JP3643925B2 - Fa−70c1物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロテアーゼ阻害活性を有し、特に医薬として有用な新規な化合物:FA−70C1物質及びその塩に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞内で生産されるカテプシン類プロテアーゼ酵素群(カテプシンB、カテプシンL、カテプシンH、カテプシンS、カテプシンK等)は細胞内外で様々な生理作用を担っている。例えば細胞内において、蛋白質のプロセシング、不要蛋白質の分解、細胞死等に関与し、細胞外において、例えば骨基質コラーゲン分解等の細胞外基質分解、感染細菌の消化等に関与していると考えられている。また、感染細菌は感染の際に宿主からの免疫性攻撃因子の分解のために菌体外にプロテアーゼを分泌し攻撃を免れている。
【0003】
特にカテプシン類プロテアーゼ酵素群(カテプシンL、カテプシンK等)はコラーゲンの分解能が非常に強いことが知られており、実験動物においてもカテプシン阻害剤が著明な骨コラーゲン分解を抑制することが明らかにされた。このようなことからカテプシンL、カテプシンKを特異的に阻害する物質が骨粗鬆症治療薬として有望であると考えられる(エフイービーエス レターズ(FEBS Letters),269 (1),189-193,1990)。
【0004】
カテプシンBは炎症、癌転移及び筋ジストロフィー症等の病因に深く関与していると言われている酵素である。近年、転移や浸潤等、癌の悪化とカテプシンB活性の相関関係を指摘する報告が増加している(キャンサーリサーチ(Cancer Research),52,3610-3614,1992)。
【0005】
また、歯科領域において、歯周病は歯周局所の常在微生物によって惹起される一種の感染症と考えられており、近年、グラム陰性嫌気性細菌群が疾患の発症や進行に深く関与していることが明らかにされてきた。特にグラム陰性嫌気性桿菌Porphyromonas gingivalisは成人性歯周炎や急速進行性歯周炎において最も重要な病因菌であることが明らかにされている。当該 Porphyromonas gingivalisはトリプシン様システインプロテアーゼであるArg−gingipain及びLys−gingipainを菌体外に分泌し、補体成分や免疫グロブリン等を分解し、宿主の体液性免疫系の一部を破壊する。またArg−gingipainは、歯周組織周辺の主要成分であるタイプIコラーゲンを強力に分解することに基づいて、歯周病の病因と考えられている(日薬理誌(Folia Pharmacol.Jpn),105,345-355,1995)。
【0006】
現在、カテプシン類プロテアーゼが関与する疾患、及び Porphyromonas gingivalisの産生するシステインプロテアーゼが関与する歯周病において、これらの酵素に対する特異的な阻害剤が求められているが、十分なものは得られていない。特に歯周病の病因たるArg−gingipainを特異的に抑制する阻害剤は得られていないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、カテプシン類プロテアーゼ及びArg−gingipainに対して優れた阻害活性を有する物質を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、天然土壌より多くの微生物を分離し、それらが生産する代謝産物について、システインプロテアーゼを阻害する物質の探索を続けていたところ、放線菌に属するFA−70株の培養物中にシステインプロテアーゼ阻害活性を有する物質が生産されていることを見出し、その活性物質を単離し、その理化学的性状及び構造を確定することにより、本発明を完成した。
【0009】
本発明の化合物に類似する構造を有する微生物生産物としてはアンチパイン(Anti pain)(ザ ジャーナル オブ アンチバイオティクス(The Journal of Antibiotics),25,267-000,1972)が報告されているが、本発明のFA−70C1物質は、シトルリンがペプチド結合した構造を有する点で上記アンチパインとは異なる新規化合物である。また、本発明者らは、以前、本発明の化合物に類似する構造を有する微生物生産物としてFA−70D物質を報告しているが(EP0822260A1)、本発明のFA−70C1物質はアミノ酸組成、カテプシン類及び Arg-gingipain阻害様式の点で該FA−70D物質とは異なる新規化合物である。
【0010】
すなわち、本発明は下記式(1)
【0011】
【化2】
で表される化合物及びその塩に係わるものである。尚、以下本発明において当該化合物を便宜上、「FA−70C1物質」と称する。
【0012】
また、本発明はストレプトマイセス属に属し、上記FA−70C1物質を産生する能力を有する菌を培養し、得られる培養物からFA−70C1物質を採取するFA−70C1物質又はその塩の製造法、該FA−70C1物質又はその塩を有効成分とする組成物、特に薬学的に許容される担体を含有していてもよい医薬組成物に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の式(1)の化合物の塩は、特に限定されないが、薬学的に許容される塩基性化合物を作用させた塩基塩が好ましい。この塩基性化合物としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;リン酸1ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸2カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸3カリウム等のリン酸塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン等のアミン類;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸が挙げられる。
【0014】
上記式(1)のFA−70C1物質には、光学異性体が存在し、本発明はかかる異性体及びそれらの混合物を全て包含するものである。
【0015】
また、上記式(1)のFA−70C1物質又はその塩は、無水の状態であってもよく、又は適当な割合で水和したものであっても良い。また、結晶形のものでも、粉末、又はアモルファス状のものであってもよい。
【0016】
FA−70C1物質の物理化学的性質を以下に示す。
【0017】
(1)形状:白色粉末
(2)実験式:C27H43N9O7(M)(高分解能ファーストアトミック・ボンバードメント・マススペクトロメトリー法による。C27H44N9O7(M+H)として実験値606.3373,計算値606.3364)
(3)分子量:605.69(ファーストアトミック・ボンバードメント・マススペクトロメトリー法による)
(4)赤外吸収スペクトル:KBr錠剤法、
νmax (cm -1) :3345,2965,1650,1555,1455,1395,1205,1140,700(図1)
(5)核磁気共鳴スペクトル:ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6)溶液中30℃で測定した400MHz 1H−NMRスペクトル(図2)の化学シフト値を表1に示す。
【0018】
【表1】
(6)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルに良く溶け、エタノールに少し溶ける。クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、エーテル、ヘキサンに難溶である
(7)融点:205℃以上で分解
(8)比旋光度:[α]20 D=−25.8000
(c=3.56mg/ml、メタノール中)
(9)呈色反応:エールリッヒ反応、坂口反応において呈色する。ニンヒドリン反応において呈色しない
(10)紫外部吸収スペクトル:図3に示す。
【0019】
(11) 高速液体クロマトグラフィー:下記分析条件において保持時間(tR )6.6分にピークを与える:
カラム:イナートシル(Inertsil)ODS−2 5μm
(内径4.6mm×150mm,ジーエルサイエンス社製)
移動相:アセトニトリル/トリフルオロ酢酸/水
(v/v/v、22.5:0.05:77.5)
流速:1ml/分
検出:210nm(0.04a.u.f.s.)。
【0020】
本発明のFA−70C1物質は、例えば、本物質の生産能力を有する菌株(以下FA−70C1物質生産菌とも称する)を以下に示すような適当な条件下で培養することによって製造することができる。
【0021】
FA−70C1物質生産菌としては、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株が挙げられる。本発明には、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌を適当な培地を用いて培養し、得られる培養物から採取、取得できる上記FA−70C1物質及びその塩が包含される。
【0022】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株の一例としては、ストレプトマイセス エスピー.FA−70(Streptomycessp.FA−70)株が例示できる。この菌株は、本発明者らが中華人民共和国河北省承徳の土壌から新たに分離したストレプトマイセス属に属する菌株であり、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、1995年7月31日に微生物の表示、(寄託者が付した識別のための表示)「Strain FA−70」、(受託番号)「FERM BP−5183」として寄託されている。
【0023】
FA−70株について、インターナショナル ジャーナル オブ システィマティック バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology),16 (3),313-340,1960に記載の方法に準じて検討した菌学的性質は次の通りである。
【0024】
(a)形態:
ISP(インターナショナル ストレプトマイセス プロジェクト(International Streptomyces Project)規定の培地No.4(ISP 4)で27℃、13日間培養し、観察した結果を以下に示した。
【0025】
胞子形成菌糸の分枝法;単純分枝
胞子形成の形態;螺旋状(spirales)、胞子の形は円筒状(cylindrical)
胞子の数;10〜50胞子又はそれ以上
胞子の表面構造;平滑(smooth)
胞子の大きさ;0.5〜0.6×0.8〜0.9μm
鞭毛胞子の有無;無
胞子のうの有無;無
胞子柄の着生位置;気菌糸
菌核形成性の有無;無。
【0026】
(b)各種培地における生育状態:
各種培地における生育状態を表2に示す。分類色名は(財団法人日本色彩研究所監修,標準色彩図表A,1981年)で示した。なお、詳細な色はコンテイナー・コーポレーション・オブ・アメリカ(Container Corporation of America)の(ザ・カラー・ハーモニー・マニュアル(The Color Harmony Manual),第4版,1958年)の色コードで( )内につけ加えた。
【0027】
【表2】
(c)生理的性質:
生育温度範囲;20〜37℃の温度範囲で良好に生育する
ゼラチンの液化(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地、27℃);陽性
ゼラチンの液化(単純ゼラチン培地、20℃);陰性
ミルクの凝固(37℃);陰性
ミルクのペプトン化(37℃);陽性
メラニン様色素の生成;チロシン寒天(ISP−7)培地上、トリプトン・酵母エキス(ISP−1)培地上で陰性、ペプトン・酵母エキス・鉄寒天(ISP−6)培地上で陽性
硫化水素の産生(ペプトン・酵母エキス・鉄寒天(ISP−6)に0.5%酵母エキスを添加した培地);陽性
澱粉の加水分解(スターチ・無機塩寒天、ISP−4培地);陽性
硝酸塩の還元(1%硝酸カリウム含有ブイヨン、ISP−8培地);陰性
セルロースの分解;陰性。
【0028】
(d)炭素源の利用性(プリードハム・ゴトリーブ寒天、ISP−9培地):
D−グルコース、D−キシロース、イノシトール、溶性澱粉、デキストリン、グリセロール及びマルトースを利用してよく発育する。L−アラビノース、シュクロース、D−フラクトース、D−マンニトール、L−ラムノース、ラフィノース、D−ガラクトース及びサリシンは利用できない。
【0029】
(e)菌体組成:
(日本放線菌学会編,放線菌の同定実験法,62−70頁,1985年)に記載の方法に従い、全菌体中の酸加水分解物を薄層クロマトグラフィー法により分析した結果、LL−型のジアミノピメリン酸が検出された。
【0030】
以上の菌学的性質、特に基生菌糸より多数の胞子の連鎖を有する気菌糸を形成し、細胞壁組成のアミノ酸がLL−ジアミノピメリン酸であり、鞭毛胞子や胞子のうを形成しない性質を有することから、本菌株はストレプトマイセス属に属することが明らかである。よって本菌株をストレプトマイセス エスピー.FA−70(Streptomyces sp.FA−70)と称することとした。
【0031】
本発明のFA−70C1物質は、例えば、上記FA−70株又はその変異株等のストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、FA−70C1物質を生産する能力を有する菌を培地で培養し、培養物中に該化合物を生成せしめ、該培養物、特に培養液から本発明のFA−70C1物質を含む粗抽出物を分離し、更に粗抽出物からFA−70C1物質を単離、精製することにより製造することができる。
【0032】
上記微生物の培養は原則的に一般の微生物の培養に準じて行われるが、通常液体培養による振盪培養法、通気撹拌培養法等の好気的条件下で行うのが好ましい。
【0033】
培養に用いられる培地としては、FA−70C1物質生産菌が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、天然培地等をいずれも用いることができる。培地の炭素源としてはグルコース、シュクロース、フラクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、有機酸等を単独又は二種以上組み合わせたものが;窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、尿素などの有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独又は二種以上組み合わせたものが用いられる。また、培地にはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、その他の重金属塩などが必要に応じて適宜添加される。
【0034】
なお、培養中発泡の著しい時は、例えば大豆油、亜麻仁油等の植物油、オクタデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール等の高級アルコール類、各種シリコン化合物などの消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
【0035】
培地のpHは中性付近とするのが好ましい。培養温度はFA−70C1物質生産菌が良好に生育する温度、通常20〜37℃、特に25〜30℃付近に保つのがよい。培養時間は、液体振盪培養及び通気撹拌培養のいずれの場合も2〜6日間が好ましい。
【0036】
上述した各種の培養条件は使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、またそれぞれに応じて上記範囲から最適条件を選択、調節できる。
【0037】
培養液からのFA−70C1物質を含む粗抽出物の分離は、発酵生産物を採取する一般的な方法に準じて行うことができ、例えば溶媒抽出、分配及び吸着クロマトグラフィー等の手段を単独又は二種以上を任意の順序に組み合わせて用いることができる。より詳しくは、上記培養により生産されるFA−70C1物質は主として培養濾液中に存在するので、常法に従い、まず濾過、遠心分離等を行って、培養濾液と菌体固形分とを分離し、得られたFA−70C1物質を含む培養濾液を得る。その培養濾液をダイアイオンHP−20樹脂(三菱化成(株)製)に吸着させ、精製水で樹脂を洗浄する。次いで、メタノールを用いて樹脂からFA−70C1物質の溶出を行い、次いで、減圧下に溶媒を留去すればFA−70C1物質を含む粗濃縮液を得ることができる。この粗濃縮液にブタノールを加えてFA−70C1物質を有機溶媒層に転溶させ溶媒を減圧下で留去し、酢酸エチルで洗浄後、溶媒を減圧下で留去すればFA−70C1物質を含む粗抽出物を得ることができる。
【0038】
更に、粗抽出物からFA−70C1物質を単離、精製するためには、通常の低分子ペプチド物質の単離、精製手段、例えば活性炭、ダイアイオンHP−20、イオン系吸着樹脂などの吸着剤による種々の吸着クロマトグラフィー及びODS−結合型シリカゲル等を用いる逆相クロマトグラフィーが使用できる。これらのうち、溶出溶媒にメタノール/水(pH2.0)の混合溶媒系を用いるダイアイオンHP−20クロマトグラフィー及びアセトニトリル/トリフルオロ酢酸の混合溶媒系を溶出に用いる逆相クロマトグラフィーが特に好ましい。また、更に精製を必要とする場合には、上記クロマトグラフィーを繰り返し行うかまたは溶出溶媒としてメタノールを用いたセファデックスLH−20(ファルマシア社製)によるゲル濾過クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて行うことにより、高純度のFA−70C1物質を得ることができる。
【0039】
なお、精製工程中のFA−70C1物質の確認は、本物質により阻害されるパパインの酵素活性を測定する方法と高速液体クロマトグラフィーを用いて精製されたことを検出する方法とを併用して行うのがよい。
【0040】
酵素活性を測定する具体的方法は、実施例及び試験例中に記載する。また、試験例に示すように、本発明のFA−70C1物質はArg−gingipain、並びにカテプシンL、K、S及びBを阻害する活性を有している。このため、該物質はこれらの酵素の阻害剤として有用であるとともに、該酵素が関連する疾患の予防・治療剤の有効成分として有用である。
【0041】
かかる観点から、本発明はまた、以上のようにして精製されたFA−70C1物質またはその塩を有効成分とする組成物を提供する。
【0042】
当該組成物は、FA−70C1物質またはその塩の上記活性に基づいて、カテプシン類プロテアーゼ、特にカテプシンL、K、S及びBの阻害剤として有用である。従って、本発明の組成物は、カテプシンL、K、S又はBが関与する疾患の治療用又は予防用医薬組成物として有用である。また、本発明の組成物は、システインプロテアーゼ、特に Porphyromonas gingivalisが産生するArg−gingipainの阻害剤として有用である。当該Arg−gingipainは歯周病の病因であることから、本発明の組成物は歯周病の予防又は治療用の医薬組成物、口腔用組成物(医薬品、医薬部外品又は食品の別を問わない)として有用である。
【0043】
FA−70C1物質またはその塩を医薬組成物として使用する際の薬学的投与形態としては、目的に応じて各種の薬学的投与形態を広く採用でき、該形態としては、具体的には、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、エアゾール等の非経口剤を例示できる。また、口腔用組成物の形態としては、例えば歯磨剤、洗口剤、トローチ剤、口腔用パスタ剤やゲル剤などの医薬品又は医薬部外品、トローチ、チューインガム、キャンディ、グミキャンディなどの食品などが挙げられる。これら投与形態は、この分野で通常知られた慣用的な製剤方法により製剤化される。
【0044】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0045】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0046】
カプセル剤は常法に従い通常本発明化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬化ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0047】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明の有効成分に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等の担体を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が使用でき、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が使用できる。
【0048】
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。なお、この場合等張性の溶液を調製するに十分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、局所麻酔剤等の担体を添加し、常法により静脈内、筋肉内、皮下、皮内並びに腹腔内用注射剤を製造できる。pH調整剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸等が使用できる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が使用できる。
【0049】
坐剤を調製する場合には、本発明の有効成分に基剤、さらに必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法により坐剤を製造することができる。基剤としては、例えばマクロゴール、ラノリン、カカオ油、脂肪酸トリグリセライド、ウィテップゾール(ダイナマイトノーベルズ社製)等の油性基剤を用いることができる。
【0050】
軟膏剤を調製する場合は、本発明化合物に通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等の担体が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤としては流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。保存剤としてはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0051】
更に上記各製剤には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、pH調整剤、賦形剤、抗酸化剤、滑沢剤などの通常医薬組成物に配合する添加剤や希釈剤等や他の薬物を含有することもできる。
【0052】
本発明の医薬組成物中に含有されるべき本発明化合物の量としては、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常医薬製剤中0.01〜70重量%とするのがよい。
【0053】
上記医薬組成物の投与方法は特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて適宜決定される。
【0054】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明有効成分の量は、これを適用すべき患者の症状によりあるいはその剤型等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり経口剤では約1〜1000mg、注射剤では約0.1〜500mg、坐剤では約5〜1000mgとするのが望ましい。
【0055】
また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別、その他の条件等に応じて適宜選択されるが、通常成人1日あたり約0.01〜100mg/kg、好ましくは約0.02〜20mg/kgとすれば良く、これを1日1回又は2〜4回程度に分けて投与することができる。
【0056】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げて更に具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0057】
実施例1 本発明FA−70C1物質の製造:
(a)培養工程
グルコース0.5%、可溶性澱粉2.4%、牛肉エキス0.3%、酵母エキス0.5%、ペプトン0.5%、コーン・スティープ・リカー0.4%、塩化コバルト0.002%、炭酸カルシウム0.4%よりなる培地(pH7.2)100mlを500mlの三角フラスコに分注し、滅菌後、ストレプトマイセス エスピー.FA−70株(受託番号 FERM BP−5183)を一白金耳量接種し、27℃で3日間振盪培養した(毎分220回、振幅7cm)。
【0058】
次に、グリセロール2.0%、デキストリン2.0%、酵母エキス0.3%、ソイトン1.0%、硫酸アンモニウム0.2%、炭酸カルシウム0.2%よりなる培地(pH7.0)を500mlの三角フラスコに100mlずつ分注し、滅菌(121℃、15分)後、上記の種菌を2%(v/v)の割合で添加し、27℃、3日間振盪培養した(毎分220回、振幅7cm)。
【0059】
(b)分離工程
上記工程で得られた培養液(8.5L,pH6.1)を採取し、遠心分離(3000回転、15分)、濾過後、得られた培養瀘液を1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH8.0に調整し、ダイアイオン(Diaion)HP−20(三菱化成(株))樹脂(850mg)を加えた。1時間撹拌後、濾過により樹脂を分離し、メタノール(4250ml)を加え1Nの塩酸でpH2.0に調整しながら、撹拌抽出した。同操作をさらに2回繰り返して行い、メタノール抽出画分を1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH6.0に調整し、遠心分離で沈殿を除去した後、減圧濃縮し、メタノールを除去したFA−70C1物質を含む水溶液を得た。この水溶液を1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH8.0に調整し、同量(v/v)のブタノールで3回抽出した。このブタノール抽出画分を減圧濃縮して得た固形物を酢酸エチル(50ml)で3回洗浄し、乾燥してFA−70C1物質を含む粗抽出物(7.2g)を得た。
【0060】
(c)単離、精製工程
上記粗抽出物(4.2g)をメタノール(84ml)に溶解し、遠心分離(3000回転、15分)によりメタノール可溶画分と不溶部に分け、更に不溶部にメタノール(33ml)を加え、遠心分離によりメタノール可溶画分と不溶部に分離した。メタノール可溶画分を合わせ、水(2213ml)を加え1Nの塩酸でpH3.0に調整し、生じた沈殿を除去した。メタノール含有水溶液を1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整し、CM−セファデックスカラム(ファルマシア社製、CM−Sephadex C−25,H+ 型、内径3.6cm×長さ30cm)に付した。樹脂を水でよく洗浄したのち、0.1Mの塩化ナトリウム水溶液で樹脂からFA−70C1物質を含む画分を溶出した。その画分をダイアイオンHP−20樹脂カラム(内径2cm×長さ15cm)に付した。水洗後、60%メタノール水溶液(希塩酸にてpH2.0に調整)で溶出する画分を集め、減圧濃縮しFA−70C1物質を含む乾燥粉末(555mg)を得た。
【0061】
各工程のFA−70C1物質を含む活性画分の検出は、パパインの阻害活性を測定(バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal),201,189-198,1982)することにより行った。
【0062】
即ち、8mMのジチオスレイトール、4mMのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む400mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)0.5ml、5μMのパパインと0.1%ブリッジ35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)(和光純薬(株)製)を含む酵素液0.8ml及び試料を含む水溶液0.2mlを加え、40℃で10分間プレインキュベーションをした。その後、20μMのカルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを含む0.1%ジメチルスルホキシド水溶液0.5mlを加え、40℃で10分間インキュベーションした。その後、100mMのモノクロル酢酸ナトリウムを含む100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)2.0mlを加え酵素反応を停止させ、350nmの光で励起される458nmの蛍光強度(F)を測定した。対照として、試料を含む水溶液0.2mlの代わりに、水0.2mlを加え、同様に458nmの蛍光強度(F0)を測定し、次式により酵素阻害活性を算出した:
酵素阻害活性(%)=F/F0×100。
【0063】
得られた乾燥粉末(500mg)をメタノールに溶解し、ゲル濾過カラム(ファルマシア社製、セファデックスLH−20、内径2cm×長さ127cm)に付し、メタノールで溶出した。活性画分を集め溶媒を除去し、乾燥粉末(145mg)を得た。得られた乾燥粉末をメタノールに溶解し、イナートシル(Inertsil)ODS−2カラム(ジ−エルサイエンス社製、5μm、内径10mm×長さ250mm)、移動相にアセトニトリル/トリフルオロ酢酸/水(v/v/v、20:0.05:80)を用い、流速4.0ml/分で溶出する逆相高速液体クロマトグラフィーを実施した。活性画分を分取し有機溶媒を減圧留去した後、水溶液を凍結乾燥して白色粉末FA−70C1物質(10mg)を得た。
【0064】
得られたFA−70C1物質の物理化学的性質を以下に示す:
(1)形状:白色粉末
(2)実験式:C27H43N9O7(M)(高分解能ファーストアトミック・ボンバードメント・マススペクトロメトリー法による。C27H44N9O7(M+H)として実験値606.3373,計算値606.3364)
(3)分子量:605.69(ファーストアトミック・ボンバードメント・マススペクトロメトリー法による)
(4)赤外吸収スペクトル:KBr錠剤法、
νmax (cm -1) :3345,2965,1650,1555,1455,1395,1205,1140,700(図1)
(5)核磁気共鳴スペクトル:ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6)溶液中30℃で測定した400MHz 1H−NMRスペクトル(図2)の化学シフト値を表3に示す。
【0065】
【表3】
(6)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルに良く溶け、エタノールに少し溶ける。クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、エーテル、ヘキサンに難溶である
(7)融点:250℃以上で分解
(8)比旋光度:[α]20 D=−25.8000
(c=3.56mg/ml、メタノール中)
(9)呈色反応:エールリッヒ反応、坂口反応に呈色する。ニンヒドリン反応に呈色しない
(10)紫外部吸収スペクトル:図3に示す。
【0066】
(11) 高速液体クロマトグラフィー:下記分析条件において保持時間(tR )6.6分にピークを与える。
【0067】
カラム:イナートシル(Inertsil)ODS−2 5μm
(内径4.6mm×150mm,ジーエルサイエンス社製)
移動相:アセトニトリル/トリフルオロ酢酸/水
(v/v/v、22.5:0.05:77.5)
流速:1ml/分
検出:210nm(0.04a.u.f.s.)。
【0068】
試験例1 FA−70C1物質の酵素阻害活性の測定
カテプシンB及びカテプシンLに対する阻害活性の測定はA,J,Barrettらの方法(バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal),201,189-198,1982)に従った。
【0069】
カテプシンBに対する阻害活性は次のようにして測定した。まず、8mMのジチオスレイトール及び4mMのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む400mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)0.5ml、5μMのカテプシンBと0.1%ブリッジ35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)(和光純薬(株)製)を含む酵素液0.8ml及び本発明の化合物を含む水溶液0.2mlを加え、40℃で10分間プレインキュベーションをした。その後、20μMのカルボベンゾキシ−L−アルギニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを含む0.1%ジメチルスルホキシド水溶液0.5mlを加え、40℃で10分間インキュベーションした。その後、100mMのモノクロル酢酸ナトリウムを含む100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)2.0mlを加え酵素反応を停止させ、350nmの光で励起される458nmの蛍光強度(F)を測定した。対照として、本発明化合物を含む水溶液0.2mlの代わりに、水0.2mlを加え、同様に458nmの蛍光強度(F0)を測定し、次式により酵素阻害活性を算出した;
酵素阻害活性(%)=F/F0×100。
【0070】
カテプシンLに対する阻害活性については、上記カテプシンBに対する阻害活性測定法のカテプシンBの代わりに同濃度のカテプシンLを酵素液に加え、カルボベンゾキシ−L−アルギニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドの代わりにカルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを基質として加え、400mMのリン酸ナトリウム緩衝液をpH5.5に調整し、同様な操作で測定し、酵素阻害活性を算出した。
【0071】
カテプシンKに対する阻害活性については、上記カテプシンBに対する阻害活性測定法のカテプシンBの代わりに同濃度のカテプシンKを酵素液に加え、カルボベンゾキシ−L−アルギニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドの代わりにカルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを基質として加え、400mMのリン酸ナトリウム緩衝液をpH5.5に調整し、同様な操作で測定し、酵素阻害活性を算出した。
【0072】
カテプシンSに対する阻害活性については、上記カテプシンBに対する阻害活性測定法のカテプシンBの代わりに同濃度のカテプシンSを酵素液に加え、カルボベンゾキシ−L−アルギニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドの代わりにカルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを基質として加え、400mMのリン酸ナトリウム緩衝液をpH7.0に調整し、同様な操作で測定し、酵素阻害活性を算出した。
【0073】
Arg−gingipainに対する阻害活性については、Kadowakiらの方法(ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry),269,21371-21378,1994)に従って測定した。
【0074】
まず、50mMのL−システイン100μl、0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)200μl、0.05%のBrij35を含む12.3nMのArg−gingipain酵素液20μl、蒸留水80μl、および本発明の化合物のジメチルスルホキシド溶液100μlを混合し、37℃で5分間プレインキュベーションした。その後、20μMのカルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミドを含む0.1%ジメチルスルホキシド水溶液500μlを加え、40℃で10分間インキュベーションした。その後、10mMのヨード酢酸を含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)1000μlを加え、酵素反応を停止させ、380nmの光で励起される460nmの蛍光強度(F)を測定した。対照として、本発明化合物のジメチルスルホキシド溶液100μlの代わりに、ジメチルスルホキシド100μlを加え、同様に460nmの蛍光強度(F0)を測定し、次式により酵素阻害活性を算出した:
酵素阻害活性(%)=F/F0×100
その結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
試験例1から明らかなように、本発明のFA−70C1物質はArg−gingipainを最も強く阻害した。また、当該物質はカテプシンL、カテプシンK、カテプシンSをも強く阻害し、またカテプシンBも10ー6Mの濃度で90%以上阻害した。
【0076】
試験例2 Arg− gingipain のγ−グロブリン分解に対するFA−70C1物質の阻害活性の測定
Arg−gingipainのγ−グロブリン分解の測定は、Kadowakiらの方法(ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry),269,21371-21378,1994)に従って行った。
【0077】
まず、0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)と100mMのシステインを2:1の割合で混ぜて調製した溶液100μl、12.3nMのArg−gingipain酵素液100μl、および本発明のFA−70C1物質の各濃度の水溶液100μlを混合し、37℃で10分間プレインキュベーションした。その後、1000μg/mlのウサギγ−グロブリン(シグマ社製)水溶液300μlを加え、37℃で60分間インキュベーションした。インキュベーションしたサンプルを20μl取り、2mg/mlのロイペプチン(ペプチド研究所製)と100mMのEDTAを含む水溶液1μlを加えて反応を停止させた。その後サンプル処理液(第一化学薬品(株)製)20μlを加え97℃で5分間処理しSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。
【0078】
処理液10μlを電気泳動用ゲルプレート(マルチゲル4/20、第一化学薬品(株)製)に付し、0.025Mのトリス塩酸緩衝液、0.192Mのグリシン、0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを含む泳動用緩衝液(pH8.4)中で20mAの定電圧で2時間泳動を行った。染色はページブルー83(第一化学薬品(株)製)で行った。脱色後、写真撮影を行った。その結果を図4に示す。
【0079】
図4の結果から明らかなように、本発明のFA−70C1物質は、Arg−gingipainによるウサギγ−グロブリン分解を0.1μg/mlの濃度で抑制し始め、1μg/mlの濃度で完全に阻害した。
【0080】
γ−グロブリンは生体の体液性免疫成分の一つである。Porphyromonas gingivalisが産生するArg−gingipainは宿主のγーグロブリンを分解し、免疫機能を破壊し宿主の攻撃をかわし、これによってPorphyromonas gingivalisは歯周に生存することができると考えられている。上記結果で示すように、FA−70C1物質がArg−gingipainを阻害することは、本発明の物質が宿主の免疫機能を防御することができることを示唆している。
【0081】
以下、本発明の組成物の処方例を記載するが、本発明は当該処方例に何ら制限されない。
【0082】
処方例1 カプセル剤
FA−70C1物質 10mg
乳糖 50mg
トウモロコシデンプン 47mg
結晶セルロース 50mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
1カプセル当たり 160mg
上記配合割合で、常法に従いカプセル剤を調製した。
【0083】
処方例2 注射剤
FA−70C1物質 5mg
注射用蒸留水 適量
1アンプル中 5ml
上記配合割合で、常法に従い注射剤を調製した。
【0084】
処方例3 坐剤
FA−70C1物質 20mg
ウィテップゾールW−35 1380mg
(登録商標、ダイナマイトノーベル社製)
1個当たり 1400mg
上記配合割合で、常法に従い坐剤を調製した。
【0085】
処方例4 練歯磨き
下記の処方からなる練歯磨きを常法に従って調製した。
【0086】
第2リン酸カルシウム 30.0mg
グリセリン 10.0mg
ソルビトール 20.0mg
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0mg
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5mg
カラギーナン 0.5mg
サッカリンナトリウム 0.1mg
香料 1.0mg
安息香酸ナトリウム 0.3mg
FA−70C1物質 0.5mg
水 残 部
合 計 100.00mg。
【0087】
処方例5 口腔用パスタ
下記の処方からなる口腔用パスタを常法に従って調製した。
【0088】
流動パラフィン 13 mg
セタノール 10 mg
グリセリン 25 mg
ソルビタンモノパルミテート 0.6 mg
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 5 mg
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1 mg
塩化ベンゾトニウム 0.1 mg
サリチル酸メチル 0.1 mg
サッカリン 0.2 mg
香料 0.25mg
ビタミンE 0.05mg
FA−70C1物質 0.3 mg
水 残 部
合 計 100.00mg。
【0089】
処方例6 チューインガム
下記の処方からなるチューインガムを常法に従って調製した。
【0090】
炭酸カルシウム 5.0mg
エリスリトール 10.0mg
キシリトール 38.0mg
マルチトール 12.0mg
香料 適 量
FA−70C1物質 0.1mg
ガムベース 残 部
合 計 100.0mg。
【0091】
なお、本発明には下記の実施態様が包含される:
(1)前記式(I)で表される化合物又はその塩;
(2)化合物が光学異性体である(1)記載の化合物またはその塩;
(3)上記塩が式(1)で示される化合物の塩基塩である(1)記載の化合物の塩。
【0092】
(4)ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、(1)又は(2)記載の化合物を生産する能力を有する菌を培地に培養し、得られる培養物から該化合物を採取することを特徴とする(1)または(2)記載の化合物又はその塩の製造法;
(5)菌が、ストレプトマイセス エスピー.FA−70(Streptomyces sp.FA−70)株又はその変異株である(4)記載の製造法。
【0093】
(6)(1)記載の化合物又はその塩を有効成分とする組成物;
(7)カテプシン類プロテアーゼの阻害剤である(6)記載の組成物;
(8)カテプシンL、K、S又はBの阻害剤である(7)記載の組成物
(9)Arg−gingipain阻害剤である(6)記載の組成物。
【0094】
(10)有効量の(1)記載の化合物又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物;
(11)Arg−gingipainが関与する疾患の治療薬である(10)記載の医薬組成物;
(12)歯周病の予防・治療薬である(11)記載の医薬組成物;
(13)カテプシン類プロテアーゼが関与する疾患の治療薬である(10)記載の医薬組成物;
(14)カテプシンL、K、S又はBが関与する疾患の治療薬である(13)記載の医薬組成物。
【0095】
(15)有効量の(1)記載の化合物又はその塩を含む口腔用組成物;
(16)口腔用組成物が、歯磨剤、洗口剤、トローチ剤、口腔用パスタ剤及びゲル剤からなる群から選択されるいずれかの医薬品又は医薬部外品;またはトローチ、チューインガム、キャンディ、グミキャンディからなる群から選択されるいずれかの食品である(15)記載の口腔用組成物。
【0096】
(17)有効量の(1)記載の化合物又はその塩を患者に適用することを特徴とする歯周病の予防・治療方法。
【0097】
【発明の効果】
本発明のFA−7C1物質は、歯周病の病因となり得るArg−gingipainを極めて強く阻害し、また骨粗鬆症や癌の悪化(転移、浸潤)等に関連するカテプシン類プロテアーゼをも強く阻害した。このことから、本発明のFA−7C1物質又はその塩は、これらの酵素が関与する各種疾患の予防・治療薬、特に歯周病の予防・治療薬として有用と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた本発明化合物の赤外吸収スペクトル図である。
【図2】実施例1で得られた本発明化合物の 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】実施例1で得られた本発明化合物の紫外吸収スペクトル図である。
【図4】試験例2で得られた、Arg−gingipainによるウサギγ−グロブリン分解に対する本発明化合物の抑制効果を示すSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動のクロマトグラムを示す図面に代わる写真である。
Claims (9)
- 請求項1記載の化合物又はその塩を有効成分とするカテプシン類プロテアーゼ阻害剤。
- カテプシン類プロテアーゼがカテプシンL、K、S及びBからなる群から選択されるいずれか少なくとも一種である請求項2記載のカテプシン類プロテアーゼ阻害剤。
- 請求項1記載の化合物又はその塩を有効成分とするArg−gigipain阻害剤。
- 有効量の請求項1記載の化合物又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
- 歯周病の予防・治療薬である請求項5記載の医薬組成物。
- カテプシンBを阻害する活性を有する、炎症、癌転移及び筋ジストロフィーの治療薬である請求項5記載の医薬組成物。
- カテプシンK又はカテプシンLを阻害する活性を有する、骨粗鬆症の治療薬である請求項5記載の医薬組成物。
- 有効量の請求項1記載の化合物又はその塩を含む口腔用組成物。
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