以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
本発明のチョクラスキー法を用いた結晶育成装置は、大気中または不活性ガス雰囲気中で育成されるニオブ酸リチウムLiNbO3(以下LN)、タンタル酸リチウムLiTaO3(以下LT)、イットリウムアルミニウムガーネットY3Al5O12(以下YAG)などの酸化物単結晶の製造に用いる結晶育成装置である。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引上げることによって、種結晶の性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した概要図である。図1に示されるように、第1の実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ10と、ルツボ台20と、リフレクタ30と、アフター・ヒーター40と、断熱材50、51と、耐火物60と、引き上げ軸70と、誘導コイル80と、底部補助発熱体90と、電源100と、制御部110とを備える。なお、加熱手段は、ルツボ10と、アフター・ヒーター40と、底部補助発熱体90と、これらを加熱する誘導コイル80である。また、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給するために設けられている。
本実施形態に係る結晶育成装置において、ルツボ10はルツボ台20の上面21に載置される。ルツボ10の上方には、リフレクタ30を介して、アフター・ヒーター40が設置されている。ルツボ10を取り囲むように断熱材50が設置されている。更に、アフター・ヒーター40を取り囲むように断熱材51が設けられている。また、断熱材50、51の外側には耐火物60が設けられ、ルツボ10の周囲全体を覆っている。耐火物60の側面の外側には、誘導コイル80が配置されている。
ルツボ台20の一部には、底部補助発熱体90が設置されている。また、ルツボ台20の一部には、底部補助発熱体90からルツボ底部に繋がる貫通孔22が設けられている。即ち、ルツボ台20の上面21と底部補助発熱体90との間を貫通する貫通孔22が設けられている。詳細は後述するが、かかる貫通孔22を設けることにより、底部補助発熱体90で発生する熱により直接的にルツボ10の底面を加熱することができる。
なお、誘導コイル80が外側に設けられた耐火物60は、図示しない支持台の上に載置される。また、誘導コイル80の周囲を、図示しないチャンバーが覆う。
ルツボ10及びその周囲に設けられた断熱材50は、ホットゾーン部を構成する。また、ルツボ10の上方には、引き上げ軸70が設けられている。引き上げ軸70は、下端に種結晶保持部71を有し、引き上げ軸駆動部72により昇降可能に構成されている。更に、上述の図示しないチャンバーの周辺の外部に、電源100及び制御手段110が設けられる。
また、図1において、関連構成要素として、種結晶150と、結晶原料160と、引き上げられた単結晶(結晶体とも呼ぶ)170とが示されている。
次に、個々の構成要素について説明する。
ルツボ10は、結晶原料160を貯留保持し、単結晶170を育成するための容器である。結晶原料160は、結晶化する金属等が溶融した融液の状態で保持される。ルツボの材質は、結晶原料160にもよるが耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。
育成される単結晶170は、単結晶170の引き上げが進むにつれてルツボ10から遠ざかって行く為、単結晶170の温度分布が大きくなり単結晶170の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、ルツボ10の上方にアフター・ヒーター40を設置して適切な温度分布を維持する。アフター・ヒーター40の形状は、内径が得ようとする酸化物単結晶170の直径より大きく、ルツボ10の直径より小さい円筒形状である。全長は、例えば、得ようとする酸化物単結晶170の全長の半分よりも長く、二倍よりも短く設定する。ルツボ10の材質としては、例えば、イリジウムや白金等の金属が用いられる。
底部補助発熱体90はルツボ台20内に、ルツボ台20の一部をなすように設置される。また、ルツボ台20の底部発熱体90とルツボ底部の間の上部ルツボ台23の一部には、底部補助発熱体90からルツボ底部に繋がる貫通孔22が設けられている。なお、底部補助発熱体90及びルツボ台20の詳細については、後述する。
誘導コイル80は、ルツボ10、アフター・ヒーター40及び底部補助発熱体90を加熱するための手段であり、ルツボ10、アフター・ヒーター40及び底部補助発熱体90を囲むように配置される。誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40等を誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。この場合には、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。
また、電源100は、誘導コイル80のみならず、結晶育成装置全体に電源供給を行う。
図示しないチャンバーは、ルツボ10及び誘導コイル80の高熱を遮断するとともに、これらを収容する機能を有する。
また、図示しない支持台は、耐火物60全体を支持するための支持台である。
引き上げ軸70は、種結晶150を保持し、ルツボ10に保持された結晶原料(融液)160の表面に種結晶150を接触させ、回転しながら単結晶170を引き上げるための手段である。引き上げ軸70は、種結晶150を保持する種結晶保持部71を下端部に有するとともに、回転機構であるモーターを備えた引き上げ軸駆動機構72を有する。なお、モーターは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
制御部110は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御部110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
本実施形態に係る結晶育成装置は、種々の結晶原料160に適用することができ、結晶原料160の種類は問わないが、例えば、タンタル酸リチウム原料を用いてもよい。その他、種々の酸化物単結晶を育成するための結晶原料160を用いることができる。
次に、図2を用いて、本発明の特徴である底部補助加熱板90とルツボ台20について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例の底部補助発熱体90及びルツボ台20を示した断面図である。
図2に示される通り、本発明の実施形態に係る底部補助発熱体90はルツボ台20内に、ルツボ台20の一部を構成するように設置されている。なお、ルツボ台20の内、底部補助発熱体90とルツボ底部(ルツボ台20の上面21)との間の部分を上部ルツボ台23とする。底部補助発熱体90とルツボ底部(ルツボ台20の上面21)との間の上部ルツボ台23の一部には、底部補助発熱体90からルツボ底部に繋がる複数の貫通孔22が設けられている。
まず、底部補助発熱体90についてより詳細に説明する。
チョクラルスキー法による単結晶育成では、ルツボ10内の融解した結晶原料160に種結晶150を接触させ、上方に引き上げることで結晶体170を冷却して結晶を成長させている。結晶長が長くなるに従い、結晶体170は冷却され、炉内上部の温度は低下していく。ルツボ10内の原料融液160も減少して発熱量も低下し、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部から原料固化が開始する。これを防止するため、本実施形態に係る結晶育成装置では、ルツボ底部の下側にあるルツボ台20内に、ルツボ台20の一部をなすように底部補助発熱体90を配置する。
図2に示されるように、底部補助発熱体90は、ルツボ10の下側にあるルツボ台20の一部をなすように、ルツボ台20の所定高さ位置に配置される。ルツボ台20は複数の耐熱材26から構成されている。底部補助発熱体90は、積載された複数の耐熱材26同士の間に設置する。つまり、円筒状のブロックをなすように構成された複数の耐熱材26が積載されてルツボ台20が構成されるが、これらの複数の耐熱材26の間の所定箇所に挿入されるようにして底部補助発熱体90が配置される。このため底部補助発熱体90が所定の高さになるように耐熱材26の厚さを調整することが好ましい。底部補助発熱体90は、円形又は円盤状の平板形状を有する。底部補助発熱体90の外径は、ルツボ底面より大きい面積であってもよいし、小さい面積であってもよい。図2には、底部補助発熱体90が、ルツボ10の底面よりも小さい面積を有する例が示されている。
底部補助発熱体90の外径は、ルツボ底面より小さい面積が好ましい。例えば、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の底部補助発熱体90としてもよい。ルツボ10の下方に底部補助発熱体90を設置した場合、誘導コイル80の磁場は、一般的に誘導コイル80に近い外形端部に集中し易い。しかし、誘導コイル80からこの位置が離れれば、当然発熱量は小さくなる。本実施形態では、誘導コイル80から一番離れているルツボ底部の中央部を発熱させる必要があり、この両方を満足する最適な位置は、ルツボ外径よりも40mm〜100mm小さい外径の位置である。なお、底部補助発熱体90をルツボ外形より大きくすることも可能であるが、この場合、底部補助発熱体90の外形端部はルツボ外径より大きくなるため、この部分がルツボ10の底面の端部より高温になり、ルツボ10内の融液全体が高温になり、底部補助発熱体90が無い場合の従来のプロセス条件から条件を大幅に変更する必要がある。そうすると、新たなプロセス条件の確立に多大な時間を要する。このため、本発明では、底部補助発熱体90の外形をルツボ10の底面の外形よりも小さく構成する。これにより、従来の条件とほぼ同様の条件で結晶育成が可能となる。例えば、ルツボ径がφ200mmであれば、底部補助発熱体90の大きさはφ100mm〜φ160mmが好ましく、例えば、φ130mmに設定されてもよい。
底部補助発熱体90の厚みは、0.5mm〜3mmの範囲内であることが好ましい。本実施形態に係る結晶育成装置の加熱方法は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して磁場を発生させ、磁場中の加熱体に渦電流を発生させることで加熱体を加熱する方式である。表皮効果により加熱体の面積に大きく依存するが、加熱体の厚みの依存性は小さい。このため、加熱体である底部補助発熱体90の厚みに制限はないが、取り扱いの容易性等の観点から、少なくとも0.5mm以上の厚さが必要である。また、底部補助発熱体90の材質は、結晶原料160にもよるが、耐熱性のある白金やイリジウム等で作製される。このため、コストを考慮すると厚みは、薄い方が低コストで底部補助発熱体90を製作することが可能である。よって、底部補助発熱体90の厚さは、3mm以下が好ましく、1mm〜2mmの範囲内にあることが更に好ましい。
底部補助発熱体90は、ルツボ10の底面の下方において、誘導コイル80により生成される磁場の強度が最も強い高さ位置よりも上方に配置する。上述したように、本実施形態に係る結晶育成装置は、誘導コイル80を使用し、誘導コイル80に高周波電流を流して発熱体である底部補助発熱体90に渦電流を発生させることで加熱している。かかる渦電流は、誘導コイル80により生成される磁場の最も高い領域に発熱体を配置すると最も高くなり、加熱温度も最も高くなる。しかしながら、目的とする最終的な加熱対象はルツボ10の底面の中央付近であり、この位置から底部補助発熱体90が離れると、底部補助発熱体90が高温になっても、目的とするルツボ10の底面の中央付近を効率的に加熱できない場合がある。よって、底部補助発熱体90は、誘導コイル80の磁場の強度と、ルツボ10の底面との距離とのバランスを考慮して設定することが好ましい。
本発明では、ルツボ底部下方で高周波による磁場の最も強い位置よりも上方で、かつルツボ10の底面よりも下方で、磁場の強度も高く、ルツボ10の底面からの距離も近い加熱効率が高い位置に底部補助発熱体90を配置することが好ましい。例えば、ルツボ底面から50mm〜80mm下方の位置に配置してもよい。
図2に示されるように、ルツボ台20は、上部ルツボ台23と、下部ルツボ台24とを有する。即ち、底部補助発熱体90とルツボ底部との間には上部ルツボ台23が設置される。この上部ルツボ台23の一部には、底部補助発熱体90からルツボ底部(ルツボ台20の上面21)に繋がる複数の貫通孔22が設けられている。この貫通孔22は、底部補助発熱体90とルツボ底部とを空間で繋いでいる。一般的には、底部補助発熱体90で発生した熱は、熱伝導と輻射によりルツボ底部に伝わる。貫通孔22が無い場合、ルツボ台20の材質の熱伝導率に従い底部補助発熱体90の発熱がルツボ底部に伝わる。貫通孔22を設けた場合、この貫通孔22の部分は空間であり空間内を輻射により熱が移動し、よりルツボ底部を加熱することが可能となる。底部補助発熱体90の発熱は、エッジ効果により底部補助発熱体90の外径付近に集中して発熱する。そこで、貫通孔22は、この底部補助発熱体90の外径に沿って外径部周辺に設けるのが効果的である。少なくとも、底部補助発熱体90の外径部の一部に貫通孔22が重なることが熱効率の観点より好ましい。具体的には、底部補助発熱体90の外径〜外径より20mm小さい径の範囲の円周上に貫通孔22の中心を形成するように配置することが好ましい。
図3は、第1の実施形態に係る結晶育成装置の一例のルツボ台20を示した図である。以下、ルツボ台20について、図3を用いてより詳細に説明する。
図3(a)は、ルツボ台20の斜視図である。図3(a)に示されるように、ルツボ台20の上面21には、複数の貫通孔22が形成されている。また、ルツボ台20は、上部ルツボ台23と下部ルツボ台24とを有し、上部ルツボ台23と下部ルツボ台24との間に底部補助発熱体90が設置されている。即ち、下部ルツボ台24上に底部補助発熱体90が設けられ、底部補助発熱体90上に上部ルツボ台23が設けられている。上部ルツボ台23は、ルツボ台20の底部補助発熱体90より上方から上面21までを構成し、下部ルツボ台24は、底部補助発熱体90より下方から底面までを構成する。また、ルツボ台20の中心には、中心貫通孔25が形成されている。
図3(b)は、ルツボ台20の斜視断面図である。図3(b)に示されるように、貫通孔22は、底部補助発熱体90より上方の上部ルツボ台23を貫通するように設けられる。これにより、底部補助発熱体90で発生する熱を、貫通孔22を介して直接的にルツボ10の底面に伝達させることができ、ルツボ10の底面の加熱効率を高めることができる。即ち、貫通孔22が無い場合、ルツボ台20の材質の熱伝導率に従い底部補助発熱体90の発熱がルツボ底部に伝わる。貫通孔22を設けた場合、この貫通孔22の部分は空間であり空間内を輻射により熱が移動し、よりルツボ底部を加熱することが可能となる。よって、ルツボ台20に部分的に貫通孔22を設けることにより、底部補助発熱体90とルツボ10の底面との間に伝達効率の高い伝熱経路を設けることができ、底部補助発熱体90によるルツボ10の底部の加熱効率を高めることができる。
一方、下部ルツボ台24には、貫通孔22は設けていない。下部ルツボ台20は、底部補助発熱体90及び上部ルツボ台23を安定して支持するため、不要な貫通孔22は設けず、強度を高める構造とすることが好ましいからである。
なお、中心貫通孔25はルツボ台20全体を貫通している。中心の位置決め、固定等が必要な場合には、このように、必要に応じて中心貫通孔25を設けるようにしてもよい。
また、上部ルツボ台23及び下部ルツボ台24は、全体が1つの耐火物として構成されてもよいし、複数枚の耐熱材26が積層されて構成されてもよい。図3(a)、(b)において、下部ルツボ台24は2枚の耐熱材26が積層されて構成され、上部ルツボ台23は3枚の耐火物26が積層されて構成された例が示されている。このように、耐熱材26を複数枚積み重ねて上部ルツボ台23及び下部ルツボ台24を形成し、更にルツボ台20全体を形成する構造としてもよい。
図3(c)は、ルツボ台20の上面図である。図3に示されるように、貫通孔22を上部ルツボ台23に設けることにより、上面21から底部補助発熱体90が露出する部分が形成され、ルツボ10の底面を直接的に加熱することが可能となる。
貫通孔22の形状、大きさ等に特に限定はない。但し、ルツボ底部を均等に加熱することが可能な構成であることが望ましい。例えば、貫通孔22を、ルツボ中心軸を中心に放射状に均等に配置することが好ましい。形状は、例えば、図3(a)〜(c)に示されるように、上辺、下辺が円弧状の略台形が好ましい。第2の実施形態において後述するが、貫通孔22の開口を、ルツボ台20の一部を回転させて調整する時、上述のような略台形の形状であると効率的である。また、加工の簡便性より、貫通孔22の形状は円形でもよい。大きさは、輻射等を考慮すると、20mm〜40mmが好ましい。貫通孔22の数は、大きさにもよるが8個前後が、効率が良い。例えば、ルツボ径がφ225mm、底部補助発熱体の外径がφ130mmであれば、外径がφ150mm、内径がφ80mm、ルツボ中心軸を中心とする角度が20°で囲まれた上辺、下辺が円弧状の略台形の貫通孔を均等に放射状に8ヶ所配置する。
また、図3(a)〜(c)に示されるように、複数の貫通孔22はルツボ中心軸を中心に放射状に均等に円形をなすように配置されている。このように、複数の貫通孔22を円状に配置してもよい。ルツボ10の中心からの距離が等距離となるので、全体として均一にルツボ10の底面を加熱することが可能となる。
しかしながら、上述のように、複数の貫通孔22の形状は、用途に応じて種々の形状及び配置とすることができ、例えば、中心に頂角が向くように配置された二等辺三角形等の三角形でもよいし、上辺と下辺が直線的な台形であってもよい。
また、図3(a)〜(c)においては、貫通孔22が複数設けられている例が示されているが、1個で十分な場合には、1個の貫通孔22のみを設ける構成としてもよい。この場合、例えば、円環状の貫通孔22を設ける構成としてもよい。
このように、第1の実施形態に係る結晶育成装置によれば、ルツボ台20に底部補助発熱体90を設け、底部補助発熱体90の上方にルツボ台20の上面に達する貫通孔22を設けることにより、ルツボ10の底面の加熱効率を高め、高品質の単結晶170を育成することができる。
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置のルツボ台200の一例を示した斜視断面図である。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
図4(a)は、ルツボ台200の貫通孔220が形成された状態を示した図である。図4(a)に示されるように、第2の実施形態に係る結晶育成装置のルツボ台200は、下部ルツボ台24と、上部ルツボ台230を備える点では、第1の実施形態に係る結晶育成装置のルツボ台20と共通するが、上部ルツボ台230が、フレーム部231と可動部232とを有する点で、第1の実施形態におけるルツボ台20と異なっている。このように、第2の実施形態におけるルツボ台200は、上部ルツボ台230がフレーム部231と可動部232とに分割された構成を有する。なお、フレーム部231の上面210は、ルツボ台200の上面を構成する。
フレーム部231は、ルツボ台200の中心側と外周側との一部を連結しΠ型(または門型)に構成され、中心側と外周側との間に、円環状の空間部231aを有する。即ち、ルツボ台200の半径方向において、中心側と外周側との上部を連結して桟橋のようなΠ型の形状を有するとともに、そのΠ型の形状が周方向に沿って延び、中心側と外周側との間の領域に長方形の断面を有するドーナツ状の空間部231aが形成されている。そして、その空間部231a内に、長方形の断面を有するドーナツ状又はリング状の可動部232が設けられている。可動部232が空間部231a内を移動できるように、可動部232の外表面と空間部231aの内表面との間には、僅かな隙間(クリアランス)が設けられている。
図4(a)に示されるように、フレーム部231及び可動部232に複数の貫通孔221、222が各々設けられ、フレーム部231に設けられた複数の貫通孔221と可動部232に設けられた複数の貫通孔222とが重なり合って連通することにより、ルツボ台200の上面210と底部補助発熱体90とが連通する貫通孔220が形成される。即ち、図4(a)に示す状態では、第1の実施形態に係る結晶育成装置と同様に、底部補助発熱体90で発生した熱を、貫通孔220を介して直接的にルツボ10の底面に伝達させることができ、加熱効率を高めることができる。
図4(b)は、可動部232が移動し、上部ルツボ台230全体を貫通する貫通孔220が形成されていない状態を示した図である。フレーム部231は固定されているので、貫通孔221は固定されているが、可動部232が回転して移動すると、可動部232の貫通孔222の位置がフレーム部231の貫通孔221と重ならない位置となり、可動部232が貫通孔221と底部補助発熱体90との連通を遮断するような構成となる。つまり、可動部232をルツボ10(及びルツボ台200)の垂直方向の軸を中心に回転させて、フレーム部231の貫通孔221が、可動部232の貫通孔222以外の領域と重なり合い、底部補助発熱体90からルツボ底部に繋がる複数の貫通孔220が塞がれる。このように、上部ルツボ台230は上下方向において複数に分割され、かつ、個々に貫通孔221、222があり、分割された一方である可動部232を回転させるこので、貫通孔221、222(即ち、貫通孔220)の開口率を調整できる機構を有する。この上部ルツボ台230の貫通孔221、222の開口率を調整することで、ルツボ底部の加熱量を調整することが可能となる。この貫通孔221、222の開口率が大きいと、底部補助発熱体90の発熱を効率的にルツボ底部に伝熱することができる。かかる機構を用いて、例えば、育成初期は補助発熱体の貫通孔の開口率を「0」にし、底部補助発熱体90の発熱を極力ルツボ底部に伝熱させず、底部補助発熱体90が無い従来の育成条件で育成を行えるようにする。その後、直胴部育成中は、可動部232を回転させて底部補助発熱体90と連通する貫通孔221、222の開口率を大きくする。これによりルツボ底部中央付近を加熱し、育成終盤でのルツボ底部での融液の固化を防ぐことができる。
図5は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例の底部補助発熱体90及びルツボ台200を示した図である。図5(a)は、貫通孔221と貫通孔222が連通して貫通孔200が形成された状態を示した図であり、図5(b)は、貫通孔221と貫通孔222が連通せず、貫通孔200が形成されない状態を示した図である。
図5(a)、(b)に示されるように、底部補助発熱体90とルツボ底部との間の上部ルツボ台230は、上下に分割されている。分割は複数でも良いが、構造及び設置が簡単であることより2分割が好ましい。また、分割した一方に相当する可動部232を回転する構造を有している。図5(a)、(b)では、分割した下側の上部ルツボ台230に相当する可動部232が回転する構造である。上部ルツボ台230の分割した上側に相当するフレーム部231は、中心部において、下部ルツボ台24及び底部補助発熱体90と接触している。可動部232は、フレーム部231と底部補助発熱体90で囲まれる空間部231a内に、ルツボ台200の中心部を中心に回転できるように配置される。また、貫通孔222を形成せず、かつ、回転の支障にならない部分に、補強用の枠部を設置してもよい。可動部232の大きさは、空間部231a内に収まり、回転が可能で、かつ貫通孔222を形成できれば特に制限はない。貫通孔221、222は、下側の可動部232が回転することで開口率を調整できるように配置する。貫通孔221、222の配置に特に制限はない。例えば、同一の円周上に、貫通孔221、222の大きさの2倍以上の間隔で等間隔に配置してもよい。同一の円周上に配置しているため、円の中心を軸に貫通孔221、222の距離分を回転することで上下のフレーム部231と可動部232の貫通孔221、222の開口率を調整することができる。
例えば、ルツボ径がφ225mm、底部補助発熱体90の外径がφ130mmであれば、分割した上部ルツボ台230の上側に相当するフレーム部231は外径がφ245mmm、外周部の幅15mmの枠部、外径がφ50mmの中心部とする。また例えば、フレーム部231には、外径がφ150mm、内径がφ80mm、ルツボ中心軸を中心とする角度が20°で囲まれた上辺、下辺が円弧状の略台形の貫通孔221を45°間隔で放射状に8ヶ所、鉛直方向に形成する。そして、例えば、分割した上部ルツボ台230の下側に相当する可動部232は外径がφ213mm、内径が52mmとし、外径がφ150mm、内径がφ80mm、ルツボ中心軸を中心とする角度が20°で囲まれた上辺、下辺が円弧状の略台形の貫通孔を45°間隔で放射状に8ヶ所、鉛直方向に形成する。このような構成の場合、可動部232を回転することで、貫通孔221、222の開口率を調整することができる。上部ルツボ台230のフレーム部231と可動部232の貫通孔221、222同士が重なった状態から22.5°回転させると、貫通孔221を塞ぐことができる。
即ち、図5(a)の貫通孔221、222同士が重なり、貫通孔220が形成された状態から、可動部232を回転させると、図5(b)に示されるような、貫通孔221が可動部232により塞がれた状態とすることができる。そして、貫通孔221、222同士が一部のみ重なるような状態とし、重なる領域を調整することにより、貫通孔221、222の開口率を調整することができる。
図6は、可動部232の回転機構の一例を示した図である。可動部232の回転方法については、特に限定はない。例えば、図6に示されるように、回転軸を中心に、可動部232の外径側の一部にジルコニウム等の強度の高い材料からなるワイヤー120を取付け、このワイヤー120を回転方向に炉外に取付けたモーター130で巻き上げることにより、可動部232を移動させてもよい。このように、ワイヤー120は可動手段として機能する。なお、図6においては、可動部232を左右両側に移動可能なように、ワイヤー120が2箇所から外部に引き出され、2個のモーター130に各々接続されている。例えば、このように双方向に回転移動(首振り移動)が可能な構成としてもよいし、1方向のみの回転であっても、貫通孔221、222の開口率は調整できるので、1方向のみの回転が可能な構成であってもよい。
その他、例えば、ネジとロッドを組み合わせて機構でもよい。可動部232を、所定角度移動させ、図5(a)と図5(b)の状態を作り出すことができれば、可動部232を移動させる可動手段及び駆動機構は用途に応じて種々の手段及び方法を採用することができる。なお、可動部232の回転の速度は育成条件等を考慮し適宜設定することができる。
また、図4、5においては、貫通孔221、222が垂直に設けられている例が示されているが、よりルツボ10の底面の中央部分を効率的に加熱するべく、貫通孔221、222が外側から中央に向かって延びるような、傾斜した貫通孔221、222を設けてもよい。熱の供給方向を規定し、ルツボ10の底面の中央部を重点的に加熱することにより、効率的な加熱が可能になる。なお、このような傾斜させた貫通孔221、222を設ける構成は、第1の実施形態に係る結晶育成装置にも適用することができ、図1乃至図3に示したルツボ台20において、傾斜させた貫通孔22を設けるように構成してもよい。また、貫通孔22、221、222の傾斜方向は、外側から中央に向かって上昇する傾斜に限定される訳ではなく、用途に応じて、貫通孔22、221、222の構成は、種々の構成とすることができる。
図7は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例の育成終盤のルツボ付近の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(a)は、上部ルツボ台230に貫通孔221、222を設けない場合の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(b)は、上部ルツボ台230に鉛直方向に上下を貫通する貫通孔220を配置した時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。図7(c)は、上部ルツボ台230の可動部232を回転させて貫通孔221の開口を塞いだ時の炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。
図8は、図7(a)のシミュレーションモデルとなる結晶育成装置の構成を示した図である。図8に示される通り、貫通孔221を有しないフレーム部233と、貫通孔222を有しない可動部234から構成された上部ルツボ台235を有する構成である。
図7(b)、(c)のシミュレーションモデルは、図5(a)、(b)の構成の結晶育成装置がそれぞれ該当する。
また、図7におけるシミュレーションは、ルツボ径はφ225mm、ルツボ10底部より60mm下側に外径φ130mm、内径φ25mm、厚み0.5mmの底部補助発熱体90を設置したモデルで行った。また、ルツボ台はルツボ径より大きくφ245mmとした。また、図7(b)、(c)では、上部ルツボ台230のφ130mmの外径上に、外径がφ150mm、内径がφ80mm、ルツボ中心軸を中心とする角度が20°で囲まれた上辺、下辺が円弧状の略台形の貫通孔を鉛直方向に均等に放射状に8ヶ所配置した。
また、図7において、高温領域を、温度の高い順に領域A〜Eの5段階で示し、低温領域をF、G、Hの3段階で示した。
図7から判るように、図7(a)の貫通孔221、222が無い場合に比べ、図7(b)では、貫通孔221、222があるルツボ底面が発熱していることが判る。即ち、図7(a)と図7(b)とを比較すると、図7(b)のルツボ10の底面の下方では、貫通孔220が設けられた領域において、高温領域Cが拡大し、ルツボ10の底面が高温となっていることが判る。また、これに伴い、図7(b)に示されるように、貫通孔220に挟まれたルツボ底部の中心部も貫通孔無い場合に比べ発熱していることが判る。即ち、貫通孔220の間のルツボ10の底面の中心部において、高温領域Aが下方に拡大していることが示されている。
また、図7(c)に示されるように、可動部232を回転させ、貫通孔221を塞いだ状態時は、図7(a)の貫通孔221、222が無い時の発熱と比較すると発熱は大きいが、図7(b)の貫通孔220がある時に比べて発熱量は小さくなっている。即ち、図7(c)における高温領域A、Cの下方への拡大は、図7(b)と比較すると小さくなっている。このように、上部ルツボ台230を分割して下側の可動部232を回転させて貫通孔221の開口率を調整することにより、ルツボ底部の発熱を調整できていることが示された。
このように、図7に示したシミュレーション実験により、開口率を調整可能な貫通孔221、222を上部ルツボ台230に設けることにより、発熱量を調整できることが示された。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る結晶育成装置の一例の育成終盤のルツボ内の融液の温度分布で、ルツボ底部の温度分布をルツボ底部中央部からルツボ底部外径方向にシミュレーションした時のグラフである。図9において、貫通孔221、222が存在しない、図8に示すモデルのシミュレーション結果をP、図5(a)に示す垂直な貫通孔220が形成されているモデルのシミュレーション結果をQ、図5(c)に示す貫通孔221が可動部232に塞がれているモデルのシミュレーション結果をRで示している。
なおシミュレーションの条件は、図7と同様である。ルツボ底部での温度は、貫通孔なしの特性Pでは、1650℃であり、鉛直方向に貫通孔を配置した時の特性Qは、1610℃であり改善はされている。本発明で想定している融液はタンタル酸リチウム(TL)であり、融点は1650℃であり貫通孔を配置することで十分原料固化を防止できる。また、分割した下側の上部ルツボ台を回転させ、貫通孔を塞いだ状態時の特性Rでは、ルツボ底部での温度は1655℃であり、貫通孔無し、と有りとのほぼ中間ある。回転させる可動体232の厚みを調整することでこの温度を調整することも可能である。
なお、結晶育成時においては、単結晶170の引き上げの初期段階ではルツボ10の底面の温度を低めに設定し、後半でルツボ10の底面の温度を高くすることが求められる。よって、単結晶引き上げの初期段階では、図5(b)に示したような、貫通孔221を塞ぐ状態とし、その後、徐々に貫通孔221の開口率を上げ、最終的に図5(b)に示す貫通孔221、222が全開となって貫通孔220が形成されるような制御を行ってもよい。これらの制御は、制御部110がモーター130の動作を制御し、ワイヤー120により可動部232を移動させることにより可能である。
また、徐々に貫通孔221の開口率を上げるのではなく、ある所定の段階で図5(b)の状態から図5(a)の状態に切り替える制御を実施することも可能である。このように、貫通孔221、222の開口率を最大にして貫通孔220を形成する状態と、図5(b)に示す貫通孔221を可動部232で塞ぐ状態との間の中間の状態を含めて、所望の方法で単結晶の育成を行うことができる。
このように、第2の実施形態に係る結晶育成装置及び結晶育成方法によれば、ルツボ10の底面の加熱量を段階、状態に応じて制御できるとともに、加熱効率を十分高め、単結晶の長尺化を図ることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。