以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施の形態において、相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
例えば、自動車に搭載されるリチウムイオン電地に放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を適用する場合を想定し、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を適用する放熱対象物をリチウムイオン電地に特定すると、このリチウムイオン電池は、熱的に厳しい環境下でも使用されるとの特徴を有する。即ち、真夏の炎天下等では車内の温度が比較的温度が低い場所でも40℃以上に達するが、リチウムイオン電地はこのような高温の温度条件下でも作動される。このような環境では、リチウムイオン電地とその周囲(雰囲気環境)とで温度差が小さくなるために、極めて短時間でリチウムイオン電池がその使用限界温度(一般的に、55℃〜60℃)に到達してしまう。しかし、固液の相変化を伴う潜熱蓄熱材は幅広く存在し、その選択が放熱効果に大きく影響する。
そこで、本発明者らは、真夏の炎天下等、車内温度が40℃以上に達するような熱的に厳しい環境下でもリチウムイオン電池に対する放熱効果を高めるために、特定の官能基や2重結合を有する材料、例えば、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸水和物、酢酸ナトリウム水和物等の無機水和塩や、ラウリン酸等の脂肪酸や、脂肪酸エステルや、エチレングリコールでは、臭気、毒性、腐食性、熱的安定性、酸化等の耐久性に問題があるが、パラフィン化合物であれば、臭気、毒性、腐食性、酸化等の問題もなくて扱いやすく、更に、繰り返しの相変化による安定性も高くて長寿命であるから、パラフィン化合物を中心に検討した。
本発明者らは更なる鋭意実験研究を積み重ねたところ、炭素数2n(nは自然数から選択される1つの数)のノルマルパラフィンであると、高い熱伝導率を有し、しかも、その純度が高いほど、詳細には、パラフィン化合物中において炭素数が偶数である2nのノルマルパラフィンが60質量%以上であれば、更に高い熱伝導率を得ることができることを見出した。
このように炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンがパラフィン化合物中において60質量%以上の含有であると、高い熱伝導率を確保できるのは、炭素数が偶数の2nのノルマルパラフィンが、分岐状のイソマルパラフィンや炭素数が奇数(2n±1)のノルマルパラフィンとは相違する特定の結晶構造を有することによるものと推定される。特に、高い熱伝導率の獲得は、炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンの含有量、純度が高くなるほど、放熱成形体用組成物からなる放熱性成形体の硬度が高くなる傾向からして、炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンでは、その結晶格子がフォノンによる熱伝達に対してより効率的な配置形態になるためと推測される。また、炭素数が偶数の2nのノルマルパラフィンでは、分岐状のイソマルパラフィンや炭素数が奇数(2n±1)のノルマルパラフィンとは相違する結晶構造を有することに加え、パラフィンの分子が電気双極子等の強い相互作用を及ぼす部分を持たないために、熱運動、分子内相互作用、分子間相互作用、固相転移の挙動に影響する不純物等が少ないと系が安定しやすく、そのことが高い熱伝導率を発揮する一因であるとも考えられる。
そこで、本発明の実施の形態に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性ベースポリマと、熱伝導性フィラと、パラフィン化合物とを含有する放熱成形体用組成物であって、パラフィン化合物中に、炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンが60質量%以上含有されているものである。より好ましくは、パラフィン化合物中において炭素数が2n(偶数)であるノルマルパラフィンが80%質量以上含有されているものである。
ここでパラフィン化合物とは、例えば、特定の炭素数が2n(nは自然数から選択される1つの数)のノルマルパラフィンの石油精製品(製品)を選択した際に、その純度によってそれ以外のパラフィン類を含有することもあるから、それらを含めて全体のパラフィン類を示すものとしてパラフィン化合物と称している。また、特定の炭素数が2nであるノルマルパラフィンの石油精製品以外に、放熱成形体用組成物の特性、例えば、硬度等の調節を図るために所定のパラフィンの製品を添加してもよく、そのようなパラフィンの製品を添加した場合には、それらを含めたパラフィン類全体を示す。
特に、パラフィン化合物として炭素数14以上、33以下の石油精製品は、低コストで入手可能であり、また、高温条件としなくても加工時の流動性が確保されるから成形性、強度も良く、加工時のコストを抑えることができる。
そして、炭素数が2n(偶数)であるノルマルパラフィンは、所望の相変化温度に応じて適宜選択されるが、パラフィン化合物であれば、主鎖の炭素数に応じて異なる融点(相変化温度)を有するために材料の選択幅も広く、発熱源である放熱対象物の温度特性に応じて、所望とする温度領域に相変化温度を有する炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンの選択も容易である。
好ましくは、ノルマルパラフィンの炭素数を表す2nのnが7〜13の範囲内である。ノルマルパラフィンの炭素数を表す2nのnが7〜13の範囲内では配合量の調節により硬度等の特性の調節が容易にできる。即ち、放熱対象物への高密着性(低硬度)を可能とする。また、高温条件としなくても加工時の流動性が高いから成形性、強度も良く、加工時のコストを抑えることができる。
具体的に、自動車にバッテリとして搭載されているリチウムイオン電池への使用を想定すると、電池の作動時以外で周囲環境温度の影響を受けて相変化の繰り返しが生じることによるパラフィンの耐久性の低下を考慮して、充放電によって発熱する電池の作動温度の範囲内(温度変化の範囲内)に後述する示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で融解主ピークを有する炭素数を表す2nのnが8〜12の範囲内のノルマルパラフィンが好ましく、n−ヘキサデカン(C16H34)、n−オクタデカン(C18H38)、n−エイコサン(C20H42)、n−ドコサン(C22H46)、n−テトラコサン(C24H50)、n−ヘキサコサン(C26H54)の何れか1種以上が好ましい。より好ましくは、炭素数を表す2nのnが10〜12の範囲内であるノルマルパラフィン、具体的には、n−エイコサン(C20H42)、n−ドコサン(C22H46)、n−テトラコサン(C24H50)である。
なお、これらノルマルパラフィンでは、放熱対象物の作動による温度上昇に伴い、固体から液体に相変化することによって吸熱する一方で、放熱対象物の作動停止による温度低下に伴い、液体から固体に相変化することによって放熱する。特に、固液相転移型では、状態変化がゆっくりであり、熱量が外部から供給されない場合には、蓄熱した潜熱を徐々に外部に放熱するという性質を有している。このため、冬場の低温環境下では、リチウムイオン電池の保温によって低温化による起電力の低下を防止して、起動時や充電時の電池性能の良好な保持が可能である。
そして、上述したように、リチウムイオン電池では使用限界温度が通常55℃〜60℃であるところ、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達するような環境でも温度上昇の抑制、緩和効果を高めるためには、炭素数が2nのノルマルパラフィンは、1種単独での炭素数2nのノルマルパラフィンの使用、或いは、炭素数2nのノルマルパラフィンの複数の組合わせにより、後述の示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークを有するのが好ましい。即ち、このような炭素数が2nのノルマルパラフィンを含むパラフィン化合物は、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークを有するのが好ましい。
そして、本発明を実施する場合には、パラフィン化合物の製品としては、マイクロカプセルに封入していない状態の石油精製品をそのまま使用しても良いし、マイクロカプセルに内包されているものを使用しても良いし、樹脂等でパッキングされているものを使用してもよい。例えば、マイクロカプセルの場合、そのカプセル外殻を構成する膜材(カプセル膜材)には、界面重合法、インサイチュー(in−situ)法等の手法で得られるポリスチレン、アクリル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン類、アミノ類、メラミン、尿素等の樹脂や、カルボキシメチルセルロースまたはアラビアゴムとゼラチンとのコアセルベーション法を利用した樹脂が使用される。
しかし、マイクロカプセルに封入されたパラフィン化合物の製品を使用する場合、パラフィン化合物をマイクロカプセルに封入する分だけ単位体積当たりのパラフィンの含有量が低下し、単位体積当たりの熱伝導率も低下することになる。
したがって、マイクロカプセルに封入されていないパラフィン化合物の方が、マイクロカプセルや架橋剤等を用いないことで、低コストで、かつ、熱伝導率を高めることができ、好ましい。
特に、後述するように水添ジエン系共重合体を熱可塑性ベースポリマに選定し、また、脂肪酸金属塩等のゲル化剤を使用することで、パラフィン化合物がマイクロカプセルに封入されていなくとも、パラフィン化合物の相変化による相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を抑制できる。
このようなパラフィン化合物は、放熱成形体用組成物中において、例えば、10質量%〜60質量%の範囲内で配合される。即ち、放熱成形体用組成物の総量100質量部に対して、パラフィン化合物の配合量が、例えば、10〜60質量部である。配合割合が多すぎると、パラフィン化合物の相分離、ブリードアウトが生じやすくなったり、放熱成形体用組成物中において相対的に熱可塑性ベースポリマや熱伝導性フィラの配合割合が少なくなることから所定の強度や高い熱伝導率が十分に得られなかったりする。よって、周囲との温度差が小さくなる環境でも放熱対象物の温度上昇を抑制、緩和する実用的な放熱効果が得られない。より好ましくは、放熱成形体用組成物中において、パラフィン化合物の配合量が15質量%〜40質量%の範囲内である。
また、本実施の形態に係る放熱成形体用組成物を構成する熱可塑性ベースポリマとしては、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマが使用できる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エンジニアリング・プラスチック(エンプラ)に属するポリアミド46(PA46)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂(ナイロン等)、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等や、スーパー・エンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ)に属するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、非晶ポリアリレート(PAR)樹脂、液晶ポリマ(LCP)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド樹脂等や、汎用樹脂に属するポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)樹脂、ABS樹脂、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂等を使用できる。これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。また、熱可塑性樹脂を使用した場合、必要に応じて熱可塑性樹脂を可塑化するための可塑剤が配合される。
また、熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマ(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマ(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマ(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)、ポリアミド系熱可塑性エラストマ(TBA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマ(TPEE)、ウレタン系熱可塑性エラストマ、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマ等を使用できる。これらも1種を単独で用いても良いし2種以上を組み合わせてもよい。
このような熱可塑性ベースポリマは、柔軟性(低硬度)、成形性、耐気候性、耐熱性、パラフィンとの相性等を考慮して適宜選択されるが、上記の中でも、高い耐熱性、機械的物性、耐候性、耐薬品性、耐水性、難燃焼性(低燃焼性)・自己消火性等を有し過酷な使用環境でも耐え得るものとして、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料等に広く使用できるスチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマが好ましい。
また、このようなスチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマでは、溶融温度が比較的低い化合物の選択幅が広く、このように溶融温度が比較的低いものを選択することで、成形時に高温条件下としなくても十分に流動するから、低コストで成形でき加工性も良く、また、組成物中の材料の劣化を防ぐことができる。
特に好ましい熱可塑性ベースポリマは、熱可塑性エラストマとしてハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体である。例えば、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SB)、スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、オレフィン結晶−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(CEBC)等が好ましい。
このようなハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体では、ハードセグメント及びソフトセグメントによるブロック形成により網目構造を有するために、その網目構造内にパラフィン化合物を取込んで拘束することができる。よって、パラフィン化合物の融解(相変化)に伴う流動性の増大を抑制して形状を維持する形状保持性が高く、パラフィン化合物の融解(相変化)に伴う相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を防止することが可能となる。更に、所望の形状への成形性、柔軟性のある低硬度の獲得にも有利である。
そして、このように熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント及びソフトセグメントを有する水添ブロック共重合体を採用すると、マイクロカプセルに封入されていないパラフィン化合物の製品を使用しても、融解(相変化)に伴うパラフィン化合物の相分離、耐ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)等に効果的であるから、パラフィン化合物の製品の選択自由度が高まる。
なお、水添ブロック共重合体は、これを構成する各ブロックが直線状に結合した直鎖の共重合体に限定されず、各ブロックが分岐状に結合したグラフト共重合体型、或いは、各ブロックが星型に結合したスターポリマー型等であってもよい。
このような熱可塑性ベースポリマは、放熱成形体用組成物中において、例えば、3質量%〜40質量%の範囲内で配合される。即ち、放熱成形体用組成物の総量100質量部に対して、熱可塑性ベースポリマの配合量が例えば、3〜40質量部である。配合割合が少なすぎると所定の成形が困難で強度が不足して脆くなる。また、配合割合が多すぎると、放熱成形体用組成物中において相対的に熱伝導性フィラの配合割合が少なくなることから所定の高い熱伝導率が得られず、実用的な放熱効果を確保できない。放熱成形体用組成物中において、熱可塑性ベースポリマの配合量が3質量%〜40質量%の範囲内であれば、所定の成型性、強度を確保して、放熱対象物に対する効果的な温度上昇抑制効果を発揮することができる。より好ましくは、放熱成形体用組成物中において、熱可塑性ベースポリマの配合量が4質量%〜20質量%の範囲内である。
また、本実施の形態に係る放熱成形体用組成物に含まれる熱伝導性フィラは、電気的に絶縁性であっても導電性であってもよく、絶縁性または導電性の電気特性については、放熱体用組成物を使用する放熱対象物、それを収める筺体等によって選択される。
絶縁性の熱伝導性フィラとしては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア:MgO)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化ベリリウム、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素等の金属窒化物や、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化スズ等の金属水酸化物や、炭化珪素、ダイヤモンド等の炭素化合物や、マグネサイト、炭酸マグネシウム、マグネサイト、ホウ化チタン、チタン酸カルシウム、石英等が使用できる。これらも1種を単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
導電性の熱伝導性フィラとしては、黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維(特に石炭ピッチ系(Pitch)、PAN系が好ましい)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物や、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、チタン、SUS等の金属粉末または金属繊維、酸化スズ等の金属酸化物、フェライト類等の金属系化合物を使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
導電性の熱伝導性フィラについては、安価で、かつ、熱伝導性や導電性を効果的に向上できる点から、炭素繊維等の炭素化合物が好適である。
なお、導電性の熱伝導性フィラをシリカ等で被覆することにより、導電性フィラに絶縁性を付与した絶縁性フィラとし、これを熱伝導性フィラとして使用することも可能である。
更に、熱伝導性フィラは、シランカップリング処理(例えば、ビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、イソシアナートシラン、クロロシラン、アミノシラン等)、チタネートカップリング処理(例えば、アルコキシチタネート、アミノチタネート等)、エポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理等の表面処理が施されていてもよい。また、脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、ソルビン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸等)や樹脂酸(例えば、アビエチン酸、ピマル酸、レボピマール酸、ネオアピチン酸、パラストリン酸、ジヒドロアビエチン酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、コルム酸、セコデヒドロアビエチン酸)等による表面処理が施されていてもよい。このような表面処理が施されていると、熱伝導率が向上したり、ベースポリマ界面との親和性が向上したり、分散性が向上したり、混合・混練等の作業性が容易であったりする。更に、高熱伝導率を達成できる範囲内であれば、原料等に由来する不純物が少量含まれていても良い。
また、熱伝導性フィラの形状としては、例えば、繊維状、板状、球状、鱗片状、棒状、粒子状、粉末状、ロッド状、チューブ状、曲板状、針状、曲板状、針状等の形状があるが、何れの形状のものでも使用可能である。
特に、絶縁性の熱伝導性フィラについては、熱伝導性、充填性、コスト、入手の容易性、形状保持性(耐反り性)等の観点から、窒化ホウ素等の窒素化合物や、マグネシア(MgO)が好適である。なお、窒化ホウ素は、c−BN(立方晶構造)、w−BN(ウルツ鉱構造)、h−BN(六方晶構造)、r−BN(菱面体晶構造)、t−BN(乱層構造)等の何れの構造であっても良いが、グラファイトと類似の構造を有する六方晶構造型が好ましい。六方晶構造の窒化ホウ素を用いることにより、成形体を得る際に用いる成型機や金型の摩耗を低減できる。また、窒化ホウ素の形状には、球状のものと鱗片状のものがあり、本発明には何れも用いることができるが、鱗片状のものを用いると、絶縁性に優れ、機械的特性が良好な成形体が得られる。
これらの熱伝導性フィラについては、例えば、中位径(≒平均粒子径)が1〜300μm、好ましくは2〜250μmのフィラが使用できる。熱伝導性フィラの粒子径が小さすぎると、凝集が生じ易くなり均一な高分散性に欠け、また、成形性が低下する。その結果、放熱対象物との密着性が低下したり安定した熱伝導性を確保できなくなったりする恐れがある。一方、粒子径が大きすぎると、充填性が低下し、また、均一な分布に欠け、安定して十分な熱伝導性が得られなくなる恐れがある。また表面平滑性が低下して放熱対象物との密着性が低下したり、脆くなり裂け易くなったりする恐れがある。熱伝導性フィラの中位径(≒平均粒子径)が1μm〜300μmの範囲内、より好ましくは2〜250μmの範囲内であれば、安定した高い熱伝導性及び低硬度を確保することが可能となる。更に、粒子径の大きなフィラと粒子径の小さなフィラの取合わせによって、充填量を高めることにより熱伝導性を向上させることもできる。
因みに、上記中位径とは、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算質量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、平均粒子径との差も僅少であり、平均粒子径≒中位径であり、平均粒子径=中位径と見做すこともできる。
また、熱伝導性フィラは、熱伝導率が0.2W/(m・K)以上、250W/(m・K)以下が好ましく、より好ましくは、2W/(m・K)以上である。熱伝導率が小さいものでは、十分な熱伝導性を確保するために多量に配合する必要が生じ、それによって硬度が上昇するために放熱対象物との密着性が低下し、高い放熱効果を得るのが困難となる恐れがある。一方で、熱伝導率が高いものは、価格が高く入手も困難となる。熱伝導率が0.2W/(m・K)以上、より好ましくは、2W/(m・K)以上、200W/(m・K)以下である熱伝導性フィラを使用することで、高い熱伝導性及び低硬度の両立が確保され、また、低コスト化を図ることができる。
ここで、このような熱伝導性フィラは、放熱成形体用組成物中において、例えば、45質量%〜85質量%の範囲内で配合される。即ち、放熱成形体用組成物の総量100質量部に対して、熱伝導性フィラの配合量が例えば、45〜85質量部である。配合割合が少なすぎると十分に高い熱伝導率を得ることができず、配合割合が多すぎると、流動性の低下により成形性が低下したり、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の硬度が上昇したりするため、放熱対象物との密着性が低下して、放熱効果が低下する恐れがある。放熱成形体用組成物中において、熱伝導性フィラの配合量が45質量%〜85質量%の範囲内であれば、成形性を低下させることなく高い熱伝導性及び低硬度の両立を確保できる。より好ましくは、放熱成形体用組成物中において、熱伝導性フィラの配合量が50質量%〜80質量%の範囲内である。
更に、本発明を実施する際には、必要に応じて、相変化によるパラフィン化合物の流動化を防止して相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し)を抑制するためのゲル化剤が添加される。このようなゲル化剤としては、飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸(脂肪族ヒドロキシカルボン酸を含む)、及び/または、それらの金属塩(脂肪族カルボン酸の金属塩、以下、「脂肪酸金属塩」と称する場合もある)等が用いられる。具体的には、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、ジベンジリデンソルビトール、2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)が使用できる。
好ましくは、脂肪酸金属塩であり、その脂肪酸基は、例えば、炭素数4〜12、より好ましくは炭素数6〜10程度の脂肪酸基であり、オクチル酸(2−エチルヘキサン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられるが、オクチル酸基が好ましい。また、金属種としては、アルミニウム、カルシウム、カリウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム、マンガン、鉛等の金属塩が例示される。中でもアルミニウム塩が好ましく使用でき、2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)が好適である。このようなゲル化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。パラフィン化合物の融点よりも高いものが好ましい。
また、ゲル化(増粘性)を高めるために、このような脂肪酸金属塩は、脂肪酸と併用するのが好ましい。例えば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸等の長鎖飽和脂肪酸類、または、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の長鎖不飽和脂肪酸類等の脂肪酸があるが、好ましくは、オレイン酸である。
このような脂肪酸金属塩と脂肪酸との併用によりブリードアウトを効果的に防止できる。
両者は、例えば、脂肪酸金属塩:脂肪酸=20:1〜1:1の配合割合で併用される。好ましくは5:1〜5:4、より好ましくは、4:1〜4:3である。
上述した材料が配合される放熱成形体用組成物から放熱成形体を得る際には、例えば、混合・攪拌機(ディスパー、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、メカノケミカル装置、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー、タンブラー、スーパーミキサー、プラストミル、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー、ブラベンダー、エクストルーダ、押出機、2軸混練押出機等)を使用して、熱可塑性ベースポリマ、熱伝導性フィラ、ゲル化剤及びパラフィン化合物を混合して溶融混練する。好ましくは、パラフィン化合物及び熱可塑性ベースポリマが溶融する温度以上、融点近傍まで加熱して溶融混練される。必要に応じて脱泡処理を行ってもよい。その後、冷却し、公知の成形加工法、例えば、圧縮成形(プレス成形)、射出成形、押出成形、ブロー成形、ガスアシスト等の中空成形、真空成形、カレンダー成形、異型成形、回転成形、トランスファー成形、フィルム成形、発泡成形(超臨界流体も含む)、熱成形、コーター、積層成形等によって所望の形状に成形する。
成形形態としては、放熱対象物の構造や放熱対象物への適用形態等に応じて、シート状、フィルム状、板状(パネル状)、ガスケット状、成形体状、ブロック状、箱状(筐体状)、棒状、パイプ状、粒状、ペレット状等の所定形状に成形することができる。例えば、圧縮成形(プレス成形)、射出成形、押出成形、カレンダー成形等によって、シート状、フィルム状、板状等に成形できる。その他、ブロック状に成形した後、切断してシート状、フィルム状、板状等としてもよい。
このような放熱成形体用組成物からなる放熱成形体は、例えば、リチウムイオン電池の放熱対策に使用する場合には、シート状、フィルム状に成形し、リチウムイオン電池のセルが複数配された電池モジュールの電池パック内において、リチウムイオン電池セルとヒートシンクの間に介在させることにより、リチウムイオン電池の熱をヒートシンクに効果的に逃すことができる。また、リチウムイオン電池のセル同士の間に介在させることにより、複数個のセルのうち一部で異常発熱したときでも、隣の低温側の電池に高熱が移動するのを防止でき、電池パック内の全体で温度上昇が早まるのを防止することができる。即ち、セル間の温度バラつきを防止し、全体の温度上昇を抑制する効果を高めることができる。更に、本実施の形態の放熱成形体用組成物によれば、熱可塑性ベースポリマと熱伝導性フィラとパラフィン化合物の組み合わせによって、低硬度化が可能であるから、放熱対象物への密着性を高めて接触熱抵抗を少なくし、放熱対象物の熱を多く速やかに逃すことができる。加えて、異常発熱によってリチウムイオン電池が膨張した際でも、膨張したリチウム電池による膨張圧(内圧)の上昇を吸収し破損を回避することができる。特に、リチウムイオン電池のセル同士の間にも放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を介在させていると、一部が異常発熱したときでも、隣のリチウム電池や電池を収めている筐体への影響を少なくして破損を防止できる。更には、セルの寸法公差も吸収でき、また、制振といった振動対策や、電池モジュール周辺の電気的絶縁にも有効である。
なお、このように放熱成形体用組成物からなる放熱成形体をシート状、フィルム状に成形するときのそのシートの厚みは、例えば、0.2mm以上、10mm以下とされ、好ましくは3mm以下とされる。
また、リチウムイオン電池の放熱対策に用いる場合には、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体をシート状、フィルム状に成形し、放熱対象物とヒートシンクの間にシートート状、フィルム状の放熱成形体を介在させて、放熱対象物とヒートシンクの間の密着性の向上及び放熱成形体の高熱伝導性によりヒートシンク側に放熱対象物の熱を素早く移動させる放熱効果を高めることができるが、これ以外にも、例えば、放熱成形体を筐体状に成形して、この筐体内に個々のリチウムイオン電池セルを収納して電池パックを構成するようにしてもよい。このとき、筐体内に各リチウムイオン電池セルを隔てる仕切りを設け、この仕切りも放熱成形体用組成物からなる放熱成形体で形成してもよい。このような筐体状であれば、その厚みが例えば、1.0mm以上、10mm以下とされる。
こうした本実施の形態の放熱成形体用組成物は、リチウムイオン電池以外の放熱対策以外にも、熱的に厳しい環境等での使用により放熱対象物と周囲環境とで温度差が得られくい条件となる部品用の放熱対策、放熱構造の設計に特に有効であり、例えば、自動車部品、具体的には、リチウムイオン電池以外の二次電池バッテリ、LEDヘッドランプ、キャパシタ、キャニスタ、燃料タンク(ベーパ抑制)等の熱対策にも有効に使用できる。例えば、これら部品の発熱源(放熱対象物)とヒートシンクの間に放熱成形体用組成物からなる放熱成形体を介在させたり、これら部品の筐体を放熱成形体用組成物からなる放熱成形体で形成したりすることによって、それら部品の温度上昇を抑制、緩和できる。即ち、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体に含有する熱伝導性フィラによって熱を効率よく伝えて逃すことができ部品の温度上昇を遅くすることができる。
次に本発明の実施の形態に係る放熱成形体用組成物の実施例について、具体的に説明する。
本実施例では、自動車に搭載されるリチウムイオン電池(LIB)バッテリの熱対策としての放熱用途を想定し、まず、本実施の形態に係る放熱成形体用組成物の配合組成として、表1に示した内容で実施例1乃至実施例7に係る放熱成形体用組成物を作製した。また、比較のために、比較例1乃至比較例3に係る放熱成形体用組成物も作製した。各実施例及び各比較例の配合内容を表1の上段に示す。
実施例1乃至実施例7と、比較例1乃至比較例3では、熱可塑性ベースポリマとしてSEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製『G1651HU』)を用いた。また、n−ドコサン(C22H46)(以下、n−ドコサン(C22H46)を単に「ドコサン」と記載する)のパラフィン化合物を用いた。更に、熱伝導性フィラとして、窒化ホウ素や、マグネシア(MgO)を用いた。そして、ゲル化剤として、オクトープアルミ(2−エチルヘキサン酸アルミニウム)(ホープ製薬(株)製)、ゲル化補助剤Nsp(オレイン酸)(ホープ製薬(株)製)を用いた。
表1に示したように、本実施例及び比較例の全てで、ゲル化剤の配合量は統一されているが、ゲル化剤以外の配合組成、即ち、熱可塑性ベースポリマ、パラフィン化合物、熱伝導性フィラについてはその配合内容や配合量が相違している。
具体的に、実施例1においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』;Peak:49.4℃、Onset:41.7℃)を25.00質量部、熱伝導性フィラとして、窒化ホウ素(デンカ(株)製『SGP』)を13.00質量部とマグネシア(A)(三共精粉(株)製『MCT−50』:平均粒径;50μm、表面処理;チアネート処理)を57.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例1の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、純度が95%のドコサンのパラフィン化合物の配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシア(A)の合計配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、純度が95%のドコサンのパラフィン化合物の配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシア(A)の合計配合量が1400質量部となっている。
そして、この実施例1では、パラフィン化合物として純度が95%のドコサンのみを使用していることから、パラフィン化合物中において炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量が95質量%である。
実施例2においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、潜熱パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を25.00質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』;体積平均粒径:7〜15μm、表面処理:フェニル系シランカップリング)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例2の配合でも、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、純度が95%のドコサンのパラフィン化合物の配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、純度が95%のドコサンのパラフィン化合物の配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が1400質量部となっている。
そして、この実施例2では、パラフィン化合物として純度が95%のドコサンのみを使用していることから、パラフィン化合物中において炭素数が2nであるn−パラフィンの含有量(ドコサン)が95%質量である。
実施例3においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を21.05質量部と高純度のn−トリアコンタン(C30H62)(日本精蝋社(株)製『PW−155』)(以下、n−トリアコンタン(C30H62)を単に「トリアコンタン」と記載する)を3.95質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例3の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が1400質量部となっている。
そして、この実施例3では、パラフィン化合物中、純度が95%のドコサンの含有量が約84質量%であり、高純度のトリアコンタンの含有量が約16質量%であることから、炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量は約80質量%である。
実施例4においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を18.43質量部と高純度のトリアコンタン(日本精蝋社(株)製『PW−155』)を6.58質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例4の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が1400質量部となっている。
そして、この実施例4では、パラフィン化合物中、純度が95%のドコサンの含有量が約74質量%であり、高純度のトリアコンタンの含有量が約26質量%であることから、炭素数が2nであるn−パラフィンの含有量(ドコサン)は約70質量%である。
実施例5においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を15.80質量部と高純度のトリアコンタン(日本精蝋社(株)製『PW−155』)を9.20質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例5の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が1400質量部となっている。
そして、この実施例5では、パラフィン化合物中、純度が95%のドコサンの含有量が約63質量%であり、高純度のトリアコンタンの含有量が約37質量%であることから、炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量は約60質量%である。
実施例6においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを8.33質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を41.67質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を50.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例6の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約8質量部、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサンの配合量が約42質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約50質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が600質量部となっている。
そして、この実施例6では、パラフィン化合物として純度が95%のドコサンのみを使用していることから、炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量が95%質量である。
実施例7においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを6.67質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を33.33質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を60.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この実施例7の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約6質量部、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサンの配合量が約33質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約60質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が約500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約900質量部となっている。
そして、この実施例6では、パラフィン化合物として純度が95%のドコサンのみを使用していることから、炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量が95%質量である。
ここで、上記実施例1乃至実施例7では、炭素数が2n(n=11)のノルマルパラフィンであるドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物の使用によって、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有する。また、炭素数が2n(n=11)のノルマルパラフィンであるドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物にトリアコンタンを含んでいる実施例3乃至実施例5では、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有する他、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有する。
一方、比較例1では、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が25%のドコサン(日本精蝋社(株)製『MDP0110』)を25.00質量部、熱伝導性フィラとして、窒化ホウ素(デンカ(株)製『SGP』)を13.00質量部とマグネシア(A)(三共精粉(株)製『MCT−50』)を57.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この比較例1の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、パラフィン化合物としての純度が25%のドコサンの配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシア(A)の合計配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が25%のドコサンの配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシア(A)の合計配合量が1400質量部となっている。
そして、この比較例1では、パラフィン化合物として純度が25%のドコサンのみを使用していることから、炭素数が2nであるn−パラフィン(ドコサン)の含有量は25質量%である。
また、比較例2においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、純度が95%のドコサン(サソールケミカルズジャパン(株)製『Parafol 22−95』)を13.25質量部と高純度のトリアコンタン(日本精蝋社(株)製『PW−155』)を11.75質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
この比較例2の配合では、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量が約5質量部、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が約25質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が約70質量部となっている。
また、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合を100質量部としたとき、このSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物としての純度が95%のドコサン及び高純度のトリアコンタンの合計配合量が500質量部であり、熱伝導性フィラとしてのマグネシア(B)の配合量が1400質量部となっている。
そして、この比較例2では、パラフィン化合物中、純度が95%のドコサンの含有量が53質量%であり、高純度のトリアコンタンの含有量が47質量%であることから、所望の温度範囲に相転移温度を有する炭素数が2nのノルマルパラフィン(ドコサン)の含有量は約50質量%である。
更に、比較例3においては、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSを5.00質量部、パラフィン化合物として、炭素数が奇数のヘネイコサン(C21H44)を25.00質量部、熱伝導性フィラとして、マグネシア(B)(宇部マテリアルズ(株)製『RF−10C−FC−45μm』)を70.00質量部、ゲル化剤としてオクトープアルミを0.25質量部とゲル化補助剤を0.125質量部配合した。
実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例3に係る放熱成形体用組成物は、このような配合組成からなる。
次に、このような配合組成の放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の作製について説明する。
まず、予めオーブンによる加熱(80〜110℃)で液状化した(溶融状態とした)パラフィン化合物とオクトープアルミを混合分散し、更に、ゲル化補助剤を混合分散した。次に、この混合分散されたパラフィン化合物とオクトープアルミとゲル化補助剤を、予めドライブレンドしておいたSEBS及び熱伝導性フィラ(窒化ホウ素、マグネシア)に加え、ディスパーで全体が満遍なく混ざるように混合分散した。更に、これらの混合材料を、予め150℃に加温しておいたジャケットボール(加温容器)付き万能攪拌機に投入し、60分間混練した。その後、70℃程度に冷却してから、押出成形を行いペレット化し、続いて射出成形によって成形した。このようにして、実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例3に係る放熱成形体用組成物からなる放熱成形体が得られる。
更に、このようにして得られた実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例3に係る放熱成形体について、熱伝導率、硬度及び蓄熱量の測定を行った。測定結果は、表1の下段に示した通りである。
熱伝導率については、熱伝導率測定装置(アルバック理工(株)製『TC−7000H』を使用し、レーザフラッシュ法(JIS−R1611)により求めた。測定試料(放熱成形体)のサイズは、10mmφ,厚さ2mmの円板形状とし、測定雰囲気は大気中(室温)とした。そして、25℃及び50℃の温度条件で厚さ方向の熱伝導率(W/(m・K))を測定した。
硬度については、JIS K6253に準拠し、デュロメータタイプA(JIS A硬度計、高分子計器(株)製)を用いて常温下(25℃)で1秒以内に測定した。
蓄熱量については、示差走査型熱量計(DSC)(TAインスツルメント社製『Q200』)を用いて求めた。
具体的には、JIS K 7122の転移熱測定方法に準拠し、約5mgの試料(放熱成形体)を封入したアルミニウムパンを、窒素雰囲気下において、(1)10℃/分で昇温し110℃で5分間保持して完全に融解させたのち、(2)5℃/分で30℃まで降温し30℃で5分間保持して再結晶化させ、再度(1)及び(2)を繰り返して、温度−吸熱特性を示す融解曲線(示差熱曲線)を得た。2回目以降の昇温時の示差熱を測定した結果から、結晶融解に伴う吸熱の主ピークの面積値(積分値)を熱量に換算し、単位質量当たりの蓄熱量(融解潜熱量ΔHm)(J/g)を算出した。より詳しくは、2回目以降の昇温時の示差熱を測定結果から、ドコサン(比較例3ではヘネイコサン)の融解に相当する主ピーク(最も大きな熱量を有するピーク)のピークトップについて、融解熱量は、その主ピークについて例えば、30℃以下のほぼ直線をベースラインとし、それを高温側に主ピークの最降下点の位置まで水平に延長し、そのベースラインの延長線と示差熱曲線との間に挟まれた領域の面積から求められる熱量を試料質量で換算して求めた。ピークが複数観測される場合には、ピークの谷間でベースラインの延長線に対して垂線を引いたところまでの面積値(積分値)が主ピークの面積値である。なお、このときの蓄熱量は、主に、固相から液相へ相転移する際に伴う融解潜熱量(融解熱)を示すものであるが、固相−固相間の転移に伴う転移熱を含んでいる可能性もある。
そして、実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例3に係る放熱成形体による放熱効果を熱伝導率、蓄熱量から判定した。判定基準は以下の通りである。
◎:50℃の温度条件下での熱伝導率が0.8W/(m・K)以上、かつ、蓄熱量が55J/g以上。
○:50℃の温度条件下での熱伝導率が0.75以上、0.8W/(m・K)未満、かつ、蓄熱量が55J/g以上。
△:50℃の温度条件下での熱伝導率が0.65以上、0.75W/(m・K)未満、かつ、蓄熱量が55J/g以上。
×:50℃の温度条件下での熱伝導率が0.65W/(m・K)未満または蓄熱量が55J/g未満。
表1に示したように、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%以上である実施例1乃至実施例7では、蓄熱量が何れも57J/g以上と高い蓄熱量を有していた。更に、25℃における熱伝導率が1.40W/(m・K)以上であり、50℃における熱伝導率が0.65W/(m・K)以上であり、温度が高くても熱伝導率が大幅に低下することなく、高い熱伝導率を有していた。特に、実施例1乃至実施例5では、熱伝導性フィラの所定量の配合によって、25℃における熱伝導率が1.76W/(m・K)以上であり、50℃における熱伝導率も0.78W/(m・K)以上と高い熱伝導率が得られた。そして、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に80質量%以上であると、蓄熱量が61J/g以上あり、更に25℃における熱伝導率が1.92W/(m・K)以上、50℃における熱伝導率が0.81W/(m・K)以上あり、蓄熱量及び熱伝導率の向上効果が高かった。
一方、ドコサンの純度が25質量%である、即ち、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に25質量%である比較例1では、蓄熱量が53.1J/gであり、25℃における熱伝導率が1.11W/(m・K)、50℃における熱伝導率が0.68W/(m・K)であり、実施例と比較すると蓄熱量が大幅に小さく、熱伝導率も高くない。
また、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に50質量%である比較例2においても、蓄熱量が54.8J/gであり、25℃における熱伝導率が1.69W/(m・K)、50℃における熱伝導率が0.74W/(m・K)であり、所望の蓄熱量が得られず、熱伝導率も高くない。
即ち、比較例1及び比較例2をみると、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%未満であるから、蓄熱量及び熱伝導率が低い。
更に、融点が41℃付近であるも炭素数が奇数のヘネイコサン(C21H44)を選択した比較例3についても、蓄熱量が大幅に小さかった。
これに対し、実施例1乃至実施例7から、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%以上とすることで、所望とする高蓄熱量及び高熱伝導率が得られる。そして、実施例1乃至実施例7をみると、ドコサンの含有量が多くなるほど蓄熱量が高くなるのに加え、熱伝導率も上昇しており、ドコサンが高蓄熱量及び高熱伝導率を有する。よって、高蓄熱量及び高熱伝導率の相乗効果により、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果を高めることが可能である。特に、実施例1乃至実施例3は、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に80質量%以上であり、蓄熱量が61J/g以上で、更に25℃における熱伝導率が1.92W/(m・K)以上、50℃における熱伝導率が0.81W/(m・K)以上となり、蓄熱量及び熱伝導率の向上効果が高く、好適である。
そして、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%以上であるから、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークを有するため、真夏の炎天下等の車内温度が40℃以上になるような熱的に厳しい環境でも、ドコサンによる吸熱効果でリチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果が高く、使用限界温度に達するまでの時間を大幅に長くすることができる。
特に、実施例1乃至実施例7では、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%以上であることで、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で融解主ピークの領域、即ち、蓄熱温度域の広がりが、10〜20度の範囲内の狭域であることで大きな蓄熱量が得られ、真夏の炎天下等の車内温度が40℃以上になるような熱的に厳しい環境における放熱効果を大きく向上させることができる。
更に、ドコサンの含有量が全パラフィン化合物中に60質量%以上とすることで、25℃における熱伝導率も高く、熱的に厳しくない条件下においても、熱伝導性の向上により熱が逃れやすくなり、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果を高くできる。
そして、本実施例では、所定量のパラフィン化合物及び熱伝導性フィラの配合とし、更に、熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント(ポリスチレン)及びソフトセグメント(ポリブチレン)を有する水添ブロック共重合体のSEBSの含有、また、ゲル化剤として、2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)及びオレイン酸(ゲル化補助剤NSP)の配合により放熱成形体用組成物からなる放熱成形体は低硬度であり、高熱伝導率及び高蓄熱量と低硬度が両立している。
よって、高熱伝導率及び高蓄熱量を確保しつつ低硬度であるから、放熱対象物の形状に追従する密着性も高くて接触熱抵抗も小さいことで、高熱伝導率及び高蓄熱量が十分に発揮され、高い放熱効果が得られる。また、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の低硬度により、発熱によって放熱対象物が膨張した際でも、その応力を吸収して放熱対象物の内圧の増加を抑制し、放熱対象物がその周囲の部材の破損を防止することも可能であり、放熱対象物の膨張変化に対してもその温度上昇の抑制、緩和効果を発揮できる。
特に、実施例1乃至実施例7をみるとドコサンの含有量が高いほど、高い蓄熱量及び熱伝導率が得られる一方で、パラフィン化合物としてドコサンに加えトリアコンタンを配合していると、ショアA硬度が低下している。
即ち、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサン(C22H46)に加え、パラフィン化合物にトリアコンタン(C30H64)が配合されていることによって、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークを有するほか、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークを有する。これによって、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の硬度がより低下している。
よって、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンがパラフィン化合物中に60%以上含有されていれば、高蓄熱量及び高熱伝導率を維持しつつ、パラフィン化合物の組成の調節により、硬度等の特性を容易に調節できる。
なお、放熱成形体について硬度が低いものを得ようとすると、成形性が低下し、所望形状に成形できない。一方で、硬度が高すぎると、放熱対象物との密着性が悪く、蓄熱量及び熱伝導率を高めても放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を高めることができない。また、放熱対象物が膨らんだときにその応力を吸収できず内圧の増加を抑制することができない。
このため、放熱成形組成物からなる放熱成形体については、常温でのショアA硬度が30以上、ショアD硬度が60以下の範囲内が好ましく、より好ましくはショアA硬度が30〜95の範囲内である。当該範囲内であれば、成形性も良く、放熱対象物に対して良好な密着を確保できるために、放熱成形体の高い蓄熱量及び熱伝導率が十分に発揮されて、放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を高める効果が高く、また、放熱対象物が膨張した場合でもその応力を効率よく吸収できる。
また、本実施例においては、このように熱可塑性ベースポリマとしてハードセグメント(ポリスチレン)及びソフトセグメント(ポリブチレン)を有する水添ブロック共重合体のSEBSを使用しその網目構造に多くのパラフィンを取込むことができる。更に、ゲル化剤として、2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)及びオレイン酸(ゲル化補助剤NSP)を含有している。このため、ドコサン(C22H46)がマイクロカプセル等に内包されていなくとも、その相変化による相分離、液相のブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が抑制されていた。更に、本発明者らの実験により、繰り返しの相変化(凝固と融解の相転移)、ヒートサイクルによっても相分離、ブリードアウト(漏れ出し、染み出し、滲み出し)が生じ難くて形状が保持され、放熱効果が低下することなく高い耐久性を有することを確認しており、ブリードアウトによる汚染の懸念もない。
更に、本実施例ではこのように熱可塑性ベースポリマとしてSEBSを使用し、このSEBSは、その融点(41℃〜45℃)がドコサンの融点と近似する。このため、放熱成形体を作製する加工時に、高温条件下としなくても、成形性、加工性もよく、気泡も混入しにくいものであった。よって、放熱成形体全体で高潜熱量及び高熱伝導率が得られやすい。更に、このようなSEBSは、柔軟性も高く、また、パラフィン化合物を多く含浸させることができてその取込み速度もはやく、放熱成形体とする際の成形性、加工性も良く、そして、パラフィン化合物の相変化による相分離、液相のブリードアウトの抑制効果も高いものであった。特に、本実施例で使用したSEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製『G1651HU』)は、パウダー状であるために、ペレット状のものと比較してパラフィンの浸透が速く加工性に優れている。そして、このように成形性、加工性、柔軟性がよいから、放熱対象物の形状に対応させる低硬度を確保でき、放熱対象物の形状を問わず高い密着性を得て高い放熱効果を得ることが可能である。
また、本実施例で用いた熱伝導性フィラとしてのマグネシア(MgO)や窒化ホウ素は熱伝導率が高いうえに、入手が容易で安価であり、比重も小さいから充填率を高めて高い熱伝導率を確保することが可能である。
ここで、実施例1乃至実施例5と実施例6及び実施例7との比較から、ドコサンの配合量を多くし、相対的に、熱伝導性フィラとしてのマグネシアの配合量を少なくすると、蓄熱量は大きくなるが、熱伝導率が小さくなる。
ここで、本発明者らの実験研究によれば、所望の高い熱伝導率を確保するために、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素やマグネシアの合計配合量は1000質量部以上がより好ましく、更に好ましくは、1200質量部以上である。一方で、配合量が多くなりすぎると加工時の流動性が低下し、成形性が低下したり硬度が上昇したりする。よって、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシアの合計配合量は2500質量部以下がより好ましく、更に好ましくは、1800質量部以下である。
また、本発明者らの実験研究によれば、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量100質量部に対してパラフィン化合物の配合量は、400質量部以上がより好ましく、更に好ましくは、450質量部以上である。一方で、配合量が多くなりすぎると相変化に伴い、相分離、ブリードアウトが生じやすくなる。また、相対的に熱伝導フィラの配合量を低下させることになるから十分な熱伝導率を確保できなくなる。よって、形状保持性の低下、ブリードアウト等の防止から、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物の配合量は1000質量部以下がより好ましく、更に好ましくは、750質量部以下である。
こうして、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素やマグネシアの合計配合量が1000質量部〜2500質量部の範囲内がより好ましく、更に好ましくは、1200質量部〜1800質量部の範囲内であり、パラフィン化合物の配合量が、400質量部〜1000質量部の範囲内がより好ましく、更に好ましくは、450質量部〜750質量部の範囲内である。当該範囲内であれば、十分に高い熱伝導率及び蓄熱量の両立を確保し、更に、形状保持性、成形性及び低硬度を維持できる。
また、放熱成形体用組成物全体を100質量部としたとき、十分に高い熱伝導性を確保するためには、放熱成形体用組成物全体100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素やマグネシアの合計配合量は70質量部以上がより好ましい。一方で、配合量が多くなりすぎると加工時の流動性が低下し、成形性が低下したり硬度が上昇したりする。また、相対的にパラフィン化合物の配合量を低下させることになるから十分な蓄熱量を確保できなくなる。よって、放熱成形体用組成物全体100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素及びマグネシアの配合量は、80質量部以下がより好ましい。更に、放熱成形体用組成物全体100質量部に対して、パラフィン化合物の配合量は20質量部以上がより好ましい。一方で、配合量が多くなりすぎると相変化に伴い、相分離、ブリードアウトが生じやすくなる。また、相対的に熱伝導フィラの配合量を低下させることになるから十分な熱伝導率を確保できなくなる。よって、形状保持性の低下、ブリードアウト等の防止から、放熱成形体用組成物全体100質量部に対して、パラフィン化合物の配合量は、30質量部以下が好ましい。
このように放熱成形体用組成物全体100質量部に対して、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素やマグネシアの合計配合量が70質量部〜80質量部の範囲内がより好ましく、パラフィン化合物の配合量が、20質量部〜30質量部の範囲内がより好ましい。当該範囲内であれば、十分に高い熱伝導率及び蓄熱量の両立を確保し、また、形状保持性、成形性及び低硬度を維持できる。
更に、本発明者らの実験研究によれば、ゲル化剤としての2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)及びオレイン酸(ゲル化補助剤NSP)の合計配合量は、パラフィン化合物100質量部に対して0.2〜2.0質量部の範囲内であるのが好ましい。当該範囲内であれば、成形性、硬度を低下させることなく、効果的にパラフィンの相分離、ブリードアウトを防止できる。
こうして、実施例1乃至実施例7においては、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物の使用によって、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークを有する。よって、真夏の炎天下等40℃以上の車内雰囲気温度となる環境でも、ドコサンによってリチウムイオン電池の熱を吸熱、蓄熱でき、また、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素、マグネシアによる熱伝導経路の確保により熱を逃がしやすくするから、リチウムイオン電池の温度上昇を効果的に抑制、緩和できる。特に、炭素数が2n(偶数)のドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物の使用及び熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素、マグネシアの使用により高い熱伝導率が得られる。よって、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果が高く、リチウムイオン電池とその周囲の雰囲気とで温度差が小さくなる環境でも、使用限界温度に達するまでの作動可能時間を長くできる。
ここで、念のため、放熱対象物の温度上昇の抑制、緩和効果を示す実験結果について図1及び図2を参照して説明する。
本発明者らは自動車に搭載されるリチウムイオン電池等の二次電池への使用を想定して図2に示す評価用試験装置Aを作製し、この評価用試験装置Aを用いて、放熱成形体用組成物から形成された放熱成形体による昇温抑制効果を確認した。
図2に示した評価用試験装置Aは、電池セルを模したヒータ付アルミブロック(放熱対象物に相当)を断熱材(スポンジ等)の上に配置し、そして、断熱材上のヒータ付アルミブロックの上にシート状に成形した放熱成形体(放熱シート:103mm×115mm×厚み3mm)を配置し、更に、その放熱成形体の上にアルミ板(103mm×115mm×厚み3mm)を配置して構成した。そして、ヒータ付アルミブロックと放熱成形体と間に温度を測定するための熱電対Tを設置した。
このような配置構成の評価用試験装置Aを用い、25℃の雰囲気温度下で、アルミブロックのヒータの発熱量が11Wになるように通電してヒータ付アルミブロックを発熱させ、ヒータ付アルミブロックと放熱成形体と間に設けた熱電対Tの温度が50℃に到達するまでの時間を測定した。
図1において、上述した表1の実施例2の配合組成の放熱成形体用組成物からなる放熱成形体について、50℃に到達するまでの時間を測定した結果を示す(図1において「実施例2」と記載)。また、比較として、上述した表1の比較例2の配合組成の放熱成形体用組成物からなる放熱成形体について、50℃に到達するまでの時間を測定した結果を示す(図1において「比較例2」と記載)。更に、ヒータ付アルミブロックの上にそのような放熱成形体を設けることなく、3mmの空間(隙間)を開けてアルミ板を配置して、同様に50℃に到達するまでの時間を測定した時の結果についても示す(図1において「放熱成形体なし」と記載)。
なお、自動車に搭載されるバッテリのリチウムイオン電池の使用限界温度が一般的に55〜60℃であるから、安全を見込んで50℃が使用制限温度と想定し、本実験では50℃に達するまでの時間で、昇温抑制、緩和の効果を評価した。
図1に示すように、放熱成形体を配置しない場合(図1において「放熱成形体なし」と記載)には、僅か30分で50℃に達してしまった。一方、熱可塑性ベースポリマに熱伝導性フィラ及びパラフィン化合物を配合してなる放熱成形体をヒータ付アルミブロックとアルミ板の間に介在させた比較例2では、50℃に達するまでの時間を延長できたものの、パラフィン化合物中において炭素数が偶数のノルマルパラフィンとしてのドコサンが60質量%未満であるから、測定開始から43.5分で50℃に達してしまった。
これに対し、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物を使用した実施例2では、50℃に達するまでの時間に53分要した。即ち、放熱成形体を配置しなかったときよりも、50℃に達するまでの時間が23分延び、50℃に達するまでの時間が1.76倍延びた。また、比較例2と比べても、50℃に達するまでの時間が10分も延び、50℃に達するまでの時間が1.2倍延びた。
このように実施例2では比較例2と比べて、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物の使用による蓄熱量及び熱伝導率の向上によって、熱電対Tで測定されたアルミブロックの温度上昇を効果的に抑え、昇温抑制、緩和の向上を確認できた。
以上説明してきたように、上記実施例に係る放熱成形体用組成物は、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSと、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素、マグネシアと、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサン(C22H46)が60質量%以上含まれるパラフィン化合物と、ゲル化剤としての2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)及びオレイン酸(ゲル化補助剤NSP)を含有するものである。
また、上記実施例は、熱可塑性ベースポリマとしてのSEBSと、熱伝導性フィラとしての窒化ホウ素、マグネシアと、炭素数が偶数の2n(n=11)であるノルマルパラフィンとしてのドコサン(C22H46)が60質量%以上含まれるパラフィン化合物と、ゲル化剤としての2−エチルヘキサン酸アルミニウム(オクトープアルミ)及びオレイン酸(ゲル化補助剤NSP)を含有する放熱成形体用組成物を成形してなる放熱成形体の発明と捉えることもできる。
このような本発明の放熱成形体用組成物によれば、熱伝導性フィラによって熱伝導経路が確保されて放熱対象物に密着させたときに放熱対象物の熱が伝導されやすく、放熱対象物の熱を移動(伝熱)させることができる。
更に、炭素数が2n(偶数)のノルマルパラフィンの相変化によって放熱対象物の熱を吸熱できる。
このように本発明の放熱成形体用組成物によれば、熱伝導に劣る熱可塑性ベースポリマの使用であっても、熱伝導性フィラによって熱伝導路が確保され、放熱対象物に接触させたときに放熱対象物の熱が放熱成形体用組成物からなる放熱成形体に効率的に伝導され、外部へと熱が逃げやすくなり、放熱対象物とその周辺との温度差が小さい環境下でも放熱対象物の熱を効果的に逃すことができる。
よって、例えば、リチウムイオン電池等への適用によって、夏場の温度上昇で、放熱対象物とその周囲の雰囲気との温度差が小さい環境になるときでも、使用限界温度に達するまでの作動可能時間の延長が可能となる。これより、電池の機能低下や寿命低下を抑制し、高寿命化を図ることができる。
そして、本発明の放熱成形体用組成物によれば、炭素数が偶数のノルマルパラフィンが60質量%以上含まれるパラフィン化合物の使用によって、熱伝導率が向上する。
したがって、放熱対象物とその周囲環境とで温度差が得られ難い条件でも、より低コストで、その放熱対象物に対する放熱効果を向上できる。
更に、このように熱伝導率の上昇によって、熱的に厳しくない条件下においても、熱が逃れやすくなり、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果を高くできる。
ここで、本発明者らの実験研究によれば、十分に高い熱伝導率を確保するために、熱可塑性ベースポリマの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラの配合量は30質量部以上が好ましく、より好ましくは、1000質量部以上である。一方で、配合量が多くなりすぎると加工時の流動性が低下し、成形性が低下したり硬度が上昇したりする。よって、熱可塑性ベースポリマの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラの配合量は2800質量部以下が好ましく、より好ましくは、2500質量部以下である。
また、本発明者らの実験研究によれば、熱可塑性ベースポリマの配合量100質量部に対してパラフィン化合物の配合量は、300質量部以上が好ましく、より好ましくは、400質量部以上である。一方で、配合量が多くなりすぎると相変化に伴い、相分離、ブリードアウトが生じやすくなる。また、相対的に熱伝導フィラの配合量を低下させることになるから十分な熱伝導率を確保できなくなる。よって、熱可塑性ベースポリマの配合量100質量部に対して、パラフィン化合物の配合量は1200質量部以下が好ましく、より好ましくは、1000質量部以下である。
こうして、熱可塑性ベースポリマの配合量100質量部に対して、熱伝導性フィラの配合量が30質量部〜2800質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは、1000質量部〜2500質量部の範囲内であり、パラフィン化合物の配合量が300質量部〜1200質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは、400質量部〜1000質量部の範囲内である。当該範囲内であれば、十分に高い熱伝導率を確保し、また、形状保持性、成形性及び低硬度を維持できる。
パラフィン化合物よりもより安価に入手可能な熱伝導性フィラの配合量、充填率を高めて熱伝導率を向上させることが可能である。よって、より低コストで放熱効果を高めることができる。
また、本発明の放熱成形体用組成物によれば、熱可塑性ベースポリマに熱伝導性フィラ及びパラフィン化合物を配合しており、ベースとなるポリマが熱可塑性であるため、放熱成形体を作製する際でも適度な流動性や粘度を示して、配合材料が均一に高分散されやすく、所望形状の成形性も良好であるし、低硬度化が可能である。よって、放熱対象物の形状に追従する密着性、放熱対象物との接触面積を高めて、接触熱抵抗や、放熱対象物との間の断熱性を下げることにより放熱効果を高めることが可能となる。また、放熱成形体用組成物からなる放熱成形体の低硬度化により、発熱により放熱対象物が膨張した際でも、その応力を吸収して放熱対象物の内圧の増加を抑制し、放熱対象物がその周囲の部材の破損を防止することも可能となる。
そして、このようなベースポリマの熱可塑性の特性を生かして複雑な形状にも成形可能であるから、つまり、放熱対象物の形状や大きさに対応することができて成形性や成形自由度(形状選択の自由度)が高いから、幅広い放熱対象物に適用することができる。また、他の材料との一体成型も可能であるから、発熱源の温度上昇を抑制する熱対策部材として、幅広い部品等に適用可能である。
例えば、上記ではリチウムイオン電池への使用を想定してリチウムイオン電池に接触させて熱対策を図るシート等として具体化した例を説明し、また、リチウムイオン電池以外の二次電池バッテリ、LEDヘッドランプ、キャパシタ、キャニスタ、燃料タンク(ベーパ抑制)等の熱対策にも有効であることを説明したが、その他にも、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料等の各種の部品、例えば、家電、OA機器部品、AV機器部品、精密機器、自動車内外装部品等の発熱源(一例として、コンピュータのCPU、液晶バックライト、プラズマディスプレイパネル、LED素子、有機EL素子、ペルチェ素子、熱電変換素子、温度センサー、コンバータ、トランス、インバータ、(ハイ)パワートランジスタ等の発熱源)の放熱を図る放熱材として用いることもできる。具体的な製品部品としては、パソコン、ゲーム機、VTR、テレビ、アイロン、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、掃除機、冷蔵庫、アイロン、ドライヤー等の美容機器、照明器具、炊飯器、電子レンジ、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具等の家庭電気製品部品や、携帯情報端末(いわゆるPDA)、電子辞書、電子書籍、携帯テレビ、コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスク、ICカード、スマートメディア、メモリースティック等)のドライブ・読取装置、光ケーブル用フェルール、コイル、半導体素子・抵抗等の封止物、端子台、プリント基板、回路基板、チップ、サーマルヘッド、センサー、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、LSI、CPU、コンピュータ関連部品等の電気・電子部品や、LED照明、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジングなど照明器具部品や、CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、有機EL、オーディオバックパネル等のディスプレー装置や、ステレオ、スピーカー等の音響製品部品や、プリンタ、コピー機、スキャナー、ファックス、分離爪、ヒータホルダー等の複写機・印刷機関連部品や、パチンコ、スロットマシーン等の遊戯機関連部品や、インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品、ブレーカー等の配電部品、自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、ランプリフレクター、インストルメンタルパネル、センターコンソールパネル、ディフレクター、ランプ、カーステレオ、カーナビケーション、カーオーディオビジュアル、オートモバイルコンピューター部品等の電装・内装部品等の自動車等の車両部品や、航空機・宇宙機用の部品や、センサー類の部品や、電話機(携帯電話、固定電話等)、モデム等の通信機器部品や、光学カメラ、デジタルカメラ、タイプライター等の画像表示・記録機器や、パラボラアンテナ、電動工具等の製品部品等の放熱対策にも使用できる。特に、接点不良を招くシリコン化合物を含まないので、導電性の用途にも好適である。
なお、本発明を実施するに際しては、放熱成形体用組成物や放熱成形体のその他の部分の構成、成分、配合、製造方法等についても、上記実施例に限定されるものではない。
必要に応じて、例えば、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、ベントナイト、パイロフェライト、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、MOS、アラミド繊維、炭素繊維(カーボンファイバー)、ガラス繊維(グラスファイバー、チョップドファイバー、ミルドファイバー)等の各種繊維系、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウィスカー等の補強材、柔軟性や加工性等を改良するためにポリブテン系、ポリイソブチレン系、プロセスオイル系(パラフィン系プロセスオイル等)、フタル酸エステル系、エポキシエステル系、ニトリル系、塩素化物系の軟化剤を配合してもよい。その他にも、分散剤、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線防止剤、耐候剤、光安定剤等の各種安定剤、増粘剤、潤滑剤、離型剤、耐炎剤、カップリング剤、核剤、光拡散剤、発泡剤、帯電防止剤、架橋剤、着色防止剤、顔料、染料、着色剤等の添加剤を加えることも可能である。
上記実施の形態の放熱成形体用組成物は、熱可塑性ベースポリマがソフトセグメント及びハードセグメントを有する水添ブロック共重合体であるものである。
上記水添ブロック共重合体は、ソフトセグメント及びハードセグメントの共重合体であり、例えば、共役ジエン重合ブロックと、アルケニル芳香族化合物重合ブロックやオレフィン重合ブロックとを有するブロック共重合体である。
上記共役ジエン重合ブロックにおける共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等がある。
また、上記アルケニル芳香族化合物共重合ブロックにおけるアルケニル芳香族化合物としては、スチレン、ブチルスチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジエチル−p−アミノスチレン、ビニルピリジン等がある。
更に、上記オレフィン共重合ブロックは、結晶性オレフィン共重合ブロックが好ましく、エチレン、ブチレン、プロピレン等や、ブタジエン、イソプロピレン等の共役ジエン共重合体からなるブロックの水素添加物等がある。更に、アルケニル芳香族化合物が共重合されていてもよい。
また、上記ハードセグメントとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン重合体セグメントで結晶性を有するものや、ブタジエン重合体の水素添加物セグメントで結晶性を有するもの等が形状維持性を付与するハードセグメントとして機能したり、ソフトセグメントとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィンのランダム重合体セグメント、ブタジエン、イソプレン等のジエン化合物の重合体セグメントまたはその水素添加物セグメント等がゴム、弾性特性を付与するソフトセグメントとして機能する。
熱可塑性ベースポリマがソフトセグメント及びハードセグメントを有する水添ブロック共重合体であると、ソフトセグメント及びハードセグメントのブロック形成により網目状構造を有するため、その編み目状構造にパラフィン化合物を拘束できる。よって、パラフィン化合物が相変化した際でもパラフィン化合物の相分離、ブリードアウト(染み出し等)を防止可能となる。更に、二重結合部分を水素添加してなる水添ブロック共重合体によれば、耐候性、耐熱劣化性に優れるから、耐久性を向上できる。
上記実施の形態の放熱成形体用組成物は、例えば、パラフィン化合物が、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するものであり、自動車にバッテリとして搭載されているリチウムイオン電池の熱の放散に用いることを想定し、車内の雰囲気温度が40℃以上に達する真夏の炎天下等の環境であっても、高蓄熱量及び高熱伝導率によって、リチウムイオン電池に対して効果的に熱を放散させて温度上昇を緩和できて、使用限界温度(55℃〜60℃)への到達時間、つまり、作動可能時間の延長を可能とするものである。
ここで、上記示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するとは、JIS K 7122の転移熱測定方法に準拠した測定によって得られたDSCサーモグラムにおいて吸熱の主ピーク(山)のピークトップ(頂点)が40℃以上、55℃以下の範囲内にあることを示している。ピーク(山)が複数観測される場合には、ピークトップの値(ピーク値)が最も高いピークが主ピークである。なお、DSCによる熱物性測定に際しては、まず、約5mgの試料を封入したアルミニウムパンを、窒素雰囲気下において、(1)10℃/分で昇温し110℃で5分間保持して完全に融解させたのち、次に、(2)5℃/分で30℃まで降温し30℃で5分間保持して再結晶化させ、再度(1)及び(2)を繰り返しており、2回目以降の昇温時の示差熱で吸熱特性の融解ピークが判断される。
そして、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するのであれば、融点が40℃〜55℃の範囲内にある炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンの使用のみに限定されず、当該範囲外に融点を有する炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンを混合してもよい。
パラフィン化合物は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するものでは、自動車にバッテリとして搭載されているリチウムイオン電池等の二次電池の熱の放散に用いることを想定し、例えば、リチウムイオン電池では、その使用限界温度が通常55℃〜60℃であるところ、真夏の炎天下等であると雰囲気温度が40℃以上に達する環境で使用される。そこで、例えば、融点が40℃以上、55℃以下の炭素数が2nのノルマルパラフィンを用いることで、前記パラフィン化合物は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有し、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達し、リチウムイオン電池と周囲環境との温度差が小さくても、炭素数が2nのノルマルパラフィンが40℃〜55℃付近で相変化によって熱を吸収するため、リチウムイオン電池の温度上昇を効果的に抑制できる。ここで、ピークトップが40℃よりも低いと、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達するような高温環境下では直ぐに蓄熱容量が限界を超えてしまい、リチウムイオン電池の温度上昇の抑制、緩和効果が弱く、リチウムイオン電池の使用限界温度に達するまでの時間の短縮効果が得られ難い。また、真夏の炎天下等で雰囲気温度が40℃以上に達するような環境以外のときでも相変化が頻繁に繰り返されることになるから劣化も速くなる。特に、低融点であると、電池の作動時以外でもバッテリの周囲温度の影響で相変化が頻繁に繰り返されることもあり、早期の劣化を招く。
したがって、例えば融点が40℃以上、55℃以下の範囲内である炭素数が2nのノルマルパラフィンの使用によって、パラフィン化合物は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有することにより、真夏の炎天下等熱的に厳しい雰囲気温度となる環境でも、リチウムイオン電池等の二次電池の熱を逃してその温度上昇を効果的に抑制、緩和でき、高い放熱効果を得ることができる。
上記実施の形態において、更に、パラフィン化合物が示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有するものでは放熱成形体の硬度低下を図る組成としたものである。
上記示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有するとは、JIS K 7122の転移熱測定方法に準拠した測定によって得られたDSCサーモグラムにおいて、2番目に吸熱のピークトップが高い副ピーク(山)のピークトップ(頂点)が60℃以上、70℃以下の範囲内にあることを示している。ピーク(山)が複数観測される場合には、ピークトップの値(ピーク値)が最も高いピークが主ピークであり、2番目にピークトップの値(ピーク値)が高いピークが副ピークである。
そして、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有するのであれば、炭素数2n(偶数)のノルマルパラフィンと併用するパラフィンは、融点が60℃〜70℃の範囲内にあるパラフィンに限定されず、当該範囲外に融点を有するパラフィンを用いてもよい。
パラフィン化合物が示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有するものでは、例えば、融点が40℃以上、55℃以下の範囲内である炭素数が2nのノルマルパラフィンの使用によって前記パラフィン化合物は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で40℃〜55℃の範囲内に融解主ピークのピークトップを有するが、それ以外に前記パラフィン化合物に、例えば、融点が60℃以上、70℃以下のノルマルパラフィンが含まれることで、示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを有する。このような示差走査熱量測定法(DSC法)による測定で、60℃〜70℃の範囲内に融解副ピークのピークトップを形成するノルマルパラフィンの含有により、硬度を低下させることができ、柔軟性を付与できる。
したがって、硬度の低下によってリチウムイオン電池の二次電池に対する密着性を高めることができ、放熱対象物が膨張した場合でもその応力を効率よく吸収できる。
また、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は製造コスト、製造が容易な形態等から決定した値であり、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を許容値内で若干変更してもその実施を否定するものではない。