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)が0.15を下回る必要があり、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.35×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は2.7×10−5)に抑える必要がある。逆に、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.35×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は2.7×10−5)に抑えられなければ、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策が必要になる。また、垂直複屈折の値Δnvが8×10−4の場合、同様の計算によれば、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号の変調度変化を抑制するための対策を不要にするには、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)が0.15を下回る必要があり、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.0×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は2.0×10−5)に抑える必要がある。逆に、面内複屈折の値Δniの変化を、±1.0×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は2.0×10−5)に抑えられなければ、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策が必要になる。
以上をまとめると、面内複屈折の最大値、最小値をそれぞれΔnimax、Δniminとするとき、垂直複屈折の値Δnvが6×10−4以上かつ8×10−4以下である場合、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策を不要にするには、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)が0.15を下回る必要があり、Δnvと(Δnimax−Δnimin)との積を1.6×10−8以下に抑える必要がある。逆に、Δnvと(Δnimax−Δnimin)との積を1.6×10−8以下に抑えられなければ、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策が必要になる。
一方、面内複屈折の値Δniが±3×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は6×10−5)で変化する場合、同様の計算によれば、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)が0.15を下回るには、垂直複屈折の値Δnvが2.7×10−4以下であれば良い。即ち、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化を抑制するための対策として、垂直複屈折の値Δnvを実効的に2.7×10−4以下に低減すれば、面内複屈折の値Δniが±3×10−5の範囲内(最大値と最小値との差は6×10−5)で変化しても、(PPmax−PPmin)/(PPmax+PPmin)は0.15を下回る。
図31に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とDPD信号振幅との関係の計算例が示される。計算条件は、光源の波長が405nm、対物レンズの開口数が0.65、光記録媒体の保護層の厚さが0.6mm、ピットのピッチが0.4μm、ピットの深さが62.5nmである。これらはHD DVD−ROMの条件に相当する。図31の縦軸は、チャンネルクロックの時間で規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合の計算結果である。
図31に示されるように、DPD信号振幅は、垂直複屈折がない場合は、面内複屈折の値Δniによらず一定であるが、垂直複屈折がある場合は、面内複屈折の値Δniが正から負へ変化するに従って単調に減少する。
このように、垂直複屈折の存在下で面内複屈折が変化すると、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅が変化するメカニズムについて考える。ディスク7の保護層に複屈折がない場合、ディスク7からの反射光は1/4波長板4を透過することにより、偏光ビームスプリッタ3に対するS偏光となる。従って、この光は偏光ビームスプリッタ3においてほぼ100%が反射されて光検出器10で受光される。しかし、ディスク7の保護層に複屈折がある場合、ディスク7からの反射光は1/4波長板4を透過することにより、一般に楕円偏光になる。即ち、偏光ビームスプリッタ3に対するS偏光成分が減少し、P偏光成分が生じる。従って、S偏光成分は偏光ビームスプリッタ3においてほぼ100%が反射されて光検出器10で受光されるが、P偏光成分は偏光ビームスプリッタ3においてほぼ100%が透過して半導体レーザ1へ戻ってしまう。光検出器10における受光量が低下するのはこのためである。
面内複屈折、垂直複屈折はどちらも光検出器における受光量を低下させる。しかし、光記録媒体の保護層を透過する光への影響のしかたは両者で異なる。保護層に複屈折があると、保護層を透過した光には、X軸方向の偏光成分とY軸方向の偏光成分との間に光学的位相差が生じる。ここで、X軸方向の偏光成分の位相がY軸方向の偏光成分の位相に対して進む場合の光学的位相差を正、X軸方向の偏光成分の位相がY軸方向の偏光成分の位相に対して遅れる場合の光学的位相差を負とする。光記録媒体の保護層を透過する光への面内複屈折の影響は、光記録媒体への入射方向および入射角に依存しない。面内複屈折が正の場合、保護層を透過した光の光軸に垂直な断面内において、一様に負の光学的位相差が生じ、面内複屈折が負の場合、保護層を透過した光の光軸に垂直な断面内において、一様に正の光学的位相差が生じる。これに対し、光記録媒体の保護層を透過する光への垂直複屈折の影響は、光記録媒体への入射方向および入射角に依存する。保護層を透過した光の光軸に垂直な断面内において、光軸との交点を原点とすると、X軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域では正の光学的位相差が生じ、Y軸の近傍の、Y=0の領域を除くY<0の領域およびY>0の領域では負の光学的位相差が生じる。また、原点で生じる光学的位相差は0であり、原点から遠ざかるに従って生じる光学的位相差の絶対値は大きくなる。
光記録媒体上に形成された集光スポットが光記録媒体の溝またはピットを横断したときの光記録媒体からの反射光の強度の変化は、主にX軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域において生じる。即ち、これらの領域の光が、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の増加に寄与する。垂直複屈折の存在下で面内複屈折が正の場合、X軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域では、面内複屈折による光学的位相差と垂直複屈折による光学的位相差が相殺されて光学的位相差の絶対値が小さくなり、Y軸の近傍の、Y=0の領域を除くY<0の領域およびY>0の領域では、面内複屈折による光学的位相差と垂直複屈折による光学的位相差が加算されて光学的位相差の絶対値が大きくなる。光学的位相差の絶対値が大きいほど光検出器で受光される割合は小さくなるため、X軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域は、Y軸の近傍の、Y=0の領域を除くY<0の領域およびY>0の領域に比べ、光検出器で受光される割合が大きくなる。その結果、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅は増加する。一方、垂直複屈折の存在下で面内複屈折が負の場合、X軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域では、面内複屈折による光学的位相差と垂直複屈折による光学的位相差が加算されて光学的位相差の絶対値が大きくなり、Y軸の近傍の、Y=0の領域を除くY<0の領域およびY>0の領域では、面内複屈折による光学的位相差と垂直複屈折による光学的位相差が相殺されて光学的位相差の絶対値が小さくなる。光学的位相差の絶対値が大きいほど光検出器で受光される割合は小さくなるため、X軸の近傍の、X=0の領域を除くX<0の領域およびX>0の領域は、Y軸の近傍の、Y=0の領域を除くY<0の領域およびY>0の領域に比べ、光検出器で受光される割合が小さくなる。その結果、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅は減少する。
HD DVDのような基板入射型の光記録媒体においては、基板が保護層に相当するが、通常、この基板は、射出成型により作製される。その場合、面内複屈折は光記録媒体の半径方向の位置に依存し、接線方向の位置には殆んど依存しない。具体的には、面内複屈折は光記録媒体の内周側では正であり、内周から外周へ向かって単調に減少し、外周側では負になる。従って、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅は、光記録媒体の内周側では高く、内周から外周へ向かって単調に減少し、外周側では低くなる。これに対し、BDのようなカバー入射型の光記録媒体においては、カバーが保護層に相当するが、通常、このカバーは、シートの打ち抜きにより作製される。その場合、面内複屈折は光記録媒体の接線方向の位置に依存し、半径方向の位置には殆んど依存しない。具体的には、面内複屈折は光記録媒体の一周内で90°毎に正の極大値と負の極小値を交互に2回ずつとる。従って、プッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅は、光記録媒体の一周内で90°毎に高い極大値と低い極小値を交互に2回ずつとる。
上記説明と関連して、光記録媒体における複屈折特性の測定方法が特開2004−163225号公報に開示されている。この従来例の複屈折特性の測定方法では、所定の開口数以上の開口数を有する対物レンズを介して測定対象媒体に光が照射され、該測定対象媒体の反射面で反射する反射光に含まれる、特定方向の偏光成分の光量が測定されて第1の光量APHが求められる。前記所定の開口数以上の開口数を有する対物レンズを介して前記測定対象媒体に光が照射され、該測定対象媒体の反射面で反射する反射光に含まれる、前記特定方向の偏光成分及び前記特定方向と直交する方向の偏光成分の光量が測定されて第2の光量ANHが求められる。前記第1の光量と第2の光量の比APH/ANHと、前記測定対象媒体の面内複屈折特性とに基づいて、該測定対象媒体の垂直複屈折特性が求められる。
また、光ディスク装置が特開2003−248118号公報に開示されている。この従来例の光ディスク装置で使用される波長板には、対象となる波長範囲内の光の波長の1/2以下の微細周期構造が各々形成される。これらの微細周期構造を半周期ずらして微細周期構造が互いに入り込むように対向配置させた2枚の基板が準備される。これらの基板間の間隔を調整して微細周期構造のオーバーラップ量が可変させられる。こうして構成された波長板は、単一でも形状を変えることにより複屈折特性を容易に制御できる複屈折構造を組合せて位相差量が可変な組合せ複屈折構造とすることで、所望の波長範囲内の全ての波長の光に対してその偏光状態を変化させることが可能となり、共用範囲の広い波長板となる。
また、光ピックアップ装置が、特開2004−39018に開示されている。この従来例の光ピックアップ装置は、情報記録媒体の記録面に光を照射し、前記記録面からの反射光を受光する。光ピックアップ装置は、少なくとも一つの光源と、光源から出射される光束を記録面に集光する対物レンズと、光源から出射され前記対物レンズに向かう光束の光路上に配置され、電極を介して印加される電圧に応じた屈折率分布を有し前記記録面に集光される光束の波面収差における非点収差成分を補正する縦型の電気光学効果を示す電気光学結晶を含む光学素子とを含み、記録面で反射された戻り光束を所定の受光位置に導く光学系と、受光位置に配置された光検出器とを備えている。
以下に、図面を参照して本発明実施例について説明する。
図25に、本発明の光学式情報記録/再生装置実施例に係る光学式情報記録再生装置の構成が示される。光学式情報記録再生装置は、コントローラ39、変調回路40、記録信号生成回路41、半導体レーザ駆動回路42、増幅回路43、再生信号処理回路44、復調回路45、誤差信号生成回路46、対物レンズ駆動回路47、光ヘッド装置50を具備する。
変調回路40は、ディスク7へ記録すべきデータを変調規則に従って変調する。記録信号生成回路41は、変調回路40で変調された信号に基づいて、記録ストラテジに従って光ヘッド装置50内の半導体レーザ1を駆動するための記録信号を生成する。半導体レーザ駆動回路42は、記録信号生成回路41で生成された記録信号に基づいて、半導体レーザ1へ記録信号に応じた電流を供給して半導体レーザ1を駆動する。これによりディスク7へのデータの記録が行われる。
一方、増幅回路43は、光ヘッド装置50内の光検出器10の各受光部からの出力を増幅する。再生信号処理回路44は、増幅回路43で増幅された信号に基づいて、RF信号の生成、波形等化および2値化を行う。復調回路45は、再生信号処理回路44で2値化された信号を復調規則に従って復調する。これによりディスク7からのデータの再生が行われる。
また、誤差信号生成回路46は、増幅回路43で増幅された信号に基づいて、フォーカス誤差信号およびトラック誤差信号の生成を行う。対物レンズ駆動回路47は、誤差信号生成回路46で生成されたフォーカス誤差信号およびトラック誤差信号に基づいて、対物レンズ6を駆動するアクチュエータ(図示せず)へフォーカス誤差信号およびトラック誤差信号に応じた電流を供給して対物レンズ6を駆動する。
さらに、ディスク7を除く光学系は、ポジショナ(図示せず)によりディスク7の半径方向へ駆動され、ディスク7は、スピンドル(図示せず)により回転駆動される。これにより、フォーカス、トラック、ポジショナおよびスピンドルのサーボが行われる。
変調回路40から半導体レーザ駆動回路42までのデータの記録に関わる回路、増幅回路43から復調回路45までのデータの再生に関わる回路、および増幅回路43から対物レンズ駆動回路47までのサーボに関わる回路は、コントローラ39により制御される。
本実施例は、ディスク7に対して記録および再生を行う光学式情報記録再生装置である。これに対し、本発明の光学式情報記録/再生装置実施例としては、ディスク7に対して再生のみを行う光学式情報再生専用装置も考えられる。この場合、半導体レーザ1は、半導体レーザ駆動回路42により記録信号に基づいて駆動されるのではなく、出射光のパワーが一定の値になるように駆動される。
図1に、光ヘッド装置50の構成が示される。光ヘッド装置50は、半導体レーザ1、コリメータレンズ2、偏光ビームスプリッタ3、1/4波長板4、複屈折補正素子5、対物レンズ6、円筒レンズ8、凸レンズ9、光検出器10を具備する。
光源である半導体レーザ1が出射する出射光は、コリメータレンズ2で平行光化される。この光は、偏光分離手段である偏光ビームスプリッタ3にP偏光として入射され、そのほぼ100%が透過して1/4波長板4に入射する。1/4波長板4は、入射された光を直線偏光から円偏光に変換して透過させる。円偏光に変換された光は、垂直複屈折補正を行う複屈折補正部である複屈折補正素子5を透過し、対物レンズ6で光記録媒体であるディスク7上に集光される。
ディスク7により反射される反射光は、対物レンズ6を逆向きに透過し、垂直複屈折補正を行う複屈折補正素子5を透過して1/4波長板4に入射する。1/4波長板4は、入射した光を円偏光から直線偏光に変換して透過させる。この復路の直線偏光は、往路の直線偏光とは偏光方向が直交している。直線偏光に変換された光は、偏光ビームスプリッタ3にS偏光として入射し、そのほぼ100%が反射されて円筒レンズ8に入射する。この光は、円筒レンズ8、凸レンズ9を透過して光検出器10で受光される。
光検出器10は、円筒レンズ8、凸レンズ9の2つの焦線の中間に設置されている。この光検出器10は、ディスク7の半径方向に対応する方向の分割線および接線方向に対応する方向の分割線で4分割された受光部を有する。各受光部からの出力に基づき、非点収差法によるフォーカス誤差信号、プッシュプル法またはDPD法によるトラック誤差信号、およびRF信号が得られる。
(第1実施例)
本発明の光ヘッド装置の第1実施例では、図2にその平面図が示される複屈折補正素子5aが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図2は複屈折補正素子5aの平面図である。複屈折補正素子5aは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域(符号a〜d)に分割されている。さらに、各領域は、光軸を中心とする3つの同心円で、半径方向に4つの領域(符号11〜14)に分割されている。以下の説明では、周方向に90°間隔で4分割された領域群、即ち、符号の記号部分にa〜dが付される領域群は、領域群a〜dと表記される。また、半径方向に4分割された領域群、即ち、符号の数字部分に11〜14が付される領域群は、領域群11〜14と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5aは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群11では0°、領域群12では18°、領域群13では36°、領域群14では54°である。なお、この複屈折補正素子5aの設計については後述する。
(第2実施例)
本発明の光ヘッド装置の第2実施例では、図3にその平面図が示される複屈折補正素子5bが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図3は複屈折補正素子5bの平面図である。複屈折補正素子5bは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域(符号a〜d)に分割されている。さらに、各領域は、光軸を中心とする3つの同心円で、半径方向に4つの領域(符号15〜18)に分割されている。以下の説明では、周方向に90°間隔で4分割された領域群、即ち、符号の記号部分にa〜dが付される領域群は、領域群a〜dと表記される。また、半径方向に4分割された領域群、即ち、符号の数字部分に15〜18が付される領域群は、領域群15〜18と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5bは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群15では0°、領域群16では18°、領域群17では36°、領域群18では54°である。なお、この複屈折補正素子5bの設計については後述する。
(第3実施例)
本発明の光ヘッド装置の第3実施例では、図4にその平面図が示される複屈折補正素子5cが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図4は複屈折補正素子5cの平面図である。複屈折補正素子5cは、光軸を通る4つの直線で、周方向に45°間隔で8つの領域(符号a〜h)に分割されている。さらに、各領域は、光軸を中心とする3つの同心円で、半径方向に4つの領域(符号19〜22)に分割されている。以下の説明では、周方向に45°間隔で4分割された領域群、即ち、符号の記号部分にa〜hが付される領域群は、領域群a〜hと表記される。また、半径方向に4分割された領域群、即ち、符号の数字部分に19〜22が付される領域群は、領域群19〜22と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5cは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。領域群eおよび領域群gにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して45°の方向である。領域群fおよび領域群hにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して135°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群19では0°、領域群20では18°、領域群21では36°、領域群22では54°である。なお、この複屈折補正素子5cの設計については後述する。
(第4実施例)
本発明の光ヘッド装置の第4実施例では、図5にその平面図が示される複屈折補正素子5dが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図5は複屈折補正素子5dの平面図である。複屈折補正素子5dは、光軸を通る4つの直線で、周方向に45°間隔で8つの領域(符号a〜h)に分割されている。さらに、各領域は、光軸を中心とする3つの同心円で、半径方向に4つの領域(符号23〜26)に分割されている。以下の説明では、周方向に45°間隔で4分割された領域群、即ち、符号の記号部分にa〜hが付される領域群は、領域群a〜hと表記される。また、半径方向に4分割された領域群、即ち、符号の数字部分に23〜26が付される領域群は、領域群23〜26と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5dは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。領域群eおよび領域群gにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して135°の方向である。領域群fおよび領域群hにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して45°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群23では0°、領域群24では18°、領域群25では36°、領域群26では54°である。なお、この複屈折補正素子5dの設計については後述する。
次に、複屈折補正素子5の設計について述べる。図27に示されるように、光軸に垂直な断面内にX軸、Y軸を定め、図1のディスク7の保護層のジョーンズ行列をSとすると、Sは下式で与えられる。
但し、φは下式で与えられる。
ここで、ディスク7の保護層における屈折率楕円体の光線に垂直な断面である楕円を考えたとき、αは楕円の長軸方向の偏光成分と短軸方向の偏光成分との間の光学的位相差であり、θは楕円の長軸方向または短軸方向を表す角度である。α、θの求め方は、良く知られているのでここでは説明を省略する。
複屈折補正素子5のジョーンズ行列をBとすると、複屈折補正素子5によりディスク7の保護層の垂直複屈折を補正するには、複屈折補正素子5のジョーンズ行列Bが、面内複屈折がない場合のディスク7の保護層のジョーンズ行列Sの逆行列であれば良い。このとき、複屈折補正素子5は、光学軸の方向がθ+φで定められ、光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差がαで定められる波長板となる。但し、θ+φおよびαはx、yの関数であるため、光学軸の方向および光学的位相差は、複屈折補正素子5の面内の位置により変化することになる。これにより、光がディスク7の保護層を透過する際に生じる光学的位相差は、光が複屈折補正素子5を透過する際に生じる光学的位相差で打ち消される。
上述の光学軸の方向を計算すると、光軸に関して回転対称で、光軸を中心とする円の半径方向または接線方向となる。即ち、光学軸の方向は、図2〜図5に示されるx軸に対する角度に応じて連続的に変化する。実際には、このように光学軸の方向を連続的に変化させる代わりに、図2〜図5に示されるように離散的に変化させても良い。光学軸の方向を離散的に変化させると、垂直複屈折の補正の効果はやや落ちるが、複屈折補正素子の作製は容易になる。
図2に示される複屈折補正素子5aにおいては、光学軸の方向が、x軸に対する角度に応じて周方向に4つの領域に分割されて離散的に変化している。領域群aの中心部、領域群bの中心部、領域群cの中心部、領域群dの中心部では、光学軸の方向は光軸を中心とする円の半径方向である。しかし、各領域群の中心部から隣接する領域群との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は光軸を中心とする円の半径方向からずれていく。
図3に示される複屈折補正素子5bにおいては、光学軸の方向が、x軸に対する角度に応じて周方向に4つの領域に分割されて離散的に変化している。領域群aの中心部、領域群bの中心部、領域群cの中心部、領域群dの中心部では、光学軸の方向は光軸を中心とする円の接線方向である。しかし、各領域群の中心部から隣接する領域群との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は光軸を中心とする円の接線方向からずれていく。
図4に示される複屈折補正素子5cにおいては、光学軸の方向が、x軸に対する角度に応じて周方向に8つの領域に分割されて離散的に変化している。領域群aの中心部、領域群bの中心部、領域群cの中心部、領域群dの中心部、領域群eの中心部、領域群fの中心部、領域群gの中心部、領域群hの中心部では、光学軸の方向は光軸を中心とする円の半径方向である。しかし、各領域群の中心部から隣接する領域群との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は光軸を中心とする円の半径方向からずれていく。
図5に示される複屈折補正素子5dにおいては、光学軸の方向が、x軸に対する角度に応じて周方向に8つの領域に分割されて離散的に変化している。領域群aの中心部、領域群bの中心部、領域群cの中心部、領域群dの中心部、領域群eの中心部、領域群fの中心部、領域群gの中心部、領域群hの中心部では、光学軸の方向は光軸を中心とする円の接線方向である。しかし、各領域群の中心部から隣接する領域群との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は光軸を中心とする円の接線方向からずれていく。
次に、上述の光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差を計算すると、光軸に関して回転対称で、光軸を中心とする円の半径方向に沿って内側から外側へ向かって単調に増加または減少する。図6、図7に、複屈折補正素子における光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の計算例が示される。計算条件は、光源の波長が405nm、対物レンズの開口数が0.65、光記録媒体の保護層の厚さが0.6mm、光記録媒体の保護層の垂直複屈折が7×10−4である。また、対物レンズの焦点距離は3mmであるため、対物レンズの有効半径は3mm×0.65=1.95mmとなる。図6、図7に実線で示されるように、光学的位相差は、光軸からの距離に応じて2次関数状に連続的に変化する。実際には、このように光学的位相差を連続的に変化させる代わりに、離散的に変化させても良い。光学的位相差を離散的に変化させると、垂直複屈折の補正の効果はやや落ちるが、複屈折補正素子の作製は容易になる。
図2〜図5に示される複屈折補正素子5a〜5dにおいては、図6、図7に点線で示されるように、光学的位相差が、光軸からの距離に応じて半径方向に4つの領域に分割されて離散的に変化している。領域群11、15、19、23では光学的位相差の絶対値は0°、領域群12、16、20、24では光学的位相差の絶対値は18°、領域群13、17、21、25では光学的位相差の絶対値は36°、領域群14、18、22、26では光学的位相差の絶対値は54°である。光学的位相差の絶対値が0°の領域と光学的位相差の絶対値が18°の領域との境界は半径0.75mm、光学的位相差の絶対値が18°の領域と光学的位相差の絶対値が36°の領域との境界は半径1.28mm、光学的位相差の絶対値が36°の領域と光学的位相差の絶対値が54°の領域との境界は半径1.64mmである。
図2〜図5において、x軸方向の偏光成分の位相が、y軸方向の偏光成分の位相に対して進む場合の光学的位相差を正、遅れる場合の光学的位相差を負とすると、垂直複屈折を補正するには、左右の領域では負の光学的位相差、上下の領域では正の光学的位相差が生じる必要がある。複屈折補正素子5a〜5dが含む一軸の屈折率異方性を有する部材としては、液晶高分子が用いられる。通常、液晶高分子は正結晶の性質を有し、光学軸に平行な方向の偏光成分に対する屈折率が、光学軸に垂直な方向の偏光成分に対する屈折率に比べて大きい。このとき、光学軸に平行な方向の偏光成分は、光学軸に垂直な方向の偏光成分に対して位相が遅れる。
複屈折補正素子5a、5cのように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の半径方向である場合、上述の条件を満たすには、内側から外側へ向かって、光学軸に平行な方向の偏光成分の、光学軸に垂直な偏光成分に対する位相の遅れ量を増加させれば良い。図6の縦軸の光学的位相差は、このときの位相の遅れ量を表している。内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、図6に点線で示されるように、位相の遅れ量を0°、18°、36°、54°と変化させれば良い。
一方、複屈折補正素子5b、5dのように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の接線方向である場合、上述の条件を満たすには、内側から外側へ向かって、光学軸に平行な方向の偏光成分の、光学軸に垂直な偏光成分に対する位相の進み量を増加させれば良いが、実際には位相を進めることは出来ないので、その代わりに位相の遅れ量を減少させれば良い。図7の縦軸の光学的位相差は、このときの位相の遅れ量を表している。内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、位相の遅れ量を0°、−18°、−36°、−54°と変化させれば良いが、実際には位相の遅れ量を負にすることは出来ないので、図7に点線で示されるように、その代わりに位相の遅れ量を360°、342°、324°、306°と変化させれば良い。ここで、0°と360°は等価であることを利用している。
図8A〜8Dは、複屈折補正素子5a〜5dの断面図である。複屈折補正素子5a〜5dは、ガラス製の基板27aと基板27bとの間に、一軸の屈折率異方性を有する液晶高分子28を挟んだ構成である。図中の矢印は、液晶高分子28の長手方向を示している。複屈折補正素子5a〜5dにおける光学軸の方向は、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影で定められる。また、複屈折補正素子5a〜5dにおける光学的位相差は、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度で定められる。図8A〜8Dへ向かうに従って、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は小さくなり、光学的位相差は大きくなる。
複屈折補正素子5aの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5aの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。
また、複屈折補正素子5aの領域群11においては、光学的位相差が0°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5aの領域群12においては、光学的位相差が18°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5aの領域群13においては、光学的位相差が36°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5aの領域群14においては、光学的位相差が54°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が0°、18°、36°、54°と大きくなるに従って、図8Aに示されるような状態から図8Dに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5bの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5bの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。
また、複屈折補正素子5bの領域群15においては、光学的位相差が360°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5bの領域群16においては、光学的位相差が342°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5bの領域群17においては、光学的位相差が324°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5bの領域群18においては、光学的位相差が306°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が360°、342°、324°、306°と小さくなるに従って、図8Dに示されるような状態から図8Aに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5cの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群eおよび領域群gにおいては、光学軸の方向がx軸に対して45°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群fおよび領域群hにおいては、光学軸の方向がx軸に対して135°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。
また、複屈折補正素子5cの領域群19においては、光学的位相差が0°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群20においては、光学的位相差が18°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群21においては、光学的位相差が36°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5cの領域群22においては、光学的位相差が54°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が0°、18°、36°、54°と大きくなるに従って、図8Aに示されるような状態から図8Dに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5dの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群eおよび領域群gにおいては、光学軸の方向がx軸に対して135°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群fおよび領域群hにおいては、光学軸の方向がx軸に対して45°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。
また、複屈折補正素子5dの領域群23においては、光学的位相差が360°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群24においては、光学的位相差が342°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群25においては、光学的位相差が324°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5dの領域群26においては、光学的位相差が306°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が360°、342°、324°、306°と小さくなるに従って、図8Dに示されるような状態から図8Aに示されるような状態へ向かって変化する。
次に、光検出器10における受光量について述べる。偏光ビームスプリッタ3に対するP偏光方向、S偏光方向が、図27に示されるX軸方向、Y軸方向にそれぞれ相当するものとする。また、半導体レーザ1からの出射光の偏光方向が、偏光ビームスプリッタ3に対するP偏光方向であるとする。半導体レーザ1からの出射光の電界分布をE0(x,y)、1/4波長板4のジョーンズ行列をQとすると、半導体レーザ1からディスク7へ向かう往路において、1/4波長板4、複屈折補正素子5、ディスク7の保護層を透過した光の電界分布は、ジョーンズベクトルを用いて下式で表される。
但し、Qは下式で与えられる。
ディスク7上のニアフィールドにおいて、図27に示されるX軸、Y軸に平行にそれぞれU軸、V軸を定める。半導体レーザ1の波長をλ、対物レンズ6の焦点距離をfとすると、ディスク7上に形成される集光スポットの電界分布は、ジョーンズベクトルを用いて下式で表される。
ディスク7の複素反射率分布をR(u,v)とすると、ディスク7からの反射光の電界分布は、ジョーンズベクトルを用いて下式で表される。
ここで、R(u,v)は、ディスク7に形成されている溝またはピットの形状により決まる関数である。
ディスク7から光検出器10へ向かう復路において、ディスク7の保護層、複屈折補正素子5、1/4波長板4を透過した光の電界分布は、ジョーンズベクトルを用いて下式で表される。
光検出器10における受光量をLとすると、Lは下式で与えられる。
ディスク7からの反射光を、光軸に垂直な面内で光軸を通りディスク7の接線方向に平行な直線で2つの領域に分割して光検出器10で受光したときの、2つの領域に対応した光検出器10における受光量をそれぞれLa、Lbとすると、La、Lbは、数8の積分をそれぞれx<0、x>0の範囲で行うことにより求められる。このとき、和信号はLa+Lb、プッシュプル信号はLa−Lbで与えられる。この式に基づいて、光記録媒体上に形成された集光スポットが光記録媒体の溝を横断したときの、光記録媒体の保護層の複屈折と和信号レベル、プッシュプル信号振幅の関係を計算することができる。
また、ディスク7からの反射光を、光軸に垂直な面内で光軸を通りディスク7の半径方向に平行な直線および接線方向に平行な直線で4つの領域に分割して光検出器10で受光したときの、一方の対角に位置する2つの領域に対応した光検出器10における受光量をLa、Lc、他方の対角に位置する2つの領域に対応した光検出器10における受光量をLb、Ldとすると、La、Lb、Lc、Ldは、数8の積分をそれぞれx<0かつy<0、x>0かつy<0、x>0かつy>0、x<0かつy>0の範囲で行うことにより求められる。このとき、DPD信号は(La+Lc)と(Lb+Ld)との時間差で与えられる。この式に基づいて、光記録媒体上に形成された集光スポットが光記録媒体のピットを横断したときの、光記録媒体の保護層の複屈折とDPD信号振幅との関係を計算することができる。
第1から第4まで実施例において説明された複屈折補正素子5を用いた場合について、図9に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値と和信号レベルとの関係の計算例が示され、図10に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号振幅との関係の計算例が示される。また、図11に、図9に示される和信号レベルと図10に示されるプッシュプル信号振幅とから求められる、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号変調度との関係の計算例が示される。計算条件は、図28〜図30で述べた条件と同じである。図9、図10の縦軸は、光記録媒体に溝が形成されていない場合の和信号レベルで規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、複屈折補正素子5による補正を行わないときの計算結果である。これらは図28〜図30に示されるものと同じである。図中の△は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図2〜図3に示される周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5aまたは5bによる補正を行ったときの計算結果である。図中の◇は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図4〜図5に示される周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5cまたは5dによる補正を行ったときの計算結果である。
図9を参照すると、和信号レベルは、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)による補正を行った場合と、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)による補正を行った場合とのいずれにおいても、垂直複屈折がない場合と同様に、面内複屈折の値が0のときに最大になり、面内複屈折の値の絶対値が増加するに従って減少する。
一方、図10を参照すると、プッシュプル信号振幅は、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)による補正を行った場合、面内複屈折の値が0よりやや小さいときに最大になり、そこから面内複屈折の値が増加または減少するに従って減少する。また、プッシュプル信号振幅は、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)による補正を行った場合、面内複屈折の値が0よりやや大きいときに最大になり、そこから面内複屈折の値が増加または減少するに従って減少する。
その結果、図11に示されるように、プッシュプル信号変調度は、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)による補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に僅かに増加する。また、プッシュプル信号変調度は、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)による補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に僅かに減少する。このことから、複屈折補正素子5を用いることにより、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化が抑制されることがわかる。プッシュプル信号変調度の変化の抑制効果は、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)よりも、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)の方が大きい。
第1から第4まで実施例において説明された複屈折補正素子5を用いた場合について、図12に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とDPD信号振幅との関係の計算例が示される。計算条件は、図31で述べた条件と同じである。図12の縦軸は、チャンネルクロックの時間で規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、複屈折補正素子5による補正を行わないときの計算結果である。これらは図31に示されるものと同じである。図中の△は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図2〜図3に示される周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5aまたは5bによる補正を行ったときの計算結果である。図中の◇は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図4〜図5に示される周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5cまたは5dによる補正を行ったときの計算結果である。
図12に示されるように、DPD信号振幅は、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)による補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に僅かに増加する。また、DPD信号振幅は、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)による補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に僅かに減少する。このことから、複屈折補正素子5を用いることにより、光記録媒体の面内の位置によるDPD信号振幅の変化が抑制されることがわかる。DPD信号振幅の変化の抑制効果は、周方向に4つの領域に分割された複屈折補正素子5(5a、5b)よりも、周方向に8つの領域に分割された複屈折補正素子5(5c、5d)の方が大きい。
図2に示される複屈折補正素子5aまたは図3に示される複屈折補正素子5bは、周方向に4つの領域に分割されており、各領域がさらに半径方向に4つの領域に分割されている。また、図4に示される複屈折補正素子5cまたは図5に示される複屈折補正素子5dは、周方向に8つの領域に分割されており、各領域がさらに半径方向に4つの領域に分割されている。しかし、複屈折補正素子5における周方向に分割される領域の数は4または8に限らずいくつでも良く、半径方向に分割される領域の数も4に限らずいくつでも良い。複屈折補正素子5を用いることによる、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化の抑制効果は、複屈折補正素子5における周方向に分割された領域の数、半径方向に分割された領域の数が多いほど大きい。一方、複屈折補正素子5の製作の容易性は、複屈折補正素子5における周方向に分割された領域の数、半径方向に分割された領域の数が少ないほど高い。
(第5実施例)
本発明の光ヘッド装置の第5実施例では、図13にその平面図が示される複屈折補正素子5eが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図13は複屈折補正素子5eの平面図である。複屈折補正素子5eは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域に分割されている。そのうちの左右の各領域(符号a、c)は、さらに、光軸を中心とする3つの同心円の円弧で、半径方向に4つの領域(符号29〜32)に分割されている。以下の説明では、左右の領域群、即ち、符号の記号部分にa、cが付される領域群は、領域群a、cと表記される。また、半径方向に4分割された対の領域群、即ち、符号の数字部分に29〜32が付される領域群は、領域群29〜32と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5eは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群29では0°、領域群30では18°、領域群31では36°、領域群32では54°である。これらの、複屈折補正素子5eの領域群29〜32における光学的位相差は、図6に点線で示されるものと同じである。また、上下の領域における、光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差は0°である。
(第6実施例)
本発明の光ヘッド装置の第6実施例では、図14にその平面図が示される複屈折補正素子5fが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図14は複屈折補正素子5fの平面図である。複屈折補正素子5fは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域に分割されている。そのうちの左右の各領域(符号a、c)は、さらに、光軸を中心とする3つの同心円の円弧で、半径方向に4つの領域(符号33〜36)に分割されている。以下の説明では、左右の領域群、即ち、符号の記号部分にa、cが付される領域群は、領域群a、cと表記される。また、半径方向に4分割された対の領域群、即ち、符号の数字部分に33〜36が付される領域群は、領域群33〜36と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5fは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群aおよび領域群cにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群33では0°、領域群34では18°、領域群35では36°、領域群36では54°である。これらの、複屈折補正素子5fの領域群33〜36における光学的位相差は、図7に点線で示されるものと同じである。また、上下の領域における、光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差は0°である。
(第7実施例)
本発明の光ヘッド装置の第7実施例では、図15にその平面図が示される複屈折補正素子5gが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図15は複屈折補正素子5gの平面図である。複屈折補正素子5gは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域に分割されている。そのうちの上下の各領域(符号b、d)は、さらに、光軸を中心とする3つの同心円の円弧で、半径方向に4つの領域(符号29〜32)に分割されている。以下の説明では、上下の領域群、即ち、符号の記号部分にb、dが付される領域群は、領域群b、dと表記される。また、半径方向に4分割された対の領域群、即ち、符号の数字部分に29〜32が付される領域群は、領域群29〜32と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5gは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して90°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群29では0°、領域群30では18°、領域群31では36°、領域群32では54°である。これらの、複屈折補正素子5gの領域群29〜32における光学的位相差は、図6に点線で示されるものと同じである。また、左右の領域における、光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差は0°である。
(第8実施例)
本発明の光ヘッド装置の第8実施例では、図16にその平面図が示される複屈折補正素子5hが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図16は複屈折補正素子5hの平面図である。複屈折補正素子5hは、光軸を通る2つの直線で、周方向に90°間隔で4つの領域に分割されている。そのうちの上下の各領域(符号b、d)は、さらに、光軸を中心とする3つの同心円の円弧で、半径方向に4つの領域(符号33〜36)に分割されている。以下の説明では、上下の領域群、即ち、符号の記号部分にb、dが付される領域群は、領域群b、dと表記される。また、半径方向に4分割された対の領域群、即ち、符号の数字部分に33〜36が付される領域群は、領域群33〜36と表記される。なお、図中の点線は、対物レンズ6の有効径を示している。また、図中に示されるx軸、y軸の方向は、それぞれディスク7の半径方向、接線方向に対応している。
複屈折補正素子5hは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでいる。図中の矢印は、各領域におけるこの部材の光学軸の方向を示している。領域群bおよび領域群dにおける光学軸の方向は、図中のx軸に対して0°の方向である。光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差の絶対値は、領域群33では0°、領域群34では18°、領域群35では36°、領域群36では54°である。これらの、複屈折補正素子5hの領域群33〜36における光学的位相差は、図7に点線で示されるものと同じである。また、左右の領域における、光学軸に平行な方向の偏光成分と光学軸に垂直な方向の偏光成分との間の光学的位相差は0°である。
図13に示される複屈折補正素子5eにおいては、領域29a、30a、31a、32aの中心部、領域29c、30c、31c、32cの中心部では、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の半径方向になる。しかし、各領域群の中心部から上下の領域との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の半径方向からずれていく。
図14に示される複屈折補正素子5fにおいては、領域33a、34a、35a、36aの中心部、領域33c、34c、35c、36cの中心部では、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の接線方向になる。しかし、各領域群の中心部から上下の領域との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の接線方向からずれていく。
図15に示される複屈折補正素子5gにおいては、領域29b、30b、31b、32bの中心部、領域29d、30d、31d、32dの中心部では、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の半径方向になる。しかし、各領域群の中心部から左右の領域との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の半径方向からずれていく。
図16に示される複屈折補正素子5hにおいては、領域33b、34b、35b、36bの中心部、領域33d、34d、35d、36dの中心部では、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の接線方向になる。しかし、各領域群の中心部から左右の領域との境界部へ近づくに従って、光学軸の方向は、光軸を中心とする円の接線方向からずれていく。
複屈折補正素子5eが含む一軸の屈折率異方性を有する部材としては、複屈折補正素子5a〜5dと同様に、液晶高分子が用いられる。複屈折補正素子5eの左右の領域のように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の半径方向である場合、内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、図6に点線で示されるように、位相の遅れ量を0°、18°、36°、54°と変化させれば良い。
複屈折補正素子5eの断面図は、図8に示されるものと同じである。複屈折補正素子5eの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。また、複屈折補正素子5eの領域群29においては、光学的位相差が0°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5eの領域群30においては、光学的位相差が18°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5eの領域群31においては、光学的位相差が36°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5eの領域群32においては、光学的位相差が54°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が0°、18°、36°、54°と大きくなるに従って、図8Aに示されるような状態から図8Dに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5fが含む一軸の屈折率異方性を有する部材としては、複屈折補正素子5a〜5dと同様に、液晶高分子が用いられる。複屈折補正素子5fの左右の領域のように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の接線方向である場合、内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、図7に点線で示されるように、位相の遅れ量を360°、342°、324°、306°と変化させれば良い。
複屈折補正素子5fの断面図は、図8に示されるものと同じである。複屈折補正素子5fの領域群aおよび領域群cにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。また、複屈折補正素子5fの領域群33においては、光学的位相差が360°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5fの領域群34においては、光学的位相差が342°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5fの領域群35においては、光学的位相差が324°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5fの領域群36においては、光学的位相差が306°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が360°、342°、324°、306°と小さくなるに従って、図8Dに示されるような状態から図8Aに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5gが含む一軸の屈折率異方性を有する部材としては、複屈折補正素子5a〜5dと同様に、液晶高分子が用いられる。複屈折補正素子5gの上下の領域のように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の半径方向である場合、内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、図6に点線で示されるように、位相の遅れ量を0°、18°、36°、54°と変化させれば良い。
複屈折補正素子5gの断面図は、図8に示されるものと同じである。複屈折補正素子5gの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して90°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。また、複屈折補正素子5gの領域群29においては、光学的位相差が0°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5gの領域群30においては、光学的位相差が18°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5gの領域群31においては、光学的位相差が36°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5gの領域群32においては、光学的位相差が54°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が0°、18°、36°、54°と大きくなるに従って、図8Aに示されるような状態から図8Dに示されるような状態へ向かって変化する。
複屈折補正素子5hが含む一軸の屈折率異方性を有する部材としては、複屈折補正素子5a〜5dと同様に、液晶高分子が用いられる。複屈折補正素子5hの上下の領域のように、光学軸の方向が近似的に光軸を中心とする円の接線方向である場合、内側から外側へ向かって光学的位相差の絶対値を0°、18°、36°、54°と変化させるには、図7に点線で示されるように、位相の遅れ量を360°、342°、324°、306°と変化させれば良い。
複屈折補正素子5hの断面図は、図8に示されるものと同じである。複屈折補正素子5hの領域群bおよび領域群dにおいては、光学軸の方向がx軸に対して0°の方向になるように、液晶高分子28の長手方向の面内方向への射影が所定の状態に揃えられる。また、複屈折補正素子5hの領域群33においては、光学的位相差が360°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5hの領域群34においては、光学的位相差が342°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5hの領域群35においては、光学的位相差が324°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。複屈折補正素子5hの領域群36においては、光学的位相差が306°になるように、液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度が所定の状態に揃えられる。液晶高分子28の長手方向と面内方向との角度は、光学的位相差が360°、342°、324°、306°と小さくなるに従って、図8Dに示されるような状態から図8Aに示されるような状態へ向かって変化する。
第5から第8まで実施例において説明された複屈折補正素子5を用いた場合について、図17に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値と和信号レベルとの関係の計算例が示され、図18に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号振幅との関係の計算例が示される。また、図19に、図17に示される和信号レベルと図18に示されるプッシュプル信号振幅とから求められる、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とプッシュプル信号変調度との関係の計算例が示される。計算条件は、図28〜図30で述べた条件と同じである。図17、図18の縦軸は、光記録媒体に溝が形成されていない場合の和信号レベルで規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、複屈折補正素子5による補正を行わないときの計算結果である。これらは、図28〜図30に示されるものと同じである。図中の△は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図13〜図14に示される複屈折補正素子5eまたは5fによる左右の領域のみ(X方向のみ)についての補正を行ったときの計算結果である。図中の◇は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図15〜図16に示される複屈折補正素子5gまたは5hによる上下の領域のみ(Y方向のみ)についての補正を行ったときの計算結果である。
図17を参照すると、和信号レベルは、複屈折補正素子5(5e、5f)による左右の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が0よりやや小さいときに最大になり、そこから面内複屈折の値が増加または減少するに従って減少する。また、和信号レベルは、複屈折補正素子5(5g、5h)による上下の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が0よりやや大きいときに最大になり、そこから面内複屈折の値が増加または減少するに従って減少する。
一方、図18を参照すると、プッシュプル信号振幅は、複屈折補正素子5(5e、5f)による左右の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が0よりやや小さいときに最大になり、そこから面内複屈折の値が増加または減少するに従って減少する。また、プッシュプル信号振幅は、複屈折補正素子5(5g、5h)による上下の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に減少する。
その結果、図19に示されるように、プッシュプル信号変調度は、複屈折補正素子5(5e、5f)による左右の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調に僅かに減少する。また、プッシュプル信号変調度は、複屈折補正素子5(5g、5h)による上下の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調にやや減少する。このことから、複屈折補正素子5を用いることにより、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度の変化が抑制されることがわかる。プッシュプル信号変調度の変化の抑制効果は、上下の領域のみについての補正を行う複屈折補正素子5(5g、5h)よりも、左右の領域のみについての補正を行う複屈折補正素子5(5e、5f)の方が大きい。
第5から第8まで実施例において説明された複屈折補正素子5を用いた場合について、図20に、垂直複屈折の値をパラメータとした面内複屈折の値とDPD信号振幅との関係の計算例が示される。計算条件は、図31で述べた条件と同じである。図20の縦軸は、チャンネルクロックの時間で規格化されている。図中の黒丸は、垂直複屈折の値が0の場合の計算結果であり、図中の白丸は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、複屈折補正素子5による補正を行わないときの計算結果である。これらは図31に示されるものと同じである。図中の△は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図13〜図14に示される複屈折補正素子5eまたは5fによる左右の領域のみ(X方向のみ)についての補正を行ったときの計算結果である。図中の◇は、垂直複屈折の値が7×10−4の場合で、図15〜図16に示される複屈折補正素子5gまたは5hによる上下の領域のみ(Y方向のみ)についての補正を行ったときの計算結果である。
図20に示されるように、DPD信号振幅は、複屈折補正素子5(5e、5f)による左右の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って一旦僅かに増加したのち単調に僅かに減少する。また、DPD信号振幅は、複屈折補正素子5(5g、5h)による上下の領域のみについての補正を行った場合、面内複屈折の値が正から負へ変化するに従って単調にやや減少する。このことから、複屈折補正素子5を用いることにより、光記録媒体の面内の位置によるDPD信号振幅の変化が抑制されることがわかる。DPD信号振幅の変化の抑制効果は、上下の領域のみについての補正を行う複屈折補正素子5(5g、5h)よりも、左右の領域のみについての補正を行う複屈折補正素子5(5e、5f)の方が大きい。
図13に示される複屈折補正素子5eまたは図14に示される複屈折補正素子5fは、周方向に4つの領域に分割されており、そのうちの左右の各領域は垂直複屈折を補正するが、上下の各領域は垂直複屈折を補正しない。左右の各領域はさらに半径方向に4つの領域に分割されており、光学軸の方向は領域間で一定であり、光学的位相差は領域間で変化する。一方、図15に示される複屈折補正素子5gまたは図16に示される複屈折補正素子5hは、周方向に4つの領域に分割されており、そのうちの上下の各領域は垂直複屈折を補正するが、左右の各領域は垂直複屈折を補正しない。上下の各領域はさらに半径方向に4つの領域に分割されており、光学軸の方向は領域間で一定であり、光学的位相差は領域間で変化する。しかし、複屈折補正素子5における垂直複屈折を補正する領域は、左右、上下に限らずどの方向の領域でも良い。また、垂直複屈折を補正する領域における光学軸の方向および光学的位相差は、一定でも良く面内の位置により変化しても良い。複屈折補正素子5を用いることによる、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化の抑制効果は、複屈折補正素子5における垂直複屈折を補正する領域が左右に近いほど大きい。
(第9実施例)
本発明の光ヘッド装置の第9実施例では、図21にその平面図が示される複屈折補正素子5i、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図21は複屈折補正素子5iの平面図である。複屈折補正素子5iは、光軸を中心とする放射状の格子を有する構成である。複屈折補正素子5iは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでおらず、等方性の部材に構造複屈折を利用して一軸の屈折率異方性を持たせたものである。この場合、複屈折補正素子5iにおける光学軸の方向は、格子に平行または垂直な方向となる。従って、格子を放射状に形成することにより、光学軸の方向を、光軸に関して回転対称で、光軸を中心とする円の半径方向または接線方向とすることができる。即ち、光学軸の方向を連続的に変化させることができる。
(第10実施例)
本発明の光ヘッド装置の第10実施例では、図22にその平面図が示される複屈折補正素子5jが、図1にその構成が示される光ヘッド装置50における複屈折補正素子5として用いられる。
図22は複屈折補正素子5jの平面図である。複屈折補正素子5jは、光軸を中心とする同心円状の格子を有する構成である。複屈折補正素子5jは、一軸の屈折率異方性を有する部材を含んでおらず、等方性の部材に構造複屈折を利用して一軸の屈折率異方性を持たせたものである。この場合、複屈折補正素子5jにおける光学軸の方向は、格子に平行または垂直な方向となる。従って、格子を同心円状に形成することにより、光学軸の方向を、光軸に関して回転対称で、光軸を中心とする円の半径方向または接線方向とすることができる。即ち、光学軸の方向を連続的に変化させることができる。
格子の周期が入射光の波長に比べて十分に小さい場合、この格子は入射光を回折させず、入射光に対して波長板として作用する。格子を形成する2つの媒質の屈折率を媒質屈折率n1および媒質屈折率n2、格子の1周期においてそれぞれの媒質が占める割合をqおよび1−q(qは格子のデューティ比)、格子に平行な方向の偏光成分(TE偏光成分)および格子に垂直な方向の偏光成分(TM偏光成分)に対する実効的な屈折率をそれぞれn
iおよびn
vとすると、n
i、n
vは下式で与えられる。
図23に、格子のデューティ比qと実効的な屈折率との関係の計算例が示される。ここでは、2つの媒質を空気および石英としており、それぞれの屈折率は、媒質屈折率n1=1、媒質屈折率n2=1.47である。図中の黒丸は、格子に平行な方向の偏光成分(TE偏光成分)に対する実効的な屈折率niの計算結果である。また、図中の白丸は、格子に垂直な方向の偏光成分(TM偏光成分)に対する実効的な屈折率nvの計算結果である。Δn=ni−nvとすると、格子のデューティ比q=0でΔnは最小値0をとり、格子のデューティ比q=0.45でΔnは最大値0.0887をとる。
図24は、複屈折補正素子5i、5jの断面図である。複屈折補正素子5i、5jは、石英製の基板37の上に、格子38が形成された構成である。pは格子38の周期、hは格子38の高さである。格子38の周期pは入射光の波長に比べて十分に小さい。複屈折補正素子5i、5jにおける光学的位相差は、入射光の波長をλとすると、2πhΔn/λで与えられる。図24Aに示される格子38のデューティ比は0、図24Dに示される格子38のデューティ比は0.45である。図24A〜24Dに示される格子38のデューティ比は、この順に大きくなる。従って、図24A〜24Dに示される複屈折補正素子5i、5jにおける光学的位相差は、この順に大きくなる。
複屈折補正素子5i、5jにおいては、光軸からの距離に応じて格子のデューティ比を0〜0.45の間で連続的に変化させることにより、図6、図7に実線で示されるように、光学的位相差を光軸からの距離に応じて2次関数状に連続的に変化させることができる。複屈折補正素子5iにおいては、光軸上では、格子のデューティ比をq=0、即ち、Δn=0とすれば光学的位相差は0°となる。また、光軸からの距離が対物レンズの有効半径である1.95mmの場合は、格子のデューティ比をq=0.45、即ち、Δn=0.0887とし、光学的位相差が65.7°となるように格子の高さhを定めれば良い。このとき、入射光の波長をλ=405nmとすると、格子の高さはh=833nmとなる。一方、複屈折補正素子5jにおいては、光軸上では、格子のデューティ比をq=0.45、即ち、Δn=0.0887とし、光学的位相差が360°となるように格子の高さhを定めれば良い。このとき、入射光の波長をλ=405nmとすると、格子の高さはh=4566nmとなる。また、光軸からの距離が対物レンズの有効半径である1.95mmの場合は、格子の高さをh=4566nmとし、光学的位相差が294.3°となるように格子のデューティ比q、即ち、Δnを定めれば良い。このとき、入射光の波長をλ=405nmとすると、格子のデューティ比はq=0.24、即ち、Δn=0.0725となる。
このように、複屈折補正素子5i、5jを用いれば、光記録媒体の面内の位置によるプッシュプル信号変調度およびDPD信号振幅の変化を完全に抑制することができる。