本発明の膜−導電性多孔シート接合体は、導電性多孔シートと触媒層との最小90°剥離強度が0.06N/cm以上と、導電性多孔シートと触媒層とが良好に接着している。よって、使用時における膜の膨潤と収縮による寸法変化を抑えることができ、その変形による応力を小さくすることができるため、触媒層の破断や膜からの剥離を防止し、発電性能の優れる電池を作製可能である。
(導電性多孔シート)
本発明の膜−導電性多孔シート接合体を構成する導電性多孔シートは導電性粒子を含有する導電性繊維を含有している。この導電性繊維は無機成分から構成されていても、有機成分から構成されていても、無機成分と有機成分の両方から構成されていても良いが、有機成分から構成されている導電性繊維を含有する導電性多孔シートは柔軟性を有するため、導電性多孔シートと隣接する部材(例えば、触媒層、ガス拡散層、バイポーラプレートなど)との隙間を小さくすることができ、電子や熱の界面抵抗を小さくでき、結果として、発電性能の優れる電池を作製しやすいため好適である。
また、導電性繊維を構成できる有機成分は疎水性有機樹脂であっても、親水性有機樹脂であっても良く、特に限定するものではない。前者の疎水性有機樹脂であると、フッ素系樹脂等の疎水性樹脂を導電性多孔シートに付与しなくても疎水性に優れているため、排水性に優れている。例えば、固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体、又は空気電池の固体電解質膜−電極接合体として膜−導電性多孔シート接合体を使用した場合、電池使用時に発生する液滴の排出能を向上させることができる。他方で、親水性有機樹脂であると、膜が含水状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜である場合、膜の湿潤状態を保つことができ、また、水系電解液を用いる空気電池やレドックスフロー電池などの場合、電解液を導電性多孔シート全体、つまり電極全体に拡散させることができる。なお、有機樹脂にダイヤモンド、グラファイト、無定形炭素は含まない。
この「疎水性有機樹脂」とは、水との接触角が90°以上の有機樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などのフッ素系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂;などを挙げることができる。なお、これら疎水系有機樹脂は単独で用いることもできるし、2種類以上を混合又は複合していても良い。これらの中でもフッ素系樹脂は耐熱性、耐薬品性、疎水性が強いため、好適である。
他方、「親水性有機樹脂」とは、水との接触角が90°未満の有機樹脂であり、その例として、レーヨンなどのセルロース;ポリアクリロニトリル、酸化アクリル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのアクリル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;親水性ポリウレタン;ポリビニルピロリドン;フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂;などの親水性基(アミド基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基等)を有する樹脂を挙げることができる。また、これらの親水性有機樹脂は単独で用いることもできるし、2種類以上混合又は複合していても良い。なお、本発明の導電性繊維は疎水性有機樹脂1種類以上及び/又は親水性有機樹脂1種類以上とが、混合又は複合した状態にあっても良い。これら親水性有機樹脂の中でも、剛性の高い導電性繊維であることができ、触媒層と接合することによって、膜の膨潤及び収縮を抑制しやすい、熱硬化性樹脂を含んでいるのが好ましい。熱硬化性樹脂の中でもフェノール樹脂又はエポキシ樹脂は耐熱性、耐酸性、かつ剛性に優れているため好適である。
本発明の導電性多孔シートを構成する導電性繊維は電子移動性に優れているように、導電性粒子を含有している。この導電性粒子は電気抵抗率が105Ω・cm以下の粒子であり、導電性に優れているように、103Ω・cm以下であるのが好ましく、101Ω・cm以下であるのがより好ましい。このような導電性粒子は特に限定するものではないが、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、金属粒子、金属酸化物粒子などを挙げることができる。これらの中でもカーボンブラックは耐薬品性、導電性及び分散性の点で好適である。なお、導電性粒子の粒径は特に限定するものではないが、平均一次粒径が5nm〜200nmであるのが好ましく、10nm〜100nmであるのがより好ましい。この導電性粒子の平均一次粒径は脱落しにくく、また、繊維形態を形成しやすいように、導電性繊維の繊維径よりも小さいのが好ましい。また、気相法炭素繊維などのカーボンナノファイバーは繊維形態であることによって、導電性繊維の剛性を高めることができ、膜の膨潤及び収縮を抑制しやすいため好適である。
このような導電性粒子は導電性繊維において、どのように存在していても良いが、繊維内部においても存在しているのが好ましい。導電性繊維の外側表面にのみ導電性粒子が存在していると、繊維内部成分が抵抗成分となり、導電性に劣る傾向があるためである。導電性という観点から、導電性繊維表面に、少なくとも一部が露出した導電性粒子と、導電性繊維内部に埋没した導電性粒子の両方を含んでいるのが好ましい。なお、導電性繊維は、繊維径のばらつきが比較的少なく、導電性多孔シート表面の平滑性に優れるように、分岐した構造を有しないのが好ましい。このような導電性粒子を含有する導電性繊維は、例えば、樹脂と導電性粒子とを含む紡糸液を紡糸することによって得ることができる。
本発明の導電性繊維は導電性粒子を含有する繊維であり、導電性粒子の含有量は特に限定するものではないが、導電性に優れているように、導電性粒子と樹脂との質量比は10〜90:90〜10であるのが好ましく、20〜80:80〜20であるのがより好ましく、30〜70:70〜30であるのが更に好ましい。導電性粒子が10mass%未満であると、導電性が不足しやすい傾向があり、導電性粒子が90mass%を超えると、繊維形態保持性が低下する傾向があるためである。
本発明の導電性多孔シートを構成する導電性繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、10nm〜10μmであるのが好ましく、50nm〜7μmであるのがより好ましく、100nm〜5μmであるのが更に好ましい。平均繊維径が10μmよりも太いと、導電性繊維同士の接触点が少なく、導電性が不足しやすい傾向があり、他方で、10nmよりも細いと、繊維内部に導電性粒子を含有しにくい傾向があるためである。なお、導電性繊維の平均繊維径は導電性粒子が脱落しにくいように、導電性粒子の一次粒子径の5倍以上であるのが好ましい。
本発明における「平均繊維径」は40点における繊維径の算術平均値を意味し、「繊維径」は顕微鏡写真をもとに計測した値であり、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維のみから構成されている場合には、繊維表面から露出した導電性粒子を含めた直径を意味し、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維を含有していないか、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維を含有していても、導電性粒子が繊維表面から露出していない部分を有する導電性繊維を含んでいる場合には、導電性粒子が繊維表面から露出していない部分における直径を意味する。
本発明の導電性繊維は電子の移動性に優れているように、連続繊維であるのが好ましい。このような導電性連続繊維は、例えば、静電紡糸法、スパンボンド法により製造することができ、特に、静電紡糸法により形成した導電性連続繊維は電子の移動性に優れているため好適である。本発明における「連続繊維」とは、電子顕微鏡を用いる導電性多孔シートの写真撮影を、撮影画像の一辺が導電性繊維の平均繊維径の60倍程度の長さとなる倍率で行なった場合に、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数が0.3以下であることを意味する。つまり、電子顕微鏡写真20枚における導電性繊維の端部の総数を撮影枚数(20枚)で除した、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数が0.3以下であることを意味する。なお、その写真撮影は、導電性多孔シートの切断部を含まない中央部における、連続的に異なる箇所において行なう。例えば、平均繊維径が1μmの導電性繊維が連続繊維であるかどうかを確認する場合、電子顕微鏡を用いる写真撮影を、導電性多孔シートの切断部を含まない中央部における、連続的に異なる箇所において、撮影画像の一辺が60μm程度となる倍率(2500倍)で20枚行ない、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数を算出し、0.3以下であれば、連続繊維と考えることができる。
本発明の導電性多孔シートは上述のような導電性繊維を含有するものであるが、導電性多孔シートが本来有する多孔性を利用して、通液性およびガス拡散性に優れるように、フッ素系樹脂及び/又は導電性粒子(例えば、カーボン粒子)など、何も充填されていないのが好ましい。つまり、導電性繊維などの繊維のみから構成されているのが好ましく、導電性繊維のみから構成されているのがより好ましい。
本発明の導電性多孔シートの形態は特に限定するものではないが、例えば、不織布、織物、編物であることができる。これらの中でも不織布形態であると、孔径が比較的揃っており、通液性およびガス拡散性に優れていることができるため好適である。
本発明の導電性多孔シートが不織布形態からなる場合、導電性繊維同士は接着剤によって結合していても良いが、導電性に優れるように、導電性繊維を構成する樹脂によって結合しているのが好ましい。この好適である樹脂の結合として、例えば、導電性繊維同士の絡合、溶媒による可塑化結合、熱による融着、又は硬化による結合を挙げることができる。
本発明の導電性多孔シートにおける導電性繊維の含有割合は、電子の移動性に優れるように、10mass%以上であるのが好ましく、50mass%以上であるのがより好ましく、70mass%以上であるのが更に好ましく、90mass%以上であるのが更に好ましく、導電性繊維のみ(100mass%)から構成されているのが特に好ましい。なお、導電性繊維以外の繊維として、フッ素繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維などの疎水性有機樹脂繊維、セルロース、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、親水性ポリウレタン繊維などの親水性有機樹脂繊維、又はフェノール繊維などの熱硬化性樹脂繊維などを含んでいることができる。
本発明の導電性多孔シートは導電性繊維以外の繊維を含んでいることができるが、導電性に優れているように、電気抵抗が300mΩ・cm2以下であるのが好ましく、150mΩ・cm2以下であるのがより好ましく、50mΩ・cm2以下であるのが更に好ましい。本発明の「電気抵抗」は、5cm角に切断した導電性多孔シート(25cm2)を両面側から金メッキを施した金属プレートで挟み、金属プレートの積層方向に、2MPaで加圧下、1Aの電流(I)を印加した状態で、電圧(V)を計測する。続いて、抵抗(R=V/I)を算出し、更に、導電性多孔シートの面積(25cm2)を乗じることによって得られる値である。
なお、導電性多孔シートは導電性に優れるように、導電性粒子は導電性多孔シートの10〜90mass%を占めているのが好ましく、20〜80mass%を占めているのがより好ましく、30〜70mass%を占めているのが更に好ましい。
本発明の導電性多孔シートの目付は特に限定するものではないが、取り扱い性、生産性の点から0.1〜100g/m2であるのが好ましく、0.1〜50g/m2であるのがより好ましい。また、厚さも特に限定するものではないが、1〜500μmであるのが好ましく、1〜250μmであるのが更に好ましく、3〜100μmであるのが更に好ましい。導電性多孔シートの厚さが薄い程、抵抗が低く、また、膜−導電性多孔シート接合体の占める体積を小さくすることができる。この「目付」は導電性多孔シートを10cm角に切断して試料を調製し、その試料の質量から1m2の大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−321:測定力1.5N以下)を用いて測定した値をいう。
本発明の導電性多孔シートは本来有する多孔性を利用して、面方向においても、通液性およびガス拡散性に優れるように、60%以上の空隙率を有するのが好ましく、70%以上の空隙率を有するのがより好ましく、80%以上の空隙率を有するのが更に好ましい。なお、空隙率の上限は特に限定するものではないが、形態安定性の点から99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましい。この「空隙率P(単位:%)」は次の式から得られる値をいう。
P=100−(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは導電性多孔シートを構成する成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn=[M×Prn/(T×SGn)]×100
ここで、Mは導電性多孔シートの目付(単位:g/cm2)、Tは導電性多孔シートの厚さ(単位:cm)、Prnは導電性多孔シートにおける成分n(例えば、樹脂、導電性粒子)の存在質量比率、SGnは成分nの比重(単位:g/cm3)を、それぞれ意味する。
本発明の導電性多孔シートを構成する導電性繊維表面はフッ素系樹脂で被覆されていても良い。このようにフッ素系樹脂で被覆されていると、疎水性に優れ、排水性に優れている。例えば、固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体、又は空気電池の固体電解質膜−電極接合体として膜−導電性多孔シート接合体を使用した場合、電池使用時に発生する液滴の排出能に優れている。
このフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などを挙げることができる。
また、導電性多孔シートは導電性に優れるように、導電性多孔シートの空隙に、カーボンを含有していることができる。このカーボンとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどを挙げることができる。
本発明の導電性多孔シートは常法により製造することができる。例えば、好適である不織布形態の導電性多孔シートを構成する導電性繊維は、樹脂と導電性粒子とを混合した紡糸液を用いて紡糸して得ることができ、この紡糸した導電性繊維を直接捕集し、集積すれば、繊維ウエブを形成することができる。この繊維ウエブが適度に絡合していることによって、ある程度の強度があれば導電性多孔シートとして使用できるし、強度を付与又は向上させるために、溶媒による可塑化、熱による融着、接着剤による接着、樹脂の硬化等により結合して、導電性多孔シ−トとすることもできる。
なお、導電性繊維を直接捕集し、集積して形成した繊維ウエブを構成する導電性繊維は連続繊維であるのが好ましい。連続繊維であることによって、導電性及び強度の点で優れているためである。
また、剛性の強い導電性繊維であるように、熱硬化性樹脂(特にフェノール樹脂又はエポキシ樹脂)を含む紡糸液を用いて紡糸し、導電性繊維とするのが好ましい。更に、導電性繊維が熱硬化性樹脂を含んでいる場合には、熱によって硬化させることによって、導電性繊維の剛性を高めるのが好ましい。なお、後述のように、導電性繊維を構成する熱硬化性樹脂によって導電性多孔シートと触媒層とを接着する場合には、熱硬化性樹脂が半硬化状態である、いわゆるBステージの状態となる条件で熱処理するのが好ましく、この場合、触媒層と接着した後に、完全に硬化した状態となるように熱処理するのが好ましい。この熱硬化性樹脂を硬化させる条件、又は半硬化させる条件は熱硬化性樹脂の種類によって異なるため、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜設定する。
なお、繊維ウエブの形成方法としては、例えば、静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法、或いは特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法、などを挙げることができる。これらの中でも静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法によれば、繊維径の小さい導電性繊維を紡糸できることから、厚さが薄く、抵抗の低い導電性多孔シートとすることができ、また、体積の小さい膜−導電性多孔シート接合体を製造できる。特に、静電紡糸法によれば、連続した導電性繊維を紡糸でき、繊維の端部が少なく、膜を損傷しにくいため好適である。 なお、静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法のように、溶媒に樹脂を溶解させた溶液に導電性粒子を混合した紡糸液を使用する場合、溶媒として、紡糸時に揮散しにくいものを使用し、繊維ウエブを形成した後に、溶媒置換により紡糸溶媒を除去すると、導電性繊維同士が可塑化結合した状態になりやすく、結果として導電性の優れる導電性多孔シートを製造することができ、また、導電性繊維同士が密着して接触抵抗が低くなるため好適である。
また、紡糸した導電性繊維を連続繊維として巻き取り、次いで導電性繊維を所望繊維長に切断して短繊維とした後、公知の乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成し、溶媒による可塑化、熱による融着、接着剤による接着、樹脂の硬化等により結合し、導電性多孔シートとすることもできる。
なお、導電性繊維を構成する樹脂が酸化アクリルである場合、アクリル樹脂と導電性粒子とを混合した紡糸液を紡糸して導電性繊維を形成し、この導電性繊維を含む繊維ウエブを直接的に又は間接的に形成した後、空気中で温度200〜300℃で加熱することによって、アクリル樹脂を酸化アクリルとして、導電性多孔シートの導電性を更に高めることができる。或いは、アクリル樹脂と導電性粒子とを混合した紡糸液を用いて紡糸した導電性繊維を、空気中、温度200〜300℃で加熱することによって、アクリル樹脂を酸化アクリルとした後に、酸化アクリルと導電性粒子からなる導電性繊維を使用して不織布を形成することもできる。
更に、導電性多孔シートが液水を押し出しやすいように、導電性繊維表面をフッ素系樹脂で被覆する場合には、フッ素系樹脂を含む溶液又はペーストを導電性多孔シートに塗布、散布、又は含浸するなどの方法により付与した後、乾燥及び焼成する。導電性多孔シートの空隙にカーボンを含有させる場合も同様に、カーボンとフッ素系樹脂とを含む溶液又はペーストを導電性多孔シートに塗布、散布、又は含浸するなどの方法により付与した後、乾燥及び焼成する。
(膜)
本発明の膜−導電性多孔シート接合体を構成する膜は膜−導電性多孔シート接合体の用途によって異なるが、従来から公知のものであることができる。例えば、膜−導電性多孔シート接合体を固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体として使用する場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、無機−有機複合系樹脂膜などの電解質膜であることができる。
また、膜−導電性多孔シート接合体を空気電池の固体電解質膜−電極接合体として使用する場合には、膜は負極材料に適したイオン伝導性固体電解質であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、無機固体電解質、ポリマー電解質、ゲル状電解質から構成することができる。
更に、膜−導電性多孔シート接合体をレドックスフロー電池の隔膜−電極接合体として使用する場合には、膜は正極活物質のイオンと負極活物質のイオンとの隔離性に優れ、プロトンの透過性に優れるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、陽イオン交換膜や陰イオン交換膜といったイオン交換膜から構成することができる。
なお、いずれの膜も、不織布等の補強材で補強されていても良い。
(触媒層)
本発明の膜−導電性多孔シート接合体の触媒層は膜−導電性多孔シート接合体の用途によって異なるが、従来から公知のものであることができる。
例えば、膜−導電性多孔シート接合体を固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体として使用する場合には、触媒とイオン交換樹脂とを含む層であることができる。この触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、白金、白金合金[ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、スズから選ばれる1種以上の金属と、白金との合金]、或いは白金又は白金合金が、活性炭、カーボンブラック等のカーボンに担持された触媒であることができる。なお、触媒は1種類、又は2種類以上を含むことができる。なお、カソード側触媒層の触媒とアノード側触媒層の触媒とは同じであっても異なっていても良い。一方、イオン交換樹脂は前述の電解質膜と同様であることができる。つまり、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂、無機−有機複合系樹脂などであることができる。特に、電解質膜と同じであると、触媒層と電解質膜との親和性に優れるため好適である。なお、カソード側触媒層のイオン交換樹脂とアノード側触媒層のイオン交換樹脂とは同じであっても異なっていても良い。また、いずれの触媒層のイオン交換樹脂も1種類から構成されていても、2種類以上から構成されていても良い。
また、膜−導電性多孔シート接合体を空気電池の固体電解質膜−電極接合体として使用する場合には、触媒層は触媒と、フッ素系樹脂などの撥水剤兼バインダを含む層であることができる。この触媒としては、特に限定するものではないが、正極での酸素還元反応を起こし、触媒活性を有する粒子であれば良く、特に限定するものではないが、上記の固体高分子形燃料電池用の触媒と同様のもの以外に、二酸化マンガン、活性炭、ペロブスカイト型複合酸化物、金属含有顔料などであることができる。
更に、膜−導電性多孔シート接合体をレドックスフロー電池の隔膜−電極接合体として使用する場合には、触媒層は触媒とイオン交換樹脂とを含む層であることができる。この触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、酸化スズ、酸化ビスマスなどの金属酸化物や、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、金属担持炭素材料などであることができる。
なお、いずれの触媒層においても、触媒以外に電子伝導体を含むことができる。この電子伝導体はカーボンブラック等の導電性繊維に含まれている導電性粒子と同様の導電性粒子が好適である。
(膜−導電性多孔シート接合体)
本発明の膜−導電性多孔シート接合体は、前述のような導電性多孔シート、膜、及び触媒層を有するものであり、膜と導電性多孔シートの間に触媒層が存在し、膜が膨潤と収縮とを繰り返した後における、導電性多孔シートと触媒層との最小90°剥離強度が0.06N/cm以上であり、導電性多孔シートと触媒層とが良好に接着している。よって、膜−導電性多孔シート接合体使用時においても、膜の膨潤と収縮を充分に抑えることができ、その変形による応力を小さくすることができるため、触媒層の破断や膜からの剥離を防止できる。前記最小90°剥離強度が大きい程、前記作用に優れているため、最小90°剥離強度は0.08N/cm以上あるのがより好ましく、0.10N/cm以上であるのがより好ましく、0.12N/cm以上であるのが更に好ましい。この最小90°剥離強度が大きい程、膜の膨潤と収縮を抑えることができるため、上限は特にない。
この「膜が膨潤と収縮とを繰り返した後における、導電性多孔シートと触媒層との最小90°剥離強度」は次の手順により得られる値である。
(1)50mm角の膜−導電性多孔シート接合体をウォーターバスにて温度80℃に維持した熱水中に1時間浸漬する。
(2)軽く水気を拭き取った後に、温度60℃に設定したドライヤーに入れて1時間乾燥する。
(3)前記(1)〜(2)の操作を3回繰り返すことで膜の膨潤と収縮を繰り返させる。
(4)膜−導電性多孔シート接合体を、図2に示すように、幅1cmの短冊に切り、5枚の試験片を調製する。
(5)試験片の一方の導電性多孔シート面に両面テープの片面を貼付し、前記両面テープの他面を、縦型電動計測スタンドに組み込んだ剥離試験用アタッチメント[(株)イマダ製]の試験台に固定する。
(6)試験片の導電性多孔シート/触媒層/膜/触媒層をピンセットで一部剥がし、つかみ部分とし、クリップでデジタルフォースゲージ[(株)イマダ製]に固定する。
(7)試験片の導電性多孔シート/触媒層/膜/触媒層を、速度60mm/min.で引張り、安定した接着状態にある変位10〜30mmにおける荷重(N)を測定する。
(8)前記荷重を試験片の幅(1cm)で除して、90°剥離強度を算出する。
(9)この90°剥離強度の測定を5枚の試験片について行ない、最も強度が弱い90°剥離強度を、最小90°剥離強度(単位:N/cm)とする。
本発明の膜−導電性多孔シート接合体は、例えば、膜の両面に触媒層を形成した後、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層に積層し、加熱加圧することで製造できる。
以下、固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体を例に説明すると、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一溶媒又は混合溶媒中に、触媒とイオン交換樹脂とを超音波分散機等で均一に混合して触媒ペーストを調製し、この触媒ペーストを膜の両面にコーティング又は散布して触媒層を形成した後、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層上に積層し、加熱加圧することで、導電性繊維構成樹脂を流動又は溶融させ、固化又は硬化させることによって、触媒層と接着することができる。
本発明の導電性繊維の導電性粒子が繊維表面から露出している場合、繊維表面における樹脂の露出面積が小さいが、樹脂が加熱により流動または溶融し、固化又は硬化することによって、触媒層と接着し、前記最小90°剥離強度とすることができる。また、導電性粒子を含有していることによって、樹脂が加熱により流動又は溶融しても繊維形状を保つことができ、導電性多孔シートの多孔性を維持することができるため、通液性およびガス拡散性に優れている。
なお、膜−導電性多孔シート接合体を製造する際の加熱加圧は、例えば、ホットプレス機により実施することができ、その加熱温度は前記最小90°剥離強度とすることができる温度であれば良く、特に限定するものではないが、樹脂が加熱により流動し始める温度を下限とし、他の材料(触媒層構成材料、膜など)を劣化させず、かつ樹脂の液化により皮膜を形成しない温度を上限とした範囲であるのが望ましい。例えば、クレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする場合、加熱温度は100℃〜200℃とするのが望ましく、130℃〜180℃とするのがより望ましく、150〜160℃とするのが更に好ましい。
また、加熱加圧時の圧力は前記最小90°剥離強度とすることができる圧力であれば良く、特に限定するものではないが、0.1MPa以上であるのが好ましく、1MPa以上であるのがより好ましく、1.2MPa以上であるのが更に好ましい。一方で、圧力が強過ぎると、導電性多孔シートの空隙が少なくなってしまい、通液性及び/又はガス拡散性が悪くなる傾向があるため、20MPa以下であるのが好ましく、10MPa以下であるのがより好ましく、5MPa以下であるのが更に好ましい。
前記方法においては、触媒ペーストを膜の両面にコーティング又は散布して触媒層を形成しているが、これに替えて、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して触媒層を形成した後、膜の両面にホットプレスして、触媒層を転写することもできる。
また、前記方法においては、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層上に積層しているが、紡糸した導電性繊維を直接触媒層上に集積することによって、導電性多孔シートを形成すると同時に積層することもできる。
別の膜−導電性多孔シート接合体の製造方法として、導電性多孔シートと触媒層とを積層し、導電性多孔シートを構成する導電性繊維を触媒層に接着させた積層シートを2組作製した後、これら積層シートを膜の両面に触媒層が当接するように積層し、導電性多孔シートを構成する導電性繊維構成樹脂によって接着して製造することもできる。
なお、触媒層は導電性多孔シートに前述のような触媒ペーストをコーティング又は散布して形成できるし、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して触媒層を形成した後、導電性多孔シートに転写することもできる。更に、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して形成した触媒層に、紡糸した導電性繊維を直接集積することによって、導電性多孔シートを形成すると同時に積層することもできる。また、積層シートの膜との接着は加熱加圧(例えば、ホットプレス)により実施することができる。この加熱加圧は前記最小90°剥離強度とすることができる条件であれば良く、特に限定するものではないが、ホットプレスにより実施する場合、前述の方法の場合と同様の条件であることができる。
更に別の膜−導電性多孔シート接合体の製造方法として、導電性多孔シートと触媒層とを未硬化状態の熱硬化性樹脂を介して接着することもできる。例えば、膜の両面に触媒層を形成した後、未硬化状態の熱硬化性樹脂、導電性多孔シートの順に、それぞれの触媒層に積層し、加熱加圧して、未硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させることによって、導電性多孔シートと触媒層とを接着して製造できる。なお、未硬化状態の熱硬化性樹脂は導電性に優れているように、前述のような導電性粒子を、同程度含有しているのが好ましい。
この未硬化状態の熱硬化性樹脂は導電性繊維を構成する熱硬化性樹脂と同様の熱硬化性樹脂から構成することができるが、導電性多孔シートとの接着性に優れるように、導電性多孔繊維シートを構成する導電性繊維が熱硬化性樹脂を含んでいる場合には、未硬化状態の熱硬化性樹脂は導電性繊維を構成する熱硬化性樹脂と同種であるのが好ましく、同じであるのがより好ましい。
また、この未硬化状態の熱硬化性樹脂はどのような状態にあっても良く、液体であっても良いし、粒子、繊維などの固体であっても良い。これらの中でも、未硬化状態の熱硬化性樹脂が繊維であると、導電性多孔シートの空隙を塞ぎにくく、ガス拡散性に優れているため好適である。特に、熱硬化性繊維同士が絡合、半硬化等により結合したウエブ状態にあると、触媒層と面的に接着でき、膜−導電性多孔シート接合体の寸法安定性がより優れるため好適である。このような好適である未硬化状態の熱硬化性樹脂繊維は、例えば、静電紡糸法、又は特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法により作製でき、紡糸した未硬化状態の熱硬化性樹脂繊維を集積すれば、ウエブ状態とすることができる。なお、紡糸した未硬化状態の熱硬化性樹脂繊維を直接、触媒層又は導電性多孔シートに積層し、ウエブ状態とすることもできる。
なお、膜に触媒層を形成する方法は前述の方法と同様に、触媒ペーストのコーティング又は散布、若しくは触媒層の転写する方法であることができる。また、未硬化状態の熱硬化性樹脂の硬化条件は、前記最小90°剥離強度とすることができる条件であれば良く、特に限定するものではないが、ホットプレスにより実施する場合、前述の方法の場合と同様の条件であることができる。
更に、別の膜−導電性多孔シート接合体の製造方法として、導電性多孔シートに、未硬化状態の熱硬化性樹脂、触媒層の順に積層した積層シートを2組作製した後、これら積層シートを膜の両面に触媒層が当接するように積層し、加熱加圧することにより、未硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させることによって接着して製造することもできる。なお、触媒層の形成、未硬化状態の熱硬化性樹脂の形成、加熱加圧等は、前述の方法の場合と同様の条件であることができる。また、未硬化状態の熱硬化性樹脂は導電性に優れているように、前述のような導電性粒子を、同程度含有しているのが好ましい。
また、いずれの場合であっても、一方の導電性多孔シートと他方の導電性多孔シートは同じであっても良いし、導電性粒子に関して、種類、粒径、存在状態、含有量;導電性繊維に関して、平均繊維径、繊維長、構成樹脂、フッ素系樹脂での被覆の有無;導電性多孔シートに関して、形態、結合状態、導電性繊維の含有割合、電気抵抗、導電性粒子の占有率、目付、厚さ、空隙率、製造方法、フッ素系樹脂及び/又は導電性粒子等の充填の有無;などの点で異なる導電性多孔シートであっても良い。
以上に記載の製造方法は、固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体などの両極に導電性多孔シートを使用した場合の製造方法であるが、負極に金属を用いる空気電池など、片極のみに触媒層がある場合も、膜及び/又は触媒層が異なる場合があること以外は同様に、膜−導電性多孔シートを作製することができる。
(固体高分子形燃料電池)
本発明の固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と表記することがある)は前述の本発明の膜−導電性多孔シート接合体を膜−電極接合体として備えているため、発電時の熱水環境下においても触媒層の破断や剥離が生じにくいため、発電性能の優れるものである。特に、導電性繊維が有機樹脂を含んでいる場合、導電性多孔シートは柔軟性を有するため、導電性多孔シートと隣接する部材(例えば、ガス拡散層、バイポーラプレート)との隙間を小さくすることができ、電子や熱の界面抵抗が小さいため、発電性能の優れるものである。
本発明の燃料電池は前述のような本発明の膜−導電性多孔シート接合体を膜−電極接合体として備えていること以外は、従来の燃料電池と全く同様であることができる。例えば、前述のような膜−導電性多孔シート接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。このような燃料電池は、例えば、セル単位を複数積層し、固定して製造できる。
なお、バイポーラプレートとしては、導電性が高く、ガスを透過せず、導電性多孔シートにガスを供給できる流路を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、カーボンや金属などを材料としたプレス加工品や、メッシュ、発泡体などの多孔体であることができる。
また、本発明の燃料電池においては、膜−導電性多孔シート接合体とバイポーラプレートとの間に、ガス拡散層として作用できる導電性多孔シート(以下、「ガス拡散多孔シート」と表記することがある)を介在させて、セル単位とすることもできる。このようにガス拡散多孔シートを介在させた場合、膜−導電性多孔シート接合体を構成する導電性多孔シートは従来のガス拡散層における水分管理層として作用することができるが、この水分管理層が、ガス拡散層として作用するガス拡散多孔シートに染み込み、ガス拡散多孔シートの排水性およびガス拡散性を阻害することはないため、ガス拡散多孔シートが本来有する排水性およびガス拡散性を発揮できる、排水性およびガス拡散性に優れる燃料電池である。
なお、前記ガス拡散多孔シ−トとしては、例えば、カーボンペーパー、カーボン不織布、ガラス繊維不織布に導電剤とフッ素系樹脂を充填したもの;耐酸性のある有機繊維(例えば、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系繊維を単独で、又は2種類以上を含む)からなる有機繊維不織布に、導電剤とフッ素系樹脂を充填したもの;耐酸性のある金属(例えば、ステンレス鋼、チタンなど)の多孔体やメッシュなどを挙げることができる。
(応用)
本発明の膜−導電性多孔シート接合体は膜の膨潤と収縮を充分に抑え、寸法安定性に優れており、その変形による応力を小さくすることができるため、固体高分子形燃料電池以外に、寸法安定性に優れる膜を必要とする電池に好適に使用できる。例えば、空気電池の固体電解質膜−電極接合体、また、レドックスフロー電池の隔膜−電極接合体として使用することができる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔触媒層付電解質膜の作製〕
エチレングリコールジメチルエーテル10.4gに対して、白金担持炭素粒子(田中貴金属(株)製、TEC10V40E)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた後、イオン交換樹脂溶液である5mass%Nafion(登録商標)溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製)を4.0g加え、超音波処理により分散させ、更に攪拌機で攪拌して、触媒ペーストを調製した。
次いで、この触媒ペーストを50mm角に切断した支持体[ナフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン製テープ、ニチアス(株)製、厚さ:0.1mm]に塗布し、熱風乾燥機によって温度60℃で乾燥して、白金担持量が0.5mg/cm2の触媒層を形成した。
他方、電解質膜として、Nafion(登録商標)NRE212CS(米国デュポン社製、融点:200℃以上)を用意した。この電解質膜の両面に、前記触媒層を転写した後、温度140℃、圧力2.5MPa、時間10分間の条件でのホットプレスにより接合し、触媒層付電解質膜(触媒層:50mm角)を作製した。
<実施例1>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
次いで、導電性粒子として、アセチレンブラック(デンカブラック粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm)を前記溶液に混合し、撹拌した。
更に、主剤がクレゾールノボラックエポキシ樹脂で、硬化剤がノボラック型フェノール樹脂からなる熱硬化性樹脂を前記溶液に加え、アセチレンブラック、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物、及びエポキシ樹脂の固形質量比が50:40:10で、固形分濃度が12mass%の紡糸溶液を調製した。
その後、この紡糸溶液を静電紡糸法により紡糸した後、直接集積して、アセチレンブラックを含有する導電性連続繊維(平均繊維径:400nm、繊維表面から一部が露出したアセチレンブラックと内部に埋没したアセチレンブラックを含む、分岐構造を有しない、エポキシ樹脂は未硬化状態)のみが絡合した導電性多孔不織布(目付:14g/m2、厚さ:50μm、電気抵抗:6mΩ・cm2、空隙率:84%、何も充填されていない)を形成した。なお、静電紡糸条件は次のとおりとした。
<静電紡糸条件>
電極:金属製ノズル(内径0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:10cm
印加電圧:12kV
温度/湿度:25℃/35%RH
次いで、前記導電性多孔不織布を50mm角に切断し、前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、導電性連続繊維を構成するエポキシ樹脂を硬化させて、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造した。
<実施例2>
<実施例1>と同様にして、静電紡糸法により導電性多孔不織布を形成した後、温度150℃、時間30分の熱処理を実施し、エポキシ樹脂が硬化した硬化導電性多孔不織布(目付:14g/m2、厚さ:50μm、電気抵抗:6mΩ・cm2、空隙率:84%、何も充填されていない)を作製した。
次いで、硬化導電性多孔不織布をステンレスドラム上に巻きつけた後、実施例1と同様に調製した紡糸溶液を、実施例1と同じ条件の静電紡糸法により紡糸し、直接、前記硬化導電性多孔不織布上に集積して、アセチレンブラックを含有する導電性連続繊維(平均繊維径:400nm、繊維表面から一部が露出したアセチレンブラックと内部に埋没したアセチレンブラックを含む、分岐構造を有しない)のみが絡合した、エポキシ樹脂が硬化していない未硬化導電性多孔不織布層(目付:2g/m2、厚さ:6μm、空隙率:84%、何も充填されていない)と硬化導電性多孔不織布層の2層からなる積層導電性多孔不織布を調製した。
次いで、前記積層導電性多孔不織布を50mm角に切断し、未硬化導電性多孔不織布層面が前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、未硬化導電性多孔不織布層を構成する導電性連続繊維を構成するエポキシ樹脂を硬化させて、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造した。
<比較例1>
片面に、フッ素系樹脂とカーボン粒子からなるマイクロポーラス層を有するカーボン不織布(フロイデンベルグ社製、品名H15C5、目付:94g/m2、厚さ:170μm、カーボン繊維の平均繊維径:10μm、電気抵抗:8mΩ・cm2)を用意した。
また、5mass%Nafion(登録商標)溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製)とアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標)粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm]とを、重量比で[Nafion(固形分)]:[アセチレンブラック]=4:5となるように混合して、接着溶液を調製した。
そして、前記カーボン不織布のマイクロポーラス層面に、前記接着溶液を2mg/cm2(固形分)となるように塗工し、乾燥して、接着層付カーボン不織布を作製した。
次いで、前記接着層付カーボン不織布を50mm角に切断し、接着層が前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、接着層を構成するNafion樹脂で接着して、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造したが、直ぐに接着層付カーボン不織布と触媒層付電解質膜とが剥離してしまい、取り扱うことのできないものであった。
<比較例2>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物(融点:146℃)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
次いで、導電性粒子として、アセチレンブラック(デンカブラック粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm)を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈してアセチレンブラックを分散させ、アセチレンブラック、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物の固形質量比が40:60で、固形分濃度が11mass%の紡糸溶液を調製した。
そして、この紡糸溶液を用い、<実施例1>と同様にして、アセチレンブラックを含有する導電性連続繊維(平均繊維径:420nm、繊維表面から一部が露出したアセチレンブラックと内部に埋没したアセチレンブラックを含む、分岐構造を有しない)のみが絡合した導電性多孔不織布(目付:11g/m2、厚さ:50μm、電気抵抗:10mΩ・cm2、空隙率:88%、何も充填されていない)を作製し、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造した。
<比較例3>
<比較例2>と同様の方法で導電性多孔不織布を作製した。
次いで、導電性多孔不織布を50mm角に切断し、導電性多孔不織布が前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度100℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造した。
<比較例4>
<実施例1>と同様にして紡糸溶液を作製し、静電紡糸法により導電性多孔不織布を作製した後、温度150℃に設定した熱風乾燥機で30分間の熱処理を実施して、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が硬化した硬化導電性多孔不織布(目付:14g/m2、厚さ:50μm、電気抵抗:6mΩ・cm2、空隙率:84%、何も充填されていない)を作製した。
次いで、前記硬化導電性多孔不織布を、50mm角に切断し、硬化導電性多孔不織布が前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、電解質膜−導電性多孔シート接合体を製造した。
<最小90°剥離強度の測定>
実施例1〜2及び比較例1〜4の電解質膜−導電性多孔シート接合体における、電解質膜が膨潤と収縮とを繰り返した後における、導電性多孔シートと触媒層との最小90°剥離強度を前述の方法により測定した。この結果は表1に示す通りであった。
<電解質膜の膨潤率測定および接着性評価>
実施例1〜2、比較例1〜4の50mm角の電解質膜−導電性多孔シート接合体、及び参考例として50mm角の触媒層付電解質膜を、それぞれウォーターバスにて温度80℃に維持した熱水中に1時間浸漬した。浸漬後、導電性多孔シート(50mm角)の四辺の長さを定規で測った。なお、導電性多孔シートと触媒層付電解質膜との一部又は全部に剥離がみられる場合(比較例2〜4、参考例)においては、触媒層(50mm角)の四辺の長さを定規で測った。
そして、次の式1から一辺あたりの平均寸法(=Dm、単位:mm)を算出した後、次の式2から電解質膜の膨潤率(=Sr、単位:%)を算出した。この結果は表1に示す通りであった。
Dm=(a+b+c+d)/4 ・・式1
Sr=(Dm/50)×100 ・・式2
ここで、a〜dは熱水浸漬後における導電性多孔シート又は触媒層の四辺の各辺の長さ(単位:mm)を意味する。
また、熱水浸漬後における導電性多孔シートと触媒層付電解質膜との接着状態を目視により観察し、次の基準にしたがって評価した。この結果は表1に示す通りであった。
○:導電性多孔シートと触媒層付電解質膜との間に剥離がみられなかった
△:導電性多孔シートと触媒層付電解質膜との間に一部剥離がみられた
×:導電性多孔シートと触媒層付電解質膜とが完全に剥離していた
表1から、熱水に浸漬した後に、比較例2、4の電解質膜−導電性多孔シート接合体では導電性多孔シートの一部(四辺)で、触媒層からの剥離が観察され、膨潤率が105.8%以上であったのに対して、実施例1、2の電解質膜−導電性多孔シート接合体では導電性多孔シートの剥離が観察されず、膨潤率が103.4%以下であったことから、本発明の電解質膜−導電性多孔シート接合体は膜の寸法変化を抑える効果に優れていることが分かった。また、接着状態と最小90°剥離強度との間に相関関係が認められ、最小90°剥離強度が0.06N/cm以上であると、膜の寸法変化を抑える効果に優れていることが分かった。
これらの結果は、実施例1、2の電解質膜−導電性多孔シート接合体はホットプレス時の熱によって、導電性連続繊維を構成する未硬化状態のエポキシ樹脂が流動し、硬化することによって、触媒層との接着が強固になったものと推測された。
なお、実施例1と実施例2とは同程度の最小90°剥離強度を示したことから、導電性多孔シートの触媒層との接触面に、面接触する程度の量の未硬化状態の熱硬化性樹脂を備えていれば、触媒層との接着性に優れ、膜の寸法変化を抑えることができると推測できた。