JP2019006612A - 酸化物単結晶育成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】低コストで、坩堝と坩堝上方との温度をそれぞれ個別に制御して、単結晶の育成に最適な温度勾配を容易に維持できる酸化物単結晶育成装置の提供。【解決手段】坩堝1と、坩堝1の外周を囲むワークコイル5と、坩堝1の上方にあり、酸化物単結晶Mを加熱する抵抗発熱体7とを備え、抵抗発熱体7が、酸化物単結晶Mの直胴部Cが育成される方向と直交する方向において、ワークコイル5よりも内側にある酸化物単結晶育成装置100。好ましくは、ニオブ酸リチウム、又はタンタル酸リチウムの単結晶を育成する装置である酸化物単結晶育成装置100。【選択図】図1
Description
本発明は、酸化物単結晶育成装置に関する。
近年、表面弾性波デバイス用の基板や、光変調デバイス用の基板としてニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム等の単結晶が多く利用されている。これらの基板に用いる当該単結晶の育成方法としては、従来、高周波誘導加熱方式の加熱手段を用いたチョクラルスキー法(CZ法)が多く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
チョクラルスキー法に用いられる単結晶育成装置は、例えば、貴金属製の坩堝の回りを耐火物で囲み、さらに、坩堝または耐火物の上に坩堝上方の温度勾配を適切に保つためのアフタヒータと呼ばれる貴金属製の円筒を配置する構造とするものが一般的である。
近年、酸化物単結晶は表面弾性波デバイスの材料として市場が拡大しており、市場の拡大に伴い、材料の生産量を確保するために、酸化物単結晶の大口径化や長尺化が行われている。しかしながら、この単結晶の大口径化や長尺化により、単結晶の肩部を形成する際の単結晶の急成長や、単結晶の直胴部における単結晶の曲がり、あるいは、単結晶を冷却するときの熱ひずみに起因した単結晶のクラック等が発生し易くなるという問題が生じ得る。そして、これらの問題が、育成した単結晶の良品率を低下させる原因となっている。
酸化物単結晶の結晶品質を改善する手段として、炉内における坩堝上方の温度勾配を最適化するために、上記アフタヒータの形状や、坩堝形状の工夫などが行われている。しかしながら、坩堝上方の温度勾配を小さくすることで、単結晶の急成長が生じ易くなったり、反対に、坩堝上方の温度勾配を大きくすることで、単結晶の冷却中にクラックが生じ易くなったりするなど、単結晶の大口径化や長尺化で、単結晶の育成過程と冷却過程で炉内の温度勾配を常に所望の状態に維持することは、アフタヒータの形状や坩堝形状を工夫することでは難しくなってきている。
そこで、単結晶育成におけるシーディング、単結晶の肩部の形成、単結晶の直胴部の育成、単結晶の切り離し、単結晶冷却の各過程において、好適な温度環境を形成する目的で、坩堝内の融液対流と、坩堝より上方の温度環境を最適な条件に維持するために、坩堝と坩堝上方との温度をそれぞれ個別に制御する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、高周波誘導加熱方式のワークコイルを引き上げ方向に2段設けた構成のサファイア単結晶育成装置が提案されている。
このような独立した2段のワークコイルを設けた高周波誘導加熱方式の加熱手段を備える装置を用いることにより、単結晶の育成過程と単結晶の冷却過程で炉内の温度勾配を常に所望の状態に維持することが可能となる。しかしながら、このような2段の高周波誘導加熱方式の加熱手段を備えた装置においては、2段の高周波誘導方式の加熱手段同士が相互に干渉しないように、高周波電流の位相をそれぞれ制御する等の制御手段を設け、高価な電源を別々に独立して設ける必要があった。そのため、酸化物単結晶育成装置のコストが高額になるとともに、高周波誘導加熱方式の加熱手段の出力の制御も複雑になるという問題があった。
従って、上記の問題点に鑑み、本発明は、低コストで、坩堝と坩堝上方との温度をそれぞれ個別に制御して、単結晶の育成に最適な温度勾配を容易に維持することができる単結晶育成装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の酸化物単結晶育成装置は、坩堝と、前記坩堝の外周を囲むワークコイルと、前記坩堝の上方にあり、酸化物単結晶を加熱する抵抗発熱体と、を備えることを特徴とする。
また、本発明の酸化物単結晶育成装置において、前記抵抗発熱体が、前記酸化物単結晶の直胴部が育成される方向と直交する方向において、前記ワークコイルよりも内側にあることが好ましい。
また、本発明の酸化物単結晶育成装置が、ニオブ酸リチウム、または、タンタル酸リチウムのいずれかの単結晶を育成する装置であってもよい。
本発明によれば、ワークコイルと抵抗発熱体とを別体で備えることにより、坩堝と坩堝上方との温度勾配をそれぞれ個別に制御して、単結晶の育成に最適な温度勾配を容易に維持することができ、また、ワークコイルを酸化物単結晶の育成方向に複数段設ける場合よりも低コストにすることができる。
以下、本発明の一実施形態にかかる酸化物単結晶育成装置について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる酸化物単結晶育成装置100を模式的に示した断面図である。
本発明の一実施形態にかかる酸化物単結晶育成装置100は、例えば、チョクラルスキー法(CZ法)による酸化物単結晶の育成に用いることができる装置であり、大気中または不活性ガス雰囲気中で酸化物単結晶Mを製造することができる。
チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された、通常、断面視における一辺が数mm程度の直方体の酸化物単結晶の先端を種結晶として、この種結晶と同一組成の酸化物の融液に浸潤し、種結晶を回転しながら徐々に引き上げることによって、種結晶の性質を単結晶に伝播しながら大口径化して単結晶を製造する(育成する)方法である。
チョクラルスキー法における酸化物単結晶の育成過程は、まず、図1に示すように、結晶径を徐々に拡大させて種結晶Aから円錐形状の肩部Bを形成する肩部形成過程と、所望の結晶径となるまで拡大させて肩部Bを形成したのち、円柱形状の直胴部Cを形成する直胴部形成過程と、を備える。肩部形成過程、直胴部形成過程に亘って、種結晶Aを坩堝上方の空間(図1に示す炉内S)に向かって引き上げながら酸化物単結晶Mの育成を行うことができる。
図1に示されるように、酸化物単結晶育成装置100は、坩堝1と、下段耐火物2と、坩堝台3と、坩堝軸4と、ワークコイル5と、リフレクタ6と、抵抗発熱体としてのヒータ7と、上段耐火物8と、シード棒9と、これらを収容するケース10と、を備え、さらに、酸化物単結晶育成装置100の動作を制御する不図示の制御手段と、を備えることができる。すなわち、酸化物単結晶育成装置100は、加熱手段として、高周波誘導加熱方式のワークコイル5と、抵抗加熱方式のヒータ7と、を備えている。なお、本実施形態において、上下方向は酸化物単結晶Mの直胴部Cの育成方向であり、上方向は酸化物単結晶Mを育成する際の引き上げ方向である。また、本実施形態において、径方向とは、酸化物単結晶Mの径方向を指し、育成された酸化物単結晶Mの引き上げ方向と直交する方向である。
坩堝1は、単結晶の原料を入れるものであり、例えば、円形の底部11と、底部11の外縁部から立設した円筒形の側壁部12と、を有し、上部が開口した形状のものを用いることができる。単結晶の原料は、溶融した融液の状態で坩堝1内に保持されることから、坩堝1は、単結晶原料に応じて最適な材料を用いて形成することができる。例えば、耐熱性が高い白金、イリジウム等の貴金属を用いて坩堝1を形成することができる。
下段耐火物2は、図1に示すように、上面が開口した、外側の外側下段耐火物21と、外側下段耐火物21の内側に配された、内側下段耐火物22と、を有するように構成することができる。また、外側下段耐火物21は、セラミックスの成形体を用いることができ、本実施形態においては、外側下段耐火物21は、底部21aと、底部21aから立設した側壁部21bと、を有している。内側下段耐火物22は、断熱性のより高いアルミナやジルコニア等のセラミックス顆粒を用いて構成することが好ましく、本実施形態においては、坩堝1からの熱放出を抑制して、効率よく坩堝1内の単結晶の原料を加熱するために、坩堝1に接して、その外周を囲んで設けられている。
坩堝台3は、下段耐火物2の底部21の下側に設けられ、坩堝1、下段耐火物2、リフレクタ6、ヒータ7、上段耐火物8等からなる酸化物単結晶育成装置100の本体部101を支持することができる。
ワークコイル5は、高周波誘導加熱方式により坩堝1を加熱して、坩堝1内の酸化物単結晶Mの原料を融解するための加熱手段である。ワークコイル5は、図1に示すように、銅等の導体をコイル状に形成して、坩堝1、下段耐火物2とは非接触の状態で、これらの外周を囲んで配置されることができる。すなわち、本実施形態においては、ワークコイル5は、坩堝1、下段耐火物2の径方向外方に設けられている。
また、ワークコイル5のコイル巻き数、コイル間隔、コイルと坩堝1の相対位置等は、坩堝1の材質、大きさ、育成する単結晶の酸化物の種類や直径などによって最適な条件を適宜設定することができる。例えば、ワークコイル5のコイル巻き間隔を密にすることにより、坩堝1における熱の発生を高めることができる。例えば、ニオブ酸リチウムの単結晶を育成する場合には、ワークコイル5の巻き数は8巻〜14巻程度とし、巻ピッチは30mm前後とすることができる。
また、ワークコイル5を作動させるときには、ワークコイル5には、不図示の外部の電源から高周波電圧が印加されて、高周波の電流が流される。これにより、ワークコイル5の周辺に磁界が生じて、ワークコイル5に囲まれる坩堝1が発熱する。
リフレクタ6は、熱を反射して、坩堝1から外部への放熱を抑制するために設けられた部材であり、図1に示すように、坩堝1の側壁部12の上端部分に配置されている、育成された酸化物単結晶Mが通過することができるように、例えば、径方向中心部分に開口部61を有する円環状の部材を用いることができる。開口部61の内径寸法は、放熱を抑制するために、坩堝1の側壁部12の内径寸法よりも小さく形成されている。すなわち、リフレクタ6は、坩堝1よりも径方向内方に突出して設けることができる。
上段耐火物8は、外部への熱の放出を抑制する部材であり、ヒータ7の径方向外方を囲む円筒状の側壁部81と、ヒータ7及び側壁部81の上部を覆う、円環状の蓋部82と、を有することができる。また、側壁部81と蓋部82が、それぞれ、炉壁と天井部となり、炉壁と天井部に囲まれた炉内Sを規定している。
また、蓋部82は、シード棒9が上下移動できるように、炉内Sに挿通するべく、開口部821を有している。また、開口部821は、例えば、シード棒9の断面よりも大きく形成され、育成される酸化物単結晶Mの断面よりも小さく形成されている。また、上段耐火物8は、例えば、ジルコニア、アルミナ等の材料により構成することができる。
シード棒9は、坩堝1に入れられた酸化物単結晶Mの原料の融液表面に種結晶Aを接触させ、酸化物単結晶Mを回転させながら引き上げるために用いられるものである。シード棒9は、例えば、白金等の材料を用いて構成され、シード棒9の下端に種結晶Aを保持する保持部91を有する棒状の部材を用いることができる。シード棒9は、酸化物単結晶Mの育成に伴って、種結晶Aとともに、酸化物単結晶Mを吊り下げて保持することができる。
また、酸化物単結晶育成装置100においては、酸化物単結晶Mの引き上げ、及び、回転を、シード棒9の引き上げ、及び、シード棒9の軸を中心とした回転により行うことができる。シード棒9の上下移動、及び、回転を行うため、例えば、不図示のモータを備えたシード棒駆動手段を設けることができる。また、シード棒9の回転速度、引き上げ速度は、形成する酸化物単結晶の径の大きさ、直胴部の長さ等により適宜設定することができ、例えば、シード棒9の回転速度は1rpm〜20rpm程度、酸化物単結晶Mの引き上げ速度は2mm〜5mm/h程度とすることができる。
不図示の制御手段は、結晶育成プロセスを含めた酸化物単結晶育成装置100全体の制御を行うための手段である。制御手段は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、及び、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備えることができる。また、制御手段は、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
ヒータ7は、電気抵抗を利用する抵抗加熱方式によりヒータ7自身が発熱し、直接、酸化物単結晶Mを加熱して保温することができる加熱手段であり、不図示の外部の電源に接続されている。ヒータ7は、酸化物単結晶Mを保温するために、坩堝1の上方に配置されている。また、ヒータ7は、温度勾配をより容易に維持するために、図1に示すように、酸化物単結晶Mの直胴部Cが育成される方向と直交する方向(すなわち、坩堝1の径方向)において、ワークコイル5よりも内側に配置されていることが好ましい。具体的には、ヒータ7は、上段耐火物8の側壁部81の内側に設けられており、図1に示すように、ヒータ7の内面が坩堝1の内周面と同一面上に位置するように側壁部81に凹部を設けて配置されていてもよい。また、坩堝1の内周面と側壁部81の内周面が同一面上にあり、この同一面よりもヒータ7の内面が径方向内方に突出するように、ヒータ7が配置されていてもよい。すなわち、ヒータ7は、上段耐火物8の側壁部81よりも径方向内側に設けられていてもよい。
また、ヒータ7は、酸化物単結晶Mの直胴部Cを効率的に保温するために、直胴部Cと同様に円筒状とすることができ、ヒータ7の内径寸法は、育成される酸化物単結晶Mの直径よりも大きくすることができる。また、ヒータ7の上下方向の寸法は、酸化物単結晶Mの育成条件を考慮して、育成される酸化物単結晶Mの全長と同等の長さとすることができ、育成される酸化物単結晶Mの全長より短くてもよいし、長くしてもよい。また、ヒータ7は、複数の発熱体を組み合わせて構成してもよく、例えば、断面視扇状の発熱体を複数組み合わせて構成されていてもよい。また、ヒータ7は、1台の酸化物単結晶育成装置100を用いて異なる径寸法(例えば、4インチと6インチなど)の酸化物単結晶Mを製造することを考慮して、製造する酸化物単結晶の径寸法に合わせてヒータ7の内径を変えられるように、径方向の位置を調節可能に構成されていてもよい。
また、ヒータ7としては、カーボン、ニクロム、二珪化モリブデン等を抵抗発熱体としたものを用いることができる。酸化物単結晶を育成する場合には、酸素雰囲気中で有用なニクロムや二珪化モリブデンを抵抗発熱体としたものが好ましく、さらに、高融点のタンタル酸リチウムの単結晶を育成する場合には、耐熱性の高い二珪化モリブデンを抵抗発熱体としたものが好ましい。
ここで、アフタヒータを用いた従来の酸化物単結晶育成装置の問題点を具体的に説明するために、従来の酸化物単結晶育成装置の一例である、酸化物単結晶育成装置500について図2を参照して説明する。酸化物単結晶育成装置500において、ヒータ7、及び、上段耐火物8の側壁部81がなく、アフタヒータHを採用した他は、図1に示す酸化物単結晶育成装置100と同じ構成であり、符号を省略する。
従来の酸化物単結晶育成装置500としては、例えば、高周波誘導加熱方式の加熱手段(ワークコイル5)により加熱されるアフタヒータHが坩堝の上方に配置されていた。この場合において、坩堝1の径方向外方に配置されたワークコイル5を用いた坩堝1の加熱よりは出力の弱いアフタヒータHの加熱により、坩堝1の上方を適度に保温することにより酸化物単結晶Mを育成していた。
ここで、長尺の単結晶を育成する場合には、単結晶の引き上げ長さを長くすると、アフタヒータHもこの引き上げ方向に長くする必要がある。しかし、高周波誘導加熱方式の性質上、アフタヒータHの上端に磁束が集中して加熱される場合がある。その結果、アフタヒータHの発熱が上部に偏ることとなり、単結晶内部の引き上げ方向における先端側と後端側の温度差を小さくすることが困難となる場合がある。そして、引き上げ方向における単結晶内部の温度差が大きい場合、単結晶の引き上げ中に熱応力等により単結晶にクラックが発生する等の不具合が生じるおそれがある。
一方、アフタヒータHの長さを引き上げ方向において短くすると、単結晶の原料融液より上方の、炉内の温度勾配が大きくなりすぎて、結晶内部の温度差が大きくなってしまう。また、ワークコイルの巻き数を多くすると、アフタヒータHが加熱され易くなり、単結晶と原料融液の界面(固液界面)の温度を単結晶の融点とするためにワークコイルの出力を抑えるように調節する必要があり、その結果、坩堝の発熱が十分でなくなり、単結晶の原料融液内の自然対流が弱くなって結晶育成が不安定となり易くなる。
本実施形態の酸化物単結晶育成装置100であれば、その長さやワークコイルの巻き数等の影響を受けやすいアフタヒータではなく、抵抗発熱体であるヒータ7を備えることにより、育成された酸化物単結晶Mを直接加熱して、単結晶内部の温度勾配を小さくして、単結晶を育成する際にクラックが発生する等の不具合を抑制することができる。
また、ヒータ7は、抵抗加熱方式の加熱手段であることから、高周波誘導加熱方式の加熱手段より低コストに作動させることができる。
次に、本実施形態の酸化物単結晶育成装置100を使用した、酸化物単結晶Mの育成方法を説明する。
まず、坩堝1に、酸化物単結晶Mの原料を投入して、ワークコイル5を作動させて、坩堝1を発熱させ、坩堝1内の原料を融点以上に加熱して融解することにより、酸化物単結晶Mの原料の融液を得る。このとき、ワークコイル5の補助として、ヒータ7を作動させてもよい。次に、シード棒9の下端の保持部91に取り付けられた、種結晶Aを、坩堝1内の原料の融液上面に接触させる。これを、シーディングという。その後、シード棒9のシード棒駆動手段により、種結晶Aを回転させながら徐々に上方の炉内Sへ引き上げる。酸化物単結晶Mの育成中は、ワークコイル5による加熱温度や、シード棒9の回転数、及び、引き上げ速度等を制御手段等により制御することにより、酸化物単結晶Mに肩部B及び直胴部Cを育成する。直胴部Cが所定の長さになったところで、シード棒9の引き上げ速度等を制御して、原料の融液上面と育成した単結晶の下端とを切り離し、単結晶を冷却して単結晶が完成する。
次に、酸化物単結晶Mの育成過程における、ワークコイル5及びヒータ7を用いた温度調節について説明する。
チョクラルスキー法により育成される酸化物単結晶は、直胴部が原料融液から長く伸びて、単結晶の引き上げが進むにつれて原料融液の入った坩堝から単結晶の上部が遠ざかるため、単結晶の内部の上下方向における温度分布が大きくなり、単結晶のクラックが発生する等の不具合が起こる場合がある。本実施形態の酸化物単結晶育成装置100は、このような問題を改善するために、坩堝1の上方に、坩堝1を加熱するワークコイル5とは別体のヒータ7を設置して、坩堝1の上方の炉内Sの適切な温度勾配を維持するものである。
上述した酸化物単結晶Mの育成過程において、シーディングおよび肩部形成過程においては、ヒータ7を使用せずにワークコイル5のみを使用して、径方向外方の温度を高く、径方向内方の温度を低くして、径方向の温度勾配を大きくする。また、同時に、リフレクタ6を坩堝1の側壁部12の上端部分に配置することにより、ワークコイル5による坩堝1の加熱に加えてリフレクタ6が効率よく加熱され、径方向における原料融液の上面の温度勾配をより大きくする。このように、炉内S及び原料融液上面の温度勾配を大きくすることにより、酸化物単結晶Mの肩部Bの急成長を抑制することができる。
酸化物単結晶Mの肩部Bが形成された後は、ヒータ7が作動していないことにより坩堝1上方の炉内Sの温度が低くなっているため、原料融液の上面から単結晶を切り離すときに、熱応力等で酸化物単結晶Mにクラックが入りやすくなる。そこで、直胴部形成過程においては、上下方向の温度勾配を小さくするために、直胴部Cの育成とともにワークコイル5の出力を徐々に下げるとともに、ヒータ7を作動させて加熱することにより、坩堝1の上方の炉内Sを保温する。
以上のようにワークコイル5及びヒータ7を用いて、径方向の温度勾配、及び、炉内Sの引き上げ方向の温度勾配を制御することにより、長尺な酸化物単結晶Mを育成しても、育成中に単結晶が曲がらず、単結晶の引き上げ方向における温度差、単結晶内外の温度差、原料融液の対流の不安定さから生じる多結晶化によるクラックの発生や、酸化物単結晶Mの冷却時のひずみによるクラックの発生を抑制することができる。
以下、本実施形態の酸化物単結晶育成装置100を用いた酸化物単結晶の育成方法の具体例として、ニオブ酸リチウムの単結晶を育成する手順について例示する。
各構成要素の材質としては、坩堝1はカップ状の白金、下段耐火物2はジルコニア、上部耐火物はジルコニア、シード棒9は白金を用いて構成されたものを用いることができる。また、例えば、ワークコイル5の巻き数は14巻とし、巻ピッチは30mmとすることができる。まず、坩堝1に、ニオブ酸リチウムの原料を充填しておき、ワークコイル5及びヒータ7を作動させてニオブ酸リチウムの原料を1300℃以上に加熱して融解する。次に、ヒータ7の出力を止め、ワークコイル5の出力を制御して、原料融液が適切な状態で対流するように径方向の温度勾配を調整する。さらに、種結晶Aを原料融液の上面に接触させてシーディングを行う。
次に、シード棒9を、1rpm〜20rpmの間で速度調整して回転させながら、2mm〜5mm/hの速度で上方に引き上げることにより、ニオブ酸リチウム単結晶の肩部Bを育成する。肩部Bを育成した後、直胴部C形成過程において、ワークコイル5とともにヒータ7を作動させて、ヒータ7の出力を徐々に上げることにより、坩堝1の上方の炉内Sを加熱する。以上により、直径が4インチ、直胴部の長さが150mmのニオブ酸リチウム単結晶を得ることができる。
ニオブ酸リチウム単結晶のシーディング及び肩部形成過程において、ワークコイル5のみを出力させて温度を制御することにより、坩堝1の上方の炉内Sの温度を高くし過ぎずに、原料融液の外周部分を選択的に高温にして、原料融液の上面における径方向の温度勾配を大きくすることができる。これにより、肩部形成過程において、肩部Bの急成長を抑制することができる。
また、直胴部形成過程において、ワークコイル5に加えて、ヒータ7の出力を徐々に上げることにより、育成されて炉内Sに引き上げられたニオブ酸リチウム単結晶の部分を加熱して保温することにより、ニオブ酸リチウム単結晶の育成中の部分の外周部分と内部の部分との温度勾配や、引き上げられた単結晶の上部の部分(すなわち、冷却中の部分)と単結晶の育成中の部分との温度勾配が過度に大きくなることを抑制することができる。
以上に示したように、酸化物単結晶Mの育成とともに、ワークコイル5、ヒータ7の出力を個別に調整することにより、育成されて、引き上げられた酸化物単結晶上部の部分と育成中の部分との温度勾配が過度に大きくなることを抑制することができることから、大口径や長尺の酸化物単結晶を育成する場合においても、クラック発生等の不具合を抑制することができる。
本実施形態の酸化物単結晶育成装置100によれば、ワークコイル5とヒータ7(抵抗発熱体)とを別体で備えることにより、坩堝と坩堝上方との温度勾配をそれぞれ個別に制御することができ、ワークコイルを複数設ける場合と比べて、ワークコイル同士の間で相互干渉することがないため、酸化物単結晶の育成に最適な温度勾配の制御をより容易に行うことができる。また、ワークコイルを複数設ける場合よりも低コストにすることができる。
また、融点の高いタンタル酸リチウムの酸化物単結晶を製造する場合には、原料を高温で加熱する必要がある。カーボンヒータは高温に加熱することができるが、酸化物単結晶は酸素含有雰囲気下で製造されることから、酸素の影響を受けやすいカーボンヒータよりも、高周波誘導加熱方式の加熱手段が用いられる。そこで、本実施形態の酸化物単結晶育成装置100によれば、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムの融点程度の高温に加熱することが求められる坩堝1を、ワークコイル5を用いて加熱し、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムの融点ほどの高温が求められない坩堝1上方においては抵抗発熱体であるヒータ7を用いる。すなわち、単結晶の原料を溶融させるほど高温に加熱する必要がない坩堝1の上方の炉内Sを、高周波誘導加熱方式ほど高い出力能を有しない抵抗加熱方式の加熱手段を用いて、低コストで、酸化物単結晶の育成に最適な温度勾配を容易に維持することができる。
酸化物単結晶育成装置100は、上記のように高融点で酸素が必要な酸化物単結晶の育成に用いることができる。さらに、タンタル酸リチウムよりも融点の低い、ニオブ酸リチウムやサファイア(Al2O3)等の酸化物単結晶の育成も容易であり、酸化物ではないシリコン等の単結晶の育成も可能である。このように、酸化物単結晶育成装置100は原料を選ぶことなく、種々の単結晶の育成に用いることができる装置であり、使用頻度が高いことで、装置のライフサイクルコストを抑えることができ、コストパフォーマンスが良い装置である。
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
前述した実施形態においては、坩堝1の上方に抵抗発熱体としてヒータ7が設けられていたが、坩堝1の上方の炉内Sの温度勾配を制御するために、上下方向に複数の抵抗発熱体(ヒータ)が設けられていてもよい。上下方向に複数の抵抗発熱体を設けることにより、坩堝1の上方の炉内Sの温度勾配をより細かく制御することができる。
また、前述した実施形態においては、ヒータ7と上段耐火物8が別体で設けられていたが、ヒータと耐火物を有して構成されるヒータユニットとして設けられていてもよい。
また、前述した実施形態においては、酸化物単結晶Mの引き上げ、及び、回転を、シード棒9の引き上げ、及び、回転により行っていたが、酸化物単結晶育成装置100の本体部101の昇降、及び、回転により行ってもよい。酸化物単結晶育成装置100の本体部101の昇降、及び、回転により、酸化物単結晶Mの引き上げ、及び、回転を行う場合には、シード棒駆動手段の代わりに、例えば、坩堝軸4を昇降、及び、回転させるための坩堝軸駆動手段を設けてもよい。この場合、坩堝軸4は、坩堝台3の下側に配置されており、酸化物単結晶育成装置100の本体部101と同軸に設けられていることが好ましい。また、上述したように、酸化物単結晶Mの引き上げ機能と回転機能の両方を、坩堝軸4、シード棒9のいずれか一方に設けてもよいし、引き上げ機能と回転機能を別々に坩堝軸4、シード棒9に設けてもよい。
その他、本発明を実施するための最良の形態等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、限定の一部、もしくは全部の限定を外した記載は、本発明に含まれるものである。
100、500 酸化物単結晶育成装置
1 坩堝
2 下段耐火物
3 坩堝台
4 坩堝軸
5 ワークコイル
6 リフレクタ
7 ヒータ(抵抗発熱体)
8 上段耐火物
9 シード棒
11 底部
12 側壁部
21 底部
22 側壁部
61 開口部
81 側壁部
82 蓋部
91 保持部
101 本体部
821 開口部
A 種結晶
B 肩部
C 直胴部
M 酸化物単結晶
S 炉内
H アフタヒータ
1 坩堝
2 下段耐火物
3 坩堝台
4 坩堝軸
5 ワークコイル
6 リフレクタ
7 ヒータ(抵抗発熱体)
8 上段耐火物
9 シード棒
11 底部
12 側壁部
21 底部
22 側壁部
61 開口部
81 側壁部
82 蓋部
91 保持部
101 本体部
821 開口部
A 種結晶
B 肩部
C 直胴部
M 酸化物単結晶
S 炉内
H アフタヒータ
Claims (3)
- 坩堝と、
前記坩堝の外周を囲むワークコイルと、
前記坩堝の上方にあり、酸化物単結晶を加熱する抵抗発熱体と、
を備えることを特徴とする酸化物単結晶育成装置。 - 前記抵抗発熱体が、前記酸化物単結晶の直胴部が育成される方向と直交する方向において、前記ワークコイルよりも内側にあることを特徴とする請求項1に記載の酸化物単結晶育成装置。
- ニオブ酸リチウム、または、タンタル酸リチウムのいずれかの単結晶を育成する装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物単結晶育成装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017121140A JP2019006612A (ja) | 2017-06-21 | 2017-06-21 | 酸化物単結晶育成装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017121140A JP2019006612A (ja) | 2017-06-21 | 2017-06-21 | 酸化物単結晶育成装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2019006612A true JP2019006612A (ja) | 2019-01-17 |
Family
ID=65028423
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2017121140A Pending JP2019006612A (ja) | 2017-06-21 | 2017-06-21 | 酸化物単結晶育成装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2019006612A (ja) |
-
2017
- 2017-06-21 JP JP2017121140A patent/JP2019006612A/ja active Pending
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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RD04 | Notification of resignation of power of attorney |
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