JP2018129254A - マイクロポーラス層形成用ペースト組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、ガス透過性及び導電性が両立したマイクロポーラス層を形成でき、更に、低コスト化が可能なこと。【解決手段】カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内で配合する。【選択図】図1

Description

本発明は、カーボンペーパ等の導電性多孔質基材の表面に塗布して燃料電池用ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)のマイクロポーラス層(MPL:Micro Porous Layer)を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物に関するもので、特に、導電性及びガス透過性の両方に優れたマイクロポーラス層を形成できるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物に関するものである。
燃料電池、特に、自動車等の動力源として使用が拡大されている固体高分子型燃料電池は、燃料電池セルのセパレータを介して複数個積層して構成されており、1つの単セル(single cell)においては、一般的に、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜(イオン電導性固体高分子電解質膜)の両面に、白金等の触媒を担持したカーボン等の導電材及びイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、電極触媒層の外側に配置する多孔質のガス拡散層(GDL)とによって構成されるカソード(+)側電極及びアノード(−)側電極が配設され、膜/電極接合体(MEGA;Membrane-Electrode-Gas Diffusion Layer Assembly)を形成している。また、この膜/電極接合体を構成するガス拡散層の外側には、燃料ガス(アノードガス)または酸化ガス(カソードガス)を供給したり生成ガス及び過剰ガスを排出したりするガス流路を形成したセパレータが配設され、膜/電極接合体はセパレータで挟持されている。
こうした構成の固体高分子型燃料電池において、反応ガスの拡散性を高めるために形成されるガス拡散層では、セパレータのガス流路から供給される燃料ガスまたは酸化ガスをガス拡散層に隣接する触媒層に拡散させる役目(ガス拡散性)を担うことからガス透過性が要求されると共に、電気化学反応のための電子を効率的に移動させる集電機能として導電性も要求される。また、高分子電解質膜と触媒層を常に最適な湿潤状態に保つ一方で、フラッディング現象(ガス拡散層の細孔が水で閉塞する現象)を抑制して、電池の安定した発電性能を維持するために、発電時の水素及び酸素の電気化学的反応によって生成した過剰な反応生成水や結露水を排出させる撥水性(排水性)も必要とされる。
特に、ガス拡散層のガス透過性は非常に重要な物性となっており、ガス透過性の向上のために透気度を高くすることは、反応ガスの拡散性を高めガスの充分な供給を可能とするのに加え、ガス流路を塞いでガス拡散性を防げる原因となる電極の水詰まりを防止して電極での水の排出性を向上できることから、燃料電池の高い出力を可能とする。殊に、自動車等の車両用の高い出力密度が要求される用途においては、ガスを加圧した状態、かつ、高電流域(電流密度が高い領域)での運転条件であることから、高い反応活性が必要となるため、効率よくガスを供給すべくガス拡散層についてはガスの高い透過性が要求される。
ところが、ガス拡散層において単純に空隙率を増大させてガス透過性を向上させようとしても逆に導電性が不足してしまうため、燃料電池の発電出力を向上させることは困難である。
ところで、このような燃料電池用のガス拡散層について、近年では、炭素繊維からなるカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性多孔質基材に対してマイクロポーラス層(MPL)と称されるコーティング薄膜を形成した多層構造からなるガス拡散層が開発されており、この多層構造としたガス拡散層の導電性多孔質基材側をセパレータに接触させると共に、マイクロポーラス層側を触媒層に接触させて固体高分子形燃料電池に組み込んで適用することで、ガス拡散層の機能を向上させ、また、マイクロポーラス層の成分調節により、多様な燃料電池の使用環境、運転条件等に対応させて導電性やガス透過性の制御性を獲得する試みがなされている。
例えば、特許文献1乃至特許文献6には、導電性材料としてカーボンを用い、撥水性材料としてフッ素樹脂(PTFE樹脂)を用いてマイクロポーラス層(導電性多孔質層)を形成する例が記載されている。
特開2015−218207号公報 特開2015−076371号公報 特開2011−175891号公報 特開2016−106371号公報 特開2013−020939号公報 特表2014−531710号公報
ここで、特許文献1を始めとするガス拡散層を形成する従来のマイクロポーラス層においては、特許文献1乃至特許文献3にも記載があるように、燃料電池の発電性能を高めるための高導電性の観点、特に、導電交点を増大させる考えから、導電性を付与するための導電性材料として比表面積が大きいアセチレンブラックの使用が主流であり、特許文献1乃至特許文献3では、多種の導電性材料が列挙されているも、そこに複数種を組み合わせて使用することの技術的意義の開示はない。
また、特許文献4乃至特許文献6においては、導電性材料として物性や性状の異なる複数種の組み合わせの記載があるが、何れも高比表面積を有する炭素材料を用いていることから、分散性が悪く、高分散させるために強い剪断応力を必要としたり、多量の界面活性剤等の分散剤の添加を余儀なくされたりする。このため、撥水性や強度等の特性を低下させる恐れがあったり、エネルギー消費の大きな工程を必要とし製造コストが高くなったりする。
そこで、本発明は、導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、ガス透過性及び導電性が両立したマイクロポーラス層を形成でき、更に、低コスト化が可能であるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の提供を課題とするものである。
請求項1の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤とを含有し、前記カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内で配合したものであり、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材の表面に塗布され、乾燥・焼成されることによりマイクロポーラス層を形成するものである。
上記比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子の配合比率M1/M2のM1は、低比表面積のカーボン粒子及び高比表面積のカーボン粒子の合計質量に対する低比表面積のカーボン粒子の質量%を意味し、M2は高比表面積のカーボン粒子の質量%を意味する。即ち、低比表面積のカーボン粒子及び高比表面積のカーボン粒子の総量に対し、低比表面積のカーボン粒子の配合量は40質量%以上、70質量%以下とされ、高比表面積のカーボン粒子の配合量は30質量%以上、60質量%以下とされる。
ここで、カーボン粉末として、低比表面積のカーボン粒子の比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下、高比表面積のカーボン粒子の比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下と区別しているが、併用するカーボン粒子の比表面積を比較して相対的に、低比表面積側または高比表面積側に分類するものであり、使用するカーボン粉末の比表面積も測定幅を有することから、その比表面積の領域の50%以上が、上記範囲内で重複していればよく、厳格にこの数値内に比表面積の領域が一致していることまでを要求するものではない。また、上記比表面積は、気体吸着法(BET法)によるものである。BET(Brunauer-Emmett-Teller)法とは、粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であって、窒素等の不活性気体の低温物理吸着によるものである。
請求項2の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、前記低比表面積のカーボン粒子の比表面積が、前記高比表面積のカーボン粒子の比表面積の5%以上、80%以下の範囲内であるものである。
請求項3の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、前記高比表面積のカーボン粒子は、アセチレンブラックであるものである。アセチレンブラックは、アセチレンを酸素欠乏状態または酸素なしの状態で発熱分解させたカーボン粒子である。
請求項4の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、前記低比表面積のカーボン粒子は、黒鉛であるものである。
請求項1の発明に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、前記低比表面積のカーボン粒子と前記高比表面積のカーボン粒子の配合比を低比表面積のカーボン粒子/高比表面積のカーボン粒子=4/6〜7/3の範囲内としたものである。
本発明者らは、燃料電池の出力を向上させるべく、導電性を確保しつつもガス透過性を向上させるために、ガス拡散層を構成する材料の種類、配合、形状、サイズ等についての鋭意実験研究を重ねる中、導電性材料として使用されるカーボン粒子の特性、比表面積に着目した。カーボン粒子は、製造条件等によって極めて多様な物性値を有する。そこで更に鋭意検討を積み重ねて追求した結果、カーボン粉末として、特定の低比表面積を有するカーボン粒子と特定の高比表面積のカーボン粒子を併用することで、導電性(電気伝導性)の確保とガス透過性の向上の両立を実現できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成させたものである。
ここで、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の組み合わせにおいて、低比表面積のカーボン粒子が少なすぎる場合、即ち、両者の総量に対し、高比表面積のカーボン粒子が60質量%を超え、低比表面積のカーボン粒子が40質量%未満では、高比表面積のカーボン粒子を主流とする従来品と比較して、ガス透過性を向上させることができない。一方、低比表面積のカーボン粒子が多くなりすぎると、即ち、高比表面積のカーボン粒子が30質量%未満で、低比表面積のカーボン粒子が70質量%を超えると、得られるマイクロポーラス層の塗膜の平滑性が低下して凹凸が発生しやすくなる。マイクロポーラス層の塗膜が凹凸形状を有すると、燃料電池に適用した際に触媒層との接合性に欠け、燃料電池の出力向上を図ることができない。
また、比表面積が5m2/g未満であるカーボン粒子を高比表面積のカーボン粒子と併用しても、電気抵抗が高く導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができず、導電性とガス透過性を両立させることができない。更に、比表面積が100m2/gを超えるカーボン粒子では、低比表面積のカーボン粒子と併用しても、ガス透過性が低下したり強度が低下したりする。
比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内であれば、塗膜の平滑性及び導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、燃料電池の出力を向上させることができる。
また、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内においては、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の配合比率を調整するのみで、所定の導電性を維持したままガス透過性を簡単に調節することができ、燃料電池の運転条件、仕様等に応じたガス拡散特性の調節が容易にできる。
更に、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物においては、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とが併用されているから、全体の比表面積が従来より抑えられ、固形分量が多くても塗工に適した粘度となるため水分量の使用を少なくでき、また、分散に必要な界面活性剤(分散剤)の使用量も少なくて済む。したがって、分散剤及び水分を熱分解・揮発させる乾燥・焼成工程の負荷も軽減でき、低コスト化が可能である。
このようにして、導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、ガス透過性及び導電性が両立したマイクロポーラス層を形成でき、更に、低コスト化が可能なマイクロポーラス層形成用ペースト組成物となる。
請求項2の発明に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、前記低比表面積のカーボン粒子の比表面積が、前記高比表面積のカーボン粒子の比表面積の5%〜80%の範囲内であるものである。
低比表面積のカーボン粒子の比表面積が、高比表面積のカーボン粒子の比表面積の5%〜80%の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、低比表面積のカーボン粒子及び高比表面積のカーボン粒子の比表面積がバランスし、適度に空隙が形成されるも、カーボン粒子間の繋がりも良く、導電性及びガス透過性に優れたマイクロポーラス層が安定して得られる。
請求項3の発明に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、前記高比表面積のカーボン粒子は、アセチレンブラックであるから、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、塗布対象の導電性多孔質基材であるカーボンペーパー等との相性が良く、純度や化学的安定性も高いことで、燃料電池の出力の安定した向上が可能である。
請求項4の発明に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、前記低比表面積のカーボン粒子は、黒鉛であるから、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、二次元的な配向による導電交点の確保に有利である。
図1は本発明の実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材に塗布して形成した燃料電池用ガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池の概略構成を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、同一の記号及び同一の符号は、実施の形態中の同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
まず、本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を使用する燃料電池用ガス拡散層が組み込まれる固体高分子形燃料電池(単セル)の構造について、図1の概略構成図を参照しながら説明する。なお、図中、アノード側をA、カソード側をKとする。
図示のように、燃料電池用ガス拡散層14(カソード側ガス拡散層14K,アノード側ガス拡散層14A)は、白金、金、パラジウム等の貴金属触媒をカーボンで担持した触媒担持カーボン及びイオン交換樹脂からなり酸化ガスまたは燃料ガスが反応する触媒層13(カソード側触媒層13K,アノード側触媒層13A)と接合して、一体となって電極12(カソード電極12K,アノード電極12A)を構成し、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜11(単セルの芯)の両面に触媒層13と共に配設されて、膜/電極接合体(MEGA)10を構成する。そして、この膜/電極接合体10は、カソード側ガス拡散層14Kの外側において酸化剤となる酸化ガスを供給する酸化ガス流路21Kを設けたカソード側セパレータ20K、また、アノード側ガス拡散層14Aの外側において燃料ガスを供給する燃料ガス流路21Aを設けたアノード側セパレータ20Aに挟持され、燃料電池1の単セル(single cell)を形成している。
即ち、本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を適用する燃料電池用ガス拡散層14が使用される燃料電池1の単セルは、高分子電解質膜11の一方の表面に酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード側触媒層13K及びカソード側ガス拡散層14Kにより構成されるカソード電極12Kを配設し、他方の表面に水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード側触媒層13A及びアノード側ガス拡散層14Aにより構成されるアノード電極12Aを配設して発電部を構成する膜/電極接合体10と、膜/電極接合体10のカソード電極12Kの表面に配置されるカソード側セパレータ20K及び膜/電極接合体10のアノード電極12Aの表面に配置されるアノード側セパレータ20Aとから構成される。
ここで、燃料電池用ガス拡散層14は、後述する本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材16の表面に塗布して乾燥・焼成することにより、マイクロポーラス層(微多孔質層)15(カソード側マイクロポーラス層15K,アノード側マイクロポーラス層15A)が導電性多孔質基材16(カソード側導電性多孔質基材16K,アノード側導電性多孔質基材16A)の片面に形成されてなるものである。そして、これら導電性多孔質基材16及びマイクロポーラス層15から構成される燃料電池用ガス拡散層14は、マイクロポーラス層15側が触媒層13側に配設し、導電性多孔質基材16側がセパレータ20側に配設するように組み込まれ、燃料電池1を構成する。
このような構成によって、外部より酸化ガスがカソード側セパレータ20Kの酸化ガス流路21Kに供給されると、酸化ガス流路21Kに沿って流れる酸化ガスのうち、一部がカソード側ガス拡散層14Kの導電性多孔質基材16K側表面より内部へ浸入する。なお、その他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路21Kに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。
同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレータ20Aの燃料ガス流路21Aに供給されると、燃料ガス流路21Aに沿って流れる燃料ガスのうち、一部がアノード側ガス拡散層14Aの導電性多孔質基材16A側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の燃料ガスは、そのまま燃料ガス流路21Aに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。
そして、酸化ガス及び燃料ガスが反応することにより、カソード側セパレータ20Kとアノード側セパレータ20Aとの間で電力が取り出されることになる。
次に、このような構成の燃料電池1に組み込まれる燃料電池用ガス拡散層14(カソード側ガス拡散層14K,アノード側ガス拡散層14A)に適用されるマイクポーラス層15について、それを形成するためのマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を説明する。
本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤とを含有するものである。
本発明者らは、上述したような構成の燃料電池1の出力を向上させるべく、導電性を確保しつつガス透過性を向上させるために、鋭意実験研究を重ねた結果、導電性を付与するための導電性材料のカーボン粉末として、特定の比表面積を有するカーボン粒子を特定の配合割合で組み合わせて用いることにより、導電性を確保しつつガス透過性を向上させることができ、導電性及びガス透過性を両立させたマイクロポーラス層15を形成できることを見出した。
詳細には、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下(N2吸着−BET)の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下(N2吸着−BET)の高比表面積のカーボン粒子を併用し、低比表面積のカーボン粒子/高比表面積のカーボン粒子=4/6〜3/7の範囲内とすることにより、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成できることが判明した。即ち、高比表面積のカーボン粒子を主流とする従来と比べ、炭素材料としてのカーボン粉末全体の比表面積が低下することになるものの、導電性を維持したままガス透過性を向上させることができた。
この理由については必ずしも明らかではないが、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子の組み合わせでは、高比表面積のカーボン粒子を主流とする従来と比べ、カーボン粒子の接触頻度が低下することでカーボン粒子間の空隙の増大によってガス透過性が向上するが、カーボン粒子の接触頻度が低下してもカーボン粒子の分散性が高くてカーボン粒子の密度分布の偏りが少なく一様に拡散されることで、3次元鎖状構造のカーボン粒子の2次元的な接触が増大し効果的に導電性が確保されているものと推測される。
即ち、接触頻度による導電交点の数からすれば、比表面積が高い方が有利であるが、比表面積が高いと凝集が生じやすくなる。しかし、カーボン粉末として、高比表面積のカーボン粒子と低比表面積のカーボン粒子を組み合わせることで、カーボン粒子同士の重なりが少なく2次元的な拡がりに配向する頻度が高くなってカーボン粒子の連続性が増し、カーボン粒子同士の接点が分散されて良好に繋がれ導電性が確保されたものと考えられる。そして、カーボン粒子の接触頻度の低下によるカーボン粒子間の空隙の増大に加え、分散性が高いことにより細孔構造が均一に形成され、そのことによってもガス拡散性が高まることが考えられる。
このように、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下のカーボン粒子の併用であれば、カーボン粉末全体の比表面積が小さくカーボン粒子の接触頻度が少なくとも、カーボン粒子の分散性が良く、カーボン粒子が連続されることで導電交点が確保され通電され易くなり、導電性が確保されるものと思われる。そして、カーボン粒子の接触頻度が少なくなることで、カーボン粒子間の空隙が多くなり、更にはカーボン粒子の分散性が良いことで、カーボン粒子間の空隙が均一に分布することにより、ガス拡散性が向上するものと思われる。
こうして本実施の形態においては、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子が併用されるが、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックや、黒鉛(グラファイト)、活性炭等が使用されるが、材料または異なる比表面積を有する2種以上を用いても良い。中でも、黒鉛は、二次元的な配向による導電交点の確保に有利である。
また、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、膨張黒鉛等が使用されるが、材料または異なる比表面積を有する2種以上を用いてもよい。中でも化学的安定性及び導電性が高く、取扱性も良くて更に良好な揺変性(チキソトロピー)を付与して膜の成形を容易とするアセチレンブラックが好適である。
ここで、本発明者らの実験研究によれば、比表面積が5m2/g未満であるカーボン粒子では、高比表面積のカーボン粒子と併用しても、得られるマイクロポーラス層15の電気抵抗が高く導電性を確保することができなかった。これは、比表面積が低すぎることでカーボン粒子同士の導電交点の数を十分に確保できないためである。
また、比表面積が100m2/gを超えるカーボン粒子では、低比表面積のカーボン粒子と併用しても、ガス透過性が低く、強度も低下した。これは、比表面積が高すぎることでカーボン粒子が凝集し易くなって分散性が低下するため、均一な細孔(空隙)が形成されなかったためである。
そして、カーボン粉末全体のカーボン粒子の比表面積の最大が50m2/g以下では、ガス透過性を向上させることができず、比表面積の最小が50m2/gを超えるものでは、導電性を確保することできなかった。
更に、本発明者らの実験研究によれば、低比表面積カーボン粒子の比表面積が、高比表面積カーボン粒子の比表面積の5%〜80%の範囲内であるのが好適である。当該範囲内であれば、カーボン粉末の比表面積のバランスが良く、適度に多くの空隙が形成されるも、カーボン粒子間の繋がりも良く、安定して導電性及びガス透過性の両方に優れたマイクロロポーラス層15が得られる。
そして、本実施の形態においては、この比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子の配合は、低比表面積のカーボン粒子:高比表面積のカーボン粒子=4:6〜3:7の範囲内とされる。即ち、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子との配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内とされる。
M1/M2<4/6と高比表面積カーボン粒子よりも低比表面積カーボン粒子の配合割合が少なくなりすぎる場合には、即ち、低比表面積カーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の総量に対して、低比表面積カーボン粒子の比率が40%未満では、ガス透過性を向上させることができない。一方、M1/M2>7/3と高比表面積カーボン粒子よりも低比表面積カーボン粒子の配合割合が多くなりすぎる場合には、即ち、低比表面積カーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の総量に対して、低比表面積カーボン粒子の比率が70%を超えると、平滑な塗膜(マイクロポーラス層15)を形成することができず、ガス拡散層14周囲の触媒層13と接触性が低下することで、ガス拡散層14の機能が低下することから、燃料電池1の出力向上を図ることができない。即ち、燃料電池1に適用した際に触媒層13との接触面積が低下して、接触抵抗が増加する。また、触媒層13との接合界面に、加湿ガスや反応によって生じた過剰な水が溜まりやすくなりフラッティングが生じる恐れがある。このため、燃料電池1において反応ガスのガス拡散性が低下しやすく、集電機能も低下する可能性がある。更には、塗膜の平滑性が低下すると、燃料電池1の構成において導電性多孔質基材16中の繊維の電解質膜11への突き刺さり、即ち、攻撃性の緩和効果も少なくなる恐れがある。よって、発電性能を低下させる恐れがある。
したがって、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の配合比率M1/M2を4/6〜7/3の範囲内とすることにより、塗膜の平滑性及び導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成でき、燃料電池1の出力向上を図ることができる。
更に、上記配合比率の範囲内であれば、低比表面積カーボン粒子と高比表面積カーボン粒子の配合比を調整することで、導電性を維持したまま、マイクロポーラス層15における空隙率や空隙の分布を制御でき、ガス透過性を簡単に任意の値に設定できる。故に、燃料電池1の運転条件、仕様に合わせたガス拡散特性に容易に設定できる。
なお、これら低比表面積カーボン粒子及び高比表面面積カーボン粒子の中位径(平均一次粒子径)は、均一分散性の観点から、10nm〜150nmの範囲内であることが好ましい。因みに、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算質量部が50%となる粒子径(D50)をいう。なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、平均粒子径との差も正規分布に近いほど僅少であり、平均粒子径≒中位径であり、平均粒子径=中位径と見做すこともできる。
また、これら低比表面積カーボン粒子及び高比表面積カーボン粒子からなるカーボン粉末の総量は、ペースト組成物中における含有量が少なすぎる場合、得られるマイクロポーラス層15の導電性が不足し、一方で、ペースト組成物中の含有量が過剰であると、凝集により塗布する際の粘度が増大して塗工性が損なわれたり、得られるマイクロポーラス層15の空隙が少なくなり、ガス透過性が低下したりする。更に、カーボン粒子が脱落し導電性が低下する恐れもある。したがって、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の全固形分中において50〜95質量%の範囲内の含有量とすることが望ましい。
更に、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物に含有される撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂や、シリコーン樹脂等を使用できる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。通常、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂は、そのままでは水には分散しないため、適当な界面活性剤(分散剤)によって水中に分散させたもの、例えば、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂が乳化されたエマルジョンや、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂が分散されたディスパージョン等の形態で添加される。
因みに、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、ここでは「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
これらの中でも、撥水性、電極反応時の耐食性等に優れるフッ素系の高分子材料が好ましく、特に、高い撥水性が得られるPTFEのエマルジョンを用いるのが好ましい。なお、PTFEは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化オレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の他のフッ素系単量体に由来する単位を含む変性PTFEであってもよい。
なお、撥水性樹脂の平均分子量は、5万〜100万の範囲内であることが望ましい。平均分子量が低すぎるものは、導電材としてのカーボン粉末を結合させるバインダーとしての結着性が小さく、一方で、平均分子量の大きすぎるものは、混合時に繊維化して分散不良になり易くてペーストの安定性が低下したり、塗工等の製造プロセスにおける剪断力により繊維化して固まり、濃度変化が生じたり、配管やポンプ等の目詰まりや塗着不良を起こしたりする原因となる。因みに撥水性樹脂がフッ素系重合体である場合、フッ素系重合体は溶媒に溶解しにくいため、溶融粘度では平均分子量を測定しにくい。このため、比重と数平均分子量との関係から平均分子量を求める比重法が適用される。
また、撥水性樹脂の含有量が少なすぎる場合、撥水性が不足したり、バインダー効果が小さくて高い塗膜強度や接合強度が得られなくなったりする。一方で、含有量が多すぎると、マイクロポーラス層15の空孔が少なくなり、ガス透過性が低下する。よって、撥水性樹脂は、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の全固形分中において固形分換算で5〜50質量%の範囲内の含有量とすることが望ましい。
更に、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物においては、カーボン粉末や撥水性樹脂を分散させ安定化させたり、粘度を調製したりするために分散剤が配合される。
このような分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX−100等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等の非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系界面活性剤といった界面活性剤や、ポリエチレンオキサイド系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリエチレングリコール系(例えば、アルキルフェノールとポリエチレングリコールのエーテル類、高級脂肪族アルコールとポリエチレングリコールのエーテル類等)、ポリビニルアルコール系等の増粘剤が使用される。
これらの中でも、非イオン系(ノニオン系)の界面活性剤は、金属イオンの含有量が少ないため、短絡等による電池性能の低下を招く恐れが少なくて好ましく、特に、カーボン粒子としてカーボンブラック、撥水性樹脂としてPTFEエマルジョンを使用する場合には、これらカーボンブラックやPTFE粒子の濡れ性を良くし分散性を向上させるために、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX−100)等が好適に用いられる。なお、上述したように、撥水性樹脂のエマルジョン等が分散剤を含む状態で混合される場合もある。
このような分散剤によって、カーボン粉末や撥水性樹脂の分散性が向上されてペーストの安定性が高まり、塗工性や貯蔵性が改善され、また、濃度変化が生じたり塗布時において配管やポンプ等に目詰まりが起こったりするのが防止されて、良好な成膜性を得ることができる。更に、均質で表面起伏が少ないマイクロポーラス層15を形成でき、触媒層13との接触抵抗も小さくなり良好なガス拡散性等の特性を得て、燃料電池1において安定した出力を得ることができる。なお、マイクロポーラス層15に要求される特性や配合材料に応じて界面活性剤または増粘剤といった分散剤の種類が選択され、界面活性剤及び増粘剤の二つの機能を持った分散剤が配合されることもある。
分散剤の配合は、その添加による効果を確保するのに十分な量が配合されるが、添加量が多いと塗工性や電池性能の低下を招くことから、そのような不具合が生じない範囲に調整される。
特に、本実施の形態においては、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子が併用され、比表面積の低いカーボン粒子が多いほど、溶媒への分散に必要な界面活性剤(分散剤)の量が減ることから、高比表面積を有するアセチレンブラックを主流とした従来よりも界面活性剤(分散剤)の量が少なくて済む。また、界面活性剤(分散剤)は、ペースト組成物を導電性多孔質基材16の表面に塗布した後の乾燥・焼成処理において熱分解・揮発されるが、このとき、ペースト組成物中の界面活性剤(分散剤)の量が少ないと、界面活性剤(分散剤)を熱分解・揮発するための乾燥・焼成時の負荷を軽減できる。即ち、界面活性剤(分散剤)を熱分解・揮発するのに要する乾燥・焼成の時間が短くて済んだり、乾燥・焼成の温度が低い温度で済む。そして、界面活性剤(分散剤)が乾燥・焼成時に十分に除去されずにマイクロポーラス層15に残存すると、界面活性剤(分散剤)の親水性基によって水分が捕捉されるため、マイクロポーラス層15において十分な撥水性を確保することができないが、本実施の形態では、界面活性剤(分散剤)の量を少なくできることで、少ない乾燥・焼成時間でもまたは低い乾燥・焼成温度でも十分な撥水性を確保することができる。
以上説明してきたように本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子及び比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子を特定の配合割合で併用したカーボン粉末と、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂と、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等の非イオン系界面活性剤等の分散剤とを含有するものであるが、このマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を燃料電池用ガス拡散層14に適用するために、ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16の表面に塗布する際には、上記の配合材料をイオン交換水等の分散媒(溶媒)中で混合分散させて、ペースト状のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物(以下、単に、マイクロポーラス層形成用ペーストと呼ぶこともある)として調製される。
この分散媒(溶媒)は、カーボン粉末、撥水性樹脂、分散剤の各配合材料を混合分散して塗工性を確保するためのものであり、導電性多孔質基材16の表面に塗布した後の乾燥・焼成において消失(揮発)するものである。好ましくはイオン交換水等の水系の分散媒(溶媒)であり、有機系溶剤を使用した場合よりも、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂の分散性が良くて撥水性樹脂が分離することなく、良好な成膜性が得られる。また、塗工や焼成の際の作業性が良く、発火の恐れもない。更に、環境負荷にもならず、低コストで製造できる。
そして、配合材料の混合分散処理は、一般的なディスパー、プラネタリー等のミキサーや、ビーズミル等を使用した攪拌も可能であるが、攪拌用羽根等による剪断力を用いることなく、材料同士の接触(衝突)や材料の撹拌容器内壁への接触(衝突)によって発生する衝突エネルギー等を利用して分散させるのが望ましく、例えば、公転・自転を特定の値に設定可能な遊星式撹拌・脱泡装置等を用いて混合分散させることが好ましい。これにより、カーボン粉末のカーボン粒子の三次元構造の破壊を招くことなく、カーボン粒子の三次元構造を維持したまま、カーボン粒子を分散できることから、撥水性樹脂とカーボン粒子との強固な三次元結合を形成し、塗膜強度の向上を図ることができる。また、混合分散時に高い剪断応力がかかるとカーボン粒子や撥水性樹脂エマルジョン中の樹脂分が凝集しやすく、凝集物が多く生じて塗工時のフィルターの目詰まりや塗膜の欠落を発生するが、遊星式撹拌・脱泡装置を用いることで、カーボン粒子や撥水性樹脂エマルジョン中の樹脂分の凝集が防止され、塗工時のフィルターの目詰まりや塗膜の欠落が防止される。更に、遊星式撹拌・脱泡装置を用いることで、かかる装置においては撹拌用の羽根等を有しないため洗浄に手間がかかることがなく、歩留まりも向上することから、低コスト化が可能となる。なお、本発明を実施する場合には、必要に応じてその他添加剤を配合することも可能である。
このようにしてペースト状に調製されたマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、燃料電池用ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16の表面に塗布されたのち、乾燥・焼成されることで、マイクロポーラス層15の塗膜となる。そして、図1に示すように、導電性多孔質基材16及びその片面側に形成されたマイクロポーラス層15の塗膜によってガス拡散層14が構成されることになる。
ここで、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物が塗布される導電性多孔質基材16としては、従来の燃料電池1(特に、固体高分子形燃料電池1)のガス拡散層14で一般的に用いられているガス透過性と導電性を備える多孔質のものが用いられる。例えば、黒鉛、膨張黒鉛等の炭素材料(ナノカーボン材料を含む)が繊維状、粒子状、織布状、不織布状、メッシュ状、格子状、パンチング体、発泡体等の多孔質体の形態で構成されたものを用いることができる。特に、ガス透過性等の観点から、カーボン繊維が好ましく、より具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト(カーボン不織布)等が好適に使用される。これらは、燃料電池1の使用状況、運転条件等を考慮して選択される。
なお、必要に応じてカーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質基材16には、ガス拡散層14の撥水性を向上さたり、ペースト組成物の染み込みを防止するために、撥水処理が施される。この撥水処理に使用する撥水剤としては、上述のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物に用いることができる撥水性樹脂の内容と同様のものが使用される。
このときの導電性多孔質基材16の厚さは、燃料電池1の運転条件等や求められる性能を考慮して設定されるが、導電性多孔質基材16が薄すぎると、強度が不足して安定的なガス拡散性、排水性、導電性等のガス拡散層14の性能が得られなくなったり、取扱い性が悪くなり触媒層13との位置ずれが生じたりして、電池性能の低下を招く。また、導電性多孔質基材16が厚すぎても、ガス拡散性が低下したり、内部抵抗値が増大したりし、高い電池性能を得ることができなくなる。このため、2μm〜500μmの範囲内が好ましい。
また、導電性多孔質基材16に対するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の塗布は、刷毛塗り、筆塗り、ロールコータ法、バーコータ法、ダイコータ法、ブレード法、ナイフコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、カーテンコーティング法、ディップコータ法、スプレーコータ法、グラビアコータ法、アプリケータ、スプレー噴霧等の方法で行うことができる。特に、ダイコータ法は、導電性多孔質基材16の表面粗さによらず塗工量の定量化を図ることができるため、好適であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本明細書においては、導電性多孔質基材16上にマイクロポーラス層15の塗膜を形成できれば、その手段としての塗布は含浸を含む広い概念とする。
そして、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の塗布膜厚も、燃料電池1の運転条件等や求められる性能を考慮して設定されるが、乾燥・焼成後の塗膜の乾燥膜厚(マイクロポーラス層15の厚み)が、1μm〜300μmの範囲内、好ましくは10〜100μmの範囲内となるように設定されるのが好ましい。
乾燥膜厚が薄すぎると導電性多孔質基材16の凹凸を吸収したり、導電性多孔質基材16の繊維が電解質膜11に突き刺さるのを阻止したりする効果が得られない。一方で、塗布膜厚が厚すぎると、乾燥・焼成による収縮によって表面平滑性が低下しやすく、触媒層13との接触抵抗が増大する。また、乾燥膜厚が厚いと、厚さ方向の電気抵抗が高くなる。
乾燥膜厚が1μm〜300μmの範囲内であれば、表面平滑性の高いマイクロポーラス層15が得られ、良好なガス透過性、電気抵抗性の性能を確保できる。また、導電性多孔質基材16の厚みに対してマイクロポーラス層15の厚みが50%以下であるのが望ましい。厚みの差が適度な範囲内であれば、乾燥・焼成による導電性多孔質基材16とマイクロポーラス層15間における収縮応力が小さく、高い接合強度が得られる。また、ガス拡散層14全体の平滑性が高くなり触媒層13との接触抵抗が小さいものとなる。
このようにして導電性多孔質基材16に塗布されたマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、乾燥・焼成されることにより、マイクロポーラス層15の塗膜となり、導電性、撥水性及びガス拡散性が発現される。即ち、乾燥・焼成によって、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物中の分散剤及び水分が除去されて撥水性樹脂による撥水性が発現されると共に、細孔(空隙)が形成される。また、撥水性樹脂の一部が溶融されて導電材(カーボン粒子や、導電性多孔質基材16の炭素繊維等の導電性物質)を結着して、形成されるマイクロポーラス層15を強固なものとする。
このとき乾燥・焼成による分散剤の除去が不十分であると、残存した分散剤の親水性基によって水分が捕捉されるため、マイクロポーラス層15において十分な撥水性を確保することができず、燃料電池1に適用した場合に実用的な排水性を得ることができない。
このため、乾燥・焼成処理においては、分散剤の除去に十分な時間、温度が必要となってくる。
ここで、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物においては、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子が併用されているから、高比表面積のカーボンブラックを主流とした従来と比較して、凝集が少なくなることで水分量を減らしても粘度上昇が抑えられ、更に、全体の比表面積の低下により、分散に必要な界面活性剤(分散剤)の使用量が少なくて済む。したがって、分散剤及び水分を熱分解・揮発させるのに必要な焼成・乾燥時間が短くて済み、短い乾燥・焼成時間で分散剤及び水分の十分な除去を可能とする。つまり、分散剤及び水分を十分に除去して撥水性を発現するのに要する乾燥・焼成時間を短縮できる。
更に、このように乾燥・焼成時間が短いと、乾燥・焼成にかかる電力を低減でき、また、乾燥・焼成炉の炉長を短くできることから、乾燥・焼成処理にかかる負荷を軽減でき、製造コストを低減することができる。その結果、燃料電池1の低コスト化を図ることが可能となる。また、電気量の削減によって二酸化炭素の排出量の低減が可能となることで、自然環境に与える負荷を軽減できる。加えて、乾燥・焼成時間の短縮により生産効率を上げることができる。
なお、このときの乾燥・焼成の温度は分散剤を熱分解・揮発して除去できる温度に設定され、例えば、分散剤がポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX−100)等であれば、250〜350℃の範囲に設定される。乾燥・焼成温度が低すぎると、乾燥・焼成時間を長くしても、分散剤を十分に熱分解・揮発して除去することができず、分散剤が残存してそれらの親水性基によって水分が捕捉されるため、形成するガス拡散層14において十分な撥水性を発現できない。そして、燃料電池1に適用した場合に実用的な排水性を得ることができない。一方で、乾燥・焼成温度が高すぎる場合、撥水性樹脂等の塗膜成分が熱分解されてマイクロポーラス層15の成分が劣化したり、高い温度変化によりマイクロポーラス層15の変形が大きくなって平滑性が低下したり、亀裂が生じたりすることで、所望の要求性能を有するマイクロポーラス層15の形成が困難となる。更に、乾燥・焼成工程での負荷や自然環境に与える負荷が増え、製造コストも高くなる。
ポリオキシエチレントリデシルエーテル等の分散剤の使用では、乾燥・焼成温度を250℃〜350℃の範囲内とすることで、分散剤及び水分が完全に分解・揮発して消失し残存することなく、発電効率に大きく影響を与えるガス拡散層14の重要特性である撥水性を確保でき、かつ、所望特性のマイクロポーラス層15の形成と導電性多孔質基材16との良好な接合を確保することができる。
特に、上述したように、本実施の形態においては、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物にカーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子との併用により、水分量を減らしても粘度上昇が抑えられ、分散に必要な界面活性剤(分散剤)の使用量が少なくて済むから、従来より乾燥・焼成温度を低くしても、分散剤及び水分の除去に要する乾燥・焼成時間が大幅に長くなることはなく短時間の乾燥・焼成で撥水性を発現させることも可能である。即ち、より低温での乾燥・焼成としても分散剤及び水分の除去に要する乾燥・焼成時間が短くて済む。このように乾燥・焼成温度の低減化を図るのが可能となることでも乾燥・焼成にかかる電力を抑えて乾燥・焼成にかかる負荷を軽減でき、製造コストの低減化を図ることが可能である。
また、乾燥・焼成温度の低減化が可能であることで、自然環境に与える負荷を軽減することができ、更に、高温加熱に起因する塗膜成分の劣化やクラックの発生、導電性多孔質基材16への定着力の低下等を防止できる。
なお、乾燥と焼成の順序は特に問われず、乾燥と焼成が同時に行われることもある。また、主に分散剤の分解除去を行うための熱処理と、主に撥水性樹脂の溶融による結着を行うための熱処理とで乾燥・焼成の温度や時間条件を変え、各熱処理を分けて行うことも可能である。
このようにして、導電性多孔質基材16の片面にマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を塗布して、乾燥・焼成することにより、導電性多孔質基材16上にマイクロポーラス層15が形成されて、導電性多孔質基材16及びマイクロポーラス層16からなる燃料電池用ガス拡散層14が得られるが、このような導電性多孔質基材16の片面にマイクロポーラス層15を形成した燃料電池用拡散層14が組み込まれた燃料電池1では、マイクロポーラス層15によってガス拡散性及び水管理性が向上し発電性能が安定化する。また、マイクロポーラス層15の成分調節により、導電性多孔質基材16のみでは困難である電池の使用環境や運転条件等に応じた性能の制御性を獲得できる。更に、マイクロポーラス層15によって導電性多孔質基材16の起伏を吸収して平滑な表面が得られ、また、導電性多孔質基材16の炭素繊維がほつれや毛羽立ちしても、導電性多孔質基材16の炭素繊維が触媒層13と接触することを回避でき、導電性多孔質基材16の炭素繊維と触媒層13によって起こる短絡(ショート)の発生を予防できる。
殊に、導電性を付与する導電性材料として粉末状のカーボン粒子を使用した本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、形成されるマイクロポーラス層15の表面が均一になりやすく、触媒層13との接触抵抗が低く、また、ガスの拡散が均一になるから、燃料電池1の高出力化が可能となる。
また、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物においてカーボンブラックを含有している場合には、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の塗布対象としてカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等からなる導電性多孔質基材16との相性が良く、製造品質を均一化でき燃料電池1において安定した出力が得られ易い。中でも、アセチレンブラックは、一般的に高純度であり、マイクロポーラス層15の塗膜の均質化に有利で、燃料電池1の出力が安定しやすい。
このとき塗布型のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成するという簡単な施工作業によって形成され、導電性多孔質基材16との接触性も良く、導電性多孔質基材16の形状により任意の形状に仕上げることができる。
そして、特定の比表面積を有するカーボン粒子を併用したカーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、分散媒(溶媒)とを混合してペースト状に調節したマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成することにより得られた本実施の形態のガス拡散層14では、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物から形成されたマイクロポーラス層15の塗膜中のカーボン粒子の導電パス及び導電性多孔質基材16を構成する炭素繊維等の導電性物質の導電パスによって導電性が発揮され、また、PTFE等の撥水性樹脂によって撥水性が発揮される。更に、ペースト組成物中の撥水性樹脂は、乾燥・焼成時の加熱処理によりその少なくとも一部が軟化・溶融して導電材(マイクロポーラス層15のカーボン粒子や導電性多孔質基材16の炭素繊維等の導電性物質)を結着する樹脂バインダーとしての機能も有する。加えて、マイクロポーラス層15には、導電性多孔質基材16の空隙(細孔)よりも小さい微細孔が形成され、ガス拡散性や排水性が確保される。
特に、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、導電性を付与するためのカーボン粒子として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子を併用し、低比表面積カーボン粒子と高比表面積カーボン粒子が4:6≦低比表面積のカーボン粒子:高比表面積のカーボン粒子≦7:3の比率で配合されていることで、平滑な塗膜を形成でき、かつ、導電性を確保しつつガス透過性を向上させることができ、ガス透過性及び導電性が両立したマイクロポーラス層15を形成できることから、燃料電池1のガス拡散層14への適用により、電池の出力を向上させることができる。
また、低比表面積のカーボン粒子:高比表面積のカーボン粒子=4:6〜7:3の範囲内においては、低比表面積カーボン粒子と高比表面積カーボン粒子の混合比率を変更することで、所定の導電性を維持したままで、ガス透過性を容易に調節することができる。よって、燃料電池1の目的に特化したガス拡散特性を容易に設計できる。
更に、カーボン粉末として比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子及び比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子を併用した本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、高比表面積のカーボンブラックを主流とした従来よりもカーボン粉末全体の比表面積が低減化されることで、固形分が多くても粘度が上昇し過ぎず塗布に適した粘度となるから、塗布時にペースト状に調節する際の水分量が少なくて済む。更には、カーボン粒子の分散に必要な分散剤の量も少なくて済む。したがって、水分や分散剤の熱分解・揮発に要する乾燥・焼成時間を短くでき、または、乾燥・焼成温度を低くでき、製造コストの低減化が可能である。
また、水分量及び分散剤の量が少なく済むことで、過熱によるクラック等が生じることない負荷の少ない乾燥・焼成でも分散剤及び水分が十分に除去されてマイクロポーラス層15に残存することがないから、燃料電池1の発電効率に影響を与えるガス拡散層14の重要特性である撥水性も長時間良好に維持される。更に、マイクロポーラス層15において高いガス透過性が得られることから、電池反応で生成した水の排出がスムーズに行われて水の滞留が起こり難くなり、フラッディング現象も防止される。また、分散剤や水分が残存しないことで、撥水性樹脂によるカーボン粒子の結着が阻害されることもなく、カーボン粒子の脱落が防止される。よって、高負荷時の特性にも優れ、反応ガスの利用率が低下することなく反応ガスの安定した拡散性が維持されることから、燃料電池1において長期間安定した出力を維持でき、また、要求発電量の増加に対しても速やかに追従することができ、高い電池性能を発揮させることができる。そして、このように製造品質を均一化でき、長期間安定して作動できるから、高い反応活性が必要とされる固体高分子形燃料電池の膜電極接合体10にも好適に用いることができる。
次に、本発明の実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の配合組成を具体的に示して、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びそのマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を用いて作製した燃料電池用ガス拡散層の実施例について説明する。
まず、本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の配合組成として表1に示す配合内容で、実施例1乃至実施例4の配合のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を作製した。また、比較のために、比較例1乃至比較例5に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物も併せて作製した。各実施例の配合内容を表1の上段に示し、各比較例の配合内容を表1の下段に示す。
Figure 2018129254
本実施例1乃至実施例4に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物では、カーボン粉末として、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子である比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)と、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子である比表面積が5〜50m2/gの黒鉛を配合した。
また、撥水性樹脂としてPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])、分散剤として界面活性剤であるポリオキシエチレントリデシルエーテル、及び溶媒としてのイオン交換水を配合した。なお、PTFEエマルジョンにも、PTFE微粒子を安定化させるための非イオン系界面活性剤(分散剤)が含まれている。
各材料の配合量は表1に示した通りである。実施例1乃至実施例4では、カーボン粉末の総量、即ち、アセチレンブラック及び黒鉛の合計量が全て75.0gで統一され、また、PTFEエマルジョンが21.7g(固形分13.2g)で統一されているが、各実施例でアセチレンブラックと黒鉛の配合量は異なり、それに伴ってポリオキシエチレントリデシルエーテル及びイオン交換水の配合量も異なっている。なお、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の全固形分中においてカーボン粉末は81〜82質量%、PTFE樹脂(固形分)は14〜15質量%である。また、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の比表面積は、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラック比表面積の5%〜80%の範囲内となっている。
そして、実施例1では、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が70質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が30質量部となっている。
即ち、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が7/3であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が70質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が30質量%である。
実施例2では、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が60質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が40質量部となっている。
即ち、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が3/2であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が60質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が40質量%である。
実施例3では、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が50質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が50質量部となっている。
即ち、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が1/1であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が50質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が50質量%である。
実施例4では、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が40質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が60質量部となっている。
即ち、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が2/3であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が40質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が60質量%である。
なお、実施例1乃至実施例4では、高比表面積カーボン粒子100質量部に対して、低比表面積カーボン粒子の配合量が66質量部〜233質量部の範囲内である。
一方、比較例1乃至比較例4に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物では、実施例1乃至実施例4と同様、撥水性樹脂としてPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])、分散剤として界面活性剤であるポリオキシエチレントリデシルエーテル、及び溶媒としてのイオン交換水を配合するも、実施例1乃至実施例4とはカーボン粉末の配合内容、配合組成、配合量を変えている。なお、比較例1乃至比較例5においても、カーボン粉末の総量は全て75.0gで統一され、また、PTFEエマルジョンが21.7g(固形分13.2g)で統一されているが、カーボン粒子、分散剤及びイオン交換水の配合量は異なっている。
即ち、表1の下段に示すように、比較例1では、カーボン粉末として、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子である比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)のみを配合した。なお、カーボン粉末としてこのアセチレンブラックのみの配合である比較例1は従来品に相当する。
比較例2では、カーボン粉末として、実施例1乃至実施例4と同様、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子である比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)と、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子である比表面積が5〜50m2/gの黒鉛を併用して配合するも、実施例1乃至実施例4よりも高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量を増やし、高比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量を減らしている。
即ち、比較例2の配合は、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が30質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が70質量部となっており、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が3/7であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が30質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が70質量%である。
一方、比較例3では、カーボン粉末として、実施例1乃至実施例4と同様、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子である比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)と、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子である比表面積が5〜50m2/gの黒鉛を併用して配合するも、実施例1乃至実施例4よりも高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量を減らし、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量を増やしている。
即ち、比較例3の配合は、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛及び高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックの総量(カーボン粉末の総量)を100質量部としたときに、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合量が80質量部で、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合量が20質量部となっており、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が4/1であり、カーボン粉末全体に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が80質量%、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの含有量が20質量%である。
また、比較例4では、カーボン粉末として、実施例1乃至実施例4と同一の高比表面積カーボン粒子である比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)と、実施例1乃至実施例4で使用したカーボン粒子よりも更に低い比表面積を有する比表面積3〜5m2/gの黒鉛とを配合した。アセチレンブラックと比表面積3〜5m2/gの黒鉛の配合は、実施例1のときと同様としている。
更に、比較例5では、カーボン粉末として、実施例1乃至実施例4と同一の比表面積が69m2/gのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック(登録商標)」)と、このアセチレンブラックとは別に、高比表面積のカーボン粒子である比表面積50m2/g〜100m2/gのファーネスブラックとを配合した。
これら実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例5に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、表1に示した配合量で各配合材料を配合し、公転800rpm、自転900rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)で4分間混合分散・脱泡することにより調製を行ってペースト状とした。
そして、これら実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例5に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を用いて燃料電池用ガス拡散層14を作製し、このガス拡散層14について、ガス透過性及び導電性の評価試験を行った。
ガス拡散層14は、導電性多孔質基材16としてのカーボンペーパーに対し、その片面に、薄膜塗布工具(ダイヘッド)を用いて、移動速度1.0m/min、目付け4.0mg/cm2の条件で各実施例、比較例のマイクロポーラス層形成用ペーストを塗布し、その後、300℃で所定時間(10分〜20分)乾燥・焼成させることによって作製した。
即ち、実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例5にかかる燃料電池用のガス拡散層14は、カーボンペーパーからなる導電性多孔質基材16の表面に実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例5に係るペースト状に調製したマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥・焼成してなるものであり、カーボンペーパーからなる導電性多孔質基材16の表面にマイクロポーラス層形成用ペースト組成物から形成されたマイクロポーラス層15の塗膜を有する。
そして、このようにして作製されたガス拡散層14について、ガス透過性の評価指標として法線透気度の測定を行い、導電性の評価指標として抵抗値の測定を行った。
法線透気度については、50Φに打ち抜いたガス拡散層14の厚み方向の片側を圧力室とし、ガス拡散層14の厚み方向の他の片側を開放室とするようにガス拡散層14を試験装置にセットし、ガス拡散層14の厚み方向の片側の圧力室において荷重1260N(面圧1.8MPa)(荷重測定器(WGA-710B):(株)共和産業)下で0.5L/min、0.7L/min、0.9L/minの窒素ガス(流量コントローラ(PAC-D2):(株)堀場エステック)を供給し、開放室との差圧(差圧計(GPG-204C11):(株)岡野製作所)を測定した。そして、差圧の傾きから算出したガス透気度(平均値)の値[1.0×10-6m/(Pa・Sec)]が3.0以上と、従来品(比較例1)よりも数値が上回ったものを合格(○)とし、3.0未満を不合格(×)とした。
また、抵抗値の測定については、ベリリウム銅からなるブロック間にガス拡散層14を挟み、1080Nの荷重(面圧1MPa)(荷重測定器(K3HB-VLC-C2BT11):オムロン(株))をかけた状態で通電(1A×1〜5MPa)し、ガス拡散層14の単位面積当たりの厚み方向の電気抵抗(抵抗計(3566):鶴賀電機(株))を測定した。電気抵抗(平均値)の測定値[mΩ・cm2]が15以下であれば導電性が良好であると判断して合格(○)とし、15を超えるものは導電性が不足していると判断して不合格(×)とした。
ガス透過性及び導電性の評価結果については、表1の右蘭に示した通りである。
表1に示したように、実施例1乃至実施例4は、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子である5〜50m2/gの比表面積を有する黒鉛粉末と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子である69m2/gの比表面積を有するアセチレンブラック粉末とが併用され、それらの配合比率が、低比表面積のカーボン粒子である黒鉛:高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラック=4:6〜7:3の範囲内、即ち、カーボン粉末全体に対する低比表面積カーボン粒子の黒鉛の配合比率が40〜70%の範囲内で、高比表面積カーボン粒子のアセチレンブラックの配合比率が30〜60%の範囲内である。
その結果、実施例1乃至実施例4では何れもガス透過性について、ガス透気度が4.4〜11.2[1.0×10-6m/(Pa・Sec)]と高いガス透過性を示し、○(合格)の評価であり、更に、導電性についても、抵抗値が11[mΩ・cm2]と低く高い導電性を示し、○(合格)の評価であった。
また、表1で示すように、実施例1乃至実施例4においては、カーボン粉末中の高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの配合割合が少なり低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合割合が多くなるにつれて、抵抗値は一定であるもののガス透気度が増加している。これより、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックと低比表面積であるカーボン粒子の配合割合の調節のみで、導電性を維持しつつガス透過性を制御できることが分かる。
このように、実施例1乃至実施例4は、ガス透過性及び導電性が高く、高ガス透過性及び高導電性が両立したマイクロポーラス層15を形成できるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物である。
これに対し、従来品である比較例1は、カーボン粉末として高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックのみを配合したものである。
この結果、比較例1では、導電性については抵抗値が低く○(合格)の評価であるも、実施例1乃至実施例4と比較してガス透過性が劣っている。
また、比較例2は、カーボン粉末として高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックと低比表面積カーボン粒子である黒鉛を併用するも、カーボン粉末全体に対して、実施例1乃至実施例4よりも低比表面積カーボン粒子の割合が少なく、カーボン粉末全体において低比表面積カーボン粒子の含有量がわずか30質量%であり、両者の配合比が、低比表面積カーボン粒子の黒鉛:高比表面積カーボン粒子のアセチレンブラック=3:7である。
この結果、比較例2では、導電性については抵抗値が低く○(合格)の評価であるも、従来品である比較例1とガス透過性が同等であり、ガス透過性の向上効果が見られなかった。
比較例3は、カーボン粉末として高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックと低比表面積カーボン粒子である黒鉛を併用するも、実施例1乃至実施例4よりも低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合割合が多く、カーボン粉末全体において低比表面積カーボン粒子である黒鉛の含有量が80質量%であり、両者の配合比が、低比表面積カーボン粒子の黒鉛:高比表面積カーボン粒子のアセチレンブラック=4:1である。
この結果、比較例3では、比較例3の配合に係るマイクロポーラス層形成用ペーストをカーボンペーパーからなる導電性多孔質基材16に塗布し、乾燥・焼成するも、導電性多孔質基材16上に形成されたマイクロポーラス層15の塗膜は、凹凸が大きく、燃料電池1の出力の安定のためにガス拡散層14に要求されるマイクロポーラス層15の塗膜平滑性に劣っていた。このため、比較例3に係るガス拡散層14においては、燃料電池1に適用した際に触媒層13との接合性が低下するから、燃料電池1の出力の向上が困難であると判断し、ガス透過性及び導電性の評価試験を行わなかった。
比較例4は、カーボン粉末として高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとアセチレンブラックよりも低比表面積のカーボン粒子とを併用するも、比表面積が3〜5m2/gと実施例1乃至実施例4よりも更に比表面積が低い黒鉛を配合したものである。なお、アセチレンブラック及び比表面積が3〜5m2/gの黒鉛の配合割合は、実施例1のときと同様としている。
この結果、比較例4では、ガス透過性については○(合格)の評価であるも、導電性については、抵抗値が19[mΩ・cm2]と高く、×(不合格)の評価であり、導電性が不足している。
比較例5は、カーボン粉末として高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックと、同じく高比表面積カーボン粒子である比表面積が50〜100m2/gのファーネスブラックを併用したものである。
この結果、比較例5では、導電性については抵抗値が低く○(合格)の評価であるも、従来品である比較例1とガス透過性が同等であり、ガス透過性に劣っている。
このように比較例1、比較例2、比較例4及び比較例5では、導電性とガス透過性を両立させることができず、また、比較例3では塗膜の平滑性において実用性に欠けるものとなっている。
即ち、低比表面積カーボン粒子である黒鉛及び高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックの総量に対して、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合比率が40質量%未満では、ガス透過性を向上させることができず、一方で、低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合比率が70質量%を超えると、平滑な塗膜を形成することができず、燃料電池1に適用した際に触媒層13との接合性に欠け、ガス拡散層14としての機能が大幅に低下し、燃料電池1の出力を高めることができない。
また、5m2/g未満である比表面積を有するカーボン粒子を高比表面積カーボン粒子と併用しても、電気抵抗が高くなり、導電性とガス透過性を両立させることができない。
更に、本発明者らの実験研究によって100m2/gを超える比表面積を有するカーボン粒子では、低比表面積カーボン粒子と併用しても、ガス透過性や強度が低下することが判明している。これは、比表面積が高すぎることで、カーボン粒子が凝集し易くなって分散性が低下し、均一な細孔が形成され難くなるためである。
これに対し、実施例1乃至実施例4では、導電性を確保しつつ、ガス透過性を向上させることができ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成できるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物が得られている。
即ち、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積カーボン粒子である黒鉛と、比表面積が50m2/gを超えて100m2/g以下の高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックを併用し、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2を4/6〜7/3の範囲内とすることにより、導電性及びガス透過性に優れ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成できる。
そして、低比表面積カーボン粒子である黒鉛と高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックとの配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内であれば、高比表面積カーボン粒子であるアセチレンブラックと低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合割合を調節するだけで、所定の導電性を維持しながらガス透過性の調節が容易に可能である。特に、実施例1乃至実施例4の比較から、高比表面積のカーボン粒子であるアセチレンブラックよりも低比表面積カーボン粒子である黒鉛の配合割合を多くすることで、導電性を低下させることなく、ガス透過性を向上させることができる。
こうして、実施例1乃至実施例4に係るマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によって得られたマイクロポーラス層15によれば、従来品である比較例1と比較して、導電性を確保しつつガス透過性が向上され、導電性及びガス透過性が両立している。
以上説明してきたように、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボン粉末と、PTFE等の撥水性樹脂と、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等の分散剤とを含有するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物であって、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積の黒鉛等のカーボン粒子と、比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のアセチレンブラック等のカーボン粒子を併用し、低比表面積カーボン粒子(M1)と高比表面積のカーボン粒子(M2)の配合比M1/M2を4/6〜7/3の範囲内としたものであり、低比表面積カーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子の総量に対して、低比表面積カーボン粒子の比率が40〜70%の範囲内、高比表面積カーボン粒子の比率が30%〜60%の範囲内とされている。
このような本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、比表面積が高いカーボン粒子と比表面積が低いカーボン粒子を所定の配合比率で併用したことで、導電性を確保しつつも、ガス透過性をさせることができ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成できる。
また、M1/M2が4/6〜7/3の範囲内であれば、高比表面積のカーボン粒子と低比表面積のカーボン粒子の配合割合を調節するだけで、導電性を維持しつつ、ガス透過性の調節が容易に可能であり、特に、高比表面積のカーボン粒子よりも低比表面積のカーボン粒子の配合割合を多くすることで、導電性を低下させることなく、ガス透過性を向上させることができる。
更に、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、カーボン粉末として、最小で5m2/gの比表面積、最大でも100m2/gの比表面積を有するカーボン粒子の使用により、凝集体が少なくて固形分が多くても粘度が上昇し過ぎず塗布に適した粘度となるから、塗布時にペースト状に調節する際の水分量が少なくて済む。加えて、カーボン粒子の分散に必要な分散剤(界面活性剤等)の量も少なくて済む。したがって、水分や分散剤の熱分解・揮発に要する乾燥・焼成時間を短くできたり乾燥・焼成温度を低くできたりして乾燥・焼成工程の負荷を軽減できる。よって、低コストが可能である。
こうして、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、導電性を確保しつつガス透過性を向上させることができ、導電性及びガス透過性を両立させることができるうえ、塗布後の乾燥・焼成工程の負荷を軽減でき、コストを抑えることができる。
そして、このように導電性を確保しつつ、ガス透過性が向上され、かつ、塗膜の平滑性も良いことから、燃料電池1のガス拡散層14への適用により、電池の出力を向上させることができる。
また、上記実施の形態は、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子との配合比率M1/M2が4/6〜7/3の範囲内であるカーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、分散媒とを遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法の発明と捉えることもできる。
かかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法によれば、比表面積が高いカーボン粒子と比表面積が低いカーボン粒子を所定の配合比率で併用したことで、導電性を確保しつつも、ガス透過性をさせることができ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15を形成できる。また、凝集体が少なくて固形分が多くても粘度が上昇し過ぎず塗布に適した粘度となるから、塗布時にペースト状に調節する際の水分量が少なくて済む。加えて、カーボン粒子の分散に必要な分散剤(界面活性剤等)の量も少なくて済む。したがって、水分や分散剤の熱分解・揮発に要する乾燥・焼成時間を短くできたり乾燥・焼成温度を低くできたりして乾燥・焼成工程の負荷を軽減できる。よって、低コストが可能である。
そして、遊星式撹拌・脱泡装置によって混合分散時に高い剪断応力をかけなくとも混合分散できるから、水分量を少なくしても高い塗工性が得られ、また、カーボンの構造を維持して塗膜強度の向上を図ることができる。
更に、上記実施の形態は、カーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤とを含有し、カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子との配合比率を、低比表面積のカーボン粒子/高比表面積のカーボン粒子=4/6〜7/3の範囲内としたマイクロポーラス層形成用ペースト組成物が導電性多孔質基材16に塗布され、乾燥・焼成されてなる燃料電池用ガス拡散層14の発明と捉えることもできる。
かかるガス拡散層14においては、マイクロポーラス層15を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物が比表面積が高いカーボン粒子と比表面積が低いカーボン粒子を所定の配合比率で併用したことで、導電性を確保しつつも、ガス透過性をさせることができ、導電性及びガス透過性が両立する。また、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物では凝集体が少なくて固形分が多くても粘度が上昇し過ぎず塗布に適した粘度となるから、塗布時にペースト状に調節する際の水分量が少なくて済む。加えて、カーボン粒子の分散に必要な分散剤(界面活性剤等)の量も少なくて済む。したがって、水分や分散剤の熱分解・揮発に要する乾燥・焼成時間を短くできたり乾燥・焼成温度を低くできたりして乾燥・焼成工程の負荷を軽減できる。よって、製造の低コストが可能である。また、M1/M2が4/6〜7/3の範囲内であれば、高比表面積のカーボン粒子と低比表面積のカーボン粒子の配合割合を調節するだけで、導電性を維持しつつ、ガス透過性の調節が容易に可能であり、特に、高比表面積のカーボン粒子よりも低比表面積のカーボン粒子の配合割合を多くすることで、導電性を低下させることなく、ガス透過性を向上させることができる。
更に、上記実施の形態は、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、低比表面積のカーボン粒子と高比表面積のカーボン粒子との配合比率が、低比表面積のカーボン粒子/高比表面積のカーボン粒子=4/6〜7/3の範囲内であるカーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、分散媒とを遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散して作製したマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材16に塗布し、乾燥・焼成する燃料電池用ガス拡散層14の製造方法の発明と捉えることもできる。
かかるガス拡散層14の製造方法によれば、マイクロポーラス層15を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物が比表面積が高いカーボン粒子と比表面積が低いカーボン粒子を所定の配合比率で併用したことで、導電性を確保しつつも、ガス透過性をさせることができ、導電性及びガス透過性が両立したマイクロポーラス層15が形成されたガス拡散層14が得られる。また、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物では凝集体が少なくて固形分が多くても粘度が上昇し過ぎず塗布に適した粘度となるから、塗布時にペースト状に調節する際の水分量が少なくて済む。加えて、カーボン粒子の分散に必要な分散剤(界面活性剤等)の量も少なくて済む。したがって、水分や分散剤の熱分解・揮発に要する乾燥・焼成時間を短くできたり乾燥・焼成温度を低くできたりして乾燥・焼成工程の負荷を軽減できる。よって、製造の低コストが可能である。
そして、遊星式撹拌・脱泡装置によって混合分散時に高い剪断応力をかけなくとも混合分散できるから、水分量を少なくしても高い塗工性が得られ、また、カーボンの構造を維持して塗膜強度の向上を図ることができる。
なお、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びそれを用いて作製した燃料電池用ガス拡散層14は固体高分子形燃料電池1に限らず、例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池等のその他燃料電池にも適用可能である。
また、本発明を実施するに際しては、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物、燃料電池用の拡散層14のその他の部分の組成、成分、配合量、材質、その他の製造工程について、本実施の形態に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
15 マイクロポーラス層

Claims (4)

  1. カーボン粉末と、撥水性樹脂と、分散剤とを含有するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物であって、
    前記カーボン粉末として、比表面積が5m2/g以上、50m2/g以下の低比表面積のカーボン粒子と、
    比表面積が50m2/gを超えて、100m2/g以下の高比表面積のカーボン粒子とを併用し、
    前記低比表面積のカーボン粒子と前記高比表面積のカーボン粒子との配合比率を、低比表面積のカーボン粒子/高比表面積のカーボン粒子=4/6〜7/3の範囲内としたことを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
  2. 前記低比表面積のカーボン粒子の比表面積が、前記高比表面積のカーボン粒子の比表面積の5%〜80%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
  3. 前記高比表面積のカーボン粒子は、アセチレンブラックであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
  4. 前記低比表面積のカーボン粒子は、黒鉛であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
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