JP6727713B2 - 殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバー - Google Patents
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Description
そこで本発明は、様々な物品にその物品の性能がより保たれた状態で殺菌・抗ウイルス性を付与できる材料を提供することを目的とする。
セルロースナノファイバーは、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。また透明性にも優れるため、透明で、かつ高強度な透明フィルムなどへの展開が期待されている。
本実施形態は、基体としてのセルロースナノファイバーの少なくとも一部に遊離型酸性官能基が導入された殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーに関する。
また、本実施形態に係るセルロースナノファイバーを構成するセルロースは、化学修飾されていても構わない。例えば、セルロースナノファイバーの表面に存在する一部あるいは大部分の水酸基部が、カルボン酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル、硝酸エステル、炭酸エステル等にエステル化されたもの、メチルエーテル、カルボキシエチルエーテル、シアノエチルエーテル等にエーテル化されたもの、アルデヒドやカルボン酸などに酸化されたもの、酸化後にさらにエステル化等の化学修飾されたもの、などを挙げることができる。
酸性官能基(化合物が構造中に有する酸性を示すために機能する官能基)にはプロトンを放出する酸性の強い遊離型と、塩化ナトリウム水溶液などでプロトンがナトリウムなどに置換された塩型とが存在する。本実施形態の殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの少なくとも一部に酸性を示す遊離型の酸性官能基を備えることを特徴とする。また、遊離型酸性官能基が導入されているセルロースナノファイバーにおける箇所は、セルロースナノファイバーの表面でもよいし、セルロースナノファイバーの内部でもよい。
酸性を示す遊離型の酸性官能基をセルロースナノファイバーに導入する事により、セルロースナノファイバーの表面または内部が酸性となり、その結果、付着した細菌やウイルスを不活化することができるものと考えられる。
遊離型酸性官能基としては、特に限定されるものではないが、殺菌・抗ウイルス効果の観点から、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基のうちいずれか一種または二種以上がセルロースナノファイバーに導入されていることが好ましい。これらのうち、殺菌・抗ウイルス効果をより高めることができる観点から、強酸性であるスルホン酸基がより好ましい。
なお、遊離型酸性官能基は、例えば、セルロースナノファイバーに側鎖が存在する場合に、少なくとも当該側鎖において存在するようにすることができる。一方で、これに限定されず、他の態様で本実施形態のセルロースナノファイバーの少なくとも一部に存在するようにしてもよい。なお、上述の側鎖は、特に限定されないが、例えば、後述する重合性単量体および/またはその重合体等の化合物を用いて形成することができる。
本実施形態において、遊離型酸性官能基は、例えばグラフト重合法によりセルロースナノファイバーに導入することができる。
グラフト重合法とは、対象に例えば放射線を照射するなどしてラジカルを形成させ、この発生したラジカル部分にビニルモノマーなどの重合性単量体をグラフト反応させた後、目的の官能基を含む物質(本実施形態の場合、遊離型酸性官能基を含む物質)と接触させ、固定するというものである。当該方法は、様々な形状の高分子に多くの機能性官能基を導入することができるので、分離機能性材などで使われている手法である。
なお、セルロースナノファイバーへの遊離型酸性官能基の導入のために用いる重合性単量体や遊離型酸性官能基を含む物質の量、割合などは特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
放射線照射法とは、窒素、アルゴン、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で、セルロースナノファイバーへ、α線や、β線や、γ線や、電子線等の放射線を照射する方法である。また、放射線照射法は、セルロースナノファイバーをイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類に含浸させた状態でセルロースナノファイバーに放射線を照射するようにしてもよい。
光開始剤としてはベンゾフェノン、アントラキノンなどがある。光開始剤が吸収した光のエネルギーが、セルロースナノファイバーへ移動してラジカルを作る場合と、光開始剤ラジカルがセルロースナノファイバーの水素を引き抜いて、セルロースナノファイバーにラジカルを作る場合とがある。
プラズマ法は、グロー放電により発生するプラズマをセルロースナノファイバーに照射する方法である。プラズマ法では、プラズマ中の電子がセルロースナノファイバーにラジカルをつくる場合と、ラジカルを酸素と反応させて過酸化ラジカルとする方法とがある。
UV法とプラズマ法とコロナ放電法の特徴はセルロースナノファイバーの表面近傍のみにラジカル発生が制限される点である。
そして、導入されたモノマーおよび/またはその重合体と遊離型酸性官能基を含む物質とを接触させることで、遊離型酸性官能基がグラフト鎖を構成する各モノマーおよび/またはその重合体に導入される。その結果、このグラフト重合法によって生成される遊離型酸性官能基を含む側鎖を有する、本実施形態の殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。このようにグラフト重合により側鎖を導入することで、基体に直接、酸性官能基を導入する場合と比較して、多くの酸性官能基を導入できるため、より高い殺菌・抗ウイルス効果を付与できるという利点がある。
また、遊離型酸性官能基を有する物質として、例えば、スルホン酸基を導入できるものとしては、無水硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、スルファミン酸、などが挙げられる。また、カルボキシ基を導入できるものとして、イミノ二酢酸などが挙げられる。また、リン酸基を導入できるものとして、リン酸などが挙げられる。
また、遊離型酸性官能基を導入するために、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどの塩型酸性官能基を有する物質などを用いてもよい。この場合にはまず、塩型酸性官能基がセルロースナノファイバーに導入される。続いて、酸性溶液の中で水素以外のカチオンと水素イオンを置換することで、遊離型の酸性官能基とすることができる。例えば、モノマーとして、メタクリル酸グリシジルを放射線照射によるラジカル生成およびグラフト反応によってセルロースナノファイバーに導入し、次に、亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤をメタクリル酸グリシジルのエポキシ基と反応させてナトリウム型スルホン酸基を導入する。次いで、得られたナトリウム型スルホン酸基が導入されたセルロースナノファイバーを塩酸などに浸漬することにより、遊離型酸性官能基が導入された殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。
言い換えれば、本実施形態のセルロースナノファイバーにおいては、遊離型酸性官能基を含む脂肪族官能基である側鎖を有することが、殺菌・抗ウイルス性をより高めることができる観点から好ましい。
脂肪族官能基である側鎖を形成するにあたっては、例えば、上述の重合性単量体および/またはその重合体や、酸性官能基を有する物質や、酸性官能基を有するモノマーについて、形成される側鎖が脂肪族官能基となるように化合物を選択するなどすればよい。
セルロースナノファイバーは比表面積が大きく、繊維径が2nm〜500nmと非常に細かい物質のため、例えば、通常のマスクやフィルターなどに本実施形態の殺菌・抗ウイルス性組成物を塗布すると、非常に薄く、緻密な膜を構成できるという特徴を持つ。
この緻密な膜構造により、圧損を比較的小さく保ったままで、細菌だけでなく、ウイルスのような微細物質も捕集することができる。捕集された細菌やウイルスは、遊離型酸性官能基に接触することで不活化される。
そのため、マスクやフィルターにおいては、例えば孔径を小さくしたり、厚みを厚くしたりしなくとも細菌やウイルスの感染防止に寄与できるようにすることができる。
以下、実施例の電子線照射には、エレクトロカーテン型電子線照射装置(岩崎電気(株)製 EC250/15/180L)を用いた。殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーの実施例、および比較例は以下の通り作製した。
まず、セルロースナノファイバー(CNF、繊維径3〜100nm)に純水を加えてホモジナイザーで攪拌し、CNF濃度2質量%のペーストを調製した。次に、当該CNFペーストに対して、メタクリル酸グリシジル(GMA;和光純薬工業(株)、一級)を混合物全体で2質量%の割合で加えて混練した。得られたペーストをポリエチレン製の袋に入れて口を閉じ、厚みを1mm程度に整え、窒素雰囲気下で電子線を両面より照射した(加速電圧:200kV、200kGy)。袋より内容物を取り出し、純水でろ過して、未反応のGMAを除去することで、GMAがグラフトされたCNFペーストを得た。
CNF濃度2質量%のペースト20gに対し、GMA10g、硝酸2g、イオン交換水10mL、アセトン10mLを加えて攪拌した。そこにラジカル開始剤として硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を0.5g加え、室温で反応させた。反応24時間後にエタノール、純水で洗浄し、ろ過することでGMAがグラフトされたCNFペーストを得た。
製造例1で得られた、GMAがグラフトされたCNFペーストを混合物全体で10質量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に60℃で30分間浸漬し、スルホン化した。純水でろ過した後、0.5Mの塩酸に浸漬することで、スルホン酸基をナトリウム型から遊離型に変換した。純水にて十分に洗浄、ろ過することで、遊離型スルホン酸基を有する殺菌・抗ウイルス性CNFペーストを得た。このペーストの官能基量は、CNF重量に対し0.2mmol/gであった。得られたペーストは純水で希釈し、1質量%の組成物とした。
製造例2で得られた、GMAがグラフトされたCNFペーストを混合物全体で10質量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に60℃で30分間浸漬し、スルホン化した。純水でろ過した後、0.5Mの塩酸に浸漬することで、スルホン酸基をナトリウム型から遊離型に変換した。純水にて十分に洗浄、ろ過することで、遊離型スルホン酸基を有する殺菌・抗ウイルス性CNFペーストを得た。このペーストの官能基量は、CNF重量に対し0.2mmol/gであった。得られたペーストは純水で希釈し、1質量%の組成物とした。
製造例1で得られた、GMAがグラフトされたCNFペーストを混合物全体で10質量%のイミノ二酢酸のEtOH:純水=3:1の溶液に60℃で30分間浸漬し、カルボキシ化した。純水でろ過した後、0.5Mの塩酸に浸漬することで、カルボキシ基をナトリウム型から遊離型に変換した。純水にて十分に洗浄、ろ過することで、遊離型カルボキシ基を有する殺菌・抗ウイルス性CNFペーストを得た。このペーストの官能基量は、CNF重量に対し0.3mmol/gであった。得られたペーストは純水で希釈し、1質量%の組成物とした。
製造例1で得られた、GMAがグラフトされたCNFペーストを混合物全体で10質量%のイミノ二酢酸のEtOH:純水=3:1の溶液に60℃で一晩浸漬し、カルボキシ化した。純水でろ過した後、0.5Mの塩酸に浸漬することで、カルボキシ基をナトリウム型から遊離型に変換した。純水にて十分に洗浄、ろ過することで、遊離型カルボキシ基を有する殺菌・抗ウイルス性CNFペーストを得た。このペーストの官能基量は、CNF重量に対し2mmol/gであった。得られたペーストは純水で希釈し、1質量%の組成物とした。
実施例1〜4で得られた殺菌・抗ウイルス性CNF組成物に、8cm×6cmのPET製不織布を浸漬して塗工し、乾燥させることで、殺菌・抗ウイルス性CNF不織布を得た。不織布に物理的に付与されたCNF重量は100mgであった。これを2cm四方に切断して積層し、サンプルとした。
未加工のCNFペーストに純水を加え、CNF割合が1質量%となるように希釈した。希釈液をホモジナイザーで攪拌して分散させることで、1質量%のCNFを含む組成物とした。
0.5Mの塩酸への浸漬処理に関する工程を省略した以外は実施例1と同様の方法で、ナトリウム型のスルホン酸基を含むCNFの1質量%組成物を得た。
比較例1〜2で得られたCNF組成物に、8cm×6cmのPET製不織布を浸漬して塗工し、乾燥させることで、CNF不織布を得た。不織布に物理的に付与されたCNF重量は100mgであった。これを2cm四方に切断して積層し、サンプルとした。
遊離型酸性官能基導入CNF組成物30gをスターラーで攪拌しながら、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い、滴定曲線を求めた。滴定曲線より、遊離型酸性官能基によって消費された水酸化ナトリウム量を求め、次式によって遊離型酸性官能基量を求めた。
遊離型酸性官能基[mmol/g]=(0.1×a)/(30×b×0.01)
a:水酸化ナトリウム使用量(mL)
b:CNF組成物固形分(%)
サンプルの抗ウイルス性評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenzaA/北九州/159/93(H3N2))を用いて行った。サンプルをフタ付容器にとり、ウイルスの懸濁液100μLをサンプル上に滴下した。室温で5分間作用させた後、トリス緩衝SCDLP培地9.0mLを添加し、ボルテックスミキサーでの攪拌、ピペッティングによりウイルスを洗い出し、上清液を回収した。その後、細胞培養培地(MEM)を用いて、回収した上清液の10倍段階希釈系列を作製した。回収した上清液と各希釈段階液0.1mLを、MDCK細胞を培養した6穴細胞培養プレートに接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養した。次に、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1mL,Log10);(PFU:plaque−forming units)を算出した。その試験結果を表1、表2に示す。
サンプルの殺菌性評価は、大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)を用いて行った。サンプルをフタ付容器にとり、菌の懸濁液100μLをサンプル上に滴下した。室温で60分間作用させた後、トリス緩衝SCDLP培地9.0mLを添加し、ボルテックスミキサーでの攪拌、ピペッティングにより菌を洗い出し、上清液を回収した。その後、SCDLP培地を用いて、回収した上清液の10倍段階希釈系列を作製した。回収した上清液と各希釈段階液1mLをシャーレにとり、47℃に温めておいたNB寒天培地を加え、攪拌した。24時間、37℃、5%CO2インキュベータにて培養した。形成されたコロニー数をカウントして、生菌数(CFU/1mL,Log10);(CFU:colony−forming units)を算出した。その試験結果を表3、表4に示す。
Claims (3)
- 少なくとも一部に遊離型酸性官能基を有し、重合性単量体および/またはその重合体が側鎖として結合しており、少なくともその側鎖において前記遊離型酸性官能基を有することを特徴とする殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバー。
- 前記遊離型酸性官能基として、スルホン酸基、カルボキシ基、及びリン酸基からなる群から選択される1または2以上の官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバー。
- 請求項1または2に記載の殺菌・抗ウイルス性を有するセルロースナノファイバーと分散媒とを含むことを特徴とする殺菌・抗ウイルス性組成物。
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