本発明は、特に振動手段で発生される超音波を気体中に効率よく伝播させる、あるいは気体中を伝播してくる超音波を効率よく受信するための、セラミックス多孔体を含む音響整合体、それを用いた超音波センサ、およびその超音波センサを用いて超音波の送受信信号処理を行う超音波送受信装置に関する。
超音波センサに用いる音響整合層を多孔体で構成することは知られている(例えば、特開平6−327098公報(特許文献1))。
図16に示すように、超音波センサ101は、一対の対向電極106に挟まれた圧電体(振動子ともいう)102と、これら対向電極106に接続された超音波信号発生装置105とから構成される。
圧電体102で発生した超音波は音響整合層103を介して空中に放射される。この音響整合層103は例えばエポキシ樹脂中に微小中空球体を均一に分散させたものであり、その音速は1800m/s、密度は0.7×103kg/m3である。
音響整合層に用いる多孔体には様々な形態のものがある。その代表的なものの一つとして、セラミックス粉末とアクリルの微小球とを混ぜ合わせたものをフィルム上に薄く塗布し、乾燥した後にフィルムから剥がすことにより得られる薄膜を複数枚積層し、積層体を電気炉でセラミックス粉末が結合するまで温度を上げて焼結させることにより製造されるものがある。アクリルの微小球が焼き飛ぶことにより空隙が形成され、多孔体が形成される。このようにして製造される多孔体の特徴は、空隙が微小であることと、空隙が一様な分布で構成されることである(特開2002−51398号公報(特許文献2)参照)。
別の音響整合部材として、複数の微小片を集合して、それぞれの微小片の接触面で互いに接合する構成を有するものがある(例えば、特開2001−346295号公報(特許文献3参照))。さらに、樹脂に中空球体が混入された音響整合層材料を用いた音響整合層の製造方法も開示されている(特開2002−58099号公報(特許文献4))。
また、中空球状体を加熱し、軟化した材料をモールド中で圧縮する方法により音響整合部材を製造する方法が知られている(特開平2−177799号公報(特許文献5)参照)。この方法によれば、中空球状体がマトリックスを形成し、隣接する中空球状体のマトリックスの接点で相互に結合しているが、中空球状体間に空隙が存在する構造体が得られる。特開平2−177799号公報には、この構造体の音速は約900m/s、音響インピーダンスは約4.5×105kg/m2sと記載されている。音響インピーダンスは、密度(ρ)と音速(C)の積(ρ・C)と定義されるので、この中空球体のマトリックスは密度が約0.5g/cm3と算出される。
さらにまた、無機酸化物の乾燥ゲルからなる音響整合層も知られている(例えば、特開2002−262394号公報(特許文献6)参照)。これも多孔体構造であり、ナノメートル・オーダーの寸法を有する孔を有する。このような無機酸化物の乾燥ゲルは、密度が0.5g/cm3以下、音速が500m/s以下のものとして得られる。
このような無機酸化物の乾燥ゲルを、複合構造の音響整合層として形成することが本出願人(米国における譲受人)によって提案されている(2003年5月14日出願、日本国特願2003−136327号)。この複合構造の音響整合層は、具体的には、第1層と第2層を有し、第1層の音響インピーダンスZ1と第2層の音響インピーダンスZ2がZ1>Z2の関係を満たし、第2層が無機酸化物の乾燥ゲルから成るものである。この複合構造の音響整合層の第1層は、具体的には、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットを混合した粉体をプレスした後に、400℃の熱処理でアクリル製微小球を除去して空隙を形成し、さらに900℃の熱処理で焼結させることにより多孔質体を得た後、この多孔質体を適切な大きさ、例えば、直径が12mm、厚さが0.85mmとなるように研磨することにより作製される。
前記出願には、音響整合層を音響インピーダンスの異なる複数の部材、特に異なる部材によって構成することに有用性があると記載されている。さらに前記出願にはこれを実現するために、前記第1層の音響整合層(多孔質体)に、ゲル化および乾燥する前の流動性を有する無機酸化物材料を充填してから固形化して、前記第2層の音響整合層を形成することが記載されている。前記出願においてはまた、この製造方法によれば、第1層と第2層とは一部において連続して一体化しているため、物理的形状効果(アンカー効果)が生じて層間で剥離が生じにくくなると記載されている。
このように、様々な音響整合部材が提案されてきた。また、音響整合層として使用することに言及していないが、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成型体を乾燥、脱脂、焼成してセラミックス多孔体を形成する方法が特開2001−261463号公報(特許文献7)において開示されている。
特開平6−327098公報
特開2002−51398号公報
特開2001−346295号公報
特開2002−58099号公報
特開平2−177799号公報
特開2002−262394号公報
特開2001−261463号公報
従来の音響整合部材は、その特性および製造の容易性の少なくとも一方の点から、必ずしも満足できるものではなかった。例えば、音響整合部材を樹脂で形成すると、それを用いた超音波センサは、樹脂の温度特性の影響を受け、温度により超音波の送受信波形の振幅および周期が変化することがある。このような温度による変化は、超音波センサを用いた超音波受信装置で気体流量測定を行うのに適していない。
特開2002−51398号公報で提案されているように、セラミックス粉末とアクリル球を含む複数枚のフィルムを積層する方法は、空隙の大きさの均一性および空隙分布の均一性において優れた音響整合部材を与えるが、製造工程が煩雑である。また、この方法に従って得た音響整合部材においては、アクリル球が残らないため無駄となる。したがって、この方法は製造コストの点でも不利である。
複数の微小片を集合して多孔体を製造する方法、および中空球状体がマトリックスを形成するように中空球状体を相互に結合させた多孔体を製造する方法により得られる音響整合部材は、接点での結合が弱く、超音波の伝播損失が大きくなる傾向にある。
無機酸化物の乾燥ゲルは音響整合部材に適した優れた特性を有する。これを第2層とし、別の多孔体を第1層とする複合構造の音響整合部材もまた、同様に優れた特性を有する。しかしながら、第1層として使用する多孔体によっては、無機酸化物の乾燥ゲルと第1層の多孔体との間の結合の強さが十分でないことがある。また、特願2003−140687号に具体的に記載されている第1層の製造方法は、必ずしも容易に実施できない。例えば、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットとを混合した粉体をプレスした後に、アクリル製微小球の除去と焼結とを実施する製造方法により得られる部材は、焼結後に適当な大きさに研磨する必要がある。かかる研磨は、焼結後に得られる部材の寸法が、焼結前のプレスした粉体の寸法の約3分の1に収縮し、かつ焼結後の部材において反りが発生することにより必要となる。しかし、ある部材を、特に主表面が所定面積となるように、また主表面の反りおよび凹凸の度合いが所定範囲内となるように研磨する作業は一般に煩雑であり、時間を要する。
また、無機酸化物の乾燥ゲルは、強度が小さくて欠けやすいという点で、実用的でない。そのことは、例えば、無機酸化物の乾燥ゲルである第2層と別の多孔体である第1層を複合させた音響整合部材において、第2層の最適厚さが小さいことによる。例えば、周波数fが500kHzである超音波を扱う場合、乾燥ゲルにおける音速Cが500m/sであると、乾燥ゲルを伝播する超音波の波長λはC/fで求められ、1mmとなる。
一般に、音響整合部材の最適厚さはそれを通過する超音波の波長の4分の1であるから、乾燥ゲルから成る音響整合部材の最適な厚さは0.25mmと非常に小さくなる。また、音響整合部材の最適厚さは音速によって異なるために、最適な音響整合部材を得るためには、超音波受信装置を組み上げた後に出力を測定しながら、任意の出力が得られるように第2層を研磨して厚さを調節する必要がある。しかしながら、第2層が乾燥ゲルである場合には、研磨の際に第2層の端が欠けやすく、そのような厚さを実現することは一般に困難である。
本発明は、従来の音響整合部材が有する問題に鑑みてなされたものであり、より優れた特性を有する音響整合体を提供すること、無機酸化物の乾燥ゲルを有効に利用して優れた特性を有する複合構造の音響整合体を提供すること、およびそのような音響整合体を簡便に製造することを可能にする製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために検討した結果、音響整合体の特性は、多孔体の孔径と孔径分布の影響を受け、良好な特性を実現するには、多孔体の孔径を小さくするとともに、孔径分布を均一にすることが有効であることが判った。さらに、孔径が小さく、かつ孔径分布が均一であって、高い強度を有する多孔体の一つとして、特開2001−261463号公報に開示されたセラミックス多孔体に着目し、これを音響整合体として使用すると、優れた特性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
さらに、前記無機酸化物の乾燥ゲルに欠け等が生じないように製造および使用する可能性について検討した。具体的には、無機酸化物の乾燥ゲルを他の多孔体と複合させるときに、当該他の他孔体の形状を工夫して、第2層の端部を保護する構成とすることを検討した。そこで、第2層の端部を保護する構造として、当該他の多孔体に凹部を形成し、この凹部内に無機酸化物の乾燥ゲルを配置して、端部を保護する構造を検討した。かかる構造を実現するには、凹部を形成するために当該他の多孔体を切削加工等する必要があるところ、一般的な多孔体は切削加工が施しにくく、このための作業には多大な時間と費用が必要である。本発明者らは、前記特定のセラミックス多孔体を使用すれば、切削加工をすることなく成形により凹部を形成することが可能であり、無機酸化物の乾燥ゲルの端部が当該セラミックス多孔体により保護される構成が容易に得られることを見出した。
即ち、本発明は、第1の要旨において、セラミックス多孔体を含む音響整合体であって、当該セラミックス多孔体が、
セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子を含み、
当該セラミックマトリックスが複数の孔部を規定し、
当該セラミックスマトリックスにおいて、セラミックス粒子間空隙が形成されている、音響整合体を提供する。この音響整合体を構成するセラミックス多孔体は、均一な孔径分布を有する。また、このセラミックス多孔体は、セラミックスマトリックスが規定する孔部に加えて、セラミックスマトリックスにおいて形成されるセラミックス粒子間空隙を有する。即ち、このセラミックス多孔体は、全体として高い強度を有した状態にて、多くの空隙を有する構造となり、その密度は低い。また、孔部とセラミックス粒子間空隙が存在することにより、セラミックスマトリックスの骨格は直線的に延びることはなく、超音波に対して曲がりくねった経路を与える。このことは超音波の伝搬速度を低減させる。したがって、この音響整合体は、低密度および低音速の特性を有するものとなり、これを音響整合層として使用する超音波センサは、超音波の伝播特性が有意に向上したものとなる。
ここで、「孔部」とは、複数のセラミックス粒子から成るセラミックマトリックスを巨視的に(例えば倍率20倍程度の顕微鏡で)観察したときに、空孔として認識される部分をいう。「セラミックス粒子間空隙」とは、セラミックスマトリックスを構成する粒子と粒子との間に形成される微小な空間をいい、具体的には直径10μm以下の小孔である。あるいは、「孔部」は、後述する方法に従ってセラミックススラリーを発泡させることにより形成される空孔ともいえ、「セラミックス粒子間空隙」は、発泡の有無にかかわらず、セラミックス中に形成される空孔であるともいえる。また、「音響整合体」という用語は、音響整合層として超音波センサ等に組み込む前の独立した部材を指すために用いられ、これは超音波センサ等に組み込まれると「超音波整合層」と呼ばれる。即ち、「音響整合体」と「音響整合層」はその機能等において変わるところはなく、超音波センサ等に組み込まれているか否かの違いを有するだけである。
この音響整合体は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にあることが好ましい。孔径が500μmを越えると、超音波の伝播に支障を来すことがある。一方、孔径が100μm未満であると、超音波の伝播には支障を来さないが、後述するように、この音響整合体と別の音響整合体とから成る複合構造の音響整合体を製造する場合に支障を来すことがある。特に、当該別の音響整合体を、後述するように液体の原材料をこの音響整合体に含浸させて形成する場合に、孔径が小さいと表面張力のために含浸が進行せず、あるいは、溶液置換が進行しにくいことがある。
この音響整合体を構成するセラミックス多孔体は、表層と、この表層に連続する内層とを有し、当該表層の密度は当該内層の密度よりも大きいものであることが好ましい。ここで、「密度」という用語は、ある部材または要素の質量と見掛けの体積とから求められる密度(即ち、嵩密度)を指し、本明細書において「密度」は、特に断りのない限り、嵩密度を指す。この構成によれば、表層において空隙を無くす又はより小さくすることができるので、表層を気体と面するように配置した場合には、超音波をより効率良く気体に伝えることができ、表層を取り付け面とする場合には、接着剤の浸透を防止して、接着剤の浸透による超音波センサ間の超音波出力のバラツキを少なくできる。
このセラミックスマトリックスは、好ましくは難焼結性セラミックスを含むものであることが好ましい。難焼結性セラミックスは、好ましくはセラミックスマトリックスの80vol%を占め、より好ましくは90vol%を占め、さらに好ましくは100vol%を占める。
本発明はまた、第2の要旨において、第1多孔体および第2多孔体を含む音響整合体であって、
当該第1多孔体が、
セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子を含み、
当該セラミックマトリックスが複数の孔部を規定し、
当該セラミックスマトリックスにおいて、セラミックス粒子間空隙が形成されている、セラミックス多孔体であり、
第2多孔体が、当該第1多孔体よりも密度が小さく音速の遅い多孔体である、
音響整合体を提供する。この音響整合体は、第2多孔体により、気体との音響インピーダンスの整合がより良好なものとなる。
この複合構造の音響整合体は、第1多孔体において、孔部が、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にある寸法を有することが好ましい。第1多孔体がそのような寸法の孔部を有すると、後述するように、第2多孔体の出発原料溶液を含浸させる方法で、第2多孔体を第1多孔体に複合一体化するときに、第2多孔体の原料溶液が含浸されやすい。また、そのような寸法の孔部は、例えば、周波数が500kHzの超音波伝播に支障のないものである。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は無機酸化物の乾燥ゲルで形成されることが好ましい。無機酸化物の乾燥ゲルを用いることにより、第2多孔体を第1多孔体よりも密度の小さいものとすることができ、かつ第1多孔体と第2多孔体との接合を強くすることができる。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は、第1多孔体によってその外周部が取り囲まれていることが好ましい。即ち、第2多孔体はその表面方向の輪郭(即ち、第2多孔体の表面積を決定する輪郭)が、第1多孔体と接していることが好ましい。それにより、第2多孔体の外縁が欠けることが防止され、例えばこの複合構造の音響整合体の厚さを第2多孔体が位置する表面を研磨することにより制御することが可能となる。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は、第1多孔体の孔部およびセラミックス粒子間空隙の一部または全部を充填していることが好ましい。それにより、第2多孔体がアンカー効果によって第1多孔体により強固に結合する。
本発明は、第3の要旨において、難焼結性のセラミックス粉末を少なくとも1種類有する含気泡セラミックススラリーを成形型内でゲル化してゲル状多孔質成形体を得ること、
ゲル状多孔質成形体を乾燥および脱脂すること、および
ゲル状多孔質成形体を焼成すること
を含む、音響整合体の製造方法を提供する。この方法は、難焼結性のセラミックス粉末を利用すること、および含気泡セラミックススラリーをゲル化することに特徴を有する。この製造方法によれば、上記第1の要旨において提供されるセラミックス多孔体を簡便に製造できる。またはこの製造方法によれば、孔部の寸法および空孔率の制御も可能となり、それにより所望の密度および音速を実現できる。さらに、この方法によれば、焼成して最終的に得られるセラミックス多孔体の体積は、焼成前のゲル状多孔質成形体の体積から数パーセント程度変化するだけであるから、焼成後に生じる反りを小さくすることができる。
本発明は、第4の要旨において、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーを第1成形型内でゲル化して1または複数の凹部を有するゲル状多孔質成形体を得ること、
ゲル状多孔質成形体を乾燥および脱脂すること、および
ゲル状多孔質成形体を焼成すること
を含む方法により、第1多孔体を形成すること、ならびに
第1多孔体を、第2成形型内に配置すること、
当該第2成形型内に第2多孔体の出発原料溶液を入れて、第1多孔体に当該出発原料溶液を含浸させること、
当該出発原料溶液を固体化すること、および
を含む方法により、当該凹部に第2多孔体を形成すること
を含む、音響整合体の製造方法を提供する。
この製造方法は、第2多孔体を配置するための1または複数の凹部を焼成前のゲル状多孔質成形体に形成することを特徴とする。前述のとおり、第1多孔体は、焼成前後の体積変化を小さくして製造することができるので、予め凹部を形成した場合でも最終的に得られる第1多孔体において所望の寸法の凹部を高い精度で得ることができる。また、第1多孔体は、焼成による反りが生じにくいため、特に凹部の深さが焼成前後で変化しにくい。このことは、寸法精度が要求される第2多孔体が所望の且つ均一な厚さで凹部内に形成されることを可能にする。したがって、この製造方法は、所定寸法の第2多孔体が第1多孔体に一体化した構成を得ることを可能にする。また、この製造方法は、凹部を形成するために第1多孔体を切削加工することを必要としないから、この製造方法によれば第2多孔体の外周部が第1多孔体で取り囲まれた構成を容易に得ることができる。
さらにまた、この製造方法においては、第1多孔体がセラミックスマトリックスにより規定される孔部だけでなく、セラミックス粒子間空隙を有し、当該孔部と空隙に第2多孔体の出発原料溶液が浸透して、第2多孔体が形成される。そのため、最終的に得られる第2多孔体はより高いアンカー効果を発揮して、より強く第1多孔体に結合する。
この製造方法においては、第1多孔体を、第2成形型内に、第2成形型の底面と当該凹部が対向するように配置することが好ましい。即ち、第1成形体の凹部が第2成形型の底面とともに密閉した空間を形成することが好ましい。そのように第1多孔体を第2成形型に配置して、第2多孔体の出発原料溶液を第1多孔体に含浸させることにより、余分な部分に第2多孔体が形成されることを防止できる。
この製造方法における第1多孔体の形成においては、第1成形型で成形されたゲル状多孔質成形体の乾燥を、当該ゲル状多孔質成形体の側面、上面および下面のうち少なくとも1つの面にて第1成形型を開放して実施することが好ましい。それより、ゲル状多孔質成形体の乾燥をより効率的に実施できる。この乾燥手法は、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
さらに、第1成形型を開放することは、第1成形型の型壁をスライドさせることにより実施することが好ましい。成形型の型壁をスライドさせる手法によれば、乾燥工程において、ゲル状多孔質成形体が変形することを有効に抑制でき、また、ゲル状多孔質成形体の表面を損傷することなく露出させることができる。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体に形成される凹部は、第1成形型に含気泡セラミックススラリーを流し込んだ後に形成することが好ましい。即ち、含気泡セラミックススラリーを、凹部を形成するための凸部を有しない第1成形型内に流し込んでから、凹部を形成するのに必要な型押し等を実施することが好ましい。このように含気泡セラミックスラリーをできるだけフラットな状態の第1成形体に流し込んでから凹部を形成すると、凹部において気体の残留が生じにくくなる。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体の形成に用いる第1成形型として、ゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と触れる部分が樹脂から成る成形型を用いることが好ましい。ゲル状多孔質成形体と接する面の樹脂の材料を適宜選択することにより、ゲル状多孔質成形体の表面状態を変化させることができる。ゲル状多孔質成形体と接する面が樹脂から成る成形型を用いることは、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体の形成に用いる第1成形型として、ゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と触れる部分が金属から成る成形型を用いることが好ましい。ゲル状多孔質成形体と接する面を金属とすることにより、ゲル状多孔質成形体の表面に孔部(含気泡セラミックススラリーの気泡)が存在しにくくなり、緻密な表面層を形成することができる。ゲル状多孔質成形体と接する面が金属から成る成形型を用いることは、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
本発明は、第5の要旨において、圧電体および音響整合層を含み、上記単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)または上記複層構造の音響整合体(即ち、第2の要旨において提供される音響整合体)が音響整合層である超音波センサを提供する。この超音波センサは、本発明の音響整合体を含むことにより、超音波を良好かつ確実に送受信できるものとなる。
本発明は、第6の要旨において、圧電体および音響整合層を含み、音響整合層が上記単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)または上記複層構造の音響整合体(即ち、第2の要旨において提供される音響整合体)である、超音波送受信装置を提供する。この超音波送受信装置は、本発明の音響整合体を含むことにより、超音波を良好かつ確実に送受信できるものとなる。
本発明の音響整合体はセラミックスマトリックスにより規定される孔部とセラミックスマトリックスに形成された粒子間空隙を有することを特徴とする。この音響整合体は、無機材料を主原料とするので、温度による特性変化が樹脂と比較して小さく、これを音響整合層として超音波センサに組み込んだ場合、超音波センサは良好な温度特性を示す(即ち、温度による性能変化が小さい)。また、このセラミックス多孔体は、その密度および空隙率を容易に調整できるので、本発明の音響整合体はそれらを調整することによって、所定の超音波センサに組み込むのに最適な特性を有するように構成できる。さらに、本発明の複合構造の音響整合体は、セラミックス多孔体と無機酸化物の多孔体とを組み合わせることによって、気体との音響整合がさらに改善される。したがって、そのような複合構造の音響整合体を超音波センサの超音波整合層として組み込むことにより、超音波の送受信効率を向上させることができる。また、この超音波センサを用いた超音波送受信装置を例えば気体流量測定装置として使用すれば、主信号とノイズ信号との比率を低減でき、その装置の計測精度を高めることができるとともに、受信信号の増幅度を低減することが可能となるので、回路を簡素化すること等が可能となる。
(a)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す模式図である。
(a)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を拡大して示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を拡大して示す模式図である。
本発明の実施の形態1の音響整合体の製造方法を示す工程図である。
本発明の実施の形態1の音響整合体を模式的に示す断面図である。
(a)および(b)はそれぞれ、本発明の実施の形態1の音響整合体を音響整合層とする超音波センサの一例を模式的に示す断面図である。
(a)は本発明の実施の形態2の音響整合体を模式的に示す断面図であり、(b)は本発明の実施の形態2の音響整合体を音響整合層とする超音波センサの一例を模式的に示す断面図である。
本発明の実施の形態2の音響整合体を構成する第2多孔体の製造方法の一例を示す工程図である。
本発明の実施の形態3として、本発明の実施の形態2の音響整合体の製造方法を示す模式図である。
本発明の実施の形態3に従って製造される音響整合体の一部を模式的に示す断面図である。
本発明の実施の形態4である、本発明の音響整合体を構成する第1多孔体を製造する方法において実施される一工程を示す模式図である。
図10に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
図11に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
図12に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
本発明の実施の形態5の超音波流量計の構造を示すブロック図である。
本発明の実施の形態5の超音波流量計で得られる波形図である。
従来の超音波センサを模式的に示す断面図である。
符号の説明
1...セラミックス多孔体、2...セラミックスマトリックス、3...孔部、4...表層、5...内層、6...セラミックス粒子、7...セラミックス粒子間空隙、17...振動子、18...振動子取り付け手段、19...接着手段、21...キャップ、22...端子、23...導電性ゴム、24...端子、20...気体、25...表層、26...内層、40...孔部、41...セラミックスマトリックス、42...第1多孔体、43...第2多孔体、44...音響整合体、61...第2成形型、62...容器、63...凹部、64...出発原料溶液、65...セラミックスマトリックス、66...孔部、70...成形型、71...上面部、72...ガイド部、73...側面部、74...固定底面部、75...移動底面部、76...スペーサ、77...含気泡セラミックススラリー、81...流路、82...超音波センサA、83...超音波センサB、84...送信手段、85...受信手段、86...計時手段、87...切替手段、88...超音波送受信装置(流量測定装置)、89...演算手段。
本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではないことに留意すべきである。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、特定のセラミックス多孔体から成る音響整合体を説明する。図1において、(a)は本発明の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す模式図である。図1において、1はセラミックス多孔体(音響整合体)、2はセラミックスマトリックス、3はセラミックスマトリックス2により規定される孔部、4は表層、5は内層を示す。図2はセラミックスマトリックス2の一部を拡大したもので、(a)はセラミックスマトリックスの断面を拡大した顕微鏡写真であり、(b)はセラミックスマトリックスの拡大断面を示す模式図である。図2において、6はセラミックス粒子、7はセラミックス粒子間空隙を示す。
セラミックスマトリックス2は、公知の酸化物系もしくは非酸化物系のセラミックス、または粘土鉱物等で構成される。セラミックスマトリックスは、これらのセラミックス成分が単独で又は2種以上が組み合わせて構成される。酸化物系セラミックスとしては、アルミナ系、ムライト系、およびジルコニア系を挙げることができ、非酸化物系セラミックスとしては、炭化ケイ素系、窒化ケイ素系、窒化アルミニウム系、窒化ホウ素系、およびグラファイト系を挙げることができる。
セラミックスマトリックス2は、複数の孔部3を規定する骨格であり、当該骨格の一部または全部は、セラミックス粒子により構成されている。セラミックスマトリックス2は、例えばセラミックス粒子(例えば炭化ケイ素粒子)が互いに結合している構造を有し、そのような構造は、セラミックス粒子が酸素を介して結合されることにより得られると考えられる。ここで、「セラミックス粒子が結合している」とは、セラミックス粒子間で音波が伝播されるように相互に接触していることをいう。セラミックス粒子は、一般に焼成工程において結合される。セラミックスマトリックスを構成する粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、0.6μm以下であること最も好ましい。セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径が10μmを越えると、後述する方法に従って音響整合体を製造するときにスラリー中での粒子の分散性が低下することがある。
セラミックスマトリックス2により規定される孔部3は、後述する方法に従って音響整合体を製造するときに、セラミックススラリー中に発泡剤により生成される気泡に相当する。前述のとおり、この孔部は、音響整合体の断面を20倍程度に拡大して観察したときに空孔として認識されるようなものである。このセラミックス多孔体を超音波センサ等における音響整合層として機能させるためには、孔部3の大きさを適切に選択する必要がある。具体的には、孔部3の大きさは、この音響整合体を伝播する超音波の波長よりも十分に小さい必要がある。
超音波の周波数fを500kHz、音響整合体の音速Cを2000m/sとすると、音響整合体を伝播する超音波の波長λはλ=c/f=4mm=4000μmとなる。このとき、音響整合体の孔部の大きさが300μm以上であると、孔部3の影響が超音波伝播に対して大きくなり、音響整合体から出力される超音波のエネルギーが減少する。したがって、このような超音波を伝播させる場合において、本発明の音響整合体は、孔部3の孔径分布の中心値が300μm以下となるような寸法に構成されることが好ましい。また、一般的な超音波の周波数(150kHz〜1500kHz)を考慮すれば、孔部3は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にある寸法を有するように形成されることが好ましい。孔部3の孔径は、セラミックス多孔体の断面写真から、孔部の輪郭の任意の2点を繋ぐ線分のうち、最も大きい線分を孔径として決定する。孔部が複数個連結している場合には、連結している各孔部が独立した断面円形または断面楕円形の孔部となるように補助線を引いて、補助線を引いた後の孔部の孔径を求める。孔部の孔径分布は、任意の100〜10000個の孔部について孔径を測定することにより求めることが望ましい。
この音響整合体において、セラミックス粒子6の間には微小なセラミックス粒子間空隙7が存在する。この空隙は、微視的なものであり、その孔径は10μm未満である。セラミックス粒子6間は部分的にガラスが介在して結合されていてよく、あるいはセラミックス粒子6間はガラスが介在することなく結合されていてよい。
このような孔部3とセラミックス粒子間空隙7を有するセラミックス多孔体1は、約0.4〜0.8g/cm3の密度を有し、音速Cが2000m/s〜約3000m/s程度となるので、音響整合体として機能することができる。このセラミックス多孔体1は、孔部3とセラミックス粒子間空隙7とを合わせた空孔率が好ましくは60vol%以上であり、より好ましくは90vol%以上である。
図示したセラミックス多孔体1は、表層4およびこれに連続している内層5を有する。表層4は、孔部3が形成されていない又は孔部3の割合が内層5と比べて小さい、緻密な層であり、平滑な表面を与える。表層4は、好ましくは内層の密度の2.5倍以上8.5倍以下の密度を有することが好ましい。表層4は、好ましくは10〜30μm程度の厚さを有する。表層4の厚さが30μmを越えると、表層4が超音波伝播に及ぼす影響が大きくなる。また、表層4の厚さを10μmよりも小さくすることは一般に困難である。表層4と内層5とを有する音響整合体は、後述するように、超音波センサ等において、表層4が気体側に配置してよい。表層4は密度は高いものの薄いため、音響インピーダンスには大きな影響を与えないが、気体側に配置されると、気体を平滑な表面で押すことになるため、効率的に超音波を気体20に伝播することができる。あるいは表層4は、振動子取り付け部材(即ち、容器)と面するように配置してよい。その場合に、孔部の無い又は少ない表層4は、接着剤が音響整合体1内部に浸透することを有効に防止する。
また、音響整合体として機能させるために、セラミックス多孔体1は、セラミックス粒子間の結合が十分に強いことを要する。セラミックス粒子間の結合が弱いセラミックス多孔体1においては超音波が伝達しにくくなり、また、多孔体が脆くなる。
上述したような寸法を有する孔部3およびセラミックス粒子間空隙7が形成され、且つセラミックス粒子間の結合が十分に強いセラミックス多孔体は、例えば、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成形体を、乾燥、脱脂、および焼成工程に付すことにより製造される。その製造方法を図3を参照して説明する。
図3に示すように、本発明の音響整合体の製造方法は、混合スラリーの焼成(ステップ11)、含気泡スラリーの調製(ステップ12)、成形工程(ステップ13)、乾燥工程(ステップ14)、脱脂・焼成工程(ステップ15)、および切断工程(ステップ16)に大別される。各工程で具体的に実施される工程を、図中右側にフローチャートとして記載している。また、各工程で使用される材料を図中真中の列に記載している。
ステップ11は、投入材料であるセラミックス粉(例えば炭化ケイ素とガラス)、および水(必要に応じて有機溶剤が混合される)を、例えばボールミルで混合および粉砕して混合スラリーを作製する混合・粉砕工程と、得られた混合スラリーを脱泡する脱泡工程とを含む。セラミックス粉は少なくとも1種類の難焼結性のセラミックス粉を有する。難焼結性のセラミックス粉は例えば炭化ケイ素である。難焼結性セラミックスは、好ましくはセラミックス粉全体の80vol%を占め、より好ましくは90vol%を占め、さらに好ましくは100vol%を占める。難焼結性セラミックスの割合が大きいほど、後の焼成工程において、体積変化を小さくでき、また反りが生じにくい。粉砕は、粒子の大きさが揃うように実施される。脱泡は窒素が充填されたグローブボックスなどの中で行なう。そのため、脱泡工程の前に、脱気・窒素置換工程が実施される。
ステップ12は、窒素雰囲気中で混合スラリーに界面活性剤(起泡剤)およびゲル化剤を添加して撹拌機で混ぜ合わせる泡立て工程である。この工程において、界面活性剤の種類、セラミックス粉の種類、撹拌機スピード、撹拌時間および温度は、含気泡(即ち、セラミックス多孔体においてセラミックスマトリックスにより規定される孔部)の大きさ及び分布を決定するパラメータとなる。したがって、所望の孔部が得られるようにこれらのパラメータを適切に選択する必要がある。この工程は、多孔構造を決定する重要な工程である。
ステップ13は、得られた含気泡セラミックススラリーを、任意形状の成形型に移し、ゲル化させて、ゲル状多孔質成形体を形成する工程である。ゲル化は、密閉された成形型でスラリーを数十分間放置することにより進行する。成形型は、例えば、直径10〜20mm程度、特に10.8mmの円筒形であってよい。
ステップ14は、ゲル状多孔質成形体を型から取り出して、水分および一部の有機分を除去するために実施する工程である。ゲル状多孔質成形体は手で持てるほどしっかりしている(固化されている)ので、取り扱いが容易である。あるいは、ステップ14は、成形型の型壁の一部をスライドさせて、ゲル状多孔質成形体の上面、下面および側面のうち少なくとも1つの面を露出させることにより実施してよい。それにより、成形型からゲル状多孔質成形体を取り出す必要が無くなるため、ゲル状多孔質成形体が損傷する可能性を小さくし得る。
乾燥はゲル状多孔質成形体に含有されている気泡が分解、移動および集合等しないように実施することが好ましい。例えば、20℃以上30℃以下の温度にて、48時間以上の時間をかけてゆっくりとゲル状多孔質成形体を乾燥させることが好ましい。
ステップ15は、乾燥した多孔質成型体に含まれている余分な有機分を除去するために必要な温度に加熱する脱脂工程と、セラミックス粉を結合させてマトリックスを形成するために、高温で焼成を実施する焼成工程とを含む。具体的には、脱脂の温度および時間は、使用した有機分の種類および量に応じて決定され、例えば、ゲル化剤を焼失させるために、400〜700℃にて、24〜48時間処理を実施してよい。焼成温度は使用するセラミックス粉(即ち、ガラスまたは難焼結性セラミックス粉)に応じて決定される。例えば、セラミックス粉として、炭化ケイ素およびそれよりも融点の低いガラスを用いる場合には、焼成は例えば800℃程度で行なわれる。焼成時間は、例えば、12〜48時間としてよい。炭化ケイ素とガラスを含むセラミックス粉を使用する場合、この焼成工程において、一部の炭化ケイ素粒子がガラスを介して互いに結合されることとなり、大部分の炭化ケイ素粒子は酸素を介して互いに結合されることになると考えられる。また、セラミックス粉として、炭化ケイ素のみを使用してよく、その場合には、焼成温度を900℃〜1350℃とし、焼成時間は、例えば、12〜48時間としてよい。
ステップ16は、得られた焼成体(セラミックス多孔体)を、それが音響整合体として機能するのに必要な寸法に切削する工程である。音響整合体の最適な厚さtは、セラミックス多孔体の音速をC、超音波の周波数をfとして、t=C/(4f)の式から求められる。したがって、例えば、得られるセラミックス多孔体の音速Cが約2000m/sで、使用する超音波の周波数fが500kHzである場合には、t=1mmとなるように切削加工することが好ましい。
図1に示すような、一つのセラミックス多孔体において、表層4および内層5を有する構造は、図3に示すステップ12の含気泡セラミックススラリーの調製工程に含まれる泡立て工程およびステップ13の成形工程で、気泡を傾斜配向させる方法により形成することができる。気泡を傾斜配向させることは、具体的には、ステップ11において、混合スラリーの固形分率または粘度を調整することにより実施される。
あるいは、より簡便には、ステップ13の成形工程において、含気泡スラリーと接触する部分(即ち、固化後のゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と接触する面)が、特定の樹脂または金属から成る成形型を用いると、成形型との界面でセラミックススラリーに気泡が存在できなくなる。この気泡の存在できない部分が表層4として形成される。樹脂として、例えばPET樹脂を選択すると、緻密な表層4を形成することができる。金属としては、例えば、ステンレスを選択できる。含気泡スラリーが金属面と接触することにより形成される表層は、樹脂面と接触することにより形成される表層よりも厚くなる傾向にある。また、成形型の表面が、例えばテフロン(登録商標)から成る場合には、それと接するゲル状多孔質の表面は緻密な表層を形成せず、孔部を有する面が形成されやすくなる。
このようにして製造されるセラミックス多孔体は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にあるような孔部3を有し、空孔率が約60vol%以上であり、嵩密度が約0.4g/cm3〜0.8g/cm3である構造体となる。また、セラミックス多孔体においては、孔部3が複数個連結して、連通孔を形成している。この構造体における音速は、前述のように約2000m/s〜約3000m/s程度となるので、この構造体は音響整合層として使用可能である。
図4に、本発明の音響整合体を模式的に断面図にて示す。図4は、直径10.8mmの円柱形状の音響整合体であって、厚さが約1mm〜約1.5mmとなるように加工された音響整合体を示す。図4においては、表層を有しない形態を示しているが、図1に示すような表層が一方の主表面(厚さに垂直な表面)に形成されていてよい。表層は両方の主表面に形成されてもよいが、その場合には、図13のステップ15を実施した後に得られる成形体の厚さが所望の厚さを有することが必要である。切削により主表面を研磨して所望の厚さを得ようとすると、一方の表層が削り取られることになるからである。図4に示すように、表層がいずれの表面にも位置しないような構造体を得る場合には、成形型の露出表面を構成する材料を適宜選択することにより、表層が形成されないようにしてよい。あるいは焼成後のセラミックス多孔体に形成された所定の厚さにするときに表層を削り取ってよい。
図5(a)および(b)に、このようにして製造されるセラミックス多孔体の音響整合体を用いた超音波センサの断面図を示す。図5(a)および(b)において、1はセラミックス多孔体(音響整合層)を、17は振動子を、18は振動子取り付け部材を、19は接着手段を、20は気体を示す。図示したセラミックス多孔体1は、表層25および内層26を有する構造である。図5(a)は表層25が気体側に配置された超音波センサを示し、図5(b)は表層25が接着手段19と接するように配置された超音波センサを示す。
接着手段は例えばエポキシ接着剤である。振動子取り付け部材18は金属から成り、キャップ21を取り付けることにより、振動子17が密閉空間に配置されるようにしている。
キャップ21は金属から成り、これに端子22が取り付けられることにより、振動子17の上下に設けられている振動子電極の上側の電極とこの端子22とが電気的に接続された状態となる。また、振動子17の下側の電極は、導電性ゴム23を介して他方の端子24に電気的に接続されている。端子24はキャップ21から絶縁されている。
端子22、24に超音波信号発生装置からの電気信号が印加されることで、振動子17が縦振動を起こし、その振動がセラミックス多孔体(音響整合層)1に伝わる。セラミックス多孔体(音響整合層)1は振動子17よりも大きい振幅で振動し、その振動が気体20に効率よく伝えられる。
セラミックス多孔体(音響整合層)1は表層25と内層26とに区分けできる構成を有する。図1を参照して説明したように、表層25は内層26に比べて緻密な構造で、極めて孔部が少ないか、または孔部が存在しない層である。表層25の厚さは10〜30μm程度である。表層25と内層26とを有するセラミックス多孔体の製造方法は先に図3を参照して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
セラミックス多孔体(音響整合層)1と振動子取付け部材18との接合には、接着手段19、例えばエポキシの接着剤が用いられる。セラミックス多孔体(音響整合層)1の接着面に孔部が存在する場合、エポキシの接着剤が浸透し接着ムラが生じることがある。接着ムラが生じると、同じ仕様の超音波センサにおいて、超音波出力にバラツキが生じるという不都合がある。かかる不都合を避けるためには、図5(b)に示すように、表層25の表面を振動子取り付け部材18との接合面とすればよい。
(実施の形態2)
図6(a)に本発明の実施の形態2として、複合構造の音響整合体を示し、図6(b)にこの音響整合体を音響整合層とする超音波センサを示す。図6(a)に示す音響整合体44は、直径10.8mm、厚さ1.8mmの円盤型であり、上記において説明したセラミックス多孔体を第1多孔体42として有し、第1多孔体42に形成された凹部に第2多孔体43が充填されている、複合構造を有する。
図6(a)において、第1多孔体42は、骨格となるセラミックスマトリックス41を有し、セラミックスマトリックス41により孔部40が規定された構造体として図示されているが、セラミックスマトリックス41においてセラミックス粒子間空隙が形成されていることは図1を参照して説明したとおりである。また、セラミックス多孔体42は実施の形態1のものと同様に、難焼結性のセラミックス粉末(例えば炭化ケイ素粉末)を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成形体を乾燥、脱脂、焼成して作製される。この第1多孔体42においては、実施の形態1の音響整合体と同様に、複数の孔部40が連結して連通孔が形成される。
第2多孔体43は、第1多孔体42よりも密度が小さく、音速の小さい多孔体である。第2多孔体の密度および音速を小さくすることにより、実施の形態2の音響整合体は、実施の形態1の音響整合体よりも超音波出力を増大させることができる。具体的には、第2多孔体43は、シリカのような無機酸化物の乾燥ゲルであることが好ましい。以下に、シリカの乾燥ゲルを製造する方法を図7を参照して説明する。
図7に示すように、シリカの乾燥ゲルは、原料準備工程(ステップ51)、ゲル化工程(ステップ52)、密度調整工程(ステップ53)、疎水化処理工程(ステップ54)、および乾燥工程(ステップ55)に大別される。図7においては、各工程で具体的に実施される工程を図中真中の列にフローチャートとして示している。また、各工程で投入される材料を図中右側の列に示している。
ステップ51は主原料であるテトラエトキシシランに、これを加水分解するための水、エタノール、塩酸を加えて混合溶液を調製する工程である。
ステップ52は、準備された混合溶液にアンモニアを加えてゲルを作製する工程である。この工程では、シリカがモノマーとして重合されて、多孔質のゲルが形成される。
ステップ53は、得られたゲルの骨格を増強し、任意の密度にする工程である。この工程では、テトラエトキシシラン、水、エタノール、およびアンモニアが加えられ、再び加水分解反応を進行させることにより、ゲルの骨格が増強される。この工程では反応時間および温度を管理することによってゲルが所望の密度になるように制御される。溶液をイソプロピルアルコールに置換することで、ゲルの骨格増強のための反応が停止させられる。
ステップ54は最終的に得られる乾燥ゲルが、吸湿しないようにするための処理である。この工程では、ゲルをシランカップリング処理液に投入してシランカップリング反応を進行させた後、溶液をイソプロピルアルコールに置換してシランカップリング反応を停止させる。
ステップ55はイソプロピルアルコールを蒸発させて、乾燥ゲルを得る終工程である。
このような製造工程を経て作製される乾燥ゲルは、ナノメートルサイズの気孔を有し、密度が0.2g/cm3から0.5g/cm3に調整され、その音速は300m/sから500m/sとなるので、この乾燥ゲルの音響インピーダンスは、第1多孔体であるセラミックス多孔体の音響インピーダンスよりも小さくすることができる。
第2多孔体43は、第1多孔体42に形成された凹部内に配置されている。このように、第2多孔体43を、その外縁が第1多孔体42と接するように配置することによって、第2多孔体43の縁が第1多孔体42により保護される。したがって、この複合構造を採用することによって、第2多孔体43の縁が欠けることを有効に防止できるので、例えば、第2多孔体43の表面を研磨して、その厚さDを容易に所望の厚さにすることができる。第2多孔体43は、例えば、シリカの乾燥ゲルから成る場合には、直径が約8mm、厚さが0.15〜0.4mmとなるような形状を有するように、直径約10.8mmの第1多孔体42に形成される。かかる寸法の第2多孔体43は、第1多孔体42に、前記直径を有する浅い凹部を形成し、この凹部に第2多孔体43を後述する方法によって配置させた後、第1多孔体42と第2多孔体の表面をともに研磨する方法によって得られる。この実施の形態の変形例において、複数の凹部(例えば径の異なる複数のリング状の凹部)を第1多孔体に形成して、第2多孔体43が複数箇所に(例えば径の異なるリング状に)配置されるようにしてよい。
図6(b)は、複合型の音響整合層44を用いた超音波センサの構造を示す。図6(b)に示す超音波センサは、図5(a)に示す超音波センサと同じ構造を有し、図5(a)で使用されている符号と同じ符号は同じ要素または部材を示す。図6(b)に示す超音波センサは、音響整合層が複合構造であり、第2多孔体43が第1多孔体41よりも小さい密度を有することから、実施の形態1の音響整合体を用いた超音波センサよりも超音波出力を増大させることができる。
(実施の形態3)
図8に、本発明の実施の形態3として、複合構造の音響整合体を製造する方法を模式的に示す。図8は、第2多孔体をその内部に配置するための凹部63を形成した第1多孔体42を、凹部63を下にして成形型61に載せて、容器62に収納した状態を示す。ここで用いられる成形型61と、第1多孔体42を形成するために使用する成形型とを区別するために、本明細書において、第2成形体を形成する成形型を便宜的に第2成形型と呼び、第1成形体を形成する成形型を便宜的に第1成形型と呼ぶ場合がある。よって、成形型61は第2成形型である。容器62には、実施の形態2に関連して説明した、図7に示されるステップ51で用意された出発原料溶液64が満たされている。この溶液64に、成形型61を浸漬すると、溶液64はセラミックス多孔体である第1多孔体42の連通孔を浸透し、その結果、凹部63が溶液64で満たされる。次いで、この状態のまま、図7に示すステップ52を行う。ここで、第1多孔体42の連通孔は、セラミックスマトリックスにより規定される孔部同士の連結、孔部と粒子間空隙の連結、粒子間空隙同士の連結により生成される、連続気泡である。
図9は図8に示される成形型61に載せられた第1多孔体42の一部分を拡大したものである。第1多孔体42に形成された凹部63は、第1多孔体42の連通孔を浸透した溶液で満たされるので、第1多孔体の連通孔内にもゲル(このゲルは最終的に第2多孔体43を形成することとなる)が形成される。凹部63に形成されるゲルはまた、成形型61に接触している。図9においては、セラミックスマトリックス65により規定される孔部66のみを示し、これらが形成する連通孔を示しているが、孔部66とセラミックス粒子間空隙、セラミックス粒子間空隙間にも連通孔が形成されていることに留意すべきである。
この配置のままステップ53として密度調整を実施するので、新たに加えられたテトラエトキシシラン、水、アンモニア、およびエタノールの混合溶液もまた、第1多孔体42の孔部66に形成されたゲルを通過して凹部63に生成されたゲルに到達し、凹部63および孔部66内のゲルの骨格を増強する。その後、ステップ54までこの配置のまま実施する。
各工程において使用される溶液および溶剤は、第1多孔体42の孔部66に形成されたゲルを通過して凹部63まで到達する。即ち、孔部66に形成されたゲルを通過した溶液等が、凹部63内に形成されたゲルの骨格を増強し、あるいはゲルにおいて進行している反応を停止させる。したがって、第1多孔体42の孔部66が小さすぎると、溶液の浸透が不十分になり、凹部63内に形成されたゲル43に到達しにくくなる不都合が生じる。また、第1多孔体42の孔部66が大きすぎると、超音波の伝播に支障をきたす。そのため、第1多孔体42は、セラミックスマトリックスにより規定される孔部66の孔径分布の中心値が100μmから500μmの間にあるように形成することが好ましい。この第1多孔体42の孔部66の寸法の調整は、実施の形態1で述べたように、図3のステップ12である、含気泡スラリーの調製工程において実施される。
このように、第2多孔体を、第1多孔体であるセラミックス多孔体のマトリックスにより規定される孔部等により形成される連通孔を通過するように必要な材料を含浸させて形成する方法によれば、第1多孔体に形成された凹部と成形型の表面とが密閉された空間を形成した状態にて、第2多孔体を得るための乾燥工程まで実施できる。その結果、第2多孔体の形成中、ゲルにおいて亀裂が生じにくくなる。即ち、図7の製造方法に従ってゲル単体として無機酸化物のゲルを製造する場合には、ゲルの表面が露出した状態にあるので、ゲルにおいて亀裂が入りやすいという不都合が生じやすいものの、この製造方法によれば、第2多孔体となる部分が第1多孔体により保護されて、応力を受けにくいので、亀裂が入らないようにすることができる。また、第2多孔体は、図9に示すように、成形型に接触した状態にて形成されるので、その表面は成形型の表面が平滑である場合には極めて滑らかとなる。
この製造方法により得られる音響整合体は、第1多孔体のマトリックスにより規定される孔部およびマトリックス中のセラミックス粒子間空隙の少なくとも一部が第2多孔体で充填された構造を有することとなる。したがって、第1多孔体は、第1の形態で説明した音響整合体よりも高い密度を有することとなる。複合構造の音響整合体において、第1多孔体は、その音響インピーダンスが、第2多孔体の音響インピーダンスと振動子の音響インピーダンスの間にあることが望ましいことから、第1多孔体は単体で音響整合体として使用する場合よりも大きい密度を有することを要する場合もある。そのような場合には、第2多孔体の充填により第1多孔体の嵩密度が上昇することは、超音波伝播に適した複合構造の音響整合体を構成するという観点からはむしろ好ましい。あるいはまた、第1多孔体であるセラミックス多孔体の密度は、その空孔率を調節することにより容易に調整できるから、第2多孔体の種類等に応じて所望の音響インピーダンスを有するように、第1多孔体を製造することは容易である。
(実施の形態4)
図10から図13に、本発明の実施の形態4として、複合構造の音響整合体の第1多孔体を製造する方法を模式的に示している。これらの図は、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡スラリーをゲル化してゲル状多孔質成形体を製造する工程および当該工程を実施するために用いられる成形型(即ち、第1成形型)を示している。図10に示す成形型70は、型壁となる上面部71、側面部73、移動底面部75、および固定底面部74、ならびにガイド部72およびスペーサ76で構成される。
まず、側面部73、固定底面部74および移動底面部75で囲まれた部分に含気泡セラミックススラリー77を注ぐ。このとき、移動底面部75がスペーサ76により上昇させられて、底面部24と25とは面一になっている。したがって、中心部から徐々に含気泡セラミックススラリー77を注ぎこむと、成形型内の隅々までスラリーが行き渡り、気体が残ることなく、側面部73、固定底面部74および移動底面部75で囲まれた部分を満たす。この状態から、図11に示すようにスペーサ76を取り除くと、側面部73と移動底面部75が下方にスライドし、それにより、固定底面部74がセラミックススラリーに押し込まれ、それにより第2多孔体を形成するための円形の凹部が形成される。移動底面部75と固定底面部74との間にはグリスを塗り、外部から気体が浸入しにくくすることがより望ましい。
含気泡セラミックススラリーは、側面部73および移動底面部75がスライドしたことにより、盛り上がった状態となる。この盛り上がったスラリー77は、図12に示すように、上面部21が下方に移動して余剰量を型内から押し出すことにより取り除かれて平坦にされる。この状態で、含気泡セラミックススラリー77をゲル化する。ゲル化が終了した後、図11に示すように側面部73を上方にスライドさせて、ゲル状多孔質成形体の側面を開放状態にする。それにより、ゲル状多孔質成形体に含まれる水分が蒸発しやすくなり、乾燥時間が短縮される。また、側面部73を上方にスライドさせてゲル状多孔質成形体の表面を露出させることにより、ゲルの表面を損傷することなく、ゲルを乾燥させることができる。
ゲル状多孔質成形体が完全に乾燥した後は、上面部71を上方に移動させて、乾燥したゲル状多孔質成形体77を取り出す。この後、ゲル状多孔質成形体を焼成してセラミックス多孔体が得られる。このセラミックス多孔体は、例えば、直径が10.8mm、厚さが1.8mmの円盤型となるように形成される。セラミックス多孔体が、含気泡スラリー中の気泡部分が焼成後に連通孔を形成することは、先に説明したとおりである。このようにして得られるセラミックス多孔体は、図6(a)に示す複合構造の音響整合体において、第1多孔体42を形成するものとなる。
図13において、上面部71と接触する第1多孔体の面は、図6(b)で示される超音波センサの振動子取り付け部材18に接着剤で接合される面となる。したがって、この面に孔部が存在すると、超音波センサを組み立てる際に接着剤が浸透するという不都合が生じることがある。かかる不都合を避けるために、前述したように、上面部71の第1多孔体と接する面を、例えば、PET樹脂または金属から成る面とすることにより、成形型と含気泡スラリーとの界面にて気泡が存在しにくくなり、それにより孔部が存在しない又は少ない緻密で薄い表層を形成することができる。この表層は、前述のように緻密な表面を与えて接着剤の浸透を防止し、確実な接着をもたらす。
前述したように、成形型の表面がテフロン(登録商標)から成る場合には、緻密な表層が形成されずに、孔部を有する面が形成されやすい。したがって、固定底面部74、移動底面部75、および側面部73をテフロン(登録商標)で形成すると、含気泡セラミックススラリーのゲル化の過程において、それらと接する面においては孔部が存在することとなる。表面に孔部を有するセラミックス多孔体を第1多孔体として使用すると、前述した図8に示す製造方法で第2多孔体を形成することができる。即ち、上面部77がPET樹脂または金属から成り、その他の部分がテフロン(登録商標)から成る成形型を使用すると、第1多孔体42の第2多孔体が位置しない面は、孔部の少ない緻密な面となり、側面と底面は孔部が存在する面となる。したがって、図8に示す製造方法により第2多孔体を形成する場合、溶液64は第1多孔体42の側面の孔部を通過して、凹部および孔部内にてゲル化され、図8において、第2成形型と接していない第1多孔体の表面は超音波センサを組み立てる際に接合面として使用できる。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5として、本発明の音響整合体を有する超音波センサを含む超音波送受信装置を、図14を参照して説明する。図14は、本発明の超音波送受信装置を、気体の流量を測定する流量測定装置88に組み込んだ状態を示す、回路ブロック図である。気体が流れる流路81に超音波センサA82と、超音波センサB83とが配置される。超音波センサA、Bは、超音波の伝播路が気体の流路と角度φをなすように配置されている。超音波センサA81および超音波センサB83には、送信手段84から送信信号が送られる。また、超音波センサの受信信号は受信手段85に伝えられる。送信と受信は切替手段87で選択される。切替手段87より超音波センサA82を送信手段84に接続することを選択すると、超音波センサB83は受信手段85に接続される。
図14に示されるように、気体が図において左から右に向かう方向に流れると、超音波センサA82が送信した超音波は、伝播時間T1後に超音波センサB83に到達する。反対に超音波センサB83が送信した超音波は、伝播時間T2後に超音波センサA82に到達する。このとき、気体の流れの方向が左から右であるために、T1<T2となる。これらの時間T1、T2は計時手段86によって計測される。この時間は気体の流速と関連する。また、気体の流量は、流速と流路断面積から算出できるので、時間T1、T2から流速を知ることで、流量が求められる。演算手段89は、計時手段86からのデータに基づいて流量を求める。
図15は、超音波センサの送信信号と受信信号の波形を示した波形図である。図15においては、超音波センサA82が超音波を送信し、超音波センサB83が超音波を受信するときの、超音波センサAへの送信信号がa−1で示され、超音波センサB83の受信信号がa−2で示されている。また、図15においては、超音波センサB83が超音波を送信し、超音波センサA82が超音波を受信するときの、超超音波センサBへの送信信号がb−1で示され、超音波センサA82の受信信号がb−2で示されている。
受信手段85は受信信号を増幅する。このため、実施の形態2のような複合構造の音響整合層を用いて超音波センサを組み立てると、大きな受信信号を得られるので、増幅回路手段を小規模なものにすることができる。超音波センサの受信信号を主信号と呼び、これに対して増幅回路手段で発生する不用信号および外部から侵入する不用信号をノイズと呼ぶ場合、大きな主信号が得られるほど、増幅度を低減できるとともに、増幅回路手段によるノイズも低減できる。また、外部からのノイズに対する主信号の比率が大きくなるので、見かけ上、ノイズの影響を受けにくくなる。これらは計測精度の向上につながる。
受信信号の最初の波は小さいので検出が難しい。このため、受信手段85は例えば第3波のP1およびP2のポイントをコンパレータによる回路手段で検出している。このため、温度により波形が変化すると、計測誤差が増大する。そこで、超音波センサAおよびBの音響整合層を、無機物で構成すると、無機物は温度によりその音響特性が変化しにくいので、波形に及ぼす影響が少なくなり、計測精度を向上させることができる。本発明の音響整合体は、無機物であるセラミックス多孔体を含むから、温度による波形変形が抑制され、計測精度の向上に寄与する。
また、実施の形態2として説明した複合形態の音響整合体は、第2多孔体として無機酸化物の乾燥ゲルを使用し、これの原料となる混合溶液を第1多孔体であるセラミックス多孔体に含浸させて乾燥ゲルを製造する方法により、第2多孔体が第1多孔体のセラミックスマトリックスで規定される孔部と、セラミックスマトリックス中に形成されるセラミックス粒子間空隙に充填された構造体として得られる。かかる構造体においては、孔部およびセラミックス粒子間空隙の両方に充填された第2多孔体がアンカー効果を発揮して、第2多孔体と第1多孔体との間で高い結合強度が得られる。そのため、大きな送信信号を送信手段84から超音波センサに与えて、音響整合体を大きな振幅で振動させても第1多孔体と第2多孔体との間で剥離が生じない。したがって、本発明の超音波送受信装置は、特に複合形態の音響整合層と使用した場合には、送信信号を大きくして受信信号を大きくすることができ、それにより計測精度を高くしうる。さらに、複合形態の音響整合層においては、第2多孔体が良好な音響整合をもたらすとともに、第1多孔体が受信される信号の波形を決定し、特定ポイント(図15におけるP1、P2)の計測に有利な大きい振幅の信号を形成する。したがって、本発明の複合形態の音響整合層は、全体として音響整合および波形成形の両方において優れることとなる。
以上のように、本発明にかかる音響整合体は気体と振動子との音響インピーダンスの整合をとり、超音波発生装置からの超音波出力を向上させること、および気体を伝播する超音波を受信する超音波受信装置の受信出力を向上させることを可能にする。したがって、本発明の音響整合体は、天然ガスおよび液化石油ガスの流量を測定する業務用および家庭用の超音波式ガス流量測定装置(例えば、ガスメータ)、ならびに水素のように音速が大きく、振動子との音響インピーダンスの整合をとりにくいガスの流量を測定する超音波式の流量測定装置に使用するのに適している。
本発明は、特に振動手段で発生される超音波を気体中に効率よく伝播させる、あるいは気体中を伝播してくる超音波を効率よく受信するための、セラミックス多孔体を含む音響整合体、それを用いた超音波センサ、およびその超音波センサを用いて超音波の送受信信号処理を行う超音波送受信装置に関する。
超音波センサに用いる音響整合層を多孔体で構成することは知られている(例えば、特開平6−327098公報(特許文献1))。
図16に示すように、超音波センサ101は、一対の対向電極106に挟まれた圧電体(振動子ともいう)102と、これら対向電極106に接続された超音波信号発生装置105とから構成される。
圧電体102で発生した超音波は音響整合層103を介して空中に放射される。この音響整合層103は例えばエポキシ樹脂中に微小中空球体を均一に分散させたものであり、その音速は1800m/s、密度は0.7×103kg/m3である。
音響整合層に用いる多孔体には様々な形態のものがある。その代表的なものの一つとして、セラミックス粉末とアクリルの微小球とを混ぜ合わせたものをフィルム上に薄く塗布し、乾燥した後にフィルムから剥がすことにより得られる薄膜を複数枚積層し、積層体を電気炉でセラミックス粉末が結合するまで温度を上げて焼結させることにより製造されるものがある。アクリルの微小球が焼き飛ぶことにより空隙が形成され、多孔体が形成される。このようにして製造される多孔体の特徴は、空隙が微小であることと、空隙が一様な分布で構成されることである(特開2002−51398号公報(特許文献2)参照)。
別の音響整合部材として、複数の微小片を集合して、それぞれの微小片の接触面で互いに接合する構成を有するものがある(例えば、特開2001−346295号公報(特許文献3参照))。さらに、樹脂に中空球体が混入された音響整合層材料を用いた音響整合層の製造方法も開示されている(特開2002−58099号公報(特許文献4))。
また、中空球状体を加熱し、軟化した材料をモールド中で圧縮する方法により音響整合部材を製造する方法が知られている(特開平2−177799号公報(特許文献5)参照)。この方法によれば、中空球状体がマトリックスを形成し、隣接する中空球状体のマトリックスの接点で相互に結合しているが、中空球状体間に空隙が存在する構造体が得られる。特開平2−177799号公報には、この構造体の音速は約900m/s、音響インピーダンスは約4.5×105kg/m2sと記載されている。音響インピーダンスは、密度(ρ)と音速(C)の積(ρ・C)と定義されるので、この中空球体のマトリックスは密度が約0.5g/cm3と算出される。
さらにまた、無機酸化物の乾燥ゲルからなる音響整合層も知られている(例えば、特開2002−262394号公報(特許文献6)参照)。これも多孔体構造であり、ナノメートル・オーダーの寸法を有する孔を有する。このような無機酸化物の乾燥ゲルは、密度が0.5g/cm3以下、音速が500m/s以下のものとして得られる。
このような無機酸化物の乾燥ゲルを、複合構造の音響整合層として形成することが本出願人(米国における譲受人)によって提案されている(2003年5月14日出願、日本国特願2003−136327号)。この複合構造の音響整合層は、具体的には、第1層と第2層を有し、第1層の音響インピーダンスZ1と第2層の音響インピーダンスZ2がZ1>Z2の関係を満たし、第2層が無機酸化物の乾燥ゲルから成るものである。この複合構造の音響整合層の第1層は、具体的には、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットを混合した粉体をプレスした後に、400℃の熱処理でアクリル製微小球を除去して空隙を形成し、さらに900℃の熱処理で焼結させることにより多孔質体を得た後、この多孔質体を適切な大きさ、例えば、直径が12mm、厚さが0.85mmとなるように研磨することにより作製される。
前記出願には、音響整合層を音響インピーダンスの異なる複数の部材、特に異なる部材によって構成することに有用性があると記載されている。さらに前記出願にはこれを実現するために、前記第1層の音響整合層(多孔質体)に、ゲル化および乾燥する前の流動性を有する無機酸化物材料を充填してから固形化して、前記第2層の音響整合層を形成することが記載されている。前記出願においてはまた、この製造方法によれば、第1層と第2層とは一部において連続して一体化しているため、物理的形状効果(アンカー効果)が生じて層間で剥離が生じにくくなると記載されている。
このように、様々な音響整合部材が提案されてきた。また、音響整合層として使用することに言及していないが、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成型体を乾燥、脱脂、焼成してセラミックス多孔体を形成する方法が特開2001−261463号公報(特許文献7)において開示されている。
特開平6−327098公報
特開2002−51398号公報
特開2001−346295号公報
特開2002−58099号公報
特開平2−177799号公報
特開2002−262394号公報
特開2001−261463号公報
従来の音響整合部材は、その特性および製造の容易性の少なくとも一方の点から、必ずしも満足できるものではなかった。例えば、音響整合部材を樹脂で形成すると、それを用いた超音波センサは、樹脂の温度特性の影響を受け、温度により超音波の送受信波形の振幅および周期が変化することがある。このような温度による変化は、超音波センサを用いた超音波受信装置で気体流量測定を行うのに適していない。
特開2002−51398号公報で提案されているように、セラミックス粉末とアクリル球を含む複数枚のフィルムを積層する方法は、空隙の大きさの均一性および空隙分布の均一性において優れた音響整合部材を与えるが、製造工程が煩雑である。また、この方法に従って得た音響整合部材においては、アクリル球が残らないため無駄となる。したがって、この方法は製造コストの点でも不利である。
複数の微小片を集合して多孔体を製造する方法、および中空球状体がマトリックスを形成するように中空球状体を相互に結合させた多孔体を製造する方法により得られる音響整合部材は、接点での結合が弱く、超音波の伝播損失が大きくなる傾向にある。
無機酸化物の乾燥ゲルは音響整合部材に適した優れた特性を有する。これを第2層とし、別の多孔体を第1層とする複合構造の音響整合部材もまた、同様に優れた特性を有する。しかしながら、第1層として使用する多孔体によっては、無機酸化物の乾燥ゲルと第1層の多孔体との間の結合の強さが十分でないことがある。また、特願2003−140687号に具体的に記載されている第1層の製造方法は、必ずしも容易に実施できない。例えば、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットとを混合した粉体をプレスした後に、アクリル製微小球の除去と焼結とを実施する製造方法により得られる部材は、焼結後に適当な大きさに研磨する必要がある。かかる研磨は、焼結後に得られる部材の寸法が、焼結前のプレスした粉体の寸法の約3分の1に収縮し、かつ焼結後の部材において反りが発生することにより必要となる。しかし、ある部材を、特に主表面が所定面積となるように、また主表面の反りおよび凹凸の度合いが所定範囲内となるように研磨する作業は一般に煩雑であり、時間を要する。
また、無機酸化物の乾燥ゲルは、強度が小さくて欠けやすいという点で、実用的でない。そのことは、例えば、無機酸化物の乾燥ゲルである第2層と別の多孔体である第1層を複合させた音響整合部材において、第2層の最適厚さが小さいことによる。例えば、周波数fが500kHzである超音波を扱う場合、乾燥ゲルにおける音速Cが500m/sであると、乾燥ゲルを伝播する超音波の波長λはC/fで求められ、1mmとなる。
一般に、音響整合部材の最適厚さはそれを通過する超音波の波長の4分の1であるから、乾燥ゲルから成る音響整合部材の最適な厚さは0.25mmと非常に小さくなる。また、音響整合部材の最適厚さは音速によって異なるために、最適な音響整合部材を得るためには、超音波受信装置を組み上げた後に出力を測定しながら、任意の出力が得られるように第2層を研磨して厚さを調節する必要がある。しかしながら、第2層が乾燥ゲルである場合には、研磨の際に第2層の端が欠けやすく、そのような厚さを実現することは一般に困難である。
本発明は、従来の音響整合部材が有する問題に鑑みてなされたものであり、より優れた特性を有する音響整合体を提供すること、無機酸化物の乾燥ゲルを有効に利用して優れた特性を有する複合構造の音響整合体を提供すること、およびそのような音響整合体を簡便に製造することを可能にする製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために検討した結果、音響整合体の特性は、多孔体の孔径と孔径分布の影響を受け、良好な特性を実現するには、多孔体の孔径を小さくするとともに、孔径分布を均一にすることが有効であることが判った。さらに、孔径が小さく、かつ孔径分布が均一であって、高い強度を有する多孔体の一つとして、特開2001−261463号公報に開示されたセラミックス多孔体に着目し、これを音響整合体として使用すると、優れた特性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
さらに、前記無機酸化物の乾燥ゲルに欠け等が生じないように製造および使用する可能性について検討した。具体的には、無機酸化物の乾燥ゲルを他の多孔体と複合させるときに、当該他の他孔体の形状を工夫して、第2層の端部を保護する構成とすることを検討した。そこで、第2層の端部を保護する構造として、当該他の多孔体に凹部を形成し、この凹部内に無機酸化物の乾燥ゲルを配置して、端部を保護する構造を検討した。かかる構造を実現するには、凹部を形成するために当該他の多孔体を切削加工等する必要があるところ、一般的な多孔体は切削加工が施しにくく、このための作業には多大な時間と費用が必要である。本発明者らは、前記特定のセラミックス多孔体を使用すれば、切削加工をすることなく成形により凹部を形成することが可能であり、無機酸化物の乾燥ゲルの端部が当該セラミックス多孔体により保護される構成が容易に得られることを見出した。
即ち、本発明は、第1の要旨において、セラミックス多孔体を含む音響整合体であって、当該セラミックス多孔体が、
セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子を含み、
当該セラミックマトリックスが複数の孔部を規定し、
当該セラミックスマトリックスにおいて、セラミックス粒子間空隙が形成されている、
音響整合体を提供する。この音響整合体を構成するセラミックス多孔体は、均一な孔径分布を有する。また、このセラミックス多孔体は、セラミックスマトリックスが規定する孔部に加えて、セラミックスマトリックスにおいて形成されるセラミックス粒子間空隙を有する。即ち、このセラミックス多孔体は、全体として高い強度を有した状態にて、多くの空隙を有する構造となり、その密度は低い。また、孔部とセラミックス粒子間空隙が存在することにより、セラミックスマトリックスの骨格は直線的に延びることはなく、超音波に対して曲がりくねった経路を与える。このことは超音波の伝搬速度を低減させる。したがって、この音響整合体は、低密度および低音速の特性を有するものとなり、これを音響整合層として使用する超音波センサは、超音波の伝播特性が有意に向上したものとなる。
ここで、「孔部」とは、複数のセラミックス粒子から成るセラミックマトリックスを巨視的に(例えば倍率20倍程度の顕微鏡で)観察したときに、空孔として認識される部分をいう。「セラミックス粒子間空隙」とは、セラミックスマトリックスを構成する粒子と粒子との間に形成される微小な空間をいい、具体的には直径10μm以下の小孔である。あるいは、「孔部」は、後述する方法に従ってセラミックススラリーを発泡させることにより形成される空孔ともいえ、「セラミックス粒子間空隙」は、発泡の有無にかかわらず、セラミックス中に形成される空孔であるともいえる。また、「音響整合体」という用語は、音響整合層として超音波センサ等に組み込む前の独立した部材を指すために用いられ、これは超音波センサ等に組み込まれると「超音波整合層」と呼ばれる。即ち、「音響整合体」と「音響整合層」はその機能等において変わるところはなく、超音波センサ等に組み込まれているか否かの違いを有するだけである。
この音響整合体は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にあることが好ましい。孔径が500μmを越えると、超音波の伝播に支障を来すことがある。一方、孔径が100μm未満であると、超音波の伝播には支障を来さないが、後述するように、この音響整合体と別の音響整合体とから成る複合構造の音響整合体を製造する場合に支障を来すことがある。特に、当該別の音響整合体を、後述するように液体の原材料をこの音響整合体に含浸させて形成する場合に、孔径が小さいと表面張力のために含浸が進行せず、あるいは、溶液置換が進行しにくいことがある。
この音響整合体を構成するセラミックス多孔体は、表層と、この表層に連続する内層とを有し、当該表層の密度は当該内層の密度よりも大きいものであることが好ましい。ここで、「密度」という用語は、ある部材または要素の質量と見掛けの体積とから求められる密度(即ち、嵩密度)を指し、本明細書において「密度」は、特に断りのない限り、嵩密度を指す。この構成によれば、表層において空隙を無くす又はより小さくすることができるので、表層を気体と面するように配置した場合には、超音波をより効率良く気体に伝えることができ、表層を取り付け面とする場合には、接着剤の浸透を防止して、接着剤の浸透による超音波センサ間の超音波出力のバラツキを少なくできる。
このセラミックスマトリックスは、好ましくは難焼結性セラミックスを含むものであることが好ましい。難焼結性セラミックスは、好ましくはセラミックスマトリックスの80vol%を占め、より好ましくは90vol%を占め、さらに好ましくは100vol%を占める。
本発明はまた、第2の要旨において、第1多孔体および第2多孔体を含む音響整合体であって、
当該第1多孔体が、
セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子を含み、
当該セラミックマトリックスが複数の孔部を規定し、
当該セラミックスマトリックスにおいて、セラミックス粒子間空隙が形成されている、セラミックス多孔体であり、
第2多孔体が、当該第1多孔体よりも密度が小さく音速の遅い多孔体である、
音響整合体を提供する。この音響整合体は、第2多孔体により、気体との音響インピーダンスの整合がより良好なものとなる。
この複合構造の音響整合体は、第1多孔体において、孔部が、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にある寸法を有することが好ましい。第1多孔体がそのような寸法の孔部を有すると、後述するように、第2多孔体の出発原料溶液を含浸させる方法で、第2多孔体を第1多孔体に複合一体化するときに、第2多孔体の原料溶液が含浸されやすい。また、そのような寸法の孔部は、例えば、周波数が500kHzの超音波伝播に支障のないものである。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は無機酸化物の乾燥ゲルで形成されることが好ましい。無機酸化物の乾燥ゲルを用いることにより、第2多孔体を第1多孔体よりも密度の小さいものとすることができ、かつ第1多孔体と第2多孔体との接合を強くすることができる。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は、第1多孔体によってその外周部が取り囲まれていることが好ましい。即ち、第2多孔体はその表面方向の輪郭(即ち、第2多孔体の表面積を決定する輪郭)が、第1多孔体と接していることが好ましい。それにより、第2多孔体の外縁が欠けることが防止され、例えばこの複合構造の音響整合体の厚さを第2多孔体が位置する表面を研磨することにより制御することが可能となる。
この複合構造の音響整合体において、第2多孔体は、第1多孔体の孔部およびセラミックス粒子間空隙の一部または全部を充填していることが好ましい。それにより、第2多孔体がアンカー効果によって第1多孔体により強固に結合する。
本発明は、第3の要旨において、難焼結性のセラミックス粉末を少なくとも1種類有する含気泡セラミックススラリーを成形型内でゲル化してゲル状多孔質成形体を得ること、
ゲル状多孔質成形体を乾燥および脱脂すること、および
ゲル状多孔質成形体を焼成すること
を含む、音響整合体の製造方法を提供する。この方法は、難焼結性のセラミックス粉末を利用すること、および含気泡セラミックススラリーをゲル化することに特徴を有する。この製造方法によれば、上記第1の要旨において提供されるセラミックス多孔体を簡便に製造できる。またはこの製造方法によれば、孔部の寸法および空孔率の制御も可能となり、それにより所望の密度および音速を実現できる。さらに、この方法によれば、焼成して最終的に得られるセラミックス多孔体の体積は、焼成前のゲル状多孔質成形体の体積から数パーセント程度変化するだけであるから、焼成後に生じる反りを小さくすることができる。
本発明は、第4の要旨において、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーを第1成形型内でゲル化して1または複数の凹部を有するゲル状多孔質成形体を得ること、
ゲル状多孔質成形体を乾燥および脱脂すること、および
ゲル状多孔質成形体を焼成すること
を含む方法により、第1多孔体を形成すること、ならびに
第1多孔体を、第2成形型内に配置すること、
当該第2成形型内に第2多孔体の出発原料溶液を入れて、第1多孔体に当該出発原料溶液を含浸させること、
当該出発原料溶液を固体化すること、および
を含む方法により、当該凹部に第2多孔体を形成すること
を含む、音響整合体の製造方法を提供する。
この製造方法は、第2多孔体を配置するための1または複数の凹部を焼成前のゲル状多孔質成形体に形成することを特徴とする。前述のとおり、第1多孔体は、焼成前後の体積変化を小さくして製造することができるので、予め凹部を形成した場合でも最終的に得られる第1多孔体において所望の寸法の凹部を高い精度で得ることができる。また、第1多孔体は、焼成による反りが生じにくいため、特に凹部の深さが焼成前後で変化しにくい。このことは、寸法精度が要求される第2多孔体が所望の且つ均一な厚さで凹部内に形成されることを可能にする。したがって、この製造方法は、所定寸法の第2多孔体が第1多孔体に一体化した構成を得ることを可能にする。また、この製造方法は、凹部を形成するために第1多孔体を切削加工することを必要としないから、この製造方法によれば第2多孔体の外周部が第1多孔体で取り囲まれた構成を容易に得ることができる。
さらにまた、この製造方法においては、第1多孔体がセラミックスマトリックスにより規定される孔部だけでなく、セラミックス粒子間空隙を有し、当該孔部と空隙に第2多孔体の出発原料溶液が浸透して、第2多孔体が形成される。そのため、最終的に得られる第2多孔体はより高いアンカー効果を発揮して、より強く第1多孔体に結合する。
この製造方法においては、第1多孔体を、第2成形型内に、第2成形型の底面と当該凹部が対向するように配置することが好ましい。即ち、第1成形体の凹部が第2成形型の底面とともに密閉した空間を形成することが好ましい。そのように第1多孔体を第2成形型に配置して、第2多孔体の出発原料溶液を第1多孔体に含浸させることにより、余分な部分に第2多孔体が形成されることを防止できる。
この製造方法における第1多孔体の形成においては、第1成形型で成形されたゲル状多孔質成形体の乾燥を、当該ゲル状多孔質成形体の側面、上面および下面のうち少なくとも1つの面にて第1成形型を開放して実施することが好ましい。それより、ゲル状多孔質成形体の乾燥をより効率的に実施できる。この乾燥手法は、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
さらに、第1成形型を開放することは、第1成形型の型壁をスライドさせることにより実施することが好ましい。成形型の型壁をスライドさせる手法によれば、乾燥工程において、ゲル状多孔質成形体が変形することを有効に抑制でき、また、ゲル状多孔質成形体の表面を損傷することなく露出させることができる。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体に形成される凹部は、第1成形型に含気泡セラミックススラリーを流し込んだ後に形成することが好ましい。即ち、含気泡セラミックススラリーを、凹部を形成するための凸部を有しない第1成形型内に流し込んでから、凹部を形成するのに必要な型押し等を実施することが好ましい。このように含気泡セラミックスラリーをできるだけフラットな状態の第1成形体に流し込んでから凹部を形成すると、凹部において気体の残留が生じにくくなる。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体の形成に用いる第1成形型として、ゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と触れる部分が樹脂から成る成形型を用いることが好ましい。ゲル状多孔質成形体と接する面の樹脂の材料を適宜選択することにより、ゲル状多孔質成形体の表面状態を変化させることができる。ゲル状多孔質成形体と接する面が樹脂から成る成形型を用いることは、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
複合構造の音響整合体の製造方法において、第1多孔体の形成に用いる第1成形型として、ゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と触れる部分が金属から成る成形型を用いることが好ましい。ゲル状多孔質成形体と接する面を金属とすることにより、ゲル状多孔質成形体の表面に孔部(含気泡セラミックススラリーの気泡)が存在しにくくなり、緻密な表面層を形成することができる。ゲル状多孔質成形体と接する面が金属から成る成形型を用いることは、複合構造の音響整合体を得る場合だけでなく、単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)を製造する場合にも好ましく適用される。
本発明は、第5の要旨において、圧電体および音響整合層を含み、上記単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)または上記複層構造の音響整合体(即ち、第2の要旨において提供される音響整合体)が音響整合層である超音波センサを提供する。この超音波センサは、本発明の音響整合体を含むことにより、超音波を良好かつ確実に送受信できるものとなる。
本発明は、第6の要旨において、圧電体および音響整合層を含み、音響整合層が上記単層構造の音響整合体(即ち、第1の要旨において提供される音響整合体)または上記複層構造の音響整合体(即ち、第2の要旨において提供される音響整合体)である、超音波送受信装置を提供する。この超音波送受信装置は、本発明の音響整合体を含むことにより、超音波を良好かつ確実に送受信できるものとなる。
本発明の音響整合体はセラミックスマトリックスにより規定される孔部とセラミックスマトリックスに形成された粒子間空隙を有することを特徴とする。この音響整合体は、無機材料を主原料とするので、温度による特性変化が樹脂と比較して小さく、これを音響整合層として超音波センサに組み込んだ場合、超音波センサは良好な温度特性を示す(即ち、温度による性能変化が小さい)。また、このセラミックス多孔体は、その密度および空隙率を容易に調整できるので、本発明の音響整合体はそれらを調整することによって、所定の超音波センサに組み込むのに最適な特性を有するように構成できる。さらに、本発明の複合構造の音響整合体は、セラミックス多孔体と無機酸化物の多孔体とを組み合わせることによって、気体との音響整合がさらに改善される。したがって、そのような複合構造の音響整合体を超音波センサの超音波整合層として組み込むことにより、超音波の送受信効率を向上させることができる。また、この超音波センサを用いた超音波送受信装置を例えば気体流量測定装置として使用すれば、主信号とノイズ信号との比率を低減でき、その装置の計測精度を高めることができるとともに、受信信号の増幅度を低減することが可能となるので、回路を簡素化すること等が可能となる。
本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではないことに留意すべきである。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、特定のセラミックス多孔体から成る音響整合体を説明する。図1において、(a)は本発明の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す模式図である。図1において、1はセラミックス多孔体(音響整合体)、2はセラミックスマトリックス、3はセラミックスマトリックス2により規定される孔部、4は表層、5は内層を示す。図2はセラミックスマトリックス2の一部を拡大したもので、(a)はセラミックスマトリックスの断面を拡大した顕微鏡写真であり、(b)はセラミックスマトリックスの拡大断面を示す模式図である。図2において、6はセラミックス粒子、7はセラミックス粒子間空隙を示す。
セラミックスマトリックス2は、公知の酸化物系もしくは非酸化物系のセラミックス、または粘土鉱物等で構成される。セラミックスマトリックスは、これらのセラミックス成分が単独で又は2種以上が組み合わせて構成される。酸化物系セラミックスとしては、アルミナ系、ムライト系、およびジルコニア系を挙げることができ、非酸化物系セラミックスとしては、炭化ケイ素系、窒化ケイ素系、窒化アルミニウム系、窒化ホウ素系、およびグラファイト系を挙げることができる。
セラミックスマトリックス2は、複数の孔部3を規定する骨格であり、当該骨格の一部または全部は、セラミックス粒子により構成されている。セラミックスマトリックス2は、例えばセラミックス粒子(例えば炭化ケイ素粒子)が互いに結合している構造を有し、そのような構造は、セラミックス粒子が酸素を介して結合されることにより得られると考えられる。ここで、「セラミックス粒子が結合している」とは、セラミックス粒子間で音波が伝播されるように相互に接触していることをいう。セラミックス粒子は、一般に焼成工程において結合される。セラミックスマトリックスを構成する粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、0.6μm以下であること最も好ましい。セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径が10μmを越えると、後述する方法に従って音響整合体を製造するときにスラリー中での粒子の分散性が低下することがある。
セラミックスマトリックス2により規定される孔部3は、後述する方法に従って音響整合体を製造するときに、セラミックススラリー中に発泡剤により生成される気泡に相当する。前述のとおり、この孔部は、音響整合体の断面を20倍程度に拡大して観察したときに空孔として認識されるようなものである。このセラミックス多孔体を超音波センサ等における音響整合層として機能させるためには、孔部3の大きさを適切に選択する必要がある。具体的には、孔部3の大きさは、この音響整合体を伝播する超音波の波長よりも十分に小さい必要がある。
超音波の周波数fを500kHz、音響整合体の音速Cを2000m/sとすると、音響整合体を伝播する超音波の波長λはλ=c/f=4mm=4000μmとなる。このとき、音響整合体の孔部の大きさが300μm以上であると、孔部3の影響が超音波伝播に対して大きくなり、音響整合体から出力される超音波のエネルギ−が減少する。したがって、このような超音波を伝播させる場合において、本発明の音響整合体は、孔部3の孔径分布の中心値が300μm以下となるような寸法に構成されることが好ましい。また、一般的な超音波の周波数(150kHz〜1500kHz)を考慮すれば、孔部3は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にある寸法を有するように形成されることが好ましい。孔部3の孔径は、セラミックス多孔体の断面写真から、孔部の輪郭の任意の2点を繋ぐ線分のうち、最も大きい線分を孔径として決定する。孔部が複数個連結している場合には、連結している各孔部が独立した断面円形または断面楕円形の孔部となるように補助線を引いて、補助線を引いた後の孔部の孔径を求める。孔部の孔径分布は、任意の100〜10000個の孔部について孔径を測定することにより求めることが望ましい。
この音響整合体において、セラミックス粒子6の間には微小なセラミックス粒子間空隙7が存在する。この空隙は、微視的なものであり、その孔径は10μm未満である。セラミックス粒子6間は部分的にガラスが介在して結合されていてよく、あるいはセラミックス粒子6間はガラスが介在することなく結合されていてよい。
このような孔部3とセラミックス粒子間空隙7を有するセラミックス多孔体1は、約0.4〜0.8g/cm3の密度を有し、音速Cが2000m/s〜約3000m/s程度となるので、音響整合体として機能することができる。このセラミックス多孔体1は、孔部3とセラミックス粒子間空隙7とを合わせた空孔率が好ましくは60vol%以上であり、より好ましくは90vol%以上である。
図示したセラミックス多孔体1は、表層4およびこれに連続している内層5を有する。表層4は、孔部3が形成されていない又は孔部3の割合が内層5と比べて小さい、緻密な層であり、平滑な表面を与える。表層4は、好ましくは内層の密度の2.5倍以上8.5倍以下の密度を有することが好ましい。表層4は、好ましくは10〜30μm程度の厚さを有する。表層4の厚さが30μmを越えると、表層4が超音波伝播に及ぼす影響が大きくなる。また、表層4の厚さを10μmよりも小さくすることは一般に困難である。表層4と内層5とを有する音響整合体は、後述するように、超音波センサ等において、表層4が気体側に配置してよい。表層4は密度は高いものの薄いため、音響インピーダンスには大きな影響を与えないが、気体側に配置されると、気体を平滑な表面で押すことになるため、効率的に超音波を気体20に伝播することができる。あるいは表層4は、振動子取り付け部材(即ち、容器)と面するように配置してよい。その場合に、孔部の無い又は少ない表層4は、接着剤が音響整合体1内部に浸透することを有効に防止する。
また、音響整合体として機能させるために、セラミックス多孔体1は、セラミックス粒子間の結合が十分に強いことを要する。セラミックス粒子間の結合が弱いセラミックス多孔体1においては超音波が伝達しにくくなり、また、多孔体が脆くなる。
上述したような寸法を有する孔部3およびセラミックス粒子間空隙7が形成され、且つセラミックス粒子間の結合が十分に強いセラミックス多孔体は、例えば、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成形体を、乾燥、脱脂、および焼成工程に付すことにより製造される。その製造方法を図3を参照して説明する。
図3に示すように、本発明の音響整合体の製造方法は、混合スラリーの焼成(ステップ11)、含気泡スラリーの調製(ステップ12)、成形工程(ステップ13)、乾燥工程(ステップ14)、脱脂・焼成工程(ステップ15)、および切断工程(ステップ16)に大別される。各工程で具体的に実施される工程を、図中右側にフローチャートとして記載している。また、各工程で使用される材料を図中真中の列に記載している。
ステップ11は、投入材料であるセラミックス粉(例えば炭化ケイ素とガラス)、および水(必要に応じて有機溶剤が混合される)を、例えばボールミルで混合および粉砕して混合スラリーを作製する混合・粉砕工程と、得られた混合スラリーを脱泡する脱泡工程とを含む。セラミックス粉は少なくとも1種類の難焼結性のセラミックス粉を有する。難焼結性のセラミックス粉は例えば炭化ケイ素である。難焼結性セラミックスは、好ましくはセラミックス粉全体の80vol%を占め、より好ましくは90vol%を占め、さらに好ましくは100vol%を占める。難焼結性セラミックスの割合が大きいほど、後の焼成工程において、体積変化を小さくでき、また反りが生じにくい。粉砕は、粒子の大きさが揃うように実施される。脱泡は窒素が充填されたグローブボックスなどの中で行なう。そのため、脱泡工程の前に、脱気・窒素置換工程が実施される。
ステップ12は、窒素雰囲気中で混合スラリーに界面活性剤(起泡剤)およびゲル化剤を添加して撹拌機で混ぜ合わせる泡立て工程である。この工程において、界面活性剤の種類、セラミックス粉の種類、撹拌機スピード、撹拌時間および温度は、含気泡(即ち、セラミックス多孔体においてセラミックスマトリックスにより規定される孔部)の大きさ及び分布を決定するパラメータとなる。したがって、所望の孔部が得られるようにこれらのパラメータを適切に選択する必要がある。この工程は、多孔構造を決定する重要な工程である。
ステップ13は、得られた含気泡セラミックススラリーを、任意形状の成形型に移し、ゲル化させて、ゲル状多孔質成形体を形成する工程である。ゲル化は、密閉された成形型でスラリーを数十分間放置することにより進行する。成形型は、例えば、直径10〜20mm程度、特に10.8mmの円筒形であってよい。
ステップ14は、ゲル状多孔質成形体を型から取り出して、水分および一部の有機分を除去するために実施する工程である。ゲル状多孔質成形体は手で持てるほどしっかりしている(固化されている)ので、取り扱いが容易である。あるいは、ステップ14は、成形型の型壁の一部をスライドさせて、ゲル状多孔質成形体の上面、下面および側面のうち少なくとも1つの面を露出させることにより実施してよい。それにより、成形型からゲル状多孔質成形体を取り出す必要が無くなるため、ゲル状多孔質成形体が損傷する可能性を小さくし得る。
乾燥はゲル状多孔質成形体に含有されている気泡が分解、移動および集合等しないように実施することが好ましい。例えば、20℃以上30℃以下の温度にて、48時間以上の時間をかけてゆっくりとゲル状多孔質成形体を乾燥させることが好ましい。
ステップ15は、乾燥した多孔質成型体に含まれている余分な有機分を除去するために必要な温度に加熱する脱脂工程と、セラミックス粉を結合させてマトリックスを形成するために、高温で焼成を実施する焼成工程とを含む。具体的には、脱脂の温度および時間は、使用した有機分の種類および量に応じて決定され、例えば、ゲル化剤を焼失させるために、400〜700℃にて、24〜48時間処理を実施してよい。焼成温度は使用するセラミックス粉(即ち、ガラスまたは難焼結性セラミックス粉)に応じて決定される。例えば、セラミックス粉として、炭化ケイ素およびそれよりも融点の低いガラスを用いる場合には、焼成は例えば800℃程度で行なわれる。焼成時間は、例えば、12〜48時間としてよい。炭化ケイ素とガラスを含むセラミックス粉を使用する場合、この焼成工程において、一部の炭化ケイ素粒子がガラスを介して互いに結合されることとなり、大部分の炭化ケイ素粒子は酸素を介して互いに結合されることになると考えられる。また、セラミックス粉として、炭化ケイ素のみを使用してよく、その場合には、焼成温度を900℃〜1350℃とし、焼成時間は、例えば、12〜48時間としてよい。
ステップ16は、得られた焼成体(セラミックス多孔体)を、それが音響整合体として機能するのに必要な寸法に切削する工程である。音響整合体の最適な厚さtは、セラミックス多孔体の音速をC、超音波の周波数をfとして、t=C/(4f)の式から求められる。したがって、例えば、得られるセラミックス多孔体の音速Cが約2000m/sで、使用する超音波の周波数fが500kHzである場合には、t=1mmとなるように切削加工することが好ましい。
図1に示すような、一つのセラミックス多孔体において、表層4および内層5を有する構造は、図3に示すステップ12の含気泡セラミックススラリーの調製工程に含まれる泡立て工程およびステップ13の成形工程で、気泡を傾斜配向させる方法により形成することができる。気泡を傾斜配向させることは、具体的には、ステップ11において、混合スラリーの固形分率または粘度を調整することにより実施される。
あるいは、より簡便には、ステップ13の成形工程において、含気泡スラリーと接触する部分(即ち、固化後のゲル状多孔質成形体の少なくとも1つの表面と接触する面)が、特定の樹脂または金属から成る成形型を用いると、成形型との界面でセラミックススラリーに気泡が存在できなくなる。この気泡の存在できない部分が表層4として形成される。樹脂として、例えばPET樹脂を選択すると、緻密な表層4を形成することができる。金属としては、例えば、ステンレスを選択できる。含気泡スラリーが金属面と接触することにより形成される表層は、樹脂面と接触することにより形成される表層よりも厚くなる傾向にある。また、成形型の表面が、例えばテフロン(登録商標)から成る場合には、それと接するゲル状多孔質の表面は緻密な表層を形成せず、孔部を有する面が形成されやすくなる。
このようにして製造されるセラミックス多孔体は、その孔径分布の中心値が100μmから500μmの範囲内にあるような孔部3を有し、空孔率が約60vol%以上であり、嵩密度が約0.4g/cm3〜0.8g/cm3である構造体となる。また、セラミックス多孔体においては、孔部3が複数個連結して、連通孔を形成している。この構造体における音速は、前述のように約2000m/s〜約3000m/s程度となるので、この構造体は音響整合層として使用可能である。
図4に、本発明の音響整合体を模式的に断面図にて示す。図4は、直径10.8mmの円柱形状の音響整合体であって、厚さが約1mm〜約1.5mmとなるように加工された音響整合体を示す。図4においては、表層を有しない形態を示しているが、図1に示すような表層が一方の主表面(厚さに垂直な表面)に形成されていてよい。表層は両方の主表面に形成されてもよいが、その場合には、図13のステップ15を実施した後に得られる成形体の厚さが所望の厚さを有することが必要である。切削により主表面を研磨して所望の厚さを得ようとすると、一方の表層が削り取られることになるからである。図4に示すように、表層がいずれの表面にも位置しないような構造体を得る場合には、成形型の露出表面を構成する材料を適宜選択することにより、表層が形成されないようにしてよい。あるいは焼成後のセラミックス多孔体に形成された所定の厚さにするときに表層を削り取ってよい。
図5(a)および(b)に、このようにして製造されるセラミックス多孔体の音響整合体を用いた超音波センサの断面図を示す。図5(a)および(b)において、1はセラミックス多孔体(音響整合層)を、17は振動子を、18は振動子取り付け部材を、19は接着手段を、20は気体を示す。図示したセラミックス多孔体1は、表層25および内層26を有する構造である。図5(a)は表層25が気体側に配置された超音波センサを示し、図5(b)は表層25が接着手段19と接するように配置された超音波センサを示す。
接着手段は例えばエポキシ接着剤である。振動子取り付け部材18は金属から成り、キャップ21を取り付けることにより、振動子17が密閉空間に配置されるようにしている。
キャップ21は金属から成り、これに端子22が取り付けられることにより、振動子17の上下に設けられている振動子電極の上側の電極とこの端子22とが電気的に接続された状態となる。また、振動子17の下側の電極は、導電性ゴム23を介して他方の端子24に電気的に接続されている。端子24はキャップ21から絶縁されている。
端子22、24に超音波信号発生装置からの電気信号が印加されることで、振動子17が縦振動を起こし、その振動がセラミックス多孔体(音響整合層)1に伝わる。セラミックス多孔体(音響整合層)1は振動子17よりも大きい振幅で振動し、その振動が気体20に効率よく伝えられる。
セラミックス多孔体(音響整合層)1は表層25と内層26とに区分けできる構成を有する。図1を参照して説明したように、表層25は内層26に比べて緻密な構造で、極めて孔部が少ないか、または孔部が存在しない層である。表層25の厚さは10〜30μm程度である。表層25と内層26とを有するセラミックス多孔体の製造方法は先に図3を参照して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
セラミックス多孔体(音響整合層)1と振動子取付け部材18との接合には、接着手段19、例えばエポキシの接着剤が用いられる。セラミックス多孔体(音響整合層)1の接着面に孔部が存在する場合、エポキシの接着剤が浸透し接着ムラが生じることがある。接着ムラが生じると、同じ仕様の超音波センサにおいて、超音波出力にバラツキが生じるという不都合がある。かかる不都合を避けるためには、図5(b)に示すように、表層25の表面を振動子取り付け部材18との接合面とすればよい。
(実施の形態2)
図6(a)に本発明の実施の形態2として、複合構造の音響整合体を示し、図6(b)にこの音響整合体を音響整合層とする超音波センサを示す。図6(a)に示す音響整合体44は、直径10.8mm、厚さ1.8mmの円盤型であり、上記において説明したセラミックス多孔体を第1多孔体42として有し、第1多孔体42に形成された凹部に第2多孔体43が充填されている、複合構造を有する。
図6(a)において、第1多孔体42は、骨格となるセラミックスマトリックス41を有し、セラミックスマトリックス41により孔部40が規定された構造体として図示されているが、セラミックスマトリックス41においてセラミックス粒子間空隙が形成されていることは図1を参照して説明したとおりである。また、セラミックス多孔体42は実施の形態1のものと同様に、難焼結性のセラミックス粉末(例えば炭化ケイ素粉末)を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成形体を乾燥、脱脂、焼成して作製される。この第1多孔体42においては、実施の形態1の音響整合体と同様に、複数の孔部40が連結して連通孔が形成される。
第2多孔体43は、第1多孔体42よりも密度が小さく、音速の小さい多孔体である。第2多孔体の密度および音速を小さくすることにより、実施の形態2の音響整合体は、実施の形態1の音響整合体よりも超音波出力を増大させることができる。具体的には、第2多孔体43は、シリカのような無機酸化物の乾燥ゲルであることが好ましい。以下に、シリカの乾燥ゲルを製造する方法を図7を参照して説明する。
図7に示すように、シリカの乾燥ゲルは、原料準備工程(ステップ51)、ゲル化工程(ステップ52)、密度調整工程(ステップ53)、疎水化処理工程(ステップ54)、および乾燥工程(ステップ55)に大別される。図7においては、各工程で具体的に実施される工程を図中真中の列にフローチャートとして示している。また、各工程で投入される材料を図中右側の列に示している。
ステップ51は主原料であるテトラエトキシシランに、これを加水分解するための水、エタノール、塩酸を加えて混合溶液を調製する工程である。
ステップ52は、準備された混合溶液にアンモニアを加えてゲルを作製する工程である。この工程では、シリカがモノマーとして重合されて、多孔質のゲルが形成される。
ステップ53は、得られたゲルの骨格を増強し、任意の密度にする工程である。この工程では、テトラエトキシシラン、水、エタノール、およびアンモニアが加えられ、再び加水分解反応を進行させることにより、ゲルの骨格が増強される。この工程では反応時間および温度を管理することによってゲルが所望の密度になるように制御される。溶液をイソプロピルアルコールに置換することで、ゲルの骨格増強のための反応が停止させられる。
ステップ54は最終的に得られる乾燥ゲルが、吸湿しないようにするための処理である。この工程では、ゲルをシランカップリング処理液に投入してシランカップリング反応を進行させた後、溶液をイソプロピルアルコールに置換してシランカップリング反応を停止させる。
ステップ55はイソプロピルアルコールを蒸発させて、乾燥ゲルを得る終工程である。
このような製造工程を経て作製される乾燥ゲルは、ナノメートルサイズの気孔を有し、密度が0.2g/cm3から0.5g/cm3に調整され、その音速は300m/sから500m/sとなるので、この乾燥ゲルの音響インピーダンスは、第1多孔体であるセラミックス多孔体の音響インピーダンスよりも小さくすることができる。
第2多孔体43は、第1多孔体42に形成された凹部内に配置されている。このように、第2多孔体43を、その外縁が第1多孔体42と接するように配置することによって、第2多孔体43の縁が第1多孔体42により保護される。したがって、この複合構造を採用することによって、第2多孔体43の縁が欠けることを有効に防止できるので、例えば、第2多孔体43の表面を研磨して、その厚さDを容易に所望の厚さにすることができる。第2多孔体43は、例えば、シリカの乾燥ゲルから成る場合には、直径が約8mm、厚さが0.15〜0.4mmとなるような形状を有するように、直径約10.8mmの第1多孔体42に形成される。かかる寸法の第2多孔体43は、第1多孔体42に、前記直径を有する浅い凹部を形成し、この凹部に第2多孔体43を後述する方法によって配置させた後、第1多孔体42と第2多孔体の表面をともに研磨する方法によって得られる。この実施の形態の変形例において、複数の凹部(例えば径の異なる複数のリング状の凹部)を第1多孔体に形成して、第2多孔体43が複数箇所に(例えば径の異なるリング状に)配置されるようにしてよい。
図6(b)は、複合型の音響整合層44を用いた超音波センサの構造を示す。図6(b)に示す超音波センサは、図5(a)に示す超音波センサと同じ構造を有し、図5(a)で使用されている符号と同じ符号は同じ要素または部材を示す。図6(b)に示す超音波センサは、音響整合層が複合構造であり、第2多孔体43が第1多孔体41よりも小さい密度を有することから、実施の形態1の音響整合体を用いた超音波センサよりも超音波出力を増大させることができる。
(実施の形態3)
図8に、本発明の実施の形態3として、複合構造の音響整合体を製造する方法を模式的に示す。図8は、第2多孔体をその内部に配置するための凹部63を形成した第1多孔体42を、凹部63を下にして成形型61に載せて、容器62に収納した状態を示す。ここで用いられる成形型61と、第1多孔体42を形成するために使用する成形型とを区別するために、本明細書において、第2成形体を形成する成形型を便宜的に第2成形型と呼び、第1成形体を形成する成形型を便宜的に第1成形型と呼ぶ場合がある。よって、成形型61は第2成形型である。容器62には、実施の形態2に関連して説明した、図7に示されるステップ51で用意された出発原料溶液64が満たされている。この溶液64に、成形型61を浸漬すると、溶液64はセラミックス多孔体である第1多孔体42の連通孔を浸透し、その結果、凹部63が溶液64で満たされる。次いで、この状態のまま、図7に示すステップ52を行う。ここで、第1多孔体42の連通孔は、セラミックスマトリックスにより規定される孔部同士の連結、孔部と粒子間空隙の連結、粒子間空隙同士の連結により生成される、連続気泡である。
図9は図8に示される成形型61に載せられた第1多孔体42の一部分を拡大したものである。第1多孔体42に形成された凹部63は、第1多孔体42の連通孔を浸透した溶液で満たされるので、第1多孔体の連通孔内にもゲル(このゲルは最終的に第2多孔体43を形成することとなる)が形成される。凹部63に形成されるゲルはまた、成形型61に接触している。図9においては、セラミックスマトリックス65により規定される孔部66のみを示し、これらが形成する連通孔を示しているが、孔部66とセラミックス粒子間空隙、セラミックス粒子間空隙間にも連通孔が形成されていることに留意すべきである。
この配置のままステップ53として密度調整を実施するので、新たに加えられたテトラエトキシシラン、水、アンモニア、およびエタノールの混合溶液もまた、第1多孔体42の孔部66に形成されたゲルを通過して凹部63に生成されたゲルに到達し、凹部63および孔部66内のゲルの骨格を増強する。その後、ステップ54までこの配置のまま実施する。
各工程において使用される溶液および溶剤は、第1多孔体42の孔部66に形成されたゲルを通過して凹部63まで到達する。即ち、孔部66に形成されたゲルを通過した溶液等が、凹部63内に形成されたゲルの骨格を増強し、あるいはゲルにおいて進行している反応を停止させる。したがって、第1多孔体42の孔部66が小さすぎると、溶液の浸透が不十分になり、凹部63内に形成されたゲル43に到達しにくくなる不都合が生じる。また、第1多孔体42の孔部66が大きすぎると、超音波の伝播に支障をきたす。そのため、第1多孔体42は、セラミックスマトリックスにより規定される孔部66の孔径分布の中心値が100μmから500μmの間にあるように形成することが好ましい。この第1多孔体42の孔部66の寸法の調整は、実施の形態1で述べたように、図3のステップ12である、含気泡スラリーの調製工程において実施される。
このように、第2多孔体を、第1多孔体であるセラミックス多孔体のマトリックスにより規定される孔部等により形成される連通孔を通過するように必要な材料を含浸させて形成する方法によれば、第1多孔体に形成された凹部と成形型の表面とが密閉された空間を形成した状態にて、第2多孔体を得るための乾燥工程まで実施できる。その結果、第2多孔体の形成中、ゲルにおいて亀裂が生じにくくなる。即ち、図7の製造方法に従ってゲル単体として無機酸化物のゲルを製造する場合には、ゲルの表面が露出した状態にあるので、ゲルにおいて亀裂が入りやすいという不都合が生じやすいものの、この製造方法によれば、第2多孔体となる部分が第1多孔体により保護されて、応力を受けにくいので、亀裂が入らないようにすることができる。また、第2多孔体は、図9に示すように、成形型に接触した状態にて形成されるので、その表面は成形型の表面が平滑である場合には極めて滑らかとなる。
この製造方法により得られる音響整合体は、第1多孔体のマトリックスにより規定される孔部およびマトリックス中のセラミックス粒子間空隙の少なくとも一部が第2多孔体で充填された構造を有することとなる。したがって、第1多孔体は、第1の形態で説明した音響整合体よりも高い密度を有することとなる。複合構造の音響整合体において、第1多孔体は、その音響インピーダンスが、第2多孔体の音響インピーダンスと振動子の音響インピーダンスの間にあることが望ましいことから、第1多孔体は単体で音響整合体として使用する場合よりも大きい密度を有することを要する場合もある。そのような場合には、第2多孔体の充填により第1多孔体の嵩密度が上昇することは、超音波伝播に適した複合構造の音響整合体を構成するという観点からはむしろ好ましい。あるいはまた、第1多孔体であるセラミックス多孔体の密度は、その空孔率を調節することにより容易に調整できるから、第2多孔体の種類等に応じて所望の音響インピーダンスを有するように、第1多孔体を製造することは容易である。
(実施の形態4)
図10から図13に、本発明の実施の形態4として、複合構造の音響整合体の第1多孔体を製造する方法を模式的に示している。これらの図は、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡スラリーをゲル化してゲル状多孔質成形体を製造する工程および当該工程を実施するために用いられる成形型(即ち、第1成形型)を示している。図10に示す成形型70は、型壁となる上面部71、側面部73、移動底面部75、および固定底面部74、ならびにガイド部72およびスペーサ76で構成される。
まず、側面部73、固定底面部74および移動底面部75で囲まれた部分に含気泡セラミックススラリー77を注ぐ。このとき、移動底面部75がスペーサ76により上昇させられて、底面部24と25とは面一になっている。したがって、中心部から徐々に含気泡セラミックススラリー77を注ぎこむと、成形型内の隅々までスラリーが行き渡り、気体が残ることなく、側面部73、固定底面部74および移動底面部75で囲まれた部分を満たす。この状態から、図11に示すようにスペーサ76を取り除くと、側面部73と移動底面部75が下方にスライドし、それにより、固定底面部74がセラミックススラリーに押し込まれ、それにより第2多孔体を形成するための円形の凹部が形成される。移動底面部75と固定底面部74との間にはグリスを塗り、外部から気体が浸入しにくくすることがより望ましい。
含気泡セラミックススラリーは、側面部73および移動底面部75がスライドしたことにより、盛り上がった状態となる。この盛り上がったスラリー77は、図12に示すように、上面部21が下方に移動して余剰量を型内から押し出すことにより取り除かれて平坦にされる。この状態で、含気泡セラミックススラリー77をゲル化する。ゲル化が終了した後、図11に示すように側面部73を上方にスライドさせて、ゲル状多孔質成形体の側面を開放状態にする。それにより、ゲル状多孔質成形体に含まれる水分が蒸発しやすくなり、乾燥時間が短縮される。また、側面部73を上方にスライドさせてゲル状多孔質成形体の表面を露出させることにより、ゲルの表面を損傷することなく、ゲルを乾燥させることができる。
ゲル状多孔質成形体が完全に乾燥した後は、上面部71を上方に移動させて、乾燥したゲル状多孔質成形体77を取り出す。この後、ゲル状多孔質成形体を焼成してセラミックス多孔体が得られる。このセラミックス多孔体は、例えば、直径が10.8mm、厚さが1.8mmの円盤型となるように形成される。セラミックス多孔体が、含気泡スラリー中の気泡部分が焼成後に連通孔を形成することは、先に説明したとおりである。このようにして得られるセラミックス多孔体は、図6(a)に示す複合構造の音響整合体において、第1多孔体42を形成するものとなる。
図13において、上面部71と接触する第1多孔体の面は、図6(b)で示される超音波センサの振動子取り付け部材18に接着剤で接合される面となる。したがって、この面に孔部が存在すると、超音波センサを組み立てる際に接着剤が浸透するという不都合が生じることがある。かかる不都合を避けるために、前述したように、上面部71の第1多孔体と接する面を、例えば、PET樹脂または金属から成る面とすることにより、成形型と含気泡スラリーとの界面にて気泡が存在しにくくなり、それにより孔部が存在しない又は少ない緻密で薄い表層を形成することができる。この表層は、前述のように緻密な表面を与えて接着剤の浸透を防止し、確実な接着をもたらす。
前述したように、成形型の表面がテフロン(登録商標)から成る場合には、緻密な表層が形成されずに、孔部を有する面が形成されやすい。したがって、固定底面部74、移動底面部75、および側面部73をテフロン(登録商標)で形成すると、含気泡セラミックススラリーのゲル化の過程において、それらと接する面においては孔部が存在することとなる。表面に孔部を有するセラミックス多孔体を第1多孔体として使用すると、前述した図8に示す製造方法で第2多孔体を形成することができる。即ち、上面部77がPET樹脂または金属から成り、その他の部分がテフロン(登録商標)から成る成形型を使用すると、第1多孔体42の第2多孔体が位置しない面は、孔部の少ない緻密な面となり、側面と底面は孔部が存在する面となる。したがって、図8に示す製造方法により第2多孔体を形成する場合、溶液64は第1多孔体42の側面の孔部を通過して、凹部および孔部内にてゲル化され、図8において、第2成形型と接していない第1多孔体の表面は超音波センサを組み立てる際に接合面として使用できる。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5として、本発明の音響整合体を有する超音波センサを含む超音波送受信装置を、図14を参照して説明する。図14は、本発明の超音波送受信装置を、気体の流量を測定する流量測定装置88に組み込んだ状態を示す、回路ブロック図である。気体が流れる流路81に超音波センサA82と、超音波センサB83とが配置される。超音波センサA、Bは、超音波の伝播路が気体の流路と角度φをなすように配置されている。超音波センサA81および超音波センサB83には、送信手段84から送信信号が送られる。また、超音波センサの受信信号は受信手段85に伝えられる。送信と受信は切替手段87で選択される。切替手段87より超音波センサA82を送信手段84に接続することを選択すると、超音波センサB83は受信手段85に接続される。
図14に示されるように、気体が図において左から右に向かう方向に流れると、超音波センサA82が送信した超音波は、伝播時間T1後に超音波センサB83に到達する。反対に超音波センサB83が送信した超音波は、伝播時間T2後に超音波センサA82に到達する。このとき、気体の流れの方向が左から右であるために、T1<T2となる。これらの時間T1、T2は計時手段86によって計測される。この時間は気体の流速と関連する。また、気体の流量は、流速と流路断面積から算出できるので、時間T1、T2から流速を知ることで、流量が求められる。演算手段89は、計時手段86からのデータに基づいて流量を求める。
図15は、超音波センサの送信信号と受信信号の波形を示した波形図である。図15においては、超音波センサA82が超音波を送信し、超音波センサB83が超音波を受信するときの、超音波センサAへの送信信号がa−1で示され、超音波センサB83の受信信号がa−2で示されている。また、図15においては、超音波センサB83が超音波を送信し、超音波センサA82が超音波を受信するときの、超超音波センサBへの送信信号がb−1で示され、超音波センサA82の受信信号がb−2で示されている。
受信手段85は受信信号を増幅する。このため、実施の形態2のような複合構造の音響整合層を用いて超音波センサを組み立てると、大きな受信信号を得られるので、増幅回路手段を小規模なものにすることができる。超音波センサの受信信号を主信号と呼び、これに対して増幅回路手段で発生する不用信号および外部から侵入する不用信号をノイズと呼ぶ場合、大きな主信号が得られるほど、増幅度を低減できるとともに、増幅回路手段によるノイズも低減できる。また、外部からのノイズに対する主信号の比率が大きくなるので、見かけ上、ノイズの影響を受けにくくなる。これらは計測精度の向上につながる。
受信信号の最初の波は小さいので検出が難しい。このため、受信手段85は例えば第3波のP1およびP2のポイントをコンパレータによる回路手段で検出している。このため、温度により波形が変化すると、計測誤差が増大する。そこで、超音波センサAおよびBの音響整合層を、無機物で構成すると、無機物は温度によりその音響特性が変化しにくいので、波形に及ぼす影響が少なくなり、計測精度を向上させることができる。本発明の音響整合体は、無機物であるセラミックス多孔体を含むから、温度による波形変形が抑制され、計測精度の向上に寄与する。
また、実施の形態2として説明した複合形態の音響整合体は、第2多孔体として無機酸化物の乾燥ゲルを使用し、これの原料となる混合溶液を第1多孔体であるセラミックス多孔体に含浸させて乾燥ゲルを製造する方法により、第2多孔体が第1多孔体のセラミックスマトリックスで規定される孔部と、セラミックスマトリックス中に形成されるセラミックス粒子間空隙に充填された構造体として得られる。かかる構造体においては、孔部およびセラミックス粒子間空隙の両方に充填された第2多孔体がアンカー効果を発揮して、第2多孔体と第1多孔体との間で高い結合強度が得られる。そのため、大きな送信信号を送信手段84から超音波センサに与えて、音響整合体を大きな振幅で振動させても第1多孔体と第2多孔体との間で剥離が生じない。したがって、本発明の超音波送受信装置は、特に複合形態の音響整合層と使用した場合には、送信信号を大きくして受信信号を大きくすることができ、それにより計測精度を高くしうる。さらに、複合形態の音響整合層においては、第2多孔体が良好な音響整合をもたらすとともに、第1多孔体が受信される信号の波形を決定し、特定ポイント(図15におけるP1、P2)の計測に有利な大きい振幅の信号を形成する。したがって、本発明の複合形態の音響整合層は、全体として音響整合および波形成形の両方において優れることとなる。
以上のように、本発明にかかる音響整合体は気体と振動子との音響インピーダンスの整合をとり、超音波発生装置からの超音波出力を向上させること、および気体を伝播する超音波を受信する超音波受信装置の受信出力を向上させることを可能にする。したがって、本発明の音響整合体は、天然ガスおよび液化石油ガスの流量を測定する業務用および家庭用の超音波式ガス流量測定装置(例えば、ガスメータ)、ならびに水素のように音速が大きく、振動子との音響インピーダンスの整合をとりにくいガスの流量を測定する超音波式の流量測定装置に使用するのに適している。
(a)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を示す模式図である。
(a)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を拡大して示す顕微鏡写真であり、(b)は本発明の実施の形態1の音響整合体を構成するセラミックス多孔体の断面を拡大して示す模式図である。
本発明の実施の形態1の音響整合体の製造方法を示す工程図である。
本発明の実施の形態1の音響整合体を模式的に示す断面図である。
(a)および(b)はそれぞれ、本発明の実施の形態1の音響整合体を音響整合層とする超音波センサの一例を模式的に示す断面図である。
(a)は本発明の実施の形態2の音響整合体を模式的に示す断面図であり、(b)は本発明の実施の形態2の音響整合体を音響整合層とする超音波センサの一例を模式的に示す断面図である。
本発明の実施の形態2の音響整合体を構成する第2多孔体の製造方法の一例を示す工程図である。
本発明の実施の形態3として、本発明の実施の形態2の音響整合体の製造方法を示す模式図である。
本発明の実施の形態3に従って製造される音響整合体の一部を模式的に示す断面図である。
本発明の実施の形態4である、本発明の音響整合体を構成する第1多孔体を製造する方法において実施される一工程を示す模式図である。
図10に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
図11に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
図12に示す工程を実施した後に実施される工程を示す模式図である。
本発明の実施の形態5の超音波流量計の構造を示すブロック図である。
本発明の実施の形態5の超音波流量計で得られる波形図である。
従来の超音波センサを模式的に示す断面図である。
符号の説明
1...セラミックス多孔体、2...セラミックスマトリックス、3...孔部、4...表層、5...内層、6...セラミックス粒子、7...セラミックス粒子間空隙、17...振動子、18...振動子取り付け手段、19...接着手段、21...キャップ、22...端子、23...導電性ゴム、24...端子、20...気体、25...表層、26...内層、40...孔部、41...セラミックスマトリックス、42...第1多孔体、43...第2多孔体、44...音響整合体、61...第2成形型、62...容器、63...凹部、64...出発原料溶液、65...セラミックスマトリックス、66...孔部、70...成形型、71...上面部、72...ガイド部、73...側面部、74...固定底面部、75...移動底面部、76...スぺーサ、77...含気泡セラミックススラリー、81...流路、82...超音波センサA、83...超音波センサB、84...送信手段、85...受信手段、86...計時手段、87...切替手段、88...超音波送受信装置(流量測定装置)、89...演算手段。