JP6981426B2 - 溶融ガラスの製造方法およびガラス物品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は溶融ガラスの製造方法およびガラス物品の製造方法、特にアルミノシリケートガラスの製造方法およびガラス物品の製造方法に関する。
液晶表示装置等のカバーガラスには、強度が要求されるため、一般にアルカリアルミノシリケートガラスが用いられている。また、かかるガラスには、耐薬品性、耐久性が高いこと、ガラス中に泡が少ないこと、均質性が高く、平坦度が高いことが要求されるが、アルカリアルミノシリケートガラスの製造において上記品質を得ることは、ソーダライムガラスの製造における場合よりも難しいことが知られている。
また、一般的にガラスの溶融工程では、ガラス原料組成物の中でもっとも溶けにくい珪砂を均一に早く溶融ガラスに溶かしこむことが、ガラス物品の品質を向上させるとともに、生産性の向上を図る上で重要とされている。
特許文献1では、アルカリアルミノシリケートガラスの製造方法として、珪砂の粒度を細かくすることなく、ガラス原料に含まれるアルミニウム化合物含有原料の比表面積と珪砂の比表面積の比を特定範囲とすることによりガラス原料の珪砂の溶け残りを防ぎ、泡などの品質欠点の少ないアルカリアルミノシリケ一卜ガラスを製造する方法が提案されている。
国際公開第2014/103897号
しかしながら、ガラス原料組成物中の珪砂の溶け残りを低減するだけでは、ガラス原料組成物全体の均一な溶融には十分でない場合がある。例えば、ガラスの溶融において溶融ガラス液面に、ガラス原料組成物に含まれる酸化物の溶けやすさの違いによる溶け遅れに起因する浮遊物層(所謂スカム層または泡層)が形成される場合がある。「浮遊物層」は、主に異質溶融ガラスと気泡で構成されるが、異質溶融ガラスの比重は溶融ガラスよりも低く、粘性が高いため、溶融ガラス中の気泡を内包して溶融ガラス液面の表層に浮遊する層を形成する。
一般のガラス溶融法においてかかる浮遊物層が形成されると、ガラス原料組成物を溶融するための熱源である上部燃焼空間からの入熱を阻害するため、浮遊物層の下に位置する溶融ガラスの温度上昇が不十分になり、溶融し難いガラス原料と溶融しやすいガラス原料の溶融に時間差が生じる。溶融に時間差が生じること、つまり、ガラス原料の一部に溶け遅れが生じると目的とするガラス物品の組成とは比重の異なる異質溶融ガラスがさらに形成されやすくなるとともに、ガラス原料粉体中に含まれる気泡を溶融ガラスに巻き込んで内包しやすくなり、ガラス物品の均一性および泡品質が低下しやすい。また、一部のガラス原料の溶け遅れによりガラス溶融工程における生産性が低下するとの問題も生じる。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、ガラス原料の溶け遅れを軽減させ、溶融炉内の溶融ガラス液面の浮遊物層の形成を低減させることにより、均質性に優れ、ガラス中に泡が少ないガラス物品を効率的に製造できる溶融ガラスの製造方法およびガラス物品の製造方法の提供を目的とする。
本発明者等は、溶融ガラス液面に形成される浮遊物層について調査検討したところ、未溶解の珪砂だけでなく、未溶解の酸化アルミニウムも多く残存していることを知見した。さらに、粒度分布が大きい珪砂を用いるとともに、特定の粒子構造を有する酸化アルミニウムを用いることにより、珪砂と酸化アルミニウムの溶け遅れを同時に軽減できることを見出して、本発明に至った。
本発明は以下の態様を有する。なお、本発明において、ガラスの成分はSiO、Al等の酸化物で表す。ガラス全体に対する各成分の含有量(ガラス組成)は酸化物基準のモル百分率で表す。
[1] 珪砂、酸化アルミニウムおよびアルカリ金属源を含むガラス原料組成物を溶融して、下記ガラス組成を有する溶融ガラスを製造する方法であって、前記珪砂は、D90が450μm以上、600μm以下、かつD90とD10の差が350μm以上であり、前記酸化アルミニウムは、D90が200μm以下であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔径0.004〜5μmの範囲の細孔容積分布において、細孔径0.1〜5μmの容積の割合が60%以上である、溶融ガラスの製造方法。
ガラス組成(酸化物基準):SiOの含有量が50モル%以上、Alの含有量が5モル%以上、かつLiO、NaO、KOの合計の含有量が5モル%以上。
[2] 前記珪砂のD10が90μm以下である、[1]の溶融ガラスの製造方法。
[3] 前記酸化アルミニウムの前記細孔径0.1〜5μmの容積の割合が70%以上である、[1]または[2]の溶融ガラスの製造方法。
[4] 前記酸化アルミニウムにおいて、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合の平均値が70%以下である、[1]〜[3]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
[5] 前記酸化アルミニウムにおいて、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合が70%以下である非中実部を含む粒子の比率が70%以上である、[1]〜[3]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
[6] 前記ガラス原料組成物における珪砂/酸化アルミニウムのモル比(酸化物基準)が2.5〜15である、[1]〜[5]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
[7] 前記ガラス原料組成物が、ホウ酸およびZrOの少なくとも1種をさらに含む、[1]〜[6]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
[8] 前記溶融ガラスのガラス組成における、SiOとAlとLiOとNaOとKOとの合計の含有量が、60〜100モル%である、[1]〜[7]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
[9] 前記溶融ガラスが下記ガラス組成を有する、[1]〜[8]のいずれかの溶融ガラスの製造方法。
ガラス組成(酸化物基準):SiOの含有量が50〜75モル%、Alの含有量が5〜20モル%、Bの含有量が0〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計の含有量が5〜25モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計の含有量が0〜20モル%。
[10] [1]〜[9]のいずれかの溶融ガラスの製造方法を用いてガラス物品を製造する方法であって、
前記製造方法により溶融ガラスを製造する溶融工程と、得られた溶融ガラスを成形する成形工程と、成形後のガラスを徐冷する徐冷工程とを有する、ガラス物品の製造方法。
本発明の溶融ガラスの製造方法によれば、ガラス原料の溶け遅れを軽減させ、溶融炉内の溶融ガラス液面の浮遊物層の形成を低減できる。
本発明のガラス物品の製造方法によれば、ガラス原料の溶け遅れが軽減され、均質性に優れ、ガラス中に泡が少ないガラス物品を効率的に製造できる。
本発明における「粒子径」、「酸化アルミニウムの水銀圧入法による細孔容積分布」および「酸化アルミニウムの中実部面積の割合」の測定方法は、以下の通りである。
<粒子径の測定方法>
「D50」は、積算分率における50%径で表される平均粒子径である。ガラス原料のD50は、レーザー回折法による粒子径測定により得られた体積基準の積算分率における50%径である。
「D90」は、レーザー回折法による粒子径測定により得られた体積基準の積算分率における90%径である。
「D10」は、レーザー回折法による粒子径測定により得られた体積基準の積算分率における10%径である。
<酸化アルミニウムの水銀圧入法による細孔容積分布の測定方法>
全自動細孔分布測定装置(Pore Master 60−GT、Quanta Chrome社製)を用い、下記の条件で細孔分布を測定し、横軸が細孔径(単位:μm)、縦軸がdV/d(logD)(単位:cm/g)である細孔容積分布(Log微分細孔容積分布)を得る。
細孔径0.004〜5μmの範囲の細孔容積分布において、細孔径0.1〜5μmの容積の割合を求める。具体的には、細孔径0.004〜5μmの範囲の細孔容積の積算値に対する、細孔径0.1〜5μmの範囲の細孔容積の積算値の割合を求め「細孔径0.1〜5μmの容積の割合」とする。
[全自動細孔分布測定装置の測定条件]
サンプル量:約0.3〜0.4g。
前処理:乾燥機で150℃、1時間の加熱処理を行う。
水銀接触角:140deg。
水銀表面張力:480dyn/cm。
<酸化アルミニウムの中実部面積の割合の測定方法>
まず、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)により、酸化アルミニウムの反射電子像を撮影する。得られた反射電子像において、1個の粒子について、該粒子の像に内接する正方形または長方形であって面積が最大となる四角形を面積測定エリアとする。該面積測定エリアを画像処理して二値画像を得る。該面積測定エリアの面積(100%)に対する、該面積測定エリア内の高輝度領域(白い部分)の面積の割合を求め「中実部面積の割合(単位:%)」とする。
無作為に選択した100個の粒子について「中実部面積の割合」をそれぞれ求め、それらの合計を100で除した平均値を「中実部面積の割合の平均値(単位:%)」とする。
また「中実部面積の割合」が70%以下である粒子を「非中実部を含む粒子」とする。無作為に選択した100個の粒子について「中実部面積の割合」をそれぞれ求め、該100個のうちの「非中実部を含む粒子」の個数基準の割合を「非中実部を含む粒子の比率(単位:%)」とする。
[EPMAによる反射電子像の撮影条件]
電圧:15kV。
電流:9.2nA。
コントラスト:3200。
ブライトネス:30−40。
プロセスタイム:6.55秒。
画像サイズ:1280×960ピクセル。
倍率:500倍。
[画像処理条件]
画像処理ソフト:WinRoof Ver.6.1。
二値化処理:ピークバレー法による自動二値化処理。
閾値:31〜255。
高輝度領域の面積測定エリア:1個の粒子に内接し最大面積となる正方形または長方形。
<溶融ガラスの製造方法>
本発明の溶融ガラスの製造方法は、珪素源、アルミニウム源およびアルカリ金属源を含むガラス原料組成物を溶融して、特定のガラス組成を有する溶融ガラスを製造する方法である。珪素源は溶融によりSiOとなる化合物である。アルミニウム源は、溶融によりAlとなる化合物である。
本発明において、珪素源は珪砂を含み、アルミニウム源は酸化アルミニウムを含む。
[珪砂]
ガラス原料組成物中の珪砂の粒度分布は、D90が450μm以上、600μm以下、かつD90とD10の差が350μm以上である。すなわち該珪砂は粒子径が450μm以上の大きい粒子を含むとともに、広い粒度分布を有する。かかる粒度分布の珪砂を用いることにより、溶融時におけるガラス原料組成物の溶け遅れを良好に軽減できる。D90は、470μm以上が好ましく、490μm以上がより好ましい。D90の上限は珪砂の溶け遅れを軽減する点で、550μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。D10は90μm以下が好ましく、80μm以下がさらに好ましい。
珪砂のD90とD10の差は400μm以上がより好ましく、420μm以上がさらに好ましい。
本発明において、珪砂以外の公知の珪素源を本発明の効果を損しない範囲で1種以上用いてもよい。
[酸化アルミニウム]
ガラス原料組成物中の酸化アルミニウムは、下記(a)を満たす。さらに、(a)に加えて、下記(b)または下記(c)を満たしていることが好ましい。ただし、酸化アルミニウムにおいては、下記(a)を満たすものは、下記(b)も下記(c)も満たすのが通例である。
下記(a)は本発明で用いられる酸化アルミニウムの粒子構造を細孔分布で表したものであり、下記(b)、(c)は該粒子構造を粒子の反射電子像における特徴で表したものである。
(a)D90が200μm以下であり、水銀圧入法で測定した細孔径0.004〜5μmの範囲の細孔容積分布において、細孔径0.1〜5μmの容積の割合(以下、単に「細孔径0.1〜5μmの容積の割合」ともいう。)が60%以上である。
(b)D90が200μm以下であり、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合の平均値が70%以下である。
(c)D90が200μm以下であり、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合が70%以下である「非中実部を含む粒子」の、酸化アルミニウムに対する比率(個数%)が70%以上である。
かかる酸化アルミニウムを用いることにより、溶融時におけるガラス原料組成物の溶け遅れを良好に軽減できる。
酸化アルミニウムのD90は150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、90μm以下がさらに好ましく、85μm以下が特に好ましい。
本発明において、酸化アルミニウム以外の公知のアルミニウム源を本発明の効果を損しない範囲で1種以上用いてもよい。
上記(a)において、細孔径0.1〜5μmの容積の割合は、酸化アルミニウムの溶け遅れが低減されるため、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
上記(b)において、酸化アルミニウム粒子の上記中実部面積の割合の平均値は、酸化アルミニウムの溶け遅れが低減されるため、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。該中実部面積の割合の平均値の下限値は、適宜設定可能であるが、中実部の比率が下がると酸化アルミニウムの嵩(体積)が増加する。このため、目的とするガラス組成に対して、搬送可能で、供給が容易な範囲とすること好ましい。現実的には15%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。
上記(c)において、酸化アルミニウムに対する上記「非中実部を含む粒子」の比率(個数%)は、90%以上がより好ましい。また、他の原料に不可避に含まれる酸化アルミニウムを除く全ての酸化アルミニウムが「非中実部を含む粒子」であってもよい。
[アルカリ金属源]
本発明におけるアルカリ金属とは、Na、K、Liを指す。アルカリ金属源は、溶融によりNaO、KO、LiOとなる化合物である。アルカリ金属源としては、アルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、フッ化物が挙げられる。これらは1種でもよく2種以上を併用してもよい。また、その粒子径は特に限定されず公知のアルカリ金属源を用いることが出来る。アルカリ金属炭酸塩の例としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が好ましく、特に炭酸ナトリウム(ソーダ灰)が取扱やすさの点で好適に適用できる。
[アルカリ土類金属源]
ガラス原料組成物は、上記の成分以外にアルカリ土類金属源を含有できる。
本明細書におけるアルカリ土類金属とは、Mg、Ca、Ba、Srを指す。アルカリ土類金属源は、溶融によりMgO、CaO、BaO、SrOを形成する化合物である。アルカリ土類金属源としては、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、フッ化物が挙げられる。これらは1種でもよく2種以上を併用してもよい。また、その粒子径は特に限定されず公知のアルカリ土類金属源を用いることが出来る。また、ドロマイト等の複合炭酸塩や焼成ドロマイト等の複合酸化物も使用できる。
[ホウ素源]
ガラス原料組成物がホウ素源を含有してもよい。ホウ素源としては、ホウ酸、酸化ホウ酸(B)、コレマナイト等が挙げられる。これらは1種でもよく2種以上を併用してもよい。
ホウ酸とはオルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸(HBO)、四ホウ酸(H)等が挙げられる。
[他のガラス原料]
ガラス原料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス原料として公知である前記以外の化合物を含有することができる。
前記以外の化合物としては、酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ジルコン、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム、酸化銅、酸化ニッケル等が挙げられる。これらは1種でもよく2種以上を併用してもよい。
[ガラス原料組成物]
珪素源、アルミニウム源およびアルカリ金属源等のガラス原料を、目標のガラス組成となるように混合してガラス原料組成物を調製する。ガラス原料組成物のガラス組成は、溶融時に揮散しやすい成分を除き、酸化物換算で、ほぼ目的とする溶融ガラスのガラス組成と同じになるように調整される。溶融ガラスのガラス組成は、該溶融ガラスを成形して得られるガラス物品のガラス組成と同じである。また、揮散しやすい成分として清澄剤および清澄作用を持つ酸化物を混合してもよい。
本発明における溶融ガラスのガラス組成(酸化物基準)は、SiOの含有量が50モル%以上、Alの含有量が5モル%以上、かつLiO、NaO、KOの合計の含有量が5モル%以上であり、これらの合計が60〜100モル%である。
ガラス原料における珪砂/酸化アルミニウムの比率(酸化物基準のモル比)は、酸化アルミニウムの溶け残りを防ぐうえで2.5以上が好ましく4以上がさらに好ましい。また、珪砂の溶け残りを防ぐうえで15以下が好ましく、12以下がさらに好ましい。
また、ガラス原料組成物が、珪砂、酸化アルミニウムおよびアルカリ金属源に加えて、さらにホウ酸およびZrOの少なくとも1種をさらに含むことができる。シリカやアルミナと融点が大きく異なるホウ酸またはZrOを含むガラス組成、例えば、アルカリアルミノシリケートガラスであっても、原料の溶け遅れを防止し均一な溶融ガラスを形成することができる。
溶融ガラスの好ましいガラス組成(合計100モル%)として以下の組成(1)〜(4)が挙げられる。
組成(1):SiOが50〜75モル%、Alが5〜20モル%、Bが0〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計が5〜25モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計が0〜20モル%。
組成(2):SiOが50〜75モル%、Alが5〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計が5〜25モル%、MgO、CaO、SrO、BaOの合計が0〜20モル%、ZrO、TiOの合計が0〜5モル%、Feの含有量が0〜5モル%、かつCoの含有量が0〜5モル%。
組成(3):SiOが50〜75モル%、Alが5〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計が5〜25モル%、Bが1〜20モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計が0〜25モル%。
組成(4):SiOが50〜75モル%、Alが5〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計が5〜25モル%、Bが1〜15モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計が0〜15モル%、ZrO、TiOの合計が0〜5モル%、Feの含有量が0〜5モル%、かつCoの含有量が0〜5モル%。
また、ホウ酸およびZrOの少なくとも1種を含むアルカリアルミノシリケートガラスにおいてBの含有量は0〜6モル%が好ましく、6〜10モル%がより好ましい。ZrOの含有量は0〜2モル%が好ましく、2〜5モル%がより好ましい。
ホウ酸および場合によりさらにZrOを含む場合の好ましい組成としては、以下の組成(6)が挙げられる。
組成(6):SiOが50〜75モル%、Alが5〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計が1〜15モル%、Bが1〜15モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計が0〜15モル%、ZrO、TiOの合計が0〜5モル%、Feの含有量が0〜5モル%、かつCoの含有量が0〜5モル%。
[溶融工程]
本発明の溶融ガラスの製造方法を実施する溶融工程は公知の方法で行うことができる。好ましくは、ガラス原料組成物を溶融炉に投入して溶融する方法で行う。
ガラス原料組成物を溶融炉に投入して溶融する方法は、溶融炉内の溶融ガラス液面にガラス原料組成物の溶け遅れに起因する浮遊物層が形成されて、該液面の上方からの熱が浮遊物層で遮断されることによる加熱不足や加熱ムラが生じやすい。このため、本発明を適用してガラス原料組成物の溶融性を向上させることによる効果が大きい。
溶融炉は特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
例えば、ガラス原料組成物、および必要に応じて、目的とする溶融ガラスと同じガラス組成のカレットを、溶融炉内に連続的に投入し、1600〜1700℃程度にまで加熱して溶融させ溶融ガラスとする。なお、カレットとは、ガラスの製造の過程等で排出されるガラス屑である。
<ガラス物品の製造方法>
本発明のガラス物品の製造方法は、本発明の溶融ガラスの製造方法を用いてガラス物品を製造する方法である。
上述の溶融工程で得た溶融ガラスを、成形工程で目的の形状に成形した後、必要に応じて徐冷工程にて徐冷する。その後、必要に応じて後加工工程において切断や研磨など、公知の方法で後加工を施すことによりガラス物品が得られる。
ガラス物品が板状である場合には、成形工程はフロート法、ダウンドロー法、フュージョン法等の公知の方法で目的の形状に成形した後、必要に応じて徐冷することによりガラス物品が得られる。
<作用・機序>
本発明によれば、珪砂、酸化アルミニウムおよびアルカリ金属源を含むガラス原料組成物において、粒度分布が大きい珪砂を用いるとともに、細孔径0.004〜5μmの細孔容積分布において細孔径0.1〜5μmの容積の割合が大きくなるような粒子構造を有する酸化アルミニウムを用いることによって、該ガラス原料組成物の溶融過程において、珪砂や酸化アルミニウムの溶け遅れを軽減することが出来る。
また、珪砂、酸化アルミニウムおよびアルカリ金属源を含むガラス原料組成物において、粒度分布が大きい珪砂を用いるとともに、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合が小さくなるような粒子構造を有する酸化アルミニウムを用いることによって、該ガラス原料組成物の溶融過程において、珪砂や酸化アルミニウムの溶け遅れを軽減することが出来る。
その理由は明確ではないが、以下のように推測される。
前述の浮遊物層は、異質溶融ガラスと気泡で構成される。異質溶融ガラスはSiOとAl濃度が目標組成の溶融ガラスよりも高く、ガラス原料組成物の溶解過程において珪砂と酸化アルミニウムが他の原料組成物より溶け遅れることにより生じる。また、異質溶融ガラスに対する珪砂と酸化アルミニウムの溶解速度は、目的組成の溶融ガラスに対するそれらよりも劣る。よって、ひとたび溶け遅れた珪砂と酸化アルミニウムは、異質溶融ガラス内でその比率がより高まる傾向にあり、溶け遅れた珪砂と酸化アルミニウムが溶け切るまでに要する時間をさらに長くしてしまう。
これに対して本願発明は、ガラス原料組成物が加熱されたときに、珪砂とアルカリ金属源とが速やかに反応して低融点の反応物(xSiO−yAO(Aはアルカリ金属を表す。x、yは反応比率を表す。))が生成され、該反応物に酸化アルミニウムが溶解する。このとき、粒度分布が大きい珪砂を用いると、粒子径が大きい珪砂は比較的反応し難いため、反応物(xSiO−yAO)におけるSiOの割合(x/y)を低く制御できる。このため、該反応物の粘度を低く抑えるとともに、反応物におけるAOの割合(y/x)を高く保つことにより酸化アルミニウムとの反応性を高く保つことができる。
上記特定の粒子構造を有する酸化アルミニウムは、このような反応物に良好に溶解するため、酸化アルミニウムの溶け遅れを軽減できると考えられる。この際、珪砂の粒子径をある大きさ以下にすることにより、珪砂の溶け遅れも併せて軽減することができる。このようにして、珪砂と酸化アルミニウムの両者の溶け遅れを軽減することにより、異質溶融ガラスの生成と溶け遅れた珪砂と酸化アルミニウムの凝集を軽減することができる。
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<粒子径の測定>
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、製品名:LA−950)を用い、湿式レーザー回折により粒子径分布を測定し、D10、D50またはD90を求めた。分散媒中で粒子が凝集している場合は、超音波によって凝集体を分散させ、凝集体を構成する一次粒子の粒子径分布を測定した。
<坩堝底温度および浮遊物層厚み測定方法(ガラス原料組成物の溶け遅れの評価)>
所定のガラス組成のアルカリアルミノシリケ一卜ガラスとなるように、珪砂、酸化アルミニウム、アルカリ金属源、および他の原料を調製してガラス原料組成物とした。
調製したガラス原料組成物とカレットを所定の比率で混合して坩堝に入れ、坩堝内で溶融した。ガラス溶融中の坩堝底温度を測定し、珪砂または酸化アルミナの溶け遅れの程度を比較した。
坩堝はアルミナ坩堝(製品名:SSA−S、ニッカトー社製、内径240mm、高さ245mm)を用いた。
溶融炉としては、連続式の溶融炉において溶融ガラスが上方から加熱される上部燃焼空間の加熱状態を再現するために、稼働式の坩堝ホルダーを備える二室式で各炉室の上部にヒーターが設けられた大型電気炉を用いた。アルミナ坩堝は、坩堝の側面および底部を厚さ20cm以上の断熱ボードで覆い、坩堝内のガラス原料組成物への側面および底部からの入熱を遮断した。
実生産におけるガラス溶融炉の温度履歴を再現するために、第1の炉室内において1350℃、30分間(露点50℃)の条件で加熱された直後に、第2の炉室内において1600℃、180分間(露点50℃)の条件で加熱されるように設定した。
ガラス原料の溶け遅れの程度を評価するために、以下の手順で坩堝底温度を測定した。
まず、室温下でガラス原料組成物とカレットを所定の比率で混合して坩堝に入れた。ガラス原料組成物とカレットの合計量はガラス質量換算で2kgとした。
次いで、坩堝を第1の炉室内に収容して上記の条件で加熱した後、第2の炉室内に移送して上記の条件で加熱し、第2の炉室から取り出した。この間、坩堝の底面の外面の温度を熱電対で測定し、最高温度を坩堝底温度として記録した。
坩堝底温度が高いほど、坩堝内の溶融ガラス液面の浮遊物層による熱の遮断が少なく、ヒーターからの熱によって溶融ガラスの温度が効率良く上昇したことを示す。
また、第2の炉室から取り出した坩堝を室温まで徐冷し、坩堝内の溶融ガラスを固化させた。冷却固化後、坩堝内部の側面を観察し、ガラスで濡れた高さとガラス表面の高さの差を浮遊物層の厚みとして記録した。
<泡数の測定方法>
坩堝底温度および浮遊物層厚みを測定後に、坩堝内で冷却固化したガラスの中心を外径35mmの円柱状にくり抜き、くり抜いたガラスを1mm厚に切り出してガラス試料とした。ガラス試料は両面を鏡面研磨し、断面方向に対して等分した2cm以上の領域を、光学顕微鏡を用いて目視で観察し、確認できる泡数を計測した。
ガラス原料の溶け遅れが少なくて浮遊物層が少ないと、すなわち溶融ガラスの温度上昇が良好であると、溶融ガラスの粘度が低下するため、また清澄剤が含まれる場合にはその脱泡反応も促進されるため、ガラス溶融中の気泡が抜けやすい。よって、泡数が少ない方がガラス原料の溶け遅れが抑制されたことを意味する。
<ガラス原料>
以下のガラス原料を用いた。
珪砂:表1に示す5種の珪砂A〜Eを用いた。
酸化アルミニウム:表2に示す4種のアルミナS〜Vを用いた。
アルカリ金属源:ソーダ灰(1)(D50=400μm)。
マグネシウム源:酸化マグネシウム(1)(D50=10μm)。
他の原料:ボウ硝(清澄剤)。
Figure 0006981426
Figure 0006981426
[例1〜5]
例1、2は実施例、例3〜5は比較例である。表3に示す珪砂、酸化アルミニウム、アルカリ金属源、マグネシウム源、および清澄剤を、下記ガラス組成(i)となるように調製して、ガラス原料組成物とした。清澄剤の添加量はガラス原料組成物に対して1.4モル%とした。
各例のガラス原料組成物について上記の方法で、坩堝底温度、浮遊物層厚み、および泡数の測定を行った。ガラス原料組成物:カレットの質量比は50:50とした。結果を表3に示す。
<ガラス組成(i)>
SiO:68.0モル%、Al:10.0モル%、MgO:8.0モル%、NaO:14.0モル%。SiO/Alのモル比は6.8である。
Figure 0006981426
表3の結果より、D90が200μm以下で、細孔径0.1〜5μmの容積の割合が60%以上であり、中実部面積の割合の平均値が70%以下である酸化アルミニウムUを用いるとともに、D90が450μm以上、かつD90とD10の差が350μm以上である珪砂A、Bを用いた例1、2は、珪砂C〜Eを用いた例3〜5に比べて、坩堝底温度が高く、浮遊物層厚みが薄く、泡数が少ない。ガラス原料の溶け遅れが低減したことが認められる。
[例6〜9]
例6〜8は実施例、例9は比較例である。表4に示す珪砂、酸化アルミニウム、アルカリ金属源、マグネシウム源、および清澄剤を、上記ガラス組成(i)となるように調製して、ガラス原料組成物とした。清澄剤の添加量は例1と同じである。
各例のガラス原料組成物について上記の方法で、ガラス原料の溶け遅れの評価および泡数の測定を行った。ガラス原料組成物:カレットの質量比は35:65とした。結果を表4に示す。
Figure 0006981426
表4の結果より、上記珪砂Aを用いるとともに、D90が200μm以下で、細孔径0.1〜5μmの容積の割合が60%以上であり、中実部面積の割合の平均値が70%以下であるアルミナS〜Uを用いた例6〜8は、細孔径0.1〜5μmの容積の割合が56%であり、中実部面積の割合の平均値が75%であるアルミナVを用いた例9に比べて、坩堝底温度が高く、浮遊物層厚みが薄く、泡数が少ない。ガラス原料の溶け遅れが低減したことが認められる。
なお、2016年11月14日に出願された日本特許出願2016−221713号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (10)

  1. 珪砂、酸化アルミニウムおよびアルカリ金属源を含むガラス原料組成物を溶融して、下記ガラス組成を有する溶融ガラスを製造する方法であって、
    前記珪砂は、D90が450μm以上、600μm以下、かつD90とD10の差が350μm以上であり、
    前記酸化アルミニウムは、D90が200μm以下であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔径0.004〜5μmの範囲の細孔容積分布において、細孔径0.1〜5μmの容積の割合が60%以上である、溶融ガラスの製造方法。
    ガラス組成(酸化物基準):SiOの含有量が50モル%以上、Alの含有量が5モル%以上、かつLiO、NaO、KOの合計の含有量が5モル%以上。
  2. 前記珪砂のD10が90μm以下である、請求項1に記載の溶融ガラスの製造方法。
  3. 前記酸化アルミニウムの前記細孔径0.1〜5μmの容積の割合が70%以上である、請求項1または2に記載の溶融ガラスの製造方法。
  4. 前記酸化アルミニウムにおいて、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合の平均値が70%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
  5. 前記酸化アルミニウムにおいて、粒子の反射電子像の二値画像における中実部面積の割合が70%以下である非中実部を含む粒子の比率が70%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
  6. 前記ガラス原料組成物における珪砂/酸化アルミニウムのモル比(酸化物基準)が2.5〜15である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
  7. 前記ガラス原料組成物が、ホウ酸およびZrOの少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
  8. 前記溶融ガラスのガラス組成における、SiOとAlとLiOとNaOとKOとの合計の含有量が、60〜100モル%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
  9. 前記溶融ガラスが下記ガラス組成を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法。
    ガラス組成(酸化物基準):SiOの含有量が50〜75モル%、Alの含有量が5〜20モル%、Bの含有量が0〜20モル%、LiO、NaO、KOの合計の含有量が5〜25モル%、かつMgO、CaO、SrO、BaOの合計の含有量が0〜20モル%。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の溶融ガラスの製造方法を用いてガラス物品を製造する方法であって、
    前記製造方法により溶融ガラスを製造する溶融工程と、得られた溶融ガラスを成形する成形工程と、成形後のガラスを徐冷する徐冷工程とを有する、ガラス物品の製造方法。
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