JP7359412B2 - 多結晶性マグネシウムシリサイド、焼結体及びその利用 - Google Patents

多結晶性マグネシウムシリサイド、焼結体及びその利用 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 (1)ELSEVIER社のウェブサイト(アドレス:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0925838818337320、平成30年10月9日掲載)に発表。 (2)内閣府及び国立研究開発法人科学技術振興機構が発行する刊行物である「革新的燃焼技術」の第20頁(平成31年1月発行)に掲載。 (3)平成30年度 SIP 革新的燃焼技術 公開シンポジウム(内閣府/国立研究開発法人科学技術振興機構主催、平成31年1月28日開催)に発表。 (4)ELSEVIIER社が発行する刊行物である「Journal of Alloys and Compounds」の第775巻、第657頁-666頁(平成31年2月15日発行)に掲載。
本発明は、多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料、焼結体、熱電変換素子、熱電変換モジュール、多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法及び焼結体の製造方法に関する。
近年、工場や自動車等から排出される熱(排熱)をエネルギーとして有効利用するため、熱電変換素子を用いて発電する試みがなされている。
熱電変換素子は、熱電変換材料を焼結した焼結体から構成される熱電変換部と、該熱電変換部に設けられる第1電極及び第2電極とを備えるものである。熱電変換材料としては種々の材料が知られているが、その中でもマグネシウムシリサイド(MgSi)は、MgとSiが双方とも安価な材料で環境負荷が小さく、かつ、高温領域で比較的高い熱電性能を有する材料として近年注目され数々の提案がされている(例えば、特許文献1~2参照)。
特開2011-29632公報 国際公開第2014/084163号
従来から、性能の向上を図るために一種又は二種以上のドープ剤を含有させた多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料(以後、単に「マグネシウムシリサイド系熱電変換材料」ともいう)が提案されている。
特に上記の特許文献1及び2に開示されている、ドープ剤としてSb単独あるいはSbとZnを併用したものが、現時点で最も高い熱電性能と優れた高温耐久性を有するものとして実用化が期待されている。
マグネシウムシリサイド系熱電変換材料を熱電素子の熱電変換部に適用する際には、一般的に焼結体に加工したものが使用されている。
しかしながら、ドープ剤使用の如何に関わらず、マグネシウムシリサイド系熱電変換材料からなる焼結体は機械的特性が低いという基本的な問題を抱えており、このことが上記の高い熱電性能と優れた高温耐久性を有するものがあるにも関わらず、実用化に至らない要因の一つとなっているのが実情である。
本発明は、上記問題を課題としてなされたものであり、第一の主たる課題は、高い機械的特性を有する多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料とその焼結体、熱電変換素子及び熱電変換モジュール、並びに多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料とその焼結体の製造方法を提供することであり、第二の課題は、機械的特性が高くかつ高温から低温まで広い温度領域で実用的に有効な熱電変換性能を有する多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料とその焼結体、熱電変換素子及び熱電変換モジュール、並びに多結晶性マグネシウムシリサイドとその焼結体の製造方法を提供することにある。
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、その結果、結晶粒内に炭化ケイ素(SiC)を含有した多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料及びその焼結体が上記課題を解決できることを見出し、本発明を創出するに至った。
より具体的には以下に示すとおりである。
<1> 結晶粒内に炭化ケイ素が存在する多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<2> 1)原料の多結晶性マグネシウムシリサイドと炭化ケイ素とからなる溶融固化体、2)前記溶融固化体の粉砕物及び3)前記粉砕物の焼結体のいずれかで構成される<1>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<3> 4)原料の多結晶性マグネシウムシリサイドと炭化ケイ素とからなる溶融固化体、5)前記溶融固化体の粉砕物と炭化ケイ素あるいは金属粒子とからなる混合物及び6)前記混合物の焼結体のいずれかで構成される<1>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<4> 炭化ケイ素の含有量が2.0~14.0質量%である<1>又は<2>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<5> ドーパントを含む<1>~<4>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<6> 前記ドーパントがSb単独あるいはSbとZnとの組み合わせである<1>~<5>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<7> 前記粉砕物に対する炭化ケイ素の比率が1.0~5.0体積%であり、前記粉砕物に対する金属粒子の比率が1.0~2.0体積%である<3>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<8> 前記金属粒子が、Ni、Zn、Al、Cu、Co、Ag及びAuからなる群より選択される少なくとも一種である<3>又は<7>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<9> 380Kにおけるパワーファクターが1.8mWm-1-2以上、かつ、873Kにおけるパワーファクターが2.3mWm-1-2以上である<1>~<8>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<10> 350K~800Kの温度範囲で1.5mWm-1-2以上のパワーファクターを有する<1>~<9>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
<11> 破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上である<1>~<10>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体。
<12> 破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上、ヤング率が118GPa以上、かつ、かさ密度が2.0g/cm以上である<2>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体。
<13> 破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上、かつ、350K~800Kの温度範囲で1.5mWm-1-2以上のパワーファクターを有する<1>~<9>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体。
<14> <2>~<13>のいずれか1項に記載の焼結体から構成された熱電変換部と、前記熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備える熱電変換素子。
<15> <14>に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
<16> マグネシウムシリサイドを脱酸素雰囲気中で粉砕し、得られた粉砕物を炭化ケイ素ナノ粒子と混合した後、得られた混合物を脱酸素雰囲気中で上限温度を1085℃で加熱溶融した後、冷却して溶融固化体を作製する工程を含む多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
<17> 前記加熱溶融及び前記冷却は、前記粉砕物を、大気圧下電気炉内で、1085℃まで2時間かけて昇温した後、1085℃の温度を5分間保持してから室温まで2時間かけて降温・冷却して行う<16>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
<18> マグネシウムシリサイドの粉砕物を構成する結晶粒の粒径が50μm以下で、かつ、炭化ケイ素ナノ粒子の平均粒径が35nmである<16>又は<17>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
<19> マグネシウムシリサイドの粉砕物と炭化ケイ素ナノ粒子との混合物を圧粉体にして加熱溶融する<16>~<18>のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
<20> 前記溶融固化体を、脱酸素雰囲気中で、結晶粒の粒径が50μm以下になるように粉砕して粉砕物を作製する工程を含む<17>又は<18>に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
<21> <20>に記載の製造方法により得られる粉砕物を、温度880℃、圧力50MPaの条件で焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
<22> 約17分間かけて880℃までに加熱後、約15分放置してから約19分間で600℃に降温し、次いで真空冷却する昇温降温条件で行う<20>に記載の焼結体の製造方法。
<23> <20>に記載の製造方法により得られる粉砕物に炭化ケイ素を混合し、得られる混合物を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
<24> 前記粉砕物に対する前記炭化ケイ素の比率が1.0~5.0体積%である<23>に記載の焼結体の製造方法。
<25> <20>に記載の製造方法により得られる粉砕物と金属との混合物を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
<26> 前記粉砕物に対する前記金属の比率が1.0~2.0体積%である<25>に記載の焼結体の製造方法。
本発明によれば、機械的特性を向上させた多結晶性マグネシウムシリサイド、熱電変換材料、焼結体、熱電変換素子、熱電変換モジュール、多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法及び焼結体の製造方法を提供することができる。
焼結装置用冶具の一例を示す図である。 熱電変換モジュールの一例を示す図である。 熱電変換モジュールの他の例を示す図である。 実施例5の試料の透過型電子顕微鏡の像(TEM像)を示す図である。 実施例4、5、6及び比較例で作製した各焼結体の二次電子像を示す図である。 実施例4、5、6及び比較例の各試料のX線回折分析結果を示す図である。 実施例2の粉砕物と5.0体積%の炭化ケイ素粉末との混合物で溶融前のもの、その混合物から作製した溶融固化体、及び実施例5の焼結体のそれぞれのX線回折分析結果を示す図である。 実施例4、5、6の各試料のヤング率を示すグラフである。 実施例4、5、6及び比較例の各試料の破壊靭性値を示すグラフである。 実施例4及び比較例の各試料に対し、JIS R 1607に準拠する破壊靭性試験を行った際に生じた亀裂の進展挙動を示す走査型電子顕微鏡による像(SEM像)を示す図であり、(a)は比較例の試料、(b)は実施例4の試料の各SEM像を示す図である。 実施例5、6の各試料に対し、JIS R 1607に準拠する破壊靭性試験を行った際に生じた亀裂の進展挙動を示す走査型電子顕微鏡による像(SEM像)を示す図であり、(a)は実施例5の試料、(b)は実施例6の試料の各SEM像を示す図である。 図10、11に示す各試料の亀裂の進展挙動のSEM像の全体を示した図である。 実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。 実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度と電気伝導率との関係を示すグラフである。 実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。 実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度と熱伝導率との関係を示すグラフである。 実施例4、5、6及び比較例の温度と無次元性能指数ZT0との関係を示すグラフである。 実施例7、8、10、11、12及び比較例の各試料のヤング率を示すグラフである。 実施例7、8、9及び比較例の各試料の破壊靭性値を示すグラフである。 実施例7、15、16及び比較例の各試料の破壊靭性値を示すグラフである。 実施例7、10、12及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数(μVK-1)との関係を示すグラフである。 実施例7、10、12及び比較例の各試料の温度と電気伝導率(×10Ω-1-1との関係を示すグラフである。 実施例15、16及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数(μVK-1)との関係を示すグラフである。 実施例15、16及び比較例の各試料の温度と電気伝導率(×10Ω-1-1)との関係を示すグラフである。 実施例7、10、12及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。 実施例15、16及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について説明する。
<本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の概要>
本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、炭化ケイ素粒子が結晶粒内に含有することを特徴とするものである。
本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料を製造する過程で、結晶粒界に炭化ケイ素粒子が含有することがあるが、炭化ケイ素粒子が結晶粒内に含有し存在していることが、該熱電変換材料の機械的特性を所期通り向上させて、発明の課題解決に寄与している。
すなわち、結晶粒内に炭化ケイ素粒子が含有する本発明の該熱電変換材料は、結晶粒内に存在しないものに比べて、高い機械的特性を有し、破壊靭性値が高く、機械的負荷が生じても割れにくく亀裂欠陥が生じにくいものであり、破壊靭性値について言えば、約2倍までの高い値を有するものである。
このように、炭化ケイ素粒子が結晶粒内に存在するがために高い機械的特性が得られる理由として、マグネシウムシリサイドの一つの結晶粒の中に炭化ケイ素粒子が存在しているので、亀裂が生じてもその大きさが小さく留まってその進展を抑える機能を発揮することによるものと考えられる。
従って、本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料を熱電変換素子及び熱電モジュールに適用した場合に、機械的負荷が加わっても熱電変換素子が割れるのを防いで、熱電変換としての機能を維持できることが期待できる。
仮に、粒界のみにSiC粒子が存在する場合には、MgSiの結晶粒に亀裂が発生すると、結晶粒単位で進展していくため、このような機械的特性の向上は期待できない。
次に、熱電変換性能について、取り出せる電力の指標であるパワーファクターによって説明する。
本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、350K~800Kの広い温度範囲で1.5mWm-1-2以上のパワーファクターを有するものである。
最近の特に高い電力を必要としない用途分野、例えばIOT用のセンサーなどには、パワーファクターが低くて出力電力が低い熱電変換材料でも適用可能であるため、高い機械的強度を有する本発明の該熱電変換材料を有効に活かすことができる。
また、本発明の高い機械的強度を有する該熱電変換材料は、前述した現時点で最も高い熱電変換性能を有する焼結体と比較すると、ほぼ同レベルの熱電変換性能を有しており、例えばパワーファクターを比較すると、低温領域の380Kでの数値は1.8mWm-1-2になって約90%、高温領域の873Kでの数値は2.3mWm-1-2になって約88%を達しており、ほぼ同レベルである。
さらに、本発明の該熱電変換材料の無次元性能指数(ZT)は、523Kにおいて、0.30以上、873Kにおいて0.60以上で、従来のものの約85%の値が得られている。
しかしながら、本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、炭化ケイ素の含有量が多ければ多いほど機械的特性が高くなる反面、熱電変換性能が低下する傾向を示し、いわゆる2つの性能が相反するので、含有量としては所望の機械的特性と熱電変換性能とのバランスを考慮し、0.1~20.0体積%であることが好ましく、さらに5.0~15体積%であることがより好ましい。
斯様な本発明のマグネシウムシリサイド熱電変換材料は、次に述べる特殊な方法によって製造される。
<多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法>
本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、基本的に以下に示す方法によって製造される。
即ち、原材料のMgSi系熱電変換材料の粉砕物a)とSiC粒子との混合物を加熱溶融させた後冷却して固化させる工程A(「加熱溶融工程」ともいう)と、該固化したものを粉砕しその粉砕物b)を焼結させる工程B(「焼結工程」ともいう)の2つの工程を順次行って焼結体が製造される。
このようにして作製される熱電変換材料を、[粒内型]と称する。
また、上記の工程Aの加熱溶融工程を行った後、上記の工程Bの焼結工程において該溶融固化体の粉砕物b)に新たにSiCあるいは金属粒子を混合し、その混合物を焼結する工程Cを行うことによって、結晶粒内にSiCを存在させるとともに、結晶粒界に金属粒子等を意図的に存在させて作製したものも、本発明のMgSi系熱電変換材料に包含される。このように、MgSiの結晶粒内にSiCを存在させ、かつ、その結晶粒界に金属粒子等を意図的に存在させたものを、[粒内粒界型]と称する。
なお、上記の粉砕物a)とSiC粒子との混合物を、加熱溶融工程を経ずして、直接焼結するやり方では、SiC粒子を取り込むことはできず、その結晶粒界だけに存在するものとなる。
加熱溶融工程におけるMgSi系熱電変換材料の粉砕物a)及び焼結工程における熔融固化体の粉砕物b)は、ボールミルなどによって粉砕され、酸化を極力防止するために、いずれもアルゴン雰囲気のような脱酸素雰囲気中で作製することが必要である。
上記溶融固化体と上記焼結体のいずれにおいても、結晶粒内にSiCを含有させるためには、原料として粒径が選択されたSiC粒子を用いる必要がある。
上記の粉砕物a)と粉砕物b)を構成するMgSiの結晶粒子の粒径としては、好ましくは約50μm以下、より好ましくは約30μm以下、さらに好ましくは約25μm以下である。結晶粒子の粒径が小さいと粒子間が詰まった緻密な焼結体を得ることができ、欠陥の大きさが小さくなるため、高い強度、破壊靭性値となって機械的特性を向上させるばかりでなく、熱電変換性能を上げるにも有効である。
該加熱溶融工程において、上記の粉砕物a)とSiC粒子とは溶融するが、化学的な反応を生じていないことは言うまでもない。
加熱溶融工程において上記の固化したものを溶融固化体と称し、該溶融固化体(1)、該溶融固化体の粉砕物(2)及び該粉砕物から作製される焼結体(3)はいずれも、MgSiの結晶粒内にSiCが存在しかつ熱電変換性を有するものである。
該溶融固化体(1)は、該焼結体ほどの機械的特性は有しないものの、それ自体粒内にSiC粒子を含んで機械的特性が向上し、熱電素子さらには熱電変換モジュールに適用可能なものである。
また、マグネシウムシリサイド系熱電変換材料とSiC粒子とからなる該溶融固化体(1)、該溶融固化体の粉砕物(2)及び該粉砕物から作製される焼結体(3)は、いずれもそれぞれ単独で商品として価値を有するものであり、本発明の熱電変換材料に包含される。
<溶融固化体を作製する加熱溶融工程(工程A)>
(原材料に用いるMgSi系熱電変換材料)
原材料に用いるMgSi系熱電変換材料としては限定されないが、例えば、上記特許文献1に記載の製法に従い、Mg元素とSi元素と必要に応じてドーパントとからなる混合物を溶融反応させマグネシウムシリサイドを合成させて、得られる溶融固化体(チャンク状)を原材料に用いる場合と、さらに該溶融固化体の粉砕物を焼結させて得られる焼結体を原材料に用いる場合とがあり、またドーパントを含むものと含まないであっても良く、ドーパントとしてはC、Sb、Zn、Al、Ag及びCu等から選ばれる1種以上0.1~3.0at%含まれるものが用いられ、また市販のものも使用可能である。
工程Aにおいて、原材料の該MgSi系熱電変換材料を粉砕して用いるが、粉砕物a)を構成するMgSiの結晶粒子の粒径として、好ましく約50μm以下、より好ましくは約30μm以下、さらに好ましくは約25μm以下であることが好ましい。
(原材料に用いる炭化ケイ素)
原材料に用いる炭化ケイ素は特に限定されず、例えば、六方晶系のα-SiCや、立方晶系のβ-SiCの粉末状のものを用いたり、又は、塊状の六方晶系のα-SiCや、立方晶系のβ-SiCを用いたりすることができる。炭化ケイ素の粒径は、平均粒径が35nm程度のナノ粒子であることが好ましい。
また、原材料に使用するMgSi系熱電変換材料の粉砕物a)に対するSiC粒子の混合割合は、溶融条件(昇温速度、最高温度、保持時間、降温速度)等によって調整する必要があるが、0.1~15.0vol%が好ましく、さらに1.0~10.0vol%がより好ましい。
(加熱溶融工程における昇温降温条件)
加熱溶融工程は、結晶粒内にSiCを含有させるために極めて重要な工程である。
具体的には、大気圧下電気炉内で行って、1085℃(マグネシウムシリサイドの融点)まで2時間かけて昇温した後、1085℃の温度を5分間保持してから、室温まで2時間かけて降温・冷却して行われ、昇温速度、最高温度、保持時間、降温速度等、加熱温度とその昇温と降温をきめ細かく制御して行う必要がある。
(加熱溶融工程における圧粉体の使用)
加熱溶融工程Aにおいては、SiCがナノ粒子の場合に飛散しやすいために、原材料のMgSi系熱電材料の粉砕物a)とSiC粒子との混合物をいきなり加熱溶融させるのが困難になる場合があり、その対策として、例えば、該混合物を一旦圧粉体にしてから、真空引きアルゴン置換して石英管に封入した後、脱酸素雰囲気中で加熱溶融することが好ましい。
(炭化ケイ素の結晶粒内存在状態の確認)
加熱溶融工程Aによって作製した溶融固化体の結晶粒内に炭化ケイ素が存在する状態は、工程Bによって作製する焼結体でも同様な状態が存在している。
このような炭化ケイ素が結晶粒内に存在している状態は、溶融固化体について走査型電子顕微鏡(SEM)や、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて定性的に確認したり、あるいは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)や、グロー放電質量分析法(GDMS)等を用いて定量的に分析したりすることができる。
<焼結体を作製する焼結工程(工程B)>
(焼結工程Bにおける昇温降温条件)
工程Bにおいては、工程Aの加熱溶融を行って得られた多結晶性マグネシウムシリサイドの溶融固化体を粉砕して粉砕物b)を形成し、該粉砕物b)を焼結して焼結体が作製される。
多結晶性マグネシウムシリサイドの焼結は、以下の条件で好ましく行われるが、該条件に限定されるわけではない。
約17分間かけて880℃までに加熱後、約15分放置してから約19分間で600℃に減圧下降温し、次いで真空冷却する。
(焼結工程に使用する粉砕物b)の粒径)
工程Bにおいては、上記の工程Aの加熱溶融を行って得られた多結晶性マグネシウムシリサイドの溶融固化体を粉砕物b)を構成するMgSiの結晶粒子の粒径として、好ましく約50μm以下、より好ましくは約30μm以下、さらに好ましくは約25μm以下である。
(焼結方法と焼結治具)
焼結には、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、放電プラズマ焼結法等の加圧圧縮焼結法を採用することができ、その中でも放電プラズマ焼結法が生産性やコストの面で好ましい。
加圧圧縮焼結には、例えば、図1に示すような冶具が用いられる。焼結に際しては、まず、図1に示すグラファイト製ダイ10とグラファイト製パンチ11a、11bとで囲まれた空間に本実施形態に係る多結晶性マグネシウムシリサイドの粉砕物を充填する。その際、固着を防ぐため、多結晶性マグネシウムシリサイドとグラファイト製ダイ10及びグラファイト製パンチ11a、11bとの接触部分にカーボンペーパーを挟んでもよい。その後、放電プラズマ焼結装置等の焼結装置を用いて焼結する。
(焼結条件)
加圧圧縮焼結の焼結圧力は5~60MPaとすることができる。焼結圧力を5MPa以上とすることで、十分な密度(例えば、理論密度に対する相対密度が97%以上)を有する焼結体が得られやすい傾向にある。一方、焼結圧力を60MPa以下とすることで、焼結体の製造が容易になる。
また、加圧圧縮焼結の焼結温度は600~1000℃とすることができる。焼結温度を600℃以上とすることで、十分な密度を有する焼結体が得られやすい傾向にある。一方、焼結温度を1000℃以下にすることで、マグネシウムシリサイドの酸化・分解が抑えられる傾向にある。焼結は減圧下かつ不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
<工程Cによる焼結体の作製[粒内粒界型]>
前述したように、加熱溶融工程Aにおいて、溶融固化体の粉砕物b)に金属粒子あるいはSiCを混合し、その混合物を焼結する工程(工程C)によって、粒内にSiCを粒界に金属粒子等を存在させた焼結体とすることもできる。
溶融固化体の粉砕物b)と金属粒子あるいはSiCとの混合物は、酸化防止のために脱酸素雰囲気中で作製することが好ましい。
加熱溶融工程Aにおいて得られた溶融固化体の粉砕物b)に金属粒子あるいは炭化ケイ素を意図的に混合して得る混合物の焼結を行うと、該多結晶性マグネシウムシリサイドの結晶粒内に炭化ケイ素のみが、結晶粒界に金属粒子あるいは炭化ケイ素が存在する焼結体を製造することができる。この焼結体は、炭化ケイ素が結晶粒内のみに存在する焼結体に比べ、機械的特性が向上されたものとなる。
ここで、工程Cによって作製された焼結体を[粒内粒界型]と称する。
(工程Cにおける粉砕物b)と金属粒子等との混合割合)
溶融固化体の粉砕物b)に対する金属粒子あるいは炭化ケイ素の混合の比率は、1.0~5.0体積%とすることができる。上記混合物における炭化ケイ素の比率を、多結晶性マグネシウムシリサイドの1.0~5.0体積%とすることにより、炭化ケイ素の使用量を抑えて、十分な機械的特性(破壊靭性値)を得ることができる。
(工程Cに用いる金属粒子)
上記の金属粒子として、Ni、Zn、Al、Cu、Co、Ag及びAuからなる群より選択される一種の金属粒子を用いることができる。そして、上記混合物中の上記金属の比率を、多結晶性マグネシウムシリサイドの1.0~2.0体積%とすることができる。
<焼結体に含有するMgO>
本発明のMgSi熱電変換材料を製造するための工程A、工程B、工程Cにおいて、粉砕物a)及び粉砕物b)が酸素に晒らされる機会が多く、微細な結晶粒なために粒界が多く形成され、その粒界が酸化されてMgOが生成され、その量が増えて最終物の焼結体に滞留する問題がある。
MgOは焼結性を向上させて密度の高い焼結となるメリットとなる反面、焼結体の熱伝導率が高くなって、熱電変換性能の低下の要因となる。
従って、所望の熱電変換性能を得るためには、基本的には、MgOの生成を可能な限り少量に抑える必要があり、そのために加熱溶融工程と焼結工程において酸化防止のために、諸条件をきめ細く設定して行う。
例えば、加熱溶融工程に使用する熱電変換材料の粉砕物a)及び焼結工程に使用する熔融固化体の粉砕物b)の作製は、いずれもアルゴン雰囲気のような脱酸素雰囲気中で行う必要がある。
酸化防止策を施しても、焼結体に不所望にも含有してしまうMgOの、本発明の所期の性能が得られる許容量として、15wt%以下であることが好ましく、さらに12wt%以下であることがより好ましい。
<多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の機械的特性と熱電変換性能>
次に、本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の機械的特性と熱電変換性能について順に説明する。
(機械的特性)
本発明の熱電変換材料の焼結体の機械特性として、破壊靭性値とヤング率と、かさ密度とを測定した。
本発明の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上である。
[破壊靭性値]
焼結体の破壊靭性値はIF法(インデンテーションフラクチャー法。JIS R 1607)を用いて測定した。
IF法は、四角錐のダイヤモンド圧子を試料の研磨表面に押し込み、発生した圧痕の大きさの1/2の値(c)と圧痕の四隅から生じた亀裂の長さの1/2の値(a)とを使い、以下の所定の(1)式によって破壊靭性値を求める方法である。
Figure 0007359412000001
上記(1)式中、Eはヤング率、Pは押し込み荷重、aは亀裂長さ、cは圧痕の対角線を2で除した値である。
ここでは、負荷荷重を500gfとし、保持時間を15秒とした測定条件で、25回測定を行って得られた平均値を破壊靭性値とした。
本発明の焼結体の破壊靭性値は、IF法で測定した結果、0.9MPa・m1/2以上であった。
また、このような高い破壊靭性値の機械的特性を得るには、亀裂長さcが45.0~60.0μmで、かつ圧痕長さaが18.4~19.9μmであることが好ましい。
また後述するように、本発明の焼結体のヤング率は118GPa以上、かさ密度は2.0g/cm以上である。
このように、本発明の焼結体が高い機械的特性を有するものでことがわかる。
また、特に本発明の[粒内型]焼結体については、破壊靭性値とヤング率とかさ密度が同時にこれらの値を満たすものであることが好ましい。
(熱電変換性能)
本発明の熱電変換材料の焼結体は、380Kにおけるパワーファクターが1.8mWm-1-2以上であるので、低温領域の熱電変換素子と熱電変換モジュールに適用可能である。
また、873Kにおけるパワーファクターが2.3mWm-1-2以上であるので、高温領域の熱電変換素子と熱電変換モジュールに適用可能である。
従って、380K~873Kという広い温度域で優れた熱電変換性能を発揮できる熱電変換材料用の焼結体を提供することができる。
また、本実施形態に係る焼結体は、523Kにおける無次元性能指数(ZT)が0.30以上、かつ873Kにおける無次元性能指数(ZT)が0.60以上であることが好ましい。
このように構成すれば、523K~873Kという広い温度域で優れた熱電変換性能を発揮する熱電変換材料用の焼結体を提供することができる。
さらに、先述の繰り返しになるが、本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換材料は、400K~800Kの広い温度範囲で1.5mWm-1-2以上のパワーファクターを有するものである。
最近の特に高い電力を必要としない用途分野、例えばIOT用のセンサーなどには、パワーファクターが低く出力電力が低い熱電変換材料が適用可能であるため、本発明の該熱電変換材料を有効に活かすことができる。
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換材料の焼結体を用いた熱電変換素子は、上述した焼結体から構成される熱電変換部と、該熱電変換部に設けられる第1電極及び第2電極とを備えるものである。
熱電変換部としては、上述した本発明の熱電変換材料の焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。なお、切り出しは、後述する方法により電極の形成された焼結体を得た後で行うことができる。
第1電極及び第2電極の形成方法は特に制限されず、焼結体を製造した後で電極を形成する方法であってもよく、焼結体の製造時に電極を同時に形成する方法であってもよい。
焼結体を製造した後で電極を形成する方法としては、焼結体に対して無電解ニッケルメッキ等のメッキを施す方法、焼結体に対して導電性ペーストを付与した後に焼結する方法等が挙げられる。一方、焼結体の製造時に電極を同時に形成する方法としては、電極材料、多結晶性マグネシウムシリサイド、電極材料をこの順で積層した後、加圧圧縮焼結により焼結体を得る方法が挙げられる。
<熱電変換モジュール>
本発明の熱電変換モジュールは、上述した熱電変換素子を備えるものであり、その構成は特に制限されず、任意の構成を採用することができる。
本発明の熱電変換モジュールの一例としては、例えば、図2に示すようなものが挙げられる。図2に示す熱電変換モジュールでは、本発明の多結晶性マグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体がn型熱電変換部100として用いられ、他の熱電変換材料を焼結してなる焼結体がp型熱電変換部110として用いられる。
並置されたn型熱電変換部100及びp型熱電変換部110の上端部には電極101、111が、下端部には電極102、112がそれぞれ設けられる。そして、電極101、111が接続されて一体化された電極を形成する一方、電極102、112は分離して構成される。
図2に示す熱電変換モジュールにおいては、電極101、111側を加熱し、電極102、112側から放熱することで、電極101、111と電極102、112との間に正の温度差(Th-Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部110がn型熱電変換部100よりも高電位となる。このとき、電極102と電極112との間に負荷130を接続することで、p型熱電変換部110からn型熱電変換部100へと電流が流れる。
本発明の熱電変換モジュールの他の例としては、例えば、図3に示すようなものが挙げられる。図3に示す熱電変換モジュールでは、本実施形態に係る多結晶性マグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体が熱電変換部120として用いられる。熱電変換部120の上端部には電極121が、下端部には電極122がそれぞれ設けられる。
図3に示す熱電変換モジュールにおいては、電極121側を加熱し、電極122側か放熱することで、電極121と電極122との間に正の温度差(Th-Tc)が生じ、電極121側が電極122側よりも高電位となる。このとき、電極121と電極122との間に負荷130を接続することで、電極121側から電極122側へと電流が流れる。
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
[実施例1]
(SiC仕込み量1.0体積%の溶融固化体の作製)
Mg元素、Si元素及びドーパントとしてSb0.5at%とZn1.0at%とからなる混合物を溶融反応させた後、冷却して得られる溶融固化体(チャンク状。昭和KDE(株)製))を原料のマグネシウムシリサイドとして用いた。
次に、該溶融固化体を、内部がアルゴンガス雰囲気のグローブボックス内に投入後、アルミナ製の乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、粒径が25μm以下の粉砕物a)を作製した。
続いて、該マグネシウムシリサイド粉砕物に該粉砕物に対して1.0体積%の炭化ケイ素粒子((株)Nanomakers Japan製(CEA)、平均粒径35nm)を、ボールミルで50rpm程度の回転数で約1時間混合して、混合物を作製した。
その後、該混合物約0.35gを圧粉用治具に加え、20kNの圧力を加えて圧粉成形して、圧粉体(直径11mm、厚さ3mm)を8個作製した。
次に、該圧粉体2個をモリブデン箔で包んだものを4つ準備して、2.5×10-3Paまで真空引きした後、Ar置換を行って石英管に封入した。
封入物を電気炉(フルテック(株)製FT-106)内に投入し、大気圧下、1085℃(マグネシウムシリサイドの融点)まで2時間かけて昇温した後、1085℃の温度を5分間保持してから、該電気炉を室温まで2時間かけて冷却し、固化させて炭化ケイ素含有マグネシウムシリサイドの溶融固化体を作製した。
該溶融固化体中のSiCの含有量をRIR法により求めたところ、仕込み量1.0体積%がほぼそのまま含まれ、2.95質量%であった。
[実施例2]
(SiC仕込み量5.0体積%の溶融固化体の作製)
実施例1で作製したマグネシウムシリサイドの粉砕物a)に、比率が5.0体積%の炭化ケイ素粉末を混合したこと以外は、実施例1と同様にして、マグネシウムシリサイド中のSiCの含有量が6.83質量%であるマグネシウムシリサイドの粉砕物からなる実施例2の溶融固化体を作製した。
[実施例3]
(SiC仕込み量10.0体積%の溶融固化体の作製)
マグネシウムシリサイドの粉砕物と、該マグネシウムシリサイドの粉砕物a)に対する比率が10.0体積%の炭化ケイ素粉末とを混合したこと以外は、実施例1と同様にして、マグネシウムシリサイド中のSiCの含有量が13.68質量%であるマグネシウムシリサイドの粉砕物からなる実施例3の溶融固化体を作製した。
[実施例4]
(実施例1のSiC仕込み量1.0体積%溶融固化体使用の[粒内型]の焼結体の作製)
先ず最初に、実施例1で作製した溶融固化体の表面を研磨して酸化被膜を除去した後、大気雰囲気下で粉砕し粉砕物b)を準備し、図1に示す加圧焼結用冶具を用いて加圧焼結を行い、実施例4の焼結体を作製した。
加圧焼結用冶具として図1に示すような、内径15mmのグラファイト製ダイ10と、グラファイト製パンチ11a、11bとを備えて構成されたものを用い、該加圧焼結用冶具のグラファイト製パンチ11a、11bとで囲まれた空間に、上記粉砕物b)を2.5g充填し、粉砕物の上下端には、パンチへの固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。
次に、上記粉砕物2.5gを充填した上記加圧焼結用冶具を、プラズマ放電焼結装置(Ed-Pas、((株)エレニックス製))の処理室内に装着して、上記粉砕物の加圧焼結処理を行った。焼結条件は以下のとおりである。
焼結温度:880℃
圧力:50MPa
昇温条件:300℃/分×2分(~600℃)
100℃/分×1.5分(600~750℃)
10℃/分×13分(750~880℃)
0℃/分×15分(880℃)
降温条件:10℃/分×2分(880~860℃)
0℃/分×3分(860℃)
22℃/分×5分(860~750℃)
43℃/×3.5分(750~600℃)
真空放冷(600℃~)
雰囲気:Ar 0.06MPa(降温時は減圧下)
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去して、結晶粒内に炭化ケイ素が分散し、0.5at%のアンチモン及び1.0at%の亜鉛を含んだマグネシウムシリサイド焼結体が得られた。なお、得られた焼結体の形状は、円柱状(上面及び底面が直径15mmの円、高さが6.5mm)であった。
実施例4で作製された該焼結体中の炭化ケイ素の含有量は、実施例1で作製された溶融固化体の全てをそのまま粉砕物にして焼結しているため、SiCの含有量に変化がなく、溶融固化体における含有量と同じ2.95質量%と見做すことができる。
[実施例5]
(実施例2のSiC仕込み量5.0体積%溶融固化体使用の[粒内型]の焼結体の作製)
実施例2で作製した溶融固化体を用いる以外、実施例4と同様の方法及び条件で加圧焼結を施し、炭化ケイ素の含有量が6.83質量%の焼結体を作製した。該含有量については実施例4に記載の考えに基づいた値である。
[実施例6]
(実施例3のSiC仕込み量10.0体積%溶融固化体使用の[粒内型]の焼結体の作製)
実施例3で作製した溶融固化体を用いる以外、実施例4と同様の方法及び条件で加圧焼結を施し、炭化ケイ素の含有量が13.68質量%の焼結体を作製した。該含有量については実施例4に記載の考えに基づいた値である。
[比較例]
(炭化ケイ素を含まない焼結体)
特許文献1に記載の製法に従い、Mg元素とSi元素及びドーパントとしてSb0.5at%とZn1.0at%の4種の材料からなる混合物を溶融反応させた後、冷却して得られる溶融固化体粉砕し、該粉砕物を焼結させて得られるマグネシウムシリサイド系焼結体を比較例の試料とした(炭化ケイ素が含まないことから該焼結体をPure MgSiと表示する場合がある)。
[透過型電子顕微鏡観察]
図4に実施例5の試料のTEM像の図を示す。図4では、島状の灰色部分が多結晶構造に含まれる結晶粒を表し、点状の白色部分が炭化ケイ素を表している。
図4に示すとおり、実施例5の溶融固化体は島状の灰色部分で表される結晶粒からなる多結晶構造を有し、該結晶粒内に、点状の白色部分で表される炭化ケイ素が分散している。
実施例5以外の実施例4、5の各溶融固化体についても、実施例5と同様に、結晶粒内に炭化ケイ素が分散していることがTEM観察により確認された。
また図5は、実施例4、5、6及び比較例で作製した各焼結体の二次電子像である。
粒内に含まれるSiCナノ粒子は凝集体として分散し、MgSiの結晶粒が細かく観えている。
[X線回折分析]
実施例4、5、6及び比較例の各焼結体のX線回折分析を、Ultima IV((株)リガク製)を用いて行った。該X線回分析にはCuKα線を用い、印加電圧40kV、印加電流40mAとした。
図6に実施例4、5、6及び比較例の各試料の各X線回折分析結果を示す。
図6に示すとおり、実施例4、5、6及び比較例の各焼結体では、MgSi、Si及びMgOの各ピークが観察された。
X線回折パターンとRIR法によって算出した、各焼結体中のSi及びMgOの含有量を算出した。その結果を以下に示す。
Figure 0007359412000002
また、実施例5の5.0体積%の炭化ケイ素を材料にして作製した焼結体について、実施例2におけるマグネシウムシリサイドの粉砕物と5.0体積%の炭化ケイ素粉末との混合物(イ)、その混合物から作製した溶融固化体(ロ)及び実施例5の5.0体積%の炭化ケイ素該溶融固化体から作製した焼結体(ハ)の各時点のものについて、上記と同じ方法でX線回分析を行った。
図7は、その結果を示したものである。
混合物(イ)に観られないMgOとSiのピークが溶融固化体(ロ)、焼結体(ハ)に観察され、溶融固化体(ロ)、焼結体(ハ)になるに従ってピーク強度が強くなっていることが分かる。
このことは、溶融固化体の原料となる粉砕物a)及び焼結体に原料となる粉砕物b)を微細な結晶粒子で構成されるが、粒子間に形成される多くの粒界が酸素に晒される機会が増えることによるものと考えられる。
<機械的特性の測定>
[ヤング率]
ヤング率の測定は、JIS Z 2280に準拠した方法により行った。図8に、実施例4、5、6及び比較例の各試料のヤング率を示す。
図8に示すように、結晶粒内に炭化ケイ素をそれぞれ1.0、5.0、10.0体積%分布させた、実施例4、5、6の各試料のヤング率は、それぞれ118GPa、121GPa、132GPaであり、結晶粒内に炭化ケイ素が分布していない比較例のヤング率が112GPaであるのに比べ高くなっている。
[破壊靭性値]
実施例4、5、6及び比較例の各試料について、上記のIF法により、破壊靭性値を測定した。
図9は実施例4、5、6及び比較例の各試料に対する、結晶粒内に分布する、マグネシウムシリサイドに対する炭化ケイ素の比率である体積%と破壊靭性値との関係を示すグラフである。
具体的数値は以下のとおりであり、実施例4、5、6の各試料の破壊靭性値は、炭化ケイ素の含有量が多いほど高く、炭化ケイ素を含まない比較例の場合には他に比べてかなり低くなっている。
Figure 0007359412000003
(破壊靭性値を算出するための圧痕と亀裂進展挙動の観察)
図10、図11、及び図12は、実施例4(1vol%)、実施例5(5vol%)、実施例6(10vol%)及び比較例(Pure MgSi)の各試料に対し、JIS R 1607に準拠する破壊靭性試験に基づいて測定した圧痕と亀裂の進展挙動を示すSEM像の図である。走査型電子顕微鏡(SEM)として、日本電子社製のJCM-6000を使用した。
図10及び図11は、同じ試料について圧痕と亀裂のペア画像を4組示したものであり、図12は、図10及び図11における亀裂画像の途切れを補うため、同じ4つの試料について亀裂画像の全容を示したものである。
SiCが粒界に分散している比較例の場合、結晶粒の大きさが比較的大きく、このため結晶粒界も比較的少ないため、亀裂は幅が比較的広く直線状に進展していることがわかる。
一方、SiCが粒内に分散している実施例4、5、6の場合、比較例に比べて結晶粒の大きさが小さく、より多くの結晶粒界が形成されて、亀裂がこれらの結晶粒界で止められて、亀裂が偏向しながら、換言すれば、向きを変え蛇行しながら進展していることがわかる。
一般的に、該亀裂の偏向現象は亀裂が弾性率の異なる材料に達した時に生じ、偏向が生じるほど破壊靭性は向上すると考えられている。粒界型でも結晶方位によって弾性率が異なると、SiCが粒界に存在するので偏向するが、粒内に存在する場合、亀裂とSiCとの遭遇確率が高くなり、また、一つの結晶粒中にSiCが存在するため、一つの結晶粒中でも偏向が生じていると考えられている。
[かさ密度の算出]
実施例4、5、6及び比較例の各試料のかさ密度を以下のように算出した。これらのかさ密度を表3に示す。
Figure 0007359412000004
表3に示すとおり、比較例の試料のかさ密度は1.99(g/cm)であるのに対し、実施例4、5、6の各試料のかさ密度はそれぞれ2.09、2.09、2.17となっていることから、実施例4、5、6の各試料は比較的空隙の少ない緻密な構造を有していることがわかる。
(ゼーベック係数及び電気伝導率の測定、並びにパワーファクターの算出)
ワイヤーソーを用いて、実施例4、5、6及び比較例の各試料から縦2mm×横2mm×高さ12mmの大きさの試験を切り出した後、熱電特性評価装置(アドバンス理工(株)製、[ZEM-3])を用いてゼーベック係数及び電気伝導率を測定した。そして、得られたゼーベック係数及び電気伝導率に基づいてパワーファクターを算出した。なお、測定温度範囲は327~873Kとし、50K刻みで測定を行った。
図13は、実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。図13に示すとおり、実施例4、5、6及び比較例の各試料は、いずれもゼーベック係数が負の値であり、n型半導体となっていることがわかる。ゼーベック係数のグラフの概形は、炭化ケイ素を含有する実施例4、5、6の各試料と、炭化ケイ素を含有しない比較例の試料とで類似した傾向を示している。また、実施例4、5、6の各試料を対比すると、炭化ケイ素の体積%が変わってもゼーベック係数の変化量は小さくなっている。この結果から、マグネシウムシリサイドの結晶粒内に分布している炭化ケイ素の量がゼーベック係数に及ぼす影響は小さいといえる。
図14は、実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度と電気伝導率との関係を示すグラフである。図14に示すとおり、実施例4、5、6及び比較例の各試料の電気伝導率を比較すると、炭化ケイ素を10.0体積%含有する試験片で電気伝導率が多少低くなっているが、その差は小さく、実用的な電気伝導率を有しているといえる。
図15は、実施例4、5、6及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。なお、パワーファクターは、熱電変換素子に温度差をつけた際に取り出すことのできる電気量の指標であり、数値が高い方がパワー密度も高くなる。図15から、マグネシウムシリサイドの結晶粒内の炭化ケイ素の量が多くなるにつれてパワーファクターが低下し、熱電変換性能が低下する傾向がみられるが、実施例4、5、6の各試料は、500K以上の温度範囲でパワーファクターが3.0×10-3W/mKを超えており、実用的な熱電変換性能を有しているといえる。
(熱伝導率の測定)
ワイヤーソーを用いて、実施例4、5、6及び比較例の各試料から縦7mm×横7mm×高さ1mmの大きさの試験片を切り出した後、熱電特性評価装置(アドバンス理工(株)製、[TC-1200RH])を用いて熱伝導率を測定した。なお、測定温度範囲は327~873Kとし、50K刻みで測定を行った。結果を図16に示す。
図16では、実施例4、5、6の各試験片は、温度測定範囲の全域で、比較例の試験片と同等もしくは比較例の試験片を上回る熱伝導率を示しているが、実施例4、5、6、及び比較例の各試験片が示す各熱伝導率の差は小さく、いずれも実用的な熱伝導率を有しているといえる。
(無次元性能指数ZTの算出)
実施例4、5、6及び比較例の各試料から得られたパワーファクター及び熱伝導率に基づいて、無次元性能指数ZTを算出した。結果を図17に示す。
図17に示すとおり、比較例の試料は、実施例4、5、6の各試料に比べ、300~900Kの温度範囲で、無次元性能指数ZTが最も高く、また、結晶粒内の炭化ケイ素の量が増加するにつれて、無次元性能指数ZTが低くなっている。実施例4、5、5の各試料の873Kにおける無次元性能指数ZTは、0.73、0.62、0.61であり、これらのZT値は、熱電変換材料の実用範囲内である。
[実施例7]
(工程Cによる粒界にSiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例1と同様にして作製した、平均粒径が35nmの炭化ケイ素の粒子を含む溶融固化体をアルゴン雰囲気中で粉砕して、平均粒径が25μm以下の粉砕物b)を作製した。
次に、該粉砕物b)に対して1.0体積%の比率で炭化ケイ素を混合し、該混合物をボールミルで回転させてこれらを十分に分散させた。
次に、実施例4と同様の方法及び条件で加圧焼結を行って、実施例7の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
実施例7の試料における結晶粒内及び結晶粒界に分布する炭化ケイ素の比率は、マグネシウムシリサイドに対しそれぞれ1.0体積%及び1.0体積%である
[実施例8]
(工程Cによる粒界にSiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例7において、該粉砕物b)に対する炭化ケイ素粒子の比率を5.0体積%としたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
実施例8の試料における結晶粒内及び結晶粒界に分布する炭化ケイ素の比率は、マグネシウムシリサイドに対しそれぞれ1.0体積%及び5.0体積%である。
[実施例9]
(工程Cによる粒界にSiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例5と同様にして作製した、平均粒径が35nmの炭化ケイ素の粒子を含む溶融固化体をアルゴン雰囲気中で粉砕して、平均粒径が25μm以下の粉砕物b)を作製した。
次に、該粉砕物b)に対して5.0体積%の比率で炭化ケイ素を、実施例7と同様に混合して混合物を作製後、実施例4と同様の方法により焼結して、実施例9の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
焼結体の結晶粒内及び結晶粒界に存在する炭化ケイ素の比率が、マグネシウムシリサイドに対しそれぞれ5.0体積%及び1.0体積%である。
[実施例10]
(工程Cによる粒界にSiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例6と同様にして作製した、平均粒径が35nmの炭化ケイ素の粒子を含む溶融固化体をアルゴン雰囲気中で粉砕して、平均粒径が25μm以下の粉砕物b)を作製した。
次に、該粉砕物b)に対して5.0体積%の比率で炭化ケイ素を、実施例7と同様に混合して混合物を作製後、実施例4と同様の方法により焼結して、実施例10の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
焼結体の試料の結晶粒内及び結晶粒界に分布する炭化ケイ素の比率が、マグネシウムシリサイドに対しそれぞれ10.0体積%及び1.0体積%である実施例10の試料を作製した。
[実施例11]
(工程Cによる粒界にNiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例7において、粉砕物b)に混合した上記炭化ケイ素に代えて、上記マグネシウムシリサイドに対する比率が1.0体積%のニッケルを混合したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例11の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
該焼結体の結晶粒内に分布する炭化ケイ素の比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し1.0体積%であり、焼結体の結晶粒界に分布するニッケルの比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し1.0体積%である実施例11の試料を作製した。
[実施例12]
(工程Cによる粒界にNiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例7において、粉砕物b)に混合した上記炭化ケイ素に代えて、上記マグネシウムシリサイドに対する比率が2.0体積%のニッケルを混合したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例12の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
該焼結体の結晶粒内に分布する炭化ケイ素の比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し1.0体積%であり、焼結体の結晶粒界に分布するニッケルの比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し2.0体積%である実施例12の試料を作製した。
[実施例13]
(工程Cによる粒界にNiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例9において、粉砕物b)に混合した上記炭化ケイ素に代えて、上記マグネシウムシリサイドに対する比率が1.0体積%のニッケルを混合したこと以外は、実施例9と同様にして、実施例13の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
焼結体の結晶粒内に分布する炭化ケイ素の比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し5.0体積%であり、焼結体の結晶粒界に分布するニッケルの比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し1.0体積%である実施例13の試料を作製した。
[実施例14]
(工程Cによる粒界にNiが存在の[粒内粒界型]の作製)
実施例9において、粉砕物b)に混合した上記炭化ケイ素に代えて、上記マグネシウムシリサイドに対する比率が1.0体積%のニッケルを混合したこと以外は、実施例10と同様にして、実施例14の[粒内粒界型]焼結体試料を作製した。
焼結体の結晶粒内に分布する炭化ケイ素の比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し5.0体積%であり、焼結体の結晶粒界に分布するニッケルの比率が、上記マグネシウムシリサイドに対し2.0体積%である。
([粒内粒界型]実施例7、8、10、11、12のヤング率)
図18は、実施例7、8、10、11、12及び比較例の各試料のヤング率を示すグラフである。図18に示すとおり、比較例の試料のヤング率が112.4であるのに対し、実施例7、8、10、11、12の各試料のヤング率は、それぞれ、119.7、124.1、134.1、125.6、123.7と向上している。
([粒内粒界型]実施例7、9、10の破壊靭性値)
実施例7、9、10及び比較例の各試料の破壊靭性値(Kc)について、具体的データを下記し、図19のグラフで示す。
これらのデータは、比較例の試料の破壊靭性値(Kc)が0.6程度であるのに対し、実施例7、9、10の各試料の破壊靭性値は、それぞれ、1.01、1.28、1.48と向上し、特に実施例9、10の各試料では比較例の試料の2倍以上に破壊靭性値が向上している。
また、前述した粒内に10vol%のSiCを含む実施例6の[粒内型]の焼結体は、その破壊靭性値が1.15±0.06であるのに対して、実施例10の焼結体は結晶粒内に同じ10vol%、結晶粒界に1vol%含むと、破壊靭性値が1.48±0.22と約28%向上しており、SiCが結晶粒内と結晶粒界とに含む[粒内粒界型]が機械的特性を向上させるのに極めて有効であることが分かる。
Figure 0007359412000005
([粒内粒界型]実施例9、10、14の破壊靭性値)
図20は、実施例9、13、14及び比較例の各試料の破壊靭性値(Kc)を示すグラフである。図20に示すとおり、比較例の試料の破壊靭性値(Kc)が0.6程度であるのに対し、実施例9、13、14の各試料の破壊靭性値は、それぞれ、1.25、1.27、1.29と向上し、実施例9、13、14の各試料では比較例の試料の2倍以上に破壊靭性値が向上している。
([粒内粒界型]実施例7、10、12のゼーベック係数)
図21は、実施例7、10、12及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数(μVK-1)との関係を示すグラフである。図21に示すとおり、実施例7、9、10及び比較例の各試料のゼーベック係数はいずれもほぼ同等となっている。この結果から、マグネシウムシリサイドの結晶粒内又は結晶粒界に分布している炭化ケイ素がゼーベック係数に及ぼす影響は小さく、いずれも実用範囲内である。
([粒内粒界型]実施例7、9、10の電気伝導率)
図22は、実施例7、9、10及び比較例の各試料の温度と電気伝導率(×10Ω-1-1)との関係を示すグラフである。図22に示すとおり、実施例7、9、10の各試料に比べ、比較例の試料の電気伝導率が最も高くなっている。この結果から、各試料の結晶粒内に分布する炭化ケイ素の量が増加するにつれて電気伝導率が小さくなっているが、いずれも実用範囲内である。
([粒内粒界型]実施例13、14のゼーベック係数)
図23は、実施例13、14及び比較例の各試料の温度とゼーベック係数(μVK-1)との関係を示すグラフである。図23に示すとおり、実施例13、14及び比較例の順で各試料のゼーベック係数が高くなる傾向がみられるが、これらはほぼ同等といえる。この結果から、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に分布するニッケル量の違いによるゼーベック係数への影響は小さく、いずれも実用範囲内である。
([粒内粒界型]実施例13、14の電気伝導率)
図24は、実施例13、14及び比較例の各試料の温度と電気伝導率(×10Ω-1-1)との関係を示すグラフである。図24に示すとおり、実施例14、比較例、実施例13の順で電気伝導率が次第に高くなっていく傾向がみられるが、いずれも実用範囲内である。
([粒内粒界型]実施例7、9、10のパワーファクター)
図25は、実施例7、9、10及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。図25に示すとおり、300~900Kの温度範囲で、比較例の試料のパワーファクターが最も高く、実施例7、9、10の順で次第に各試料のパワーファクターが低下している。この結果から、結晶粒内に分布する炭化ケイ素の量が増加するにしたがってパワーファクターが低下しているが、いずれも実用範囲内である。
([粒内粒界型]実施例13、14のパワーファクター)
図26は、実施例13、14及び比較例の各試料の温度とパワーファクターとの関係を示すグラフである。図26に示すとおり、300~900Kの温度範囲で、比較例の試料のパワーファクターが最も高く、実施例13、14の順で次第に各試料のパワーファクターが低下している。この結果から、結晶粒界のニッケルの量が増加するにしたがって、パワーファクターが低下しているが、いずれも実用範囲内である。
10 グラファイト製ダイ
11a、11b グラファイト製パンチ
100 n型熱電変換部
101、102 電極
110 p型熱電変換部
111、112 電極
120 熱電変換部
121、122 電極
130 負荷

Claims (22)

  1. 結晶粒内に炭化ケイ素が存在し、炭化ケイ素の含有量が2.0~14.0質量%である多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  2. 1)原料の多結晶性マグネシウムシリサイドと炭化ケイ素とからなる溶融固化体、2)前記溶融固化体の粉砕物及び3)前記粉砕物の焼結体のいずれかで構成される請求項1に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  3. 4)原料の多結晶性マグネシウムシリサイドと炭化ケイ素とからなる溶融固化体、5)前記溶融固化体の粉砕物と炭化ケイ素あるいは金属粒子とからなる混合物及び6)前記混合物の焼結体のいずれかで構成される請求項1に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  4. ドーパントを含む請求項1~のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  5. 前記ドーパントがSb単独あるいはSbとZnとの組み合わせである請求項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  6. 前記粉砕物に対する炭化ケイ素の比率が1.0~5.0体積%であり、前記粉砕物に対する金属粒子の比率が1.0~2.0体積%である請求項3に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  7. 前記金属粒子が、Ni、Zn、Al、Cu、Co、Ag及びAuからなる群より選択される少なくとも一種である請求項3又はに記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料。
  8. 破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上である請求項1~のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体。
  9. 破壊靭性値が0.9MPa・m1/2以上、ヤング率が118GPa以上、かつ、かさ密度が2.0g/cm以上である請求項2に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体。
  10. 請求項2~のいずれか1項に記載の焼結体から構成された熱電変換部と、前記熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備える熱電変換素子。
  11. 請求項10に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
  12. マグネシウムシリサイドを脱酸素雰囲気中で粉砕し、得られた粉砕物を炭化ケイ素ナノ粒子と混合した後、得られた混合物を脱酸素雰囲気中で上限温度を1085℃で加熱溶融した後、冷却して溶融固化体を作製する工程を含む多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
  13. 前記加熱溶融及び前記冷却は、前記粉砕物を、大気圧下電気炉内で、1085℃まで2時間かけて昇温した後、1085℃の温度を5分間保持してから室温まで2時間かけて降温・冷却して行う請求項12に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
  14. マグネシウムシリサイドの粉砕物を構成する結晶粒の粒径が50μm以下で、かつ、炭化ケイ素ナノ粒子の平均粒径が35nmである請求項12又は13に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
  15. マグネシウムシリサイドの粉砕物と炭化ケイ素ナノ粒子との混合物を圧粉体にして加熱溶融する請求項1214のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
  16. 前記溶融固化体を、脱酸素雰囲気中で、結晶粒の粒径が50μm以下になるように粉砕して粉砕物を作製する工程を含む請求項13又は14に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド系熱電変換材料の製造方法。
  17. 請求項16に記載の製造方法により得られる粉砕物を、温度880℃、圧力50MPaの条件で焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
  18. 約17分間かけて880℃までに加熱後、約15分放置してから約19分間で600℃に降温し、次いで真空冷却する昇温降温条件で行う請求項17に記載の焼結体の製造方法。
  19. 請求項16に記載の製造方法により得られる粉砕物に炭化ケイ素を混合し、得られる混合物を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
  20. 前記粉砕物に対する前記炭化ケイ素の比率が1.0~5.0体積%である請求項19に記載の焼結体の製造方法。
  21. 請求項16に記載の製造方法により得られる粉砕物と金属との混合物を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
  22. 前記粉砕物に対する前記金属の比率が1.0~2.0体積%である請求項21に記載の焼結体の製造方法。
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