JPWO2004050118A1 - プロテアーゼ阻害剤 - Google Patents
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Abstract
本発明は、乳由来のタンパク質であるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼインの加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに飲食品及び飼料等に利用することが可能である。
Description
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに飲食品及び飼料等に利用することが可能なシステインプロテアーゼ阻害剤である。
活性中心にチオール基を有する蛋白分解酵素はシステインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)と総称されている。カテプシンL、カテプシンB、カテプシンKは、カルシウム依存性中性プロテアーゼ(CAMP)、パパイン、フィシン、ブロメライン等とともに代表的なシステインプロテアーゼの一つである。そしてこれらシステインプロテアーゼに対して阻害作用を有する物質は、システインプロテアーゼが関与するとされる疾患、例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、頭部外傷時の意識障害や運動障害、多発性硬化症、末梢神経のニューロパシー、白内障、炎症、アレルギー、劇症肝炎、骨粗鬆症、高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、前立腺肥大症等の治療薬として、あるいは癌の増殖抑制、転移予防薬、血小板の凝集阻害薬等として期待される。また、近年に至り、勝沼等の研究によってカテプシンL、カテプシンBと骨粗鬆症乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症との関係が解明され、それによって、とりわけカテプシンL阻害剤の骨粗鬆症治療剤乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症治療剤としての医薬への適用が注目されつつある(勝沼信彦著、「BIO media」、第7巻、第6号、第73〜77ページ、1992年)。骨組織においては、骨芽細胞(osteoblast)による骨形成と、破骨細胞(osteoclast)による骨吸収が生涯を通じて行われており、成長期には骨形成が骨吸収を上回ることにより骨重量が増加し、一方老年期には逆に骨吸収が骨形成を上回るために骨重量が減少し、骨粗鬆症の発症となる。これら骨粗鬆症の原因としては様々なものがあるが、特に骨崩壊(骨吸収)を主原因の一つとして挙げることができる。これを更に2つの原因に分けると次のようになる。即ち、一つはカルシウムの吸収と沈着不全に起因するものであり、更に詳しくはカルシウムの供給量、転送、吸収、及び沈着が関係するものであり、ビタミンD誘導体、女性ホルモン(エストロゲン)等が関与していると考えられる。いま一つは、骨支持組織であるコラーゲンの分解促進を内容とするものであり、破骨細胞内リソゾームから分泌されるシステインプロテアーゼ群、中でも特にカテプシンL、カテプシンB、カテプシンKによる骨コラーゲン分解が主たる原因である。破骨細胞内のリソゾームから分泌されたこれらカテプシンL及びBは骨組織中のコラーゲンの分解を促進し、それによって古い骨は溶解され、ヒドロキシプロリンとともにカルシウムが血中に遊離放出させられる。従って、カテプシンL、カテプシンB及びカテプシンKのコラーゲン分解能を阻害することによって過剰な骨崩壊を防止することが可能であり、ひいては骨粗鬆症の治療が可能となる。これら骨粗鬆症の治療剤としては、エストロゲン、タンパク同化ホルモン、カルシウム剤、ビタミンD、カルシトニン、あるいはビスホスホネート等が知られている。またカテプシンL阻害、カテプシンB阻害、又はカテプシンK阻害のいわゆるシステインプロテアーゼ阻害を作用機序とする骨粗鬆症治療剤についてもいくつかのシステインプロテアーゼ阻害剤をもちいた骨粗鬆症治療剤の開発が進められている(特開平7−179496号公報、特表2002−501502号公報)が、さらなる骨粗鬆症治療剤の開発が望まれている。
一方、高カルシウム血症は、血清中のカルシウム濃度が正常値以上となる代謝異常であり、腫瘍患者に多く見受けられる。これを放置した場合、患者の寿命は10日程度であると言われている。原因の多くは腫瘍の骨転移である。腫瘍が骨に転移すると、骨破壊が起こり、カルシウムが血中に放出される。このカルシウムは腎臓で処理されるが、骨破壊のスピードが腎臓の処理能力を上回ったとき、高カルシウム血症の発現となる。治療方法としては、フロセミドを併用した生理的食塩水の輸液を用いることにより腎臓からのカルシウム排泄を促進する方法や、骨粗鬆症治療薬であるカルシトニンを使用する方法等が知られている。即ち、骨吸収を抑制するような骨粗鬆症治療薬は悪性腫瘍性高カルシウム血症の治療剤としても有効であるといえる。
本発明者らにより、このような目的に使用し得るシステインプロテアーゼ阻害剤としてすでに以下のものが開示されている。
(1)カテプシンL特異的阻害ポリペプチド(特開平7−179496号公報)
(2)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平9−221425号公報)
(3)バリン誘導体およびその用途(特開2001−139534号公報)
(4)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平7−242600号公報)
(5)FA−70C1物質(特開2000−72797号公報)
(6)FA−70D物質、その製造法及びその用途(国際公開第97/31122号パンフレット)
しかしながら、食品素材として利用の点から、より汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤の開発が望まれていた。
他方、これまでに、母乳中にプロテアーゼ阻害物質が存在することが知られている。母乳に含まれるプロテアーゼ阻害物質として知られているものとしては、α1−アンチキモトリプシン、α1−アンチトリプシンが挙げられ、インターα2−トリプシン阻害物質、α2−アンチプラスミン、α2−マクログロブリン、アンチトロンビンIII、アンチロイコプロテアーゼなどの阻害剤等も母乳に微量含まれている(清澤功著、「母乳の栄養学」、金原出版、第80〜81ページ)。
乳中において、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質については、すでに以下のものが開示されている。
(1)牛初乳由来の糖鎖を有する分子量約57kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−2896号公報)
(2)牛初乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−126294号公報)
(3)人乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規タンパク質およびその製造方法(特開平10−80281号公報)
(4)牛乳から調製された牛乳由来塩基性シスタチン及び/又は牛乳由来塩基性シスタチン分解物を有効成分とする骨吸収阻害剤(特開2000−281587号公報)
(5)乳塩基性蛋白質(MBP)中に含まれるシスタチンC、及びインビトロにおける該シスタチンCによる骨吸収阻害効果(バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー[Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry]、日本、第66巻、第12号、2002年、p.2531−2536)
ほ乳類乳に多量に含有されるタンパク質として、ラクトフェリン及びβ−カゼインなどが挙げられる。カゼインは、αs−カゼイン、β−カゼイン及びκ−カゼインに分類され、人乳中のカゼインは、β−カゼインがほとんどであり、αs−カゼインは存在しないが、又は痕跡程度認められるのみであるが、牛乳中のカゼインは、αs−カゼイン、β−カゼインをほぼ等量含む。カゼインは栄養成分としての働きの他に、最近ではそのタンパク質の一次構造に潜在的に含まれるカルシウム吸収促進作用やマクロファージ貪食活性化作用を有する生理活性ペプチド等が発見され、注目を集めている。また、カゼインは高い栄養価とともに、乳製品の原材料として、あるいは、チーズ、ヨーグルト、スキムミルク等の様々な食品に含まれ、我々の食生活に寄与している。
カゼインを利用した発明としては、本出願人により、すでにκ−カゼイン又はκ−カゼインの加水分解物を有効成分とする動脈硬化防止剤(特開平8−81388号公報)が開示されている。
また、ヒト乳から分離したβ−カゼイン若しくはその組換え形態又はそのいずれかの水解物は、インフルエンザ菌のヒト細胞への付着の阻害(特表平10−500101号公報)、及び哺乳動物細胞のRSウィルス(Respiratory Syncytial Virus)感染阻害(特表平10−500100号公報)が開示されている。
更に、β−カゼイン加水分解物のアンジオテンシン変換酵素阻害活性(特開平6−128287号公報及び特開平6−277090号公報)が開示されている。
しかしながら、カゼイン及びその部分ペプチドがシステインプロテアーゼ阻害作用を有することは知られていない。
一方、高カルシウム血症は、血清中のカルシウム濃度が正常値以上となる代謝異常であり、腫瘍患者に多く見受けられる。これを放置した場合、患者の寿命は10日程度であると言われている。原因の多くは腫瘍の骨転移である。腫瘍が骨に転移すると、骨破壊が起こり、カルシウムが血中に放出される。このカルシウムは腎臓で処理されるが、骨破壊のスピードが腎臓の処理能力を上回ったとき、高カルシウム血症の発現となる。治療方法としては、フロセミドを併用した生理的食塩水の輸液を用いることにより腎臓からのカルシウム排泄を促進する方法や、骨粗鬆症治療薬であるカルシトニンを使用する方法等が知られている。即ち、骨吸収を抑制するような骨粗鬆症治療薬は悪性腫瘍性高カルシウム血症の治療剤としても有効であるといえる。
本発明者らにより、このような目的に使用し得るシステインプロテアーゼ阻害剤としてすでに以下のものが開示されている。
(1)カテプシンL特異的阻害ポリペプチド(特開平7−179496号公報)
(2)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平9−221425号公報)
(3)バリン誘導体およびその用途(特開2001−139534号公報)
(4)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平7−242600号公報)
(5)FA−70C1物質(特開2000−72797号公報)
(6)FA−70D物質、その製造法及びその用途(国際公開第97/31122号パンフレット)
しかしながら、食品素材として利用の点から、より汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤の開発が望まれていた。
他方、これまでに、母乳中にプロテアーゼ阻害物質が存在することが知られている。母乳に含まれるプロテアーゼ阻害物質として知られているものとしては、α1−アンチキモトリプシン、α1−アンチトリプシンが挙げられ、インターα2−トリプシン阻害物質、α2−アンチプラスミン、α2−マクログロブリン、アンチトロンビンIII、アンチロイコプロテアーゼなどの阻害剤等も母乳に微量含まれている(清澤功著、「母乳の栄養学」、金原出版、第80〜81ページ)。
乳中において、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質については、すでに以下のものが開示されている。
(1)牛初乳由来の糖鎖を有する分子量約57kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−2896号公報)
(2)牛初乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−126294号公報)
(3)人乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規タンパク質およびその製造方法(特開平10−80281号公報)
(4)牛乳から調製された牛乳由来塩基性シスタチン及び/又は牛乳由来塩基性シスタチン分解物を有効成分とする骨吸収阻害剤(特開2000−281587号公報)
(5)乳塩基性蛋白質(MBP)中に含まれるシスタチンC、及びインビトロにおける該シスタチンCによる骨吸収阻害効果(バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー[Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry]、日本、第66巻、第12号、2002年、p.2531−2536)
ほ乳類乳に多量に含有されるタンパク質として、ラクトフェリン及びβ−カゼインなどが挙げられる。カゼインは、αs−カゼイン、β−カゼイン及びκ−カゼインに分類され、人乳中のカゼインは、β−カゼインがほとんどであり、αs−カゼインは存在しないが、又は痕跡程度認められるのみであるが、牛乳中のカゼインは、αs−カゼイン、β−カゼインをほぼ等量含む。カゼインは栄養成分としての働きの他に、最近ではそのタンパク質の一次構造に潜在的に含まれるカルシウム吸収促進作用やマクロファージ貪食活性化作用を有する生理活性ペプチド等が発見され、注目を集めている。また、カゼインは高い栄養価とともに、乳製品の原材料として、あるいは、チーズ、ヨーグルト、スキムミルク等の様々な食品に含まれ、我々の食生活に寄与している。
カゼインを利用した発明としては、本出願人により、すでにκ−カゼイン又はκ−カゼインの加水分解物を有効成分とする動脈硬化防止剤(特開平8−81388号公報)が開示されている。
また、ヒト乳から分離したβ−カゼイン若しくはその組換え形態又はそのいずれかの水解物は、インフルエンザ菌のヒト細胞への付着の阻害(特表平10−500101号公報)、及び哺乳動物細胞のRSウィルス(Respiratory Syncytial Virus)感染阻害(特表平10−500100号公報)が開示されている。
更に、β−カゼイン加水分解物のアンジオテンシン変換酵素阻害活性(特開平6−128287号公報及び特開平6−277090号公報)が開示されている。
しかしながら、カゼイン及びその部分ペプチドがシステインプロテアーゼ阻害作用を有することは知られていない。
本発明は、食品素材として幅広く利用することが可能であり、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに各種飲食品及び飼料等に利用することが可能な、汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤を提供することを目的としている。
本発明者は、抗原性のない、安全な素材として利用する事が可能なシステインプロテアーゼ阻害物質を鋭意探索した結果、乳由来のタンパク質であるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及びカゼインの加水分解物にシステインプロテアーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の要旨は以下の(1)〜(24)のとおりである。
(1) カゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(2) カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である(1)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(3) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(4) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含むシステインプロテアーゼ阻害剤。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(5) カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(6) 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である(5)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(7) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(5)又は(6)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(8) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(5)〜(7)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(9) カゼイン加水分解物を全量に対して0.005質量%以上含有する、(5)〜(8)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(10)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である(1)〜(9)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(11) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等である(10)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(12) (1)〜(11)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。
(13) (1)〜(11)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を患者に投与することを特徴とする、システインプロテアーゼが関与する疾患の治療方法。
(14) カゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(15) カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である、(14)の使用。
(16) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(17) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(18) カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物の、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(19) 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である(18)の使用。
(20) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(18)又は(19)の使用。
(21) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(18)〜(20)のいずれかの使用。
(22) カゼイン加水分解物をシステインプロテアーゼ阻害剤の全量に対して0.005質量%以上含有させることを特徴とする、(18)〜(21)のいずれかの使用。
(23) システインプロテアーゼ阻害剤が、システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である、(14)〜(22)のいずれかの使用。
(24) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等である(23)の使用。
本発明者は、抗原性のない、安全な素材として利用する事が可能なシステインプロテアーゼ阻害物質を鋭意探索した結果、乳由来のタンパク質であるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及びカゼインの加水分解物にシステインプロテアーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の要旨は以下の(1)〜(24)のとおりである。
(1) カゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(2) カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である(1)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(3) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(4) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含むシステインプロテアーゼ阻害剤。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(5) カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(6) 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である(5)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(7) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(5)又は(6)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(8) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(5)〜(7)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(9) カゼイン加水分解物を全量に対して0.005質量%以上含有する、(5)〜(8)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(10)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である(1)〜(9)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(11) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等である(10)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(12) (1)〜(11)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。
(13) (1)〜(11)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を患者に投与することを特徴とする、システインプロテアーゼが関与する疾患の治療方法。
(14) カゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(15) カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である、(14)の使用。
(16) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(17) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(18) カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物の、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(19) 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である(18)の使用。
(20) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(18)又は(19)の使用。
(21) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(18)〜(20)のいずれかの使用。
(22) カゼイン加水分解物をシステインプロテアーゼ阻害剤の全量に対して0.005質量%以上含有させることを特徴とする、(18)〜(21)のいずれかの使用。
(23) システインプロテアーゼ阻害剤が、システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である、(14)〜(22)のいずれかの使用。
(24) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等である(23)の使用。
図1は、ウシ乳タンパク質の逆ザイモグラフィーの検出を示す図(写真)である。
図2は、ウシβ−カゼイン及びウシβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
図3は、パパインに対するカゼイン類のシステインプロテアーゼ阻害効果を示す図である。
図4は、β−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを示す図である。
図5は、ヒトβ−カゼイン及びヒトβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
図2は、ウシβ−カゼイン及びウシβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
図3は、パパインに対するカゼイン類のシステインプロテアーゼ阻害効果を示す図である。
図4は、β−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを示す図である。
図5は、ヒトβ−カゼイン及びヒトβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関する。本発明に用いられるカゼインとしては、市販の各種カゼイン、若しくはヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から常法(例えば、等電点沈殿法)により単離したもの、又は遺伝子組換え技術等によって生産されたものであってよい。カゼインは、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼインに分類されるが、本発明にはいずれのカゼインも用いることができ、好ましくはβ−カゼイン又はκ−カゼインを用いることができる。その中でも特にヒト由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss−Prot Accession No.:P05814に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン)、及びウシ由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss−Prot Accession No.:P02666に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン)が好ましい。具体的には、ヒトのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号1、ウシのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
本発明に用いられるカゼインの部分ペプチドとしては、例えば、前記カゼインを酸又はプロテアーゼにより公知の方法で加水分解し、生成した部分ペプチドを精製することにより得ることができる。一例としては、カゼインを100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)中でリシルエンドペプチダーゼにより35℃で3時間以上消化し、生成した部分ペプチドを高速クロマトグラフ法等により精製することにより製造することができる。
本発明において使用することができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドの好ましい形態としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを例示することができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも例示することができる。なお、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、及び配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜15はシグナル配列である。
これらのカゼイン又はカゼインの部分ペプチドはシステインプロテアーゼ阻害活性を有するため、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤に用いることができる。また、完全長のカゼインがシステインプロテアーゼ阻害活性を有することから、配列表の配列番号1のアミノ酸番号133〜151を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、配列表の配列番号2のアミノ酸番号142〜160を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチドも、システインプロテアーゼ阻害活性を有すると考えられる。
これらのペプチドは、例えば、本発明によりシステインプロテアーゼ阻害活性領域が明らかになったので、該領域を含むアミノ酸配列に基づいて化学合成によって得ることもでき、また遺伝子組換え技術等により得ることもできる。例えば、該領域を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて目的の塩基配列を含むcDNAを鋳型としてPCR等によって塩基配列を増幅し、得られた塩基配列を適当な発現系を用いて発現させることにより得ることができる。
また、通常遺伝子においては、種、属、個体等の違いによって、1又は複数個の位置での1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の変異が存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じることがあるので、本発明に用いることができるカゼイン及びカゼイン部分ペプチドにおいても、システインプロテアーゼ阻害活性が損なわれない範囲でこのような変異を含むことが可能である。本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド、並びに配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチドが例示される。ここで、複数とは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸、及び、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸において、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から5個、好ましくは、2から3個である。
また、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸、又は、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸において1又は複数個の置換・欠失等を含むものであってもよい。この場合の複数個とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から10個、好ましくは、2から5個である。
さらに、本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチド、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチドと、アミノ酸配列において80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質又はペプチドも例示される。
前記のようなカゼインタンパク質又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列は、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。また、改変された塩基配列は従来知られている変異処理によっても取得されうる。変異を有する塩基配列は適当な細胞で発現させ、本発明の実施例に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性の測定法によってシステインプロテアーゼ阻害活性を調べることにより、カゼイン又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列が得られる。
本発明においては、カゼインの加水分解物を用いることもできる。加水分解に用いるカゼインは、前述したようなものを挙げることができる。これらのカゼインを、以下のように加水分解酵素で加水分解することによって、カゼイン加水分解物を得ることができる。
すなわち、まず前記のような原料カゼインを水又は温湯に分散し、溶解する。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15%前後の濃度範囲にするのが効率性及び操作性の点から望ましい。得られた前記カゼインを含有する溶液を70〜90℃で10分間〜15秒間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。次いで、前記カゼインを含有する溶液にアルカリ剤又は酸剤を添加し、pHを使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。本発明の方法に使用するアルカリ剤又は酸剤は、食品又は医薬品に許容されるものであれば如何なるアルカリ剤又は酸剤であってもよい。具体的には、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を、酸剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸等を例示することができる。
次いで、前記カゼイン溶液に加水分解酵素溶液を添加する。加水分解酵素は蛋白質を加水分解する酵素であれば特に制限されず、動物由来、又は微生物由来の酵素であることが好ましい。また、酵素はエンドペプチダーゼであることが好ましい。エンドペプチダーゼとしては、パンクレアチン、ペプシン、トリプシン、エラスターゼ等、種々の酵素を使用することができる。尚、「由来」とは、元来上記の生物が保持していることを意味し、採取原を意味するものではない。例えば、バチルス・ズブチリスが産生するプロテアーゼをコードする遺伝子をエシェリヒア・コリに導入し、同遺伝子を発現させることにより製造したプロテアーゼは、バチルス・ズブチリス「由来」である。
加水分解酵素はカゼイン1g当たり20〜200活性単位(この単位については後記する)の割合で添加することが好ましい。ここで、活性単位は、例えば、次の方法により測定することができる。すなわち、プロテアーゼを含有する粉末を0.2g/100mlの割合で0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に分散又は溶解して酵素溶液を調製する。一方、ロイシルパラニトロアニリド(国産化学社製。以後Leu−pNAと記載する)を0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して2mMの基質溶液を調製する。酵素溶液1mlに基質溶液1mlを添加し、37℃で5分間反応させ、その後30%の酢酸溶液2mlを添加して反応を停止させる。反応液をメンブランフィルターで濾過し、波長410nmで濾液の吸光度を測定する。プロテアーゼの活性単位は、1分間に1μmolのLeu−pNAを分解するのに必要な酵素量を1活性単位と定義し、次式により求めることができる。
活性単位(粉末1g当たり)=20×(A/B)
ただし、前記の式においてA及びBは、それぞれ波長410nmにおける試料の吸光度及び0.25mMパラニトロアニリンの吸光度を示す。
本発明において用いる加水分解酵素は1種でもよく、2種以上用いてもよい。2種以上の酵素を用いる場合は、それぞれの酵素反応は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
酵素を添加した溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持してカゼインの加水分解を開始する。加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ける。尚、本発明において、カゼイン加水分解物の分解率は、6〜45%が特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の分解率が6%以上であると、より分解が進んでいると考えられる。すなわち、分解率が6%未満であると、酵素反応を受けない未分解のカゼインが残存している可能性が考えられることから、分解率は6%以上が好ましい。
尚、蛋白質の分解率の算出方法は、例えば、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出することができる。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
加水分解反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。尚、得られた反応液は必要に応じてクエン酸等の酸によりpHを5.5〜7の範囲に調整しても良い。
本明細書において、数平均分子量とは、数平均分子量に関する文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116乃至119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されるとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。即ち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の一般式Iにより定義される。
[一般式I]
尚、本発明において数平均分子量を測定する場合は、高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、検量線からGPC分析システムによりデータ解析することにより、数平均分子量を算出することができる。高速液体クロマトグラフィーの具体的条件としては、カラムとして、ポリハイドロキシエチル・アスパルアミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column : ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。4.6mm×400mm]を使用し、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により、溶出速度0.5ml/分で溶出する条件を挙げることができる。検出はUV検出器(島津製作所。215nm)を使用して分子量分布を測定し、分子量が既知のサンプルにより検量線を作成し、GPC分析システム(波長215nm:島津製作所社製)によりデータ解析し、数平均分子量を求めることができる。
尚、本発明において、カゼイン加水分解物の数平均分子量は、200〜5000ダルトンが特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の数平均分子量が5000ダルトン以下である場合は、加水分解反応を受けない未分解のカゼインは含まれず、本願発明の有効成分であるカゼイン加水分解物をより確実に得ることができると考えられることから、数平均分子量は5000ダルトン以下が好ましい。
得られたカゼイン加水分解物を含有する溶液は、そのまま使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液、更に、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末、として使用することもできる。
上記のようにして得られるカゼイン加水分解物は、システインプロテアーゼ阻害作用を有する。したがって、システインプロテアーゼ阻害作用を指標として、カゼイン加水分解物を製造する際の条件は、適宜設定することができる。
本発明のプロテアーゼ阻害剤においては、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、または加水分解物を単独で使用することも、これらのうちの2種以上を併用して使用することも可能である。さらに、カゼインの部分ペプチド及び加水分解物は、1種を単独で使用することも、複数種を混合して用いることも可能である。
本発明に用いることができるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物は、カテプシンB、L及びパパイン等のシステインプロテアーゼに対して阻害活性を有する。システインプロテアーゼ阻害活性は、Barrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]に従って測定することができる。例えば、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/または加水分解物を含む溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(Benzyloxycarbonyl− L−Phenylalanyl− L−Arginine 4−Methyl− Coumaryl−7−Amide:最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMC(7−Amino−4−Methyl−Coumarin)の蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定することができる。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を使用し、これらを公知の製剤学的に許容される製剤担体と組合わせることにより製造することができる。本発明の製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
本発明の製剤中に含まれるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は特に限定されず適宜選択すればよいが、例えばいずれも通常製剤中に0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%とするのがよい。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤を経口的、又は非経口的に患者に投与することにより、システインプロテアーゼが関与する疾患を治療することができる。ここで、患者とは、ヒトであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定される。本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等により適宜選択される。通常有効成分としてのカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は、0.1〜1200mg/kg/日、好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えばアレルギー、筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、前立腺肥大症、乳癌、前立腺癌、歯周病等の予防・治療剤、若しくは癌細胞の増殖や転移の抑制剤、又は細菌(スタフィロコッカス・アウレウスV8等)やウイルス(ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、エイズウイルス等)の増殖抑制剤として有用である。本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、単独で使用しても良いが、公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤と併用して使用することも可能である。併用することによって、前記疾患の予防・治療効果、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制効果を高めることができる。併用する公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤は、本発明の阻害剤中に有効成分として含有させても良いし、本発明の阻害剤中には含有させずに別個の薬剤として組合わせて商品化して使用時に組み合わせても良い。
本発明の飲食品組成物は、食品又は飲料の原料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、経口的に摂取することが可能である。前記原料は、通常の飲料や食品に用いられているものを使用することができる。本発明の飲食品組成物は、システインプロテアーゼ阻害剤を添加する以外は、通常の飲食品組成物と同様にして調製することができる。飲食品組成物の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類:加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。
本発明の飲食品組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飲食品組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の食品又は飲料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
本発明の飼料組成物は、飼料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、一般的な哺乳動物や家畜類、養魚類、愛玩動物に経口的に投与することが可能である。飼料組成物の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が例示され、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、酵母類等とともに混合して本発明の飼料組成物を製造することができる。
本発明の飼料組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飼料組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の飼料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
尚、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物は、以下に示す疾患の予防用又は治療用としての効能を表示した飲食品組成物又は飼料組成物とすることができる。すなわち、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えば、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症の予防用又は治療用であること、を表示することができる。
ここに、「表示」とは、前記効能を需要者に対して知らしめる行為を意味し、例えば、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物の商品若しくは商品の包装・広告等に前記効能を付する行為、付したものを譲渡、引き渡し、展示等をする行為等があるが、特に特定保健用食品〔健康増進法施行規則(平成15年4月30日、日本国厚生労働省令第86号)の第12条第1項第5号参照〕として表示する態様が好ましい。
以下に、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤の有効成分として使用したカゼインの部分ペプチドまたはカゼイン加水分解物の製造例を示す。
[製造例1]
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを、以下の方法により製造した。
尚、前記本発明のペプチドは、自動アミノ酸合成装置(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 433A)を用いて合成を行い製造を行った。
20%ピペリジン含有N−メチルピロリドン(アプライド・バイオシステムズ社製。以下、N−メチルピロリドンをNMPと略記する)により、ペプチド合成用固相樹脂であるHMP樹脂(アプライド・バイオシステムズ社製)のアミノ保護基であるFmoc基を切断除去し、NMPで洗浄した後、Fmoc−スレオニン[具体的には、合成するペプチドのC末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸(アプライド・バイオシステムズ社製)]をFastMoc(登録商標)リージェントキット(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用して縮合させ、NMPで洗浄した。次に、前記Fmoc基の切断、続いて、C末端から2番目のアミノ酸に相当するFmoc−アラニンの縮合、及び洗浄を行い、さらにFmoc−アミノ酸の縮合及び洗浄を繰り返し、保護ペプチド樹脂を作製し、樹脂より粗製ペプチドを回収した。
前記粗製ペプチドから、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)によりペプチドの精製を行った。使用するカラムは逆相系のC18−ODS(メルク社製。Lichrospher100)を例示することができる。得られた精製ペプチドはHPLC分析を行い、精製物が単一であることを更に確認した。また、精製ペプチドのアミノ酸配列を、気相式自動アミノ酸シーケンサー(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 473A)を用いて決定した結果、配列番号1のアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有していた。
尚、同様の方法により配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも製造した。
[製造例2]
市販牛乳カゼイン「アラシッド」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを60℃に加熱した精製水に10%濃度に懸濁し、2.5gの水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を50℃に調整した後、加水分解酵素として、パンクレアチン(天野エンザイム社製、112,000U/g)を2500U添加し、50℃で4時間保持することによって加水分解し、90℃で10加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は9.5%、数平均分子量は910ダルトンであった。
[製造例3]
市販カゼインナトリウム「アラネート」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを50℃に加熱した精製水に12%濃度に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を40℃に調整した後、加水分解酵素として、ブタトリプシン(PTN6.0S;ノボザイム社製、1,250U/g)を250U添加し、40℃で6時間保持することによって加水分解し、90℃で10分間加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は10.8%、数平均分子量は750ダルトンであった。
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、乳中のシステインプロテアーゼ阻害物質を検出するために行った。
(1)検出法
本発明者はプロテアーゼ阻害物質の検出法として「逆ザイモグラフィー」という手法を用い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動のゲル上に存在するプロテアーゼ阻害物質の検出を行った。逆ザイモグラフィーとは通常のザイモグラフィーの逆の手法によるものであり、基本的原理は次のとおりである。即ち、ゼラチンを含むSDSポリアクリルアミドゲルにプロテアーゼ阻害物質を含むサンプルをアプライし、電気泳動を行った後にゲルをプロテアーゼ溶液に浸漬してゲル中のタンパク質を分解する。この操作により阻害物質が存在する部分はプロテアーゼの活性を阻害することから、ゼラチンはプロテアーゼによる分解を免れ、これが染色液によって染色されることにより、阻害物質を識別することが可能となる。
(2)試験方法
本発明における逆ザイモグラフィーの方法は以下のとおりである。
牛乳中の全タンパク質及び天然のウシβ−カゼインをサンプルとし、0.1%ゼラチンを含む12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて、電気泳動(以下、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をSDS−PAGEと略記することがある。)を行った。泳動後、ゲルを2.5%Triton X−100溶液に45分間浸漬して洗浄した後、更に45分間蒸留水に浸漬する操作を3回繰り返してゲルを洗浄した。このゲルを、1mgパパイン(31units/ml)を含む0.025M酢酸緩衝液(pH5.5)100mlに浸漬し、37℃で10時間保温してゼラチンを消化した。ゲルを蒸留水で洗浄後、染色液(0.025%クマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)R−250、40%メタノール、7%酢酸水溶液)で1時間染色し、その後脱色液(40%メタノール、10%酢酸水溶液)で脱色を行った。
これとは別に、対照試験としてゼラチンを含まない12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて前記と同様に逆ザイモグラフィーを行った。さらに、通常の12.5%SDS−PAGE(CBB染色)を行った。
(3)試験結果
本試験の結果は図1に示すとおりである。図1は逆ザイモグラフィーのパターンを示す結果である。図1の1レーンは牛乳中の全タンパク質の通常のSDS−PAGEのパターン、2レーンは牛乳中の全タンパク質の逆ザイモグラフィーのパターン、3レーンは牛乳中の全タンパク質のゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターン、6レーンは天然のウシβ−カゼインの逆ザイモグラフィーのパターン、7レーンは天然のウシβ−カゼインのゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターンを各々示している。尚、図中矢印は天然のウシ由来β−カゼイン(分子量35kDa)のSDS−PAGEによる泳動位置を示している。尚、4レーン及び5レーンは、本試験例とは直接関係がない。
図1から明らかなとおり、2レーンにおいてウシβ−カゼインの泳動位置(35kDa)とほぼ同位置に逆ザイモグラフィーのポジティブなバンドが確認された。このことより、牛乳中にシステインプロテアーゼ阻害活性を有する物質の存在が確認された。また、6レーンにおいて天然のウシβ−カゼインを泳動したパパインを用いた逆ザイモグラフィーにおいて、ポジティブなバンドが確認された。
以上の結果から、ウシ由来のβ−カゼインにシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが示唆された。
[試験例2]
本試験は、試験例1においてシステインプロテアーゼ阻害活性が示唆された35kDaのバンドについてN末端アミノ酸配列を決定するために行った。
(1)試験方法
試験例1で使用した牛乳中の全タンパク質サンプルを同様に使用してSDS−PAGEを行った後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、PVDF膜をCBBで染色後、35kDa付近に泳動された染色バンドを切り出した。このバンドについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてN末端アミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。図2は牛乳中の35kDa染色バンドのアミノ酸配列を決定した結果である。その結果、35kDa染色バンドのN末端アミノ酸配列はウシβ−カゼインのそれと完全に一致した。従って、本試験の結果と試験例1の結果の両者から、ウシβ−カゼインはシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
[試験例3]
本試験は、カゼイン分子中におけるシステインプロテアーゼ阻害活性を有する領域を検索するために行った。
(1)試験方法
ウシβ−カゼイン250μgを、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、リシルエンドペプチダーゼにより35℃で16時間消化した。消化後のウシβ−カゼインペプチド混合物にシステインプロテアーゼ阻害活性が保持されているかどうかを確認するために、システインプロアーゼ阻害活性を測定した。
阻害活性の測定方法はBarrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]を参考にして、次のとおり行った。即ち、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したウシβ−カゼインペプチド混合物溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立社製)を用いて測定した。
測定の結果、ウシβ−カゼインペプチド混合物に阻害活性が保持されていることが確認されたので、引き続きペプチド混合物について、TSK Gel DDS−80Tsカラム(東ソー社製)を用いた逆相HPLCによるアセトニトリル直線濃度勾配溶出法によって、主要なピークを分離した。次に、分離したピークのサンプル(以下、ペプチドサンプルと記載する。)の各々について、前記と同様の方法でシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
ペプチドサンプルの阻害活性測定の結果、活性を有するペプチドサンプルについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてそのアミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。その結果、阻害活性を有する主要なペプチドサンプルは、図2中のウシβ−カゼインのアミノ酸配列における142残基目Leuから160残基目Hisまでのアミノ酸配列(下線部:以下、該配列のペプチドをウシβ−カゼインペプチドと記載する。)を有することが判明した。
[試験例4]
本試験は、カゼイン類のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料として、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインを各々用いて、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により前記試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は、図3に示すとおりである。図3は、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインのパパインに対するシステインプロテアーゼ阻害効果を示す。その結果、β−カゼイン及びκ−カゼインは10−5Mの濃度でパパインを完全に阻害し、α−カゼインについても若干弱いながらも10−4Mでパパインの活性をほぼ阻害することが判明した。従って、β−カゼインだけでなく、κ−カゼインやα−カゼインについてシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
[試験例5]
本試験は、ウシβ−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料としてウシβ−カゼイン、システインプロテアーゼとしてパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLを使用して、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図4に示すとおりである。図4は、パパイン、カテプシンB、及びカテプシンLに対するウシβ−カゼインの阻害効果を測定した結果である。その結果、ウシβ−カゼインが10−5Mでパパインを完全に阻害することが判明した。またカテプシンB及びカテプシンLについてもウシβ−カゼインが10−4Mでそれらのプロテアーゼ活性をほぼ阻害することが判明した。従って、ウシβ−カゼインはパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLのプロテアーゼ活性を阻害し、幅広いシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを有することが明らかとなった。
[試験例6]
本試験は、ヒトβ−カゼインのシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
常法に従って精製したヒトβ−カゼイン(例えば、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス[J.Daily Sci.]、第53巻、第2号、第136〜145ページ、1970年、に記載の方法によって精製)、及び実施例1で合成した配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列(ヒトβ−カゼインのアミノ酸配列)のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド(図5中、ヒトβ−カゼインの下線部ペプチド:以下、該配列のペプチドをヒトβ−カゼインペプチドと記載する。)を各々試験試料として、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果、ヒトβ−カゼインは10−5Mでパパインのプロテアーゼ活性をほぼ完全に阻害することが判明した。また、ヒトβ−カゼインペプチドは、10−5Mでパパインのプロテアーゼ活性を65%阻害し、10−4Mでパパインのプロテアーゼ活性を完全に阻害することが判明した。
[試験例7]
本試験は、カゼイン加水分解物のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試料の調製
加水分解物としてパンクレアチンをそれぞれ2000、8000、及び9000ユニット(units)添加して製造したこと以外は、製造例2と同一の方法により製造したカゼイン加水分解物を試験試料1、試験試料2及び試験試料3とした。尚、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の分解率(%)は、それぞれ8.2、33.5及び38.0であった。また、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の数平均分子量(ダルトン)は、それぞれ1020、250及び210であった。
(2)試験方法
0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解した試験試料溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼであるパパイン溶液(最終濃度15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定した。
(3)試験結果
本試験の結果は、表1に示すとおりである。表1は、各試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を示す。その結果、試験試料1は、0.1mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を39%阻害し、0.2mg/mlの濃度では61%阻害した。試験試料2は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を76%阻害し、0.05mg/mlの濃度においても50%阻害した。試験試料3は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を53%阻害し、0.1mg/mlの濃度で44%、0.05mg/mlの濃度においても37%阻害した。
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関する。本発明に用いられるカゼインとしては、市販の各種カゼイン、若しくはヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から常法(例えば、等電点沈殿法)により単離したもの、又は遺伝子組換え技術等によって生産されたものであってよい。カゼインは、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼインに分類されるが、本発明にはいずれのカゼインも用いることができ、好ましくはβ−カゼイン又はκ−カゼインを用いることができる。その中でも特にヒト由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss−Prot Accession No.:P05814に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン)、及びウシ由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss−Prot Accession No.:P02666に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン)が好ましい。具体的には、ヒトのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号1、ウシのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
本発明に用いられるカゼインの部分ペプチドとしては、例えば、前記カゼインを酸又はプロテアーゼにより公知の方法で加水分解し、生成した部分ペプチドを精製することにより得ることができる。一例としては、カゼインを100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)中でリシルエンドペプチダーゼにより35℃で3時間以上消化し、生成した部分ペプチドを高速クロマトグラフ法等により精製することにより製造することができる。
本発明において使用することができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドの好ましい形態としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを例示することができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも例示することができる。なお、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、及び配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜15はシグナル配列である。
これらのカゼイン又はカゼインの部分ペプチドはシステインプロテアーゼ阻害活性を有するため、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤に用いることができる。また、完全長のカゼインがシステインプロテアーゼ阻害活性を有することから、配列表の配列番号1のアミノ酸番号133〜151を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、配列表の配列番号2のアミノ酸番号142〜160を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチドも、システインプロテアーゼ阻害活性を有すると考えられる。
これらのペプチドは、例えば、本発明によりシステインプロテアーゼ阻害活性領域が明らかになったので、該領域を含むアミノ酸配列に基づいて化学合成によって得ることもでき、また遺伝子組換え技術等により得ることもできる。例えば、該領域を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて目的の塩基配列を含むcDNAを鋳型としてPCR等によって塩基配列を増幅し、得られた塩基配列を適当な発現系を用いて発現させることにより得ることができる。
また、通常遺伝子においては、種、属、個体等の違いによって、1又は複数個の位置での1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の変異が存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じることがあるので、本発明に用いることができるカゼイン及びカゼイン部分ペプチドにおいても、システインプロテアーゼ阻害活性が損なわれない範囲でこのような変異を含むことが可能である。本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド、並びに配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチドが例示される。ここで、複数とは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸、及び、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸において、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から5個、好ましくは、2から3個である。
また、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸、又は、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸において1又は複数個の置換・欠失等を含むものであってもよい。この場合の複数個とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から10個、好ましくは、2から5個である。
さらに、本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチド、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチドと、アミノ酸配列において80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質又はペプチドも例示される。
前記のようなカゼインタンパク質又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列は、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。また、改変された塩基配列は従来知られている変異処理によっても取得されうる。変異を有する塩基配列は適当な細胞で発現させ、本発明の実施例に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性の測定法によってシステインプロテアーゼ阻害活性を調べることにより、カゼイン又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列が得られる。
本発明においては、カゼインの加水分解物を用いることもできる。加水分解に用いるカゼインは、前述したようなものを挙げることができる。これらのカゼインを、以下のように加水分解酵素で加水分解することによって、カゼイン加水分解物を得ることができる。
すなわち、まず前記のような原料カゼインを水又は温湯に分散し、溶解する。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15%前後の濃度範囲にするのが効率性及び操作性の点から望ましい。得られた前記カゼインを含有する溶液を70〜90℃で10分間〜15秒間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。次いで、前記カゼインを含有する溶液にアルカリ剤又は酸剤を添加し、pHを使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。本発明の方法に使用するアルカリ剤又は酸剤は、食品又は医薬品に許容されるものであれば如何なるアルカリ剤又は酸剤であってもよい。具体的には、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を、酸剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸等を例示することができる。
次いで、前記カゼイン溶液に加水分解酵素溶液を添加する。加水分解酵素は蛋白質を加水分解する酵素であれば特に制限されず、動物由来、又は微生物由来の酵素であることが好ましい。また、酵素はエンドペプチダーゼであることが好ましい。エンドペプチダーゼとしては、パンクレアチン、ペプシン、トリプシン、エラスターゼ等、種々の酵素を使用することができる。尚、「由来」とは、元来上記の生物が保持していることを意味し、採取原を意味するものではない。例えば、バチルス・ズブチリスが産生するプロテアーゼをコードする遺伝子をエシェリヒア・コリに導入し、同遺伝子を発現させることにより製造したプロテアーゼは、バチルス・ズブチリス「由来」である。
加水分解酵素はカゼイン1g当たり20〜200活性単位(この単位については後記する)の割合で添加することが好ましい。ここで、活性単位は、例えば、次の方法により測定することができる。すなわち、プロテアーゼを含有する粉末を0.2g/100mlの割合で0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に分散又は溶解して酵素溶液を調製する。一方、ロイシルパラニトロアニリド(国産化学社製。以後Leu−pNAと記載する)を0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して2mMの基質溶液を調製する。酵素溶液1mlに基質溶液1mlを添加し、37℃で5分間反応させ、その後30%の酢酸溶液2mlを添加して反応を停止させる。反応液をメンブランフィルターで濾過し、波長410nmで濾液の吸光度を測定する。プロテアーゼの活性単位は、1分間に1μmolのLeu−pNAを分解するのに必要な酵素量を1活性単位と定義し、次式により求めることができる。
活性単位(粉末1g当たり)=20×(A/B)
ただし、前記の式においてA及びBは、それぞれ波長410nmにおける試料の吸光度及び0.25mMパラニトロアニリンの吸光度を示す。
本発明において用いる加水分解酵素は1種でもよく、2種以上用いてもよい。2種以上の酵素を用いる場合は、それぞれの酵素反応は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
酵素を添加した溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持してカゼインの加水分解を開始する。加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ける。尚、本発明において、カゼイン加水分解物の分解率は、6〜45%が特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の分解率が6%以上であると、より分解が進んでいると考えられる。すなわち、分解率が6%未満であると、酵素反応を受けない未分解のカゼインが残存している可能性が考えられることから、分解率は6%以上が好ましい。
尚、蛋白質の分解率の算出方法は、例えば、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出することができる。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
加水分解反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。尚、得られた反応液は必要に応じてクエン酸等の酸によりpHを5.5〜7の範囲に調整しても良い。
本明細書において、数平均分子量とは、数平均分子量に関する文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116乃至119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されるとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。即ち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の一般式Iにより定義される。
[一般式I]
尚、本発明において数平均分子量を測定する場合は、高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、検量線からGPC分析システムによりデータ解析することにより、数平均分子量を算出することができる。高速液体クロマトグラフィーの具体的条件としては、カラムとして、ポリハイドロキシエチル・アスパルアミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column : ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。4.6mm×400mm]を使用し、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により、溶出速度0.5ml/分で溶出する条件を挙げることができる。検出はUV検出器(島津製作所。215nm)を使用して分子量分布を測定し、分子量が既知のサンプルにより検量線を作成し、GPC分析システム(波長215nm:島津製作所社製)によりデータ解析し、数平均分子量を求めることができる。
尚、本発明において、カゼイン加水分解物の数平均分子量は、200〜5000ダルトンが特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の数平均分子量が5000ダルトン以下である場合は、加水分解反応を受けない未分解のカゼインは含まれず、本願発明の有効成分であるカゼイン加水分解物をより確実に得ることができると考えられることから、数平均分子量は5000ダルトン以下が好ましい。
得られたカゼイン加水分解物を含有する溶液は、そのまま使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液、更に、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末、として使用することもできる。
上記のようにして得られるカゼイン加水分解物は、システインプロテアーゼ阻害作用を有する。したがって、システインプロテアーゼ阻害作用を指標として、カゼイン加水分解物を製造する際の条件は、適宜設定することができる。
本発明のプロテアーゼ阻害剤においては、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、または加水分解物を単独で使用することも、これらのうちの2種以上を併用して使用することも可能である。さらに、カゼインの部分ペプチド及び加水分解物は、1種を単独で使用することも、複数種を混合して用いることも可能である。
本発明に用いることができるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物は、カテプシンB、L及びパパイン等のシステインプロテアーゼに対して阻害活性を有する。システインプロテアーゼ阻害活性は、Barrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]に従って測定することができる。例えば、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/または加水分解物を含む溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(Benzyloxycarbonyl− L−Phenylalanyl− L−Arginine 4−Methyl− Coumaryl−7−Amide:最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMC(7−Amino−4−Methyl−Coumarin)の蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定することができる。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を使用し、これらを公知の製剤学的に許容される製剤担体と組合わせることにより製造することができる。本発明の製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
本発明の製剤中に含まれるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は特に限定されず適宜選択すればよいが、例えばいずれも通常製剤中に0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%とするのがよい。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤を経口的、又は非経口的に患者に投与することにより、システインプロテアーゼが関与する疾患を治療することができる。ここで、患者とは、ヒトであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定される。本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等により適宜選択される。通常有効成分としてのカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は、0.1〜1200mg/kg/日、好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えばアレルギー、筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、前立腺肥大症、乳癌、前立腺癌、歯周病等の予防・治療剤、若しくは癌細胞の増殖や転移の抑制剤、又は細菌(スタフィロコッカス・アウレウスV8等)やウイルス(ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、エイズウイルス等)の増殖抑制剤として有用である。本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、単独で使用しても良いが、公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤と併用して使用することも可能である。併用することによって、前記疾患の予防・治療効果、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制効果を高めることができる。併用する公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤は、本発明の阻害剤中に有効成分として含有させても良いし、本発明の阻害剤中には含有させずに別個の薬剤として組合わせて商品化して使用時に組み合わせても良い。
本発明の飲食品組成物は、食品又は飲料の原料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、経口的に摂取することが可能である。前記原料は、通常の飲料や食品に用いられているものを使用することができる。本発明の飲食品組成物は、システインプロテアーゼ阻害剤を添加する以外は、通常の飲食品組成物と同様にして調製することができる。飲食品組成物の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類:加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。
本発明の飲食品組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飲食品組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の食品又は飲料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
本発明の飼料組成物は、飼料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、一般的な哺乳動物や家畜類、養魚類、愛玩動物に経口的に投与することが可能である。飼料組成物の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が例示され、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、酵母類等とともに混合して本発明の飼料組成物を製造することができる。
本発明の飼料組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飼料組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の飼料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
尚、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物は、以下に示す疾患の予防用又は治療用としての効能を表示した飲食品組成物又は飼料組成物とすることができる。すなわち、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えば、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症の予防用又は治療用であること、を表示することができる。
ここに、「表示」とは、前記効能を需要者に対して知らしめる行為を意味し、例えば、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物の商品若しくは商品の包装・広告等に前記効能を付する行為、付したものを譲渡、引き渡し、展示等をする行為等があるが、特に特定保健用食品〔健康増進法施行規則(平成15年4月30日、日本国厚生労働省令第86号)の第12条第1項第5号参照〕として表示する態様が好ましい。
以下に、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤の有効成分として使用したカゼインの部分ペプチドまたはカゼイン加水分解物の製造例を示す。
[製造例1]
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを、以下の方法により製造した。
尚、前記本発明のペプチドは、自動アミノ酸合成装置(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 433A)を用いて合成を行い製造を行った。
20%ピペリジン含有N−メチルピロリドン(アプライド・バイオシステムズ社製。以下、N−メチルピロリドンをNMPと略記する)により、ペプチド合成用固相樹脂であるHMP樹脂(アプライド・バイオシステムズ社製)のアミノ保護基であるFmoc基を切断除去し、NMPで洗浄した後、Fmoc−スレオニン[具体的には、合成するペプチドのC末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸(アプライド・バイオシステムズ社製)]をFastMoc(登録商標)リージェントキット(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用して縮合させ、NMPで洗浄した。次に、前記Fmoc基の切断、続いて、C末端から2番目のアミノ酸に相当するFmoc−アラニンの縮合、及び洗浄を行い、さらにFmoc−アミノ酸の縮合及び洗浄を繰り返し、保護ペプチド樹脂を作製し、樹脂より粗製ペプチドを回収した。
前記粗製ペプチドから、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)によりペプチドの精製を行った。使用するカラムは逆相系のC18−ODS(メルク社製。Lichrospher100)を例示することができる。得られた精製ペプチドはHPLC分析を行い、精製物が単一であることを更に確認した。また、精製ペプチドのアミノ酸配列を、気相式自動アミノ酸シーケンサー(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 473A)を用いて決定した結果、配列番号1のアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有していた。
尚、同様の方法により配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも製造した。
[製造例2]
市販牛乳カゼイン「アラシッド」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを60℃に加熱した精製水に10%濃度に懸濁し、2.5gの水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を50℃に調整した後、加水分解酵素として、パンクレアチン(天野エンザイム社製、112,000U/g)を2500U添加し、50℃で4時間保持することによって加水分解し、90℃で10加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は9.5%、数平均分子量は910ダルトンであった。
[製造例3]
市販カゼインナトリウム「アラネート」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを50℃に加熱した精製水に12%濃度に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を40℃に調整した後、加水分解酵素として、ブタトリプシン(PTN6.0S;ノボザイム社製、1,250U/g)を250U添加し、40℃で6時間保持することによって加水分解し、90℃で10分間加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は10.8%、数平均分子量は750ダルトンであった。
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、乳中のシステインプロテアーゼ阻害物質を検出するために行った。
(1)検出法
本発明者はプロテアーゼ阻害物質の検出法として「逆ザイモグラフィー」という手法を用い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動のゲル上に存在するプロテアーゼ阻害物質の検出を行った。逆ザイモグラフィーとは通常のザイモグラフィーの逆の手法によるものであり、基本的原理は次のとおりである。即ち、ゼラチンを含むSDSポリアクリルアミドゲルにプロテアーゼ阻害物質を含むサンプルをアプライし、電気泳動を行った後にゲルをプロテアーゼ溶液に浸漬してゲル中のタンパク質を分解する。この操作により阻害物質が存在する部分はプロテアーゼの活性を阻害することから、ゼラチンはプロテアーゼによる分解を免れ、これが染色液によって染色されることにより、阻害物質を識別することが可能となる。
(2)試験方法
本発明における逆ザイモグラフィーの方法は以下のとおりである。
牛乳中の全タンパク質及び天然のウシβ−カゼインをサンプルとし、0.1%ゼラチンを含む12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて、電気泳動(以下、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をSDS−PAGEと略記することがある。)を行った。泳動後、ゲルを2.5%Triton X−100溶液に45分間浸漬して洗浄した後、更に45分間蒸留水に浸漬する操作を3回繰り返してゲルを洗浄した。このゲルを、1mgパパイン(31units/ml)を含む0.025M酢酸緩衝液(pH5.5)100mlに浸漬し、37℃で10時間保温してゼラチンを消化した。ゲルを蒸留水で洗浄後、染色液(0.025%クマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)R−250、40%メタノール、7%酢酸水溶液)で1時間染色し、その後脱色液(40%メタノール、10%酢酸水溶液)で脱色を行った。
これとは別に、対照試験としてゼラチンを含まない12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて前記と同様に逆ザイモグラフィーを行った。さらに、通常の12.5%SDS−PAGE(CBB染色)を行った。
(3)試験結果
本試験の結果は図1に示すとおりである。図1は逆ザイモグラフィーのパターンを示す結果である。図1の1レーンは牛乳中の全タンパク質の通常のSDS−PAGEのパターン、2レーンは牛乳中の全タンパク質の逆ザイモグラフィーのパターン、3レーンは牛乳中の全タンパク質のゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターン、6レーンは天然のウシβ−カゼインの逆ザイモグラフィーのパターン、7レーンは天然のウシβ−カゼインのゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターンを各々示している。尚、図中矢印は天然のウシ由来β−カゼイン(分子量35kDa)のSDS−PAGEによる泳動位置を示している。尚、4レーン及び5レーンは、本試験例とは直接関係がない。
図1から明らかなとおり、2レーンにおいてウシβ−カゼインの泳動位置(35kDa)とほぼ同位置に逆ザイモグラフィーのポジティブなバンドが確認された。このことより、牛乳中にシステインプロテアーゼ阻害活性を有する物質の存在が確認された。また、6レーンにおいて天然のウシβ−カゼインを泳動したパパインを用いた逆ザイモグラフィーにおいて、ポジティブなバンドが確認された。
以上の結果から、ウシ由来のβ−カゼインにシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが示唆された。
[試験例2]
本試験は、試験例1においてシステインプロテアーゼ阻害活性が示唆された35kDaのバンドについてN末端アミノ酸配列を決定するために行った。
(1)試験方法
試験例1で使用した牛乳中の全タンパク質サンプルを同様に使用してSDS−PAGEを行った後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、PVDF膜をCBBで染色後、35kDa付近に泳動された染色バンドを切り出した。このバンドについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてN末端アミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。図2は牛乳中の35kDa染色バンドのアミノ酸配列を決定した結果である。その結果、35kDa染色バンドのN末端アミノ酸配列はウシβ−カゼインのそれと完全に一致した。従って、本試験の結果と試験例1の結果の両者から、ウシβ−カゼインはシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
[試験例3]
本試験は、カゼイン分子中におけるシステインプロテアーゼ阻害活性を有する領域を検索するために行った。
(1)試験方法
ウシβ−カゼイン250μgを、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、リシルエンドペプチダーゼにより35℃で16時間消化した。消化後のウシβ−カゼインペプチド混合物にシステインプロテアーゼ阻害活性が保持されているかどうかを確認するために、システインプロアーゼ阻害活性を測定した。
阻害活性の測定方法はBarrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]を参考にして、次のとおり行った。即ち、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したウシβ−カゼインペプチド混合物溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立社製)を用いて測定した。
測定の結果、ウシβ−カゼインペプチド混合物に阻害活性が保持されていることが確認されたので、引き続きペプチド混合物について、TSK Gel DDS−80Tsカラム(東ソー社製)を用いた逆相HPLCによるアセトニトリル直線濃度勾配溶出法によって、主要なピークを分離した。次に、分離したピークのサンプル(以下、ペプチドサンプルと記載する。)の各々について、前記と同様の方法でシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
ペプチドサンプルの阻害活性測定の結果、活性を有するペプチドサンプルについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてそのアミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。その結果、阻害活性を有する主要なペプチドサンプルは、図2中のウシβ−カゼインのアミノ酸配列における142残基目Leuから160残基目Hisまでのアミノ酸配列(下線部:以下、該配列のペプチドをウシβ−カゼインペプチドと記載する。)を有することが判明した。
[試験例4]
本試験は、カゼイン類のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料として、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインを各々用いて、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により前記試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は、図3に示すとおりである。図3は、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインのパパインに対するシステインプロテアーゼ阻害効果を示す。その結果、β−カゼイン及びκ−カゼインは10−5Mの濃度でパパインを完全に阻害し、α−カゼインについても若干弱いながらも10−4Mでパパインの活性をほぼ阻害することが判明した。従って、β−カゼインだけでなく、κ−カゼインやα−カゼインについてシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
[試験例5]
本試験は、ウシβ−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料としてウシβ−カゼイン、システインプロテアーゼとしてパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLを使用して、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図4に示すとおりである。図4は、パパイン、カテプシンB、及びカテプシンLに対するウシβ−カゼインの阻害効果を測定した結果である。その結果、ウシβ−カゼインが10−5Mでパパインを完全に阻害することが判明した。またカテプシンB及びカテプシンLについてもウシβ−カゼインが10−4Mでそれらのプロテアーゼ活性をほぼ阻害することが判明した。従って、ウシβ−カゼインはパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLのプロテアーゼ活性を阻害し、幅広いシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを有することが明らかとなった。
[試験例6]
本試験は、ヒトβ−カゼインのシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
常法に従って精製したヒトβ−カゼイン(例えば、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス[J.Daily Sci.]、第53巻、第2号、第136〜145ページ、1970年、に記載の方法によって精製)、及び実施例1で合成した配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列(ヒトβ−カゼインのアミノ酸配列)のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド(図5中、ヒトβ−カゼインの下線部ペプチド:以下、該配列のペプチドをヒトβ−カゼインペプチドと記載する。)を各々試験試料として、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果、ヒトβ−カゼインは10−5Mでパパインのプロテアーゼ活性をほぼ完全に阻害することが判明した。また、ヒトβ−カゼインペプチドは、10−5Mでパパインのプロテアーゼ活性を65%阻害し、10−4Mでパパインのプロテアーゼ活性を完全に阻害することが判明した。
[試験例7]
本試験は、カゼイン加水分解物のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試料の調製
加水分解物としてパンクレアチンをそれぞれ2000、8000、及び9000ユニット(units)添加して製造したこと以外は、製造例2と同一の方法により製造したカゼイン加水分解物を試験試料1、試験試料2及び試験試料3とした。尚、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の分解率(%)は、それぞれ8.2、33.5及び38.0であった。また、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の数平均分子量(ダルトン)は、それぞれ1020、250及び210であった。
(2)試験方法
0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解した試験試料溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼであるパパイン溶液(最終濃度15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定した。
(3)試験結果
本試験の結果は、表1に示すとおりである。表1は、各試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を示す。その結果、試験試料1は、0.1mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を39%阻害し、0.2mg/mlの濃度では61%阻害した。試験試料2は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を76%阻害し、0.05mg/mlの濃度においても50%阻害した。試験試料3は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を53%阻害し、0.1mg/mlの濃度で44%、0.05mg/mlの濃度においても37%阻害した。
次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(ウシβ−カゼインを配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
ウシβ−カゼイン(シグマ社製) 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロースカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシβ−カゼイン、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロースカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
ウシβ−カゼイン(シグマ社製) 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロースカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシβ−カゼイン、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロースカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
(カプセル入りウシβ−カゼインの調製)
乳糖(和光純薬工業社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)600gを、50メッシュ篩(ヤマト科学社製)により篩分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(Cesere Pedini社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製。1号ゼラチンカプセル、Op.Yellow No.6 Body、空重量は75mg)に内容量275mgで充填し、ウシβ−カゼイン82mg入りのカプセル剤7,000個を得た。
乳糖(和光純薬工業社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)600gを、50メッシュ篩(ヤマト科学社製)により篩分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(Cesere Pedini社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製。1号ゼラチンカプセル、Op.Yellow No.6 Body、空重量は75mg)に内容量275mgで充填し、ウシβ−カゼイン82mg入りのカプセル剤7,000個を得た。
(ウシβ−カゼインを添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、ウシβ−カゼイン(シグマ社製)1gを添加し、ウシβ−カゼイン約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、ウシβ−カゼイン(シグマ社製)1gを添加し、ウシβ−カゼイン約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
(ウシβ−カゼインを添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)60gを添加し、均一に混合して、ウシβ−カゼインを含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)60gを添加し、均一に混合して、ウシβ−カゼインを含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
(ウシカゼイン加水分解物を配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
製造例2で製造したカゼイン加水分解物 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロースカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシカゼイン加水分解物、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロースカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
製造例2で製造したカゼイン加水分解物 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロースカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシカゼイン加水分解物、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロースカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
(ウシカゼイン加水分解物を添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物1gを添加し、ウシカゼイン加水分解物約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物1gを添加し、ウシカゼイン加水分解物約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
(ウシカゼイン加水分解物を添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及び製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物60gを添加し、均一に混合して、ウシカゼイン加水分解物を含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及び製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物60gを添加し、均一に混合して、ウシカゼイン加水分解物を含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
以上詳記したとおり、本発明はカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/又はカゼイン加水分解物を有効成分とするシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、本発明により奏される効果は次のとおりである。
(1)食品素材として利用することができるタンパク質、その部分ペプチド及び/又はその加水分解物であるので、安全性に優れ、日常的に長期間投与又は摂取が可能である。
(2)幅広いシステインプロテアーゼに対して阻害活性スペクトルを有する。
(3)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤として使用することが可能である。
(4)特定保健用食品、栄養補助食品を含む機能性食品等の製造等の用途に利用することが可能である。
(5)食品加工分野における食品の物性調節剤として利用することが可能である。
(1)食品素材として利用することができるタンパク質、その部分ペプチド及び/又はその加水分解物であるので、安全性に優れ、日常的に長期間投与又は摂取が可能である。
(2)幅広いシステインプロテアーゼに対して阻害活性スペクトルを有する。
(3)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤として使用することが可能である。
(4)特定保健用食品、栄養補助食品を含む機能性食品等の製造等の用途に利用することが可能である。
(5)食品加工分野における食品の物性調節剤として利用することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、骨粗鬆症、悪性腫瘍
性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに飲食品及び飼料等に利用することが可能なシステインプロテアーゼ阻害剤である。
【背景技術】
【0002】
活性中心にチオール基を有する蛋白分解酵素はシステインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)と総称されている。カテプシンL、カテプシンB、カテプシンKは、カルシウム依存性中性プロテアーゼ(CAMP)、パパイン、フィシン、ブロメライン等とともに代表的なシステインプロテアーゼの一つである。そしてこれらシステインプロテアーゼに対して阻害作用を有する物質は、システインプロテアーゼが関与するとされる疾患、例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、頭部外傷時の意識障害や運動障害、多発性硬化症、末梢神経のニューロパシー、白内障、炎症、アレルギー、劇症肝炎、骨粗鬆症、高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、前立腺肥大症等の治療薬として、あるいは癌の増殖抑制、転移予防薬、血小板の凝集阻害薬等として期待される。また、近年に至り、勝沼等の研究によってカテプシンL、カテプシンBと骨粗鬆症乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症との関係が解明され、それによって、とりわけカテプシンL阻害剤の骨粗鬆症治療剤乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症治療剤としての医薬への適用が注目されつつある(勝沼信彦著、「BIO media」、第7巻、第6号、第73〜77ページ、1992年)。骨組織においては、骨芽細胞(osteoblast)による骨形成と、破骨細胞(osteoclast)による骨吸収が生涯を通じて行われており、成長期には骨形成が骨吸収を上回ることにより骨重量が増加し、一方老年期には逆に骨吸収が骨形成を上回るために骨重量が減少し、骨粗鬆症の発症となる。これら骨粗鬆症の原因としては様々なものがあるが、特に骨崩壊(骨吸収)を主原因の一つとして挙げることができる。これを更に2つの原因に分けると次のようになる。即ち、一つはカルシウムの吸収と沈着不全に起因するものであり、更に詳しくはカルシウムの供給量、転送、吸収、及び沈着が関係するものであり、ビタミンD誘導体、女性ホルモン(エストロゲン)等が関与していると考えられる。いま一つは、骨支持組織であるコラーゲンの分解促進を内容とするものであり、破骨細胞内リソゾームから分泌されるシステインプロテアーゼ群、中でも特にカテプシンL、カテプシンB、カテプシンKによる骨コラーゲン分解が主たる原因である。破骨細胞内のリソゾームから分泌されたこれらカテプシンL及びBは骨組織中のコラーゲンの分解を促進し、それによって古い骨は溶解され、ヒドロキシプロリンとともにカルシウムが血中に遊離放出させられる。従って、カテプシンL、カテプシンB及びカテプシンKのコラーゲン分解能を阻害することによって過剰な骨崩壊を防止することが可能であり、ひいては骨粗鬆症の治療が可能となる。これら骨粗鬆症の治療剤としては、エストロゲン、タンパク同化ホルモン、カルシウム剤、ビタミンD、カルシトニン、あるいはビスホスホネート等が知られている。またカテプシンL阻害、カテプシンB阻害、又はカテプシンK阻害のいわゆるシステインプロテアーゼ阻害を作用機序とする骨粗鬆症治療剤についてもいくつかのシステインプロテアーゼ阻害剤をもちいた骨粗鬆症治療剤の開発が進められている(特開平7−179496号公報、特表2002−501502号公報)が、さらなる骨粗鬆症治療剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、高カルシウム血症は、血清中のカルシウム濃度が正常値以上となる代謝異常であり、腫瘍患者に多く見受けられる。これを放置した場合、患者の寿命は10日程度であると言われている。原因の多くは腫瘍の骨転移である。腫瘍が骨に転移すると、骨破壊が起こり、カルシウムが血中に放出される。このカルシウムは腎臓で処理されるが、骨破壊のスピードが腎臓の処理能力を上回ったとき、高カルシウム血症の発現となる。治療方法としては、フロセミドを併用した生理的食塩水の輸液を用いることにより腎臓からのカルシウム排泄を促進する方法や、骨粗鬆症治療薬であるカルシトニンを使用する方法等が知られている。即ち、骨吸収を抑制するような骨粗鬆症治療薬は悪性腫瘍性高カルシウム血症の治療剤としても有効であるといえる。
【0004】
本発明者らにより、このような目的に使用し得るシステインプロテアーゼ阻害剤としてすでに以下のものが開示されている。
(1)カテプシンL特異的阻害ポリペプチド(特開平7−179496号公報)
(2)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平9−221425号公報)
(3)バリン誘導体およびその用途(特開2001−139534号公報)
(4)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平7−242600号公報)
(5)FA-70C1物質(特開2000−72797号公報)
(6)FA-70D物質、その製造法及びその用途(国際公開第97/31122号パンフレット)
しかしながら、食品素材として利用の点から、より汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤の開発が望まれていた。
【0005】
他方、これまでに、母乳中にプロテアーゼ阻害物質が存在することが知られている。母乳に含まれるプロテアーゼ阻害物質として知られているものとしては、α1−アンチキモトリプシン、α1−アンチトリプシンが挙げられ、インターα2−トリプシン阻害物質、α2−アンチプラスミン、α2−マクログロブリン、アンチトロンビンIII、アンチロイコプロテアーゼなどの阻害剤等も母乳に微量含まれている(清澤功著、「母乳の栄養学」、金原出版、第80〜81ページ)。
【0006】
乳中において、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質については、すでに以下のものが開示されている。
(1)牛初乳由来の糖鎖を有する分子量約57kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−2896号公報)
(2)牛初乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−126294号公報)
(3)人乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規タンパク質およびその製造方法(特開平10−80281号公報)
(4)牛乳から調製された牛乳由来塩基性シスタチン及び/又は牛乳由来塩基性シスタチン分解物を有効成分とする骨吸収阻害剤(特開2000−281587号公報)
(5)乳塩基性蛋白質(MBP)中に含まれるシスタチンC、及びインビトロにおける該シスタチンCによる骨吸収阻害効果(バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー[Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry]、日本、第66巻、第12号、2002年、p.2531−2536)
【0007】
ほ乳類乳に多量に含有されるタンパク質として、ラクトフェリン及びβ−カゼインなどが挙げられる。カゼインは、αs−カゼイン、β−カゼイン及びκ−カゼインに分類され、人乳中のカゼインは、β−カゼインがほとんどであり、αs−カゼインは存在しないか、又は痕跡程度認められるのみであるが、牛乳中のカゼインは、αs−カゼイン、β−カゼインをほぼ等量含む。カゼインは栄養成分としての働きの他に、最近ではそのタンパク質の一次構造に潜在的に含まれるカルシウム吸収促進作用やマクロファージ貪食活性化作用を有する生理活性ペプチド等が発見され、注目を集めている。また、カゼインは高い栄養価とともに、乳製品の原材料として、あるいは、チーズ、ヨーグルト、スキムミルク等の様々な食品に含まれ、我々の食生活に寄与している。
【0008】
カゼインを利用した発明としては、本出願人により、すでにκ−カゼイン又はκ−カゼインの加水分解物を有効成分とする動脈硬化防止剤(特開平8−81388号公報)が開示されている。
また、ヒト乳から分離したβ−カゼイン若しくはその組換え形態又はそのいずれかの水解物は、インフルエンザ菌のヒト細胞への付着の阻害(特表平10−500101号公報
)、及び哺乳動物細胞のRSウィルス(Respiratory Syncytial Virus)感染阻害(特表平10−500100号公報)が開示されている。
更に、β−カゼイン加水分解物のアンジオテンシン変換酵素阻害活性(特開平6−128287号公報及び特開平6−277090号公報)が開示されている。
しかしながら、カゼイン及びその部分ペプチドがシステインプロテアーゼ阻害作用を有することは知られていない。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、食品素材として幅広く利用することが可能であり、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに各種飲食品及び飼料等に利用することが可能な、汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤を提供することを目的としている。
本発明者は、抗原性のない、安全な素材として利用する事が可能なシステインプロテアーゼ阻害物質を鋭意探索した結果、乳由来のタンパク質であるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及びカゼインの加水分解物にシステインプロテアーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の要旨は以下の(1)〜(21)のとおりである。
(1)カゼインを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(2) カゼインがヒト又はウシ由来である(1)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(3) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(4) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含むシステインプロテアーゼ阻害剤。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(5) カゼインをペプシン又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種の加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(6) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(5)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(7) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(5)又は(6)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(8) カゼイン加水分解物を全量に対して0.005質量%以上含有する、(5)〜(7)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(9) システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である(1)〜(8)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(10) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カル
シウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、筋萎縮症又は細菌・ウイルス感染症である(9)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(11) (1)〜(10)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。
(12) カゼインを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(13) カゼインがヒト又はウシ由来である、(12)の製造方法。
(14) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(15) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(16) カゼインをペプシン又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種の加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(17) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(16)の製造方法。
(18) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(16)又は(17)の製造方法。
(19) カゼイン加水分解物をシステインプロテアーゼ阻害剤の全量に対して0.005質量%以上含有させることを特徴とする、(16)〜(18)のいずれかの製造方法。
(20) システインプロテアーゼ阻害剤が、システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である、(12)〜(19)のいずれかの製造方法。
(21) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、筋萎縮症又は細菌・ウイルス感染症である(20)の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0012】
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関する。本発明に用いられるカゼインとしては、市販の各種カゼイン、若しくはヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から常法(例えば、等電点沈殿法)により単離したもの、又は遺伝子組換え技術等によって生産されたものであってよい。カゼインは、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼイン
に分類されるが、本発明にはいずれのカゼインも用いることができ、好ましくはβ−カゼイン又はκ−カゼインを用いることができる。その中でも特にヒト由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss-Prot Accession No.:P05814に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン)、及びウシ由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss-Prot Accession No.:P02666に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン)が好ましい。具体的には、ヒトのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号1、ウシのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0013】
本発明に用いられるカゼインの部分ペプチドとしては、例えば、前記カゼインを酸又はプロテアーゼにより公知の方法で加水分解し、生成した部分ペプチドを精製することにより得ることができる。一例としては、カゼインを100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)中でリシルエンドペプチダーゼにより35℃で3時間以上消化し、生成した部分ペプチドを高速クロマトグラフ法等により精製することにより製造することができる。
【0014】
本発明において使用することができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドの好ましい形態としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを例示することができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも例示することができる。なお、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、及び配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜15はシグナル配列である。
【0015】
これらのカゼイン又はカゼインの部分ペプチドはシステインプロテアーゼ阻害活性を有するため、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤に用いることができる。また、完全長のカゼインがシステインプロテアーゼ阻害活性を有することから、配列表の配列番号1のアミノ酸番号133〜151を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、配列表の配列番号2のアミノ酸番号142〜160を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチドも、システインプロテアーゼ阻害活性を有すると考えられる。
【0016】
これらのペプチドは、例えば、本発明によりシステインプロテアーゼ阻害活性領域が明らかになったので、該領域を含むアミノ酸配列に基づいて化学合成によって得ることもでき、また遺伝子組換え技術等により得ることもできる。例えば、該領域を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて目的の塩基配列を含むcDNAを鋳型としてPCR等によって塩基配列を増幅し、得られた塩基配列を適当な発現系を用いて発現させることにより得ることができる。
【0017】
また、通常遺伝子においては、種、属、個体等の違いによって、1又は複数個の位置での1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の変異が存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じることがあるので、本発明に用いることができるカゼイン及びカゼイン部分ペプチドにおいても、システインプロテアーゼ阻害活性が損なわれない範囲でこのような変異を含むことが可能である。本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド、並びに配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチドが例示
される。ここで、複数とは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸、及び、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸において、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から5個、好ましくは、2から3個である。
【0018】
また、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸、又は、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸において1又は複数個の置換・欠失等を含むものであってもよい。この場合の複数個とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から10個、好ましくは、2から5個である。
【0019】
さらに、本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチド、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチドと、アミノ酸配列において80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質又はペプチドも例示される。
【0020】
前記のようなカゼインタンパク質又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列は、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。また、改変された塩基配列は従来知られている変異処理によっても取得されうる。変異を有する塩基配列は適当な細胞で発現させ、本発明の実施例に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性の測定法によってシステインプロテアーゼ阻害活性を調べることにより、カゼイン又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列が得られる。
【0021】
本発明においては、カゼインの加水分解物を用いることもできる。加水分解に用いるカゼインは、前述したようなものを挙げることができる。これらのカゼインを、以下のように加水分解酵素で加水分解することによって、カゼイン加水分解物を得ることができる。
【0022】
すなわち、まず前記のような原料カゼインを水又は温湯に分散し、溶解する。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15%前後の濃度範囲にするのが効率性及び操作性の点から望ましい。得られた前記カゼインを含有する溶液を70〜90℃で10分間〜15秒間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。次いで、前記カゼインを含有する溶液にアルカリ剤又は酸剤を添加し、pHを使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。本発明の方法に使用するアルカリ剤又は酸剤は、食品又は医薬品に許容されるものであれば如何なるアルカリ剤又は酸剤であってもよい。具体的には、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を、酸剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸等を例示することができる。
【0023】
次いで、前記カゼイン溶液に加水分解酵素溶液を添加する。加水分解酵素は蛋白質を加水分解する酵素であれば特に制限されず、動物由来、又は微生物由来の酵素であることが好ましい。また、酵素はエンドペプチダーゼであることが好ましい。エンドペプチダーゼとしては、パンクレアチン、ペプシン、トリプシン、エラスターゼ等、種々の酵素を使用することができる。尚、「由来」とは、元来上記の生物が保持していることを意味し、採取原を意味するものではない。例えば、バチルス・ズブチリスが産生するプロテアーゼを
コードする遺伝子をエシェリヒア・コリに導入し、同遺伝子を発現させることにより製造したプロテアーゼは、バチルス・ズブチリス「由来」である。
【0024】
加水分解酵素はカゼイン1g当たり20〜200活性単位(この単位については後記する)の割合で添加することが好ましい。ここで、活性単位は、例えば、次の方法により測定することができる。すなわち、プロテアーゼを含有する粉末を0.2g/100mlの割合で0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に分散又は溶解して酵素溶液を調製する。一方、ロイシルパラニトロアニリド(国産化学社製。以後Leu−pNAと記載する)を0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して2mMの基質溶液を調製する。酵素溶液1mlに基質溶液1mlを添加し、37℃で5分間反応させ、その後30%の酢酸溶液2mlを添加して反応を停止させる。反応液をメンブランフィルターで濾過し、波長410nmで濾液の吸光度を測定する。プロテアーゼの活性単位は、1分間に1μmolのLeu−pNAを分解するのに必要な酵素量を1活性単位と定義し、次式により求めることができる。
活性単位(粉末1g当たり)=20×(A/B)
ただし、前記の式においてA及びBは、それぞれ波長410nmにおける試料の吸光度及び0.25mMパラニトロアニリンの吸光度を示す。
【0025】
本発明において用いる加水分解酵素は1種でもよく、2種以上用いてもよい。2種以上の酵素を用いる場合は、それぞれの酵素反応は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
酵素を添加した溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持してカゼインの加水分解を開始する。加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ける。尚、本発明において、カゼイン加水分解物の分解率は、6〜45%が特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の分解率が6%以上であると、より分解が進んでいると考えられる。すなわち、分解率が6%未満であると、酵素反応を受けない未分解のカゼインが残存している可能性が考えられることから、分解率は6%以上が好ましい。
【0026】
尚、蛋白質の分解率の算出方法は、例えば、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出することができる。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0027】
加水分解反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。尚、得られた反応液は必要に応じてクエン酸等の酸によりpHを5.5〜7の範囲に調整しても良い。
【0028】
本明細書において、数平均分子量とは、数平均分子量に関する文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116乃至119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されるとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。即ち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数
をNiとすると、次の一般式Iにより定義される。
【0029】
【数1】
【0030】
尚、本発明において数平均分子量を測定する場合は、高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、検量線からGPC分析システムによりデータ解析することにより、数平均分子量を算出することができる。高速液体クロマトグラフィーの具体的条件としては、カラムとして、ポリハイドロキシエチル・アスパルアミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column : ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。4.6mm×400mm]を使用し、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により、溶出速度0.5ml/分で溶出する条件を挙げることができる。検出はUV検出器(島津製作所。215nm)を使用して分子量分布を測定し、分子量が既知のサンプルにより検量線を作成し、GPC分析システム(波長215nm:島津製作所社製)によりデータ解析し、数平均分子量を求めることができる。
【0031】
尚、本発明において、カゼイン加水分解物の数平均分子量は、200〜5000ダルトンが特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の数平均分子量が5000ダルトン以下である場合は、加水分解反応を受けない未分解のカゼインは含まれず、本願発明の有効成分であるカゼイン加水分解物をより確実に得ることができると考えられることから、数平均分子量は5000ダルトン以下が好ましい。
【0032】
得られたカゼイン加水分解物を含有する溶液は、そのまま使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液、更に、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末、として使用することもできる。
【0033】
上記のようにして得られるカゼイン加水分解物は、システインプロテアーゼ阻害作用を有する。したがって、システインプロテアーゼ阻害作用を指標として、カゼイン加水分解物を製造する際の条件は、適宜設定することができる。
【0034】
本発明のプロテアーゼ阻害剤においては、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、または加水分解物を単独で使用することも、これらのうちの2種以上を併用して使用することも可能である。さらに、カゼインの部分ペプチド及び加水分解物は、1種を単独で使用することも、複数種を混合して用いることも可能である。
【0035】
本発明に用いることができるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物は、カテプシンB、L及びパパイン等のシステインプロテアーゼに対して阻害活性を有する。システインプロテアーゼ阻害活性は、Barrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]に従って測定することができる。例えば、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/または加水分解物を含む溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(Benzyloxycarbonyl- L-Phenylalanyl- L-Arginine 4-Methyl- Coumaryl- 7-Amide:最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15unit
s/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMC(7-Amino-4-Methyl- Coumarin)の蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定することができる。
【0036】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を使用し、これらを公知の製剤学的に許容される製剤担体と組合わせることにより製造することができる。本発明の製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
【0037】
本発明の製剤中に含まれるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は特に限定されず適宜選択すればよいが、例えばいずれも通常製剤中に0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%とするのがよい。
【0038】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤を経口的、又は非経口的に患者に投与することにより、システインプロテアーゼが関与する疾患を治療することができる。ここで、患者とは、ヒトであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定される。本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等により適宜選択される。通常有効成分としてのカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は、0.1〜1200mg/kg/日、好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0039】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えばアレルギー、筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、前立腺肥大症、乳癌、前立腺癌、歯周病等の予防・治療剤、若しくは癌細胞の増殖や転移の抑制剤、又は細菌(スタフィロコッカス・アウレウスV8等)やウイルス(ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、エイズウイルス等)の増殖抑制剤として有用である。本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、単独で使用しても良いが、公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤と併用して使用することも可能である。併用することによって、前記疾患の予防・治療効果、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制効果を高めることができる。併用する公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤は、本発明の阻害剤中に有効成分として含有させても良いし、本発明の阻害剤中には含有させずに別個の薬剤として組合わせて商品化して使用時に組み合わせても良い。
【0040】
本発明の飲食品組成物は、食品又は飲料の原料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、経口的に摂取することが可能である。前記原料は、通常の飲料や食品に用いられているものを使用することができる。本発明の飲食品組成物は、システインプロテアーゼ阻害剤を添加する以外は、通常の飲食品組成物と同様にして調製することができる。飲食品組成物の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類:加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。
本発明の飲食品組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飲食品組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の食品又は飲料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
【0041】
本発明の飼料組成物は、飼料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、一般的な哺乳動物や家畜類、養魚類、愛玩動物に経口的に投与することが可能である。飼料組成物の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が例示され、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、酵母類等とともに混合して本発明の飼料組成物を製造することができる。
本発明の飼料組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飼料組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の飼料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
【0042】
尚、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物は、以下に示す疾患の予防用又は治療用としての効能を表示した飲食品組成物又は飼料組成物とすることができる。すなわち、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えば、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症の予防用又は治療用であること、を表示することができる。
ここに、「表示」とは、前記効能を需要者に対して知らしめる行為を意味し、例えば、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物の商品若しくは商品の包装・広告等に前記効能を付する行為、付したものを譲渡、引き渡し、展示等をする行為等があるが、特に特定保健用食品〔健康増進法施行規則(平成15年4月30日、日本国厚生労働省令第86号)の第12条第1項第5号参照〕として表示する態様が好ましい。
【0043】
以下に、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤の有効成分として使用したカゼインの部分ペプチドまたはカゼイン加水分解物の製造例を示す。
【0044】
[製造例1]
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを、以下の方法により製造した。
尚、前記本発明のペプチドは、自動アミノ酸合成装置(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 433A)を用いて合成を行い製造を行った。
20%ピペリジン含有N−メチルピロリドン(アプライド・バイオシステムズ社製。以下、N−メチルピロリドンをNMPと略記する)により、ペプチド合成用固相樹脂であるHMP樹脂(アプライド・バイオシステムズ社製)のアミノ保護基であるFmoc基を切断除去し、NMPで洗浄した後、 Fmoc−スレオニン[具体的には、合成するペプチドのC末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸(アプライド・バイオシステムズ社製)]をFastMoc(登録商標)リージェントキット(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用して縮合させ、NMPで洗浄した。次に、前記Fmoc基の切断、続いて、C末端から2番目のアミノ酸に相当するFmoc−アラニンの縮合、及び洗浄を行い、さらにFmoc−アミノ酸の縮合及び洗浄を繰り返し、保護ペプチド樹脂を作製し、樹脂より粗製ペプチドを回収した。
前記粗製ペプチドから、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)によりペプチドの精製を行った。使用するカラムは逆相系のC18−ODS(メルク社製。Lichrospher100)を例示することができる。得られた精製ペプチドはHPLC分析を行い、精製物が単一であることを更に確認した。また、精製ペプチドのアミノ酸配列を、気相式自動アミノ酸シーケンサー(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 473A)を用
いて決定した結果、配列番号1のアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有していた。
尚、同様の方法により配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも製造した。
【0045】
[製造例2]
市販牛乳カゼイン「アラシッド」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを60℃に加熱した精製水に10%濃度に懸濁し、2.5gの水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を50℃に調整した後、加水分解酵素として、パンクレアチン(天野エンザイム社製、112,000U/g)を2500U添加し、50℃で4時間保持することによって加水分解し、90℃で10加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は9.5%、数平均分子量は910ダルトンであった。
【0046】
[製造例3]
市販カゼインナトリウム「アラネート」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを50℃に加熱した精製水に12%濃度に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を40℃に調整した後、加水分解酵素として、ブタトリプシン(PTN6.0S;ノボザイム社製、1,250U/g)を250U添加し、40℃で6時間保持することによって加水分解し、90℃で10分間加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は10.8%、数平均分子量は750ダルトンであった。
【0047】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、乳中のシステインプロテアーゼ阻害物質を検出するために行った。
(1)検出法
本発明者はプロテアーゼ阻害物質の検出法として「逆ザイモグラフィー」という手法を用い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動のゲル上に存在するプロテアーゼ阻害物質の検出を行った。逆ザイモグラフィーとは通常のザイモグラフィーの逆の手法によるものであり、基本的原理は次のとおりである。即ち、ゼラチンを含むSDSポリアクリルアミドゲルにプロテアーゼ阻害物質を含むサンプルをアプライし、電気泳動を行った後にゲルをプロテアーゼ溶液に浸漬してゲル中のタンパク質を分解する。この操作により阻害物質が存在する部分はプロテアーゼの活性を阻害することから、ゼラチンはプロテアーゼによる分解を免れ、これが染色液によって染色されることにより、阻害物質を識別することが可能となる。
(2)試験方法
本発明における逆ザイモグラフィーの方法は以下のとおりである。
牛乳中の全タンパク質及び天然のウシβ−カゼインをサンプルとし、0.1%ゼラチンを含む12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて、電気泳動(以下、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をSDS−PAGEと略記することがある。)を行った。泳動後、ゲルを2.5%Triton X-100溶液に45分間浸漬して洗浄した後、更に45分間蒸留水に浸漬する操作を3回繰り返してゲルを洗浄した。このゲルを、1mgパパイン(31units/ml)を含む0.025M酢酸緩衝液(pH5.5)100mlに浸漬し、37℃で10時間保温してゼラチンを消化した。ゲルを蒸留水で洗浄後、染色液(0.025%クマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)R−250、40%メタノール、7%酢酸水溶液)で1時間染色し、その後脱色液(40%メタノール、10%酢酸水溶液)で脱色を行った。
これとは別に、対照試験としてゼラチンを含まない12.5%SDSポリアクリルアミ
ドゲルを用いて前記と同様に逆ザイモグラフィーを行った。さらに、通常の12.5%SDS−PAGE(CBB染色)を行った。
(3)試験結果
本試験の結果は図1に示すとおりである。図1は逆ザイモグラフィーのパターンを示す結果である。図1の1レーンは牛乳中の全タンパク質の通常のSDS−PAGEのパターン、2レーンは牛乳中の全タンパク質の逆ザイモグラフィーのパターン、3レーンは牛乳中の全タンパク質のゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターン、6レーンは天然のウシβ−カゼインの逆ザイモグラフィーのパターン、7レーンは天然のウシβ−カゼインのゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターンを各々示している。尚、図中矢印は天然のウシ由来β−カゼイン(分子量35kDa)のSDS−PAGEによる泳動位置を示している。尚、4レーン及び5レーンは、本試験例とは直接関係がない。
図1から明らかなとおり、2レーンにおいてウシβ−カゼインの泳動位置(35kDa)とほぼ同位置に逆ザイモグラフィーのポジティブなバンドが確認された。このことより、牛乳中にシステインプロテアーゼ阻害活性を有する物質の存在が確認された。また、6レーンにおいて天然のウシβ−カゼインを泳動したパパインを用いた逆ザイモグラフィーにおいて、ポジティブなバンドが確認された。
以上の結果から、ウシ由来のβ−カゼインにシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが示唆された。
【0048】
[試験例2]
本試験は、試験例1においてシステインプロテアーゼ阻害活性が示唆された35kDaのバンドについてN末端アミノ酸配列を決定するために行った。
(1)試験方法
試験例1で使用した牛乳中の全タンパク質サンプルを同様に使用してSDS−PAGEを行った後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、PVDF膜をCBBで染色後、35kDa付近に泳動された染色バンドを切り出した。このバンドについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてN末端アミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。図2は牛乳中の35kDa染色バンドのアミノ酸配列を決定した結果である。その結果、35kDa染色バンドのN末端アミノ酸配列はウシβ−カゼインのそれと完全に一致した。従って、本試験の結果と試験例1の結果の両者から、ウシβ−カゼインはシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
【0049】
[試験例3]
本試験は、カゼイン分子中におけるシステインプロテアーゼ阻害活性を有する領域を検索するために行った。
(1)試験方法
ウシβ−カゼイン250μgを、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、リシルエンドペプチダーゼにより35℃で16時間消化した。消化後のウシβ−カゼインペプチド混合物にシステインプロテアーゼ阻害活性が保持されているかどうかを確認するために、システインプロアーゼ阻害活性を測定した。
阻害活性の測定方法はBarrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods
in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]を参考にして、次のとおり行った。即ち、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したウシβ−カゼインペプチド混合物溶液に、基質としてZ-Phe-Arg-MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質
から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立社製)を用いて測定した。
測定の結果、ウシβ−カゼインペプチド混合物に阻害活性が保持されていることが確認されたので、引き続きペプチド混合物について、TSK Gel DDS-80Tsカラム(東ソー社製)を用いた逆相HPLCによるアセトニトリル直線濃度勾配溶出法によって、主要なピークを分離した。次に、分離したピークのサンプル(以下、ペプチドサンプルと記載する。)の各々について、前記と同様の方法でシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
ペプチドサンプルの阻害活性測定の結果、活性を有するペプチドサンプルについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてそのアミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。その結果、阻害活性を有する主要なペプチドサンプルは、図2中のウシβ−カゼインのアミノ酸配列における142残基目Leuから160残基目Hisまでのアミノ酸配列(下線部:以下、該配列のペプチドをウシβ−カゼインペプチドと記載する。)を有することが判明した。
【0050】
[試験例4]
本試験は、カゼイン類のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料として、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインを各々用いて、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により前記試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は、図3に示すとおりである。図3は、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインのパパインに対するシステインプロテアーゼ阻害効果を示す。その結果、β−カゼイン及びκ−カゼインは10-5Mの濃度でパパインを完全に阻害し、α−カゼインについても若干弱いながらも10-4Mでパパインの活性をほぼ阻害することが判明した。従って、β−カゼインだけでなく、κ−カゼインやα−カゼインについてシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
【0051】
[試験例5]
本試験は、ウシβ−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料としてウシβ−カゼイン、システインプロテアーゼとしてパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLを使用して、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図4に示すとおりである。図4は、パパイン、カテプシンB、及びカテプシンLに対するウシβ−カゼインの阻害効果を測定した結果である。その結果、ウシβ−カゼインが10-5Mでパパインを完全に阻害することが判明した。またカテプシンB及びカテプシンLについてもウシβ−カゼインが10-4Mでそれらのプロテアーゼ活性をほぼ阻害することが判明した。従って、ウシβ−カゼインはパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLのプロテアーゼ活性を阻害し、幅広いシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを有することが明らかとなった。
【0052】
[試験例6]
本試験は、ヒトβ−カゼインのシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するた
めに行った。
(1)試験方法
常法に従って精製したヒトβ−カゼイン(例えば、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス[J. Daily Sci.]、第53巻、第2号、第136〜145ページ、1970年、に記載の方法によって精製)、及び実施例1で合成した配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列(ヒトβ−カゼインのアミノ酸配列)のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド(図5中、ヒトβ−カゼインの下線部ペプチド:以下、該配列のペプチドをヒトβ−カゼインペプチドと記載する。)を各々試験試料として、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果、ヒトβ−カゼインは10-5Mでパパインのプロテアーゼ活性をほぼ完全
に阻害することが判明した。また、ヒトβ−カゼインペプチドは、10-5Mでパパインの
プロテアーゼ活性を65%阻害し、10-4Mでパパインのプロテアーゼ活性を完全に阻害することが判明した。
【0053】
[試験例7]
本試験は、カゼイン加水分解物のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試料の調製
加水分解物としてパンクレアチンをそれぞれ2000、8000、及び9000ユニット(units)添加して製造したこと以外は、製造例2と同一の方法により製造したカゼイン加水分解物を試験試料1、試験試料2及び試験試料3とした。尚、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の分解率(%)は、それぞれ8.2、33.5及び38.0であった。また、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の数平均分子量(ダルトン)は、それぞれ1020、250及び210であった。
(2)試験方法
0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解した試験試料溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼであるパパイン溶液(最終濃度15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定した。
(3)試験結果
本試験の結果は、表1に示すとおりである。表1は、各試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を示す。その結果、試験試料1は、0.1mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を39%阻害し、0.2mg/mlの濃度では61%阻害した。試験試料2は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を76%阻害し、0.05mg/mlの濃度においても50%阻害した。試験試料3は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を53%阻害し、0.1mg/mlの濃度で44%、0.05mg/mlの濃度においても37%阻害した。
【0054】
【表1】
【実施例】
【0055】
次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(ウシβ−カゼインを配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
ウシβ−カゼイン(シグマ社製) 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロ−スカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシβ−カゼイン、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロ−スカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
【0057】
[実施例2]
(カプセル入りウシβ−カゼインの調製)
乳糖(和光純薬工業社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)600gを、50メッシュ篩(ヤマト科学社製)により篩分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(Cesere Pedini社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製。1号ゼラチンカプセル、Op.Yellow No.6 Body、空重量は75mg)に内容量275mgで充填し、ウシβ−カゼイン82mg入りのカプセル剤7,000個を得た。
【0058】
[実施例3]
(ウシβ−カゼインを添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、ウシβ−カゼイン(シグマ社製)1gを添加し、ウシβ−カゼイン約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
【0059】
[実施例4]
(ウシβ−カゼインを添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)60gを添加し、均一に混合して、ウシβ−カゼインを含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
【0060】
[実施例5]
(ウシカゼイン加水分解物を配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
製造例2で製造したカゼイン加水分解物 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロ−スカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシカゼイン加水分解物、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロ−スカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
【0061】
[実施例6]
(ウシカゼイン加水分解物を添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物1gを添加し、ウシカゼイン加水分解物約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
【0062】
[実施例7]
(ウシカゼイン加水分解物を添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及び製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物60gを添加し、均一に混合して、ウシカゼイン加水分解物を含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳記したとおり、本発明はカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/又はカゼイン加水分解物を有効成分とするシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、本発明により奏される効果は次のとおりである。
(1)食品素材として利用することができるタンパク質、その部分ペプチド及び/又はその加水分解物であるので、安全性に優れ、日常的に長期間投与又は摂取が可能である。
(2)幅広いシステインプロテアーゼに対して阻害活性スペクトルを有する。
(3)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤として使用することが可能である。
(4)特定保健用食品、栄養補助食品を含む機能性食品等の製造等の用途に利用することが可能である。
(5)食品加工分野における食品の物性調節剤として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ウシ乳タンパク質の逆ザイモグラフィーの検出を示す図(写真)である。
【図2】ウシβ−カゼイン及びウシβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【図3】パパインに対するカゼイン類のシステインプロテアーゼ阻害効果を示す図である。
【図4】β−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを示す図である。
【図5】ヒトβ−カゼイン及びヒトβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、骨粗鬆症、悪性腫瘍
性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに飲食品及び飼料等に利用することが可能なシステインプロテアーゼ阻害剤である。
【背景技術】
【0002】
活性中心にチオール基を有する蛋白分解酵素はシステインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)と総称されている。カテプシンL、カテプシンB、カテプシンKは、カルシウム依存性中性プロテアーゼ(CAMP)、パパイン、フィシン、ブロメライン等とともに代表的なシステインプロテアーゼの一つである。そしてこれらシステインプロテアーゼに対して阻害作用を有する物質は、システインプロテアーゼが関与するとされる疾患、例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、頭部外傷時の意識障害や運動障害、多発性硬化症、末梢神経のニューロパシー、白内障、炎症、アレルギー、劇症肝炎、骨粗鬆症、高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、前立腺肥大症等の治療薬として、あるいは癌の増殖抑制、転移予防薬、血小板の凝集阻害薬等として期待される。また、近年に至り、勝沼等の研究によってカテプシンL、カテプシンBと骨粗鬆症乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症との関係が解明され、それによって、とりわけカテプシンL阻害剤の骨粗鬆症治療剤乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症治療剤としての医薬への適用が注目されつつある(勝沼信彦著、「BIO media」、第7巻、第6号、第73〜77ページ、1992年)。骨組織においては、骨芽細胞(osteoblast)による骨形成と、破骨細胞(osteoclast)による骨吸収が生涯を通じて行われており、成長期には骨形成が骨吸収を上回ることにより骨重量が増加し、一方老年期には逆に骨吸収が骨形成を上回るために骨重量が減少し、骨粗鬆症の発症となる。これら骨粗鬆症の原因としては様々なものがあるが、特に骨崩壊(骨吸収)を主原因の一つとして挙げることができる。これを更に2つの原因に分けると次のようになる。即ち、一つはカルシウムの吸収と沈着不全に起因するものであり、更に詳しくはカルシウムの供給量、転送、吸収、及び沈着が関係するものであり、ビタミンD誘導体、女性ホルモン(エストロゲン)等が関与していると考えられる。いま一つは、骨支持組織であるコラーゲンの分解促進を内容とするものであり、破骨細胞内リソゾームから分泌されるシステインプロテアーゼ群、中でも特にカテプシンL、カテプシンB、カテプシンKによる骨コラーゲン分解が主たる原因である。破骨細胞内のリソゾームから分泌されたこれらカテプシンL及びBは骨組織中のコラーゲンの分解を促進し、それによって古い骨は溶解され、ヒドロキシプロリンとともにカルシウムが血中に遊離放出させられる。従って、カテプシンL、カテプシンB及びカテプシンKのコラーゲン分解能を阻害することによって過剰な骨崩壊を防止することが可能であり、ひいては骨粗鬆症の治療が可能となる。これら骨粗鬆症の治療剤としては、エストロゲン、タンパク同化ホルモン、カルシウム剤、ビタミンD、カルシトニン、あるいはビスホスホネート等が知られている。またカテプシンL阻害、カテプシンB阻害、又はカテプシンK阻害のいわゆるシステインプロテアーゼ阻害を作用機序とする骨粗鬆症治療剤についてもいくつかのシステインプロテアーゼ阻害剤をもちいた骨粗鬆症治療剤の開発が進められている(特開平7−179496号公報、特表2002−501502号公報)が、さらなる骨粗鬆症治療剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、高カルシウム血症は、血清中のカルシウム濃度が正常値以上となる代謝異常であり、腫瘍患者に多く見受けられる。これを放置した場合、患者の寿命は10日程度であると言われている。原因の多くは腫瘍の骨転移である。腫瘍が骨に転移すると、骨破壊が起こり、カルシウムが血中に放出される。このカルシウムは腎臓で処理されるが、骨破壊のスピードが腎臓の処理能力を上回ったとき、高カルシウム血症の発現となる。治療方法としては、フロセミドを併用した生理的食塩水の輸液を用いることにより腎臓からのカルシウム排泄を促進する方法や、骨粗鬆症治療薬であるカルシトニンを使用する方法等が知られている。即ち、骨吸収を抑制するような骨粗鬆症治療薬は悪性腫瘍性高カルシウム血症の治療剤としても有効であるといえる。
【0004】
本発明者らにより、このような目的に使用し得るシステインプロテアーゼ阻害剤としてすでに以下のものが開示されている。
(1)カテプシンL特異的阻害ポリペプチド(特開平7−179496号公報)
(2)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平9−221425号公報)
(3)バリン誘導体およびその用途(特開2001−139534号公報)
(4)チオールプロテアーゼ阻害剤(特開平7−242600号公報)
(5)FA-70C1物質(特開2000−72797号公報)
(6)FA-70D物質、その製造法及びその用途(国際公開第97/31122号パンフレット)
しかしながら、食品素材として利用の点から、より汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤の開発が望まれていた。
【0005】
他方、これまでに、母乳中にプロテアーゼ阻害物質が存在することが知られている。母乳に含まれるプロテアーゼ阻害物質として知られているものとしては、α1−アンチキモトリプシン、α1−アンチトリプシンが挙げられ、インターα2−トリプシン阻害物質、α2−アンチプラスミン、α2−マクログロブリン、アンチトロンビンIII、アンチロイコプロテアーゼなどの阻害剤等も母乳に微量含まれている(清澤功著、「母乳の栄養学」、金原出版、第80〜81ページ)。
【0006】
乳中において、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質については、すでに以下のものが開示されている。
(1)牛初乳由来の糖鎖を有する分子量約57kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−2896号公報)
(2)牛初乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特開平7−126294号公報)
(3)人乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規タンパク質およびその製造方法(特開平10−80281号公報)
(4)牛乳から調製された牛乳由来塩基性シスタチン及び/又は牛乳由来塩基性シスタチン分解物を有効成分とする骨吸収阻害剤(特開2000−281587号公報)
(5)乳塩基性蛋白質(MBP)中に含まれるシスタチンC、及びインビトロにおける該シスタチンCによる骨吸収阻害効果(バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー[Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry]、日本、第66巻、第12号、2002年、p.2531−2536)
【0007】
ほ乳類乳に多量に含有されるタンパク質として、ラクトフェリン及びβ−カゼインなどが挙げられる。カゼインは、αs−カゼイン、β−カゼイン及びκ−カゼインに分類され、人乳中のカゼインは、β−カゼインがほとんどであり、αs−カゼインは存在しないか、又は痕跡程度認められるのみであるが、牛乳中のカゼインは、αs−カゼイン、β−カゼインをほぼ等量含む。カゼインは栄養成分としての働きの他に、最近ではそのタンパク質の一次構造に潜在的に含まれるカルシウム吸収促進作用やマクロファージ貪食活性化作用を有する生理活性ペプチド等が発見され、注目を集めている。また、カゼインは高い栄養価とともに、乳製品の原材料として、あるいは、チーズ、ヨーグルト、スキムミルク等の様々な食品に含まれ、我々の食生活に寄与している。
【0008】
カゼインを利用した発明としては、本出願人により、すでにκ−カゼイン又はκ−カゼインの加水分解物を有効成分とする動脈硬化防止剤(特開平8−81388号公報)が開示されている。
また、ヒト乳から分離したβ−カゼイン若しくはその組換え形態又はそのいずれかの水解物は、インフルエンザ菌のヒト細胞への付着の阻害(特表平10−500101号公報
)、及び哺乳動物細胞のRSウィルス(Respiratory Syncytial Virus)感染阻害(特表平10−500100号公報)が開示されている。
更に、β−カゼイン加水分解物のアンジオテンシン変換酵素阻害活性(特開平6−128287号公報及び特開平6−277090号公報)が開示されている。
しかしながら、カゼイン及びその部分ペプチドがシステインプロテアーゼ阻害作用を有することは知られていない。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、食品素材として幅広く利用することが可能であり、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに各種飲食品及び飼料等に利用することが可能な、汎用性の高いシステインプロテアーゼ阻害剤を提供することを目的としている。
本発明者は、抗原性のない、安全な素材として利用する事が可能なシステインプロテアーゼ阻害物質を鋭意探索した結果、乳由来のタンパク質であるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及びカゼインの加水分解物にシステインプロテアーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の要旨は以下の(1)〜(21)のとおりである。
(1)カゼインを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(2) カゼインがヒト又はウシ由来である(1)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(3) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(4) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含むシステインプロテアーゼ阻害剤。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(5) カゼインをペプシン又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種の加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(6) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(5)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(7) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(5)又は(6)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(8) カゼイン加水分解物を全量に対して0.005質量%以上含有する、(5)〜(7)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(9) システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である(1)〜(8)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤。
(10) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カル
シウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、筋萎縮症又は細菌・ウイルス感染症である(9)のシステインプロテアーゼ阻害剤。
(11) (1)〜(10)のいずれかのシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。
(12) カゼインを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(13) カゼインがヒト又はウシ由来である、(12)の製造方法。
(14) 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(15) 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。
(16) カゼインをペプシン又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種の加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を使用するシステインプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
(17) 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である(16)の製造方法。
(18) 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである(16)又は(17)の製造方法。
(19) カゼイン加水分解物をシステインプロテアーゼ阻害剤の全量に対して0.005質量%以上含有させることを特徴とする、(16)〜(18)のいずれかの製造方法。
(20) システインプロテアーゼ阻害剤が、システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である、(12)〜(19)のいずれかの製造方法。
(21) システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、筋萎縮症又は細菌・ウイルス感染症である(20)の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0012】
本発明は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関する。本発明に用いられるカゼインとしては、市販の各種カゼイン、若しくはヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から常法(例えば、等電点沈殿法)により単離したもの、又は遺伝子組換え技術等によって生産されたものであってよい。カゼインは、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼイン
に分類されるが、本発明にはいずれのカゼインも用いることができ、好ましくはβ−カゼイン又はκ−カゼインを用いることができる。その中でも特にヒト由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss-Prot Accession No.:P05814に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン)、及びウシ由来のβ−カゼイン(例えば、Swiss-Prot Accession No.:P02666に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン)が好ましい。具体的には、ヒトのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号1、ウシのβ−カゼインのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0013】
本発明に用いられるカゼインの部分ペプチドとしては、例えば、前記カゼインを酸又はプロテアーゼにより公知の方法で加水分解し、生成した部分ペプチドを精製することにより得ることができる。一例としては、カゼインを100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)中でリシルエンドペプチダーゼにより35℃で3時間以上消化し、生成した部分ペプチドを高速クロマトグラフ法等により精製することにより製造することができる。
【0014】
本発明において使用することができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドの好ましい形態としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−カゼイン、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを例示することができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するウシβ−カゼイン、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも例示することができる。なお、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、及び配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜15はシグナル配列である。
【0015】
これらのカゼイン又はカゼインの部分ペプチドはシステインプロテアーゼ阻害活性を有するため、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤に用いることができる。また、完全長のカゼインがシステインプロテアーゼ阻害活性を有することから、配列表の配列番号1のアミノ酸番号133〜151を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、配列表の配列番号2のアミノ酸番号142〜160を含み、N末端側もしくはC末端側又はその両方に配列を延長させたアミノ酸配列を有するペプチドも、システインプロテアーゼ阻害活性を有すると考えられる。
【0016】
これらのペプチドは、例えば、本発明によりシステインプロテアーゼ阻害活性領域が明らかになったので、該領域を含むアミノ酸配列に基づいて化学合成によって得ることもでき、また遺伝子組換え技術等により得ることもできる。例えば、該領域を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて目的の塩基配列を含むcDNAを鋳型としてPCR等によって塩基配列を増幅し、得られた塩基配列を適当な発現系を用いて発現させることにより得ることができる。
【0017】
また、通常遺伝子においては、種、属、個体等の違いによって、1又は複数個の位置での1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の変異が存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じることがあるので、本発明に用いることができるカゼイン及びカゼイン部分ペプチドにおいても、システインプロテアーゼ阻害活性が損なわれない範囲でこのような変異を含むことが可能である。本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド、並びに配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチドが例示
される。ここで、複数とは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸、及び、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸において、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から5個、好ましくは、2から3個である。
【0018】
また、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸、又は、配列表の配列番号2に記載のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸以外の範囲のアミノ酸において1又は複数個の置換・欠失等を含むものであってもよい。この場合の複数個とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、例えば、2から10個、好ましくは、2から5個である。
【0019】
さらに、本発明に用いることができるカゼイン又はカゼインの部分ペプチドとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチド、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはペプチドと、アミノ酸配列において80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタンパク質又はペプチドも例示される。
【0020】
前記のようなカゼインタンパク質又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列は、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。また、改変された塩基配列は従来知られている変異処理によっても取得されうる。変異を有する塩基配列は適当な細胞で発現させ、本発明の実施例に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性の測定法によってシステインプロテアーゼ阻害活性を調べることにより、カゼイン又はペプチドと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードする塩基配列が得られる。
【0021】
本発明においては、カゼインの加水分解物を用いることもできる。加水分解に用いるカゼインは、前述したようなものを挙げることができる。これらのカゼインを、以下のように加水分解酵素で加水分解することによって、カゼイン加水分解物を得ることができる。
【0022】
すなわち、まず前記のような原料カゼインを水又は温湯に分散し、溶解する。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15%前後の濃度範囲にするのが効率性及び操作性の点から望ましい。得られた前記カゼインを含有する溶液を70〜90℃で10分間〜15秒間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。次いで、前記カゼインを含有する溶液にアルカリ剤又は酸剤を添加し、pHを使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。本発明の方法に使用するアルカリ剤又は酸剤は、食品又は医薬品に許容されるものであれば如何なるアルカリ剤又は酸剤であってもよい。具体的には、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を、酸剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸等を例示することができる。
【0023】
次いで、前記カゼイン溶液に加水分解酵素溶液を添加する。加水分解酵素は蛋白質を加水分解する酵素であれば特に制限されず、動物由来、又は微生物由来の酵素であることが好ましい。また、酵素はエンドペプチダーゼであることが好ましい。エンドペプチダーゼとしては、パンクレアチン、ペプシン、トリプシン、エラスターゼ等、種々の酵素を使用することができる。尚、「由来」とは、元来上記の生物が保持していることを意味し、採取原を意味するものではない。例えば、バチルス・ズブチリスが産生するプロテアーゼを
コードする遺伝子をエシェリヒア・コリに導入し、同遺伝子を発現させることにより製造したプロテアーゼは、バチルス・ズブチリス「由来」である。
【0024】
加水分解酵素はカゼイン1g当たり20〜200活性単位(この単位については後記する)の割合で添加することが好ましい。ここで、活性単位は、例えば、次の方法により測定することができる。すなわち、プロテアーゼを含有する粉末を0.2g/100mlの割合で0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に分散又は溶解して酵素溶液を調製する。一方、ロイシルパラニトロアニリド(国産化学社製。以後Leu−pNAと記載する)を0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して2mMの基質溶液を調製する。酵素溶液1mlに基質溶液1mlを添加し、37℃で5分間反応させ、その後30%の酢酸溶液2mlを添加して反応を停止させる。反応液をメンブランフィルターで濾過し、波長410nmで濾液の吸光度を測定する。プロテアーゼの活性単位は、1分間に1μmolのLeu−pNAを分解するのに必要な酵素量を1活性単位と定義し、次式により求めることができる。
活性単位(粉末1g当たり)=20×(A/B)
ただし、前記の式においてA及びBは、それぞれ波長410nmにおける試料の吸光度及び0.25mMパラニトロアニリンの吸光度を示す。
【0025】
本発明において用いる加水分解酵素は1種でもよく、2種以上用いてもよい。2種以上の酵素を用いる場合は、それぞれの酵素反応は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
酵素を添加した溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持してカゼインの加水分解を開始する。加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ける。尚、本発明において、カゼイン加水分解物の分解率は、6〜45%が特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の分解率が6%以上であると、より分解が進んでいると考えられる。すなわち、分解率が6%未満であると、酵素反応を受けない未分解のカゼインが残存している可能性が考えられることから、分解率は6%以上が好ましい。
【0026】
尚、蛋白質の分解率の算出方法は、例えば、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出することができる。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0027】
加水分解反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。尚、得られた反応液は必要に応じてクエン酸等の酸によりpHを5.5〜7の範囲に調整しても良い。
【0028】
本明細書において、数平均分子量とは、数平均分子量に関する文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116乃至119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されるとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。即ち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数
をNiとすると、次の一般式Iにより定義される。
【0029】
【数1】
【0030】
尚、本発明において数平均分子量を測定する場合は、高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、検量線からGPC分析システムによりデータ解析することにより、数平均分子量を算出することができる。高速液体クロマトグラフィーの具体的条件としては、カラムとして、ポリハイドロキシエチル・アスパルアミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column : ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。4.6mm×400mm]を使用し、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により、溶出速度0.5ml/分で溶出する条件を挙げることができる。検出はUV検出器(島津製作所。215nm)を使用して分子量分布を測定し、分子量が既知のサンプルにより検量線を作成し、GPC分析システム(波長215nm:島津製作所社製)によりデータ解析し、数平均分子量を求めることができる。
【0031】
尚、本発明において、カゼイン加水分解物の数平均分子量は、200〜5000ダルトンが特に好適である。ここで、カゼイン加水分解物の数平均分子量が5000ダルトン以下である場合は、加水分解反応を受けない未分解のカゼインは含まれず、本願発明の有効成分であるカゼイン加水分解物をより確実に得ることができると考えられることから、数平均分子量は5000ダルトン以下が好ましい。
【0032】
得られたカゼイン加水分解物を含有する溶液は、そのまま使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液、更に、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末、として使用することもできる。
【0033】
上記のようにして得られるカゼイン加水分解物は、システインプロテアーゼ阻害作用を有する。したがって、システインプロテアーゼ阻害作用を指標として、カゼイン加水分解物を製造する際の条件は、適宜設定することができる。
【0034】
本発明のプロテアーゼ阻害剤においては、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、または加水分解物を単独で使用することも、これらのうちの2種以上を併用して使用することも可能である。さらに、カゼインの部分ペプチド及び加水分解物は、1種を単独で使用することも、複数種を混合して用いることも可能である。
【0035】
本発明に用いることができるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、またはカゼイン加水分解物は、カテプシンB、L及びパパイン等のシステインプロテアーゼに対して阻害活性を有する。システインプロテアーゼ阻害活性は、Barrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]に従って測定することができる。例えば、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/または加水分解物を含む溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(Benzyloxycarbonyl- L-Phenylalanyl- L-Arginine 4-Methyl- Coumaryl- 7-Amide:最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15unit
s/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMC(7-Amino-4-Methyl- Coumarin)の蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定することができる。
【0036】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を使用し、これらを公知の製剤学的に許容される製剤担体と組合わせることにより製造することができる。本発明の製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
【0037】
本発明の製剤中に含まれるカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は特に限定されず適宜選択すればよいが、例えばいずれも通常製剤中に0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%とするのがよい。
【0038】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤を経口的、又は非経口的に患者に投与することにより、システインプロテアーゼが関与する疾患を治療することができる。ここで、患者とは、ヒトであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定される。本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等により適宜選択される。通常有効成分としてのカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物の量は、0.1〜1200mg/kg/日、好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0039】
本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えばアレルギー、筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、前立腺肥大症、乳癌、前立腺癌、歯周病等の予防・治療剤、若しくは癌細胞の増殖や転移の抑制剤、又は細菌(スタフィロコッカス・アウレウスV8等)やウイルス(ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、エイズウイルス等)の増殖抑制剤として有用である。本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、単独で使用しても良いが、公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤と併用して使用することも可能である。併用することによって、前記疾患の予防・治療効果、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制効果を高めることができる。併用する公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤は、本発明の阻害剤中に有効成分として含有させても良いし、本発明の阻害剤中には含有させずに別個の薬剤として組合わせて商品化して使用時に組み合わせても良い。
【0040】
本発明の飲食品組成物は、食品又は飲料の原料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、経口的に摂取することが可能である。前記原料は、通常の飲料や食品に用いられているものを使用することができる。本発明の飲食品組成物は、システインプロテアーゼ阻害剤を添加する以外は、通常の飲食品組成物と同様にして調製することができる。飲食品組成物の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類:加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。
本発明の飲食品組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飲食品組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の食品又は飲料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
【0041】
本発明の飼料組成物は、飼料にカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加して製造することができ、一般的な哺乳動物や家畜類、養魚類、愛玩動物に経口的に投与することが可能である。飼料組成物の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が例示され、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、酵母類等とともに混合して本発明の飼料組成物を製造することができる。
本発明の飼料組成物において、カゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/またはカゼイン加水分解物を添加する量は、飼料組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の飼料中0.005〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%となるように添加すればよい。
【0042】
尚、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物は、以下に示す疾患の予防用又は治療用としての効能を表示した飲食品組成物又は飼料組成物とすることができる。すなわち、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えば、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症の予防用又は治療用であること、を表示することができる。
ここに、「表示」とは、前記効能を需要者に対して知らしめる行為を意味し、例えば、本発明の飲食品組成物又は飼料組成物の商品若しくは商品の包装・広告等に前記効能を付する行為、付したものを譲渡、引き渡し、展示等をする行為等があるが、特に特定保健用食品〔健康増進法施行規則(平成15年4月30日、日本国厚生労働省令第86号)の第12条第1項第5号参照〕として表示する態様が好ましい。
【0043】
以下に、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤の有効成分として使用したカゼインの部分ペプチドまたはカゼイン加水分解物の製造例を示す。
【0044】
[製造例1]
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドを、以下の方法により製造した。
尚、前記本発明のペプチドは、自動アミノ酸合成装置(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 433A)を用いて合成を行い製造を行った。
20%ピペリジン含有N−メチルピロリドン(アプライド・バイオシステムズ社製。以下、N−メチルピロリドンをNMPと略記する)により、ペプチド合成用固相樹脂であるHMP樹脂(アプライド・バイオシステムズ社製)のアミノ保護基であるFmoc基を切断除去し、NMPで洗浄した後、 Fmoc−スレオニン[具体的には、合成するペプチドのC末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸(アプライド・バイオシステムズ社製)]をFastMoc(登録商標)リージェントキット(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用して縮合させ、NMPで洗浄した。次に、前記Fmoc基の切断、続いて、C末端から2番目のアミノ酸に相当するFmoc−アラニンの縮合、及び洗浄を行い、さらにFmoc−アミノ酸の縮合及び洗浄を繰り返し、保護ペプチド樹脂を作製し、樹脂より粗製ペプチドを回収した。
前記粗製ペプチドから、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)によりペプチドの精製を行った。使用するカラムは逆相系のC18−ODS(メルク社製。Lichrospher100)を例示することができる。得られた精製ペプチドはHPLC分析を行い、精製物が単一であることを更に確認した。また、精製ペプチドのアミノ酸配列を、気相式自動アミノ酸シーケンサー(アプライド・バイオシステムズ社製。Model 473A)を用
いて決定した結果、配列番号1のアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有していた。
尚、同様の方法により配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドも製造した。
【0045】
[製造例2]
市販牛乳カゼイン「アラシッド」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを60℃に加熱した精製水に10%濃度に懸濁し、2.5gの水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を50℃に調整した後、加水分解酵素として、パンクレアチン(天野エンザイム社製、112,000U/g)を2500U添加し、50℃で4時間保持することによって加水分解し、90℃で10加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は9.5%、数平均分子量は910ダルトンであった。
【0046】
[製造例3]
市販カゼインナトリウム「アラネート」(蛋白質含量90%、ニュージーランドミルクプロダクツ製)100gを50℃に加熱した精製水に12%濃度に溶解した。その後、85℃で10分間の殺菌を行い、溶解液を40℃に調整した後、加水分解酵素として、ブタトリプシン(PTN6.0S;ノボザイム社製、1,250U/g)を250U添加し、40℃で6時間保持することによって加水分解し、90℃で10分間加熱処理して酵素を失活した後、凍結乾燥することによりカゼイン加水分解物約100gを得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は10.8%、数平均分子量は750ダルトンであった。
【0047】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、乳中のシステインプロテアーゼ阻害物質を検出するために行った。
(1)検出法
本発明者はプロテアーゼ阻害物質の検出法として「逆ザイモグラフィー」という手法を用い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動のゲル上に存在するプロテアーゼ阻害物質の検出を行った。逆ザイモグラフィーとは通常のザイモグラフィーの逆の手法によるものであり、基本的原理は次のとおりである。即ち、ゼラチンを含むSDSポリアクリルアミドゲルにプロテアーゼ阻害物質を含むサンプルをアプライし、電気泳動を行った後にゲルをプロテアーゼ溶液に浸漬してゲル中のタンパク質を分解する。この操作により阻害物質が存在する部分はプロテアーゼの活性を阻害することから、ゼラチンはプロテアーゼによる分解を免れ、これが染色液によって染色されることにより、阻害物質を識別することが可能となる。
(2)試験方法
本発明における逆ザイモグラフィーの方法は以下のとおりである。
牛乳中の全タンパク質及び天然のウシβ−カゼインをサンプルとし、0.1%ゼラチンを含む12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて、電気泳動(以下、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をSDS−PAGEと略記することがある。)を行った。泳動後、ゲルを2.5%Triton X-100溶液に45分間浸漬して洗浄した後、更に45分間蒸留水に浸漬する操作を3回繰り返してゲルを洗浄した。このゲルを、1mgパパイン(31units/ml)を含む0.025M酢酸緩衝液(pH5.5)100mlに浸漬し、37℃で10時間保温してゼラチンを消化した。ゲルを蒸留水で洗浄後、染色液(0.025%クマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)R−250、40%メタノール、7%酢酸水溶液)で1時間染色し、その後脱色液(40%メタノール、10%酢酸水溶液)で脱色を行った。
これとは別に、対照試験としてゼラチンを含まない12.5%SDSポリアクリルアミ
ドゲルを用いて前記と同様に逆ザイモグラフィーを行った。さらに、通常の12.5%SDS−PAGE(CBB染色)を行った。
(3)試験結果
本試験の結果は図1に示すとおりである。図1は逆ザイモグラフィーのパターンを示す結果である。図1の1レーンは牛乳中の全タンパク質の通常のSDS−PAGEのパターン、2レーンは牛乳中の全タンパク質の逆ザイモグラフィーのパターン、3レーンは牛乳中の全タンパク質のゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターン、6レーンは天然のウシβ−カゼインの逆ザイモグラフィーのパターン、7レーンは天然のウシβ−カゼインのゲルにゼラチンを含まない逆ザイモグラフィー(対照)のパターンを各々示している。尚、図中矢印は天然のウシ由来β−カゼイン(分子量35kDa)のSDS−PAGEによる泳動位置を示している。尚、4レーン及び5レーンは、本試験例とは直接関係がない。
図1から明らかなとおり、2レーンにおいてウシβ−カゼインの泳動位置(35kDa)とほぼ同位置に逆ザイモグラフィーのポジティブなバンドが確認された。このことより、牛乳中にシステインプロテアーゼ阻害活性を有する物質の存在が確認された。また、6レーンにおいて天然のウシβ−カゼインを泳動したパパインを用いた逆ザイモグラフィーにおいて、ポジティブなバンドが確認された。
以上の結果から、ウシ由来のβ−カゼインにシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが示唆された。
【0048】
[試験例2]
本試験は、試験例1においてシステインプロテアーゼ阻害活性が示唆された35kDaのバンドについてN末端アミノ酸配列を決定するために行った。
(1)試験方法
試験例1で使用した牛乳中の全タンパク質サンプルを同様に使用してSDS−PAGEを行った後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、PVDF膜をCBBで染色後、35kDa付近に泳動された染色バンドを切り出した。このバンドについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてN末端アミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。図2は牛乳中の35kDa染色バンドのアミノ酸配列を決定した結果である。その結果、35kDa染色バンドのN末端アミノ酸配列はウシβ−カゼインのそれと完全に一致した。従って、本試験の結果と試験例1の結果の両者から、ウシβ−カゼインはシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
【0049】
[試験例3]
本試験は、カゼイン分子中におけるシステインプロテアーゼ阻害活性を有する領域を検索するために行った。
(1)試験方法
ウシβ−カゼイン250μgを、100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、リシルエンドペプチダーゼにより35℃で16時間消化した。消化後のウシβ−カゼインペプチド混合物にシステインプロテアーゼ阻害活性が保持されているかどうかを確認するために、システインプロアーゼ阻害活性を測定した。
阻害活性の測定方法はBarrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods
in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]を参考にして、次のとおり行った。即ち、0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解したウシβ−カゼインペプチド混合物溶液に、基質としてZ-Phe-Arg-MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼ(本試験ではパパイン:シグマ社製)溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質
から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立社製)を用いて測定した。
測定の結果、ウシβ−カゼインペプチド混合物に阻害活性が保持されていることが確認されたので、引き続きペプチド混合物について、TSK Gel DDS-80Tsカラム(東ソー社製)を用いた逆相HPLCによるアセトニトリル直線濃度勾配溶出法によって、主要なピークを分離した。次に、分離したピークのサンプル(以下、ペプチドサンプルと記載する。)の各々について、前記と同様の方法でシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
ペプチドサンプルの阻害活性測定の結果、活性を有するペプチドサンプルについて、ヒューレットパッカード社製G1005Aプロテインシーケンシングシステムを用いてそのアミノ酸配列を決定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図2に示すとおりである。その結果、阻害活性を有する主要なペプチドサンプルは、図2中のウシβ−カゼインのアミノ酸配列における142残基目Leuから160残基目Hisまでのアミノ酸配列(下線部:以下、該配列のペプチドをウシβ−カゼインペプチドと記載する。)を有することが判明した。
【0050】
[試験例4]
本試験は、カゼイン類のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料として、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインを各々用いて、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により前記試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は、図3に示すとおりである。図3は、ウシβ−カゼイン、ウシα−カゼイン、及びウシκ−カゼインのパパインに対するシステインプロテアーゼ阻害効果を示す。その結果、β−カゼイン及びκ−カゼインは10-5Mの濃度でパパインを完全に阻害し、α−カゼインについても若干弱いながらも10-4Mでパパインの活性をほぼ阻害することが判明した。従って、β−カゼインだけでなく、κ−カゼインやα−カゼインについてシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが明らかとなった。
【0051】
[試験例5]
本試験は、ウシβ−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定するために行った。
(1)試験方法
試験試料としてウシβ−カゼイン、システインプロテアーゼとしてパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLを使用して、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを測定した。
(2)試験結果
本試験の結果は図4に示すとおりである。図4は、パパイン、カテプシンB、及びカテプシンLに対するウシβ−カゼインの阻害効果を測定した結果である。その結果、ウシβ−カゼインが10-5Mでパパインを完全に阻害することが判明した。またカテプシンB及びカテプシンLについてもウシβ−カゼインが10-4Mでそれらのプロテアーゼ活性をほぼ阻害することが判明した。従って、ウシβ−カゼインはパパイン、カテプシンB、及びカテプシンLのプロテアーゼ活性を阻害し、幅広いシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを有することが明らかとなった。
【0052】
[試験例6]
本試験は、ヒトβ−カゼインのシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するた
めに行った。
(1)試験方法
常法に従って精製したヒトβ−カゼイン(例えば、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス[J. Daily Sci.]、第53巻、第2号、第136〜145ページ、1970年、に記載の方法によって精製)、及び実施例1で合成した配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列(ヒトβ−カゼインのアミノ酸配列)のうち、アミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド(図5中、ヒトβ−カゼインの下線部ペプチド:以下、該配列のペプチドをヒトβ−カゼインペプチドと記載する。)を各々試験試料として、試験例3に記載のシステインプロテアーゼ阻害活性測定方法と同様の方法により、試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。
(2)試験結果
本試験の結果、ヒトβ−カゼインは10-5Mでパパインのプロテアーゼ活性をほぼ完全
に阻害することが判明した。また、ヒトβ−カゼインペプチドは、10-5Mでパパインの
プロテアーゼ活性を65%阻害し、10-4Mでパパインのプロテアーゼ活性を完全に阻害することが判明した。
【0053】
[試験例7]
本試験は、カゼイン加水分解物のシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。
(1)試料の調製
加水分解物としてパンクレアチンをそれぞれ2000、8000、及び9000ユニット(units)添加して製造したこと以外は、製造例2と同一の方法により製造したカゼイン加水分解物を試験試料1、試験試料2及び試験試料3とした。尚、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の分解率(%)は、それぞれ8.2、33.5及び38.0であった。また、試験試料1、試験試料2及び試験試料3の数平均分子量(ダルトン)は、それぞれ1020、250及び210であった。
(2)試験方法
0.1M酢酸緩衝液pH5.5に溶解した試験試料溶液に、基質としてZ−Phe−Arg−MCA(最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、システインプロテアーゼであるパパイン溶液(最終濃度15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMCの蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所社製)を用いて測定した。
(3)試験結果
本試験の結果は、表1に示すとおりである。表1は、各試験試料のシステインプロテアーゼ阻害活性を示す。その結果、試験試料1は、0.1mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を39%阻害し、0.2mg/mlの濃度では61%阻害した。試験試料2は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を76%阻害し、0.05mg/mlの濃度においても50%阻害した。試験試料3は、0.2mg/mlの濃度でパパインによるシステインプロテアーゼ活性を53%阻害し、0.1mg/mlの濃度で44%、0.05mg/mlの濃度においても37%阻害した。
【0054】
【表1】
【実施例】
【0055】
次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(ウシβ−カゼインを配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
ウシβ−カゼイン(シグマ社製) 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロ−スカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシβ−カゼイン、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロ−スカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
【0057】
[実施例2]
(カプセル入りウシβ−カゼインの調製)
乳糖(和光純薬工業社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)600gを、50メッシュ篩(ヤマト科学社製)により篩分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(Cesere Pedini社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製。1号ゼラチンカプセル、Op.Yellow No.6 Body、空重量は75mg)に内容量275mgで充填し、ウシβ−カゼイン82mg入りのカプセル剤7,000個を得た。
【0058】
[実施例3]
(ウシβ−カゼインを添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、ウシβ−カゼイン(シグマ社製)1gを添加し、ウシβ−カゼイン約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
【0059】
[実施例4]
(ウシβ−カゼインを添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及びウシβ−カゼイン(シグマ社製)60gを添加し、均一に混合して、ウシβ−カゼインを含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
【0060】
[実施例5]
(ウシカゼイン加水分解物を配合した錠剤の調製)
次の組成からなる錠剤のシステインプロテアーゼ阻害剤を次の方法により製造した。
製造例2で製造したカゼイン加水分解物 40.0(%)
乳糖(森永乳業社製) 18.5
トウモロコシ澱粉(日清製粉社製) 30.7
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.4
カルボキシメチルセルロ−スカルシウム(五徳薬品社製) 9.4
ウシカゼイン加水分解物、乳糖、トウモロコシ澱粉及びカルボキシメチルセルロ−スカルシウムの混合物に、滅菌精製水を適宜添加しながら均一に混練し、50℃で3時間乾燥させ、得られた乾燥物にステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、常法により打錠し、錠剤を得た。
【0061】
[実施例6]
(ウシカゼイン加水分解物を添加した飲料の調製)
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物1gを添加し、ウシカゼイン加水分解物約0.1%を含むシステインプロテアーゼ阻害効果を有する乳飲料を調製した。
【0062】
[実施例7]
(ウシカゼイン加水分解物を添加した経腸栄養食粉末の調製)
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更にホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後に、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及び製造例2で製造したウシカゼイン加水分解物60gを添加し、均一に混合して、ウシカゼイン加水分解物を含有するシステインプロテアーゼ阻害効果を有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳記したとおり、本発明はカゼイン、カゼインの部分ペプチド、及び/又はカゼイン加水分解物を有効成分とするシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、本発明により奏される効果は次のとおりである。
(1)食品素材として利用することができるタンパク質、その部分ペプチド及び/又はその加水分解物であるので、安全性に優れ、日常的に長期間投与又は摂取が可能である。
(2)幅広いシステインプロテアーゼに対して阻害活性スペクトルを有する。
(3)システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤として使用することが可能である。
(4)特定保健用食品、栄養補助食品を含む機能性食品等の製造等の用途に利用することが可能である。
(5)食品加工分野における食品の物性調節剤として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ウシ乳タンパク質の逆ザイモグラフィーの検出を示す図(写真)である。
【図2】ウシβ−カゼイン及びウシβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【図3】パパインに対するカゼイン類のシステインプロテアーゼ阻害効果を示す図である。
【図4】β−カゼインのシステインプロテアーゼ阻害活性スペクトルを示す図である。
【図5】ヒトβ−カゼイン及びヒトβ−カゼインペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【配列表】
Claims (24)
- カゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
- カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である請求項1に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。 - 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドを有効成分として含むシステインプロテアーゼ阻害剤。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。 - カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物を有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。
- 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である請求項5に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である請求項5又は6に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- カゼイン加水分解物を全量に対して0.005質量%以上含有する、請求項5〜請求項8のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症である請求項10に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。
- 請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。
- 請求項1〜11のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤を患者に投与することを特徴とする、システインプロテアーゼが関与する疾患の治療方法。
- カゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
- カゼイン又はその部分ペプチドがヒト又はウシ由来である、請求項14に記載の使用。
- 以下の(A)又は(B)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチド。
(B)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号133〜151のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。 - 以下の(C)又は(D)に示すカゼイン又はその部分ペプチドの、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチド。
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、少なくともアミノ酸番号142〜160のアミノ酸配列を有するペプチドであって、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含み、且つシステインプロテアーゼ阻害活性を有するペプチド。 - カゼインを加水分解酵素で加水分解することによって得ることができ、かつ、システインプロテアーゼ阻害作用を有するカゼイン加水分解物の、システインプロテアーゼ阻害剤の製造のための使用。
- 前記加水分解酵素が、動物又は微生物由来の加水分解酵素から選択される1種又は複数種である請求項18に記載の使用。
- 前記カゼイン加水分解物の分解率が6〜45%である請求項18又は19に記載の使用。
- 前記カゼイン加水分解物の数平均分子量が200〜5000ダルトンである請求項18〜請求項20のいずれか一項に記載の使用。
- カゼイン加水分解物をシステインプロテアーゼ阻害剤の全量に対して0.005質量%以上含有させることを特徴とする、請求項18〜請求項21のいずれか一項に記載の使用。
- システインプロテアーゼ阻害剤が、システインプロテアーゼが関与する疾患の予防・治療剤である、請求項14〜請求項22のいずれか一項に記載の使用。
- システインプロテアーゼが関与する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、歯周病、又は細菌・ウイルス感染症である請求項23に記載の使用。
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