JP2856379B2 - 蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤及び抗腫瘍剤 - Google Patents

蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤及び抗腫瘍剤

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裕之 長田
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、テトロン酸誘導体物質
を有効成分とする蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤及び抗腫
瘍剤に関する。
【0002】
【従来の技術】蛋白質のリン酸化及び脱リン酸化は生体
機能の基本的な調節機構の一つである。蛋白質のリン酸
化酵素を阻害する薬剤は、抗腫瘍剤として数多く報告さ
れているが、同じく細胞増殖にとって必須な役割を果た
している蛋白質脱リン酸化酵素に対する阻害物質につい
ては報告が少ない。
【0003】抗腫瘍剤の分野では、蛋白質脱リン酸化酵
素の阻害剤は新しい作用機序であり(Proc. Natl. Aca
d. Sci. 86:9946-9950;(1989),Proc. Natl. Acad. Sc
i. 89:12170-12174;(1992).参照)、さらに特異性及び
有効性に優れた蛋白質脱リン酸化酵素阻害物質の開発が
望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、蛋白
質脱リン酸化酵素阻害剤及び抗腫瘍剤を提供することで
ある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、蛋白質脱
リン酸化酵素の脱リン酸活性を阻害する物質の探索をし
た結果、特定のテトロン酸誘導体物質が蛋白質脱リン酸
化酵素の脱リン酸活性を阻害することを見出し、本発明
を完成した。即ち、本発明は、式(I)
【0006】
【化3】
【0007】で示されるテトロン酸誘導体物質を有効成
分として含有する蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤又は抗腫
瘍剤である。以下、本発明について詳細に説明する。本
発明の蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤及び抗腫瘍剤の有効
成分は、式(I)
【0008】
【化4】
【0009】の構造式で示されるテトロン酸誘導体物質
である。このテトロン酸誘導体物質は、例えば、ストレ
プトミセス属に属し、蛋白質脱リン酸化酵素阻害活性を
有するテトロン酸誘導体物質を生産する能力を有する微
生物を培地に培養し、培養物から該テトロン酸誘導体物
質を採取することにより製造することができる。そのよ
うな微生物としては、例えば、ストレプトミセス・エス
ピー (Streptomyces sp.) 88-682が挙げられる。この菌
株の菌学的性質は次の通りである。 (I) 形態 シュクロース・硝酸寒天培地、スターチ・無機塩寒天培
地上の生育について顕微鏡及び電子顕微鏡により形態を
観察した。88-682株はストレプトミセス属に属する形態
を示した。その形態的特徴は次のとおりである。 1.基生菌糸:寒天上に良く生育し、分岐している。 2.気菌糸:良く着生し、胞子柄は単純分岐、成熟した
胞子体は各胞子鎖に10個以上の胞子を有する直鎖を形成
する。電子顕微鏡の観察によると、胞子表面は平滑であ
り、胞子自体は円筒形となっており、その大きさは0.85
〜1.19×0.58〜0.66μmである。胞子嚢、厚膜胞子、菌
核等の形成は認められない。 (II)各種培地上の性質 特許庁産業審査基準に従い、各種培地を調製し、接種10
日後に観察した結果を次に記載する。 (1) シュクロース・硝酸寒天培地 生育:中程度。
【0010】気菌糸:良好に形成し、黄みの白色を呈す
る。胞子の着生も良好。 裏面の色:黄みの白色。 可溶性色素:生成しない。 (2) グルコース・アスパラギン寒天培地 生育:中程度。
【0011】気菌糸:形成しない。 裏面の色:淡緑褐色〜黒褐色。 可溶性色素:淡黄色。 (3) グリセリン・アスパラギン寒天培地 生育:中程度。
【0012】気菌糸:中程度に形成し、白色〜淡灰色を
呈する。胞子の着生は認められない。 裏面の色:黒褐色。 可溶性色素:褐色。 (4) スターチ・無機塩寒天培地 生育:良好。
【0013】気菌糸:良好に形成し、黄みの白色を呈す
る。胞子の着生は中程度。 裏面の色:淡黄褐色〜黒褐色。 可溶性色素:淡黄色。 (5) チロシン寒天培地 生育:良好。
【0014】気菌糸:良好に形成し、白色〜淡灰色を呈
する。胞子の着生は認められない。 裏面の色:黒褐色。 可溶性色素:黒褐色。 (6) 栄養寒天培地 生育:良好。
【0015】気菌糸:形成しない。 裏面の色:淡褐色。 可溶性色素:生成しない。 (7) イースト・麦芽寒天培地 生育:良好。
【0016】気菌糸:良好に形成し、黄みの白色を呈す
る。胞子の着生は認められない。 裏面の色:黒褐色。 可溶性色素:褐色。 (8) オートミール寒天培地 生育:良好。
【0017】気菌糸:良好に形成し、黄みの白色を呈す
る。胞子の着生は認められない。 裏面の色:淡褐色〜淡黒褐色。 可溶性色素:淡黄色。 (9) ペプトン・イースト・鉄寒天培地 生育:良好。
【0018】気菌糸:形成しない。 裏面の色:黒褐色。 可溶性色素:黒褐色。 (III) 生理的性質 (1) 生育温度範囲:11℃〜37℃。 (2) 最適生育温度:28℃〜32℃。 (3) スターチの加水分解:陽性。 (4) 脱脂粉乳:凝固性 陽性。
【0019】ペプトン化 陰性。 (5) メラニン様色素の生成: チロシン寒天培地 陽性。 ペプトン・イースト・鉄寒天培地 陽性。 (6) ゼラチンの液化:陰性。 (IV)各種炭素源の利用性 プリドハム・ゴトリープ寒天培地(ディフコ製)に各種
の糖を添加して88-682株を培養した結果は次の通りであ
る。
【0020】L-アラビノース :+ D-キシロース :+ D-グルコース :++ D-フラクトース :+ シュークロース :− イノシトール :+ L-ラムノース :− ラフィノース :++ D-マンニトール :− 注)++:良く生育する + :生育する − :生育しない (V) 全菌体中のジアミノピメリン酸 全菌体中のジアミノピメリン酸を分析した結果、L,L-ジ
アミノピメリン酸を検出した。
【0021】88-682株の菌学的性質は以上の如くである
が、本菌株の特徴を要約すると次のとおりである。 1.気菌糸をよく着生し、色調は黄みの白色から淡灰色
を呈する。胞子柄は単純分岐、10個以上の胞子が連鎖し
胞子連鎖は直状。胞子は円筒形、表面は平滑である。ス
トレプトミセス属に属する形態を有する。 2.菌の集落の裏面は主に単褐色から黒褐色を呈する。 3.メラニン様色素を形成する。 4.シュクロース、ラムノース、マンニトールを除き各
種の糖を利用する。 5.L,L-ジアミノピメリン酸を有する。
【0022】以上の諸性状を「インターナショナル・ジ
ャーナル・オブ・システマティック・バクテリオロジー
(International Journal of Systematic Bacteriolog
y)」第18巻、第69〜189 頁、第279 〜392 頁、(1968
年)、第19巻、第391 〜512 頁(1969年)及び第22巻、
第265 〜394 頁(1972年)並びに「バージェイズ・マニ
ュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー
(Bergey's Manual ofSystematic Bacteriology)」第
4巻(1989年)に報告されている多くの既知菌株と比較
した結果、ストレプトミセス・ナシュビレンシス(Stre
ptomycesnashvillensis)の性状と極めて類似している
ことが判明したが、88-682株とは気菌糸の色調や炭素源
の利用において若干の相違が認められ、同一種とする決
定的な根拠が得られなかったので、本菌株をストレプト
ミセス・エスピー(Streptomyces sp.)88-682株と命名
した。この菌株は、青森県黒石市の土壌から採取・分離
されたものであり、工業技術院生命工学工業技術研究所
にFERM P-14189として寄託されている。
【0023】ストレプトミセス・エスピー 88-682 株
は、他のストレプトミセス属の放線菌と同様に、その性
状が変化しやすく、たとえば紫外線、エックス線、放射
線、人工変異剤などを用いる人工的変異手段で容易に変
異しうるものであり、このような変異であっても、蛋白
質脱リン酸化酵素の脱リン酸活性を阻害する活性を有す
るテトロン酸誘導体物質の生産能を有するものは、すべ
て使用することができる。
【0024】上記微生物の培養に使用する培地として
は、窒素源、無機塩類、ビタミン類、その他の栄養源を
適宜含有した培地を使用すればよい。ここで、窒素源と
しては、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、
硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機態窒素
源でも、例えば尿素、イーストエキス、ペプトン、グル
タミン酸又はグルタミン酸ナトリウム等の有機態窒素源
でもよい。培地のpHは、6〜10、好ましくは6.5 〜7.
5 、培養温度は、通常10〜35℃、好ましくは20〜27℃で
ある。
【0025】培養は、微生物の生育状況等により適宜決
定し得るが、通常は3〜14日間好気的条件下で行う。培
養物からのテトロン酸誘導体物質の単離・精製は、微生
物代謝生産物を培養物から単離・精製するために常用さ
れる方法、例えば有機溶媒による抽出、吸着剤による吸
着及び溶出、クロマトグラフィー等を適当に組み合わせ
て実施することができる。
【0026】以上の微生物等によって得られるテトロン
酸誘導体物質を、その蛋白質脱リン酸化酵素活性の阻害
作用に基づく蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤又は抗腫瘍剤
として使用する場合の投与方法は次の通りある。注射剤
として使用する場合、本有効成分にpH調整剤、緩衝剤、
安定化剤、賦形剤等を添加してもよい。また、常法によ
って凍結乾燥を行ない、凍結乾燥注射剤とても使用する
ことができる。さらには、本有効成分にpH調整剤、緩衝
剤、安定化剤、等張剤、局麻剤糖を添加し、常法により
溶液又は懸濁液の形の皮下、筋肉内、静脈内用注射剤と
しても使用することができる。
【0027】一方、固形製剤として使用する場合は、本
有効成分に通常の賦形剤、安定化剤、必要によって結合
剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を添加
し、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等にす
ることができる。本有効成分物質の投与量は、投与方
法、症状によって変動するが、通常は成人に対する1回
投与量として0.1 〜1000mg/kg が好ましく、1日3回又
は症状によって1日3回以上投与する。
【0028】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説
明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定される
ものではない。 (製造例1)グルコース2%、可溶性澱粉1%、肉エキ
ス0.1 %、酵母0.4 %、食塩0.2 %、リン酸第二カリウ
ム0.005 %、及び大豆粉2.5 %の組成からなる培地 (pH
7.0)に、放線菌88-682株を接種して、28℃で96時間振
盪培養を行った。この培養液350mlを同組成の培地36Lに
接種し、28℃で96時間にわたって毎分18Lの通気を行い
ながら、毎分300 回転の攪拌培養を行った。
【0029】上記培養液を高速遠心分離器(15000 回転
/分)で菌体と上清に分離し、70%アセトン12Lを用い
て菌体を抽出した。減圧濃縮後、得られた水溶液をpH
3.0に調製し、5Lの酢酸エチルで2回抽出を繰り返し
た。抽出後、全ての酢酸エチルを合わせて減圧濃縮し、
褐色のシロップ43.7gを得た。得られたシロップ43.7gを
クロロホルム30mlに溶解し、クロロホルムで調製したシ
リカゲルカラム(直径6cm、長さ90cm)に浸潤させ、最
初にクロロホルムを2L流した後、クロロホルム−メタ
ノール溶液を配合割合を順次変えて(99:1、19:1、
9:1、4:1、1:1)それぞれ1Lづつ流し、最後
にメタノール2Lを流した。
【0030】活性はクロロホルムーメタノール溶液
(4:1)の画分に溶出した。これを減圧濃縮すること
によって12.3gの白色粉末を得た。さらにこの白色粉末
をクロロホルム−メタノール溶液(1:1)に溶解し、
同じ溶液で調製したセファデックス LH-20(ファルマシ
ア社製)のカラム(直径4.5 cm、長さ120 cm)にかけ
て、クロロホルム−メタノール溶液(1:1)で溶出し
た。それぞれ10mlずつ分画し、主な活性画分であるフラ
クションNo.39-48を集め、このフラクションから減圧濃
縮により1.1 gの白色粉末を得た。
【0031】最後に、ODSカラム(直径2cm、長さ25cm;
カプセルパック、資生堂社製)を用いて高速液体クロ
マトグラフィーによる分取を行った。なお、用いた溶媒
はテトラヒドロフランー水(2:3)であり、流速は6.
0 ml/分で Rt.は14.1分であった。この結果、白色粉末
として精製標品約170 mgを得た。得られた精製標品の理
化学的性質について調べたところ、以下の通りであっ
た。 (a) 分子式:C21365 (b) 分子量:368 (c) 融点:225 〜227 ℃ (d) 外観:白色粉末 (e) 物質の性状:酸性物質
【0032】
【0033】(g) 溶解性:熱メタノールに易溶。酢酸エ
チル、クロロホルム及びメタノールに可溶。水に不溶。 (h) 呈色反応:I2 による呈色反応に陽性。塩化第二鉄
に陰性。 (i) 紫外線吸収スペクトル: λmax(MeOH)(ε) ;230 nm(2570)、265 nm(2755)
(図1) (j) 赤外線吸収スペクトル:3400、2920、1710、1640、
1460cm-1(図2) (k) 核磁気共鳴スペクトル: 重メタノール中で測定した 1H−NMRの結果・・・図
3に示す通りである。
【0034】重メタノール中で測定した13C−NMRの
結果・・・図4に示す通りである。 以上の理化学的性質に基づき、本物質の構造を決定した
結果、該物質は式(I)
【0035】
【化5】
【0036】の構造式で示されるテトロン酸誘導体物質
であった。 (試験例1)製造例1で得られたテトロン酸誘導体物質
の活性を以下の方法に従って測定した。まず、pGEX-VHR
遺伝子を導入した大腸菌から、可溶化した抽出液をグル
タチオン−アガロースゲルに吸着させ、5mMグルタチオ
ンで溶出して、蛋白質脱リン酸化酵素を調製した。この
蛋白質脱リン酸化酵素に3.125 、6.25、12.5及び25.0μ
g/mlの濃度となるようにテトロン酸誘導体物質を加え、
基質としてパラニトロフェニルホスフェート(シグマ社
製)を用い、37℃で30分間反応させた。反応後、1Nの
水酸化ナトリウムを加え、生成したパラニトロフェノー
ルの吸光度をEIAリーダー(モデル2550:バイオラ
ッド社製)で測定した。この測定結果に基づき、テトロ
ン酸誘導体物質の各濃度における蛋白質脱リン酸化酵素
活性の阻害率を算出した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】この結果、ストレプトミセス・エスピー 8
8-682 株から製造したテトロン酸誘導体物質は、蛋白質
脱リン酸化酵素の活性を阻害することが明らかとなっ
た。
【0039】
【発明の効果】本発明によれば、蛋白質脱リン酸化酵素
阻害剤及び抗腫瘍剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 テトロン酸誘導体物質の紫外線吸収スペクト
ル(methanol)のチャートである。
【図2】 テトロン酸誘導体物質の赤外線吸収スペクト
ル(Neat)のチャートである。
【図3】 テトロン酸誘導体物質の 1H−NMR (methano
l-d4) の結果を表すチャートである。
【図4】 テトロン酸誘導体物質の13C−NMR (methano
l-d4) の結果を表すチャートである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12R 1:645) (72)発明者 濱口 卓也 東京都豊島区高田3丁目24番1号 大正 製薬株式会社内 (56)参考文献 特開 平5−43568(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61K 31/365 C07D 307/60 CAPLUS(STN) REGISTRY(STN)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 式(I) 【化1】 で示されるテトロン酸誘導体物質を有効成分として含有
    する蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤。
  2. 【請求項2】 式(I) 【化2】 で示されるテトロン酸誘導体物質を有効成分として含有
    する抗腫瘍剤。
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