以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、各実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態1,2に係る燃料電池用ガス拡散層が組み込まれる固体高分子形燃料電池(単セル)の構造について、図1の概略構成図を参照しながら説明する。なお、図中、アノード側をA、カソード側をKとする。
図示のように、燃料電池用ガス拡散層100(カソード側ガス拡散層100K,アノード側ガス拡散層100A)は、触媒層110(カソード側触媒層110K,アノード側触媒層110A)と接合して、一体となって電極130(カソード電極130K,アノード電極130A)を構成し、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜120(単セルの芯)の両面に触媒層110と共に配設されて、膜/電極接合体(MEGA)150を構成する。
そして、この膜/電極接合体150は、カソード側ガス拡散層100Kの外側において酸化剤となる酸化ガスを供給する酸化ガス流路141Kを設けたカソード側セパレータ140K、及び、アノード側ガス拡散層100Aの外側において燃料ガスを供給する燃料ガス流路141Aを設けたアノード側セパレータ140Aに挟持され、燃料電池200の単セル(single cell)を形成している。
即ち、本実施の形態1,2に係る燃料電池用ガス拡散層100が適用される燃料電池200の単セルは、電解質膜120の一方の表面に酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード側触媒層110K及びカソード側ガス拡散層100Kにより構成されるカソード電極130Kを配設し、他方の表面に水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード側触媒層110A及びアノード側ガス拡散層100Aにより構成されるアノード電極130Aを配設して発電部を構成する膜/電極接合体150と、膜/電極接合体150のカソード電極130Kの表面に配置されるカソード側セパレータ140K及び膜/電極接合体150のアノード電極130Aの表面に配置されるアノード側セパレータ140Aとから構成される。
ここで、イオン交換基となる高分子膜からなる電解質膜120は、特定のイオンと強固に結合し、陽イオンまたは陰イオンを選択的に透過する性質を有する。
また、触媒層110(カソード側触媒層110K,アノード側触媒層110A)は白金、金、パラジウム等の貴金属触媒をカーボンで担持した触媒担持カーボン及びイオン交換樹脂からなり、酸化ガスまたは燃料ガスが反応する。
そして、本実施の形態1,2に係る燃料電池用ガス拡散層100(カソード側ガス拡散層100K,アノード側ガス拡散層100A)は、ガス拡散層基材10(カソード側基材10K,アノード側基材10A)とマイクロポーラス層(微多孔質層)20(カソード側マイクロポーラス層20K,アノード側マイクロポーラス層20A)とから構成され、マイクロポーラス層20側が触媒層110側に配設され、ガス拡散層基材10側がセパレータ140側に配設するように組み込まれる。
このような構成によって、外部より酸化ガスがカソード側セパレータ140Kの酸化ガス流路141Kに供給されると、酸化ガス流路141Kに沿って流れる酸化ガスのうち、一部がカソード側ガス拡散層100Kのガス拡散層基材10K側表面より内部へ浸入する。なお、その他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路141Kに沿って流れ、燃料電池200の外部へ排出される。
同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレータ140Aの燃料ガス流路141Aに供給されると、燃料ガス流路141Aに沿って流れる燃料ガスのうち、一部がアノード側ガス拡散層100Aのガス拡散層基材10A側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の燃料ガスは、そのまま燃料ガス流路141Aに沿って流れ、燃料電池200の外部へ排出される。
そして、酸化ガス及び燃料ガスが反応することにより、カソード側セパレータ140Kとアノード側セパレータ140Aとの間で電力が取り出されることになる。
[実施の形態1]
次に、このような構成の燃料電池200に組み込まれる本実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100(カソード側ガス拡散層100K,アノード側ガス拡散層100A)について、その製造方法を図2を参照して説明する。
本実施の形態1においては、図2のフローチャートに示されるように、最初に、抄紙工程(ステップS11)にて、ガス拡散層基材10を形成する導電性繊維11と、導電性繊維11を結び付けるバインダ12とを一緒に抄紙して抄紙基材13を形成する。
導電性繊維11としては、炭素系、金属系等があるが、熱的、化学的安定性(耐食性、導電性等)を考慮すると、好ましくは炭素繊維(カーボン系繊維、カーボン系ファイバとも呼ばれる)である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維等が使用され、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良く、ガス拡散層基材10の所望とする特性に応じて選択される。強度等の観点からすると、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が好ましい。そして、ポリアクリロニトリル系炭素繊維のみを単独で用いた場合には、得られるガス拡散層基材10の強度が極めて高くなる。一方、ポリアクリロニトリル系炭素繊維とピッチ系炭素繊維を併用した場合には、得られるガス拡散層基材10の弾力性と柔軟性を確保できる。なお、炭素繊維には黒鉛繊維も含まれる。
炭素繊維等の導電性繊維11は、短繊維でも長繊維でもよいが、分散性、抄紙のしやすさ(抄紙性)等を考慮すると、短繊維が好ましい。なお、繊維長が短いと、得られるガス拡散層基材10においてガス透過路や水排出路となる通路(空孔、気孔、細孔)の長さが過剰に長くなることを抑えることができ、また通路の多様な方向性を獲得できる。その結果、ガスや水分を逃がし易い方向に透過させるのに有利となり、ガスや水分の透過性を高めることが可能となる。また、水分の適度な保持性にも有利である。短繊維は、連続した長繊維を切断することにより得られた短繊維を用いてもよいし、水等の分散媒中で連続した長繊維を攪拌機(例えば、ミキサー、スラッシュファイナー)等によって攪拌することにより短繊維化することで得てもよい。
炭素繊維等の導電性繊維11の長さや径は適宜選択することができるが、炭素繊維等の導電性繊維11の平均繊維長は、例えば、0.2~50mm、好ましくは1~30mm、更に好ましくは3~25mm、より好ましくは5~15mmの範囲内の短繊維である。殊に、抄紙時のバインダ12による捕獲性や、後述の樹脂炭化物による結着性等の観点からすると2~12mmが好ましく、より好ましくは3~9mmの範囲内である。また、繊維長が3~20mmの範囲内、より好ましくは4~10mmの範囲内であれば、抄紙時の分散性が良く、導電性繊維11が抄紙体をすり抜けることも少なくてその配合量の調整、制御が容易で抄紙性が良く、更に、抄紙基材13の目付むらのばらつきが少なくて均質で、得られるガス拡散層基材10の強度等を高くできる。
炭素繊維等の導電性繊維11の平均繊維径は、分散性や得られるガス拡散層基材10の強度等を考慮すると、例えば、1~60μm、好ましくは、3~30μm、より好ましくは4~20μmの範囲内である。殊に、平均繊維径が4~20μmの範囲内、より好ましくは5~15μmの範囲内であれば、得られるガス拡散層基材10においてガスや水分の高い透過性を確保できる。更に、生産コスト、分散性の観点からすると3~9μmが好ましく、得られるガス拡散層基材10の平滑性、導電性の観点からすると4~8μmの範囲内が好ましい。なお、扁平な断面の炭素繊維の場合は、長径と短径の平均を繊維径とする。
なお、異なる平均径や平均長の繊維を2種以上用いることで、ガス拡散層基材10の表面平滑性、導電性、強度等といった特性の調節や制御がし易くなるが、1種を単独で用いてもよい。
このような導電性繊維11と一緒に抄紙されるバインダ12としては、抄紙時に導電性繊維11同士を結び付けるバインダとして機能するものであれば良く、好ましくは、後の加熱によって分解、消失し、その消失跡がガス拡散層基材10のガスや水の通路となる空孔(気孔、細孔)となるものである。例えば、木材、セルロース、綿、竹、麻等のパルプ(植物性繊維)、羊毛等の動物性繊維や、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、アクリル、アラミド、ポリアセタール、ノボロイド等の樹脂繊維等が使用される。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。湿式抄紙する場合には、後述する水等の分散媒(抄紙媒体)に溶解しないものが選択される。
また、バインダ12の形状としては、粒子状、塊状等であってもよいが、好ましくは繊維状の有機物質である。繊維状のものであれば、導電性繊維11の捕獲性が良く抄紙収率を高めて抄紙化を容易にでき、更に、導電性繊維11との抄紙により抄紙基材13中で導電性繊維11の絡み合い性、補強性を向上できる。
特に、木材等のパルプ繊維や、ポリビニルアルコール繊維や、ポリ乳酸繊維がバインダ12として好適である。これらは、取扱性も良く、安価であるうえ、導電性繊維11としての炭素繊維との親和性が高く、導電性繊維11の適度な分散性、捕獲性、絡み合い性、接触性に有利で、抄紙性を高めて収率を高めることができる。しかも、500℃以下の比較的低温で熱分解により消失させることができ、残滓が残り難く、ガスや水の通路となる空孔を安定的に形成できる。特に、連通孔の形成にも有利である。なお、導電性繊維11の配合量100重量部に対し、バインダ12の配合量は、例えば、50~200重量部の範囲内、好ましくは、100~180重量部の範囲内である。
本実施の形態1では、このような導電性繊維11とバインダ12を共に抄紙することにより、抄紙基材13を形成する。
導電性繊維11とバインダ12を抄紙する方法としては、導電性繊維11とバインダ12を分散媒に分散させて抄紙する湿式抄紙法や、空気中に導電性繊維11とバインダ12を分散させて降り積もらせる乾式抄紙法等により抄紙することができるが、均一性、強度、生産性、目付の制御性等の観点から好ましくは湿式抄紙法である。
湿式抄紙法では、導電性繊維11とバインダ12を分散媒(抄紙媒体)に分散させて抄紙するが、このときの抄紙処理としては、公知の方法を採用できる。例えば、分散媒中に導電性繊維11とバインダ12が分散されてなる混合物(スラリー)を網状部材等のような分離部材を用いてすくことにより、或いは、減圧吸引または乾燥することにより、固形分(導電性繊維11とバインダ12)と分散媒とを分離させて、固形分の導電性繊維11とバインダ12を集積(集合)して抄紙基材13とすることができる。より具体的には、例えば、長網、短網、円網等のワイヤーを有する湿式抄紙機に上記スラリー状の混合物を供給し、脱水パートで脱水し、加圧して搾水することにより導電性繊維11及びバインダ12からなる抄紙基材13を得ることができる。
このときの分散媒としては、一般的には水が採用されるが、抄紙する材料の種類等によっては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、アルコール等の有機溶媒でもよい。
また、上記混合物の調製方法は特に問われず、例えば、パルパー等の回転式の装置等を用いて抄紙成分を混合分散することも可能である。
なお、上記スラリー状の混合物中において導電性繊維11及びバインダ12の濃度は1~50g/Lの範囲内であるのが好ましい。当該濃度範囲であれば、抄紙の収率もよく、更に、導電性繊維11及びバインダ12の分散性が良好で凝集も発生し難いから、目付むらのばらつきが少なくて均質な抄紙基材13が得られる。
こうして、本実施の形態1では、抄紙工程(ステップS11)において、導電性繊維11とバインダ12を共に抄紙することにより抄紙基材13が形成される。
このときの抄紙基材13は、その目付(秤量)が、例えば、10~200g/m2の範囲内、その厚みが、例えば、20~400μm範囲内とされる。
なお、本発明を実施する場合には、ガス拡散層基材10の所望とする特性に応じ、導電性繊維11及びバインダ12に加え、適宜、炭素粒子(カーボン粒子)、金属粒子等の導電性物質を配合し、導電性繊維11及びバインダ12と共に抄紙して、抄紙基材13を形成することも可能である。即ち、抄紙基材13を炭素繊維と炭素粒子の複合材料で形成してもよい。
更に、後述するフェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aと同様に炭化可能で炭素源となる繊維、例えば、アクリル系ポリマー(アクリル系繊維、例えば、ポリアクリロニトリル繊維)、セルロース系ポリマー(セルロース系繊維、例えば、レーヨン、ポリノジック繊維等)、フェノール系ポリマー(フェノール系繊維)等を導電性繊維11及びバインダ12と共に抄紙してもよい。
また、必要に応じて抄紙性、結合性(強度)、ハンドリング性、取扱性等を高めるために結合剤(糊剤、紙力増強剤)、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、スチレン-ブタジエンゴム、澱粉、コーンスターチ等を使用することも可能である。このような結合剤は、抄紙時に混合して導電性繊維11及びバインダ12と共に湿式抄紙させてもよいし、抄紙後に含浸させてもよい。その他、例えば、凝集剤、粘度調整剤、界面活性剤等を用いて抄紙基材13を形成することも可能である。
更に、本発明を実施する場合には、必要に応じ、抄紙時に機械交絡法(ニードルパンチング法等)、高圧液体噴射法(ウォータージェットパンチング法等)、高圧気体噴射法(スチームジェットパンチング法等)等による交絡処理を行って、導電性繊維11を3次元に交絡させて抄紙基材13の強度、ハンドリング性、導電性等を高めることも可能である。更に、分散媒の脱水速度の調節等により繊維の配向度を制御する操作を行ってもよい。また、抄紙機で抄紙した抄紙基材13をロールに通して圧縮する等、シート状(ペーパー状)の抄紙基材13の紙質を調整してもよい。
次に、本実施の形態1においては、このようにして導電性繊維11とバインダ12を共に抄紙することにより得られた抄紙基材13に対して、炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)にて、第1の炭素前駆体樹脂14Aを含浸させる。
この炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)で抄紙基材13に含浸させる第1の炭素前駆体樹脂14Aとしては、後の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)での非酸化性雰囲気下における高熱処理により炭素化・黒鉛化(以下、区別することなく単に『炭化』ともいう)されて導電性の炭化物となる樹脂(炭素源となる樹脂)であって、かつ、炭化後に導電性繊維11等を結着する結着成分として機能するものであればよく、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ピッチ等の熱硬化性樹脂等が用いられる。
中でも、取扱性が良く、炭化後に導電性物質として残存する残炭率(炭化率)が高く、更に、炭素繊維等の導電性繊維11を結着する結着力が強いフェノール樹脂が好ましい。
フェノール樹脂としては、フェノールの他、レゾール型フェノール樹脂、クレゾール型フェノール、キシレノール樹脂等が用いられる。特に、アンモニア系触媒存在下においてフェノール類(フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロール等)とアルデヒド類(ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール等)の反応によって得られるレゾール型フェノール樹脂が燃料電池200の耐久性の低下の原因となる金属分を含まない点で好ましい。また、水に溶解または分散(乳化等を含む)させた水性フェノール樹脂を使用してもよいし、溶剤系(溶剤希釈型)のものであってもよい。
なお、炭化させるフェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aの配合量は、ガス拡散層基材10の所望とする特性等に応じて設定されるが、ガス拡散層基材10において樹脂炭化物の比率が10~90質量%、好ましくは15~80質量%の範囲内であれば、ガス拡散層基材10の導電性及び強度が十分に高いものとなる。より好ましくは15~40質量%、更に好ましくは20~40質量%の範囲内であれば、ガス拡散層基材10の水分やガスの透過性も高いものとなる。また、炭化の際の熱収縮による変形も少なくて、形状保持性も高くなる。
このようなフェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aを抄紙基材13に含浸する方法としては、樹脂分散液中に抄紙基材13を浸漬する方法や、抄紙基材13に樹脂分散液を塗布する方法(キスコート法、ディップ法、スプレー法、カーテンコート法、ローラ接触法等)や、樹脂フィルムを抄紙基材13に重ねて転写する方法等が挙げられる。第1の炭素前駆体樹脂14Aの性質、添加量等によって適宜選択されるが、生産性や均一性の観点から、第1の炭素前駆体樹脂14Aの分散液中に抄紙基材13を浸漬することによって抄紙基材13に第1の炭素前駆体樹脂14Aを含浸させるのが好ましい。また、絞り装置を用いてdip-nip方法等により絞り出しを行ってもよく、このような絞り装置ではロール間隔を変えることで第1の炭素前駆体樹脂14Aの含浸量の調整や制御を容易に行うことができる。
なお、このように第1の炭素前駆体樹脂14Aの含浸では、通常、アルコール類、ケトン類(アセトン等)、トルエン、水等の分散媒に第1の炭素前駆体樹脂14Aが分散された樹脂分散液が用いられ、例えば、フェノール樹脂ではメタノール、エタノール、ブチルアルコール等のアルコールや水等の分散媒が使用される。
こうして、本実施の形態1では、抄紙工程(ステップS11)において、導電性繊維11とバインダ12とを共に抄紙して抄紙基材13を形成し、次に、炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)において、抄紙基材13に対し第1の炭素前駆体樹脂14Aを含浸させることにより、ガス拡散層基材10の前駆体15(以下、『ガス拡散層基材前駆体15』、または、単に『基材前駆体15』という)を得る。
そして、これら抄紙工程(ステップS11)及び炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)がガス拡散層基材前駆体15を形成する基材前駆体形成工程(ステップS10)に相当する。即ち、本実施の形態1における基材前駆体形成工程(ステップS10)は、抄紙工程(ステップS11)及び炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)からなる。
このように、本実施の形態1では、抄紙工程(ステップS11)において、導電性繊維11及びバインダ12を共に抄紙して抄紙基材13を形成し、続く、炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)において、抄紙基材13に対し第1の炭素前駆体樹脂14Aを含浸させることにより、導電性繊維11及びバインダ12が共に抄紙されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aが付着された基材前駆体15が作製されることになる。
次に、このようにして導電性繊維11及びバインダ12が抄紙されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aが含有された基材前駆体15に対し、成形工程(ステップS20)にて、カレンダ成形、プレス成形(加圧成形)等により、基材前駆体15の表面を平滑にする成形を行う。
これにより、基材前駆体15の厚み方向の表裏両面の凹凸が低減されて表面が平滑化され、燃料電池200に組み込む際に触媒層110やセパレータ140といった周辺層との接触性を高めて接触抵抗を低減することが可能となる。加えて、基材前駆体15の表面に繊維ほつれ等の突起物が存在していても、プレス等により抑制することができる。また、プレスにより、導電性繊維11の配向性を調整したり、基材前駆体15の緻密性を調整したりして、ガス拡散層100の導電性、強度、水分やガスの透過性といった特性の調節を可能とする。即ち、このときの成形圧力は、ガス拡散層100の所望とする特性(導電性、強度、水分やガスの透過性等)を考慮して設定され、例えば、0.01~10MPaの範囲内とされる。
また、成形により基材前駆体15が緻密化されることで、次のガス拡散層前駆体形成工程(ステップ30)で基材前駆体15に対して塗布するペースト状の塗布液24中に含まれるマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21や第2の炭素前駆体樹脂14Bが基材前駆体15の内部に侵入することも少なく、導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bからなるマイクロポーラス層前駆体25を基材前駆体15の表面に形成できる。
なお、このときの成形工程(ステップS20)で、例えば50~200℃の加熱を行う成形により、基材前駆体15の水分が除去され乾燥される。更に、成形時の加熱によって第1の炭素前駆体樹脂14Aを硬化させてもよい。次のガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)の前基材前駆体15中に含まれるフェノール樹脂等の熱硬化性の第1の炭素前駆体樹脂14Aを硬化させることにより、ペースト状の塗布液24が基材前駆体15に染み込む(浸透する)のを阻止できる。また、後述の炭化・黒鉛化工程(ステップ40)において第1の炭素前駆体樹脂14Aの炭化時の気化を抑制して定着を図ることができるから、導電性繊維11や導電性材料21との接触性を高め、更に、ガス拡散前駆体50の変形を防止し、ガス拡散層100の強度や周囲層との接合性を高めることが可能となる。
続いて、このように成形された基材前駆体15に対し、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)にて、ガス拡散層100のマイクロポーラス層20を形成するためのペースト状の塗布液24を塗布する。
ここで、本実施の形態1のマイクロポーラス層20形成用の塗布液24は、導電性材料21と、第2の炭素前駆体樹脂14Bと、分散媒23とを含有するペースト状の混合物である。
導電性材料21としては、炭素系と金属系があるが、熱的、化学的安定性(耐食性、導電性等)を考慮すると、例えば、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、気相成長炭素、活性炭の炭素粉末(炭素粒子)が好ましい。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。導電性を有するものであれば、炭素繊維等を使用することも可能であるが、ガス拡散層基材10よりも微細な孔を形成するマイクロポーラス層20としての機能面(集電機能、撥水性能、ガス拡散層基材10の不均一性の緩和、触媒層110との接触性)からすれば、通常、粉末状の炭素粒子が主成分とされる。なお炭素粒子に加え炭素繊維を配合する場合には、マイクロポーラス層20の強度及び導電性を向上させることが可能である。
中でも、取扱性、純度等の観点や、マイクロポーラス層20における導電性、強度、ガスや水分の透過性等の観点から、カーボンブラックや黒鉛等の粉末状の導電性材料が好ましい。特に、塗布対象の基材前駆体15を構成する導電性繊維11が炭素繊維であると、カーボンブラックや黒鉛等の粉末状の導電性材料21は、この炭素繊維との相性も好ましい。なお、カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック等の炭素粒子が挙げられる。
第2の炭素前駆体樹脂14Bは、上述の第1の炭素前駆体樹脂14Aと同様に、後の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)での非酸化性雰囲気下における高熱処理により炭素化・黒鉛化されて導電性の炭化物となる樹脂(炭素源となる樹脂)であって、かつ、炭化後に導電性材料21等を結着する結着成分として機能するものであればよく、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ピッチ等の熱硬化性樹脂等が使用される。中でも、取扱性が良く、炭化後に導電性物質として残存する残炭率(炭化率)が高く、また、炭素粉末(炭素粒子)等の導電性材料21を結着する結着力が強いフェノール樹脂が好ましい。勿論、水に溶解または分散(乳化等を含む)させた水性フェノール樹脂を使用してもよいし、溶剤系(溶剤希釈型)のものであってもよい。
そして、第2の炭素前駆体樹脂14Bは、第1の炭素前駆体樹脂14Aと同一の樹脂を使用してもよいし、第1の炭素前駆体樹脂14Aとは異なる樹脂であってもよい。
なお、炭化させるフェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bの配合量は、マイクロポーラス層20の所望とする特性等に応じて設定されるが、マイクロポーラス層20において樹脂炭化物の比率が10~50質量%、好ましくは20~40質量%の範囲内であれば、水分やガスの透過性を阻害することなく、マイクロポーラス層20の導電性及び強度が向上する。また、炭化の際の熱収縮による変形も少なく、形状保持性も高くなる。例えば、第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてフェノール樹脂を使用し、炭素粉末等の導電性材料21の配合量100質量部に対し、フェノール樹脂の樹脂量(固形分量)を10~100質量部の範囲内とすることで上述の樹脂炭化物の比率に調整できる。
これら導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを分散させる分散媒23としては、アルコール類、ケトン類(アセトン等)、トルエン、水等の分散媒23が用いられる。例えば、第2の炭素前駆体樹脂14Bがフェノール樹脂であると、メタノール、エタノール、ブチルアルコール等のアルコールや水等の分散媒23が好適に使用される。
導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを分散媒23に分散される混合分散処理は、例えば、一般的なディスパー、プラネタリー等のミキサーや、ビーズミル等を使用した攪拌によって行われる。特に、フェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bを配合していることで、高い剪断応力をかけなくとも、また、分散剤を使用しなくても、導電性材料21を高分散させることが可能である。そして、高い剪断応力をかけなくとも高分散されることから、導電性材料21がカーボン粒子であれば、そのカーボン粒子の三次元構造が維持されやすく、得られるマイクロポーラス層20の強度の向上を図ることができる。
しかし、本発明を実施する場合には、分散剤を使用して導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを分散させてもよい。分散剤を使用により塗布液24の成分の分散性を高めると、塗布時において塗布装置の配管やポンプ等に目詰まりを生じさせたり、濃度変化による塗布ムラを生じさせたりすることもない。
特に、本実施の形態1では、基材前駆体15に対するペースト状塗布液24の塗布後に、炭化・黒鉛化の焼成を行うものであり、ペースト状塗布液24に用いた分散剤は、次の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)における高熱処理の温度で除去できれよいから、分解温度が低い分散剤の選択に限定されず、分散剤の選択自由度が高くなる。このときの分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX-100等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等の非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系界面活性剤といった界面活性剤や、ポリエチレンオキサイド系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリエチレングリコール系(例えば、アルキルフェノールとポリエチレングリコールのエーテル類、高級脂肪族アルコールとポリエチレングリコールのエーテル類等)、ポリビニルアルコール系等の増粘剤が使用できる。
そして、本実施の形態1では、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)において、このようなマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bが分散媒23に分散されてなるペースト状塗布液24を基材前駆体15の厚み方向の片面に塗布することにより、ガス拡散層100の前駆体50(以下、『ガス拡散層前駆体50』という)を形成する。
基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布する方法としては、刷毛塗り、筆塗り、ロールコータ法、リバースロールコータ法、バーコータ法、ダイコータ法、ブレード法、ナイフコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、カーテンコーティング法、ディップコータ法、スプレーコータ法、グラビアコータ法、アプリケータ、スプレー噴霧等が挙げられる。特に、(リバースロール)コータ等による塗布では、基材前駆体15にペースト状塗布液24が塗布されてなるガス拡散層前駆体50の表面平滑性を向上でき、好適であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。そして、フェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bを配合していることで、別途、上述の分散剤を使用しなくても、導電性材料21を高分散させることが可能であるから、塗布時において塗布装置の配管やポンプ等に目詰まりが生じ難く、また、濃度変化による塗布ムラも生じ難い。
ここで、ペースト状塗布液24を塗布する基材前駆体15は、抄紙された炭素繊維等の導電性繊維11及びバインダ12からなる集積体に第1の炭素前駆体樹脂14Aの含浸によって第1の炭素前駆体樹脂14Aが付着され、また、成形によって緻密化されており、炭化・黒鉛化前であるから空隙も少ない。更に、ペースト状塗布液24はフェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bを含有していることで適度な粘性を有する。
したがって、かかる基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布すると、ペースト状塗布液24の成分が基材前駆体15の内部にまで染み込む(浸透する)ことは少なく、基材前駆体15の表面に導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bが付着し、導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bからなるマイクロポーラス層20の前駆体25(以下、『マイクロポーラス層前駆体25』という)が形成される。また、ペースト状塗布液24の一部が基材前駆体15の表面層の空隙に侵入してもそれは結果的に基材前駆体15との密着性の向上につながることになる。
そして、このように基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布するものでは、基材前駆体15の形状により任意の形状に仕上げることができる。即ち、シート状のものでは基材前駆体15の形状に応じた成形加工が必要となりコスト高となるが、塗布型のものでは、基材前駆体15の形状に追従できるためによりコストを抑えることができる。
こうして、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)にて、基材前駆体15に対して、マイクロポーラス層20形成用の導電性材料21、第2の炭素前駆体樹脂14B及び分散媒23を主組成としたペースト状塗布液24を塗布することにより、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を得る。
特に、本実施の形態1は、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布する構成であり、上述したように炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にあってはペースト状塗布液24の成分が染み込み(浸透)難いことから、ペースト状塗布液24において、基材前駆体15への浸透を防止するために粘性を増大させる増粘剤等の配合を必ずしも必要としない。よって、増粘剤の使用で高粘性とすることによる塗布時のムラの発生も少なく、均一な塗布を可能とする。
また、ペースト状塗布液24において、フェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bが含有されることで、適度な粘性、粘稠性を有し、別途、分散剤や増粘剤を配合しなくとも、導電性材料21が高分散され、塗布性が確保されている。
しかし、本発明を実施する場合には、上述したように、必要に応じて、ペースト状塗布液24において、導電性材料21等の分散性を高めるための界面活性剤等や、粘性を増大させるための増粘剤等を配合することも可能である。そして、これら界面活性剤や増粘剤がペースト状塗布液24に配合されても、後の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)での高温加熱処理により界面活性剤や増粘剤は熱分解して除去されるため、その後の乾燥焼成工程(ステップS60)での乾燥焼成処理の負担を増大させることはない。
なお、本発明を実施する場合には、次の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)に供する前に、基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布した段階で、必要に応じ、ガス拡散層前駆体50の水分を除去する乾燥工程を設けてもよい。
このときの乾燥方法としては、特に限定されず、自然乾燥であってもよいし、例えば、熱風を循環・供給する熱風炉、高温ヒーターを用いた雰囲気炉、赤外線ヒーターを用いたIR炉、マイクロ波を用いたマイクロ波炉等の設備を用いて非接触方式での乾燥方法や、加熱されたロールや熱板に接触させて乾燥させる接触方式での乾燥方法によって、乾燥させることもある。このときの加熱条件は、ガス拡散層前駆体50中の水分を除去できる温度であれば良く、通常、50℃~200℃の範囲内に設定される。なお、乾燥時の加熱により、フェノール樹脂等の熱硬化性の第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bを硬化させてもよい。次の炭化・黒鉛化工程(ステップ40)の前に、第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bを硬化させることにより、炭素前駆体樹脂14A,14Bの炭化時の気化を抑制して定着を図ることができるから、導電性繊維11や導電性材料21との接触性を高め、更に、ガス拡散前駆体50の変形を防止し、ガス拡散層100の強度や周囲層との接合性を高めることが可能となる。
次に、このようにして基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布することにより得たガス拡散層前駆体50に対して、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて、非酸化性雰囲気下で高温の加熱焼成を行う。
炭化・黒鉛化工程(ステップS40)では、不活性処理(不活性ガス)等の非酸化性雰囲気下にて、通常、1000~3500℃、好ましくは1200~3000℃の温度範囲で、10分間~1時間の加熱焼成処理を行うことにより、基材前駆体15中の第1の炭素前駆体樹脂14A及びマイクロポーラス層前駆体25中の第2の炭素前駆体樹脂14Bを炭化・黒鉛化させる。
ここで、加熱焼成処理時の最高温度が低すぎると、得られるガス拡散層100の強度や導電性が小さく、一方、炭化処理時の最高温度が高すぎると、導電性繊維11の繊維強度の劣化や導電性材料21の劣化、脱落等が生じる恐れがある。
配合材料の種類、配合量、ガス拡散層100の所望とする特性等に応じて、加熱温度、時間、加熱雰囲気等の加熱焼成条件が設定されるが、導電性繊維11及び導電性材料21が炭素系で、第1の炭素前駆体樹脂14A及び第2の炭素前駆体樹脂14Bがフェノール樹脂の場合、窒素雰囲気中で1000~3500℃、より好ましくは1200~3000℃、更に好ましくは1500~2800℃の温度範囲で加熱することにより、ガス拡散層前駆体50中における不純物を少なくして、得られるガス拡散層100において、高強度、かつ、高い導電性等の電気的特性(比抵抗等)や耐食性が得られる。最高温度での加熱処理時間は通常、0.5~20分とされる。
なお、ここでは配合材料の種類、配合量、ガス拡散層基材10の所望とする特性(導電性等)等に応じて、加熱焼成条件が設定され、第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bの炭化または黒鉛化の区別は問わない。
非酸化性雰囲気とするための不活性雰囲気は加熱炉内に例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを流通させることによって得ることができる。場合によっては真空下、二酸化炭素ガス等の雰囲気下での加熱焼成処理とすることも可能である。
不活性処理(不活性ガス)雰囲気下での加熱処理は、300~800℃の加熱処理(前処理;仮焼成、前炭素化)と、1000~3500℃の加熱処理(本処理;後炭素化、黒鉛化)といった多段階で行うことも可能である。
このときの加熱焼成の方法としては、例えば、熱風を循環・供給する熱風炉、高温ヒーターを用いた雰囲気炉、赤外線ヒーターを用いたIR炉、マイクロ波を用いたマイクロ波炉等の設備を用いて非接触方式や、加熱されたロールや熱板に接触させて乾燥させる接触方式等がある。
熱風炉等で熱風を吹き付ける方法等の非接触方式では、操作性やメンテナンス性が容易で、導電性繊維11や導電性材料21等の熱源への接触による脱落等が防止される。
一方、例えば、厚み方向で熱プレス(油圧プレス、ホットプレス、ベルトプレス、ロールプレス等)する方法等の接触方式では、特に、面圧を加えながらの加熱では、ガス拡散層前駆体50の表面平滑性を向上させ、燃料電池200に組み込む際に触媒層110やセパレータ140といった周辺層との接触性を高めることが可能となる。なお、必要以上にプレス圧を高くすると、空孔が埋められる恐れがありガス拡散層前駆体50が緻密になって、加熱焼成時に発生するガス等が排出され難くなり、ガス拡散層前駆体50の変形、破損を招く恐れがある。このため、成形圧力は、ガス拡散層100の目的とする特性(強度、透過性等)を考慮して設定されるが、例えば、プレス圧0.01~2MPaとされる。
このような非酸化性雰囲気下での高温の焼成処理により、フェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14A及び第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化・黒鉛化される。そして、この炭化・黒鉛化された樹脂、即ち、樹脂炭化物によって導電性繊維11や導電性材料21が結着され強固な導電パスを形成し、得られるガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の導電性や強度が高められる。
即ち、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において、ガス拡散層前駆体50が非酸化性雰囲気下で高温加熱処理されることにより、基材前駆体15中のフェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化・黒鉛化され、その第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性繊維11が結着される。また、マイクロポーラス層前駆体25中のフェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化・黒鉛化され、その第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性材料12が結着される。更に、基材前駆体15とマイクロポーラス層前駆体25の境界において、フェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化された樹脂炭化物によって、導電性繊維11及び導電性材料21が結着される。これより、得られるガス拡散層100においてガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の定着が高くなる。即ち、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の結び付きが強く、燃料電池200への組み付け時等でもガス拡散層基材10からマイクロポーラス層20が剥離し難いものとなる。また、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の間の接触抵抗が小さいものとなる。
こうして、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において、ガス拡散層基材50を非酸化性雰囲気中で高熱処理することにより、フェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aが配された基材前駆体15や、第2の炭素前駆体樹脂14Bが配されたマイクロポーラス層前駆体25では、フェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化される。そして、それらの樹脂炭化物によって、導電性繊維11や導電性材料21が結着される。また、基材前駆体15が多孔質となり、マイクロポーラス層20にも基材前駆体15の空隙(細孔)よりも小さい微細孔が形成される。更に、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15中に、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、パルプ等のバインダ12が配されている場合には、かかるバインダ12が分解されて消失し、その消失跡が空隙(気孔)となる。フェノール樹脂等の第1の炭素前駆体樹脂14Aや第2の炭素前駆体樹脂14Bの一部が消失されることでも、その消失跡が空隙となる。更に、上述したように、マイクロポーラス層前駆体25中に界面活性剤や増粘剤等の分散剤が配された場合でも、この炭化・黒鉛化工程(ステップS40)の高温加熱処理により、分散剤は除去される。よって、後の乾燥焼成工程(ステップS60)で分散剤除去の負担がかかることはない。
次に、本実施の形態1では、このように非酸化性雰囲気下で高温加熱焼成されたガス拡散層前駆体50に対して、撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)にて、撥水性樹脂31を含浸させる。
この撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)にて含浸させる撥水性樹脂31としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂や、シリコーン樹脂等が使用される。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
これらの中でも、撥水性、電極反応時の耐食性等に優れるフッ素系の高分子材料が好ましく、特に、高い撥水性が得られるPTFEを用いるのが好ましい。なお、PTFEは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化オレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の他のフッ素系単量体に由来する単位を含む変性PTFEであってもよい。
因みに、撥水性樹脂31は、その平均分子量が5万~100万の範囲内であることが望ましい。平均分子量が低すぎるものは、導電性繊維11や導電性材料21を結合させるバインダとしての結着性が小さく、一方で、平均分子量の大きすぎるものは、混合時に繊維化して分散不良になり易くて安定性が低下したり、繊維化して固まることで濃度変化が生じたりする。なお、撥水性樹脂がフッ素系重合体である場合、フッ素系重合体は溶媒に溶解しにくいため、溶融粘度では平均分子量を測定しにくい。このため、比重と数平均分子量との関係から平均分子量を求める比重法が適用される。
撥水性樹脂31を含浸させる際には、通常、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂31が、そのままでは水には分散しないため、適当な界面活性剤(分散剤)によって撥水性樹脂31を水中に分散させたもの、例えば、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂31を水等に乳化させたエマルジョンや、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂31を水等に分散させたディスパージョン等の形態で含浸させる。
因みに、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、ここでは「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
撥水性樹脂31の含浸方法としては、例えば、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂エマルジョン、或いは、撥水性樹脂ディスパージョン等の撥水性樹脂31の分散液中に炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50を浸漬したり、炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50に撥水性樹脂31の分散液を塗布(キスコート法、ディップ法、スプレー法、カーテンコート法、ローラ接触法等)したりすることによって、撥水性樹脂31をガス拡散層前駆体50の内部に含浸させることができる。勿論、絞り装置を用いてdip-nip方法等により絞り出しを行ってもよく、このような絞り装置ではロール間隔を変えることで撥水性樹脂31量の調整や制御を行うことが可能である。
撥水性樹脂31の種類、性質、添加量等によって含浸方法は、適宜選択されるが炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50の全体に分布させる均一性や生産性の観点から、撥水性樹脂31の分散液中に炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50を浸漬するのが好ましい。
ここで、撥水性樹脂31の含有量が少なすぎる場合、撥水性やバインダ効果が不足する。一方で、含有量が多すぎると、特にマイクロポーラス層20の空孔が少なくなり、ガス透過性が低下する。例えば、撥水性樹脂31がPTFEである場合、固形分換算でガス拡散層100への付着量が5~100g/m2の、好ましくは、10~50g/m2の範囲内とされる。
更に、本実施の形態1では、このようにして撥水性樹脂31をガス拡散層前駆体50に含浸させた後、乾燥焼成工程(ステップS60)にて、乾燥焼成を行う。
この乾燥焼成によって、水分や撥水性樹脂31の分散液中に含まれていた分散剤を除去する。このときの乾燥焼成による分散剤の除去が不十分であると、残存した分散剤の親水性基によって水分が捕捉されるため、得られるガス拡散層100において十分な撥水性を確保することができず、燃料電池200に適用した場合に実用的な排水性を得ることができない。したがって、乾燥焼成の温度は撥水性樹脂31の分散液中に含まれていた分散剤を熱分解・揮発して除去できる温度、時間に設定される。
ここで、乾燥焼成工程(ステップS60)における加熱により熱分解・揮発して除去する対象となる分散剤は、前の撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)においてフッ素系樹脂等の撥水性樹脂31を炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50の全体に均一に含浸させることを目的として、撥水性樹脂31を分散媒に均一に分散させるために使用した少量の界面活性剤等の分散剤である。即ち、本実施の形態1では、従来のように炭化・黒鉛化されたガス拡散層基材10に導電性材料及び撥水性樹脂及びそれらを分散させるための分散剤(界面活性剤、増粘剤等)を含有するマイクロポーラス層形成用のペースト状混合物を塗布してマイクロポーラス層20の塗膜を形成するものではなく、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布し、炭化・黒鉛化後は、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布することなく、撥水性樹脂31をガス拡散層前駆体50に含浸させるものであるから、乾燥焼成工程(ステップS60)において乾燥焼成するガス拡散層前駆体50中に撥水性を阻害する分散剤の含有量が少ない。なお、本実施の形態1では、このように、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24が炭化・黒鉛化前の基材前駆体15に塗布され、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25が加熱焼成されるため、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24中に界面活性剤や増粘剤等の分散剤を配した場合でも、このときの分散剤は、炭化・黒鉛化工程(ステップ40)の高熱処理により除去されることになる。
したがって、従来と比較して短時間及び低温度の乾燥焼成処理でも、得られるガス拡散層100は十分な撥水性を発現する。
つまり、炭化済みである多孔質のガス拡散層基材10に対して、導電性材料及び撥水性樹脂を含有するマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、炭素構造物のマイクロポーラス層20を形成する従来の設計では、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物に含有される導電性材料及び撥水性樹脂を分散させる必要から、多量の分散剤が使用されており、加熱焼成を行うマイクロポーラス層の塗膜成分中の分散剤の含有量が多いことで、かかる分散剤を十分に除去し撥水性を発現させるためには、高温度での加熱が必要である。特に、従来は、炭化済みである多孔質のガス拡散層基材10に対して、導電性材料及び撥水性樹脂を含有するマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布するものであるから、ガス拡散層基材10の多孔性によりマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物の成分がガス拡散層基材10に染み込まない(浸透)ように、分散剤を使用してPTEF等の撥水性樹脂を分散させた撥水性樹脂エマルジョン(またはディスパージョン)の含浸(撥水性処理)をガス拡散層基材10に対して行ってから、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布していた。また、ガス拡散層基材10に染み込まない(浸透)ように、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物において増粘剤等の分散剤を配して粘性を増大させることもあり、分散剤の使用量が多かった。
このため、従来の炭化済みである多孔質のガス拡散層基材10に対して、導電性材料及び撥水性樹脂を含有するマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布した後に行う乾燥焼成では、分散剤を十分に除去し撥水性を発現させるために、一般的には、300℃~360℃の高い温度で加熱する必要があった。
これに対し、本実施の形態1においては、上述したように、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布して、基材前駆体15と共に、基材前駆体15上に形成されたマイクロポーラス層前駆体25を所定の加熱条件で炭化・黒鉛化しており、炭化・黒鉛化されたガス拡散層前駆体50には、基材前駆体15の表面に導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bの炭化物からなるマイクロポーラス層前駆体25が形成されている。よって、炭化・黒鉛化によって多孔質とされたガス拡散層前駆体50には、従来のように撥水処理を施した後、導電性材料、撥水性樹脂及びそれらを分散させるための多量の分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布する必要はなく、撥水処理を施すのみである。
したがって、本実施の形態1では、乾燥焼成させるガス拡散層前駆体50に存在する分散剤の量は少ない。即ち、マイクロポーラス層形成用ペースト状塗布液24に導電性繊維11を分散させるための界面活性剤等の分散剤を配合した場合でも、上述の炭化・黒鉛工程(ステップS40)における高い加熱温度条件の焼成により、マイクロポーラス層形成用ペースト状塗布液24中に配合された分散剤は分解除去されるため、乾燥焼成させるガス拡散層前駆体50には、マイクロポーラス層形成用ペースト状塗布液24中に配した分散剤は残存せず、撥水性樹脂31を分散させるために用いた少量の分散剤のみが存在する。
このため、撥水性樹脂31を含浸後の乾燥焼成においては、従来と比較して短時間及び低温度でも十分に水分及び分散剤除去できる。例えば、撥水性樹脂31としてPTFE樹脂のエマルジョンを使用した場合、200~250℃の低い加熱温度条件でも、水分や撥水性を阻害する分散剤(撥水性樹脂31を分散させるための分散剤)が完全に除去され、得られたガス拡散層100は高い撥水性能を発現する。
つまり、本実施の形態1の乾燥焼成工程(ステップS60)では、撥水性樹脂31を分散させるため使用した分散剤及び水分を除去するのみであるから、水分及び分散剤を分解・揮発して消失させるのに必要な乾燥焼成、換言すると、撥水性樹脂31による撥水性を発現するために必要な乾燥焼成は低い温度処理で済む。また、水分及び分散剤を分解・揮発して消失させ、撥水性を発現させるための乾燥焼成にかかる時間の短縮も可能である。これより、乾燥焼成炉の炉長を短くでき、更に、撥水性の発現のために所定の温度に上昇させる時間を短くできるから、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
よって、乾燥焼成にかかる負荷を軽減でき、乾燥焼成工程(ステップS60)での乾燥焼成処理にかかる電力を抑えて、製造コストを下げることができる。
こうして、乾燥焼成工程(ステップS60)において、撥水性樹脂31が含浸されたガス拡散層前駆体50の乾燥焼成を行うことにより、ガス拡散層前駆体50中の水分及び分散剤が除去されて撥水性樹脂31による撥水性が発現されようになる。更に、撥水性樹脂31が一部溶融されることにより導電性繊維11や導電性材料21を結着する樹脂バインダとして機能し、得られるガス拡散層100を強固なものとする。
なお、乾燥と焼成の順序は特に問われず、乾燥と焼成が同時に行われることもある。また、主に分散剤の分解除去を行うための熱処理と、主に撥水性樹脂の溶融による結着を行うための熱処理とで乾燥・焼成の温度や時間条件を変え、各熱処理を分けて行うことも可能である。
このようにガス拡散層前駆体50が乾燥焼成されることにより、本実施の形態1のガス拡散層100が得られる。
このようにして得られた本実施の形態1のガス拡散層100は、ガス拡散層基材10及びガス拡散層基材10の厚み方向の片面に形成されたマイクロポーラス層20からなる重層構造を有する。
ここで、本実施の形態1のガス拡散層基材10は、所定の空孔が形成されて多孔質であることにより水分やガスの透過性が確保されている。そして、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭素・黒鉛化されたことにより、第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭素・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性繊維11が結着されている。このように導電性繊維11が樹脂炭化物に結着されていることで導電パスが形成され高い導電性及び強度を有する。また、導電性繊維11が樹脂炭化物で結着されていることで弾力性等も有し、燃料電池200への適用において電解質膜120と接合したときの寸法吸収性が高い。更に、導電性繊維11の抄紙時にバインダ12と共に抄紙したことによって、導電性繊維11の結合性、絡み合い性、接触性が向上して形状保持性や強度が高く、また、導電性繊維11の脱落、剥離が生じ難くて導電性繊維11の定着性が高い。更にまた、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)における加熱によりバインダ12が消失されてその消失跡が空隙となることにより、空隙(気孔)率や気孔径が向上し、水分やガスの透過性が高められる。加えて、バインダ12の配合量、種類、サイズ等により空隙、透過性を容易に制御できる。
また、本実施の形態1のマイクロポーラス層20においても、ガス拡散層基材10の空隙(細孔)よりも小さな微細孔が形成されて多孔質であり水分やガスの透過性が確保されている。特に、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを含有するペースト状塗布液24を塗布して、基材前駆体15と共に、基材前駆体15上に形成されたマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の加熱条件で焼成したことにより、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭素・黒鉛化されて、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭素・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性材料21が結着されている。このように導電性材料21が樹脂炭化物に結着されていることで導電パスが形成され高い導電性及び層強度を有し強固である。また、このように第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物によってマイクロポーラス層前駆体25中の導電性材料21が結着されていることで、導電性材料21の脱落、剥離が生じ難い。よって、取扱性も良く、燃料電池200への組み付け時や使用時に、触媒層110との接触面での平滑性が保たれ、接触抵抗の増大による発電効率の低下や短絡の恐れも少なくなる。
更に、燃料電池200への組み付け後において、例えば、燃料電池200の運転による電解質膜120の膨張や収縮によって、または、スタック時のセパレータの挟圧等によって外力が加わることがあっても、マイクロポーラス層20の導電性材料21が欠落(剥離)し難い。よって、耐久性が高く、また、導電性材料21が流されてガス拡散層基材10の空孔やガス流路141を塞いでしまうこともなく、出力低下を招く目詰りを生じさせることもない。したがって、燃料電池200の性能を安定化させることができる。
こうして、本実施の形態1のマイクロポーラス層20は信頼性、耐久性が高い。また、導電性材料21が樹脂炭化物で結着されていることで弾力性等も有し、燃料電池200への適用において電解質膜120との接合したときの寸法吸収性が高い。加えて、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物が導電性材料21を結着することで、マイクロポーラス層20が適度に硬くなり、燃料電池200に組み込んだときセパレータ140で挟圧されてもマイクロポーラス層20の空孔が圧潰され難くて保持され、安定したガス拡散性及び排水性等の性能を確保できる。
特に、本実施の形態1では、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布して、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の加熱条件で焼成することから、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25の境界部において、基材前駆体15中の導電性繊維11とマイクロポーラス層前駆体25中の導電性材料12が、第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化されてなる樹脂炭化物によって結着されることで、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の一体の接合強度が高く、ガス拡散層基材10へのマイクロポーラス層20の定着力が高い。また、第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化されてなる樹脂炭化物による導電パスの形成によりガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の間の接触抵抗も少なく集電に有利となる。
更に、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24に第2の炭素前駆体樹脂14Bが配合されたことにより、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物によっても基材前駆体15中の導電性繊維11とマイクロポーラス層前駆体25中の導電性材料21が結着されるから、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の結び付き高まる。このため、マイクロポーラス層20がガス拡散層基材10から剥離し難く両者の密着性が高く、所望特性のマイクロポーラス層20の形成とガス拡散層基材10との高い接合性を確保することができる。よって、燃料電池200への組み付け時や使用時にマイクロポーラス層20がガス拡散層基材10から剥離し難く、ガス拡散層基材10へのマイクロポーラス層20の定着力が向上する。また、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物による導電パスの形成によりガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の間の接触抵抗がより低減し、ガス拡散層10全体の導電性を高くできて集電機能を向上させることができる。即ち、電気抵抗を低減させ、集電性の向上を図り、燃料電池200の性能を向上させることが可能となる。そして、上述したようにマイクロポーラス層20を形成する導電性材料21の脱落、欠落、剥離が生じ難いことから、燃料電池200の使用時に接触抵抗の増加や短絡(ショート)が発生するのが防止される。よって、このガス拡散層100を燃料電池200用の電極130として用いた場合、耐久性が高く、燃料電池200において安定した電池性能が発揮され、高い信頼性が得られる。
また、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布して、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の高温条件で焼成することから、基材前駆体15のみならずマイクロポーラス層20においても金属コンタミレス化(不純物としての金属の混入の削減)が可能で、導電性等の特性を高め、燃料電池200において出力の安定化を図ることできる。即ち、純度の低い導電性材料21を使用しても、第1の炭素前駆体樹脂14A及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを炭化可能な所定の高温条件の焼成によって、純度が高まり均質化され、高い導電性等の特性を確保できる。好ましくは、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において1500℃以上、3000℃以下の高温加熱により、金属コンタミレス化に有利となる。
このようなガス拡散層基材10及びそれの厚み方向の片面に形成されたマイクロポーラス層20からなるガス拡散層100によれば、マイクロポーラス層20によってガス拡散層基材10の不均一性が緩和されて触媒層110への接触面において平滑な表面が得られる。また、ガス拡散層基材10にほつれや毛羽立ちが生じても、ガス拡散層基材10の導電性繊維11が触媒層110や電解質膜120と接触して触媒層110や電解質膜120を損傷するのを回避でき、ガス拡散層基材10の導電性繊維11と触媒層110によって起こる短絡(ショート)の発生が防止される。更に、マイクロポーラス層20がガス拡散層基材10より緻密であることで、触媒層110との接触性も高くなり、接触抵抗が低く集電に有利となる。加えて、電池反応により生成した水がマイクロポーラス層20によって細分化されてガス拡散層基材10に送り出されることになるため、排水性が向上し、フラッディングの防止効果も高くなる。よって、電池性能がより安定化する。また、マイクロポーラス層20の成分調節により、ガス拡散層基材10単独のみでは困難である電池の使用環境や運転条件等に応じた性能の制御性を容易に獲得できる。
そして、本実施の形態1では、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布し、基材前駆体15及びその上に形成されたマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の加熱条件で焼成してから、撥水性樹脂31を含浸し、乾燥焼成することから、撥水処理後に乾燥焼成するガス拡散層前駆体50中に撥水性を阻害する分散剤の存在は少なく、乾燥焼成時において、従来のようにマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物に含まれていた導電性材料を分散させるための非イオン系界面活性剤等の分散剤や、ペースト状混合物の成分のガス拡散層基材への染み込み(浸透)を防止するための増粘剤等の分散剤の除去が必要でない。したがって、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物中の分散剤を除去するのに必要な温度条件よりも低い温度での乾燥焼成によって、撥水性を阻害する分散剤を十分に分解・揮発させて除去でき、ガス拡散層100の高い撥水性を確保できる。また、水分及び分散剤を消失させて撥水性を発現させるための乾燥焼成にかかる時間の短縮も可能で、更に、水分及び分散剤を除去するために所定の温度に上昇させる時間を短くできるから、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
即ち、低い温度条件の乾燥焼成でも十分な撥水性が発現されるため、乾燥焼成時の温度を低減化でき、また、乾燥焼成工程(ステップS60)における時間を短縮できる。
こうして乾燥焼成時の温度の低減化、また、乾燥焼成時の時間の短縮化により乾燥焼成工程の負荷を軽減できることで、乾燥焼成工程(ステップS60)で乾燥焼成処理にかかるエネルギーコストを低減でき、製造コストを下げることができる。また、乾燥焼成にかかる時間の短縮により乾燥焼成炉の炉長を短くできることでも製造コストが抑えられる。よって、ガス拡散層100の低コスト化が可能である。加えて、乾燥焼成時間の短縮によりガス拡散層100の生産効率を上げることができる。更に、エネルギーコストの削減によって二酸化炭素の排出量を低減できるため自然環境に与える負荷を軽減することができる。
そして、本実施の形態1のガス拡散層100においては、このようにして、低い温度条件での乾燥焼成でも撥水性を阻害する分散剤が残存することなく、燃料電池200の発電効率に影響を与える撥水性を確保できることで、電池反応で生成した水の排出がスムーズに行われ、フラッティグ現象が防止される。即ち、乾燥焼成時の負荷を低減しても高い撥水性が得られ、燃料電池200において長期に亘って安定した出力、電池性能を維持できる。また、撥水性の発現に必要な乾燥焼成の温度を低くできることで、高温の酸化加熱、過熱に起因するガス拡散層100の成分の劣化、脆弱化や、ガス拡散層100におけるクラックの発生や変形による平滑性の低下等が防止がされ、ガス拡散層100の特性の低下を防止できる。
更に、乾燥焼成時の加熱によって、炭化・黒鉛化後の基材前駆体15に含浸された撥水性樹脂31及び炭化・黒鉛化後のマイクロポーラス層前駆体25に含浸された撥水性樹脂31が溶融されることにより、溶融された撥水性樹脂31によって基材前駆体15中の導電性繊維11同士が結着されたり、マイクロポーラス層前駆体25中の導電性材料21同士が結着されたり、導電性繊維11及び導電性材料21が結着されたりし、ガス拡散層10全体の機械的強度や、ガス拡散層10及びマイクロポーラス層20の接合強度が高められ、また、導電性繊維11や導電性材料21の脱落が防止される。
特に、本実施の形態1では、乾燥焼成温度を低くできることで、撥水性樹脂31の熱分解が抑えられ溶融された撥水性樹脂31による高い結着力が得られる。更に、乾燥焼成の低い温度条件でもガス拡散層基材50中に存在する分散剤が十分に除去されて得られるガス拡散層100において分散剤が残存しないから、分散剤によって撥水性樹脂31による導電性繊維11や導電性材料21の結着が阻害されることもない。
また、本実施の形態1では、乾燥焼成温度を低くしても、ペースト状塗布液24に第2の炭素前駆体樹脂14Bが配合されたことにより、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物による結着によって、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の機械的強度や接合強度が高められ、導電性繊維11や導電性材料21の定着性が高まる。
こうして、本実施の形態1のガス拡散層100は、導電性繊維11や導電性材料21の定着性が高く、撥水性が維持され、また、集電性にも有利であることで、製造品質が均一化され、燃料電池200用の電極130として用いた場合、電気抵抗を低減させ、集電性の向上を図り、燃料電池200の性能の向上を図ることが可能である。更に、高負荷時の特性にも優れ、反応ガスの利用率が低下することなく反応ガスの安定した拡散性が維持されることから、燃料電池200において長期間安定した出力を維持でき、また、要求発電量の増加に対しても速やかに追従することができ、高い電池性能を発揮させることができる。したがって、長期間安定して作動でき高い反応活性が必要とされる固体高分子形燃料電池の膜電極接合体150にも好適に用いることができる。
加えて、従来、炭化済みのガス拡散層基材10に導電性材料、撥水性樹脂及びそれらを分散させるために多量の分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布する際では、細孔を有する多孔質であるガス拡散層基材10にマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物の成分が染み込む(浸透)のを防止し、更に、ガス拡散層基材10表面へのペースト状混合物成分の定着のために、ガス拡散層基材10に撥水性樹脂を含浸させ、水分を乾燥させてから、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、その後、乾燥焼成を行っていた。しかし、本実施の形態1では、第1の炭素前駆体樹脂14Aの含浸によって第1の炭素前駆体樹脂14Aが付着された炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布するものであるから、上述したようにかかる基材前駆体15では空隙も少なく、また、第1の炭素前駆体樹脂14Aが保持(充填)されていることから、ペースト状塗布液24の塗布前に撥水処理や乾燥処理を行うことなしに、基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布しても、基材前駆体15の表面にペースト状塗布液24の成分を定着させることができる。よって、製造の作業性や製造工程を単純化でき、製造コストを下げることが可能である。
次に、本発明の実施の形態1に係るガス拡散層100について、実施例を挙げて説明する。
本実施例のガス拡散層100の製造に使用した配合材料を表1に示す。
本実施例に係るガス拡散層100の製造方法について説明すると、図2のフローチャートにしたがって、導電性繊維11としてのカーボンファイバ(短繊維;平均繊維径0.1~50μm、平均繊維長0.01~50mm)と、バインダ12としてのポリビニルアルコール(PVA)繊維とを、分散媒(抄紙媒体)としての水に混合し、適当な抄紙試薬を用い、水中で叩解することにより、カーボンファイバ11及びPVA繊維12を水中に分散させた。なお、カーボンファイバ及びPVA繊維の合計100重量部に対して、水は98.0~99.9重量部とした。続いて、得られたカーボンファイバ11とPVA繊維12と水との混合物を網状部材ですいて抄紙処理し、抄紙工程(ステップS11)を実施した。
抄紙は、網状部材(ステンレス鋼(SUS316、65~80メッシュ)またはプラスチック製)の上面に、上記混合物を供給し、網状部材の下部に配置した減圧脱水装置による減圧脱水を行って、上記混合物に含まれている液体分(分散媒としての水)を固形分(カーボンファイバ11及びPVA繊維12)から分離し、固形分(カーボンファイバ11及びPVA繊維12)を網状部材の上面に堆積させるという方法で行った。
これよりカーボンファイバ11の目付(秤量)が25g/m2 のシート状(ペーパー状)の抄紙基材13を得た。なお、こうして得られた抄紙基材13は、カーボンファイバ11及びPVA繊維12のシート状の集積体である。
次に、抄紙工程(ステップS11)で得られたシート状の抄紙基材13に、第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂を含浸させる炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)を実施した。
具体的には、第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂がメタノールに分散されたフェノール樹脂分散液(希釈液)にシート状の抄紙基材13を浸漬させることにより、シート状の抄紙基材13に対して、第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂を含浸させた。第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂は、シート状の抄紙基材13への含浸後の樹脂(固形分)含浸量(付着量)が7g/m2となるように調節した。
これより、カーボンファイバ11及びPVA繊維12からなるシート状の抄紙基材13にフェノール樹脂14が付着されたガス拡散層基材前駆体15を得た。
即ち、抄紙工程(ステップS11)及び炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)からなる基材前駆体形成工程(ステップS10)の実施により、導電性繊維11としてのカーボンファイバ及びバインダ12としてのPVA繊維が共に抄紙されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂が含有された基材前駆体15を形成した。
更に、本実施例では、カレンダ成形により基材前駆体15の厚み方向の表裏面を平滑化する成形工程(ステップS20)を実施した。
続いて、導電性材料21としての炭素粉末100g及び第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてのフェノール樹脂50gを分散媒23としてのメタノール300gに混合分散して、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を作製した。そして、このペースト状の塗布液24を、基材前駆体15の厚み方向の片面に塗布するガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)の実施により、基材前駆体15の片面に、導電性材料21としての炭素粉末及び第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてのフェノール樹脂を含有したマイクロポーラス層前駆体25を形成し、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を得た。
本実施例では、基材前駆体15に対するペースト状塗布液24の塗布は、リバースコータ法により行い、基材前駆体15にペースト状塗布液24が塗布されてなるガス拡散層前駆体50において、ペースト状塗布液24に含まれた導電性材料21としての炭素粉末及び第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてのフェノール樹脂が固形分換算で25g/m2となるように塗布量を調節した。
次に、得られたガス拡散層前駆体50を2000℃に設定した加熱焼成炉内の窒素ガス雰囲気中で1時間加熱焼成を行う炭化・黒鉛化工程(ステップS40)を実施し、ガス拡散層前駆体50中の第1の炭素前駆体樹脂14Aとしてのフェノール樹脂及び第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてのフェノール樹脂を炭化させた。
続いて、撥水性樹脂31としてのPTFE樹脂のエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D-210C[固形分(樹脂分)61%])26gを500gの水で希釈して撥水性樹脂31の分散液を作製し、この撥水性樹脂31の分散液に、炭化後のガス拡散層前駆体50を浸漬させることにより、撥水性樹脂31を炭化後のガス拡散層前駆体50に含浸させる撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)を実施した。このときの撥水性樹脂31としてのPTFE樹脂(固形分)の配合量は、乾燥焼成後の樹脂(固形分)含浸量(付着量)が7g/m2となるように調節した。
なお、このPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D-210C[固形分(樹脂分)61%])には、PTFE微粒子を安定化させるための非イオン系界面活性剤(分散剤)が約6mass%/P(JIS K 6893準拠)含まれている。
そして、撥水性樹脂31としてのPTFE樹脂が含浸されたガス拡散層前駆体50を250℃で5分間(250℃×5分間)乾燥焼成する乾燥焼成工程(ステップS60)を実施した。
これより、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20からなる実施例1乃至実施例10に係るガス拡散層100を得た。
なお、実施例1乃至実施例10のガス拡散層100の製造で使用した配合材料は表1に示した通りである。
ここで、実施例1乃至実施例10については、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24に配合する導電性材料21の内容のみが相違し、その他の配合材料は全て同一に統一されている。具体的には、表1及び下記の表2に示すように、実施例1乃至実施例5については、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21にカーボンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)を使用し、実施例1乃至実施例5の相互間では、カーボンブラックの粒子径のみが相違する。また、実施例6乃至実施例10については、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21に黒鉛を使用し、実施例6乃至実施例10の相互間では、黒鉛の粒子径のみが相違する。
表2に示すように、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、実施例1では粒径が中位径30nmのカーボンブラックを使用し、実施例2では粒径が中位径50nmのカーボンブラックを使用し、実施例3では粒径が中位径100nmのカーボンブラックを使用し、実施例4では粒径が中位径20nmのカーボンブラックを使用し、実施例5では粒径が中位径200nmのカーボンブラックを使用した。
また、実施例6では粒径が中位径3μmの黒鉛を使用し、実施例7では粒径が中位径5μmの黒鉛を使用し、実施例8では粒径が中位径20μmの黒鉛を使用し、実施例9では粒径が中位径1μmの黒鉛を使用し、実施例10では粒径が中位径50μmの黒鉛を使用した。
また、比較のために、従来の製法方法で比較例1及び比較例2に係るガス拡散層100を作製した。
比較例1及び比較例2では、従来の製造工程を示した図4のフローチャートにしたがって、抄紙工程(ステップS11)及び炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)からなる基材前駆体形成工程(ステップS10)までは実施例と同様とするも、抄紙工程(ステップS11)及び炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)を経て得られた基材前駆体15に対してペースト状塗布液24を塗布することなく、成形工程(ステップS20)及び炭化・黒鉛化工程(ステップS40)を実施した。成形工程(ステップS20)及び炭化・黒鉛化工程(ステップS40)の条件は上記実施例と同様とした。即ち、カーボンファイバ11及びPVA繊維12からなるシート状の抄紙基材13にフェノール樹脂14が付着されてなる基材前駆体15をカレンダ成形し、その後、窒素雰囲気中において2000℃で加熱焼成することにより炭化させた。
続いて、後に塗布を行うマイクロポーラス層形用のペースト状混合物27の炭化後の基材前駆体15への染み込みを防止し、また、ガス拡散層基材10の撥水性を確保するための撥水性樹脂31aとしてPTFE樹脂のエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D-210C[固形分(樹脂分)61%])26gを500gの水で希釈して撥水性樹脂31aの分散液を作製し、この撥水性樹脂31aの分散液に、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて炭化された基材前駆体15を浸漬させることによって、炭化後の基材前駆体15に対して撥水性樹脂31aとしてのPTFE樹脂を含浸させる撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)を実施した。このときの撥水性樹脂31aとしてのPTFE樹脂(固形分)の配合量は、水分乾燥後の樹脂(固形分)含浸量(付着量)が3g/m2となるように調節した。
そして、撥水性樹脂31aとしてのPTFE樹脂が含浸された基材前駆体15を乾燥して基材前駆体15中の水分を蒸発させた後、撥水性樹脂31aとしてのPTFE樹脂が含浸された炭化後の基材前駆体15に対し、その厚み方向の片面に、導電性材料21としてのカーボンブラック(アセチレンブラック)(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)を60g、マイクロポーラス層20の撥水性を確保するための撥水性樹脂31bとしてPTFE樹脂のエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D-210C[固形分(樹脂分)61%])を75g、非イオン系界面活性剤(分散剤)を7g、分散媒23としてのイオン交換水を185gとを混合分散させてなる比較例1及び比較例2に係るマイクロポーラス層形用のペースト状混合物27を薄膜塗布工具(ダイヘッド)を用いて塗布するガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)を実施した。
その後、全体を乾燥焼成させる乾燥焼成工程(ステップS60)の実施により、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20からなる比較例1及び比較例2に係るガス拡散層100を作製した。
なお、比較例1及び比較例2に係るマイクロポーラス層形用ペースト状混合物27においては、公転800rpm、自転900rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK-1000W」)で3分間混合分散・脱泡することにより調製を行い、基材前駆体15への塗布後の塗膜において、導電性材料21としてのカーボン粉末及び撥水性樹脂31としてのPTFE樹脂が固形分換算で30g/m2となるように塗布量を調節した。
念のため、比較例1及び比較例2のガス拡散層100の製造で使用した配合材料を表3に示す。
ここで、比較例1と比較例2では、乾燥焼成工程(ステップS60)における加熱温度条件を変えたのみで、その他の製造条件は全て同一とした。即ち、比較例1では、乾燥焼成の温度条件を360℃に設定し、360℃×5分間の乾燥焼成を行った。一方、比較例2では、乾燥焼成の温度条件を、実施例1乃至実施例10と同様の250℃に設定し、250℃×5分間の乾燥焼成を行った。
そして、このようにして作製した実施例1乃至実施例10、比較例1及び比較例2のガス拡散層100に関し、特性の評価試験を行った。評価項目としては、分散性、塗布性、平滑性、撥水性、透気度、抵抗値を対象とした。
分散性については、実施例1乃至実施例10では、マイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24の成分の分散状態、即ち、導電性材料21としてのカーボンブラックまたは黒鉛の炭素粉末と、第2の炭素前駆体樹脂14Bとしてのフェノール樹脂と、分散媒としてのメタノールとを所定量混合分散させたときの分散状態や沈降性を目視で観察した。また、比較例1及び比較例2においては、マイクロポーラス層形用ペースト状混合物27の成分の分散状態、即ち、導電性材料21としてのカーボンブラックの炭素粉末と、撥水性樹脂31としてのPTFE樹脂と、非イオン系界面活性剤と、イオン交換水とを公転800rpm、自転900rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK-1000W」)で3分間混合分散・脱泡することで調製したときの分散状態や沈降性を目視で観察した。
実施例1乃至実施例10に係るペースト状塗布液24または比較例1及び比較例2に係るペースト状混合物27について、固液分離が生じていなかった場合を◎と評価し、十分実用に耐え得るものではあるが、固液分離が僅かに見られたものについては○と評価した。
塗布性については、実施例1乃至実施例10では、リバースコータにより基材前駆体15に塗布する際のペースト状塗布液24の流動特性や、基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布することにより基材前駆体15上に形成した塗膜(マイクロポーラス層前駆体25)の塗布ムラを目視で観察した。また、比較例1及び比較例2においては、ダイヘッドでペースト状混合物27を塗布する際のペースト状混合物27の流動特性や、塗膜(マイクロポーラス層前駆体25)の塗布ムラを目視で観察した。
塗布時の流動特性が良く、均一な膜が形成された場合を◎と評価し、膜の均一性に関しては満足できるレベルにあるが、塗布時の流動特性に劣り、塗布量にバラつきが生じやすいため、膜の均一性を維持するために生産性が低下するものについては○と評価した。
平滑性については、作製されたガス拡散層100の膜厚の均一性の評価により行った。具体的には、作製されたガス拡散層100の形状の端部と中央部の膜厚をデジタル式のダイアルゲージにて圧力0.1MPaにて測定し、測定した5点以上の各々の膜厚が、平均膜厚に対して±10%未満の場合には平滑性に優れると判断して◎◎の評価とし、平均膜厚に対して±10%を超えるも±20%以下の場合には平滑性が良好で◎の評価とし、平均膜厚に対して±20%を超え30%未満であるものについては十分実用に耐え得るレベルであると判断し○と評価とした。
撥水性については、水平面に対して垂直にガス拡散層100を立て、ガス拡散層100の厚み方向の対向する表裏の両面にそれぞれイオン交換水3gを霧吹きで5回に分けて吹き付け、水滴が転落するか否かの試験を行った。水滴がガス拡散層100の表裏の表面に残らず落下したものについては撥水性が良好であると判断して◎と評価し、水滴がガス拡散層100の表裏の表面に付着したままの状態であったものについては撥水性が不足し実用化に不向きであると判断して×と評価した。
透気度については、50Φに打ち抜いたガス拡散層100の厚み方向の片側を圧力室とし、ガス拡散層100の厚み方向の他の片側を開放室とするようにガス拡散層100を試験装置にセットし、ガス拡散層100の厚み方向の片側の圧力室において荷重1260N(面圧1.8MPa)(荷重測定器(WGA-710B):(株)共和産業)下で0.5L/min、0.7L/min、0.9L/minの窒素ガス(流量コントローラ(PAC-D2):(株)堀場エステック)を供給し、開放室との差圧(差圧計(GPG-204C11):(株)岡野製作所)を測定した。そして、差圧の傾きから算出したガス透気度(法線透気度)の平均値が、2.0[1.0×10-6m/(Pa・Sec)]以上であればガス透過性が良好であると判断して◎と評価し、1.0以上、2.0未満については、ガス透過性は満足できるレベルにあるので十分に実用に耐え得ると判断して○と評価した。
抵抗値については、ベリリウム銅からなるブロック間にガス拡散層14を挟み、1080Nの荷重(面圧1MPa)(荷重測定器(K3HB-VLC-C2BT11):オムロン(株))をかけた状態で通電(1A×1~5MPa)し、ガス拡散層14の単位面積当たりの厚み方向の電気抵抗(抵抗計(3566):鶴賀電機(株))を測定した。電気抵抗(平均値)の測定値[mΩ・cm2]が15以下であれば導電性が良好であると判断して◎と評価し、15を超え、20未満であれば、導電性は満足できるレベルにあるので十分に実用に耐え得ると判断して○と評価した。
更に、これらの評価項目に加え乾燥焼成の温度条件を加味し、分散性、塗布性、平滑性、透気度、抵抗値の全てについて◎◎または◎の評価であることに加え、乾燥焼成工程(ステップS60)における乾燥焼成時の温度が250℃で、即ち、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27の塗布後に行われる乾燥焼成時の温度条件(300~360℃)よりも低いが、撥水性が◎の評価であり高い撥水性を発現できるものについては、エネルギーコストが抑制されていることから、総合評価で◎の評価とした。また、乾燥焼成時の温度条件が250℃で撥水性が◎の評価であり、分散性、塗布性、平滑性、透気度、抵抗値の何れかが○の評価であるものについても、十分実用に耐え得るものであるから合格とされ、総合判定で○の評価となっている。一方、乾燥焼成の温度条件が250℃ではあるが撥水性について実用化に不向きな×の評価であるもの、或いは、加熱乾燥の温度条件が高い温度(360℃)で乾燥焼成時のエネルギーコストが抑制されていないものについては、総合判定で×の評価となっている。
各評価項目の評価結果は表2の右蘭に示した通りである。
表2に示されるように、従来の製造方法で製造した比較例1では、十分な撥水性が得られるも乾燥焼成の温度条件が高いことから総合評価は×である。一方、比較例2では、乾燥焼成の温度条件を実施例と同様に低い温度条件としたが、それによって、分散剤が十分に除去されず撥水性が大幅に低下し、実用に耐えない結果となっており、総合評価は×である。
比較例1及び比較例2から従来の製造方法では、ガス拡散層100において、高い撥水性を得るためには、撥水性を阻害する分散剤を十分に除去する高い温度での乾燥焼成が必要であると言える。
これに対し、実施例1乃至実施例10においては、乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)であるも、分散性、塗布性、平滑性、撥水性、透気度、抵抗値の全てについて◎◎または◎または○の評価で、総合判定で◎または○の評価である。
乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)であるも高い撥水性が得られたのは、実施例1乃至実施例10の製造方法においては、炭化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布し、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25を共に炭化しており、炭化後は、撥水性樹脂31の含浸のみが行われて乾燥焼成に供されることから、乾燥焼成されるガス拡散層前駆体50に撥水性を阻害する分散剤の成分の含有が少ないためである。これより、乾燥焼成の温度が低くても、撥水性を阻害する分散剤の成分が十分に分解されて除去されるため、高い撥水性が発現されることになる。
特に、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、粒径が中位径30nm~100nmのカーボンブラックを使用した実施例1乃至実施例3、及び、粒径が中位径3μm~20μmの黒鉛を使用した実施例6乃至実施例8では、分散性、塗布性、平滑性、撥水性、透気度、抵抗値の全てについて◎◎または◎の評価で、総合判定で◎の評価であり、ガス拡散層100に要求される撥水性、ガスや水分の透過性、導電性の特性に優れていた。また、ペースト状塗布液24に分散剤を配合せずとも分散性が良くて、固液分離がないことで保存性も良く、更に、塗工の効率も良くて、マイクロポーラス層20の平滑性にも優れていた。よって、燃料電池200に適用した際には、ガス拡散層100の特性が効果的に発現されて安定して高い出力を得ることが可能である。
また、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、カーボンブラックを使用した実施例1乃至実施例5の中で最も粒径が小さい、中位径20nmのカーボンブラックを使用した実施例4では、乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)で高い撥水性(◎)が得られ、分散性、塗布性、平滑性、抵抗値についても◎の評価であるも、透気度については○の評価であった。即ち、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21としてカーボンブラックを使用した場合、カーボンブラックの中位径が30nm未満であると、ガス拡散層100の透気度が低下することが判明した。しかし、評価が○でも透気度は満足できるレベルであるので十分に実用に耐え得るものである。
一方、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、カーボンブラックを使用した実施例1乃至実施例5の中で最も粒径が大きい、中位径200nmのカーボンブラックを使用した実施例5では、乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)で高い撥水性(◎)が得られ、透気度、抵抗値については◎の評価であるも、分散性、塗布性、平滑性については○の評価であった。即ち、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21としてカーボンブラックを使用した場合、カーボンブラックの粒径が中位径が100nmを超えると、分散性、塗布性及び平滑性が低下することが判明した。しかし、評価が○でも分散性、塗布性及び平滑性は満足できるレベルであるので十分に実用に耐え得るものである。
更に、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、黒鉛を使用した実施例6乃至実施例10の中で最も粒径が小さい、中位径1μmの黒鉛を使用した実施例9では、乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)で高い撥水性(◎)が得られ、抵抗値についても◎の評価であるも、分散性、塗布性、平滑性、透気度については○の評価であった。即ち、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として黒鉛を使用した場合、黒鉛の中位径が3μm未満であると、分散性、塗布性、平滑性及び透気度が低下することが判明した。しかし、評価が○でも分散性、塗布性、平滑性及び透気度は満足できるレベルであるので十分に実用に耐え得るものである。
また、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として、黒鉛を使用した実施例6乃至実施例10の中で最も粒径が大きい、中位径50μm粒径の黒鉛を使用した実施例10では、乾燥焼成の温度条件が従来の温度条件(300~360℃)よりも低い温度(250℃)で高い撥水性(◎)が得られ、分散性、透気度についても◎の評価であるも、塗布性、平滑性、抵抗値については○の評価であった。即ち、ペースト状塗布液24に配合する導電性材料21として黒鉛を使用した場合、黒鉛の中位径が20μmを超えると、塗布性、平滑性及び抵抗値が低下することが判明した。しかし、評価が○でも塗布性、平滑性及び抵抗値は満足できるレベルであるので十分に実用に耐え得るものである。
このように、実施例1乃至実施例5から、ペースト状塗布液24の導電性材料21としてカーボンブラックを使用した場合、粒径が小さすぎると、ガス拡散層100の透気度が低下し、一方、粒径が大きすぎると、分散性、塗布性及び平滑性が低下することが判明し、カーボンブラックの粒子径が、中位径20nm以上、200nm以下の範囲内であれば、実用的なガスや水分の透過性が確保され、また、実用的な分散性、塗布性、平滑性を確保できる。好ましくは、中位径30nm以上、100nm以下の範囲内であれば、分散性や塗布性が高いことで長期保存性や塗工時の生産効率も良い。また、マイクロポーラス層20の平滑性が高いことで、触媒層110との密着性を向上させて接触抵抗を低減できたり触媒層110との間で水分が貯留するのを防止できたりする。更に、透気度が高いことでガスや水分の透過性を向上できる。よって、燃料電池200において安定した出力の向上を図ることができる。
また、実施例6乃至実施例10から、ペースト状塗布液24の導電性材料21として黒鉛を使用した場合、粒径が小さすぎると、分散性、塗布性、平滑性及び透気度が低下し、一方、粒径が大きすぎると、塗布性、平滑性及び導電性が低下することが判明し、黒鉛の粒径が中位径1μm以上、50μm以下の範囲内であれば、実用的なガスや水分の透過性及び導電性が確保され、また、実用的な分散性、塗布性、平滑性を確保できる。好ましくは、中位径3μm以上、20μm以下の範囲内であれば、分散性や塗布性が高いことで長期保存性や塗工時の生産効率も良い。また、マイクロポーラス層20の平滑性が高いことで、触媒層110との密着性を向上させて接触抵抗を低減できたり触媒層110との間で水分が貯留するのを防止できたりする。更に、抵抗値が低いことで導電性を向上でき、また、透気度が高いことでガスや水分の透過性を向上できる。よって、燃料電池200において安定した出力の向上を図ることができる。
こうして、実施例1乃至実施例10では、乾燥焼成時の温度条件を低くしても高い撥水性が得られることが確認された。そして、乾燥焼成時の温度条件を低くできることから乾燥焼成時のエネルギーコストを削減でき、製造コストを抑えることが可能である。そして、乾燥焼成時の消費エネルギーを低減できることで、環境負荷も軽減できる。
また、従来の製造手順である比較例1及び比較例2では、炭化後の多孔質な基材前駆体15に対しマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27を塗布するものであるから、ペースト状混合物27の成分を炭化後の基材前駆体15の表面に定着させるために、ペースト状混合物27の塗布前に、撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)及び乾燥を必要とし、また、ペースト状混合物27の成分の分散性を高める分散剤の配合及び高い剪断応力による攪拌が必要とされ、製造工程、製造作業が煩雑である。
これに対し、実施例1乃至実施例10では、炭化前の基材前駆体15に対しマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布するものであるから、従来のような煩雑な製造作業を必要せず、製造工程を単純化できる。特に、ペースト状塗布液24には、第2の炭素前駆体樹脂14Bであるフェノール樹脂が配合されることから、分散剤の配合や高い剪断応力による攪拌を行わなくとも導電性材料21である炭素粒子の分散性が高く、良好な塗布性及び表面の平滑性が得られる。
このように実施例1乃至実施例10は、製造工程を単純化でき、乾燥焼成の負荷を低減しても高い撥水性が得られ、製造コストの低減化が可能なガス拡散層及びその製造方法である。
以上説明してきたように、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法は、ガス拡散層基材10及びその厚み方向の片面に配設されるマイクロポーラス層20からなる燃料電池用ガス拡散層100の製造方法であって、導電性繊維11及びバインダ12が抄紙によって集積されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aが含有されたガス拡散層基材前駆体15を形成する基材前駆体形成工程(ステップS10)と、基材前駆体形成工程(ステップS10)で形成された基材前駆体15に対して、マイクロポーラス層20形成用の導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを含有するペースト状塗布液24を塗布して、ガス拡散層前駆体50を形成するガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)と、ガス拡散層前駆体50を、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成し、第1の炭素前駆体樹脂14A及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを炭化・黒鉛化させる炭化・黒鉛化工程(ステップS40)と、炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50に撥水性樹脂31を含浸させる撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)と、撥水性樹脂31が含浸されたガス拡散層前駆体50を乾燥焼成させる乾燥焼成工程(ステップS60)とを具備するものである。
このように、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100及びその製造方法によれば、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15に対してマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状塗布液24を塗布して基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を形成し、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化する。そして、ガス拡散層前駆体50の炭化・黒鉛化後は、撥水性樹脂31が含浸されるのみであるから、撥水処理後に乾燥焼成させるガス拡散層前駆体50には、撥水性を阻害する分散剤の含有が少ない。特に、炭化・黒鉛化の前の基材前駆体15に対してマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状塗布液24を塗布し、その塗布後炭化・黒鉛化工程(ステップS40)を実施することから、導電性材料21を含有するペースト状塗布液24に分散剤を含有させた場合でも、その時の分散剤は、高温加熱処理を行う炭化・黒鉛化工程(ステップS40)で消失する。したがって、撥水処理後の乾燥焼成工程(ステップS60)において、従来のようにマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27に含まれていた導電性材料を分散させるための非イオン系界面活性剤等の分散剤を除去する必要がない。よって、従来よりも低い温度での乾燥焼成により、ガス拡散層前駆体50中の分散剤が十分に除去されて残存することなく、高い撥水性を確保できる。また、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
そして、従来は、高温処理してなる多孔質の基材にマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27を塗布するものであるから、多孔質の基材にペースト状混合物27が染み込む(浸透する)のを防止し、多孔質の基材の表面にペースト状混合物27の成分を定着させるために、多孔質の基材に撥水性樹脂31aを含浸させ、水分を乾燥させてから、ペースト状混合物27を塗布する必要があったり、また、ペースト状混合物27に増粘剤を混合して粘度を上昇させる必要があったりし、製造工程、製造作業が煩雑であった。
これに対し、本実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法では、第1の炭素前駆体樹脂14Aの含浸によって第1の炭素前駆体樹脂14Aが付着された炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にマイクロポーラス層20形成用のペースト状塗布液24を塗布するものであり、かかる基材前駆体15では空隙も少なく、また、第1の炭素前駆体樹脂14Aが保持(充填)されている。よって、ペースト状塗布液24の塗布前に撥水処理や乾燥処理を行わなくとも、また、ペースト状塗布液24の粘性調節等を行わなくとも、基材前駆体15へのペースト状塗布液24の塗布によって基材前駆体15の表面にペースト状塗布液24の成分を定着させることができる。よって、製造工程、製造作業性を単純化できる。
なお、従来の製造方法では、例えば、マイクロポーラス層20で造孔剤の消失による気孔の形成を行う場合でも、造孔剤を加熱消失させるための加熱工程を別途設けたり、乾燥焼成工程における加熱焼成の温度を上昇させる必要があったりしエネルギーコストの増大を余儀なくされるものであった。即ち、従来の製造方法では、炭化・黒鉛化され多孔質とされた基材にペースト状混合物27を塗布した後に、高温焼成の工程を設けることが必要である。しかし、本発明の製造方法においては、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布し、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層20も高温焼成されるから、製造工程を単純化でき、エネルギーコストを節約できる。
このように、乾燥焼成にかかる時間の短縮や温度を低減でき、また、製造の作業性や製造工程を単純化できるから、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能である。
加えて、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25が高温焼成され、基材前駆体15中の第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化されることにより、この第1の炭素前駆体樹脂14Aが炭化されてなる樹脂炭化物によって、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25の境界部では基材前駆体15の導電性繊維11及びマイクロポーラス層前駆体25の導電性材料21が結着されるから、加熱乾燥の負荷の低減により撥水性樹脂31による結着成分量が低下しても、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25の結び付きが強い。よって、ガス拡散層基材10からマイクロポーラス層20が剥離し難く、マイクロポーラス層20及びガス拡散層基材10の一体の接合強度が高いものとなる。また、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25の境界部において基材前駆体15の導電性繊維11及びマイクロポーラス層前駆体25の導電性材料21が結着されることで、マイクロポーラス層20及びガス拡散層基材10の間の接触抵抗も小さいものとなり、ガス拡散層100全体の導電性を向上できる。加えて、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15にペースト状塗布液24を塗布するものでは、基材前駆体15の表層部分にペースト状塗布液24の成分を適度に定着できることでも、マイクロポーラス層20及びガス拡散層基材10の接合性をより高くできる。
更に、このように基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25が高温焼成されることから、マイクロポーラス層20の不純物が少なく、耐食性に優れる。これより、金属イオンによる電解質膜120の性能の低下を防止できる。
こうして、製造工程を単純化でき、加熱乾燥の負荷を低減しても高い撥水性が得られ、また、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能なガス拡散層100の製造方法となる。
特に、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法において、撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)において、撥水性樹脂31としてのPEFE樹脂のエマルジョンを炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50に含浸させたとき、乾燥焼成工程(ステップS60)においてガス拡散層前駆体50を乾燥焼成させる温度が、200~250℃の範囲内であれば、撥水性を十分に発現できる。したがって、乾燥焼成にかかる電力が効果的に低減されて製造コストが効果的に抑えられ、また、二酸化炭素の排出量が少なく環境負荷が軽減される。
更に、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法によれば、基材前駆体形成工程(ステップS10)は、導電性繊維11を抄紙して抄紙基材13を形成する抄紙工程(ステップS11)と、抄紙基材13に対し第1の炭素前駆体樹脂14Aを含浸させる炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)とからなることから、導電性繊維11の抄紙体に第1の炭素前駆体樹脂14Aを所望の分布で付着させるのが容易であり、ガス拡散層基材10を所望の特性に制御することが容易である。
しかし、本発明を実施する場合には、導電性繊維11と第1の炭素前駆体樹脂14Aを共に抄紙することにより、導電性繊維11が抄紙されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aが含有された基材前駆体15を形成してもよい。そして、上記実施の形態1では、導電性繊維11をバインダ12と共に抄紙してなる抄紙基材13に第1の炭素前駆体樹脂14を含浸させることによりガス拡散層基材10を形成しているが、本発明を実施する場合には、導電性繊維11及び第1の炭素樹脂前駆体14A及びバインダ12を一緒に抄紙することによりガス拡散層基材10を形成してもよい。
更にまた、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法によれば、基材前駆体形成工程(ステップS10)における抄紙工程(ステップS11)では、導電性繊維11と、導電性繊維11を結び付けるバインダ12とを共に抄紙して抄紙基材13を形成したことから、即ち、導電性繊維11を抄紙により集積する際に、導電性繊維11を結び付けるバインダ12と共に導電性繊維11が抄紙により集積されたことから、抄紙時の導電性繊維11の捕獲性や抄紙収率を高めて抄紙化を容易にでき、また、導電性繊維11の分散性を高めて再収束を防止し、導電性繊維11の絡み合い性、補強性を向上できる。更に、抄紙後の導電性繊維11の脱落、剥離を防止して形状保持性を高め、取扱性を向上できる。特に、バインダ12が炭化・黒鉛化工程(ステップS40)における加熱により消失され(焼失)、その消失跡がガス拡散層基材10のガスや水分の流路となる空孔(細孔、気孔)を形成するポリビニルアルコールやパルプ等であれば、バインダの添加量等によりガス拡散層基材10の透気度の制御が容易である。また、バインダ12の消失により所定の大きさの空孔が適度に確保されることで、透過性の向上やクラック発生の抑制等にも有利である。
加えて、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法によれば、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)で基材前駆体15に塗布するペースト状塗布液24は、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)における焼成で炭化・黒鉛化され樹脂炭化物となる第2の炭素前駆体樹脂14Bを含有することから、得られるマイクロポーラス層20では、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されて導電パスが形成される。よって、マイクロポーラス層20の導電性及び層強度を向上させることができる。また、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物によりガス拡散層基材10の導電性繊維11に対しても、導電性材料21が結着されて導電パスが形成されることで、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20との間の接触抵抗も小さく、ガス拡散層10全体の導電性を高めることができ、マイクロポーラス層20のガス拡散層基材10への定着力が向上する。
そして、このようにペースト状塗布液24にフェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bが含有されることで、別途分散剤を配合しなくとも、また、高い剪断応力をかけなくとも、導電性材料21の分散性が高く、塗布性やマイクロポーラス層20の平滑性も高いものとなる。よって、マイクロポーラス層20の表面が均一になりやすく、触媒層110との接触抵抗を低減でき、また、触媒層110との間で水分が貯留されるのを防止でき、燃料電池200の高出力化を可能とする。また、ペースト状塗布液24にフェノール樹脂等の第2の炭素前駆体樹脂14Bが含有されることで、ペースト状塗布液24が適度な粘性となり、基材前駆体15への染み込み(浸透)が防止される。
また、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法によれば、更に、基材前駆体形成工程(ステップ10)とガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)との間に、基材前駆体50の表面を平滑に成形する成形工程(ステップS20)とを具備するものであるから、ガス拡散層100の表面の平滑性を向上さることができる。よって、触媒層110との密着性を向上させて接触抵抗を低減できたり触媒層110との間で水分が貯留するのを防止できたりする。また、電解質膜120への導電性繊維11の突き刺さりを防止できる。したがって、燃料電池200において安定した出力の向上を図ることができる。
そして、導電性繊維11が集積されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂14Aが含有された基材前駆体15に対し、導電性材料21及び第2の炭素前駆体樹脂14Bを含有するペースト状塗布液24を塗布してから、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成し、更に、撥水性樹脂31を含浸させた後、乾燥焼成を行うことにより得られるガス拡散層100によれば、マイクロポーラス層20は、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されている。
したがって、上記実施の形態1は、ガス拡散層基材10及びガス拡散層基材10の厚み方向の片面に配設されるマイクロポーラス層20からなる燃料電池用ガス拡散層100であって、マイクロポーラス層20は、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されているガス拡散層100の発明と捉えることもできる。
かかるガス拡散層100によれば、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されて導電パスが形成される。よって、マイクロポーラス層20の導電性及び層強度を向上させることができる。また、第2の炭素前駆体樹脂14Bが炭化されてなる樹脂炭化物によりガス拡散層基材10の導電性繊維11に対しても、導電性材料21が結着されて導電パスが形成されることで、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20との間の接触抵抗も小さく、ガス拡散層10全体の導電性を高めることができ、マイクロポーラス層20のガス拡散層基材10への定着力が向上する。
[実施の形態2]
次に、本実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層100(カソード側ガス拡散層100K,アノード側ガス拡散層100A)について、その製造方法を図3を参照して説明する。
本実施の形態2においては、図3のフローチャートに示されるように、抄紙工程(ステップS11)から炭化・黒鉛化工程(ステップ14)までの間の工程が上記実施の形態1と相違しており、最初の抄紙工程(ステップS11)及び炭化・黒鉛化工程(ステップ14)以降は同じであるから、特に、上記実施の形態1と相違する点のみを説明する。
上記実施の形態1では、導電性繊維11及びバインダ12が抄紙によって集積されてなる抄紙基材13に対して、炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS12)にて炭素前駆体樹脂14Aを含浸させて基材前駆体15を形成してから、この基材前駆体15に対し、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS30)にて炭素前駆体樹脂14B及びマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状塗布液24を塗布することにより、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を形成している。
これに対し、本実施の形態2では、導電性繊維11及びバインダ12が抄紙によって集積されてなる抄紙基材13に対して、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS31)にて抄紙基材13に含浸させる炭素前駆体樹脂14とマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状混合液26を添加することで、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を形成して、製造工程数の削減を図っている。
即ち、本実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法では、図3のフローチャートに示されるように、最初に、抄紙工程(ステップS11)にて、ガス拡散層基材10を形成する導電性繊維11と、導電性繊維11を結び付けるバインダ12とを一緒に抄紙して抄紙基材13を形成した後、続くガス拡散層前駆体形成工程(ステップS31)において、抄紙基材13に対して、炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21を含有するペースト状の混合液26を塗布、または、抄紙基材13をペースト状の混合液26に浸漬する。
ここで、本実施の形態2の混合液26は、炭素前駆体樹脂14と、導電性材料21と、分散媒23とを含有するペースト状の混合液である。
炭素前駆体樹脂14としては、上記実施の形態1の炭素前駆体樹脂14A,14Bと同様、後の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)での非酸化性雰囲気下における高熱処理により炭素化・黒鉛化(以下、区別することなく単に『炭化』ともいう)されて導電性の炭化物となる樹脂(炭素源となる樹脂)であって、かつ、炭化後に導電性繊維11や導電性材料21を結着する結着成分として機能するものであればよく、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ピッチ等の熱硬化性樹脂等が用いられる。
また、導電性材料21についても、上記実施の形態1ときと同様にマイクロポーラス層20を形成するものとして、例えば、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、気相成長炭素、活性炭の炭素粉末(炭素粒子)が使用される。
そして、これら導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を分散させる分散媒23としても、上記実施の形態1のときと同様、アルコール類、ケトン類(アセトン等)、トルエン、水等の分散媒23が用いられる。
導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を分散媒23に分散される混合分散処理は、例えば、一般的なディスパー、プラネタリー等のミキサーや、ビーズミル等を使用した攪拌によって行われる。特に、フェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14を配合していることで、高い剪断応力をかけなくとも、また、分散剤を使用しなくても、導電性材料21を高分散させることが可能である。そして、高い剪断応力をかけなくとも高分散されることから、導電性材料21がカーボン粒子であれば、そのカーボン粒子の三次元構造が維持されやすく、得られるマイクロポーラス層20の強度の向上を図ることができる。
しかし、本発明を実施する場合には、分散剤を使用して導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を分散させてもよい。分散剤の使用によりペースト状混合液26の成分の分散性を高めると、例えば、ガス拡散層前駆体50を形成するために抄紙基材13にペースト状混合液26を塗布する形態としても、その塗布時において塗布装置の配管やポンプ等に目詰まりを生じさせたり、濃度変化による塗布ムラを生じさせたりすることもない。
特に、本実施の形態2も、ガス拡散層前駆体形成工程(ステップS31)の後に、炭化・黒鉛化の焼成を行うものであり、ペースト状混合液26に用いた分散剤は、次の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)における高熱処理の温度で除去できれよいから、分解温度が低い分散剤の選択に限定されず、分散剤の選択自由度が高くなる。このときの分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX-100等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等の非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系界面活性剤といった界面活性剤や、ポリエチレンオキサイド系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリエチレングリコール系(例えば、アルキルフェノールとポリエチレングリコールのエーテル類、高級脂肪族アルコールとポリエチレングリコールのエーテル類等)、ポリビニルアルコール系等の増粘剤が使用できる。
そして、このように炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21を分散媒23に分散してなるペースト状混合液26を抄紙基材13の厚み方向の片面に塗布することにより、或いは、抄紙基材13の片面をペースト状混合液26に浸漬させることにより、ガス拡散層100の前駆体50(以下、『ガス拡散層前駆体50』という)を形成する。
なお、抄紙基材13にペースト状混合液26を塗布する方法としては、刷毛塗り、筆塗り、ロールコータ法、リバースロールコータ法、バーコータ法、ダイコータ法、ブレード法、ナイフコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、カーテンコーティング法、ディップコータ法、スプレーコータ法、グラビアコータ法、アプリケータ、スプレー噴霧等が挙げられる。特に、(リバースロール)コータ等による塗布では、抄紙基材13にペースト状混合液26が塗布されてなるガス拡散層前駆体50の表面平滑性を向上でき、好適であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。そして、フェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14を配合していることで、別途、上述の分散剤を使用しなくても、導電性材料21を高分散させることが可能であるから、塗布時において塗布装置の配管やポンプ等に目詰まりが生じ難く、濃度変化による塗布ムラも生じ難い。
ここで、炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21を含有するペースト状混合液26を抄紙基材13の片面に塗布すると、或いは、ペースト状混合液26に抄紙基材13の片面を浸漬させると、抄紙された炭素繊維等の導電性繊維11及びバインダ12の集積体からなる抄紙基材13に対し、ペースト状混合液26中の炭素前駆体樹脂14が浸透すると共に、炭化・黒鉛化前であるから抄紙基材13の空隙が少ないことで、炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21が抄紙基材13の片面側に付着する。これより、導電性繊維11及びバインダ12の集積体からなる抄紙基材13に炭素前駆体樹脂14が付着されて基材前駆体15が形成され、また、その厚み方向の片面に炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21からなるマイクロポーラス層20の前駆体25(以下、『マイクロポーラス層前駆体25』という)が形成される。即ち、導電性繊維11、バインダ12及び炭素前駆体樹脂14からなる基材前駆体15と、炭素前駆体樹脂14及び導電性材料21からなるマイクロポーラス層前駆体25とから構成されるガス拡散層前駆体50が形成される。
こうして、本実施の形態2では、抄紙工程(ステップS11)に続くガス拡散層前駆体形成工程(ステップS31)にて、抄紙基材13に対して、マイクロポーラス層20形成用の導電性材料21、炭素前駆体樹脂14及び分散媒23を主組成としたペースト状の混合液26を塗布することにより、または、ペースト状の混合液26に抄紙基材13を浸漬させることにより、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を得る。
なお、本実施の形態2でも、ペースト状混合液26において、炭素前駆体樹脂14が含有されることで、適度な粘性、粘稠性を有し、別途、分散剤や増粘剤を配合しなくとも、導電性材料21が高分散され、塗布性が確保されている。しかし、本発明を実施する場合には、上述したように、必要に応じて、ペースト状混合液26において、導電性材料21等の分散性を高めるための界面活性剤等や、粘性を増大させるための増粘剤等を配合することも可能である。そして、これら界面活性剤や増粘剤がペースト状混合液26に配合されても、後の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)での高温加熱処理により界面活性剤や増粘剤は熱分解して除去されるため、その後の乾燥焼成工程(ステップS60)での乾燥焼成処理の負担を増大させることはない。
次に、本実施の形態2では、このようにして形成された基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50に対し、成形工程(ステップS20)にて、カレンダ成形、プレス成形(加圧成形)等により、ガス拡散層前駆体50の表面を平滑にする成形を行う。
これにより、ガス拡散層前駆体50の厚み方向の表裏両面の凹凸が低減されて表面が平滑化され、燃料電池200に組み込む際に触媒層110やセパレータ140といった周辺層との接触性を高めて接触抵抗を低減することが可能となる。加えて、ガス拡散層前駆体50の表面に繊維ほつれ等の突起物が存在していても、プレス等により抑制することができる。また、プレスにより、導電性繊維11の配向性を調整したり、ガス拡散層前駆体50の緻密性を調整したりして、ガス拡散層100の導電性、強度、水分やガスの透過性といった特性の調節を可能とする。即ち、このときの成形圧力は、ガス拡散層100の所望とする特性(導電性、強度、水分やガスの透過性等)を考慮して設定され、例えば、0.01~10MPaの範囲内とされる。
なお、このときの成形工程(ステップS20)で、例えば、50~200℃の加熱を行う成形により、ガス拡散層前駆体50の水分が除去され乾燥される。更に、成形時の加熱によって炭素前駆体樹脂14を硬化させてもよい。これにより、次の炭化・黒鉛化工程(ステップ40)において炭素前駆体樹脂14の炭化時の気化を抑制して定着を図ることができるから、導電性繊維11や導電性材料21との接触性を高め、更に、ガス拡散前駆体50の変形を防止し、ガス拡散層100の強度や周囲層との接合性を高めることが可能となる。
そして、このようにして成形されたのちは、上記実施の形態1のときと同様、ガス拡散層前駆体50に対して、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて、非酸化性雰囲気下で高温の加熱焼成が行われ、更に、撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)にて、撥水性樹脂31が含浸され、その後、乾燥焼成工程(ステップS60)にて、乾燥焼成が行れることにより、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20からなるガス拡散層100が得られる。
本実施の形態2の炭化・黒鉛化工程(ステップS40)においても、不活性処理(不活性ガス)等の非酸化性雰囲気下にて、通常、1000~3500℃、好ましくは1200~3000℃の温度範囲で、10分間~1時間の加熱焼成処理を行うことにより、基材前駆体15中の炭素前駆体樹脂14及びマイクロポーラス層前駆体25中の炭素前駆体樹脂14を炭化・黒鉛化させる。
本実施の形態2でも、このような非酸化性雰囲気下での高温の焼成処理により、フェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14が炭化・黒鉛化される。そして、この炭化・黒鉛化された樹脂、即ち、樹脂炭化物によって導電性繊維11や導電性材料21が結着され強固な導電パスを形成し、得られるガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の導電性や強度が高められる。
即ち、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において、ガス拡散層前駆体50が非酸化性雰囲気下で高温加熱処理されることにより、基材前駆体15中のフェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂が炭化・黒鉛化され、その炭素前駆体樹脂14が炭化・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性繊維11が結着される。また、マイクロポーラス層前駆体25中のフェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14も炭化・黒鉛化され、その炭素前駆体樹脂14が炭化・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性材料12が結着される。更に、基材前駆体15とマイクロポーラス層前駆体25の境界において、フェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14が炭化された樹脂炭化物によって、導電性繊維11及び導電性材料21が結着される。これより、得られるガス拡散層100においてガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の定着が高くなる。即ち、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の結び付きが強く、燃料電池200への組み付け時等でもガス拡散層基材10からマイクロポーラス層20が剥離し難いものとなる。また、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20の間の接触抵抗が小さいものとなる。
こうして、本実施の形態2でも、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)において、ガス拡散層基材50を非酸化性雰囲気中で高熱処理することにより、フェノール樹脂等の炭素前駆体樹脂14を含有する基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体20の炭素前駆体樹脂14が炭化される。そして、それらの樹脂炭化物によって、導電性繊維11や導電性材料21が結着される。また、基材前駆体15が多孔質となり、マイクロポーラス層20にも基材前駆体15の空隙(細孔)よりも小さい微細孔が形成される。更に、炭化・黒鉛化前の基材前駆体15中に、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、パルプ等のバインダ12が配されている場合には、かかるバインダ12が分解されて消失し、その消失跡が空隙(気孔)となる。炭素前駆体樹脂14の一部が消失されることでも、その消失跡が空隙となる。更に、上述したように、ペースト状の混合液26に界面活性剤や増粘剤等の分散剤が配されいた場合でも、この炭化・黒鉛化工程(ステップS40)の高温加熱処理により、分散剤は除去される。よって、後の乾燥焼成工程(ステップS60)で分散剤除去の負担がかかることはない。
本実施の形態2においても、こうして非酸化性雰囲気下で高温加熱焼成されたガス拡散層前駆体50に対して、撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)にて、撥水性樹脂31を含浸させたのち、乾燥焼成工程(ステップS60)にて、乾燥焼成が行われるが、上記実施の形態1のときと同様、このときの乾燥焼成させるガス拡散層前駆体50に存在する分散剤の量は少ないため、従来と比較して短時間及び低温度でも十分に水分及び分散剤除去できる。つまり、本実施の形態2においても、乾燥焼成工程(ステップS60)では、撥水性樹脂31を分散させるため使用した分散剤及び水分を除去するのみであるから、水分及び分散剤を分解・揮発して消失させるのに必要な乾燥焼成、換言すると、撥水性樹脂31による撥水性を発現するために必要な乾燥焼成は低い温度処理で済む。また、水分及び分散剤を分解・揮発して消失させ、撥水性を発現させるための乾燥焼成にかかる時間の短縮も可能である。これより、乾燥焼成炉の炉長を短くでき、更に、撥水性の発現のために所定の温度に上昇させる時間を短くできるから、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。よって、乾燥焼成にかかる負荷を軽減でき、乾燥焼成工程(ステップS60)での乾燥焼成処理にかかる電力を抑えて、製造コストを下げることができる。
このようにして製造される本実施の形態2に係るガス拡散層100も、ガス拡散層基材10及びガス拡散層基材10の厚み方向の片面に形成されたマイクロポーラス層20からなる重層構造を有する。
そして、本実施の形態2に係るガス拡散層基材10においても、所定の空孔が形成されて多孔質であることにより水分やガスの透過性が確保されている。また。非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で炭素前駆体樹脂14が炭素・黒鉛化されたことにより、炭素前駆体樹脂14が炭素・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性繊維11が結着されている。このように導電性繊維11が樹脂炭化物に結着されていることで導電パスが形成され高い導電性及び強度を有する。
また、本実施の形態2に係るマイクロポーラス層20においても、ガス拡散層基材10の空隙(細孔)よりも小さな微細孔が形成されて多孔質であり水分やガスの透過性が確保されている。特に、炭化・黒鉛化前の抄紙基材13にマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を含有するペースト状混合液26を添加して、基材前駆体15と共に、基材前駆体15上に形成されたマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の加熱条件で焼成したことにより、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で炭素前駆体樹脂14が炭素・黒鉛化され、炭素前駆体樹脂14が炭素・黒鉛化されてなる樹脂炭化物によって導電性材料21が結着されている。このように導電性材料21が樹脂炭化物に結着されていることで導電パスが形成され高い導電性及び層強度を有し強固である。
更に、本実施の形態2でも、炭化・黒鉛化前の抄紙基材13にマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を含有するペースト状混合液26を添加して、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化工程(ステップS40)にて所定の加熱条件で焼成することから、基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25の境界部において、基材前駆体15中の導電性繊維11とマイクロポーラス層前駆体25中の導電性材料12が、炭素前駆体樹脂14が炭化されてなる樹脂炭化物によって結着されることで、ガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の一体の接合強度が高く、ガス拡散層基材10へのマイクロポーラス層20の定着力が高い。また、炭素前駆体樹脂14が炭化されてなる樹脂炭化物による導電パスの形成によりガス拡散層基材10及びマイクロポーラス層20の間の接触抵抗も少なく集電に有利となる。
特に、本実施の形態2では、炭化・黒鉛化前の抄紙基材13に対して、導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14を含有するペースト状混合液26を添加することにより、抄紙基材13が炭化・黒鉛化前であるから空隙が小さいことで、抄紙基材13に対して炭素前駆体樹脂14を付着させて基材前駆体15を形成すると共に、抄紙基材13の片面側に導電性材料21及び炭素前駆体樹脂14からなるマイクロポーラス層前駆体25を形成する。つまり、抄紙基材13に対して炭素前駆体樹脂14を含浸させるのと同時にマイクロポーラス層20を形成するための導電性材料21を添加していることで、製造工程数を削減し、製造工程の短縮化を行っている。よって、製造の作業性や製造工程の単純化により製造コストを下げることが可能である。
このように、本実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法は、ガス拡散層基材10及びその厚み方向の片面に配設されるマイクロポーラス層20からなる燃料電池用ガス拡散層100の製造方法であって、導電性繊維11及びバインダ12が抄紙によって集積されてなる抄紙基材13を形成する抄紙工程(ステップS11)と、抄紙基材13に対して、炭素前駆体樹脂14及びマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状混合液26を添加して、ガス拡散層前駆体50を形成するガス拡散層前駆体形成工程(ステップS31)と、ガス拡散層前駆体50を、非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成し、炭素前駆体樹脂14を炭化・黒鉛化させる炭化・黒鉛化工程(ステップS40)と、炭化・黒鉛化後のガス拡散層前駆体50に撥水性樹脂31を含浸させる撥水性樹脂含浸工程(ステップS50)と、撥水性樹脂31が含浸されたガス拡散層前駆体50を乾燥焼成させる乾燥焼成工程(ステップS60)とを具備するものである。
上記実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層100及びその製造方法によれば、炭化・黒鉛化前の抄紙基材13に対して、炭素前駆体樹脂14及びマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状混合液26を添加して基材前駆体15及びマイクロポーラス層前駆体25からなるガス拡散層前駆体50を形成し、基材前駆体15と共にマイクロポーラス層前駆体25を炭化・黒鉛化する。そして、ガス拡散層前駆体50の炭化・黒鉛化後は、撥水性樹脂31が含浸されるのみであるから、撥水処理後に乾燥焼成させるガス拡散層前駆体50には、撥水性を阻害する分散剤の含有が少ない。特に、炭化・黒鉛化の前の抄紙基材13に対して炭素前駆体樹脂14及びマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を含有するペースト状混合液26を塗布し、その塗布後に炭化・黒鉛化工程(ステップS40)を実施することから、ペースト状混合液26に分散剤を含有させた場合でも、その時の分散剤は、高温加熱処理を行う炭化・黒鉛化工程(ステップS40)で消失する。したがって、撥水処理後の乾燥焼成工程(ステップS60)において、従来のようにマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27に含まれていた導電性材料を分散させるための非イオン系界面活性剤等の分散剤を除去する必要がない。よって、従来よりも低い温度での乾燥焼成により、ガス拡散層前駆体50中の分散剤が十分に除去されて残存することなく、高い撥水性を確保できる。また、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
そして、従来は、高温処理してなる多孔質の基材にマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物27を塗布するものであるから、多孔質の基材にペースト状混合物27が染み込む(浸透する)のを防止し、多孔質の基材の表面にペースト状混合物27の成分を定着させるために、多孔質の基材に撥水性樹脂31aを含浸させ、水分を乾燥させてから、ペースト状混合物27を塗布する必要があったり、また、ペースト状混合物27に増粘剤を混合して粘度を上昇させる必要があったりし、製造工程、製造作業が煩雑であった。
これに対し、本実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層100の製造方法では、炭化・黒鉛化前の抄紙基材13に対して、ペースト状混合液26を塗布するものであり、抄紙基材13へのペースト状混合液26の添加によって抄紙基材13に炭素前駆体樹脂14を含浸できると共に、基材前駆体15の表面に炭素前駆体樹脂14及びマイクロポーラス層20形成用の導電性材料21を定着させることができる。よって、製造工程、製造作業性を単純化できる。
このように、本実施の形態2に係る燃料電池用ガス拡散層100及びその製造方法によれば、乾燥焼成にかかる時間の短縮や温度を低減でき、また、製造の作業性や製造工程を単純化できるから、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能である。
そして、上記実施の形態2の説明は、ガス拡散層基材10及びガス拡散層基材10の厚み方向の片面に配設されるマイクロポーラス層20からなる燃料電池用ガス拡散層100であって、マイクロポーラス層20が、炭素前駆体樹脂14が炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されてなるガス拡散層100の発明と捉えることもできる。
かかるガス拡散層100によれば、炭素前駆体樹脂14が炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料21が結着されて導電パスが形成される。よって、マイクロポーラス層20の導電性及び層強度を向上させることができる。また、炭素前駆体樹脂14が炭化されてなる樹脂炭化物によりガス拡散層基材10の導電性繊維11に対しても、導電性材料21が結着されて導電パスが形成されることで、ガス拡散層基材10とマイクロポーラス層20との間の接触抵抗も小さく、ガス拡散層10全体の導電性を高めることができ、マイクロポーラス層20のガス拡散層基材10への定着力が向上する。
ところで、上記実施の形態1,2のガス拡散層100のガス拡散層基材10は、導電性繊維11を抄紙してなるペーパー状のものであるから、クロス状やフェルト状(不織布)に比べて、薄くても面方向や厚さ方向の寸法安定性が高く、成形加工性に優れており、また、曲げ剛性が高いために膜/電極接合体150をスタック化する際のハンドリング性に優れている。更に、導電性繊維11を抄紙するペーパ状のものでは、高い透気度を得ることができ、孔径も小さくできるため低湿度条件のみならず高湿度条件での使用にも適している。また、凹凸を少なくできるため、触媒層110との密着性を高めることが可能である。更に、薄くできて成形しやすいため、スタックサイズの小型化が容易である。加えて、ガス拡散層100を所定寸法にカットする工程時のカット後の寸法安定性も良好で、ロボットによる搬送工程における易チャック性・易移動性に優れるため、燃料電池200の大量生産化に有利である。また、シート状のものでは、燃料電池200の電極130の厚みの薄肉化にも対応できる。
上記実施の形態1,2では、ガス拡散層基材10が導電性繊維11を抄紙により集積してなるペーパー状のものとして説明したが、本発明を実施する場合には、ガス拡散層基材10をクロス状、フェルト状(不織布)、マット状のタイプとしてもよい。
なお、ガス拡散層100の厚みは、例えば、ガス拡散層基材10の厚みが1μm~400μm、好ましくは50μm~300μmとされ、マイクロポーラス層20は、ガス拡散層基材10の厚みの50%以下とされる。
そして、マイクロポーラス層20の配設は、ガス拡散層基材10の表裏面の一方でなく、両面であってもよい。
また、上記実施の形態1,2では、導電性繊維11と共に抄紙したPVA繊維等のバインダ12を、炭化・黒鉛化工程(ステップS40)で消失させているが、本発明を実施する場合には、炭素前駆体樹脂含浸工程(ステップS40)の前にPVA繊維等のバインダ12を消失させる加熱工程を設けてもよい。
更に、本発明を実施する場合には、炭化・黒鉛化前にガス拡散層前駆体50中の水分(分散媒を含む)を除去する乾燥を行ってもよいし、必要に応じて炭素前駆体樹脂14,14A,14Bを硬化させてもよい。
なお、本発明を実施するに際しては、燃料電池用ガス拡散層100のその他の部分の構成、組成、成分、配合量、材質、その他の製造工程について、上記実施の形態1,2に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態1,2及び実施例で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、基材前駆体形成工程にて、導電性繊維が集積されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂が含有されたガス拡散層基材の前駆体を形成し、続いて、ガス拡散層前駆体形成工程にて、前記基材前駆体形成工程で形成された前記基材前駆体に対して、マイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有する塗布液を塗布して、前記ガス拡散層の前駆体を形成し、続く炭化・黒鉛化工程にて、前記ガス拡散層前駆体形成工程で形成された前記ガス拡散層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成して前記第1の炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させ、更に、撥水性樹脂含浸工程にて、前記炭化・黒鉛化後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を含浸させ、そして、乾燥焼成工程にて、前記撥水性樹脂が含浸された前記ガス拡散層前駆体を乾燥焼成するものである。
上記基材前駆体形成工程は、集積された導電性繊維に第1の炭素前駆体樹脂が付着されたガス拡散層基材前駆体を形成する工程であり、導電性繊維及び第1の炭素前駆体樹脂を一緒に抄紙等により集積してガス拡散層基材前駆体を形成してもよいし、集積された導電性繊維に第1の炭素前駆体樹脂を含浸させることによりガス拡散層基材を形成してもよい。導電性繊維の集積は、抄紙によるものであってもよいし、織物化によるものであってもよいし、ニードルパンチング(フェルト化)によるものであってもよい。また、ガス拡散層基材前駆体を形成する際には、バインダが加えられることもある。このバインダは、導電性繊維を結び付ける機能を有し、好ましくは、後の炭化・黒鉛化工程の加熱焼成により消失され(焼失)、その消失跡がガス拡散層基材のガスや水分の流路となる空孔(細孔、気孔)を形成するものであり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、パルプ等が使用される。
上記ガス拡散層基材前駆体を形成する導電性繊維としては、例えば、カーボンブラックや黒鉛等の炭素繊維等が使用され、また、第1の炭素前駆体樹脂としては、後の炭化・黒鉛化工程における非酸化性雰囲気下での加熱焼成により炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物となり、かつ、それが導電性繊維を結着する機能を有するものとして、例えば、残炭率が高いフェノール樹脂等が使用される。
上記ガス拡散層前駆体形成工程は、前記基材前駆体の厚み方向の片面または両面に対して、マイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状の塗布液を塗布することによって、前記基材前駆体の厚み方向の片面または両面にマイクロポーラス層前駆体を形成し、それら前記基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体からなるガス拡散層前駆体を得る工程である。
上記塗布液に含まれる導電性材料としては、カーボンブラックや黒鉛等の炭素粒子等が使用される。
上記炭化・黒鉛化工程は、前記ガス拡散層前駆体を非酸性雰囲気下で1000~3500℃の温度で加熱焼成することによって、前記ガス拡散層前駆体における前記基材前駆体中の前記第1の炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる工程である。
上記炭化・黒鉛化は、ガス拡散層の目的、所望とする特性、樹脂の特性等に応じて加熱焼成の温度条件が設定され、炭化または黒鉛化の区別を問わない。
また、上記非酸化性雰囲気とは、広く酸化性でない雰囲気を意味するものとし、通常、窒素(N
2
)ガス中、アルゴン(Ar)ガス中、ヘリウム(He)ガス中等の不活性ガス中とされるが、一酸化炭素(CO)ガス中、水素(H
2
)ガス中のような還元雰囲気や、真空下や、二酸化炭素ガス等の雰囲気下、更には密閉空間内で活性炭等の炭素粉中に埋める方法等も含むものとする。
上記撥水性樹脂含浸工程は、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を含浸させ、前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を付着させる工程である。この撥水性樹脂の含浸は、通常、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に対し樹脂分散液(樹脂溶液)や樹脂フィルムの形態で供給されることにより行われて、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂が添加される。上記撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂等が使用される。
上記乾燥焼成工程は、前記撥水性樹脂が含浸された前記ガス拡散層前駆体の乾燥焼成を行う工程であり、この乾燥焼成により、前記ガス拡散層前駆体中の水分(分散媒を含む)や撥水性を阻害する成分(分散剤等)を除去する。
なお、上記ガス拡散層基材の形態は、ペーパー状であってもよいし、クロス状、フェルト状、マット状等であってもよい。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法における前記基材前駆体形成工程では、抄紙工程にて前記導電性繊維を抄紙して抄紙基材を形成し、炭素前駆体樹脂含浸工程にて前記抄紙基材に対し前記第1の炭素前駆体樹脂を含浸させることにより前記基材前駆体が形成されるものである。
上記抄紙工程は、導電性繊維を抄紙してシート状(ペーパ状)等の抄紙基材を形成する工程である。
また、上記炭素前駆体樹脂含浸工程は、前記抄紙基材に対し、後の炭化・黒鉛化工程における非酸化性雰囲気下での加熱焼成により炭化・黒鉛化される第1の炭素前駆体樹脂を付着させる工程である。前記第1の炭素前駆体樹脂の含浸は、通常、前記抄紙基材に対し樹脂分散液(樹脂溶液)や樹脂フィルムの形態で供給されることにより行われて、前記抄紙基材に前記第1の炭素前駆体樹脂が添加される。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、前記ガス拡散層前駆体形成工程で前記基材前駆体に塗布する前記塗布液は、前記炭化・黒鉛化工程における加熱焼成で炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物となる第2の炭素前駆体樹脂を含有するものである。
上記第2の炭素前駆体樹脂としては、前記炭化・黒鉛化工程における非酸性雰囲気下での1000~3500℃の加熱焼成により炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物となり、かつ、それが導電性材料を結着する機能を有するものとして、例えば、残炭率が高いフェノール樹脂等が使用される。
上記実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、抄紙工程にて、導電性繊維が集積されてなる抄紙基材を形成し、続いて、ガス拡散層前駆体形成工程にて、前記抄紙基材に対して、炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有する混合液を添加して、前記ガス拡散層の前駆体を形成し、続く炭化・黒鉛化工程にて、前記ガス拡散層前駆体形成工程で形成された前記ガス拡散層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成して前記炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させ、更に、撥水性樹脂含浸工程にて、前記炭化・黒鉛化後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を含浸させ、そして、乾燥焼成工程にて、前記撥水性樹脂が含浸された前記ガス拡散層前駆体を乾燥焼成するものである。
上記抄紙工程は、導電性繊維を抄紙してシート状(ペーパ状)等の抄紙基材を形成する工程である。上記抄紙基材を形成する導電性繊維としては、例えば、カーボンブラックや黒鉛等の炭素繊維等が使用される。抄紙基材を形成する際には、バインダが加えられることもある。このバインダは、導電性繊維を結び付ける機能を有し、好ましくは、後の炭化・黒鉛化工程の加熱焼成により消失され(焼失)、その消失跡がガス拡散層基材のガスや水分の流路となる空孔(細孔、気孔)を形成するものであり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、パルプ等が使用される。
上記ガス拡散層前駆体形成工程は、前記抄紙基材に対して炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状の混合液を添加することによって、前記抄紙基材に炭素前駆体樹脂を含浸させて基材前駆体を形成すると共に、前記抄紙基材の片面または両面に炭素前駆体樹脂及び導電性材料からなるマイクロポーラス層前駆体を形成し、それら前記基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体からなるガス拡散層前駆体を得る工程である。
ここで、上記添加は、前記抄紙基材の厚み方向の片面または両面に対して、炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状の混合液を塗布することにより、或いは、前記抄紙基材を、炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状の混合液に浸漬させることにより行われる。
上記混合液に含まれる導電性材料としては、カーボンブラックや黒鉛等の炭素粒子等が使用され、炭素前駆体樹脂としては、後の炭化・黒鉛化工程における非酸化性雰囲気下での加熱焼成により炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物となり、かつ、それが導電性繊維を結着する機能を有するものとして、例えば、残炭率が高いフェノール樹脂等が使用される。
上記炭化・黒鉛化工程は、前記ガス拡散層前駆体を非酸性雰囲気下で1000~3500℃の温度で加熱焼成することによって、前記ガス拡散層前駆体における炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる工程である。
上記炭化・黒鉛化は、ガス拡散層の目的、所望とする特性、樹脂の特性等に応じて加熱焼成の温度条件が設定され、炭化または黒鉛化の区別を問わない。
また、上記非酸化性雰囲気とは、広く酸化性でない雰囲気を意味するものとし、通常、窒素(N
2
)ガス中、アルゴン(Ar)ガス中、ヘリウム(He)ガス中等の不活性ガス中とされるが、一酸化炭素(CO)ガス中、水素(H
2
)ガス中のような還元雰囲気や、真空下や、二酸化炭素ガス等の雰囲気下、更には密閉空間内で活性炭等の炭素粉中に埋める方法等も含むものとする。
上記撥水性樹脂含浸工程は、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を含浸させ、前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂を付着させる工程である。この撥水性樹脂の含浸は、通常、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に対し樹脂分散液(樹脂溶液)や樹脂フィルムの形態で供給されることにより行われて、前記加熱焼成後の前記ガス拡散層前駆体に撥水性樹脂が添加される。上記撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
上記乾燥焼成工程は、前記撥水性樹脂が含浸された前記ガス拡散層前駆体の乾燥焼成を行う工程であり、この乾燥焼成により、前記ガス拡散層前駆体中の水分(分散媒を含む)や撥水性を阻害する成分(分散剤等)を除去する。
なお、上記ガス拡散層基材の形態は、ペーパー状であってもよいし、クロス状、フェルト状、マット状等であってもよい。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前記導電性繊維の集積が前記導電性繊維を結び付けるバインダと一緒に抄紙することにより行われたものである。
ここで上記バインダは、導電性繊維を結び付ける機能を有し、好ましくは、前記炭化・黒鉛化工程における加熱により消失され(焼失)、その消失跡がガス拡散層基材のガスや水分の流路となる空孔(細孔、気孔)を形成するものであり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、パルプ等が使用される。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前記乾燥焼成工程において前記ガス拡散層前駆体を乾燥焼成させる温度が、200~250℃の範囲内であるものである。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料は、粒径が中位径30nm以上、100nm以下の範囲内のカーボンブラックであるものである。
ここで、「中位径」とは、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD
50
と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D
50
)をいう。なお、上記数値は、厳格なものでなく、製品毎の誤差があり、測定等による誤差を含むと1割程度以下の誤差の混入を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、正規分布を呈しており、粒径は正規分布を示すものであるから、中位径≒平均粒子径と見做しても両者の違いは数パーセント内であり、誤差と見做される程度である。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料は、粒径が中位径3μm以上、20μm以下の範囲内の黒鉛であるものである。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、まず、導電性繊維が集積されてなり、かつ、第1の炭素前駆体樹脂が含有されたガス拡散層基材前駆体に対して、マイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状塗布液を塗布してガス拡散層前駆体を形成してから、炭化・黒鉛化工程において、前記ガス拡散層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成する。
ここで、炭化・黒鉛化前のガス拡散層基材前駆体においては、炭素繊維等の導電性繊維の集積体に第1の炭素前駆体樹脂が付着されていることから、また、炭化・黒鉛化前であるため空隙も少ないことから、かかる基材前駆体にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状塗布液を塗布すると、基材前駆体の表面に導電性材料からなるマイクロポーラス層前駆体が形成される。
そして、このように炭化・黒鉛化前の基材前駆体にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状塗布液を塗布して、基材前駆体と共に、基材前駆体上に形成されたマイクロポーラス層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成すると、基材前駆体中の第1の炭素前駆体樹脂が炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物が形成され、この樹脂炭化物により導電性繊維が結着される。
なお、上記ペースト状塗布液に第2の炭素前駆体樹脂が配合されている場合、基材前駆体上に形成されたマイクロポーラス層前駆体も非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成されることで、マイクロポーラス層前駆体中の第2の炭素前駆体樹脂も炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物が形成され、この樹脂炭化物により導電性材料も結着されることになる。
また、導電性繊維を捕獲するポリビニルアルコールやパルプ等のバインダが基材前駆体中に含有されている場合、このような第1の炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる高温条件の加熱焼成により、バインダは加熱分解されて消失する。そして、その消失跡は、ガス拡散層のガスや水の通路となる空孔(気孔、細孔)となる。
更に、上記ペースト状塗布液に導電性材料を分散させるための界面活性剤等の分散剤が含有されてる場合でも、このような第1の炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる高温条件の加熱焼成により、分散剤は加熱分解されて除去されることになる。
続いて、炭化・黒鉛化工程で加熱焼成された前記ガス拡散層前駆体に、撥水性樹脂含浸工程において、撥水性樹脂を含浸させてから、乾燥焼成工程において、乾燥焼成する。これにより、ガス拡散層基材とそれの厚み方向の片面または両面に配設したマイクロポーラス層とからなるガス拡散層が得られる。
炭化・黒鉛化工程で加熱焼成された前記ガス拡散層前駆体には、基材前駆体の表面に導電性材料からなるマイクロポーラス層前駆体が形成されているため、従来のように高温処理されてなる多孔質のガス拡散層基材に撥水処理を施した後、導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤からなるマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布する必要はなく、撥水処理を施すのみであるから、乾燥焼成させるガス拡散層前駆体に存在する分散剤の量は少ない。このため、撥水性樹脂を含浸後の乾燥焼成においては、200~250℃の低い温度条件でも、撥水性を阻害する分散剤が完全に除去され、得られるガス拡散層は高い撥水性能を発現する。
このように、上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、炭化・黒鉛化前の基材前駆体にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状塗布液を塗布して、基材前駆体の表面に導電性材料からなるマイクロポーラス層前駆体を形成する。そして、基材前駆体と共にマイクロポーラス層前駆体を高温焼成し、その後、基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体の全体に撥水処理を施した後、乾燥焼成する設計であり、従来のように、高温焼成された多孔質のガス拡散層基材に対して、撥水処理をしてから、導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、乾燥焼成を行うものではないことから、乾燥焼成されるガス拡散層前駆体には撥水性を阻害する分散剤が少ない。特に、乾燥焼成工程において、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物に含まれていた導電性材料を分散させるための非イオン系界面活性剤等の分散剤を除去する必要もないので、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物中の分散剤を除去するのに必要な温度条件よりも低い温度での乾燥焼成により分散剤が残存することもなく、高い撥水性を確保できる。また、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
そして、従来、高温焼成後の多孔質のガス拡散層基材に導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペーストを塗布する際では、大きな孔の多孔質であるガス拡散層基材にマイクロポーラス層形成用ペーストの成分が染み込む(浸透)のを防止し、更に、ガス拡散層基材表面へのペースト成分の定着のために、ガス拡散層基材に撥水性樹脂を含浸させ、そして、水分を乾燥させてから、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、乾燥焼成を行っていたが、本発明の燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、炭化・黒鉛化前の基材前駆体にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状塗布液を塗布するものであり、かかる基材前駆体では空隙も小さく、また、第1の炭素前駆体樹脂が保持されていることから、ペースト状塗布液の塗布前に撥水処理や水分の乾燥を行うことなしに、基材前駆体に塗布液を塗布するだけで、基材前駆体の表面にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を定着させることができる。よって、製造作業性や製造工程を単純化できる。
このように、乾燥焼成の温度を低減でき、また、乾燥焼成にかかる時間を短縮でき、そして、製造の作業性や製造工程を単純化できるから、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能である。
更に、炭化・黒鉛化工程において基材前駆体と共にマイクロポーラス層前駆体が高温焼成され、基材前駆体中の第1の炭素前駆体樹脂が炭化されることにより、この第1の炭素前駆体樹脂が炭化されてなる樹脂炭化物によって、基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体の境界部では基材前駆体の導電性繊維及びマイクロポーラス層前駆体の導電性材料が結着されるから、乾燥焼成の負荷の低減により撥水性樹脂による結着成分量が低下しても、ガス拡散層基材及びマイクロポーラス層の接合性が強くてガス拡散層基材からマイクロポーラス層が剥離し難く、マイクロポーラス層及びガス拡散層基材の一体の接合強度が高いものとなる。
こうして、製造工程を単純化でき、乾燥焼成の負荷を低減しても高い撥水性が得られ、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能なガス拡散層の製造方法となる。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記基材前駆体形成工程は、前記導電性繊維を抄紙して抄紙基材を形成する抄紙工程と、前記抄紙基材に対し前記第1の炭素前駆体樹脂を含浸させる炭素前駆体樹脂含浸工程とからなることから、前記導電性繊維の抄紙体に前記第1の炭素前駆体樹脂を所望の分布で付着させるのが容易である。
上記実施の形態1の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記ガス拡散層前駆体形成工程で前記基材前駆体に塗布する塗布液は、前記炭化・黒鉛化工程における加熱焼成で炭化・黒鉛化され樹脂炭化物となる第2の炭素前駆体樹脂を含有することから、得られるマイクロポーラス層では、第2の炭素前駆体樹脂が炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料が結着されて導電パスが形成される。よって、マイクロポーラス層の導電性及び層強度を向上させることができる。更に、第2の炭素前駆体樹脂が炭化されてなる樹脂炭化物によりガス拡散層基材の導電性繊維に対しても、導電性材料が結着されて導電パスが形成されることで、ガス拡散層基材とマイクロポーラス層との間の接触抵抗も小さく、ガス拡散層全体の導電性を高めることができ、また、マイクロポーラス層のガス拡散層基材への定着力が向上する。
上記実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、まず、導電性繊維が集積されてなる抄紙基材に対して、炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状混合液を添加してガス拡散層前駆体を形成してから、炭化・黒鉛化工程において、前記ガス拡散層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成する。
ここで、炭化・黒鉛化前の抄紙基材においては、炭化・黒鉛化前であるため空隙も少ないことから、かかる基材前駆体に炭素前駆体樹脂及びマイクロポーラス層形成用の導電性材料を含有するペースト状混合液を添加すると、抄紙基材に炭素前駆体樹脂が含浸されて基材前駆体が形成されると共に、かかる基材前駆体の表面に導電性材料及び炭素前駆体樹脂からなるマイクロポーラス層前駆体が形成される。
そして、このような基材前駆体と共に、基材前駆体上に形成されたマイクロポーラス層前駆体を非酸化性雰囲気下にて1000~3500℃の温度で加熱焼成すると、炭素前駆体樹脂が炭化・黒鉛化されて樹脂炭化物が形成され、この樹脂炭化物により導電性繊維や導電性材料が結着される。
なお、導電性繊維を捕獲するポリビニルアルコールやパルプ等のバインダが基材前駆体中に含有されている場合、このような炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる高温条件の加熱焼成により、バインダは加熱分解されて消失する。そして、その消失跡は、ガス拡散層のガスや水の通路となる空孔(気孔、細孔)となる。
更に、上記ペースト状混合液に導電性材料を分散させるための界面活性剤等の分散剤が含有されてる場合でも、このような炭素前駆体樹脂を炭化・黒鉛化させる高温条件の加熱焼成により、分散剤は加熱分解されて除去されることになる。
続いて、炭化・黒鉛化工程で加熱焼成された前記ガス拡散層前駆体に、撥水性樹脂含浸工程において、撥水性樹脂を含浸させてから、乾燥焼成工程において、乾燥焼成する。これにより、ガス拡散層基材とそれの厚み方向の片面または両面に配設したマイクロポーラス層とからなるガス拡散層が得られる。
炭化・黒鉛化工程で加熱焼成された前記ガス拡散層前駆体には、基材前駆体の表面に導電性材料からなるマイクロポーラス層前駆体が形成されているため、従来のように高温処理されてなる多孔質のガス拡散層基材に撥水処理を施した後、導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤からなるマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布する必要はなく、撥水処理を施すのみであるから、乾燥焼成させるガス拡散層前駆体に存在する分散剤の量は少ない。このため、撥水性樹脂を含浸後の乾燥焼成においては、200~250℃の低い温度条件でも、撥水性を阻害する分散剤が完全に除去され、得られるガス拡散層は高い撥水性能を発現する。
このように、上記実施の形態2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、炭化・黒鉛化前の抄紙基材にマイクロポーラス層形成用の導電性材料及び炭素前駆体樹脂を含有するペースト状混合液を添加して、抄紙基材に炭素前駆体樹脂を含浸させて基材前駆体を形成すると共に、その表面に導電性材料及び炭素前駆体樹脂からなるマイクロポーラス層前駆体を形成する。そして、そのような基材前駆体と共にマイクロポーラス層前駆体を高温焼成し、その後、基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体の全体に撥水処理を施した後、乾燥焼成する設計であり、従来のように、高温焼成された多孔質のガス拡散層基材に対して、撥水処理をしてから、導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、乾燥焼成を行うものではないことから、乾燥焼成されるガス拡散層前駆体には撥水性を阻害する分散剤が少ない。乾燥焼成工程において、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物に含まれていた導電性材料を分散させるための非イオン系界面活性剤等の分散剤を除去する必要もないので、従来のマイクロポーラス層形成用ペースト状混合物中の分散剤を除去するのに必要な温度条件よりも低い温度での乾燥焼成により分散剤が残存することもなく、高い撥水性を確保できる。また、乾燥焼成処理にかかる時間を短縮できる。
特に、抄紙基材に炭素前駆体樹脂を含浸させるのと同時に、導電性材料及び炭素前駆体樹脂からなるマイクロポーラス層前駆体を形成するから、製造工程数が削減される。また、従来、高温焼成後の多孔質のガス拡散層基材に導電性材料及び撥水性樹脂及び分散剤を配合したマイクロポーラス層形成用ペーストを塗布する際では、大きな孔の多孔質であるガス拡散層基材にマイクロポーラス層形成用ペーストの成分が染み込む(浸透)のを防止し、更に、ガス拡散層基材表面へのペースト成分の定着のために、ガス拡散層基材に撥水性樹脂を含浸させ、そして、水分を乾燥させてから、マイクロポーラス層形成用ペースト状混合物を塗布し、乾燥焼成を行っていたが、本発明の燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、炭化・黒鉛化前の抄紙基材にマイクロポーラス層形成用の導電性材料及び炭素前駆体樹脂を含有するペースト状混合液を添加するものであり、かかる抄紙基材では空隙も小さく、また、抄紙基材に炭素前駆体樹脂が浸透されることから、ペースト状混合液の添加前に撥水処理や水分の乾燥を行うことなしに、抄紙基材に混合液を添加するだけで、基材前駆体の表面にマイクロポーラス層形成用の導電性材料を定着させることができる。よって、製造作業性や製造工程を単純化できる。
このように、乾燥焼成の温度を低減でき、また、乾燥焼成にかかる時間を短縮でき、そして、製造の作業性や製造工程を単純化できるから、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能である。
更に、炭化・黒鉛化工程において基材前駆体と共にマイクロポーラス層前駆体が高温焼成され、炭素前駆体樹脂が炭化されることにより、炭素前駆体樹脂が炭化されてなる樹脂炭化物によって、ガス拡散層とマイクロポーラス層とで、炭素前駆体樹脂が炭化されてなる樹脂炭化物により導電性材料が結着されて導電パスが形成される。よって、導電性及び層強度を向上させることができる。更に、基材前駆体及びマイクロポーラス層前駆体の境界部では基材前駆体の導電性繊維及びマイクロポーラス層前駆体の導電性材料が結着されるから、乾燥焼成の負荷の低減により撥水性樹脂による結着成分量が低下しても、ガス拡散層基材及びマイクロポーラス層の接合性が強くてガス拡散層基材からマイクロポーラス層が剥離し難く、マイクロポーラス層及びガス拡散層基材の一体の接合強度が高いものとなる。導電性及び層強度を向上させることができる。
こうして、製造工程を単純化でき、乾燥焼成の負荷を低減しても高い撥水性が得られ、製造コストの低減化及び環境負荷の軽減化が可能なガス拡散層の製造方法となる。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記導電性繊維と、前記導電性繊維を結び付けるバインダとを共に抄紙したことから、抄紙時の導電性繊維の捕獲性や抄紙収率を高めて抄紙化を容易にでき、また、導電性繊維の分散性を高めて再収束を防止し、導電性繊維の絡み合い性、補強性を向上できる。更に、抄紙後の導電性繊維の脱落、剥離を防止して形状保持性を高め、取扱性を向上できる。特に、バインダが前記炭化・黒鉛化工程における加熱により消失され(焼失)、その消失跡がガス拡散層基材のガスや水分の流路となる空孔(細孔、気孔)を形成するものであれば、水分やガスの透過性を向上させることができ、また、バインダの添加量等によりガス拡散層基材の透気度の制御が容易となる。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記乾燥焼成工程において前記ガス拡散層前駆体を乾燥焼成させる温度は、200~280℃の範囲内であるから、乾燥焼成にかかる電力が低く、製造コストが抑えられ、また、乾燥焼成工程における二酸化炭素の排出量が少なく環境負荷がより軽減される。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料は、粒径が中位径30nm以上、100nm以下の範囲内であるカーボンブラックである。
本発明者らは、鋭意実験研究を積み重ねた結果、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料として、カーボンブラックを使用した場合、粒径が中位径30~100nmの範囲内であれば、分散剤を配合しなくとも分散性及び保存性が良くて塗布効率も良く、また、マイクロポーラス層の表面の凹凸も少なくて平滑性に優れ、更にガスや水分の透過性が高いガス拡散層が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
したがって、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料としてのカーボンブラックの粒径が中位径30~100nmの範囲内であれば、燃料電池において安定して出力の向上を図ることができる。
上記実施の形態1,2の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料は、粒径が中位径3μm以上、20μm以下の範囲内である黒鉛(グラファイト)である。
本発明者らは、鋭意実験研究を積み重ねた結果、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料として、黒鉛を使用した場合、粒径が中位径3~20μmの範囲内であれば、分散剤を配合しなくとも分散性が良くて塗布効率も良く、マイクロポーラス層の表面の凹凸も少なくて平滑性に優れ、更にガスや水分の透過性及び導電性が高いガス拡散層が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
したがって、前記マイクロポーラス層形成用の前記導電性材料としての黒鉛の粒径が中位径3~20μmの範囲内であれば、燃料電池において安定して出力の向上を図ることができる。