以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
[第1の実施形態]
本発明のチョクラスキー法を用いた結晶育成装置は、大気中または不活性ガス雰囲気中で育成されるニオブ酸リチウムLiNbO3(以下LN)、タンタル酸リチウムLiTaO3(以下LT)、イットリウムアルミニウムガーネットY3Al5O12(以下YAG)などの酸化物単結晶の製造に用いる結晶育成装置である。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引上げることによって、種結晶の性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した概要図である。また、図2は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示したルツボ10及びルツボ台20の断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ10と、ルツボ台20と、リフレクタ30と、アフター・ヒーター40と、断熱材50、51と、耐火物60と、引き上げ軸70と、誘導コイル80と、電源90と、制御部100とを備える。
また、図2に示されるように、本実施形態に係る結晶育成装置は、底部補助発熱体110と、接続部材120と、駆動部130とを有する。なお、加熱手段は、ルツボ10とアフター・ヒーター40と底部補助発熱体110とを加熱する誘導コイル80である。また、電源90は、誘導コイル80に高周波電力を供給するために設けられている。
図1に示されるように、本実施形態に係る結晶育成装置において、ルツボ10はルツボ台20の上に載置される。ルツボ10の上方には、リフレクタ30を介して、アフター・ヒーター40が設置されている。ルツボ10を取り囲むように断熱材50が設置されている。更に、アフター・ヒーター40を取り囲むように断熱材51が設けられている。また、断熱材50、51の外側には耐火物60が設けられ、ルツボ10の周囲全体を覆っている。耐火物60の側面の外側には、誘導コイル80が配置されている。誘導コイル80が外側に設けられた耐火物60は、図示しない支持台の上に載置される。また、誘導コイル80の周囲を、図示しないチャンバーが覆う。なお、ルツボ10及びその周囲に設けられた断熱材50は、ホットゾーン部を構成する。また、ルツボ10の上方には、引き上げ軸70が設けられている。引き上げ軸70は、下端に種結晶保持部71を有し、引き上げ軸駆動部72により昇降可能に構成されている。更に、図示しないチャンバーの周辺の外部に、電源90及び制御部100が設けられる。また、図1において、関連構成要素として、種結晶150と、結晶原料160とが示されている。
図2に示されるように、ルツボ台20の内部の空間21には、底部補助発熱体110が水平に設置されている。また、底部補助発熱体110は複数に分割され、接続部材120及び駆動部130により水平方向に移動するが、この点の詳細については後述する。
次に、個々の構成要素について説明する。
ルツボ10は、結晶原料160を貯留保持し、単結晶170を育成するための金属製の容器である。結晶原料160は、結晶化する金属等が溶融した融液の状態で保持される。ルツボ10の材質は、結晶原料160にもよるが耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。
育成される単結晶170は、単結晶170の引き上げが進むにつれてルツボ10から遠ざかって行く為、単結晶170の温度分布が大きくなり単結晶170の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、ルツボ10の上方にアフター・ヒーター40を設置して適切な温度分布を維持する。アフター・ヒーター40の形状は、内径が得ようとする酸化物単結晶170の直径より大きく、ルツボ10の直径より小さい円筒形状である。全長は、例えば、得ようとする酸化物単結晶170の全長の半分よりも長く、二倍よりも短く設定する。ルツボ10の材質としては、例えば、白金やイリジウム等の金属が用いられる。
図1に示されるように、誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40、底部補助加熱板110を加熱するための手段であり、ルツボ10の周囲に設けられる。また、アフター・ヒーター40、底部補助加熱板110の一部を囲むように配置してもよい。誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40等を誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。この場合には、電源90は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。
また、電源90は、誘導コイル80のみならず、結晶育成装置全体に電源供給を行う。
図示しないチャンバーは、ルツボ10及び誘導コイル80の高熱を遮断するとともに、これらを収容する機能を有する。チャンバーは、所定の垂直断面で水平方向等に分割可能であり、内部のルツボ10、誘導コイル80等が露出可能な構造となっている。
また、図示しない支持台は、耐火物60全体を支持するための支持台である。
引き上げ軸70は、種結晶150を保持し、ルツボ10に保持された結晶原料(融液)160の表面に種結晶150を接触させ、回転しながら単結晶170を引き上げるための手段である。引き上げ軸70は、種結晶150を保持する種結晶保持部71を下端部に有するとともに、回転機構であるモーターを備えた引き上げ軸駆動機構72を有する。なお、モーターは、単結晶170の引き上げの際、単結晶170を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
制御部100は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
本実施形態に係る結晶育成装置は、種々の結晶原料160に適用することができ、結晶原料160の種類は問わないが、例えば、タンタル酸リチウム原料を用いてもよい。その他、種々の酸化物単結晶を育成するための結晶原料160を用いることができる。
次に、図2を用いて、本発明の特徴である底部補助発熱体110について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例の底部補助発熱体110を示した図である。
チョクラルスキー法による単結晶育成では、ルツボ10内の融解した結晶原料160に種結晶150を接触させ、上方に引き上げることで結晶体を冷却して単結晶170を成長させている。結晶長が長くなるに従い、単結晶170は冷却され、炉内上部の温度は低下していく。ルツボ10内の原料融液160も減少して発熱量も低下し、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部から原料固化が開始する。これを防止するため、ルツボ底部の下側にあるルツボ台20の一部に底部補助発熱体110を配置する。
図2に示される通り、底部補助発熱体110はルツボ台20の内部の空間21に設置されている。また、底部補助発熱板110は固定されておらず、空間21内で水平方向に移動可能に設置されている。ルツボ台20は、空間21の十分な広さを確保すべく、ルツボ10の底面よりも大きい平面形状を有し、ルツボ10よりも外側に突出する形状を有する。ルツボ台20の空間21内の中心部には、中心側枠部22が形成され、空間21の中心側の境界を定めるとともに、底部補助発熱体110の内側の移動を規制している。同様に、空間21の外周側には、外周側枠部23が形成され、空間21の外周側の境界を定めるとともに、底部補助発熱体110の外側の移動を規制している。なお、ルツボ台20が円柱形状を有する場合、中心側枠部22は例えば円柱形状に構成され、外周側枠部23は例えば円環形状に構成されてもよい。この場合、中心側枠部22を円柱部22、外周側枠部23を円環状枠部23と呼んでもよい。また、図2においては、中心側枠部22及び外周側枠部23は、上方から下方に突出して空間21を形成しているが、下方から上方に突出して空間21を形成する構成であってもよい。
底部補助発熱体110を空間21内で移動させる手段として、接続部材120と、駆動部130とを必要に応じて備えてもよい。接続部材120は、底部補助発熱体110に接続される駆動力伝達媒体であり、底部補助発熱体110の内側又は外側の少なくとも一方に接続される。接続部材120が十分な剛性を有する場合には、接続部材120は底部補助発熱体110の内側又は外側のいずれか一方に接続されていれば十分であるが、接続部材120の剛性が十分でない場合、例えば、ワイヤーのような部材が用いられている場合には、底部補助発熱体110の内側及び外側の双方に接続され、一対の接続部材120として構成されることが好ましい。ルツボ台20は、図2に示されるように、複数の耐熱材20aから構成されるので、耐熱材20a間の隙間を用いて接続部材120を通すことができ、ルツボ台20の外部にある駆動部130と連結することができる。
駆動部130は、接続部材120に力を伝達し、底部補助発熱体110を移動させることができれば、種々の駆動手段を用いてよいが、例えば、モーターを用いてもよい。モーターは、内側の接続部材120と外側の接続部材120に対応させて2個設けてもよいし、1個だけ設けてもよい。
底部補助発熱体110は、平板の円盤状又は円環状の形状である。底部補助発熱板110の外径は、ルツボ底面より小さい面積とする。例えば、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の補助発熱体とする。ルツボ10の下方に底部補助発熱体110を設置した場合、誘導コイル80の磁場は一般的に誘導コイル80に近い外形端部に集中し易い。しかし、誘導コイル80からこの位置が離れれば、当然発熱量は小さくなる。本実施形態では、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部を発熱させる必要があり、この両方を満足する最適な位置は、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の位置である。なお、底部補助発熱体110をルツボ外径より大きくすることも可能であるが、この場合、底部補助発熱体110の外形端部はルツボ外径より大きくなるため、この部分がルツボ10の底面の端部より高温になり、ルツボ10内の融液全体が高温になり、底部補助発熱体110が無い場合の従来のプロセス条件から条件を大幅に変更する必要がある。そうすると、新たなプロセス条件の確立に多大な時間を要する。このため、本実施形態では、底部補助発熱体110の外形をルツボ10の底面の外形よりも小さく構成する。これにより、従来の条件とほぼ同様の条件で結晶育成が可能である。また、後述するが、底部補助発熱体110は分割されており、移動可能に構成されている。ルツボ外形と底部補助発熱体110の外径の差が移動範囲となる。ルツボ径がφ200mmであれば、底部補助発熱体110の大きさはφ100mm〜φ160mmである。また、底部補助発熱体110の大きさは、好ましくは、φ130mmである。この場合の移動範囲は、100mm〜40mmであり、好ましくは、70mmの移動範囲である。
底部補助発熱体110の厚みは、0.5mm〜3mmの範囲内であることが好ましい。本実施形態に係る結晶育成装置の加熱方法は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して磁場を発生させ、磁場中加熱体に渦電流を発生させることで発熱体を加熱する方式である。表皮効果により発熱体の面積に大きく依存するが、発熱体の厚みの依存性は小さい。このため、底部補助発熱体110の厚みに制限はないが、取り扱いの容易性等の観点から、少なくとも0.5mm以上の厚さが必要である。また、底部補助発熱体110の材質は、結晶原料160にもよるが、耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。このため、コストを考慮すると厚みは、薄い方が低コストで底部補助発熱体110を製作することが可能である。よって、底部補助発熱体110の厚さは、3mm以下が好ましく、1mm〜2mmの範囲内にあることが更に好ましい。
底部補助発熱体110は、上述したように、本実施形態に係る結晶育成装置の加熱方法は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して加熱体に渦電流を発生させることで加熱する方法である。このため、ルツボ底部下方で高周波による磁場の最も強い位置よりも上方で、かつルツボ10の底面よりも下方で、磁場の強度も高く、ルツボ10の底面からの距離も近い加熱効率が高い位置に配置する。例えば、ルツボ底面から50mm〜80mm下方の位置に配置する。
図3は、底部補助発熱体110の一例の平面構成及び移動状態を示した図である。図3(a)は、分割した底部補助発熱体110a、110bの間隔が0mmの状態を示した図であり、図3(b)は、分割した底部補助発熱体110a、110bの間隔が40mmの状態を示した図である。図3(c)は、分割した底部補助発熱体110a、110bの間隔が95mmの状態を示した図である。
底部補助発熱体110は、複数に分割されかつ結晶育成の過程で水平方向に移動する。分割は、2分割以上であるが、ルツボ内の融液に局部的な温度変化が生じないように均等に分割する必要があり、半径方向に均等に3分割又は4分割が好ましい。5分割以上でも可能であるが可動機構が複雑になる。また、複数に分割された底部補助発熱体は、ルツボ内の融液に局部的な温度変化が生じないように放射状に移動する。図3においては、説明の容易のため、底部補助発熱体110を、分割底部補助発熱体110a、110bに2分割した例を示す。なお、便宜上、以下、分割した個々の底部補助発熱体110を、分割補助発熱体110a、110bと呼んでもよいし、単に底部補助発熱体110又は底部補助発熱体110a、110bと呼んでもよいこととする。
図3に示されるように、ルツボ台20内の空間21には、中央部に円柱部22、外周側に円環状枠部23が設けられ、分割補助発熱体110a、110bの移動範囲が規制されている。図3(a)に示されるように、分割補助発熱体110a、110b同士の間隔が0mmであり、互いに接触している場合には、分割補助発熱体110a、110bの中心側に円柱部22に係合する円弧状の切り欠きが形成され、円柱部22を囲むように係合する形状に構成されている。これにより、分割補助発熱体110a、110bの閉じた位置を一意に定めることができる。なお、分割補助発熱体110a、110bの外周側には、接続部材120の一例として外側ワイヤー121a、121bが接続されている。
一方、図3(b)に示されるように、分割補助発熱体110a、110bの外側に接続されている外側ワイヤー121a、121bを外側に引っ張ることにより、分割補助発熱体110a、110b同士の間隔を広くすることができる。一対の分割補助発熱体110a、110b同士の対向間隔が広がると、内側ワイヤー122a、122bも空間21内に出現する。
なお、ルツボ外径の内側で分割補助発熱体110a、110bが移動範囲でない部分、例えば、図3(b)の斜線の部分に新たな枠部24を設置してもよい。更に、分割補助発熱体110a、110bの半径方向に長穴の貫通孔を設け、この部分に枠部を設置してもよい。この場合、図3(b)の斜線の部分の枠部24や長穴と外周側枠部23がガイドの役割を果たし、移動が容易になり、より好ましい。また、底部補助発熱体110の中心部を貫通孔として、その部分に枠部を設置してもよい。
図3(c)に示されるように、分割補助発熱体110a、110b同士を最大限に開くと、分割補助発熱体110a、110bの外側が外周側枠部23と接触し、ここで外側への移動が停止する。外側接続部材121a、121bは空間21内からは消滅して見えなくなり、内側ワイヤー122a、122bが露出している。この時の分割補助発熱体110a、110b同士の間隔は95mmであるが、これは一例であり、必ずしも95mmとなる訳ではなく、最大開き間隔は自由に設定することが可能である。次に、このような動作を行う理由について説明する。
上述したように、結晶長が長くなるに従い、結晶体は冷却され炉内上部の温度は低下していく。ルツボ10内の原料融液160も減少し発熱量も低下し、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部から原料固化が始まる。これを防止するため、ルツボ底部の下側にあるルツボ台20の一部に底部補助発熱体110を配置する。特に単結晶170の育成が進み、育成終盤にルツボ底部の中央部を保温することが重要である。単結晶育成初期には、底部補助発熱体110を設ける必要性は低い。一般に、補助発熱体はルツボ台20の一部に固定し設置しているため、育成の初期から終盤まで加熱している。そのため、本来的には補助発熱体の設置の必要が無い育成の初期では、補助発熱体からの発熱のため、補助発熱体を設置しない場合に比べ、育成初期の一部条件を変更する必要があった。
そこで、本実施形態では、底部補助発熱体110を分割している。そして、育成初期には、分割補助発熱体110a、110bを均等に離間してルルツボ外形付近に広げて配置し、育成終盤では、分割補助発熱体110a、110bを中心部に集め、個々の分割補助発熱体110a、110bが接触し、元々の底部補助発熱体110の形状となるように配置する。育成初期は、分割補助発熱体110a、110bが誘導コイル80に近づくため通常はその部分が高温に発熱するが、本実施形態では、分割補助発熱体110a、110bを均等に離間して配置するため、円周方向で分離されて発熱が部分的となり、円周方向で繋がった場合に比べ発熱が極端に少なくなる。このため、底部補助発熱体110が無い場合とほぼ同じ育成条件で育成することができる。
このように、分割補助発熱体110a、110bの移動は、図3(c)が育成初期であり、図3(b)を経て育成終期に図3(a)のようになる。よって、結晶育成中の移動順序としては、図3(a)〜(c)の順序と逆の順序、つまり図3(c)〜(a)の順序で移動することになる。
図4は、底部補助発熱体の発熱密度分布をシミュレーションした結果である。上述したように本発明の底部補助発熱体110は、複数に分割されかつ結晶育成の過程により移動する。その時の個々の底部補助発熱体110a、110bの発熱密度分布を示した結果である。図4(a)は底部補助発熱体を2分割して間隔を40mmとした時の状態を示し、図4(b)は間隔を0mmとした時の状態を示している。
なお、シミュレーションの条件については、ルツボ径はφ225mm、ルツボ10底部より60mm下側に外径φ130mm、内径φ25mm、厚み0.5mmのドーナツ形状を2分割した底部補助発熱体110を設置した。また、ルツボ台はルツボ径より大きくφ245mmとした。この部分に2分割した底部補助発熱体110を設置した。
この底部補助発熱体110には、ジルコニウムのワイヤーを個々に中心部側及び外径側の二カ所に取付け、このワイヤーを炉外に取付けたモーターで巻き上げることで底部補助発熱体110を移動させた。底部補助発熱体110の移動範囲は95mmとした。
図4(a)から判るように、底部補助発熱体110が離間されている場合、分割された個々の底部補助発熱体110a、110bの外形部に沿って電流が流れる。2分割の場合、内径側の一部が局所的に発熱するものの(高温部A)、全体的に発熱密度は低い。
これに対し、図4(b)に示されるように、底部補助発熱体110が分離していない場合は、底部補助発熱体110は円周方向で接続され、底部補助発熱体110の外周部に発熱が集中し、外周部周辺部の発熱密度が高くなる(高温部A)。それに伴い、内周部は低いものの補助発熱体全体では、分割して離間して配置した場合に比べて、格段に発熱密度が高くなることが判る。
このように、発熱密度を高めたい場合には分割した底部補助発熱体110a、110b同士を接触させ、発熱密度を低くしたい場合には、底部補助発熱体110a、110b同士を分離させることにより、発熱密度の制御が可能となることが分かる。
図5は底部補助発熱体のルツボ付近の温度分布をシミュレーションした結果である。
図5(a)は底部補助発熱110を配置しなかった時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図5(b)は底部補助発熱体110の間隔を0mmに配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図5(c)は底部補助発熱体110の間隔を40mmに配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図5(d)は底部補助発熱体110の間隔を95mmに配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。なお、シミュレーションの条件については、図4と同様である。温度領域は、高い順にA〜Jで分類している。
図5(b)の底部補助発熱体110の間隔を0mmに配置した時の炉内の温度分布は、図5(a)の底部補助発熱体110が無い時に比べ底部補助発熱体110の部分が高温になりルツボ底面全体を均等に暖めていることが判る。即ち、ルツボ10の底面の下方において、高温部A〜Eの領域が拡大していることが示されている。
これに対して、図5(c)及び図5(d)は、底面補助発熱体110が中心から外径外側へ位置が移動して底部補助発熱体110が分割され個々に離間した状態である。図5(b)で見られたような底部補助発熱体110での発熱は小さくなっており、図5(a)の底部補助発熱体110が無い温度分布に近い状態であることが判る。つまり、底部補助発熱体110が分離することで、ルツボ底面を加熱するには至っていないことが分かる。
図6は、ルツボ内の融液の温度分布で、ルツボ底面部の温度分布をルツボ底面中央部からルツボ底面外径方向にシミュレーションした時のグラフである。なお、シミュレーションの条件については、図4と同様である。ルツボ底部での温度は、底部補助発熱体110なしでは、1642℃であり、底部補助発熱体110の間隔を0mmに配置した時では、1650℃であり改善はされている(曲線K)。本発明で想定している融液はタンタル酸リチウム(LT)であり、融点は1650℃であり底部補助発熱体110の間隔を0mmに配置することで、原料固化を防止できる。また、図6のグラフから判るように、ルツボ底部中央部からルツボ底面外径方向への温度分布は間隔0mm(曲線K)、40mm(曲線L)、95mm(曲線M)と外径方向に向かうに従いほぼ重なるように推移している。これは、底部補助発熱体110をルツボ底面外径方向へ移動させてもルツボ底面部の温度分布の変化は少なく、大幅な育成条件の変更なく対応できることが判る。つまり、プロセス条件を大きく変更させる必要が無いので、プロセス実施上好ましい結果と言える。
次に、底部補助発熱体の移動方法について、再び図2を参照してより詳細に説明する。
図2に示すように、底部補助発熱体110は、ルツボ10の下側にあるルツボ台20の一部(内部)に配置する。ルツボ台20は複数の耐熱材20aで構成されている。底部補助発熱体110は、複数の耐熱材20aで構成された間に設置する。このため底部補助発熱体110aが所定の高さになるように耐熱材20aの厚さを調整する。また、底部補助発熱体110を水平方向に移動させるため、移動範囲において移動できるよう空間21を設ける。空間21の高さに限定はなく、底部補助発熱体110が移動できればよい。例えば底部補助発熱体110の厚み+1mmに設定してもよい。空間部21を支えるため、外周部に外周側枠部23を設けてもよい。底部補助発熱体110の移動範囲は最大でルツボ外形であり、ルツボ台20をルツボ外径より大きく設定し、その部分を外周側枠部23としてもよい。
なお、底部補助発熱体110の分割した個々の接触部は、上方に曲げ加工を行ってもよい。例えば1mm〜2mm程度曲げ加工を行う。間隔を0mmにした時、板厚が薄いと底部補助発熱体同士が重なり合い所定の形状にならない場合がある。個々の接触部に曲げ加工を入れることで重なりを防止することができる。
底部補助発熱体の移動方法は、特に限定はない。例えば、上述のように、ジルコニウムのワイヤー等を個々の底部補助発熱体110の中心部側及び外径側の取付け、このワイヤーを炉外に取付けたモーター等で巻き上げることで底部補助発熱体110を移動させてもよい。ネジとロッドを組み合わせた機構でもよい。
分割して底部補助発熱体110の配置は、育成初期は、底部補助発熱体110a、110bをルツボ外径付近に個々に広げた状態に設定する。その後、徐々に底部補助発熱体110a、110bをルツボ中心部に集め、直胴部を育成するまでに個々が接触し円環状になるように設定する。移動の速度は育成条件等を考慮し適宜設定する。
このように、第1の実施形態に係る結晶育成装置によれば、底部補助発熱体110を分割し、各々が移動可能な構成とすることにより、発熱密度の制御が可能となり、発熱密度を高めたいときにのみ発熱密度を高めることができ、単結晶170の長尺化に対応することができる。
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した図である。第2の実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ台25及び底部補助発熱体115の形状のみが異なっており、他の構成要素は第1の実施形態と同様の構成を有する。よって、ルツボ台25及び底部補助発熱体115の形状のみについて説明する。
第2の実施形態に係る結晶育成装置のルツボ台25は、中央部に貫通穴27が設けられている。それに伴い、内側枠部28が、貫通穴27の周囲を囲むような円環状の形成を有する。
このように、ルツボ台20の中央部に貫通穴27を設け、その周囲に内側枠部28を設けるとともに、空間26内に底部補助発熱体115を設けるようにしてもよい。底部補助発熱体115の形状は、第1の実施形態と同様に円環形状であってよいが、中央部の切り欠きを大きくし、最も内側に移動したときに、分割された底部補助発熱体115同士が接触し、間隔が0mmとなるように形状を変更すればよい。基本的な構成は第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態のような構成とすることにより、内側の接続部材120を通し易くすることができ、移動機構の構成を容易にすることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。