JP4365918B2 - 透明導電膜形成用塗布液およびこれを使用した透明導電膜形成方法 - Google Patents

透明導電膜形成用塗布液およびこれを使用した透明導電膜形成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液晶表示素子やタッチパネル等の各種エレクトロニクス素子に用いられる透明導電膜の形成のための塗布液およびこれを使用した透明導電膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、透明導電膜は液晶表示素子、タッチパネル、電磁波シールド材、赤外線反射膜等に広く使用されている。
透明導電膜としては錫をドープした酸化インジウム膜(ITO)があり、これは蒸着法やスパッタ法、焼成法等により形成されていた。
【0003】
上記の透明導電膜の形成方法の中で蒸着法とスパッタ法は、真空容器を使用するため装置が大がかりで高価なうえ生産性が悪く大面積や曲面への成膜が困難であった。
それに比べ焼成法は、スピンコート法やディップコート法、印刷法などにより基材に塗布し焼成するため装置が簡単であり生産性に優れ、大面積や曲面への成膜が容易であるという利点がある。
しかも印刷法を用いて、配線パターンを直接基材に描画すれば、フォトエッチング工程を省くことができるためITO透明電極の製造コストの低減に大きな効果がある。
【0004】
一般に印刷法に用いるインクには良好な印刷性能を得るために、ある用途においては100ポアズ以上の高粘度と適度のチキソトロピー性が必要とされる場合がある。
そのために従来の透明導電膜形成用インクは、上記のような高粘度が要求される場合には増粘剤としてエチルセルロースやニトロセルロース、樹脂等が添加されている(例えば、特開昭56−5354号公報や特開昭63−19713号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの増粘剤は、成膜時に500℃程度の高温で焼成した場合にも完全燃焼せず、有機残渣が膜中に含まれるために形成されたITO膜の比抵抗が高く、膜強度の弱い膜しか得ることができなかった。
また、従来使用されているインジウム原料を使用した塗布液は保存安定性が悪く数週間で沈殿物を生じるなど、工業的な適性の高いものではなかった。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような問題点を解消し、保存性が良く、粘度調整が容易で且つ膜特性の良好な透明導電膜を得ることのできる透明導電膜形成用塗布液およびこれを使用した透明導電膜形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、式 In(OH)(OCOR)2(式中、Rは3−ヘプチル基であ)で表わされる有機インジウム化合物および有機錫化合物を、無極性溶媒または無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒に溶解してなる透明導電膜形成用塗布液を提供するものである。
また本発明は、これらの透明導電膜形成用塗布液を基板上に塗布し、熱処理することにより上記有機成分を熱分解する透明導電膜の形成方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に使用することのできる有機インジウム化合物は、構造式In(OH)(OCOR)2(式中、Rは3−ヘプチル基であ)で表されるインジウム−ジソープである
ンジウム−ジソープは、常温では空気中で安定であり、300℃程度に加熱すると熱分解して結晶性の酸化インジウムとなるので、焼成法による塗布液の成分として適している。
【0009】
本発明に使用する有機錫化合物としては、従来焼成法によるITO膜の形成に使用できることが公知の有機錫化合物であれば特に限定されること無く使用することができ、例えば、錫のアルコキシド、有機酸塩、および各種有機錯体等を挙げることができる。
例えば、テトラブトキシ錫、オクチル酸錫(II)、ジn−ブチル錫ジオクチル酸塩、アセチルアセトン錫等がある。
有機錫化合物としては、用いるインジウム−ジソープと熱分解温度が近似している化合物を選択することがより好ましい。
【0010】
本発明における塗布液中のインジウムと錫の元素数比率は、最終的に形成された透明導電膜中のインジウムと錫の比となるので、透明導電膜を得るに当たって所望とする透明導電膜中のインジウムと錫の比となるように、塗布液に使用する上記有機インジウム化合物および有機錫化合物の割合を選択すればよい。
【0011】
本発明に使用する溶媒は、これらの上記有機インジウム化合物および有機錫化合物の両方の化合物を溶解、好ましくは室温付近で溶解でき、且つ熱処理時に上記有機インジウム化合物、有機錫化合物と反応しない、若しくは反応し難いものであれば任意に選ぶことができる。尚、ここで言う「溶解」とは溶解させようとする温度における溶解度が概ね5(g/100g)以上であることを意味する。
また、本発明に使用する上記インジウム−ジソープは、無極性溶媒に溶解したとき、希薄溶液でも高い粘性を示すものであり、従来品のように増粘剤を使用すること無しに高粘度の塗布液を得ることができるものである。
ここで「無極性溶媒」の用語は、通常の有機化学工業分野において用いられる「無極性溶媒」と同義であり、必ずしもダイポーラモーメント0を意味するものではない。
このような無極性溶媒の例としては、例えば、キシレンやトルエン、デカリン、テトラリン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素などを挙げることができ、これらは混合して使用してもよい。
【0012】
また、本発明の上記無極性溶媒に溶解した塗布液は、溶媒としてさらに極性溶媒を少量添加すると溶液粘度を著しく低下することができる。
ここで「極性溶媒」の用語は、通常の有機化学工業分野において用いられる「極性溶媒」と同義である。
このような極性溶媒としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、α−ターピネオールなどのアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステルなどを挙げることができ、これらは混合して使用してもよい。
【0013】
上記の通り、本発明の塗布液は、インジウム−ジソープおよび無極性溶媒に適当な極性溶媒を組み合わせて用いることにより、増粘剤等を添加すること無しに、高粘度のペーストから低粘度の溶液まで、所望とする粘度の塗布液を容易に調整できるものである。
例えば、上記式に該当するインジウム−ジソープである、ビス(2−エチルヘキサノアート)ヒドロキソインジウム10gを、無極性溶媒であるキシレン90gに溶解すると、粘度80000センチポアズ程度のペースト状になるが、これに極性溶媒であるエタノールを添加していったときの粘度の変化を示すのが図1である(尚、図1にはビス(2−エチルヘキサノアート)ヒドロキソインジウムを8g、5gおよび3g溶解した場合も併記している)。このように塗布液の粘度の対数は添加される極性溶媒の量に比例して減少する。したがって、高粘度域における塗布液の粘度調整においては、ごく微量の極性溶媒の添加によって成し得るものである。
また、組成物中のインジウム−ジソープの量は得ようとするITO膜の性質によって決定されるが、インジウム−ジソープの量を減らすと図1のように粘度曲線自体がシフトするので、所望とするインジウム−ジソープ量における粘度曲線を得ておけば所望の粘度とすることができる。
尚、ここでは無極性溶媒としてキシレン、極性溶媒としてエタノールを例に説明したが、それぞれの溶媒の違いによっても粘度曲線はシフトするのでこの点も考慮して組成を選択するのがよい。
尚、このような性質は、構造式In(OCOR)3 (R=アルキル基)で表されるインジウム−トリソープでは全く見られない。
【0014】
塗布液におけるインジウム−ジソープの濃度には特に制約は無いが、濃度が低すぎると、成膜後のITO薄膜の膜厚が薄くなるため、導電性が悪くなり、濃度が高すぎると、ITO膜厚が厚くなるため、成膜時に膜面にひび割れ(クラック)を生じやすくなるので、固形分濃度として好ましくは3〜15重量%、より好ましくは7〜12重量%がよい。
【0015】
基板としては、熱分解温度および熱処理温度に耐え、かつ使用する溶媒への耐性のあるもので有れば任意に選ぶことができ、ITO膜形成用基板として公知のもの各種ガラス基板が全て使用できる。
【0016】
熱分解および熱処理は大気中で300℃以上で行うことができるが、より高温で行えばより低い抵抗値のITO薄膜が得られ、特に制限はないが工業的には300℃〜600℃が好ましい。熱処理時間は、温度にもよるが、通常20〜70分程度でよい。
また、熱処理の前に有機インジウム化合物が熱分解しない150℃程度の温度で塗布液を塗布した基板を乾燥した方がより平滑な膜面を得ることができるので好ましい。
さらに、得られたITO薄膜を、真空中または不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴンガス等)中で加熱処理、好ましくは200℃〜300℃で20分〜1時間程度の第2加熱処理をすることにより、導電性を更に向上させることができる。
この第2加熱処理は、予め成膜しておいたITO薄膜に施すこともできるが、本発明における熱処理に引き続いて行うこともできる。
すなわち塗布・乾燥後の基板を加熱して、熱分解が終了した段階で、加熱炉内を真空または不活性ガス雰囲気にして、熱処理〜冷却することにより、低抵抗のITO薄膜を得ることができる。
【0017】
【作用】
本発明によれば、従来の方法の問題となっている真空容器を使用せず大面積や曲面への成膜が容易に行え、また、有機インジウム化合物としてインジウム−ジソープを使用することにより、従来の有機化合物熱分解法(焼成法)の問題点である難分解性の増粘剤を添加すること無しに、膜質の良好なITO透明導電性薄膜を得ることができる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例により更に説明する。
実施例1
ビス(2−エチルヘキサノアート)ヒドロキソインジウム48gおよびオクチル酸錫(II)1.6gを、キシレン450gおよびエタノール50g、酢酸n−ブチル50gの混合溶媒に溶解して、粘度15センチポアズ(25℃)の塗布液とした。
この塗布液を無アルカリガラス基板上にスピンコート法により1000rpmで塗布し、150℃で10分間乾燥させた後、大気中で350℃で60分間熱処理してITO透明導電膜を得た。
得られた膜の特性を下記表1に示す。
また、この塗布液は常温で6ヶ月保存後も変質は見られず、粘度は15センチポアズのままであった。
【0019】
実施例2
実施例1と同様にして調整した塗布液を無アルカリガラス基板上にスピンコート法により1000rpmで塗布し、150℃で10分間乾燥させた後、大気中で500℃で60分間熱処理してITO透明導電膜を得た。
得られた膜の特性を下記表1に示す。
【0020】
実施例3
実施例2と同様にして得られた透明導電膜を、窒素ガス気流下で250℃で30分熱処理した後室温まで冷却し低抵抗化処理を実施した。
得られた膜の特性を下記表1に示す。
【0021】
実施例4
ビス(2−エチルヘキサノアート)ヒドロキソインジウム22gおよびオクチル酸錫(II)0.7gを、芳香族系溶剤(モービル石油株製、商品名:ペガソールR−10)200gに溶解して、粘度100ポアズ(25℃)のペーストとした。
このペーストをアルカリガラス基板上に325メッシュSUSスクリーンを用いてベタ印刷した後、大気中5℃/分で350℃まで昇温し1時間保持した後室温まで冷却してITO透明導電膜を得た。
尚、冷却過程では250℃以下の領域を窒素ガス雰囲気とした。
また、このペーストは常温で6ヶ月保存後も変質は見られず、粘度は100ポアズのままであった。
得られた膜の特性を下記表1に示す。
【0022】
比較例1
トリス(2−エチルヘキサノアート)インジウム25gおよびオクチル酸錫(II)0.7gを、キシレン200gに溶解し、これに増粘剤としてエチルセルロース(米国ハーキュレス社製、商品名 Ethyl Cellulose N-200)10gを加えて攪拌し、粘度150ポアズ(25℃)のペーストを得た。
このペーストをアルカリガラス基板上に325メッシュSUSスクリーンを用いてベタ印刷した後、大気中5℃/分で350℃まで昇温し1時間保持した後室温まで冷却してITO透明導電膜を得た。
しかし、このITO膜は茶褐色に着色しており、表面がザラついているため透明性が悪く、更に導電性も著しく悪いものであった。
また、このペーストは常温で2週間保存後、白濁し、下層に沈殿物を生じ、粘度の低下が見られた。
得られた膜の特性を下記表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 0004365918
【0024】
【発明の効果】
本発明の効果は、保存性が良く、粘度調整が容易で且つ膜特性の良好な透明導電膜を得ることのできる透明導電膜形成用塗布液およびこれを使用した透明導電膜形成方法を提供したことにある。
【図面の簡単な説明】
【図1】インジウム−ジソープおよび無極性溶媒からなるペーストに、極性溶媒であるエタノールを添加したときの粘度の変化を示す図である。

Claims (2)

  1. 式 In(OH)(OCOR)2(式中、Rは3−ヘプチル基であ)で表わされる有機インジウム化合物および有機錫化合物を、無極性溶媒または無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒に溶解してなる透明導電膜形成用塗布液。
  2. 請求項1に記載の透明導電膜形成用塗布液を基板上に塗布し、熱処理することにより有機成分を熱分解することを特徴とする透明導電膜の形成方法。
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