[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
本発明の実施の形態1に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、プロセスオイルとして40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルを含有するものである。
本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物に配合される熱可塑性ベースポリマとしては、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマが使用できる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エンジニアリング・プラスチック(エンプラ)に属するポリアミド46(PA46)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂(ナイロン等)、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等や、スーパー・エンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ)に属するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、非晶ポリアリレート(PAR)樹脂、液晶ポリマ(LCP)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド樹脂等や、汎用樹脂に属するポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)樹脂、ABS樹脂、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂等を使用できる。これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。このような熱可塑性樹脂を使用した場合には、必要に応じて熱可塑性樹脂を可塑化するための可塑剤が配合される。
また、熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマ(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマ(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマ(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)、ポリアミド系熱可塑性エラストマ(TBA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマ(TPEE)、ウレタン系熱可塑性エラストマ、アミド系熱可塑性エラストマ、エステル系熱可塑性エラストマ、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマ等を使用できる。これらも1種を単独で用いても良いし2種以上を組み合わせてもよい。
このような熱可塑性ベースポリマは、柔軟性(低硬度)、成形性、耐気候性、耐熱性、パラフィン化合物等の潜熱蓄熱材との相性等を考慮して適宜選択されるが、上記の中でも、高い耐熱性、機械的物性、耐候性、耐薬品性、耐水性、難燃焼性(低燃焼性)・自己消火性等を有し過酷な使用環境でも耐え得るものとして、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料等に広く使用できるスチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマが好ましい。このようなスチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマでは、溶融温度が比較的低い化合物の選択幅が広く、そのような溶融温度が比較的低いものを選択することで、成形時に高温条件下としなくても十分に流動するから、低コストで成形できて加工性が良く、組成物に含まれる材料の劣化も防止できることになる。
特に好ましい熱可塑性ベースポリマは、熱可塑性エラストマとしてハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体である。この水添ブロック共重合体は、ソフトセグメント及びハードセグメントの共重合体であり、例えば、共役ジエン重合ブロックと、アルケニル芳香族化合物重合ブロックやオレフィン重合ブロックとを有するブロック共重合体である。
なお、共役ジエン重合ブロックにおける共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等がある。
また、アルケニル芳香族化合物共重合ブロックにおけるアルケニル芳香族化合物としては、スチレン、ブチルスチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N-ジエチル-p-アミノスチレン、ビニルピリジン等がある。
更に、オレフィン共重合ブロックは、結晶性オレフィン共重合ブロックが好ましく、エチレン、ブチレン、プロピレン等や、ブタジエン、イソプロピレン等の共役ジエン共重合体からなるブロックの水素添加物等がある。アルケニル芳香族化合物が共重合されていてもよい。
また、ハードセグメントとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン重合体セグメントで結晶性を有するものや、ブタジエン重合体の水素添加物セグメントで結晶性を有するもの等が形状維持性を付与するハードセグメントとして機能する。
ソフトセグメントとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等のα-オレフィンのランダム重合体セグメント、ブタジエン、イソプレン等のジエン化合物の重合体セグメントまたはその水素添加物セグメント等がゴム、弾性特性を付与するソフトセグメントとして機能する。
例えば、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SI)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SB)、スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、オレフィン結晶-エチレン/ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(CEBC)等が好ましい。
このようなハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体では、ハードセグメント及びソフトセグメントによるブロック形成により網目構造を有するために、その網目構造内にパラフィン化合物等からなる潜熱蓄熱材や、パラフィン系、ナフテン系またはアロマ系のプロセスオイルを取込んで拘束することができる。よって、パラフィン化合物等からなる潜熱蓄熱材の融解(相変化)に伴う流動性の増大を抑制して形状を維持する形状保持性が高く、パラフィン化合物等からなる潜熱蓄熱材の融解(相変化)に伴う相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を防止することが可能である。プロセスオイルについてもそのブリードアウトを防止可能である。更に、所望の形状への成形性、柔軟性のある低硬度の獲得にも有利である。
そして、このように熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体を採用すると、潜熱蓄熱材としてマイクロカプセルに封入されていないパラフィン化合物等の製品を使用しても、融解(相変化)に伴うパラフィン化合物等の相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)の防止に効果的であるから、パラフィン化合物等の製品の選択自由度が高まる。中でも、強度、耐熱性、耐久性及び耐ブリードアウト性に優れるSEBS等の水添スチレン系エラストマが好適である。この水添スチレン系エラストマの数平均分子量は、耐ブリードアウト性を考慮すると、例えば、60,000~400,000程度、好ましくは、100,000~300,000程度である。
なお、水添ブロック共重合体は、これを構成する各ブロックが直線状に結合した直鎖の共重合体に限定されず、各ブロックが分岐状に結合したグラフト共重合体型、或いは、各ブロックが星型に結合したスターポリマー型等であってもよい。
このような熱可塑性ベースポリマは、放熱成形体用組成物中において、例えば、2~40質量%の範囲内で配合される。即ち、放熱成形体用組成物の総量100質量部に対して、熱可塑性ベースポリマの配合量は、例えば、2~40質量部の範囲内である。配合割合が少なすぎると所定の成形が困難で強度が不足して脆くなる。また、配合割合が多すぎると、放熱成形体用組成物中において相対的に潜熱蓄熱材や熱伝導性フィラの配合割合が少なくなることから所定の高い蓄熱量及び熱伝導率が得られず、実用的な放熱効果を確保できない。放熱成形体用組成物中において、熱可塑性ベースポリマの配合量が2~40質量%の範囲内であれば、所定の成型性、強度が確保され、放熱対象物に対する効果的な温度上昇抑制効果を可能とする。より好ましくは、放熱成形体用組成物中において、熱可塑性ベースポリマの配合量が3~20質量%の範囲内である。
また、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物に含まれる熱伝導性フィラは、電気的に絶縁性であっても導電性であってもよく、絶縁性または導電性の電気特性については、放熱成形体用組成物を使用して放熱させる放熱対象物やその周囲部材、例えば、放熱対象物を収める筺体等の特性によって選択される。
導電性の熱伝導性フィラとしては、黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維(特に石炭ピッチ系(Pitch)、PAN系が好ましい)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物や、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、チタン、SUS等の金属粉末または金属繊維、酸化スズ等の金属酸化物、フェライト類等の金属系化合物を使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
導電性の熱伝導性フィラについては、安価で、かつ、熱伝導性や導電性を効果的に向上できる点から、炭素繊維等の炭素化合物が好適である。
なお、導電性の熱伝導性フィラをシリカ等で被覆することにより、導電性フィラに絶縁性を付与した絶縁性フィラとし、これを熱伝導性フィラとして使用することも可能である。
また、絶縁性の熱伝導性フィラとしては、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア:MgO)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化ベリリウム、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素等の金属窒化物や、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化スズ等の金属水酸化物や、炭化珪素、ダイヤモンド等の炭素化合物や、マグネサイト、炭酸マグネシウム、ホウ化チタン、チタン酸カルシウム、石英等が使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
絶縁性の熱伝導性フィラについては、高充填、高分散が可能であり、かつ安価である点から、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭酸カルシウムが好ましい。特に、炭酸カルシウムは、低硬度で安価であり、また、窒化ホウ素や酸化マグネシウムは、低硬度で高熱伝導率である。なお、窒化ホウ素は、c-BN(立方晶構造)、w-BN(ウルツ鉱構造)、h-BN(六方晶構造)、r-BN(菱面体晶構造)、t-BN(乱層構造)等の何れの構造であっても良いが、グラファイトと類似の構造を有する六方晶構造型が好ましい。六方晶構造の窒化ホウ素を用いることにより、成形体を得る際に用いる成型機や金型の摩耗を低減できる。また、窒化ホウ素の形状には、球状のものと鱗片状のものがあり、本発明には何れも用いることができるが、アスペクト比が高い鱗片状のものを用いると、絶縁性に優れ、更に、熱伝導率や成型性等の機械的特性が良好な成形体が得られる。
これらの熱伝導性フィラについては、例えば、中位径(≒平均粒子径)が1~300μm、好ましくは2~250μmのフィラが使用できる。熱伝導性フィラの粒子径が小さすぎると、凝集が生じ易くなり均一な分散性に欠け、また、粘度が上昇し、成形性が低下する。その結果、放熱対象物との密着性が低下したり安定した熱伝導性を確保できなくなったりする恐れがある。一方、粒子径が大きすぎると、充填性が低下し、また、均一な分布に欠け、安定して十分な熱伝導性が得られなくなる恐れがある。更に、表面平滑性が低下して放熱対象物との密着性が低下したり、脆くなり裂け易くなったりする恐れがある。熱伝導性フィラの中位径(≒平均粒子径)が1~300μm、より好ましくは1.5~100μm、更に好ましくは、2~80μmの範囲内であれば、安定した高い熱伝導性及び低硬度を確保することが可能となる。更に、粒子径の大きなフィラと粒子径の小さなフィラの取合わせによって、充填量を高めることにより熱伝導性を向上させることもできる。
熱伝導性フィラの形状としては、例えば、繊維状、板状、球状、楕円球状、多角柱状、鱗片状、棒状、粒子状、粉末状、ロッド状、チューブ状、曲板状、針状、曲板状、針状等の形状があるが、何れの形状のものでも使用可能である。アスペクト比が高いものであると、放熱成形体において高い熱伝導率が得られる。
因みに、中位径とは、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算質量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、平均粒子径との差も僅少であり、平均粒子径≒中位径であり、平均粒子径=中位径と見做すこともできる。
また、熱伝導性フィラは、熱伝導率が0.2W/(m・K)以上、250W/(m・K)以下のものが好ましく、より好ましくは、0.5W/(m・K)以上、200W/(m・K)以下のものである。熱伝導率が小さすぎるものでは、十分な熱伝導性を確保できず、また、熱伝導性を高めるために多量に配合しても、硬度が上昇することで放熱対象物との密着性が低下するから、放熱対象物に対し効果的な放熱効果を得ることができない。一方で、熱伝導率が高いものは、価格が高く入手も困難である。好ましくは、熱伝導率が0.2~250W/(m・K)、より好ましくは、0.5~200W/(m・K)の範囲内である熱伝導性フィラを使用することで、高い熱伝導性及び低硬度の両立が確保され、また、低コスト化を図ることができる。
ここで、このような熱伝導性フィラは、放熱成形体用組成物中において、例えば、35~90量%の範囲内で配合される。即ち、放熱成形体用組成物の総量100質量部に対して、熱伝導性フィラの配合量が例えば、35~90質量部である。配合割合が少なすぎると十分に高い熱伝導率を得ることができず、配合割合が多すぎると、流動性の低下により成形性が低下したり、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の硬度が上昇したりするため、放熱対象物との密着性が低下して、放熱効果が低下する恐れがある。放熱成形体用組成物中において、熱伝導性フィラの配合量が35~90質量%の範囲内であれば、成形性を低下させることなく高い熱伝導性及び低硬度の両立を確保できる。より好ましくは、放熱成形体用組成物中において、熱伝導性フィラの配合量が45~90質量%の範囲内である。
特に、本実施の形態1では、後述するように、所定のプロセスオイルの配合により、昇温による低硬度化がはやいから、熱伝導性フィラの充填量を高めても放熱対象物との密着性を確保できる。また、常温~40℃程度の硬度が低いことにより放熱対象物との密着性が向上することで、放熱対象物の熱が速やかに放熱成形体に移動する熱伝導性が向上するから、熱伝導率の低い安価な炭酸カルシウムであっても高い放熱効果を得ることができる。
なお、熱伝導性フィラは、シランカップリング処理(例えば、ビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、イソシアナートシラン、クロロシラン、アミノシラン等)、チタネートカップリング処理(例えば、アルコキシチタネート、アミノチタネート等)、エポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理等の表面処理が施されていてもよい。また、脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、ソルビン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸等)や樹脂酸(例えば、アビエチン酸、ピマル酸、レボピマール酸、ネオアピチン酸、パラストリン酸、ジヒドロアビエチン酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、コルム酸、セコデヒドロアビエチン酸)等による表面処理が施されていてもよい。このような表面処理が施されていると、熱伝導率が向上したり、ベースポリマ界面との親和性が向上したり、分散性が向上したり、混合・混練等の作業性が容易であったりする。更に、高熱伝導率を達成できる範囲内であれば、原料等に由来する不純物が少量含まれていても良い。
また、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物に含まれる潜熱蓄熱材は、材料の相が特定温度で変化するときの潜熱を有する、即ち、相変化に伴う融解潜熱を有する相変化材料からなるものであり、固液相転移型の潜熱蓄熱材、電子相転移型の潜熱蓄熱材、または固固相転移型の潜熱蓄熱材が使用される。物質の相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材では、蓄熱密度が高く、蓄熱温度域(出力温度が一定)が狭域で熱損失が極めて少ないものである。
具体的に、電子相転移型の潜熱蓄熱材としては、例えば、二酸化バナジウム等のバナジウム酸化物またはその無機水和物、LiMn2O4、LiVS2、LiVO2、NaNiO2、REBaFe2O5、REBaCo2O5.5(ここでREはY,Sm,Pr,Eu,Gd,Dy,Ho,Tb等の希土類元素)等が使用できる。
固固相転移型の潜熱蓄熱材としては、例えば、マルテンサイト変態を生じる材料(NiTi、CuZnAl、CuAlNi等の形状記憶合金)、サーモクロミック材料(N,N-ジエチルエチレンジアミン銅錯体等)、柔粘性結晶(トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールや、バナジウムまたはバリウム等の金属酸化物、例えば、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化バリウム系等や、硫化バナジウム等)、磁気相転移物質(Mn-Znフェライト、NiFe合金等)、常誘電体-強誘電体転移物質(BaTiO3等)が使用できる。
固液相転移型の潜熱蓄熱材としては、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-エイコサン、n-ノナデカン、n-イコサン、n-ヘンイコサン、n-ドコサン、n-トリコサン、n-テトラコサン、n-ペンタコサン、n-ヘキサコサン、n-ヘプタコサン、n-オクタコサン、n-ノナコサン、n-トリアコンタン、n-ヘントリアコンタン、n-ドトリアコンタン、n-トリトリアコンタン、パラフィンワックス等のパラフィン類(パラフィン化合物)や、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキギン酸、ヘンイコシル酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、トリアコンタン酸、ヒドロキシステアリン酸、セバシン酸、クロトン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸等の脂肪酸類(脂肪酸エステルを含む)や、ナフタレン、ベンゼン、p-キシレン等の芳香族炭化水素化合物や、ソルビトール、マン二トール、ガラクチトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコールや、セチルアルコール、ステアリルアルコール、テトラデカノール、ドデカノール、ペンタエリスリトール、スレイトール、ポリエチレングリコール等のアルコール類や、プロピオンアミド、アセトアミド等のアミド類や、ポリエチレンや、塩化カルシウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、酢酸カリウム水和物、水酸化ナトリウム水和物、水酸化カリウム水和物、水酸化ストロンチウム水和物、水酸化バリウム水和物、塩化ナトリウム水和物、塩化マグネシウム水和物、塩化亜鉛水和物、硝酸リチウム水和物、硝酸マグネシウム水和物、硝酸カルシウム水和物、硝酸アルミニウム水和物、硝酸カドミウム、硝酸鉄水和物、硝酸亜鉛水和物、硝酸マンガン水和物、硫酸リチウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、硫酸マグネシウム水和物、硫酸カルシウム水和物、硫酸カリウムアルミニウム水和物、硫酸アルミニウムアンモニウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、リン酸カリウム水和物、リン酸ナトリウム水和物、リン酸水素カリウム水和物、リン酸水素ナトリウム水和物、ホウ酸ナトリウム水和物、臭化カルシウム水和物、フッ化カリウム水和物、炭酸ナトリウム水和物、塩化カルシウム六水塩、炭酸水素カリウム水溶液、硫酸ナトリウム十水塩等の無機水和物・無機系共晶物等が使用できる。
これらのうち潜熱蓄熱材としては、固液相転移型の潜熱蓄熱材の使用が好適である。
この固液相転移型の潜熱蓄熱材とは、熱を吸収する際に固相から液相へと相変化し、その相変化(融解)の潜熱によって熱を蓄える(吸収する)相変化型の蓄熱材(相変化材)のことである。固液相転移型の潜熱蓄熱材の中でも、特にパラフィン類(飽和炭化水素化合物)、脂肪酸類(脂肪酸エステルを含む)等の有機系化合物は、比較的大きい潜熱を有し単位体積当たりの蓄熱量が大きく、融解と凝固を繰り返しても安定した放熱と蓄熱作用が得られる。また、腐食し難く、安価である。更に、炭素数、分子量等に応じて相変化温度(融点)を異にした材料種が多く存在し、材料の選択幅が広い。このため、潜熱蓄熱材として好ましく用いられる。
なお、これら潜熱蓄熱材は、1種を単独で用いても良いし2種以上の材料の混合物や共晶を用いても良いし、1種以上の材料を主成分として更に他の副成分(安息香酸、尿素、水等)を添加した混合物を用いてもよい。相変化温度(融点)の異なる2種以上の相変化材を用いることも可能である。
特に、潜熱蓄熱材として固液相転移型等の相変化材を使用する場合には、放熱対象物の材料種、作動(使用)温度、使用環境等に応じ、蓄熱したい目的の温度範囲に相変化温度(融点)を有する材料が選択される。
また、潜熱蓄熱材として好ましくは、炭素数が偶数2n(nは自然数から選択される1つの数)からなるノルマルパラフィンを60質量%以上含有するパラフィン化合物である。炭素数が2n(nは自然数から選択される1つの数)であるノルマルパラフィンが60質量%以上含有されているとは、所定温度に発熱する放熱対象物からの熱で相変化してその相変化に伴い蓄熱(吸熱)する機能を有するパラフィンとして炭素数が2n(偶数)であるノルマルパラフィンが選択され、この炭素数が2n(偶数)であるノルマルパラフィンの割合がパラフィン化合物中において60質量%以上を占めていることを意味する。即ち、炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンが主成分として60質量%以上の純度、含有量で含まれるパラフィン化合物が潜熱蓄熱材として使用されることを意味する。パラフィン化合物100質量%に対し、目的温度で蓄熱(吸熱)させる炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンが60質量%以上であり、より好ましくは、80質量%以上である。
潜熱蓄熱材として使用するパラフィンが炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンであると、その結晶構造からして高い蓄熱量(融解熱量)を有し、また、放熱成形体の熱伝導率が向上する。そして、パラフィン化合物中において潜熱蓄熱材として使用する炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンが60質量%以上、より好ましくは80%質量以上の含有であれば、更に、蓄熱温度域が狭域となるから所定の狭域で高い蓄熱量(融解熱量)を確保できうえ、熱伝導率を高めることができる。よって、放熱対象物の熱をより多く吸熱でき、かつ、熱が移動しやすくなるから、蓄熱量の向上及び熱伝導率の向上の相乗効果により放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を向上させることができる。
また、ノルマルパラフィンは、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸水和物、酢酸ナトリウム水和物等といったような無機水和塩や、脂肪酸や、脂肪酸エステル等の他の潜熱蓄熱材と比較して、臭気、毒性、腐食性もなくて取扱い易い。更に、熱的安定性も高く、繰り返しの相変化によっても劣化、特に酸化劣化しにくい材料であり耐久性も高く、また、結晶化速度、蓄熱(吸熱)特性が安定している。
中でも、炭素数が14以上、33以下である石油精製品のパラフィン化合物であると、入手が容易で低コストであり、また、高温条件としなくても加工時の流動性が確保されるから成形性も良く、加工時のコストを抑えることができる。よって、低コスト化を図ることができる。
更には、炭素数を表す2nのnが7~13の範囲内のノルマルパラフィンが好ましい。具体的には、n-テトラデカン(C14H30)、n-ヘキサデカン(C16H34)、n-オクタデカン(C18H38)、n-エイコサン(C20H42)、n-ドコサン(C22H46)、n-テトラコサン(C24H50)、ヘキサコサン(C26H54)の何れか1種以上が好ましい。より好ましくは、炭素数を表す2nのnが10~12の範囲内であるノルマルパラフィンである。具体的には、n-エイコサン(C20H42)、n-ドコサン(C22H46)、n-テトラコサン(C24H50)である。
このように、ノルマルパラフィンの炭素数を表す2nのnが7~13の範囲内では、炭素数が奇数(2n±1:n=7~13)の直鎖飽和炭化水素化合物よりも融解潜熱量が極めて高いからパラフィン化合物中での占有量を高めなくとも十分に高い蓄熱量が得られ、低コスト化が可能である。
ここで、例えば、自動車にバッテリとして搭載されているリチウムイオン電池の熱の放散を目的とする場合、即ち、本実施の形態1の放熱成形体用組成物から形成される放熱成形体を自動車に搭載されるリチウムイオン電地のバッテリに適用する場合、リチウムイオン電地の使用限界温度が通常、55℃~60℃程度であるところ、真夏の炎天下等の雰囲気温度が40℃以上に達する環境でも、温度上昇の速度を効果的に緩和するためには、好ましくは、20℃以上、50℃未満の範囲内で蓄熱材が相変化するのが好ましい。相変化温度が20℃未満であると、高温下において蓄熱容量がすぐに限界を超えて、効果的に電池の温度上昇を抑制することができない。また、電池の作動時以外でもバッテリの周囲の温度変化により相変化の過剰な繰り返しの負荷が生じる。一方、リチウムイオン電地の使用限界温度が通常、55℃~60℃程度であることから、相変化温度が50℃以上であると相変化の潜熱をほとんど利用できず、相変化して蓄熱するまでに電池の発熱温度が高くなりすぎ、リチウムイオン電地の作動時間を長くすることができない。相変化温度が20℃以上、50℃未満の範囲内に設定することで、リチウムイオン電地の高い昇温抑制効果による電池作動時間の長期化を可能とする。
より好ましくは、潜熱蓄熱材として用いるパラフィン化合物は、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃~55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するものが好ましい。これにより、車内の雰囲気温度が40℃以上に達する真夏の炎天下等の環境であっても、高蓄熱量及び高熱伝導率によって、リチウムイオン電池に対して効果的に熱を放散させて温度上昇を緩和でき、使用限界温度(55℃~60℃)への到達時間、つまり、作動可能時間の延長を可能とする。
即ち、融点が40℃以上、55℃以下のパラフィン化合物を用いることで、本実施の形態1では、後述するように潜熱蓄熱材及び所定のパラフィンオイルの組み合わせにより、選択した潜熱蓄熱材の融点より低い温度、例えば、35℃~53℃程度で相変化して熱を吸収するため、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達し、リチウムイオン電池と周囲環境との温度差が小さくなったときでも、リチウムイオン電池の温度上昇を効果的に抑制できる。ここで、パラフィン化合物のピークトップが40℃よりも低いものでは、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達するような高温環境下では直ぐに蓄熱容量が限界を超えてしまい、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果が弱く、リチウムイオン電池の使用限界温度に達するまでの時間の短縮効果が得られ難い。また、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達するような環境以外のときでも相変化が頻繁に繰り返されることになるから劣化も速くなる。特に、低融点であると、電池の作動時以外でもバッテリの周囲温度の影響で相変化が頻繁に繰り返されることもあり、早期の劣化を招くこともある。また、ピークトップが55℃よりも高いと、リチウムイオン電池がその使用限界温度に達するまでの蓄熱量が小さく、リチウムイオン電地の作動時間を長くすることができない。したがって、融点が40℃以上、55℃以下の範囲内であるパラフィン化合物の使用によって、真夏の炎天下等熱的に厳しい雰囲気温度となる環境でも、リチウムイオン電池等の二次電池の熱を逃してその温度上昇を効果的に抑制、緩和でき、高い放熱効果を得ることができる。
なお、上記示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃~55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するとは、JIS K 7122の転移熱測定方法に準拠した測定によって得られたDSCサーモグラムにおいて吸熱の主ピーク(山)のピークトップ(頂点)が40℃以上、55℃以下の範囲内にあることを示している。ピーク(山)が複数観測される場合には、ピークトップの値(ピーク値)が最も高いピークが主ピークである。因みに、DSCによる熱物性測定に際しては、まず、約5mgの試料を封入したアルミニウムパンを、窒素雰囲気下において、(1)10℃/分で昇温し110℃で5分間保持して完全に融解させたのち、次に、(2)5℃/分で30℃まで降温し30℃で5分間保持して再結晶化させ、再度(1)及び(2)を繰り返しており、2回目以降の昇温時の示差熱で吸熱特性の融解ピークが判断される。
そして、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃~55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するのであれば、融点が40℃~55℃の範囲内にある炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンの使用のみに限定されず、当該範囲外に融点を有する炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンを混合してもよい。
なお、蓄熱材として固液相転移型の潜熱蓄熱材を使用した場合には、放熱対象物の作動等による温度上昇に伴い、固体から液体に相変化することによって潜熱を吸収する一方で、放熱対象物の作動停止等による温度低下に伴い、液体から固体に相変化することによって潜熱を放出する。特に固液相転移型の潜熱蓄熱材は、状態変化がゆっくりであり、熱量が外部から供給されない場合には、蓄熱した潜熱を徐々に外部に放熱するという性質を有している。このような性質により、自動車に搭載されるリチウムイオン電池等の二次電池バッテリ等で使用する蓄熱ポリマ成形体において相変化温度(融点)が50℃未満の比較的低い潜熱蓄熱材を用いた場合、冬場の常温、低温(40℃以下)環境下のように自動車の車外の環境温度とバッテリ等の二次電池温度の差が大きくなる際には、リチウムイオン電池等二次電池の作動停止後、蓄熱ポリマ成形体に吸収された潜熱の放出によりリチウムイオン電池等の二次電池の保温が促され、電池の温度低下が緩和されることで、常温、低温(40℃以下)化による起電力の低下を防止して、起動時や充電時の電池性能を良好に保持することができる。
また、本発明を実施する場合には、パラフィン化合物の製品としては、マイクロカプセルに封入していない状態の石油精製品をそのまま使用しても良いし、マイクロカプセルに内包されているものを使用しても良いし、樹脂等でパッキングされているものを使用してもよい。例えば、マイクロカプセルの場合、そのカプセル外殻を構成する膜材(カプセル膜材)には、界面重合法、インサイチュー(in-situ)法等の手法で得られるポリスチレン、アクリル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン類、アミノ類、メラミン、尿素等の樹脂や、カルボキシメチルセルロースまたはアラビアゴムとゼラチンとのコアセルベーション法を利用した樹脂が使用される。
しかし、マイクロカプセルに封入されたパラフィン化合物の製品を使用する場合、カプセル殻の存在により、また、カプセル内でパラフィン化合物が充填されない空隙部分により、全体的な潜熱量、熱伝導率が低下することになる。また、マイクロカプセルや架橋剤等を必要とし製造工程も複雑化するからコスト高となる。
したがって、マイクロカプセルに封入されていないパラフィン化合物の方が、全体的な潜熱量及び熱伝導率を高くでき、マイクロカプセルや架橋剤等を用いないことで低コストであるから好ましい。
特に、水添ジエン系共重合体を熱可塑性ベースポリマに選定することで、パラフィン化合物がマイクロカプセルに封入されていなくとも、パラフィン化合物の相変化による相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を抑制できる。
そして、本実施の形態1の放熱成形体用組成物においては、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルが含有される。このような所定のオイルを配合することにより、潜熱蓄熱材や熱伝導性フィラの含有量を多くしたときでも、放熱成形体用組成物をシート状等に成形してなる放熱成形体の昇温による低硬度化が速く、常温~40℃程度の低い温度であっても低硬度であり、放熱対象物に高密着できる。よって、放熱対象物の熱が放熱成形体に伝導されやすくなり、更に、それにより潜熱蓄熱材や熱伝導性フィラによる蓄熱性及び熱伝導性が十分に発揮されることから、放熱効果を上げることができる。
特に、本実施の形態1の放熱成形体用組成物で用いるパラフィン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のものである。また、ナフテン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のものである。更に、アロマ系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のものである。このような所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、またはアロマ系プロセスオイルの配合により、潜熱蓄熱材による潜熱量を損なうことなく、潜熱蓄熱材の相変化温度よりも低温側に放熱成形体の相変化温度を設定できるようになり、更に、それら所定のプロセスオイルの配合量の調節により、放熱成形体の相変化温度を調節する制御が可能であり、放熱成形体の相変化温度を所望温度に設定することが可能となる。
ここで、本実施の形態1の放熱成形体用組成物で用いるパラフィン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のものである。40℃における動粘度が10mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイルでは低硬度化の効果が得られない。40℃における動粘度が100mm2/s以上のパラフィン系プロセスオイルでは、放熱成形体の相変化温度の制御性が低下する。即ち、配合量の調節による温度変化が小さく、相変化温度を調節するために配合量を多くすると成形性や強度が損なわれる。
40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満の範囲内のパラフィン系プロセスオイルであれば、強度や成形性を損なうことなく、放熱成形体の相変化温度の高い制御性が得られ、かつ、放熱性成形体における常温~40℃程度の低い温度での硬度も十分に低下し放熱効果を上げることができる。より好ましくは、40℃における動粘度が、好ましくは、15mm2/s以上、80mm2/s以下、更に好ましくは、20mm2/s以上、75mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルである。
また、本実施の形態1の放熱成形体用組成物で用いるナフテン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のものである。40℃における動粘度が120mm2/s未満のナフテン系プロセスオイルでは、放熱成形体において常温~40℃程度の低い温度での硬度が十分に低下せず、放熱対象物に対する初期の密着性に不足し、放熱対象物の温度が上昇したときでも高い密着性が得られないことで、実用的な放熱の向上効果が得られない。40℃における動粘度が350mm2/sを超えるナフテン系プロセスオイルでは、放熱成形体の相変化温度を蓄熱材の融点よりも低温側に制御しがたい。
40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイルであれば、強度や成形性を損なうことなく、放熱成形体の相変化温度の高い制御性が得られ、かつ、放熱性成形体における常温~40℃程度の低い温度での硬度も十分に低下し放熱効果を上げることができる。より好ましくは、40℃における動粘度が、好ましくは、130mm2/s以上、330mm2/s以下、更に好ましくは、150mm2/s以上、320mm2/s以下のナフテン系プロセスオイルである。
更に、本実施の形態1の放熱成形体用組成物で用いるアロマ系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のものである。40℃における動粘度が100mm2/s未満のアロマ系プロセスオイルでは、放熱成形体において常温~40℃程度の低い温度での硬度が十分に低下せず、放熱対象物に対する初期の密着性に不足し、放熱対象物の温度が上昇したときでも高い密着性が得られないことで、実用的な放熱の向上効果が得られない。40℃における動粘度が300mm2/sを超えるアロマ系プロセスオイルでは、放熱成形体の相変化温度の制御性が低下する。即ち、配合量の調節による温度変化が小さく、相変化温度を調節するために配合量を多くすると成形性や強度が損なわれる。
40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルであれば、強度や成形性を損なうことなく、放熱成形体の相変化温度の高い制御性が得られ、かつ、放熱性成形体における常温~40℃程度の低い温度での硬度も十分に低下し放熱効果を上げることができる。より好ましくは、40℃における動粘度が、好ましくは、110mm2/s以上、250mm2/s以下、更に好ましくは、120mm2/s以上、200mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルである。
更に、本発明を実施する際には、必要に応じて、強度や剛性の向上等のために補強充填材を配合することが可能である。そのような補強充填材としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、ベントナイト、パイロフェライト、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、MOS、アラミド繊維、炭素繊維(カーボンファイバー)、ガラス繊維(グラスファイバー、チョップドファイバー、ミルドファイバー)等の各種繊維系、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウィスカー等を使用できる。
こうして、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルとを含有するものであり、これらの混合物を成形することにより放熱成形体が形成される。
このような放熱成形体用組成物から放熱成形体を得る際には、例えば、混合・攪拌機(ディスパ、プラネタリーミキサ、ビーズミル、ヘンシェルミキサ、V型ブレンダ、メカノケミカル装置、スタティックミキサ、ダイナミックミキサ、タンブラ、スーパーミキサ、プラストミル、バンバリーミキサ、ニーダ、ロール、フィーダールーダ、ブラベンダ、エクストルーダ、押出機、2軸混練押出機等)を使用して、熱可塑性ベースポリマ、熱伝導性フィラ、潜熱蓄熱材、所定のプロセスオイルを混合して溶融混練する。好ましくは、潜熱蓄熱材及び熱可塑性ベースポリマが液状化(溶融)する温度に加熱して溶融混練される。必要に応じて脱泡処理を行ってもよい。そして、公知の成形加工法、例えば、圧縮成形(プレス成形)、射出成形、押出成形(Tダイ)、ブロー成形、ガスアシスト等の中空成形、真空成形、カレンダー成形、異型成形、回転成形、トランスファー成形、フィルム成形、発泡成形(超臨界流体も含む)、熱成形、バーコータ、ドクターブレード、積層成形等によって所望の形状に成形する。
成形形態としては、放熱対象物の構造や放熱対象物への適用形態等に応じて、シート状、フィルム状、板状(パネル状)、ガスケット状、成形体状、ブロック状、箱状(筐体状)、棒状、パイプ状、粒状、ペレット状等の所定形状に成形することができる。例えば、圧縮成形(プレス成形)、射出成形、押出成形、カレンダー成形等によって、シート状、フィルム状、板状等に成形できる。その他、ブロック状に成形した後、切断してシート状、フィルム状、板状等としてもよい。
このような放熱成形体用組成物からなる放熱成形体は、例えば、リチウムイオン電池の放熱対策に使用する場合には、シート状、フィルム状に成形し、リチウムイオン電池のセルが複数配される電池モジュールの電池パック内において、リチウムイオン電池セルとヒートシンクの間に介在させることにより、リチウムイオン電池の熱をヒートシンクに効果的に逃すことができる。また、リチウムイオン電池のセル同士の間に介在させることにより、複数個のセルのうち一部で異常発熱したときでも、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体が蓄熱性を有するから近隣の電池に高熱が移動するのを防止でき、電池パック内の全体で温度上昇が早まるのを防止することができる。即ち、セル間の温度バラつきを防止し、全体の温度上昇を抑制する効果を高めることができる。特に、本実施の形態1の放熱成形体用組成物によれば、熱可塑性ベースポリマと熱伝導性フィラと潜熱蓄熱材と所定のプロセスオイルの組み合わせによって、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度での硬度も十分に低下するから、放熱対象物への密着性を高めて接触熱抵抗を少なくし、放熱対象物の熱を多く速やかに逃すことができる。加えて、異常発熱によってリチウムイオン電池が膨張した際でも、膨張したリチウム電池による膨張圧(内圧)の上昇を吸収し破損を回避することができる。このときリチウムイオン電池のセル同士の間にも放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を介在させていると、一部が異常発熱したときでも、隣のリチウム電池や電池を収めている筐体への影響を少なくして破損を防止できる。更には、セルの寸法公差も吸収でき、また、制振といった振動対策や、電池モジュール周辺の電気的絶縁にも有効である。
なお、このように放熱成形体用組成物からなる放熱成形体をシート状、フィルム状に成形するときのそのシートの厚みは、例えば、0.05mm以上、5mm以下、好ましくは、0.1mm以上、3mm以下とされる。取扱性から、シートの両面には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂材料からなる離型フィルムが貼着されることもある。
また、リチウムイオン電池の放熱対策においては、例えば、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体をシート状、フィルム状に成形し、放熱対象物とヒートシンクの間にシートート状、フィルム状の放熱成形体を介在させることにより、低温での硬度も十分に低硬度化された放熱成形体によって放熱対象物及びヒートシンクに対する密着性の向上、並びに、それにより放熱成形体の高い蓄熱性及び高い熱伝導性の効果が十分に発揮されることにより、ヒートシンク側に放熱対象物の熱を素早く移動させる放熱効果を高めることができる。また、これ以外にも、例えば、放熱成形体を筐体状に成形して、この筐体内に個々のリチウムイオン電池セルを収納して電池パックを構成するようにしてもよい。このとき、筐体内に各リチウムイオン電池セルを隔てる仕切りを設け、この仕切りも放熱成形体用組成物からなる放熱成形体で形成してもよい。このような筐体状であれば、その厚みが例えば、1.0mm以上、10mm以下とされる。
こうした本実施の形態1の放熱成形体用組成物から成形によって形成される放熱成形体によれば、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルが含有されることで、昇温による低硬度化が速く、常温~40℃程度の低い温度での硬度も十分に低い放熱成形体を得ることができ、放熱対象物への密着性が向上される。よって、放熱対象物に対する接触熱抵抗が低く抑えられ、また、放熱対象物との間隙で生じる断熱性が低減し、放熱対象物の熱が速やかに放熱成形体に伝導されやすくなるから、放熱効果が高まる。また、電子部品等の放熱対象物とヒートシンク等の冷却部材との間に放熱性成形体を介在させる使途では、それら電子部品等の放熱対象物と冷却部材の両方に高密着でき、それらの界面における接触熱抵抗が低く抑えられることで、熱伝導性を高めることが可能である。
即ち、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの含有により、熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材を多く配合しても、放熱成形体が硬くなりすぎず常温~40℃程度の低い温度でも低硬度が確保される。よって、熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材を多く配合しても、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できるから、放熱対象物の熱が放熱成形体の蓄熱材や熱伝導性フィラに伝導されやすくなり、それら潜熱蓄熱材による蓄熱量や熱伝導性フィラによる熱伝導性の向上効果が十分生かされることで、放熱効果を向上できる。
即ち、放熱対象物から伝導された熱は、放熱成形体において熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材が含有されていることで、熱伝導性フィラによって熱伝導経路が確保され、放熱対象物の熱が伝導されやすくなっているうえ、放熱対象物から伝導された熱は熱伝導経路で拡散されやすくなっている。このため、放熱対象物から伝導された熱は、潜熱蓄熱材に伝導されて吸収されやすく、また、放熱対象物の周辺外部にも放散されやすくなる。なお、ヒートシンク等の冷却部材と放熱対象物との間に放熱成形体を介在させている場合には、その冷却部材側に熱が伝導しやすいことになる。そして、特に、放熱対象物とその周囲とで温度差が小さい環境でも、放熱対象物の熱を潜熱蓄熱材で吸収して蓄熱できるから、放熱対象物の温度上昇を効果的に抑制、緩和できる。
ここで、熱伝導性フィラによる熱伝導のみでは、放熱対象物とその周囲の雰囲気との温度差が小さいときには、放熱対象物の熱を逃しにくい。また、潜熱蓄熱材の蓄熱のみでは、本発明に使用するベースポリマとなる熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマは一般に熱伝導性が低いものが多いため、放熱対象物の熱が効率的に潜熱蓄熱材に伝導され難い。即ち、潜熱熱材の蓄熱性を十分に生かすことができない。また、外部に熱が逃げにくく、潜熱蓄熱材の蓄熱容量の限界を超えると放熱対象物が再び急速度で温度上昇してしまう。よって、潜熱蓄熱材による蓄熱のみでは、放熱対象物に対する温度上昇の抑制、緩和する効果に限度があり、高い放熱効果を上げることができない。
熱伝導性フィラによる熱伝導及び潜熱蓄熱材による蓄熱の組み合わせによって、潜熱蓄熱材による吸熱、蓄熱効果が得られると共に、熱伝導性フィラによる熱伝導経路が確保されることで熱が移動しすくなり、放熱対象物の熱が効率的に潜熱蓄熱材に伝わり易く潜熱蓄熱材による吸熱、蓄熱を十分に生かすことができ、また、外部にも熱が逃げやすくなる。よって、放熱対象物とその周辺との温度差が小さい環境下でも、効果的に放熱対象物の温度上昇を抑制、緩和することができる。
こうして本実施の形態1の放熱成形体用組成物から成形によって形成される放熱成形体によれば、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルが含有されることで、熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材を多く配合しても、常温~40℃程度の低い温度でも低硬度が確保され、放熱対象物に高密着できる。よって、放熱対象物の熱を速やかに放熱成形体に逃すことができ、放熱対象物の熱を放熱成形体に伝導する熱伝導性が高まることで、放熱成形体に含有される熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材の配合量に見合った熱伝導性及び蓄熱性を十分に発揮できることになるから、放熱効果を高めることができる。即ち、熱伝導性フィラの高充填による高熱伝導率と低硬度とが両立し、放熱効果を向上できる。
このように本実施の形態1の放熱成形体用組成物によれば、所定のプロセスオイルの含有により、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度でも十分に低硬度になることで、凹凸形状を有する放熱対象物に対してもそれに追随する高い密着性が得られ接触熱抵抗や放熱対象物との間隙で生じる断熱性を低減して、放熱対象物の熱を伝導しやすくできるため、放熱効果を上げることができる。加えて、放熱対象物への密着性の向上により放熱対象物の熱膨張を吸収する吸収力が向上し、放熱対象物が発熱で膨らんだときでもその応力を効果的に吸収できることになる。よって、放熱対象物に係る内圧の増加を抑制する効果も高まる。例えば、放熱対象物がリチウムイオン電池等の二次電池である場合、劣化により電池自体が膨らんだ場合でもその応力を吸収して内圧がかかるのを防止し、破損を防ぐことができる。また、防振・防音といった振動対策にも有効である。更に、大容量化のために二次電池の複数個のセルが連結された二次電池モジュールにおいては、各セルの寸法公差をも吸収して、セル間の温度ばらつきを防止し、全体で高い温度抑制効果を得ることができる。
そして、このような本実施の形態1の放熱成形体用組成物においては、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの配合により、放熱成形体の相変化温度は、潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも低温に設定でき、それら所定のプロセスオイルの配合量の調節によって放熱成形体の相変化温度の制御が可能である。
ここで、従来、熱可塑性ベースポリマ、熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材を組み合わせて得られる放熱成形体によれば、その相変化温度は、潜熱蓄熱材の選定に依存するものであるところ、例えば、相変化温度(融点)を異にした材料種が多く存在し、材料の選択幅が広いパラフィンであっても、炭素数が1つ増えると最小でも3℃以上の融点差がある。例えば、潜熱蓄熱材としてのパラフィンにおいて、融点が35℃以上、52℃以下の範囲内のものは、n-イコサン(融点37℃)、n-ドコサン(融点46℃)、n-テトラコサン(融点51℃)に限定されることから、放熱成形体の相変化温度は、それらの化合物の融点(相変化温度に限定され、放熱成形体の相変化温度を上記の化合物の融点及びその近傍以外の所望の温度に制御することが困難である。凝固点降下剤の配合によって相変化温度を調節することも可能であるが、凝固点降下剤を配合するとなると、パラフィン化合物等の潜熱蓄熱材の蓄熱量が低下する問題がある。
しかしながら、本実施の形態1の放熱成形体用組成物によれば、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの配合により、潜熱蓄熱材による蓄熱量を損なうことなく、潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも低温に変化できる。更に、それら所定のプロセスオイルの配合量を調節することで、放熱成形体の相変化温度を調節する制御が可能であり、所望の相変化温度に調節することが可能である。
よって、熱的に厳しい環境等での使用により放熱対象物と周囲環境とで温度差が得られ難い条件となる部品用の放熱対策、放熱構造の設計において、その部品の作動温度、使用環境等に応じた所望の相変化温度の設定が可能となる。故に、放熱対象物に応じて蓄熱に最適な温度設計が可能になり、放熱効果の向上が可能となる。即ち、本実施の形態1では、潜熱蓄熱材及び40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの組み合わせにより、潜熱蓄熱材の固有の融点以外の所望温度に相変化温度を設定することが容易であり、放熱対象物の使用温度、放熱対象物の周囲構造等に応じて、放熱対象物の放熱に最適な温度設計での蓄熱を可能とする。
加えて、本実施の形態1の放熱成形体用組成物によれば、ベースとなるポリマが熱可塑性であり、そのうえ、所定の動粘度を有するプロセスオイルを配合しているため、組成物を調製する時に適度な流動性や粘度を示して、熱伝導性フィラ及び潜熱蓄熱材が均一に高分散されやすく、成形性も良好である。熱伝導性フィラ及び蓄熱材が均一に高分散されると熱伝導性フィラによる熱伝導性及び蓄熱材による蓄熱性を効果的に発揮される。また、プロセスオイルの配合量の調節及びベースポリマの熱可塑性の特性、配合量により複雑な形状にも成形可能であり、放熱対象物の形状や大きさに対応することができて、成形性や成形自由度(形状選択の自由度)が高く、幅広い放熱対象物に適用することができる。また、ベースとなるポリマが熱可塑性であるため他の樹脂材料や金属材料と一体成型することも可能である。更に、所定のプロセスオイルを配合したことにより、成形性や成形自由度がより向上する。
このため、発熱源の熱による昇温を抑制する熱対策部材として、幅広い部品等に適用可能である。
よって、リチウムイオン電池以外の放熱対策以外にも、例えば、自動車部品、具体的には、リチウムイオン電池以外の二次電池バッテリ、LEDヘッドランプ、キャパシタ、キャニスタ、燃料タンク(ベーパ抑制)等の熱対策にも有効に使用できる。例えば、これら部品の発熱源(放熱対象物)とヒートシンクの間に放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を介在させたり、これら部品の筐体を放熱成形体用組成物からなる放熱成形体で形成したりすることによって、それら部品の温度上昇を抑制、緩和できる。
なお、本実施の形態1において、プロセスオイルは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの何れか1種に限定されることなく、それらの2種以上を併用することも可能である。
次に、本発明の実施の形態1に係る放熱成形体用組成物の実施例について、具体的に説明する。
本実施の形態1に係る実施例では、例えば、自動車に搭載されるリチウムイオン電池(LIB)バッテリの熱対策としての放熱用途を想定し、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物の配合組成として、表1に示した内容で実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体用組成物を作製した。また、比較のために、比較例1に係る放熱成形体用組成物も作製した。各実施例及び各比較例の放熱成形体用組成物の配合内容を表1の上段に示す。
本実施例1乃至実施例5と比較例1では、熱可塑性ベースポリマとしてはSEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製『G1651HU』)を用いた。また、潜熱蓄熱材としてはn-ドコサン(C22H46)(以下、n-ドコサン(C22H46)を単に「ドコサン」と記載する)のパラフィン化合物(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22-95』;Peak:49.4℃、Onset:41.7℃、純度:95%)を用いた。更に、熱伝導性フィラとしては、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製『R重炭』)を用いた。そして、プロセスオイルとして、実施例1乃至実施例3では、40℃における動粘度が31.39mm2/sのパラフィン系プロセスオイル(JXTGエネルギー(株)製の『プロセスオイルP100K』、100℃における動粘度:5.15mm2/s、硫黄分:0.3mass%)を用い、実施例4では、40℃における動粘度が218.8mm2/sのナフテン系プロセスオイル(JXTGエネルギー(株)製の『クリセフオイルH220』、100℃における動粘度:12.05mm2/s、硫黄分:0.01mass%)を用い、実施例5では、40℃における動粘度が157.4mm2/sのアロマ系プロセスオイル(JXTGエネルギー(株)製の『アロマックス1』、100℃における動粘度:9.606mm2/s、硫黄分:5.35mass%)を用いた。なお、比較例1では、上記の何れのプロセスオイルも配合しなかった。
表1に示したように、本実施例1乃至実施例5及び比較例1では、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量は6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量は34.0質量部で統一されているが、プロセスオイル及び熱伝導性フィラについてはその配合内容や配合量が相違している。
具体的に、実施例1では、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量を5.0質量部、熱伝導性フィラとしての配合量を54.2質量部としている。
即ち、この実施例1の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部(但し、パラフィン化合物中においてドコサンの含有量は約95質量%であるから、ドコサンの配合量は約32.3質量部)であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が54.2質量部であり、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量が5質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが797質量部、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルが73.5質量部の配合となっている。
実施例2では、実施例1のときよりも所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量を増やして10.0質量部とし、一方で、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合を減らして49.2質量部としている。
即ち、この実施例2の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が49.2質量部であり、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量が10質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが724質量部、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルが147質量部の配合となっている。
実施例3では、実施例1、実施例2のときよりも所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量を増やして15.0質量部とし、一方で、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合を減らして44.2質量部としている。
即ち、この実施例3の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が44.2質量部であり、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合量が15質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが650質量部、所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルが221質量部の配合となっている。
また、実施例4では、所定の動粘度を有するナフテン系プロセスオイルの配合量を実施例2と同じく10質量部とし、熱伝導性フィラとしての配合量を49.2質量部としている。
即ち、この実施例4の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が49.2質量部であり、所定の動粘度を有するナフテン系プロセスオイルの配合量が10質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが724質量部、所定の動粘度を有するナフテン系プロセスオイルが147質量部の配合となっている。
実施例5では、所定の動粘度を有するアロマ系プロセスオイルの配合量を実施例2、実施例4と同じく10質量部とし、熱伝導性フィラとしての配合量を49.2質量部としている。
即ち、この実施例5の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が49.2質量部であり、所定の動粘度を有するアロマ系プロセスオイルの配合量が10質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが724質量部、所定の動粘度を有するアロマ系プロセスオイルが147質量部の配合となっている。
一方、比較例1では、上記何れのプロセスオイルも配合せず、熱伝導性フィラとしての配合量を59.2質量部としている。
即ち、この比較例1の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が59.2質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが724質量部となっている。
実施例1乃至実施例5及び比較例1に係る放熱成形体用組成物は、このような配合組成からなる。
次に、このような配合組成の放熱成形体用組成物から放熱成形体を作製した。その手順を以下に説明する。
まず、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBS及び熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムをドライブレンドした後、所定のプロセスオイルを加えた。次に、予めオーブンによる加熱(80~110℃)で液状(溶融状態)とした潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物を入れ、ディスパで全体が満遍なく混ざるように混合分散した。更に、その混合材料を、予め130~160℃に加温しておいたジャケットボール(加温容器)付き万能攪拌機に投入し、130~160℃で60分間混練した。その後、シート状に圧縮成形し冷却した。このようにして、実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体用組成物からなる放熱成形体(放熱シート)を得た。また、プロセスオイルを添加しない以外は上記と同様の手順として、比較例1に係る放熱成形体(放熱シート)も作製した。
更に、このようにして得られた実施例1乃至実施例5及び比較例1に係るシート状の放熱成形体(放熱シート)について、比重、硬度、相変化温度及び熱伝導率の測定を行った。測定結果は、表1の下段に示した通りである。
比重については、比重カップ法により測定(約20℃条件下)し算出(重量/体積)した。
硬度については、JIS K7312に準拠して、デュロメータタイプC(アスカーC型ゴム硬度計、高分子計器(株)製)を用い、23℃及び40℃における硬度を測定した。
相変化温度については、示差走査型熱量計(DSC)(TAインスツルメント社製『Q200』)を用いて求めた。具体的には、JIS K 7122の転移熱測定方法に準拠し、約5mgの試料(放熱成形体)を封入したアルミニウムパンを、窒素雰囲気下において、(1)10℃/分で昇温し110℃で5分間保持して完全に融解させたのち、(2)5℃/分で30℃まで降温し30℃で5分間保持して再結晶化させ、再度(1)及び(2)を繰り返して、温度-吸熱特性を示す融解曲線(示差熱曲線)を得た。2回目以降の昇温時の示差熱を測定した結果から、相変化温度を求めた。なお、ここでの相変化温度は、示差熱が結晶融解に伴う吸熱の主ピークのピークトップの温度(融点(Tm)、即ち、融解ピーク温度(Tpm))である。
熱伝導率については、ASTM EI530に準拠した定常法により測定した。
表1に示したように、プロセスオイルオイルを配合していない比較例1に係る放熱成形体においては、23℃における硬度(アスカーC)が95.0であり、40℃における硬度(アスカーC)が78.7である。
これに対し、40℃における動粘度が31.39mm2/sであるパラフィン系プロセスオイルを配合した実施例1乃至実施例3に係る放熱成形体、40℃における動粘度が218.8mm2/sであるナフテン系プロセスオイルを配合した実施例4に係る放熱成形体、及び40℃における動粘度が157.4mm2/sであるアロマ系プロセスオイルを配合した実施例5に係る放熱成形体においては、何れも、23℃における硬度(アスカーC)が91以下であり、40℃における硬度(アスカーC)が32.3以下であり、所定のオイルの配合によって放熱成形体の40℃以下における硬度は極めて低いものとなっている。
ここで、本実施例に係る放熱性成形体の温度と硬度(アスカーC)の関係を図1のグラフを用いて説明する。図1のグラフは、実施例2、実施例4、実施例5及び比較例1に係る放熱成形体について温度を変化させたときの硬度の変化を示したものである。図1のグラフに示すように、比較例1に係る放熱成形体では、温度の上昇によって硬度が低下し、45℃以上における硬度は実施例と同程度であるも、23℃における硬度(アスカーC)が95.0、30℃における硬度(アスカーC)が94.5、35℃における硬度(アスカーC)が93.5、40℃における硬度(アスカーC)が78.7であり、40℃以下の硬度は極めて高い値となっている。
これに対し、実施例2、実施例4及び実施例5に係る放熱成形体においては、23℃における硬度(アスカーC)が87~91、30℃における硬度(アスカーC)が79~81、35℃における硬度(アスカーC)が62~69、40℃における硬度(アスカーC)が29~33であり、40℃以下の低い温度、常温では、比較例1と比較して、硬度(アスカーC)が極めて低い値となっている。即ち、昇温による硬度の低下が速くなっている。
よって、比較例1と比較して、本実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体によれば、放熱対象物に接触させたときの、初期の低い温度条件での密着性にも優れることになるから、放熱対象物の温度が上昇したときでも放熱対象物との密着性が高く維持され、放熱対象物の熱を速やかに放熱成形体に移動する熱伝導性、放熱性が高いものとなる。
なお、この点、本発明者らは実施例及び比較例に係る放熱成形体についてその引張強度を測定したところ、表1の下段に示したように、比較例に係る放熱成形体に比して、実施例に係る放熱成形体の引張強度は低い値となっており、硬度に略比例している。
因みに、抗張力の測定試験については、100mm×100mm×厚さ3~5mmの鋼板上に離型紙をはり、その上にシート状の放熱成形体を載せ、3号ダンベル状打ち抜き型を用いて打ち抜いたものを試験片とした。そして、この試験片に対し、中心の平行部分に20mmの標線を付けた後、20℃下にて、つかみ具の移動速度(引張速度)200mm/minで3号ダンベルを引張る引張試験を行い、単位断面積当たりの引張強度(抗張力(Mpa))を測定した。なお、引張強度(Mpa)は、試験片が破断するときの最大荷重を測定して次式より算出したものである。
引張強度(Mpa=N/mm2)=最大荷重(N)/試験前の試験片の断面積(mm2)
また、表1に示したように、プロセスオイルを配合していない比較例1に係る放熱成形体の相変化温度は、46.2℃であり、潜熱蓄熱材として用いたn-ドコサンの融点と略一致している。
これに対し、40℃における動粘度が31.39mm2/sであるパラフィン系プロセスオイルを配合した実施例1乃至実施例3に係る放熱成形体、40℃における動粘度が218.8mm2/sであるナフテン系プロセスオイルを配合した実施例4に係る放熱成形体、及び40℃における動粘度が157.4mm2/sであるアロマ系プロセスオイルを配合した実施例5に係る放熱成形体の相変化温度は、41.1~44.2℃であり、比較例1に係る放熱成形体の相変化温度よりも、即ち、潜熱蓄熱材として用いたn-ドコサンの融点よりも、2℃~5.1℃低下している。
よって、本実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体によれば、その相変化温度を潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも低温側に設定できる。
特に、実施例1~実施例3の比較から、所定のプロセスオイルの配合量の変化により放熱成形体の相変化温度が変化しており、所定のプロセスオイルの配合量の増大に伴い放熱成形体の相変化温度が低下していることが分かる。
よって、本実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体によれば、所定のプロセスオイルの配合量の調節によって放熱成形体の相変化温度を調節、制御できて、放熱成形体の周囲構造等に応じて放熱対象物を放熱させるのに効果的な所望温度に設計することが容易である。
なお、実施例2、実施例4及び実施例5の比較から、プロセスオイルの配合量は同一でも、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルを配合した放熱成形体は、パラフィン系プロセスオイルを配合した放熱成形体よりもその相変化温度がより低温側にある。よって、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合では、パラフィン系プロセスオイルを配合するときと比較して、少ない配合量で相変化温度をより低下させることが可能である。また、パラフィン系プロセスオイルの配合では、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合と比較し、低比重化が可能である。
ここで、本発明者らの実験研究よれば、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの配合は、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、3質量部以上、20質量部以下が好ましい。また、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、30質量部以上、600質量部以下が好ましい。
所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合量が少なすぎると、放熱成形体の常温~40℃程度の低温での硬度が十分に低下せず、放熱対象物に対する初期の密着性が不足し、放熱対象物の温度が上昇したときでも高い密着性が得られない。このため、効果的な放熱の向上効果が得られない。一方で、配合量が多すぎると、成形性が損なわれる。
放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合を3質量部以上、20質量部以下とすることで、また、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、30質量部以上、600質量部以下とすることで、成形性を損なうことなく、放熱効果を上げることができる。より好ましくは、所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合が、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、4質量部以上、18質量部以下、更に好ましくは、5質量部以上、15質量部以下であり、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対して、35質量部以上、500質量部以下、更に好ましくは、70質量部以上、250質量部以下である。
また、本発明者らの実験研究よれば、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、潜熱蓄熱材の配合は、10質量部以上、50質量部以下が好ましい。熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材の配合は、300質量部以上、1200質量部以下が好ましい。
潜熱蓄熱材が少なすぎると、十分な蓄熱量が得られず、周囲との温度環境差が小さい場合に放熱対象物の温度上昇を効果的に防止できない。一方で、多すぎると、ブリードアウトしやすくなり蓄熱性が低下する。また、成形性も低下する。
潜熱蓄熱材の配合は、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、10質量部以上、50質量部以下とすることで、また、熱可塑性ベースポリマの100質量部に対して、300質量部以上、1200質量部以下とすることで、低硬度及び成形性を損なうことなく、高い蓄熱性が得られ、形状保持性も確保される。より好ましくは、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、23質量部以上、48質量部以下、更に好ましくは、25質量部以上、45質量部以下であり、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、350質量部以上、1000質量部以下、更に好ましくは、475質量部以上、735質量部以下である。
更に、本発明者らの実験研究よれば、熱伝導性フィラの配合は、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、35質量部以上、90質量部以下が好ましく、熱可塑性ベースポリマを100質量部に対しては500質量部以上、2000質量部以下が好ましい。
熱伝導性フィラが少なすぎると、十分な熱伝導性が得られず周囲との温度差が小さい条件下での放熱効果も小さい。一方で、多すぎると、低硬度及び成形性が損なわれる。
熱伝導性フィラの配合は、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、35質量部以上、90質量部以下とすることで、また、熱可塑性ベースポリマの100質量部に対して、500質量部以上、2000質量部以下とすることで、低硬度及び成形性を損なうことなく、高い熱伝導性が得られる。より好ましくは、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、40質量部以上、90質量部以下、更に好ましくは、45質量部以上、90質量部以下であり、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対して、より好ましくは、550質量部以上、1800質量部以下、更に好ましくは、600質量部以上、1500質量部以下である。
なお、実施例1乃至実施例5においては、比較例1と比較して、熱伝導性フィラの配合が少ないことで熱伝導率が低下しているが、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、5~15質量部の所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルの配合でも、25℃における熱伝導率が0.41(W/m・K)以上、50℃における熱伝導率が0.35(W/m・K)以上であり、必要とされる熱伝導率が確保されている。よって、十分な熱伝導性を確保しつつ、40℃以下における硬度の低高度化が可能である。
ここで、実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体用組成物においては、熱伝導性フィラとして極めて安価である炭酸カルシウムを用いている。炭酸カルシウムは、絶縁性の熱伝導性フィラの中でも比較的熱熱伝導率は低いが、実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体用組成物においては、所定のプロセスオイルの含有によって常温~40℃程度の低温でも低硬度な放熱成形体を形成でき、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できることにより、界面接触熱抵抗値を低下させて放熱対象物から放熱成形体に熱を移動させる熱伝導性能が高められ、放熱効果を向上できるから、熱伝導率の低い炭酸カルシウムを用いても、放熱対象物の温度を抑制、緩和する高い放熱効果を得ることができる。故に、実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体用組成物によれば、低コストで、高い放熱効果を得ることできるようになる。
なお、実施例1乃至実施例5においては、熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント(ポリスチレン)及びソフトセグメント(ポリブチレン)を有する水添ブロック共重合体のSEBSを使用しているため、その網目構造に多くの潜熱蓄熱材、即ち、パラフィン(ドコサン)を取込むことができる。このため、潜熱蓄熱材としてのドコサン(C22H46)がマイクロカプセル等に内包されていなくとも、その相変化による相分離、液相のブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が抑制されており、実施例1乃至実施例5に係る放熱成形体においては、何れも、60℃の温度条件下での減量率が、耐久時間380時間後でも、0.26%以下であった。更に、本発明者らの実験では、繰り返しの相変化(凝固と融解の相転移)、ヒートサイクルによっても、相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が生じ難くて形状が保持され、放熱効果が低下することなく高い耐久性を有することを確認しており、ブリードアウトによる汚染の懸念もない。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSは、柔軟性が高く、パラフィン等の潜熱蓄熱材を多く含浸させることができてその取込み速度もはやいことで、放熱成形体とする際の成形性、加工性も良く、そして、潜熱蓄熱材の相変化による相分離、液相のブリードアウトの抑制効果も高いものである。特に、本実施例で使用したSEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製『G1651HU』)は、パウダー状であるために、ペレット状のものと比較してパラフィンの浸透が速く加工性に優れる。そして、このように成形性、加工性、柔軟性がよいから、放熱対象物の形状に対応させる低硬度化に有利であり、放熱対象物の形状を問わず高い密着性を得て高い放熱効果を得ることが可能となる。
以上説明してきたように、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの何れか1種以上のプロセスオイルを含有するものである。
なお、上記実施の形態1は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルの何れかのプロセスオイルを含有する放熱成形体用組成物を成形してなる放熱成形体の発明と捉えることもできる。
このような本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物によれば、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルを含有することにより、常温~40℃程度での硬度が十分に低く、常温~40℃程度での低温度でも適度な柔軟性及び粘性を有する放熱成形体となる。よって、放熱対象物に対して高密着させることができ、放熱対象物の温度が上昇したときでも放熱対象物への密着性を高いものとすることができる。これより、放熱対象物から放熱成形体への熱の伝導性を向上させることができる。また、放熱成形体に含有する熱伝導性フィラによって熱伝導経路が確保されているから、放熱対象物から放熱成形体に伝導された熱は効率的に拡散されやすく、更に、放熱対象物の温度が上昇して周囲環境(外気)との温度差が小さくなったときでも、放熱成形体に含有する蓄熱材によって吸熱できることで放熱成形体を低温に維持できるため、放熱対象物の熱が放熱成形体に逃れやすく、放熱対象物の熱の温度上昇を効果的に抑制できる。
こうして、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物によれば、常温~40℃程度での低温度でも硬度が十分に低い放熱成形体を形成できるから、放熱成形体を放熱対象物に当接させる初期の密着性が向上する。即ち、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できることになる。故に、熱伝導性フィラを多く配合しても、放熱対象物に対する高密着性が確保されるから、放熱対象物の熱を放熱成形体に多く逃すことができる。そして、放熱成形体に伝導された熱は、熱伝導性フィラの高含有率による高熱伝導性によって速やかに伝導、拡散され、また、潜熱蓄熱材で多くの熱が蓄熱(吸熱)される。即ち、熱伝導性フィラの熱伝導性が十分に発揮されることになり、放熱成形体に伝導された熱は、熱伝導性フィラによって熱が効率よく伝導されて外部へと逃されると共に、潜熱蓄熱材に吸熱される。よって、放熱対象物から放熱成形体への熱伝導が効果的に促進され、熱対象物の熱を放熱成形体に速やかに逃すことができ、放熱対象物の温度上昇をより遅くできる。即ち、放熱効果が向上し、高い放熱効果が得られて放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和を効果的に向上させることができる。
特に、このように熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルとを含有する本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物から形成される放熱成形体は、好ましくは、23℃でのアスカーCの硬度が92以下、より好ましくは、90以下であり、40℃でのアスカーCの硬度が45以下、より好ましくは、40以下のものである。放熱成形体の硬度が当該範囲内であれば、成形性も良く、そして、40℃以下の硬度が低硬度であることで放熱対象物の温度が上昇したときでもそれに対して高い密着性が確保されるために、放熱成形体の高い蓄熱量及び熱伝導率が十分に発揮されて、放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を高める効果が高く、また、放熱対象物が膨張した場合でもその応力を効率よく吸収できる。
更に、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物によれば、このように40℃以下でも十分に硬度が低い放熱成形体を形成でき、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できることになるから、放熱対象物の温度上昇によって放熱対象物が膨らんだときでもその応力を吸収する効果が高くなり、内圧の増加を効果的に抑制できる。
特に、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物に含有させるプロセスオイルは、10mm2/s以上、100mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイル、40℃における動粘度が、好ましくは、120mm2/s以上、350mm2/s以下のナフテン系プロセスオイル、または、40℃における動粘度が、好ましくは、100mm2/s以上、300mm2/s以下のアロマ系プロセスオイルであるから、潜熱蓄熱材の潜熱量(蓄熱量)を低下させることなく、使用する潜熱蓄熱材の融点(相変化温度)よりも、放熱成形体の相変化温度を低温側(例えば、2℃~5℃程度低温側)に設定できる。そして、これら所定の動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルやナフテン系プロセスオイルやアロマ系プロセスオイルの配合量の調節により放熱成形体の相変化温度を容易に制御できる。よって、潜熱蓄熱材の高い潜熱量(蓄熱量)を維持しつつ、放熱対象物の使用温度、放熱成形体の周囲構造等に応じて放熱対象物の放熱に効果的な所望の相変化温度に制御が可能である。故に、放熱対象物の蓄熱に効果的な温度帯、即ち、放熱対象物やその環境温度条件等に対応し蓄熱による昇温抑制効果を高くできる温度帯に設計することが可能となり、放熱対象物の抑制、緩和の向上、即ち、放熱効果の向上が可能となる。
本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物においては、上記所定のプロセスオイルは、熱可塑性ベースポリマ100質量部に対し、30質量部以上、600質量部以下が好ましい。
これらプロセスオイルの配合量が少な過ぎると、常温~40℃程度での硬度の低硬度化が不十分で、放熱の実用的な向上効果が得られない。一方で、プロセスオイルの配合量が多くなり過ぎると、成形性が低下し、所望形状に成形できなくなる。或いは、取扱性、強度が低下し、また、放熱対象物に当接させる取付性が低下する。更には、ブリードアウトが生じやすくなる。
プロセスオイルの配合量が、熱可塑性ベースポリマ100質量部に対し、30質量部以上、600質量部以下であれは、ブリードアウトが抑制され、成形性、取扱性、強度、取付性を損なうことなく、常温~40℃程度の低い温度でも低硬度な放熱成形体を得ることができる。より好ましくは、35質量部以上、500質量部以下、更に好ましくは、70質量部以上、250質量部以下である。
なお、このようなパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルまたはアロマ系プロセスオイルであれば、リサイクル性も良好である。
また、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物においては、潜熱蓄熱材はパラフィン類または脂肪酸類が好ましい。パラフィン類または脂肪酸類からなる潜熱蓄熱材は、比較的大きい潜熱を有し単位体積当たりの蓄熱量が大きく、融解と凝固を繰り返しても安定した放熱と蓄熱作用が得られる。また、腐食し難く、入手が容易で安価である。更に、相変化温度(融点)を異にした材料種が多く存在し、材料の選択幅が広いから、放熱対象物に応じた所望の温度特性に設定しやすい。
更に、本実施の形態1に係る放熱成形体用組成物において、熱可塑性ベースポリマがソフトセグメント及びハードセグメントを有する水添ブロック共重合体、例えば、SEBS等の水添スチレン系エラストマであると、ソフトセグメント及びハードセグメントのブロック形成により網目状構造を有するため、その編み目状構造にパラフィン等の潜熱蓄熱材や、パラフィン系、ナフテン系またはアロマ系のプロセスオイルを拘束できる。よって、パラフィン等の潜熱蓄熱材が相変化した際でもパラフィン等の潜熱蓄熱材やプロセスオイルの相分離、ブリードアウト(染み出し等)を防止可能となる。更に、二重結合部分を水素添加してなる水添ブロック共重合体によれば、耐候性、耐熱劣化性に優れるから、耐久性を向上できる。
[参考例]
次に、参考例について説明する。
参考例に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内であるパラフィン系プロセスオイルとを含有するものである。
参考例の放熱成形体用組成物は、プロセスオイルとして、40℃における動粘度が400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内である高粘度のパラフィン系プロセスオイルを配合した点で上記実施の形態1の放熱成形体用組成物と相違する。その他の配合材料については、上記実施の形態1と同一であるから、ここでは、上記実施の形態1と相違する点のみ説明する。
本発明者らは、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度でも低硬度化を可能とする技術について鋭意実験研究を積み重ねていたところ、プロセスオイルの選択が放熱成形体の相変化温度に大きく影響することに着目し、40℃における動粘度が400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内である高粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合であれば、常温~40℃程度の低い温度でも硬度の低硬度化が可能であり、かつ、放熱成形体の相変化温度は、放熱成形体に含有させる潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)と略同等に設定できることを見出した。
ここで、参考例の放熱成形体用組成物で用いるパラフィン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のものである。40℃における動粘度が400mm2/s未満のパラフィン系プロセスオイルでは、放熱成形体の相変化温度が、潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも低温側に大きく低下する。一方で、40℃における動粘度が600mm2/sを超えると、成形性や強度が損なわれる。
40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内のパラフィン系プロセスオイルであれば、強度や成形性を損なうことなく、そして、放熱成形体の相変化温度が潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも大きく低下させることなく、放熱性成形体における常温での硬度を十分に低下させ放熱効果を上げることができる。より好ましくは、40℃における動粘度が、好ましくは、420mm2/s以上、550mm2/s以下、更に好ましくは、450mm2/s以上、500mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルである。
即ち、参考例の放熱成形体用組成物によれば、40℃における動粘度が400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内である高粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合により、放熱成形体の相変化温度を潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)よりも大きく低下(降下)させることなく、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度でも低硬度化が可能である。よって、放熱成形体の目的とする相変化温度が、使用する潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)またはその近傍(例えば、2℃未満)にある場合には、40℃における動粘度が400mm2/s以上、600mm2/s以下の範囲内である高粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合により、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度での低硬度化を可能とし、かつ、潜熱蓄熱材の相変化温度(融点)またはその近傍(例えば、2℃未満)に放熱成形体の相変化温度を設計できる。即ち、選択した潜熱蓄熱材の固有の融点(相転移点)またはその付近(例えば、2℃未満)での蓄熱を可能としつつ、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度での低硬度化を可能とする。
ここで、参考例に係る放熱成形体用組成物の参考例6乃至参考例8について表2に示す。
参考例6乃至参考例8でも、自動車に搭載されるリチウムイオン電池(LIB)バッテリの熱対策としての放熱用途を想定し、参考例に係る放熱成形体用組成物の配合組成として、表2に示した内容で参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体用組成物を作製した。各実施例の配合内容を表2の上段に示す。
本参考例6乃至参考例8においても上記実施例1乃至実施例5のときと同様、熱可塑性ベースポリマとしてはSEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製『G1651HU』)を用いた。また、潜熱蓄熱材としてはn-ドコサン(C22H46)(以下、n-ドコサン(C22H46)を単に「ドコサン」と記載する)のパラフィン化合物(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22-95』;Peak:49.4℃、Onset:41.7℃、純度:95%)を用いた。更に、熱伝導性フィラとしては、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製『R重炭』)を用いた。そして、プロセスオイルについては、上記実施例1乃至実施例3のときよりも高粘度のパラフィン系プロセスオイル、具体的には、参考例6乃至参考例8では、40℃における動粘度が476mm2/sのパラフィン系プロセスオイル(JXTGエネルギー(株)製の『プロセスオイルP500S』、100℃における動粘度:31.55mm2/s、硫黄分:0.9mass%)を用いた。
表2に示したように、本参考例6乃至参考例8においても上記参考例1乃至参考例5のときと同様、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量は6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量は34.0質量部で統一されているが、プロセスオイル及び熱伝導性フィラについてはその配合内容や配合量が相違している。
具体的に、参考例6では、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量を5.0質量部、熱伝導性フィラとしての配合量を54.2質量部としている。
即ち、この参考例6の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が54.2質量部であり、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量が5質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが797質量部、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルが73.5質量部の配合となっている。
参考例7では、参考例6のときよりも所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量を増やして10.0質量部とし、一方で、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合を減らして49.2質量部としている。
即ち、この参考例7の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が49.2質量部であり、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量が10質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが724質量部、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルが147質量部の配合となっている。
参考例8では、参考例6、参考例7のときよりも所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量を増やして15.0質量部とし、一方で、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合を減らして44.2質量部としている。
即ち、この参考例8の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が6.8質量部、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物の配合量が34質量部であり、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムの配合量が44.2質量部であり、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルの配合量が15質量部である。
熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量を100質量部に対しては、潜熱蓄熱材としてのドコサンのパラフィン化合物が500質量部、熱伝導性フィラとしての炭酸カルシウムが650質量部、所定の高動粘度を有する高粘度パラフィン系プロセスオイルが221質量部の配合となっている。
そして、これら参考例6乃至参考例8についても、上記実施例1乃至実施例5のときと同様の手順で、参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体用組成物からシート状の放熱成形体(放熱シート)を作製した。更に、その放熱成形体について、上記実施例1乃至実施例5のときと同様に、比重、硬度、相変化温度及び熱伝導率の測定を行った。測定結果は、表2の下段に示した通りである。
表2に示したように、40℃における動粘度が476mm2/sであるパラフィン系プロセスオイルを配合した参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体においては、23℃における硬度(アスカーC)が93.5以下であり、40℃における硬度(アスカーC)が35.3以下であり、上記表1の所定のオイルを配合していない比較例1と比較して、何れも放熱成形体の40℃以下における硬度は極めて低いものとなっている。
念のため、本参考例7に係る放熱性成形体の温度と硬度(アスカーC)の関係についても図2のグラフを用いて説明する。図2のグラフは、参考例7に係る放熱成形体について温度を変化させたときの硬度の変化を上記表1の比較例1と比較して示したものである。図2のグラフに示すように、参考例7に係る放熱成形体においても、23℃における硬度(アスカーC)が88、30℃における硬度(アスカーC)が83、35℃における硬度(アスカーC)が70、40℃における硬度(アスカーC)が35.3であり、40℃以下の低い温度、常温では、比較例1と比較して、硬度(アスカーC)が極めて低い値となっている。
よって、比較例1と比較して、本参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体においても、放熱対象物に接触させたときの、初期の低温条件での密着性に優れることになるから、放熱対象物の温度が上昇したときでも放熱対象物との密着性が高く維持され、放熱対象物の熱を速やかに放熱成形体に移動する熱伝導性、放熱性が高いものとなる。
なお、表2の下段に示したように、上記表1の比較例1に係る放熱成形体に比して、参考例7に係る放熱成形体の引張強度も低い値となっており、硬度に略比例している。
そして、40℃における動粘度が476mm2/sであるパラフィン系プロセスオイルを配合した参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体の相変化温度は、44.6~45.2℃であり、比較例1に係る放熱成形体の相変化温度との差が1.6℃未満であり、比較例1に係る放熱成形体の相変化温度と同程度である。即ち、本参考例6乃至参考例8に係る放熱成形体によれば、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度での硬度を低硬度化しても、相変化温度は潜熱蓄熱材の固有の融点と略同等に維持できる。よって、潜熱蓄熱材の固有の融点の近傍に放熱成形体の目的とする相変化温度を設計する場合に好適である。
なお、参考例6~参考例8の比較から、所定の高粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合量を増大させても、放熱成形体の相変化温度が大きく低下することもない。
ここで、本発明者らの実験研究よれば、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルにおいてもその配合は、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、3質量部以上、20質量部以下が好ましい。また、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、30質量部以上、600質量部以下が好ましい。
所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合量が少なすぎると、放熱成形体の常温~40℃程度の低い温度における硬度が十分に低下せず、放熱対象物に対する初期の密着性が不足し、放熱対象物の温度が上昇したときでも高い密着性が得られない。このため、効果的な放熱の向上効果が得られない。一方で、配合量が多すぎると、成形性が損なわれる。
放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合を3質量部以上、20質量部以下とすることで、また、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対しては、30質量部以上、600質量部以下とすることで、成形性を損なうことなく、放熱効果を上げることができる。より好ましくは、所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合が、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、4質量部以上、18質量部以下、更に好ましくは、5質量部以上、15質量部以下であり、熱可塑性ベースポリマの配合を100質量部に対して、35質量部以上、500質量部以下、更に好ましくは、70質量部以上、250質量部以下である。
なお、参考例6乃至参考例8においても、比較例1と比較して、熱伝導性フィラの配合が少ないことで熱伝導率が低下しているが、放熱成形体用組成物全体を100質量部に対し、5~15質量部の所定の動粘度のパラフィン系プロセスオイルの配合でも、25℃における熱伝導率が0.52(W/m・K)以上、50℃における熱伝導率が0.43(W/m・K)以上であり、必要とされる熱伝導率が確保されている。よって、十分な熱伝導性を確保しつつ、40℃以下における硬度の低高度化が可能である。
また、参考例6乃至参考例8においても、熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント(ポリスチレン)及びソフトセグメント(ポリブチレン)を有する水添ブロック共重合体のSEBSを使用しているため、その網目構造に多くの潜熱蓄熱材、即ち、パラフィン(ドコサン)を取込むことができる。このため、潜熱蓄熱材としてのドコサン(C22H46)がマイクロカプセル等に内包されていなくとも、その相変化による相分離、液相のブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が抑制されており、実施例6乃至実施例8に係る放熱成形体においては、何れも、60℃の温度条件下での減量率が、耐久時間380時間後でも0.22%以下であった。更に、本発明者らの実験では、繰り返しの相変化(凝固と融解の相転移)、ヒートサイクルによっても、相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が生じ難くて形状が保持され、放熱効果が低下することなく高い耐久性を有することを確認しており、ブリードアウトによる汚染の懸念もない。
以上説明してきたように、参考例に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルとを含有するものである。
なお、上記参考例は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルを含有する放熱成形体用組成物を成形してなる放熱成形体の発明と捉えることもできる。
このような参考例に係る放熱成形体用組成物によれば、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のナフテン系プロセスオイルを含有することにより、常温~40℃程度の低い温度でも硬度が低くて、適度な柔軟性及び粘性を有する放熱成形体となる。よって、放熱対象物に対して高密着させることができ、放熱対象物の温度が上昇したときでも放熱対象物への密着性を高いものとすることができる。これより、放熱対象物から放熱成形体への熱の伝導性を向上させることができる。また、放熱成形体に含有する熱伝導性フィラによって熱伝導経路が確保されているから、放熱対象物から放熱成形体に伝導された熱は効率的に拡散されやすく、更に、放熱対象物の温度が上昇して周囲環境(外気)との温度差が小さくなったときでも、放熱成形体に含有する蓄熱材によって吸熱できることで放熱成形体を低温に維持できるため、放熱対象物の熱が放熱成形体に逃れやすく、放熱対象物の熱の温度上昇を効果的に抑制できる。
こうして、参考例に係る放熱成形体用組成物においても、常温~40℃程度の低い温度でも低硬度な放熱成形体を形成できるから、放熱成形体を放熱対象物に当接させる初期の密着性が向上する。即ち、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できることになる。故に、熱伝導性フィラを多く配合しても、放熱対象物に対する高密着性が確保されるから、放熱対象物の熱を放熱成形体に多く逃すことができる。そして、放熱成形体に伝導された熱は、熱伝導性フィラの高含有率による高熱伝導性によって速やかに伝導、拡散され、また、潜熱蓄熱材で多くの熱が蓄熱(吸熱)される。即ち、熱伝導性フィラの熱伝導性が十分に発揮されることになり、放熱成形体に伝導された熱は、熱伝導性フィラによって熱が効率よく伝導されて外部へと逃されると共に、潜熱蓄熱材に吸熱される。よって、放熱対象物から放熱成形体への熱伝導が効果的に促進され、熱対象物の熱を放熱成形体に速やかに逃すことができ、放熱対象物の温度上昇をより遅くできる。即ち、放熱効果が向上し、高い放熱効果が得られて放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和を効果的に向上させることができる。放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和を効果的に向上させることができる。
特に、このように熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、40℃における動粘度が、好ましくは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルとを含有する参考例に係る放熱成形体用組成物から形成される放熱成形体は、好ましくは、23℃でのアスカーCの硬度が92以下、より好ましくは、90以下であり、40℃でのアスカーCの硬度が45以下、より好ましくは、40以下のものである。放熱成形体の硬度が当該範囲内であれば、成形性も良く、そして、40℃以下の硬度も低硬度であることで放熱対象物の温度が上昇したときでもそれに対して高い密着性が確保されるために、放熱成形体の高い蓄熱量及び熱伝導率が十分に発揮されて、放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を高める効果が高く、また、放熱対象物が膨張した場合でもその応力を効率よく吸収できる。
更に、参考例に係る放熱成形体用組成物においても、このように40℃以下でも硬度が低い放熱成形体を形成でき、放熱対象物に対し放熱成形体を高密着できることになるから、放熱対象物の温度上昇によって放熱対象物が膨らんだときでもその応力を吸収する効果が高くなり、内圧の増加を効果的に抑制できる。
特に、参考例に係る放熱成形体用組成物に含有させるプロセスオイルは、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルであるから、低硬度化しても、放熱成形体の相変化温度を潜熱蓄熱材の固有の融点またはその近傍(融点±2℃以内)に設定できる。
なお、参考例に係る放熱成形体用組成物においても、所定のパラフィン系プロセスオイルは、熱可塑性ベースポリマ100質量部に対し、30質量部以上、600質量部以下が好ましい。
これらプロセスオイルの配合量が少な過ぎると、常温~40℃程度での硬度の低硬度化が不十分で、放熱の実用的な向上効果が得られない。一方で、プロセスオイルの配合量が多くなり過ぎると、成形性が低下し、所望形状に成形できなくなる。或いは、取扱性、強度が低下し、また、放熱対象物に当接させる取付性が低下する。更には、ブリードアウトが生じやすくなる。
プロセスオイルの配合量が、熱可塑性ベースポリマ100質量部に対し、30質量部以上、600質量部以下であれは、ブリードアウトが抑制され、成形性、取扱性、強度、取付性を損なうことなく、常温~40℃程度の低い温度でも低硬度な放熱成形体を得ることができる。より好ましくは、35質量部以上、500質量部以下、更に好ましくは、70質量部以上、250質量部以下である。
そして、400mm2/s以上、600mm2/s以下のパラフィン系プロセスオイルにういてもリサイクル性は良好である。
参考例の放熱成形体用組成物は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、パラフィン系プロセスオイルとを含有するものである。かかる放熱成形体用組成物は、溶融混練により調製され、所定形状に成形した後に冷却して固化されることにより放熱性成形体となる。
参考例の放熱成形体用組成物の前記パラフィン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、好ましくは、420mm
2
/s以上、550mm
2
/s以下、更に好ましくは、450mm
2
/s以上、500mm
2
/s以下のパラフィン系プロセスオイルである。また、このパラフィン系プロセスオイルは、100℃における動粘度が20mm
2
/s以上、50mm
2
/s以下の範囲内であると好ましい。このような動粘度を有するパラフィン系プロセスオイルの配合によれば、放熱成形体の相変化温度が潜熱蓄熱材の相変化温度より大きく低下されるのが抑制される。
参考例に係る放熱成形体用組成物によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマからなる熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、潜熱蓄熱材と、パラフィン系プロセスオイルとを含有する。
この参考例に係る放熱成形体用組成物によれば、パラフィン系プロセスオイルを配合することにより、常温から40℃程度の低い温度でも十分に低硬度な放熱成形体を形成できる。よって、放熱対象物に対する密着性が向上し、放熱対象物の温度が上昇しても放熱対象物の熱を放熱成形体に速やかに移動させることができるため、放熱対象物の昇温速度を抑え温度上昇を緩和できる。これより、熱伝導性フィラを多く配合しても放熱対象物に対し高密着させることができるから、熱伝導性フィラによる熱伝導性及び潜熱蓄熱材による蓄熱性が十分に発揮され、放熱効果を向上することができ、放熱対象物の温度が上昇して周囲環境(外気)との温度差が小さくなったときでも、高い放熱効果が得られる。
参考例に係る放熱成形体用組成物によれば、パラフィン系プロセスオイルは、40℃における動粘度が、好ましくは、420mm
2
/s以上、550mm
2
/s以下の範囲内であるから、放熱成形体の相変化温度が潜熱蓄熱材の融点(相変化温度)よりも低温側に大きく低下するのが抑制される。
なお、本発明を実施する際には、必要に応じて、相変化によるパラフィン等の潜熱蓄熱材やプロセスオイルの流動化を防止して相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を抑制するためのゲル化剤を添加することもできる。このようなゲル化剤としては、飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸(脂肪族ヒドロキシカルボン酸を含む)、及び/または、それらの金属塩(脂肪族カルボン酸の金属塩、以下、「脂肪酸金属塩」と称する場合もある)等が用いられる。具体的には、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、ジベンジリデンソルビトール、2-エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)が使用できる。好ましくは、脂肪酸金属塩であり、その脂肪酸基は、例えば、炭素数4~12、より好ましくは炭素数6~10程度の脂肪酸基であり、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられるが、オクチル酸基が好ましい。また、金属種としては、アルミニウム、カルシウム、カリウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム、マンガン、鉛等の金属塩が例示される。中でもアルミニウム塩が好ましく使用でき、2-エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)が好適である。このようなゲル化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。潜熱蓄熱材の融点よりも高いものが好ましい。
また、ゲル化(増粘性)を高めるために、このような脂肪酸金属塩は、脂肪酸と併用するのが好ましい。例えば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸等の長鎖飽和脂肪酸類、または、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の長鎖不飽和脂肪酸類等の脂肪酸があるが、好ましくは、オレイン酸である。このような脂肪酸金属塩と脂肪酸との併用によりブリードアウトを効果的に防止できる。両者は、例えば、脂肪酸金属塩:脂肪酸=20:1~1:1の配合割合で併用される。好ましくは5:1~5:4、より好ましくは、4:1~4:3である。これらの配合により、パラフィン等の潜熱蓄熱材やプロセスオイルブリードアウトを更に効果的に防止できる。
なお、上記実施の形態1ではリチウムイオン電池への使用を想定してリチウムイオン電池に接触させて熱対策を図るシート等として具体化した例を説明したが、リチウムイオン電池以外の二次電池バッテリ、LEDヘッドランプ、キャパシタ、キャニスタ、燃料タンク(ベーパ抑制)等の熱対策にも有効である。また、その他にも、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料等の各種の部品、例えば、家電、OA機器部品、AV機器部品、精密機器、自動車内外装部品等の発熱源(一例として、コンピュータのCPU、液晶バックライト、プラズマディスプレイパネル、LED素子、有機EL素子、ペルチェ素子、熱電変換素子、温度センサー、コンバータ、トランス、インバータ、(ハイ)パワートランジスタ等の発熱源)の放熱を図る放熱材として用いることもできる。具体的な製品部品としては、パソコン、ゲーム機、VTR、テレビ、アイロン、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、掃除機、冷蔵庫、アイロン、ドライヤー等の美容機器、照明器具、炊飯器、電子レンジ、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具等の家庭電気製品部品や、携帯情報端末(いわゆるPDA)、電子辞書、電子書籍、携帯テレビ、コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスク、ICカード、スマートメディア、メモリースティック等)のドライブ・読取装置、光ケーブル用フェルール、コイル、半導体素子・抵抗等の封止物、端子台、プリント基板、回路基板、チップ、サーマルヘッド、センサー、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、LSI、CPU、コンピュータ関連部品等の電気・電子部品や、LED照明、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジングなど照明器具部品や、CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、有機EL、オーディオバックパネル等のディスプレー装置や、ステレオ、スピーカー等の音響製品部品や、プリンタ、コピー機、スキャナー、ファックス、分離爪、ヒータホルダー等の複写機・印刷機関連部品や、パチンコ、スロットマシーン等の遊戯機関連部品や、インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品、ブレーカー等の配電部品、自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、ランプリフレクター、インストルメンタルパネル、センターコンソールパネル、ディフレクター、ランプ、カーステレオ、カーナビケーション、カーオーディオビジュアル、オートモバイルコンピューター部品等の電装・内装部品等の自動車等の車両部品や、航空機・宇宙機用の部品や、センサー類の部品や、電話機(携帯電話、固定電話等)、モデム等の通信機器部品や、光学カメラ、デジタルカメラ、タイプライター等の画像表示・記録機器や、パラボラアンテナ、電動工具等の製品部品等の放熱対策にも使用できる。特に、接点不良を招くシリコーン化合物を含まないので、導電性の用途にも好適である。
そして、本発明を実施するに際しては、放熱成形体用組成物や放熱成形体のその他の部分の構成、成分、配合、製造方法等についても、上記実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は製造コスト、製造が容易な形態等から決定した値であり、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を許容値内で若干変更してもその実施を否定するものではない。