以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明の防火カバーは、建築物の例えば壁や床、天井等の区画体に形成された区画貫通部に設置され、この区画貫通部の内周面と、区画貫通部に挿入される配管やケーブル等の配管類(管体)との隙間から、火災時に火や熱が漏洩することを防止するためのものである。
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る防火カバー1を用いた建築物の区画体11の区画貫通部12における防火構造(以下、単に「防火構造」という。)10を示している。区画体11は、部屋等の隣接する防火区画A,Bを仕切る役割を果たすものである。なお、本実施形態では、区画体11として、隣接する防火区画A,Bを水平に仕切る床/天井に防火カバー1を設置した防火構造10を例にして説明しているが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものでなく、隣接する防火区画を垂直に仕切る壁に防火カバー1を設置した防火構造も本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
区画体11としての床/天井の構造や壁の構造は、特に限定されるものではない。例えば、例えば、鉄筋コンクリート構造(RC)や軽量気泡コンクリート構造(ALC)等の所定の厚さを有する中実構造の他、天井/床であれば上層階の床を構成する床材と下層階の天井を構成する天井材とを間隔をあけて配置した構造や、壁であれば木製又は鋼製の間柱を挟み込むように一対の壁材を固定した構造等の中空構造を挙げることができる。
区画体11には区画貫通部12が形成されており、区画貫通部12により隣接する防火区画A,Bが連通している。なお、天井/床や壁が中実構造の場合には、管体13を挿入するために形成された貫通孔により区画貫通部12が構成され、天井/床や壁が中空構造の場合には、床材及び天井材や一対の壁材に管体を挿入するために形成された2つの貫通孔と、両貫通孔の間の中空空間により区画貫通部12が構成される。区画貫通部12の形状は、平面視円形状の他、平面視矩形状等、種々の形状であってもよい。
区画貫通部12に挿入される管体13としては、例えば、冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の各種の配管の他、電線ケーブル、光ファイバケーブル等のケーブル類が挙げられる。
防火カバー1は、図3〜図5に示すように、区画体11の区画貫通部12に挿通される筒状の本体2、及び、本体の内周面に設けられた複数の突片3を備えている。本実施形態の防火カバー1は、さらに、本体の長さ方向(軸方向)の一端(以下、単に「本体2の一端」という。)側に設けられた突起4、及び、本体の長さ方向の他端(以下、単に「本体2の他端」という。)に設けられたフランジ5を備えている。
本体2は、熱膨張性及び耐火性を有するとともに、可撓性をさらに有することが好ましい。本体2は、区画貫通部12の外形に対応する形状を呈しており、本実施形態では、両端に開口を有しかつ外径が軸方向に一定の円筒状に形成されている。なお、本体2の形状は特に限定されず、例えば図6に示す正四角筒状などの多角筒状に形成されていてもよい。本体2の内部の空洞20に管体13が通される。
本体2の外形は、区画体11の区画貫通部12に本体2を挿通できるのであれば、区画貫通部12の外形と同じであっても僅かに大きくてもよく、また、区画貫通部12の外形よりも僅かに小さくてもよい。また、本体2の厚みは、火災時の熱により本体2が熱膨張した際に、少なくとも区画貫通部12を閉塞できる程度の大きさを有していれば、特に限定されるものではない。ただし、本体2の厚みが大きいと防火性能が向上するが、管体13の挿通が困難になるうえその分のコストが増大するため、本体2の厚みはこのトレードオフにより設定される。
また、本体2の長さ(長さ方向の大きさ)は、特に限定されるものではないが、区画貫通部12の全長(すなわち、区画体11の厚み)よりも長く設定されていることが好ましく、本体2の他端にあるフランジ5が区画体11の一方側の外面に当接した際に、本体2の一端が区画貫通部12から区画体11の他方側に突き出ていることが好ましい。
フランジ5は、本体2の他端側に、本体2の外周面から外側に向かって突き出るようにして設けられている。なお、本体2の他端側とは、本体2の他端もしくは他端から中に入り込んだ位置を指す。フランジ5は、本体2の他端側であれば設けられる位置は特に限定されるものではなく、本実施形態では、本体2の他端にある。また、フランジ5は、本実施形態では、平面視で矩形板の所定の厚みを有する板状である。なお、フランジ5は、必ずしも外形が平面視で矩形状である必要はなく、例えば円形状や六角形状等の多角形状(好ましくは正多角形状)であってもよい。
フランジ5は区画貫通部12のよりも外形が大きく、本体部2が区画貫通部12に挿通された際に、フランジ5は区画体11の外面に当接する。フランジ5を、接着剤や粘着剤、粘着テープ、ビス等の固定具を用いて区画体11の外面に取り付けることで、本体2が区画貫通部12に嵌め込まれていなくても、本体2を区画体11に固定することができる。
フランジ5は、本体2と同じ材料で一体に形成することで本体2に設けることが好ましいが、本体2とは別材料で形成し、粘着剤や接着剤等を用いて本体2に後付けで設けてもよい。なお、フランジ5を本体2と別材料で形成する場合には、フランジ5は、必ずしも熱膨張性を有している必要はないが、耐火性を有していることが好ましい。
複数の突片3は、可撓性を有しており、本体2の内周面から内側に向かって突き出るようにして設けられている。複数の突片3は、本体2の内周面の周方向に沿って並ぶとともに、少なくとも周方向に隣り合う突片3と本体2の長さ方向において間隔をあけて設けられている。
また、複数の突片3は、本実施形態では板状であり、本体2の長さ方向の一端又は他端から視る平面視で、本体2の中央点に向けて略三角形状に突き出ている。複数の突片3の各々は、本体2の空洞20を目隠しすることを目的として、前記平面視において、周方向に隣り合う突片との間に隙間なく並べられており、本実施形態では、周方向に隣り合う突片3と互いに接するようにして、つまりは、一方の突片3の側縁と他方の突片3の側縁とが重なるようにして並べられている。また、本実施形態では、複数の突片3が略三角形状であり、それぞれの頂点が前記平面視における本体2の中央点に位置していることで、複数の突片3によって、実際には塞がれていないが、前記平面視では本体2の空洞20が完全に塞がれているように見える。そのため、複数の突片3によって管体13が通されていない状態でも区画貫通部12を完全に目隠しすることができる。
なお、前記平面視で本体2の空洞20を完全に塞ぐためには、複数の突片3の各々は、周方向に隣り合う突片と側縁だけでなく一部が互いに重なり合う、つまりは、線ではなく面で重なり合っていてもよい。また、本体2の空洞20は、前記平面視において、複数の突片3により完全に塞がれている必要はなく、複数の突片3によって区画貫通部12を区画体11の一方側から他方側が視認しにくくなる程度に目隠しできるのであれば、周方向に隣り合う突片3との間に前記平面視でわずかな間隙が生じていてもよい。
また、複数の突片3は、本実施形態では、先端が尖っているが、突片3の先端の形状は、凸状に湾曲していてもよいし、平坦であってもよいし、凹状に湾曲していてもよい。また、複数の突片3は、略三角形状である必要はなく、略長方形状等の種々の形状とすることができる。なお、複数の突片3は、管体13が通されていない状態でなくても、管体13が通された状態で本体2の空洞20を閉塞できていれば、区画貫通部12を完全に目隠しすることができ、区画貫通部12を通じて区画体11の一方側から他方側を視認できるのを防止することができる。
また、本実施形態では、本体2の周方向に沿って突片3が一段ずつ順に本体2の長さ方向に段違いで設けられていることにより、複数の突片3は、前記平面視で少なくとも周方向に隣り合う突片3と本体2の長さ方向において間隔をあけて設けられている。ここで、本実施形態では、前記平面視における本体2の中央点を中心にして点対称となる2つの突片3(互いに対向する2つの突片3)同士については、本体2の長さ方向において差のない位置(同じ位置)に設けられているが、複数の突片3の全てを本体2の長さ方向において間隔をあけて設けてもよい。また、本体2の周方向において複数の突片3を交互に本体2の長さ方向に段違いで設けてもよく、複数の突片3について前記平面視で少なくとも周方向に隣り合う突片3を本体2の長さ方向において段違いで設ける態様としては、特に限定されるものではなく、種々の態様を用いることができる。
複数の突片3は、本体2と同じ材料で一体に成形することで本体2に設けることが好ましいが、本体2とは別材料で形成し、粘着剤や接着剤等を用いて本体2に後付けで設けてもよい。なお、複数の突片3を本体2と別材料で形成する場合には、複数の突片3は、必ずしも熱膨張性を有している必要はないが、耐火性を有していることが好ましい。
突起4は、本体2の一端側に、本体2の外周面から外側に向かって突き出るようにして設けられている。なお、本体2の一端側とは、本体2の一端もしくは一端から中に入り込んだ位置を指す。突起4は、本体2の一端側であれば設けられる位置は特に限定されるものではなく、本実施形態では、本体2の一端よりも少し中に入り込んだ位置に設けられている。
突起4は、本実施形態では、本体2の外周面の周方向を一周にわたって延びる1つの突条体で構成されている。なお、突起4は、図示は省略するが、本体2の外周面の周方向に間隔をあけて並ぶ複数の突起物で構成されていてもよい。
突起4は、本体2が区画体11の区画貫通部12に挿通されて本体2の一端が区画貫通部12から突き出た際に、区画体11の外面に引っ掛かるように、その大きさが形成されている。突起4が区画体11の外面に引っ掛かって係止することで、本体2が区画貫通部12から容易に抜け出ることが防止されるとともに、本体2と区画貫通部12との間に隙間が生じている場合には、当該隙間を隠すことができる。
また、突起4は、本体2の一端側から他端側に向けて、その側面が外側から内側へ向けて傾斜しており、その外形は下側が先細りのテーパ状に形成されている。突起4がテーパ状に形成されていることで、本体2を区画体11の区画貫通部12に挿通する際に、突起4が可撓性を有していると、突起4が撓みやすいので、本体2を区画貫通部12内に容易に挿入することができる。また、突起4が仮に可撓性を有していなくても、本体2が可撓性を有していれば、本体2を区画体11の区画貫通部12に挿通する際に、突起4により本体2がスムーズに内側に撓むことができるので、本体2を区画貫通部12内に容易に挿入することができる。
突起4は、本体2の長さ方向に沿って複数列をなして設けられていることが好ましく、本実施形態では、互いに間隔をあけて3列設けられている。突起4が本体2の長さ方向に沿って複数列設けられていると、区画体11の厚みが様々であっても、いずれかの突起4が区画体11の外面に引っ掛かることで、本体2が区画貫通部12から容易に抜け出ることを防止できる。
突起4は、本体2と同じ材料で一体に成形することで本体2に設けることが好ましいが、本体2とは別材料で形成し、粘着剤や接着剤等を用いて本体2に後付けで設けてもよい。なお、突起4を本体2と別材料で形成する場合には、突起4は、必ずしも熱膨張性を有している必要はないが、耐火性及び可撓性を有していることが好ましい。
本体2、好ましくはさらに突片3、突起4及びフランジ5は、例えば、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含有させた熱膨張性耐火材料により形成される。
上記の樹脂成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、及びそれらの組み合わせが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂類が挙げられる。
上記の熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
これらの合成樹脂類及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。これらの合成樹脂類及び/又はゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を持っているものが好ましい。この様な性質を持つものは無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟で扱い易いものとなる。より柔軟で扱い易い樹脂組成物を得るためには、ブチル等の非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
次に、熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
次に、無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいく、0.5μm以上であると、分散性が良好である。一方、無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができるため、粒径の大きいものが好ましいが、100μm以下の粒径が成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性の点で望ましい。無機充填剤の市販品としては、例えば、水酸化アルミニウムでは、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
化学式(1)中、R1及びR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物は、上記の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、熱膨張性層状無機物を10〜350重量部及び前記無機充填材を30〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
また、熱膨張性層状無機物及び無機充填材の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50〜600重量部の範囲が好ましい。
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
樹脂組成物における熱膨張性層状無機物及び無機充填材の合計量は、50重量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600重量部以下であると機械的物性が維持される。
さらに樹脂組成物は、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
上記の樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練することにより、樹脂組成物を得ることができる。
熱膨張性耐火材は、市販品として入手することも可能であり、例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
熱膨張性耐火材は、火災時等の高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されないが、50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
上記構成の防火カバー1は、例えば、突片3、突起4及びフランジ5が形成された本体2の半割り体(図示せず)を一対用意し、接着剤等を用いて2つの半割り体を結合することで形成することができる。このとき、同一形状の一対の半割り体を結合することで、本実施形態のような、防火カバー1となる。また、突片3、突起4及びフランジ5が形成された板状の本体2を用意し、これを筒状とすることでも防火カバー1を形成することができる。また、その他、種々の方法により防火カバー1を形成することが、防火カバー1の形成方法は特に限定されない。
次に、区画体11の区画貫通部12に対して上述した防火カバー1を設置する方法について説明する。まず、図7に示すように、区画体11の区画貫通部12に管体13を通す。
次に、図8に示すように、例えば防火区画Aの側から防火カバー1の本体2を区画体11の区画貫通部12に挿通する。このときには、上記した一対の防火カバー1の半割り体(図示せず)で管体13を挟み込んだ後に半割り体(図示せず)同士を結合して管体13を本体2内に入れ、管体13に沿ってスライドさせて、本体2を区画貫通部12内に挿通し、フランジ5を区画体11の外面に沿わせる。これにより、図9に示すように、本体2が区画貫通部12に配置されるとともに、本体2内に管体13が挿入された状態になる。
なお、本体2にフランジ5及び突起4も含めて長さ方向の一端から他端まで延びる切り込み(図示せず)を形成することにより、本体2を切り込み(図示せず)の位置で開閉可能とし、切り込み(図示せず)の位置で本体2を開いて管体13を本体2内に入れ、本体2を閉じた後、管体13に沿って本体2をスライドさせて区画貫通部12内に挿通することによっても、管体13を本体2内に挿入した状態で本体2を区画貫通部12に配置することができる。
そして、本体2のフランジ5を、接着剤や粘着剤、粘着テープ、ビス等の固定具を用いて区画体11の外面に固着することで、防火カバー1が区画体11に固定され、区画貫通部12に設置される。これにより、区画貫通部12の防火構造10が構築される。
なお、防火カバー1を、区画体11の区画貫通部12に設置した後、管体13を本体2内に挿入することで、区画貫通部12の防火構造10を構築してもよい。
上述した防火カバー1が用いられた防火構造10では、防火区画A又は防火区画Bにおいて火災が起きても、防火カバー1の少なくとも本体部2が火災の熱により膨張して区画貫通部12を埋めるとともに、火災時に管体13が溶融又は焼失して空間ができたとしても、本体2の熱膨張により管体13が溶融又は焼失してできた空間が埋められる。これにより、区画体11の区画貫通部12を完全に閉塞できるため、火炎や熱が区画貫通部12から隣接する防火区画に漏洩することを防ぐことができる。
このように、本実施形態によれば、防火カバー1を区画体11の区画貫通部12に設置する簡易な作業で耐火処理を実現できる。このため、耐火パテを埋める煩雑な作業を要しない。
また、複数の突片3が本体2の内周面の周方向に並べられているので、前記平面視において、本体2の空洞20を通じて、区画貫通部12により防火区画A,Bの一方側から他方側が視認されることを防止できる。
また、複数の突片3が、少なくとも周方向に隣り合う突片3と本体2の長手方向に間隔をあけて設けられていると、隣り合う突片3と本体2の長さ方向において差のない位置(同じ位置)に設けられている場合と比べて、本体2内に管体13を通した際に、隣り合う突片3の間に隙間をあまり生じさせることなく、複数の突片3の先端が変形して管体13の周面に沿い、前記平面視において本体2の空洞20を良好に塞ぐことができる。したがって、前記平面視で区画貫通部12により防火区画A,Bの一方側から他方側が視認されることをより効果的に防止できる。
また、突起4が本体2の外周面に設けられていて、本体2を区画貫通部12に配置した際に区画貫通部12から突き出て区画体11の外面に引っ掛かるので、本体2が区画貫通部12から容易に抜け出ることを防止できるとともに、本体2と区画貫通部12との間に隙間が生じている場合には、当該隙間を隠すことができる。
また、防火カバー1を一対の半割り体の結合により構成することで、区画体11の区画貫通部12に管体13が既に通されている状況においても、本体2を区画貫通部12に配置して、本体2内に管体13を内挿した状態にすることができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、突片3が板状であるが、多数の線状体を密に束ねたブラシ状のものであってもよい。
また、上記実施形態では、本体2の周方向に沿って複数の突片3が一周だけ設けられているが、二周以上設けられる、つまりは、前記平面視で本体2の周方向に沿って一周並ぶ複数の突片3の組が、本体2の長さ方向の位置を変えて2つ以上設けられていてもよい。
また、区画体11の区画貫通部12に対して、一方側及び他方側からそれぞれ防火カバー1を1つずつ設置してもよい。このときには、2つの防火カバー1は、一方に対して他方の本体2を周方向に少しずらして(回転させて)、周方向に隣り合う突片3の間の境目(間隙)が重ならないようにすることが好ましい。これにより、さらに効果的に、前記平面視において、本体2の空洞20を通じて、区画貫通部12により防火区画A,Bの一方側から他方側が視認されることを防止できる。
また、突片3の数は、上記実施形態に限られず、任意の複数とすることができる。
また、上記実施形態では、耐火パテを埋める作業を省略できるので作業負担を軽減できる旨述べたが、本発明は、耐火パテを使用することを否定するものではなく、必要に応じて、本体2の一端や他端における内部等を耐火パテで埋めてもよい。