以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。更に、反応式(R−1)〜(R−8)で表される反応を各々、反応(R−1)〜(R−8)と記載することがある。
以下、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基及び炭素原子数1以上6以下のアルキレン基は、何ら規定していなければ、各々次の意味である。
ハロゲン原子は、例えば、フッ素(フルオロ基)、塩素(クロロ基)又は臭素(ブロモ基)である。
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基又はヘキシル基が挙げられる。
炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上4以下のアルキル基である。炭素原子数1以上4以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基が挙げられる。
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基又はヘキシルオキシ基が挙げられる。
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基又は素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基又はフェナントリル基が挙げられる。
炭素原子数1以上6以下のアルキレン基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルキレン基である。炭素原子数1以上6以下のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、メチルエチレン基、n−ブチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、プロピルメチレン基、エチルメチルメチレン基、ペンチレン基又はヘキシレン基が挙げられる。
<積層型電子写真感光体>
以下、図1を参照して、本実施形態に係る積層型電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)1の構造を説明する。図1は、本実施形態に係る感光体1の構造を示す概略断面図である。
図1(a)に示すように、感光体1は、例えば、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、電荷発生層3aと電荷輸送層3bとを含む。
図1(b)に示すように、感光体1では、導電性基体2上に電荷輸送層3bが設けられ、電荷輸送層3b上に電荷発生層3aが設けられてもよい。ただし、一般に電荷輸送層3bの膜厚は、電荷発生層3aの膜厚に比べ厚いため、電荷輸送層3bは、電荷発生層3aに比べ破損し難い。このため、感光体の耐摩耗性を向上させるためには、図1(a)に示すように、導電性基体2上に電荷発生層3aが設けられ、電荷発生層3a上に電荷輸送層3bが設けられることが好ましい。
電荷発生層3aの厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層3bの厚さは、2μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。
図1(c)に示すように、感光体1は、導電性基体2と感光層3と中間層(下引き層)4とを備えていてもよい。中間層4は、導電性基体2と感光層3との間に備えられる。また、感光層3上には、保護層(不図示)が設けられていてもよい。以上、図1を参照して、感光体1の構造について説明した。
<1.電荷輸送層>
感光層のうちの電荷輸送層は、正孔輸送剤及びバインダー樹脂を含有する。電荷輸送層は、必要に応じて、電子アクセプター化合物及び各種添加剤を含有してもよい。
電荷輸送層は、正孔輸送剤として一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記載することがある)を含有する。電荷輸送層は、バインダー樹脂として一般式(2)で表されるポリカーボネート樹脂(以下、樹脂(2)と記載することがある)を含有する。電荷輸送層に化合物(1)と樹脂(2)とが含有されることにより、感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させることができる。その理由は以下のように推測される。
まず、化合物(1)が有する利点を説明する。化合物(1)において、2個の窒素原子には各々3個の置換基が結合している。結合している3個の置換基のうち、1個の置換基の構造が他の2個の置換基の構造と大きく異なっている。これにより、化合物(1)の構造の非対称性が大きくなる。そのため、化合物(1)が感光層を形成するための溶剤に溶解し易くなり、化合物(1)が均一に分散した感光層が得られ易くなる。その結果、感光体の電気特性が向上すると考えられる。
また、化合物(1)においては、Xに結合する2個のフェニル基が各々、炭素原子数1以上4以下のアルキル基(R3に対応)を有する。このような構造を有することからも、化合物(1)は感光層を形成するための溶剤に溶解し易い。これにより、化合物(1)が均一に分散した感光層が得られ易くなる。その結果、感光体の電気特性が向上すると考えられる。
更に、化合物(1)においては、2個のトリフェニルアミン部位がXで結合されている。これにより、一方のトリフェニルアミン部位が形成する面と、他方のトリフェニルアミン部位が形成する面とが、平行に配置され難くなる。そのため、感光層中で化合物(1)同士が密にスタッキングし難くなる。これにより、一の化合物(1)と他の化合物(1)との間に分子間水素結合が生じ難くなる。その結果、感光層が結晶化し難くなり、感光体の電気特性が向上すると考えられる。
次に、化合物(1)と樹脂(2)とを組み合わせることによる利点を説明する。樹脂(2)は電荷輸送層を形成するための溶剤に溶解し易い。既に述べたように化合物(1)も溶剤への溶解性に優れることから、化合物(1)と樹脂(2)とを組み合わせて使用することにより、化合物(1)と樹脂(2)とが均一に分散する電荷輸送層形成用塗布液が調製され易くなる。これにより、化合物(1)と樹脂(2)とが均一に分散した感光層が形成されると考えられる。また、化合物(1)と樹脂(2)とは、相溶性に優れる傾向がある。この点からも、化合物(1)と樹脂(2)とが均一に分散した感光層が形成されると考えられる。化合物(1)と樹脂(2)とが均一に分散した感光層が形成されることで、感光体の電気特性を向上できると考えられる。更に、化合物(1)と樹脂(2)とは、電荷輸送層中でスタッキング構造を形成し易い。そのため、電荷輸送層の層密度が高まり、電荷輸送層の強度が向上すると考えられる。その結果、感光体の耐摩耗性を向上できると考えられる。
<1−1.正孔輸送剤>
正孔輸送剤としての化合物(1)は、下記一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R1、R2、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、各々独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基又は置換基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。R3は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。Xは、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基又は酸素原子を表す。nは、1以上3以下の整数を表す。
一般式(1)のR1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上4以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。R1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、置換基を有してもよい。炭素原子数1以上6以下のアルキル基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素原子数6以上14以下のアリール基が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(1)のR1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましい。R1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、置換基を有してもよい。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素原子数6以上14以下のアリール基が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(1)のR1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、炭素原子数6以上14以下の芳香族単環炭化水素基が好ましく、フェニル基がより好ましい。R1、R2及びR4〜R9で表される炭素原子数6以上14以下のアリール基は、置換基を有してもよい。炭素原子数6以上14以下のアリール基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素原子数6以上14以下のアリール基が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させるためには、R1、R2及びR4〜R9は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましい。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させるためには、R1、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は各々、水素原子を表すことがより好ましい。
一般式(1)のR3で表される炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
感光体の電気特性を向上させるためには、R2及びR3は、各々独立して、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、R2とR3とは互いに異なっていることが好ましい。R2はエチル基を表し、R3はメチル基を表すことがより好ましい。
一般式(1)のXで表される炭素原子数1以上6以下のアルキレン基としては、炭素原子数1以上3以下のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はn−プロピレン基がより好ましく、メチレン基が更に好ましい。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させるためには、Xは、炭素原子数1以上3以下のアルキレン基又は酸素原子を表すことが好ましく、メチレン基、n−プロピレン基又は酸素原子を表すことがより好ましく、メチレン基又は酸素原子を表すことが特に好ましい。
一般式(1)中、nは1以上3以下の整数を表す。nは1又は2を表すことが好ましく、2を表すことがより好ましい。nが1又は2であると、化合物(1)の分子構造が適度に大きくなり、感光層中に存在する一の化合物(1)の電子雲と他の化合物(1)の電子雲との距離(ホッピング距離)が小さくなる傾向がある。その結果、化合物(1)の間での正孔の移動性が向上し、感光体の電気特性が向上すると考えられる。
化合物(1)の具体例としては、下記化学式(H−1)〜(H−6)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(H−1)〜(H−6)で表される化合物を各々、化合物(H−1)〜(H−6)と記載することがある。
化合物(1)は、例えば、下記の反応(R−1)〜(R−3)に従って又はこれに準ずる方法によって製造される。これらの反応以外に、必要に応じて適宜な工程が含まれてもよい。
反応(R−1)〜(R−3)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、X及びnは、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、X及びnと同義である。Yは、ハロゲン原子を表す。
反応(R−1)では、1当量の化合物(9)と1当量の亜リン酸トリエチルとを反応させて、1当量の化合物(3)を得る。反応(R−1)では、1モルの化合物(9)に対して、1モル以上2.5モル以下の亜リン酸トリエチルを添加することが好ましい。1モルの化合物(9)に対して1モル以上の亜リン酸トリエチルを添加すると、化合物(3)の収率を向上させ易い。一方、1モルの化合物(9)に対して2.5モル以下の亜リン酸トリエチルを添加すると、反応後に未反応の亜リン酸トリエチルが残留し難く、化合物(3)の精製が容易となる。反応(R−1)の反応温度は160℃以上200℃以下であることが好ましい。反応(R−1)の反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応(R−2)では、1当量の化合物(3)と1当量の化合物(4)とを反応させて、1当量の化合物(5)を得る。反応(R−2)は、ウィッティヒ(Wittig)反応である。
反応(R−2)では、1モルの化合物(3)に対して、1モル以上10モル以下の化合物(4)を添加することが好ましい。1モルの化合物(3)に対して1モル以上の化合物(4)を添加すると、化合物(5)の収率を向上させ易い。1モルの化合物(3)に対して10モル以下の化合物(4)を添加すると、未反応の化合物(4)が残留し難く、化合物(5)の精製が容易となる。
反応(R−2)は、塩基の存在下で行われてもよい。塩基としては、例えば、ナトリウムアルコキシド(具体的には、ナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシド)、金属水素化物(具体的には、水素化ナトリウム又は水素化カリウム)又は金属塩(具体的には、n−ブチルリチウム)が挙げられる。これらの塩基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩基の添加量は、1モルの化合物(3)に対して、1モル以上2モル以下であることが好ましい。塩基の添加量が1モル以上であると、反応性を向上させ易い。一方、塩基の添加量が2モル以下であると、反応を制御し易い。
反応(R−2)は、溶媒中で行われてもよい。溶媒としては、例えば、エーテル類(具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル又はジオキサン)、ハロゲン化炭化水素(具体的には、塩化メチレン、クロロホルム又はジクロロエタン)又は芳香族炭化水素(具体的には、ベンゼン又はトルエン)が挙げられる。
反応(R−2)の反応温度は0℃以上50℃以下であることが好ましい。反応(R−2)の反応時間は2時間以上24時間以下であることが好ましい。
反応(R−3)では、4当量の化合物(5)と1当量の化合物(6)とを反応させて1当量の化合物(1)を得る。反応(R−3)は、カップリング反応である。
反応(R−3)では、1モルの化合物(6)に対して、4モル以上8モル以下の化合物(5)を添加することが好ましい。1モルの化合物(6)に対して4モル以上の化合物(5)を添加すると、化合物(1)の収率を向上させ易い。一方、1モルの化合物(6)に対して8モル以下の化合物(5)を添加すると、反応後に未反応の化合物(5)が残留し難く、化合物(1)の精製が容易となる。
反応(R−3)の反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応(R−3)の反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応(R−3)では、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。パラジウム化合物を用いることにより、反応(R−3)における活性化エネルギーが低下する傾向がある。その結果、化合物(1)の収率を向上できると考えられる。パラジウム化合物としては、例えば、四価パラジウム化合物、二価パラジウム化合物又はその他のパラジウム化合物が挙げられる。四価パラジウム化合物としては、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物が挙げられる。二価パラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)が挙げられる。その他のパラジウム化合物としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。パラジウム化合物の添加量は、1モルの化合物(6)に対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
パラジウム化合物は、配位子を含む構造であってもよい。これにより、反応(R−3)の反応性を向上させ易くなる。配位子としては、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフリルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ(t−ブチル)ホスフィン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル又は2,2’−ビス[(ジフェニルホスフィノ)ジフェニル]エーテルが挙げられる。配位子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。配位子の添加量は、1モルの化合物(6)に対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
反応(R−3)は、塩基の存在下で行われることが好ましい。これにより、反応系中で発生するハロゲン化水素(例えば、塩化水素)をすみやかに中和し、触媒活性を向上できると考えられる。その結果、化合物(1)の収率を向上できると考えられる。塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、例えば、アルカリ金属アルコシド(具体的には、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド又はカリウムtert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウムtert−ブトキシドがより好ましい。無機塩基としては、例えば、リン酸三カリウム又はフッ化セシウムが挙げられる。1モルの化合物(6)に対して、パラジウム化合物を0.0005モル以上20モル以下添加する場合、塩基の添加量は、1モル以上50モル以下であることが好ましく、1モル以上30モル以下であることがより好ましい。
反応(R−3)は、溶媒中で行われてもよい。溶媒としては、例えば、キシレン(具体的には、o−キシレン)、トルエン、テトラヒドロフラン又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
正孔輸送剤としての化合物(1)の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、65質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上55質量部以下であることが更に好ましく、35質量部以上55質量部以下であることが一層好ましく、35質量部以上50質量部以下であることが特に好ましい。正孔輸送剤の含有量がバインダー樹脂100質量部に対して65質量部以下であると、感光体の耐摩耗性を向上させ易い。一方、正孔輸送剤の含有量がバインダー樹脂100質量部に対して30質量部以上であると、感光体の電気特性を向上させ易い。
電荷輸送層は、化合物(1)に加えて、更に別の正孔輸送剤を含有してもよい。別の正孔輸送剤としては、例えば、化合物(1)以外の含窒素環式化合物又は縮合多環式化合物を使用することができる。含窒素環式化合物及び縮合多環式化合物としては、例えば、化合物(1)以外のジアミン誘導体(例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体又はN,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体)、オキサジアゾール系化合物(例えば、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)、スチリル化合物(例えば、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン)、カルバゾール化合物(例えば、ポリビニルカルバゾール)、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物(例えば、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン)、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物又はトリアゾール系化合物が挙げられる。化合物(1)の含有量は、正孔輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
<1−2.バインダー樹脂>
バインダー樹脂として、樹脂(2)が含有される。樹脂(2)は、一般式(2)で表される。樹脂(2)はポリカーボネート樹脂である。
一般式(2)中、R21及びR22は、各々独立して水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。R23及びR24は、各々独立して水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。或いは、R23とR24とが互いに結合してシクロアルキリデン基を形成する。p及びqは、各々独立して正の数を表す。p+q=1.00である。0.35≦p≦0.70である。
一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24が表すアルキル基は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24が表わすアリール基は、例えば炭素原子数6以上14以下のアリール基である。
一般式(2)中、R23とR24とが互いに結合して形成するシクロアルキリデン基は、例えば、炭素原子数5以上7以下のシクロアルキリデン基である。炭素原子数5以上7以下のシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基又はシクロへプチリデン基が挙げられる。R23とR24とが互いに結合して形成するシクロアルキリデン基としては、シクロヘキシリデン基が好ましい。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させるためには、一般式(2)中、R21及びR22は、各々独立して水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表すことが好ましく、水素原子又はメチル基を表すことがより好ましい。
感光体の電気特性を特に向上させるためには、一般式(2)中、R21は水素原子を表し、R22は水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表すことが好ましい。同様の理由から、R21は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、R22は水素原子を表すことも好ましい。
感光体の耐摩耗性を特に向上させるためには、一般式(2)中、R21及びR22は各々水素原子を表すことが好ましい。同様の理由から、R21は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、R22は水素原子を表すことも好ましい。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を両立させるためには、一般式(2)中、R23とR24とは互いに結合して炭素原子数5以上7以下のシクロアルキリデン基を形成することが好ましく、シクロヘキシリデン基を形成することがより好ましい。
樹脂(2)は、一般式(2−1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2−1)と記載することがある)と、一般式(2−2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2−2)と記載することがある)とを含む。一般式(2−1)中のR21は、一般式(2)中のR21と同義である。一般式(2−2)中のR22、R23及びR24は、各々一般式(2)中のR22、R23及びR24と同義である。
一般式(2)中、p及びqは、各々独立して正の数を表す。p+q=1.00である。0.35≦p≦0.70である。つまり、pは、0.35以上0.70以下の正の数を表す。pが0.35以上の正の数であると、感光層の耐摩耗性を向上させることができる。pが0.70以下の正の数であると、感光層を形成するための溶剤に樹脂(2)が溶解し易くなり、感光層を好適に形成することができる。pは、樹脂(2)における繰返し単位(2−1)と繰返し単位(2−2)との合計物質量(モル)に対する、繰返し単位(2−1)の物質量(モル)の比率(モル比率)を表す。qは、樹脂(2)における繰返し単位(2−1)と繰返し単位(2−2)との合計物質量(モル)に対する、繰返し単位(2−2)の物質量(モル)の比率(モル比率)を表す。
感光体の耐摩耗性及び電気特性を一層両立させるためには、0.35≦p≦0.50であることが好ましい。つまり、pは、0.35以上0.50以下の正の数を表すことが好ましい。感光体の耐摩耗性を特に向上させるためには、0.50≦p≦0.70であることが好ましい。つまり、pは、0.50以上0.70以下の正の数を表すことが好ましい。
樹脂(2)は、例えば、繰返し単位(2−1)と繰返し単位(2−2)とがランダムに共重合したランダム共重合体であってもよい。又は、例えば、繰返し単位(2−1)と繰返し単位(2−2)とが交互に共重合した交互共重合体であってもよい。又は、1以上の繰返し単位(2−1)と、1以上の繰返し単位(2−2)とが周期的に共重合した周期的共重合体であってもよい。又は、複数の繰返し単位(2−1)からなるブロックと、複数の繰返し単位(2−2)からなるブロックとが共重合したブロック共重合体であってもよい。
樹脂(2)の粘度平均分子量は40,000以上であることが好ましく、40,000以上60,000以下であることがより好ましい。樹脂(2)の粘度平均分子量が40,000以上であると、樹脂(2)の耐摩耗性を十分に高めることができ、電荷輸送層が摩耗し難くなる。一方、樹脂(2)の粘度平均分子量が60,000以下であると、電荷輸送層の形成時に、樹脂(2)が溶剤に溶解し易くなり、電荷輸送層の形成が容易になる。
バインダー樹脂の製造方法は、樹脂(2)を製造できれば、特に限定されない。樹脂(2)の製造方法の一例として、ポリカーボネート樹脂の繰返し単位を構成するためのジオール化合物とホスゲンとを縮重合させる方法(いわゆる、ホスゲン法)が挙げられる。より具体的には、例えば、一般式(2−3)で表されるジオール化合物と、一般式(2−4)で表されるジオール化合物と、ホスゲンとを、縮重合させる方法が挙げられる。一般式(2−3)中のR21は、一般式(2)中のR21と同義である。一般式(2−4)中のR22、R23及びR24は、各々一般式(2)中のR22、R23及びR24と同義である。樹脂(2)の製造方法の別の例として、ジオール化合物とジフェニルカーボネートとをエステル交換反応させる方法も挙げられる。
樹脂(2)としては、例えば、化学式(Resin−1A)、(Resin−1B)、(Resin−2)、(Resin−3)又は(Resin−4)で表される樹脂が挙げられる。
電荷輸送層は、バインダー樹脂として樹脂(2)を単独で含有してもよい。或いは、電荷輸送層は、樹脂(2)に加えて、樹脂(2)以外の別のバインダー樹脂を更に含有してもよい。別のバインダー樹脂としては、例えば、樹脂(2)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂又はメラミン樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリレート(エポキシ化合物のアクリル酸付加物)又はウレタン−アクリレート(ウレタン化合物のアクリル酸付加物)が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
樹脂(2)の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
<1−3.電子アクセプター化合物>
電荷輸送層は、必要に応じて、電子アクセプター化合物を含有してもよい。これにより、正孔輸送剤の正孔輸送能が向上する傾向がある。
電子アクセプター化合物の例としては、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。電子アクセプター化合物も、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電子アクセプターとしては、例えば、一般式(7)又は(8)で表される化合物が挙げられる。
一般式(7)及び(8)中、R10〜R15は、各々独立して、水素原子、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表されるアルキル基は、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が好ましく、メチル基、tert−ブチル基又は1,1−ジメチルプロピル基がより好ましい。アルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、置換基を更に有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。置換基としての炭素原子数6以上14以下のアリール基が更に有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表されるアルケニル基は、例えば、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数2以上6以下のアルケニル基である。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基は、例えば、1個以上3個以下の二重結合を有する。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ペンタジエニル基、ヘキセニル基又はヘキサジエニル基が挙げられる。アルケニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表されるアルコキシ基は、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。アルコキシ基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基として好ましくは、フェニル基である。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表されるアルコキシカルボニル基は、例えば、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基である。炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基は、カルボニル基に直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基である。アルコキシカルボニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表されるアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下のアリール基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、フェニル基が好ましい。アリール基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)、フェノキシカルボニル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はビフェニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(7)及び(8)中のR10〜R15で表される複素環基は、例えば、N、S及びOからなる群より選択される1以上のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基である。複素環基が縮合環である場合、縮合環に含まれる環の数は2個又は3個であることが好ましい。複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(7)で表される化合物の具体例としては、化学式(E−2)で表される化合物が挙げられる。一般式(8)で表される化合物の具体例としては、化学式(E−1)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(E−1)及び(E−2)で表される化合物を各々、化合物(E−1)及び(E−2)と記載することがある。
電子アクセプター化合物の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
<2.電荷発生層>
感光層のうちの電荷発生層は、電荷発生剤を含有する。電荷発生層は、電荷発生層用バインダー樹脂(以下、ベース樹脂と記載することがある)を含有してもよい。電荷発生層は、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。
<2−1.電荷発生剤>
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料又はキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニン又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン又はクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、Y型、V型又はII型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型又はY型結晶(以下、α型、β型又はY型チタニルフタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。ヒドロキシガリウムフタロシアニンの結晶としては、ヒドロキシガリウムフタロシアニンのV型結晶が挙げられる。クロロガリウムフタロシアニンの結晶としては、クロロガリウムフタロシアニンのII型結晶が挙げられる。
例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。700nm以上の波長領域で高い量子収率を有することから、電荷発生剤としては、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましく、X型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンが更に好ましい。感光層に正孔輸送剤として化合物(1)が含有される場合に電気特性を特に向上させるためには、電荷発生剤としてはY型チタニルフタロシアニンがより好ましい。
Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
(CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法)
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料が好適に用いられる。
電荷発生剤の含有量は、電荷発生層に含有されるベース樹脂100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、30質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
<2−2.ベース樹脂>
電荷発生層は、ベース樹脂を含有する。ベース樹脂は、感光体に適用できるベース樹脂である限り、特に制限されない。ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル酸重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂又はポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリレート(エポキシ化合物のアクリル酸付加物)又はウレタン−アクリレート(ウレタン化合物のアクリル酸付加物)が挙げられる。ベース樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電荷発生層に含有されるベース樹脂は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂とは異なることが好ましい。感光体の製造では、例えば、導電性基体上に電荷発生層が形成され、電荷発生層上に電荷輸送層が形成される。その際に、電荷発生層上に、電荷輸送層形成用塗布液が塗布される。そのため、電荷発生層は、電荷輸送層形成用塗布液の溶剤に溶解しないことが好ましいからである。
<3.導電性基体>
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼又は真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
<4.添加剤>
感光体の感光層(電荷発生層又は電荷輸送層)は、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール(例えば、ジ(tert−ブチル)p−クレゾール)、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物又は有機燐化合物が挙げられる。可塑剤としては、例えばメタターフェニルが挙げられる。
<5.中間層>
中間層(下引き層)は、例えば、無機粒子及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ又は酸化亜鉛)の粒子又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができる限り、特に限定されない。中間層は、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層の添加剤と同様である。
<6.感光体の製造方法>
感光体の製造方法は、例えば、電荷輸送層形成工程を含む。感光体の製造方法は、電荷発生層形成工程を含んでもよい。感光体の製造方法は、必要に応じて適宜変更して実施されてもよい。
電荷発生層形成工程では、電荷発生剤と溶剤とを少なくとも含む電荷発生層形成用塗布液を、導電性基体上に塗布する。そして、電荷発生層形成用塗布液に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去して、導電性基体上に電荷発生層を形成する。電荷発生層形成用塗布液は、電荷発生剤及び必要に応じて添加される成分(例えば、ベース樹脂及び各種の添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
電荷輸送層形成工程では、正孔輸送剤としての化合物(1)とバインダー樹脂としての樹脂(2)と溶剤とを少なくとも含む電荷輸送層形成用塗布液を、電荷発生層上に塗布する。そして、溶剤の少なくとも一部を除去して電荷輸送層を形成する。これにより、感光体が製造される。電荷輸送層形成用塗布液は、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び必要に応じて添加される成分(例えば、電子アクセプター化合物及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
塗布液(電荷発生層形成用塗布液又は電荷輸送層形成用塗布液)に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はブタノール)、脂肪族炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。感光体の製造時の作業性を向上させるためには、溶剤として非ハロゲン溶剤(ハロゲン化炭化水素以外の溶剤)を用いることが好ましい。
電荷輸送層形成用塗布液に含有される溶剤は、正孔輸送剤としての化合物(1)とバインダー樹脂としての樹脂(2)とを均一に溶解又は分散させ易いことから、トルエン、ジオキサン(例えば、1,4−ジオキサン)、テトラヒドロフラン及びキシレン(例えば、オルト−キシレン(o−キシレン))のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。化合物(1)と樹脂(2)とはこのような溶剤に対して良好に分散する傾向がある。このため、化合物(1)と樹脂(2)とが均一に分散した電荷輸送層形成用塗布液が調製され易い。そして、このような電荷輸送層形成用塗布液を用いて電荷輸送層を形成すると、化合物(1)が均一に分散した電荷輸送層が形成され易い。電荷輸送層形成用塗布液に含有される溶剤は、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン及びo−キシレンのうちの1種又は2種を含有することがより好ましい。電荷輸送層形成用塗布液に含有される溶剤がトルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン及びo−キシレンのうちの2種を含有する場合、このような溶剤としては、例えば、テトラヒドロフランとトルエンとの混合溶剤、テトラヒドロフランと1,4−ジオキサンとの混合溶剤又はテトラヒドロフランとo−キシレンとの混合溶剤が挙げられる。
電荷輸送層形成用塗布液に含有される溶剤は、電荷発生層形成用塗布液に含有される溶剤と、異なることが好ましい。電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液を塗布する場合に、電荷発生層が電荷輸送層形成用塗布液の溶剤に溶解しないことが好ましいからである。
塗布液(電荷発生層形成用塗布液又は電荷輸送層形成用塗布液)は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー又は超音波分散装置を用いることができる。
塗布液(電荷発生層形成用塗布液又は電荷輸送層形成用塗布液)は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
塗布液(電荷発生層形成用塗布液又は電荷輸送層形成用塗布液)を塗布する方法としては、塗布液を導電性基体上に均一に塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法又はバーコート法が挙げられる。
塗布液(電荷発生層形成用塗布液又は電荷輸送層形成用塗布液)に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る限り、特に限定されない。溶剤の少なくとも一部を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、及び加熱と減圧との併用が挙げられる。例えば、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて、中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程の一方又は両方を更に含んでもよい。中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
以上、本実施形態に係る感光体について説明した。本実施形態の感光体によれば、耐摩耗性及び電気特性を両立させることができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<1.感光体の材料>
感光体の電荷発生層及び電荷輸送層を形成するための材料として、以下の正孔輸送剤、電荷発生剤及びバインダー樹脂を準備した。
<1−1.正孔輸送剤>
正孔輸送剤として、実施形態で述べた化合物(H−1)〜(H−6)を準備した。化合物(H−1)〜(H−6)は、各々以下の方法で製造した。
<1−1−1.化合物(3a)の製造>
まず、反応(R−4)に従って化合物(3a)を製造した。化合物(3a)は、後述する化合物(5a)、(5b)及び(5c)を製造するための原料である。
反応(R−4)では、化合物(9a)と亜リン酸トリエチルとを反応させて、化合物(3a)を得た。詳しくは、容量200mLのフラスコに、化合物(9a)16.1g(0.10モル)と、亜リン酸トリエチル25.0g(0.15モル)とを投入した。フラスコ内容物を、180℃で8時間攪拌した後、室温まで冷却した。続いて、フラスコ内容物に含まれる未反応の亜リン酸トリエチルを減圧留去した。これにより、白色液体である化合物(3a)を得た(収量24.1g、収率92mol%)。
<1−1−2.化合物(5a)、(5b)及び(5c)の製造>
次に、反応(R−5)に従って化合物(5a)を製造した。化合物(5a)は、後述する化合物(H−1)、(H−2)及び(H−4)を製造するための原料である。
反応(R−5)では、化合物(3a)と化合物(4a)とを反応させて化合物(5a)を得た。反応(R−5)は、ウィッティヒ(Wittig)反応である。詳しくは、反応(R−4)で得られた化合物(3a)13.1g(0.050モル)を、容量500mLの二口フラスコに0℃で加えた。フラスコ内の空気を、アルゴンガスで置換した。続いて、フラスコ内に、乾燥テトラヒドロフラン(100mL)及び28%ナトリウムメトキシド9.3g(0.050モル)を添加した。フラスコ内容物を30分間攪拌した。続いて、フラスコ内に、化合物(4a)6.6g(0.050モル)の乾燥テトラヒドロフラン(300mL)溶液を添加した。フラスコ内容物を、室温で12時間攪拌した。フラスコ内容物を、イオン交換水に注ぎ、トルエンで抽出した。得られた有機層を、イオン交換水で5回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。続いて、有機層に含有される溶媒を留去し、残渣を得た。得られた残渣を、トルエン/メタノール(20mL/100mL)を用いて精製した。これにより、白色結晶である化合物(5a)を得た。化合物(5a)の収量は10.8gであり、化合物(3a)からの化合物(5a)の収率は90mol%であった。
反応(R−6)に従って化合物(5b)を製造した。化合物(5b)は、後述する化合物(H−3)及び(H−5)を製造するための原料である。
反応(R−6)では、化合物(3a)と化合物(4b)とを反応させて化合物(5b)を得た。反応(R−6)は、ウィッティヒ(Wittig)反応である。反応(R−6)は、以下の点を変更した以外は、反応(R−5)と同様の方法で行った。反応(R−5)における化合物(4a)6.6g(0.050モル)を、化合物(4b)5.0g(0.050モル)に変更した。その結果、化合物(5b)が得られた。化合物(5b)の収量は9.9gであり、化合物(3a)からの化合物(5b)の収率は92mol%であった。
反応(R−7)に従って化合物(5c)を製造した。化合物(5c)は、後述する化合物(H−6)を製造するための原料である。
反応(R−7)では、化合物(3a)と化合物(4c)とを反応させて化合物(5c)を得た。反応(R−7)は、ウィッティヒ(Wittig)反応である。反応(R−7)は、以下の点を変更した以外は、反応(R−5)と同様の方法で行った。反応(R−5)における化合物(4a)6.6g(0.050モル)を、化合物(4c)6.0g(0.050モル)に変更した。その結果、化合物(5c)が得られた。化合物(5c)の収量は10.5gであり、化合物(3a)からの化合物(5c)の収率は92mol%であった。
<1−1−3.化合物(H−1)の製造>
次に、反応(R−8)に従って化合物(H−1)を製造した。
反応(R−8)では、化合物(5a)と化合物(6a)とを反応させて化合物(H−1)を得た。反応(R−8)は、カップリング反応である。詳しくは、三口フラスコに、第一原料としての化合物(5a)9.62g(0.040モル)、トリシクロヘキシルホスフィン0.140g(0.0004モル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.091g(9.99×10-5モル)、ナトリウムtert−ブトキシド4.22g(0.044モル)、第二原料としての化合物(6a)2.82g(0.010モル)及び蒸留したо−キシレン(100mL)を投入した。フラスコ内の空気をアルゴンガスで置換した。続いて、フラスコ内容物を120℃で5時間攪拌した後、室温まで冷却した。フラスコ内容物をイオン交換水で3回洗浄し、有機層を得た。有機層に無水硫酸ナトリウムと活性白土とを加え、乾燥処理及び吸着処理を行った。乾燥処理及び吸着処理後の有機層を減圧留去し、о−キシレンを除去した。これにより、残渣を得た。得られた残渣を、展開溶媒としてクロロホルム/ヘキサン(体積比1:1)を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。これにより、化合物(H−1)を得た。化合物(H−1)の収量は5.7gであり、化合物(6a)からの化合物(H−1)の収率は52mol%であった。
<1−1−4.化合物(H−2)〜(H−6)の製造>
以下の点を変更した以外は、化合物(H−1)の製造と同様の方法で、化合物(H−2)〜(H−6)を各々製造した。なお、化合物(H−2)〜(H−6)の製造において使用される各原料は、化合物(H−1)の製造において使用される対応する原料のモル数と同じモル数で添加した。
反応(R−8)で使用する第一原料を、化合物(H−1)の製造における化合物(5a)から、表1に示す第一原料(化合物(5a)、(5b)又は(5c))に変更した。反応(R−8)で使用する第二原料を、化合物(H−1)の製造における化合物(6a)から、表1に示す第二原料(化合物(6a)、(6b)、(6c)又は(6d))に変更した。その結果、反応(R−8)では、化合物(H−1)の代わりに化合物(H−2)〜(H−6)が得られた。反応(R−8)で得られた化合物(H−2)〜(H−6)の収量を表1に示す。また、第二原料(化合物(6a)、(6b)、(6c)又は(6d))からの化合物(H−2)〜(H−6)の収率を表1に示す。
表1中、化合物(5a)〜(5c)及び(6a)〜(6d)は、各々、下記化学式(5a)〜(5c)及び(6a)〜(6d)で表される。表1中、化合物(5a)〜(5c)は各々、上述の反応(R−5)〜(R−7)で得られた化合物である。
次に、製造した化合物(H−1)を、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴分光計)を用いて分析した。磁場強度は300MHzに設定した。溶媒として、重水素化クロロホルム(CDCl3)を使用した。内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。測定された化合物(H−1)の1H−NMRスペクトルを図2に示す。化合物(H−1)の1H−NMRスペクトルの化学シフト値を以下に示す。1H−NMRスペクトルと化学シフト値とから、化合物(H−1)が各々、化学式(H−1)で表される構造を有することが確認された。
化合物(H−1):1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ 7.16−7.44(m,28H),6.76−7.04(m,20H),6.57−6.63(m,8H),3.98(s,2H),2.42(q,4H),2.03(s,6H),1.00(t,6H).
<1−1−5.化合物(H−A)〜(H−C)の準備>
正孔輸送剤として、下記化学式(H−A)〜(H−C)で表される化合物も準備した。以下、化学式(H−A)〜(H−C)で表される化合物を各々、化合物(H−A)〜(H−C)と記載することがある。
<1−2.電荷発生剤>
電荷発生剤として、化合物(C−2Y)を準備した。化合物(C−2Y)は、実施形態で述べた化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニンであった。また、化合物(C−2Y)は、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ±0.2°の27.2°に主ピークを有していた。
<1−3.バインダー樹脂>
バインダー樹脂として、樹脂(Resin−1Aa)、(Resin−1Ba)、(Resin−1Ca)、(Resin−1Da)及び(Resin−2a)〜(Resin−6a)を準備した。
樹脂(Resin−1Aa)は、実施形態で述べた化学式(Resin−1A)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−1Aa)の粘度平均分子量は50,100であった。
樹脂(Resin−1Ba)は、実施形態で述べた化学式(Resin−1B)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−1Ba)の粘度平均分子量は50,100であった。
樹脂(Resin−1Ca)は、下記化学式(Resin−1C)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−1Ca)の粘度平均分子量は50,100であった。
樹脂(Resin−1Da)は、下記化学式(Resin−1D)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−1Da)の粘度平均分子量は50,100であった。
樹脂(Resin−2a)は、実施形態で述べた化学式(Resin−2)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−2a)の粘度平均分子量は52,500であった。
樹脂(Resin−3a)は、実施形態で述べた化学式(Resin−3)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−3a)の粘度平均分子量は55,000であった。
樹脂(Resin−4a)は、実施形態で述べた化学式(Resin−4)で表される樹脂であった。樹脂(Resin−4a)の粘度平均分子量は47,200であった。
樹脂(Resin−5a)は、下記化学式(Resin−5)で表される繰り返し単位から形成される樹脂であった。樹脂(Resin−5a)の粘度平均分子量は47,200であった。
樹脂(Resin−6a)は、下記化学式(Resin−6)で表される繰り返し単位から形成される樹脂であった。樹脂(Resin−6a)の粘度平均分子量は48,900であった。
<2.感光体の製造>
上述した感光層を形成するための材料を用いて、感光体(P−1)〜(P−20)を製造した。
<2−1.感光体(P−1)の製造>
始めに、表面処理された酸化チタン(テイカ株式会社製「試作品SMT−A」、数平均一次粒子径10nm)を準備した。詳しくは、アルミナとシリカとを用いて酸化チタンを表面処理し、表面処理された酸化チタンを湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いて更に表面処理したものを準備した。
次に、下引き層形成用塗布液を調製した。具体的には、容器内に、表面処理された酸化チタン2質量部、ポリアミド樹脂(東レ株式会社製「アミラン(登録商標)CM8000」、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66及びナイロン610の四元共重合体)1質量部、及び溶剤としてのメタノール10質量部とブタノール1質量部とトルエン1質量部とを投入した。容器の内容物を、ビーズミルを用いて5時間混合し、溶剤中に材料を分散させた。これにより、下引き層形成用塗布液を得た。
次に、下引き層を形成した。具体的には、得られた下引き層形成用塗布液を5μmのフィルターを用いてろ過した。その後、下引き層形成用塗布液を、導電性基体としてのアルミニウム製のドラム状支持体(直径30mm、全長246mm)の表面に、ディップコート法を用いて塗布した。続いて、塗布した下引き層形成用塗布液を、130℃で30分間加熱した。これにより、導電性基体上に下引き層(膜厚0.5μm)を形成した。
次に、電荷発生層形成用塗布液を調製した。具体的には、容器内に、電荷発生剤としての化合物(C−2Y)1.5質量部、ベース樹脂としてのポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBX−5」)1質量部、分散媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル40質量部及び分散媒としてのテトラヒドロフラン40質量部を投入した。容器の内容物を、ビーズミルを用いて2時間混合し、分散媒に材料を分散させた。これにより、電荷発生層形成用塗布液を得た。次に、得られた電荷発生層形成用塗布液を3μmのフィルターを用いてろ過した。その後、電荷発生層形成用塗布液を、形成した下引き層上に、ディップコート法を用いて塗布した。続いて、塗布した電荷発生層形成用塗布液を、50℃で5分間乾燥させた。これにより、下引き層上に、電荷発生層(膜厚0.3μm)が形成された。
次に、電荷輸送層形成用塗布液を調製した。具体的には、正孔輸送剤としての化合物(H−1)41質量部、バインダー樹脂としての樹脂(Resin−1Aa)100質量部、添加剤としてのメタターフェニル13質量部、溶剤としてのテトラヒドロフラン420質量部及び溶剤としてのトルエン210質量部を、容器内に投入した。容器の内容物を混合し、溶剤に材料を溶解させた。これにより、電荷輸送層形成用塗布液を得た。次に、得られた電荷輸送層形成用塗布液を、電荷発生層形成用塗布液と同様の方法で、形成した電荷発生層上に塗布した。続いて、塗布した電荷輸送層形成用塗布液を、110℃で60分間乾燥させた。これにより、電荷発生層上に、電荷輸送層(膜厚20μm)が形成された。その結果、感光体(P−1)が得られた。
<2−2.感光体(P−2)〜(P−20)の製造>
以下の点を変更した以外は、感光体(P−1)の製造と同様の方法で、感光体(P−2)〜(P−20)を各々製造した。正孔輸送剤の種類を、感光体(P−1)の製造に用いた化合物(H−1)から、表2に示す種類の正孔輸送剤に変更した。正孔輸送剤の含有量(添加量)を、感光体(P−1)の製造における41質量部から、表2に示す含有量(添加量)に変更した。バインダー樹脂の種類を、感光体(P−1)の製造に用いた樹脂(Resin−1Aa)から、表2に示す種類の樹脂に変更した。
<3.電気特性の評価>
製造した感光体(P−1)〜(P−20)の各々に対して、電気特性を評価した。電気特性の評価は、温度10℃及び湿度10%RH(相対湿度)の環境下で行った。まず、ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、感光体の表面を−450Vに帯電させた。次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光(波長780nm、半値幅20nm、光量0.20μJ/cm2)を取り出した。取り出された単色光を、感光体の表面に照射した。照射が終了してから40ミリ秒経過した時の感光体の表面電位を測定した。測定された表面電位を、感度電位(VL、単位V)とした。測定された感光体の感度電位(VL)を、表2に示す。感度電位の絶対値が80V以下である感光体を、感光体の電気特性が良好であると評価した。
<4.耐摩耗性の評価>
感光体(P−1)〜(P−20)の各々に対して、耐摩耗性を評価した。詳しくは、各感光体の製造で使用した電荷輸送層形成用塗布液を、アルミパイプ(直径78mm)に巻きつけたポリプロピレンシート(厚さ0.3mm)に塗布した。ポリプロピレンシートに塗布された電荷輸送層形成用塗布液を、110℃で60分間乾燥させた。これにより、ポリプロピレンシート上に評価用シート(厚さ30μm)が形成された。続けて、ポリプロピレンシートから評価用シートを剥離した。そして、剥離された評価用シートをウィール(テーバー社製「S−36」)に貼り付けて、試験片を得た。
次に、摩耗試験前における試験片の質量MAを測定した。その後、試験片について摩耗試験を行った。詳しくは、試験片をロータリーアブレージョンテスタ(株式会社東洋精機製作所)の回転台に取り付けた。そして、試験片上に荷重500gfの摩耗輪(テーバー社製「CS−10」)を乗せた状態で、回転台を回転速度60rpmで回転させて、1000回転の摩耗試験を行った。続けて、摩耗試験後における試験片の質量MBを測定した。そして、摩耗試験前後の試験片の質量変化量である摩耗減量(=MA−MB)を求めた。得られた摩耗減量を表2に示す。摩耗減量が7.0mg以下である感光体を、感光体の耐摩耗性が良好であると評価した。
感光体(P−1)〜(P−12)及び(P−16)の感光層は、電荷発生剤を含有する電荷発生層と、正孔輸送剤及びバインダー樹脂を含有する電荷輸送層とを備えていた。正孔輸送剤として化合物(1)が含有されていた。詳しくは、正孔輸送剤として化合物(H−1)〜(H−6)の何れかが含有されていた。バインダー樹脂として樹脂(2)が含有されていた。詳しくは、バインダー樹脂として樹脂(Resin−1Aa)、(Resin−1Ba)及び(Resin−2a)〜(Resin−4a)の何れかが含有されていた。そのため、表2から明らかなように、これらの感光体では、感度電位(VL)の絶対値が小さく、電気特性が優れていた。また、これらの感光体では、摩耗減量が少なく、耐摩耗性が優れていた。
感光体(P−13)、(P−19)及び(P−20)の感光層は、正孔輸送剤として化合物(H−A)、化合物(H−B)及び化合物(H−C)の何れかを含有していた。しかし、化合物(H−A)、化合物(H−B)及び化合物(H−C)は一般式(1)で表される化合物ではなかった。そのため、表2から明らかなように、感光体(P−13)、(P−19)及び(P−20)では、感度電位(VL)の絶対値が大きく、電気特性が劣っていた。更に感光体(P−20)では、摩耗減量が多く、耐摩耗性も劣っていた。
感光体(P−14)、(P−15)、(P−17)及び(P−18)の感光層は、バインダー樹脂として樹脂(Resin−5a)、(Resin−6a)、(Resin−1Ca)及び(Resin−1Da)の何れかを含有していた。しかし、樹脂(Resin−5a)、(Resin−6a)、(Resin−1Ca)及び(Resin−1Da)は一般式(2)で表される樹脂ではなかった。そのため、表2から明らかなように、感光体(P−14)、(P−15)及び(P−17)では、摩耗減量が多く、耐摩耗性が劣っていた。また、感光体(P−18)では、樹脂(Resin−1Da)が溶剤に溶解せず電荷輸送層形成用塗布液を調製することができなかった。そのため、感光層を形成できず、電気特性及び耐摩耗性を評価することができなかった。
以上のことから、本発明に係る感光体は、耐摩耗性及び電気特性を両立できることが示された。