以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の加硫ゴム用離型剤は、(I)下記一般式(1)で表わされるポリカルボン酸塩と、(II)下記一般式(2)で表わされるポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)、下記一般式(5)で表わされるポリアルキレングリコール(II−ii)、及び下記一般式(6)で表わされるグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)からなる群から選択される少なくとも1種のアルキレンオキサイド化合物と、を含有することを特徴とする。
(I)ポリカルボン酸塩
本発明に係るポリカルボン酸塩((I)ポリカルボン酸塩)は、下記一般式(1):
[式(1)中、aは2〜4の整数を示し、R1は2〜4価で炭素数5〜22の炭化水素基を示し、Z1はアルカリ金属原子、アンモニウム、及び炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種を示し、複数あるZ1は同一でも異なっていてもよい。]
で表わされる。(I)ポリカルボン酸塩としては、一般式(1)で表わされるポリカルボン酸塩のうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一般式(1)中、ポリカルボン酸の価数であるaは2〜4の整数であることが必要である。aの値が1である場合、すなわちモノカルボン酸塩である場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性及び洗浄性が発揮されない。他方、aの値が前記上限を超えると、離型剤において優れた挿入性及び離型性が発揮されない傾向にある。また、aの値としては、より優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、2である、すなわち前記ポリカルボン酸塩がジカルボン酸塩であることが好ましい。
一般式(1)中、R1は2〜4価で炭素数5〜22の炭化水素基を示す。このような炭化水素基としては、比較的かさ高い炭化水素基であることが好ましく、炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基及び炭素数5〜22の脂環式炭化水素基のうちのいずれかであることが好ましく、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基又は炭素数5〜22の脂環式炭化水素基であることがより好ましく、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基であることがさらに好ましい。
炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。このような脂肪族炭化水素基としては、炭素数が8〜20であることが好ましく、10〜18であることがより好ましい。炭素数が前記上限を超える場合には、離型剤の安定性及び洗浄性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性及び離型性が低下する傾向にある。また、前記脂肪族炭化水素基としては、離型剤においてより優れた塗布性が発揮される傾向にある観点から、アルカン又はアルケンから2〜4個の水素原子を除いた基であることが好ましい。これらの中でも、前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数8〜20のアルキレン基又は炭素数8〜20のアルケニレン基であることがより好ましく、炭素数10〜18のアルキレン基又は炭素数10〜18のアルケニレン基であることがさらに好ましく、炭素数10〜18のアルキレン基であることが特に好ましい。
また、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン又はテトラセンから2〜4個の水素原子を除いた基が挙げられ、これらの中でも、離型剤においてより優れた挿入性及び離型性が発揮される傾向にある観点から、ベンゼン、ナフタレン又はアントラセンから2〜4個の水素原子を除いた基が好ましく、ベンゼンから2〜4個の水素原子を除いた基がより好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
さらに、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基としては、飽和であっても不飽和であってもよく、脂肪族炭化水素の側鎖を有する脂環であってもよい。このような脂環式炭化水素基としては、離型剤においてより優れた挿入性及び離型性が発揮される傾向にある観点から、炭素数(側鎖の炭素数を含む)が6〜18であることがより好ましく、6〜11であることがより好ましい。炭素数が前記上限を超える場合には、離型剤の安定性及び洗浄性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性及び離型性が低下する傾向にある。また、前記脂環式炭化水素基としては、シクロアルカン又はシクロアルケンから2〜4個の水素原子を除いた基であることがより好ましく、シクロアルカン又はシクロアルケンは炭素数1〜5のアルキル基を側鎖として有していてもよい。これらの中でも、前記脂環式炭化水素基としては、メチル基を側鎖として有していてもよい炭素数6〜11のシクロアルカン又はシクロアルケンから2〜4個の水素原子を除いた基(ここで、シクロアルカン及びシクロアルケンがメチル基を側鎖として有する場合、該脂環式炭化水素基の炭素数にはメチル基の炭素数を含む。)がより好ましく、メチル基を側鎖として有していてもよい炭素数6〜11のシクロアルキレン基がさらに好ましい。
上記の中でも、R1としては、炭素数8〜20のアルキレン基、炭素数8〜20のアルケニレン基、フェニレン基、炭素数6〜11のシクロアルカンから2〜4個の水素原子を除いた基、及び炭素数6〜11のシクロアルケンから2〜4個の水素原子を除いた基(ここで、シクロアルカン及びシクロアルケンはメチル基を側鎖として有していてもよい。)からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、炭素数10〜18のアルキレン基、炭素数10〜18のアルケニレン基、フェニレン基及びメチル基を側鎖として有していてもよい炭素数6〜11のシクロアルキレン基からなる群から選択されるいずれか1種であることがさらに好ましく、フェニレン基であることが特に好ましい。
一般式(1)において、Z1はアルカリ金属原子、アンモニウム、及び炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種を示す。前記アルカリ金属原子としては、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)が好ましい。また、前記炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムとしては、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウムが好ましい。これらの中でも、Z1としては、離型剤においてより優れた挿入性及び離型性が発揮される傾向にある観点から、アルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウム及びカリウムのうちのいずれか1種であることがより好ましい。また、(I)ポリカルボン酸塩において、複数あるZ1は互いに同一でも異なっていてもよいが、製造容易性の観点から、互いに同一の基であることが好ましい。
また、(I)ポリカルボン酸塩としては、−COOZ1で示される基がR1のどの位置に配置されていてもよいが、(I)ポリカルボン酸塩が芳香族ポリカルボン酸塩又は脂環式ポリカルボン酸塩である場合には、離型剤の挿入性及び塗布性がいずれもより向上する観点から、同一面上又は近接位にあることが好ましい。このような構造としては、例えば、(I)ポリカルボン酸塩が芳香族ポリカルボン酸塩である場合には、1,3−位、1,3,5−位、又は隣り合う炭素原子に上記基が位置する構造(例えば、1,2−位)が好ましく、隣り合う炭素原子に上記基が位置する構造(例えば、1,2−位)がより好ましい。また、例えば、(I)ポリカルボン酸塩が脂環式ポリカルボン酸塩である場合には、1,3−位、1,3,5−位、又は隣り合う炭素原子に上記基が位置する構造(例えば、1,2−位)が好ましく、隣り合う炭素原子に上記基が位置する構造(例えば、1,2−位)がより好ましい。このような構造を有することにより、(II)アルキレンオキサイド化合物への配向性がよくなって離型剤の挿入性及び塗布性がいずれも向上するものと本発明者らは推察する。上記構造を有するポリカルボン酸塩としては、フタル酸2カリウム及び1,2−シクロヘキシルジカルボン酸2カリウムが挙げられ、(I)ポリカルボン酸塩としては、これらのポリカルボン酸塩のうちの少なくとも1種であることが特に好ましい。
本発明の加硫ゴム用離型剤において、(I)ポリカルボン酸塩の含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量(水を除く、以下同じ)に対して0.5〜20質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。(I)ポリカルボン酸塩の含有量が前記上限を超える場合には、(I)ポリカルボン酸塩は融点が高く室温で粉体である傾向にあることから、溶解しきれずに析出して離型剤の安定性低下を引き起こす場合があり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性及び離型性が低下する傾向にある。
(II)アルキレンオキサイド化合物
(II−i)ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物
本発明に係るポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i))は、下記一般式(2):
[式(2)中、bは2〜5の整数を示し、cは2〜5の整数を示し、dは0〜8の整数を示し、R2は、それぞれ独立に、下記一般式(3):
[式(3)中、AOはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基を示し、e1はAOの平均付加モル数であって1〜350の整数を示し、AOが複数ある場合は同一でも異なっていてもよい。]
で表わされる基を示し、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、及び下記一般式(4):
[式(4)中、AOはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基を示し、e2はAOの平均付加モル数であって1〜350の整数を示し、AOが複数ある場合は同一でも異なっていてもよい。]
で表わされる基からなる群から選択されるいずれか1つの基を示し、e1及びe2の総和(e1の総和+e2の総和)は20〜700である。]
で表わされる。
ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)は、ポリアミンにアルキレンオキサイドが付加されたものである。前記ポリアミンとしては、一般式(2)中、bが2〜5の整数を示し、cが2〜5の整数を示し、dが0〜8の整数を示すものであればよく、離型剤においてより優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、一般式(2)中、bが2〜3の整数を示し、cが2〜3の整数を示し、dが0〜4の整数を示すものが好ましく、より具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが好ましく、エチレンジアミンが特に好ましい。
一般式(2)において、一般式(3)で示されるR2及び一般式(4)で示されるR3は、前記ポリアミンに付加したアルキレンオキサイド鎖である。ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)において、前記アルキレンオキサイド(アルキレンオキシ基、AO)はエチレンオキサイド(エチレンオキシ基、EO)及び/又はプロピレンオキサイド(プロピレンオキシ基、PO)であり、前記アルキレンオキサイド鎖としては、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの単独付加であっても、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの共付加であってもよいが、離型剤における挿入性及び離型性と洗浄性との両立の観点から、共付加であることが好ましい。なお、共付加である場合にはブロック付加であってもランダム付加であってもよい。共付加である場合、一般式(2)中におけるエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との平均付加モル数の比(エチレンオキシ基の平均付加モル数:プロピレンオキシ基の平均付加モル数)としては、10:90〜80:20であることが好ましく、10:90〜60:40であることがより好ましく、20:80〜50:50であることがさらに好ましい。プロピレンオキシ基の平均付加モル数に対するエチレンオキシ基の平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤の粘度が小さくなって金型への塗布性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の離型性が低下する傾向にある。また、ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)においては、離型剤においてより優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、複数あるアルキレンオキサイド鎖のうちの少なくともいずれかの末端がエチレンオキサイドが付加してなる基(−EOH)であることが好ましく、前記アルキレンオキサイド鎖の全ての末端がエチレンオキサイドが付加してなる基であることがより好ましい。
一般式(2)において、アルキレンオキサイド鎖1つあたりのアルキレンオキシ基の平均付加モル数(e1、e2)は、それぞれ独立に、1〜350であり、5〜200であることが特に好ましい。前記アルキレンオキサイド鎖1つあたりの平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性及び塗布性が発揮されない傾向にある。また、一般式(2)中におけるアルキレンオキシ基の平均付加モル数の総和(e1の総和+e2の総和)は20〜700であり、30〜600であることが特に好ましい。前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数の総和が前記上限を超える場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性及び塗布性が発揮されない傾向にある。
また、一般式(2)中、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基及び上記の一般式(4)で表わされる基からなる群から選択されるいずれか1つの基である。炭素数1〜5のアルキル基及び炭素数2〜5のアルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、経済性の観点からは炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。これらの中でも、R3としては、離型剤における挿入性及び離型性と洗浄性との両立の観点から、それぞれ独立に、一般式(4)で表わされる基又は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、一般式(4)で表わされる基であることがより好ましい。
ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)としては、例えば、常法に従って、前記ポリアミンに前記アルキレンオキサイドを付加重合させる方法によって得られたものを用いることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。また、ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)としては市販品を用いてもよい。
(II−ii)ポリアルキレングリコール
本発明に係るポリアルキレングリコール(ポリアルキレングリコール(II−ii))は、下記一般式(5):
[式(5)中、AOはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基を示し、fはAOの平均付加モル数であって15〜600の整数を示し、複数あるAOは同一でも異なっていてもよい。]
で表わされる。
ポリアルキレングリコール(II−ii)は、アルキレンオキサイドが重合(付加重合)したものである。ポリアルキレングリコール(II−ii)において、前記アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(エチレンオキシ基、EO)及び/又はプロピレンオキサイド(プロピレンオキシ基、PO)であり、かかるアルキレンオキサイドが付加してなるアルキレンオキサイド鎖としては、これらのうちの1種の単独付加であっても2種の共付加であってもよいが、離型剤における挿入性及び離型性と洗浄性との両立の観点から、共付加であることが好ましい。なお、共付加である場合にはブロック付加であってもランダム付加であってもよい。共付加である場合、一般式(5)中におけるエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との平均付加モル数の比(エチレンオキシ基の平均付加モル数:プロピレンオキシ基の平均付加モル数)としては、10:90〜60:40であることが好ましく、20:80〜40:60であることがより好ましい。プロピレンオキシ基の平均付加モル数に対するエチレンオキシ基の平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤の粘度が小さくなって金型への塗布性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の離型性が低下する傾向にある。また、ポリアルキレングリコール(II−ii)においては、離型剤においてより優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、前記アルキレンオキサイド鎖の末端がエチレンオキサイドが付加してなる基(−EOH)であることが好ましい。
一般式(5)において、アルキレンオキシ基の平均付加モル数(f)は15〜600であり、45〜350であることが特に好ましい。また、ポリアルキレングリコール(II−ii)としては、重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜15,000であることがより好ましい。前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数及び/又は前記重量平均分子量が前記上限を超える場合には、離型剤の挿入性が低下する傾向にある。他方、前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数及び/又は前記重量平均分子量が前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性及び離型性が低下する傾向にある。
ポリアルキレングリコール(II−ii)は、例えば、常法に従って、前記アルキレンオキサイドを重合(付加重合)させる方法により得ることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。
(II−iii)グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物
本発明に係るグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii))は、下記一般式(6):
[式(6)中、R4は炭素数7〜17のアルキル基又は炭素数7〜17のアルケニル基を示し、AOは、それぞれ独立に、エチレンオキシ基(EO)又はプロピレンオキシ基(PO)を示し、g1及びg2はAOの平均付加モル数であって、それぞれ独立に、1〜149の整数を示し、g1及びg2の和(g1+g2)は20〜150であり、そのうち、エチレンオキシ基の平均付加モル数は15〜150であり、プロピレンオキシ基の平均付加モル数は0〜50である。]
で表わされる。
一般式(6)中、R4は炭素数7〜17のアルキル基又は炭素数7〜17のアルケニル基を示す。炭素数7〜17のアルキル基及び炭素数7〜17のアルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、経済性の観点から、直鎖状であることが好ましく、炭素数12〜17の直鎖状アルキル基又は炭素数12〜17の直鎖状アルケニル基であることがより好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)において、アルキレンオキサイドは、それぞれ独立に、エチレンオキサイド(エチレンオキシ基、EO)及び/又はプロピレンオキサイド(プロピレンオキシ基、PO)であり、一般式(6)において、かかるアルキレンオキサイドが付加してなるアルキレンオキサイド鎖としては、これらのうちの1種の単独付加であっても2種の共付加であってもよいが、離型剤における挿入性及び離型性と洗浄性との両立の観点から、共付加であることが好ましい。なお、共付加である場合にはブロック付加であってもランダム付加であってもよい。
一般式(6)において、アルキレンオキサイド鎖1つあたりのアルキレンオキシ基の平均付加モル数(g1、g2)は、それぞれ独立に、1〜149であり、10〜75であることがより好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。前記アルキレンオキサイド鎖1つあたりの平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性及び塗布性が発揮されない傾向にある。また、一般式(6)中におけるアルキレンオキシ基の平均付加モル数の総和(g1+g2)は20〜150であり、40〜120であることが特に好ましい。前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数の総和が前記上限を超える場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤において優れた挿入性、離型性及び塗布性が発揮されない傾向にある。
また、一般式(6)において、同式中のアルキレンオキシ基のうち、エチレンオキシ基の平均付加モル数は15〜150であり、プロピレンオキシ基の平均付加モル数は0〜50である。また、離型剤において挿入性及び離型性と洗浄性とがいずれも優れる傾向にある観点から、エチレンオキシ基の平均付加モル数が15〜80であり、プロピレンオキシ基の平均付加モル数が5〜40であることが特に好ましい。さらに、一般式(6)中におけるエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との平均付加モル数の比(エチレンオキシ基の平均付加モル数:プロピレンオキシ基の平均付加モル数)が、20:80〜60:40であることが好ましく、30:70〜50:50であることがより好ましい。プロピレンオキシ基の平均付加モル数に対するエチレンオキシ基の平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤の粘度が小さくなって金型への塗布性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の離型性が低下する傾向にある。また、グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)においては、離型剤においてより優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、複数あるアルキレンオキサイド鎖のうちの少なくともいずれかの末端がエチレンオキサイドが付加してなる基(−EOH)であることが好ましく、前記アルキレンオキサイド鎖の全ての末端がエチレンオキサイドが付加してなる基であることがより好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)としては、例えば、常法に従って、グリセリン脂肪酸又はその低級アルコールエステルに前記アルキレンオキサイドを付加重合させる方法により得ることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。また、グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)としては、市販品を用いてもよい。
本発明において、一般式(2)で表わされるポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)、一般式(5)で表わされるポリアルキレングリコール(II−ii)及び一般式(6)で表わされるグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(II−iii)としては、それぞれ1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、(II)アルキレンオキサイド化合物としては、上記(II−i)〜(II−iii)のうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(I)ポリカルボン酸塩との組み合わせにおいてより優れた挿入性、離型性、洗浄性、塗布性及び安定性が発揮される観点から、(II)アルキレンオキサイド化合物としては、ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)であることが特に好ましい。
本発明の加硫ゴム用離型剤において、(II)アルキレンオキサイド化合物の含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。(II)アルキレンオキサイド化合物の含有量が前記上限を超える場合には、離型剤の粘度が高くなって洗浄性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の洗浄性は向上するものの、挿入性及び離型性が低下する傾向にある。
また、本発明の加硫ゴム用離型剤において、(I)ポリカルボン酸塩と(II)アルキレンオキサイド化合物との含有比((I)ポリカルボン酸塩の含有質量:(II)アルキレンオキサイド化合物の含有質量)としては、1:99〜50:50であることが好ましく、1:99〜40:60であることがより好ましい。(I)ポリカルボン酸塩に対して(II)アルキレンオキサイド化合物の量が前記上限を超える場合には、離型剤の挿入性、離型性、安定性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性、離型性、塗布性が低下する傾向にある。
(III)他の成分
本発明の加硫ゴム用離型剤としては、(I)ポリカルボン酸塩及び(II)アルキレンオキサイド化合物に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、下記一般式(7):
[式(7)中、EOはエチレンオキシ基を示し、hはEOの平均付加モル数であって1,000〜150,000の整数を示す。]
で表わされるポリエチレンオキサイドをさらに含有することが好ましい。前記ポリエチレンオキサイドを本発明の加硫ゴム用離型剤にさらに含有させることにより、特に(II)アルキレンオキサイド化合物としてポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(II−i)を含有する場合において、より優れた塗布性、挿入性、離型性(特には塗布性)が発揮される。
一般式(7)において、エチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数(h)は1,000〜150,000であり、1,000〜80,000であることが特に好ましい。また、前記ポリエチレンオキサイドとしては、重量平均分子量が40,000〜7,000,000であることが好ましく、40,000〜3,500,000であることがより好ましい。前記エチレンオキシ基の平均付加モル数及び/又は前記重量平均分子量が前記上限を超える場合には、離型剤の挿入性は向上する傾向にあるものの、離型性、洗浄性、安定性が低下する傾向にある。他方、前記エチレンオキシ基の平均付加モル数及び/又は前記重量平均分子量が前記下限未満である場合には、離型剤の塗布性、挿入性、離型性が低下する傾向にある。
前記ポリエチレンオキサイドは、例えば、常法に従って、エチレンオキサイドを重合(付加重合)させる方法により得ることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。
このようなポリエチレンオキサイドを本発明の加硫ゴム用離型剤に含有させる場合、その含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。前記ポリエチレンオキサイドの含有量が前記上限を超える場合には、離型剤の挿入性は向上する傾向にあるものの、離型性、洗浄性、安定性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤における塗布性、挿入性、離型性の向上効果が奏されない傾向にある。
また、本発明の加硫ゴム用離型剤としては、下記一般式(8):
[式(8)中、R5は炭素数8〜22のアルキル基又は炭素数8〜22のアルケニル基を示し、Z2は水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、及び炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種を示す。]
で表わされるモノカルボン酸塩をさらに含有することも好ましい。前記モノカルボン酸塩を本発明の加硫ゴム用離型剤にさらに含有させることにより、粘度が高くなってより優れた塗布性が発揮されると共に、挿入性及び洗浄性が向上する傾向にある。なお、本発明において、前記モノカルボン酸塩には、Z2が水素原子であるモノカルボン酸も含む。
一般式(8)において、炭素数8〜22のアルキル基及び炭素数8〜22のアルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。このようなアルキル基及びアルケニル基としては、炭素数が12〜22であることが好ましく、14〜20であることがより好ましい。炭素数が前記上限を超える場合には、疎水会合性が増すために離型剤の粘度が高くなりすぎて安定性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、加硫ゴム用離型剤の塗布性が低下する傾向にある。これらの中でも、R5としては、炭素数14〜20のアルケニル基であることが特に好ましい。
一般式(8)において、Z2は水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、及び炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種を示す。前記アルカリ金属原子としては、ナトリウム及びカリウムが好ましい。また、前記炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムとしては、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウムが好ましい。これらの中でも、Z2としては、離型剤においてより優れた挿入性及び離型性が発揮される傾向にある観点から、アルカリ金属原子及び水素原子のうちのいずれか1種であることが好ましく、水素原子、ナトリウム及びカリウムのうちのいずれか1種であることがより好ましい。
また、前記モノカルボン酸塩としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、Z2が水素原子であるモノカルボン酸と、Z2がアルカリ金属原子、アンモニウム、及び炭素数1〜3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種であるモノカルボン酸塩とを組み合わせて用いることが好ましく、R5が互いに同一のモノカルボン酸とその塩とを組み合わせて用いることがより好ましい。また、このようなモノカルボン酸とモノカルボン酸塩との含有比(Z2が水素原子であるモノカルボン酸の含有質量:Z2がアルカリ金属、アンモニウム及び/又はアルカノールアンモニウムであるモノカルボン酸塩の含有質量)としては、40:60〜99:1であることが好ましい。
前記モノカルボン酸塩を本発明の加硫ゴム用離型剤に含有させる場合、その含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して1〜35質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。前記モノカルボン酸塩の含有量が前記上限を超える場合には、離型剤の安定性が低下する傾向にある。他方、前記下限未満である場合には、離型剤の増粘効果が奏されず塗布性が向上しない傾向にあり、また、離型剤における洗浄性の向上効果も奏されない傾向にある。
また、本発明の加硫ゴム用離型剤としては、下記一般式(9):
[式(9)中、R6は炭素数12〜22のアルキル基又は炭素数12〜22のアルケニル基を示し、AOはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基を示し、iはAOの平均付加モル数であって1〜30の整数を示し、AOが複数ある場合は同一でも異なっていてもよい。]
で表わされる長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物をさらに含有することも好ましい。前記長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物を本発明の加硫ゴム用離型剤にさらに含有させることにより、挿入性及び離型性がより向上し、また、水溶性が向上してより優れた洗浄性が発揮される傾向にある。
前記長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物は、長鎖脂肪族アルコールにアルキレンオキサイドが付加されたものである。一般式(9)において、炭素数12〜22のアルキル基及び炭素数12〜22のアルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。このようなアルキル基及びアルケニル基としては、炭素数が18〜22であることが好ましい。炭素数が前記上限を超える場合には、疎水会合性が増すために離型剤の粘度が高くなりすぎて安定性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤が発泡し易くなって作業性が低下する傾向にある。これらの中でも、R5としては、炭素数が18〜22のアルケニル基であることが特に好ましい。
前記長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物において、前記アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(エチレンオキシ基、EO)及び/又はプロピレンオキサイド(プロピレンオキシ基、PO)であり、かかるアルキレンオキサイドが付加してなるアルキレンオキサイド鎖としては、これらのうちの1種の単独付加であっても2種の共付加であってもよいが、離型剤における挿入性及び離型性と洗浄性との両立の観点から、エチレンオキサイドの単付加であることが好ましい。なお、共付加である場合にはブロック付加であってもランダム付加であってもよい。
一般式(9)において、アルキレンオキシ基の平均付加モル数(i)は1〜30であり、1〜10であることが特に好ましい。前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数が前記上限を超える場合には、離型剤における挿入性及び離型性の向上効果が奏されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の洗浄性が低下する傾向にある。
長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物は、例えば、常法に従って、長鎖脂肪族アルコールに前記アルキレンオキサイドを付加重合させる方法により得ることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。
このような長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物を本発明の加硫ゴム用離型剤に含有させる場合、その含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して1〜10質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。前記長鎖脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物の含有量が前記上限を超えてもそれ以上の挿入性の向上効果は奏されない傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の挿入性や安定性が十分に向上しない傾向にある。
また、本発明の加硫ゴム用離型剤としては、下記一般式(10):
[式(10)中、AOはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基からなる群から選択されるいずれか1つの基を示し、jはAOの平均付加モル数であって1〜10の整数を示し、AOが複数ある場合は同一でも異なっていてもよい。]
で表わされるグリコール溶媒をさらに含有することも好ましい。前記グリコール溶媒を本発明の加硫ゴム用離型剤にさらに含有させることにより、加硫ゴム用離型剤の安定性がより向上する傾向にある。
前記グリコール溶媒は、アルキレンオキサイドが重合(付加重合)したものである。前記グリコール溶媒において、前記アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(エチレンオキシ基、EO)、プロピレンオキサイド(プロピレンオキシ基、PO)及びブチレンオキサイド(ブチレンオキシ基、BO)のうちのいずれかであり、かかるアルキレンオキサイドが付加してなるアルキレンオキサイド鎖としては、これらのうちの1種の単独付加であっても2種以上の共付加であってもよいが、離型剤においてより優れた安定性が発揮される傾向にある観点から、プロピレンオキサイドの単独付加であることが好ましい。なお、共付加である場合にはブロック付加であってもランダム付加であってもよい。
一般式(10)において、アルキレンオキシ基の平均付加モル数(j)は1〜5であり、1〜3であることが特に好ましい。前記アルキレンオキシ基の平均付加モル数が前記範囲内にあることにより、離型剤においてより優れた安定性が発揮される傾向にある。
前記グリコール溶媒は、例えば、常法に従って、前記アルキレンオキサイドを重合(付加重合)させる方法により得ることができる。なお、このような方法において、反応の順序や原料の添加順序等は適宜変更することができる。
このようなグリコール溶媒を本発明の加硫ゴム用離型剤に含有させる場合、その含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して1〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。前記グリコール溶媒の含有量が前記上限を超える場合には、離型剤の粘度が低下して塗布性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満である場合には、離型剤の安定性が十分に向上しない傾向にある。
さらに、本発明の加硫ゴム用離型剤としては、(I)ポリカルボン酸塩、(II)アルキレンオキサイド化合物、及び必要に応じて上記他の成分に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾールなどの防錆剤;増粘剤;防腐剤;シリコーン;粘度鉱物等の添加剤をさらに含有していてもよい。これらの添加剤を本発明の加硫ゴム用離型剤に含有させる場合、その合計含有量としては、加硫ゴム用離型剤の全質量に対して1質量%以下であることが好ましい。
本発明の加硫ゴム用離型剤は、(I)ポリカルボン酸塩、(II)アルキレンオキサイド化合物、及び必要に応じて上記他の成分や添加剤を混合することで得ることができる。このような混合方法としては特に限定されない。
本発明の加硫ゴム用離型剤としては、環境負荷軽減の観点から、低濃度となるように水で希釈し、離型剤溶液として用いることが好ましい。本発明の加硫ゴム用離型剤は水に容易に溶解し、また、低濃度でも優れた挿入性、離型性、洗浄性及び塗布性のいずれも発揮することができる。さらに、安定性に優れるため、水で希釈した状態でも長期間保存することができる。本発明の加硫ゴム用離型剤をこのように水で希釈して離型剤溶液とする場合、その濃度としては、前記離型剤溶液の全質量に対する(I)ポリカルボン酸塩及び(II)アルキレンオキサイド化合物の総含有量が、1〜80質量%となる濃度であることが好ましく、5〜75質量%となる濃度であることがより好ましい。
本発明の加硫ゴム用離型剤は、例えば、金型の加硫ゴム又は未加硫ゴムと接する部分に予め前記離型剤溶液を塗布する方法;未加硫ゴムホースの末端に前記離型剤溶液を塗布する方法;及びこれらの方法を組み合わせた方法等で使用することができる。前記金型としては、鉄製、ステンレス製、ジェラルミン製等の金型が挙げられ、形状は特に制限されないが、本発明の加硫ゴム用離型剤は、加硫ゴムホースの成型に用いるマンドレルに適用する離型剤として好適に用いることができる。前記塗布の方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができ、スプレーガンを用いて吹き付ける方法(スプレー塗布)や刷毛で塗布する方法等が挙げられる。塗布量は、前記離型剤溶液の濃度、加硫ゴム又は未加硫ゴムの種類や挿入速度、金型の温度等によって適宜調整することができる。
前記加硫ゴムとしては、特に制限されず、天然ゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を加硫したものが挙げられる。本発明の加硫ゴム用離型剤は、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴムを加硫した加硫ゴムに対して好適に用いることができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
フタル酸2カリウム3質量部、エチレンジアミンのプロピレンオキサイド(PO)40モル、エチレンオキサイド(EO)8モル付加物(エチレンジアミンPO(40モル)EO(8モル)付加物)29質量部、オレイン酸5質量部、オレイン酸カリウム0.3質量部、オレイルアルコールのエチレンオキサイド(EO)4モル付加物(オレイルアルコールEO(4モル)付加物)3質量部、トリプロピレングリコール9.6質量部を、水50質量部に添加して混合し、撹拌して水で希釈された加硫ゴム用離型剤(離型剤溶液)を得た。エチレンジアミンPO(40モル)EO(8モル)付加物は、次式:
で表わされる化合物を用いた。なお、上記式中、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示す(以下同じ)。得られた離型剤溶液の組成を表1に示す。
(実施例2〜21、比較例1〜6)
離型剤溶液の組成を、それぞれ表1、表2又は表3に示す組成としたこと以外は実施例1と同様にして、各離型剤溶液を得た。なお、表1〜表3中、「エチレンジアミンPO(52モル)EO(48モル)付加物」は、次式:
で表わされる化合物を、「ポリオキシエチレン(10モル)ポリオキシプロピレン(34モル)グリコール」は、次式:
で表わされる化合物を、「グリセリンモノ脂肪酸(C16,18)エステルPO(30モル)EO(20モル)付加物」は、次式:
で表わされる化合物(上記式中、R4はペンタデシル基又はヘプタデシル基を示す。)を、「エチレンジアミンPO(8モル)EO(4モル)付加物」は、次式:
で表わされる化合物を、エチレンジアミンPO(240モル)EO(800モル)付加物」は、次式:
で表わされる化合物を、エチレンジアミンPO(40モル)EO(12モル)付加物」は、次式:
で表わされる化合物を、それぞれ用いた。また、表1中、「ポリエチレンオキサイド」は、重量平均分子量が1,600,000(一般式(7)中のh:36,360)のものを用いた。
<離型剤の評価>
実施例及び比較例で得られた離型剤溶液を用いて、それぞれ、以下の方法で、挿入性(潤滑性)、離型性、洗浄性、塗布性、及び安定性を評価した。結果をそれぞれ表1〜表3に示す。
(挿入性(潤滑性))
離型剤溶液を水で3倍に希釈し、SUS304製の鋼板(厚さ:1.0mm、10×170mm)の表面に、離型剤成分(離型剤溶液から水を除いた成分)が1gになるように塗布した。次いで、離型剤成分を塗布した面上に加硫済みのエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)からなるゴムシート(厚さ:2.0mm、60×120mm)を積層した。前記ゴムシートの上面から一定の加重を手で掛けた状態で同ゴムシートを面と平行の方向へスライドさせたときの潤滑性を以下の基準:
5:スムーズにスライドできる
4:スライドできる
3:抵抗はあるがスライドできる
2:かなり抵抗はあるがスライドできる
1:スライドできない
に従って評価した。なお、上記の潤滑性に優れるほど、金型への挿入性に優れるものと判断できる。
(離型性)
離型剤溶液を水で3倍に希釈し、SUS304製の鋼板(厚さ:1.0mm、10×170mm)の表面に、離型剤成分(離型剤溶液から水を除いた成分)が1gになるように塗布した。次いで、離型剤成分を塗布した面上に加硫済みのエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)からなるゴムシート(厚さ:2.0mm、60×120mm)を積層し、150℃で30分間加熱した後に空冷した。空冷後、前記ゴムシートの上面から一定の加重を手で掛けた状態で同ゴムシートを面と平行の方向へスライドさせたときの潤滑性を以下の基準:
5:スムーズにスライドできる
4:スライドできる
3:抵抗はあるがスライドできる
2:かなり抵抗はあるがスライドできる
1:スライドできない
に従って評価した。なお、上記の加熱後の潤滑性に優れるほど、成型後の離型性に優れるものと判断できる。
(洗浄性)
離型剤溶液を水で3倍に希釈し、SUS304製の鋼板(厚さ:1.0mm、10×170mm)の表面に、離型剤成分(離型剤溶液から水を除いた成分)が1gになるように塗布した。次いで、離型剤成分を塗布した面に加硫済みのエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)からなるゴムシート(厚さ:2.0mm、60×120mm)を積層させ、150℃で30分間加熱した後に空冷した。次いで、空冷後の離型剤が付着したゴムシートを20℃の水に1分間浸漬して取り出し、乾燥させた。乾燥後のゴムシートから脱落した離型剤量より、以下の基準:
5:0.9g以上脱落した
4:0.8g以上0.9g未満脱落した
3:0.7g以上0.8g未満脱落した
2:0.6g以上0.7g未満脱落した
1:ほとんど脱落していない(0.1g以下)
に従って評価した。
(塗布性)
離型剤溶液を水で3倍に希釈して20℃にし、これに、加硫済みのエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)からなるゴムシート(厚さ:2.0mm、60×120mm)を浸漬した後、水面に対してゴムシートの面が垂直になるように引き上げてそのまま1分間静置した。静置後のゴムシートの質量及び浸漬前のゴムシートの質量から、ゴムシートの単位面積あたりに付着した離型剤量を算出し、以下の基準:
5:0.1g/cm2以上付着した
4:0.08g/cm2以上0.1g/cm2未満付着した
3:0.07g/cm2以上0.08g/cm2未満付着した
2:0.05g/cm2以上0.07g/cm2未満付着した
1:ほとんど付着していない(0.05g/cm2未満)
に従って評価した。
(安定性)
離型剤溶液を45℃において静置して液の分離状態の外観を目視で観察し、以下の基準:
5:3ヶ月以上分離が確認されなかった
4:1ヶ月以上分離が確認されなかった
3:3週間以上分離が確認されなかった
2:1週間以上分離が確認されなかった
1:1時間以下で分離が確認された
に従って評価した。