JP3638341B2 - 新規生理活性物質AHPA−Val−Phe、その製造法およびその用途 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はアミノペプチダーゼNに対する酵素阻害活性を有する新規な生理活性物質であるAHPA-Val-Pheに関し、またその製造法およびその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
アミノペプチダーゼNは細胞中のミクロソーム及び細胞膜に局在する膜酵素であって亜鉛酵素である。
【0003】
神経細胞のシナプスの膜に存在するアミノペプチダーゼNは、エンケファリナーゼと共に、モルヒネ様鎮痛作用を示す内因性ペプチドの一種であるエンケファリン(メチオニンエンケファリンとロイシンエンケファリンとの2種類のペプチドが存在する)を分解し、エンケファリン活性を低下させることが知られている〔Biochemical Journal、第231巻、445〜449頁、1985年〕及び〔Nature、第262 巻、782〜783頁、1976年〕。更に、アミノペプチダーゼN阻害物質をマウスに投与し、鎮痛効果の検討を行い、エンケファリンの鎮痛効果を増強することが報告されている〔European Journal of Pharmacology、第86巻、329〜336頁、1983年〕。したがって、アミノペプチダーゼNに対する酵素阻害物質は、エンケファリンによる鎮痛作用の持続及び増強などの、生体内鎮痛性物質に対する調節作用を示すことが期待される。また、アミノペプチダーゼNに対する酵素阻害剤は転移性の癌細胞の侵潤を抑制することが報告されている〔International Journal of Cancer、第54巻、137〜143頁、1993年〕から、癌転移抑制剤としても有用であ ると期待される。
【0004】
アミノペプチダーゼNの酵素阻害物質としては、アクチノニン(Actinonin) 〔The Journal of Antibiotics、第38巻、1629〜1630頁、1985年〕、プロベスチン(Probestin)、ベスタチン(Bestatin)〔The Journal of Antibiotics、第43、143〜148頁、1990年〕及びロイヒスチン(Leuhistin)〔The Journal of Antibiotics、第44、573〜578頁、1991年〕等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
アクチノニン、プロベスチン、ベスタチン及びロイヒスチン等の如きアミノペプチダーゼNの酵素阻害物質は、アミノペプチダーゼNに対する酵素阻害活性の特異性が低い。従って、アミノペプチダーゼNに対する特異性の高い酵素阻害物質が望まれている。本発明の目的は、そのような酵素阻害活性の特異性の高いアミノペプチダーゼN阻害活性を有して低毒性である新規な生理活性物質を提供し、またその製造法及びその用途を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達するために種々研究を行った。その結果、本発明者らにより土壌から分離されたストレプトミセス属に属してMJ716-m3の菌株番号を付した菌株を培養して、その培養液中にアミノペプチダーゼNに対する酵素阻害物質が産生していることを見出した。この物質を単離することに成功し、さらに後記の式(I)で表される新規な化合物であることを確認した。そしてこの物質がアミノペプチダーゼNに対して酵素阻害活性の特異性が高い物質であることを知見し、AHPA-Val-Pheと命名した。
【0007】
従って、第1の本発明においては、次式(I)
で表される化合物である生理活性物質AHPA-Val-Pheまたはその薬理学的に許容し得る塩を提供するものである。
【0008】
第1の本発明による生理活性物質AHPA-Val-Pheの理化学的性質は下記の通りである。
(1)色および形状:白色粉末
(2)分子式:C24H31N3O5
(3)分子量:441
FAB-MS(Positive)によるm/z値は442(M+H)+である。
【0009】
(4)融点:190〜192℃
(5)比旋光度:〔α〕D 27−12.6°(c 0.54, 酢酸)
(6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図1に示す。
(7)水素核核磁気共鳴スペクトル:添付図面の図2に示す。
(8)炭素核核磁気共鳴スペクトル:添付図面の図3に示す。
(9)溶解性:ジメチルスルホキシド、メタノール、水、酢酸に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶である。
【0010】
(10)薄層クロマトグラフィーのRf値:シリカゲル(メルク社製シリカゲル Art.5715)の薄層上で展開溶媒としてn-ブタノール-酢酸-水(4:1:1)を用いて測定した時にRf=0.70
ODS逆相シリカゲル(メルク社製シリカゲルArt.15389)の薄層上で展開溶媒としてアセトニトリル−緩衝液A*(7:13)を用いて測定した時にRf=0.34 *但し、緩衝液Aは5%酢酸カリウム、1%クエン酸・1水和物を含む水溶液である。
【0011】
第1の本発明による生理活性物質AHPA-Val-Pheは薬理学的に許容し得る塩の形態にあってもよく、このような塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩(カルボキシレート)であることができ、また薬理学的に許容できる無機酸例えば塩酸、硫酸との酸付加塩(アミノ基における)であることができる。
【0012】
第1の本発明によるAHPA-Val-Pheの生理学的性質を下記に説明する。 AHPA-Val-Pheは低い急性毒性を示すものであり、その急性毒性を試験するために下記の試験例1を行った。
試験例1
AHPA-Val-Pheをマウスに腹腔内投与して2週間観察する試験を行った。その結果、200mg/kgの投与でも毒性を示さなかった。
【0013】
AHPA-Val-PheのアミノペプチダーゼN阻害活性の測定のため下記の試験例2の実験を行った。
試験例2
アミノペプチダーゼN阻害活性の測定は「Jouranl of Antibiotics」第38巻、1629〜1630頁(1985)に記載の方法の改良法で行った。
即ち、2mMのL-ロイシン-β-ナフチルアミドの水溶液0.05ml、0.1Mの トリス-塩酸緩衝液(pH7.0)0.1ml、検体としてAHPA-Val-Pheを含む水溶液0.035mlを加えた混合溶液を37℃で、3分間加温した。その後、ア ミノペプチダーゼN(ベーリンガ・マイハイム社製)の水溶液0.015mlを加 え、37℃で1時間反応させた。その反応液に10%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(和光純薬工業製)および0.2%ファーストガーネ ットGBC塩(Sigma Chemical社製)を含む0.5Mクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH3.78)を加えて反応を停止させた。
【0014】
その反応停止液について、525nmにおける吸光度(a)を測定し、また同時に検体を含まない緩衝液のみを用いた盲検の吸光度(b)を測定した。それらの測定値を用いてアミノペプチダーゼN阻害率を[(b-a)/b]×100の式により計算した。50%阻害率を示す検体の濃度をIC50の値とした。この測定法で純粋なAHPA-Val-Pheは0.16μg/mlの濃度で、アミノペプチダーゼNを50%阻害 したので、アミノペプチダーゼNに対するAHPA-Val-PheのIC50値は0. 16μg/mlである。
上記の試験例2から明らかなように、AHPA-Val-PheはアミノペプチダーゼNに対して高い阻害活性を示す。
【0015】
従って、第2の本発明においては、前記の式(I)で表される化合物であるAHPA-Val-Phe、あるいはその薬理学的に許容しうる塩を有効成分とするアミノペプチダーゼN阻害剤が提供される。
【0016】
第2の本発明による酵素阻害剤は、その有効成分であるAHPA-Val-Pheあるいはその塩を製薬学的に許容される慣用の液体状担体、例えば水、エタノール、あるいは慣用の固体状担体、例えばでんぷん、ラクトース、マルトースと混和させてなる組成物の形であることができる。
【0017】
本発明による生理活性物質AHPA-Val-Phe又はその塩はアミノペプチダーゼNの酵素的性質を研究するのに有用である。また、AHPA-Val-Pheは、前述のとおり、鎮痛作用をもつエンケファリンを加水分解してその活性を低下させるアミノペプチダーゼNの酵素作用を阻害するから、動物又はヒトに投与する時に鎮痛持続及び増強剤として有効であり、また癌転移抑制剤としても有用である。
【0018】
次に、AHPA-Val-PheはアミノペプチダーゼNがヒトのメチオニンエンケファリンを加水分解するのを阻害できることを下記の試験例3によって例証する。
【0019】
試験例3
アミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファリンの加水分解に対するAHPA-Val-Pheの阻害活性試験を次のように行った。
すなわち、アミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファリン加水分解に対するAHPA-Val-Pheの阻害活性は、下記の方法で測定した。1mMヒトメチオニンエンケファリン(ペプチド社製)の水溶液0.05ml、0.2Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)0.025ml、検体としてAHPA-Val-Pheを含む 水溶液0.01mlを混合した溶液を37℃で5分間加温した。その後、その混液 に前述したアミノペプチダーゼN水溶液0.015mlを加え、37℃で30分間 反応させた。反応後、0.3%トリフルオロ酢酸0.05mlを加えて反応を停止した。その反応停止液0.05mlを0.1%トリフルオロ酢酸を含む5%アセトニトリル水溶液で平衡化した高速液体クロマトグラフィー用カラム(資生堂社製、カプセルパックC18, 4.6φ×150mm)へ供し、1ml/minの流速で25分間にA溶液からB溶液(A溶液は0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル=90:5で あり、B溶液は0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル=60:20であ る)の直線的なグラジエント法で溶出した。溶出液について210nmにおける吸光度を測定した。その結果を添付図面の図4に示す。図4から明らかなように、保持時間6.2分にチロシンが、18.8分にdes-Try1−メチオニンエンケファリンが、20.7分にメチオニンエンケファリンが検出された。
【0020】
このdes-Try1−メチオニンエンケファリンを内部標準法によって定量した。検体を含む溶液を用いた場合の定量値(a)及び検体を含まない緩衝液のみを用いた 盲検の定量値(b)を測定し、アミノペプチダーゼN阻害率を[(b-a)/b]×100の 式により計算した。50%阻害率を示す検体の濃度をIC50の値とした。この定量法で純粋なAHPA-Val-Pheは0.16μg/mlの濃度で、ヒトメチオニンエンケ ファリンを加水分解させるアミノペプチダーゼNの活性を50%阻害した。
【0021】
本発明によるAHPA-Val-Phe物質は、ストレプトミセス属に属するAHPA-Val-Phe生産菌を培養し、得られる培養物中にAHPA-Val-Pheを生成し、蓄積させ、次いで培養物からAHPA-Val-Pheを分離して採取することにより製造できる。
【0022】
従って、第3の本発明によると、ストレプトミセス属に属するAHPA-Val-Phe生産菌を栄養培地中で培養し、その培養物から上記の式(I)で表されるAHPA-Val-Pheを採取することを特徴とする生理活性物質AHPA-Val-Pheの製造法が提供される。
【0023】
第3の本発明の方法に使用されるAHPA-Val-Phe生産菌の一例としては、平成3年10月、微生物化学研究所において、本発明者らにより、東京都大田区の土壌より分離された放線菌で、MJ716-m3の菌株番号が付された菌株がある。
【0024】
MJ716-m3株の菌学的性状は次の通りである。
1.形態
MJ716-m3株は、分枝した基生菌糸より比較的長い気菌糸を伸長し、輪生枝を形成する。胞子鎖の先端はかぎ状を呈する場合があり、また、縄状に絡み合う形態が観察される。成熟した胞子鎖は5〜20個の卵円形〜円筒形の胞子を連鎖する。胞子の大きさは約0.5〜0.6×0.8〜1.0ミクロンであり、胞子の表面は平滑である。なお、らせん形成、菌束糸、菌核及び胞子のうは認められない。
【0025】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of
Americaのcolor harmony manual)を用いた。
【0026】
(1)シュクロース・硝酸塩寒天培地(27℃培養)
無色の発育上に、白の気菌糸をうっすらと着生し、溶解性色素は認められない。
(2)グルコース・アスパラギン寒天培地(27℃培養)
うす黄[2 gc, Bamboo]の発育上に、黄味灰[11/2ca, Cream〜2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を綿状に着生し、溶解性色素は認められない。
(3)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP-培地5、27℃培養)
うす黄茶[2 pg, Mustard Gold]の発育上に、白〜黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。
(4)スターチ・無機塩寒天培地(ISP-培地4、27℃培養)
うす黄茶[3 le, Cinnamon]の発育上に、黄味灰[2 ba, Pearl〜2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を綿状に着生し、溶解性色素は認められない。
【0027】
(5)チロシン寒天培地(ISP-培地7、27℃培養)
うす黄茶[2 le, Mustard〜3 le, Cinnamon]の発育上に、茶白[3 ba, Pearl]の気菌糸をうっすらと着生する。溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。
(6)栄養寒天培地(27℃培養)
発育はうす黄茶[3 ng, Yellow Maple]、気菌糸は着生せず、溶解性色素は黄茶を帯びる。
(7)イースト・麦芽寒天培地(ISP-培地2、27℃培養)
黄茶[3 ng, Yellow Maple〜4 pi, Oak Brown]の発育上に、灰白[2 dc, Natural]〜黄味灰[2 ba, Pearl]の気菌糸を着生し、溶解性色素は茶色味を帯び る。
(8)オートミール寒天培地(ISP-培地3、27℃培養)
黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の発育上に、黄味灰[2 ca, Lt Ivory]〜うすだいだい[3 ca, Pearl Pink]の気菌糸を綿状に着生し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。
(9)グリセリン・硝酸塩寒天培地(27℃培養)
うす黄[2 ic, Honey Gold]〜黄茶[3 ne, Topaz]の発育上に、黄味灰[2 ba, Pearl]〜茶白[3 ba, Pearl]の気菌糸をうっすらと着生し、黄[2 ia, Squash Yellow]の溶解性色素を産生する。
【0028】
(10)スターチ寒天培地(27℃培養)
うす黄[2 ic, Honey Gold]〜うす黄茶[2 le, Mustard]の発育上に、白〜 黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素は認められない。
(11)マルトース・ベンネット寒天培地(27℃培養)
黄茶[3 ng, Yellow Maple]の発育上に、黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。
(12)ゼラチン穿刺培養
15%単純ゼラチン培地(20℃培養)では、発育はうす黄、気菌糸は着生せ ず、溶解性色素は黄茶を呈する。グルコース・ペプトン、ゼラチン培地(27℃培養)の場合、発育はうす黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は黄茶を呈する。
(13)脱脂牛乳(37℃培養)
発育はうす黄〜黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は茶色味を帯びる。
【0029】
3.生理的性質
(1)生育温度範囲
グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース1.0%、アスパラギン0.05 %、リン酸二カリウム0.05%、ひも寒天3.0%、pH7.0)を用い、10℃、 20℃、24℃、27℃、30℃、37℃、50℃の各温度で試験した結果、 50℃を除き、そのいずれの温度でも生育する。生育至適温度は27℃〜30℃付近と思われる。
(2)ゼラチンの液化(15%単純ゼラチン培地、20℃培養;グルコース・ペプトン・ゼラチン培地、27℃培養)
15%単純ゼラチン培地では培養後3日目頃より、グルコース・ペプトン・ゼラチン培地の場合は、培養後4日目頃より液化が始まる。液化の進行は遅く、ともに21日間の培養で完了しなかった。その作用は中等度〜弱い方である。
【0030】
(3)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP-地培4及びスターチ寒天培地、いずれも27℃培養)
いずれの培地においても培養後3日目頃より水解性が認められ、その作用は強い方である。
(4)脱脂牛乳の凝固・ペプトン化(脱脂牛乳、37℃培養)
培養後14日目頃より凝固することなくペプトン化が始まるが、その作用は極めて弱く、21日目にも完了しなかった。
【0031】
(5)メラニン様色素の生成(トリプトン・イースト・ブロス、ISP-培地1:ペプトン・イースト・鉄寒天培地、ISP-培地6:チロシン寒天培地、ISP-培地7:いずれも27℃培養)
トリプトン・イースト・ブロス及びペプトン・イースト・鉄寒天培地では陽性、チロシン寒天培地はおそらく陰性である。
(6)炭素源の利用性(プリドハム・ゴドリーブ寒天培地、ISP-培地9、27℃培養)
D-グルコースを利用して発育し、D-フラクトース及びイノシトールはおそらく利用せず、L-アラビノース、D-キシロース、シュクロース、ラフィノース、ラムノース及びD-マンニトールは利用しない。
(7)硝酸塩の還元反応(0.1%硝酸カリウム含有ペプトン水、ISP-培地8、 27℃培養)
陽性である。
【0032】
以上の性状を要約すると、MJ716-m3株は、その形態上、基生菌糸より比較的長い気菌糸を伸長し、輪生枝を形成する。らせん形成、菌束糸、菌核及び胞子のうは認められない。胞子鎖の先端はかぎ状を呈する場合があり、また縄状に絡み合う形態が観察される。成熟した胞子鎖には5〜20個以上の円筒形の胞子を連鎖し、その表面は平滑である。種々の培地で、うす黄〜うす黄茶の発育上に、綿状の茶白〜黄味灰の気菌糸を着生し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。生育至適温度は27〜30℃付近である。メラニン様色素の生成はトリプトン・イースト・ブロス及びペプトン・イースト・鉄寒天培地では陽性、チロシン寒天培地はおそらく陰性である。スターチの水解性は強い方、蛋白分解力は中程度から弱い方である。なお、細胞壁に含まれる2,6−ジアミノピメリン酸はLL−型であった。
【0033】
これらの性状より、MJ716-m3株は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属すると考えられる。近縁の既知菌種を検索すると、ストレプトミセス・アルビレティキュリ(Streptomyces albireticuli)[文献1; Shirling, E.B. and D.Gottlieb, International Journal of Systematic Bacteriology, 18巻, 80頁, 1968年, 文献2;Validation of the publication of new names and new combinations previously effectively published outside the IJSB, List No. 38, International Journal of Systematic Bacteriology, 41巻, 456頁, 1991年, 文献 3;S.A.Waksman著, The Actinomycetes, 2巻, 169頁, 1961年〕及びストレプトミセス・ユーロシディクス(Streptomyces eurocidicus)[文献1; Shirling, E.B. and D.Gottlieb, International Journal of Systematic Bacteriology, 22 巻, 293頁, 1972年, 文献2;Validation of the publication of new names
and new combinations previously effectively published outside the IJSB, List No. 38, International Journal of Systematic Bacteriology, 41巻, 456頁, 1991年, 文献3;S.A.Waksman著, The Actinomycetes, 2巻, 205頁, 1961年〕があげられた。そこで上記2菌種の当研究所保存菌株とMJ716-m3株とを実地に比較検討した。その成績の大要を表1に示す。
【0034】
【0035】
表1から明らかなように、MJ716-m3株はストレプトミセス・アルビレティキュリ及びストレプトミセス・ユーロシディクスのいずれとも、イノシトールの利用性を除き、よく類似した性状を示した。ところで、ストレプトミセス・アルビレティキュリ及びストレプトミセス・ユーロシディクスは互いによく一致した性状を示している。さらに、ストレプトミセス・アルビレティキュリは抗生物質ユーロシディン(eurocidin)を生産(文献3)し、ストレプトミセス・ユーロシデ ィクスもまたユーロシディンの生産株(文献3)である。これらのことからストレプトミセス・アルビレティキュリとストレプトミセス・ユーロシディクスは同一種である可能性が考えられる。MJ716-m3株は両者に極めて近縁であるが、いずれか一方の種と同定することは困難であり、MJ716-m3株をストレプトミセス・エスピー(Streptomyces sp.)MJ716-m3とした。
なお、MJ716-m3株を工業技術院 生命工学工業技術研究所に寄託申請し、平成6年10月20日、FERM P-14594として受託された。
【0036】
MJ716-m3株は他の放線菌の場合に見られるように、その性状が変化しやすい。例えば、MJ716-m3株に由来する突然変異株(自然発生または誘発生)、形質融合体または遺伝子組み換え体であっても、第1の本発明による生理活性物質AHPA-Val-Pheの生産能を有するストレプトミセス属の菌はすべて第3の本発明の方法に使用することができる。
【0037】
第3の本発明の方法では、前記のAHPA-Val-Phe生産菌を通常の微生物が利用しうる栄養源を含有する培地で培養する。炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、シュクロース、でんぷん、糖蜜、動・植物油等を使用できる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦、小麦胚芽、コーンスティープ・リカー、綿実かす、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等を利用できる。その他、必要に応じ、ナトリウム、コバルト、塩素、硫酸、燐酸、及びその他のイオンを生成することのできる無機塩類を添加することは有効である。また、生産菌の生育を助け、生理活物質AHPA-Val-Pheの生産を促進するような有機物及び無機物を適当に添加することができる。
【0038】
AHPA-Val-Phe生産菌の培養法としては、好気的条件での培養法、特に深部液体培養法が適している。培養に適当な温度は15〜37℃であるが、多くの場合、26〜30℃付近で培養する。生理活性物質AHPA-Val-Pheの生産は培地や培養条件により異なるが、振盪培養、タンク培養とも通常1〜10日の間でその蓄積が最高に達する。培養物中の生理活性物質AHPA-Val-Pheの蓄積量が最高になった時に、培養を停止し、培養液から目的物質を単離精製する。
【0039】
本発明によって得られるAHPA-Val-Pheの培養液からの採集にあたっては、その性状を利用した通常の分離手段、例えば、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせ、あるいは繰り返すことによって抽出および精製することができる。
【0040】
AHPA-Val-Pheの薬理学的に許容し得る塩は、公知の方法によって製造することができ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸などを含む溶液でAHPA-Val-Pheを処理することによって形成できる。
【0041】
以下に本発明の実施例を示すが、AHPA-Val-Pheの性状が本発明によって明らかにされたので、それらの性状にもとずきAHPA-Val-Pheの製造法を種々考案することができる。従って本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例の修飾手段は勿論、本発明によって明らかにされたAHPA-Val-Pheの性状にもとずいて公知の手段を施してAHPA-Val-Phe物質を生産、濃縮、抽出、精製する方法をすべて包括する。
【0042】
実施例1
種培地として、バクトソイトン1.0%、ガラクトース2.0%、コーン・スティープ・リカー0.5%、デキストリン2.0%、グリセリン1.0%、硫酸アン モニウム0.2%、炭酸カルシウム0.2%の組成から成る培地を用いた。なお、殺菌前のpHは7.4に調整した。
【0043】
前記の種培地(110ml)を分注した500ml容三角フラスコを120℃で 20分間殺菌した。殺菌した種培地にストレプトミセス属sp.MJ716-m3株(FERM P-14594)の斜面寒天培養の1〜2白金耳を接種した。さらに27℃、180回転 /分の回転式振盪機にて2日間培養し種培養液とした。次いで前記の培地を 500ml容三角フラスコに110mlずつ分注し、120℃で20分間滅菌し、前記種培養液2mlずつを接種し、27℃で3日間振盪培養した。培養終了後、培養液を濾過し、培養濾液と菌体に分別した。
【0044】
培養濾液9Lをあらかじめ脱イオン水で充填したダイヤイオンHP-20 (三 菱化成社製)、900mlのカラムにかけ、脱イオン水で洗浄後、有効成分を50 %アセトンの0.005N塩酸溶液により溶出し、減圧濃縮によりアセトンを除去し た。この濃縮液500mlをpH2に調整後、ブタノール500mlを加え、よく攪拌して有効成分を抽出し、これを濃縮乾固して褐色の粗粉末6.9gを得た。
【0045】
この粗粉末をメタノール10mlに溶解し、アビセル (三菱化成社製) 12gを加えて減圧下で濃縮乾固した。次に、これを酢酸ブチル-ブタノール-酢酸-水( 6:4:1:1)で懸濁後、その懸濁液を、あらかじめ同混合溶媒で充填したシリカゲル60(メルク社製、Art.7734)、500mlのカラムにかけ、有効成分を 同混合溶媒で溶出し、濃縮乾固することにより粗粉末498.5mgを得た。この 粗粉末を0.1Mピリジン酢酸緩衝液(pH3)で溶解し、あらかじめ同緩衝液で平衡化したダウエックス50W-X8(ダウケミカル社製)、35mlのカラムにかけ、同混合溶媒で洗浄した。続いて、有効成分を0.1Mピリジン酢酸緩衝液 (pH3)〜2Mピリジン酢酸緩衝液(pH4.75)の直線的濃度勾配溶出法により溶出し、濃縮乾固した。次に、これを脱イオン水で溶解し、あらかじめ脱イオン水で充填したダウエックス50W-X4(H+)(ダウケミカル社製)、30mlのカラムにかけ、脱イオン水で洗浄した。続いて、有効成分を1Nアンモニウム水で溶出し、濃縮乾固することにより粗粉末44.3mgを得た。
【0046】
この粗粉末をアセトニトリル:0.1%トリフルオロ酢酸(6:19)で溶解し、あらかじめ同混合溶媒で平衡化した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラム(資生堂製、カプセルパックC18、20Φ×250mm、流速8ml/min)へ通し 、前記平衡液で溶出し、活性画分を濃縮乾固することにより粗粉末23.0mgを 得た。更に、この粉末をあらかじめアセトニトリル−0.1%トリフルオロ酢酸(11:39)で平衡化したHPLC用カラム(カプセルパックC18、10Φ×250mm、 流速2ml/min)へ通し、前記平衡液で溶出し、活性画分を濃縮乾固することにより粗粉末16.7mgを得た。次に、これをメタノール0.5mlに溶解し、あらかじめメタノールで充填したセファデックスLH-20(ファルマシア社製)、160mlにかけ、メタノールで溶出し、得られた活性画分を濃縮乾固することにより融点190〜192℃の純粋なAHPA-Val-Pheの白色粉末14.2mgを得た。
【0047】
AHPA-Val-Pheの培養行程中の追跡は、抗アミノペプチダーゼN活性の測定に基づいて行った。その測定は前記の試験例2で示すアミノペプチダーゼN阻害活性の測定法と同様の方法を用いた。
なお、前記のAHPA-Val-Pheはフェベスチン(Phebestin)と改名するこ とにする。
【図面の簡単な説明】
【図1】AHPA-Val-Pheの臭化カリウム錠内での赤外線吸収スペクトルを示す。
【図2】AHPA-Val-Pheについて重ジメチルスルフォキシド中で500MHzで測定 した水素核核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図3】AHPA-Val-Pheについて重ジメチルスルフォキシド中で125MHzで測定 した炭素核核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図4】 (a) 試験例3において高速液体クロマトグラフィーを用いてAHPA-Val-Pheの不存在下におけるアミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファリンの加水分解を210nmの吸光度の測定により分析したクロマトグラム図である。縦軸は吸光度、横軸は時間(分)を示す。
(b) 試験例3においてAHPA-Val-Phe 0.2μg/mlを反応液に含有さ せた条件でヒトメチオニンエンケファリンの加水分解を行った場合の210nmの吸光度の測定により分析したクロマトグラム図である。
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