JP6448492B2 - マイクロポーラス層形成用ペースト及び燃料電池用ガス拡散層 - Google Patents

マイクロポーラス層形成用ペースト及び燃料電池用ガス拡散層 Download PDF

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Description

本発明は、主に固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の電極に用いられるガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)に関するもので、特に、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材の表面に塗布してマイクロポーラス層(MPL:Micro Porous Layer)を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト及び前記マイクロポーラス層形成用ペーストを採用した燃料電池用ガス拡散層に関するものである。
自動車等の動力源として使用が拡大されている固体高分子形燃料電池においては、一般に、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜の両面に、白金等の触媒を担持したカーボン等の導電材及びイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、電極触媒層の外側に配置する多孔質のガス拡散層(GDL)とによって構成されるカソード(+)側電極及びアノード(−)側電極が配設され、膜/電極接合体(MEGA;Membrane-Electrode-Gas Diffusion Layer Assembly)を形成している。また、この膜/電極接合体を構成するガス拡散層の外側に、燃料ガス(アノードガス)または酸化ガス(カソードガス)を供給し、かつ、生成ガス及び過剰ガスを排出するガス流路を形成したセパレータが配設され、膜/電極接合体がセパレータで挟持された単セル (single cell)を形成している。
このような構成の固体高分子形燃料電池におけるガス拡散層では、セパレータに形成されたガス流路から供給される燃料ガスまたは酸化ガスをガス拡散層と隣接する触媒層に拡散させる役目(ガス拡散性・透過性)を担うことからガス拡散性が要求されると共に、触媒層での反応に必要な電子を伝達する役目及び発電電気(電荷)をセパレータに効率的に集電させる役目を担い、電子を移動させる導電性も要求される。更に、ガス拡散層は水の通り道ともなることから、高分子電解質膜と触媒層を常に最適な湿潤状態に保ち、また、フラッディング現象(ガス拡散層の細孔が水で閉塞する現象)を抑制して、安定した発電性能を維持するために、発電時の水素及び酸素の電気化学的反応によって生成した過剰な反応生成水や結露水を排出させる撥水性(水分透過性)も必要とされる。
このため、従来のガス拡散層では、所定のガス拡散性、導電性(集電性)、撥水性を確保するために、ガス拡散性及び導電性を有する炭素繊維からなるカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性多孔質基材が一般的に用いられる。また、この導電性多孔質基材に対して、撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とも略する。)等の撥水性樹脂や、導電性(集電性)を向上させるためのカーボン等の導電性材料を含浸、塗布等することが行われている。
特に、近年では、導電性多孔質基材に対してマイクロポーラス層(MPL)と称されるコーティング薄膜を形成した多層構造からなるガス拡散層が開発されており、この多層構造としたガス拡散層の導電性多孔質基材側をセパレータに接触させると共に、マイクロポーラス層側を触媒層に接触させて固体高分子形燃料電池に組み込んで適用することで、ガス拡散性及び水管理性が向上し発電性能が安定化することが知られている。また、マイクロポーラス層の成分調節により、導電性多孔質基材では困難である電池の使用環境や運転条件等に応じた性能の制御性を獲得できる点で有用とされている。なお、この多層構造からなるガス拡散層では、何れの層でも発電時に生成する水の排水性を良好にするために撥水性を備えることが望ましく、通常、双方に適宜の撥水処理が施される。
このような導電性多孔質基材及びマイクロポーラス層からなるガス拡散層は、例えば、カーボン粒子等の導電性材料、PTFEエマルジョン等のフッ素系の撥水性樹脂、及び分散剤を含有するマイクロポーラス層形成用のペースト状混合物を、撥水処理が施された導電性多孔質基材の表面に塗布し、更に、分散剤及び水分を揮発させるための乾燥・焼成処理を行うことによって形成することができる。
特に、導電性材料にカーボン粒子等の粉末状のものを使用してマイクロポーラス層を形成した場合には、マイクロポーラス層の表面が均一になりやすく、触媒層との接触抵抗が低減し、また、ガスの拡散が均一になるから、電池の高出力化が可能となる。
しかし、導電性材料としてカーボン粒子等の粉末状のものを使用する場合、その導電性粉末と、フッ素系の撥水性樹脂と、分散剤との混合物を導電性多孔質基材に対して塗布し、乾燥・焼成しただけでは、触媒層と結合させて電池に組み付ける作業時の取扱いによってはマイクロポーラス層となる塗膜が導電性多孔質基材から剥がれるという問題が発生していた。
ここで特許文献1では、炭素繊維、結合剤樹脂、導電性微粒子、特定の膜厚と繊維長を有する熱融着性有機繊維を含み、熱融着性有機繊維が加熱により相互に熱融着させられて構成される多孔質骨材構造内において、炭素繊維が導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されているガス拡散層を開示している。この特許文献1では、熱融着性有機繊維が60〜180℃の相対的に低融点・低軟化点を有する鞘側樹脂及び200〜350℃の相対的に高融点・高軟化点を有する芯部樹脂で構成されて、鞘側樹脂の融点・軟化点より高い温度(実施の形態では150℃程度と記載されている)が加えられることで、熱融着性有機繊維同士が相互に熱融着するとされている。また、熱融着性有機繊維に対し結合剤樹脂が付着し、それに炭素繊維及び導電性微粒子が絡みついて、熱融着性有機繊維同士を熱融着する時の温度で、結合剤樹脂が乾燥硬化されることで固定され、これにより炭素繊維が相互に絡み合い、かつ、導電性微粒子を介して結合剤樹脂で接合されると記載されている。このときの結合剤樹脂としては、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂や熱融着性樹脂が挙げられている。
また、従来から、高い導電性を確保するために炭素繊維を炭素により結着したガス拡散層の導電性多孔質基材が開発されており、例えば、特許文献2において、炭素繊維及び炭素粉を結着する炭素として、水性フェノール樹脂を不活性雰囲気下で1000℃以上の高温で加熱し炭化させてなる樹脂炭化物が開示されている。この樹脂炭化物により炭素繊維及び炭素粉を結着することで、強固な導電パスを形成し良好な多孔質電極基材を提供できるとしている。
特開2012−190619号公報 特開2014−207240号公報
ここで、特許文献1では、200〜350℃の融点・軟化点を有する芯部樹脂を溶融・軟化させることなく60〜180℃の融点・軟化点を有する鞘側樹脂を溶融・軟化させて熱溶着させる温度が加えられることから、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂を結合剤樹脂として使用した場合には、その温度で熱硬化性樹脂が乾燥硬化し、硬化した熱硬化性樹脂によって炭素繊維が導電性微粒子と共に熱融着性有機繊維に固定化されることになる。即ち、特許文献1においては、フェノール系樹脂等の熱硬化樹脂は熱融着性有機繊維に炭素繊維と導電性微粒子を固定するために利用されている。
また、特許文献2では、フェノール樹脂を1000℃以上の高温で加熱して炭化させた樹脂炭化物として用いて、炭素繊維及び炭素粉を結着させているが、これは導電性を高めるためのものである。
そこで、本発明は、マイクロポーラス層が導電性多孔質基材から剥離し難いマイクロポーラス層形成用ペースト、及び、マイクロポーラス層が導電性多孔質基材から剥離し難い燃料電池用ガス拡散層の提供を課題とするものである。
請求項1のマイクロポーラス層形成用ペーストは、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内で配合される水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなり、導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することで燃料電池用のガス拡散層のマイクロポーラス層を形成する。このとき前記水性フェノール樹脂は、前記導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成するときの乾燥・焼成温度で炭化状態となるものである。
ここで、上記水性フェノール樹脂としては、溶剤(有機溶媒)が使用されることなく(溶剤で希釈することなく)、フェノール樹脂が水に溶解した水溶性フェノール樹脂またはフェノール樹脂が水に分散された水分散性フェノール樹脂の製品が使用される。
請求項の燃料電池用拡散層は、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性 粉末100重量部に対し固形分で0.35〜1.3重量部の範囲内で配合され、分解温度 が400℃〜500℃の範囲内の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなり、導電性 多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することで燃料電池用のガス拡散層のマイクロポーラス 層を形成するマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布し、乾燥・焼成してなるものである。
請求項1の発明のマイクロポーラス層形成用ペーストによれば、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内で配合される水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなるものである。そして、水性フェノール樹脂は、マイクロポーラス層形成用ペーストを前記導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成するときの乾燥・焼成温度で炭化状態となるものである。
本発明者らは、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することで形成される燃料電池用のガス拡散層について、導電性多孔質基材に形成されたマイクロポーラス層が燃料電池への組み付け時に導電性多孔質基材から剥離しないようにするために、鋭意実験研究を積み重ねた結果、マイクロポーラス層形成用ペーストに水性フェノール樹脂を前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内で配合し、この水性フェノール樹脂が乾燥・焼成後に炭化状態となることで導電性多孔質基材に形成されたマイクロポーラス層の塗膜が導電性多孔質基材から剥離する剥離強度(マイクロポーラス層の塗膜を導電性多孔質基材から剥離させるのに必要な力・荷重)が顕著に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
ここで、水性フェノール樹脂の配合が0.35重量部より少なすぎる場合、マイクロポーラス層となる塗膜の剥離強度を高める効果が小さく実用化に適さない。一方で、水性フェノール樹脂の配合が1.3重量部より多すぎる場合、剥離強度は却って低くなる。
水性フェノール樹脂の配合量を、導電性粉末100重量部に対し、固形分(樹脂分)で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内とすることで、確実に、マイクロポーラス層が導電性多孔質基材から剥離し難いものとなる。
請求項の発明の燃料電池用ガス拡散層によれば、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35〜1.3重量部の範囲内で配合される水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなり、導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することでマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成用ペーストを、導電性多孔質基材に塗布し、乾燥・焼成してなるものである。そして、前記水性フェノール樹脂は、前記マイクロポーラス層形成用ペーストを前記導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成するときの乾燥・焼成温度で炭化状態となるものである。
本発明者らは、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することで形成される燃料電池用のガス拡散層について、導電性多孔質基材に形成されたマイクロポーラス層が燃料電池への組み付け時に導電性多孔質基材から剥離しないようにするために、鋭意実験研究を積み重ねた結果、マイクロポーラス層形成用ペーストに水性フェノール樹脂を前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内で配合し、この水性フェノール樹脂が乾燥・焼成後に炭化状態となることで導電性多孔質基材に形成されたマイクロポーラス層の塗膜が導電性多孔質基材から剥離する剥離強度(マイクロポーラス層の塗膜を導電性多孔質基材から剥離させるのに必要な力・荷重)が顕著に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
ここで、水性フェノール樹脂の配合が0.35重量部より少なすぎる場合、マイクロポーラス層となる塗膜の剥離強度を高める効果が小さく実用化に適さない。一方で、水性フェノール樹脂の配合が1.3重量部より多すぎる場合、剥離強度は却って低くなる。
水性フェノール樹脂の配合量を、導電性粉末100重量部に対し、固形分(樹脂分)で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内とすることで、確実に、マイクロポーラス層が導電性多孔質基材から剥離し難いものとなる。
したがって、本発明のマイクロポーラス層形成用ペーストを使用した燃料電池用拡散層は、燃料電池への組み付け時にマイクロポーラス層が導電性多孔質基材から剥離しないため燃料電池の信頼性が高まる。
なお、上記の数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
図1は本発明の実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布し、乾燥・焼成してなるガス拡散層の製造工程を示すフローチャートである。 図2は本発明の実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布して形成した燃料電池用ガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池の概略構成を示す模式図である。 図3は本発明の実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布して形成した燃料電池用ガス拡散層について行う剥離(引張)試験を説明するための説明図であり、(a)は、燃料電池用ガス拡散層のマイクロポーラス層表面に粘着テープを貼り付けた状態を示す断面図、(b)はその粘着テープを一部剥がし、上下に引張る状態を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
まず、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストについて説明する。
本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストは、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、所定量の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなるものである。
導電性粉末としては、例えば、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、気相成長炭素粉末等のカーボン粉末が挙げられ、これら1種を単独で用いることもできるし、2種以上を併用することも可能である。
また、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストの塗布対象としての導電性多孔質基材は、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等のカーボン基材であり、これらカーボン基材との相性の点から、更には、導電性、比表面積、耐食性、電気抵抗、コストの観点から、導電性粉末としてはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラック等が挙げられるが、これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
中でも、アセチレンブラックは純度が高くて使いやすく、また、比表面積が大きく分散性に優れ、電子伝導性や撥水性も良好で、化学的安定性が高く、更に、良好な揺変性(チキソトロピー)を付与して膜の成形が容易であることから、燃料電池の電極に使用されるマイクロポーラス層の塗膜を形成するのに好適である。
なお、導電性粉末の中位径(一次粒子径)は、均一分散性の観点から、20nm〜150nmの範囲内であることが好ましい。
因みに、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、平均粒子径との差も正規分布に近いほど僅少であり、平均粒子径≒中位径であり、平均粒子径=中位径と見做すこともできる。
また、導電性粉末は、含有量が少なすぎる場合、導電性が不足し、一方で、含有量が多すぎると、マイクロポーラス層の空孔が少なくなり、ガス透過性が低下することから、マイクロポーラス層形成用ペースト中の全固形分において50〜95重量%の範囲内の含有量とすることが望ましい。
撥水性樹脂としては、形成するマイクロポーラス層の塗膜において撥水性を発現でき、かつ、焼成によりその少なくとも一部が軟化・溶融して導電材(マイクロポーラス層の導電性粉末や導電性多孔質基材の炭素繊維等の導電性物質)を結着する樹脂バインダーとして機能するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂や、シリコーン樹脂等を使用できる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。フッ素系樹脂等の撥水剤は、そのままでは水には分散しないため、適当な分散剤(界面活性剤)によって水中に分散させたもの、例えば、フッ素系樹脂等の撥水剤が乳化されたエマルジョンや、フッ素系樹脂等の撥水剤が分散されたディスパージョン等を用いることができる。
中でも、撥水性、電極反応時の耐食性等に優れるフッ素系の高分子材料が好ましく、特に、PTFEのエマルジョンを用いるのが好ましい。なお、PTFEは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化オレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の他のフッ素系単量体に由来する単位を含む変性PTFEであってもよい。
なお、撥水性樹脂の平均分子量は、5万〜100万の範囲内であることが望ましい。平均分子量が低すぎるものは、導電材(マイクロポーラス層の導電性粉末や導電性多孔質基材の炭素繊維等の導電性物質)を結合させるバインダーとしての結着性が小さく、一方で、平均分子量の大きすぎるものは、混合時に繊維化して分散不良になり易くてペーストの安定性が低下したり、塗工等の製造プロセスにおける剪断力により繊維化して固まり、配管やポンプ等に目詰まりや濃度変化を起こし、塗着不良を起こしたりする原因となる。因みに撥水性樹脂がフッ素系重合体である場合、フッ素系重合体は溶媒に溶解しにくいため、溶融粘度では平均分子量を測定しにくい。このため、比重と数平均分子量との関係から平均分子量を求める比重法が適用される。
また、撥水性樹脂の含有量が少なすぎる場合、撥水性が不足したり、バインダー効果が小さくて高い膜強度や接合強度が得られなくなったりする。一方で、含有量が多すぎると、マイクロポーラス層の空孔が少なくなり、ガス透過性が低下する。よって、撥水性樹脂は、マイクロポーラス層形成用ペースト中の全固形分において5〜50重量%の範囲内の含有量とすることが望ましい。
因みに、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、ここでは「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
分散剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX−100等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等のノニオン系分散剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系分散剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系分散剤等が挙げられ、これら1種を単独でまたは2種以上を用いることが可能である。例えば、導電性粉末としてカーボンブラック、撥水性樹脂としてPTFEエマルジョンを使用する場合には、これら導電性粉末や撥水性樹脂微粒子等の濡れ性を良くし分散性を向上させるために、非イオン系界面活性剤の分散剤が好ましい。なお、撥水性樹脂が分散剤を含む状態で混合される場合もある。
分散剤が配合されることによって、導電性粉末や撥水性樹脂の凝集を防止して溶媒に均一に分散させることができる。これにより、ペーストの安定性が高まり、また、塗布時において配管やポンプ等に目詰まりや濃度変化が生じることが防止されて、良好な成膜性を得ることができる。更に、均質で表面起伏が少ないマイクロポーラス層として良好なガス拡散性等の特性を得ることができる。加えて、触媒層との接触抵抗も小さくなり、燃料電池において安定した出力を得ることができる。
なお、分散剤は、分散性を確保するためにマイクロポーラス層形成用ペースト中に0.1重量%以上含有されるが、含有量が多すぎると、ペーストが発泡しやすくなり、また乾燥・焼成時間が長くなり負担となるから5重量%以下とするのが好ましい。
ここで、本発明者らは、鋭意実験研究を積み重ねた結果、これら導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤とを含有するマイクロポーラス層形成用ペーストにおいて、所定量の水性フェノール樹脂を配合すると、マイクロポーラス層形成用ペーストを、カーボン基材の導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成したマイクロポーラス層の導電性多孔質基材からの剥離強度、即ち、導電性多孔質基材に対しての接合強度(密着性)が顕著に向上することを見出した。
これは、所定量の水性フェノール樹脂が配合されたマイクロポーラス層形成用ペーストは、導電性多孔質基材に塗布された後、マイクロポーラス層を形成するための乾燥・焼成工程において、水性フェノール樹脂の分解温度より低い乾燥・焼成時の温度にて水性フェノール樹脂が炭化状態となり、その炭化した成分がマイクロポーラス層内の結着と、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の界面の結着を促進する結着成分として働くためと推定している。
更に推論すると、水性フェノール樹脂は、他の水性樹脂と比較して、炭化した際にカーボンを結着しやすいことから、導電性粉末としてのカーボンブラック等のカーボン成分や導電性多孔質基材に含有されるカーボン成分との結合力が強くなる。これによって効果的にマイクロポーラス層の導電性粉末や導電性多孔質基材を結着して、有効にマイクロポーラス層を強固とし、導電性多孔質基材とマイクロポーラス層の剥離強度を高めることができる。また、マイクロポーラス層から導電性粉末が脱落するのを防止できる。 ここで、水性フェノール樹脂の分解温度が400℃〜500℃のものは、後述する乾燥・焼成温度250℃〜350℃において炭化状態として残存する成分が多く(炭化率が高く)効率が良い。そして、このような分解温度を有するものとしては重量平均分子量(Mw)が小さいものが適するが、あまり小さいものはマイクロポーラス層の膜強度や導電性多孔質基材とマイクロポーラス層の剥離強度の向上に不適である。したがって、40%以上の残炭率を有する水性フェノール樹脂が好適である。なお、水性フェノール樹脂の含有量に対する炭化状態の割合(残炭率)は、使用する水性フェノール樹脂の種類、含有量と乾燥・焼成温度によって決定され、含有させた水性フェノール樹脂の全てが炭化すると炭化率は100%となる。
ここで、フェノール樹脂には、水性のものと、水に不溶な溶剤系(溶剤希釈型)のものとがあるが、本発明では、水性のフェノール樹脂が使用され、溶剤(有機溶媒)を使用せずに(溶剤で希釈せずに)水に溶解・分散させているフェノール樹脂製品(エマルジョン(乳濁液)、ディスパージョンを含む)が使用される。有機溶媒を使用している場合、マイクロポーラス層形成用ペーストに混合した際に、有機溶媒によってPTFEエマルジョン等の撥水性樹脂の分散状態が安定し難くなり、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂が分離して、成膜性が悪くなったり、撥水性等の特性が低下したりして、高い電池性能を得ることができなくなるためである。
このような水性フェノール樹脂としては、例えば、住友ベークライト(株)製のスミライトレジンや、DIC(株)製のフェノライトや、昭和電工(株)製のショウノール等の市販商品を使用することができる。
なお、この水性フェノール樹脂は合成の際に金属触媒やアルカリ触媒を用いていないものを使用するのが好ましい。水性フェノール樹脂中にナトリウムやカルシウム等のイオンが存在すると、これらの金属イオンが燃料電池を構成する固体高分子形電解質膜のプロトン伝導性の低下を引き起こし、電池性能を低下させる恐れがあるからである。
また、水性フェノール樹脂の配合は、導電性粉末100重量部に対し固形分(樹脂分)で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内とするのが好ましい。
水性フェノール樹脂の配合がこの範囲外では後述する試験結果から、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の剥離強度を高める効果が小さいからである。
そして、本実施の形態においては、以上説明してきたカーボンブラック等の導電性粉末、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂、分散剤、及び規定量範囲内の水性フェノール樹脂に加え、溶媒としてイオン交換水等の水が配合され、これら配合材料が混合分散されてマイクロポーラス層形成用ペーストが得られる(図1のステップS1)。
溶媒は、導電性粉末、撥水性樹脂、分散剤、水性フェノール樹脂の各配合成分を混合分散してペースト化するための溶媒であり、乾燥・焼成後においては消失するものである。溶媒としてイオン交換水等の水系の溶媒を使用した場合には、有機系溶剤を使用した場合よりも、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂の分散性が良くてPTFEエマルジョン等の撥水性樹脂が分離することなく、良好な成膜性が得られる。また、塗工や焼成の際の作業性が良く、発火の恐れもない。更に、環境負荷にもならず、低コストで製造できる。
ここで、配合材料の混合分散処理は、一般的なディスパー、プラネタリー等のミキサーや、ビーズミル等を使用した攪拌も可能であるが、攪拌用羽根等による剪断力を用いることなく、材料同士の接触(衝突)や材料の撹拌容器内壁への接触(衝突)によって発生する衝突エネルギー等を利用して分散させるのが望ましく、例えば、公転・自転を特定の値に設定可能な遊星式撹拌・脱泡装置等を用いて混合分散させることが好ましい。これにより、カーボン等の導電性粒子の三次元構造の破壊を招くことなく、導電性粒子の三次元構造を維持したまま、導電性粉末を分散できることから、撥水性樹脂と導電性粒子との強固な三次元結合を形成し、膜強度の向上を図ることができる。また、分散時に高い剪断応力がかかると導電性粉末及び撥水性樹脂エマルジョン中の樹脂分が凝集して凝集物を生じ塗工時のフィルターの目詰まりや塗膜の欠落を発生するが、遊星式撹拌・脱泡装置を用いることで、導電性粉末及び撥水性樹脂エマルジョン中の樹脂分が凝集して凝集物が生じるのが防止され、塗工時のフィルターの目詰まりや塗膜の欠落が防止される。更に、遊星式撹拌・脱泡装置を用いることで、かかる装置においては撹拌用の羽根等を有しないため洗浄に手間がかかることがなく、歩留まりも向上することから、低コスト化が可能となる。
なお、本発明を実施する場合には、必要に応じてその他添加剤を配合することも可能である。例えば、導電性や強度を高めるために炭素繊維(カーボンナノチューブ)等の繊維状の導電性材料を用いることも可能である。但し、繊維状の導電性材が多いと、ガス拡散層を構成する導電性多孔質基材及びマイクロポーラス層のうちマイクロポーラス層が触媒層に接触されることから、繊維が高分子膜に突き刺さりやすくなり、高分子膜を劣化させ、発電性能を低下させる恐れがある。また、繊維によって表面に凹凸が発生しやすくなることから、触媒層との接触面積が低下し、接触抵抗が増加して十分な導電性や排水性が得られなくなる可能性がある。このため、このような不具合を生じない範囲での添加が好ましい。
次に、この本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペーストを用いて形成される燃料電池用のガス拡散層について説明する。
本実施の形態と挙げている燃料電池用のガス拡散層の製造においては、図1のステップS1の混合分散工程を経て得られたマイクロポーラス層形成用ペーストを、図1のステップS2の塗布工程にて、導電性多孔質基材に塗布する。
導電性多孔質基材としては、従来の燃料電池(特に、固体高分子形燃料電池)のガス拡散層で一般的に用いられているガス透過性と導電性を備える多孔質のものを用い、本発明のマイクロポーラス層形成用ペーストによって形成されるマイクロポーラス層に含まれる炭化成分との結着性が良好なカーボン成分を含有しているものである。例えば、黒鉛、膨張黒鉛等の炭素材料(ナノカーボン材料を含む)の導電性材料が繊維状、粒子状、織布状、不織布状、メッシュ状、格子状、パンチング体、発泡体等の多孔質体の形態で構成されたものを用いることができる。特に、ガス透過性等の観点から、炭素繊維が好ましく、より具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト(カーボン不織布)等が好適に使用される。これらは、燃料電池の使用状況、運転条件等を考慮して選択される。
因みに、カーボンクロスやカーボンフェルト(カーボン不織布)は構造上、ガス透過性が高く、高湿度条件での使用に適している。カーボンペーパーは、カーボンファイバーをバインダーで結着させており、孔径分布がカーボンクロスやカーボンフェルト(カーボン不織布)に比べて小さいためガス透過性が低く、低湿度条件での使用に適している。カーボンペーパーは、カーボンクロスやカーボンフェルト(カーボン不織布)に比べて、薄くても面方向や厚さ方向の寸法安定性が高く、成形加工性が優れており、また、曲げ剛性が高いために膜/電極接合体をスタック化する際のハンドリング性に優れている。更に、カーボンペーパーは、カーボンクロスやカーボンフェルト(カーボン不織布)に比べて薄くできて成形しやすいため、スタックサイズの小型化が容易である。加えて、ガス拡散層を所定寸法にカットする工程時のカット後の寸法安定性も良好で、ロボットによる搬送工程における易チャック性・易移動性に優れるため、燃料電池の大量生産化に有利である。
更に、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質基材には、ガス拡散層の撥水性をより向上させて燃料電池の発電性能や耐久性をより向上させるために、撥水処理が施される。また、導電性多孔質基材に撥水処理(図1のステップS11)が施されていると、マイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布した際に、その一部が導電性多孔質基材に染み込んで(浸透して)空間の目詰まりを起こすのが防止される。即ち、マイクロポーラス層形成用ペーストが導電性多孔質基材に染み込むことなく成膜することができ、ガス拡散性を阻害することがない。これにより、導電性多孔質基材の気孔率が大きく保たれ圧力損失が小さくなり、均一なガス供給及び反応生成水の良好な排出を行うことができ、固体高分子形燃料電池の高出力化を図ることができる。
導電性多孔質基材に施される撥水処理(図1のステップS11)は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂が分散した分散液(PTFEディスパージョン等)に導電性多孔質基材を浸漬させ、乾燥させることによって含浸させることで行うことができる。所望量のフッ素樹脂が含浸されるまで、浸漬と乾燥とを繰り返してもよい。この方法によれば、面内方向、厚み方向への含浸量の均一性が高いものとなる。その他にも、撥水性樹脂が分散した分散液を噴霧するスプレー法等による含浸処理も可能である。撥水処理に使用する撥水剤は、上述のマイクロポーラス層形成用ペーストに用いることができる撥水性樹脂と同様のものを用いて行うことができる。
なお、撥水性確保の点から導電性多孔質基材中に撥水剤が1重量%以上となるようにするのが望ましいが、撥水剤が過剰であるとガス拡散性や排水性が低下するから、30重量%以下とするのが好ましい。
導電性多孔質基材の厚さは、燃料電池の運転条件等や求められる性能を考慮して設定されるが、導電性多孔質基材が薄すぎると、強度が不足して安定的なガス拡散性、排水性、導電性等のガス拡散層の性能が得られなくなったり、取扱い性が悪くなり触媒層との位置ずれが生じたりして、電池性能の低下を招く。また、導電性多孔質基材が厚すぎても、ガス拡散性が低下したり、内部抵抗値が増大したりし、高い電池性能を得ることができなくなる。このため、2μm〜500μmの範囲内が好ましい。なお、通常、導電性多孔質基材の厚みは、マイクロポーラス層の厚みよりも厚いものとなる。
導電性多孔質基材に対するマイクロポーラス層形成用ペーストの塗布は、刷毛塗り、筆塗り、ロールコータ法、バーコータ法、ダイコータ法、ブレード法、ナイフコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷、カーテンコーティング法、ディップコータ法、スプレーコータ法、グラビアコータ法、アプリケータ等の方法で行うことができる。
このときマイクロポーラス層形成用ペーストの塗布膜厚は、燃料電池の運転条件等や求められる性能を考慮して設定されるが乾燥・焼成後の塗膜の乾燥膜厚(マイクロポーラス層厚み)が、1μm〜300μmの範囲内となるように設定されるのが好ましい。
乾燥膜厚が薄すぎると導電性多孔質基材の凹凸を吸収したり、導電性多孔質基材の繊維が電解質膜に突き刺さるのを阻止したりする効果が得られない。一方で、塗布膜厚が厚すぎると、乾燥・焼成による収縮によって表面平滑性が低下しやすく、触媒層との接触抵抗が増大する。また、乾燥膜厚が厚いと、厚さ方向の電気抵抗が高くなる。
乾燥膜厚が1μm〜300μmの範囲内であれば、表面平滑性の高いマイクロポーラス層が得られ、良好なガス透過性、電気抵抗性の性能を確保できる。また、導電性多孔質基材の厚みに対してマイクロポーラス層の厚みが50%以下であるのが望ましい。厚みの差が適度な範囲内であれば、乾燥・焼成による導電性多孔質基材とマイクロポーラス層間における収縮応力が小さく、高い接合強度が得られる。また、拡散層全体の平滑性が高くなり触媒層との接触抵抗が小さいものとなる。
そして、図1のステップS2の塗布工程にてマイクロポーラス層形成用ペーストが塗布された導電性多孔質基材は、図1のステップS3の乾燥・焼成工程にて乾燥・焼成される。
この乾燥・焼成によって、導電性多孔質基材に塗布されたマイクロポーラス層形成用ペーストによる塗膜中の分散剤及び水分が除去され、空隙(細孔)が形成されると共に、撥水性樹脂による撥水性が発現される。さらに、本実施の形態において配合された水性フェノール樹脂が炭化状態になり、これによってマイクロポーラス層の補強とマイクロポーラス層からの導電性粉末の脱落防止、及びマイクロポーラス層と導電性多孔質基材との付着性を向上させることが可能となる。
このため乾燥・焼成温度は、分散剤及び水分を除去できる温度であり、かつ、撥水性樹脂を軟化・溶融させて撥水性樹脂による撥水性を発現させることができる温度であり、更に水性フェノール樹脂を炭化状態としてマイクロポーラス層の導電性粉末や導電性多孔質基材と結着できる温度である。これらを可能とする温度として通常、250℃〜350℃の範囲内に設定される。
乾燥・焼成温度が低すぎると、分散剤が残存して分散剤の親水性基によって水分が捕捉されるため、ガス拡散層において十分な撥水性を発現できず、燃料電池に適用した場合に実用的な排水性を得ることができない。また、撥水性樹脂によるバインダー効果及び水性フェノール樹脂の炭化成分による結着力が小さく、マイクロポーラス層の高い機械的強度や導電性多孔質基材との接合強度(剥離強度)を確保することが難しくなる。一方で、乾燥・焼成温度が高すぎると、マイクロポーラス層の成分が劣化したり、高い温度変化によりマイクロポーラス層の変形が大きくなって平滑性が低下したり、亀裂が生じたりすることで、所望の要求性能を有するマイクロポーラス層の形成が困難となる。更に、乾燥から焼成までを行う乾燥・焼成工程での負荷や自然環境に与える負荷が増え、製造コストも高くなる。
乾燥・焼成温度が250℃〜350℃の範囲内であれば、分散剤や水分が完全に分解・揮発して消失し残存することなく、発電効率に大きく影響を与える拡散層の重要特性である撥水性を確保でき、かつ、所望のマイクロポーラス層の形成と良好な導電性多孔質基材との接合を確保することができる。
こうしてステップS3の乾燥・焼成工程にてマイクロポーラス層形成用ペーストが塗布された導電性多孔質基材が乾燥・焼成されることで、導電性多孔質基材にマイクロポーラス層が形成された燃料電池用のガス拡散層となる。
このようにして、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、所定量の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなるマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することにより得られた本実施の形態のガス拡散層では、マイクロポーラス層形成用ペーストによって形成されたマイクロポーラス層中の導電性粉末及び導電性多孔質基材を構成する炭素繊維等の導電性物質によって導電性が発揮され、また、PTFE等の撥水性樹脂によって撥水性が発揮される。また、マイクロポーラス層には、導電性多孔質基材の空隙(細孔)よりも小さい微細孔が形成され、ガス拡散性や排水性を確保できる。特徴的なのは、マイクロポーラス層を形成する際に新たにマイクロポーラス層内に発現させた水性フェノール樹脂の炭化成分によって、マイクロポーラス層は、水性フェノール樹脂を含有しないときに比べてより強固となり、導電性多孔質基材から剥離しにくくなっていることである。このため本実施の形態の拡散層は信頼性、耐久性が向上する。
次に、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストを用いて形成されたマイクロポーラス層及び導電性多孔質基材からなる燃料電池用ガス拡散層が組み込まれる固体高分子形燃料電池(単セル)の構造について、図2の概略構成図を参照しながら説明する。なお、図中、アノード側をA、カソード側をKとする。
図示のように、本実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14(カソード側拡散層14Kまたはアノード側拡散層14A)は、酸化ガスまたは燃料ガスが反応する触媒層13(カソード側触媒層13Kまたはアノード側触媒層13A)と接合して一体となって電極12(カソード電極12K及びアノード電極12A)を構成し、触媒層13と共に、単セルの芯となる電解質膜11の両面に配設されて、膜/電極接合体10を構成する。そして、この膜/電極接合体10は、カソード側ガス拡散層14Kの外側に酸化剤となる酸化ガスを供給する酸化ガス流路21Kを設けたカソード側セパレータ20K、また、アノード側ガス拡散層14Aの外側に燃料ガスを供給する燃料ガス流路21Aを設けたカソード側セパレータ20Aに挟持され、燃料電池1の単セル(single cell)を形成する。
即ち、本実施の形態にかかる燃料電池用ガス拡散層14を使用した燃料電池1の単セルは、電解質膜11の一方の表面に酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード側触媒層1313K及びカソード側拡散層14Kにより構成されるカソード電極12Kを配設し、他方の表面に水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード側触媒層13A及びアノード側拡散層14Aにより構成されるアノード電極12Aを配設して発電部を構成する膜−電極接合体10と、膜−電極接合体10のカソード電極12Kの表面に配置されるカソード側セパレータ20K及び膜−電極接合体10のアノード電極12Aの表面に配置されるアノード側セパレータ20Aとから構成される。
なお、燃料電池1の組み付けの際には、触媒層13とガス拡散層14を接合して電極12を形成し、その電極12を電解質膜11と接合するという順序をとってもよいし、先に触媒層13を電解質膜11へ転写し、電解質膜11と接合した状態の触媒層13にガス拡散層14を接合するという工程をとってもよい。
ここで、このような構成の燃料電池1に組み込まれる本実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14は、上述したように、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、所定量の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなるマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成してなるものであることから、マイクロポーラス層15の膜強度、及びマイクロポーラス層15と導電性多孔質基材16との接合強度(密着性)、剥離強度が高いものである。
即ち、本実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14においては、マイクロポーラス層15の形成材料であるマイクロポーラス層形成用ペーストに乾燥・焼成温度に比べて高温の分解温度を有する水性フェノール樹脂が含まれていることから、マイクロポーラス層15を形成するときの乾燥・焼成によって水性フェノール樹脂が炭化されてマイクロポーラス層15には水性フェノール樹脂に起因する炭化成分が新たに含まれることになる。この炭化成分がマイクロポーラス層15の導電性粉末や導電性多孔質基材16を結着させる作用を発揮し、マイクロポーラス層15からの導電性粉末の脱落防止と、マイクロポーラス層15の膜強度、及びマイクロポーラス層15と導電性多孔質基材16の接合強度(密着性)、剥離強度を向上させる。そして、水性フェノール樹脂の炭化成分は、更に炭化率によってはマイクロポーラス層15の導電性を高める効果を発する。
よって、導電性多孔質基材16に形成されたマイクロポーラス層15は強固な膜となり、導電性多孔質基材16との接合強度、剥離強度が高いため、燃料電池1への組み付け時にマイクロポーラス層15を形成する導電性粉末が粉落ち(欠落)し難く、また、マイクロポーラス層15が導電性多孔質基材16から剥離し難く、取扱いが向上する。
更に、燃料電池組み付け後において、例えば、燃料電池の運転による電解質膜11も膨張または収縮によって、または、スタック時のセパレータの圧等によって外力が加わることがあっても、マイクロポーラス層15が欠落(剥離)し難く、耐久性に優れ、マイクロポーラス層15を形成する導電性粉末が流されて導電性多孔質基材16の空孔やガス流路21を塞いでしまい、目詰まりによる出力低下を引き起こす恐れもない。
したがって、燃料電池用拡散層14の性能が安定する。
なお、撥水性樹脂による導電材(マイクロポーラス層15の導電性粉末や導電性多孔質基材16の炭素繊維等の導電性物質)の結合は柔軟性を有するため、撥水性樹脂による結着のみでは、燃料電池1に組み込んだときセパレータ20で挟圧されて、マイクロポーラス層15の空孔が圧潰されることがある。
しかし、本実施の形態では、水性フェノール樹脂の炭化した成分がマイクロポーラス層15の結着成分を増加させるため、マイクロポーラス層15が適度に硬くなり、燃料電池に組み込んだときセパレータ20で挟圧されてもイクロポーラス層15の空孔が圧潰され難くて保持され、安定したガス拡散性及び排水性等の性能を確保できる。
ところで、導電性多孔質基材16にマイクロポーラス層15を形成した拡散層14は、マイクロポーラス層15によって導電性多孔質基材16の起伏を吸収して平滑な表面が得られ、また、導電性多孔質基材16の炭素繊維がほつれや毛羽立ちしても、導電性多孔質基材16の炭素繊維が触媒層13と接触することを回避でき、導電性多孔質基材16の炭素繊維と触媒層13によって起こる短絡(ショート)の発生が予防できる。ここで、拡散層14のマイクロポーラス層15の膜強度や剥離強度が弱いと、燃料電池1の組み付け時や、燃料電池1の使用中にマイクロポーラス層15が部分的に導電性多孔質基材16から剥がれ落ちることが起こると、拡散層14の触媒層13との接触面での平滑性が失われることによる接触抵抗の増加による発電効率の低下や、触媒層13との導電性多孔質基材16の炭素繊維の接触による短絡(ショート)が懸念される。
しかし、触媒層13と導電性多孔質基材16の間に本実施の形態のマイクロポーラス層15を介在させると、マイクロポーラス層15は水性フェノール樹脂による炭化成分の発現により膜強度が強く、導電性多孔質基材16との剥離強度も強いため、導電性多孔質基材16からマイクロポーラス層15が剥離するのを防止でき、接触抵抗の増加や短絡(ショート)の発生の恐れがなくなり信頼性が高まる。
そして、このような本実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14を触媒層13と一体にあわせて燃料電池1の電極12(アノード及びカソード)を形成して、燃料電池1に組み込まれた際には、製造品質を均一化でき、ガス拡散層14のガス拡散性、発生水分の除去能力(排水性)、導電性等の安定した特性が長期間得られることで、耐久性に優れた燃料電池1が得られる。
次に、本発明の実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストの各成分の配合内容を具体的に示して、マイクロポーラス層形成用ペースト及びそのマイクロポーラス層形成用ペーストを用いて作製した燃料電池用ガス拡散層14の実施例について説明する。
本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストの配合組成として表1に示す配合内容で、実施例1乃至実施例3にかかる3種類の配合のマイクロポーラス層形成用ペーストを作製した。また、比較のために、比較例1乃至比較例3にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストも合わせて作製した。各実施例及び各比較例の配合内容を表1の上段に示す。
Figure 0006448492
本実施例及び比較例にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストでは、導電性粉末としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック」)、撥水性樹脂としてPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])、分散剤としてトリトンXー100、溶媒としてイオン交換水を使用した。また、水性フェノール樹脂として、レゾール型水分散性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製:商品名『スミライトレジンPR−50607B』[固形分(樹脂分)65%]、残炭率46%/800℃(JIS K2270)を用いた。
そして、これら導電性粉末としてのアセチレンブラック、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョン、分散剤としてのトリトンXー100、溶媒としてのイオン交換水、水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂をそれぞれ表1に示した配合量で配合し、公転800rpm、自転900rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)で3分間混合分散・脱泡することにより実施例及び比較例にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストを得た。
実施例や比較例相互においては、表1に示したように、水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂及び溶媒としてのイオン交換水以外の配合内容を全て同一とし、レゾール型水分散性フェノール樹脂のアセチレンブラックに対する配合割合を変え、それの増減に合わせてイオン交換水の配合量を調整した。
即ち、本実施例及び比較例においては、導電性粉末のアセチレンブラックを75.0g、撥水性樹脂のPTFEエマルジョンを41.7g(固形分量25.4g)、分散剤のトリトンXー100を7.5gの配合とし、アセチレンブラック、PTFEエマルジョン、トリトンXー100についてはそれぞれ実施例及び比較例の全てで同一の分量で統一し、更に本実施例及び比較例の総量(合計量)をすべて500gで統一した。
そして、実施例や比較例相互で、レゾール型水分散性フェノール樹脂について、アセチレンブラックに対する配合割合を変えて配合し、その変化に合わせて総量が500gとなるように溶媒としてのイオン交換水の配合量を調整した。
つまり、実施例1では、アセチレンブラックの配合量に対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量が0.53重量%であり、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラックに対して固形分配合比で0.35重量%の割合で配合されている。即ち、アセチレンブラック100重量部に対してレゾール型水分散性フェノール樹脂が固形分で0.35重量部の割合で配合されていることになる。
実施例2では、アセチレンブラックの配合量に対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量が1.1重量%であり、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラックに対して固形分配合比で0.7重量%の割合で配合されている。即ち、アセチレンブラック100重量部に対してレゾール型水分散性フェノール樹脂が固形分で0.7重量部の割合で配合されていることになる。
実施例3では、アセチレンブラックの配合量に対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量が2.0重量%であり、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラックに対して固形分配合比で1.3重量%の割合で配合されている。即ち、アセチレンブラック100重量部に対してレゾール型水分散性フェノール樹脂が固形分で0.7重量部の割合で配合されていることになる。
また、比較例1では、レゾール型水分散性フェノール樹脂を全く配合していないため、配合量は0重量%である。
比較例2では、アセチレンブラックの配合量に対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量が0.27重量%であり、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラックに対して固形分配合比で0.17重量%の割合で配合されている。即ち、アセチレンブラック100重量部に対してレゾール型水分散性フェノール樹脂が固形分で0.17重量部の割合で配合されていることになる。
更に、比較例3では、アセチレンブラックの配合量に対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量が3.1重量%であり、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラックに対して固形分配合比で2.0重量%の割合で配合されている。即ち、アセチレンブラック100重量部に対してレゾール型水分散性フェノール樹脂が固形分で2.0重量部の割合で配合されていることになる。
そして、このように配合して得られた実施例1乃至実施例3及び比較例1乃至比較例3にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストを用いて燃料電池用の拡散層14を作製した。
詳細には、目付け1mg/cmになるようにPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を含浸させ、乾燥させて水分を除去することにより撥水処理を施した導電性多孔質基材16としてのカーボンペーパーに対し、その片面に、薄膜塗布工具(ダイヘッド)を用いて、移動速度1.0m/min、目付け5.0mg/cmの条件でマイクロポーラス層形成用ペーストを塗布し、その後、300℃で30分間乾燥・焼成した。
これによって、撥水処理が施されたカーボンペーパーからなる導電性多孔質基材16にマイクロポーラス層15が形成された実施例1乃至実施例3及び比較例1乃至比較例3にかかる燃料電池用のガス拡散層14を得た。
ここで、得られた実施例1乃至実施例3及び比較例1乃至比較例3にかかる燃料電池用のガス拡散層14について、剥離(引張)強度の評価試験(剥離試験)を行った。なお、この剥離(引張)試験に際しては、JIS K6854−2を参考にした。
具体的には、まず、ガス拡散層14を幅30mmに切断し、図3(a)に示したようにマイクロポーラス層15の表面にガス拡散層14と同じ幅で粘着テープTを貼り付けた。次に、図3(b)に示したように、マイクロポーラス層15に貼り付けた粘着テープTの一部を剥がし、そのマイクロポーラス層15から剥がした粘着テープTの端部Aと粘着テープTが剥がされた側のガス拡散層14の端部Bとをそれぞれ引張試験機(オートグラフ)の挟持部で挟み、引張(剥離)速度100mm/分で180°方向に引張り、マイクロポーラス層15が導電性多孔質基材16から剥離したときの剥離強度(引張強度)を測定した。測定結果は表1の下段に示した通りである。
表1に示したように、レゾール型水分散性フェノール樹脂を添加していない従来例の比較例1では、剥離強度が15N/mであった。
また、レゾール型水分散性フェノール樹脂をアセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.17重量部の配合割合で配合した比較例2では、比較例1よりも剥離強度が僅かに増大するものの、その値は17N/mであった。
一方、レゾール型水分散性フェノール樹脂をアセチレンブラック100重量部に対して固形分で2.0重量部の配合割合で配合した比較例3では、比較例1よりも剥離強度が低下し、その値は、12N/mであった。
これに対し、レゾール型水分散性フェノール樹脂をアセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内の配合割合で配合した実施例1乃至実施例3では、比較例1乃至比較例3よりも剥離強度が顕著に大きくなり、その値は29N/m〜38N/mの範囲内であった。
これより、所定量のアセチレンブラック、PTFEエマルジョン、トリトンXー100、及びイオン交換水を含有するマイクロポーラス形成用ペーストにレゾール型水分散性フェノール樹脂をアセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部〜1.3重量部の範囲内の配合割合で配合することで、レゾール型水分散性フェノール樹脂を配しない比較例1に比べて剥離強度の大幅な増加となっている。
ここで、水性フェノール樹脂の配合による剥離強度向上の要因は、上述したように、水性フェノール樹脂の分解温度より低い乾燥・焼成時の温度にて水性フェノール樹脂が炭化状態となり、その炭化した成分がマイクロポーラス層内の結着と、マイクロポーラス層15と導電性多孔質基材16の界面の結着を促進する結着成分として働くためであると推定している。これは、本発明者らの実験研究により、マイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材16に塗布して焼成する前の塗布膜と、焼成後のマイクロポーラス層15の塗膜との抵抗値を測定したところ、焼成前後で抵抗値が大きく変化したことに裏付けられている。
即ち、マイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材16に塗布した焼成前の塗布膜について、水分を飛ばしてからその電気抵抗値を鶴賀電機(株)製のディジタル低抵抗計 モデル3566で測定し、更に、焼成(300℃,20分)した後のマイクロポーラス層15の塗膜についても、その電気抵抗値を同様の機器で測定したところ、表1に示したように、焼成前においては、水性フェノール樹脂を配合した実施例1乃至実施例3では、抵抗値が16.2〜19.1(mΩ・cm)であり、水性フェノール樹脂を添加していない比較例1の抵抗値5.8(mΩ・cm)よりも大幅に高くなっている。しかし、焼成後においては、水性フェノール樹脂を添加していない比較例1では抵抗値が5.4(mΩ・cm)と焼成前よりも少し低くなる程度であるのに対し、水性フェノール樹脂を配合した実施例1乃至実施例3の抵抗値は5.1〜5.4(mΩ・cm)と焼成前よりも大幅に減少し、水性フェノール樹脂を添加していない比較例1と同等以下になっている。
ここで、未炭化状態の樹脂成分では導電性を有さないところ、樹脂成分が炭化状態になると通電し抵抗値が低下する。
したがって、水性フェノール樹脂を配合した実施例1乃至実施例3においては、焼成後の抵抗値が焼成前よりも大きく減少していることから、乾燥・焼成によって水性フェノール樹脂が炭化状態となっていることが推測される。そして、水性フェノール樹脂が乾燥・焼成により炭化状態となったことで、その炭化した成分がマイクロポーラス層15内の結着と、マイクロポーラス層15と導電性多孔質基材16の界面の結着を促進する結着成分として働き、そのことによって、剥離強度が向上したと考えられる。
ところで、実施例1乃至実施例3と比較例2及び比較例3とを比較すると、レゾール型水分散性フェノール樹脂の配合がアセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部未満である場合、及び1.3重量部を超えると剥離強度が小さくなり、レゾール型水分散性フェノール樹脂の配合量には適量な範囲が存在することが分かった。これは、レゾール型水分散性フェノール樹脂が0.35重量部未満の少量では結着成分が剥離に対し充分な効果を発するほどの量に足りず、逆に1.3重量部を超えるとマイクロポーラス層15中の結着成分が多くなりすぎて割れ易くなるためと推定している。
実施例1乃至実施例3で示したように、レゾール型水分散性フェノール樹脂がアセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部〜1.3重量部の所定の範囲内の配合であればアセチレンブラックに対するレゾール型水分散性フェノール樹脂の配合が適切な範囲となり、導電性多孔質基材16への接着力(密着力)及びマイクロポーラス層15の膜強度が共に優れたマイクロポーラス層15が形成される。
したがって、実施例1乃至実施例3にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材16に塗布し乾燥・焼成することにより形成された燃料電池ガス拡散層14においては、燃料電池1への組み付け時に、マイクロポーラス層15が壊れ難く、また、導電性多孔質基材16から剥がれ難い。
以上説明したように、本実施例にかかるマイクロポーラス層形成用ペーストは、導電性粉末としてのアセチレンブラックと、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤としてのトリトンXー100と、アセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部〜1.3重量部の水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂と、溶媒としてのイオン交換水とを混合分散したものである。そして、マイクロポーラス層形成用ペーストを撥水処理が施されたカーボンペーパーの導電性多孔質基材16に塗布し、所定の乾燥・焼成温度(実施例では300℃)で乾燥・焼成すると、マイクロポーラス層形成用ペースト中の水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂が炭化状態になるものである。
そして、本実施例にかかる燃料電池用のガス拡散層14は、導電性粉末としてのアセチレンブラックと、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤としてのトリトンXー100と、アセチレンブラック100重量部に対して固形分で0.35重量部〜1.3重量部の水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂と、溶媒としてのイオン交換水とを混合分散して得られたマイクロポーラス層形成用ペーストを撥水処理が施されたカーボンペーパーの導電性多孔質基材16に塗布し、所定の乾燥・焼成温度(実施例では300℃)で乾燥・焼成することにより水性フェノール樹脂としてのレゾール型水分散性フェノール樹脂が炭化状態になったマイクロポーラス層15を有するものである。
本発明を実施するに際しては、マイクロポーラス層形成用ペースト及びそれを用いて形成する燃料電池用のガス拡散層14のその他の部分の構成、組成、成分、配合量、材質、その他の製造工程について、本実施の形態に限定されるものではない。
なお、本発明の実施の形態及び実施例で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
1 燃料電池
11 電解質膜
10 膜/電極接合体
12 電極(カソード電極12K,アノード電極12A)
13 触媒層(カソード側触媒層13K,アノード側触媒層13A)
14 ガス拡散層(カソード側拡散層14K,アノード側拡散層14A)
15 マイクロポーラス層
16 導電性多孔質基材

Claims (9)

  1. 導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35〜1.3重量部の範囲内で配合され、分解温度が400℃〜500℃の範囲内で 残炭率が40%以上の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなり、導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することで燃料電池用ガス拡散層のマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成用ペーストであって、
    前記水性フェノール樹脂は、前記マイクロポーラス層形成用ペーストを前記導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成するときの乾燥・焼成温度で炭化状態となることを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト。
  2. 前記水性フェノール樹脂は、レゾール型であることを特徴とする請求項1に記載のマイ クロポーラス層形成用ペースト。
  3. 前記水性フェノール樹脂は、金属イオンを含有しないものであることを特徴とする請求 項1または請求項2に記載のマイクロポーラス層形成用ペースト。
  4. 前記水性フェノール樹脂は、その炭化した成分が結着成分となることを特徴とする請求 項1乃至請求項3の何れか1つに記載のマイクロポーラス層形成用ペースト。
  5. 導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、前記導電性粉末100重量部に対し固形分で0.35〜1.3重量部の範囲内で配合され、分解温度が400℃〜500℃の範囲内で 残炭率が40%以上の水性フェノール樹脂と、溶媒とを混合してなり、導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成することでマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成用ペーストを、導電性多孔質基材に塗布し、乾燥・焼成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、
    前記水性フェノール樹脂は、前記マイクロポーラス層形成用ペーストを前記導電性多孔質基材に塗布して乾燥・焼成するときの乾燥・焼成温度で炭化状態となることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
  6. 前記水性フェノール樹脂は、レゾール型であることを特徴とする請求項5に記載の燃料 電池用ガス拡散層。
  7. 前記水性フェノール樹脂は、金属イオンを含有しないものであることを特徴とする請求 項5または請求項6に記載の燃料電池用ガス拡散層。
  8. 前記マイクロポーラス層の乾燥厚みが1μm〜300μmの範囲内であることを特徴と する請求項5乃至請求項7の何れか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
  9. 前記水性フェノール樹脂は、その炭化した成分が結着成分となることを特徴とする請求 項5乃至請求項8の何れか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
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