以下に、本発明に係る作業車両の変速制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔作業車両〕
図1は、作業車両の概略側面図である。図2は、作業車両の概略正面図である。なお、以下では、作業車両として、トラクタを例に説明する。また、以下の説明において、前後方向とは、作業車両、すなわち、トラクタの前後方向である。さらに言えば、前後方向とは、トラクタが直進するときの進行方向であり、進行方向前方側を前後方向前側、後方側を前後方向後側と規定する。トラクタの進行方向とは、トラクタの直進時において、後述する操縦席からステアリングハンドルに向かう方向であり、ステアリングハンドル側が前側、操縦席側が後側となる。また、車幅方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。ここでは、前後方向前側を見た状態で、右側を車幅方向右側、左側を車幅方向左側と規定する。さらに、鉛直方向とは、前後方向と車幅方向とに直交する方向である。なお、上述した前後方向、車幅方向および鉛直方向は、互いに直交する。
図1および図2に示すように、作業車両としてのトラクタ1は、駆動源が発生する駆動力によって自走しながら圃場などで作業を行う農業用トラクタである。トラクタ1は、前輪2と、後輪3と、駆動源としてのエンジン4と、変速装置(トランスミッション)5とを備えている。このうち、前輪2は、主に操舵用の車輪、すなわち、操舵輪として設けられている。また、後輪3は、主に駆動用の車輪、すなわち、駆動輪として設けられている。後輪3には、機体前部1Fのボンネット6内に搭載されたエンジン4で発生した回転動力を、変速装置5で適宜減速して伝達可能になっている。後輪3は、回転動力によって駆動力を発生する。また、変速装置5は、エンジン4で発生した回転動力を、必要に応じて前輪2にも伝達可能にしている。この場合は、前輪2と後輪3との四輪が駆動輪となって駆動力を発生する。すなわち、変速装置5は、二輪駆動と四輪駆動との切り替えが可能になっており、エンジン4の回転動力を減速し、減速させた回転動力を前輪2および後輪3に伝達可能になっている。
また、トラクタ1の機体後部1Rには、ロータリなどの作業機(図示省略)を装着可能な連結装置7が配設されている。連結装置7は、たとえば、左右のロアリンクや中央のトップリンクなどによってトラクタ1の機体後部1Rに作業機を連結する。トラクタ1は、たとえば、左右のリフトアームを油圧で回動することで、リフトロッドやリフトロッドと連結しているロアリンクなどを介して作業機を昇降させることができる。トラクタ1は、機体上の操縦席8の周りがキャビン9で覆われている。トラクタ1は、キャビン9内において、操縦席8前側のダッシュボード10にステアリングハンドル11が設けられているとともに、操縦席8の周りに、クラッチペダル、アクセルペダルなどの各種操作ペダルや、前後進レバー、変速レバーなどの各種操作レバーが配置されている。
〔変速装置〕
図3は、変速装置5の動力伝達経路を示す線図である。図3に示すように、変速装置5は、ミッションケース12(図1参照)と、ミッションケース12内に配置され、エンジン4から後輪3などへと回転動力を伝達する動力伝達機構13とを含んで構成されている。動力伝達機構13は、エンジン4の回転動力を、前輪2、後輪3および機体に連結された作業機へと伝達し、前輪2、後輪3および作業機を駆動するものである。
動力伝達機構13は、入力軸14と、前後進切替装置15と、主変速装置16と、高低変速装置17と、副変速装置18と、前輪変速装置19と、PTO(Power take−off)駆動装置20とを含んで構成されている。動力伝達機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14、前後進切替装置15、主変速装置16、高低変速装置17、副変速装置18を順に介して後輪3へと伝達する。また、動力伝達機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14、前後進切替装置15、主変速装置16、高低変速装置17、副変速装置18、前輪変速装置19を順に介して前輪2へと伝達する。さらに、動力伝達機構13は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14、PTO駆動装置20を順に介して作業機へと伝達する。
入力軸14は、エンジン4の出力軸に設けられており、エンジン4からの回転動力が伝達(入力)される。なお、以下では、動力伝達の方向を、エンジン4側を動力上流側と規定し、最終的な出力先である前輪2、後輪3および作業機側をそれぞれ動力伝達下流側と規定する。
前後進切替装置15は、エンジン4から伝達された回転動力を、前進方向回転または後進方向回転に切替可能なものである。前後進切替装置15は、前進側油圧多板クラッチ(以下、前進クラッチという)A1と、後進側油圧多板クラッチ(以下、後進クラッチという)A2と、前進側ギヤ15aと、後進側ギヤ15bとを備えている。前進クラッチA1と後進クラッチA2とは、「前後進クラッチA」を形成する。前後進クラッチAは、前進クラッチA1および後進クラッチA2の係合/解放状態に応じて、入力軸14に伝達された回転動力を、メイン軸23へと伝達する。前後進クラッチAは、前進クラッチA1が係合状態の場合に、前進側ギヤ15aが正転ギヤ50aと噛合してメイン軸23を正転させる。また、前後進クラッチAは、後進クラッチA2が係合状態の場合に、後進側ギヤ15bが逆転ギヤ50bと噛合してメイン軸23を逆転させる。これにより、前後進クラッチAは、メイン軸23の正転および逆転によってトラクタ1の前進と後進とを切り替えることができる。なお、前後進クラッチAは、たとえば、操縦席8(図1参照)において前後進レバーが操作されることで、油圧制御によって、前進および後進を切り替えることができる。また、クラッチペダルを踏み込み操作することで、前進クラッチA1と後進クラッチA2とを共に解放状態(ニュートラル状態)にすることができる。
主変速装置16は、エンジン4から伝達された回転動力を、複数の変速段のいずれかで変速可能なものである。主変速装置16は、第1主変速クラッチB1と、第2主変速クラッチB2と、複数の変速段として、1速ギヤ16aと、2速ギヤ16bと、3速ギヤ16cと、4速ギヤ16dとを備えている。第1主変速クラッチB1は、油圧多板クラッチ(以下、1速クラッチという)B11と、油圧多板クラッチ(以下、3速クラッチという)B13とを備えており、1速クラッチB11側に1速ギヤ16aが設けられ、3速クラッチB13側に3速ギヤ16cが設けられている。また、第2主変速クラッチB2は、油圧多板クラッチ(以下、2速クラッチという)B22と、油圧多板クラッチ(以下、4速クラッチという)B24を備えており、2速クラッチB22側に2速ギヤ16bが設けられ、4速クラッチB24側に4速ギヤ16dが設けられている。第1主変速クラッチB1と第2主変速クラッチB2とは、「主変速クラッチB」を形成する。主変速クラッチBは、第1主変速クラッチB1および第2主変速クラッチB2の係合/解放状態に応じて、エンジン4からの回転動力を1速ギヤ16a〜4速ギヤ16dのいずれかの変速比で変速して後段、すなわち、動力伝達下流側へと伝達することができる。なお、主変速クラッチBは、たとえば、操縦席8(図1参照)において主変速レバーが操作されることで、1速ギヤ16a〜4速ギヤ16dのうちの1つを選択して変速することができる。また、このような変速操作は、トラクタ1の走行中に行うことができる。
高低変速装置17は、エンジン4から伝達された回転動力を、高速段または低速段で変速可能なものである。高低変速装置17は、Hi(高速)側油圧多板クラッチ(以下、Hiクラッチという)C1と、Lo(低速)側油圧多板クラッチ(以下、Loクラッチという)C2と、Hi(高速)側ギヤ17aと、Lo(低速)側ギヤ17bとを備えている。HiクラッチC1とLoクラッチC2とは、「Hi−LoクラッチC」を形成する。Hi−LoクラッチCは、HiクラッチC1およびLoクラッチC2の係合/解放状態に応じて、メイン軸23に伝達された回転動力を、伝達経路を変更して変速軸24へと伝達する。詳細には、Hi−LoクラッチCは、HiクラッチC1が係合状態、LoクラッチC2が解放状態である場合に、メイン軸23に伝達された回転動力を、HiクラッチC1およびHi側ギヤ17aを介して変速して変速軸24へと伝達する。また、Hi−LoクラッチCは、HiクラッチC1が解放状態、LoクラッチC2が係合状態である場合に、メイン軸23に伝達された回転動力を、LoクラッチC2およびLo側ギヤ17bを介して変速して変速軸24へと伝達する。これにより、Hi−LoクラッチCは、主変速クラッチBによって変速された回転動力を、Hi側ギヤ17aの変速比またはLo側ギヤ17bの変速比で変速して後段、すなわち、動力伝達下流側へと伝達することができる。なお、Hi−LoクラッチCは、たとえば、操縦席8(図1参照)において主変速レバーが4速と5速との間で操作されると、油圧制御によって、自動的にHi側とLo側とに切り替えられることにより、Hi側4段、Lo側4段の8段変速を構成している。また、このような変速操作は、トラクタ1の走行中に行うことができる。
副変速装置18は、エンジン4から前後進切替装置15、主変速装置16、高低変速装置17を順に介して伝達される回転動力を複数の変速段のいずれかで変速可能なものである。副変速装置18は、第1副変速機D1と、第2副変速機D2とを備えている。なお、第1副変速機D1と第2副変速機D2とは、「副変速機D」を形成する。副変速機Dは、変速軸24に伝達された回転動力を、第1副変速機D1、ギヤ18a,18b、ギヤ18c,18d、第2副変速機D2、ギヤ18e,18f、ギヤ18g,18hを介して変速して変速軸25へと伝達する。副変速機Dは、エンジン4から伝達されて主変速装置16などで変速された回転動力を、4段変速して後輪3側へと伝達する。
すなわち、メイン軸23の回転は、4段変速する主変速クラッチBと、高低2段に変速するHi−LoクラッチCと、機械式に4段変速する副変速機Dとによって変速され、最終的に変速軸25へと伝達される。そして、変速装置5(動力伝達機構13)では、変速段が、4段変速、2段変速、4段変速となるため、4×2×4=32の合計32段で変速可能になっている。なお、主変速装置16の1速〜8速は、4段変速する主変速クラッチBと、高低2段に変速するHi−LoクラッチCとを組み合わせた変速段である。
また、変速装置5(動力伝達機構13)は、変速軸25に伝達された回転動力を、後輪デフ26、車軸(ドライブシャフト)27、遊星歯車機構28などを介して後輪3へと伝達する。この結果、トラクタ1は、エンジン4からの回転動力によって、後輪3が駆動輪として回転駆動する。
前輪変速装置19は、入力軸14に伝達された回転動力を、後輪3側だけでなく、前輪2側へと伝達するものである。前輪変速装置19は、前輪増速クラッチE1と、前輪等速クラッチE2とを備えている。前輪増速クラッチE1と前輪等速クラッチE2とは、「前輪変速クラッチE」を形成する。前輪変速クラッチEは、第1前輪駆動軸29aに設けられており、前輪等速クラッチE2が係合状態の場合に、第1前輪駆動軸29aの回転を等速で第2前輪駆動軸29bへと伝達する。また、前輪変速クラッチEは、前輪増速クラッチE1が係合状態の場合に、ギヤ19a,19b、ギヤ19c,19dを介して、第1前輪駆動軸29aの回転を増速して第2前輪駆動軸29bへと伝達する。
前輪変速クラッチEは、第2前輪駆動軸29bに伝達された回転動力を、前輪デフ30、車軸(ドライブシャフト)31、垂直軸32、遊星歯車機構33などを介して前輪2へと伝達する。これにより、トラクタ1は、前輪2および後輪3の四輪駆動で走行することができる。
すなわち、変速軸25から伝達される前輪2の回転は、前輪変速クラッチEで後輪3よりも高速で回転可能となる。また、副変速機Dは、1速(超低速)、2速(低速)、3速(中速)、4速(高速)に変速可能となるが、2速〜4速の間の変速については、シンクロ機構が設けられているため、作業車両の走行中に変速可能である。なお、副変速機Dを3段変速仕様とすることもできる。3段変速仕様については、機種に応じて1速(低速)、2速(中速)、3速(高速)仕様や2速(低速)、3速(中速)、4速(高速)仕様などがあり、容易に仕様変更することができる。
PTO駆動装置20は、エンジン4から伝達される回転動力を変速して機体後部1R(図1参照)のPTO軸34から作業機に出力することで、エンジン4からの動力によって作業機を駆動するものである。PTO駆動装置20は、PTOクラッチ装置21と、PTO変速装置22と、PTO軸34とを備えている。PTO駆動装置20では、機体後部1Rの作業機を駆動する駆動状態(以下、PTO駆動状態という場合がある)または作業機の駆動を停止した非駆動状態(以下、PTO非駆動状態という場合がある)へと切り替えることができる。
PTOクラッチ装置21は、PTO軸34側への動力の伝達と遮断とを切り替えるものである。PTOクラッチ装置21は、PTO油圧多板クラッチ(以下、「PTOクラッチ」という)Fと、ギヤ21aとを備えている。ギヤ21aは、入力軸14と一体回転可能に設けられたギヤ35と噛合している。PTOクラッチFは、係合状態となることで、PTO軸34側へと動力を伝達するPTO駆動状態となり、入力軸14からギヤ35を介してギヤ21aに伝達された回転動力を、伝達軸36へと伝達する。また、PTOクラッチFは、解放状態となることで、PTO軸34側への動力の伝達が遮断されたPTO非駆動状態(ニュートラル状態)となり、ギヤ21aに伝達された回転動力の伝達軸36側への伝達を遮断する。なお、PTOクラッチFは、たとえば、作業者によって車内PTOオン/オフスイッチまたは車外PTOオン/オフスイッチがオン/オフされることで、油圧制御によって、PTO駆動状態またはPTO非駆動状態に切り替えることができる。
PTO変速装置22は、PTO軸34側に動力を伝達する場合に変速を行うものである。PTO変速装置22は、第1PTO変速クラッチG1と、第2PTO変速クラッチG2とを備えている。第1PTO変速クラッチG1は、ギヤ22a側に接続されると、伝達軸37の回転を、ギヤ37aとギヤ22aとを介してPTOクラッチ軸38側へと低速で伝達する。また、第1PTO変速クラッチG1は、ギヤ22b側に接続されると、伝達軸37の回転を、ギヤ37bとギヤ22bとを介してPTOクラッチ軸38側へと中速で伝達する。第2PTO変速クラッチG2は、ギヤ22c側に接続されると、伝達軸37の回転を、ギヤ37cとギヤ22cとを介してPTOクラッチ軸38側へと高速で伝達する。また、第2PTO変速クラッチG2は、ギヤ22d側に接続されると、伝達軸37の回転を、カウンタ軸39に設けられたギヤ39aとギヤ22dとを介してPTOクラッチ軸38側へと逆回転で伝達する。そして、PTOクラッチ軸38に伝達された動力は、接続軸40を介してPTO軸34を回転駆動する。
図4および図5は、作業車両各部の制御ブロック図である。ここでは、作業車両(トラクタ1)各部の自動制御について説明する。図4に示すように、トラクタ1の制御系は、エンジン4(図3参照)の出力を制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)150と、作業機の昇降を制御する作業機昇降系ECU160と、前輪2および後輪3(図3参照)の回転を制御して走行速度を制御する走行系ECU170(変速制御装置)とを備えている。なお、以下の説明では、トラクタ1にロータリ作業機が取り付けられた場合を例に説明する。
エンジンECU150には、エンジンモード選択151からの選択モード、エンジン回転センサ152からのエンジン4の回転数、エンジンオイル圧力センサ153からのオイル圧力、エンジン水温センサ154からのラジエータ水温、レール圧センサ155からのコモンレールの圧力などの制御データが入力される。また、エンジンECU150からは、燃料高圧ポンプ156への駆動信号、4つの高圧インジェクタ157への噴射信号などが出力される。
作業機昇降系ECU160には、作業機(ロータリ作業機)の昇降を検知する作業機昇降センサ161からの昇降検知信号、リフトアームセンサ162からのリフト位置信号、上げ位置規制ダイヤル163および下げ速度調整ダイヤル164からの調整信号などが入力される。また、作業機昇降系ECU160からは、作業機昇降シリンダ(油圧シリンダ)165のメイン上昇sol166およびメイン下降sol167へと上昇信号や下降信号などが出力される。
走行系ECU(変速制御装置)170には、各クラッチA,B(B11,B13,B22,B24),C(C1,C2)の圧着状態を測定する圧力センサ、すなわち、変速1クラッチ圧力センサ171、変速2クラッチ圧力センサ172、変速3クラッチ圧力センサ173、変速4クラッチ圧力センサ174、Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176、前進クラッチ圧力センサ177および後進クラッチ圧力センサ178の各オン/オフ信号、前後進レバーの前後進レバー操作位置センサ179からの操作位置、副変速レバーの副変速レバー操作位置センサ180からの操作位置、主変速レバーの主変速レバー操作位置センサ200からの操作位置、車速センサ181からの速度、ミッションオイル油温センサ182からのミッションケース12(図1参照)内のオイル温度、アクセルペダルの踏込位置を検出するアクセルセンサ183からの踏込信号、副変速レバーのクラッチボタン184からの操作信号、アクセル変速設定スイッチ185の設定信号、後述する規定圧力値(第2圧力値)を設定する変速感度ダイヤル186の設定ダイヤル値、後述する規定低圧値を設定する変速感度ダイヤル187の設定ダイヤル値などが入力される。また、走行系ECU(変速制御装置)170からは、前後進切替sol(ソレノイド)188、前後進昇圧sol189、PTOクラッチsol190、変速1sol191、変速3sol193、変速2sol192、変速4sol194、Hiクラッチsol195、Loクラッチsol196、1速および3速昇圧sol207、2速および4速昇圧sol208の各切替および昇圧信号、ブザー197からのブザー音などが出力される。
また、エンジンECU150、作業機昇降系ECU160、走行系ECU(変速制御装置)170からは、各出力データのうち、走行速度、変速位置、エンジン水温およびその他のデータがステアリングハンドル11の前に配設されたメータパネル198や操作パネル199に表示される。
図5は、アクチュエータ駆動回路図である。図5に示すように、作業車両としてのトラクタ1(図1参照)は、主変速クラッチB(第1主変速クラッチB1および第2主変速クラッチB2)やHi−LoクラッチCの圧着状態の調整が可能に構成されている。このような各クラッチB(B1,B2),Cの圧着状態の調整は、各クラッチB(B1,B2),Cに対応する各アクチュエータ201,202,203,204,205,206を制御して行う。第1主変速クラッチB1では、アクチュエータ201が変速1sol(ソレノイド)191を介して供給された油圧によって1速クラッチB11を駆動するとともに、アクチュエータ203が変速3sol193を介して供給された油圧によって3速クラッチB13を駆動する。また、第1主変速クラッチB1に供給される作動油の流量は、比例制御弁である1速および3速昇圧sol207によって任意に調節可能に構成されている。第2主変速クラッチB2では、アクチュエータ202が変速2sol(ソレノイド)192を介して供給された油圧によって2速クラッチB22を駆動するとともに、アクチュエータ204が変速4sol194を介して供給された油圧によって4速クラッチB24を駆動する。また、第1主変速クラッチB1に供給される作動油の流量は、比例制御弁である2速および4速昇圧sol208によって任意に調節可能に構成されている。Hi−LoクラッチCでは、アクチュエータ205が比例制御弁であるHiクラッチsol195を介して供給された油圧によってHiクラッチC1を任意に駆動するとともに、アクチュエータ206が比例制御弁であるLoクラッチsol196を介して供給された油圧によって任意にLoクラッチC2を駆動する。
また、各アクチュエータ201〜206によって駆動される各クラッチ(第1主変速クラッチB1、第2主変速クラッチB2、Hi−LoクラッチC)の圧着状態は、各sol(ソレノイド)191〜196と各アクチュエータ201〜206との間に設けられた各圧力センサ(変速1クラッチ圧力センサ171、変速2クラッチ圧力センサ172、変速3クラッチ圧力センサ173、変速4クラッチ圧力センサ174、Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)によってそれぞれ測定される。これにより、各クラッチB(B1,B2),Cの圧着を調整することができる。
〔変速制御〕
ここから、図6〜図9を参照して上述した構成の作業車両(トラクタ1)の走行系ECU(変速制御装置)170による変速制御について説明する。図6は、油温が20[℃]以上におけるHi−Loクラッチが絡まない(主変速クラッチのみの)変速制御のタイミングチャートである。図7は、油温が20[℃]以上におけるHi−Loクラッチが絡む(主変速クラッチおよびHi−Loクラッチの)変速制御のタイミングチャートである。図8は、油温が20[℃]未満におけるHi−Loクラッチが絡まない(主変速クラッチのみの)変速制御のタイミングチャートである。図9は、油温が20[℃]未満におけるHi−Loクラッチが絡む(主変速クラッチおよびHi−Loクラッチの)変速制御のタイミングチャートである。なお、図6〜図9では、縦軸が、主変速クラッチBおよびHi−LoクラッチCのクラッチ接続圧([kgf/cm2])であり、横軸が、時間([t])である。
上述したように、変速制御装置170は、ミッションケース12(図1参照)内に設けられた1速および3速用の第1主変速クラッチB1と2速および4速用の第2主変速クラッチB2とで形成された主変速クラッチBの他、主変速クラッチBの前後に直列する前後進クラッチAとHi−LoクラッチCとを切替制御することによって前後進切替および8速の多段変速を行う。
油温が20[℃]以上の場合の変速(1速〜8速)仕様において、低速段での変速および高速段での変速は、Hi−LoクラッチC(図3参照)を用いずに変速を行う。すなわち、主変速クラッチBのみで変速を行う。具体的には、1速段から4速段(低速段)の間における増速および減速、5速段から8速段(高速段)の間における増速および減速においては、Hi−LoクラッチCによる変速がない変速仕様となる。この場合の変速仕様の概要は、各変速を主変速クラッチB(図3参照)で行う。この場合、変速制御装置170(図4参照)では、Hi−LoクラッチCを、変速時の変速位置の出力を継続する制御を行う。また、前後進クラッチA(図3参照)を、前後進レバー(リニアレバー)などに応じた出力を継続する制御を行う。なお、上述したように、前後進クラッチA、主変速クラッチBおよびHi−LoクラッチCには、いずれも電磁比例弁のソレノイドを用いている。
図6に示すように、主変速クラッチBによる変速では、変速制御装置170は、主変速レバーの操作などによる変速指示発生後、変速元側の圧力(クラッチ接続圧)を、変速先側の油室211〜216(図5参照)内に作動油を充填する作動油充填時間(イニシャル時間)Ta終了後、T1[msec]まで出力を継続する制御を行う。同時に、変速制御装置170は、変速指示発生後、変速先側の圧力を、イニシャル時間Ta終了後に規定の昇圧カーブで昇圧する制御を行う。ここで、イニシャル時間Ta終了後の時間T1[msec]は、−300〜300[msec]の範囲で調整可能であり、また、10[msec]刻みで調整を行う。なお、時間T1[msec]は、デフォルトが0[msec]である。時間T1[msec]がイニシャル時間Taよりも大きくなる場合には、イニシャル時間Ta開始と変速元側の圧力の出力終了とを同一のタイミングとする。ただし、変速先側の圧力が5[kgf/cm2]以上になった場合には、ただちに変速元側の圧力出力を終了し、変速先側の圧力を2[kgf/cm2]に保持する。その後、変速元側が2[kgf/cm2]以下になった時点で、変速先側の圧力を上昇させる。なお、この場合の昇圧カーブは、変速時の変速位置での昇圧カーブとしてよい。
また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCによる高速段から低速段へと変速する場合および低速段から高速段へと変速する場合、すなわち、4速から5速へと増速する場合および5速から4速へと減速する場合には、1速から4速までの変速および5速から8速までの変速の場合と異なる変速制御を行う。この場合の変速仕様では、主変速クラッチBは、1速から4速までの変速および5速から8速までの変速の場合と同様の変速を行う。この場合、変速制御装置170は、所定の演算式、具体的には、Ta−(Tb+Tc)=Td[msec]経過後、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力を開始する制御を行う。すなわち、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力出力の開始タイミングを、主変速クラッチBの変速先側のイニシャル時間TaからHi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tbに時間Tc[msec]を加算した時間を減算した時間(遅延時間Td[msec])遅延する制御を行う。ここで、時間Tcは、150[msec]であることが好ましい。ただし、遅延時間Td[msec]がマイナス値になる場合は、Hi−LoクラッチCの変速先側の出力を先に開始し、主変速クラッチBの変速先側の出力開始タイミングをマイナス値分遅らせる制御を行う。
また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tb終了と同時に、Hi−LoクラッチCの変速元側における圧力の出力を終了する制御を行う。また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を、Hi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tb終了後に規定の第1圧力値Paに保持する。ここで、第1圧力値Paは、5[kgf/cm2]に設定されており、4速から5速への変速、5速から4速への変速で別々に設定可能になっている。また、変速制御装置170は、主変速クラッチBの変速先側の圧力がクラッチの接続/切断圧力値となる規定の第2圧力値Pb未満になると、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を一気に上昇させる制御を行う。ここで、第2圧力値Pbは、6[kgf/cm2]に設定されており、第1圧力値Paと同様、4速から5速への変速、5速から4速への変速で別々に設定可能になっている。また、変速制御装置170は、第2圧力値Pbを、変速感度ダイヤル186(図4参照)に設定された設定ダイヤル値に応じて変更する。これにより、4速と5速との間における変速時のフィーリングを任意に変更することができる。
また、変速制御装置170は、第1圧力値Paを、Hi−LoクラッチCによる高速段から低速段(4速から5速)へと変速する場合と低速段から高速段(5速から4速)へと変速する場合とで変更する。この場合、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧着状態を測定する各圧力センサ(Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速先側におけるイニシャル時間Tb終了後の圧力を、上述した規定の第1圧力値Pa(5[kgf/cm2])となるように所定時間ごとにフィードバック制御を行い、所定周期で第1圧力値Paを補正する。このような補正は、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力を第1圧力値Paに保持する制御を開始した後、センサ値に基づいて、具体的には、100[msec]経過後のセンサ値を参照し、第1圧力値Pa、すなわち、5[kgf/cm2]からのずれ量を補正する。補正の周期としては、一回目の補正から50[msec]ごとに行うことが好ましい。なお、変速制御装置170では、次回の変速も低速段から高速段(4速から5速)または高速段から低速段(5速から4速)への変速である場合は、前回の変速の最後の補正値を初期値とする。また、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力を、主変速クラッチBの変速先側における圧力が第2圧力値Pbを下回った時点で即座に全圧出力する制御を行う。
また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力(降圧)を、第2圧力値Pb未満になるまで規定の第3圧力値PLに保持する制御を行う。また、変速制御装置170では、規定の第3圧力値PLを、変速感度ダイヤル187(図4参照)に設定された設定ダイヤル値に応じて変更する。これにより、規定の第3圧力値PLを、設定ダイヤル値に応じて変更することで、4速と5速との間での変速時におけるフィーリングを任意に変更することができる。また、規定の第3圧力値PLをトラクタ1(図1参照)の走行負荷に応じて変更することで、その条件適応性が向上する。この場合においても、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧着状態を測定する各圧力センサ(Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力を、上述した規定の第3圧力値PLとなるように所定時間ごとにフィードバック制御を行い、所定周期で補正する。
一方、油温が20[℃]未満の場合の変速(1速〜8速)仕様においては、低速段での変速および高速段での変速は、油温が20[℃]以上の場合と同様、Hi−LoクラッチC(図3参照)を用いないで変速を行う。すなわち、主変速クラッチBのみで変速を行う。具体的には、1速段から4速段(低速段)の間における増速および減速、5速段から8速段(高速段)の間における増速および減速において、Hi−LoクラッチCによる変速がない変速仕様となる。この場合の変速仕様の概要は、各変速を主変速クラッチB(図3参照)で行う。この場合、図8に示すように、変速制御装置170(図4参照)では、主変速クラッチBの変速先側における圧力の出力を開始するタイミングと同時に、変速元側の圧力の出力を終了する制御を行う。また、変速制御装置170は、油温が20[℃]以上の場合と同様、Hi−LoクラッチCを、変速時の変速位置の出力を継続する制御を行う。また、前後進クラッチA(図3参照)を、前後進レバー(リニアレバー)などに応じた出力を継続する制御を行う。そして、変速制御装置170は、変速指示発生後、変速元側の圧力を、変速先側のイニシャル時間Ta終了後に規定の昇圧カーブで上昇させる制御を行う。
また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCによる高速段から低速段へと変速する場合および低速段から高速段へと変速する場合、すなわち、4速から5速へと増速する場合および5速から4速へと減速する場合には、1速から4速までの変速および5速から8速までの変速の場合と異なる変速制御を行う。この場合の変速仕様では、主変速クラッチBは、1速から4速までの変速および5速から8速までの変速の場合と同様の変速を行う。また、この場合、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tb開始と同時に、Hi−LoクラッチCの変速元側における圧力の出力を終了する制御を行う。
また、変速制御装置170は、所定の演算式、具体的には、Ta−(Tb+Tc)=Td[msec]経過後、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力を開始する制御を行う。すなわち、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力開始タイミングを、主変速クラッチBの変速先側のイニシャル時間TaからHi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tbに時間Tc[msec](150[msec])を加算した時間を減算した時間(遅延時間Td[msec])遅延する制御を行う。ただし、遅延時間Td[msec]がマイナス値になる場合は、Hi−LoクラッチCの変速先側の出力を先に開始し、主変速クラッチBの変速先側の出力開始タイミングをマイナス値分遅らせる制御を行う。
また、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を、Hi−LoクラッチCの変速先側のイニシャル時間Tb終了後に規定の第1圧力値Pcに保持する。ここで、第1圧力値Pcは、2[kgf/cm2]に設定されており、4速から5速への変速、5速から4速への変速で別々に設定可能になっている。また、変速制御装置170では、第1圧力値Pcを、Hi−LoクラッチCによる高速段から低速段(4速から5速)へと変速する場合と低速段から高速段(5速から4速)へと変速する場合とで変更する。この場合、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧着状態を測定する各圧力センサ(Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速先側におけるイニシャル時間Tb終了後の圧力を、上述した第1圧力値Pc(2[kgf/cm2])となるように所定時間ごとにフィードバック制御を行い、所定周期で補正する。このような補正は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を第1圧力値Pcに保持する制御を開始した後、100[msec]経過後のセンサ値を参照し、第1圧力値Pc、すなわち、2[kgf/cm2]からのずれ量を補正する。補正の周期としては、一回目の補正から50[msec]ごとに行うことが好ましい。
ここで、油温が20[℃]未満の場合の変速仕様では、クラッチの接続/切断圧力値となる規定の第2圧力値Pdは、3[kgf/cm2]に設定されており、4速から5速への変速、5速から4速への変速で別々に設定可能になっている。また、変速制御装置170は、第2圧力値Pdを、変速感度ダイヤル186(図4参照)に設定された設定ダイヤル値に応じて変更する。これにより、4速と5速との間での変速時におけるフィーリングを任意に変更することができる。
また、変速制御装置170では、第1圧力値Pcを、Hi−LoクラッチCによる高速段から低速段(4速から5速)へと変速する場合と低速段から高速段(5速から4速)へと変速する場合とで別々に変更可能とする。この場合、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧着状態を測定する各圧力センサ(Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速先側におけるイニシャル時間Tb終了後の油圧を、上述した第1圧力値Pc(2[kgf/cm2])となるように所定時間ごとにフィードバック制御を行い、所定周期で補正する。このような補正は、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を第1圧力値Pcに保持する制御を開始した後、センサ値に基づいて、具体的には、100[msec]経過後のセンサ値を参照し、第1圧力値Pc、すなわち、2[kgf/cm2]からのずれ量を補正する。補正の周期としては、一回目の補正から50[msec]ごとに行うことが好ましい。なお、変速制御装置170では、次回の変速も低速段から高速段(4速から5速)または高速段から低速段(5速から4速)への変速である場合は、前回の変速の最後の補正値を初期値とする。また、変速制御装置170では、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力は、主変速クラッチBの変速先側における圧力が第2圧力値Pdを下回った時点で即座に全圧出力する制御を行う。
また、油温が20[℃]未満の場合の変速仕様では、規定の第3圧力値PLは、0[kgf/cm2]に設定されている。これにより、低温時の昇圧動作によるミッションへの負担を低減することができる。さらに、変速制御装置170は、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力(降圧)を検出する各圧力センサ(Hiクラッチ圧力センサ175、Loクラッチ圧力センサ176)のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力を、上述した規定の第3圧力値PL、すなわち、0[kgf/cm2]となるように所定時間ごとにフィードバック制御を行い、所定周期で補正する。
また、変速制御装置170では、第2圧力値Pdを、変速感度ダイヤル186(図4参照)に設定された設定ダイヤル値に応じて変更する。これにより、4速と5速との間での変速時におけるフィーリングを任意に変更することができる。
なお、油温が20[℃]未満の場合の変速仕様においても、変速制御装置170では、次回の変速も低速段から高速段(4速から5速)または高速段から低速段(5速から4速)への変速である場合は、前回の変速の最後の補正値を初期値とする。また、Hi−LoクラッチCの変速先側における圧力の出力を、主変速クラッチBの変速先側における圧力が第2圧力値Pdを下回った時点で即座に全圧出力する制御を行う。
上述した実施形態に係る作業車両の変速制御装置170によれば、Hi−LoクラッチCによる変速を伴う場合、すなわち、高速段から低速段へとシフトする場合に、Hi−LoクラッチCの圧力を規定の第1圧力値Pa,Pcに保持しつつ、主変速クラッチBによる変速を行い、主変速クラッチBの変速先側が規定の第2圧力値Pb,PdになったときにHi−LoクラッチCの変速先側の圧力を上昇させることで、動力が完全に遮断される状態を防ぐことができる。この結果、変速フィーリングを向上させることができる。
また、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力状態を調整するアクチュエータ205,206の制御量を補正することで、たとえば、主変速クラッチBの変速元側のクラッチが遮断される前にHi−LoクラッチCの変速先側の圧力が高くなって変速段を飛び越えて動力が伝達されることによる変速ショック発生を防ぐことができる。また、作動油の特性やクラッチの特性にばらつきがあっても、変速精度を保つことができる。
また、主変速クラッチBの変速先側におけるオーバーシュートとHi−LoクラッチCの変速先側におけるオーバーシュートとが同時に発生することを避けることができる。すなわち、同一の油圧系内において2つのオーバーシュートが重複しないようになる。これにより、油圧のばらつきを抑えることができ、低速段から高速段への変速時および高速段から低速段への変速時の変速ショックを低減することができる。
また、Hi−LoクラッチCの変速元側の油圧降圧のタイミングを変速先側のイニシャル時間Tb終了と同時に制御することで、低速段から高速段(4速から5速)への変速時および高速段から低速段(5速から4速)への変速時の変速ショックを低減することができる。
また、規定の第1圧力値Pa,Pcを保持することで、クラッチ接続圧を安定させることができる。たとえば、第1圧力値Pa,Pcをクラッチ接続の閾値付近に設定することで、クラッチの即時接続が可能となり、Hi−LoクラッチCの変速先側の昇圧の時間を短縮することができる。さらに、昇圧幅も抑えることができるため、昇圧時の誤差が小さくなり、昇圧を安定させることができる。
また、主変速クラッチBの変速元側の圧力が規定の第2圧力値Pb,Pdまで下降するのを待ってHi−LoクラッチCの変速先側の圧力を一気に上昇させるため、昇圧の時間を短縮することができる。これにより、Hi−LoクラッチCが車速差の大きい変速位置に一瞬変速されてしまう(たとえば、4速から5速へと変速する場合に、4速→1速→5速の順に変速されてしまう)ことによる変速ショックを防ぐことができる。
また、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧着状態を測定するHiクラッチ圧力センサ175およびLoクラッチ圧力センサ176のセンサ値に基づいて、Hi−LoクラッチCの変速先側におけるイニシャル時間Tb終了後の圧力を補正することで、たとえば、第1圧力値Pa,Pcを、高速段から低速段へと変速する場合および低速段から高速段へと変速する場合のそれぞれのトルク特性を考慮した値として、トルク特性に応じた高精度変速が可能となる。
また、Hi−LoクラッチCの変速先側の圧力を常に規定の第1圧力値Pa(5[kgf/cm2])またはPc(2[kgf/cm2])となるように補正することで、圧力のばらつきが生じても安定した変速動作を行うことができる。
また、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力の下降を、主変速クラッチBの変速元側の圧力が規定の第2圧力値Pb(6[kgf/cm2])またはPd(2[kgf/cm2])になるまで、すなわち、次の変速先の準備ができるまで低圧値(規定の第3圧力値PL)に保持することで、動力遮断を防ぐことができる。また、Hi−LoクラッチCの変速元側の圧力を規定の第3圧力値PLとなるように補正することで、圧力のばらつきが生じても安定した変速動作を行うことができる。
なお、上述した実施形態に係る作業車両の変速制御装置170では、変速感度ダイヤル186,187を備え、規定の第2圧力値Pb,Pdや規定の第3圧力値PLを設定ダイヤル値に応じて変更する構成としているが、変速感度ダイヤルをさらに備え、主変速クラッチBの変速先側における昇圧カーブの圧力を制御して、昇圧カーブを補正するように構成してもよい。図10は、変速感度ダイヤル値と昇圧補正量との関係を示す説明図である。図10に示すように、変速制御装置170(図4参照)は、変速感度ダイヤルからの変速感度ダイヤル値に応じて主変速クラッチBの変速先側における昇圧カーブの圧力を加算する。このように、圧力を加算することにより、昇圧カーブは全体的に平行移動する。ただし、昇圧カーブの圧力がダイヤル値の最大値を超えてしまう場合は、その値(最大値)までとする。また、変速感度ダイヤルのダイヤル値が最大値付近の場合には、主変速クラッチBの昇圧カーブの圧力を加算せず、一気に最大値にする(この場合、昇圧補正量は0[kgf/cm2])。
図11は、クラッチ接続圧と電流との関係を示す説明図である。ここで、各比例sol191〜196,207,208(図5参照)に矩形電流を流し、弁機構を全開にすると、最大の流量で作動油が各クラッチの油室211〜216に供給される。クラッチ接続圧は、油室211〜216が作動油で満たされるまで一定の値で推移し、その後上昇する。各クラッチのイニシャル時間Ta,Tbを設定する際は、図11に示すように、電流を流し始めてから規定のクラッチ接続圧Pに昇圧するまでの基準時間Tsを測定し、測定によって得られた基準時間Tsに適切な係数(たとえば、0.8)を乗じた値をイニシャル時間Ta,Tbとして変速制御装置170内の記憶領域に格納する。通常の運転時は、設定したイニシャル時間Ta,Tbの間、矩形電流を流して各クラッチの油室211〜216を作動油で素早く満たした後、各比例sol191〜196,207,208に対する電流を一旦下げ、その後、徐々に電流を上げていくことでクラッチ接続圧の昇圧カーブを制御し、ショックなくクラッチが接続される。
また、上述した変速感度ダイヤルの仕様では、副変速機D(図3参照)がトラクタ1(図1参照)の路上位置を検出している場合には、変速感度ダイヤル値を0に設定して制御する。さらに、油温が20[℃]未満の場合にも、変速感度ダイヤル値を0に設定して制御する。
また、上述した実施形態に係る作業車両の変速制御装置170では、変速感度ダイヤルを、規定の第2圧力値Pb,Pdおよび規定の第3圧力値PLのそれぞれに対応させて2つ備える構成としているが、1つの変速感度ダイヤルで双方を設定するように構成してもよい。また、規定の第1圧力値Pa,Pcを設定可能に構成してもよい。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。