JP6859862B2 - 軟磁性合金 - Google Patents

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Description

本発明は、軟磁性合金に関し、さらに詳しくは、高磁束密度を得ることができる軟磁性の鉄基合金に関する。
モータ等の電子機器を構成する材料として、軟磁性材料が広く用いられており、近年の電子機器の小型化と、それに伴う大電流化に伴って、軟磁性材料において、高磁束密度化が要求されている。また、大電流化に伴って、高磁界強度の領域で、優れた軟磁気特性、すなわち、保磁力が小さく、かつ磁束密度が飽和傾向を示しにくい挙動が、軟磁性材料に求められている。
例えば、モータを構成するコイルに流れる電流値を倍にすれば、同じ出力を得るために必要なコイルの巻き数を半分にすることができ、モータの小型化を達成することができる。そのためには、鉄心を構成する軟磁性材料の磁束密度が、その電流値に対応する磁界強度において飽和に達しないことが必要である。一方、鉄心を構成する軟磁性材料の磁束密度を倍にすることができれば、鉄心の断面積を半分にしても、同じ磁束を得ることができ、モータ全体の小型化につなげることができる。
純鉄は高磁束密度を有する軟磁性材料として知られている。純鉄を超える磁束密度を有する軟磁性材料としては、Fe−Co系合金であるパーメンジュールが知られている。パーメンジュール以外にも、Coを含有する高磁束密度の軟磁性合金が知られており、例えば特許文献1に、25.0質量%以上30.0質量%未満のCoを他の添加元素とともに含有する鉄基合金が開示されている。他に、代表的な軟磁性材料として、Siを含有する鉄基合金である電磁鋼板(ケイ素鋼板)が知られている。
特開2006−193779号公報
近年、モータに用いられる永久磁石の残留磁束密度(Br)が大きくなっている。すると、鉄心やヨークを構成する軟磁性材料も、そのような高磁束密度に追随する必要があり、大きな飽和磁束密度を有することが要求される。パーメンジュールに代表されるFe−Co系合金は、高磁束密度を実現することができるが、多量のCoを含有するため、非常に高価であり、しかも加工性が悪い場合が多い。電磁鋼板は、安価であり、比較的高い透磁率を示すが、磁束密度はそれほど高くなく、例えば、1.7T以上の磁束密度を達成するのは難しい。
本発明が解決しようとする課題は、飽和磁束密度が高く、かつ安価な軟磁性合金を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明にかかる軟磁性合金は、Niと、Al、Si、およびVから選択される少なくとも1種と、を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、質量%で、Niの含有量を[Ni]、Al、Si、およびVの合計含有量を[M]として、前記[Ni]と[M]の関係をプロットしたグラフにおいて、下記の直線A、直線B、直線C、直線D、直線Eによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在するものである。
直線A:[M]=0.01
直線B:[Ni]=11.0
直線C:[Ni]=11.0、[M]=7.00の点と、[Ni]=3.0、[M]=10.00の点とを結ぶ直線
直線D:[Ni]=3.0、[M]=10.00の点と、[Ni]=0.1、[M]=7.00の点とを結ぶ直線
直線E:[Ni]=0.1
ここで、前記グラフにおいて、前記直線A、直線C、直線D、直線Eと、下記直線F、直線Gによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在するとよい。
直線F:[Ni]=1.0、[M]=0.01の点と、[Ni]=6.5、[M]=3.50の点とを結ぶ直線
直線G:[Ni]=6.5
この場合さらに、前記グラフにおいて、前記直線D、直線E、直線Gと、下記直線H、直線Iによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在するとよい。
直線H:[Ni]=0.1、[M]=0.50の点と、[Ni]=6.5、[M]=3.50の点とを結ぶ直線
直線I:[Ni]=6.5、[M]=7.00の点と、[Ni]=3.0、[M]=10.00の点とを結ぶ直線
また、前記軟磁性合金は、さらに、質量%で、1%≦Cr≦14%を含有するとよい。
また、前記軟磁性合金は、さらに、質量%で、1%≦Mo≦6%を含有するとよい。
また、前記軟磁性合金はCrおよびMoを含有し、質量%で、1%≦Cr+3.3Mo≦14%であるとよい。
また、前記軟磁性合金は、さらに、質量%で、0.03%≦Pb≦0.30%、0.002%≦Bi≦0.020%、0.002%≦Ca≦0.20%、0.01%≦Te≦0.20%、0.03%≦Se≦0.30%から選択される1種または2種以上を含有するとよい。
また、前記軟磁性合金は、ビッカース硬さHvが250以上であるとよい。
本発明にかかる軟磁性合金は、上記の直線A〜Eに囲まれた領域の中の成分組成を有することにより、1.7T以上のような高い飽和磁束密度を有する。同時に、1000A/m以下のような低保磁力を得ることができる。よって、高飽和磁束密度と低保磁力を両立する優れた軟磁性合金となる。また、Coのように高価な添加元素を多量に含む成分組成ではないので、安価に製造することができる。
ここで、軟磁性合金が、直線A,C,D,E、F,Gに囲まれた領域の中の成分組成を有する場合には、さらなる低保磁力を達成しやすい。
この場合さらに、軟磁性合金が、直線D,E,G,H,Iに囲まれた領域の中の成分組成を有する場合には、一層、低保磁力を達成しやすくなる。
また、軟磁性合金が、上記のような量のCrやMoを含有することで、低保磁力および高飽和磁化に加えて、高い電気抵抗と、高い耐食性を有する軟磁性合金とすることができる。
また、軟磁性合金が、上記のような量のPb、Bi、Ca、Te、Seから選択される1種または2種以上を含有する場合には、軟磁性合金の切削性を有利に向上させることができる。
また、軟磁性合金のビッカース硬さHvが250以上であると、材料としての強度を、優れた軟磁気特性と両立することができる。
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金について、Niの含有量と、Al、Si,Vの含有量の関係を示すグラフである。
以下に、本発明の実施形態にかかる軟磁性合金ついて、詳細に説明する。
[軟磁性合金の概要]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、以下の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。
・Ni
・Al、Si、Vから選択される少なくとも1種(以下、「Al等」と称する場合がある)
NiとAl等の含有量は、以下で説明する所定の領域にある。
また、本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、必須元素としての上記NiおよびAl等に加えて、任意に、CrおよびMoの少なくとも一方を含有してもよい。また、本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、上記NiおよびAl等に加えて、またさらに上記CrおよびMoの少なくとも一方に加えて、任意に、Pb、Bi、Ca、Te、Seから選択される1種または2種以上を含有してもよい。これらの好ましい含有量についても、後に説明する。
不可避的不純物は、軟磁性合金の磁気的、電気的特性を損なわない範囲で含有が許容される。具体的な不可避的不純物の例としては、質量%を単位として、C≦0.04%、Mn≦0.3%、P≦0.06%、S≦0.06%、N≦0.06%、Cu≦0.1%、Co≦0.06%、O≦1%を挙げることができる。
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、上記各成分金属を溶製し、適宜、圧延、鍛造等を行うことによって製造することができる。また、磁気焼鈍等の熱処理を行ってもよい。磁気焼鈍時の温度としては、800〜1200℃を例示することができる。
[第一領域の成分組成]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金において、Niの含有量と、Al等の含有量は、所定の関係を有している。具体的には、Niの含有量を[Ni]、Al等の含有量、つまりAl、Si、Vの合計含有量を[M]として、[Ni]と[M]の関係をプロットしたグラフにおいて、[Ni]および[M]が所定の第一領域の中にある。なお、本明細書において、NiおよびAl等をはじめとする各元素の含有量は、質量%を単位として表すものとする。また、各領域の「中」には、各領域を区画する境界線上の点および頂点も含むものとする。
図1は、[Ni]と[M]の関係を示すグラフである。ここで、第一領域は、直線A、直線B、直線C、直線D、直線Eによって囲まれた五角形の領域として定義される。図1中で、各直線は、「○」で囲んだ記号で示している。
各直線の端点に対応する点1〜5は、以下のように定義される。ここで、Niの含有量がa質量%、Al等の含有量がb質量%である場合、つまり、[Ni]=a、[M]=bである点の元素含有量を、(a,b)と表現する。図1中で、各点は、「□」で囲んだ番号で表示している。
点1(0.1,0.01)
点2(11.0,0.01)
点3(11.0,7.00)
点4(3.0,10.00)
点5(0.1,7.00)
そして、各直線は、以下のように、2点を結んだ直線として表される。
直線A:点1−点2([M]=0.01)
直線B:点2−点3([Ni]=11.0)
直線C:点3−点4
直線D:点4−点5
直線E:点5−点1([Ni]=0.1)
ここで、直線A〜Eのそれぞれが規定される理由について説明する。
・直線Aおよび直線E([M]=0.01、[Ni]=0.1)
保磁力を低く維持しながら、高い飽和磁束密度を得るために、[M]≧0.01および[Ni]≧0.1との条件が規定されている。
具体的には、[Ni]≧0.1とすることで、外部磁場H=30000A/mで測定した磁束密度の値であるB30000を、1.7T以上とすることができる(B30000≧1.7T)。ここで、B30000は、この種の軟磁性合金において、飽和磁束密度に近似することができる値である。仮に、H=30000A/mで磁束密度が飽和に達していないとしても、飽和磁束密度はB30000よりも高くなるはずであり、B30000は、飽和磁束密度の下限値とみなすことができる。本発明の実施形態にかかる軟磁性合金において、飽和磁束密度(B30000)は、1.7T以上であることが好ましく、2.0T以上であればさらに好ましい。
しかし、Niのみを添加元素として含む鉄基合金において、[Ni]≧0.1とすると、結晶組織が、α相+γ相や、マルテンサイト相になり、保磁力Hcが1000A/mを超えて大きくなってしまう。そこで、Al、Si、Vから選択される元素を添加し、[M]≧0.01とすることで、α相の生成を促進し、Hc≦1000A/mの低保磁力を確保することができる。α相(フェライト相)は、軟磁性を示すのに対し、γ相(オーステナイト相)は非磁性を示す。マルテンサイト相を含むと保磁力が高くなる。Al、Si、Vは、フェライトの生成を促進する元素であり、合金の軟磁気特性を高めることができる。
・直線B([Ni]=11.0)
上記のように、Niの含有量を0.1%以上とすることで、飽和磁束密度を高めることができるが、Niを含有させすぎても、逆に飽和磁束密度が低下してしまう。そこで、[Ni]≦11.0とすることで、B30000≧1.7Tを確保することができる。また、Hc≦1000A/mの低保磁力も維持することができる。
・直線Cおよび直線D
NiおよびAl等の含有量を、直線Cおよび直線Dによって規定される値以下に抑えておくことで、B30000≧1.7Tを確保することができる。
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、上記のように、高飽和磁束密度、低保磁力を有し、優れた軟磁気特性を発揮するが、同時に、高い硬度を有している。例えば、ビッカース硬度Hvを、150以上、250以上、さらには350以上とすることができる。このような高い硬度は、軟磁性合金中に、Niと、Al等とが含有されていることによって発揮されると推定される。
[第二領域の成分組成]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金において、[Ni]および[M]は、第一領域の中でさらに、第二領域の中にあることが好ましい。
図1に示すように、第二領域は、上記直線A、直線C、直線D、直線Eに加え、下記の直線Fおよび直線Gによって囲まれた六角形の領域として定義される。
直線Fは、点6と点7とを結んだ直線として定義される。ここで、
点6(1.0,0.01)
点7(6.5,3.50)
である。
また、直線Gは、[Ni]=6.5の直線として定義される。ここで、直線Gと直線Cの交点に当たる点pにおける元素含有量は、おおむね、p(6.5,8.7)となる。
ここで、直線F,Gが規定される理由について説明する。
・直線F
NiおよびAl等の含有量を、直線Fによって規定される値以上としておくことで、結晶組織において、α相を維持しやすくなる。その結果、保磁力Hcを低く抑えることができる。特に、Hc≦500A/mの低い水準にまで抑えやすくなる。例えば、電磁鋼板の磁気焼鈍の温度として一般的な850℃で熱処理を行っても、α相を高度に維持することができる。Niおよび/またはAl等の含有量を直線Fによって規定される値よりも小さくすると、α相+γ相や、マルテンサイト相が生じやすくなり、保磁力Hcが上昇することによって、特に高温で磁気焼鈍を行った際に、軟磁気特性が発現されにくくなる。
・直線G([Ni]=6.5)
[Ni]≦6.5とすることで、B30000≧1.7Tの高飽和磁束密度を特に確保しやすくなる。[Ni]>6.5とした場合には、Hc≦500A/mは確保できても、B30000≧1.7Tとの両立が難しくなる場合がある。
さらに、NiおよびAl等の含有量を第二領域に設定することにより、透磁率を高くすることができる。例えば、比透磁率μを、μ>1000とすることができる。
[第三領域の成分組成]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金において、[Ni]および[M]は、第二領域の中でさらに、第三領域の中にあることが好ましい。
図1に示すように、第三領域は、上記直線D、直線E、直線Gに加え、下記の直線Hおよび直線Iによって囲まれた五角形の領域として定義される。
直線Hは、点8と、上記の点7とを結んだ直線として定義される。ここで、
点8(0.1,0.50)
点7(6.5,3.50)
である。
また、直線Iは、点9と、上記の点4とを結んだ直線として定義される。ここで、
点9(6.5,7.00)
点4(3.0,10.00)
である。
NiおよびAl等の含有量が、上記のような第三領域にあることで、特に、α相の維持によって保磁力Hcを小さく抑える効果に優れ、Hc≦500A/mとしやすくなる。例えば、パーメンジュールの磁気焼鈍の温度として一般的な1100℃で熱処理を行っても、α相を高度に維持することができる。
[Cr、Moの添加]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、必須の添加元素であるNi、およびAl、Si、Vから選択される少なくとも1種のみを、上記第一領域(または第二領域、第三領域)の中の量だけ含有するものであってもよいが、さらに、任意元素として、CrおよびMoの少なくとも一方を含有するものであってもよい。CrおよびMoの少なくとも一方を含有することで、軟磁性合金の電気抵抗を高めることができる。また、耐食性を高めることができる。軟磁性合金は、CrおよびMoの一方のみを含有しても、両方を含有してもよいが、耐食性を効果的に高める等の観点から、少なくともCrを含有することが好ましい。
Crを含有する場合に、Crの含有量は、1%≦Cr≦14%とされる。Crの含有量を1%以上とすることで、電気抵抗率ρとして、ρ≧70μΩcmの高い値を達成することができる。電気抵抗を高めることで、軟磁性合金における渦電流損失を低減することができる。また、Crは、保磁力Hcを下げる効果も有し、その含有量を1%以上とすることで、Hc≦500A/mとしやすくなる。
ただし、Crの含有量を上げすぎると、飽和磁束密度が低下しやすくなる。Crの含有量を14%以下としておくことで、B30000≧1.7Tのように、高飽和磁束密度を確保しやすい。Cr≦9%とすると、高飽和磁束密度が一層維持されやすい。一方、Cr>9%、Cr≧10%、さらに特にCr≧12%とすれば、電気抵抗率および耐食性の向上の効果を、特に高く得ることができる。
一方、Moを含有する場合には、Moの含有量は、1%≦Mo≦6%とするとよい。Moの含有量を1%以上とすることで、電気抵抗および耐食性を高める効果に優れる。また、Moの含有量を6%以下としておくことで、高飽和磁束密度を確保することができる。
上記のように、少なくともCrを軟磁性合金に含有させることが好ましく、さらにMoを含有させる場合には、CrおよびMoのそれぞれの含有量が、1%≦Cr≦14%および1%≦Mo≦6%の範囲にあることが好ましい。このようにCrとMoの両方を含有する形態は、Crの一部をMoに置換し、CrとMoの組み合わせを、軟磁性合金に含有させる形態とみなすこともできる。Moは、Crよりも電気抵抗および耐食性を高める効果に優れ、添加量が少なくても、高い効果を得ることができる。この観点から、CrとMoの組み合わせを採用する場合に、Crの含有量とMoの含有量の3.3倍の値との合計値として、上記Crのみを採用する場合と同量を添加することが特に好ましい。すなわち、高飽和磁束密度を確保しながら電気抵抗と耐食性を高める観点から、1%≦Cr+3.3Mo≦14%とすればよい。また、高飽和磁束密度を一層高度に維持する観点からは、Cr+3.3Mo≦9%とするとよい。一方、特に高い電気抵抗率および耐食性を得る観点からは、Cr+3.3Mo>9%、特にCr+3.3Mo≧10%、さらにCr+3.3Mo≧12%とすればよい。Moを併用することでCrの含有量を小さく抑えることは、磁束密度の値を大きく維持するのに寄与する。
[他の添加元素]
本発明の実施形態にかかる軟磁性合金は、必須の添加元素であるNi、およびAl、Si、Vから選択される少なくとも1種に加えて、あるいは、それら必須の添加元素および任意元素であるCr、Moの少なくとも一方に加えて、さらに、任意元素として、以下の群から選択される元素を、1種または2種以上含有するものであってもよい。
・0.03%≦Pb≦0.30%
・0.002%≦Bi≦0.020%
・0.002%≦Ca≦0.20%
・0.01%≦Te≦0.20%
・0.03%≦Se≦0.30%
上記から選択される添加元素を1種または2種以上含有することで、軟磁性合金の切削性を向上させることができる。上記各元素の含有量の下限値は、切削性向上の効果が得られる含有量として規定されている。一方、上記各元素の含有量の上限値は、磁気特性の低下を回避できる含有量として規定されている。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。以下において、実施例A2,A4,B2,B2’は、それぞれ、参考例A2,A4,B2,B2’と読み替えるものとする。
実施例A1〜A12,B1〜B18および比較例1〜9として、表1および表2に示す成分組成(単位:質量%)を有する軟磁性合金をそれぞれ作製した。加えて、表2の実施例B群の一部の軟磁性合金に対して、表3に示す添加元素をさらに加えて、実施例B’群にかかる軟磁性合金を作製した。いずれの成分組成においても、残部はFeおよび不可避的不純物である。具体的な製造方法としては、各組成比を有する金属材料を真空誘導炉で溶製し、鋳造、熱間鍛造した。そして、下記各試験に用いる測定試験片の形状に加工し、850℃での磁気焼鈍を行った。
このようにして得られた測定試験片を用いて、磁束密度B30000、保磁力Hc、電気抵抗率ρ、硬さの各値の測定と、耐食性の評価を行った。さらに一部の実施例については、切削性の評価も行った。以下に、各試験の方法を説明する。
<磁束密度の測定>
各軟磁性合金を、外径φ28mm、内径φ20mm、厚さt3mmの円筒状に加工し、磁気リング(鉄心)とした。この磁気リングを用いて、一次コイル(480ターン)と二次コイル(20ターン)を形成し、測定試料とした。そして、磁気計測機器(電子磁気工業製「BH−1000」)を用いて、磁束密度を計測した。磁束密度の計測は、一次コイルに電流を流して磁気リングに磁界Hを発生させ、二次コイルに誘起した電圧の積分値に基づいて、磁気リングに発生した磁束密度を算出することで行った。計測においては、磁界Hを30000A/mとし、その時の磁束密度の値であるB30000を記録した。
<保磁力の測定>
上記磁束密度の測定に用いたのと同じ測定試料および磁気計測装置を用い、磁化曲線(B−H曲線)の測定を行った。そして、得られたヒステリシスループに基づいて、保磁力Hcを見積もった。
<電気抵抗率の測定>
各軟磁性合金を、断面10mm四方、長さ30mmの角柱状に加工し、電気抵抗率を測定した。測定は、四端子法にて行った。
<耐食性の評価>
JIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験により、各軟磁性合金の耐食性を評価した。つまり、塩水噴霧を行って24時間後に、試料表面を目視にて観測し、錆の発生が確認される領域の面積の割合を錆発生率として見積もった。錆発生率の値が小さいほど、耐食性が高いことになる。
<硬さの測定>
各軟磁性合金を1cm角に加工し、樹脂に埋め込んで研磨した。この試験片に対し、ビッカース硬さ試験機を用いて、ビッカース硬さ(Hv)を測定した。
<切削性の評価>
実施例B群の一部および実施例B’群にかかる軟磁性合金について、切削性試験を行って、切削性を評価した。つまり、厚さ5mmの板状試料に、直径2mmのドリルを用いて穴を貫通させた。貫通不能となるまでに形成した貫通穴の数を計数することで、各試料の切削性を評価した。81個以上の穴を貫通できた場合を、切削性が特に優れる「◎」、51個以上80個以下の穴を貫通できた場合を、切削性良好「○」、51個未満の穴しか貫通できなかった場合を切削性不良「×」と評価した。なお、切削速度は20m/minとした。
<結果>
表1に、実施例A1〜A12および比較例1〜9にかかる軟磁性合金について、成分組成と上記各試験の結果を示す。NiおよびAl等の含有量について、実施例A1〜A10は、図1中で「□」で囲んだ番号で示した点1〜点10に対応しており、比較例2〜9は、( )で囲んだ番号で示した各点に対応している。比較例1は、純鉄である。
Figure 0006859862
表1によると、NiおよびAl等の含有量が第一領域にある各実施例においては、磁束密度B30000が1.7T以上となっており、かつ、保磁力Hcが1000A/m以下となっている。つまり、Niと、Al、Si、Vから選択される少なくとも1種とを、上記第一領域内の含有量で、Feに添加することで、保磁力が低く、しかも飽和磁束密度が高い、優れた軟磁性合金が得られることが示されている。さらに、CrおよびMoの添加の有無のみにおいて異なる実施例A10と、実施例A11、A12とを比較すると、実施例A11、A12のように、CrまたはMoを添加することで、高磁束密度と低保磁力を維持したまま、高電気抵抗と高耐食性が得られる。
これに対し、純鉄を用いている比較例1においては、高磁束密度と低保磁力が達成されているものの、耐食性に劣り、電気抵抗率ρも低くなっている。Al、Si、Vが含有されず、多量のNiが含有されている比較例2においては、磁束密度B30000は高い値を示しているものの、保磁力Hcが1000を超えて大きくなっており、軟磁気特性に劣っている。比較例3においては、Alが含有されるものの、その含有量が少なすぎるため、やはり保磁力Hcが大きくなっている。比較例4,8,9においても、Niの含有量が多すぎることにより、保磁力Hcが大きくなっている。なお、比較例4,8,9は、Ni以外の添加元素として、それぞれAl,Si,Vを含有するものであるが、Niおよびそれらの元素の含有量が同程度であり、いずれにおいても、保磁力Hcが、2000A/mを超える大きな値となっている。比較例5,6においては、第一領域を区画する直線Cおよび直線Dよりも、NiおよびAlの含有量が多い領域に位置することに対応し、磁束密度がB30000が、1.7T未満と小さくなっている。比較例7においても、Niが含有されないことにより、磁束密度がB30000が、1.7T未満となっている。
表2に、さらにCrおよびMoの含有量を高めた場合を含む実施例B1〜B18について、軟磁性合金の成分組成と上記各試験の結果を示す。
Figure 0006859862
表2によると、実施例B1〜B17のように、Cr(またはCr+3.3Mo)の含有量を9%を超えて多くすることで、特に高い電気抵抗率と耐食性が達成されていることが分かる。特に、NiおよびAlまたはVの含有量が同じで、Crの含有量が異なる実施例B1と実施例B3を比べると、Crの含有量が多い実施例B3において、電気抵抗率と耐食性が向上していることが分かる。保磁力の低下も観測されている。NiおよびAl、Moの含有量がほぼ同じになっている実施例B10とB11の比較においても、Crの含有量の多い実施例B10の方が、電気抵抗率と耐食性が高くなっている。
また、Moの添加の有無においてのみ異なる実施例B1と実施例B5を比較すると、Crに加えてMoを添加することで、電気抵抗率および耐食性の上昇が達成されることが分かる。NiおよびAlの含有量が同じで、ともにCrを含有しない実施例B17と実施例B18の比較においても、Moの含有量の多い実施例B17の方で、電気抵抗率および耐食性の低下が達成されている。さらに、実施例B12とB13では、Niの含有量が同じで、Alの含有量もほぼ同じであるが、Cr+3.3Moの値の大きいB13の方が、電気抵抗率が高くなっている。また、NiおよびAlの含有量が同じである実施例B15〜18を比較した場合に、Cr+3.3Moの値が実施例B18よりも大きい実施例B15〜B17において、実施例B18に比べて、高い耐食性が得られている。
実施例B10〜B18では、実施例B1〜B9と比較して、硬さが低くなっているが、これは、実施例B10〜B18において、Al/Niの含有量比が1以上と大きくなっており、フェライト組織の寄与が大きくなることに対応していると推測される。しかし、実施例B10〜B18においては、Crの含有量を比較的少なく抑えること、またはCrを含有させないことで、Niの含有量が少なくても、磁束密度の値を大きく維持できている。そして、Crの含有量が少なくても、Moによって、Cr+3.3Moの値を大きく維持することで、電気抵抗率と耐食性を高く保っている。
さらに、表2に示したうち、実施例B1,B2,B5,B6、B8,B11の成分組成にさらにPb、Bi、Ca、Te、Seから選択される1種または2種以上の添加元素を含有する実施例B1’,B2’,B5’,B6’,B8’,B11’にかかる軟磁性合金を準備し、それら添加元素の有無と切削性の関係を評価した。成分組成と切削性の評価結果を表3に示す。なお、掲載は省略するが、それらの添加元素を添加したB’群の各実施例において、対応するB群の実施例について得られた表2の値と同等の、磁束密度、保磁力、電気抵抗率、耐食性、硬さが得られることを確認している。
Figure 0006859862
表3を見ると、Pb、Bi、Ca、Te、Seから選択される1種または2種以上を含有しないB群の実施例においても、ある程度高い切削性が得られているが、それらの添加元素を含有するB’群の実施例において、切削性が特に向上されることが分かる。つまり、Pb、Bi、Ca、Te、Seが軟磁性合金の切削性を向上する効果を有することが確認される。
以上、本発明の実施形態、実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態、実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。

Claims (8)

  1. Niと、
    AlおよびVから選択される少なくとも1種と、を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
    質量%で、Niの含有量を[Ni]、AlおよびVの合計含有量を[M]として、前記[Ni]と[M]の関係をプロットしたグラフにおいて、下記の直線A、直線B、直線C、直線D、直線Eによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在することを特徴とする軟磁性合金。
    直線A:[M]=0.01
    直線B:[Ni]=11.0
    直線C:[Ni]=11.0、[M]=7.00の点と、[Ni]=3.0、[M]=10.00の点とを結ぶ直線
    直線D:[Ni]=3.0、[M]=10.00の点と、[Ni]=0.1、[M]=7.00の点とを結ぶ直線
    直線E:[Ni]=0.1
  2. 前記グラフにおいて、前記直線A、直線C、直線D、直線Eと、下記直線F、直線Gによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在することを特徴とする請求項1に記載の軟磁性合金。
    直線F:[Ni]=1.0、[M]=0.01の点と、[Ni]=6.5、[M]=3.50の点とを結ぶ直線
    直線G:[Ni]=6.5
  3. 前記グラフにおいて、前記直線D、直線E、直線Gと、下記直線H、直線Iによって囲まれる領域の中に、前記[Ni]および[M]が存在することを特徴とする請求項2に記載の軟磁性合金。
    直線H:[Ni]=0.1、[M]=0.50の点と、[Ni]=6.5、[M]=3.50の点とを結ぶ直線
    直線I:[Ni]=6.5、[M]=7.00の点と、[Ni]=3.0、[M]=10.00の点とを結ぶ直線
  4. さらに、質量%で、1%≦Cr≦14%を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の軟磁性合金。
  5. さらに、質量%で、1%≦Mo≦6%を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の軟磁性合金。
  6. 前記軟磁性合金はCrおよびMoを含有し、質量%で、1%≦Cr+3.3Mo≦14%であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の軟磁性合金。
  7. さらに、質量%で、0.03%≦Pb≦0.30%、0.002%≦Bi≦0.020%、0.002%≦Ca≦0.20%、0.01%≦Te≦0.20%、0.03%≦Se≦0.30%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1から6にいずれか1項に記載の軟磁性合金。
  8. ビッカース硬さHvが250以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の軟磁性合金。
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