以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
本発明のチョクラスキー法を用いた結晶育成装置は、大気中または不活性ガス雰囲気中で育成されるニオブ酸リチウムLiNbO3(以下、「LN」と呼んでもよいこととする。)、タンタル酸リチウムLiTaO3(以下、「LT」と呼んでもよいこととする。)、イットリウムアルミニウムガーネットY3Al5O12(以下、「YAG」と呼んでもよいこととする。)などの酸化物単結晶の製造に用いる結晶育成装置である。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引き上げることによって、種結晶の性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した概要図である。図1に示されるように、第1の実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ10と、ルツボ台20と、リフレクタ30と、アフター・ヒーター40と、断熱材50と、耐火物60と、引き上げ軸70と、誘導コイル80と、電源90と、制御部100とを備える。なお、加熱手段は、ルツボ10及びアフター・ヒーター40を加熱する誘導コイル80である。また、電源90は、誘導コイル80に高周波電力を供給するために設けられている。
本実施形態に係る結晶育成装置において、ルツボ10はルツボ台20の上に載置される。ルツボ10の上方には、リフレクタ30を介して、アフター・ヒーター40が設置されている。アフター・ヒーター40は、全体として中空形状を有し、結晶の育成に応じて引き上げ軸方向にアフター・ヒーター40の長さが可変する。図1においては、アフター・ヒーター40は3つの中空部材に分割され、3つの中空部材が互いに異なる半径(及び直径)を有し、径方向において重なるように配置され、全体としては高さが低い形状となったアフター・ヒーター40が示されている。即ち、自身よりも小さい径を有する中空部材の周囲を囲み、自身よりも大きい径を有する中空部材に周囲が囲まれるように各中空部材が配置されている。なお、アフター・ヒーター40の詳細は後述する。
ルツボ10を取り囲むように断熱材50が設置されている。また、断熱材50の外側には耐火物60が設けられ、ルツボ10の周囲全体を覆っている。耐火物60の側面の外側には、誘導コイル80が配置されている。
なお、誘導コイル80が外側に設けられた耐火物60は、図示しない支持台の上に載置される。また、誘導コイル80の周囲を、図示しないチャンバーが覆う。
ルツボ10及びその周囲に設けられた断熱材50は、ホットゾーン部を構成する。また、ルツボ10の上方には、引き上げ軸70が設けられている。引き上げ軸70は、下端に種結晶保持部71を有し、引き上げ軸駆動部72により昇降可能に構成されている。引き上げ軸70は、更に、アフター・ヒーター取り付け治具73と、治具支持部74と、連結部材75とを有する。更に、上述の図示しないチャンバーの周辺の外部に、電源90及び制御手段100が設けられる。
また、図1において、関連構成要素として、種結晶150と、結晶原料160と、引き上げられた単結晶(結晶体とも呼ぶ)170とが示されている。
次に、第1の実施形態に係る結晶育成装置の個々の構成要素について説明する。
ルツボ10は、結晶原料160を貯留保持し、単結晶170を育成するための容器である。結晶原料160は、結晶化する金属等が溶融した融液の状態で保持される。ルツボの材質は、結晶原料160にもよるが耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。
ルツボ台20は、ルツボ10を下方から支持する載置台として設けられる。ルツボ台20は、誘導コイル80の加熱に耐え得る十分な耐熱性及びルツボ10を支持する耐久性を有すれば、種々の材料から構成されてよい。図1に示される通り、ルツボ台20は、ルツボ10の他、耐火物60も支持するように構成されてもよい。
リフレクタ30は、ルツボ10から上昇する熱を反射し、ルツボ10側に熱を戻すための部材である。リフレクタ30も、誘導コイル80の加熱に耐え得る十分な耐熱性と熱を反射できれば種々の材料から構成されてよいが、例えば、白金、イリジウム等の十分な耐熱性を有する金属材料で構成される。
アフター・ヒーター40は、ルツボ10よりも上方に引き上げられた単結晶170を加熱するための加熱手段である。育成される単結晶170は、単結晶170の引き上げが進むにつれてルツボ10から遠ざかって行く為、単結晶170の温度勾配が大きくなり単結晶170の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、ルツボ10の上方にアフター・ヒーター40を設置して適切な温度勾配を維持する。
アフター・ヒーター40は、例えば、白金、イリジウム等の十分な耐熱性を有する金属材料で構成され、誘導コイル80の誘導加熱により加熱される。アフター・ヒーター40は、例えば、リフレクタ30の上に載置されて設けられる。アフター・ヒーター40は、十分な重量を有するため、リフレクタ30上に固定されていなくても、安定した状態で設置可能である。
本実施形態においては、アフター・ヒーター40は、結晶の育成に応じて結晶育成の軸方向、即ち引き上げ軸70の移動方向(引き上げ方向)にアフター・ヒーターの長さが可変する。これは、単結晶170の長尺化に対応するためであり、引き上げ軸70が上方に移動し、単結晶170が引き上げられて上方に移動するにつれて、アフター・ヒーター40は上方に伸長可能な構成となっている。図1においては、アフター・ヒーター40が収縮し、低くなった状態が示されている。なお、アフター・ヒーター40の詳細は後述する。
断熱材50は、ルツボ10の発熱が外部に放出されるのを防ぐために設けられる。よって、断熱材50は、ルツボ10の周囲を囲むように設けられる。なお、一般的な結晶育成装置では、アフター・ヒーター40の周囲にも断熱材50が設けられる場合が多いが、本実施形態に係る結晶育成装置では、アフター・ヒーター40の長さが可変であるため、アフター・ヒーター40の動きを妨げないように、アフター・ヒーター40の周囲には断熱材50を設けない構成となっている。
耐火物60は、ルツボ10の誘導コイル80による発熱を内部に保持し、外部への放出を防ぐ役割を果たす。耐火物60は、耐熱性の高い材料で構成される。よって、耐火物60は、ルツボ10を取り囲むように設けられる。耐火物60も、ルツボ台20上に載置されて設けられてよい。また、耐火物60は、天井面に開口31を有し、引き上げ軸70を挿入可能に構成される。
引き上げ軸70は、種結晶150を保持し、ルツボ10に貯留された原料融液160の表面に種結晶150を接触させ、回転しながら単結晶を引き上げるための手段である。引き上げ軸70は、種結晶150を保持する種結晶保持部71を下端部に有するとともに、回転機構であるモーターを備えた引き上げ軸駆動機構72を有する。なお、モーターは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
引き上げ軸70は、アフター・ヒーター取り付け治具73と、治具支持部74と、連結部材75とを備える。アフター・ヒーター取り付け治具73は、引き上げ軸70とアフター・ヒーター40とを連結する手段である。即ち、引き上げ軸70に設置されるとともに、アフター・ヒーター40と連結され、引き上げ軸70の引き上げ移動の運動をアフター・ヒーター40に伝達する。治具支持部74は、アフター・ヒーター取り付け治具73を支持するための部材である。図1においては、アフター・ヒーター取り付け治具73を下方から載置支持している。治具支持部74は、引き上げ軸70に固定される。連結部材75は、アフター・ヒーター取り付け治具73とアフター・ヒーター40とを連結するための部材であり、例えば、ワイヤー又はロッドから構成される。なお、引き上げ軸70の構成の詳細についても後述する。
誘導コイル80は、ルツボ10を誘導加熱するための手段であり、ルツボ10及び耐火物60の周囲を囲むように配置される。誘導コイル80は、ルツボ10を誘導加熱できればその種類や形態は問わない。誘導加熱コイル40は、交流電流によりルツボ10に渦電流を発生させ、そのジュール熱でルツボ10を加熱する。
誘導コイル80は、アフター・ヒーター40の周囲に設けられてもよく、設けられなくてもよい。誘導コイル80の誘導加熱効果は、誘導コイル80がルツボ10の周囲にのみ(ルツボ10と同じ高さの範囲にのみ)設けられている場合であっても、アフター・ヒーター40に及ぶ。よって、誘導コイル80は、ルツボ10のみならず、アフター・ヒーター40をも誘導加熱する。
誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40等を誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。この場合には、電源90は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。
電源90は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。電源80は、誘導コイル80のみならず、結晶育成装置全体に電源供給を行う。
制御部100は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御部110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integrated Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
本実施形態に係る結晶育成装置は、種々の結晶原料160に適用することができ、結晶原料160の種類は問わないが、例えば、タンタル酸リチウム原料を用いてもよい。その他、種々の酸化物単結晶を育成するための結晶原料160を用いることができる。
次に、図2を用いて、本発明の特徴であるアフター・ヒーターについて説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置のアフター・ヒーターの一例を示した図である。図2(a)は、アフター・ヒーター40が最小となった状態を示した図であり、図2(b)は、アフター・ヒーター40が最大となった状態を示した図である。
図2(a)、(b)に示される通り、本発明の第1の実施形態に係るアフター・ヒーター40は、ルツボ10の上方、具体的にはリフレクタ30上に配置され、単結晶170の長尺化に対応するため、単結晶170の育成に応じて引き上げ軸70の移動方向にアフター・ヒーター40の長さが可変する。本実施形態では、3枚の円筒部材41~43からなるアフター・ヒーター40を用意し、育成初期は、図2(a)に示すように3枚の円筒部材41~43が重なった状態で設置される。即ち、径方向において、内側から外側に向かって円筒部材41、42、43が順に重なるように配置される。よって、アフター・ヒーター40の高さは、1枚の円筒部材41~43の高さと同じ高さとなる。
育成後期では、図2(b)に示すように3枚の円筒部材41~43の上端と下端とがそれぞれ連結された状態で、最大の高さとなったアフター・ヒーター40が設置されている。また、このアフター・ヒーター40は誘導コイル80からの高周波により誘電加熱される。
図3は、従来技術に係るアフター・ヒーターを示す。従来技術に係るアフター・ヒーターは一体のアフター・ヒーターであり、育成初期から育成完了まで固定されており、一定の高さを有する。
ここで、アフター・ヒーターの設置の目的及びアフター・ヒーターの長さを可変させる目的について説明する。チョクラルスキー法による単結晶育成では、ルツボ10内の融解した原料160に種結晶150を接触させて上方に引き上げることで結晶体170を冷却させて結晶を成長させている。この時、熱歪に起因したクラックが発生することがある。これは、引き上げ距離が長くなるに従い、育成した結晶体170の上端と下端での温度勾配が大きくなることに起因して発生していると推測される。これを防止するため、従来からアフター・ヒーターを配置し、結晶体170の上部を加熱し保温している。
しかしながら、結晶長が長くなるに従い、これに対応してアフター・ヒーターの全長も長くした場合、結晶育成後期では結晶体170を保温できるが、結晶育成初期では原料融液160内の温度勾配が小さくなり過ぎて結晶の育成ができない場合がある。つまり、結晶育成初期では、原料融液160の全体が高温となってしまい、原料融液160の温度が低いことが好ましい表面においても温度が高くなってしまう。そうすると、原料融液160の外側(ルツボ10の内壁付近)や下部(ルツボ10の中央や下部)との温度勾配が小さくなるため、ルツボ10を加熱可能な温度幅が小さくなり、温度制御が困難であった。このため、結晶育成の状況の応じた適切な温度勾配になるように結晶長を設定しなければならなく、長尺化が難しかった。
そこで、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置のアフター・ヒーター40は、結晶の育成に応じて引き上げ軸方向にアフター・ヒーター40の長さを可変させる。具体的には、育成初期では、従来のアフター・ヒーターの長さより短く設定され、直胴長を育成する時は、アフター・ヒーターの一部が可変機構により、結晶の引き上げ長さに応じて延びる機構となっている。即ち、結晶の育成が進むにつれてアフター・ヒーター40が延伸され、引き上げ方向における全長が伸長する。結晶育成初期では、アフター・ヒーターが短いため、発熱量が少なく温度勾配は大きくなり、温度制御が容易になり適切な温度条件に設定し易くなる。また、アフター・ヒーターの上端の位置は、引き上げ初期を除き、ほぼ結晶上端よりも上方の位置に設定している。好ましくは、30mm~70mmであり、より好ましくは、50mmである。これは、誘導コイル80の高周波が特に7kHz以上の高い周波数領域では、アフター・ヒーター40の上端部に発熱が集中するためである。つまり、アフター・ヒーター上端部の発熱部を結晶上端部の上方に配置することで、結晶引き上げ中、常に結晶上端部の上方を暖めることができる。また、アフター・ヒーター40は、育成した結晶体170をほぼ覆うことができ、クラックの発生を抑制することができる。
以下、重なり合う複数個の円筒部材でアフター・ヒーター40を構成する方法の一例について具体的に説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係るアフター・ヒーターの詳細を示す断面図である。図4(a)アフター・ヒーターの断面拡大図である。図4(b)は、アフター・ヒーターの断面の最小時の断面図である。図4(c)は、アフター・ヒーターの断面の最大時の断面図である。
図4(a)に示すように、各々の円筒部材41は、上端には内側向きに突起41aを有し、下端には外側向きに突起41bを有する。
図4(b)に示すように、径の異なる複数個の円筒部材41~43からなるアフター・ヒーター40を用意するが、各々が上下動可能であり、かつ互いに近接して配置可能な径に設定する。なお、図4(a)においては、円筒部材41を代表として示しているが、図4(b)に示されるように、円筒部材42、43も同様の形状を有し、上端に突起42a、43a、下端に突起42b、43bを備える。この突起41a、41bは、円周方向の全周に形成して良いし、一部分に付けても良い。一部分に付ける場合は、円周方向に均等に3ヶ所又は4ヶ所形成する。なお、一部分に付けた場合は、上下の突起41a、41bに位置を定める。この突起41a、41bにより、内側の円筒部材41を引き上げた時、突起同士が接触して係合し、次の円筒部材42が引き上げられる。
図4(c)には、総ての円筒部材41~43が引き上げられ、アフター・ヒーター40の高さが最大となった状態が示されている。図4(b)、(c)に示されるように、最も内側の円筒部材41が引き上げられたとき、円筒部材41の下端の突起41bと円筒部材41の外側に隣接配置された円筒部材42の上端の突起42aとが係合し、円筒部材42が引き上げられる。円筒部材42がその高さ分引き上げられたら、円筒部材42の下端の突起42bがその外側に隣接する円筒部材43の上端の突起43aと係合し、円筒部材43を引き上げる。このように、内側の円筒部材の下端の突起が外側の円筒部材の上端の突起と係合することにより、円筒部材41~43が内側から順に徐々に引き上げられ、アフター・ヒーター40の全体の長さが徐々に長くなるように構成されている。本実施形態において、突起41a~43a、41b~43bは、係合部として機能している。
図5は、図4の変形例を示した図である。図5は、突起41a、41b、42a、42b、43a、43bを円筒部材41、42、43の円周方向の一部に各々形成し、内側の円筒部材41、42の下端の突起41b、42bが、次に引き上げる円筒部材42、43の上端の突起42a、43aと係合するように、下端を除き外周面の一部に縦方向に延びる溝41c、42c、43cを形成した例である。なお、図5は、上記溝部を引き上げ軸方向に切断した時の断面図である。溝41c、42c、43cは、破線で示されている。この場合、突起部42a、43aが、溝41c、42cに嵌合するので、各々の円筒部材41~43同士の間で、隙間を設けることなく各円筒部材41~43を設置することができる。
図6は、第1の実施形態に係る結晶育成装置のアフター・ヒーター40の取り付け方法について説明するための図である。図6(a)は、結晶育成初期のアフター・ヒーター40の状態の一例を示し、図6(b)は、結晶育成後期のアフター・ヒーター40の状態の一例を示す。
図6(a)、(b)に示されるように、最内側の円筒部材41の上端は、アフター・ヒーター取付け治具73を介して引き上げ軸70に取付ける。図6(b)に示されるように、アフター・ヒーター40とアフター・ヒーター取付け治具73との位置関係は、結晶育成時、アフター・ヒーター40の上端が結晶上端より上方の位置になるように設定する。また、アフター・ヒーター取付け治具73は、治具支持部74により引き上げ軸70に連結する。治具支持部74が引き上げ軸70に取り付け固定され、アフター・ヒーター取付け治具73は、治具支持部74上に載置された状態で設置される。これにより、引き上げ軸70が回転しながら上昇したときに、治具支持部74は引き上げ軸70とともに回転するが、アフター・ヒーター取付け治具73はフリーの状態となっているので、治具支持部74と供回りせずに上昇することが可能となる。即ち、アウター・ヒーター40を回転させずに引き上げることが可能となる。
より具体的には、アフター・ヒーター取付け治具73は、引き上げ軸70に固定した止め具(治具支持部74)の上に、内径が引き上げ軸系より大きいリング状の回転具にワイヤーや小径の細棒等により最内側のアフター・ヒーターの上端を取り付ける。アフター・ヒーター取付け治具73を使用することで、引き上げ軸70の回転の影響を受けることなく結晶の引き上げに合わせてアフター・ヒーター40の高さを可変することができる。結晶体の育成に従い引き上げ軸70が上昇し、アフター・ヒーター40は、最内側の円筒部材41から上昇し、結晶育成中は結晶体をほぼアフター・ヒーター40内に維持することができる。
また、最外側の円筒部材43は、リフレクタ30又は炉体、断熱材等に固定してもよい。これにより、アフター・ヒーター40の回転を確実に防止することができる。
連結部材75は、ワイヤーの他、ロッド等であってもよい。但し、ロッドの場合には、長さが一定であり、アフター・ヒーター取付け治具73と円筒部材41との位置関係(距離)によっては、ロッドが余ってしまう場合があるので、余ったロッドをアフター・ヒーター40の外側に逃がして突出させるような孔を設ける構造とすればよい。連結部材75がワイヤーの場合には、長さが余る位置関係の場合でもワイヤーが下方にたるむので、その点を考慮する必要が無い。
次に、アウター・ヒーター40の形状について説明する。
アフター・ヒーター40の径は、内径が得ようとする酸化物単結晶170の直径より大きく、ルツボ10の直径より小さい円筒形状である。アフター・ヒーター40の長さについては、例えば、図6(a)に示すような引き上げ開始時には、長さが最小となるように、酸化物単結晶170の引き上げ長さの半分~全長の1/4までとすることが好ましい。引き上げ終了時には、アフター・ヒーター40の長さが伸長し、酸化物単結晶170の引き上げ長さ~引き上げ長さの1.3倍に設定することが好ましい。また、分割数は、最小長さ、最大長さより適宜決定する。好ましくは、3分割にする。アフター・ヒーター40の材質としては、例えば、白金やイリジウム等の金属が用いられる。
なお、第1の実施形態においては、アフター・ヒーター40が3個の円筒部材41~43から構成される例を挙げて説明したが、円筒部材41~43の個数は、用途等に応じて変更可能であり、例えば、2個であってもよいし、4個、5個であってもよい。
また、第1の実施形態においては、引き上げ軸70との連結の容易さの観点から、最も内側に配置された円筒部材41とアフター・ヒーター取り付け治具73とを連結しているが、これは必須ではなく、別の円筒部材42、43に連結する構成としてもよい。例えば、突起41a~43a、41b~43bの向きを反対にすれば、最も外側の円筒部材43とアフター・ヒーター取り付け治具73とを連結し、外側の円筒部材43から内側に向かって円筒部材42、41を順に引き上げることも可能である。但し、引き上げ軸70はアフター・ヒーター40の内側に存在するので、最も内側の円筒部材41に連結する方が引き上げ構造としては効率的である。
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した図である。第2の実施形態に係る結晶育成装置では、アフター・ヒーター140が、円筒形状ではなく、テーパー形状を有する点で異なっている。このため、テーパー形状を有する中空部材141~143がアフター・ヒーターを構成する。最も内側の中空部材141、真中の中空部材142、最も外側の中空部材143と、徐々に径が大きくなっているため、内側の中空部材141を引き上げると、中空部材141の下端と真中の中空部材142の上端とが係合し、更に中空部材142も引き上げられると、中空部材142の下端が中空部材143の上端と係合するようになる。このようにして、単結晶170が成長するにつれて、徐々にアフター・ヒーター140の長さを長くすることができる。
アフター・ヒーター140の傾斜角度、即ちテーパー角度については、用途により種々変化させ、適切なテーパー角度としてよい。例えば、アフター・ヒーター140のテーパー角度(傾斜角度)は、円筒形状に近くなるように、0.5度以上2度以下の範囲内の所定角度に設定してもよい。
このように、アフター・ヒーターを必ずしも円筒形状とする必要は無く、中心が空洞となった中空形状であればよい。そして、アフター・ヒーター140の中空形状に応じて、中空部材141~143の形状を定めることができる。また、中空部材141~143の個数も、複数であれば、用途に応じて種々の個数とすることができる。
なお、アフター・ヒーター140の取り付け方法等は、第1の実施形態と全く同様に構成することができ、アフター・ヒーター取り付け治具73を用いて引き上げ軸70と連結することができる。
他の構成については、第1の実施形態に係る結晶育成装置と同様であるので、その説明を省略する。
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した図である。第3の実施形態に係る結晶育成装置では、アフター・ヒーター240が複数部材に分割されておらず、単体のアフター・ヒーター240自体が伸縮構造を有する点で異なっている。具体的には、アフター・ヒーター240は、蛇腹構造を有し、その上端が引き上げ軸70に連結された構成を有する。
アフター・ヒーター140の取り付け方法等は、第1の実施形態と全く同様に構成することができ、アフター・ヒーター取り付け治具73を用いて引き上げ軸70と連結することができる。
このように、アフター・ヒーター240自体に伸縮構造を設け、その長さを可変としてもよい。部品点数が少なくなるので、組み立て、設置が容易になるという利点がある。
他の構成については、第1の実施形態に係る結晶育成装置と同様であるので、その説明を省略する。
[実施例]
実施例においては、シミュレーション実験を行った例について説明する。
例えば、酸化物単結晶の直径がφ100mm、全長が170mm(引き上げ長さは140mm)の育成を想定した場合、本実施例のアフター・ヒーターは、円筒形状で、3個の径の違うアフター・ヒーターを重ね合わせて配置する。径は、φ148mm、φ144mm、φ140mmとして、径方向に重ねて配置する。各々の長さは、48mmである。この場合、アフター・ヒーターの最小長さは48mmであり、最大長さは140mmとなる。
厚みは、1.0mm、アフター・ヒーターの上端及び下端には突起、1.0mmを設ける。突起は、アフター・ヒーター上端は内側方向に、下端は外側方向に円周の全周に設定する。突起を全周とすることで上下の突起の係合位置を気にせず配置することが可能である。
また、突起ではなく、第2の実施形態で示したようにテーパーをアフター・ヒーターに付ける場合は、育成した結晶に干渉に無いように設定すれば良い。例えば、鉛直方向に対し0.5度~2度傾けることが好ましい。
図9は、本実施例に係る結晶育成装置のアフター・ヒーターの一例の発熱分布をルツボ底部中央部からアフター・ヒーター上端までシミュレーションした時のグラフである。
なお、このシミュレーションは、酸化物単結晶の直径がφ100mmで、全長が170mm(引き上げ長さは140mm)の育成を想定し、本実施例のアフター・ヒーターは、円筒形状で、3個を径の違うφ148mm、φ144mm、φ140mmとして、重ねて配置した。各々の長さは、48mmとした。この時、アフター・ヒーターの最小長さは、48mmであり、最大長さは140mmとした。厚みは、1.0mm、アフター・ヒーターの上端及び下端には突起、1.0mmを設けた。突起は、アフター・ヒーター上端は内側方向に、下端は外側方向に円周の全周に設定した。ルツボ径はφ175mmとした。
図9から判るように、発熱分布は、ルツボ底面から170mmの位置が融液界面の位置であり、従来のアフター・ヒーター(グラフ上は(固定)、曲線C)に比べ、本実施例のアフター・ヒーターの育成初期(グラフ上は可動(初期)、曲線A)は、発熱量が抑えられている。また、本実施例のアフター・ヒーターの育成後期(グラフ上は可動(後期)、曲線B)は、ほぼ、従来のアフター・ヒーターと同じで、アフター・ヒーターの上端部は、同じ発熱量になる。
曲線Aに示されるように、育成初期のアフター・ヒーターの発熱量を抑制することで、加熱量を調整したいときに、加熱量を増加させてもよい範囲を多く確保することができ、温度制御を容易にすることができる。これにより、育成初期の結晶の多結晶化を効果的に防止することができる。
一方、育成後期のアフター・ヒーターの発熱量は従来から大きな問題は無いので、曲線B、Cに示されるように、従来と同様の発熱量を確保でき、十分な発熱量を得ることができていることが示されている。
図10は、本実施例に係る結晶育成装置のアフター・ヒーターの一例の育成初期のルツボ内の融液の深さ方向における温度分布を示した図である。図10(a)は、ルツボ底部からルツボ上面までの温度分布をシミュレーションした時のグラフである。図10(b)は、本実施例の温度分布のシミュレーション範囲を示しており、図10(c)は、従来例の温度分布のシミュレーション範囲を示している。図10(a)において、曲線Dが本実施例、曲線Eが従来例のシミュレーション結果を示している。
なおシミュレーションの条件は、図9における条件と同様である。従来のアフター・ヒーター(グラフ上は(固定)、曲線E)は、アフター・ヒーターが長いため融液上部が暖められ、結晶と融液の界面を融点にするために必要なるつぼの発熱が小さくなるため、垂直方向の温度勾配は小さくなり、結晶育成のための温度制御が難しい。本実施例のアフター・ヒーター(グラフ上は可動、曲線D)は、育成初期時は円筒体が重なり高さが低く、従来アフター・ヒーターの時と比べ融液上部はさほど暖められていない。このため、るつぼの発熱が増え融液内の垂直方向の温度勾配は大きくなり、温度制御は容易になる。
図11は、本実施例に係る結晶育成装置のアフター・ヒーターの一例の育成初期の融液表面の半径方向における温度分布を示した図である。図11(a)は、ルツボ中央部からルツボ外径方向にシミュレーションした時のグラフである。図11(b)は、本実施例の温度分布のシミュレーション範囲を示しており、図11(c)は、従来例の温度分布のシミュレーション範囲を示している。図11(a)において、曲線Fが本実施例、曲線Gが従来例のシミュレーション結果を示している。
なおシミュレーションの条件は、図9における条件と同様である。従来のアフター・ヒーター(グラフ上は(固定)、曲線G)は、垂直方向の温度勾配と同様に、融液表面の水平方向の温度勾配も小さく、結晶育成の制御が難しい。一方、本実施例のアフター・ヒーター(グラフ上は可動、曲線F)は、育成初期時は円筒体が重なり高さが低く、従来アフター・ヒーターの時と比べ融液上部はさほど暖められていないため、るつぼの発熱が増え水平方向の温度勾配は大きくなり、温度制御は容易になる。
図12は、本実施例に係る結晶育成装置のアフター・ヒーターの一例の育成後期の結晶内の高さ方向における温度分布を示した図である。図12(a)は、結晶底部から結晶上端までの温度分布をシミュレーションした時のグラフである。図12(b)は、本実施例の温度分布のシミュレーション範囲を示しており、図12(c)は、従来例の温度分布のシミュレーション範囲を示している。図12(a)において、曲線Hが本実施例、曲線Iが従来例のシミュレーション結果を示している。
なお、シミュレーションの条件は、図9における条件と同様である。結晶内の垂直方向の上下端の温度差は、従来のアフター・ヒーター(グラフ上は(固定)、曲線I)の場合50℃、本実施例のアフターヒーター(グラフ上は可動、曲線H)の場合55℃とほぼ同じになり、育成中結晶内の応力増加や割れが起きる可能性は低い。
上記のシミュレーション結果より、本実施例のアフター・ヒーターを用いることで、育成初期は、融液内の垂直方向及び水平方向の温度勾配は大きくなり、温度制御は容易になることが示された。これにより、育成条件の設定幅に余裕を持つことができる。育成後期は、従来のアフター・ヒーターとほぼ同等となる。このため、育成初期に温度制御が容易になり、結晶の長さを長尺化してもその条件を適正に設定することが可能となる。また、育成後期は、結晶長の長さに対応したアフター・ヒーターの長さを設定することで、結晶の長尺化が図れる。
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。