以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
[第一の実施形態:トリアリールアミン誘導体]
本発明の第一の実施形態は、トリアリールアミン誘導体である。本実施形態のトリアリールアミン誘導体は、下記一般式(1)又は(2)で表される。
前記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は、独立して互いに同一又は異なって、それぞれハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。k及びlは、それぞれ0以上4以下の整数を表す。m及びnは、それぞれ1以上3以下の整数を表す。
上記一般式(1)又は(2)で表されるトリアリールアミン誘導体には、ビフェニルの間に二重結合が含まれる。このような構造のトリアリールアミン誘導体が使用された感光層は、優れた電気的特性(特に、残留電位の抑制)が効果的に発現する。
本実施形態のトリアリールアミン誘導体は特定の構造を有することにより、溶剤への溶解性に優れるため、感光層中に含有される場合に、感光層の成膜時にトリアリールアミン誘導体が感光層中で結晶化することが抑制される。更に、感光層中にトリアリールアミン誘導体を均一に分散させることができ、その結果、感光層において優れた電気特性を発現させることができる。また、π電子の広がりの程度を好適な状態に調節し、電荷輸送効率を向上させることができる。
一般式(1)又は(2)において導入され得るハロゲン原子は、例えば、フッ素、塩素又は臭素である。
一般式(1)又は(2)において導入され得る炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、又はヘキシル基である。
一般式(1)又は(2)において導入され得る炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、又はヘキシルオキシ基である。
一般式(1)又は(2)において導入され得る炭素原子数6以上12以下のアリール基は、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基である。
上記のアルキル基、アルコキシ基、又はアリール基は、置換基にて置換されていてもよい。こうした置換基としては、特に限定されないが、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基などが挙げられる。
一般式(1)及び(2)において、電気的特性に優れるために、R1又はR2は炭素原子数1以上6以下のアルキル基であることが好ましい。また、同様の理由により、lは1又は2であることが好ましく、mは2又は3であることが好ましい。
一般式(1)及び(2)で表されるトリアリールアミン誘導体のなかでも、電気的特性に優れるために、一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体がより好ましい。
一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の好ましい態様として、一般式(2)中、R2はメチル基、又はエチル基である。lは1又は2である。lが1である場合、R2はアミノ基に対してオルト位に存在する。lが2である場合、同一芳香環に存在する2個のR2は何れもアミノ基に対してオルト位に存在し、2個のR2は同一でも異なっていてもよい。
一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の別の好ましい態様として、一般式(2)中、R2は、メチル基である。R2はアミノ基に対してパラ位に存在する。lは1である。
一般式(1)又は(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の具体例は、下記式(HT−1)〜(HT−9)で示される。
上記式(HT−1)〜(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを、それぞれ図1〜図7に示す。
本実施形態のトリアリールアミン誘導体は、例えば、以下のような工程を含む製造方法で製造できる。詳しくは、上記一般式(1)にて表されるトリアリールアミン誘導体の製造方法は、下記反応式(R−1)及び(R−2)にて表される反応を行う工程を含む。
また、上記式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の製造方法は、下記反応式(R−3)及び(R−4)にて表される反応を行う工程を含む。
上記反応式(R−1)〜(R−4)中、R1及びR2は、独立して互いに同一又は異なって、それぞれハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択され、k及びlは、それぞれ0以上4以下の整数を表し、m及びnは、それぞれ1以上3以下の整数を表す。Xは、例えば塩素、又はフッ素のようなハロゲン原子を示す。
なお、上記反応式(R−1)〜(R−4)で表される反応は、カップリング反応である。
反応式(R−1)で表される反応では、一般式(3)で表される化合物(アニリン誘導体)と、一般式(4)で表される化合物(ベンゼン誘導体)とを反応させて、一般式(5)で表される化合物(一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の中間体)を得る。
アニリン誘導体と、ベンゼン誘導体との反応比は、モル比で、(アニリン誘導体):(ベンゼン誘導体)=1:2〜2:1であることが好ましい。ベンゼン誘導体の反応割合が過小であると、一般式(5)で表される中間体の収率が過度に低くなることがある。一方、ベンゼン誘導体の反応割合が過大であると、過剰となったベンゼン誘導体が未反応のまま過度に残留することがある。
反応式(R−1)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−1)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−1)で表される反応においては、活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、一般式(5)で表される中間体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類(ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物)、二価のパラジウム化合物類(塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II))、又は、その他のパラジウム化合物類(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0))が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−1)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−1)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素がすみやかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(5)で表される中間体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下が好ましく、1モル以上5モル以下がより好ましい。
反応式(R−1)で表される反応は、溶剤中で行うことができる。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次に、反応式(R−2)で表される反応について説明する。
反応式(R−2)においては、一般式(5)で表される中間体と、一般式(6)で表される化合物(スチルベン誘導体)とを反応させて、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を得る。
反応式(R−2)で表される反応において、一般式(5)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応比は、モル比で、(中間体):(スチルベン誘導体)=1:1〜1:2.5であることが好ましい。スチルベン誘導体の反応割合が過小であると、トリアリールアミン誘導体の収率が過度に低下する場合がある。一方、スチルベン誘導体の反応割合が過大であると、反応後に未反応のスチルベン誘導体が過度に残留し、トリアリールアミン誘導体の精製が困難となることがある。
反応式(R−2)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−2)で表される反応は触媒の存在下にて行うことができる。用いられる触媒としては、例えば、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、又はナトリウムエトキシド)、金属水素化物(水素化ナトリウム、又は水素化カリウム)、又は金属塩(例えば、n−ブチルリチウム)が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。こうした触媒の添加量は、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体の合計1モルに対して、1モル以上2モル以下が好ましい。こうした触媒の添加量が過少であると、反応性が著しく低下することがある。一方、こうした触媒の反応量が過多であると、反応の制御が困難になることがある。
反応式(R−2)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−2)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、トリアリールアミン誘導体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類(ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物)、二価のパラジウム化合物類(塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II))、又は、その他のパラジウム化合物類(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0))が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(5)で表される中間体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−2)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−2)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素がすみやかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(5)で表される中間体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下が好ましく、1モル以上5モル以下がより好ましい。
反応式(R−2)で表される反応は、例えば溶剤中で実行される。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次いで、上記一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体を製造する方法について述べる。一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の製造方法は、例えば、反応式(R−3)及び反応式(R−4)で表される反応を行う工程を含む。
反応式(R−3)で表される反応では、一般式(3)で表される化合物(アニリン誘導体)と、一般式(7)で表される化合物(ベンゼン誘導体)とを反応させて、一般式(8)で表される化合物(一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の中間体)を得る。
アニリン誘導体と、ベンゼン誘導体との反応比は、モル比で、(アニリン誘導体):(ベンゼン誘導体)=1:2〜2:1であることが好ましい。ベンゼン誘導体の反応割合が過小であると、一般式(8)で表される中間体の収率が過度に低くなることがある。一方、ベンゼン誘導体の反応割合が過大であると、過剰となったベンゼン誘導体が未反応のまま過度に残留することがある。
反応式(R−3)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−3)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−3)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、一般式(8)で表される中間体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類(ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物)、二価のパラジウム化合物類(塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II))、又は、その他のパラジウム化合物類(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0))が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−3)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−3)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素がすみやかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(8)で表される中間体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(7)で表されるスチルベン誘導体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下が好ましく、1モル以上5モル以下がより好ましい。
反応式(R−3)で表される反応は、溶剤中で行うことができる。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次に、反応式(R−4)で表される反応について説明する。
反応式(R−4)においては、一般式(8)で表される中間体と、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体とを反応させて、一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体を得る。
反応式(R−4)で表される反応において、一般式(8)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応比は、モル比で、(中間体):(スチルベン誘導体)=1:1〜1:2.5であることが好ましい。スチルベン誘導体の反応割合が過小であると、トリアリールアミン誘導体の収率が過度に低下する場合がある。一方、スチルベン誘導体の反応割合が過大であると、反応後に未反応のスチルベン誘導体が過度に残留し、トリアリールアミン誘導体の精製が困難となることがある。
反応式(R−4)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−4)で表される反応は触媒の存在下にて行うことができる。用いられる触媒としては、例えば、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、又はナトリウムエトキシド)、金属水素化物(水素化ナトリウム、又は水素化カリウム)、又は金属塩(例えば、n−ブチルリチウム)が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。こうした触媒の添加量は、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体の合計1モルに対して、1モル以上2モル以下が好ましい。こうした触媒の添加量が過少であると、反応性が著しく低下することがある。一方、こうした触媒の反応量が過多であると、反応の制御が困難になることがある。
反応式(R−4)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−4)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、トリアリールアミン誘導体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類(ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物)、二価のパラジウム化合物類(塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II))、又は、その他のパラジウム化合物類(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0))が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(8)で表される中間体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−4)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−4)で表される反応を塩基の存在下で実行ことにより、反応系中で発生するハロゲン化水素がすみやかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(8)で表される中間体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下が好ましく、1モル以上5モル以下がより好ましい。
反応式(R−4)で表される反応は、例えば溶剤中で実行される。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
上記一般式(1)又は(2)で表される本実施形態のトリアリールアミン誘導体の製造方法では、反応式(R−1)及び(R−2)で表される反応、又は反応式(R−3)及び(R−4)で表される反応を行う工程以外に、必要に応じて適宜な工程を含んでいてもよい。
[第二の実施形態:電子写真感光体]
本発明の第二の実施形態は、電子写真感光体(以下、単に「感光体」と称する場合がある)である。本実施形態の電子写真感光体は、感光層を備える。感光層は、電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する。
感光層は、積層型感光層、又は、単層型感光層である。つまり、本実施形態の電子写真感光体は、積層型感光層を有する、いわゆる積層型電子写真感光体であってもよい。積層型感光層は、少なくとも、電荷発生層と電荷輸送層とを含み、電荷輸送層が最表面に配置された構成を有する。電荷発生層は、少なくとも、電荷発生剤を含有する。電荷輸送層は、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する。
又、本実施形態の電子写真感光体は、単層型感光層を有する、いわゆる単層型電子写真感光体であってもよい。単層型感光層は、同一層に、少なくとも電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する。
<積層型電子写真感光体>
以下、積層型感光層を備える積層型電子写真感光体について、図8を参照して説明する。積層型電子写真感光体10は、図8(a)に示すように、基体11上に、電荷発生層13及び電荷輸送層14がこの順で積層された積層型感光層12を備えた構成を有する。電荷輸送層14を最表面に設けることにより、優れた電気的特性を維持しつつ、耐摩耗性を向上させることができる。
電荷発生層13は電荷発生剤を含有する。電荷輸送層14は、電荷輸送剤、バインダー樹脂を含有する。
積層型電子写真感光体10は、基体11と、積層型感光層12とを備えていれば、特に限定されない。図8(b)に示すように、基体11と積層型感光層12との間に、中間層15が設けられてもよい。
電荷発生層及び電荷輸送層の各層の厚さは、それぞれの層としての機能を十分に発現できれば、特に限定されない。電荷発生層の厚さは、具体的には、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層の厚さは、具体的には、2μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。
<単層型電子写真感光体>
以下、単層型感光層を備える単層型電子写真感光体について、図9を参照して説明する。単層型電子写真感光体20は、図9(a)に示すように、基体21と、単層型感光層22とを備える。単層型感光層22は、基体21上に設けられる。単層型感光層22は、電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂、を含有する。
単層型電子写真感光体20は、基体21と、単層型感光層22とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、図9(a)に示すように、基体21上に単層型感光層22が直接設けられてもよい。又は、図9(b)に示すように、基体21と単層型感光層22との間に、中間層23が設けられてもよい。
単層型感光層22の厚さは、感光層としての機能を十分に発現できれば、特に限定されない。具体的には、単層型感光層22の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
画像流れの発生を防止し製造コストを抑制するために、本実施形態に係る電子写真感光体(単層型電子写真感光体及び積層型電子写真感光体)においては、感光層(単層型感光層及び積層型感光層)が最外層として配置されることが好ましい。
<共通の構成要素>
以下、単層型電子写真感光体及び積層型電子写真感光体を構成する各部分、並びに単層型電子写真感光体及び積層型電子写真感光体に含まれる成分について詳細に説明する。
[基体]
本実施形態において、基体は、少なくとも表面部が導電性を有するものであれば、特に限定されない。具体的には、基体は、導電性を有する材料から構成されるものであってもよい。又は、プラスチック材料若しくはガラスの表面を、導電性を有する材料で被覆若しくは蒸着した構成を有するものであってもよい。ここで、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドニウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼若しくは真鍮のような金属、又はこれらの金属の合金が挙げられる。これらの導電性を有する材料を、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
上記のように例示した基体のうち、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む基体を用いることが好ましい。なぜなら、こうした基体を用いる場合は、感光層から基体への電荷の移動が良好となるため、より好画質な画像を形成できる感光体を提供できるからである。
基体の形状は、適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、シート状であってもよいし、又はドラム状であってもよい。また、基体は、使用に際して、十分な機械的強度を有することが望ましい。
[電荷発生剤]
電荷発生剤は、電子写真感光体用の電荷発生剤であれば、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、X型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、Y型チタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコンのような無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学系の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター、又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。そのため、例えば、フタロシアニン系顔料(例えば、X型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、又はY型チタニルフタロシアニン(Y−TiOPc))が好適に用いられる。フタロシアニン系顔料の結晶形状については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下程度の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、又はペリレン系顔料が好適に用いられる。
積層型電子写真感光体において、電荷発生剤の含有量は、電荷発生層13に含まれるベース樹脂100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、30質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。ベース樹脂については後述する。
単層型電子写真感光体において、電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
[電荷輸送剤]
本実施形態においては、感光層が電荷輸送剤を含有する。電荷輸送剤は、特に正孔輸送剤である。
(正孔輸送剤)
本実施形態の電子写真感光体に用いられる正孔輸送剤は、上記一般式(1)で表される本実施形態のトリアリールアミン誘導体である。
積層型電子写真感光体において、正孔輸送剤(電荷輸送剤)の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、20質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
単層型電子写真感光体において、正孔輸送剤(電荷輸送剤)の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
[電子アクセプター化合物]
感光層は、必要に応じて、電子アクセプター化合物を含有してもよい。電子アクセプター化合物を含有することで、特に単層型電子写真感光体の単層型感光層においては、電子を輸送することができ、これによりバイポーラー(両極性)の特性を付与できる。一方、積層型電子写真感光体の積層型感光層は、電子アクセプター化合物を含有することにより、正孔輸送剤の正孔輸送能を向上させることができる。
電子アクセプター化合物としては、例えば、キノン系化合物(ナフトキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アゾキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物)、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。これらの電子アクセプター化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
積層型電子写真感光体において、電子アクセプター化合物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
単層型電子写真感光体において、電子アクセプター化合物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
[樹脂]
(ベース樹脂)
積層型感光層に含まれる電荷発生層は、ベース樹脂(電荷発生層用ベース樹脂)を含む。
電荷発生層用ベース樹脂は、積層型電子写真感光体の電荷発生層用の樹脂であれば、特に限定されない。
通常、積層型電子写真感光体においては、電荷発生層及び電荷輸送層が形成されている。そのため、電荷輸送層を形成する際の塗布液に用いられる溶剤に溶解しないように、積層型電子写真感光体においては、電荷発生層用ベース樹脂は、バインダー樹脂とは異なる樹脂であることが好ましい。
電荷発生層用ベース樹脂の具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、又はウレタン−アクリレート樹脂が挙げられる。電荷発生層用ベース樹脂としては、ポリビニルブチラールが好適に使用される。電荷発生層用ベース樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、単層型電子写真感光体の単層型感光層、又は積層型電子写真感光体の電荷輸送層に用いられる。バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、又はポリエステル樹脂)、熱硬化性樹脂(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他架橋性の熱硬化性樹脂)、又は、光硬化性樹脂(エポキシアクリレート樹脂、又はウレタン−アクリレート共重合樹脂)が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
バインダー樹脂の分子量は、粘度平均分子量で40,000以上であることが好ましく、40,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の分子量が低過ぎると、バインダー樹脂の耐摩耗性を十分に高めることができず、電荷輸送層又は単層型感光層が摩耗し易くなる。また、バインダー樹脂の分子量が高過ぎると、電荷輸送層又は単層型感光層の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解しにくくなって、電荷輸送層又は単層型感光層の形成が困難になる傾向がある。
[添加剤]
本実施形態に係る電子写真感光体においては、積層型感光層(電荷発生層、電荷輸送層)、単層型感光層、及び中間層のうちの少なくとも一つが、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
[中間層]
本実施形態に係る電子写真感光体は、中間層(例えば、下引き層)を有してもよい。単層型電子写真感光体において、中間層は、基体と単層型感光層との間に位置する。積層型電子写真感光体において、中間層は、基体と電荷発生層との間に位置する。中間層は、例えば、無機粒子、及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層を介在させると、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、電子写真感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇を抑えることができる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄、又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛)の粒子、又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
中間層用樹脂としては、中間層を形成するための樹脂であれば、特に限定されない。
<電子写真感光体の製造方法>
単層型電子写真感光体の製造方法について説明する。
単層型電子写真感光体は、単層型感光層用塗布液(第一の塗布液)を基体上に塗布し、乾燥することによって製造される。第一の塗布液は、電荷発生剤、電荷輸送剤(正孔輸送剤)、バインダー樹脂及び必要に応じて電子アクセプター化合物若しくは各種の添加剤を、溶剤に溶解又は分散させることにより製造される。
積層型電子写真感光体の製造方法について説明する。
具体的には、まず、電荷発生層用塗布液(第二の塗布液)、及び電荷輸送層用塗布液(第三の塗布液)を調製する。第二の塗布液を基体上に塗布し、適宜な方法で乾燥することによって、電荷発生層を形成する。その後、第三の塗布液を電荷発生層に塗布し、乾燥することによって、電荷輸送層を形成し、積層型電子写真感光体を製造することができる。
第二の塗布液は、電荷発生剤、ベース樹脂、及び必要に応じて各種添加剤を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。第三の塗布液は、電荷輸送剤、バインダー樹脂、及び必要に応じて電子アクセプター化合物若しくは各種の添加剤を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
塗布液(第一の塗布液、第二の塗布液、又は第三の塗布液)に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できれば、特に限定されない。具体的には、塗布液としては、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール)、脂肪族系炭化水素(n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン)、エステル類(酢酸エチル、又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。感光体の製造過程における作業者の安全衛生を改善するためには、溶剤として非ハロゲン系溶剤を用いることが好ましい。
塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散機を用いることができる。
塗布液は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
塗布液を塗布する方法としては、塗布液を基体上に均一に塗布できる方法であれば、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
塗布液を乾燥する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法であれば、特に限定されない。例えば、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
(1)トリアリールアミン誘導体の合成
(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−5)〜(R−10)で表される反応を行って、式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
まず、上記反応式(R−5)で表される反応を行った。詳しくは、200mL容のフラスコに上記式(9)で表されるベンゼン誘導体16.1g(0.1モル)と、上記式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間撹拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、上記式(11)で表されるホスホナート誘導体(白色液体)24.1g(収率:92%)を得た。
そして、上記反応式(R−6)で表される反応を行った、詳しくは、内温を0℃に調節した500mLの2口フラスコに、上記式(11)で表されるホスホナート誘導体13.0g(0.05モル)を投入し、アルゴンガス置換を行った。ここに、乾燥させたテトラヒドロフラン(THF)100mLと、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度28質量%)9.3g(0.05モル)とを加え、0℃で30分間撹拌した。この反応液に、上記式(12)で表されるベンズアルデヒド5.0g(0.05モル)を乾燥THF300mLに溶解させた混合液を投入し、室温で12時間撹拌した。
その後、反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンにて抽出して有機相(トルエン相)を得た。この有機相をイオン交換水にて5回洗浄した。次いで、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶剤を留去して残渣を得た。その後、残渣を溶剤(トルエン20mLとメタノール100mLとの混合溶剤)で再結晶させることにより精製し、上記式(13)で表されるスチルベン誘導体(白色結晶)9.3g(収率:92%)を得た。
次いで、上記反応式(R−7)で表される反応を行った。具体的には、200mL容のフラスコに上記式(14)で表されるジブロモブテン16.1g(0.075モル)と、上記式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間撹拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、上記式(15)で表されるホスホナート誘導体(無色液体)22.5g(収率:91%)を得た。
次いで、上記反応式(R−8)で表される反応を行った。詳しくは、内温を0℃に調節した500mLの2口フラスコに、上記式(15)で表されるホスホナート誘導体8.0g(0.024モル)を投入し、アルゴンガス置換を行った。ここに、乾燥させたテトラヒドロフラン(THF)100mLと、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度28質量%)9.3g(0.05モル)とを加え、0℃で30分間撹拌した。この反応液に、上記式(16)で表されるクロロベンズアルデヒド7.0g(0.05モル)を乾燥THF300mLに溶解させた混合液を投入し、室温で12時間撹拌した。
その後、反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンにて抽出して有機相(トルエン相)を得た。この有機相をイオン交換水にて5回洗浄した。次いで、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶剤を留去して残渣を得た。その後、残渣を溶剤(トルエン20mLとメタノール100mLとの混合溶剤)で再結晶させることにより精製し、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体(白色結晶)2.0g(収率:27%)を得た。
次いで、上記反応式(R−9)にて表される反応を行った。詳しくは、2L容の3口のフラスコに、上記式(18)で表されるアニリン誘導体2.7g(0.02モル)と、上記式(19)で表されるスチルベン誘導体4.4g(0.02モル)と、トリシクロヘキシルホスフィン(Pcy3)0.072g(0.002049モル)と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)0.047g(0.00005123モル)とナトリウム−tert−ブトキシド(t−BuONa)2g(0.021モル)とを投入した。更に、蒸留したo−キシレンを100mL加えた。その後、アルゴンガス置換を行い、120℃で撹拌しつつ5時間反応を行った。
次に、反応液(反応生成物とo−キシレンとを含む溶液)を室温まで冷却し、有機相を得た。この有機相をイオン交換水を用いて3回洗浄した。更に、有機相に対し、無水硫酸ナトリウム及び活性白土を用いて、乾燥及び吸着処理を行った。その後、o−キシレンを減圧留去し残渣を得た。
得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンとの混合溶媒)を用いて精製し、上記式(20)で表される中間体5.5g(収率:86%)を得た。
次いで、反応式(R−10)で表される反応を行った。詳しくは、3口フラスコに、上記式(20)で表される中間体3.0g(0.01モル)と、トリシクロヘキシルホスフィン0.035g(0.00009967モル)と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.046g(0.00004983モル)と、ナトリウム−tert−ブトキシド(t−BuONa)1.0g(0.01モル)と、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体1.5g(0.05モル)とを投入した。更に、蒸留したo−キシレン200mLを加えた。その後、アルゴンガス置換を行い、120℃で撹拌しつつ5時間反応を行った。
次いで、反応液を室温まで冷却し有機相を得た。得られた有機相をイオン交換水で3回洗浄し、更に、無水硫酸ナトリウム及び活性白土を用いて乾燥及び吸着処理を行った。その後、o−キシレンを減圧留去し残渣を得た。
得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンとの混合溶媒)を用いて精製し、式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体3.2gを得た(収率:75%)。
式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMR(300MHz)を測定した。溶媒としてはCDCl3を用いた。1H−NMRチャートにより式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体が得られていることを確認した。式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図1に示す。
(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−11)〜(R−14)で示すような反応を行って、式(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
まず、(R−11)においては、200mL容のフラスコに上記式(9)で表されるベンゼン誘導体16.1g(0.1モル)と、上記式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間撹拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、上記式(11)で表されるホスホナート誘導体(白色液体)24.1g(収率:92%)を得た。
次いで、上記式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて上記式(21)で表されるシンナムアルデヒドを用い、上記反応式(R−6)に代えて上記反応式(R−12)で表される反応を行った。その結果、上記式(22)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、上記反応式(R−13)及び(R−14)で表される反応を行った。まず、上記反応式(R−13)では、上記式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(22)で表されるスチルベン誘導体を用いた以外は、上記反応式(R−9)と同様にして、上記式(23)で表される中間体を得た(収率:83%)。その後、上記反応式(R−14)で表される反応では、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体を用いた以外は、上記反応式(R−10)で表される反応と同様にして、式(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:75%)。
(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図1に示す。
なお、式(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成、及び後述の式(HT−3)〜(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成においては、それらのモルスケールが式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成におけるモルスケールと等しくなるように、材料の配合量などを調整した。
(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−15)及び(R−16)で表される反応を行って、式(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
詳しくは、上記式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(25)で表されるベンゼン誘導体を用い、更に上記式(18)で表されるアニリン誘導体に代えて上記式(24)で表されるアニリン誘導体を用い、上記反応式(R−9)に代えて下記反応式(R−15)で表される反応を行った。その結果、上記式(26)にて表される中間体を得た(収率:85%)。次いで、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体を用いて上記反応式(R−10)で表される反応と同様にして、上記反応式(R−16)で表される反応を行った。その結果、式(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体を得た(収率:77%)。式(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図3に示す。
(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−17)〜(R−20)で表される反応を行って、式(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
まず、上記反応式(R−5)で表される反応と同様の手法により上記式(R−17)で表される反応を実行した。次いで、上記式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて上記式(21)で表されるシンナムアルデヒド誘導体を用い、上記反応式(R−12)に代えて上記反応式(R−18)で表される反応を行った。その結果、上記式(27)で表されるスチルベン誘導体を得た(収率:70%)。
次いで、上記反応式(R−9)で表される反応と同様の手法により、上記反応式(R−19)で表される反応を行った。その結果、上記式(20)で表される中間体を得た(収率:85%)。次いで、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−10)に代えて上記反応式(R−20)で表される反応を行った。その結果、式(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:80%)。式(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図4に示す。
(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−21)及び(R−22)で表される反応を行って、式(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
まず、上記反応式(R−13)と同様の手法により上記反応式(R−21)で表される反応を行った。その結果、上記式(23)で表される中間体(23)を得た(収率:80%)。次いで、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−14)に代えて上記反応式(R−22)で表される反応を行った。その結果、式(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:80%)。式(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図5に示す。
(HT−6)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−23)〜(R−26)で表される反応を行って、式(HT−6)を合成した。
まず、上記反応式(R−5)で表される反応と同様にして上記反応式(R−23)で表される反応を行った。その結果、上記式(11)で表されるホスホナート誘導体を得た。次いで、上記式(12)で表されるアルデヒド誘導体に代えて上記式(16)で表されるアルデヒド誘導体を用い、上記反応式(R−6)に代えて上記反応式(R−24)で表される反応を行った。その結果、上記式(28)で表されるスチルベン誘導体を得た(収率:75%)。
次いで、上記反応式(R−9)で表される反応と同様にして上記式(R−25)で表される反応を行った。その結果、上記式(20)で表される中間体を得た(収率:85%)。その後、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(28)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−10)に代えて上記反応式(R−26)で表される反応を行った。その結果、式(HT−6)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:85%)。式(HT−6)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図6に示す。
(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−27)及び(R−28)で表される反応を行って、式(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
上記反応式(R−13)で表される反応と同様にして、上記反応式(R−27)で表される反応を行った。その結果、上記式(23)で表される中間体を得た(収率:83%)。次いで、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(28)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−14)に代えて上記反応式(R−28)で表される反応を行った。その結果、式(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:85%)。式(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体の1H−NMRチャートを図7に示す。
(HT−8)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−29)〜(R−32)で表される反応を行って、式(HT−8)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
上記式(9)で表されるベンゼン誘導体に代えて上記式(29)で表されるベンゼン誘導体を用い、上記反応式(R−9)に代えて上記反応式(R−29)で表される反応を行った。その結果、上記式(30)で表されるホスホナート誘導体を得た。
次いで、上記式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて上記式(21)で表されるベンゼン誘導体を用い、上記反応式(R−6)に代えて上記反応式(R−30)で表される反応を行った。その結果、上記式(31)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、上記式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(31)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−9)に代えて上記反応式(R−31)で表される反応を行った。その結果、上記式(32)で表される中間体を得た(収率:75%)。次いで、上記式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−10)で表される反応に代えて上記反応式(32)で表される反応を行った。その結果、式(HT−8)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:73%)。
(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成
下記反応式(R−33)〜(R−37)で表される反応を行って、式(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した。
まず、上記反応式(R−5)で表される反応と同様にして上記反応式(R−33)で表される反応を行った。その結果、上記式(11)で表されるホスホナート誘導体を得た。次いで、上記式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて上記式(32)で表されるベンゼン誘導体を用い、上記反応式(R−6)で表される反応に代えて上記反応式(R−34)で表される反応を行った。その結果、上記式(32)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、上記式(18)で表されるアニリン誘導体に代えて上記式(34)で表されるアニリン誘導体を用い、更に上記式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて上記式(33)で表されるスチルベン誘導体を用い、上記反応式(R−9)に代えて上記反応式(R−36)で表される反応を行った。その結果、上記式(35)で表される中間体を得た(収率:78%)。更に、上記式(20)で表される中間体に代えて上記式(35)で表される中間体を用い、上記反応式(R−10)で表される反応に代えて上記反応式(R−37)で表される反応を行った。その結果、式(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成した(収率:70%)。
積層型電子写真感光体の製造
[感光体A−1の製造]
(中間層の形成)
はじめに、表面処理された酸化チタン(テイカ株式会社製、「試作品SMT−02」、数平均一次粒子径10nm)を準備した。詳しくは、アルミナとシリカとを用いて表面処理し、更に、表面処理された酸化チタンを湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いて表面処理したものを準備した。次いで、表面処理された酸化チタン(2.8質量部)と、共重合ポリアミド樹脂(ダイセルエボニック株式会社製、「ダイアミドX4685」)(1質量部)とを、エタノール(10質量部)、及びブタノール(2質量部)を含む溶剤に対して添加した。次いで、これらをビーズミルを用いて5時間混合し、溶剤中に材料を分散させて、中間層用塗布液を調製した。
得られた中間層用塗布液を、目開き5μmのフィルターを用いてろ過した。その後、基体としてのアルミニウム製のドラム状支持体(直径30mm、全長238.5mm)の表面に、中間層用塗布液をディップコート法を用いて塗布した。続いて、塗布した塗布液を130℃で30分間乾燥させて、基体(ドラム状支持体)上に中間層(膜厚1.5μm)を形成した。
(電荷発生層の形成)
電荷発生剤としてのY型チタニルフタロシアニン顔料(1質量部)と、ベース樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂(電気化学工業株式会社製、「デンカブチラール ♯6000EP」)(1質量部)とを、プロピレングリコールモノメチルエーテル(40質量部)及びテトラヒドロフラン(40質量部)を含む溶剤に対して添加した。次いで、これらをビーズミルを用いて2時間混合し、溶剤中に材料を分散させて、第二の塗布液を作製した。得られた第二の塗布液を、目開き3μmのフィルターを用いてろ過した。次いで、得られたろ過液を、上述のようにして形成された中間層上にディップコート法を用いて塗布し、50℃で5分間乾燥させた。これにより、中間層上に電荷発生層(膜厚0.3μm)を形成した。
(電荷輸送層の形成)
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体(60質量部)と、酸化防止剤としてのジブチルヒドロキシトルエン(5質量部)と、バインダー樹脂としてのZ型ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製、「TS2050、粘度平均分子量50,000」)(100質量部)とを、テトラヒドロフラン(430質量部)及びトルエン(430質量部)を含む溶剤に対して添加した。これを、循環型超音波分散装置を用いて12時間混合し、各成分を溶剤中に分散させて、第三の塗布液を調製した。
第二の塗布液と同様の操作により、上記のようにして形成された電荷発生層上に第三の塗布液を塗布した。その後、130℃にて30分間乾燥させて、電荷発生層上に電荷輸送層(膜厚20μm)を形成した。その結果、感光体A−1(積層型電子写真感光体)が得られた。感光体A−1では、基体上に、中間層、電荷発生層、及び電荷輸送層が、この順で積層されていた。
[感光体A−2]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−2を製造した。
[感光体A−3]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−3を製造した。
[感光体A−4]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−4を製造した。
[感光体A−5]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−5を製造した。
[感光体A−6]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−6)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−6を製造した。
[感光体A−7]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体A−7を製造した。
[感光体B−1]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて下記式(HT−A)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−1の製造と同様の手法により、感光体B−1を製造した。
単層型電子写真感光体の製造
[感光体A−8の製造]
容器内に、電荷発生剤としてX型結晶の無金属フタロシアニン5質量部と、正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体80質量部と、下記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物50質量部と、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(帝人株式会社製、商品名「パンライト(登録商標)」)100質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800質量部とを投入し、これらを混合して混合物を得た。次に、混合物をボールミルで50時間分散し、単層型感光層用塗布液(第一の塗布液)を得た。
次に、直径30mm、長さ238.5mmのアルミニウム製のドラム(基体)に得られた第一の塗布液を塗布した。詳しくは、ドラムの一端を上にして、第一の塗布液中に5mm/秒の速度で浸漬させて、第一の塗布液を塗布した。その後、100℃で30分間熱処理して、膜厚25μmの単層型感光層を形成し、単層型電子写真感光体である感光体A−8を得た。
[感光体A−9の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて、下記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−9を製造した。
[感光体A−10の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−9の製造と同様の手法により、感光体A−10を製造した。
[感光体A−11の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−2)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−11を製造した。
[感光体A−12の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−11の製造と同様の手法により、感光体A−12を製造した。
[感光体A−13の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−12の製造と同様の手法により、感光体A−13を製造した。
[感光体A−14の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−3)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−14を製造した。
[感光体A−15の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−14の製造と同様の手法により、感光体A−15を製造した。
[感光体A−16の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−15の製造と同様の手法により、感光体A−16を製造した。
[感光体A−17の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−4)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−17を製造した。
[感光体A−18の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−17の製造と同様の手法により、感光体A−18を製造した。
[感光体A−19の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−18の製造と同様の手法により、感光体A−19を製造した。
[感光体A−20の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−5)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−20を製造した。
[感光体A−21の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−20の製造と同様の手法により、感光体A−21を製造した。
[感光体A−22の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−21の製造と同様の手法により、感光体A−22を製造した。
[感光体A−23の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−6)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−23を製造した。
[感光体A−24の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−23の製造と同様の手法により、感光体A−24を製造した。
[感光体A−25の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−24の製造と同様の手法により、感光体A−25を製造した。
[感光体A−26の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−7)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−26を製造した。
[感光体A−27の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−26の製造と同様の手法により、感光体A−27を製造した。
[感光体A−28の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−27の製造と同様の手法により、感光体A−28を製造した。
[感光体A−29の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−8)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−29を製造した。
[感光体A−30の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−29の製造と同様の手法により、感光体A−30を製造した。
[感光体A−31の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−30の製造と同様の手法により、感光体A−31を製造した。
[感光体A−32の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体A−32を製造した。
[感光体A−33の製造]
上記式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて上記式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体A−32の製造と同様の手法により、感光体A−33を製造した。
[感光体A−34の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えて、Y型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体A−33の製造と同様の手法により、感光体A−34を製造した。
[感光体B−2の製造]
正孔輸送剤としての式(HT−1)で表されるトリアリールアミン誘導体に代えて式(HT−A)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いた以外は、感光体A−8の製造と同様の手法により、感光体B−2を製造した。
[感光体B−3の製造]
式(ET−1)で表される電子アクセプター化合物に代えて式(ET−2)で表される電子アクセプター化合物を用いた以外は、感光体B−2の製造と同様の手法により、感光体B−3を製造した。
[感光体B−4の製造]
電荷発生剤としてのX型結晶の無金属フタロシアニンに代えてY型結晶のチタニルフタロシアニンを用いた以外は、感光体B−3の製造と同様の手法により、感光体B−4を製造した。
上記のようにして得られた感光体A−1〜A−34及びB−1〜B−4の何れかに対し、下記のような評価を行った。
積層型電子写真感光体の電気的特性評価
感光体A−1〜A−7及び感光体B−1の各々(積層型電子写真感光体)を、ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、回転数を31rpmとし、−700Vになるように帯電させた。次いで、単色光(波長:780nm、半値幅:20nm、光強度:0.4μJ/cm2)をハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出し、積層型電子写真感光体の表面に照射した(照射時間:1.5秒)。単色光の照射後、0.5秒が経過した後の表面電位を測定し、この表面電位を残留電位(VL)とした。測定環境は、温度23℃かつ湿度50%RHとした。
単層型電子写真感光体の電気的特性評価
感光体A−8〜A−34及び感光体B−2〜B−4の各々(単層型電子写真感光体)を、ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、+700Vになるように帯電させた。この状態で電位を測定し、初期表面電位(Vo)とした。次いで、単色光(波長:780nm、半値幅:20nm、光強度:1.5μJ/cm2)をハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出し、単層型電子写真感光体の表面に照射した(照射時間:1.5秒)。照射後、0.5秒経過した後の表面電位を測定し、この表面電位を残留電位(VL)とした。測定環境は、温度23℃かつ湿度50%RHとした。
電子写真感光体の外観評価
感光体A−1〜A−34及び感光体B−1〜B−4の各々の表面全域を、光学顕微鏡を用いて観察し、結晶化した部分の有無を確認した。以下の基準で外観を評価した。
○(良い):結晶化した部分が観察されなかった。
×(悪い):結晶化した部分が観察された。
表1は感光体A−1〜A−7及び感光体B−1の電荷輸送層に含有される各材料と各種評価の結果を示す。表2は感光体A−8〜A−34及び感光体B−2〜B−4の単層型感光層に含有される各成分と各種評価の結果を示す。
表1及び表2から理解できるように、本発明のトリアリールアミン誘導体を用いた電子写真感光体においては、電気的特性評価における残留電位が低く、感光層の結晶化の発現が抑制されていた。従って、本発明に係る電子写真感光体は、優れた電気的特性を維持しつつ、表面外観に優れるため、高画質な画像を形成し得ることが明らかである。