JP7453796B2 - 低磁性オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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本発明は、低磁性オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
従来、オーステナイト系ステンレス鋼として、例えばリニアモータカーの鉄筋固定用金具や、スマートフォンなどの精密機器のばね材などとして利用可能なものがある。
このような用途のステンレス鋼は、まず低磁性であることが求められる。元来、これらの用途ではSUS316、SUS304などの安定系または準安定系のオーステナイト系ステンレス鋼を調質圧延により高強度化しばね性を付与して使用することが多いが、オーステナイト安定度が低いと調質による加工歪が加わることで加工誘起マルテンサイトの生成により磁性を有するようになり、このような用途に対し不適となる場合がある。そのようなステンレス鋼を低磁性(非磁性)鋼とする手段として、一般的には、(a)Ni(ニッケル)の含有量を増やしたり、N(窒素)を添加したり、Cu(銅)を添加したりすることによりオーステナイト安定度を高める手法、および、(b)Mn(マンガン)を多量添加する手法などが知られている。
特開昭61-213351号公報 特開平7-113144号公報 特開2012-177170号公報 特開2004-225082号公報 特開平9-272954号公報
上記の(a)の手法では、高価なNiの含有率増加によりコスト高を招き、またγ単相とすることで製造性が悪化するおそれがある。また、上記の(b)の手法では、Niの含有量が低く、Mnの含有量が高いステンレス鋼は、スクラップ管理が問題となり、また製鋼での製造性が悪化するおそれがある。
そこで、Niベースでオーステナイト安定度を高めた鋼が望まれる。
さらに、リニアモータカーでは、走行時に磁力を使用しており、精密機器では、周囲の電子機器やセンサ類に対し影響を極力与えないようにすることから、それぞれに使用されるステンレス鋼は、シールド性が高いほうが望ましい。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、低磁性で、かつ、ばね性およびシールド性に優れた安価な低磁性オーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
請求項1記載の低磁性オーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C(炭素):0.08%以下、Si(ケイ素):1.0%以下、Mn:2.0%未満、P(リン):0.045%以下、S(硫黄):0.02%未満、Ni:8.0%以上9.5%未満、Cr(クロム):17%以上21%以下、Mo(モリブデン):0.5%以下、Cu:0.1%以上1.5%以下、N:0.02%以上0.12%以下、O(酸素):0.015%以下、Co(コバルト):0.17%以上0.24%以下、Al(アルミニウム):0.024%以下、Sn(錫):0.02%以下を含有するとともに、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)の少なくともいずれか1種を合計で0.093%以上0.381%以下含有し、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなり、含有されている各元素の含有量の質量%が代入され、無添加のものは0が代入される以下の各式において、Cu-0.2Moの値が0.10以上で、25N-Cuの値が0以上で、Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示されるオーステナイト安定指標であるMd30の値が-40℃~-100℃であり、ビッカース硬さHVが300以上350以下であるものである。
求項記載の低磁性オーステナイト系ステンレス鋼は、請求項記載の低磁性オーステナイト系ステンレス鋼において、質量%で、B(ホウ素):0.005%以下をさらに含有するものである
本発明によれば、Niをベースとしながら、主としてCu、N、Moの添加バランスを制御し、高価なNiの添加量を抑制して、低磁性で、かつ、ばね性およびシールド性に優れた安価な低磁性オーステナイト系ステンレス鋼を提供できる。
本実施例のCu-0.2Moと比透磁率との関係を示すグラフである。 本実施例のCu-0.2Moとシールド効果との関係を示すグラフである。 本実施例の25N-Cuとビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
本実施の形態のステンレス鋼は、低磁性のオーステナイト系ステンレス鋼であって、0.08質量%以下のC、1.0質量%以下のSi、2.0質量%未満のMn、0.045質量%以下のP、0.02質量%未満のS、8.0質量%以上9.5質量%未満のNi、17質量%以上21質量%以下のCr、0.5質量%以下のMo、0.1質量%以上1.5質量%以下のCu、0.02質量%以上0.12質量%以下のN、0.015質量%以下のOを含有する。また、ステンレス鋼は、0.005質量%以下のBを含有していてもよい。さらに、ステンレス鋼は、V、Nb、Ti、Ta、Zrの少なくともいずれか1種を合計0.5質量%以下含有していてもよい。そして、ステンレス鋼は、残部がFeおよび不可避的不純物で構成される。
Cは、オーステナイト安定化元素であり、低磁性化(非磁性化)に対してきわめて有効な元素である。また、Cは添加により高強度化、ばね性の付与が図れる元素であるが、0.08質量%を超えて添加するとステンレス鋼の耐食性を損なう。そのため、Cは上限を0.08質量%とする。なお、Cは無添加を含まない。
Siは、高強度化に有利な元素であるものの、フェライト安定化元素であるため、非磁性化には不利な元素である。したがって、Siは、上限を1.0%質量とする。なお、Siは無添加を含まない。
Mnは、オーステナイト安定化元素であり、低磁性化(非磁性化)には極めて有効な元素である。また、Mnを用いることにより、高価なNiを節約することができる。ただし、Mnは、含有量が高いとステンレス鋼の耐食性が低下し、特にMnの含有量が高く、Niの含有量を抑制した場合は、ステンレス鋼のスクラップの管理などの問題が生じる。そのため、本実施の形態のステンレス鋼は、Niベースとし、Mnの上限を2.0質量%未満とする。また、Mnの下限は、好ましくは0.7質量%とする。なお、Mnは無添加を含まない。
PおよびSは、ステンレス鋼に不可避的に混入する不純物であるが、いずれも熱間加工性を低下させる元素である。そのため、P、Sは無添加とすることが好ましいが、不可避的に混入する場合でもPの上限を0.045質量%、Sの上限を0.02質量%未満とする。
Niは、オーステナイト安定化元素であり、低磁性化(非磁性化)には極めて有効な元素である。本実施の形態において、必要な低磁性化(非磁性化)を確保するためには、最低でもNiを8.0質量%以上添加する必要がある。一方で、Niは、高価な元素であり、必要以上の添加はコスト増となるため、9.5質量%未満とする。
Crは、オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素であり、耐食性を付与する元素である。Crは、ステンレス鋼に必要な耐食性を付与するために17質量%以上の添加を必要とする。ただし、Crの過剰な添加は非磁性を損なうため、上限を21質量%とする。
Moは、高価な元素かつフェライト生成元素である。他方、検討の結果、Moは電磁波シールド性を低下させることが判明した。したがって、本実施の形態においては、無添加とすることが好ましいが、工業生産においてはMo添加鋼も同一ラインで製造し、また一定量のスクラップを使用する関係上、不可避的な混入は避けられない。その点を考慮し、Moの上限を0.5質量%とする。
Cuは、本実施の形態において最も重要な添加元素である。Cuは、非磁性を向上するだけでなく、検討の結果、電磁波シールド性を向上させる効果があることが明らかになった。これは、鋼表面またはバルク中への濃化もしくは析出により電界波の反射もしくは多重反射特性を向上させていることが考えられる。この効果を発揮するために、Cuは最低でも0.1質量%の添加が必要となり、好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上とする。ただし、必要以上のCuの添加は、ステンレス鋼の熱間加工性およびばね性を損なうため、上限を1.5質量%とし、好ましくは1.0質量%以下とする。
Nは、オーステナイト安定度を高めるとともに、ステンレス鋼の強度や耐食性、および、ばね性を向上させる。そのため、Nは0.02質量%以上、好ましくは0.03質量%以上添加する。他方、Nの過剰な添加はステンレス鋼の熱間加工性等の製造性を低下させるため、上限を0.12質量%とする。
Oは、不可避的不純物として鋼中への混入が避けられない元素であるが、加工品として使用される用途が多く、加工割れの起点となる大型介在物の生成を極力抑制するために、極力低減することが望ましい。つまり、本実施の形態において、Oは無添加とすることが好ましいが、不可避的に混入される場合でも上限を0.015質量%とする。
Bは、オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。ただし、Bの過剰な添加はステンレス鋼の製造性を損なうので、上限を0.005質量%とする。
V、Nb、Ti、Ta、Zrは、いずれもステンレス鋼の強度を向上させる元素であり、またCを固定することで耐粒界腐食性を向上させる元素である。これらV、Nb、Ti、Ta、Zrは、少なくともいずれか1種を必要に応じ添加することができる。ただし、V、Nb、Ti、Ta、Zrの必要以上の添加はステンレス鋼中に過剰に形成された析出物により冷間加工性が低下するため、合計の上限を0.5質量%以下とする。
そして、本実施の形態のステンレス鋼は、調質圧延やプレス加工などにより圧延率30%の冷間圧延に相当する加工歪を付加した状態で、硬さがHV300~350、かつ、比透磁率μrが1.1以下であるとともに、周辺機器に誤操作などの影響を与えるノイズを遮断するシールド性を有している。本実施の形態のステンレス鋼は、KEC法(電界)により測定される周波数200MHzの電磁波に対する板厚0.30mmでのシールド効果(SE)が74dB以上である。
そのため、本実施の形態のステンレス鋼は、上記各元素の含有量の範囲において、含有されている各元素の含有量の質量%が代入され、無添加のものは0が代入される以下の各式において、Cu-0.2Moの値が0.10以上で、25N-Cuの値が0以上で、Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示されるオーステナイト安定指標であるMd30の値が-40℃~-100℃、好ましくは-50℃~-80℃となるように成分調整されている。
これは、上記のとおり、電界波のシールド特性に対し、Cu添加が有効である一方で、Moの添加はシールド特性を阻害することから、その効果がCu-0.2Moで整理できることを見出したことに基づくものである。0.30mmの板厚で、周波数200MHzの電界波に対するシールド効果(SE)を74dB以上とするために、Cu-0.2Moの値は0.10以上とする必要がある。
また、調質圧延時のステンレス鋼のばね特性に対し、Nが有効である一方で、Cuの添加はばね性を低下させることから、その効果が25N-Cuにより整理できることを見出し、ビッカース硬さHVを指標としたときに、圧延率30%の冷間圧延に相当する加工歪を付加した状態でHV300~350とするために、25N-Cuを0以上とする必要がある。
さらに、圧延率30%の冷間圧延に相当する加工歪を付加した状態で比透磁率μrを1.1以下とするために、Md30を-40℃以下、好ましくは-50℃以下とする必要がある。その中で、本実施の形態のステンレス鋼は、Niベースでかつ極力低Niとするため、CuとNとの添加バランスを考慮した成分系とし、Md30の下限を設定している。
このように、本実施の形態によれば、Niをベースとしながら、主としてCu、N、Moの添加バランスを制御し、高価なNiの添加量を抑制しつつ、低磁性で、かつ、ばね性およびシールド性に優れた安価な低磁性オーステナイト系ステンレス鋼を提供できる。
そして、本実施の形態のステンレス鋼は、所定の製造工程を経て、リニアモータカー周辺部材、特にリニアモータカー鉄筋固定用金具として、または、例えばスマートフォン内部の構成部品、自動車、ゲーム機器、ロボットなどの電装部品、センサ周辺部材、各種自動回路、制御回路など、精密機器のばね材やシールドカバーなどの内部構成部品として好適に用いられる。
以下、本実施例および比較例について説明する。
まず、表1に示す組成のステンレス鋼を溶製した。表1において、サンプルNo.1~6が本発明で規定する化学成分を有する発明対象鋼(本実施例)で、サンプルNo.7~16が比較鋼(比較例)である。
表1に示す各組成のステンレス鋼を30kg真空溶解炉で溶解した30kgインゴットを厚み50mm、幅150mmに鍛造した後、厚み35mm、幅150mm、奥行き180mmに切り出し、1230℃で2時間在炉後、この温度から熱間圧延を7パス実施し、厚み4.5mmに圧延し300mm長さに切断した後、1100℃で均熱1分のTOP焼鈍および酸洗を行った。その後、室温での冷間圧延、300mm長さへの切断、1100℃で均熱1分の焼鈍および酸洗、の一連の工程を2度繰り返し、板厚0.43mmの冷延焼鈍酸洗板を得た。その後、室温で圧延率30%の調質圧延を実施し、厚み0.30mmに仕上げた。
このように製造されたステンレス鋼に対し、比透磁率を測定した。この比透磁率の測定には、理研電子株式会社の振動試料型磁力計(VSM)を用い、放電加工にて直径8mmに切り出した試験片を5枚重ねにして、磁場H=15kOe(エルステッド)付与時の磁束密度を測定し、その傾きより比透磁率μrを求めた。比透磁率μrは、1.10以下を良好と判定し、それより大きいものをNGと判定した。
また、上記ステンレス鋼に対し、電磁波のシールド性を測定した。このシールド性の測定には、アンリツ株式会社製シールドボックス(MA8602B)を用いKEC法(電界)にて測定した。微小モノポールアンテナを発信源とした電界波にて、発信波に対する受信波の電力の比で表されるシールド効果(dB)を測定した。シールド効果は、周波数200MHzにおける値が74dB以上となるものを良好と判定し、それ未満のものをNGと判定した。
さらに、上記ステンレス鋼に対し、ばね特性を測定した。ばね特性の指標としては、ビッカース硬さを用いた。硬さ測定はJIS Z2244に準拠し、板表面の硬さを測定した。ビッカース硬さHVは、300以上350以下を良好と判定し、その範囲を逸脱するものをNGと判定した。
Figure 0007453796000001
表1、および、図1に示すように、本実施例のステンレス鋼は、上記の実施の形態の範囲を満たしていることにより、Niをベースとしながらも、Cu、Nの添加バランスによって、極力低Niでオーステナイト安定度を確保し、比透磁率μrが1.10以下の低磁性(非磁性)を有する。
また、表1、および、図2に示すように、本実施例のステンレス鋼は、上記の実施の形態の範囲を満たしていることにより、周波数200MHzの電界波に対するシールド効果が74dB以上の、良好なシールド性を有する。
それに対し、表1中のサンプルNo.8~10のステンレス鋼については、鋼中成分に基づくMd30の数値が上記の実施の形態の範囲を逸脱していたため(表中の下線)、比透磁率μrが1.10より大きかった。
また、表1中のサンプルNo.11~16のステンレス鋼については、鋼中成分に基づくCu-0.2Moの値が上記の実施の形態の範囲を逸脱していたため(表中の下線)、シールド効果が74dB未満となった。
さらに、表1、および、図3に示すように、本実施例のステンレス鋼は、上記の実施の形態の範囲を満たしていることにより、ビッカース硬さHVが300以上350以下の範囲にある、良好なばね特性を有する。
それに対し、表1中のサンプルNo.7,8のステンレス鋼については、鋼中成分に基づく25N-Cuの値が上記の実施の形態の範囲を逸脱していたため(表中の下線)、ビッカース硬さHVが300未満となり、良好なばね性を得ることができなかった。
したがって、本発明の条件を満たすことにより、安価かつ比透磁率、ばね性およびシールド性に優れたステンレス鋼が製造できることが確認された。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.08%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%未満、P:0.045%以下、S:0.02%未満、Ni:8.0%以上9.5%未満、Cr:17%以上21%以下、Mo:0.5%以下、Cu:0.1%以上1.5%以下、N:0.02%以上0.12%以下、O:0.015%以下、Co:0.17%以上0.24%以下、Al:0.024%以下、Sn:0.02%以下を含有するとともに、V、Nb、Ti、Ta、Zrの少なくともいずれか1種を合計で0.093%以上0.381%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    含有されている各元素の含有量の質量%が代入され、無添加のものは0が代入される以下の各式において、
    Cu-0.2Moの値が0.10以上で、
    25N-Cuの値が0以上で、
    Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示されるオーステナイト安定指標であるMd30の値が-40℃~-100℃であり、
    ビッカース硬さHVが300以上350以下である
    ことを特徴とする低磁性オーステナイト系ステンレス鋼
  2. 質量%で、B:0.005%以下をさらに含有する
    ことを特徴とする請求項1記載の低磁性オーステナイト系ステンレス鋼
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