JP3092877B2 - 新規ペプチドsna−115及びsna−115t、その製造法及び新規ペプチド産生菌株 - Google Patents

新規ペプチドsna−115及びsna−115t、その製造法及び新規ペプチド産生菌株

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JP3092877B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規プロリルエンドペ
プチダーゼ阻害物質SNA−115及びSNA−115
T、それを産生する新規微生物及びSNA−115及び
SNA−115Tの製造方法に関する。本発明のプロリ
ルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−115及びSN
A−115Tは、抗健忘剤、あるいは後天性免疫不全症
候群(エイズ)予防治療剤及び抗HIV剤等の有効成分
として有用である。
【0002】
【従来の技術】近年、医療技術等の進歩に伴い、平均寿
命が伸びつつあり、老年痴呆は本人はもとよりその家
族、社会を含めた大きな問題になりつつある。これまで
の薬剤は、痴呆の周辺領域に作用するもので、これから
はより痴呆の本質にせまる薬剤が求められている。
【0003】プロリルエンドペプチダーゼ(EC 3.
4.21.26)は、プロリンを含むペプチドのプロリ
ンのカルボキシル側をin vitroin viv
で特異的に切断する酵素で、記憶にも関与していると
考えられている神経ペプチド、バソプレッシンを分解、
不活性化する〔日本農芸化学会誌、58、1147−1
154(1984年)〕。そこで、プロリルエンドペプ
チダーゼ阻害剤が抗痴呆活性を有することが期待され、
実際、多くの合成阻害剤が、ラット、マウスを用いた実
験で抗健忘作用を示すことが報告されている〔J.Pa
rmacobio−Dyn、10、730−735(1
987)〕。さらに、近年、アルツハイマー型痴呆とプ
ロリルエンドペプチダーゼとの関係が取り沙汰され、ア
ルツハイマー患者の脳でこの酵素の活性が有意に上昇し
ているとの報告(Experientia、46、94
−97(1990)〕や、A4(β)−アミロイドタン
パク質のC末端の切出しに関与している等の報告〔FE
BS LETTERS、260、131−134(19
90)〕及びβ−タンパクによる神経崩壊作用に対し
て、プロリルエンドペプチターゼが分解代謝するサブス
タンスPの投与が有効であるとの報告〔Proc.Na
tl.Acad.Sei.88,7248−7251
(1991)〕等がなされ、プロリルエンドペプチダー
ゼ阻害剤の抗健忘症薬としての期待が高まっている。特
に、これまでの阻害剤は構造が類似の合成薬がほとんど
で、合成阻害剤に関しては、構造活性相関が明らかにさ
れ〔Agric.Biol.Chem.、55、37−
43(1991)〕、活性、体内での吸収、排泄、安定
性などが確立されつつある。その点、放線菌培養物等の
自然界から得られる阻害剤は、合成阻害剤には認められ
ないユニークな構造が期待され、阻害活性、体内での吸
収、排泄、安定性等でこれまでに認められなかったより
有利な点が望みうる。
【0004】さらには、痴呆症と同様に、治療の本質に
せまる薬剤の必要性がせまられている疾病にエイズがあ
り、死亡率が非常に高いにも係わらず治療法も確立され
ておらず、米国を始め多くの国で大きな社会問題になっ
ている。現在治療剤としては、アジドチミジン(AZ
T)が用いられているが、骨髄抑制等の副作用が強く、
より直接的に作用し毒性の少ない薬剤が求められてい
る。最近、合成阻害剤を用いた実験で、プロリルエンド
ペプチダーゼ阻害活性とHIVの細胞間感染に特有な合
胞体形成阻止活性とに相関が認められ、新たなメカニズ
ムに立脚した毒性の少ない抗ウイルス剤としても期待で
きる(特開平2−124818)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような
観点からなされたもので、微生物の発酵生産物を用い自
然界からプロリルエンドペプチダーゼ阻害物質を得るこ
とを探求した。その結果、自然界から阻害作用を有する
物質を産生する微生物を見出した。そして、この産生す
る物質を同定し、新規物質であることを確認した。さら
に、この微生物と同一の属に属する微生物の公定株を用
いてこの新規物質を生産するかどうかについて検討した
ところ特定の公定株がこの新規物質を生産することを見
出した。また、この物質の工業的に利用可能な生産方法
を見出した。本発明の物質は抗健忘剤、後天性免疫不全
症候群(エイズ)予防治療剤及び抗HIV剤の有効成分
として利用できる。さらに、本発明では、このようにし
て得られた阻害物質に唯一存在するアルギニンのC末端
側をトリプシンやアルギニルエンドペプチダーゼなどの
プロテアーゼによって切断し、直鎖状とすると、この阻
害物質とは化学的性質及び生物活性において相違する新
規なプロリルエンドペプチダーゼ阻害物質が得られるこ
とを見出した。
【0006】すなわち、本発明の課題は、新規なプロリ
ルエンドペプチダーゼ阻害活性を示すペプチドを提供す
ることにある。また、本発明の他の課題は、このような
プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を示すペプチドを
産生する微生物を提供することにある。さらに、本発明
の課題は、このような微生物を用いてプロリルエンドペ
プチダーゼ阻害活性を示すペプチドを生産する方法を提
供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】まず、本発明者らは、全
国の各地方から得られる土壌を用いてプロリルエンドペ
プチダーゼ阻害物質を産生する微生物の検索を行なっ
た。その結果、神奈川県三浦半島の地表から約1cmの
土壌中に存在する微生物の発酵生産物が強いプロリルエ
ンドペプチダーゼ阻害活性を示すことを見出し、この菌
を単離同定した。
【0008】さらに、詳細に説明すると、本発明者ら
は、神奈川県三浦半島の地表から約1cmの土壌を採取
し、飽和湿度状態で風乾し、60℃で加熱し、滅菌水を
加え、超音波処理を行って微生物を抽出した。そしてこ
の抽出液を分離用培地に塗布し、培養を行って前記微生
物を単離採取した。そして、この菌を培養しその菌体産
物をZ−Gly−Pro−NA(Zは、ベンジルオキ
シカルボニル、NAはパラニトロアニリンを意味す
る)を基質としてプロリルエンドペプチダーゼを加えて
酵素反応を行い、遊離されるNAをコントロールと比
較測定することによってプロリルエンドペプチダーゼ阻
害活性を測定した〔Agric.Biol.Che
m.,54,3021−3022(1990)〕。その
結果、前記微生物の発酵生産物が他の地方の土壌から分
離した微生物のそれにくらべて著るしく高いプロリルエ
ンドペプチダーゼ阻害活性を示した。
【0009】そこで、この菌の菌学的性質を検索したと
ころ次のような性質をもっていることが判明した。 1)形態上の性質 走査型電子顕微鏡による観察では、気菌糸上に2個連結
した特徴的な胞子が着生している。胞子は短円筒形で、
径1.1〜1.3×長さ1.3〜1.7ミクロンの大き
さを有し、胞子表面は平滑状である。
【0010】2)各種培地上の生育状態 シュクロース硝酸塩、グルコース・アスパラギン、グリ
セリン・アスパラギン(ISP培地 No.5)、スタ
ーチ(ISP培地 No.4)、チロシン(ISP培地
No.7)、栄養、イースト麦芽(ISP培地 N
o.2)、オートミール(ISP培地 No.3)およ
びペプトン・イースト鉄(ISP培地 No.6)の9
種の寒天培地を用いて、27℃、3週間培養したとこ
ろ、表1に示すように、発育はイースト麦芽寒天培地及
びオートミール(ISP培地 No.3)寒天培地が最
も優れていた。しかし、いずれの培地においても気菌糸
および基中菌糸の伸長は乏しいものであった。胞子の着
生はグリセリン・アスパラギンおよびチロシンの寒天培
地で良好で、基中菌糸はイースト麦芽およびオートミー
ルの寒天培地で培養したときに黄褐色を呈した。
【0011】
【表1】 各培地における生育状態の観察 ──────────────────────────────────── 培 地 3日 7日 14日 21日 ──────────────────────────────────── シュクロース硝酸 − +− + + グルコース・アスパラギン − +− + + グリセリン・アスパラギン − + + + スターチ − +− + + チロシン − + + + 栄養 − +− + + イースト麦芽 − + + ++ オートミール − +− + ++ ペプトン・イースト・鉄 − +− + + ──────────────────────────────────── −)非生育, +−)極微弱, +)微弱, ++)弱
【0012】3)生理的性質 a)生育温度;イースト麦芽寒天培地において22−4
7℃で発育、最適温度は40℃前後であった。(表2) b)ゼラチンの液化; 陰性 c)澱粉の分解; 陰性 d)脱脂乳のペプトン・凝固化; 陰性 e)メラニン様色素の生成; 陰性
【0013】
【表2】 生育における培養温度の影響 ──────────────────────────────────── 温 度(℃) 3日 7日 14日 21日 ──────────────────────────────────── 17 − − − − 22 − − +− + 27 − + + ++ 32 + + ++ 37 + ++ 42 ++ 47 ++ 52 − − − − ──────────────────────────────────── −)非生育, +−)極微弱, +)微弱, ++)弱
【0014】4)炭素源の同化性 プリドハム・ゴッドリーブ寒天培地にL−アラビノー
ス、D−キシロース、D−グルコース、D−フラクトー
ス、シユクロース、イノシトール、L−ラムノース、ラ
フィノース、D−マンニット、サリシンおよびD−ガラ
クトースの11種を各々1%添加して観察したところ、
いずれの炭素源においてもその同化性は微弱であった。
【0015】
【表3】 各炭素源における同化性 ──────────────────────────────────── 炭素源 3日 7日 14日 21日 ──────────────────────────────────── L−アラビノース − +− +− +− D−キシロース − +− +− +− D−グルコース − +− +− +− D−フラクトース − +− +− +− シュクロース − +− +− +− イノシトール − +− +− +− L−ラムノース − +− +− +− ラフィノース − +− +− +− D−マンニット − +− +− +− サリシン − +− +− +− D−ガラクトース − +− +− +− ──────────────────────────────────── −)非生育, +−)極微弱, +)微弱, ++)弱
【0016】5)細胞壁組成 ルシバリエ等の方法〔Int.J.Syst.Bact
eriol.20、435−443、(1970年)〕
により、SNA−115株の菌体中の2,6−ジアミノ
ピメリン酸を分析した結果、meso型であった。(細
胞壁タイプIII型)。
【0017】以上の顕微鏡学的観察および細胞壁組成の
分析結果から、SNA−115株はミクロビスポラ属に
類するものと考えられ、ミクロビスポラ sp.(Mi
crobispora sp.)SNA−115と命名
した。また、生理的性質をBergey’s Manu
al of Systematic Bacterio
logy Volume 4の記載から検索すると、ミ
クロビスポラ・ロゼア(Microbispora
osea)に近縁のものと思われた。
【0018】本発明者らは、上述した性質を有するSN
A−115株を他の公知の株と区別するため、工業技術
院微生物工業研究所に受託番号微工研菌寄第12094
号(FERM P−12094)として寄託した。本発
明におけるSNA−115株は前記したようにミクロビ
スポラ・ロゼアに近縁のものと思われたので、いくつか
のミクロビスポラ属の公定株を購入し、その阻害活性を
調べた。その結果、ミクロビスポラ・ロゼア ノノムラ
アンド オハラ(Microbispora ros
ea Nonomura and Ohara)(IF
O 14044)及びミクロビスポラ・ロゼア サブス
ピーシス ノンニトリトゲネス ノノムラ アンド オ
ハラ(Microbispora roseasubs
p.nonnitritogenes Nonomur
a and Ohara)(IFO 14045)に活
性が認められた。この2株の活性物質をHPLCによっ
て分析したところSNA−115と保持時間が一致した
ので、この2株の産生する物質はSNA−115と同一
であると判断される。従って、本発明におけるミクロビ
スポラsp.に属しSNA−115産生能を有するSN
A−115産生菌にはこれらの公定株も含まれる。な
お、SNA−115株は、これらの公定株と生育の仕方
が類似しているが、ISP培地 No.7上での色素生
産性において相違する。
【0019】そこでこのミクロビスポラ・エスピーSN
A−115株を、グルコース2%、可溶性澱粉1%、大
豆粉2.5%、肉エキス0.1%、乾燥酵母0.4%、
塩化ナトリウム0.2%、K2 HPO4 0.005%か
らなりオートクレーブで滅菌後pH7.0となるように
調整した液体培地に接種し、27℃で好気的条件下で振
盪または撹拌下で前培養及び本培養を行い、菌体を増殖
させ、この菌体からプロリルエンドペプチダーゼ阻害物
質を単離した。この単離は、前記菌体より活性画分を有
機溶媒で抽出し、抽出物をクロロホルム:メタノール
(2:1)の溶液に懸濁し、シリカゲルカラムクロマト
グラフィーに付し、吸着物をクロロホルム:メタノール
(1:1)と(1:2)の溶媒で溶出し、溶出液をセフ
ァデックスLH−20(ファルマシア社製)カラムクロ
マトグラフィーに付し、メタノールで展開して活性フラ
クションを集めた。有機溶媒としては、アセトン、メタ
ノール等を用いることが好ましい。この活性フラクショ
ンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけ、
活性フラクションを濃縮凍結乾燥することによって白色
粉末を得た。
【0020】この白色粉末の理化学的性質を調べたとこ
ろ、次に示すような性質があった。そして、新規なペプ
チドであることが判明したので、SNA−115と命名
した。
【0021】理化学的性質 1)分子式 C113 142 2627 2)高分解能マススペクトル(HRFAB−MS) 実験値 (M+H)+ =2296.0549 理論値 (M+H)+ =2296.0616 3)融点 明確な融点は示さず、230〜240℃で褐変化して分
解する。 4)比旋光度
【0022】
【数1】
【0023】5)紫外線吸収スペクトル 図1のとおり
【0024】
【数2】
【0025】6)赤外線吸収スペクトル(KBr法) 図2のとおり 7) 1H NMRスペクトル(400MHz) 図3のとおり 重ジメチルスルホキシド溶液中TMSを基準物質として
測定した。 8)13C NMRスペクトル(100MHz) 図4のとおり 重ジメチルスルホキシド溶液中TMSを基準物質として
測定した。 9)溶解性 メタノール、ジメチルスルホキシド、ブタノール、エタ
ノールに可溶、アセトニトリル、クロロホルム、アセト
ン、水に不溶 10)物質の色及び性状 白色粉末 11)薄相クロマトグラフィー 担体:シリカゲルプレート F254 Art.571
5(メルク社製) 12)アミノ酸分析 SNA−115はペプチドであり、SNA−115を4
Nメタンスルホン酸中で、90℃、24時間加水分解
し、アミノ酸自動分析計でアミノ酸分析を行うことによ
って、アスパラギン酸(あるいはアスパラギン)
(2)、スレオニン(1)、セリン(1)、グリシン
(3)、イソロイシン(1)、ロイシン(1)、チロシ
ン(2)、フェニルアラニン(2)、ヒスチジン
(1)、アルギニン(1)、プロリン(2)、トリプト
ファン(2)が検出された(カッコ内はモル比を表
す)。このペプチドについてエドマン分解法、FAB−
MSスペクトルのフラグメントイオンの解析、並びにF
AB─MSリンクドスキャン法により構造を決定したと
ころ、構造式(I)に示すようなペプチドであることが
判明した。このペプチドをSNA−115〔プロペプチ
ン(Propeptin)と命名した。〕
【0026】
【式3】
【0027】本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害
物質SNA−115のプロリルエンドペプチダーゼ阻害
活性、殺細胞活性(ヒト鼻咽腔癌細胞KB、マウス白血
病細胞L1210)、抗菌活性について次のようにして
測定した。
【0028】1)プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性 酵素阻害活性の測定法を以下に示す。0.1Mトリス塩
酸緩衝液(pH7.0)0.84mlに、メタノールに
溶解した各濃度のサンプル0.01mlと、0.1Mト
リス緩衝液(pH7.0)に溶解したフラボバクテリウ
ム由来のプロリルエンドペプチダーゼ〔生化学工業
(株)〕0.05ml(0.1unit/ml)を加え
て混合し、30℃で5分間保温した。これに、40%ジ
オキサンに溶解した合成基質Z−Gly−Pro−
A(生化学工業(株))0.1ml(2mM溶液)を加
えて反応を開始し、30℃、30分間反応を行った。反
応終了後反応停止液(10gトリトンX−100/95
ml 1M 酢酸緩衝液、pH4.0)を0.5ml加
え、反応により遊離した−ニトロアニリンを410n
mにて比色定量した。阻害率は
【0029】
【数3】
【0030】ただし、 A:サンプルを加えず同量のメタノールを加えたコント
ロール反応により遊離した−ニトロアニリンの410
nmの吸光度 B:サンプルを加えた反応により遊離した−ニトロア
ニリンの410nmの吸光度
【0031】SNA−115のメタノール溶液を用いて
上記反応条件下で阻害活性を測定した結果、50%反応
阻害濃度は、0.2mM Z−Gly−Pro−NA
を基質とした時2.6μg/ml(1.1μM)であっ
た。また、基質量とSNA−115の濃度を変えて反応
を行い、Dixon Plotにて阻害形式を調べる
と、SNA−115物質は拮抗阻害を示し、図より求め
た阻害定数はKi=1.6μg/ml(0.7μM)で
あった(図5)。
【0032】2)殺細胞活性 細胞〔2000個/100μl/穴(well)〕を9
6穴のマイクロプレートに播き、ヒト鼻咽腔癌細胞KB
は、DMEM培地(5%FCSを含む)で、マウス白血
病細胞L1210は、RPMI1640培地(5%FC
Sを含む)でそれぞれ5%CO2 下37℃にて24時間
培養した。これに一連の希釈系列のSNA−115メタ
ノール溶液5μlを加え、72時間培養した後、2.5
mg/mlのMTT溶液10μlを加え、4時間さらに
培養し、formazanを生成させた。2000rp
mで2分間遠心してから上清を除去した後、100μl
のDMSOを加えて、イムノリーダーを用い540nm
の吸収を測定した。対照群の吸収に対する比率により各
検体の細胞増殖阻害活性を求めた。その結果を表4に示
す。
【0033】
【表4】
【0034】3)抗菌活性 SNA−115物質の24種の細菌、カビ、酵母に対す
る抗菌活性を寒天平板を用いたペーパーディスク法にて
測定した。SNA−115をペーパーディスク当り40
μg添加し、それを各検定菌プレート上にのせ、それぞ
れの菌の最適条件下で培養した後生成した阻止円の大き
さ(mm)を表5に示す。
【0035】
【表5】
【0036】以上のように、本発明のプロリルエンドペ
プチダーゼ阻害物質SNA−115は、培養細胞に対す
る殺細胞作用及び各種微生物に対する抗菌作用が著しく
弱く、特異的に高いプロリルエンドペプチダーゼ阻害活
性を示すので、抗健忘剤、抗ウイルス剤(後天性免疫不
全症候群(エイズ)予防治療剤、抗HIV剤等)として
極めて有用である。
【0037】さらに、本発明のSNA−115のアルギ
ニンのC末端側をトリプシンやアルギニルエンドペプチ
ダーゼなどのプロテアーゼで切断し、直鎖状としたとこ
ろ、SNA−115とは化学的性質及び生物活性におい
て異なる新たなプロリルエンドペプチターゼ阻害活性の
ある物質を見出し、この物質をSNA−115Tと命名
した。このSNA−115Tは、次の構造式(II) を示
し、SNA−115で観察されていた抗菌活性が全く消
失してプロリルエンドペプチターゼに対する阻害活性が
特異的に高まっている。
【0038】
【式4】
【0039】次にSNA−115Tの理化学的性質を示
す。 1)分子式 C113 144 2628 2)マススペクトル(FAB−MS) 実験値 (M+H)+ =2314、図6の通り。 3)高分解能マススペクトル(HRFAB−MS) 実験値 (M+H)+ =2314.0740 理論値 (M+H)+ =2314.0722 4)融点 明確な融点は示さず、190〜200℃て褐変化して分
解する。 5)比旋光度
【0040】
【数4】
【0041】6)紫外線吸収スペクトル
【0042】
【数5】 図7の通り。
【0043】7)赤外線吸収スペクトル(KBr法) 図8の通り。 8) 1H NMRスペクトル(500MHz) 図9の通り。 重ジメチルスルホキシド溶液中TMSを基準物質として
測定した。 9)溶解性 メタノール、ジメチルスルホキシド、ブタノール、エタ
ノールに可溶 クロロホルム、アセトン、水に不溶 10)物質の色及び性状 白色粉末 11)薄層クロマトグラフィー 担体:シリカゲルプレート F254 Art.571
5(メルク社製) 12)アミノ酸分析 SNA−115Tはペプチドであり、SNA−115T
を4Nメタンスルホン酸中で、90℃、24時間加水分
解し、アミノ酸自動分析計でアミノ酸分析を行うことに
よって、アスパラギン酸(あるいはアスパラギン)
(2)、スレオニン(1)、セリン(1)、グリシン
(3)、イソロイシン(1)、ロイシン(1)、チロシ
ン(2)、フェニルアラニン(2)、ヒスチジン
(1)、アルギニン(1)、プロリン(2)、トリプト
ファン(2)が検出された。このペプチドについてエド
マン分解法、FAB−MSスペクトルのフラグメントイ
オンの解析、並びにFAB−MSリンクドスキャン法に
より構造を決定したところ、構造式(II) に示すような
ペプチドであるこが判明した。
【0044】本発明のプロリルエンドペプチターゼ阻害
物質SNA−115Tのプロリルエンドペプチターゼ阻
害活性、抗菌活性について次のようにして測定した。 1)プロリルエンドペプチターゼ阻害活性 酵素阻害活性の測定法を以下に示す。0.1Mトリス塩
酸緩衝液(pH7.0)0.84mlに、メタノールに
溶解した各濃度のサンプル0.01mlと、0.1Mト
リス緩衝液(pH7.0)に溶解したフラボバクテリウ
ム由来のプロリルエンドペプチターゼ〔生化学工業
(株)〕0.05ml(0.1unit/ml)を加え
て混合し、30℃で5分間保温した。これに、40%ジ
オキサンに溶解した合成基質Z−Gly−Pro−
A(生化学工業(株))0.1ml(2mM溶液)を加
えて反応を開始し、30℃,30分間反応を行った。反
応終了後反応停止液(10gトリトンX−100/95
ml 1M酢酸緩衝液、pH4.0)を0.5ml加
え、反応により遊離した−ニトロアニリンを410n
mにて比色定量した。阻害率は、
【0045】
【数6】
【0046】ただし、 A:サンプルを加えず同量のメタノールを加えたコント
ロール反応により遊離したp−ニトロアニリンの410
nmの吸光度 B:サンプルを加えた反応により遊離したp−ニトロア
ニリンの410nmの吸光度 SNA−115Tのメタノール溶液を用いて上記反応条
件下で阻害活性を測定した結果、50%反応阻害濃度
は、0.2mM Z−Gly−Pro−NAを基質と
した時3.0μg/ml(1.3μM)であった。ま
た、基質量とSNA−115Tの濃度を変えて反応を行
い、Dixon Plotにて阻害形式を調べると、S
NA−115T物質は拮抗阻害を示し、図より求めた阻
害定数はKi=1.1μg/ml(0.48μM)であ
った(図10)。
【0047】2)抗菌活性 SNA−115Tの9種の細菌、カビに対する抗菌活性
を寒天平板を用いたペーパーディスク法にて測定した。
SNA−115Tをペーパーディスク当たり40μg添
加し、それを各検定菌プレート上にのせ、それぞれの菌
の最適条件下で培養した後生成した阻止円の大きさ(m
m)を表6に示す。同様に行ったSNA−115物質の
阻止円大きさも比較のために示した。
【0048】
【表6】
【0049】以上のように、本発明のプロリルエンドペ
プチターゼ阻害物質SNA−115Tは、各種微生物に
対する抗菌作用が著しく減少し、特異的に高いプロリル
エンドペプチターゼ阻害活性を示すので、抗健忘剤、抗
ウイルス剤(後天性免疫不全症候群(エイズ)予防治療
剤、抗HIV剤等)として極めて有用である。そして、
このペプチドは新規なことが判明した。
【0050】上記プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質
SNA−115及びSNA−115Tは、常法により錠
剤、散剤、カプセル剤、注射剤、吸入剤または外用剤等
の製剤とすることができ、経口または非経口投与により
抗健忘剤もしくは抗ウイルス剤として臨床に供される。
投与量は治療すべき症状及び投与方法により左右され
る。なお、プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA
−115のラット急性毒性値は10mg/kg以上(静
注)であり、SNA−115Tのそれも同じく10mg
/kg以上(静注)である。
【0051】次に本発明を実施例を挙げて具体的に説明
する。
【実施例1】 (SNA−115生産菌株の単離)神奈川県三浦半島の
地表から約1cmの土壌を採取し、これを、飽和湿度状
態で、7日間室温風乾後、60℃、1時間加熱した。こ
のようにした土壌を滅菌水で10倍に希釈して1分間の
超音波処理を行った。これを分離用培地(グルコース
5g/l、NaCl 0.5g/l、K2 HPO4
0.5g/l、MgSO4 ・7H2 O 0.5g/l、
酵母エキス 0.5g/l、L−アスパラギン0.5g
/l、可溶性澱粉 5g/l、FeSO4 ・7H2 O、
寒天 15g/l、ナイスタチン 50mg/l、サイ
クロヘキシミド 50mg/l、ノボビオシン 3mg
/l、リファンピシン 5mg/l、pH7.0に調
製)に塗布し、27℃で培養を行い、生育する微生物を
単離した。この菌を同定したところ、前記した菌学的性
質を示した。この菌株をミクロビスポラ・エスピー S
NA−115株と命名し、微工研に寄託した(受託番号
微工研菌寄第12094号)。
【0052】
【実施例2】 (SNA−115の製造1)グルコース2%、可溶性澱
粉1%、大豆粉2.5%、肉エキス0.1%、乾燥酵母
0.4%、塩化ナトリウム0.2%、K2 HPO4 0.
005%からなる培地をpH8.4に調整した後、50
0mlの三角フラスコにそれぞれ70mlずつ分注し、
120℃で20分間殺菌した。この培地にミクロビスポ
ラ・エスピーSNA−115株(微工研菌寄第1209
4号)の斜面培地より1白金耳を接種し、27℃で10
日間振盪培養(200rpm)を行った。これを同様の
培地を含むフラスコにそれぞれ2ml接種し、27℃で
3日間振盪培養を行った。
【0053】この前培養液140mlを、同様の培地1
8lの入った30l容のジャーファーメンターに移し、
27℃で毎分18リットルの無菌空気を送り300rp
mの回転かき混ぜによって本培養を行った。212時間
後(pH5.6)、培養をやめ、遠心分離によって菌体
を集めて、湿菌体1.75kgを得た。この菌体をアセ
トンで抽出し、抽出物を凍結乾燥したところ菌体抽出物
の粉末34.8gが得られ、このプロリルエンドペプチ
ダーゼ阻害活性は、50%阻害濃度(IC50)が15.
5μg/mlであった。これを、クロロホルム:メタノ
ール(2:1)の溶液50mlに懸濁し、シリカゲル
(メルク社製Kisel gel 60,70〜230
メツシュ)カラムクロマトグラフィー(4×36cm)
に付し、同じ溶媒1リットルで不純物を溶出させた後、
クロロホルム:メタノール(1:1)1リットルとクロ
ロホルム:メタノール(1:2)1リットルで活性成分
を溶出させた(3.9g、IC50=2.7μg/m
l)。これを10mlのメタノールに溶解し、セファデ
ックスLH−20(ファルマシア社製)カラムクロマト
グラフィー(3×73cm)に付し、メタノールにて展
開して活性フラクションを集めた(3.1g、IC50
2.4μg/ml)。これをメタノールに溶解し、溶離
液としてアセトニトリル−0.1%TFA(トリフルオ
ロ酢酸)(40:60)を用い、カラムとしてセンシュ
ーパックODS−5251−SS(20×250mm)
を用い、高速液体クロマトグラフィーで2回のくり返し
分取を行った。得られたSNA−115物質を含む溶液
は、減圧下で濃縮し、凍結乾燥を行うことによって高純
度のSNA−115の白色粉末600mgを得た。ま
た、培養時間や条件によっては、SNA−115は上清
にも生産される。遠心分離によって得られた上清15リ
ットルを、等量のブタノールで3回抽出を行ない、ブタ
ノール層を濃縮後凍結乾燥したところ46.3gの粉末
が得られた。以下、菌体の場合と同様の方法により、最
終的に高純度のSNA−115の白色粉末が得られる。
なお、精製途中のプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性
は、基質量0.1mMにて測定した場合の50%阻害濃
度を示した。
【0054】
【実施例3】 (SNA−115の製造2)ミクロビスポラ属の公定
株、ミクロビスポラロゼア ノノムラ アンド オハラ
(IFO 14044)及びミクロビスポラ ロゼア
サブスピーシス ノンニトリトゲネス ノノムラ アン
ド オハラ(IFO 14045)をそれぞれ別個に実
施例2と同様の方法で予備培養及び本培養を行った。得
られた菌体を実施例2と同様に、カラムクロマトグラフ
ィー処理した後高速液体クロマトグラフィー処理を行っ
たところ、両菌体から得られる物質のパターンがSNA
−115のそれと一致した。
【0055】
【実施例4】 (SNA−115Tの製造)実施例2の方法によって得
られた白色粉末SNA−115物質53.8mgをメタ
ノール4.5mlに溶解し、これに0.1MTris−
HCl(pH7.5)3.5mlと同様の緩衝液1ml
に溶解したトリプシン(TPCK処理、12800un
its/mg、シグマ社)3mgを加えて37℃、3時
間反応を行った。この分解物をHPLC(センシューパ
ック、ODS−5251−SS、20×250mmの逆
相カラムとアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=3
5:64:1の溶媒系)にて分取を行った。アセトニト
リルを減圧濃縮にて除いた後凍結乾燥を行い、27.0
mgのSNA−115Tの白色粉末を得た。この白色粉
末の理化学的性質を調べたところ、上記した性質と同一
の性質を示しました。
【図面の簡単な説明】
【図1】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115の紫外線吸収スペクトル(50μg/ml,Me
OH)
【図2】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115赤外吸収スペクトル(KBr)
【図3】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115の 1H NMRスペクトル(400MHz,C2
6 OS)
【図4】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115の13C NMRスペクトル(100MHz,C2
6 OS)
【図5】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115のプロリルエンドペプチダーゼ阻害のDixon
プロット(ただし1/Vは1/△410nmを表わす)
【図6】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115Tのマススペクトル(FAB−MS)
【図7】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115Tの紫外線吸収スペクトル(50μg/ml、M
eOH)
【図8】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115Tの赤外吸収スペクトル(KBr)
【図9】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA−
115Tの 1H NMRスペクトル(500MHz,C
2 6 OS)
【図10】プロリルエンドペプチダーゼ阻害物質SNA
−115Tのプロリルエンドペプチダーゼ阻害のDix
onプロット(ただし1/Vは1/Δ410nmを表わ
す)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI // A61K 38/00 A61P 25/28 38/55 31/04 A61P 25/28 31/12 31/04 C12N 9/99 31/12 A61K 37/02 C12N 9/99 37/64 (C12N 1/20 C12R 1:01) (C12P 21/02 C12R 1:01) (C12P 21/04 C12R 1:01) (72)発明者 吉浜 誠 栃木県宇都宮市江曽島町1400−8 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07K 1/00 - 14/825 C12N 1/00 - 1/38 C12P 21/00 - 21/08 A61K 31/00 - 48/00 A61P 1/00 - 43/00 C12N 9/00 - 9/99 BIOSIS(DIALOG) CA(STN) REGISTRY(STN) WPI(DIALOG)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の構造式(I)で示される新規ペプチ
    ドSNA−115。 【式1】 ただし、8位のArgと9位のAspとのアミド結合は
    解離して遊離のカルボキシル基及びアミノ基を形成し、
    直鎖状の次の構造式(II) で示される新規ペプチドSN
    A−115Tとなっていてもよい。 【式2】
  2. 【請求項2】 ミクロビスポラ属(Microbisp
    ora)に属しSNA−115産生能を有するSNA−
    115産生菌を培地に培養し、得られる菌体を有機溶媒
    にて抽出し、得られた有機溶媒抽出物からペプチドSN
    A−115を採取することを特徴とするペプチドSNA
    −115の製造方法。
  3. 【請求項3】 SNA−115産生菌が、ミクロビスポ
    ラ sp.(Microbispora sp.)SN
    A−115(微工研菌寄第12094号)、ミクロビス
    ポラ・ロゼア ノノムラ アンド オハラ(Micro
    bispora rosea Nonomura an
    d Ohara)(IFO 14044)及びミクロビ
    スポラ・ロゼア サブスピーシス ノンニトリトゲネス
    ノノムラ アンド オハラ(Microbispor
    rosea subsp.nonnitritog
    enes Nonomura and Ohara)
    (IFO 14045)よりなる群から選択される菌で
    ある請求項2記載のペプチドSNA−115の製造法。
  4. 【請求項4】 請求項2によって得られたペプチドSN
    A−115をプロテアーゼで分解してSNA−115T
    を生成し、これを採取することを特徴とするペプチドS
    NA−115Tの製造法。
  5. 【請求項5】 受託番号微工研菌寄第12094号(F
    ERM P−12094)であるミクロビスポラsp.
    Microbispora sp.)に属しSNA−
    115産生能を有するSNA−115産生菌株。
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