JPWO2007020967A1 - マイクロレンズ用金型、マイクロレンズおよびそれらの製法 - Google Patents

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Abstract

設計どおりの形状の金型が得られ、高性能な光学性能を発揮しうるマイクロレンズを製造できる金型およびその製法を提供する。単結晶シリコン基板1に化学的な異方性エッチングにより四角錐凹部2を形成するエッチング工程100と、四角錐凹部2にイオンを照射するイオン加工工程200により球面状または円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部3に形成する。異方性エッチングにより、シリコン基板1に正確な四角錐形状凹部2を形成でき、この四角錐凹部2は次いで行われるイオン加工によって、球面状または円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部3に変化される。このようにして、シリコン基板1上に形成されたマイクロレンズ成形用凹部3はそのまま金型として、あるいは転写用の母型として利用でき、マイクロレンズアレイまたはマイクロレンズ単体の製造が行える。

Description

本発明は、マイクロレンズ用金型およびその製法に関する。マイクロレンズは、大きさ(直径)が数mm以下の小さいレンズをいい、これらのマイクロレンズは多数個を整然と並べたマイクロレンズアレイの形で使用したり、マイクロレンズ単体で使用される(非特許文献1)。本発明は、このようなマイクロレズを製造する場合に必要な金型と、その製法に関する。
写真機、光学顕微鏡などに用いるレンズは、光学材料を研磨したり、金型を作製して成形加工したりして製造されている。しかし、寸法の小さいマイクロレンズの製造には、これらの通常のレンズの製造方法が適用できない。
そこで、マイクロレンズには、つぎのような製法が用いられる。なお、マイクロレンズは屈折型と回折型に二分されるので、それぞれ分けて説明する。
回折型マイクロレンズには、主として、半導体集積回路などの製造に用いられている技術を応用して製造される。すなわち、その製造はホトリソグラフィ、電子線リソグラフィなどを用いて行われるが、ホトリソグラフィでは重ね合わせ精度が厳しい、電子線リソグラフィでは円などの特殊な形状の露光が必要、また生産性が低い、という欠点がある。また、回折形マイクロレンズには、色収差が大きい、光の集束効率が低い、という欠点がある。
屈折型マイクロレンズには、イオン交換法、リフロー法などが代表的な製造方法として適用される。
前記イオン交換法により屈折型マイクロレンズアレイを製造する場合、マイクロレンズ作製箇所に穴を設けた金属膜をガラス基板に形成し、この状態で溶融塩に浸す。溶融塩としてタリウム硫酸塩を使用した場合、ガラス基板を100時間以上浸す。この製法では、時間がかかるばかりか、理想的な屈折率分布を得ることは困難で、特に、マイクロレンズ周辺部の収差が大きくなるという欠点がある。
前記リフロー法は、図23(A)に示すように、次の4工程からなる(非特許文献2の1282頁Fig.1参照)。
(a)アルミニウム薄膜を石英基板に形成し、アルミニウム薄膜に15μm径の穴を形成する。(b)直径30μmの円形台座を(a)の穴の上に形成する。円形台座は溶媒に対して不溶解で、180℃以上の温度に対して安定となるように処理される。(c)フォトレジストによる直径25μm、高さ12μmの円柱を円形台座上に形成する。(d)140℃で15分加熱すると、球面状のマイクロレンズアレイが製造される。
上記のリフロー法における球面形への変形は、表面張力によって表面エネルギーを最少化する原理を利用したものである。
しかし、このリフロー法では、表面張力が外乱の影響を受けやすいことから、正確な寸法が得られず、レンズの光学性能にバラツキが生ずる。また、レンズアレイを製造する場合には、表面張力で変形中の球の形が崩れないようにするため、互いに接触させてはならず、図23(B)に示すように、隣接する球状レンズ間に平面部分(つまりレンズでない部分)が生ずる(非特許文献2の1283頁Fig.4参照)。このような平面部分はレンズアレイとして使用するとき、平面部分を通過する光は逆光となって、雑音の増大、光通過効率の低減、クロストークの発生などの欠点を生ずる。従来、平面部分をなくすることが困難なため、(アレイ領域の面積−アレイ領域内の平面部分の面積)/アレイ領域の面積を“fill factor”と称し、マイクロレンズアレイ性能評価の一つの指標にしている位である。
以上のように、従来の製造法で製作される屈折形マイクロレンズは、せいぜいほぼ球面とまでしか言えないものである。これでは光の集束作用はあるが、普通の大きさのレンズのような集束状態ではなく、光の利用効率の向上程度に利用できる程度である。換言すれば、高い光学性能を満たす屈折型マイクロレンズは存在しないというのが現状である。
オプトエレクトロニクス用語事典 平成8年11月25日第1版発行 (株)オーム社 編者田中俊一外2名 439〜440頁,586頁 アプライドオプティクス 1988年4月1日 Vol.27,No.7 1281〜1284頁「テクニク フォー モノリシック ファブリケーション オブ マイクロレンズアレイ」
本発明は上記事情に鑑み、設計どおりの形状の金型が得られ、高性能な光学性能を発揮しうる屈折形マイクロレンズを製造することができる金型と、その製法を提供することを目的とする。
第1発明のマイクロレンズ用金型の製法は、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成するエッチング工程と、前記四角錐凹部をイオン加工によりマイクロレンズ成形用凹部に形成するイオン加工工程とを順に実行することを特徴とする。
第2発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記エッチング工程が、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板に化学的な異方性エッチングを施す工法であることを特徴とする。
第3発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記イオン加工工程が、前記シリコン基板に対し不活性なガスをイオン化ガスとして用い、加速したイオンを前記シリコン基板に照射して行う除去加工であることを特徴とする。
第4発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記四角錐凹部として正四角錐凹部を形成しておき、球面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
第5発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前前記四角錐凹部として長四角錐凹部を形成しておき、円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
第6発明のマイクロレンズ用金型は、シリコン基板上にマイクロレンズ成形用凹部を形成したことを特徴とする。
第7発明のマイクロレンズ用金型は、シシリコン基板上に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成したことを特徴とする。
第8発明のマイクロレンズ用金型は、シリコン基板に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成すると共に、各マイクロレンズ成形用凹部の周囲に平坦部が無くなるように各マイクロレンズ成形用凹部が互いに接触して形成されていることを特徴とする。
第9発明のマイクロレンズ用金型は、第6,7,8のいずれかの発明において、前記マイクロレンズ成形用凹部が、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成した後、該四角錐凹部をイオン加工により球面状にまたは円筒面状に形成されたものであることを特徴とする。
第1発明の製法によれば、まず、異方性エッチングにより、シリコン基板面に四角錐形状の凹みを作成し、ついで、イオン加工によって、四角錐凹部の各面を湾曲面に除去していって、マイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。そして、この製法はつぎの利点がある。
A)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による湾曲面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)マイクロレンズ成形用凹部の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接するマイクロレンズ成形用凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な平面部分を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的おおきいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
第2発明の製法によれば、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板を用いることにより、{111}結晶面に垂直な方向のエッチ速度が他の方向に比べて最も遅いという現象を利用して、エッチストップとして作用する結晶面を予め特定でき、{111}面だけで構成された形状の四角錐凹部を得ることができる。このため、適当なマスクをシリコン基板に形成して異方性エッチングすることによって、所望の形状の四角錐凹部を得ることができる。また、このように、{100}シリコン基板に異方性エッチングを適用して正四角錐凹部や長四角錐凹部を形成すると、寸法の選択範囲を広くとれ、寸法や形状にばらつきのない凹部を形成でき、各凹部の位置決めを高精度に行うことができる、という長所があるので、後工程で真球度の高いマイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。
第3発明の製法によれば、イオンがシャワー状となって照射し、主に物理的な作用によりシリコン基板表面を除去する。この加工工程においては、イオン加工速度がシリコン基板へのイオン入射角に依存して変化し、特に、イオン入射角θが0度(試料面に垂直入射)からある角度θmaxの範囲において、イオン入射面の変化とともに一定速度で移動する座標系においてイオン入射面の法線方向の加工速度を求めた場合、この加工速度が一定になることから、寸法精度の高いマイクロレンズ成形用凹部が形成される。また、イオン照射による除去量は加工時間と比例関係にあるので、加工の進展度合を時間で正確に制御することができ、マイクロレンズ単体用の金型もマイクロレンズアレイ用の金型も任意に製造することができる。
第4発明の製法によれば、正四角錐の凹部から正円の球面状凹部を形成でき、球面レンズ用の金型を製造できる。
第5発明の製法によれば、長四角錐の凹部から円筒面状凹部を形成でき、円筒面レンズ用の金型を製造できる。
第6発明の金型によれば、マイクロレンズ成形用凹部をそのまま金型としたり、母型として用いることにより、マイクロレンズ単体またはマイクロレンズアレイの製造ができる。
第7発明の金型によれば、複数個のマイクロレンズ成形用凹部が整列しているので、金型あるいは母型として用いることにより、マイクロレンズアレイの製造ができる。
第8発明の金型によれば、光学的には不要で性能劣化の原因となる平面部分が存在しないマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
第9発明は、第1発明の製法の利点を継承するので、得られた金型は、つぎの長所を有する。
a)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを再現性よく製造できる。
b)マイクロレンズ成形用凹部の形状は種々のものが可能なので、種々の形状のマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
c)不要な平面部分の無い金型を用いて、逆光等の原因になる平面部分が全くないマイクロレンズアレイを製造できる。
d)金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、超微細なものから比較的おおきいものまで可能であるので、種々の寸法のマイクロレンズやマイクロレンズアレイの作製が可能となる。
e)大面積のシリコン基板を使った金型を用いることにより、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能である。
f)金型にシリコン基板を用いるので材料が安価であり、寿命が例え長くなくても低コストでマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
<<本発明の基本原理>>
本発明におけるマイクロレンズ用金型の製法の基本原理を、図1に基づき説明する。
(異方性エッチング工程100の概要)
まず、化学エッチング法を用いた異方性エッチング工程100において、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板1に四角錐凹部2を形成する。本明細書でいう四角錐凹部2には、正四角錐(平面視における縦横寸法比が同じもの)の凹部2の外、長四角錐(平面視における縦横寸法比が異なるもの)の凹部2も含まれる。正四角錐の凹部2は頂点が1点に集まる通常の四角錐凹部2であり、長四角錐の凹部2は頂点が一定の長さをもつ、いわゆるクサビ形の凹部である。これらの凹部を構成する面は、全て{111}結晶面となる。
この異方性エッチング工程においては、化学的な異方性エッチングを用いることが必須である。単結晶シリコン基板1を対象とした化学エッチングにおいて、正確な形状や寸法(予め予測される形状や寸法)を基板に形成する場合、エッチストップが大きな役割を果たす。{111}結晶面に垂直な方向のエッチ速度が他の方向に比べて最も遅いという現象を利用した異方性エッチングでは、エッチストップとして作用する結晶面を予め特定でき、{111}面だけで構成された形状を得ることができる。このため、予測される形状や寸法を、適当なマスクをシリコン基板1に形成して異方性エッチングすることによって得ることができる。例えば、図3に示すような円形開口5を有するマスクを用いる場合、開口5の直径をdとすると、{100}シリコン基板1に形成される正四角錐凹部2について、平面視における正方形の一辺の長さはdとなり、凹部の深さをhとすると、h=0.707dの関係がある。なお、正四角錐凹部2の頂点は円形開口5の中心に位置する。異方性エッチングのためのマスクパターンを形成する場合、紫外線露光法、X線露光法、電子線露光法などを用いることが可能であり、開口直径dとしては0.1μm以下を得ることも可能である。なお、大きな開口直径dを得たい場合には、その寸法には原理的に制限がない。さらに、これらの露光法で得られるパターンの寸法精度や位置決め精度は0.1μm以下が普通のことである。また、異方性エッチングは厚さ500μm以上のシリコン基板1に貫通孔を設けるのに利用される。普通の化学エッチングでは、エッチ深さが1μm以下が普通のことである。
このように、{100}シリコン基板1に異方性エッチングを適用して正四角錐凹部2や長四角錐凹部2を形成すると、寸法の選択範囲を広くとれ、寸法や形状にばらつきのない四角錐凹部2を形成でき、各四角錐凹部2の位置決めを高精度に行うことができる、という長所がある。この長所は、シリコン基板1の寸法に依存しない。そして、これらのことは、後工程で真円度の高いマイクロレンズ成形用凹部3を形成する前提となっている。
前記した{100}結晶面のシリコン基板1は入手が容易で安価という利点がある点で、最適であるが、{100}ウエハ以外でも本発明の適用は可能である。
例えば、{111}結晶面で構成された四角錐凹部2を想定し、この四角錐凹部2を横切る結晶面を表面としたシリコン基板1を用いると、結晶異方性エッチングにより四角錐凹部2を基板表面に形成できる。ただし、この場合、{100}結晶面を表面とするシリコン基板1に形成した四角錐凹部2の中心軸が表面に垂直になるのに対して、四角錐凹部2の中心軸が表面に対して斜めになる。しかし、このような四角錐凹部2に対しても、イオン加工を施し、その加工量が充分であると、四角錐凹部2の頂点からマイクロレンズ成形用凹部3が成長する。
(イオン加工工程200の概要)
つぎに、イオン加工工程200では、イオンがシャワー状となって試料面を照射し、主に物理的な作用により試料表面を除去するイオン加工法を用いる。マイクロレンズ形状を作製するシリコン基板1の表面の領域にイオンを照射して除去していくと、四角錐凹部2の頂点付近から曲面形成が進行していき、正四角錐凹部2の頂点は球面状凹部、長四角錐凹部2は円筒状凹部の両端に半球面とが組み合わされた円筒面状凹部にそれぞれ変わっていく。なお、本明細書において、球面状凹部と円筒面状凹部を総称する場合はマイクロレンズ成形用凹部3と称している。
上記の加工工程においては、イオン加工速度が試料面へのイオン入射角に依存して変化し、特に、イオン入射角θが0度(試料面に垂直入射)からある角度θmaxの範囲において、図5の(C)に示すように、イオン入射面の変化とともに一定速度で移動する座標系においてイオン入射面の法線方向の加工速度を求めた場合、この加工速度が一定になる状態にてイオン加工面が形成されているとみなすことができる。この結果、図4の(C)に示すように、形状精度および寸法精度の高い球面状や円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部3が形成される。正四角錐凹部2、長四角錐凹部2が全て球面状凹部や円筒面状凹部に変化した時点からさらにイオン加工を続けると、イオン加工量に応じて球面状凹部や円筒面状凹部の曲率半径が増加していく。
<<本発明における製法の詳細説明>>
つぎに、上記製法の詳細を順に説明していく。
(異方性エッチング工程100の詳細)
この異方性エッチング工程100の主な工程を図2に示す。図2に示すように、例えば、{100}シリコン基板1を用い、このシリコン基板1に化学エッチングによる異方性エッチングを適用することによって、四角錐凹部2を形成する。
この異方性エッチング工程は、常法としての、シリコン酸化膜(Si0膜)形成(101)、レジスト塗布(102)、露光(103)、レジスト膜の現像(104)、酸化膜のエッチング(105)、レジスト除去(106)、異方性エッチング(107)の順でおこなう。本発明で用いている異方性エッチング用化学エッチ液であるKOH(水酸化カリウム溶液)に対して、シリコン酸化膜は耐性が高く、マスク材として常用されている。シリコン酸化膜をシリコン酸化膜形成(101)からレジスト除去(106)までの工程は、シリコン酸化膜をマスクとして用い、異方性エッチングを行う箇所だけに、シリコン酸化膜に穴をあけるための工程である。レジスト除去(106)までの工程で得られたシリコン基板1は、異方性のある化学エッチング液内に入れて、異方性エッチング(107)が行われる。
また、前記露光工程(103)で使用するフォトマスク4に形成するパターンの例を図3に示す。開口5に相当する穴が、シリコン酸化膜にあけられる。シリコン酸化膜にあけられた穴の直径をdとすると、{100}シリコン基板1に形成される正四角錐凹部2について、平面視における正方形の一辺の長さがdとなることが知られている。そのときの凹部の深さをhとすると、前述したようにh=0.707dの関係がある。図3では、開口5の中心が一定の正三角形の各頂点に一致するように配置している。また、開口5の直径は同じとしている。このようなフォトマスク4を用い、本発明の製法を適用して、イオン加工の加工量をある程度以上にすると、平面部分がない、蜂の巣状に並んだマイクロレンズ成形用凹部3を製作することができる。開口5の寸法、開口5を形成する位置を任意に設定することにより、任意の寸法、配置のマイクロレンズ用金型やマイクロレンズアレイ用金型を製造することができる。
上記の異方性エッチング工程(107)は、いわゆる結晶異方性エッチングである。シリコン基板1が単結晶からなり、特定の化学エッチング液に対して、結晶方向によってエッチング速度が極端に異なるという現象を利用している。シリコン基板1そのものをエッチングして構造体を作る技術である。
この結晶異方性エッチングでは、結晶面{111}に垂直な方向のエッチング速度が、他の方向に対するエッチング速度に比較して極端に遅いことを利用する。{111}結晶面がエッチストップとして作用し、異方性エッチングによって形成される凹部は全て{111}面で構成されることになる。四角錐凹部2を形成するためには、表面が[100]方向に垂直となるように製造された、いわゆる(100)シリコン基板1を利用する。このシリコン基板1の表面に、エッチングで侵されにくい薄膜を形成し、紫外線露光法、X線露光法、電子線露光法などのリソグラフィ技術とこの薄膜に対するエッチング技術を用いて、この薄膜の指定された位置に指定された寸法の開口部5を形成する。つぎに、開口部5を形成したシリコン基板1を結晶異方性を発現するエッチング液に浸すという工程がとられる。なお、このような異方性エッチング液としては、KOH水溶液(KOH;水酸化カリウム)、EDP水溶液(エチレンジアミン、ピロカテコール、水の混合物)、TMAH水溶液(TMAH;テトラメチル アンモニウム ハイドロオキサイド)などがよく知られている。この結果、結晶異方性エッチング液によって形成された四角錐凹部2の形状は、その垂直方向のエッチング速度が最も遅い結晶面で構成される。
異方性エッチング用マスクの開口5が円形だけで構成されている場合、正四角錐凹部2の頂点の位置は、円形開口5の中心と一致し、四角錐の底辺の長さは円形開口5の直径と一致する。このため、円形開口5の配列方向などとシリコン基板1の結晶方向を正確に合わせる必要はとくにない。一方、異方性エッチング用マスクの開口形状に正方形や長方形が含まれる場合には、正方形や長方形の辺の方向を、シリコン基板1表面の[100]方向(通常はファセットの方向)に合わせる必要がある。これらの方向がずれると、ずれ量に応じて、正四角錐凹部2、長四角錐凹部2の平面寸法がマスクの開口5よりも大きくなる。しかし、マスクパターンの方向とシリコン基板1の結晶方向とを合わせる技術は、充分に発達しており、通常のアライメント技術を用いれば、ずれ量が問題になることはない。
以上のように、初期形状の形成に結晶異方性エッチングを利用すると、{111}結晶面がエッチストップとして有効に働くので、正確な形状・寸法の四角錐凹部2をシリコン基板1の全面にわたって形成することができ、等方性の化学エッチングと比較して深いエッチングが可能なので、大きな寸法の四角錐凹部2を形成できる。この性質を用いたことが、本発明の重要な特徴であり、後述するごとく、曲面形状、寸法、配置などのマイクロレンズやマイクロレンズアレイの製造に要求される高い精度を実現することができる。
(イオン加工工程200の詳細)
このイオン加工工程200は、先に形成された初期形状である四角錐凹部2をマイクロレンズ成形用凹部3(球面状凹部や円筒面状凹部)に加工していく工程である。
本工程は、図4(A)に示すように、初期形状すなわち多数の四角錐凹部2を形成したシリコン基板1に、加速され、ほぼ平行な状態で運動するアルゴンイオンなどのイオンをシャワー状に照射することにより行う。
イオン照射すると、シリコン基板1の表面における平面部分は平面を保ちながら除去加工が進行し、四角錐凹部2の頂点や、四角錐凹部2を構成する平面間の交線のなかで基板深さ方向に凸の交線部分からは、湾曲面が広がっていく。イオン入射角が0である基板面のイオン加工速度は同じであるので、初期形状、すなわち四角錐凹部2の深さを保ったままで、イオン照射による除去加工は進行する。四角錐凹部2の頂点から形成されていく球面状凹部や円筒面状凹部が拡大していくとともに、四角錐凹部2の平面部分はなくなっていき、やがて、四角錐凹部2が球面状凹部や円筒面状凹部に変化する。
上記加工法を本発明に適用できる条件としては、ほぼ平行な状態で運動するイオンをシャワー状に照射し、イオンの物理的な除去作用を主体としたイオン加工を用いることである。
(イオン加工の原理)
上記のイオン加工では、加工対象と化学反応を起こさない不活性ガスをイオン化ガスとして用い、基板表面にイオンを照射して除去加工する。これはイオン照射効果の中の一つを使った物理的加工である。
数十eV以上の運動エネルギーを持って照射されたイオンは、基板表面の原子に衝突し、運動エネルギーを表面原子に与える。このとき、表面原子が基板原子との結合を断ち切るだけのエネルギーを獲得すると、基板表面から飛ばされていく。1個の照射イオンによって表面からはじき出される原子の数をスパッタ収量という。スパッタ収量はイオン入射角θに依存して変化する。スパッタ数量をY(θ)とすると、多くの材料のY(θ)は図5(A)に示すような曲線で表される。イオン入射角θを0から大きくしていくと、照射イオンが直接衝突した表面原子だけでなく、その原子から周りの原子にも運動エネルギーがつたわるようになり、Y(θ)は増大していく。θ=90°の場合、照射イオンの運動方向は基板表面に平行となり、イオンの運動エネルギーはほとんど表面原子につたわらない。このため、θ=90°ではY(θ)=0となる。このことからもわかるように、θが大きすぎてもイオンの運動エネルギーを表面原子に伝達する効率は低下する。このようなことから、Y(θ)が最大となるθの値が存在する。Y(θ)は、材料、イオン種、イオンの運動エネルギーなどによって変化する。スパッタ収量Y(θ)を反映したものが、イオン加工速度Vのイオン入射角θへの依存性V(θ)であり、θ=0における値をそれぞれY(0)=1、V(0)=1に規格化して、Y(θ)とV(θ)とを同一のスケールで表すと、両者は一致する。本発明では、V(θ)がθに依存して変化していることを利用して、初期形状から球面状凹部や円筒面状凹部を形成する。
(イオン加工装置について)
上記のイオン加工には、イオン化した不活性ガス(He,Ne,Ar,Kr,Xe)を加速して、試料面を照射する機能をもち、物理的な作用を主体として除去加工を行うことができる装置でなければならず、それには、大別して下記の3種類がある。なお、本発明では、主として物理的な作用でシリコンを除去加工できればよく、N(窒素)、CO(炭酸ガス)、空気などのガスによるイオンも、加速電圧を大きくすれば、化学的作用よりも物理的作用による除去加工が大きくなるため、これらのガスを用いてもよい。
1)イオンビーム(イオンシャワー、イオンミリング)装置
ガス導入口を有し、そこから導入されたガスをイオン化する機能と、加速電圧を印加してイオンを加速する機能をもち、ほぼ平行なイオンビーム(イオンシャワーともいう)を発生するイオン源、試料を保持する機構を有し、イオンビームを試料に照射する加工室、イオン源、加工室など真空にする真空排気系を主な構成要素とした装置である。
2)平行平板形エッチング装置
高周波、あるいは直流電圧を印加するための平行平板、この平行平板の一方の電極面付近に設置した試料保持機構が、同じ真空容器内にある。真空容器内に導入したガスを、高周波、あるいは直流電圧を平行平板に印加してイオン化する。ガスがイオン化すると、自己バイアスと呼ばれる電位差が試料保持機構のある電極位置付近に発生し、この電位差によってイオンが加速され試料面を照射する。これには、高周波放電を利用した装置(RFスパッタ装置、RFは13.56MHzの高周波のこと)や直流を利用した装置(直流(DC)スパッタ装置)がある。
3)マイクロ波プラズマエッチング装置
マグネトロンから発振される2.45GHzのマイクロ波でガスをイオン化する。高周波を試料保持具に印加して、試料に照射されるイオンの加速電圧を制御する。
(球面や円筒面加工ができる理由)
不活性ガスをイオン化し、加速したイオンを用いた物理的な除去加工であるイオン加工において、イオンを照射された試料のイオン加工速度Vは、試料表面へのイオン入射角θに依存して変化する。加工速度Vは、θの関数となり、V=V(θ)と表される。ここで、イオン加工速度Vは、試料表面の基準面からイオン進行方向に沿って測る。また、θ=0は、イオンの試料表面への垂直入射を示す。したがって、試料表面に平坦でない初期形状を形成しておくと、イオン加工が進むにつれて、初期形状がV(θ)に依存して変化する。この現象を利用して、球面状凹部や円筒面状凹部を形成する。
ここで、V(θ)が
V(θ)=(A+B/cosθ)V (A,B,V:定数,A+B=1)
と表される場合、初期形状として試料表面に四角錐凹部2を形成しておくと、その四角錐凹部2は、イオン加工の進行とともに、完全な球面状や円筒面状で構成された凹部へと変化していく。イオン入射角θが0≦θ≦θmaxの範囲において上式が成立することは、V(θ)に関する実験結果(図5の(B)参照)から示すことができる。ここで、θmaxは、その実験結果から求めることができる。
初期形状の最も深いところには、入射角θ=0とみなすことができる点がある。一般には、試料表面(試料基準面)がθ=0になるように、イオン加工装置に試料をセットするので、初期形状の最深部でθ=0となる箇所と、試料表面とのイオン加工速度は同じになる。イオン加工は、初期形状の深さを一定に保ちながら進行し、初期形状は試料表面と同一の方向に広がっていく。したがって、マイクロレンズの厚さは、初期形状の深さ以上にはできない。初期形状の最も深いところに、一旦、球面状凹部や円筒面状凹部が形成されると、その後、イオン加工の進行にともなって、球面状凹部や円筒面状凹部が、風船を膨らますような形で広がっていく。
(加工時間と加工量、加工形状および曲率半径の相関関係)
試料には、表面が(100)面で、表面を鏡面研磨した(100)シリコンウエハ((100) Si)を用い、底面の一辺が底面の一辺が40μmの正四角錐凹部2を結晶異方性エッチングより初期形状として形成した。イオン加工装置には、カウフマン形イオン源を備えたイオンビーム装置を用いた。イオン化ガスにはアルゴン(Ar)を用いた。Arイオン照射条件は、加速電圧;2kV、イオン電流密度;13mA/cmとし、このときイオン照射室内圧力は5×10−3Paであった。
適当な大きさのSiウエハで(100)Siウエハの一部分をマスクしてイオン照射し、(100)Siウエハ表面にイオン照射部と未照射部を形成した。イオン照射時間2時間毎に試料をイオン照射室から取り出し、イオン照射部と未照射部の段差を表面粗さ計で測定して、イオン加工量(加工深さ)を求めた。同時に、初期形状が加工時間とともに変化する様子を、表面粗さ計により断面形状の測定、光学顕微鏡による形状観察から求めた。表面粗さ計の触針には、曲率半径5μmのものを用いた。
イオン加工の特性を図6に基づき説明する。(A)図は加工時間と加工量の関係を示す。加工量が加工時間に比例して増加しており、加工速度は5μm/hである。後述するように、形成される球面状凹部や円筒面状凹部の曲率半径は加工量によって制御することができる。しかし、イオン加工の進行中にイオン加工量を正確に測定することは一般に困難とされている。一方、加工時間の測定は容易であり、正確な値を得ることができる。(A)図に示す加工量と加工時間の比例関係は、加工時間によって加工量を正確に制御できることを示している。
(B)図は、初期形状の形状変化に関して加工量と曲率半径の関係を示す。正四角錐凹部2の底部からは球面状凹部が形成されるので、球面状の部分における曲率半径を求めた。いったん球面状凹部が形成されると、(B)図からわかるように、その曲率半径は加工量に比例して増加している。このことは、曲率半径が加工量によって正確に制御可能なことを示している。
図7の(A)〜(E)は加工時間と形成されるマイクロレンズ成形用凹部3の形状を示している。図7の(A)〜(E)において、表面粗さ計で計測した断面プロフィールにフィッテングさせている曲線は、円を表している。初期形状の底部から形成し始めたマイクロレンズ成形用凹部3の部分に最も一致するように円の曲率半径を決定し、その円の描く曲線を表面粗さ計によるプロフィールに重ねて示している。図7の(A)〜(D)では、四角錐凹部2の平面部分が完全に球面状に変化していない状態であり、シリコン基板1表面に近くなると、円曲線が表面粗さ計によるプロフィールから離れているのがわかる。図7(E)は、四角錐凹部2の平面部分が完全になくなり、初期形状がマイクロレンズ成形用凹部3へと変化した場合を示す。円曲線と表面粗さ計によるプロフィールとが、基板表面まで一致している。イオン加工前の初期形状とイオン加工時間10時間のイオン加工時間が経過した図7(E)の状態とを平面視した結果を、図8に示す。図8(A)は初期形状であり、四角錐凹部2の底面が正方形で、寸法も一様である。この場合、四角錐凹部2を、その中心が寸法一定の正三角形の頂点に一致するように配置している。図8(B)は、(A)の各四角錐凹部2からマイクロレンズ成形用凹部3を形成した状態である。平面視すると、(A)の正方形から円形に変化している。各マイクロレンズ成形用凹部3の基板表面の直径は185μmである。各円形において、中央部に干渉縞ができ、その周辺は黒くなっている。この黒い部分は、光学顕微鏡の対物レンズのNA(開口数)が小さく、マイクロレンズ成形用凹部3の傾斜が大きい領域からの反射光が対物レンズに取り込まれないことによる。
イオン加工が10時間経過した後の図8(B)のような状態の場合、隣り合うマイクロレンズ成形用凹部3とマイクロレンズ成形用凹部3の間にはシリコン基板1表面が平面の状態で残っている。この段階でイオン加工を終了し、金型を製作することもできる。基板表面に平面部分を残す状態は、特に、マイクロレンズ間の距離を大きくとる場合、多数のマイクロレンズを同時に作製し、その後単体あるいは複数個のマイクロレンズに分離する場合などに有効である。
さらにイオン加工を進め、例えば19時間加工すると、図13に示すように、隣り合う全てのマイクロレンズ成形用凹部3が接触し、基板表面の平面部分は全くなくなり、全て、イオン加工によって新たに形成された面となる。粗さ計で測定した断面プロフィールからわかるように、隣り合う2つのマイクロレンズ成形用凹部3を表す曲線の接続点は特異点であり、各曲線がそれぞれの形を保ちながら、接続している。このように平面部分が全くなく、球面状凹部や円筒面状凹部だけで構成された領域をシリコン基板1に形成することができる。この場合、平面部分が無いことが好ましいマイクロレンズアレイを製造するのに適している。
図9〜図12について説明する。図9は、初期形状である正四角錐凹部2の平面視と表面粗さ計による断面プロフィールを示す。正四角錐凹部2の底辺は一辺が40μmであり、正四角錐の頂点の深さは28μmである。ただし、粗さ計の触針の曲率半径や触針自体の大きさのため、正四角錐凹部2の最深部付近は、触針の先端が達しないなめ、正確な断面形状が測定できていない。図10は、2時間のイオン加工後である。平面視において、正四角錐凹部2を構成している平面部分が残っているが、正四角錐凹部2の頂点からは球面状凹部が、正四角錐凹部2の側面を構成する面の稜線からは円筒面状凹部が形成されつつあるのがわかる。4時間イオン加工後の図11の平面視では、図10の球面状凹部、円筒面状凹部がさらに成長し、正四角錐凹部2側面の平面部が減少している。このとき、球面状凹部の領域が拡大している。さらに、イオン加工を進めると、図12に示す10時間後には、正四角錐凹部2の平面部はなくなり、球面状凹部が形成される。なお、粗さ計の機能に触針の進路を正確に設定する機能がないため、図10〜図12に示す断面プロフィールは、平面視における中心部を通って測定されていない場合もある。
(形成可能な金型の形状)
本発明によると、つぎのような形状のマイクロレンズ用金型を製造することができる。マイクロレンズアレイを構成する各マイクロレンズの平面形状、平面寸法は、初期形状である四角錐凹部2の配置および深さから決まってくる。
図14の(A)図はシリコン基板1上に円形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成し、各マイクロレンズ成形用凹部3は互いに離れて各マイクロレンズ成形用凹部3の間に平面部分を残したものである。この個々のマイクロレンズ成形用凹部3は、1個1個のマイクロレンズを作る金型となる。
同(B)図は数段のマイクロレンズ成形用凹部3のうち、上段側は円形のマイクロレンズ成形用凹部3がそれぞれ独立しているが、下段側に向うほど各マイクロレンズ成形用凹部3の直径が大きくなり、最下段のマイクロレンズ成形用凹部3は互いに接している。マイクロレンズ成形用凹部3の直径を大きくするには、初期形状である四角錐凹部2の深さが深くなるようにすればよい。図では、下段側になるほど四角錐凹部2が深くなるように初期形状を形成している。
図15の(A)図は複数個のマイクロレンズ成形用凹部3が縦横に整列したもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は正方形である。正方形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成するためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図も複数個のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に整列させたもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は長方形である。長方形にするためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な長方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(C)図は正角形のマイクロレンズ成形用凹部3と長方形のマイクロレンズ成形用凹部3とを混在させたものである。このような形で混在させるには、シリコン基板1に予め正四角錐凹部2と長四角錐凹部2を組合せて形成しておけばよい。
図16の(A)図は正六角形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成したものである。正六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正三角形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図は長六角形のマイクロレンズ成形用凹部を形成したものである。長六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な菱形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
なお、図17は長方形のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に形成し、平面部を無くしたマイクロレンズアレイの写真である。一つのマイクロレンズの寸法は、長辺が15μm、短辺が10μmである。
(本発明の製法の利点)
上記に説明した本発明の製法の利点をまとめると、以下のとおりである。
A)マイクロレンズ成形用凹部3の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部2の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による球面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)金型となる球面の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接する球状凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な平面部分を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的おおきいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
<<理論的根拠の説明>>
本発明のイオン加工工程に関し、下記[1]〜[4]についての理論的根拠は、段落0020〜0024に記載の[1]〜[4]欄の通りであるので、参照されたい。
[1]物理的なイオン加工によって球面や、円筒面が形成されることの理論的根拠
[2]イオン加工速度Vのイオン入射角θ依存性
[3]四角錐凹部2から球面状凹部に加工できる根拠
[4]楔状凹部から円筒面状凹部に加工できる根拠
[1]物理的なイオン加工によって球面や円筒面が形成されることの理論的根拠
不活性ガスからなるイオンを基板に照射し、物理的に除去加工する場合を考える。イオンはビーム状で、各イオンは一定の方向に平行に進むものとする。基板が除去される速度Vは、基板表面へのイオン入射角θ(図4の(B)参照)に依存して変化する。イオン照射条件が一定とすると、イオン照射方向の加工速度は、
数式1
となる。
図4の(A)に示すように、基板表面に平行にxy平面、垂直にz軸をとる。イオンは−z方向に進行するものとする。時間tにおける基板表面形状を、
数式2
と表す。基板表面のz方向の加工速度は、zをtで偏微分したものであるので、数式1,2より、座標系の正負を考慮して、
数式3
となる。θは、基板表面(xy平面)における法線とz軸とのなす角であり、
数式4
の関係式で与えられる。
ここで、V(θ)が、A+B=1の関係を有する定数A,B、およびV=V(0)を用いて、
数式5
と表されると仮定する。数式5を数式3に代入して移項し、
数式6
を得る。ここで、上式をAV項のない形に変形するため、f(x,y,t)を、
数式7
とおく。tを固定した場合、右辺第2項のAVtは定数となるので、g(x,y,t)とf(x,y,t)の差は一定となる。すなわち、z=g(x,y,t)はz=f(x,y,t)をz方向に平行移動した曲面を表している。数式7を数式6に代入し、
数式8
を得る。z=g(x,y,t)上の点(x,y)における法線方向の加工速度をVgnとすると、Vgnは幾何学的な関係から、
数式9
となる。数式8より∂g/∂tを求め、数式9に代入して、
数式10
の関係を得る。B,Vは定数であるので、この式は、Vgnが一定であることを示している。
つぎに、z=g(x,y,t)が表す曲面の性質を求めるため、z=g(x,y,t)を、tについて解き、その解を、
数式11
と表す。G(x,y,z)=tは時間t=tにおけるz=g(x,y,t)の形状を表す。Zがx,y,tの関数であることに着目して、数式11の両辺をx,y,tでそれぞれ偏微分する。その結果、
数式12
の関係式を得る。g=zであるので、数式8においてgをzに置き換え、1/cosθ=1+tanθの関係を利用して変形すると、
数式13
の関係が得られる。数式13に数式4を代入し、さらに、数式12の関係式を代入して整理すると、
数式14
が得られる。数式14は、光学においてアイコナール方程式と呼ばれている。光学では、アイコナール方程式は波面を表す。G(x,y,z)が半球面や半円柱面または平面の場合、G(x,y,z)はそれぞれ、
数式15
数式16
数式17
と表される。数式15〜17における各定数を適当に定めることによって、各式が数式14を満たすようにできる。数式14を満足する曲面は、光波面の進行状態や広がり方からもわかるように、数式15〜17で表される曲面以外には存在しない。
以上のことは、V(θ)が数式5で表される場合、イオン加工量が充分に大きくなると、基板表面の初期形状にかかわらず、いずれ基板表面が球面、円柱面、平面だけで構成された形状になることを示している。
[2]イオン加工速度Vのイオン入射角θ依存性
単結晶シリコンのイオン加工速度について、イオン入射角依存性V(θ)を測定した。シリコン(Si)には、表面が(100)面で、表面を鏡面研磨した(100)シリコンウエハ((100)Si)を用いた。イオン加工装置には、カウフマン形イオン源を備えたイオンシャワー装置を用いた。イオン化ガスにはアルゴン(Ar)を用いた。Arイオン照射条件は、加速電圧;2kV、イオン電流密度;13mA/cmとし、このときイオン照射室内圧力は5×10−3Paであった。適当な大きさのSiウエハで(100)Siウエハの一部分をマスクしてイオン照射し、(100)Siウエハ表面にイオン照射部と未照射部を形成した。イオン照射部と未照射部の段差を表面粗さ計で測定して、イオン加工量(加工深さ)を求めた。加工量をイオン照射時間で割り、加工速度を求めた。イオン照射方向に対する(100)Siウエハ表面の傾き角を変えながら、このような加工速度の測定を繰り返した。一つの傾き角に対して、2時間イオンを照射した。入射角0°において、加工速度は、約6μm/hであった。実験結果を図5(B)に示す。θ=0°,10°,20°の3点のデータから、最小二乗法を用いて数式5の係数を求めたところ、
数式18
となった。この値を数式5に代入して求めたV(θ)をV(θ)とし、V(θ)を実験値と重ねて図5(B)に示している。θ=40°を越えるあたりまで、V(θ)と実験値はほぼ一致している。数式9のVgnは直接測定できない。数式7を用いて数式9のgをfで表し、さらに、数式3の関係を用いて、
数式19
を得る。上式において、AVに数式18の値を代入し、V(θ)に各θに対する実験値を代入すると、実験値に基づくθとVgnの関係を求めることができる。このようにして求めたθとVgnの関係を図5(C)に示す。この図には、数式10に数式18の値を代入して求めたVgn(θに依存しない一定の値)の絶対値BVも示している。θが0°からある値まで、数式19から求めたVgnはBVと一致し、一定である。このある値をθmaxとすると、θmaxは40°を越えるあたりとなる。θがθmaxより大きくなると、数式19によるVgnはBVよりも小さくなり、θとともに低下する。
以上から、イオン入射角θが0°からθmax(40°を越えるあたり)までは、実験から測定したV(θ)が数式5の形で表現できる。したがって、表面に凹凸のあるシリコン基板1をイオン加工した場合、イオン加工による除去加工が充分に進み、イオン入射方向を基準とした表面の凹凸の最大傾斜角がθmaxになると、そのときに形成されている表面形状が、数式14を満たす球面、円筒面、平面だけで構成されている。この状態を予測し、適切な初期形状をシリコン基板1表面に形成してイオン加工すると、シリコン基板1表面には、最大傾斜角がθmax以下になった状況において、球面、円筒面、平面から構成される形状を形成できる。
なお、40°を越えるあたりとするθmaxは、この場合、図5(B),(C)に示した実験結果から求めた値であり、実験誤差なども当然含まれるので、球面状凹部や円筒面状凹部の形成が可能なθmaxは、球面状凹部や円筒面状凹部の形成実験から求める必要がある。そこで、図7(A)〜(E)の実験結果から、球面状凹部における最大傾斜角(最大イオン入射角)を求めた。球面状凹部が初期段階の図7(A)から四角錐凹部2全体が球面状凹部に変化した図7(E)まで、最大傾斜角は約28°であった。すなわち、球面状凹部は最大傾斜角が一定で曲率半径が大きくなっている。このことから、Vgnが一定となる最大イオン入射角θmaxは、図5(B),(C)からの推定値ではなく、
数式20
と評価される。イオン入射角0°〜θmax(約28°)の範囲において、Vgnは一定となり、図5(C)のθによるVgnの変化から、θmax(約28°)以上になると、Vgnは減少していく。
なお、上記実験の加工速度は約6μm/hであるが、図6〜図13に示した実験の加工速度は約5μm/hであり、多少違っているが、これは個々のシリコン基板1の抵抗率の違いによるものと推測される。
[3]四角錐凹部2から球面状凹部に加工できる根拠
四角錐状凹部は、結晶異方性エッチングの特性から、4つの(111)面で構成されており、その頂点は4つの四角錐側面が1点に集まっている。四角錐状凹部側面の(111)面が表面の(100)面となす角は54.7°である。四角錐状凹部側面の隣り合う(111)面の稜線が表面の(100)面となす角は45°である。
本発明に用いるイオン加工装置は、加速されたイオンビームがほぼ平行状態で進み、試料表面を照射する。試料表面を形成している形状のなかで、表面および四角錐凹部2側面の平面ではθが一定のため、平面領域は狭まるが、その平明領域は平面のままで加工されていく。しかし、イオン加工前において、四角錐凹部2の頂点は、数学的には曲率半径0の球面と考えてよい。イオン加工が始まり、四角錐状凹部側面の隣り合う(111)面の間に円柱面状の曲面が形成された場合において、四角錐凹部2の頂点では、−45°<θ<45°となる。数式20より、θがθmax(約28°)より大きくなるとVgnが減少する。このため、数式7のようにz=g(x,y,t)に変換した表面形状において、θが約28°よりも大きくなる領域は、法線方向の加工速度が遅くなり、やがて、法線方向の加工速度が速い、θが約28°以下の形状に置き換えられる。四角錐凹部2頂点から形成される球面状凹部はθが約28°以下であり、イオン加工が進行するとともに、初期形状は球面状凹部に置き換えられる。
[4]楔状凹部から円筒面状凹部に加工できる根拠
楔状凹部は、4つの(111)面で構成され、このなかの相対する2つの(111)面が楔状になっている。楔状の領域では−54.7°<θ<54.7°である。平面領域は平面を保ちながらイオン加工が進む。楔の稜線にあたる部分は、数学的には曲率半径0の円柱面であり、ここから円筒面状凹部が成長していく。この場合、球面状凹部形成と同様に、円筒面状凹部における最大傾斜角(最大イオン入射角)は約28°となり、数式7のようにz=g(x,y,t)に変換した表面形状において、θが約28°よりも大きくなる領域は、法線方向の加工速度が遅くなり、やがて、法線方向の加工速度が速い、θが約28°以下の形状に置き換えられる。この結果、イオン加工によって、楔状凹部は、円筒面状凹部に置き換わる。なお、楔状凹部の両端部分は、半球面となる。
《本発明における金型の特徴》
(金型)
本発明のマイクロレンズ成形用凹部3を形成したシリコン基板1は、そのまま金型として、あるいは、保護膜を付着して金型として、あるいは成形する材料との分離性を高める分離膜を付着して金型として使用される。あるいは、このシリコン基板1に形成したマイクロレンズ成形用凹部3を母型として、別の材料で金型を作るために使用することができる。なお、特許請求の範囲でいう「金型」とは、直接金型として使用する外、別の金型を作る際の母型として使用する場合も含む概念である。
《本発明の金型によるマイクロレンズの製法》
本発明で得られたマイクロレンズ用金型を以下、金型Mという。この金型Mには、前記図14〜図16に示すような種々の形状のマイクロレンズ成形用凹部3が形成されており、各マイクロレンズ成形用凹部3は直接、金型として使用する他、母型としても使用される。以下に、金型Mを用いてマイクロレンズアレイを製造する方法を説明する。
(金型Mの金型としての利用)
金型Mを金型として使用する方法としては、つぎの三つが代表的である。
(1−1)光硬化樹脂への形状転写(図18参照)
光硬化樹脂は、波長 300 〜 400 nm の紫外線を照射すると硬化する性質を有する。
1.基板11に光硬化樹脂12を塗布したものを用意する。基板11には、石英ガラス、サファイアのように紫外線を透過する材質で製造されたものを用いる。金型M表面には、シランカップリング剤などの剥離剤を塗布する。
2.金型Mの金型面を光硬化樹脂12表面に当て、金型M・基板11間に圧力をかける。その結果、光硬化樹脂12は金型の形状を有した状態で保持される。
3.前記2の状態にて、基板11の裏面から紫外線13を照射する。
4.光硬化樹脂12が硬化した後、金型Mを離す。その結果、マイクロレンズアレイLaを形成した基板を製作できる。
(1−2)光学ガラスへの形状転写(図19参照)
光学ガラスとして、400℃ 〜 600℃前後の温度でプレス成形することを目的に開発されているモールド成形用ガラスを用いる。普及型の写真機用レンズの製造に、この技術が利用されている。シリコンの融点は1400℃と高く、800℃以下にて機械的に安定な材料であるので、本発明による金型Mからガラス製マイクロレンズアレイLaを製造できる。
上型21として平面を形成した従来の金型、下型として金型Mを用いる場合について、説明する。
1.下型(金型M)を鏡筒22に組み込む。
2.下型(金型M)上にガラス材23をセットする。
3.上型21、下型(金型M)、鏡筒22などを加熱するとともに、上型21を下型(金型M)に押し付けるようにプレスする。
4.冷却後、ガラス材23と一体となった金型Mを取り出す。
5.形状転写されたガラス材23を金型Mから分離し、マイクロレンズアレイLaを得る。
前記5では、ガラス材の離型性を向上させるため、Pt-Ir皮膜、DLC(ダイアモンド状炭素)皮膜を用いることができる。また、KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、マイクロレンズアレイLaだけを分離することもできる。なお、金型Mのコストは低く、このようにしても、コスト的には問題ない。
上型21には平面を有するものを用いたが、この部分に金型Mをセットすることで、両面に凸形状のマイクロレンズを形成したマイクロレンズアレイLaを得ることもできる。
(1−3)熱硬化樹脂への形状転写(図20参照)
熱硬化樹脂は、加熱すると液体に近い状態になり、さらに加熱すると硬化する性質をもつ。このことを利用して金型による熱硬化樹脂への形状転写が行われる。金型をマイクロレンズアレイを形成した2つの金型Mで構成した場合について説明する。
1.金型M,Mのなかに適量の熱硬化樹脂31をいれる。
2.成形部まわりの金型M,Mを加熱するとともに、熱硬化樹脂31を押しつぶすように金型M,Mを加圧する。その状態を保ちながら、さらに加熱して樹脂31を硬化させる。
3.加熱を中止した後、金型M,Mが適当な温度になったところで、成形された樹脂31を離型すると、熱硬化樹脂31で作製したマイクロレンズアレイLaが得られる。マイクロレンズアレイLaは両面に形成されている。
(金型Mを母型としての利用)
金型Mを母型として利用するには、つぎの二つが代表的である。
(2−1)凹レンズ形マイクロレンズアレイを製造するための母型の作製(図21参照)
1.電鋳槽41にスルファミン酸ニッケルなどを成分にもつメッキ液42を入れ、金型Mを−電極として、マイクロレンズアレイ形状を形成した金型M表面にニッケルを、数百μm〜数mmの厚さで析出させる。
2.電鋳終了後、ニッケル層43の裏面を平面に研磨する。
3.KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、ニッケルからなる母型Maを得る。
電鋳によってニッケル製の母型Maを製作する技術は、高分子材料や高分子フィルムに形状転写するための金型を製造する方法として一般に用いられている。
(2−2)凸レンズ形マイクロレンズアレイを製造するための母型の作製(図22参照)
前記(1−1)にて説明した方法にて得られたマイクロレンズアレイを用いる。
1.金型Mにより作製したマイクロレンズアレイを用意する。
2.マイクロレンズアレイ表面、基板側面などに導電膜51をつける。例えば、導電膜には数10 nm厚さのニッケルを利用する。
3.電鋳槽52にスルファミン酸ニッケルなどを成分にもつメッキ液42を入れ、金型Mを−電極として、マイクロレンズアレイ形状を形成した金型M表面にニッケルを、数百μm〜数mmの厚さで析出させる。
4.電鋳終了後、ニッケル層の53裏面を平面に研磨する。
5.ニッケル層53ともとのマイクロレンズアレイとを分離する。その方法の一つとして、KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、さらに、樹脂を溶解する溶液にて光硬化樹脂を溶かし去ることもできる。
6.ニッケルからなる母型Maをえる。
前記(2−1)、(2−2)により作製したニッケル製母型Maは、プラスチックス・フィルムに形状を転写する熱プレス用金型、溶融したプラスチックス材料を高速度・高圧で充填し形状を転写する射出成形用金型、熱硬化樹脂を液状に近い状態で金型内に入れ、さらに加熱して樹脂を硬化させる熱硬化樹脂成形用金型などに利用できる。
(金型の利点)
本発明の製法で得られたマイクロレンズ用金型(母型)の利点は、以下のとおりである。
a)真球度が高い
マイクロレンズ成形用凹部3の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを再現性よく製造できる。
従来の屈折形マイクロレンズの製造方法では、球面に近い屈折形マイクロレンズを再現性よく製造することが困難であったため、焦点距離、開口数、収差などの光学特性として設計値に近いマイクロレンズが要求される場合には、回折形マイクロレンズ(フレネル形マイクロレンズ)が利用されている。しかし、回折形マイクロレンズ(フレネル・レンズ)は光の集光効率、色収差などの観点から、屈折形レンズよりも光学性能が劣っている。本発明の金型によれば、光学性能の高い屈折形のマイクロレンズを上記のように製造できる。
b)金型としての形状、寸法を自在に制御できる
マイクロレンズ成形用凹部の曲率半径、寸法、形状は、イオン加工による基板表面の除去量によって高精度に形成されているので、そのマイクロレンズ成形用凹部を直接金型あるいは母型とすることにより、設計値どおりのマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製作することができる。
c)平面部分のない金型が可能
平面部分の無い金型を用いることによって、不要な平面部分のないマイクロレンズアレイを製造できる。立体視用のマイクロレンズアレイ、光通信における光スイッチ用のマイクロレンズアレイなど、平面部分の存在が不要であったり、迷光の発生原因になり、平面部分の存在が好ましくない光学機器があるが、このような光学機器に本発明の金型で製作した平面部分のないレンズアイを利用すれば、光学機器の性能を向上できる。
d)寸法上の制約がない
金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、その深さが0.1μm程度から数100μmのものまでされているので、マイクロレンズやマイクロレンズアレイ超微細なものから比較的大きいものまで、種々の寸法のマイクロレンズアレイの作製が可能である。
e)大面積が可能
シリコン基板1は、半導体集積回路の製造に用いられ、直径300mmの基板も製造されている。また、この大口径シリコン基板1を対象としたプロセス装置が開発されている。本発明に適用可能なイオン加工装置としては、口径380mmのイオン源を備えた装置が市販されている。これらを組み合わせて用いれば、大面積にマイクロレンズやマイクロレンズアレイを形成できる。
f)製造コストが低い
金型や母型材料としてのシリコン基板1は半導体集積回路製造用に大量に生産されているので、安価であるのでシリコン基板1をそのまま金型としても、寿命が問題にならないほど、製造コストは低い。
(真球度が高いことによる金型としての利点の詳細)
本発明では金型の素材としてシリコン基材を用いるが、そのシリコンの材料特性を下表に示す。
硬度はステンレス・スチール以上、融点はステンレス・スチールと同程度である。また、800℃以下では、塑性変形あるいはクリープを示さなく、高温度にも耐える材料である。
上記のシリコン基板1に本発明の製法で加工した後、表面粗さ計による形状の測定結果と、微分干渉型光学顕微鏡による観測結果から判断すると、イオン加工面は滑らかであった。よって、その断面形状に一致する円を描くことができる。
さらに、本発明における製造法では、球面のときには一点から、円筒面のときには線から、それぞれの形状が出来上がっていく。このことと、イオン加工における球面、円筒面形成過程の理論的な解析結果から、実際にえられる金型形状は理論的な球面、円筒面と考えてよい。以上から、本発明における製造法でシリコン表面に金型として形成される球面あるいは円筒面は、球面の場合には任意の面、円筒面の場合には中心軸に垂直な面で断面をみた場合、λ/5(λ;光の波長、055μm前後)の精度で一致する円となるものである。これが真球度の高い理由である。
以上のごとく、本発明の金型は真球精度が極めて高いことから、この金型で作成されるマイクロレンズは、普通のレンズと同程度な高精度で球面、円筒面が形成されることになる。また、曲率半径、口径などの制御性が高いため、光学設計にあわせたマイクロレンズを製造できる。例えば、マイクロレンズについて、レンズ材質の屈折率、焦点距離、口径などの条件が与えられると、屈折率と焦点距離から曲率半径が定まる。この曲率半径と口径から、球面または円筒面の厚みが求まり、これに等しい深さを有する初期形状をシリコン基板1に形成できる。その後、イオン加工量を制御して曲率半径が所定の値になるようにイオン加工すればよい。
写真機、望遠鏡、光学顕微鏡、紫外線縮小投影露光装置などに用いられるレンズ作用のある光学装置は、ほとんどの場合、球面を有する屈折形レンズで設計し製造されている。とくに、低収差が要求される光学顕微鏡、紫外線縮小投影露光装置では球面からなるレンズしか用いられていない。このような普通の光学系に用いられている屈折形レンズと同程度な球面を有する屈折形マイクロレンズは、光通信装置、画像関連装置、再帰反射装置などにおいて、大幅な性能向上に役立つ。
本発明に係るマイクロレンズ用金型の製法を示す概略工程図である。 エッチング工程100の工程図である。 エッチング加工工程で用いるフォトマスクのマスクパターンを示す説明図である。 イオン加工工程200の説明図である。 (A)図はスパッタ収量Y(θ)とイオン入射角θの関係を示したグラフ、(B)図は入射角θと加工速度の関係を数式5と比較したグラフ(C)図はZ=g(x,y,z)の法線方向加工速度(Vgn)とイオン入射角(度)の関係を示したグラフである。 (A)図は加工量と真円度の関係を示すグラフ、(B)図は加工量と曲率半径の関係を示すグラフである。 イオン照射時間と加工形状の推移を示すグラフである。 (A)図はシリコン基板1に形成された四角錐凹部2との初期形状を示す平面図、(B)図は10時間イオン照射後のマイクロレンズ成形用凹部3を示す平面図である。 シリコン基材に四角錐凹部2が形成されたイオン加工直前の初期状態を示す説明図で、(A)図は1個の四角錐凹部を示す平面図、(B)図は1個の四角錐凹部の断面図である。 イオン加工後2時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。 イオン加工後4時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。 イオン加工後10時間経過時を示す、(I)図は多数の凹部を示す平面図、(A)図は1個のマイクロレンズ成形用凹部の平面図、(B)図は1個のマイクロレンズ成形用凹部の断面図である。 イオン加工後19時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。 金型Mの金型形状の第1例と第2例を示す平面図である。 金型Mの金型形状の第3例、第4例、第5例を示す平面図である。 金型Mの金型形状の第6例と第7例を示す平面図である。 マイクロレンズアレイの一例の写真である。 本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。 本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。 本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。 本発明の金型Mを用いた母型Maの製法の説明図である。 本発明の金型Mを用いた母型Maの製法の説明図である。 (A)図は従来の製法であるリフロー法の説明図、(B)図はリフロー法で得られたマイクロレンズアレイ斜視図である。
符号の説明
1 シリコン基板
2 四角錐凹部
3 マイクロレンズ成形用凹部
4 フォトマスク
5 開口
M 金型
Ma 母型
【0001】
技術分野
本発明は、マイクロレンズ用金型、マイクロレンズおよびそれらの製法に関する。マイクロレンズは、大きさ(直径)が数mm以下の小さいレンズをいい、これらのマイクロレンズは多数個を整然と並べたマイクロレンズアレイの形で使用したり、マイクロレンズ単体で使用される(非特許文献1)。本発明は、このようなマイクロレズを製造する場合に必要な金型、マイクロレンズおよびそれらの製法に関する。
なお、本明細書においては、マイクロレンズとはマイクロレンズアレイとマイクロレンズ単体の両方を含む意味であり、とくに必要がある場合のみマイクロレンズアレイまたはマイクロレンズ単体の用語を用いている。
背景技術
写真機、光学顕微鏡などに用いるレンズは、光学材料を研磨したり、金型を作製して成形加工したりして製造されている。しかし、寸法の小さいマイクロレンズの製造には、これらの通常のレンズの製造方法が適用できない。
そこで、マイクロレンズには、つぎのような製法が用いられる。なお、マイクロレンズは屈折型と回折型に二分されるので、それぞれ分けて説明する。
回折型マイクロレンズには、主として、半導体集積回路などの製造に用いられている技術を応用して製造される。すなわち、その製造はホトリソグラフィ、電子線リソグラフィなどを用いて行われるが、ホトリソグラフィでは重ね合わせ精度が厳しい、電子線リソグラフィでは円などの特殊な形状の露光が必要、また生産性が低い、という欠点がある。また、回折形マイクロレンズには、色収差が大きい、光の集束効率が低い、という欠点がある。
屈折型マイクロレンズには、イオン交換法、リフロー法などが代表的な製造方法として適用される。
前記イオン交換法により屈折型マイクロレンズアレイを製造する場合、マイクロレンズ作製箇所に穴を設けた金属膜をガラス基板に形成し、この状態で溶融塩に浸す。
溶融塩としてタリウム硫酸塩を使用した場合、ガラス基板を100時間以上浸す。この製法では、時間がかかるばかりか、理想的な屈折率分布を得ることは困難で、特に、マイクロレンズ周辺部の収差が大きくなるという欠点がある。
【0002】
前記リフロー法は、図23(A)に示すように、次の4工程からなる(非特許文献2の1282頁Fig.1参照)。
(a)アルミニウム薄膜を石英基板に形成し、アルミニウム薄膜に15μm径の穴を形成する。(b)直径30μmの円形台座を(a)の穴の上に形成する。円形台座は溶媒に対して不溶解で、180℃以上の温度に対して安定となるように処理される。(c)フォトレジストによる直径25μm、高さ12μmの円柱を円形台座上に形成する。(d)140℃で15分加熱すると、球面状のマイクロレンズアレイが製造される。
上記のリフロー法における球面形への変形は、表面張力によって表面エネルギーを最少化する原理を利用したものである。
しかし、このリフロー法では、表面張力が外乱の影響を受けやすいことから、正確な寸法が得られず、レンズの光学性能にバラツキが生ずる。また、レンズアレイを製造する場合には、表面張力で変形中の球の形が崩れないようにするため、互いに接触させてはならず、図23(B)に示すように、隣接する球状レンズ間に平面部分(つまりレンズでない非レンズ部分)が生ずる(非特許文献2の1283頁Fig.4参照)。このような平面部分はレンズアレイとして使用するとき、平面部分を通過する光は迷光となって、雑音の増大、光通過効率の低減、クロストークの発生などの欠点を生ずる。従来、平面部分をなくすることが困難なため、(アレイ領域の面積−アレイ領域内の平面部分の面積)/アレイ領域の面積を“fill factor”と称し、マイクロレンズアレイ性能評価の一つの指標にしている位である。
以上のように、従来の製造法で製作される屈折形マイクロレンズは、せいぜいほぼ球面とまでしか言えないものである。これでは光の集束作用はあるが、普通の大きさのレンズのような集束状態ではなく、光の利用効率の向上程度に利用できる程度である。換言すれば、高い光学性能を満たす屈折型マイクロレンズは存在しないというのが現状である。
非特許文献1:オプトエレクトロニクス用語事典 平成8年11月25日第1版発行 (株)オーム社 編者田中俊一外2名 439〜440頁,586頁
非特許文献2:アプライドオプティクス 1988年4月1日Vol.27,No.7 1281〜1284頁「テクニク フォー モノリシック ファブリケーション オブ マイクロレンズアレイ」
【0004】
第9発明のマイクロレンズ用金型は、シリコン基板に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成すると共に、各マイクロレンズ成形用凹部の周囲に非レンズ部分が無くなるように各マイクロレンズ成形用凹部が互いに接触して形成されており、前記マイクロレンズ成形用凹部が、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成した後、該四角錐凹部をイオン加工により球面状にまたは円筒面状に形成されたものであることを特徴とする。
第11発明は、請求項9記載のマイクロレンズ用金型を用いて製造されたことを特徴とするマイクロレンズ。
発明の効果
第1発明の製法によれば、まず、異方性エッチングにより、シリコン基板面に四角錐形状の凹みを作成し、ついで、イオン加工によって、四角錐凹部の各面を湾曲面に除去していって、マイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。そして、この製法はつぎの利点がある。
A)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による湾曲面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)マイクロレンズ成形用凹部の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接するマイクロレンズ成形用凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な非レンズ部分を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的おおきいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
【0005】
第2発明の製法によれば、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板を用いることにより、{111}結晶面に垂直な方向のエッチ速度が他の方向に比べて最も遅いという現象を利用して、エッチストップとして作用する結晶面を予め特定でき、{111}面だけで構成された形状の四角錐凹部を得ることができる。このため、適当なマスクをシリコン基板に形成して異方性エッチングすることによって、所望の形状の四角錐凹部を得ることができる。また、このように、{100}シリコン基板に異方性エッチングを適用して正四角錐凹部や長四角錐凹部を形成すると、寸法の選択範囲を広くとれ、寸法や形状にばらつきのない凹部を形成でき、各凹部の位置決めを高精度に行うことができる、という長所があるので、後工程で真球度の高いマイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。
第3発明の製法によれば、イオンがシャワー状となって照射し、主に物理的な作用によりシリコン基板表面を除去する。この加工工程においては、イオン加工速度がシリコン基板へのイオン入射角に依存して変化し、特に、イオン入射角θが0度(試料面に垂直入射)からある角度θmaxの範囲において、イオン入射面の変化とともに一定速度で移動する座標系においてイオン入射面の法線方向の加工速度を求めた場合、この加工速度が一定になることから、寸法精度の高いマイクロレンズ成形用凹部が形成される。また、イオン照射による除去量は加工時間と比例関係にあるので、加工の進展度合を時間で正確に制御することができ、マイクロレンズ単体用の金型もマイクロレンズアレイ用の金型も任意に製造することができる。
第4発明の製法によれば、正四角錐の凹部から正円の球面状凹部を形成でき、球面レンズ用の金型を製造できる。
第5発明の製法によれば、長四角錐の凹部から円筒面状凹部を形成でき、円筒面レンズ用の金型を製造できる。
【0006】
第9発明は、第1発明の製法の利点を継承するので、得られた金型は、つぎの長所を有する。
a)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを再現性よく製造できる。
b)マイクロレンズ成形用凹部の形状は種々のものが可能なので、種々の形状のマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
c)不要な平面部分の無い金型を用いて、迷光等の原因になる非レンズ部分が全くないマイクロレンズアレイを製造できる。
d)金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、超微細なものから比較的おおきいものまで可能であるので、種々の寸法のマイクロレンズやマイクロレンズアレイの作製が可能となる。
e)大面積のシリコン基板を使った金型を用いることにより、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能である。
f)金型にシリコン基板を用いるので材料が安価であり、寿命が例え長くなくても低コストでマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
第11発明のマイクロレンズによると、高精度で球面、円筒面が形成され、迷光を発生しないので、マイクロレンズアレイとしてもマイクロレンズ単体としても、普通のレンズと同程度な光学性能が得られる。
発明を実施するための最良の形態
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
《本発明の基本原理》
本発明におけるマイクロレンズ用金型の製法の基本原理を、図1に基づき説明する。
(異方性エッチング工程100の概要)
まず、化学エッチング法を用いた異方性エッチング工程100において、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板1に四角錐凹部2を形成する。本明細書でいう四角錐凹部2には、正四角錐(平面視における縦横寸法比が同じもの)の凹部2の外、長四角錐(平面視における縦横寸法比が異なるもの)の凹部2も含まれる。正四角錐の凹部2は頂点が1点に集まる通常の四角錐凹部2であり、長四角錐の凹部2は頂点
【0009】
、{100}シリコン基板1を用い、このシリコン基板1に化学エッチングによる異方性エッチングを適用することによって、四角錐凹部2を形成する。
この異方性エッチング工程は、常法としての、シリコン酸化膜(SiO膜)形成(101)、レジスト塗布(102)、露光(103)、レジスト膜の現像(104)、酸化膜のエッチング(105)、レジスト除去(106)、異方性エッチング(107)の順でおこなう。本発明で用いている異方性エッチング用化学エッチ液であるKOH(水酸化カリウム溶液)に対して、シリコン酸化膜は耐性が高く、マスク材として常用されている。シリコン酸化膜をシリコン酸化膜形成(101)からレジスト除去(106)までの工程は、シリコン酸化膜をマスクとして用い、異方性エッチングを行う箇所だけに、シリコン酸化膜に穴をあけるための工程である。レジスト除去(106)までの工程で得られたシリコン基板1は、異方性のある化学エッチング液内に入れて、異方性エッチング(107)が行われる。
また、前記露光工程(103)で使用するフォトマスク4に形成するパターンの例を図3に示す。開口5に相当する穴が、シリコン酸化膜にあけられる。シリコン酸化膜にあけられた穴の直径をdとすると、{100}シリコン基板1に形成される正四角錐凹部2について、平面視における正方形の一辺の長さがdとなることが知られている。そのときの凹部の深さをhとすると、前述したようにh=0.707dの関係がある。図3では、開口5の中心が一定の正三角形の各頂点に一致するように配置している。また、開口5の直径は同じとしている。このようなフォトマスク4を用い、本発明の製法を適用して、イオン加工の加工量をある程度以上にすると、非レンズ部分がない、蜂の巣状に並んだマイクロレンズ成形用凹部3を製作することができる。開口5の寸法、開口5を形成する位置を任意に設定することにより、任意の寸法、配置のマイクロレンズ用金型やマイクロレンズアレイ用金型を製造することができる。
上記の異方性エッチング工程(107)は、いわゆる結晶異方性エッチングである。シリコン基板1が単結晶からなり、特定の化学エッチング液に対して、結晶方向によってエッチング速度が極端に異なるという現象を利用している。シリコン基板1そのものをエッチングして構造体を作る技術である。
この結晶異方性エッチングでは、結晶面{111}に垂直な方向のエッチング速度が、他の方向に対するエッチング速度に比較して極端に遅いことを利用する。{111}結晶
【0016】
、イオン加工によって新たに形成された面となる。粗さ計で測定した断面プロフィールからわかるように、隣り合う2つのマイクロレンズ成形用凹部3を表す曲線の接続点は特異点であり、各曲線がそれぞれの形を保ちながら、接続している。このように平面部分が全くなく、球面状凹部や円筒面状凹部だけで構成された領域をシリコン基板1に形成することができる。この場合、平面部分(非レンズ部分)が無いことが好ましいマイクロレンズアレイを製造するのに適している。
図9〜図12について説明する。図9は、初期形状である正四角錐凹部2の平面視と表面粗さ計による断面プロフィールを示す。正四角錐凹部2の底辺は一辺が40μmであり、正四角錐の頂点の深さは28μmである。ただし、粗さ計の触針の曲率半径や触針自体の大きさのため、正四角錐凹部2の最深部付近は、触針の先端が達しないなめ、正確な断面形状が測定できていない。図10は、2時間のイオン加工後である。平面視において、正四角錐凹部2を構成している平面部分が残っているが、正四角錐凹部2の頂点からは球面状凹部が、正四角錐凹部2の側面を構成する面の稜線からは円筒面状凹部が形成されつつあるのがわかる。4時間イオン加工後の図11の平面視では、図10の球面状凹部、円筒面状凹部がさらに成長し、正四角錐凹部2側面の平面部が減少している。このとき、球面状凹部の領域が拡大している。さらに、イオン加工を進めると、図12に示す10時間後には、正四角錐凹部2の平面部はなくなり、球面状凹部が形成される。なお、粗さ計の機能に触針の進路を正確に設定する機能がないため、図10〜図12に示す断面プロフィールは、平面視における中心部を通って測定されていない場合もある。
(形成可能な金型の形状)
本発明によると、つぎのような形状のマイクロレンズ用金型を製造することができる。マイクロレンズアレイを構成する各マイクロレンズの平面形状、平面寸法は、初期形状である四角錐凹部2の配置および深さから決まってくる。
図14の(A)図はシリコン基板1上に円形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成し、各マイクロレンズ成形用凹部3は互いに離れて各マイクロレンズ成形用凹部3の間に平面部分を残したものである。この個々のマイクロレンズ成形用凹部3は、1個1個のマイクロレンズを作る金型となる。
【0017】
同(B)図は数段のマイクロレンズ成形用凹部3のうち、上段側は円形のマイクロレンズ成形用凹部3がそれぞれ独立しているが、下段側に向うほど各マイクロレンズ成形用凹部3の直径が大きくなり、最下段のマイクロレンズ成形用凹部3は互いに接している。マイクロレンズ成形用凹部3の直径を大きくするには、初期形状である四角錐凹部2の深さが深くなるようにすればよい。図では、下段側になるほど四角錐凹部2が深くなるように初期形状を形成している。
図15の(A)図は複数個のマイクロレンズ成形用凹部3が縦横に整列したもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は正方形である。正方形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成するためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図も複数個のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に整列させたもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は長方形である。長方形にするためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な長方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(C)図は正角形のマイクロレンズ成形用凹部3と長方形のマイクロレンズ成形用凹部3とを混在させたものである。このような形で混在させるには、シリコン基板1に予め正四角錐凹部2と長四角錐凹部2を組合せて形成しておけばよい。
図16の(A)図は正六角形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成したものである。正六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正三角形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図は長六角形のマイクロレンズ成形用凹部を形成したものである。長六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な菱形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
なお、図17は長方形のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に形成し、平面部分(非レンズ部分)を無くしたマイクロレンズアレイの写真である。一つのマイクロレンズの寸法は、長辺が15μm、短辺が10μmである。
(本発明の製法の利点)
上記に説明した本発明の製法の利点をまとめると、以下のとおりである。
【0018】
A)マイクロレンズ成形用凹部3の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部2の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による球面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)金型となる球面の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接する球状凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な平面部分(非レンズ部分)を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的大きいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
《理論的根拠の説明》
本発明のイオン加工工程に関し、下記[1]〜[4]についての理論的根拠は、段落0020〜0024に記載の[1]〜[4]欄の通りであるので、参照されたい。
[1]物理的なイオン加工によって球面や、円筒面が形成されることの理論的根拠
[2]イオン加工速度Vのイオン入射角θ依存性
[3]四角錐凹部2から球面状凹部に加工できる根拠
[4]楔状凹部から円筒面状凹部に加工できる根拠
[1]物理的なイオン加工によって球面や円筒面が形成されることの理論的根拠
不活性ガスからなるイオンを基板に照射し、物理的に除去加工する場合を考える。イオンはビーム状で、各イオンは一定の方向に平行に進むものとする。基板が除去される速度Vは、基板表面へのイオン入射角θ(図4の(B)参照)に依存して変化する
【0030】
接金型あるいは母型とすることにより、設計値どおりのマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製作することができる。
c)平面部分(非レンズ部分)のない金型が可能
平面部分(非レンズ部分)の無い金型を用いることによって、不要な平面部分(非レンズ部分)のないマイクロレンズアレイを製造できる。立体視用のマイクロレンズアレイ、光通信における光スイッチ用のマイクロレンズアレイなど、平面部分(非レンズ部分)の存在が不要であったり、迷光の発生原因になり、平面部分(非レンズ部分)の存在が好ましくない光学機器があるが、このような光学機器に本発明の金型で製作した平面部分(非レンズ部分)のないレンズアイを利用すれば、光学機器の性能を向上できる。
d)寸法上の制約がない
金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、その深さが0.1μm程度から数100μmのものまでされているので、マイクロレンズ単体やマイクロレンズアレイの超微細なものから比較的大きいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能である。
e)大面積が可能
シリコン基板1は、半導体集積回路の製造に用いられ、直径300mmの基板も製造されている。また、この大口径シリコン基板1を対象としたプロセス装置が開発されている。本発明に適用可能なイオン加工装置としては、口径380mmのイオン源を備えた装置が市販されている。これらを組み合わせて用いれば、大面積にマイクロレンズ単体やマイクロレンズアレイを形成できる。
f)製造コストが低い
金型や母型材料としてのシリコン基板1は半導体集積回路製造用に大量に生産されているので、安価であるのでシリコン基板1をそのまま金型としても、寿命が問題にならないほど、製造コストは低い。
(真球度が高いことによる金型としての利点の詳細)
本発明では金型の素材としてシリコン基材を用いるが、そのシリコンの材料特性を下表に示す。
硬度はステンレス・スチール以上、融点はステンレス・スチールと同程度である。ま
【0003】
発明の開示
発明が解決しようとする課題
本発明は上記事情に鑑み、設計どおりの形状の金型が得られ、高性能な光学性能を発揮しうる屈折形マイクロレンズを製造することができる金型、マイクロレンズおよびそれらの製法を提供す
ることを目的とする。
課題を解決するための手段
第1発明のマイクロレンズ用金型の製法は、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成するエッチング工程と、前記四角錐凹部をイオン加工によりマイクロレンズ成形用凹部に形成するイオン加工工程とを順に実行することを特徴とする。
第2発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記エッチング工程が、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板に化学的な異方性エッチングを施す工法であることを特徴とする。
第3発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記イオン加工工程が、前記シリコン基板に対し不活性なガスをイオン化ガスとして用い、加速したイオンを前記シリコン基板に照射して行う除去加工であることを特徴とする。
第4発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記四角錐凹部として正四角錐凹部を形成しておき、球面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
第5発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前前記四角錐凹部として長四角錐凹部を形成しておき、円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
【書類名】明細書
【発明の名称】 マイクロレンズ用金型、マイクロレンズおよびそれらの製法
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズ用金型、マイクロレンズおよびそれらの製法に関する。マイクロレンズは、大きさ(直径)が数mm以下の小さいレンズをいい、これらのマイクロレンズは多数個を整然と並べたマイクロレンズアレイの形で使用したり、マイクロレンズ単体で使用される(非特許文献1)。本発明は、このようなマイクロレンズを製造する場合に必要な金型、マイクロレンズおよびれらの製法に関する。
なお、本明細書においては、マイクロレンズとはマイクロレンズアレイとマイクロレンズ単体の両方を含む意味であり、とくに必要がある場合のみマイクロレンズアレイまたはマイクロレンズ単体の用語を用いている。
【背景技術】
【0002】
写真機、光学顕微鏡などに用いるレンズは、光学材料を研磨したり、金型を作製して成形加工したりして製造されている。しかし、寸法の小さいマイクロレンズの製造には、これらの通常のレンズの製造方法が適用できない。
そこで、マイクロレンズには、つぎのような製法が用いられる。なお、マイクロレンズは屈折型と回折型に二分されるので、それぞれ分けて説明する。
【0003】
回折型マイクロレンズには、主として、半導体集積回路などの製造に用いられている技術を応用して製造される。すなわち、その製造はホトリソグラフィ、電子線リソグラフィなどを用いて行われるが、ホトリソグラフィでは重ね合わせ精度が厳しい、電子線リソグラフィでは円などの特殊な形状の露光が必要、また生産性が低い、という欠点がある。また、回折形マイクロレンズには、色収差が大きい、光の集束効率が低い、という欠点がある。
【0004】
屈折型マイクロレンズには、イオン交換法、リフロー法などが代表的な製造方法として適用される。
前記イオン交換法により屈折型マイクロレンズアレイを製造する場合、マイクロレンズ作製箇所に穴を設けた金属膜をガラス基板に形成し、この状態で溶融塩に浸す。溶融塩としてタリウム硫酸塩を使用した場合、ガラス基板を100時間以上浸す。この製法では、時間がかかるばかりか、理想的な屈折率分布を得ることは困難で、特に、マイクロレンズ周辺部の収差が大きくなるという欠点がある。
【0005】
前記リフロー法は、図23(A)に示すように、次の4工程からなる(非特許文献2の1282頁Fig.1参照)。
(a)アルミニウム薄膜を石英基板に形成し、アルミニウム薄膜に15μm径の穴を形成する。(b)直径30μmの円形台座を(a)の穴の上に形成する。円形台座は溶媒に対して不溶解で、180℃以上の温度に対して安定となるように処理される。(c)フォトレジストによる直径25μm、高さ12μmの円柱を円形台座上に形成する。(d)140℃で15分加熱すると、球面状のマイクロレンズアレイが製造される。
上記のリフロー法における球面形への変形は、表面張力によって表面エネルギーを最少化する原理を利用したものである。
【0006】
しかし、このリフロー法では、表面張力が外乱の影響を受けやすいことから、正確な寸法が得られず、レンズの光学性能にバラツキが生ずる。また、レンズアレイを製造する場合には、表面張力で変形中の球の形が崩れないようにするため、互いに接触させてはならず、図23(B)に示すように、隣接する球状レンズ間に平面部分(つまりレンズでない非レンズ部分)が生ずる(非特許文献2の1283頁Fig.4参照)。このような平面部分はレンズアレイとして使用するとき、平面部分を通過する光は光となって、雑音の増大、光通過効率の低減、クロストークの発生などの欠点を生ずる。従来、平面部分をなくすることが困難なため、(アレイ領域の面積−アレイ領域内の平面部分の面積)/アレイ領域の面積を“fill factor”と称し、マイクロレンズアレイ性能評価の一つの指標にしている位である。
【0007】
以上のように、従来の製造法で製作される屈折形マイクロレンズは、せいぜいほぼ球面とまでしか言えないものである。これでは光の集束作用はあるが、普通の大きさのレンズのような集束状態ではなく、光の利用効率の向上程度に利用できる程度である。換言すれば、高い光学性能を満たす屈折型マイクロレンズは存在しないというのが現状である。
【0008】
【非特許文献1】オプトエレクトロニクス用語事典 平成8年11月25日第1版発行 (株)オーム社 編者田中俊一外2名 439〜440頁,586頁
【非特許文献2】アプライドオプティクス 1988年4月1日 Vol.27,No.7 1281〜1284頁「テクニク フォー モノリシック ファブリケーション オブ マイクロレンズアレイ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、設計どおりの形状の金型が得られ、高性能な光学性能を発揮しうる屈折形マイクロレンズを製造することができる金型、マイクロレンズおよびれらの製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のマイクロレンズ用金型の製法は、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成するエッチング工程と、前記四角錐凹部をイオン加工によりマイクロレンズ成形用凹部に形成するイオン加工工程とを順に実行することを特徴とする。
第2発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記エッチング工程が、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板に化学的な異方性エッチングを施す工法であることを特徴とする。
第3発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記イオン加工工程が、前記シリコン基板に対し不活性なガスをイオン化ガスとして用い、加速したイオンを前記シリコン基板に照射して行う除去加工であることを特徴とする。
第4発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記四角錐凹部として正四角錐凹部を形成しておき、球面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
第5発明のマイクロレンズ用金型の製法は、第1発明において、前記四角錐凹部として長四角錐凹部を形成しておき、円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成することを特徴とする。
第6発明のマイクロレンズ用金型は、シリコン基板に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成すると共に、各マイクロレンズ成形用凹部の周囲に非レンズ部分が無くなるように各マイクロレンズ成形用凹部が互いに接触して形成されており、前記マイクロレンズ成形用凹部が、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成した後、該四角錐凹部をイオン加工により球面状にまたは円筒面状に形成されたものであることを特徴とする。
第7発明は、請求項6記載のマイクロレンズ用金型を用いて製造されたことを特徴とするマイクロレンズ。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の製法によれば、まず、異方性エッチングにより、シリコン基板面に四角錐形状の凹みを作成し、ついで、イオン加工によって、四角錐凹部の各面を湾曲面に除去していって、マイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。そして、この製法はつぎの利点がある。
A)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による湾曲面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)マイクロレンズ成形用凹部の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接するマイクロレンズ成形用凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な非レンズ部分を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的おおきいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
第2発明の製法によれば、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板を用いることにより、{111}結晶面に垂直な方向のエッチ速度が他の方向に比べて最も遅いという現象を利用して、エッチストップとして作用する結晶面を予め特定でき、{111}面だけで構成された形状の四角錐凹部を得ることができる。このため、適当なマスクをシリコン基板に形成して異方性エッチングすることによって、所望の形状の四角錐凹部を得ることができる。また、このように、{100}シリコン基板に異方性エッチングを適用して正四角錐凹部や長四角錐凹部を形成すると、寸法の選択範囲を広くとれ、寸法や形状にばらつきのない凹部を形成でき、各凹部の位置決めを高精度に行うことができる、という長所があるので、後工程で真球度の高いマイクロレンズ成形用凹部を形成することができる。
第3発明の製法によれば、イオンがシャワー状となって照射し、主に物理的な作用によりシリコン基板表面を除去する。この加工工程においては、イオン加工速度がシリコン基板へのイオン入射角に依存して変化し、特に、イオン入射角θが0度(試料面に垂直入射)からある角度θmaxの範囲において、イオン入射面の変化とともに一定速度で移動する座標系においてイオン入射面の法線方向の加工速度を求めた場合、この加工速度が一定になることから、寸法精度の高いマイクロレンズ成形用凹部が形成される。また、イオン照射による除去量は加工時間と比例関係にあるので、加工の進展度合を時間で正確に制御することができ、マイクロレンズ単体用の金型もマイクロレンズアレイ用の金型も任意に製造することができる。
第4発明の製法によれば、正四角錐の凹部から正円の球面状凹部を形成でき、球面レンズ用の金型を製造できる。
第5発明の製法によれば、長四角錐の凹部から円筒面状凹部を形成でき、円筒面レンズ用の金型を製造できる
第6発明は、第1発明の製法の利点を継承するので、得られた金型は、つぎの長所を有する。
a)マイクロレンズ成形用凹部の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを再現性よく製造できる。
b)マイクロレンズ成形用凹部の形状は種々のものが可能なので、種々の形状のマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる。
c)不要な平面部分の無い金型を用いて、光等の原因になる非レンズ部分が全くないマイクロレンズアレイを製造できる。
d)金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、超微細なものから比較的おおきいものまで可能であるので、種々の寸法のマイクロレンズやマイクロレンズアレイの作製が可能となる。
e)大面積のシリコン基板を使った金型を用いることにより、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能である。
f)金型にシリコン基板を用いるので材料が安価であり、寿命が例え長くなくても低コストでマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製造できる
第7発明のマイクロレンズによると、高精度で球面、円筒面が形成され、迷光を発生しないので、マイクロレンズアレイとしてもマイクロレンズ単体としても、普通のレンズと同程度な光学性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
<<本発明の基本原理>>
本発明におけるマイクロレンズ用金型の製法の基本原理を、図1に基づき説明する。
(異方性エッチング工程100の概要)
まず、化学エッチング法を用いた異方性エッチング工程100において、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板1に四角錐凹部2を形成する。本明細書でいう四角錐凹部2には、正四角錐(平面視における縦横寸法比が同じもの)の凹部2の外、長四角錐(平面視における縦横寸法比が異なるもの)の凹部2も含まれる。正四角錐の凹部2は頂点が1点に集まる通常の四角錐凹部2であり、長四角錐の凹部2は頂点が一定の長さをもつ、いわゆるクサビ形の凹部である。これらの凹部を構成する面は、全て{111}結晶面となる。
この異方性エッチング工程においては、化学的な異方性エッチングを用いることが必須である。単結晶シリコン基板1を対象とした化学エッチングにおいて、正確な形状や寸法(予め予測される形状や寸法)を基板に形成する場合、エッチストップが大きな役割を果たす。{111}結晶面に垂直な方向のエッチ速度が他の方向に比べて最も遅いという現象を利用した異方性エッチングでは、エッチストップとして作用する結晶面を予め特定でき、{111}面だけで構成された形状を得ることができる。このため、予測される形状や寸法を、適当なマスクをシリコン基板1に形成して異方性エッチングすることによって得ることができる。例えば、図3に示すような円形開口5を有するマスクを用いる場合、開口5の直径をdとすると、{100}シリコン基板1に形成される正四角錐凹部2について、平面視における正方形の一辺の長さはdとなり、凹部の深さをhとすると、h=0.707dの関係がある。なお、正四角錐凹部2の頂点は円形開口5の中心に位置する。異方性エッチングのためのマスクパターンを形成する場合、紫外線露光法、X線露光法、電子線露光法などを用いることが可能であり、開口直径dとしては0.1μm以下を得ることも可能である。なお、大きな開口直径dを得たい場合には、その寸法には原理的に制限がない。さらに、これらの露光法で得られるパターンの寸法精度や位置決め精度は0.1μm以下が普通のことである。また、異方性エッチングは厚さ500μm以上のシリコン基板1に貫通孔を設けるのに利用される。普通の化学エッチングでは、エッチ深さが1μm以下が普通のことである。
このように、{100}シリコン基板1に異方性エッチングを適用して正四角錐凹部2や長四角錐凹部2を形成すると、寸法の選択範囲を広くとれ、寸法や形状にばらつきのない四角錐凹部2を形成でき、各四角錐凹部2の位置決めを高精度に行うことができる、という長所がある。この長所は、シリコン基板1の寸法に依存しない。そして、これらのことは、後工程で真円度の高いマイクロレンズ成形用凹部3を形成する前提となっている。
【0013】
前記した{100}結晶面のシリコン基板1は入手が容易で安価という利点がある点で、最適であるが、{100}ウエハ以外でも本発明の適用は可能である。
例えば、{111}結晶面で構成された四角錐凹部2を想定し、この四角錐凹部2を横切る結晶面を表面としたシリコン基板1を用いると、結晶異方性エッチングにより四角錐凹部2を基板表面に形成できる。ただし、この場合、{100}結晶面を表面とするシリコン基板1に形成した四角錐凹部2の中心軸が表面に垂直になるのに対して、四角錐凹部2の中心軸が表面に対して斜めになる。しかし、このような四角錐凹部2に対しても、イオン加工を施し、その加工量が充分であると、四角錐凹部2の頂点からマイクロレンズ成形用凹部3が成長する。
【0014】
(イオン加工工程200の概要)
つぎに、イオン加工工程200では、イオンがシャワー状となって試料面を照射し、主に物理的な作用により試料表面を除去するイオン加工法を用いる。マイクロレンズ形状を作製するシリコン基板1の表面の領域にイオンを照射して除去していくと、四角錐凹部2の頂点付近から曲面形成が進行していき、正四角錐凹部2の頂点は球面状凹部、長四角錐凹部2は円筒状凹部の両端に半球面とが組み合わされた円筒面状凹部にそれぞれ変わっていく。なお、本明細書において、球面状凹部と円筒面状凹部を総称する場合はマイクロレンズ成形用凹部3と称している。
上記の加工工程においては、イオン加工速度が試料面へのイオン入射角に依存して変化し、特に、イオン入射角θが0度(試料面に垂直入射)からある角度θmaxの範囲において、図5の(C)に示すように、イオン入射面の変化とともに一定速度で移動する座標系においてイオン入射面の法線方向の加工速度を求めた場合、この加工速度が一定になる状態にてイオン加工面が形成されているとみなすことができる。この結果、図4の(C)に示すように、形状精度および寸法精度の高い球面状や円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部3が形成される。正四角錐凹部2、長四角錐凹部2が全て球面状凹部や円筒面状凹部に変化した時点からさらにイオン加工を続けると、イオン加工量に応じて球面状凹部や円筒面状凹部の曲率半径が増加していく。
【0015】
<<本発明における製法の詳細説明>>
つぎに、上記製法の詳細を順に説明していく。
(異方性エッチング工程100の詳細)
この異方性エッチング工程100の主な工程を図2に示す。図2に示すように、例えば、{100}シリコン基板1を用い、このシリコン基板1に化学エッチングによる異方性エッチングを適用することによって、四角錐凹部2を形成する。
この異方性エッチング工程は、常法としての、シリコン酸化膜(Si0膜)形成(101)、レジスト塗布(102)、露光(103)、レジスト膜の現像(104)、酸化膜のエッチング(105)、レジスト除去(106)、異方性エッチング(107)の順でおこなう。本発明で用いている異方性エッチング用化学エッチ液であるKOH(水酸化カリウム溶液)に対して、シリコン酸化膜は耐性が高く、マスク材として常用されている。シリコン酸化膜をシリコン酸化膜形成(101)からレジスト除去(106)までの工程は、シリコン酸化膜をマスクとして用い、異方性エッチングを行う箇所だけに、シリコン酸化膜に穴をあけるための工程である。レジスト除去(106)までの工程で得られたシリコン基板1は、異方性のある化学エッチング液内に入れて、異方性エッチング(107)が行われる。
また、前記露光工程(103)で使用するフォトマスク4に形成するパターンの例を図3に示す。開口5に相当する穴が、シリコン酸化膜にあけられる。シリコン酸化膜にあけられた穴の直径をdとすると、{100}シリコン基板1に形成される正四角錐凹部2について、平面視における正方形の一辺の長さがdとなることが知られている。そのときの凹部の深さをhとすると、前述したようにh=0.707dの関係がある。図3では、開口5の中心が一定の正三角形の各頂点に一致するように配置している。また、開口5の直径は同じとしている。このようなフォトマスク4を用い、本発明の製法を適用して、イオン加工の加工量をある程度以上にすると、非レンズ部分がない、蜂の巣状に並んだマイクロレンズ成形用凹部3を製作することができる。開口5の寸法、開口5を形成する位置を任意に設定することにより、任意の寸法、配置のマイクロレンズ用金型やマイクロレンズアレイ用金型を製造することができる。
【0016】
上記の異方性エッチング工程(107)は、いわゆる結晶異方性エッチングである。シリコン基板1が単結晶からなり、特定の化学エッチング液に対して、結晶方向によってエッチング速度が極端に異なるという現象を利用している。シリコン基板1そのものをエッチングして構造体を作る技術である。
この結晶異方性エッチングでは、結晶面{111}に垂直な方向のエッチング速度が、他の方向に対するエッチング速度に比較して極端に遅いことを利用する。{111}結晶面がエッチストップとして作用し、異方性エッチングによって形成される凹部は全て{111}面で構成されることになる。四角錐凹部2を形成するためには、表面が[100]方向に垂直となるように製造された、いわゆる(100)シリコン基板1を利用する。このシリコン基板1の表面に、エッチングで侵されにくい薄膜を形成し、紫外線露光法、X線露光法、電子線露光法などのリソグラフィ技術とこの薄膜に対するエッチング技術を用いて、この薄膜の指定された位置に指定された寸法の開口部5を形成する。つぎに、開口部5を形成したシリコン基板1を結晶異方性を発現するエッチング液に浸すという工程がとられる。なお、このような異方性エッチング液としては、KOH水溶液(KOH;水酸化カリウム)、EDP水溶液(エチレンジアミン、ピロカテコール、水の混合物)、TMAH水溶液(TMAH;テトラメチル アンモニウム ハイドロオキサイド)などがよく知られている。この結果、結晶異方性エッチング液によって形成された四角錐凹部2の形状は、その垂直方向のエッチング速度が最も遅い結晶面で構成される。
異方性エッチング用マスクの開口5が円形だけで構成されている場合、正四角錐凹部2の頂点の位置は、円形開口5の中心と一致し、四角錐の底辺の長さは円形開口5の直径と一致する。このため、円形開口5の配列方向などとシリコン基板1の結晶方向を正確に合わせる必要はとくにない。一方、異方性エッチング用マスクの開口形状に正方形や長方形が含まれる場合には、正方形や長方形の辺の方向を、シリコン基板1表面の[100]方向(通常はファセットの方向)に合わせる必要がある。これらの方向がずれると、ずれ量に応じて、正四角錐凹部2、長四角錐凹部2の平面寸法がマスクの開口5よりも大きくなる。しかし、マスクパターンの方向とシリコン基板1の結晶方向とを合わせる技術は、充分に発達しており、通常のアライメント技術を用いれば、ずれ量が問題になることはない。
以上のように、初期形状の形成に結晶異方性エッチングを利用すると、{111}結晶面がエッチストップとして有効に働くので、正確な形状・寸法の四角錐凹部2をシリコン基板1の全面にわたって形成することができ、等方性の化学エッチングと比較して深いエッチングが可能なので、大きな寸法の四角錐凹部2を形成できる。この性質を用いたことが、本発明の重要な特徴であり、後述するごとく、曲面形状、寸法、配置などのマイクロレンズやマイクロレンズアレイの製造に要求される高い精度を実現することができる。
【0017】
(イオン加工工程200の詳細)
このイオン加工工程200は、先に形成された初期形状である四角錐凹部2をマイクロレンズ成形用凹部3(球面状凹部や円筒面状凹部)に加工していく工程である。
本工程は、図4(A)に示すように、初期形状すなわち多数の四角錐凹部2を形成したシリコン基板1に、加速され、ほぼ平行な状態で運動するアルゴンイオンなどのイオンをシャワー状に照射することにより行う。
イオン照射すると、シリコン基板1の表面における平面部分は平面を保ちながら除去加工が進行し、四角錐凹部2の頂点や、四角錐凹部2を構成する平面間の交線のなかで基板深さ方向に凸の交線部分からは、湾曲面が広がっていく。イオン入射角が0である基板面のイオン加工速度は同じであるので、初期形状、すなわち四角錐凹部2の深さを保ったままで、イオン照射による除去加工は進行する。四角錐凹部2の頂点から形成されていく球面状凹部や円筒面状凹部が拡大していくとともに、四角錐凹部2の平面部分はなくなっていき、やがて、四角錐凹部2が球面状凹部や円筒面状凹部に変化する。
上記加工法を本発明に適用できる条件としては、ほぼ平行な状態で運動するイオンをシャワー状に照射し、イオンの物理的な除去作用を主体としたイオン加工を用いることである。
【0018】
(イオン加工の原理)
上記のイオン加工では、加工対象と化学反応を起こさない不活性ガスをイオン化ガスとして用い、基板表面にイオンを照射して除去加工する。これはイオン照射効果の中の一つを使った物理的加工である。
数十eV以上の運動エネルギーを持って照射されたイオンは、基板表面の原子に衝突し、運動エネルギーを表面原子に与える。このとき、表面原子が基板原子との結合を断ち切るだけのエネルギーを獲得すると、基板表面から飛ばされていく。1個の照射イオンによって表面からはじき出される原子の数をスパッタ収量という。スパッタ収量はイオン入射角θに依存して変化する。スパッタ数量をY(θ)とすると、多くの材料のY(θ)は図5(A)に示すような曲線で表される。イオン入射角θを0から大きくしていくと、照射イオンが直接衝突した表面原子だけでなく、その原子から周りの原子にも運動エネルギーがつたわるようになり、Y(θ)は増大していく。θ=90°の場合、照射イオンの運動方向は基板表面に平行となり、イオンの運動エネルギーはほとんど表面原子につたわらない。このため、θ=90°ではY(θ)=0となる。このことからもわかるように、θが大きすぎてもイオンの運動エネルギーを表面原子に伝達する効率は低下する。このようなことから、Y(θ)が最大となるθの値が存在する。Y(θ)は、材料、イオン種、イオンの運動エネルギーなどによって変化する。スパッタ収量Y(θ)を反映したものが、イオン加工速度Vのイオン入射角θへの依存性V(θ)であり、θ=0における値をそれぞれY(0)=1、V(0)=1に規格化して、Y(θ)とV(θ)とを同一のスケールで表すと、両者は一致する。本発明では、V(θ)がθに依存して変化していることを利用して、初期形状から球面状凹部や円筒面状凹部を形成する。
【0019】
(イオン加工装置について)
上記のイオン加工には、イオン化した不活性ガス(He,Ne,Ar,Kr,Xe)を加速して、試料面を照射する機能をもち、物理的な作用を主体として除去加工を行うことができる装置でなければならず、それには、大別して下記の3種類がある。なお、本発明では、主として物理的な作用でシリコンを除去加工できればよく、N(窒素)、CO(炭酸ガス)、空気などのガスによるイオンも、加速電圧を大きくすれば、化学的作用よりも物理的作用による除去加工が大きくなるため、これらのガスを用いてもよい。
1)イオンビーム(イオンシャワー、イオンミリング)装置
ガス導入口を有し、そこから導入されたガスをイオン化する機能と、加速電圧を印加してイオンを加速する機能をもち、ほぼ平行なイオンビーム(イオンシャワーともいう)を発生するイオン源、試料を保持する機構を有し、イオンビームを試料に照射する加工室、イオン源、加工室など真空にする真空排気系を主な構成要素とした装置である。
2)平行平板形エッチング装置
高周波、あるいは直流電圧を印加するための平行平板、この平行平板の一方の電極面付近に設置した試料保持機構が、同じ真空容器内にある。真空容器内に導入したガスを、高周波、あるいは直流電圧を平行平板に印加してイオン化する。ガスがイオン化すると、自己バイアスと呼ばれる電位差が試料保持機構のある電極位置付近に発生し、この電位差によってイオンが加速され試料面を照射する。これには、高周波放電を利用した装置(RFスパッタ装置、RFは13.56MHzの高周波のこと)や直流を利用した装置(直流(DC)スパッタ装置)がある。
3)マイクロ波プラズマエッチング装置
マグネトロンから発振される2.45GHzのマイクロ波でガスをイオン化する。高周波を試料保持具に印加して、試料に照射されるイオンの加速電圧を制御する。
【0020】
(球面や円筒面加工ができる理由)
不活性ガスをイオン化し、加速したイオンを用いた物理的な除去加工であるイオン加工において、イオンを照射された試料のイオン加工速度Vは、試料表面へのイオン入射角θに依存して変化する。加工速度Vは、θの関数となり、V=V(θ)と表される。ここで、イオン加工速度Vは、試料表面の基準面からイオン進行方向に沿って測る。また、θ=0は、イオンの試料表面への垂直入射を示す。したがって、試料表面に平坦でない初期形状を形成しておくと、イオン加工が進むにつれて、初期形状がV(θ)に依存して変化する。この現象を利用して、球面状凹部や円筒面状凹部を形成する。
ここで、V(θ)が
V(θ)=(A+B/cosθ)V (A,B,V:定数,A+B=1)
と表される場合、初期形状として試料表面に四角錐凹部2を形成しておくと、その四角錐凹部2は、イオン加工の進行とともに、完全な球面状や円筒面状で構成された凹部へと変化していく。イオン入射角θが0≦θ≦θmaxの範囲において上式が成立することは、V(θ)に関する実験結果(図5の(B)参照)から示すことができる。ここで、θmaxは、その実験結果から求めることができる。
初期形状の最も深いところには、入射角θ=0とみなすことができる点がある。一般には、試料表面(試料基準面)がθ=0になるように、イオン加工装置に試料をセットするので、初期形状の最深部でθ=0となる箇所と、試料表面とのイオン加工速度は同じになる。イオン加工は、初期形状の深さを一定に保ちながら進行し、初期形状は試料表面と同一の方向に広がっていく。したがって、マイクロレンズの厚さは、初期形状の深さ以上にはできない。初期形状の最も深いところに、一旦、球面状凹部や円筒面状凹部が形成されると、その後、イオン加工の進行にともなって、球面状凹部や円筒面状凹部が、風船を膨らますような形で広がっていく。
【0021】
(加工時間と加工量、加工形状および曲率半径の相関関係)
試料には、表面が(100)面で、表面を鏡面研磨した(100)シリコンウエハ((100) Si)を用い、底面の一辺が底面の一辺が40μmの正四角錐凹部2を結晶異方性エッチングより初期形状として形成した。イオン加工装置には、カウフマン形イオン源を備えたイオンビーム装置を用いた。イオン化ガスにはアルゴン(Ar)を用いた。Arイオン照射条件は、加速電圧;2kV、イオン電流密度;13mA/cmとし、このときイオン照射室内圧力は5×10−3Paであった。
適当な大きさのSiウエハで(100)Siウエハの一部分をマスクしてイオン照射し、(100)Siウエハ表面にイオン照射部と未照射部を形成した。イオン照射時間2時間毎に試料をイオン照射室から取り出し、イオン照射部と未照射部の段差を表面粗さ計で測定して、イオン加工量(加工深さ)を求めた。同時に、初期形状が加工時間とともに変化する様子を、表面粗さ計により断面形状の測定、光学顕微鏡による形状観察から求めた。表面粗さ計の触針には、曲率半径5μmのものを用いた。
【0022】
イオン加工の特性を図6に基づき説明する。(A)図は加工時間と加工量の関係を示す。加工量が加工時間に比例して増加しており、加工速度は5μm/hである。後述するように、形成される球面状凹部や円筒面状凹部の曲率半径は加工量によって制御することができる。しかし、イオン加工の進行中にイオン加工量を正確に測定することは一般に困難とされている。一方、加工時間の測定は容易であり、正確な値を得ることができる。(A)図に示す加工量と加工時間の比例関係は、加工時間によって加工量を正確に制御できることを示している。
(B)図は、初期形状の形状変化に関して加工量と曲率半径の関係を示す。正四角錐凹部2の底部からは球面状凹部が形成されるので、球面状の部分における曲率半径を求めた。いったん球面状凹部が形成されると、(B)図からわかるように、その曲率半径は加工量に比例して増加している。このことは、曲率半径が加工量によって正確に制御可能なことを示している。
【0023】
図7の(A)〜(E)は加工時間と形成されるマイクロレンズ成形用凹部3の形状を示している。図7の(A)〜(E)において、表面粗さ計で計測した断面プロフィールにフィッテングさせている曲線は、円を表している。初期形状の底部から形成し始めたマイクロレンズ成形用凹部3の部分に最も一致するように円の曲率半径を決定し、その円の描く曲線を表面粗さ計によるプロフィールに重ねて示している。図7の(A)〜(D)では、四角錐凹部2の平面部分が完全に球面状に変化していない状態であり、シリコン基板1表面に近くなると、円曲線が表面粗さ計によるプロフィールから離れているのがわかる。図7(E)は、四角錐凹部2の平面部分が完全になくなり、初期形状がマイクロレンズ成形用凹部3へと変化した場合を示す。円曲線と表面粗さ計によるプロフィールとが、基板表面まで一致している。イオン加工前の初期形状とイオン加工時間10時間のイオン加工時間が経過した図7(E)の状態とを平面視した結果を、図8に示す。図8(A)は初期形状であり、四角錐凹部2の底面が正方形で、寸法も一様である。この場合、四角錐凹部2を、その中心が寸法一定の正三角形の頂点に一致するように配置している。図8(B)は、(A)の各四角錐凹部2からマイクロレンズ成形用凹部3を形成した状態である。平面視すると、(A)の正方形から円形に変化している。各マイクロレンズ成形用凹部3の基板表面の直径は185μmである。各円形において、中央部に干渉縞ができ、その周辺は黒くなっている。この黒い部分は、光学顕微鏡の対物レンズのNA(開口数)が小さく、マイクロレンズ成形用凹部3の傾斜が大きい領域からの反射光が対物レンズに取り込まれないことによる。
【0024】
イオン加工が10時間経過した後の図8(B)のような状態の場合、隣り合うマイクロレンズ成形用凹部3とマイクロレンズ成形用凹部3の間にはシリコン基板1表面が平面の状態で残っている。この段階でイオン加工を終了し、金型を製作することもできる。基板表面に平面部分を残す状態は、特に、マイクロレンズ間の距離を大きくとる場合、多数のマイクロレンズを同時に作製し、その後単体あるいは複数個のマイクロレンズに分離する場合などに有効である。
【0025】
さらにイオン加工を進め、例えば19時間加工すると、図13に示すように、隣り合う全てのマイクロレンズ成形用凹部3が接触し、基板表面の平面部分は全くなくなり、全て、イオン加工によって新たに形成された面となる。粗さ計で測定した断面プロフィールからわかるように、隣り合う2つのマイクロレンズ成形用凹部3を表す曲線の接続点は特異点であり、各曲線がそれぞれの形を保ちながら、接続している。このように平面部分が全くなく、球面状凹部や円筒面状凹部だけで構成された領域をシリコン基板1に形成することができる。この場合、平面部分(非レンズ部分)が無いことが好ましいマイクロレンズアレイを製造するのに適している。
【0026】
図9〜図12について説明する。図9は、初期形状である正四角錐凹部2の平面視と表面粗さ計による断面プロフィールを示す。正四角錐凹部2の底辺は一辺が40μmであり、正四角錐の頂点の深さは28μmである。ただし、粗さ計の触針の曲率半径や触針自体の大きさのため、正四角錐凹部2の最深部付近は、触針の先端が達しないなめ、正確な断面形状が測定できていない。図10は、2時間のイオン加工後である。平面視において、正四角錐凹部2を構成している平面部分が残っているが、正四角錐凹部2の頂点からは球面状凹部が、正四角錐凹部2の側面を構成する面の稜線からは円筒面状凹部が形成されつつあるのがわかる。4時間イオン加工後の図11の平面視では、図10の球面状凹部、円筒面状凹部がさらに成長し、正四角錐凹部2側面の平面部が減少している。このとき、球面状凹部の領域が拡大している。さらに、イオン加工を進めると、図12に示す10時間後には、正四角錐凹部2の平面部はなくなり、球面状凹部が形成される。なお、粗さ計の機能に触針の進路を正確に設定する機能がないため、図10〜図12に示す断面プロフィールは、平面視における中心部を通って測定されていない場合もある。
【0027】
(形成可能な金型の形状)
本発明によると、つぎのような形状のマイクロレンズ用金型を製造することができる。マイクロレンズアレイを構成する各マイクロレンズの平面形状、平面寸法は、初期形状である四角錐凹部2の配置および深さから決まってくる。
図14の(A)図はシリコン基板1上に円形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成し、各マイクロレンズ成形用凹部3は互いに離れて各マイクロレンズ成形用凹部3の間に平面部分を残したものである。この個々のマイクロレンズ成形用凹部3は、1個1個のマイクロレンズを作る金型となる。
同(B)図は数段のマイクロレンズ成形用凹部3のうち、上段側は円形のマイクロレンズ成形用凹部3がそれぞれ独立しているが、下段側に向うほど各マイクロレンズ成形用凹部3の直径が大きくなり、最下段のマイクロレンズ成形用凹部3は互いに接している。マイクロレンズ成形用凹部3の直径を大きくするには、初期形状である四角錐凹部2の深さが深くなるようにすればよい。図では、下段側になるほど四角錐凹部2が深くなるように初期形状を形成している。
【0028】
図15の(A)図は複数個のマイクロレンズ成形用凹部3が縦横に整列したもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は正方形である。正方形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成するためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図も複数個のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に整列させたもので、各マイクロレンズ成形用凹部3は長方形である。長方形にするためには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な長方形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(C)図は正角形のマイクロレンズ成形用凹部3と長方形のマイクロレンズ成形用凹部3とを混在させたものである。このような形で混在させるには、シリコン基板1に予め正四角錐凹部2と長四角錐凹部2を組合せて形成しておけばよい。
【0029】
図16の(A)図は正六角形のマイクロレンズ成形用凹部3を形成したものである。正六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な正三角形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
同(B)図は長六角形のマイクロレンズ成形用凹部を形成したものである。長六角形にするには、初期形状である四角錐凹部2の各頂点が仮想的な菱形の頂点に位置するように、四角錐凹部2を形成すればよい。
なお、図17は長方形のマイクロレンズ成形用凹部3を縦横に形成し、平面部(非レンズ部分)を無くしたマイクロレンズアレイの写真である。一つのマイクロレンズの寸法は、長辺が15μm、短辺が10μmである。
【0030】
(本発明の製法の利点)
上記に説明した本発明の製法の利点をまとめると、以下のとおりである。
A)マイクロレンズ成形用凹部3の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを製造できる金型が得られる。
B)結晶異方性エッチングによる四角錐凹部2の形成は、設計値どおりの初期形状が得られ、その後のイオン加工による球面化のための基板表面の除去は正確に制御できるので、マイクロレンズ成形用凹部の形状と寸法を自在に制御できる。
C)金型となる球面の曲率半径はイオン加工量と共に拡大するので、隣接する球状凹部の周縁が接するまでイオン加工を続けることにより金型面に不要な平面部分(非レンズ部分)を無くすることができる。
D)結晶異方性エッチングによる初期形状の精度が高く、イオン加工による加工量の制御が高精度に行えるので、超微細なものから比較的きいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能な金型が得られる。
E)シリコン基板への加工装置(エッチングおよびイオン加工)に寸法上の制約がないので、大面積のシリコン基板を使って、大面積のマイクロレンズアレイの作製が可能な金型が得られる。
F)シリコン基板を用いるので材料が安価であり、主な製造工程は結晶異方性エッチングとイオン加工との2つしかないので、低コストでマイクロレンズを製造できる金型が得られる。
【0031】
<<理論的根拠の説明>>
本発明のイオン加工工程に関し、下記[1]〜[4]についての理論的根拠は、段落0020〜0024に記載の[1]〜[4]欄の通りであるので、参照されたい。
[1]物理的なイオン加工によって球面や、円筒面が形成されることの理論的根拠
[2]イオン加工速度Vのイオン入射角θ依存性
[3]四角錐凹部2から球面状凹部に加工できる根拠
[4]楔状凹部から円筒面状凹部に加工できる根拠
【0032】
[1]物理的なイオン加工によって球面や円筒面が形成されることの理論的根拠
不活性ガスからなるイオンを基板に照射し、物理的に除去加工する場合を考える。イオンはビーム状で、各イオンは一定の方向に平行に進むものとする。基板が除去される速度Vは、基板表面へのイオン入射角θ(図4の(B)参照)に依存して変化する。イオン照射条件が一定とすると、イオン照射方向の加工速度は、
数1
【0033】
となる。
図4の(A)に示すように、基板表面に平行にxy平面、垂直にz軸をとる。イオンは−z方向に進行するものとする。時間tにおける基板表面形状を、
数2
【0034】
と表す。基板表面のz方向の加工速度は、zをtで偏微分したものであるので、数式1,2より、座標系の正負を考慮して、
数3
【0035】
となる。θは、基板表面(xy平面)における法線とz軸とのなす角であり、
数4
【0036】
の関係式で与えられる。
ここで、V(θ)が、A+B=1の関係を有する定数A,B、およびV=V(0)を用いて、
数5
【0037】
と表されると仮定する。数式5を数式3に代入して移項し、
数6
【0038】
を得る。ここで、上式をAV項のない形に変形するため、f(x,y,t)を、
数7
【0039】
とおく。tを固定した場合、右辺第2項のAVtは定数となるので、g(x,y,t)とf(x,y,t)の差は一定となる。すなわち、z=g(x,y,t)はz=f(x,y,t)をz方向に平行移動した曲面を表している。数式7を数式6に代入し、
数8
【0040】
を得る。z=g(x,y,t)上の点(x,y)における法線方向の加工速度をVgnとすると、Vgnは幾何学的な関係から、
数9
【0041】
となる。数式8より∂g/∂tを求め、数式9に代入して、
数10
【0042】
の関係を得る。B,Vは定数であるので、この式は、Vgnが一定であることを示している。
つぎに、z=g(x,y,t)が表す曲面の性質を求めるため、z=g(x,y,t)を、tについて解き、その解を、
数11
【0043】
と表す。G(x,y,z)=tは時間t=tにおけるz=g(x,y,t)の形状を表す。Zがx,y,tの関数であることに着目して、数式11の両辺をx,y,tでそれぞれ偏微分する。その結果、
数12
【0044】
の関係式を得る。g=zであるので、数式8においてgをzに置き換え、1/cosθ=1+tanθの関係を利用して変形すると、
数13
【0045】
の関係が得られる。数式13に数式4を代入し、さらに、数式12の関係式を代入して整理すると、
数14
【0046】
が得られる。数式14は、光学においてアイコナール方程式と呼ばれている。光学では、アイコナール方程式は波面を表す。G(x,y,z)が半球面や半円柱面または平面の場合、G(x,y,z)はそれぞれ、
数15
【0047】
数16
【0048】
数17
【0049】
と表される。数式15〜17における各定数を適当に定めることによって、各式が数式14を満たすようにできる。数式14を満足する曲面は、光波面の進行状態や広がり方からもわかるように、数式15〜17で表される曲面以外には存在しない。
以上のことは、V(θ)が数式5で表される場合、イオン加工量が充分に大きくなると、基板表面の初期形状にかかわらず、いずれ基板表面が球面、円柱面、平面だけで構成された形状になることを示している。
【0050】
[2]イオン加工速度Vのイオン入射角θ依存性
単結晶シリコンのイオン加工速度について、イオン入射角依存性V(θ)を測定した。シリコン(Si)には、表面が(100)面で、表面を鏡面研磨した(100)シリコンウエハ((100)Si)を用いた。イオン加工装置には、カウフマン形イオン源を備えたイオンシャワー装置を用いた。イオン化ガスにはアルゴン(Ar)を用いた。Arイオン照射条件は、加速電圧;2kV、イオン電流密度;13mA/cmとし、このときイオン照射室内圧力は5×10−3Paであった。適当な大きさのSiウエハで(100)Siウエハの一部分をマスクしてイオン照射し、(100)Siウエハ表面にイオン照射部と未照射部を形成した。イオン照射部と未照射部の段差を表面粗さ計で測定して、イオン加工量(加工深さ)を求めた。加工量をイオン照射時間で割り、加工速度を求めた。イオン照射方向に対する(100)Siウエハ表面の傾き角を変えながら、このような加工速度の測定を繰り返した。一つの傾き角に対して、2時間イオンを照射した。入射角0°において、加工速度は、約6μm/hであった。実験結果を図5(B)に示す。θ=0°,10°,20°の3点のデータから、最小二乗法を用いて数式5の係数を求めたところ、
数18
【0051】
となった。この値を数式5に代入して求めたV(θ)をV(θ)とし、V(θ)を実験値と重ねて図5(B)に示している。θ=40°を越えるあたりまで、V(θ)と実験値はほぼ一致している。数式9のVgnは直接測定できない。数式7を用いて数式9のgをfで表し、さらに、数式3の関係を用いて、
数19
【0052】
を得る。上式において、AVに数式18の値を代入し、V(θ)に各θに対する実験値を代入すると、実験値に基づくθとVgnの関係を求めることができる。このようにして求めたθとVgnの関係を図5(C)に示す。この図には、数式10に数式18の値を代入して求めたVgn(θに依存しない一定の値)の絶対値BVも示している。θが0°からある値まで、数式19から求めたVgnはBVと一致し、一定である。このある値をθmaxとすると、θmaxは40°を越えるあたりとなる。θがθmaxより大きくなると、数式19によるVgnはBVよりも小さくなり、θとともに低下する。
以上から、イオン入射角θが0°からθmax(40°を越えるあたり)までは、実験から測定したV(θ)が数式5の形で表現できる。したがって、表面に凹凸のあるシリコン基板1をイオン加工した場合、イオン加工による除去加工が充分に進み、イオン入射方向を基準とした表面の凹凸の最大傾斜角がθmaxになると、そのときに形成されている表面形状が、数式14を満たす球面、円筒面、平面だけで構成されている。この状態を予測し、適切な初期形状をシリコン基板1表面に形成してイオン加工すると、シリコン基板1表面には、最大傾斜角がθmax以下になった状況において、球面、円筒面、平面から構成される形状を形成できる。
なお、40°を越えるあたりとするθmaxは、この場合、図5(B),(C)に示した実験結果から求めた値であり、実験誤差なども当然含まれるので、球面状凹部や円筒面状凹部の形成が可能なθmaxは、球面状凹部や円筒面状凹部の形成実験から求める必要がある。そこで、図7(A)〜(E)の実験結果から、球面状凹部における最大傾斜角(最大イオン入射角)を求めた。球面状凹部が初期段階の図7(A)から四角錐凹部2全体が球面状凹部に変化した図7(E)まで、最大傾斜角は約28°であった。すなわち、球面状凹部は最大傾斜角が一定で曲率半径が大きくなっている。このことから、Vgnが一定となる最大イオン入射角θmaxは、図5(B),(C)からの推定値ではなく、
数20
【0053】
と評価される。イオン入射角0°〜θmax(約28°)の範囲において、Vgnは一定となり、図5(C)のθによるVgnの変化から、θmax(約28°)以上になると、Vgnは減少していく。
なお、上記実験の加工速度は約6μm/hであるが、図6〜図13に示した実験の加工速度は約5μm/hであり、多少違っているが、これは個々のシリコン基板1の抵抗率の違いによるものと推測される。
【0054】
[3]四角錐凹部2から球面状凹部に加工できる根拠
四角錐状凹部は、結晶異方性エッチングの特性から、4つの(111)面で構成されており、その頂点は4つの四角錐側面が1点に集まっている。四角錐状凹部側面の(111)面が表面の(100)面となす角は54.7°である。四角錐状凹部側面の隣り合う(111)面の稜線が表面の(100)面となす角は45°である。
本発明に用いるイオン加工装置は、加速されたイオンビームがほぼ平行状態で進み、試料表面を照射する。試料表面を形成している形状のなかで、表面および四角錐凹部2側面の平面ではθが一定のため、平面領域は狭まるが、その平明領域は平面のままで加工されていく。しかし、イオン加工前において、四角錐凹部2の頂点は、数学的には曲率半径0の球面と考えてよい。イオン加工が始まり、四角錐状凹部側面の隣り合う(111)面の間に円柱面状の曲面が形成された場合において、四角錐凹部2の頂点では、−45°<θ<45°となる。数式20より、θがθmax(約28°)より大きくなるとVgnが減少する。このため、数式7のようにz=g(x,y,t)に変換した表面形状において、θが約28°よりも大きくなる領域は、法線方向の加工速度が遅くなり、やがて、法線方向の加工速度が速い、θが約28°以下の形状に置き換えられる。四角錐凹部2頂点から形成される球面状凹部はθが約28°以下であり、イオン加工が進行するとともに、初期形状は球面状凹部に置き換えられる。
【0055】
[4]楔状凹部から円筒面状凹部に加工できる根拠
楔状凹部は、4つの(111)面で構成され、このなかの相対する2つの(111)面が楔状になっている。楔状の領域では−54.7°<θ<54.7°である。平面領域は平面を保ちながらイオン加工が進む。楔の稜線にあたる部分は、数学的には曲率半径0の円柱面であり、ここから円筒面状凹部が成長していく。この場合、球面状凹部形成と同様に、円筒面状凹部における最大傾斜角(最大イオン入射角)は約28°となり、数式7のようにz=g(x,y,t)に変換した表面形状において、θが約28°よりも大きくなる領域は、法線方向の加工速度が遅くなり、やがて、法線方向の加工速度が速い、θが約28°以下の形状に置き換えられる。この結果、イオン加工によって、楔状凹部は、円筒面状凹部に置き換わる。なお、楔状凹部の両端部分は、半球面となる。
【0056】
《本発明における金型の特徴》
(金型)
本発明のマイクロレンズ成形用凹部3を形成したシリコン基板1は、そのまま金型として、あるいは、保護膜を付着して金型として、あるいは成形する材料との分離性を高める分離膜を付着して金型として使用される。あるいは、このシリコン基板1に形成したマイクロレンズ成形用凹部3を母型として、別の材料で金型を作るために使用することができる。なお、特許請求の範囲でいう「金型」とは、直接金型として使用する外、別の金型を作る際の母型として使用する場合も含む概念である。
【0057】
《本発明の金型によるマイクロレンズの製法》
本発明で得られたマイクロレンズ用金型を以下、金型Mという。この金型Mには、前記図14〜図16に示すような種々の形状のマイクロレンズ成形用凹部3が形成されており、各マイクロレンズ成形用凹部3は直接、金型として使用する他、母型としても使用される。以下に、金型Mを用いてマイクロレンズアレイを製造する方法を説明する。
【0058】
(金型Mの金型としての利用)
金型Mを金型として使用する方法としては、つぎの三つが代表的である。
(1−1)光硬化樹脂への形状転写(図18参照)
光硬化樹脂は、波長 300 〜 400 nm の紫外線を照射すると硬化する性質を有する。
1.基板11に光硬化樹脂12を塗布したものを用意する。基板11には、石英ガラス、サファイアのように紫外線を透過する材質で製造されたものを用いる。金型M表面には、シランカップリング剤などの剥離剤を塗布する。
2.金型Mの金型面を光硬化樹脂12表面に当て、金型M・基板11間に圧力をかける。その結果、光硬化樹脂12は金型の形状を有した状態で保持される。
3.前記2の状態にて、基板11の裏面から紫外線13を照射する。
4.光硬化樹脂12が硬化した後、金型Mを離す。その結果、マイクロレンズアレイLaを形成した基板を製作できる。
【0059】
(1−2)光学ガラスへの形状転写(図19参照)
光学ガラスとして、400℃ 〜 600℃前後の温度でプレス成形することを目的に開発されているモールド成形用ガラスを用いる。普及型の写真機用レンズの製造に、この技術が利用されている。シリコンの融点は1400℃と高く、800℃以下にて機械的に安定な材料であるので、本発明による金型Mからガラス製マイクロレンズアレイLaを製造できる。
上型21として平面を形成した従来の金型、下型として金型Mを用いる場合について、説明する。
1.下型(金型M)を鏡筒22に組み込む。
2.下型(金型M)上にガラス材23をセットする。
3.上型21、下型(金型M)、鏡筒22などを加熱するとともに、上型21を下型(金型M)に押し付けるようにプレスする。
4.冷却後、ガラス材23と一体となった金型Mを取り出す。
5.形状転写されたガラス材23を金型Mから分離し、マイクロレンズアレイLaを得る。
前記5では、ガラス材の離型性を向上させるため、Pt-Ir皮膜、DLC(ダイアモンド状炭素)皮膜を用いることができる。また、KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、マイクロレンズアレイLaだけを分離することもできる。なお、金型Mのコストは低く、このようにしても、コスト的には問題ない。
上型21には平面を有するものを用いたが、この部分に金型Mをセットすることで、両面に凸形状のマイクロレンズを形成したマイクロレンズアレイLaを得ることもできる。
【0060】
(1−3)熱硬化樹脂への形状転写(図20参照)
熱硬化樹脂は、加熱すると液体に近い状態になり、さらに加熱すると硬化する性質をもつ。このことを利用して金型による熱硬化樹脂への形状転写が行われる。金型をマイクロレンズアレイを形成した2つの金型Mで構成した場合について説明する。
1.金型M,Mのなかに適量の熱硬化樹脂31をいれる。
2.成形部まわりの金型M,Mを加熱するとともに、熱硬化樹脂31を押しつぶすように金型M,Mを加圧する。その状態を保ちながら、さらに加熱して樹脂31を硬化させる。
3.加熱を中止した後、金型M,Mが適当な温度になったところで、成形された樹脂31を離型すると、熱硬化樹脂31で作製したマイクロレンズアレイLaが得られる。マイクロレンズアレイLaは両面に形成されている。
【0061】
(金型Mを母型としての利用)
金型Mを母型として利用するには、つぎの二つが代表的である。
(2−1)凹レンズ形マイクロレンズアレイを製造するための母型の作製(図21参照)
1.電鋳槽41にスルファミン酸ニッケルなどを成分にもつメッキ液42を入れ、金型Mを−電極として、マイクロレンズアレイ形状を形成した金型M表面にニッケルを、数百μm〜数mmの厚さで析出させる。
2.電鋳終了後、ニッケル層43の裏面を平面に研磨する。
3.KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、ニッケルからなる母型Maを得る。
電鋳によってニッケル製の母型Maを製作する技術は、高分子材料や高分子フィルムに形状転写するための金型を製造する方法として一般に用いられている。
【0062】
(2−2)凸レンズ形マイクロレンズアレイを製造するための母型の作製(図22参照)
前記(1−1)にて説明した方法にて得られたマイクロレンズアレイを用いる。
1.金型Mにより作製したマイクロレンズアレイを用意する。
2.マイクロレンズアレイ表面、基板側面などに導電膜51をつける。例えば、導電膜には数10 nm厚さのニッケルを利用する。
3.電鋳槽52にスルファミン酸ニッケルなどを成分にもつメッキ液42を入れ、金型Mを−電極として、マイクロレンズアレイ形状を形成した金型M表面にニッケルを、数百μm〜数mmの厚さで析出させる。
4.電鋳終了後、ニッケル層の53裏面を平面に研磨する。
5.ニッケル層53ともとのマイクロレンズアレイとを分離する。その方法の一つとして、KOH(水酸化カリウム)溶液などにより、金型Mのシリコンを溶かし去り、さらに、樹脂を溶解する溶液にて光硬化樹脂を溶かし去ることもできる。
6.ニッケルからなる母型Maをえる。
【0063】
前記(2−1)、(2−2)により作製したニッケル製母型Maは、プラスチックス・フィルムに形状を転写する熱プレス用金型、溶融したプラスチックス材料を高速度・高圧で充填し形状を転写する射出成形用金型、熱硬化樹脂を液状に近い状態で金型内に入れ、さらに加熱して樹脂を硬化させる熱硬化樹脂成形用金型などに利用できる。
【0064】
(金型の利点)
本発明の製法で得られたマイクロレンズ用金型(母型)の利点は、以下のとおりである。
a)真球度が高い
マイクロレンズ成形用凹部3の真球度が高いので、完全に近い球面からなる屈折形マイクロレンズを再現性よく製造できる。
従来の屈折形マイクロレンズの製造方法では、球面に近い屈折形マイクロレンズを再現性よく製造することが困難であったため、焦点距離、開口数、収差などの光学特性として設計値に近いマイクロレンズが要求される場合には、回折形マイクロレンズ(フレネル形マイクロレンズ)が利用されている。しかし、回折形マイクロレンズ(フレネル・レンズ)は光の集光効率、色収差などの観点から、屈折形レンズよりも光学性能が劣っている。本発明の金型によれば、光学性能の高い屈折形のマイクロレンズを上記のように製造できる。
【0065】
b)金型としての形状、寸法を自在に制御できる
マイクロレンズ成形用凹部の曲率半径、寸法、形状は、イオン加工による基板表面の除去量によって高精度に形成されているので、そのマイクロレンズ成形用凹部を直接金型あるいは母型とすることにより、設計値どおりのマイクロレンズやマイクロレンズアレイを製作することができる。
【0066】
c)平面部分(非レンズ部分)のない金型が可能
平面部分(非レンズ部分)の無い金型を用いることによって、不要な平面部分(非レンズ部分)のないマイクロレンズアレイを製造できる。立体視用のマイクロレンズアレイ、光通信における光スイッチ用のマイクロレンズアレイなど、平面部分(非レンズ部分)の存在が不要であったり、迷光の発生原因になり、平面部分(非レンズ部分)の存在が好ましくない光学機器があるが、このような光学機器に本発明の金型で製作した平面部分(非レンズ部分)のないレンズアイを利用すれば、光学機器の性能を向上できる。
【0067】
d)寸法上の制約がない
金型面に形成されるマイクロレンズ成形用凹部自体が、その深さが0.1μm程度から数100μmのものまでされているので、マイクロレンズ単体やマイクロレンズアレイ超微細なものから比較的大きいものまで、種々の寸法のマイクロレンズの作製が可能である。
【0068】
e)大面積が可能
シリコン基板1は、半導体集積回路の製造に用いられ、直径300mmの基板も製造されている。また、この大口径シリコン基板1を対象としたプロセス装置が開発されている。本発明に適用可能なイオン加工装置としては、口径380mmのイオン源を備えた装置が市販されている。これらを組み合わせて用いれば、大面積にマイクロレンズ単体やマイクロレンズアレイを形成できる。
【0069】
f)製造コストが低い
金型や母型材料としてのシリコン基板1は半導体集積回路製造用に大量に生産されているので、安価であるのでシリコン基板1をそのまま金型としても、寿命が問題にならないほど、製造コストは低い。
【0070】
(真球度が高いことによる金型としての利点の詳細)
本発明では金型の素材としてシリコン基材を用いるが、そのシリコンの材料特性を下表に示す。
硬度はステンレス・スチール以上、融点はステンレス・スチールと同程度である。また、800℃以下では、塑性変形あるいはクリープを示さなく、高温度にも耐える材料である。
【0071】
上記のシリコン基板1に本発明の製法で加工した後、表面粗さ計による形状の測定結果と、微分干渉型光学顕微鏡による観測結果から判断すると、イオン加工面は滑らかであった。よって、その断面形状に一致する円を描くことができる。
さらに、本発明における製造法では、球面のときには一点から、円筒面のときには線から、それぞれの形状が出来上がっていく。このことと、イオン加工における球面、円筒面形成過程の理論的な解析結果から、実際にえられる金型形状は理論的な球面、円筒面と考えてよい。以上から、本発明における製造法でシリコン表面に金型として形成される球面あるいは円筒面は、球面の場合には任意の面、円筒面の場合には中心軸に垂直な面で断面をみた場合、λ/5(λ;光の波長、055μm前後)の精度で一致する円となるものである。これが真球度の高い理由である。
【0072】
以上のごとく、本発明の金型は真球精度が極めて高いことから、この金型で作成されるマイクロレンズは、普通のレンズと同程度な高精度で球面、円筒面が形成されることになる。また、曲率半径、口径などの制御性が高いため、光学設計にあわせたマイクロレンズを製造できる。例えば、マイクロレンズについて、レンズ材質の屈折率、焦点距離、口径などの条件が与えられると、屈折率と焦点距離から曲率半径が定まる。この曲率半径と口径から、球面または円筒面の厚みが求まり、これに等しい深さを有する初期形状をシリコン基板1に形成できる。その後、イオン加工量を制御して曲率半径が所定の値になるようにイオン加工すればよい。
【0073】
写真機、望遠鏡、光学顕微鏡、紫外線縮小投影露光装置などに用いられるレンズ作用のある光学装置は、ほとんどの場合、球面を有する屈折形レンズで設計し製造されている。とくに、低収差が要求される光学顕微鏡、紫外線縮小投影露光装置では球面からなるレンズしか用いられていない。このような普通の光学系に用いられている屈折形レンズと同程度な球面を有する屈折形マイクロレンズは、光通信装置、画像関連装置、再帰反射装置などにおいて、大幅な性能向上に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るマイクロレンズ用金型の製法を示す概略工程図である。
【図2】エッチング工程100の工程図である。
【図3】エッチング加工工程で用いるフォトマスクのマスクパターンを示す説明図である。
【図4】イオン加工工程200の説明図である。
【図5】(A)図はスパッタ収量Y(θ)とイオン入射角θの関係を示したグラフ、(B)図は入射角θと加工速度の関係を数式5と比較したグラフ(C)図はZ=g(x,y,z)の法線方向加工速度(Vgn)とイオン入射角(度)の関係を示したグラフである。
【図6】(A)図は加工量と真円度の関係を示すグラフ、(B)図は加工量と曲率半径の関係を示すグラフである。
【図7】イオン照射時間と加工形状の推移を示すグラフである。
【図8】(A)図はシリコン基板1に形成された四角錐凹部2との初期形状を示す平面図、(B)図は10時間イオン照射後のマイクロレンズ成形用凹部3を示す平面図である。
【図9】シリコン基材に四角錐凹部2が形成されたイオン加工直前の初期状態を示す説明図で、(A)図は1個の四角錐凹部を示す平面図、(B)図は1個の四角錐凹部の断面図である。
【図10】イオン加工後2時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。
【図11】イオン加工後4時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。
【図12】イオン加工後10時間経過時を示す、(I)図は多数の凹部を示す平面図、(A)図は1個のマイクロレンズ成形用凹部の平面図、(B)図は1個のマイクロレンズ成形用凹部の断面図である。
【図13】イオン加工後19時間経過時を示す、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。
【図14】金型Mの金型形状の第1例と第2例を示す平面図である。
【図15】金型Mの金型形状の第3例、第4例、第5例を示す平面図である。
【図16】金型Mの金型形状の第6例と第7例を示す平面図である。
【図17】マイクロレンズアレイの一例の写真である。
【図18】本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。
【図19】本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。
【図20】本発明の金型Mを用いたマイクロレンズアレイの製法の説明図である。
【図21】本発明の金型Mを用いた母型Maの製法の説明図である。
【図22】本発明の金型Mを用いた母型Maの製法の説明図である。
【図23】(A)図は従来の製法であるリフロー法の説明図、(B)図はリフロー法で得られたマイクロレンズアレイ斜視図である。
【符号の説明】
【0075】
1 シリコン基板
2 四角錐凹部
3 マイクロレンズ成形用凹部
4 フォトマスク
5 開口
M 金型
Ma 母型

Claims (9)

  1. 単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成するエッチング工程と、
    前記四角錐凹部をイオン加工によりマイクロレンズ成形用凹部に形成するイオン加工工程とを順に実行する
    ことを特徴とするマイクロレンズ用金型の製法。
  2. 前記エッチング工程が、表面が{100}結晶面である単結晶シリコン基板に化学的な異方性エッチングを施す工法である
    ことを特徴とする請求項1記載のマイクロレンズ用金型の製法。
  3. 前記イオン加工工程が、前記シリコン基板に対し不活性なガスをイオン化ガスとして用い、加速したイオンを前記シリコン基板に照射して行う除去加工である
    ことを特徴とする請求項1記載のマイクロレンズ用金型の製法。
  4. 前記四角錐凹部として正四角錐凹部を形成しておき、球面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成する
    ことを特徴とする請求項1記載のマイクロレンズ用金型の製法。
  5. 前記四角錐凹部として長四角錐凹部を形成しておき、円筒面状のマイクロレンズ成形用凹部を形成する
    ことを特徴とする請求項1記載のマイクロレンズ用金型の製法。
  6. シリコン基板上にマイクロレンズ成形用凹部を形成した
    ことを特徴とするマイクロレンズ用金型。
  7. シリコン基板上に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成した
    ことを特徴とするマイクロレンズ用金型。
  8. シリコン基板に複数個のマイクロレンズ成形用凹部を整列させて形成すると共に、各マイクロレンズ成形用凹部の周囲に平坦部が無くなるように各マイクロレンズ成形用凹部が互いに接触して形成されている
    ことを特徴とするマイクロレンズ用金型。
  9. 前記マイクロレンズ成形用凹部が、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより四角錐凹部を形成した後、該四角錐凹部をイオン加工により球面状にまたは円筒面状に形成されたものである
    ことを特徴とする請求項6,7,8のいずれかに記載のマイクロレンズ用金型。
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