JPWO2002102882A1 - 半導電性ポリイミドフィルムおよびその製造方法 - Google Patents

半導電性ポリイミドフィルムおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施する。その後、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化する。これによって、得られる半導電性ポリイミドフィルムは、表面抵抗および体積抵抗を良好に制御でき、これら抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、機械的特性に優れ、高い伸度を実現できる。

Description

技術分野
本発明は、電池の電極材料、電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止剤、画像形成装置部品、電子デバイス等に好適に使用される半導電性ポリイミドフィルムとその製造方法に関するものである。
背景技術
従来、ポリイミドの導電性を改良する方法として、導電性充填剤をポリイミドに混合する方法(説明の便宜上、第一の方法と称する)が知られている。上記導電性充填剤とは、一般に、種々の基材物質を、カーボン、グラファイト、金属粒子、酸化インジウム錫等の導電性物質で被覆することにより導電性を付与したもの等を指し、フィラーとも表現できる。
しかしながら、上記第一の方法により導電性の、改良を試みた場合、次のような問題点が生じる。まず、得られるポリイミドフィルムは、機械的特性に劣ったものであることが多い。また、上記第一の方法で得られる導電性充填剤(フィラー)は、その抵抗率が非常に低い(抵抗値が最も高いもので10Ω・cm程度)ため、半導電性領域において、抵抗を制御することが非常に困難となっており、特に、表面抵抗率および体積低効率の再現性を向上させるとともに、その面内バラツキを小さくすることが困難となっている。しかも、上記第一の方法で得られるポリイミドフィルムは、その抵抗率の測定電圧依存性が大きくなる。
同様の技術として、日本国公開特許公報「特開平1−146957号公報」(公開日1989年6月8日)には、金属酸化物微粉(フィラー)とカーボンブラックを充填した樹脂組成物が開示されている(説明の便宜上、第二の方法と称する)。
しかしながら、上記第二の方法は、一成分現像方式の電子写真式の画像形成装置において、現像ロールのスリーブに適した半導電性樹脂組成物を製造することに特化している。つまり、この技術では、スリーブとして望ましい特性を発揮できる半導電性樹脂組成物を得ることを目的としている。上記特性を実現するためには、良導電性のフィラーまたはカーボンブラックの何れか一方のみを用いるだけでは困難であるため、双方が併用されている。
実際、第二の方法では、体積抵抗値を調節することにのみ重点が置かれているため、この方法では、樹脂をフィルム状に加工した場合には、表面抵抗値を適切に調節することが困難となる。それゆえ、この第二の方法をポリイミドフィルムに応用した場合は、上記第一の方法と同様に、得られるポリイミドフィルムの表面抵抗率の再現性が乏しくなる。
さらに、上記各方法の欠点を改善する技術として、例えば、日本国公開特許公報「特開平8−259810号公報」(公開日1996年10月8日)や、日本国公開特許公報「特開平8−259709号公報」(公開日1996年10月8日)に開示されている方法が知られている(説明の便宜上、第三の方法と称する)。これら公報に開示されている第三の方法では、ポリアニリンとポリイミドとをポリマーブレンドすることにより導電性を付与している。
しかしながら、上記第三の方法では、次のような問題点が生じる。まず、ポリアニリンが有する導電性はイオン導電性であるため、その抵抗値は環境に大きく依存する。しかも、ポリアニリンの製造においては、工業的に十分な生産性は確立されていないため、ポリマーブレンドとして使用するには非常に高価となる。
加えて、上記第三の方法とは別の技術として、例えば、日本国公開特許公報「特開平11−279437号公報」(公開日1999年10月12日)、日本国公開特許公報「特開2000−207959号公報」(公開日2000年7月28日)、あるいは日本国公開特許公報「特開2001−2954号公報」(公開日2001年1月9日)に開示されている方法が知られている(説明の便宜上、第四の方法と称する)。これら公報に開示されている第四の方法では、金属酸化物の導電膜を形成するために塗布液を調製し、この塗布液を用いて、非導電性の基材に導電膜を形成することで導電性を付与している。
しかしながら、上記第四の方法は、基材の表面に導電膜を形成するのみであるため、その体積抵抗値を下げることができないという問題点を有している。
このように、上記従来の各方法では、ポリイミドフィルムの表面抵抗および体積抵抗を精度よく制御し、抵抗値の電圧依存性を小さくするとともに、その伸度および機械的特性を向上させることは困難となっていた。
発明の開示
本発明者らは、上記従来の問題点を解決し、表面抵抗および体積抵抗を良好に制御でき、これら抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、機械的特性に優れ、高い伸度を実現できるポリイミドフィルムを提供すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、上記の課題を解決するために、ポリアミド酸を含有する有機溶媒溶液をポリアミド酸溶液とし、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または部分的に乾燥して得られるフィルムをゲルフィルムとした場合に、少なくとも、上記ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施した後に、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化することによって得られ、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10〜1013Ω/□の範囲内であり、かつ、体積抵抗値が10〜1014Ωcmの範囲内である構成を有している。
また、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、上記の課題を解決するために、ポリアミド酸を含有する有機溶媒溶液をポリアミド酸溶液とし、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または部分的に乾燥して得られるフィルムをゲルフィルムとした場合に、ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施する導電性付与工程と、上記導電性付与工程後に、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化する導電性付与後イミド化工程とを含む方法である。
具体的には、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、必須成分として、ポリイミドと半導電性無機フィラーとを、85:15〜50:50の重量比で含む(換言すれば、15〜50重量%の半導電性無機フィラーを含む)ポリイミドフィルムであって、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が1010Ω/□〜1013Ω/□の範囲内であり、体積抵抗値が1010Ωcm〜1014Ωcmの範囲内である構成を有している。
また、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、半導電性無機フィラーを均一に分散させたスラリー中での重合によって半導電性無機フィラーを含むポリアミド酸の溶液を調製し、この溶液を含む製膜溶液を基材上に流延して製膜し、この膜を熱的または化学的にイミド化する製造過程か、ポリアミド酸の溶液と半導電性無機フィラーの均一分散スラリーとを混合し、この混合液を基材上に流延して製膜し、この膜を熱的または化学的にイミド化する製造過程か、ポリアミド酸溶液に半導電性無機フィラーを直接分散させ、この混合液を基材上に流延して製膜し、この膜を熱的または化学的にイミド化する製造過程を含む方法である。
上記構成または方法によれば、半導電性領域の抵抗値を有し、抵抗値の測定電圧依存性を小さくし、精度よくかつ容易に表面抵抗および体積抵抗が制御され、優れた機械的強度を有する半導電性ポリイミドフィルムを製造することができる。
さらに、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、部分的に硬化及び/または部分的に乾燥されたゲルフィルムを、金属酸化物導電膜形成用塗布液に浸漬及び/または塗布し、その後に残ったアミド酸をイミド化し、かつこのフィルムを乾燥する方法であってもよい。また、この方法において、ゲルフィルムは半導電性無機フィラーを含むものであってもよい。
上記製造方法によって得られる、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内にあり、かつ、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内にある。
あるいは、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミド酸の有機溶剤溶液と金属酸化物導電膜形成用塗布液とを含む製膜溶液を、支持体上に流延した後、イミド化し、かつ乾燥する方法であってもよい。また、この方法において、ゲルフィルムは半導電性無機フィラーを含むものであってもよい。
上記構成または方法によれば、半導電性領域において、体積抵抗値および表面抵抗値を制度良くかつ容易に制御できる。しかも、得られる半導電性ポリイミドフィルムは、上記各抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、フィルム面内の抵抗値のばらつきも小さくすることができる。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
発明を実施するための最良の形態
本発明における実施の一形態について詳細に説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、導電性付与工程と、導電性付与後イミド化工程とを含む製造方法によって得られるものであり、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1013Ω/□の範囲内となっており、かつ、体積抵抗値が10Ωcm〜1014Ωcmの範囲内となっている構成である。
また、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、上記導電性付与工程と、導電性付与後イミド化工程とを含む方法である。
上記導電性付与工程は、ポリアミド酸を含有する有機溶媒溶液(以下、説明の便宜上、ポリアミド酸溶液と称する)および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施する工程である。また、上記導電性付与後イミド化工程は、上記導電性付与工程後に、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化する工程である。
以下、半導電性ポリイミドフィルムの製造の流れに沿って、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムおよびその製造方法を詳細に説明する。
上記導電性付与工程では、ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、種々の方法により導電性を付与する。それゆえ、本発明にかかる製造方法には、上記ポリアミド酸溶液調製工程、および/または、ゲルフィルム成形工程が含まれていても良い。
〈ポリアミド酸溶液調製工程〉
本発明における半導電性ポリイミドフィルムは、上記導電性付与工程および導電性付与後イミド化工程を除いて、基本的に従来公知の方法により製造される。それゆえ、本発明で用いられるポリイミドは、初めに、その前駆体であるポリアミド酸を製造し、次いでこのポリアミド酸をイミド化することにより得られる。したがって、本発明には、ポリアミド酸溶液調製工程が含まれていると好ましい。
本発明に用いられるポリアミド酸は、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種とを、実質的に等モル量となるように有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで撹拌することによって製造される。本発明においてはいかなる重合法により得られたポリアミド酸溶液を用いることができるが、その一例として、
1)ジアミンを溶解または分散させた有機溶媒中に、芳香族酸二無水物を、固体状、スラリー状、溶液状またはこれらの組み合わせで添加していく方法、
2)芳香族酸二無水物を溶解または分散させた溶媒中に、ジアミンを、固体状、スラリー状、溶液状またはこれらの組み合わせで添加していく方法、
3)ポリアミド酸分子中のモノマー配列を制御する目的で、各モノマーを多段階で添加し、最終的に、実質的に等モル量の芳香族酸二無水物とジアミンとを反応させる方法、
等が挙げられる。
また、別途重合した2種以上のポリアミド酸溶液を混合して用いることもできる。これらのポリアミド酸溶液の濃度および粘度は、用途、プロセスに合わせて適宜調節すればよいが、通常、5重量%〜35重量%の範囲内、好ましくは10重量%〜30重量%の範囲内となる濃度で、23℃の測定温度で、50ポイズ〜10000ポイズの範囲内、好ましくは100ポイズ〜5000ポイズの範囲内の粘度を有する溶液が得られる。上記範囲の濃度および溶液粘度のとき適当な分子量を得られる場合が多い。
このポリアミド酸溶液は通常10重量%〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、イミド化に適当な分子量と溶液粘度を実現することができる。もちろん、本発明におけるポリアミド酸溶液調製工程はこれに限定されるものではなく、ポリアミド酸を含む他の方法で溶液状のポリアミド酸組成物を調製してもよい。
上記ポリアミド酸の製造に使用することができる芳香族酸二無水物は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)およびそれらの類似物等を好適に用いることができる。これら芳香族酸二無水物は、単独で用いてもよいし、または任意の割合で混合した混合物として用いてもよい。
上記芳香族酸二無水物の中でも、特に好ましい化合物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を挙げることができる。これら化合物も、上記と同様、単独または混合物として用いることができる。
上記ポリアミド酸の製造に使用することができるジアミンは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、およびそれらの類似物等を好適に用いることができる。これらジアミンは、単独で用いてもよいし、または任意の割合で混合した混合物として用いてもよい。
上記ジアミンの中でも、特に好ましい化合物としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびp−フェニレンジアミンを挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、これら化合物を、モル比で90:10〜10:90の範囲内、好ましくは85:15〜20:80の範囲内、さらに好ましくは80:20〜30:70で混合した混合物を好ましく用いることもできる。
上記ポリアミド酸の合成する際に使用することができる有機溶媒は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒を好ましく用いることができる。これら有機溶媒は、単独で用いてもよいし、または任意の割合で混合した混合物として用いてもよい。
上記有機溶媒の中でも、N,N−ジメチルフォルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドが好ましく用いられる。これら溶媒も上記と同様、単独または混合物として用いることができる。
本発明におけるポリアミド酸溶液調製工程における調製条件、すなわち、ポリアミド酸溶液の製造条件については特に限定されるものではない。具体的には、ポリアミド酸の重合のために調製される上記モノマー溶液の組成比、ポリアミド酸を重合するための制御された温度条件、モノマーの添加順序、あるいはモノマー溶液の撹拌の条件等については、所望のポリアミド酸溶液が合成できるような条件であればよく、従来公知の条件を適宜適用することができる。
〈ゲルフィルム成形工程〉
本発明では、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに対して、導電性付与工程が実施される。それゆえ、本発明には、上記ゲルフィルムを成形するゲルフィルム成形工程を含んでいても良い。
上記ゲルフィルム成形工程で成形されるゲルフィルムは、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または部分的に乾燥してなるフィルムを指し、従来公知の方法で製造することができる。具体的には、例えば、上記ポリアミド酸溶液調製工程で得られたポリアミド酸溶液を、支持体に流延、塗布し、化学的にあるいは熱的に硬化することで得られる。
最終的に得られる半導電性ポリイミドフィルムの靭性や破断強度等の物性の低下を回避したり、その生産性の低下を回避したりしやすくなるため、化学的に硬化することが好ましい。もちろん、半導電性ポリイミドフィルムや、ゲルフィルムの用途や種類等に応じて、熱的に硬化する方法も好適に用いることができる場合があることは言うまでも無い。
上記硬化とは、具体的には、ポリアミド酸のイミド化を指し、このイミド化には、熱キュア法または化学キュア法あるいはこれらを併用する方法の何れかが用いられる。熱キュア法が上記熱的に硬化する方法に相当し、化学キュア法が上記化学的に硬化する方法に相当する。
上記熱キュア法は、脱水閉環剤などを作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。上記加熱の温度やその他条件は、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定されるものではない。
上記化学キュア法は、ポリアミド酸溶液に、化学的転化剤と、好ましくは触媒とを作用させて、イミド化を進行させる方法である。
上記化学的転化剤の具体的な種類は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等を好適に用いることができる。これら化学的転化剤は、単独で用いてもよいし、または2種類以上の混合物として用いてもよい。
上記化学的転化剤の中でも、特に好ましい化合物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族無水物が挙げられる。これら化合物も、上記と同様、単独または2種類以上の混合物として用いることができる。
上記化学的転化剤の使用量は、特に限定されるものではないが、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対して0.5モル当量〜5.0モル当量の範囲内であればよく、好ましくは0.8当量〜4.0モル当量の範囲内、さらに好ましくは1.0当量〜3.0モル当量の範囲内で好適に用いることができる。
化学的転化剤の使用量が上記の範囲を下回ると、イミド化が遅くなる傾向にあり、生産性を悪化させるおそれがある。また、上記範囲を上回ると、得られるポリイミドフィルムの機械的特性が悪化したり、イミド化が速くなりすぎて基材に流延するのが困難になったりするおそれがある。
上記触媒は、イミド化を効果的に行うために化学的転化剤と同時に併用するものである。この触媒の具体的な種類は特に限定されるものではないが、例えば、触媒としては脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等が用いられる。中でも、複素環式第三級アミンから選択される化合物が特に好ましく用いられる。より具体的には、キノリン、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等が好ましく用いられる。
上記触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対して0.1当量〜2モル当量の範囲内であればよく、好ましくは0.2当量〜1.5モル当量の範囲内、さらに好ましくは0.3当量〜1.0モル当量の割合で好適に用いることができる。
上記触媒の使用量が上記の範囲を下回る(少なすぎる)と、化学イミド化が進行(硬化)しにくくなる傾向がある。また、上記の範囲を上回る(多すぎる)と、化学イミド化の進行(硬化)が速くなり、支持体上に流延するのが困難となるおそれがある。
上記化学キュア法および熱キュア法は、単独で用いてもよいし併用してもよい。また、単独・併用に関わらず、イミド化に関わる反応条件は、ポリアミド酸の種類、ゲルフィルムまたはポリイミドフィルムの厚さ、熱キュア法および/または化学キュア法の選択等によって変動し得るものであり、特に限定されるものではない。
上記化学キュア法や熱キュア法は、ゲルフィルムに導電性付与工程で導電性を付与した後、導電性付与後イミド化工程でも実施される。導電性付与後イミド化工程では、イミド化を完了して半導電性ポリイミドフィルムとするが、上記ゲルフィルム成形工程では、自己支持性を有する程度にイミド化を抑え、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階に留める必要がある。
そこで、上記ゲルフィルムは、次式(1)から算出される揮発分含有量V(単位%)が、所定の範囲内に規定されていることが好ましい。なお、次式(1)におけるAはゲルフィルムの重量を指し、Bはゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を指し、Cはゲルフィルム中に含まれる半導電性無機フィラーの含有量(重量%)を指す。半導電性無機フィラーに関しては、後述の導電性付与工程で詳細に説明する。また、上記A・Bにおける重量の単位は、それぞれ同じ次元の単位を用いればよく(例えばAがg(グラム)であればBもg)特に限定されるものではない。
V=(A−B)×100/{B×(100−C)}・・・・(1)
上記揮発分含有量Vは、5%〜500%の範囲内であればよく、好ましくは5%〜100%の範囲内、より好ましくは10%〜80%の範囲内、最も好ましくは30〜60%の範囲にあればよい。ゲルフィルムの揮発分含有量Vが上記の範囲内であれば、得られる半導電性ポリイミドフィルムの品質を好ましいものとすることができるが、上記の範囲を外れると、所定の効果を発現することが困難となる。
さらに、得られる半導電性ポリイミドフィルムにおいて、所定の効果をより確実に発現させるためには、ゲルフィルムのイミド化率を制御することが好ましい。
このイミド化率I(単位%)の測定は、半導電性無機フィラーおよび導電膜形成用塗布液を含まないゲルフィルム(つまりポリアミド酸溶液のみから成形されるゲルフィルム)において、赤外線吸光分析法を用いて次式(2)から算出される。なお、導電膜形成用塗布液に関しては、半導電性無機フィラーと同様に後述の導電性付与工程で詳細に説明する。また、次式(2)におけるDはゲルフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さを指し、Eはゲルフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さを指し、Fはポリイミドフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さを指し、Gはポリイミドフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さを指す。
1=(D/E)×100/(F/G)・・・・(2)
上記イミド化率Iは特に限定されないが、好ましい範囲としては、下限が50%以上であればよく、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上であればよい。もちろん上限は100%である。ゲルフィルムのイミド化率Iが上記の範囲内であれば、得られる半導電性ポリイミドフィルムの品質を好ましいものとすることができるが、上記の範囲を外れると、所定の効果を発現することが困難となることがある。
本実施の形態では、前記ポリアミド酸溶液調製工程により得られたポリアミド酸溶液をそのまま、あるいはポリイミド酸溶液に対して、後述するような半導電性無機フィラーの添加や導電性付与剤の添加を実施してから製膜溶液とする。そして、この製膜溶液を、平板状の支持体(基材)上に、フィルム状にキャストする。その後、上記支持体上で所定の温度範囲で加熱することにより、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または乾燥させる。次いで、上記支持体から剥離してゲルフィルムとする。
上記支持体の具体的な種類は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等を挙げることができる。これら支持体の大きさ等についても特に限定されるものではない。また、上記支持体上に製膜溶液をキャストする際の条件も特に限定されるものではない。
ポリアミド酸を部分的に硬化および/または乾燥させる際の加熱温度については、80℃〜200℃の範囲内が望ましく、好ましくは100℃〜180℃の範囲内であればよい。この範囲を外れると、生産性が低下したり、発泡等の欠陥が生じやすくなったりする。
〈導電性付与工程〉
上述したように、本発明では、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに対して導電性付与工程が実施される。この導電性付与工程は、具体的には、ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および導電膜の形成の少なくとも何れかを実施する工程である。上記各導電性の付与について具体的に説明する。
〈半導電性無機フィラーの添加〉
本発明で用いられる上記半導電性無機フィラー(以下、説明の便宜上、単に無機フィラーと略す)とは、乾燥状態の無機フィラーを100kg/cmの圧力で圧縮成形した成形体となっており、その体積抵抗率(粉体抵抗)が10〜10Ω・cmとなっているフィラーを指す。
従来用いられていた無機フィラーは、導電性のフィラーまたはカーボンやグラファイト等で被覆した粒子である。そのため抵抗値が低く、少量の添加でも抵抗値が下がり易かった。これに対して本発明で用いられる半導電性無機フィラーは、上述した構成を有しているため、半導電性領域の抵抗値を示すため、抵抗値を下げるためには、ある程度の量を添加することになる。そのため、添加量の変化により抵抗値を微妙に調節することが可能になる。その結果、得られるポリイミドフィルムの表面抵抗値だけでなく、体積抵抗値も適切に制御することができ、しかもこれら抵抗値のバラツキを少なくして、電圧依存性も小さくすることが可能となる。
その材質は特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、炭酸カルシウム、水酸化鉄、酸化錫等を好ましく用いることができる。中でも、得られる半導電性ポリイミドフィルムの耐熱性、抵抗制御等の観点から酸化チタンが最も好ましく用いられる。
上記無機フィラーの形状は特に限定されるものではなく、球状、層状、針状、粉粒状等どのような形状のものを用いてもよい。これらの各形状の無機フィラーは単独で用いてもよいし、2種類以上の形状のものを混合した混合物として用いてもよい。上記の中でも、針状の無機フィラー、または針状の無機フィラーと他の形状の無機フィラーとの混合物を用いることが好ましい。このように、無機フィラーとして少なくとも針状のものが用いられると、得られる半導電性ポリイミドフィルムの機械的特性の観点から好ましい。
したがって、本発明で特に好ましく用いられる無機フィラーは、材質が酸化チタンで形状が針状のもの、すなわち酸化チタンウィスカーを挙げることができる。
上記針状の無機フィラーのより具体的な形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、短軸径は0.01μm〜1μmの範囲内であればよく、好ましくは0.05μm〜0.75μmの範囲内、さらに好ましくは0.1μm〜0.5μmの範囲内であればよい。また、長軸径は1μm〜20μmの範囲内であればよく、好ましくは1.5μm〜15μmの範囲内、さらに好ましくは2μm〜10μmの範囲内であればよい。
無機フィラーの短軸径および長軸径が上記の範囲を外れると、得られる半導電性ポリイミドフィルムにおける抵抗値と機械的強度とのバランスがとりにくくなる。
上記針状以外のその他形状の無機フィラーを用いる場合は、その平均粒子径が0.01μm〜20μmの範囲内であればよく、好ましくは0.01μm〜15μmであればよく、さらに好ましくは0.01μm〜10μmの範囲内であればよい。
無機フィラーの粒子径が上記の範囲を下回る(小さすぎる)と、得られる半導電性ポリイミドフィルムにおける機械的特性が低下する傾向にある。また、上記の範囲を上回る(大きすぎる)と、得られる半導電性ポリイミドフィルムにおける抵抗値の制御が困難になる傾向にある。
上記無機フィラーの添加量は、特に限定されるものではないが、半導電性ポリイミドフィルムの総重量に対して、15重量%〜50重量%の範囲内であればよく、好ましくは15重量%〜40重量%の範囲内、さらに好ましくは20重量%〜35重量%の範囲内であればよい。
また、本発明では、導電性付与工程において、他の導電性の付与方法を用いることができるため、無機フィラーの添加は必須ではないが、他の導電性の付与方法と併用することもできる。この場合の好ましい無機フィラーの添加量は、上記添加量とは若干異なる場合がある。
例えば、無機フィラーの添加と導電性付与剤の添加とを併用する場合は、無機フィラーの添加量は少なくても良い(もちろん多くても支障はない)。それゆえ、導電性付与剤の添加と併用する場合では、無機フィラーの添加量の下限を10重量%程度にしておけば、十分に導電性を付与する効果を発揮することができる。
無機フィラーの添加量が上記の範囲より少ないと、得られる半導電性ポリイミドフィルムの導電性が改良されにくくなる。また、上記の範囲を超えると、得られる半導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗値および表面抵抗値がほぼ飽和する上に、該半導電性ポリイミドフィルムの伸度が低下する傾向にある。
上記半導電性無機フィラーの添加の具体的な方法は特に限定されるものではない。まず、無機フィラーを添加する対象がポリアミド酸溶液である場合には、ポリアミド酸溶液への分散の具体的な方法は特に限定されるものではなく、他の導電性の付与方法を併用するか否かに限らず、どのような方法を用いてもよい。
具体的には、(i)無機フィラーを分散させたメラリーを重合溶媒としてポリアミド酸を重合する方法、(ii)重合途中に無機フィラーもしくは無機フィラーのスラリーを添加してフィラー分散ポリアミド酸溶液を調製する方法、(iii)基材に流延する直前にポリアミド酸溶液と無機フィラーのスラリーを混合する方法等が挙げられる。なお、(i)の方法の場合、無機フィラーの添加が、ポリアミド酸溶液調製工程と同時に実施されることになり、ポリアミド酸溶液調製工程が終了した時点でフィラー分散ポリアミド酸溶液が得られることになる。
本実施の形態では、後段の導電性付与後イミド化工程にて前記熱キュア法を用いる場合には、この上記フィラー分散ポリアミド酸溶液を、そのまま製膜溶液として用いることができる。また、前記化学キュア法を用いる場合には、上記フィラー分散ポリアミド酸溶液に、化学的転化剤および好ましくは触媒を含む硬化剤を添加して製膜溶液としてもよいし、この硬化剤に無機フィラーを分散させたスラリーを調製し、この硬化剤−無機フィラースラリーをポリアミド酸溶液に添加することで製膜溶液としてもよい。
また、無機フィラーを添加する対象がゲルフィルムである場合も、ゲルフィルムへの添加の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば、無機フィラーを分散させたフィラー分散液を調製し、このフィラー分散液をゲルフィルムに塗布することで、ゲルフィルムに無機フィラーを添加することもできる。
〈導電性付与剤の添加〉
本発明で用いられる導電性付与剤は、硬化して最終的に得られるポリイミドフィルムに導電性を付与できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、各種金属酸化物またはその前駆体を挙げることができる。この金属酸化物としては、具体的には、例えば、アルミニウムまたはホウ素をドープした酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化インジウム、亜鉛−インジウム酸化物、アンチモン添加酸化錫、錫添加酸化インジウム(酸化インジウム錫)などが挙げられる。
上記金属酸化物は、単独で用いても良いし、2種類以上を用いても良い。また、上記金属酸化物を導電性付与剤として用いる場合、ポリアミド酸に混合する際には、その前駆体であるものも含まれる。上記前駆体としては、溶液として調製することで、上記金属酸化物となるものであれば特に限定されるものではない。金属酸化物が酸化インジウム錫の場合、例えば、蟻酸インジウムおよび蟻酸錫(II)を挙げることができる。
本発明における導電性付与工程では、上記導電性付与剤を溶液の状態でポリアミド酸溶液に混合して用いればよい。
このように導電性付与剤溶液を用いることにより、分子レベルで導電性付与剤をポリアミド酸と混合することができるため、得られる半導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗値および表面抵抗値を、半導電性領域において、少量の添加で、容易かつ高精度で制御することができる。しかも、上記各抵抗値の電圧依存性およびポリイミドフィルム面内の抵抗値のばらつきも小さくすることができる。
特に、本発明では、上記前駆体を含む溶液として、金属酸化物の導電膜を形成するために従来から用いられている溶液(導電膜形成用塗布液)をそのまま導電性付与剤溶液として用いることができる。つまり、導電性付与剤の添加においては、上記金属酸化物を含む導電膜形成用塗布液を、導電性付与剤の溶液として用いて、ポリアミド酸有機溶剤溶液に混合してもよい。
上記導電膜形成用塗布液を導電性付与剤溶液として用いることで、得られる半導電性ポリイミドフィルムの抵抗値を下げる効果が得られるのみならず、抵抗値の電圧依存性を小さくすることができ、さらに、半導電性ポリイミドフィルムの面内における抵抗値のバラツキを小さくするという効果も得ることができる。
上記従来公知の導電膜形成用塗布液の中でも、酸化インジウム錫の前駆体を含む溶液(説明の便宜上、ITO前駆体塗布液と称する)が好ましい。このITO前駆体塗布液は、一般的に広く用いられており、入手し易いため、コストの点からも好ましい。具体的には、例えば、前記「特開平11−279437号公報」や、前記「特開2000−207959号公報」等に開示されている酸化インジウム錫膜形成用の塗布液を好適に用いることができる。
上記導電性付与剤溶液の添加量は、特に限定されるものではなく、導電性付与剤の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、上記ITO前駆体塗布液の場合、その添加量は、酸化インジウム錫の重量として換算して、ポリイミドの重量に対して1重量部〜20重量部の範囲内であればよく、好ましくは1.5重量部〜15重量部の範囲内、さらに好ましくは2重量部〜10重量部の範囲内であればよい。
上記添加量が少なすぎると、得られる半導電性ポリイミドフィルムの導電性の改善効果が発現しにくくなり、多すぎるとポリイミドフィルムの機械的強度が低下する傾向にある。
さらに、本発明においては、導電膜形成用塗布液として、日本国公開特許公報「特開平7−331450号公報」(公開日1995年12月19日)、「特開平8−227614号公報」(公開日1996年9月3日)、「特開平8−295513号公報」(公開日1996年11月12日)、「特開平9−286936号公報」(公開日1997年11月4日)に開示された金属酸化物の前駆体の溶液を、本発明における導電性付与剤溶液として用いることができる。
上記導電性付与剤溶液(導電膜形成用塗布液を含む)をポリアミド酸溶液へ混合する工程は、特に限定されるものではなく、前記無機フィラーの添加と同様に、どの段階で実施してもよい。例えば、(I)導電性付与剤溶液をポリアミド酸の重合溶媒として用いる方法、(II)ポリアミド酸の重合途中に導電性付与剤溶液を混合する方法、(III)支持体上に流延する直前に導電性付与剤溶液をポリアミド酸溶液と混合する方法等が挙げられる。中でも、ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性の観点から見れば、(III)支持体上に流延する直前に混合する方法がより好ましい。
それゆえ、後段の導電性付与後イミド化工程にて前記熱キュア法を用いる場合には、上記導電性付与剤溶液を含むポリアミド酸溶液を、そのまま製膜溶液として用いことができる。これは、導電性付与剤の添加と無機フィラーの添加とを併用する場合も同様である。すなわち、無機フィラーおよび導電性付与剤溶液を含むポリアミド酸溶液も、そのまま製膜溶液として用いることができる。
また、後段の導電性付与後イミド化工程にて前記化学キュア法を用いる場合には、上記導電性付与剤溶液を含むポリアミド酸溶液に、化学的転化剤および好ましくは触媒を含む硬化剤を添加して製膜溶液としてもよいし、この硬化剤に導電性付与剤溶液を混合した混合液を調製し、この硬化剤−導電性付与剤混合液をポリアミド酸溶液に添加することで製膜溶液としてもよい。
同様に、導電性付与剤の添加と無機フィラーの添加を併用する場合には、無機フィラーおよび導電性付与剤溶液を含むポリアミド酸溶液に、化学的転化剤および好ましくは触媒を含む硬化剤を添加するか、硬化剤と導電性付与剤溶液とを先に混合してからポリアミド酸溶液に添加することにによって、製膜溶液を得てもよい。
〈導電膜の形成〉
本発明で形成される導電膜は、前記導電性付与剤で例示した金属酸化物を含む金属酸化物導電膜であれば特に限定されるものではない。この導電膜は、上記金属酸化物またはその前駆体を有機溶媒に溶解または分散した導電膜形成用塗布液により形成される。
上記導電膜形成用塗布液の濃度は、特に限定されるものではないが、0.01重量%〜15重量%の範囲内であればよく、好ましくは0.05重量%〜10重量%の範囲内、さらに好ましくは0.1重量%〜5重量%の範囲内であればよい。
上記導電膜形成用塗布液の濃度が低すぎると、得られる半導電性ポリイミドフィルムの導電性の改善効果が発現しにくくなる。また上記導電膜形成用塗布液の濃度が高すぎると、得られる半導電性ポリイミドフィルムの機械的強度が低くなる傾向にある。
また、半導電性ポリイミドフィルムにおいて、その抵抗値の電圧依存性を小さくするという観点から、上記導電膜形成用塗布液の濃度は、0.1重量%〜15重量%の範囲内であると好ましく、0.25重量%〜10重量%の範囲内がより好ましく、0.5重量%〜5重量%の範囲内がさらに好ましい。
上記導電膜形成用塗布液の濃度が0.1重量%を下回った場合、得られる半導電性ポリイミドフィルムにおいて、特に体積抵抗値の電圧依存性を小さくする効果が低下する。また、上記導電膜形成用塗布液の濃度が高すぎた場合、得られる半導電性ポリイミドフィルムの機械的強度が低くなる傾向にある。
上記導電性形成膜塗布液の溶媒は特に限定されるものではなく、従来公知のいかなるものであってもよいが、好ましくは、アミド系溶媒、すなわち、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。中でも、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドを、単独または任意に割合の混合物として用いることがより好ましい。
上記導電膜形成用塗布液は、前記導電性付与剤の添加でも説明したように、従来公知のものを用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、前記「特開平11−279437号公報」や、前記「特開2000−207959号公報」等に開示されている酸化インジウム錫膜形成用塗布液等を好適に用いることが用いられる。
上記導電膜形成用塗布液を用いて前記ゲルフィルムを処理する、すなわちゲルフィルムに導電膜を形成することにより、最終的に得られるポリイミドフィルムに導電性を付与して、半導電性ポリイミドフィルムとすることができるとともに、上述したように、得られる半導電性ポリイミドフィルムの抵抗値の電圧依存性を小さくすることもできる。なお、導電膜が形成される対象となるゲルフィルムは、無機フィラーが添加されているゲルフィルムであってもよいし、無機フィラーが添加されていないゲルフィルムであってもよい。
上記ゲルフィルムを導電膜形成用塗布液により処理する方法としては、ゲルフィルムに導電膜を形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、ゲルフィルムに導電膜形成用塗布液を塗布する塗布法か、導電膜形成用塗布液にゲルフィルムを浸漬する浸漬法を好適に用いることができる。
上記塗布法は、従来公知の各種方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、グラビアコート、スプレーコート、ナイフコーターなどを用いる塗布法を挙げることができる。中でも、塗布量の制御や均一性の観点から、グラビアコーターを特に好ましく用いることができる。
上記導電膜形成用塗布液の塗布量としては、特に限定されるものではないが、1g/m以上であることが好ましく、5g/m以上であることがさらに好ましい。塗布量がこの範囲よりも少ないと、得られる半導電性ポリイミドフィルムの電気的特性の改善に対する効果が低くなる。
上記浸漬法も、特に限定されるものではなく、一般的なディップコート法を用いることができる。具体的には、導電膜形成用塗布液を入れた槽に、ゲルフィルムを、連続的またはバッチで浸漬する。浸漬時間については特に限定されるものではないが、通常、1秒以上が好ましい。浸漬時間がこれよりも短すぎると体積抵抗値の改善効果が小さくなる傾向にある。また、得られる半導電性ポリイミドフィルムの抵抗値を所望の値に調節するために、浸漬法の操作を2回以上繰り返すこともできる。
上記導電膜の形成においては、塗布法および浸漬法は、それぞれ単独で実施してもよいし、組み合わせて用いてもよい。特に、得られる半導電性ポリイミドフィルムの抵抗特性や電気的特性を制御したり改善したりするためには、塗布法および浸漬法を併用すると好ましい。
さらに、本実施の形態では、ゲルフィルムに、導電膜形成用塗布液を処理(浸漬および/または塗布)。した後に、ゲルフィルムの表面の余分な液滴を除去する操作を加えることが好ましい。これによって、ゲルフィルムの表面にムラ無く導電膜を形成することができるので、外観の優れた半導電性ポリイミドフィルムを得ることができる。
上記液滴の除去方法は特に限定されるものではなく、従来公知の各種方法を好適に用いることができる。具体的には、例えば、ニップロールによる液絞り、エアナイフ、ドクターブレード、拭き取り、吸い取り等の方法が挙げられる。中でも、フィルムの外観、液切り性、作業性などの観点から、ニップロールによる液絞り法を好ましく用いることができる。
〈導電性付与工程のバリエーション〉
前述したように、導電性付与工程では、上記各導電性の付与の方法を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよいが、そのバリエーションについて具体的に説明する。
導電性付与工程を実施するタイミングは、ゲルフィルム成形工程の前段、すなわちポリアミド酸溶液調製工程と同時あるいはポリアミド酸溶液調製工程の後であってもよいし、ゲルフィルム成形工程の後であってもよいし、さらには、上記各工程それぞれの後であってもよい。ポリアミド酸溶液調製工程と同時の場合、ポリアミド酸溶掖の調製と同時に無機フィラーの添加および/または導電性付与剤の添加を実施することになり、ポリアミド酸溶液調製工程の後には、ポリアミド酸溶液に対して、無機フィラーの添加および/または導電性付与剤の添加を実施することになり、ゲルフィルム成形工程の後には、無機フィラーの添加(例えばフィラー分散液の塗布)および/または導電膜の形成を実施することになる。
ここで、上述したように、導電性付与剤の添加および導電膜の形成には、同じ導電膜形成用塗布液を使用することができるので、導電性の付与の具体的なバリエーションは、次の(A)〜(C)のようにまとめることができる。
(A)ポリアミド酸溶液調製工程と同時あるいはその後のみ
ポリアミド酸溶液(調製中・調製後)に対して、(A−1)無機フィラーの添加、(A−2)導電膜形成用塗布液の添加、または(A−3)無機フィラーおよび導電膜形成用塗布液の添加を行うのみ。
(B)ゲルフィルム成形工程の後のみ
ゲルフィルムに対して、(B−1)無機フィラーの添加(フィラー分散液の塗布)、(B−2)導電膜形成用塗布液の塗布、または(B−3)フィラー分散液および導電膜形成用塗布液の塗布を行うのみ。
(C)ポリイミド酸溶液調製工程およびゲルフィルム成形工程の双方の後
(C−1)ポリアミド酸溶液に対して無機フィラーの添加のみを行う場合
ポリアミド酸溶液に対して、無機フィラーの添加を行った後、得られるゲルフィルムに対して、(C−1−1)無機フィラーの添加(フィラー分散液の塗布)、(C−1−2)導電膜形成用塗布液の塗布、または(C−1−3)フィラー分散液および導電膜形成用塗布液の塗布を行う。
(C−2)ポリアミド酸溶液に対して導電膜形成用塗布液の添加のみを行う場合
ポリアミド酸溶液に対して、導電膜形成用塗布液の添加を行った後、得られるゲルフィルムに対して、(C−2−1)無機フィラーの添加(フィラー分散液の塗布)、(C−2−2)導電膜形成用塗布液の塗布、または(C−2−3)フィラー分散液および導電膜形成用塗布液の塗布を行う。
(C−3)ポリアミド酸溶液に対して無機フィラーおよび導電膜形成用塗布液の添加を行う場合
ポリアミド酸溶液に対して、無機フィラーおよび導電膜形成用塗布液の添加を行った後、得られるゲルフィルムに対して、(C−3−1)無機フィラーの添加(フィラー分散液の塗布)、(C−3−2)導電膜形成用塗布液の塗布、または(C−3−3)フィラー分散液および導電膜形成用塗布液の塗布を行う。
本発明では、導電性の付与の具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、導電性付与工程において、上記(A)〜(C)の何れの方法を用いてもよく、また、複数の方法を組み合わせてもよい。
〈導電性付与後イミド化工程〉
前記ゲルフィルム成形工程で説明したように、前述した製膜溶液を支持体上にフィルム状にキャストし、該支持体上で80℃〜200℃の範囲内で加熱した上で、支持体から剥離することにより、部分的に硬化および/または乾燥させたゲルフィルムが得られる。このゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にある。
そして、上記導電性付与工程で説明したように、無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および導電膜の形成の少なくとも何れか一つ手法を用いて、成形前や成形後のゲルフィルムに導電性を付与する。この時点のゲルフィルムは、(a)無機フィラーおよび/または導電性付与剤を含有するゲルフィルムであるか、(b)表面に導電膜が形成されたゲルフィルムであるか、(c)無機フィラーおよび/または導電性付与剤を含有し、かつ表面に導電膜が形成されたゲルフィルムとなっており、ポリアミド酸は完全にイミド化(硬化)されていない。
そこで、導電性付与後イミド化工程にて、上記(a)〜(c)の導電性が付与されたゲルフィルムをイミド化する。このときのイミド化の具体的な方法は、前記ゲルフィルム成形工程で説明した熱キュア法や化学キュア法を好適に用いることができる。
ここで、導電性付与後イミド化工程では、イミド化による収縮を回避するために、上記ゲルフィルムの端部を固定しておくことが好ましい。このように、端部を固定した後、ゲルフィルムを乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤、あるいは触媒等を除去し、残留するアミド酸を完全にイミド化することによって、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムを得ることができる。
ここで、導電性付与後イミド化工程における加熱処理は、最終的に、次に示す範囲の温度かつ時間で実施されることが好ましい。温度範囲は400℃〜580℃の範囲内であり、好ましくは450℃〜550℃の範囲内でである。時間は1秒〜500秒の範囲内であり、好ましくは15秒〜400秒の範囲内である。
加熱処理において、少なくとも、温度が上記範囲より高いが、時間が上記範囲より長くなると、ゲルフィルムの熱劣化が起こり、得られる半導電性ポリイミドフィルムの機械的特性の低下が生じるおそれがある。逆に、温度が上記範囲より低いか、時間が上記範囲より短くなると、耐加水分解性等の化学的特性の低下が生じるることがある。
〈半導電性ポリイミドフィルムの諸物性〉
このようにして得られた本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、完全硬化前に導電性を付与することになるので、ポリイミドフィルムに優れた電気的特性を与えることができるだけでなく、製造時の各種条件を変えることで、上記電気的特性を制御することも可能になる。その結果、得られる半導電性ポリイミドフィルムの機械的特性を向上することができ、かつ、伸度を向上することもできるなど優れた特性を実現できる上に、ポリイミドフィルムの表面抵抗および体積抵抗を精度よく制御し、抵抗値の電圧依存性を小さくすることができる。
本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの具体的な特性について説明すると、半導電性領域の抵抗値を有し、少なくとも、その電気的特性のうち、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1013Ω/□の範囲内となり、体積抵抗値が10Ωcm〜1014Ωcmの範囲内となる。しかも、これら抵抗値は、電圧依存性が小さくなっている。また、特に、導電性付与工程で、無機フィラーの添加を採用することにより、伸度や機械的特性を向上することが可能である。
本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムについて、導電性付与工程別に、実現可能な特性の一例を以下に説明する。なお、抵抗値(表面抵抗値および体積抵抗値)、伸度、および各種機械的特性は、従来公知の一般的な方法により測定されるものであり、その測定方法は特に限定されるものではない。
前記導電性付与工程で、無機フィラーの添加を実施した場合に得られる半導電性ポリイミドフィルムでは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値を1010Ω/□〜1013Ω/□の範囲内とすることができ、体積抵抗値を1010Ωcm〜1014Ωcmの範囲内とすることができる。この半導電性ポリイミドフィルムでは、15重量%〜50重量%の無機フィラーを含んでいることが好ましい。換言すれば、ポリイミドと半導電性無機フィラーとの重量比を85:15〜50:50となるような半導電性ポリイミドフィルムであることが好ましい。
上記導電性付与工程で、導電性付与剤の添加を実施した場合に得られる半導電性ポリイミドフィルムでは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値を10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内とすることができ、体積抵抗値を10Ωcm〜1013Ωcmとすることができる。
上記導電性付与工程で、導電膜の形成を実施した場合に得られる半導電性ポリイミドフィルムでは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内であり、かつ、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内である。
上記導電性付与工程においては、導電性付与剤の添加または導電膜の形成のそれぞれに対して、無機フィラーの添加を併用することができるが、この場合、半導電性ポリイミドフィルムに含まれる無機フィラーの量は、15重量%〜50重量%の範囲内であるとより好ましい。
また、少なくとも、導電性付与工程で、無機フィラーの添加を実施した場合、得られる半導電性ポリイミドフィルムの伸度および機械的特性は次のようになる。
まず、上記半導電性ポリイミドフィルムの引張伸び(伸度)は少なくとも40%以上、さらには45%以上、またさらには50%以上となる。
また、機械的特性のうち、上記半導電性ポリイミドフィルムの引張弾性率は、フィラーを含まない場合と比較して、少なくとも1.1倍以上、さらには1.3倍以上、またさらには1.6倍以上となる。
同様に、機械的特性のうち、上記半導電性ポリイミドフィルムの引裂強度は、フィラーを含まない場合と比較して、少なくとも1.1倍以上、さらには1.2倍以上、またさらには1.3倍以上となり、絶対値では、少なくとも400g/mm以上、さらには500g/mm以上、またさらには600g/mm以上となる。
〈実施例〉
次に、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。各実施例および比較例は、導電性付与工程における導電性の付与方法別に記載した。なお、ポリイミドフィルムの諸特性については、以下のようにして測定した。
〔表面抵抗値および体積抵抗値〕
半導電性ポリイミドフィルムの表面抵抗値および体積抵抗値の測定は、すべて測定環境下に48時間放置して湿度調整し、ADVANTEST社製のR8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METERを用い、30秒除電した後、100Vの電圧を印加してから30秒後の電流値を読み取って求めた。
〔抵抗値の面内バラツキ〕
抵抗値を100Vで測定した上で、最大値と最小値の差分を面内バラツキとして求めた(面内バラツキ=最大値−最小値)。
〔引裂伝播強度および引張強度〕
得られたポリイミドフィルムの引裂伝播強度はASTM D−1938にしたがって測定した。同じく引張強度はJIS C−2318に従って測定した。
〈無機フィラーの添加〉
〔実施例1〕
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを1:1のモル比で用いて合成したポリアミド酸の18.5重量%DMF溶液100gに、針状の酸化チタンフィラー(繊維長5.155μm、繊維径0.27μm;石原産業株式会社製、商品番号FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)6.4gとDMF28gとからなるスラリーを添加し、混合した。
次いで、このフィラー分散ポリアミド酸ワニスに、無水酢酸9g、イソキノリン11.4g、DMF15.6gからなる硬化剤を混合し、撹拌した。遠心分離による脱泡の後、この混合物をアルミ箔上に流延塗布した。撹拌から脱泡までは0℃以下に冷却しながら行った。
このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を、140℃で250秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。
このゲルフィルムを200℃、300℃、400℃、450℃で各1分間加熱して、厚さ75μmの半導電性ポリイミドフィルムを製造した(フィラー含有量:28.6重量%)。この半導電性ポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔実施例2〕
針状の酸化チタンフィラー(上記FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)を9.6g用いた以外は実施例1と全く同様にして、厚さ75μmの半導電性ポリイミドフィルムを得た(フィラー含有量:37.5重量%)。この半導電性ポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔参考例〕
酸化チタンとDMFとからなるスラリーを用いなかったこと以外は実施例1と全く同様にして、フィラーを含まない厚さ75μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔比較例1〕
酸化インジウム錫で被覆された針状の酸化チタン(繊維長2.86μm、繊維径0.21μm;石原産業株式会社製、FT−2000、粉体抵抗10Ω・cm)6.4gとDMF28gからなるスラリーを用いた以外は、実施例1と全く同様にして、厚さ75μmのポリイミドフィルムを得た(フィラー含有量28.6%)。このポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔比較例2〕
酸化インジウム錫で被覆された針状の酸化チタン(上記FT−2000、粉体抵抗10Ω・cm)4.8gとDMF28gからなるスラリーを用いた以外は、実施例1と全く同様にして、厚さ75μmのポリイミドフィルムを得た(フィラー含有量23.1%)。このポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔比較例3〕
酸化インジウム錫で被覆された針状の酸化チタン(上記FT−2000、粉体抵抗10Ω・cm)4.8gおよび酸化インジウム錫で被覆された球状の酸化チタン2.4gとDMF28gからなるスラリーを用いた以外は、実施例1と全く同様にして、厚さ75μmのポリイミドフィルムを得た(フィラー含有量:28.6%)。このポリイミドフィルムの諸特性を表1に示す。
〔比較例4〕
酸化インジウム錫で被覆された球状の酸化チタン(平均粒径0.3μm;石原産業株式会社製、ET−600W、粉体抵抗30Ω・cm)6.4gとDMF28gからなるスラリーを用いた以外は実施例1と全く同様にしてポリイミドフィルムを製造しようとした。しかしながら、フィルムの機械的強度が低く、400℃の焼成途中でフレームの固定部位からフィルムが裂け、平滑なポリイミドフィルムを得ることができなかった。
Figure 2002102882
表1の結果から明らかなように、本発明で得られる半導電性ポリイミドフィルムは、抵抗値の測定電圧依存性が小さく、精度良くかつ容易に表面抵抗および体積抵抗を制御することができ、優れた機械的強度も有していることが分かる。
〈導電性付与剤の添加〉
以下の実施例3〜5では、導電性の付与方法として、無機フィラーの添加に、導電性付与剤の添加を併用している。
〔導電性付与剤の調整例〕
蟻酸インジウム及び蟻酸錫(II)を、インジウムと蟻酸錫の元素数含有比率が90:10となるようにN,N,−ジメチルホルムアミドに溶解し、合計で1重量%(酸化インジウム錫換算濃度)の酸化インジウム錫膜形成用塗布液(説明の便宜上、ITO膜形成用塗布液と略す)を調製した。このITO膜形成用塗布液を、導電性付与剤溶液として用いた。
〔実施例3〕
針状の酸化チタンフィラー(上記FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)5を4.8g用いた以外は、実施例1と全く同様にしてゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの揮発分含有量は43%であった。
このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、調製例で得たITO膜形成用塗布液に浸漬し、ニップロールに通すことにより余分な液滴を除去した後、フレームに固定した。
このゲルフィルムを200℃、300℃、400℃、450℃で各1分間加熱して、厚さ75μmの半導電性ポリイミドフィルムを製造した(フィラー含有量:28.6重量%)。この半導電性ポリイミドフィルムの諸特性を表2に示す。
なお、本実施例で、無機フィラーのみを添加せずに得たゲルフィルムのイミド化率は92%であった。
〔実施例4〕
針状の酸化チタンフィラー(上記FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)を9.6g用いた以外は実施例3と全く同様にして、厚さ75μmの半導電性ポリイミドフィルムを得た(フィラー含有量37.5重量%)。このゲルフィルムの揮発分含有量は39%であった。この半導電性ポリイミドフィルムの諸特性を表2に示す。
なお、本実施例で、無機フィラーのみを添加せずに得たゲルフィルムのイミド化率は92%であった。
〔実施例5〕
実施例4と同様にしてゲルフィルムを得た(使用した無機フィラー:上記FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)。このゲルフィルムを、調製例で得たITO膜形成用塗布液に浸漬し、ニップロールに通すことにより余分な液滴を除去した後、さらに同じITO形成用塗布液をゲルフィルム上にスプレーコートした(塗布量10g/m)。
このゲルフィルムをフレームに固定して実施例3と同様の条件で加熱して半導電性ポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの諸特性を表2に示す。
なお、本実施例で、無機フィラーのみを添加せずに得たゲルフィルムのイミド化率は92%であった。
〔比較例5〕
ITO膜形成用塗布液に浸漬しなかった以外は、実施例1と全く同様にしてポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの諸特性を表2に示す。
Figure 2002102882
表2の結果から明らかなように、本発明で得られる半導電性ポリイミドフィルムは、半導電性領域において、体積抵抗値および表面抵抗値を制度良くかつ容易に制御でき、さらに、上記各抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、フィルム面内の抵抗値のばらつきも小さくすることができる。
〈導電膜の形成〉
以下の実施例6でも、導電性の付与方法として、無機フィラーの添加に、導電膜の形成を併用している。なお、導電膜形成用塗布液として、導電性付与剤の調整例で調製したITO膜形成用塗布液を用いた。
〔実施例6〕
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを1:1のモル比で用いて合成したポリアミド酸の18.5重量%DMF溶液100gに、針状の酸化チタンフィラー(上記FTL−300、粉体抵抗10Ω・cm)3.5gとDMF28gとからなるスラリーと、調製例で調製したITO膜形成用塗布液(ポリイミド:酸化インジウム錫=100:2)34gとを添加し、混合した。
その後、実施例1と全く同様にしてゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの揮発分含有量は43%であった。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。
このゲルフィルムを200℃、300℃、400℃、450℃で各1分間加熱して、厚さ75μmの半導電性ポリイミドフィルムを製造した(フィラー含有量17重量%)。この半導電性ポリイミドフィルムの諸特性を表3に示す。
なお、本実施例で、無機フィラーおよびITO膜形成用塗布液を添加せずに得たゲルフィルムのイミド化率は92%であった。
〔比較例6〕
ITO膜形成用塗布液を添加しなかった以外は、実施例6と全く同様にしてポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの諸特性を表3に示す。
Figure 2002102882
表3の結果から明らかなように、本発明で得られる半導電性ポリイミドフィルムは、半導電性領域において、体積抵抗値および表面抵抗値を制度良くかつ容易に制御でき、さらに、上記各抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、フィルム面内の抵抗値のばらつきも小さくすることができる。
以上のように、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、必須成分として、ポリイミドと半導電性無機フィラーとを、85:15〜50:50の重量比で含む(換言すれば、15〜50重量%の半導電性無機フィラーを含む)ポリイミドフィルムであって、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が1010Ω/□〜1013Ω/□の範囲内であり、体積抵抗値が1010Ωcm〜1014Ωcmの範囲内である構成を有している。
上記半導電性ポリイミドフィルムは、引張伸びが少なくとも40%以上であり、さらには、引張弾性率および引裂伝播強度が、半導電性無機フィラーを含まないポリイミドフィルムの1.1倍以上であることが好ましい。また、上記半導電性無機フィラーは針状であることが好ましく、半導電性無機フィラーの材質が酸化チタンであることが好ましい。
また、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、半導電性無機フィラーを均一に分散させたスラリー中での重合によって半導電性無機フィラーを含むポリアミド酸の溶液を調製し、この溶液を含む製膜溶液を基材上に流延して製膜し、この膜を熱的または化学的にイミド化する製造過程か、ポリアミド酸の溶液と半導電性無機フィラーの均一分散スラリーとを混合し、この混合液を基材上に流延して製膜し、この膜を熱的または化学的にイミド化する製造過程を含む方法である。
本発明により、半導電性領域の抵抗値を有し、抵抗値の測定電圧依存性を小さくし、精度よくかつ容易に表面抵抗および体積抵抗が制御され、優れた機械的強度を有する半導電性ポリイミドフィルムを製造することができる。
また、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、以上のように、部分的に硬化及び/または部分的に乾燥されたゲルフィルムを、金属酸化物導電膜形成用塗布液に浸漬及び/または塗布し、その後に残ったアミド酸をイミド化し、かつこのフィルムを乾燥する方法であってもよい。
上記製造方法によって得られる、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内にあり、かつ、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内にある。
あるいは、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムの製造方法は、以上のように、ポリアミド酸の有機溶剤溶液と金属酸化物導電膜形成用塗布液とを含む製膜溶液を、支持体上に流延した後、イミド化し、かつ乾燥する方法であってもよい。
上記製造方法によって得られる、本発明にかかる半導電性ポリイミドフィルムは、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内にあり、かつ、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内にある。
上記何れの方法であっても、上記金属酸化物導電膜形成用塗布液が、酸化インジウム錫を含む溶液または分散液であることが好ましく、上記ゲルフィルムまたは製膜溶液が、最終硬化状態のポリイミドフィルムに対して15重量%〜50重量%の無機フィラーを含有することが好ましい。また、半導電性無機フィラーが酸化チタンウィスカーであることが好ましい。
本発明により、半導電性領域において、体積抵抗値および表面抵抗値を制度良くかつ容易に制御できる。しかも、得られる半導電性ポリイミドフィルムは、上記各抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、フィルム面内の抵抗値のばらつきも小さくすることができる。
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
産業上の利用の可能性
このように、本発明によれば、表面抵抗および体積抵抗を良好に制御でき、これら抵抗値の電圧依存性を小さくできるとともに、機械的特性に優れ、高い伸度を実現できるポリイミドフィルムを提供することができる。その結果、本発明は、ポリイミドフィルムを製造する化学産業のみならず、半導電性ポリイミドフィルムを利用する電気・電子産業や、機械産業にも利用することができる。

Claims (22)

  1. ポリアミド酸を含有する有機溶媒溶液をポリアミド酸溶液とし、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または部分的に乾燥して得られるフィルムをゲルフィルムとした場合に、
    少なくとも、上記ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施した後に、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化することによって得られ、
    印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が108〜1013Ω/□の範囲内であり、かつ、体積抵抗値が10〜1014Ωcmの範囲内である半導電性ポリイミドフィルム。
  2. ポリアミド酸を含有する有機溶媒溶液をポリアミド酸溶液とし、ポリアミド酸を部分的に硬化および/または部分的に乾燥して得られるフィルムをゲルフィルムとした場合に、
    ポリアミド酸溶液および/またはゲルフィルムに対して、半導電性無機フィラーの添加、導電性付与剤の添加、および、導電膜の形成の少なくとも何れかを実施する導電性付与工程と、
    上記導電性付与工程後に、上記ポリアミド酸溶液またはゲルフィルムに含まれるポリアミド酸をイミド化する導電性付与後イミド化工程とを含む半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  3. 15重量%〜50重量%範囲内で半導電性無機フィラーを含み、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が1010Ω/□〜1013Ω/□であり、体積抵抗値が1010Ωcm〜1014Ωcmである半導電性ポリイミドフィルム。
  4. 引張伸びが40%以上である請求の範囲3に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
  5. 引張弾性率および引裂伝播強度が、上記半導電性無機フィラーを含まないポリイミドフィルムの1.1倍以上である請求の範囲3に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
  6. 半導電性無機フィラーの形状が針状である請求の範囲3に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
  7. 上記半導電性無機フィラーの材質が酸化チタンである請求の範囲3に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
  8. 最終的に得られる半導電性ポリイミドフィルム中に、15重量%〜50重量%範囲内で半導電性無機フィラーが含まれるように、半導電性無機フィラーを均一に分散させたスラリー中での重合によって半導電性無機フィラーを含むポリアミド酸溶液を調製し、
    このポリアミド酸溶液を含む製膜溶液を支持体上に流延して製膜し、
    この膜を熱的または化学的にイミド化する過程を含む、請求の範囲2に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  9. 最終的に得られる半導電性ポリイミドフィルム中に、15重量%〜50重量%範囲内で半導電性無機フィラーが含まれるように、ポリアミド酸溶液と半導電性無機フィラーの均一分散スラリーとを混合し、
    この混合液を支持体上に流延して製膜し、
    この膜を熱的または化学的にイミド化する過程を含む、請求の範囲2に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  10. ゲルフィルムを、金属酸化物の導電膜形成用塗布液に浸漬および/または塗布し、
    その後、ゲルフィルムに残留するアミド酸をイミド化し、かつ、該ゲルフィルムを乾燥する過程を含む、請求の範囲2に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  11. 上記導電膜形成用塗布液が、酸化インジウム錫を含む溶液である請求の範囲10に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  12. 上記ゲルフィルムが、最終的に得られる半導電性ポリイミドフィルム中に15重量%〜50重量%の範囲内で半導電性無機フィラーが含まれるように、半導電性無機フィラーが添加されてなる請求の範囲10に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  13. 上記半導電性無機フィラーが酸化チタンウィスカーである請求の範囲12に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  14. ゲルフィルムを、金属酸化物の導電膜形成用塗布液に浸漬および/または塗布し、その後、ゲルフィルムに残留するアミド酸をイミド化し、かつ、該ゲルフィルムを乾燥することによって得られる半導電性ポリイミドフィルム。
  15. さらに、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内であり、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内である請求の範囲14に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
  16. ポリアミド酸溶液と導電性付与剤の溶液とを混合することにより製膜溶液を調製し、
    この製膜溶液を支持体上に流延した後、イミド化し、かつ乾燥する過程を含む、請求の範囲2に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  17. 上記導電性付与剤が、金属酸化物および/またはその前駆体である請求の範囲16に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  18. 上記金属酸化物が、酸化インジウム錫である請求の範囲17に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  19. 上記製膜溶液が、最終的に得られる半導電性ポリイミドフィルム中に15重量%〜50重量%の範囲内で半導電性無機フィラーが含まれるように、半導電性無機フィラーが添加されてなる請求の範囲16に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  20. 上記半導電性無機フィラーが酸化チタンウィスカーである請求の範囲19に記載の半導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
  21. ポリアミド酸溶液と導電性付与剤の溶液または分散液とを混合して製膜溶液を調製し、この製膜溶液を支持体上に流延した後、イミド化し、かつ乾燥することによって得られる半導電性ポリイミドフィルム。
  22. さらに、印加電圧100Vで測定した表面抵抗値が10Ω/□〜1012Ω/□の範囲内であり、体積抵抗値が10Ωcm〜1013Ωcmの範囲内である請求の範囲21に記載の半導電性ポリイミドフィルム。
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