JP6253109B2 - 後部絹糸腺遺伝子発現ユニット及びそれを有する遺伝子組換え絹糸虫 - Google Patents

後部絹糸腺遺伝子発現ユニット及びそれを有する遺伝子組換え絹糸虫 Download PDF

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本発明は、カイコのような絹糸虫の後部絹糸腺において目的のペプチドを大量に発現することのできる後部絹糸腺遺伝子発現ユニット及びそれを有する遺伝子組換え絹糸虫に関する。
カイコ(Bombyx mori)の絹糸腺は、大量のタンパク質を短期間に合成できる能力を有している。また、カイコの絹糸腺は大型器官であるため摘出が容易であり、また合成されたタンパク質は絹糸腺内腔に貯蔵されることから回収しやすいという利点もある。そのため、絹糸腺で目的のタンパク質を発現する遺伝子組換えカイコは、タンパク質の大量生産系として有望視されている。
カイコの絹糸腺は、形態学的には図1で示すような左右1対の器官であり、それぞれは、前部絹糸腺、中部絹糸腺、及び後部絹糸腺の3つの領域で構成されている。後部絹糸腺細胞内では、絹糸の繊維成分であるフィブロインを構成する3つの主要なタンパク質、フィブロインH鎖(以下、しばしば「Fib H」と略称する)、フィブロインL鎖(以下、しばしば「Fib L」と略称する)、及びp25/FHX(以下、「p25」とする)が発現している。また中部絹糸腺細胞内では絹糸の被覆成分であるゼラチン様タンパク質、セリシンが発現している(図1)。後部絹糸腺細胞内で発現した前記3つのタンパク質は、Fib H:Fib L:p25=6:6:1の比率で複合体(silk fibroin elementary unit;本明細書では、以下「SFEU複合体」と称する。)を形成し、後部絹糸腺内腔中に分泌される。これに対して、セリシンは、発現後に中部絹糸腺内腔中に分泌される。後部絹糸腺内腔中に分泌されたフィブロインは、その後、中部絹糸腺内腔に移行し、セリシンで被覆されて絹糸として吐糸される(図1:非特許文献1)。したがって、カイコ絹糸腺をタンパク質発現系として利用する場合、中部絹糸腺又は後部絹糸腺で特異的に発現する遺伝子発現系を利用すればよい。
カイコ絹糸腺をタンパク質発現系として利用する場合、これまでに中部絹糸腺を用いた組換えタンパク質発現システムとしてGAL4/UASシステム(非特許文献2)、又はセリシン1プロモーター及びHr3エンハンサーを組み合わせた系による大量発現方法(非特許文献3)が確立している。
一方、後部絹糸腺におけるタンパク質合成能力は、中部絹糸腺のそれの約3倍であることが知られている(非特許文献4)。それ故、生産面から判断すれば、中部絹糸腺よりも後部絹糸腺の方がタンパク質発現系としては、より好ましい。また、後部絹糸腺で生産された組換えタンパク質は、繭糸と共に分泌されるため絹繊維として利用するのにも適している(非特許文献5)。
ところで、これまでの研究からFib Hに異常があるカイコの変異系統(Nd系統)やFib Lに異常があるカイコの変異系統(Nd−s系統及びNd−s系統)は、他のフィブロイン構成タンパク質が正常に発現しているにもかかわらず、ほとんど吐糸できないことが知られている(非特許文献6)。また、これらの変異系統の解析から、後部絹糸腺内腔へのFib H、Fib L、及び/又はp25の効率的な分泌には、前記SFEU複合体の形成が重要であることが判明している(非特許文献7及び8)。したがって、前記変異系統が吐糸できない理由は、いずれかの構成タンパク質に異常があるためにSFEU複合体を形成できず、その結果、FibH、FibL、及びp25のいずれも後部絹糸腺細胞から内腔中へ分泌されないためと考えられている(非特許文献9)。このような知見から、後部絹糸腺細胞内で発現したタンパク質は、SFEU複合体を構成したときにのみ効率的に細胞外に分泌されるというのが当該分野の通説である。したがって、後部絹糸腺をタンパク質発現系として利用するには、後部絹糸腺に特異的な分泌システムを利用するために目的の組換えタンパク質をSFEU複合体の一部として発現させる等の工夫をしなければならない。
後部絹糸腺で組換えタンパク質をSFEU複合体の一部として発現・分泌させる具体的な方法としては、Fib H遺伝子又はFib L遺伝子のプロモーターの下流にFib H又はFib Lの全部又は一部と組換えタンパク質とを結合した融合タンパク質(キメラタンパク質)として発現させる方法が知られている(図2a及びb)(非特許文献10、11)。そのようなキメラタンパク質は、SFEU複合体の一部として組み込まれるため後部絹糸腺の内腔への分泌は効率的に行われる。しかし、SFEU複合体に組み込まれることによって不溶性となってしまうため、組換えタンパク質を回収するには分泌されたSFEU複合体の可溶化処理を行わなければならない。可溶化には強い変性剤による処理が必須であり、さらに、生理活性を発現させるためには、キメラタンパク質中のフィブロイン構成タンパク質部分の切断も必要となる場合がある。そのため後部絹糸腺で発現させた組換えタンパク質は、回収が困難な上に、その活性を失うリスクを伴うという大きな問題があった。
一方、組換えタンパク質を不溶性のSFEU複合体の構成成分としてではなく、水溶性タンパク質として後部絹糸腺にて発現・分泌させる方法も知られている。例えば、目的の組換えタンパク質をコードするDNAの上流にp25のシグナルペプチドをコードするDNAを付加する方法(図2c)(非特許文献12)が挙げられる。この方法では目的とするタンパク質は水溶性タンパク質として発現され得るが、発現量及び分泌効率が低いという大きな問題があった(非特許文献12)。また、後部絹糸腺特異的なタンパク質のシグナルペプチドを用いるのではなく、特許文献1に記載されたタイワンカブトムシのディフェンシンの発現方法のように、目的の組換えタンパク質自身のシグナルペプチドを含む状態で該組換えタンパク質を後部絹糸腺にて可溶化した状態で発現させる方法も試みられている。しかしながら、この方法も前記方法と同様に目的とするタンパク質は発現され得るものの、発現量及び分泌効率が低いという問題があった。
以上の理由より、当該分野では、遺伝子組換えカイコの絹糸腺発現系を用いて、タンパク質を水溶性の状態で簡便にかつ多量に生産する場合には、後部絹糸腺は不適とされてきた。
特開2005−95063
Inoue S.et al.,2000,The Journal of Biological Chemistry,275(51):40517−40528. Tatematsu K.et al.,2010,Transgenic Research,19(3):473−87. Tomita M.et al.,2007,Transgenic Research,16(4):449−465. M.Mondal et al.,2007,Caspian J.Env.Sci 5(2):63−7. 田村俊樹 他,2008,農業技術,63巻第7号:320−236. Gamo T.et al.,1985,J.seric.Sci.Jpn,54,412−419. Takei F.et al.,1984,The Journal of Cell Biology,99:2005−2010. Takei F.et al.,1987,The Journal of Cell Biology,105:175−180. Inoue S.et al.,2004,Eur.J.Biochem.271:356−366. Kojima K.et al.,2007,Biosci Biotechnol Biochem,71:2943−2951. Tomita M.et al.,2003,Nat Biotechnol,21:52−56. Royer C.et al.,2005,Transgenic Res,14:463−472.
しかしながら、もしも組換えペプチドをフィブロインの構成成分としてではなく、水溶性ペプチドとして後部絹糸腺で簡便にかつ多量に発現及び分泌させることができれば、その高いタンパク質合成能力により遺伝子組換えカイコを用いた有用ペプチドの生産効率を向上させることができ、また、それによって製造コストを低減することも可能となる。
そこで、本発明の目的は、カイコをはじめとする絹糸虫の後部絹糸腺において水溶性組換えペプチドを大量に発現・分泌することのできる後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを開発し、その遺伝子発現ユニット及びそれを導入した遺伝子組換え絹糸虫を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、中部絹糸腺細胞で特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドに外来の水溶性ペプチドを連結したキメラペプチドをコードする遺伝子を後部絹糸腺で発現させたところ、驚くべきことに従来の後部絹糸腺遺伝子発現系と比較して10〜50倍もの効率で目的の水溶性ペプチドを発現及び分泌させることができることを見出した。本願発明は、当該新規知見に基づくものであって、具体的には以下の発明を提供する。
(1)後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に結合した中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドをコードするDNA及びその下流に連結されたフィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNAを含む後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(2)前記シグナルペプチドがセリシン1〜3のいずれか一のシグナルペプチドである、(1)に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(3)前記後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質がFib H、Fib L又はp25である、(1)又は(2)に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(4)(a)後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に結合した転写調節因子をコードする遺伝子を含む第1サブユニットと、(b)該転写調節因子の標的プロモーター、該プロモーターの下流に機能的に結合した中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドをコードするDNA、及びその下流に連結されたフィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNAを含む第2サブユニットから構成される後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(5)前記シグナルペプチドがセリシン1〜3のいずれか一のシグナルペプチドである、(4)に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(6)前記後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質がFib H、Fib L又はp25である、(4)又は(5)に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫。
(8)(4)〜(6)のいずれかに記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫。
(9)前記第1サブユニットと前記第2サブユニットとが異なる染色体上に存在する、(8)に記載の遺伝子組換え絹糸虫。
(10)前記第1サブユニットを有する系統と前記第2サブユニットを有する系統とを交配して得られる、(8)又は(9)に記載の遺伝子組換え絹糸虫。
(11)絹糸虫がカイコ、エリサン、又はサクサンである、(7)〜(10)のいずれかに記載の遺伝子組換え絹糸虫。
(12)(1)〜(6)のいずれかに記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを宿主である絹糸虫に導入して、後部絹糸腺において目的のペプチドを発現する遺伝子組換え絹糸虫の作出方法。
(13)(7)〜(11)のいずれかに記載の遺伝子組換え絹糸虫を用いて目的のペプチドを製造する方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2012−281330号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
図1は、カイコの絹糸腺及びその各部位で発現するフィブロイン構成タンパク質と絹糸が吐糸されるまでの概念図である。
図2は、従来の後部絹糸腺での組換えタンパク質発現ユニットの構成を示す図である。(a)この組換えタンパク質の発現ユニットは、Fib HのN末端領域及びC末端領域をそれぞれコードする遺伝子領域の間に目的の組換えタンパク質Xをコードする遺伝子(Gene X)を結合してなる融合遺伝子を、Fib H遺伝子プロモーターの下流に発現可能な状態で結合した構造を有する。(b)この組換えタンパク質の発現ユニットは、Fib Lの全長をコードする遺伝子領域の下流に目的の組換えタンパク質Xをコードする遺伝子(Gene X)を結合してなる融合遺伝子を、Fib L遺伝子のプロモーターの下流に発現可能な状態で結合した構造を有する。(c)この組換えタンパク質の発現ユニットは、p25のシグナルペプチドをコードする遺伝子領域と目的の組換えタンパク質Xをコードする遺伝子(Gene X)を結合してなる融合遺伝子をp25遺伝子プロモーターの下流に発現可能な状態で結合した構造を有する。なお、(a)〜(c)の3’末端側の白箱は、ポリAシグナルを含む3’UTRを示す。
図3は、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの構成例を示す。(a)本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが1つの遺伝子発現ユニットで構成される場合の構成例である。(b)本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが2つのサブユニットで構成される場合の第1サブユニットの構成例である。(c)本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが2つのサブユニットで構成される場合の第2サブユニットの構成例である。なお、(a)〜(c)の3’末端側の白箱は、ポリAシグナルを含む3’UTRを示す。
図4は、実施例1で構築した発現ベクターを示す。(a)中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用の第1サブユニットを示す。(b)後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用の第1サブユニットを示す。(c)第2サブユニットを示す。
図5は、従来の中部絹糸腺遺伝子発現ユニット、及び本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットをそれぞれ導入した遺伝子組換えカイコにおける中部絹糸腺及び後部絹糸腺でのEGFPの発現を示す図である。
図6は、従来の中部絹糸腺遺伝子発現ユニット、及び本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットをそれぞれ導入した遺伝子組換えカイコにおける中部絹糸腺又は後部絹糸腺におけるEGFP量を示す図である。
図7は、従来の中部絹糸腺遺伝子発現ユニット、及び本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットをそれぞれ導入した遺伝子組換えカイコの繭におけるEGFPの存在を示す図である。
図8において、Aは、実施例6で用いた第2サブユニットの一つの構造を示す概念図である。Bは、後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニットと、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質セリシン1由来のシグナルペプチド又は後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質p25由来のシグナルペプチドのいずれかを有する第2サブユニット(それぞれ図4(c)と図8Aで示す)を導入した遺伝子組換えカイコにおける後部絹糸腺でのEGFP量を示す図である。
図9において、Aは、実施例7で用いた第2サブユニットの構造を示す概念図である。シグナルペプチドは、ブタIL−2由来のものとセリシン1由来のものの2種を構築している。Bは実施例7で構築した各後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有するカイコ系統の各絹糸腺の抽出液からブタIL−2を検出したウエスタンブロッティングの結果である。Cは実施例7で構築した各中部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有するカイコ系統の各絹糸腺の抽出液からブタIL−2を検出したウエスタンブロッティングの結果である。
図10において、Aは、実施例8で用いた第2サブユニットの構造を示す概念図である。シグナルペプチドは、ウシIFN−γ由来のものとセリシン1由来のものの2種を構築している。Bは実施例7で構築した各後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有するカイコ系統の各絹糸腺の抽出液からウシIFN−γを検出したウエスタンブロッティングの結果である。Cは実施例7で構築した各中部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有するカイコ系統の各絹糸腺の抽出液からウシIFN−γを検出したウエスタンブロッティングの結果である。
1.後部絹糸腺遺伝子発現ユニット
1−1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットである。本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、これを絹糸虫に導入することで、その絹糸虫の後部絹糸腺において、目的とする組換えペプチドをフィブロイン構成成分の一部としてではなく、水溶性ペプチドとして大量に発現及び分泌させることができる。
本明細書において「後部絹糸腺遺伝子発現ユニット」とは、絹糸虫の後部絹糸腺において前記組換えペプチドを大量に発現し、分泌することのできる一組の遺伝子発現システムをいう。
本明細書において「絹糸虫」とは、絹糸腺を有し、絹糸を吐糸することのできる昆虫の総称をいう。具体的には、鱗翅目、膜翅目、脈翅目、毛翅目等のうち主として幼虫期に営巣、営繭又は移動のために吐糸することのできる種類を指す。鱗翅目であれば、多量の絹糸を吐糸できるカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、イボタガ科(Brahmaeidae)、オビガ科(Eupterotidae)、カレハガ科(Lasiocampidae)、ミノガ科(Psychidae)、ヒトリガ科(Archtiidae)、ヤガ科(Noctuidae)等は本明細書の絹糸虫として好ましい。Bombyx属、Samia属、Antheraea属、Saturnia属、Attacus属、Rhodinia属に属する種、具体的には、カイコ、クワコ(Bombyx mandarina)、シンジュサン(Samia cynthia;エリサンSamia cynthia ricini及びシンジュサンとエリサンの交配種を含む)、ヤママユガ(Antheraea yamamai)、サクサン(Antheraea pernyi)、ヒメヤママユ(Saturnia japonica)、オオミズアオ(Actias gnoma)等が好適な例として挙げられる。
「絹糸腺」とは、液状絹を産生し、蓄積し、また分泌する機能を有する唾液腺の変化した管状器官である。絹糸腺は、前記絹糸虫の、主として幼虫の消化管に沿って左右一対で存在し、各絹糸腺は、前部、中部及び後部絹糸腺の3領域で構成されている。前述のように、後部絹糸腺は、絹糸の繊維成分であるフィブロインを産生及び分泌する。また、中部絹糸腺は、被覆成分であるセリシンを産生及び分泌し、後部絹糸腺より移行してきたフィブロインと共にその内腔に蓄積する。
1−2.構成
1−2−1.エレメントの構成
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、フィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNAの他、該ペプチドの発現に必要な後部絹糸腺発現プロモーター、及び分泌に必要なシグナルペプチドをコードするDNA等のエレメント等を包含する。以下、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの各エレメントの構成について具体的に説明をする。
(1)フィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNA
本明細書において「ペプチド」と表記する場合には、2個以上のアミノ酸がアミド結合によって連結した分子をいう。ペプチドは、オリゴペプチド、及びタンパク質のようなポリペプチドを含む。ペプチドは、1遺伝子由来又はその遺伝子断片由来であってもよいし、複数の遺伝子の一部を連結したキメラ遺伝子由来であってもよい。また、ペプチドのアミノ酸長は、特に限定はしない。例えば、アミノ酸残基数が10〜10,000個であってもよい。
本明細書において、「フィブロイン構成タンパク質を含まないペプチド」とは、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにより大量に発現及び分泌させるべき目的のペプチド(以下、しばしば「目的のペプチド」と略称する)であって、フィブロイン構成タンパク質及びその断片以外のペプチド、及びフィブロイン構成タンパク質の全部又は一部を含まないキメラペプチドをいう。フィブロイン構成タンパク質には、SFEU複合体を構成するFib H、Fib L、又はp25等が該当する。フィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドは、SFEU複合体の一部等として発現することはなく、したがって、後部絹糸腺細胞から分泌された後も繭糸の繊維成分の一部となることはない。それ故、目的のペプチドとして、例えば、水溶性ペプチドを本態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットで発現及び分泌させた場合には、該水溶性ペプチドは後部絹糸腺内腔又は繭糸から水、又はタンパク質変性剤を含まない中性の抽出バッファーを用いて容易に分離、回収することができる。このような水溶性ペプチドの例としては、インスリン、カルシトニン、パラトルモン及び成長ホルモンのようなペプチドホルモン、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)及びトランスフォーミング成長因子β(TGF−β)のようなサイトカイン、免疫グロブリン、血清アルブミン、酵素、又はコラーゲン、あるいはそれらの断片(キメラペプチドを含む)が挙げられる。
(2)後部絹糸腺発現プロモーター
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにおける後部絹糸腺発現プロモーターは、絹糸虫の後部絹糸腺で作動可能なプロモーターであれば、いずれの遺伝子のプロモーターであってもよい。例えば、後部絹糸腺特異的プロモーターの他、ユビキタスに発現可能な過剰発現型プロモーター、構成的活性型プロモーター若しくは時期特異的活性型プロモーター、又は発現誘導型プロモーター等が挙げられる。好ましくは後部絹糸腺特異的プロモーターである。中でも絹糸虫の後部絹糸腺で特異的かつ大量に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターは好ましく、さらに終齢後期から前蛹期に後部絹糸腺で特異的に活性化する終齢後期後部絹糸腺特異的活性型プロモーターは特に好ましい。具体的には、例えば、フィブロイン構成タンパク質であるFib H、Fib L、又はp25の遺伝子プロモーター(本明細書では、それぞれ「Fib Hプロモーター」、「Fib Lプロモーター」、又は「p25プロモーター」と称する)が挙げられる。
後部絹糸腺発現プロモーターの由来生物種は、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入する絹糸虫の細胞内で作動する限り特に限定はしない。特にFib H、Fib L、又はp25の各プロモーターを用いる場合には、いずれの絹糸虫由来であってもよい。これらのプロモーターの塩基配列は、絹糸虫間で進化的に非常によく保存されており、後部絹糸腺発現プロモーターの由来する絹糸虫と本願発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入する絹糸虫の種類が異なる場合であっても、そのプロモーターは宿主絹糸虫の後部絹糸腺で作動し得るからである(Sezutsu H.,et al.,2009,Journal of Insect Biotechnology and Sericology,78:1−10)。本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにおける後部絹糸腺発現プロモーターとして、好ましくは本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入する宿主絹糸虫と分類学上同じ目由来、より好ましくは同じ科由来、さらに好ましくは同じ属由来、最も好ましくは同一種由来のプロモーターである。
Fib Hプロモーターの具体例としては、配列番号1で示される塩基配列を含むカイコ由来のFib Hプロモーター、配列番号2で示される塩基配列を含むサクサン由来のFib Hプロモーター等が挙げられる。また、Fib Lプロモーターの具体例としては、配列番号3で示される塩基配列を含むカイコ由来のFib Lプロモーター、配列番号4で示される塩基配列を含むサクサン由来のFib Lプロモーター等が挙げられる。さらに、p25プロモーターの具体例としては、配列番号5で示される塩基配列を含むカイコ由来のp25プロモーター等が挙げられる。
(3)シグナルペプチドをコードするDNA
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、シグナルペプチドをコードするDNA(以下「シグナルペプチドDNA」とする)を含む。このシグナルペプチドは、絹糸腺細胞内で発現した目的のペプチドを絹糸腺内腔内に分泌する上で必要なペプチドである。通常、シグナルペプチドは、分泌性タンパク質のN末端側に配置されており、分泌前にシグナルペプチダーゼによって切断除去される。本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットでもシグナルペプチドDNAは、目的のペプチドをコードするDNAの5’末端側に連結されている。したがって、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、シグナルペプチドと目的のペプチドを連結した細胞外分泌性のキメラタンパク質をコードしていることになる(以下、このキメラタンパク質をコードするDNAを「キメラ遺伝子」とする)。
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにおけるシグナルペプチドDNAは、絹糸虫の中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドDNAであれば、由来する細胞外分泌性タンパク質の種類については特に限定はせず、あらゆるシグナルペプチドDNAを利用することができる。シグナルペプチドのアミノ酸長は、シグナルペプチドとして機能し得る限り、特に限定はしない。通常は、3〜60アミノ酸の範囲内にあればよい。したがって、シグナルペプチドDNAの塩基長も9〜180塩基あればよい。
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにおけるシグナルペプチドDNAとして好適な例は、セリシン1〜3由来のシグナルペプチドDNAである。セリシン1〜3由来のシグナルペプチドDNAの具体例としては、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むカイコのセリシン1シグナルペプチドをコードするシグナルペプチドDNA(例えば、配列番号7で示される塩基配列を含むDNA)、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むカイコのセリシン2シグナルペプチドをコードするシグナルペプチドDNA(例えば、配列番号9で示される塩基配列を含むDNA)、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むカイコのセリシン3シグナルペプチドをコードするシグナルペプチドDNA(例えば、配列番号11で示される塩基配列を含むDNA)が挙げられる。
(4)その他のエレメント
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、上記エレメント以外にも、必要に応じて目的のペプチドの発現及び分泌に機能し得るエレメントを含むことができる。例えば、エンハンサー、5’UTR、シグナル配列後挿入配列、シグナルペプチダーゼ認識部位、3’UTR、ターミネーター、選抜マーカー、インスレーター、及びトランスポゾンの逆位末端反復配列等が挙げられる。
「シグナル配列後挿入配列」は、前記シグナルペプチドと目的のペプチドが連結した細胞外分泌性のキメラペプチドにおいて、シグナルペプチドの切断と分泌を促進するアミノ酸配列をコードする塩基配列で構成される。
「シグナルペプチダーゼ認識部位」は、シグナルペプチダーゼが前記キメラペプチドからシグナルペプチドを認識し、切断するのに必要なアミノ酸配列をコードする塩基配列で構成される。
「ターミネーター」は、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入する宿主の後部絹糸腺細胞内で、融合タンパク質をコードするDNAの転写を終結できる塩基配列で構成される。
「5’UTR」及び「3’UTR」は、前記キメラ遺伝子のmRNAコード領域において、それぞれ開始コドンの上流(5’末端側)及び終止コドンの下流(3’末端側)に配置される塩基配列で構成される。3’UTRは、ポリAシグナルを含むことができる。
「選抜マーカー」は、後述する本発明の遺伝子組換え絹糸虫が本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有していることを確認する時のマーカーとして機能し得る。例えば、EGFPやDsRedのような蛍光遺伝子を含む複眼の蛍光マーカー3xP3−EGFPや3xP3−DsRed、及びブラストサイジン耐性遺伝子のような薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
「インスレーター」は、その配列に挟まれた遺伝子の転写を、周囲の染色体のクロマチンによる影響を受けずに安定的に制御できる配列である。例えば、ニワトリのcHS4配列やショウジョウバエのgypsy配列などが挙げられる。
「トランスポゾンの逆位末端反復配列(Inverted terminal repeat sequence)」は、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが相同組換え可能な発現ベクターの場合に含まれ得る。逆位末端反復配列は、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの上流及び下流に配置される。トランスポゾンとしては、piggyBac、mariner、minos等を用いることができる(Shimizu,K.et al.,2000,Insect Mol.Biol.,9,277−281;Wang W.et al.,2000,Insect Mol Biol 9(2):145−55)。
また、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが、後述する第1サブユニット及び第2サブユニットの2つのユニットで構成される場合には、転写調節因子をコードするDNA及び該転写調節因子の標的プロモーターを包含する。
本明細書において「転写調節因子をコードするDNA」とは、第1サブユニットの必須エレメントであって、転写調節因子の遺伝子をいう。本明細書でいう「転写調節因子」とは、後述する標的プロモーターを認識及び/又はそれに結合して、その標的プロモーターを活性化することのできるタンパク質因子をいう。例えば、酵母のガラクトース代謝活性化タンパク質であるGAL4タンパク質、及びテトラサイクリン制御性トランス活性化因子であるtTA及びその変異体等が挙げられる。
本明細書において「転写調節因子の標的プロモーター」とは、第2サブユニットの必須エレメントであって、前記第1サブユニットにコードされた転写調節因子が認識及び/又はそれに結合することよって、その制御下にある遺伝子発現を活性化することのできるプロモーターをいう。前記転写調節因子とその標的プロモーターは、前記転写調節因子とは対応関係にあり、通常、転写調節因子が定まれば、その標的プロモーターも必然的に定まる。例えば、転写調節因子がGAL4タンパク質の場合には、UAS(Upstream Activating Sequence)が使用される。
1−2−2.後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの構成
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、例えば、プラスミド若しくはバクミド(Bacmid)のような自律複製可能な発現ベクター、又は染色体中に相同組換え可能な発現ベクター若しくはそれを宿主のゲノム中に挿入したゲノムの一部であってもよい。発現ベクターは、大腸菌等の他の細菌内でも複製可能なシャトルベクターとすることもできる。
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、(1)1つの遺伝子発現ユニットで構成され、単体で宿主細胞内において機能し得る場合と、(2)2つのサブユニットで構成され、その2つが宿主細胞内に存在してはじめて機能し得る場合がある。以下、それぞれの場合について説明をする。
(1)1つの遺伝子発現ユニットで構成される場合
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが1つの遺伝子発現ユニットで構成される場合、当該遺伝子発現ユニットは、図3(a)で示すような後部絹糸腺発現プロモーター(図3(a)ではFib Hプロモーターが該当する)、シグナルペプチドDNA(図3(a)ではセリシン1シグナルペプチドDNAが該当する)及び目的のペプチドをコードするDNA(図3(a)ではEGFP遺伝子が該当する)を含んでなる遺伝子発現システムを少なくとも1つ含む。
本構成の後部絹糸腺発現プロモーターは、フィブロイン構成タンパク質、例えば、Fib H、Fib L、又はp25をコードする遺伝子のプロモーターのように後部絹糸腺で特異的かつ大量に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターが好ましい。
本構成の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドDNA、及びその下流に目的のペプチドをコードするDNAが連結されてなるキメラ遺伝子を含む。シグナルペプチドDNAと目的のペプチドをコードするDNAの間には、シグナル配列後挿入配列及び/又はシグナルペプチダーゼ認識部位を含んでいてもよい。また、シグナルペプチドDNAの上流には5’UTRを、目的のペプチドをコードするDNAの下流には3’UTRを含むことができる。目的のペプチドをコードするDNAの下流又は3’UTRの下流には、さらにターミネーターを配置してもよい。本構成の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、1つの後部絹糸腺発現プロモーター制御下にキメラ遺伝子を1つ含むモノシストロニックな系であってもよいし、キメラ遺伝子を2以上含むポリシストロニックな系であってもよい。
前記キメラ遺伝子は、後部絹糸腺発現プロモーターの下流に機能的に結合されている。本明細書において「後部絹糸腺発現プロモーターの下流に機能的に結合」するとは、後部絹糸腺発現プロモーターの下流で、そのプロモーターによる発現制御を受ける位置にキメラ遺伝子等の遺伝子を配置し、それらを結合することをいう。
(2)2つのサブユニットで構成される場合
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが第1サブユニット及び第2サブユニットで構成される場合、各サブユニットは以下の構成を有する。
第1サブユニットは、図3(b)で示すように、後部絹糸腺発現プロモーター(図3(b)ではFib Hプロモーターが該当する)、及び該プロモーターの下流に機能的に結合した転写調節因子をコードするDNA(図3(b)ではGAL4遺伝子が該当する)を含んでなる。転写調節因子をコードするDNAの上流には5’UTRを、またその下流には3’UTRを含んでいてもよい。
第1サブユニットの後部絹糸腺発現プロモーターは、フィブロイン構成タンパク質、例えば、Fib H、Fib L、又はp25をコードする遺伝子のプロモーターのように後部絹糸腺で特異的かつ大量に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターが好ましい。
第2サブユニットは、図3(c)で示すように、前記第1サブユニットにコードされた転写調節因子の標的プロモーター(図3(c)ではUASが該当する)、標的プロモーターの下流に機能的に結合した中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドDNA(図3(c)ではセリシン1シグナルペプチドDNAが該当する)と目的のペプチドをコードするDNA(図3(c)ではEGFP遺伝子が該当する)が連結されてなるキメラ遺伝子を含んでなる。シグナルペプチドDNAと目的のペプチドDNAの間には、シグナル配列後挿入配列及び/又はシグナルペプチダーゼ認識部位を含んでいてもよい。また、キメラ遺伝子の上流には5’UTRを、その下流には3’UTRを含んでいてもよい。第2サブユニットは、1つの後部絹糸腺発現プロモーター制御下にキメラ遺伝子を1つ含むモノシストロニックな系であってもよいし、キメラ遺伝子を2以上含むポリシストロニックな系であってもよい。
本構成の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは、第1及び第2のサブユニットの1組で機能する。後部絹糸腺発現プロモーターの活性化により第1サブユニットから発現した転写調節因子が第2サブユニットの標的プロモーターを活性化することによって目的のペプチドを含むキメラペプチドを発現する。第2サブユニットは異なるキメラ遺伝子を含む2以上のサブユニットであってもよい。この場合、第1サブユニットから発現した転写調節因子は、各第2サブユニットの標的プロモーターを活性化することで、それぞれの第2サブユニットにコードされた目的のペプチドを発現することができる。
本構成の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットは第1サブユニットにコードされた転写調節因子を介して第2サブユニットにコードされた目的のペプチドの発現を増幅することができる。したがって、後部絹糸腺発現プロモーターの遺伝子発現能が高くない場合に好適である。また、第2サブユニットにおける目的のペプチドDNAを交換するだけで、第1サブユニットは共通使用が可能であることから、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを構築する上でも、また後述の遺伝子組換え絹糸虫を作出する上でも便利である。
1−3.効果
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットによれば、従来当該分野において水溶性ペプチドの生産系としては不適とされてきた絹糸虫の後部絹糸腺で該ペプチドを大量に合成することができる。また、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを用いれば、中部絹糸腺を用いた従来のタンパク質生産系としての遺伝子組換え絹糸虫よりも生産効率の高い遺伝子組換え絹糸虫を作出することが可能となる。
2.遺伝子組換え絹糸虫
2−1.概要
本発明の第2の態様は、遺伝子組換え絹糸虫である。本発明の遺伝子組換え絹糸虫は、前記第1態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有し、後部絹糸腺において目的のペプチドを大量に発現及び分泌できることを特徴とする。
2−2.構成
本発明の「遺伝子組換え絹糸虫」とは、宿主絹糸虫に前記第1態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入した絹糸虫又はその後代をいう。宿主絹糸虫は、前述したいずれの絹糸虫であってもよい。飼育方法や人工試料が確立しており、多頭飼育が可能なカイコ、エリサン及びサクサンは、宿主絹糸虫として特に好ましい。
本発明の遺伝子組換え絹糸虫は、前記第1態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを細胞内に一過的に有していてもよいし、ゲノム中に導入された状態等で安定的に有していてもよい。安定的に有することが好ましい。
本発明の遺伝子組換え絹糸虫は、異なる前記第1態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを2以上有することができる。例えば、遺伝子組換え絹糸虫は、1つの遺伝子発現ユニットで構成される後部絹糸腺遺伝子発現ユニットと、2つのサブユニットで構成される後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの両方を有することができる。
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットが第1サブユニット及び第2サブユニットの2つのサブユニットで構成され、それぞれが絹糸虫の染色体に挿入されている場合、各サブユニットは同一染色体上に存在していてもよいし、異なる染色体上に存在していてもよい。各サブユニットが異なる染色体上に存在する場合、第1サブユニットのみを(好ましくはホモ接合体で)有する遺伝子組換え絹糸虫の系統と第2サブユニットのみを(好ましくはホモ接合体で)有する遺伝子組換え絹糸虫の系統とを交配すれば、F1で第1サブユニットと第2サブユニットを有する本発明の遺伝子組換え絹糸虫を容易に得ることができる。この場合、前記第1サブユニットのみを有する遺伝子組換え絹糸虫の系統は、様々な第2サブユニットのみを有する遺伝子組換え絹糸虫の系統との交配に使用することができる。一方、第1サブユニット及び第2サブユニットが同一染色体上に存在する場合には、継代過程で組換えのよってそれぞれが分離しないように、サブユニット間の距離が近く、互いに連鎖している方が好ましい。
2−3.効果
本発明の遺伝子組換え絹糸虫によれば、後部絹糸腺発現型の遺伝子組換え絹糸虫を水溶性ペプチドの生産系として利用することができる。
3.遺伝子組換え絹糸虫の作出方法
3−1.概要
本発明の第3の態様は、遺伝子組換え絹糸虫を作出する方法である。本発明は、絹糸虫の後部絹糸腺において目的のペプチドを発現することのできる遺伝子組換え絹糸虫を作出することを特徴とする。
3−2.作出方法
本発明の遺伝子組換え絹糸虫の作出方法は、前記第1態様に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを宿主である絹糸虫に導入する方法、又は本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットと前記第2サブユニットを異なる染色体上に有する絹糸虫を交配する方法が挙げられる。
前記第1態様に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの宿主である絹糸虫への導入は、当該分野で公知の方法によって行えばよい。絹糸虫卵、例えば、カイコ卵に第1態様の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを導入する場合、例えば、Tamuraらの方法(Tamura T.et al.,2000,Nature Biotechnology,18,81−84)を利用することができる。具体的には、トランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM.et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:7520−5)を両端に有する第1態様に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを含む発現ベクターと共に、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するヘルパーベクターを絹糸虫の発生初期卵にインジェクションすればよい。ヘルパーベクターとしては、例えば、pHA3PIGが挙げられる。得られた形質転換体は、選抜マーカーに基づいて選抜する。必要に応じて兄妹交配又は同系交配を行い、ゲノムに挿入された後部絹糸腺遺伝子発現ユニットのホモ接合体を得てもよい。
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットと前記第2サブユニットを異なる染色体上に有する絹糸虫を交配して本発明の遺伝子組換え絹糸虫を作出する場合、それぞれの遺伝子発現ユニットを絹糸虫へ導入する方法は、前記と同様の方法、例えば、Tamuraらの方法によって行えばよい。それぞれの遺伝子発現ユニットを異なる染色体上に有する遺伝子組換え絹糸虫を交配して2つの遺伝子発現ユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫を作出する方法も、当該分野で公知の交配方法によって得ることができる。例えば、それぞれの遺伝子発現ユニットを有する絹糸虫を交配し、F1個体について2つの遺伝子発現ユニットの選抜マーカーを有する個体を選抜すればよい。必要に応じて兄妹交配又は同系交配を行い、ゲノムに挿入された後部絹糸腺遺伝子発現ユニットのホモ接合体を得てもよい。
4.ペプチドを製造する方法
4−1.概要
本発明の第4の態様は、目的のペプチドを製造する方法に関する。本発明によれば、前記第2態様の遺伝子組換え絹糸虫を用いて目的のペプチド、特に水溶性ペプチドを大量に製造することができる。
4−2.製造方法
本発明の製造方法は、飼育工程及び回収工程を含む。以下、各工程について説明をする。
(1)飼育工程
「飼育工程」とは、第2態様の遺伝子組換え絹糸虫を飼育する工程である。遺伝子組換え絹糸虫の飼育方法については、それぞれの絹糸虫について当該分野で公知の技術によって飼育すればよい。例えば、絹糸虫がカイコであれば、「蚕種総論;高見丈夫著、全国蚕種協会刊」を、またエリサンであれば、「エリサンの人工飼料と飼育法;2000、野蚕39 7−8」を参照するとよい。飼料は、例えば、カイコやクワコであればクワ属(Morus)の葉、エリサンであればトウゴマ(Ricinus communis)の葉若しくはシンジュ(Ailanthus altissima)の葉、サクサンであればブナ科(Fagaceae)の葉のような食草樹種の天然葉であってもよいし、シルクメイトL4M若しくは原蚕種1−3齢用(日本農産工業)のような人工飼料であってもよい。病気の発生を抑え、安定した質及び量の給餌が可能であり、また必要に応じて無菌的に飼育できることを鑑みれば、人工飼料が好ましい。以下、簡単な飼育方法についてカイコを例に挙げて説明する。
掃立ては、適当な頭数(例えば、4〜10頭)の同系の遺伝子組換え絹糸虫の雌が産卵した卵で行う。孵化した幼虫は、卵台紙から蚕座である防乾紙(パラフィン加工紙)を敷いた容器内に移し、シルクメイト等の人工飼料を防乾紙上に並べて給餌する。餌の交換は、原則として1〜2齢では各1回、3齢では1〜3回行う。古い餌は食べ残しが多い場合には腐敗防止のため除去する。4〜5齢の壮カイコ幼虫時の飼育には、大型容器に移し、容器あたりの頭数を適宜調整する。湿度や容器内の状態により、容器に防乾紙、アクリル、又はメッシュ製のフタをしてもよい。飼育温度は、全齢を通して25〜28℃で飼育する。
(2)回収工程
「回収工程」とは、第2態様の遺伝子組換え絹糸虫の幼虫が後部絹糸腺細胞内で発現し、分泌した後、絹糸腺内腔内に蓄積した目的のペプチドを回収する工程である。
第2態様の遺伝子組換え絹糸虫は、主に幼虫の終齢後期から後部絹糸腺遺伝子発現ユニットに含まれる目的のペプチドをシグナルペプチドとのキメラペプチドとして後部絹糸腺細胞内で発現する。キメラペプチドは、シグナルペプチドの作用によって小胞体へ輸送され、そのシグナルペプチドが小胞体内のペプチダーゼ等の酵素作用によって切断された後、後部絹糸腺内腔へ分泌される。目的のペプチドは、中部絹糸腺に移行、蓄積され、蛹化期に前部絹糸腺からセリシンやフィブロインと共に個体外に分泌、吐糸される。したがって、目的のペプチドの回収方法には、繭から回収する方法、又は終齢後期から前蛹期に虫体から絹糸腺を摘出して直接回収する方法が挙げられる。特に繭から回収する方法は、目的のペプチドを簡便に回収できる点で優れている。
繭から目的のペプチドを回収する方法は、まず、終齢後期の幼虫を上蔟(じょうぞく:幼虫を蔟「まぶし」に移すこと)して、営繭させる。次に、繭から目的のペプチドを抽出する。抽出方法は、特に限定はしない。例えば、水又はタンパク質変性剤を含まない適当な中性の抽出バッファー(例えば、1%Tween−20及び0.05%sodium azideを含む又は含まないphosphate−buffered saline,pH7.2)中に繭を浸漬するだけで目的のペプチドを回収することができる。抽出効果を高めるため浸漬前に繭を裁断又は粉砕してもよい。抽出温度は、目的のタンパク質の熱変性を防ぐため、0〜10℃、好ましくは0〜5℃の低温で行う。ただし、目的のペプチドが熱感受性ペプチドでなければ、10〜40℃でも行うこともできる。抽出液は、必要に応じて撹拌してもよい。抽出時間は、繭の状態(例えば、未裁断状態か、粉末状態か)、抽出液の量、抽出温度、撹拌の有無等の抽出条件によって異なることから、条件に応じて適宜定めればよい。フィブロイン等の不溶性成分は、抽出液から必要に応じて遠心又は濾過によって除去することができる。
終齢後期〜前踊期の虫体より絹糸腺を摘出して目的のペプチドを回収する方法は、当該分野で公知の方法によって達成することができる。例えば、終齢(5齢)6日目の吐糸直前カイコを氷上で麻酔にかけ、背側を切開してピンセットで絹糸腺を傷つけないように摘出すればよい(森靖編,カイコによる新生物学実験,三省堂,1970,pp.249−255参照)。摘出した絹糸腺を、例えば、前記抽出バッファー中で0〜10℃、好ましくは0〜5℃の温度下にて緩やかに振盪させて、目的のペプチドをバッファー中に溶出させることができる。目的のペプチドが熱感受性ペプチドでなければ、10〜40℃の温度下で行ってもよい。その後、遠心又は濾過によって組織片等の夾雑物を除去し、目的のペプチドを含む上清を回収すればよい。
4−3.効果
本発明のペプチド製造方法によれば、第2態様の遺伝子組換え絹糸虫の幼虫をタンパク質生産系として用いることで、従来の遺伝子組換え絹糸虫を用いた場合と比較して、目的のペプチド、特に水溶性ペプチドを大量に製造し、また容易に回収することが可能である。
以下に本発明の態様について、具体的な実施例を挙げて説明をするが、本実施例は本発明の一概念に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、本実施例では、宿主絹糸虫として、当該分野で最も一般的に利用されているカイコを用いた。
<実施例1:後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの構築>
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを含む、各種発現ベクターを構築した。本実施例では、第1及び第2サブユニットで構成される後部絹糸腺遺伝子発現ユニット等の発現ベクターを構築した。
(方法)
1.発現ベクターの構築
(1)中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニット:pBacSer−pro GAL4/3xP3DsRed2(図4(a))
対照用の中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニットとして、中部絹糸腺で特異的に発現するセリシン1遺伝子のプロモーター及びその下流に機能的に結合した転写調節因子GAL4遺伝子、さらにその下流に結合したhsp70polyA付加配列を有するpBacSer−pro GAL4/3xP3DsRed2を構築した。
セリシン1遺伝子プロモーターは、制限酵素AscIサイトを含む配列番号12で示すプライマーとBamHIサイトを含む配列番号13で示すプライマーを用いて、配列番号14で示すセリシン1遺伝子(GenBank Accession No.NM_001044041)の−666から+40まで(転写開始点を0位とする。以下同様)のプロモーター領域を、カイコ大造系統のゲノムDNAからPCRで増幅して調製した。増幅断片をpCR−Blunt II−TOPOベクター(life technologies)に挿入した。得られたプラスミドをAscI及びBamHIで処理し、分離されたAscI−BamHI増幅断片をpBacA3dGAL4(Uchino K.et al.,2006,J Insect Biotechnol Sericol 75:89−97)のGAL4遺伝子上流のAscI−BamHIサイトに挿入した。このプラスミドに、pBacA3GAL4/3xP3DsRed2(Uchino K.et al.,2006,J Insect Biotechnol Sericol 75:89−97)からBglIIにより切り出した3xP3−DsRedカセットを選抜マーカーとして挿入し、中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニットを構築した。
(2)後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニット:pBacFibH−pro GAL4/3xP3DsRed2(図4(b))
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニットとして、後部絹糸腺で特異的に発現するFib H遺伝子のプロモーター及びその下流に機能的に結合した転写調節因子GAL4遺伝子、さらにその下流に結合したhsp70polyA付加配列を有するpBacFibH1−pro GAL4/3xP3DsRed2を構築した。
Fib H遺伝子プロモーターは、制限酵素AscIサイトを含む配列番号15で示すプライマーとBamHIサイトを含む配列番号16で示すプライマーを用いて、配列番号1で示すFib H遺伝子(GenBank Accession No.AF226688)の−858から+11の約870bpの領域をカイコ大造系統のゲノムDNAから、PCRで増幅して調製した。増幅断片をpCR−Blunt II−TOPOベクター(life technologies)に挿入した。得られたプラスミドをAscI及びBamHIで処理し、分離されたAscI−BamHI増幅断片をpBacA3dGAL4(Uchino K.et al.,2006,J Insect Biotechnol Sericol 75:89−97)のGAL4遺伝子上流のAscI−BamHIサイトに挿入した。このプラスミドに、pBacA3GAL4/3xP3DsRed2(Uchino K.et al.,2006,J Insect Biotechnol Sericol 75:89−97)からBglIIにより切り出した3xP3−DsRedカセットを選抜マーカーとして挿入し、後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニットを構築した。
(3)第2サブユニット:pBacSerUAS−ser_sigEGFP/3xP3EGFP(図4(c))
中部及び後部絹糸腺遺伝子発現ユニット兼用の第2サブユニットとして、UAS配列の下流にセリシン1遺伝子の分泌シグナル(配列番号6)をコードする塩基配列(配列番号7)と、その3’末端側に付加したクローニング用付加塩基配列(配列番号17)と目的の水溶性ペプチドDNAとしてのEGFP遺伝子(配列番号18)を結合し、その下流にセリシン1の3’UTR(配列番号19)を連結したpBacSerUAS−ser_sigEGFP/3xP3EGFPを構築した。
2.発現ベクターの精製
構築した上記各発現ベクターは、HiSpeed Plasmid Midi Kit(キアゲン)を用いて精製した。さらに、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、0.5mM phosphate buffer(pH7.0)/5mM KClバッファーに溶解した。
<実施例2:遺伝子組換えカイコの作出>
実施例1で構築した各発現ベクターを用いて各種遺伝子組換えカイコを作出した。
(材料と方法)
(1)カイコ系統
農業生物資源研究所で維持されている白眼・白卵・非休眠系統のw1−pnd系統を宿主系統として用いた。
(2)飼育条件
25〜27℃の飼育室で、幼虫の全齢を人工飼料(シルクメイト原種1−3齢S、日本農産工)で飼育した。人工飼料は2〜3日毎に交換した(Uchino K.et al.,2006,J Insect Biotechnol Sericol,75:89−97)。
(3)遺伝子組換えカイコの作出
遺伝子組換えカイコは、Tamuraらの方法(Tamura T.et al.,2000,,Nature Biotechnology,18,81−84)に従って作出した。
実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニット及び後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットを、それぞれ別個にトランスポゼースを発現するヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura T.et al.,2000,,Nature Biotechnology,18,81−84)と1:1の割合で混合し、産卵後2〜8時間のカイコ卵にインジェクションした。インジェクション後の卵は、加湿状態、25℃で孵化するまでインキュベートした。孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、兄妹交配を行った。得られた卵を第1サブユニットについては3xP3 DsRed2マーカー、また第2サブユニットについては3xP3EGFPマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、本発明の遺伝子組換えカイコの第1及び第2サブユニットを有する系統をそれぞれ得た。第1サブユニットと第2サブユニットをそれぞれ有する系統を交配し、一個体に両方の遺伝子発現ユニットを有する系統を上記と同様に3xP3EGFPマーカー及び3xP3DsRed2マーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、中部絹糸腺特異的発現をする遺伝子組換えカイコと本発明の遺伝子組換え絹糸虫である後部絹糸腺特異的発現をする遺伝子組換えカイコをそれぞれ得た。
<実施例3:絹糸腺における組換えタンパク質の発現>
(方法)
実施例2で作出した各遺伝子組換えカイコを実施例2と同様の方法で飼育し、5齢6日目の吐糸直前に氷上で麻酔にかけ、背側を切開してピンセットで中部及び後部絹糸腺を傷つけないように摘出した(森靖編,カイコによる新生物学実験,三省堂,1970,pp.249−255参照)。これを固定せずに蛍光顕微鏡(オリンパスSZX16、GFPフィルター)で観察した。
(結果)
図5に結果を示す。中部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコの絹糸腺は、中部絹糸腺のみで蛍光が観察された。一方、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコの絹糸腺は、後部及び中部絹糸腺の両方で蛍光が観察された。この結果は、EGFPが後部絹糸腺細胞内で発現した後に、後部絹糸腺内腔に分泌され、その後中部絹糸腺に移行したことを示している。
<実施例4:絹糸腺における組換えタンパク質の発現量>
(方法)
実施例2で作出した各遺伝子組換えカイコを実施例2と同様の方法で飼育し、5齢6日目の吐糸直前に氷上で麻酔にかけ、前述のように背側を切開してピンセットで絹糸腺を傷つけないように摘出した。絹糸腺は、実施例3の結果から、中部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコからは中部絹糸腺のみを、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコからは中部絹糸腺及び後部絹糸腺をそれぞれ摘出した。これらをそれぞれ1本当たり10mLのPBS(pH7.2)/1%Tween20/0.05%アジ化ナトリウムに入れて、室温で24時間振とうすることによって水溶性タンパク質を抽出した。得られた水溶性タンパク質抽出液を、2,000×gで10分間遠心し、上清を回収した。上清に含まれる水溶性タンパク質中のEGFPタンパク質濃度をReacti−Bind Anti−GFP Coated Plates(PIERCE)で測定した。具体的にはReacti−Bind Anti−GFP Coated Platesに上清液を100μL添加し、室温で1時間静置した。PBS/0.05%Tween20で3回洗浄した後、horseradish peroxidase−conjugated anti−GFP antibody(Rockland Immunochemicals)を添加して、室温で1時間静置した。PBS/0.05%Tween20で3回洗浄した後、TMB Peroxidase EIA Substrate Kit(Bio−Rad)を用いて発色反応を行い、1N硫酸を加えて反応を停止させた。発色をplate reader(SpectraMax250;Molecular Devices)で定量した。リコンビナントGFPタンパク質(タカラバイオ;Z2373N)の系列希釈液(1−400pg/μL)を用いて標準曲線を作製した。
(結果)
図6に結果を示す。中部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコの中部絹糸腺から回収された水溶性タンパク質のEGFP発現量は、1頭あたり1000μgであったの対して、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコの後部絹糸腺及び中部絹糸腺から回収されたEGFP発現量は、それぞれ750μg及び1600μgであった。この場合の中部絹糸腺内のEGFPは、後部絹糸腺で発現したEGFPが移行したものであるため、後部絹糸腺では2350μgのEGFPが発現したことになる。この発現量は、図2(c)で示す従来の後部絹糸腺遺伝子発現系の発現量(Royer C.et al.,2005,Transgenic Res,14:463−472)と比較して10〜50倍多い。
これらの結果は、本発明の遺伝子組換えカイコにおいて後部絹糸腺で発現した組換え水溶性タンパク質であるEGFPが細胞外に効率的に、かつ中部絹糸腺での発現量よりも高い量で分泌されていることを示している。
<実施例5:繭中の組換えタンパク質>
(方法)
実施例2で作出した各遺伝子組換えカイコを実施例2と同様の方法で飼育して営繭させた後、その繭を固定せずに蛍光顕微鏡(オリンパスSZX16、GFPフィルター)で観察した。
(結果)
図7に結果を示す。中部及び後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する組換えカイコの繭にはEGFPが含まれることが確認された。この結果は、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットから発現した水溶性ペプチドであるEGFPを繭から回収できることを示唆している。
<実施例6:後部絹糸腺におけるシグナルペプチドの効果>
後部絹糸腺又は中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドによる後部絹糸腺でのEGFPの発現及び分泌量について検証した。
(方法)
(1)発現ベクターの構築
比較用第2サブユニットpBacSerUAS−p25_sigEGFP/3xP3EGFP(図8A)を構築した。このサブユニットは、実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットと基本構造は同じであるが、シグナルペプチドのみが後部絹糸腺特異的に発現するp25由来のシグナルペプチドとなっている。なお、p25のシグナルペプチドDNAには、エクソン1からエクソン2の第1アミノ酸までのゲノム配列を用い(配列番号20)、さらに、p25のシグナルペプチド中のシトシンをイソロイシンに置換している(配列番号21)(後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットのシグナルペプチドは、セリシン1由来)。p25のシグナルペプチドDNAのエクソン−イントロン配列(Royer C.et al.,2005,Transgenic Res,14:463−472)は、制限酵素NheIサイトを含む配列番号22で示すプライマーとBspHIサイトを含む配列番号23で示すプライマーを用いてカイコ大造系統のゲノムDNAからPCRで増幅して調製した。増幅断片をpBluescriptIISK(−)(アジレント・テクノロジー)のEcoRVサイトに挿入した。得られたプラスミドをSmaIとBspHIで処理し、分離されたSmaI−BspHI断片をpEGFP_NcoI_NheIプラスミド(Tatematsu K.et al.,2010,Transgenic Research,19(3):473−87)のHincII−NcoIサイトへ挿入した。得られたプラスミドをNheIで部分消化し、約1.3kbのNheI断片を分離した。このNheI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP]プラスミド(Tatematsu K.et al.,2010,Transgenic Research,19(3):473−87)のBlnIサイトへ挿入し、比較用第2サブユニットpBacSerUAS−p25_sigEGFP/3xP3EGFPを構築した。
(2)カイコ系統
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットと第2サブユニットの両方を有する系統は、実施例2で作成した系統を用いた。
一方、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットと比較用第2サブユニットの両方を有する系統は、まず、比較用第2サブユニットを有する系統を作成し、その後、第1サブユニットと比較用第2サブユニットのそれぞれ有する系統を交配して、一個体に両方の遺伝子発現ユニットを有する系統を実施例2と同様に3xP3EGFPマーカー及び3xP3DsRedマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜して得た。比較用第2サブユニットを有する系統を作成する方法及び第1サブユニットと比較用第2サブユニットのそれぞれ有する系統を交配する方法は、実施例2に記載の方法に準じて行った。
(3)飼育条件
実施例2に記載の方法に準じた。
(4)絹糸腺におけるEGFPの発現量
後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットと、セリシン1のシグナルペプチドを含む第2サブユニットを有する系統又はp25のシグナルペプチドを含む比較第2サブユニットを有する系統におけるEGFPの発現量を測定した。方法は、実施例4に記載の方法に準じた。
(結果)
図8Bに結果を示す。いずれの系統も後部絹糸腺遺伝子発現ユニットの第1サブユニットを有することから、ここで検出されたEGFPタンパク質は、全て後部絹糸腺で発現したものであり、中部絹糸腺で検出されたEGFPタンパク質は、後部絹糸腺で発現後に移行したものを示す。したがって、後部絹糸腺で発現したEGFPタンパク質の実際の発現量は、中部絹糸腺と後部絹糸腺のEGFPタンパク質量の和となる。
この図で示すように、後部絹糸腺特異的に発現するタンパク質であるp25由来のシグナルペプチドを含む比較第2サブユニットを有する系統(図8Bのp25)のEGFPタンパク質量に対して、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質セリシン1由来のシグナルペプチドを含む第2サブユニットを有する系統(図8Bのセリシン1)のそれは約10倍もあることが明らかとなった。この結果は、セリシン1由来のシグナルペプチドと結合したEGFPが後部絹糸腺細胞から効率的に分泌されるのに対し、p25由来のシグナルペプチドと結合したEGFPは後部絹糸腺細胞から効率的に分泌されないことを示している。これらの結果から本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットにおけるシグナルペプチドは、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドが適当であることが示された。
また、セリシン1由来のシグナルペプチドを含む第2サブユニットを有する系統では、発現したEGFPタンパク質の90%以上が中部絹糸腺に移行していたことから、後部絹糸腺で発現した目的のペプチドがより回収しやすいという利点もある。
<実施例7:哺乳動物由来のシグナルペプチドと目的のペプチドの影響(1)>
哺乳動物由来のシグナルペプチド及び/又は目的のペプチドを含む遺伝子発現ユニットによる絹糸腺での目的のペプチドの発現及び分泌量について検証した。
(方法)
(1)発現ベクターの構築
第1検証用第2サブユニットI:pBacSerUAS−ser_sigpoIL2/3xP3EGFP(図9A:シグナルペプチドがセリシン1の場合)を構築した。このサブユニットは、実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットと基本構造は同じであるが、目的のペプチドのみがブタのインターロイキン2(IL−2)由来となっている点で異なる。セリシン1のシグナルペプチドDNA配列の下流に配列番号24で示すブタIL−2をコードする遺伝子(ただし、ブタIL−2が本来持つ配列番号25で示すシグナルペプチドDNAを除く)を連結した断片は、制限酵素BlnIサイトを含む配列番号26で示すプライマーと制限酵素BlnIサイトを含む配列番号27で示すプライマー、及びセリシン1のシグナルペプチドとIL−2の接続部分の配列を持つプライマー配列番号28、と配列番号29を用い、pAcPIL2(Inumaru S.et al.,2000 Biotechnol.Bioprocess Eng.5:146−149)とpBacSerUAS−ser_sigEGFP/3xP3EGFPからPCRで増幅して調製した。増幅断片をpZErO−2ベクター(invitrogen)に挿入した。得られたプラスミドをBlnIで処理し、分離されたBlnI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP]プラスミドのBlnIサイトへ挿入し、第1検証用第2サブユニットI:pBacSerUAS−ser_sigpoIL2/3xP3EGFPを構築した。
第2検証用第2サブユニットI:pBacSerUAS−poIL2/3xP3EGFP(図9A:シグナルペプチドがブタIL−2の場合)を構築した。このサブユニットは、実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットと基本構造は同じであるが、シグナルペプチド及び目的のペプチドがいずれもブタIL−2由来となっている点で異なる。ブタIL−2のペプチドをコードするDNA断片は制限酵素BlnIサイトを含む配列番号30で示すプライマーと配列番号31で示すプライマーを用い、pAcPIL2からPCRで増幅して調製した。増幅断片をpZErO−2ベクター(invitrogen)に挿入した。得られたプラスミドをBlnIで処理し、分離されたBlnI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP]プラスミドのBlnIサイトへ挿入し、第2検証用第2サブユニットI:pBacSerUAS−poIL2/3xP3EGFPを構築した。
(2)カイコ系統
後部又は中部絹糸腺遺伝子発現ユニットのそれぞれの第1サブユニットと、上記第1又は第2検証用第2サブユニットIの両方を有する系統は、まず、第1又は第2検証用第2サブユニットIをそれぞれ有する系統を作成し、その後、第1サブユニットと、各検証用第2サブユニットIを有する系統を交配して、一個体に第1又は第2のサブユニットを有する系統を実施例2と同様に3xP3EGFPマーカー及び3xP3DsRedマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜して得た。第1又は第2検証用第2サブユニットIを有する系統を作成する方法、及び第1サブユニットと、第1又は第2検証用第2サブユニットIの両方を有する系統を交配する方法は、実施例2に記載の方法に準じて行った。
また、比較用として、実施例1で構築した中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニット(pBacSer−pro GAL4/3xP3DsRed2)(図4(a))と上記検証用第2サブユニットIの両方を有する系統も上記と同様に作成した。
(3)飼育条件
実施例2に記載の方法に準じた。
(4)ウエスタンブロッティング
実施例4に記載の方法に準じて、それぞれの系統から中部絹糸腺及び後部絹糸腺を摘出し、各絹糸腺中のタンパク質を抽出した。続いて、絹糸腺抽出液を等量のEZアプライ(AE−1430、ATTO)と混合し、95℃で5分間加温することによりSDS化した。SDS化したサンプルを9cm×8cmの13%SDS−PAGEゲルを用いて、20mA定電流で約90分間泳動した。ゲルはセミドライ転写装置(NA−1512S、日本エイドー)を用いて、120mA、60分間の条件でPVDFメンブレン(RPN303F、GEヘルスケア)に転写した。転写後のメンブレンをEZ wash(AE−1480、ATTO)で5分間軽く振とうした後、1次抗体(抗IL−2ウサギ血清、2,000倍希釈)を4℃で一晩反応させた。メンブレンをEZ washで10分間、3回洗浄した後、2次抗体(NA934−100UL、GEヘルスケア、50,000倍希釈)を室温で1時間反応させた。メンブレンをEZ washで10分間、3回洗浄した後、ECL prime(RPN2232、GEヘルスケア)を5分間反応させ、LAS3000(Fujiフィルム)でシグナルを検出した。
(結果)
図9B、Cに結果を示す。
まず、第1検証用第2サブユニットのセリシン1由来のシグナルペプチドとブタIL−2のキメラ遺伝子を含む遺伝子発現ユニットの場合、後部絹糸腺遺伝子発現ユニット(図9B)及び中部絹糸腺遺伝子発現ユニット(図9C)のいずれも効率よく発現、分泌されることが明らかとなった。特に後部絹糸腺遺伝子発現ユニットでは、非常に多くのブタIL−2が発現、分泌されている。これは、本願発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットによれば、目的のペプチドが絹糸虫以外の他生物種由来の水溶性ペプチドであっても中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドとのキメラタンパク質として発現させることによって、目的の水溶性ペプチドを絹糸虫の後部絹糸腺内で大量に製造することができることを示唆している。
一方、シグナルペプチドと目的のペプチドが共にブタIL−2由来の第2検証用第2サブユニットを有する遺伝子発現ユニットの場合、中部絹糸腺遺伝子発現ユニット(図9C)では効率よく発現、分泌されたが、後部絹糸腺遺伝子発現ユニット(図9B)では、発現量及び後部絹糸腺から中部絹糸腺への移行共に効率が非常に低かった。この結果は、特許文献1に記載のディフェンシンの結果と矛盾しない。つまり、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質及びフィブロイン構成タンパク質のいずれかに由来するシグナルペプチド以外のシグナルペプチドが結合したタンパク質は、後部絹糸腺細胞からの分泌が抑制されてしまうことが明らかになった。
以上より、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドは、絹糸虫の後部絹糸腺での水溶性ペプチドの大量発現、分泌、及び中部絹糸腺への移行に好適であることが立証された。
<実施例8:哺乳動物由来のシグナルペプチドと目的のペプチドの影響(2)>
実施例7とは異なる哺乳動物由来のシグナルペプチド及び/又は目的のペプチドを含む遺伝子発現ユニットを用いて、各絹糸腺での目的のペプチドの発現及び分泌量について再度検証した。
(方法)
(1)発現ベクターの構築
第1検証用第2サブユニットII:pBacSerUAS−ser_sigboIFNγ/3xP3EGFP(図10A:シグナルペプチドがセリシン1の場合)を構築した。このサブユニットは、実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットと基本構造は同じであるが、目的のペプチドのみがウシのインターフェロンγ(IFN−γ)由来となっている点で異なる。セリシン1のシグナルペプチド配列の下流にIFNγ(IFNγが本来持つシグナルペプチドを除く)をつないだ断片は、制限酵素BlnIサイトを含む配列番号32で示すプライマーと制限酵素BlnIサイトを含む配列番号33で示すプライマー、及び、セリシン1のシグナルペプチドとIFNγの接続部分の配列を持つプライマー配列番号34、と配列番号35を用い、pBIFN−γ(Murakami K.et al.,2001 CYTOKINE.13(1)18−24)とpBacSerUAS−ser_sigEGFP/3xP3EGFPからPCRで増幅して調製した。増幅断片をpZErO−2ベクター(invitrogen)に挿入した。得られたプラスミドをBlnIで処理し、分離されたBlnI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP]プラスミドのBlnIサイトへ挿入し、第1検証用第2サブユニットII:pBacSerUAS−ser_sigboIFNγ/3xP3EGFPを構築した。
第2検証用第2サブユニットII:pBacSerUAS−boIFNγ/3xP3EGFP(図10A:シグナルペプチドがウシIFN−γの場合)を構築した。このサブユニットは、実施例1で構築した後部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第2サブユニットと基本構造は同じであるが、シグナルペプチド及び目的のペプチドがいずれもウシIFN−γ由来となっている点で異なる。ウシIFNγのアミノ酸をコードするDNA断片(配列番号36:ただし、ウシIFN−γが本来持つ配列番号37で示すシグナルペプチドDNAを除く)は制限酵素BlnIサイトを含む配列番号38で示すプライマーと制限酵素BlnIサイトを含む配列番号39で示すプライマーを用い、pBIFN−γからPCRで増幅して調製した。増幅断片をpZErO−2ベクター(invitrogen)に挿入した。得られたプラスミドをBlnIで処理し、分離されたBlnI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP]プラスミドのBlnIサイトへ挿入し、第2検証用第2サブユニットII:pBacSerUAS−boIFNγ/3xP3EGFPを構築した。
(2)カイコ系統
後部又は中部絹糸腺遺伝子発現ユニットのそれぞれの第1サブユニットと、上記第1又は第2検証用第2サブユニットIIの両方を有する系統は、実施例2及び7に記載の方法に準じて行った。
また、比較用として、実施例1で構築した中部絹糸腺遺伝子発現ユニット用第1サブユニット(pBacSer−pro GAL4/3xP3DsRed2)(図4(a))と上記検証用第2サブユニットIIの両方を有する系統も実施例7と同様に作成した。
(3)飼育条件
実施例2に記載の方法に準じた。
(4)ウエスタンブロッティング
実施例4に記載の方法に準じて、それぞれの系統から中部絹糸腺及び後部絹糸腺を摘出し、各絹糸腺中のタンパク質を抽出した。続いて、絹糸腺抽出液を等量のEZアプライ(AE−1430、ATTO)と混合し、95℃で5分間加温することによりSDS化した。SDS化したサンプルを9cm×8cmの13%SDS−PAGEゲルを用いて、20mA定電流で約90分間泳動した。ゲルはセミドライ転写装置(NA−1512S、日本エイドー)を用いて、120mA、60分間の条件でPVDFメンブレン(RPN303F、GEヘルスケア)に転写した。転写後のメンブレンをEZ wash(AE−1480、ATTO)で5分間軽く振とうした後、1次抗体(抗IFNγ抗体:AS1019.2、コスモバイオ、2,000倍希釈)を4℃で一晩反応させた。メンブレンをEZ washで10分間、3回洗浄した後、2次抗体(NA934−100UL、GEヘルスケア、50,000倍希釈)を室温で1時間反応させた。メンブレンをEZ washで10分間、3回洗浄した後、ECL prime(RPN2232、GEヘルスケア)を5分間反応させ、LAS3000でシグナルを検出した。
(結果)
図10B、Cに示すように、実施例7とは異なる哺乳動物由来の水溶性タンパク質及びシグナルペプチドに変えた場合でも、結果は実施例7とほとんど同じ傾向を示した。
以上の結果から、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質由来のシグナルペプチドが結合したキメラタンパク質であれば、水溶性ペプチドであっても後部絹糸腺で抑制されることなく効率的に発現及び分泌されることが確認された。
本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットによれば、後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを絹糸虫に導入することで、組換えペプチド等の大量発現及び分泌、かつ簡便な回収が可能となる。
本発明の組換え遺伝子絹糸虫によれば、前記組換えペプチドの大量生産系絹糸虫を提供することができる。
本発明の組換え遺伝絹糸虫の作出方法によれば、本発明の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを絹糸虫に導入することで、前記組換えペプチドの大量生産系生物を容易に作出することができる。
本発明の組換えペプチドを製造する方法によれば、水溶性ペプチドを容易に製造することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]

Claims (9)

  1. フィブロインH鎖、又はフィブロインL鎖をコードする遺伝子のプロモーター、及び
    該プロモーターの下流に機能的に結合したセリシン1由来のシグナルペプチドをコードするDNA及びその下流に連結されたフィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNA
    を含む後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
  2. (a)フィブロインH鎖、又はフィブロインL鎖をコードする遺伝子のプロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に結合した転写調節因子をコードする遺伝子を含む第1サブユニットと、
    (b)該転写調節因子の標的プロモーター、該プロモーターの下流に機能的に結合したセリシン1由来のシグナルペプチドをコードするDNA、及びその下流に連結されたフィブロイン構成タンパク質を含まないペプチドをコードするDNAを含む第2サブユニット
    から構成される後部絹糸腺遺伝子発現ユニット。
  3. 請求項1記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫。
  4. 請求項2に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫。
  5. 前記第1サブユニットと前記第2サブユニットとが異なる染色体上に存在する、請求項に記載の遺伝子組換え絹糸虫。
  6. 前記第1サブユニットを有する系統と前記第2サブユニットを有する系統とを交配して得られる、請求項又はに記載の遺伝子組換え絹糸虫。
  7. 絹糸虫がカイコ、エリサン又はサクサンである、請求項のいずれか一項に記載の遺伝子組換え絹糸虫。
  8. 請求項1又は2に記載の後部絹糸腺遺伝子発現ユニットを宿主である絹糸虫に導入して、後部絹糸腺において目的のペプチドを発現する遺伝子組換え絹糸虫の作出方法。
  9. 請求項のいずれか一項に記載の遺伝子組換え絹糸虫を用いて目的のペプチドを製造する方法。
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