JPH0920794A - 新規生理活性物質AHPA−Val−Phe、その製造法およびその用途 - Google Patents

新規生理活性物質AHPA−Val−Phe、その製造法およびその用途

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JPH0920794A
JPH0920794A JP7186649A JP18664995A JPH0920794A JP H0920794 A JPH0920794 A JP H0920794A JP 7186649 A JP7186649 A JP 7186649A JP 18664995 A JP18664995 A JP 18664995A JP H0920794 A JPH0920794 A JP H0920794A
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高明 青柳
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雅 濱田
Hiroshi Osanawa
博 長縄
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 アミノペプチダーゼNに対して酵素阻害活性
の特異性が高い新規生理活性物質を提供する。 【構成】 ストレプトミセスsp. MJ716-m3 (FERM P-145
94)の培養により、下記の式(I)で表わせる化合物で
あるAHPA-Val-Pheが得られた。AHPA-Val-Pheはアミ
ノペプチダーゼNの阻害活性を有し、酵素阻害剤、もし
くは鎮痛持続および増強剤あるいは癌転移抑制剤などの
医薬としての用途が期待できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアミノペプチダーゼNに
対する酵素阻害活性を有する新規な生理活性物質である
AHPA-Val-Pheに関し、またその製造法およびその用途
に関する。
【0002】
【従来の技術】アミノペプチダーゼNは細胞中のミクロ
ソーム及び細胞膜に局在する膜酵素であって亜鉛酵素で
ある。
【0003】神経細胞のシナプスの膜に存在するアミノ
ペプチダーゼNは、エンケファリナーゼと共に、モルヒ
ネ様鎮痛作用を示す内因性ペプチドの一種であるエンケ
ファリン(メチオニンエンケファリンとロイシンエンケ
ファリンとの2種類のペプチドが存在する)を分解し、
エンケファリン活性を低下させることが知られている
〔Biochemical Journal、第231巻、445〜449頁、1985
年〕及び〔Nature、第262巻、782〜783頁、1976年〕。
更に、アミノペプチダーゼN阻害物質をマウスに投与
し、鎮痛効果の検討を行い、エンケファリンの鎮痛効果
を増強することが報告されている〔European Journal o
f Pharmacology、第86巻、329〜336頁、1983年〕。した
がって、アミノペプチダーゼNに対する酵素阻害物質
は、エンケファリンによる鎮痛作用の持続及び増強など
の、生体内鎮痛性物質に対する調節作用を示すことが期
待される。また、アミノペプチダーゼNに対する酵素阻
害剤は転移性の癌細胞の侵潤を抑制することが報告され
ている〔International Journal ofCancer、第54巻、13
7〜143頁、1993年〕から、癌転移抑制剤としても有用で
あると期待される。
【0004】アミノペプチダーゼNの酵素阻害物質とし
ては、アクチノニン(Actinonin)〔The Journal of An
tibiotics、第38巻、1629〜1630頁、1985年〕、プロベ
スチン(Probestin)、ベスタチン(Bestatin)〔The Jo
urnal of Antibiotics、第43、143〜148頁、1990年〕及
びロイヒスチン(Leuhistin)〔The Journal of Antibio
tics、第44、573〜578頁、1991年〕等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】アクチノニン、プロベ
スチン、ベスタチン及びロイヒスチン等の如きアミノペ
プチダーゼNの酵素阻害物質は、アミノペプチダーゼN
に対する酵素阻害活性の特異性が低い。従って、アミノ
ペプチダーゼNに対する特異性の高い酵素阻害物質が望
まれている。本発明の目的は、そのような酵素阻害活性
の特異性の高いアミノペプチダーゼN阻害活性を有して
低毒性である新規な生理活性物質を提供し、またその製
造法及びその用途を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目
的を達するために種々研究を行った。その結果、本発明
者らにより土壌から分離されたストレプトミセス属に属
してMJ716-m3の菌株番号を付した菌株を培養して、その
培養液中にアミノペプチダーゼNに対する酵素阻害物質
が産生していることを見出した。この物質を単離するこ
とに成功し、さらに後記の式(I)で表される新規な化
合物であることを確認した。そしてこの物質がアミノペ
プチダーゼNに対して酵素阻害活性の特異性が高い物質
であることを知見し、AHPA-Val-Pheと命名した。
【0007】従って、第1の本発明においては、次式
(I) で表される化合物である生理活性物質AHPA-Val-P
heまたはその薬理学的に許容し得る塩を提供するもので
ある。
【0008】第1の本発明による生理活性物質AHPA
-Val-Pheの理化学的性質は下記の通りである。 (1)色および形状:白色粉末 (2)分子式:C243135 (3)分子量:441 FAB-MS(Positive)によるm/z値は442(M+H)+である。
【0009】(4)融点:190〜192℃ (5)比旋光度:〔α〕D 27−12.6°(c 0.54, 酢酸) (6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図1に示す。 (7)水素核核磁気共鳴スペクトル:添付図面の図2に
示す。 (8)炭素核核磁気共鳴スペクトル:添付図面の図3に
示す。 (9)溶解性:ジメチルスルホキシド、メタノール、
水、酢酸に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶で
ある。
【0010】(10)薄層クロマトグラフィーのRf値:
シリカゲル(メルク社製シリカゲルArt.5715)の薄層
上で展開溶媒としてn-ブタノール-酢酸-水(4:1:
1)を用いて測定した時にRf=0.70 ODS逆相シリカゲル(メルク社製シリカゲルArt.153
89)の薄層上で展開溶媒としてアセトニトリル−緩衝液
*(7:13)を用いて測定した時にRf=0.34*但し、
緩衝液Aは5%酢酸カリウム、1%クエン酸・1水和物
を含む水溶液である。
【0011】第1の本発明による生理活性物質AHPA
-Val-Pheは薬理学的に許容し得る塩の形態にあっても
よく、このような塩としては、例えばナトリウム、カリ
ウムなどのアルカリ金属との塩(カルボキシレート)で
あることができ、また薬理学的に許容できる無機酸例え
ば塩酸、硫酸との酸付加塩(アミノ基における)である
ことができる。
【0012】第1の本発明によるAHPA-Val-Pheの
生理学的性質を下記に説明する。AHPA-Val-Pheは
低い急性毒性を示すものであり、その急性毒性を試験す
るために下記の試験例1を行った。試験例1 AHPA-Val-Pheをマウスに腹腔内投与して2週間観
察する試験を行った。その結果、200mg/kgの投与で
も毒性を示さなかった。
【0013】AHPA-Val-Pheのアミノペプチダーゼ
N阻害活性の測定のため下記の試験例2の実験を行っ
た。試験例2 アミノペプチダーゼN阻害活性の測定は「Jouranl of A
ntibiotics」第38巻、1629〜1630頁(1985)に記載の方
法の改良法で行った。即ち、2mMのL-ロイシン-β-ナ
フチルアミドの水溶液0.05ml、0.1Mのトリス-塩
酸緩衝液(pH7.0)0.1ml、検体としてAHPA-V
al-Pheを含む水溶液0.035mlを加えた混合溶液を3
7℃で、3分間加温した。その後、アミノペプチダーゼ
N(ベーリンガ・マイハイム社製)の水溶液0.015m
lを加え、37℃で1時間反応させた。その反応液に1
0%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレー
ト(和光純薬工業製)および0.2%ファーストガーネ
ットGBC塩(Sigma Chemical社製)を含む0.5Mク
エン酸ナトリウム緩衝液(pH3.78)を加えて反応を
停止させた。
【0014】その反応停止液について、525nmにおけ
る吸光度(a)を測定し、また同時に検体を含まない緩衝
液のみを用いた盲検の吸光度(b)を測定した。それらの
測定値を用いてアミノペプチダーゼN阻害率を[(b-a)/
b]×100の式により計算した。50%阻害率を示す検体
の濃度をIC50の値とした。この測定法で純粋なAHP
A-Val-Pheは0.16μg/mlの濃度で、アミノペプチ
ダーゼNを50%阻害したので、アミノペプチダーゼN
に対するAHPA-Val-PheのIC50値は0.16μg/m
lである。上記の試験例2から明らかなように、AHP
A-Val-PheはアミノペプチダーゼNに対して高い阻害
活性を示す。
【0015】従って、第2の本発明においては、前記の
式(I)で表される化合物であるAHPA-Val-Phe、
あるいはその薬理学的に許容しうる塩を有効成分とする
アミノペプチダーゼN阻害剤が提供される。
【0016】第2の本発明による酵素阻害剤は、その有
効成分であるAHPA-Val-Pheあるいはその塩を製薬
学的に許容される慣用の液体状担体、例えば水、エタノ
ール、あるいは慣用の固体状担体、例えばでんぷん、ラ
クトース、マルトースと混和させてなる組成物の形であ
ることができる。
【0017】本発明による生理活性物質AHPA-Val-
Phe又はその塩はアミノペプチダーゼNの酵素的性質を
研究するのに有用である。また、AHPA-Val-Pheは、前
述のとおり、鎮痛作用をもつエンケファリンを加水分解
してその活性を低下させるアミノペプチダーゼNの酵素
作用を阻害するから、動物又はヒトに投与する時に鎮痛
持続及び増強剤として有効であり、また癌転移抑制剤と
しても有用である。
【0018】次に、AHPA-Val-Pheはアミノペプチダー
ゼNがヒトのメチオニンエンケファリンを加水分解する
のを阻害できることを下記の試験例3によって例証す
る。
【0019】試験例3 アミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファ
リンの加水分解に対するAHPA-Val-Pheの阻害活性
試験を次のように行った。すなわち、アミノペプチダー
ゼNによるヒトメチオニンエンケファリン加水分解に対
するAHPA-Val-Pheの阻害活性は、下記の方法で測
定した。1mMヒトメチオニンエンケファリン(ペプチド
社製)の水溶液0.05ml、0.2Mトリス−塩酸緩衝液
(pH7.0)0.025ml、検体としてAHPA-Val-
Pheを含む水溶液0.01mlを混合した溶液を37℃で
5分間加温した。その後、その混液に前述したアミノペ
プチダーゼN水溶液0.015mlを加え、37℃で30
分間反応させた。反応後、0.3%トリフルオロ酢酸0.
05mlを加えて反応を停止した。その反応停止液0.0
5mlを0.1%トリフルオロ酢酸を含む5%アセトニト
リル水溶液で平衡化した高速液体クロマトグラフィー用
カラム(資生堂社製、カプセルパックC18, 4.6φ×150
mm)へ供し、1ml/minの流速で25分間にA溶液からB
溶液(A溶液は0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニト
リル=90:5であり、B溶液は0.1%トリフルオロ
酢酸/アセトニトリル=60:20)である)の直線的
なグラジエント法で溶出した。溶出液について210nm
における吸光度を測定した。その結果を添付図面の図4
に示す。図4から明らかなように、保持時間6.2分に
チロシンが、18.8分にdes-Try1−メチオニンエンケ
ファリンが、20.7分にメチオニンエンケファリンが
検出された。
【0020】このdes-Try1−メチオニンエンケファリン
を内部標準法によって定量した。検体を含む溶液を用い
た場合の定量値(a)及び検体を含まない緩衝液のみを用
いた盲検の定量値(b)を測定し、アミノペプチダーゼN
阻害率を[(b-a)/b]×100の式により計算した。50%
阻害率を示す検体の濃度をIC50の値とした。この定量
法で純粋なAHPA-Val-Pheは0.16μg/mlの濃度で、
ヒトメチオニンエンケファリンを加水分解させるアミノ
ペプチダーゼNの活性を50%阻害した。
【0021】本発明によるAHPA-Val-Phe物質は、
ストレプトミセス属に属するAHPA-Val-Phe生産菌
を培養し、得られる培養物中にAHPA-Val-Pheを生
成し、蓄積させ、次いで培養物からAHPA-Val-Phe
を分離して採取することにより製造できる。
【0022】従って、第3の本発明によると、ストレプ
トミセス属に属するAHPA-Val-Phe生産菌を栄養培
地中で培養し、その培養物から上記の式(I)で表され
るAHPA-Val-Pheを採取することを特徴とする生理
活性物質AHPA-Val-Pheの製造法が提供される。
【0023】第3の本発明の方法に使用されるAHPA
-Val-Phe生産菌の一例としては、平成3年10月、微
生物化学研究所において、本発明者らにより、東京都大
田区の土壌より分離された放線菌で、MJ716-m3の菌株番
号が付された菌株がある。
【0024】MJ716-m3株の菌学的性状は次の通りであ
る。 1.形態 MJ716-m3株は、分枝した基生菌糸より比較的長い気菌糸
を伸長し、輪生枝を形成する。胞子鎖の先端はかぎ状を
呈する場合があり、また、縄状に絡み合う形態が観察さ
れる。成熟した胞子鎖は5〜20個の卵円形〜円筒形の胞
子を連鎖する。胞子の大きさは約0.5〜0.6×0.8
〜1.0ミクロンであり、胞子の表面は平滑である。な
お、らせん形成、菌束糸、菌核及び胞子のうは認められ
ない。
【0025】2.各種培地における生育状態 色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー
・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモ
ニー・マニュアル(Container Corporation ofAmerica
のcolor harmony manual)を用いた。
【0026】(1)シュクロース・硝酸塩寒天培地(27
℃培養) 無色の発育上に、白の気菌糸をうっすらと着生し、溶解
性色素は認められない。 (2)グルコース・アスパラギン寒天培地(27℃培養) うす黄[2 gc, Bamboo]の発育上に、黄味灰[11/2ca,
Cream〜2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を綿状に着生し、溶
解性色素は認められない。 (3)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP-培地
5、27℃培養) うす黄茶[2 pg, Mustard Gold]の発育上に、白〜黄味
灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素は
かすかに茶色味を帯びる。 (4)スターチ・無機塩寒天培地(ISP-培地4、27℃培
養) うす黄茶[3 le, Cinnamon]の発育上に、黄味灰[2 b
a, Pearl〜2 ca, Lt Ivory]の気菌糸を綿状に着生し、
溶解性色素は認められない。
【0027】(5)チロシン寒天培地(ISP-培地7、27
℃培養) うす黄茶[2 le, Mustard〜3 le, Cinnamon]の発育上
に、茶白[3 ba, Pearl]の気菌糸をうっすらと着生す
る。溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。 (6)栄養寒天培地(27℃培養) 発育はうす黄茶[3 ng, Yellow Maple]、気菌糸は着生
せず、溶解性色素は黄茶を帯びる。 (7)イースト・麦芽寒天培地(ISP-培地2、27℃培
養) 黄茶[3 ng, Yellow Maple〜4 pi, Oak Brown]の発育
上に、灰白[2 dc, Natural]〜黄味灰[2 ba, Pearl]
の気菌糸を着生し、溶解性色素は茶色味を帯びる。 (8)オートミール寒天培地(ISP-培地3、27℃培
養) 黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の発育上に、黄味灰[2 ca,
Lt Ivory]〜うすだいだい[3 ca, Pearl Pink]の気菌
糸を綿状に着生し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯び
る。 (9)グリセリン・硝酸塩寒天培地(27℃培養) うす黄[2 ic, Honey Gold]〜黄茶[3 ne, Topaz]の
発育上に、黄味灰[2ba, Pearl]〜茶白[3 ba, Pear
l]の気菌糸をうっすらと着生し、黄[2 ia,Squash Yel
low]の溶解性色素を産生する。
【0028】(10)スターチ寒天培地(27℃培養) うす黄[2 ic, Honey Gold]〜うす黄茶[2 le, Mustar
d]の発育上に、白〜黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌
糸を着生し、溶解性色素を認められない。 (11)マルトース・ベンネット寒天培地(27℃培養) 黄茶[3 ng, Yellow Maple]の発育上に、黄味灰[2 c
a, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素はかすか
に茶色味を帯びる。 (12)ゼラチン穿刺培養 15%単純ゼラチン培地(20℃培養)では、発育はうす
黄、気菌糸は着生せず、溶解性色素は黄茶を呈する。グ
ルコース・ペプトン、ゼラチン培地(27℃培養)の場
合、発育はうす黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は
黄茶を呈する。 (13)脱脂牛乳(37℃培養) 発育はうす黄〜黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は
茶色味を帯びる。
【0029】3.生理的性質 (1)生育温度範囲 グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース1.0
%、アスパラギン0.5%、リン酸二カリウム0.5%、
ひも寒天3.0%、pH7.0)を用い、10℃、20
℃、24℃、27℃、30℃、37℃、50℃の各温度
で試験した結果、50℃を除き、そのいずれの温度でも
生育する。生育至適温度は27℃〜30℃付近と思われ
る。 (2)ゼラチンの液化(15%単純ゼラチン培地、20
℃培養;グルコース・ペプトン・ゼラチン培地、27℃
培養) 15%単純ゼラチン培地では培養後3日目頃より、グル
コース・ペプトン・ゼラチン培地の場合は、培養後4日
目頃より液化が始まる。液化の進行は遅く、ともに21
日間の培養で完了しなかった。その作用は中等度〜弱い
方である。
【0030】(3)スターチの加水分解(スターチ・無
機塩寒天培地、ISP-地培4及びスターチ寒天培地、いず
れも27℃培養) いずれの培地においても培養後3日目頃より水解性が認
められ、その作用は強い方である。 (4)脱脂牛乳の凝固・ペプトン化(脱脂牛乳、37℃
培養) 培養後14日目頃より凝固することなくペプトン化が始
まるが、その作用は極めて弱く、21日目にも完了しな
かった。
【0031】(5)メラニン様色素の生成(トリプトン
・イースト・ブロス、ISP-培地1:ペプトン・イースト
・鉄寒天培地、ISP-培地6:チロシン寒天培地、ISP-培
地7:いずれも27℃培養) トリプトン・イースト・ブロス及びペプトン・イースト
・鉄寒天培地では陽性、チロシン寒天培地はおそらく陰
性である。 (6)炭素源の利用性(プリドハム・ゴドリーブ寒天培
地、ISP-培地9、27℃培養) D-グルコースを利用して発育し、D-フラクトース及び
イノシトールはおそらく利用せず、L-アラビノース、
D-キシロース、シュクロース、ラフィノース、ラムノ
ース及びD-マンニトールは利用しない。 (7)硝酸塩の還元反応(0.1%硝酸カリウム含有ペ
プトン水、ISP-培地8、27℃培養) 陽性である。
【0032】以上の性状を要約すると、MJ716-m3株は、
その形態上、基生菌糸より比較的長い気菌糸を伸長し、
輪生枝を形成する。らせん形成、菌束糸、菌核及び胞子
のうは認められない。胞子鎖の先端はかぎ状を呈する場
合があり、また縄状に絡み合う形態が観察される。成熟
した胞子鎖には5〜20個以上の円筒形の胞子を連鎖
し、その表面は平滑である。種々の培地で、うす黄〜う
す黄茶の発育上に、綿状の茶白〜黄味灰の気菌糸を着生
し、溶解性色素はかすかに茶色味を帯びる。生育至適温
度は27〜30℃付近である。メラニン様色素の生成は
トリプトン・イースト・ブロス及びペプトン・イースト
・鉄寒天培地では陽性、チロシン寒天培地はおそらく陰
性である。スターチの水解性は強い方、蛋白分解力は中
程度から弱い方である。なお、細胞壁に含まれる2,6
−ジアミノピメリン酸はLL−型であった。
【0033】これらの性状より、MJ716-m3株は、ストレ
プトミセス(Streptomyces)属に属すると考えられる。
近縁の既知菌種を検索すると、ストレプトミセス・アル
ビレティキュリ(Streptomyces albireticuli)[文献1;
Shirling, E.B. and D.Gottlieb, International Jour
nal of Systematic Bacteriology, 18巻, 80頁, 1968
年, 文献2;Validation of the publication of new n
ames and new combinations previously effectively p
ublished outside the IJSB, List No. 38, Internatio
nal Journal of Systematic Bacteriology, 41巻, 456
頁, 1991年, 文献3;S.A.Waksman著, The Actinomycet
es, 2巻, 169頁, 1961年〕及びストレプトミセス・ユー
ロシディクス(Streptomyces eurocidicus)[文献1; Sh
irling, E.B. and D.Gottlieb, International Journal
of Systematic Bacteriology, 22巻, 293頁, 1972年,
文献2;Validation of the publication of new names
and new combinations previously effectively publis
hed outside the IJSB,List No. 38, International Jo
urnal of Systematic Bacteriology, 41巻, 456頁, 199
1年, 文献3;S.A.Waksman著, The Actinomycetes, 2
巻, 205頁, 1961年〕があげられた。そこで上記2菌種
の当研究所保存菌株とMJ716-m3株とを実地に比較検討し
た。その成績の大要を表1に示す。
【0034】
【0035】表1から明らかなように、MJ716-m3株はス
トレプトミセス・アルビレティキュリ及びストレプトミ
セス・ユーロシディクスのいずれとも、イノシトールの
利用性を除き、よく類似した性状を示した。ところで、
ストレプトミセス・アルビレティキュリ及びストレプト
ミセス・ユーロシディクスは互いによく一致した性状を
示している。さらに、ストレプトミセス・アルビレティ
キュリは抗生物質ユーロシディン(eurocidin)を生産
(文献3)し、ストレプトミセス・ユーロシディクスも
またユーロシディンの生産株(文献3)である。これら
のことからストレプトミセス・アルビレティキュリとス
トレプトミセス・ユーロシディクスは同一種である可能
性が考えられる。MJ716-m3株は両者に極めて近縁である
が、いずれか一方の種と同定することは困難であり、MJ
716-m3株をストレプトミセス・エスピー(Streptomyces
sp.)MJ716-m3とした。なお、MJ716-m3株を工業技術院
生命工学工業技術研究所に寄託申請し、平成6年10月
20日、FERM P-14594として受託された。
【0036】MJ716-m3株は他の放線菌の場合に見られる
ように、その性状が変化しやすい。例えば、MJ716-m3株
に由来する突然変異株(自然発生または誘発生)、形質
融合体または遺伝子組み換え体であっても、第1の本発
明による生理活性物質AHPA-Val-Pheの生産能を有
するストレプトミセス属の菌はすべて第3の本発明の方
法に使用することができる。
【0037】第3の本発明の方法では、前記のAHPA
-Val-Phe生産菌を通常の微生物が利用しうる栄養源を
含有する培地で培養する。炭素源としては、グルコー
ス、水飴、デキストリン、シュクロース、でんぷん、糖
蜜、動・植物油等を使用できる。また、窒素源として
は、大豆粉、小麦、小麦胚芽、コーンスティープ・リカ
ー、綿実かす、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸
アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等を利用できる。
その他、必要に応じ、ナトリウム、コバルト、塩素、硫
酸、燐酸、及びその他のイオンを生成することのできる
無機塩類を添加することは有効である。また、生産菌の
生育を助け、生理活物質AHPA-Val-Pheの生産を促
進するような有機物及び無機物を適当に添加することが
できる。
【0038】AHPA-Val-Phe生産菌の培養法として
は、好気的条件での培養法、特に深部液体培養法が適し
ている。培養に適当な温度は15〜37℃であるが、多
くの場合、26〜30℃付近で培養する。生理活性物質
AHPA-Val-Pheの生産は培地や培養条件により異な
るが、振盪培養、タンク培養とも通常1〜10日の間で
その蓄積が最高に達する。培養物中の生理活性物質AH
PA-Val-Pheの蓄積量が最高になった時に、培養を停
止し、培養液から目的物質を単離精製する。
【0039】本発明によって得られるAHPA-Val-P
heの培養液からの採集にあたっては、その性状を利用し
た通常の分離手段、例えば、溶媒抽出法、イオン交換樹
脂法、吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラ
フィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わ
せ、あるいは繰り返すことによって抽出および精製する
ことができる。
【0040】AHPA-Val-Pheの薬理学的に許容し得
る塩は、公知の方法によって製造することができ、例え
ば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸などを含む
溶液でAHPA-Val-Pheを処理することによって形成
できる。
【0041】以下に本発明の実施例を示すが、AHPA
-Val-Pheの性状が本発明によって明らかにされたの
で、それらの性状にもとずきAHPA-Val-Pheの製造
法を種々考案することができる。従って本発明は実施例
に限定されるものではなく、実施例の修飾手段は勿論、
本発明によって明らかにされたAHPA-Val-Pheの性
状にもとずいて公知の手段を施してAHPA-Val-Phe
物質を生産、濃縮、抽出、精製する方法をすべて包括す
る。
【0042】実施例1 種培地として、バクトソイトン1.0%、ガラクトース
2.0%、コーン・スティープ・リカー0.5%、デキス
トリン2.0%、グリセリン1.0%、硫酸アンモニウム
0.2%、炭酸カルシウム0.2%の組成から成る培地を
用いた。なお、殺菌前のpHは7.4に調整した。
【0043】前記の種培地(110ml)を分注した50
0ml容三角フラスコを120℃で20分間殺菌した。殺
菌した種培地にストレプトミセス属sp.MJ716-m3株(FERM
P-14594)の斜面寒天培養の1〜2白金耳を接種した。
さらに27℃、180回転/分の回転式振盪機にて2日
間培養し種培養液とした。次いで前記の培地を500ml
容三角フラスコに110mlずつ分注し、120℃で20
分間滅菌し、前記種培養液2mlずつを接種し、27℃で
3日間振盪培養した。培養終了後、培養液を濾過し、培
養濾液と菌体に分別した。
【0044】培養濾液9Lをあらかじめ脱イオン水で充
填したダイヤイオンHP-20 (三菱化成社製)、900
mlのカラムにかけ、脱イオン水で洗浄後、有効成分を5
0%アセトンの0.005N塩酸溶液により溶出し、減圧濃
縮によりアセトンを除去した。この濃縮液500mlをpH
2に調整後、ブタノール500mlを加え、よく攪拌して
有効成分を抽出し、これを濃縮乾固して褐色の粗粉末
6.9gを得た。
【0045】この粗粉末をメタノール10mlに溶解し、
アビセル (三菱化成社製) 12gを加えて減圧下で濃縮
乾固した。次に、これを酢酸ブチル-ブタノール-酢酸-
水(6:4:1:1)で懸濁後、その懸濁液を、あらか
じめ同混合溶媒で充填したシリカゲル60(メルク社製、
Art.7734)、500mlのカラムにかけ、有効成分を同
混合溶媒で溶出し、濃縮乾固することにより粗粉末49
8.5mgを得た。この粗粉末を0.1Mピリジン酢酸緩
衝液(pH3)で溶解し、あらかじめ同緩衝液で平衡化
したダウエックス50W-X8(ダウケミカル社製)、3
5mlのカラムにかけ、同混合溶媒で洗浄した。続いて、
有効成分を0.1Mピリジン酢酸緩衝液(pH3)〜2
Mピリジン酢酸緩衝液(pH4.75)の直線的濃度勾配
溶出法により溶出し、濃縮乾固した。次に、これを脱イ
オン水で溶解し、あらかじめ脱イオン水で充填したダウ
エックス50W-X4(H+)(ダウケミカル社製)、30
mlのカラムにかけ、脱イオン水で洗浄した。続いて、有
効成分を1Nアンモニウム水で溶出し、濃縮乾固するこ
とにより粗粉末44.3mgを得た。
【0046】この粗粉末をアセトニトリル:0.1%ト
リフルオロ酢酸(6:19)で溶解し、あらかじめ同混合
溶媒で平衡化した高速液体クロマトグラフィー(HPL
C)用カラム(資生堂製、カプセルパックC18、20Φ×
250mm、流速8ml/min)へ通し、前記平衡液で溶出し、
活性画分を濃縮乾固することにより粗粉末23.0mgを
得た。更に、この粉末をあらかじめアセトニトリル−
0.1%トリフルオロ酢酸(11:39)で平衡化したHPL
C用カラム(カプセルパックC18、10Φ×250mm、流速
2ml/min)へ通し、前記平衡液で溶出し、活性画分を濃
縮乾固することにより粗粉末16.7mgを得た。次に、
これをメタノール0.5mlに溶解し、あらかじめメタノ
ールで充填したセファデックスLH-20(ファルマシ
ア社製)、160mlにかけ、メタノールで溶出し、得ら
れた活性画分を濃縮乾固することにより融点190〜1
92℃の純粋なAHPA-Val-Pheの白色粉末14.2mgを
得た。
【0047】AHPA-Val-Pheの培養行程中の追跡
は、抗アミノペプチダーゼN活性の測定に基づいて行っ
た。その測定は前記の試験例2で示すアミノペプチダー
ゼN阻害活性の測定法と同様の方法を用いた。
【図面の簡単な説明】
【図1】AHPA-Val-Pheの臭化カリウム錠内での赤
外線吸収スペクトルを示す。
【図2】AHPA-Val-Pheについて重ジメチルスルフ
ォキシド中で500MHzで測定した水素核核磁気共鳴ス
ペクトルを示す。
【図3】AHPA-Val-Pheについて重ジメチルスルフ
ォキシド中で125MHzで測定した炭素核核磁気共鳴ス
ペクトルを示す。
【図4】(a) 試験例3において高速液体クロマトグラフ
ィーを用いてAHPA-Val-Pheの不存在下におけるア
ミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファリ
ンの加水分解を210nmの吸光度の測定により分析した
クロマトグラム図である。縦軸は吸光度、横軸は時間
(分)を示す。 (b) 試験例3においてAHPA-Val-Phe 0.2μg
/mlを反応液に含有させた条件でヒトメチオニンエンケ
ファリンの加水分解を行った場合の210nmの吸光度の
測定により分析したクロマトグラム図である。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成7年12月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正内容】
【0019】試験例3 アミノペプチダーゼNによるヒトメチオニンエンケファ
リンの加水分解に対するAHPA-Val-Pheの阻害活性
試験を次のように行った。すなわち、アミノペプチダー
ゼNによるヒトメチオニンエンケファリン加水分解に対
するAHPA-Val-Pheの阻害活性は、下記の方法で測
定した。1mMヒトメチオニンエンケファリン(ペプチド
社製)の水溶液0.05ml、0.2Mトリス−塩酸緩衝液
(pH7.0)0.025ml、検体としてAHPA-Val-
Pheを含む水溶液0.01mlを混合した溶液を37℃で
5分間加温した。その後、その混液に前述したアミノペ
プチダーゼN水溶液0.015mlを加え、37℃で30
分間反応させた。反応後、0.3%トリフルオロ酢酸0.
05mlを加えて反応を停止した。その反応停止液0.0
5mlを0.1%トリフルオロ酢酸を含む5%アセトニト
リル水溶液で平衡化した高速液体クロマトグラフィー用
カラム(資生堂社製、カプセルパックC18, 4.6φ×150
mm)へ供し、1ml/minの流速で25分間にA溶液からB
溶液(A溶液は0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニト
リル=90:5であり、B溶液は0.1%トリフルオロ
酢酸/アセトニトリル=60:20である)の直線的な
グラジエント法で溶出した。溶出液について210nmに
おける吸光度を測定した。その結果を添付図面の図4に
示す。図4から明らかなように、保持時間6.2分にチ
ロシンが、18.8分にdes-Try1−メチオニンエンケフ
ァリンが、20.7分にメチオニンエンケファリンが検
出された。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正内容】
【0028】(10)スターチ寒天培地(27℃培養) うす黄[2 ic, Honey Gold]〜うす黄茶[2 le, Mustar
d]の発育上に、白〜黄味灰[2 ca, Lt Ivory]の気菌
糸を着生し、溶解性色素は認められない。 (11)マルトース・ベンネット寒天培地(27℃培養) 黄茶[3 ng, Yellow Maple]の発育上に、黄味灰[2 c
a, Lt Ivory]の気菌糸を着生し、溶解性色素はかすか
に茶色味を帯びる。 (12)ゼラチン穿刺培養 15%単純ゼラチン培地(20℃培養)では、発育はうす
黄、気菌糸は着生せず、溶解性色素は黄茶を呈する。グ
ルコース・ペプトン、ゼラチン培地(27℃培養)の場
合、発育はうす黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は
黄茶を呈する。 (13)脱脂牛乳(37℃培養) 発育はうす黄〜黄茶、気菌糸は着生せず、溶解性色素は
茶色味を帯びる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正内容】
【0029】3.生理的性質 (1)生育温度範囲 グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース1.0
%、アスパラギン0.05%、リン酸二カリウム0.05%、ひ
も寒天3.0%、pH7.0)を用い、10℃、20℃、
24℃、27℃、30℃、37℃、50℃の各温度で試
験した結果、50℃を除き、そのいずれの温度でも生育
する。生育至適温度は27℃〜30℃付近と思われる。 (2)ゼラチンの液化(15%単純ゼラチン培地、20
℃培養;グルコース・ペプトン・ゼラチン培地、27℃
培養) 15%単純ゼラチン培地では培養後3日目頃より、グル
コース・ペプトン・ゼラチン培地の場合は、培養後4日
目頃より液化が始まる。液化の進行は遅く、ともに21
日間の培養で完了しなかった。その作用は中等度〜弱い
方である。 ─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成7年12月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正内容】
【0047】AHPA-Val-Pheの培養行程中の追跡
は、抗アミノペプチダーゼN活性の測定に基づいて行っ
た。その測定は前記の試験例2で示すアミノペプチダー
ゼN阻害活性の測定法と同様の方法を用いた。なお、前
記のAHPA-Val-Pheはフェベスチン(Phebestin)
と改名することにする。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 長縄 博 東京都大田区田園調布本町3番17号 (72)発明者 永井 真知子 東京都目黒区中央町1丁目7番10号 シャ レー学芸大カワベ第2−207号

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次式(I) で表される化合物である生理活性物質AHPA-Val-P
    he、またはその薬理学的に許容し得る塩。
  2. 【請求項2】 ストレプトミセス属に属するAHPA-
    Val-Phe生産菌を栄養培地中で培養し、その培養物か
    らAHPA-Val-Pheを採取することを特徴とする、生
    理活性物質AHPA-Val-Pheの製造法。
  3. 【請求項3】 生理活性物質AHPA-Val-Phe、ある
    いはその薬理学的に許容しうる塩を有効成分とするアミ
    ノペプチダーゼN阻害剤。
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