JP6964843B2 - バイナリー遺伝子発現システム - Google Patents

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Description

本発明は、バイナリー遺伝子発現システム及びそれを含む形質転換体、並びにその形質転換体を交配して得られる遺伝子発現増強個体の作出方法に関する。
近年、遺伝子組換えカイコ(Bombyx mori)を用いた有用タンパク質生産、遺伝子機能解析、及び医療用モデルカイコの作出等の研究が飛躍的に進展している。例えば、カイコの絹糸腺は、大量のタンパク質を短期間に合成できる能力を有することから、その性質を利用した遺伝子組換えカイコが試薬用タンパク質、臨床検査用試薬、及び化粧品用タンパク質等の有用タンパク質生産系として既に実用化されている。また、他の生物種のフェロモンを受容できるように改変した遺伝子組換えカイコを脳神経研究用に活用する等、カイコの特性と分子生物学的技術を組み合わせた実験動物としての利用も活発化している(非特許文献1)。
しかし、目的遺伝子の発現効率をさらに向上させるためや、複数の目的遺伝子の発現を個別に時間的、又は空間的に制御するためには、より高度化した遺伝子発現システムの確立が必要となっている。
従来、遺伝子組換えカイコを用いて目的遺伝子を発現させる場合、主にGAL4/UASシステムが用いられてきた(非特許文献2)。このシステムは、GAL4系統とUAS系統の2系統で構成される。GAL4系統は、適当なエンハンサーやプロモーターの制御下に配置された転写因子をコードするGAL4遺伝子を有し、またUAS系統はGAL4の認識配列であるUASとその制御下に配置した目的遺伝子を有する。UAS系統は、単独では目的遺伝子を発現しないが、交配等によって一個体がこの2系統を包含した場合、GAL4系統のエンハンサーやプロモーターが活性化された細胞で、転写因子GAL4が発現し、それがUASに結合することで目的遺伝子が発現する。このGAL4/UASシステムを改良することで、現在では目的遺伝子の発現効率を10倍近くまで向上させることが可能となっている(非特許文献3)。また、このシステムでは、これまでに構築してきた種々の時期特異的又は組織特異的に発現するGAL4系統や、様々な遺伝子を発現するUAS系統が遺伝子資産として蓄積されており、一方の系統を改良した場合でも、他方の系統は、既存の系統をそのまま活用できるという利点がある。しかしながら、GAL4/UASシステムで発現効率をさらに向上させるためには、従来の方法とは全く異なる新たな改良を導入する必要がある。また、このシステムには、複数の遺伝子を導入した場合、全ての遺伝子が同時期に同組織でしか発現されないため、発現時期や発現場所を個々の遺伝子で制御することができないという問題や、GAL4系統が宿主に対して細胞毒性を示すという問題を抱えている。
Sakurai T., et al., 2011, PLoS Genetics 7(6):e1002115 Tatematsu K., et al., 2012, J Biotechnol Biomaterial S9:004. doi: 10.4172/2155-952X.S9-004 Tatematsu K., et al., 2014, Springerplus, 3:136. doi: 10.1186/2193-1801-3-136.
本発明は、目的遺伝子の発現効率を向上させ、また導入した複数の遺伝子を個別に所望する特定の時期及び/又は組織で発現制御でき、さらに宿主に対して細胞毒性の低い新たな遺伝子発現システムを開発し、提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らはTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)に着目した。ゲノム編集システムとして開発されたTALEN(Cermak T., et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82、特許公表2013-513389、特許公表2012-514976)の技術は、カイコでも応用できることが明らかになっている(Daimon T., et al., 2014, Develop. Growth Differ, 56:14-25)。また、近年、TALENはゲノム編集だけでなく、TALE(TAL Effector)のDNA配列結合能を利用した任意のDNA配列に対する転写活性化及び転写抑制にも利用されている。例えば、TALEを用いた転写活性化(TALE activator)については、哺乳類細胞や植物細胞などを用いて多くの研究がなされ(Morbitzer R., et al., 2010, PNAS, 107(50):21617-21622、Zhang F., et al., 2011, Nature biotech, 29(2):149-153、Maeder M.L., et al., 2013, Nature Methods, 10(3):243-245、Crocker J.et al., 2013, Nature Methods, doi:10.1038/nmeth.2543)、主に内在性遺伝子の発現制御による分化の制御や病気の治療等に利用されている。TALE activatorは、ターゲット配列の位置や染色体のエピジェネティックな状態の違いによってその転写活性化能が変化し、ほとんど転写活性化が起こらない例も報告されている。
本発明者らは、従来のGAL4/UASシステムにおけるGAL4のDNA結合ドメインに替えて、TALEのDNA結合ドメインTAL(Transcription Activator-Like)を用いてUASを認識させるTAL-GAL4/UASシステムを開発した。しかし、そのシステムは、転写活性効率を向上できないばかりか、GAL4よりも転写活性が低下するという問題があった。そこで、様々な改良を重ねた結果、特定長の塩基配列を標的塩基配列とするTALドメインと、50〜150アミノ酸からなる転写活性単位を複数個含む転写活性ドメインを連結した第1発現ユニット、及び標的塩基配列が複数個連結された繰り返し配列を含むTAL認識配列を含む第2発現ユニットを用いることで、目的遺伝子の発現効率を従来のGAL4/UASシステムと比較して、培養細胞の系で最大約80倍、そして遺伝子組換えカイコ系統では最大約6倍に増加させることに成功した。本発明は、当該知見に基づくものであって、以下を提供する。
(1)第1発現ユニット及び第2発現ユニットからなるバイナリー遺伝子発現システムであって、前記第1発現ユニットはプロモーター、及びその制御下に配置された、TALドメインをコードする塩基配列からなるTAL領域及びその下流に連結され、転写活性ドメインをコードする塩基配列からなる転写活性領域を発現可能な状態で含み、前記TALドメインは、標的塩基配列として配列番号1又は配列番号2で示す塩基配列を認識するN末端部位及びTAL-DNA塩基配列認識部位を含み、ここで前記標的塩基配列において、前記N末端部位は5'末端のtを、また前記TAL-DNA塩基配列認識部位は前記tに続く主要標的塩基配列を、それぞれ認識し、前記TAL-DNA塩基配列認識部位は前記主要標的塩基配列を構成するそれぞれの塩基に対して配列番号3で示すアミノ酸配列からなり、前記転写活性ドメインは50〜150アミノ酸からなる転写活性単位が2〜10個連結された配列からなり、かつ前記第2発現ユニットは、TAL認識配列とその制御下に配置された目的遺伝子若しくはその断片を含み、前記TAL認識配列は、前記標的塩基配列を5〜25個含む塩基配列からなる、前記システム。
(2)前記主要標的塩基配列が以下の(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなる、(1)に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
(a)配列番号4で示す塩基配列、
(b)配列番号5で示す塩基配列、及び
(c)配列番号4又は5において配列番号6で示す塩基配列の1〜5個の塩基が置換された塩基配列
(3)前記配列番号4で示す塩基配列が配列番号7で示す塩基配列である、(2)に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
(4)前記配列番号5で示す塩基配列が配列番号8で示す塩基配列である、(2)に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
(5)前記転写活性単位がARII、又はVP16である、(1)〜(4)のいずれかに記載のバイナリー遺伝子発現システム。
(6)前記TAL認識配列は標的塩基配列を含む配列番号9で示す塩基配列が5〜25個連結された繰り返し配列からなる、(3)〜(5)のいずれかに記載のバイナリー遺伝子発現システム。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のバイナリー遺伝子発現システムの第1発現ユニットを含む形質転換体。
(8)(6)に記載のバイナリー遺伝子発現システムにおける第2発現ユニットを除く、(1)〜(5)のいずれかに記載のバイナリー遺伝子発現システムの第2発現ユニットを含む形質転換体。
(9)(1)〜(6)のいずれかに記載のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1発現ユニット及び第2発現ユニットを含む形質転換体。
(10)前記形質転換体がチョウ目昆虫である、(7)〜(9)のいずれかに記載の形質転換体。
(11)前記チョウ目昆虫がカイコである、(10)に記載の形質転換体。
(12)(7)に記載の第1発現ユニットを有する形質転換体と(8)に記載の第2発現ユニットを有する形質転換体とを交配させる工程、及び前記交配工程後に第1及び第2発現ユニットを有する個体を選択する工程を含む目的遺伝子又はその断片の発現強化個体の作出方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-072017号の開示内容を包含する。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、目的遺伝子を、従来技術のGAL4/UASシステムを超える量で発現させることができる。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムの2つの発現ユニットを複数組有する個体では、異なる組の各目的遺伝子の発現をそれぞれ時期特異的及び/又は組織特異的に制御することができる。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1発現ユニットは、GAL4/UASシステムのGAL系統と比較して宿主に対して細胞毒性が低いという効果を有する。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、第1発現ユニット及び第2発現ユニットのそれぞれを含む系統を個別に維持、管理することができる。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、GAL4/UASシステムでこれまでに作製し、蓄積されたGAL4系統やUAS系統をそのまま活用できる場合がある。
本発明のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1発現ユニット及び第2発現ユニットの概念図である。Aは第1発現ユニットを、またBは第2発現ユニットを示している。図中、第1発現ユニットのTAL領域におけるN末端領域はTALドメインのN末端部位をコードする領域であり、TAL-DNA塩基配列認識領域はTALドメインのTAL-DNA塩基配列認識部位をコードする領域であり、またC末端領域はTALドメインのC末端部位をコードする領域である。また、転写活性領域における転写活性単位領域は転写活性ドメインの転写活性単位をコードする領域である。本図の第1発現ユニットでは、転写活性単位領域を4つ含む転写活性領域を例示している。また、第2発現ユニットでは、標的塩基配列を5つ含むTAL認識配列を例示している。 実施例1で用いた本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、第2発現ユニットに含まれるTAL認識配列の一部(図中の塩基配列)と、第1発現ユニットにコードされたTALドメインが認識する標的塩基配列の範囲(図中の塩基配列中、3本のバーにより示す範囲)を示す。実施例1では、TAL認識配列が、GAL4認識配列であるUASを含む単位を5回繰り返した配列で構成される。実施例1の第1発現ユニットにコードされたTALドメインは、TAL認識配列において前記単位を含む19塩基を認識するUASTAL1、TAL認識配列において最も5’末端側のT(チミン)から20塩基を認識するUASTAL2、そしてUASTAL2の認識配列の3’末端側を6塩基短くした14塩基を認識するUASTAL3からなる。 本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、UASの様々な範囲を認識するTAL領域(UASTAL)及びその下流に連結した転写活性領域を含む第1発現ユニットと、UASとその下流に連結したルシフェラーゼ遺伝子を含む第2発現ユニットを導入したカイコ培養細胞におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す図である。この図では対照用GAL4を有する第1発現ユニットを用いたときのカイコ培養細胞におけるルシフェラーゼの発現量を1とし、その相対発現量で示している。 本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、第1発現ユニットの転写活性単位領域の数と目的遺伝子の発現量との関係を示した図である。転写活性単位にはARII又はVP16を用い、転写活性領域内の単位領域数は1〜6個とした。この図では対照用GAL4を有する第1発現ユニットを用いたときのカイコ培養細胞におけるルシフェラーゼの発現量を1とし、その相対発現量で示している。 本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、第1発現ユニットの標的塩基配列の塩基数及び主要標的塩基配列の塩基数と目的遺伝子の発現量との関係を示した図である。 本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1発現ユニットにコードされたTALドメインの標的塩基配列に対する特異性を示す図である。上図には、第1発現ユニットが認識する標的配列、及び第2発現ユニットにおけるTAL認識配列のUAS及びUASの塩基配列に塩基置換を導入した変異UASを示している。第2発現ユニットのTAL認識配列において、大文字は第1発現ユニットの標的塩基配列を、星印は置換した塩基の位置を示す。下図は、上図に示した第1及び第2発現ユニットを組み合わせたときのカイコ培養細胞でのルシフェラーゼの発現量を示している。「-」は第1発現ユニットを導入していないことを示す。 本発明の中部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムをカイコに導入したときのEGFPの発現効率を示す図である。 本発明のバイナリー遺伝子発現システムの第1発現ユニットを有する遺伝子組換えカイコにおいて、第1発現ユニットによる細胞毒性を示す図である。Aは遺伝子組換えカイコの繭層重を、Bは営繭率を、そしてCは化蛹歩合の結果を示している。対照用として、細胞毒性を示すことが知られている従来のGAL4/UASシステムにおけるGAL4を含む第1発現ユニットを用いた。各バーの上に示した数値は、サンプル数(N)を示す。 図8と同様に、本発明のバイナリー遺伝子発現システムの第1発現ユニットを有する遺伝子組換えカイコの中部絹糸腺由来のタンパク質を分析したSDS-PAGEの結果を示す。Ser1はセリシン1タンパク質の、FibHはフィブロインHタンパク質の、そしてSer3はセリシン3タンパク質の位置を示している。 中部絹糸腺及び後部絹糸腺のそれぞれに特異的なバイナリー遺伝子発現システムを有する遺伝子組換えカイコの絹糸腺を示す図である。A〜Cは同視野の絹糸腺全体図を、D〜FはA図における単一星印の白枠内の拡大図を、そしてG〜IはA図における二重星印の白枠内の拡大図を示している。 中部絹糸腺及び後部絹糸腺のそれぞれに特異的なバイナリー遺伝子発現システムを有する遺伝子組換えカイコの絹糸腺におけるEGFP及びDsRedの発現を示すRT-PCRの結果である。NCは陰性対照由来のRT-PCR産物を、レーン1は中部絹糸腺由来のRT-PCR産物を、レーン2は後部絹糸腺由来のRT-PCR産物を、レーン3は中部及び後部絹糸腺由来のRT-PCR産物を示す。 本発明の後部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムをカイコに導入したときのEGFPの発現効率を示す図である。1〜4は、遺伝子組換えカイコの作出において独立に得られた同一の後部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムを有する異なる系統である。
1.バイナリー遺伝子発現システム
1−1.概要
本発明の第1の態様は、バイナリー遺伝子発現システムである。
「バイナリー遺伝子発現システム」とは、2つの発現ユニットで構成される一組の遺伝子発現単位である。本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、2つの発現ユニットを有する宿主細胞内において、第1発現ユニットにコードされた転写活性ドメインの発現により、第2発現ユニットにコードされた目的の発現を誘導し、またそれを増強することができる。また、第1発現ユニットを細胞に導入しても細胞毒性を生じにくいという利点がある。
1−2.構成
本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、第1発現ユニット及び第2発現ユニットの2つのユニットからなる。各発現ユニットは、対象とする遺伝子又はその活性ドメイン(以下、「対象遺伝子等」とする)を発現可能な状態で含み、その遺伝子等の発現を制御できる発現ベクターで構成される。各ユニットの構成を以下で説明する。
本明細書において「発現可能な状態」とは、ユニットを構成する塩基配列において対象遺伝子等がプロモーターの制御下に配置され、プロモーターの活性に応じて発現され得る状態にあることをいう。「プロモーターの制御下」とは、原則として下流、すなわち3’末端側である。したがって、「プロモーターの制御下に配置」するとは、対象遺伝子等をプロモーターの下流に直接的に、又はスペーサー等の介在配列を間に挟み、間接的に連結することをいう。
本明細書で「発現ベクター」とは、対象遺伝子等を発現可能な状態で含み、その遺伝子等の発現を制御できる発現単位をいう。以下、各発現ユニットの構成について説明する。
1−2−1.第1発現ユニット
第1発現ユニットは、図1Aに示すようにプロモーターとその制御下に配置されたTAL領域及び転写活性領域、その他に、母核ベクターを必須の構成要素として含む。また、必要に応じて標識遺伝子、ターミネーター、エンハンサー、5’UTR及び3’UTR、インスレーター及びトランスポゾンの逆位末端反復配列等の選択的構成要素を含むこともできる。以下、各構成要素について説明する。
(1)TAL領域及び転写活性領域
「TAL領域及び転写活性領域」は、TALドメイン及びそのC末端側に連結された転写活性ドメインからなるキメラタンパク質(融合タンパク質)をコードするキメラ遺伝子である。
A.TAL領域
本明細書において「TAL(Transcription Activator-Like)領域」とは、TALドメインをコードする塩基配列からなる領域である。
本明細書において「TALドメイン」とは、TAL(Transcription Activator-Like)エフェクタータンパク質(Cermak T, et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)において転写活性領域(エフェクタードメイン)を欠失したDNA結合ドメインのみからなるアミノ酸部位をいう。TALドメインは、TAL-DNA塩基配列認識部位と、そのN末端側に位置するN末端部位、及びC末端側に位置するC末端部位で構成される。
本明細書において「TAL-DNA塩基配列認識部位」とは、後述する主要標的塩基配列を直接認識する部位である。TAL-DNA塩基配列認識部位は、主要標的塩基配列の各塩基を、それぞれ配列番号3で示す34アミノ酸で構成されるアミノ酸配列からなる単位で認識する。当該単位は、N末端側から12位及び13位のアミノ酸残基がペアを構成し、DNAを構成する4種の塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)のそれぞれを特異的に認識することができる。具体的には、12位及び13位のアミノ酸残基が、A(アデニン)を認識する場合には、それぞれN及びI又はN及びNとなり、G(グアニン)を認識する場合には、それぞれN及びNとなり、C(シトシン)を認識する場合には、それぞれH及びDとなり、そして、T(チミン)を認識する場合には、それぞれN及びGとなる。したがって、TAL-DNA塩基配列認識部位は、標的塩基配列の塩基長に応じて当該単位を繰り返し含んでいる。
本明細書において「標的塩基配列」とは、TALドメインによって認識される塩基配列であって、後述する第2発現ユニット中に必須の構成要素として複数個が含まれる。標的塩基配列の構造は、配列番号1又は2で示す塩基配列のように、5’末端側に配置されたt(チミン)と、それに続く主要標的塩基配列で構成される、全長14塩基又は15塩基の塩基配列からなる。
本明細書において「主要標的塩基配列」とは、標的塩基配列に含まれる、5'末端のt(チミン)以外の塩基配列であって、13塩基又は14塩基の任意の塩基配列からなる。したがって、この主要標的塩基配列を所望の塩基配列に設計することによって、任意のDNA配列を標的塩基配列とすることができる。主要標的塩基配列の具体例として、例えば、配列番号4又は配列番号5で表される塩基配列が挙げられる。より具体的には、GAL4-UASシステムにおいてUAS(Upstream Activating Sequence)(配列番号35)を含み、配列番号9で表される塩基配列からなるGAL4認識配列の一部であって、配列番号7又は配列番号8で表される塩基配列が挙げられる。さらに、配列番号4又は配列番号5で表される塩基配列に含まれる配列番号6で示す塩基配列のうち1、2、3、4、又は5個の塩基が置換された塩基配列であってもよい。
前述のように、TAL-DNA塩基配列認識部位は、主要標的塩基配列を構成する各塩基を配列番号3で示す34アミノ酸で構成されるアミノ酸配列からなる単位で認識する。したがって、TAL-DNA塩基配列認識部位は前記34アミノ酸からなる単位を13回又は14回繰り返した構造を有する。TAL-DNA塩基配列認識部位をコードする塩基配列の具体例として、例えば、配列番号7で表される塩基配列を主要標的塩基配列とする場合、TAL-DNA塩基配列認識部位をコードする塩基配列は配列番号10で表される塩基配列となる。また配列番号8で表される塩基配列を主要標的塩基配列とする場合、TAL-DNA塩基配列認識部位をコードする塩基配列は配列番号11で表される塩基配列となる。
本明細書において「N末端部位」は、TALドメインの輸送シグナルを含み、また標的塩基配列の5’末端側に配置されたt(チミン)の認識に関与する部位をいう。N末端部位は、例えば、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなり、それをコードする塩基配列として、例えば、配列番号13で表される塩基配列が挙げられる。
B.転写活性領域
本明細書において「転写活性領域」とは、転写活性ドメインをコードする塩基配列からなる領域である。
本明細書において「転写活性ドメイン」とは、転写活性因子の機能ドメインであって、目的遺伝子の発現を活性化する機能を有する。本明細書における転写活性ドメインは、転写活性単位が2〜10個、2〜9個、2〜8個、2〜7個、2〜6個、又は2〜5個、連結された繰り返し配列からなる。
本明細書において「転写活性単位」とは、転写活性ドメインを構成する最小単位であって、50〜150個のアミノ酸からなる。転写活性単位の具体例として、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなり、配列番号17で表される塩基配列によってコードされる、GAL4の転写活性単位であるARII、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなり、配列番号19で表される塩基配列によってコードされる単純ヘルペスウイルス由来のVP16が挙げられる。
(2)プロモーター
「プロモーター」は、その制御下に配置された遺伝子(対象遺伝子)の発現を制御することのできる遺伝子発現調節領域である。第1発現ユニットにおける「プロモーター」は、対象遺伝子であるTAL領域及び転写活性領域からなるキメラ遺伝子の発現を制御することができる。
プロモーターは、対象遺伝子の発現場所に基づいて、ユビキタスプロモーター(全身性プロモーター)と部位特異的プロモーターに分類することができる。ユビキタスプロモーターは、宿主個体全体で対象遺伝子の発現を制御するプロモーターである。また、部位特異的プロモーターは、宿主の特定の細胞又は組織で対象遺伝子の発現を制御するプロモーターである。本発明のバイナリー遺伝子発現システムでは、第1発現ユニットにおけるプロモーターとして、細胞又は組織に特異的な部位特異的プロモーターを選択することで、宿主における特定の細胞又は組織で目的遺伝子等の発現を誘導し、増強させることができる。したがって、発現場所に関して、第1発現ユニットにおけるプロモーターは特に限定はされず、用途に合わせて適宜選択すればよい。
また、プロモーターには、対象遺伝子の発現の時期に基づいて構成的活性型プロモーター、発現誘導型プロモーター又は時期特異的活性型プロモーターに分類される。構成的活性型プロモーターは、宿主細胞内で対象遺伝子を恒常的に発現させることができる。発現誘導型プロモーターは、宿主細胞内で対象遺伝子の発現を任意の時期に誘導することができる。また、時期特異的活性型プロモーターは、宿主細胞内で対象遺伝子を発生段階の特定の時期にのみに発現誘導することができる。いずれのプロモーターも、宿主細胞内で対象遺伝子の過剰な発現をもたらし得ることから過剰発現型プロモーターと解することができる。発現時期に関しても、第1発現ユニットにおけるプロモーターは特に限定はされない。導入する細胞内において所望の発現時期に合わせて、適宜選択すればよい。
第1発現ユニットにおいて、プロモーターの由来となるドナー生物種は、それが導入されるレシピエント側の宿主細胞内で作動可能である限り、特に限定はしない。ここでいう「作動可能」とは、プロモーターとしての機能を発揮し、対象遺伝子等を発現できることをいう。つまり、第1発現ユニットにおけるプロモーターは、導入すべき宿主細胞によって決定される。好ましくは第1発現ユニットを導入する宿主と分類学上で同目に属する種由来のプロモーターである。同科に属する種由来のプロモーターはより好ましく、同属に属する種由来のプロモーターはさらに好ましい。最も好ましいのは宿主と同じ種由来のプロモーターである。例えば、本発明の第1発現ユニットを導入する宿主がチョウ目昆虫のカイコ(Bombyx mori)の場合、第1発現ユニットで使用する上記プロモーターはチョウ目昆虫由来のプロモーターが好ましく、カイコガ科(Bombycidae)に属する種由来であればより好ましく、クワコ(Bombyx mandarina)のような同じBombyx属に属する種由来であればさらに好ましい。この場合、最も好ましいプロモーターは同種のカイコ由来のプロモーターである。
第1発現ユニットを導入する宿主としてカイコを用いる場合、構成的活性型ユビキタスプロモーターの具体例としては、アクチン3遺伝子由来のアクチン3プロモーター(A3プロモーター:配列番号20)、カイコ熱ショックタンパク質90(hsp90)遺伝子由来の熱ショックタンパク質90プロモーター(hsp90プロモーター:配列番号21)、カイコ伸長因子1α(Elongation Factor-1α)遺伝子由来の伸長因子1プロモーター(EF-1プロモーター:配列番号22)、及びBmNPV(Bombyx mori nuclear polyhedrosis virus)の最初期遺伝子1(ie-1:immediate-early gene 1)由来の最初期遺伝子1プロモーター(ie-1プロモーター:配列番号23)等が挙げられる。また、発現誘導型ユビキタスプロモーターとしては、熱ショックタンパク質70(hsp70)遺伝子由来の熱ショックタンパク質70プロモーター(hsp70プロモーター:配列番号24)が挙げられる。さらに、部位特異的プロモーターの具体例としては、眼特異的発現をする3xP3遺伝子のプロモーター(3xP3プロモーター:配列番号25)、中部絹糸腺の前部で特異的発現をするセリシン3遺伝子のプロモーター(Ser3プロモーター:配列番号26)、中部絹糸腺特異的発現をするセリシン1遺伝子のプロモーター(Ser1プロモーター:配列番号27)、後部絹糸腺特異的発現をするフィブロインH遺伝子のプロモーター(Fib Hプロモーター:配列番号28)、フィブロインL遺伝子のプロモーター(Fib Lプロモーター:配列番号29)、又はp25遺伝子のプロモーター(p25プロモーター:配列番号30)、脂肪体特異的発現をする30K遺伝子のプロモーター(30Kプロモーター:配列番号31)、及び精巣で特異的発現をするelav like遺伝子のプロモーター(elav likeプロモーター:配列番号32)等が挙げられる。部位特異的プロモーターの細胞又は組織特異性は、原則として、そのプロモーターが本来制御していた遺伝子に依存する。例えば、前述のSer1プロモーターであれば、Ser1遺伝子は中部絹糸腺で特異的に発現することから、中部絹糸腺特異的プロモーターとなる。
プロモーターは、上記カイコの例以外にも第1発現ユニットを導入する宿主に応じて当該分野で公知のプロモーターを用いることができる。例えば、宿主が大腸菌であれば、作動可能なプロモーターとして、lac、trp若しくはtacプロモーター、又はファージ由来のT7、T3、SP6、PR若しくはPLプロモーター等が挙げられる。宿主が酵母であれば、作動可能なプロモーターとして、例えば、酵母解糖系遺伝子のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2-4cプロモーター等が挙げられる。
(3)母核ベクター
「母核ベクター」は、第1発現ユニットのベース部分であって、第1発現ユニットがベクターとして機能する上で必要な構成を有する。ベクターの種類は、特に限定はしない。プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミド、バクミド、フォスミド、BAC、YAC等が挙げられる。プラスミドベクター又はウイルスベクターが好ましい。母核ベクターは、第1発現ユニットを導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。例えば、宿主が大腸菌の場合には、pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、及びpBluescript系(Agilent technologies)等の大腸菌由来のプラスミドベクターやλgt11及びλZAP等のλファージベクターを利用することができる。宿主が酵母の場合には、YEp13、YEp24、及びYCp50等のプラスミドベクターを利用することができる。また、宿主が昆虫細胞の場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターやバクミドを用いることができる。さらに、宿主がヒト等の哺乳類動物の場合には、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクター、あるいは非ウイルスベクターを母核とする公知のベクターを使用することができる。さらに、この他、大腸菌又は酵母内でも複製可能なシャトルベクター、染色体中に相同又は非相同組換え可能なベクター、又は各メーカーから市販されている様々な宿主専用発現ベクターを利用してもよい。
(4)標識遺伝子
「標識遺伝子」は、第1発現ユニットにおける選択的構成要素であって、選抜マーカー又はレポータータンパク質とも呼ばれる標識タンパク質をコードする遺伝子である。「標識タンパク質」とは、その活性に基づいて標識遺伝子の発現の有無を判別することのできるポリペプチドをいう。活性の検出は、標識タンパク質の活性そのものを直接的に検出するものであってもよいし、色素のような標識タンパク質の活性によって発生する代謝物を介して間接的に検出するものであってもよい。検出は、生物学的検出(抗体、アプタマー等のペプチドや核酸の結合による検出を含む)、化学的検出(酵素反応的検出を含む)、物理的検出(行動分析的検出を含む)、又は検出者の感覚的検出(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚による検出を含む)により行うことができる。標識遺伝子は、第1発現ユニットを保有する宿主細胞又は形質転換体を判別する目的で用いられる。
標識遺伝子がコードする標識タンパク質の種類は、当該分野で公知の方法によりその活性を検出可能な限り、特に限定はしない。好ましくは検出に際して形質転換体に対する侵襲性の低い標識タンパク質である。例えば、タグペプチド、薬剤耐性タンパク質、色素タンパク質、蛍光タンパク質、発光タンパク質等が挙げられる。
「タグペプチド」は、タンパク質を標識化することのできる十数アミノ酸〜数十アミノ酸からなる短ペプチドであって、タンパク質の検出用、精製用として用いられる。通常は、標識すべきタンパク質をコードする遺伝子の5’末端側又は3’末端側にタグペプチドをコードする塩基配列を連結し、タグペプチドとのキメラタンパク質として発現させることで標識化する。タグペプチドは、当該分野で様々な種類が開発されているが、いずれのタグペプチドを使用してもよい。タグペプチドの具体例として、FLAG、HA、His、及びmyc等が挙げられる。
「薬剤耐性タンパク質」は、培地等に添加された抗生物質等の薬剤に対する抵抗性を細胞に付与するタンパク質であり、多くは酵素である。例えば、アンピシリンに対して抵抗性を付与するβラクタマーゼ、カナマイシンに対して抵抗性を付与するアミノグリコシド3’ホスホトランスフェラーゼ、テトラサイクリンに対して抵抗性を付与するテトラサイクリン排出トランスポーター、クロラムフェニコールに対して抵抗性を付与するCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)等が挙げられる。
「色素タンパク質」は、色素の生合成に関与するタンパク質、又は基質の付与により色素による形質転換体の化学的検出を可能にするタンパク質である。ここでいう「色素」とは、形質転換体に色素を付与することができる低分子化合物又はペプチドで、その種類は問わない。例えば、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、β-グルクロニターゼ(GUS)、メラニン系色素合成タンパク質、オモクローム系色素、又はプテリジン系色素が挙げられる。また、個体の外部色彩として表れる色素、例えば、メラニン系色素(ドーパミンメラニンを含む)、オモクローム系色素、又はプテリジン系色素であってもよい。
「蛍光タンパク質」は、特定波長の励起光を照射したときに特定波長の蛍光を発するタンパク質をいう。天然型及び非天然型のいずれであってもよい。また、励起波長、蛍光波長も特に限定はしない。具体的には、例えば、CFP、RFP、DsRed(3xP3-DsRedのような派生物を含む)、YFP、PE、PerCP、APC、GFP(EGFP、3xP3-EGFP等の派生物を含む)等が挙げられる。
本明細書で「発光タンパク質」とは、励起光を必要とすることなく発光することのできる基質タンパク質又はその基質タンパク質の発光を触媒する酵素をいう。例えば、基質タンパク質としてのルシフェリン又はイクオリン、酵素としてのルシフェラーゼが挙げられる。
本明細書で「外部分泌タンパク質」とは、細胞外又は体外に分泌されるタンパク質であり、外分泌性酵素の他、フィブロインのような繊維タンパク質やセリシンが該当する。外分泌性酵素には、ブラストサイジンのような薬剤の分解又は不活化に寄与し、宿主に薬剤耐性を付与する酵素の他、消化酵素が該当する。
標識遺伝子は、第1及び第2発現ユニットにおいてプロモーターの下流に発現可能な状態で配置される。
標識遺伝子は、第1発現ユニットにおいて、目的遺伝子の上流又は下流に連結した状態で、又は目的遺伝子とは独立して、発現可能な状態で配置される。
(5)ターミネーター
「ターミネーター」は、前記TAL領域及び転写活性領域からなるキメラ遺伝子の3’末端側、好ましくは終止コドンの下流に配置される塩基配列であって、前記プロモーターにより発現したキメラ遺伝子の転写を終結できる配列である。ターミネーターの種類は、特に限定はしない。好ましくはプロモーターと同一生物種由来のターミネーターである。例えば、大腸菌であれば、リポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、ADH1遺伝子のターミネーター等が使用できる。カイコ等の昆虫であれば、配列番号33で表される塩基配列からなるhsp70ターミネーター、配列番号34で表される塩基配列からなるSV40ターミネーター等が使用できる。一遺伝子発現制御においてゲノム上で前記プロモーターと対になっているターミネーターは特に好ましい。
(6)5’UTR及び3’UTR
「5’UTR(5’untranslated region)及び3’UTR(3’untranslated region)」は、それ自身がアミノ酸や機能性核酸をコードしない非翻訳領域からなるポリヌクレオチドである。各UTRを構成する塩基配列は、限定はしない。第1発現ユニットにおいて5’UTRは、前記キメラ遺伝子の開始コドンの上流(5’末端側)に配置され、3’UTRは、キメラ遺伝子の終止コドンの下流(3’末端側)に配置される。なお、3’UTRは、ポリAシグナルを含むことができる。
(7)エンハンサー
「エンハンサー」は、第1発現ユニットにおける選択的構成要素であって、ベクター内の遺伝子又はその断片の発現効率を増強できる塩基配列からなる。その種類及び塩基配列は、特に限定はされない。
(8)インスレーター
「インスレーター」は第1発現ユニットにおける選択的構成要素であって、周囲の染色体のクロマチンによる影響を受けることなく、その配列に挟まれた遺伝子の転写を、安定的に制御できる塩基配列である。例えば、ニワトリのcHS4配列やショウジョウバエのgypsy配列などが挙げられる。
(9)トランスポゾンの逆位末端反復配列
「トランスポゾンの逆位末端反復配列(ITRs:inverted terminal repeat sequence)」は、第1発現ユニットを相同組換え可能な発現ベクターとする場合に含まれ得る選択構成要素である。逆位末端反復配列は、通常は2個1組で使用される。トランスポゾンの具体例として、宿主が昆虫であれば、piggyBac、mariner、minos等を用いることができる(Shimizu,K. et al., 2000, Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W. et al.,2000, Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
1−2−2.第2発現ユニット
前記第2発現ユニットは、図1Bに示すように、TAL認識配列とその制御下に配置された目的遺伝子等を含み、その他に、母核ベクターを必須の構成要素として含む。また、必要に応じて標識遺伝子、ターミネーター、エンハンサー、5’UTR及び3’UTR、インスレーター及びトランスポゾンの逆位末端反復配列等の選択的構成要素を含むこともできる。以下、TAL認識配列、及び目的遺伝子等について説明する。なお、第2発現ユニットに含まれる母核ベクター及び選択的構成要素については、前記第1発現ユニットで説明した対応する構成要素と基本構成は同じであることから、ここでの説明は省略する。
(1)TAL認識配列
本明細書において「TAL認識配列」とは、第1発現ユニットにコードされたキメラタンパク質のTALドメインによって特異的に認識される塩基配列である。第1発現ユニットのTALドメインと第2発現ユニットのTAL認識配列は原則として1対1の関係にあり、当該関係によって一組のバイナリー遺伝子発現システムが構成されている。ただし、1つの第1発現ユニットのTALドメインが認識し得るTAL認識配列を、複数の異なる第2発現ユニットが包含する場合には、1対複数の関係となり、第1発現ユニットが複数の第2発現ユニットと組を形成することができる。本発明のバイナリー遺伝子発現システムでは、第1及び第2発現ユニットにおける前記1対1の特異性を利用して、異なる複数組のバイナリー遺伝子発現システムを一個体に導入することによって、各組の第2発現ユニットに含まれる目的遺伝子の発現を、時期特異的及び/又は組織特異的に制御することが可能となる。
当該キメラタンパク質のTAL認識配列への結合によって、キメラタンパク質の転写活性ドメインがTAL認識配列の制御下に配置された目的遺伝子等の発現を活性化する。したがって、本明細書におけるTAL認識配列は、下流に連結された目的遺伝子等プロモーターとして機能し得る遺伝子発現調節領域ということができる。
TAL認識配列の具体的な構成は、第1発現ユニットにコードされたTALドメインの標的塩基配列が5〜25個、5〜20個、5〜15個、5〜10個、5〜9個、又は5〜8個含む繰り返し配列からなる。例えば、5’末端のt(チミン)及びそれに続く配列番号4で表される塩基配列からなる主要標的塩基配列で構成される標的塩基配列を5〜25個含む塩基配列が該当する。より具体的な例として、配列番号9で表される塩基配列からなるGAL4認識配列の繰り返し単位が5〜25個連結された繰り返し配列が挙げられる。この配列は、配列番号35で表される塩基配列からなるUASを含み、配列番号7又は配列番号8で表される塩基配列を主要標的塩基配列とする第1発現ユニットにコードされたTALドメインによって認識される。
(2)目的遺伝子又はその断片
本明細書において「目的遺伝子又はその断片」は、第2発現ユニットに含まれ、本発明のバイナリー遺伝子発現システムによって発現を増強する対象となる任意の遺伝子又はその断片である。遺伝子の種類は、特に限定されず、所望のタンパク質若しくはそのペプチド断片をコードする核酸、又は機能性核酸をコードする核酸とすることができる。
「目的遺伝子」は、目的タンパク質をコードする遺伝子で、ゲノム由来の遺伝子、cDNAからなる遺伝子、又はキメラ遺伝子のいずれであってもよい。
また、「目的遺伝子の断片」とは、目的遺伝子の塩基配列の一部で構成される核酸断片である。当該核酸断片の塩基長は特に限定しない。目的遺伝子においてシグナル配列をコードする領域を欠失した核酸断片であってもよいし、目的遺伝子における一ドメイン又は一モチーフのみからなる核酸断片であってもよい。
なお、本明細書では、目的タンパク質をコードする目的遺伝子又はその活性断片をコードするDNAをまとめて、しばしば「目的遺伝子等」と表記する。また、本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、前述の対象遺伝子等は、第1発現ユニットに含まれるTAL領域及び転写活性領域からなるキメラ遺伝子等や第2発現ユニットに含まれる目的遺伝子等を包含する上位の概念である。
前記目的遺伝子等の由来生物種は第2発現ユニットを導入する宿主生物種と異なっていてもよい。例えば、第2発現ユニットにコードされた目的タンパク質がヒト由来のタンパク質であって、その第2発現ユニットを導入する宿主がカイコの場合が挙げられる。
本明細書において「目的タンパク質」とは、目的遺伝子にコードされた所望のタンパク質である。目的タンパク質の種類を問わない。構造タンパク質又は機能タンパク質のいずれであってもよい。構造タンパク質の例としては、コラーゲン、アクチン、ミオシン、フィブロイン等の繊維タンパク質、ケラチン、ヒストン等が挙げられる。機能タンパク質の例としては、ペプチドホルモン(インスリン、カルシトニン、パラトルモン、成長ホルモン等)、サイトカイン(上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)等)、転写因子(GAL4を含む)、免疫グロブリン、血清アルブミン、ヘモグロビン、酵素等が挙げられる。また、目的タンパク質は、野生型タンパク質又は変異型タンパク質のいずれであってもよい。例えば、機能獲得型のような変異型タンパク質であってもよい。さらに、目的タンパク質又はそのペプチド断片は、その活性の有無も問わない。不活性型の変異型タンパク質であっても本態様の遺伝子発現ベクターを導入した宿主にドミナントネガティブ効果を付与することができるからである。ただし、通常は活性を有するタンパク質又はその活性ペプチド断片であることが好ましい。
前記「機能性核酸」とは、生体内又は細胞内において、特定の生物学的機能、例えば、酵素機能、触媒機能又は生物学的阻害若しくは亢進機能(例えば、転写、翻訳の阻害又は亢進)を有する核酸分子をいう。具体的には、例えば、RNA干渉剤、核酸アプタマー(RNAアプタマー等)、リボザイム、U1アダプター、又は転写因子結合領域等が挙げられる。「RNA干渉剤」とは、生体内においてRNA干渉(RNA inteference:RNAi)を誘導し、標的とする遺伝子の転写産物の分解を介してその遺伝子の発現を抑制(サイレンシング)することができる物質をいう。例えば、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)(pri-miRNA及びpre-miRNAを含む)又はアンチセンスRNAが挙げられる。
本態様の第2発現ユニットにおいて目的遺伝子等は、複数含まれていてもよい。この場合、各目的遺伝子等は同じタンパク質をコードする遺伝子等であってもよいし、異なるタンパク質をコードする遺伝子等であってもよい。ただし、第2発現ユニットにおいてTAL認識配列が1つしか存在しない場合、各目的遺伝子等は、そのTAL認識配列の制御領域範囲内に配置されていなければならない。一方、1つのTAL認識配列と1つの目的遺伝子等からなる1組の発現単位が、第2発現ユニットに複数存在していてもよい。
2.形質転換体
2−1.概要
本発明の第2の態様は形質転換体である。本態様の形質転換体は、第1態様に記載のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1発現ユニット及び/又は第2発現ユニットを細胞内に包含する。本発明の形質転換体は、バイナリー遺伝子発現システムを構成するいずれか一方の発現ユニットを含む系統の維持を容易にする。また2つの発現ユニットを含む個体において、第2発現ユニットに含まれる目的遺伝子等の発現を増強させることができる。さらに複数組のバイナリー遺伝子発現システムを個体に導入することで、それぞれのシステムの第2発現ユニットに含まれる目的遺伝子の発現時期や発現場所を個別に制御することができる。
2−2.構成
本明細書において「形質転換体」とは、第1態様に記載のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1発現ユニット及び/又は第2発現ユニットを細胞内に包含する導入体をいう。より具体的には、第1態様に記載のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1発現ユニット及び/又は第2発現ユニット(本明細書ではしばしば「第1及び/又は第2発現ユニット」と略称する)を宿主に導入し、形質転換させた第1世代、及びその第2世代以降の後代、又はそれぞれの発現ユニットを包含する形質転換体を交配して得られる2つの発現ユニットを含むF1個体及びその第2世代以降の後代が該当する。ただし、形質転換体が包含する第2発現ユニットのTAL認識配列が配列番号9で示す塩基配列を5〜25個連結した繰り返し配列からなる場合、その形質転換体は、本発明の形質転換体から除外される。
本明細書において「宿主(細胞)」とは、本発明のバイナリー遺伝子発現システムの第1及び/又は第2発現ユニットが導入される細胞、組織又は個体をいう。形質転換体の宿主は、原則として、特に限定されない。ただし、細胞内で導入された第1及び/又は第2発現ユニットの複製が可能であり、かつ第1及び第2発現ユニットが併存する場合に、第2発現ユニットに含まれる目的遺伝子等を発現できなければならない。前記条件を満たす限り、宿主は、細菌、真菌、又は動物(細胞)のいずれであってもよい。例として、細菌であれば、大腸菌、バチルス属(Bacillus)菌等が挙げられる。真菌であれば、糸状菌、担子菌及び酵母が挙げられる。動物であれば、無脊椎動物(昆虫、甲殻類を含む)、脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類動物を含む)が挙げられる。宿主には昆虫が好ましく、中でもチョウ目昆虫は好ましい。
「チョウ目昆虫」とは、分類学上のチョウ目(Lepidoptera)に属する昆虫であって、チョウ又はガをいう。チョウには、タテハチョウ科(Nymphalidae)、アゲハチョウ科(Papilionidae)、シロチョウ科(Pieridae)、シジミチョウ科(Lycaenidae)、及びセセリチョウ科(Hesperiidae)に属する昆虫が含まれる。ガには、ヤママユガ科(Saturniidae)、カイコガ科(Bombycidae)、イボタガ科(Brahmaeidae)、オビガ科(Eupterotidae)、カレハガ科(Lasiocampidae)、ミノガ科(Psychidae)、シャクガ(Geometridae)、ヒトリガ科(Archtiidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)等に属する昆虫が含まれる。例えば、ガであれば、Bombyx属、Samia属、Antheraea属、Saturnia属、Attacus属、Rhodinia属に属する種、具体的には、カイコ、クワコ(Bombyx mandarina)、シンジュサン(Samia cynthia;エリサンSamia cynthia ricini及びシンジュサンとエリサンの交配種を含む)、ヤママユガ(Antheraea yamamai)、サクサン(Antheraea pernyi)、ヒメヤママユ(Saturnia japonica)、オオミズアオ(Actias gnoma)等が挙げられる。本発明の形質転換体の宿主としてのチョウ目昆虫は、これらに限定はされないが、産業上の利用可能性の高いカイコは、宿主として特に好ましい。
本明細書において「後代」とは、第1世代の形質転換体から無性生殖又は有性生殖を介して得られる第2世代以降の形質転換体であって、かつ第1態様のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1及び/又は第2発現ユニットを保持している個体をいう。例えば、単細胞微生物であれば、第1世代以降の形質転換体から分裂又は出芽等によって新たに生じた細胞(クローン体)で、第1及び/又は第2発現ユニットを保持している細胞が該当する。また、有性生殖を行う生物であれば、第1世代以降の配偶子の接合により新たに生じた個体で、第1又は第2発現ユニットを保持している個体、あるいは第1世代以降の形質転換体の配偶子どうしの接合により新たに生じた個体で、第1及び第2発現ユニットを保持している個体が該当する。
形質転換体において第1態様のバイナリー遺伝子発現システムを構成する第1及び第2発現ユニットは、宿主細胞内に一過的に存在してもよいし、また染色体中に導入された状態等で安定的かつ継続的に存在してもよい。通常は、安定的かつ継続的に存在することが好ましい。
第1及び第2発現ユニットが宿主細胞の染色体中に組み込まれている場合、第1及び第2発現ユニットは同一染色体に存在していてもよいし、異なる染色体に存在していてもよい。形質転換体である宿主の交配によって2つの発現ユニットを同一の宿主細胞内に併存させる場合には、各発現ユニットは異なる染色体に存在することが好ましい。同一染色体に存在する場合には、2つの発現ユニットが互いに連鎖しない遠位に組み込まれていることが望ましい。
また、第1及び第2発現ユニットは、同種で別個の宿主が有していることが好ましい。第1発現ユニットのみを(好ましくはホモ接合体で)有する系統の形質転換体と第2発現ユニットのみを(好ましくはホモ接合体で)有する系統の形質転換体とを交配させることによって、F1で前記2つの発現ユニットを有する形質転換体を容易に得ることができる。
2−3.第1又は第2発現ユニットの宿主導入方法
各発現ユニットの宿主導入方法について、説明をする。
第1又は第2発現ユニットを導入する宿主は、個体、組織又は細胞(株化細胞を含む)である。好ましい宿主は個体である。細胞若しくは組織に導入する場合、採取された個体の発生ステージは、特に限定はしない。個体に導入する場合も、発生ステージや雌雄の限定は特になく、成長過程のいずれのステージであってもよい。好ましくは、より高い効果が期待できる胚時期である。
各発現ユニットの導入方法は、導入する宿主に応じて当該分野で公知の形質転換方法に準じて行えばよい。
例えば、宿主が細菌の場合であれば、ヒートショック法、カルシウムイオン法(例えば、リン酸カルシウム法)、エレクトロポレーション法等を用いればよい。また宿主が酵母の場合には、リチウム法、エレクトロポレーション法等を用いればよい。これらの形質転換方法は、いずれも当該分野で公知であり、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkをはじめ、様々な文献に記載されているのでそれらを参考にすることができる。
また、宿主が昆虫、特にカイコの場合で、各ユニットがトランスポゾンの逆位末端反復配列(ITRs)(Handler AM. et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:7520-5)を有するプラスミドであれば、Tamuraらの方法(Tamura T. et al., 2000, Nature Biotechnology, 18, 81-84)を応用することができる。簡単に説明すると、適当な濃度に希釈した第1又は第2発現ユニットを、トランスポゾン転移酵素の遺伝子を有するヘルパーベクターと共にカイコ卵の初期胚にインジェクションすればよい。ヘルパーベクターには、例えば、pHA3PIGが利用できる。発現ユニットが標識遺伝子を含む場合には、その遺伝子等の発現に基づいて目的の形質転換体を容易に選抜することができる。なお、この方法で得られた遺伝子組換えカイコは、発現ユニットがトランスポゾンの逆位末端反復配列を介して染色体中に組み込まれている。この遺伝子組換えカイコを必要に応じて兄妹交配又は同系交配を行い、染色体に挿入された核発現ユニットのホモ接合体を得てもよい。
さらに、宿主が動物細胞の場合には、リポフェクチン法(PNAS、1989、Vol.86、6077;PNAS、1987、Vol.84、7413)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Virology、1973、Vol.52、456-467)、DEAE-Dextran法等が好適に用いられるが、この限りではない。
3.遺伝子発現増強個体の作出方法
3−1.概要
本発明の第3の態様は、遺伝子発現増強個体の作出方法である。本発明の作出方法は、第1態様のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1及び第2発現ユニットの両方を含むF1形質転換体を作出する方法である。得られた形質転換体は、第2発現ユニットに包含される目的遺伝子等の発現を増強することができる。
3−2.作出手順
本発明の作出方法は、交配工程及び選択工程を必須工程として含む。以下、各工程について説明をする。
3−2−1.交配工程
「交配工程」とは、第2態様に記載の第1発現ユニットのみを有する形質転換体と第2発現ユニットのみを有する形質転換体とを交配させる工程である。
本工程では、第1発現ユニットを有する形質転換体と第2発現ユニットを有する形質転換体を常法に基づいて交配させればよい。それぞれの発現ユニットを有する形質転換体は、予め兄妹交配又は同系交配を行い、各発現ユニットに関してホモ接合体にしておくことが好ましい。
3−2−2.選択工程
「選択工程」とは、前記第1及び第2発現ユニットを有する個体を選択する工程である。本工程では、交配工程後に得られるF1個体から、それぞれの発現ユニットにコードされた標識タンパク質の活性に基づいて、両発現ユニットを有する個体を選抜することによって達成し得る。
以下に本発明の態様について、具体的な実施例を挙げて説明をするが、以下の実施例は本発明の一概念に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1:UASを認識する第1発現ユニットによる目的遺伝子の発現効率(1)>
(目的)
本発明のバイナリー遺伝子発現システムを構築するために、UASを認識するTALドメインをコードする様々な第1発現ユニットを構築し、第2発現ユニットに対する目的遺伝子の発現効率を検証する。
(方法)
(1)第1発現ユニットの構築
第1発現ユニットのベースとなるベクターには、Takasuら(Takasu Y., et al., 2013, PLoS ONE 8: 9, e73458. doi:10.1371/journal.pone.0073458)により構築されたカイコ用TALEN発現ベクターpBlue-TALを用いた。
従来のGAL4/UASシステムでは、図2で示すように、19塩基からなり、配列番号9で表されるGAL4認識配列を5回繰り返した配列をUASコンストラクトとして用いている。そこで、この単位を標的塩基配列とするTAL認識領域UASTAL1、標的塩基配列の5’末端側がTになるように前記GAL4認識配列上で3’末端側に位相を5塩基ずらしてなる20塩基を標的塩基配列とするUASTAL2、またGAL4認識配列上で標的塩基配列を5つ含む(すなわち5回繰り返す)ようにUASTAL2の3'末端側を削り、塩基数を13塩基に短縮したUASTAL3の3種類のTAL領域を作製した(図2)。TAL領域のクローニングは、Golden gate assembly kit(Addgene)を用いてCermakら(Cermak T., et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)の方法に準じた。得られたベクターをそれぞれ「pBlue-UASTAL1」、「pBlue-UASTAL2」、及び「pBlue-UASTAL3」とした(本明細書では、これらをまとめて、しばしば「pBlue-UASTAL(1-3)」と表記する)。
次に、pBlue-UASTAL(1-3)をBamHI及びXhoIで消化し、FokIヌクレアーゼドメインをコードする領域を除いた。続いて、BamHI/XhoIサイトに、配列番号36で表される塩基配列からなるBamXho_ad_U及び配列番号37で表される塩基配列からなるBamXho_ad_LをアニーリングさせてなるBamHI-XhoIアダプターを挿入した。得られたベクターを「pBlue-UASTAL(1-3)-BamHI-XhoIad」とした。
続いて、TAL領域におけるN末端領域の制限酵素サイトをPCRで改変した。具体的には、TAL_N_BsmBI_U(配列番号38)及びTAL_N_L(配列番号39)をプライマーとし、pBlue-TALを鋳型に用いてPCRにより増幅した。PCRは、KOD plus(TOYOBO)を用いて行い、反応液組成は、添付のプロトコルに記載されたスタンダードな方法に従った。PCRサイクルの条件は、94℃30秒及び68℃60秒を1サイクルとして、12サイクル行った。得られた増幅産物を、SnaBI及びAgeIで消化した後、pBlue-UASTAL(1-3)-BamHI-XhoIadのSnaBI/AgeIサイトへ挿入した。得られたベクターを「pBlue-Bsm-UASTAL(1-3)-BamHI-XhoIad」とした。
さらに、TAL2領域のC末端にGAL4の転写活性化ドメインの全長を連結した。BsmBI_GAL4_U30(配列番号40)及びBsmBI_GAL4_L30(配列番号41)をプライマーとし、pBac[Ser1-GAL4/3xP3-DsRed](Tatematsu K, et al., 2010, Transgenic research, 19:473-87)を鋳型に用いて、GAL4遺伝子の全長をPCRで増幅した。得られた増幅産物をpZErO-2(life technologies)へ挿入した。具体的な方法は、Tatematsuら(Tatematsu K, et al., 2010;前述)に記載の方法に準じた。得られたベクターを「GAL4/pZero2」とした。
次にGAL4/pZero2をClaI及びXhoIで消化し、GAL4転写活性化ドメインをコードする領域を含むGAL4AD-ClaI-XhoIを得た。pBlue-Bsm-UASTAL(1-3)-BamHI-XhoIadをClaI及びXhoIで消化した後、前記GAL4AD-ClaI-XhoIをClaI/XhoIサイトに挿入した。得られたベクターを「pBlue-Bsm-UASTAL(1-3)-GAL4AD」とした。
最後に、pBlue-Bsm-UASTAL(1-3)-GAL4ADをSnaBI及びXhoIで消化し、得られたSnaBI-XhoI断片をpIB/V5-His(life technologies)のEcoRV/XhoIサイトへ挿入した。pIB/V5-Hisは、OplE2プロモーターとターミネーターを有し、EcoRV/XhoIサイトはこれらの間に位置する。得られた第1発現ユニットを「UASTAL(1-3)-GAL4AD/pIB」とした。
(2)第2発現ユニットの構築
本実施例で使用する第2発現ユニットは、GAL4/UASシステムのUAS系統と基本構成は同じであり、UASリピートの下流に目的遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子が連結された構造を有する。
まず、UASリピートとセリシン1遺伝子の3’UTRからなるSerUASカセットを、serUASPCRU(配列番号42)及びserPolyALSpe(配列番号43)をプライマーとし、pBac[SerUAS/3xP3EGFP](Tatematsu K, et al., 2010, Transgenic research, 19:473-87)を鋳型に用いて、PCRにより増幅した。PCRは、KOD plus(TOYOBO)を用いて行い、反応液組成は、添付のプロトコルに記載されたスタンダードな方法に従った。PCRサイクルの条件は、94℃30秒及び68℃60秒を1サイクルとして、12サイクル行った。得られた増幅産物をpBluescript SKII-(Agilent Technologies)のEcoRVサイトに挿入した。得られたベクターを「pB-SerUAS」とした。
次に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を、Bln-luc U(配列番号44)及びBln-luc L(配列番号45)をプライマーとし、pGL3(プロメガ)を鋳型に用いて、PCRにより増幅した。PCRの条件は上記条件に準じた。増幅産物をBlnIで消化した後、得られたBlnI断片をpB-SerUASのBlnIサイトに挿入して第2発現ユニット「pUAS-fLuc」を得た。
(3)ルシフェラーゼアッセイ
第1発現ユニットの転写活性化能を調べるため、カイコ培養細胞でルシフェラーゼアッセイを行った。第1発現ユニットUASTAL(1-3)-GAL4AD/pIB及び第2発現ユニットpUAS-fLucをpRL-TK(プロメガ:内部標準用)と共にカイコ培養細胞BmN4にトランスフェクションした。陽性対照として従来のGAL4/UASシステムにおけるGAL4系統の転写活性化能も測定した。なお、陽性対照におけるUAS系統は第2発現ユニットと同一である。
トランスフェクション3日後に細胞を回収し、dual luciferase assay(プロメガ)によりルシフェラーゼ活性を添付のプロトコルに従い測定した。
(結果)
図3のレーン2〜4に結果を示す。陽性対照(GAL4/UASシステムのGAL4系統)はレーン1である。TAL領域にGAL4ADの全長コードする領域を連結するだけでは、UASTAL1〜3のいずれの場合も陽性対照と比較して、転写活性化能が減少することが明らかとなった。この理由として、標的認識配列が単純なリピート配列であることに起因する、UASTALの立体障害に原因がある可能性が考えられた。
<実施例2:UASを認識する第1発現ユニットによる目的遺伝子の発現効率(2)>
(目的)
実施例1の第1発現ユニットでは、従来のGAL4/UASシステムを超える転写活性化能を得ることができなかった。そこで、UASTALの立体障害を減少させるために転写活性ドメインを短縮化した新たな第1発現ユニットを構築し、第2発現ユニットに対する目的遺伝子の発現効率を再度検証する。
(方法)
(1)第1発現ユニットの構築
本実施例では、第1発現ユニットにおける転写活性領域を、実施例1のGAL4転写活性化ドメインの全長に替えて、ARII又はVP16を用いた。ARIIはGAL4転写活性化ドメインのC末端側に位置する最小活性単位(転写活性単位)であり、VP16は単純ヘルペスウイルスのVP16の転写活性化ドメインである。なお、TAL領域には、実施例1で最も転写活性化能が高かったUASTAL3と次に転写活性化能が高かったUASTAL2を用いた(以下これら2つをまとめて、しばしば「UASTAL(2-3)」と表記する。
・UASTAL(2-3)-ARII(x2)の構築
まず、GAL4遺伝子において配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるARIIをコードする領域(ARII領域;配列番号17)を、BamHI GAL4ARII U(配列番号46)及びBgl GAL4ARII L(配列番号47)をプライマーとし、pBac[Ser1-GAL4/3xP3-DsRed]を鋳型に用いて、PCRにより増幅した。PCRは、実施例1の記載の方法に準じた。次に、増幅産物をBamHIで消化した後、得られたBamHI断片を実施例1で調製したpBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-BamHI-XhoIadのBamHIサイトへ挿入した。得られたベクターを「pBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-ARII」とした。
前記BamHI断片をpBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-ARIIのBamHIサイトに再度挿入し、ARIIをタンデムにした。得られたベクターを「pBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-ARIIx2」とした。
pBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-ARII、及び「pBlue-Bsm-UASTAL(2-3)-ARIIx2をそれぞれSnaBI及びXhoIで消化し、SnaBI-XhoI断片をpIB/V5-His(life technologies)のEcoRV/XhoIサイトへ挿入し、得られた第1発現ユニットを「UASTAL(2-3)-ARII/pIB」、及び「UASTAL(2-3)-ARIIx2/pIB」とした。
・UASTAL3-VP16(x2)の構築
まず、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるVP16をコードする領域(VP16領域;配列番号19)を、BamHI VP16 U(配列番号48)及びBgl VP16operon L(配列番号49)をプライマーとし、人工合成した遺伝子を鋳型に用いて、PCRにより増幅した。人工合成遺伝子は、配列番号19で示される塩基配列に基づいて、ユーロフィンジェノミクス株式会社に合成を委託した。
他の基本的な方法は、上記UASTAL(2-3)-ARII(x2)の構築方法に準じた。ただし、TAL領域には、UASTAL3のみを使用した。得られた第1発現ユニットを「UASTAL3-VP16/pIB」、及び「UASTAL3-VP16x2/pIB」とした。
(2)ルシフェラーゼアッセイ
上記UASTAL(2-3)-ARII(x2)の培養細胞へのトランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイについては、実施例1に記載の方法に準じた。第2発現ユニットには、実施例1で作製したpUAS-fLucを用いた。
(結果)
図3のレーン5〜10に結果を示す。陽性対照(GAL4/UASシステムのGAL4)はレーン1である。レーン5及び6はそれぞれUASTAL2-ARII/pIB及びUASTAL2-ARIIx2/pIBを、レーン7及び8はそれぞれUASTAL3-ARII/pIB及びUASTAL3-ARIIx2/pIBを、そしてレーン9及び10はそれぞれUASTAL3-VP16/pIB及びUASTAL3-VP16x2/pIBを示す。
図3から、TAL領域が19塩基認識のUASTAL2では、ARIIを2個連結してもGAL4の3割程度の転写活性化能しか示さなかった(レーン6)。一方、TAL領域が13塩基認識のUASTAL3では、ARIIを2個連結した場合には、GAL4の約2.5倍の転写活性化能を示した(レーン8)。また、VP16の転写活性化ドメインを用いた場合には、2個連結すると7倍以上の転写活性化能を示した(レーン10)。
以上の結果から、第1発現ユニットにおいてUASTAL3の制御下にARIIやVP16を複数個連結することで、従来のGAL4よりも目的遺伝子の発現効率を向上できることが示された。
<実施例3:UASを認識する第1発現ユニットによる目的遺伝子の発現効率(3)>
(目的)
実施例2で構築した第1発現ユニットによる本発明のバイナリー遺伝子発現システムの発現効率をさらに向上させるため、第1発現ユニットの転写活性単位であるARIIやVP16の個数(繰り返し数)と転写活性化能の関係を検証する。
(方法)
(1)第1発現ユニットの構築
・UASTAL3-ARII(xX)(ここで「X」は3〜6の整数)の構築
基本的な方法は、実施例2に準じた。ここでは、新たに実施例2で得られたBamHI断片をpBlue-Bsm-UASTAL3-ARIIx2のBamHIサイトに挿入し、ARIIを3連結した。また、このベクターに対して同様の操作を繰り返して、ARIIを4連結、5連結、そして6連結にした。得られたベクターをまとめて「pBlue-Bsm-UASTAL3-ARIIx(3-6)」と表記する。各ベクターをSnaBI及びXhoIで消化し、SnaBI-XhoI断片をpIB/V5-His(life technologies)のEcoRV/XhoIサイトへ挿入し、第1発現ユニットを「UASTAL2-ARIIx(3-6)/pIB」とした。
・UASTAL3-VP16(xX)(ここで「X」は3〜6の整数)の構築
基本的な方法は、実施例2、及び上記UASTAL3-ARII(xX)の構築に準じた。ここで得られた第1発現ユニットを「UASTAL2-VP16x(3-6)/pIB」とした。
(2)ルシフェラーゼアッセイ
基本的な方法は、実施例1及び2に準じた。対照用として、実施例2で構築したGAL4/pIB、及び実施例2で構築したUASTAL2-ARII/pIB、UASTAL2-ARIIx2/pIB、UASTAL3-VP16/pIB及びUASTAL3-VP16x2/pIBを用いた。
(結果)
図4のレーン2〜13に結果を示す。陽性対照(GAL4/UASシステムのGAL4)はレーン1である。図中の値は、GAL4の測定値を1としたときの相対値で示している。レーン2〜7は、それぞれARIIを1個、2個、3個、4個、5個及び6個連結した第1発現ユニットを用いた結果であり、またレーン8〜13は、それぞれVP16を1個、2個、3個、4個、5個及び6個連結した第1発現ユニットを用いた結果である。
ARII及びVP16共に、個数(リピート数)依存的に転写活性化能が向上することが明らかとなった。
<実施例4:標的塩基配列の最適塩基数>
(目的)
第1発現ユニットにコードされたTALドメインによって認識される第2発現ユニットの標的塩基配列の塩基数と転写活性効率との関係について検証する。
(方法)
第1発現ユニットの構築は、基本的に第1実施例の記載の方法に従った。ただし、本実施例では標的塩基配列の塩基数が14個のUASTAL3をベースとして、配列番号9で示す塩基配列からなるGAL4認識配列上で3’側に標的塩基配列を1塩基ずつ20個まで伸長させた6種類のTAL領域、すなわちUASTAL4(標的塩基配列の塩基数15個)、UASTAL5(同16個)、UASTAL6(同17個)、UASTAL7(同18個)、UASTAL8(同19個)、及びUASTAL2を有する第1発現ユニットを作製した。なお、標的塩基配列の塩基数が20個の有する第1発現ユニットには、実施例1で構築したUASTAL2のTAL領域を転用した。第2発現ユニットは、実施例1と同じpUAS-fLucを用いた。
ルシフェラーゼアッセイは、実施例1に記載の方法に準じた。陽性対照として従来のGAL4/UASシステムにおけるGAL4系統の転写活性化能も測定した。
(結果)
図5に結果を示す。標的塩基配列の塩基数が14個又は15個の場合、陽性対照(GAL4)よりも高い転写活性を示したが、16個以上になると、転写活性が顕著に低下した。標的塩基配列の塩基数が20個のときの転写活性の低さは、実施例1の結果とも矛盾しなかった。したがって、本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおいて、標的塩基配列の最適塩基数は14又は15塩基であることが明らかとなった。
<実施例5:バイナリー遺伝子発現システムの配列特異性>
(目的)
第1発現ユニットにコードされたTALドメインの標的塩基配列特異性について検証する。
(方法)
(1)各発現ユニットの構築
第1発現ユニットは実施例2で構築したUASTAL3-ARIIx2を含む第1発現ユニットを、また第2発現ユニットは実施例1で構築したTAL認識配列をUASとし、ルシフェラーゼ遺伝子を目的遺伝子とするUAS-fLucを含む第2発現ユニットを、それぞれベースとした。
実施例4の結果から標的塩基配列の塩基数は14個よりも15個の方がより高い発現量だったことから、本実施例では、UASTAL3の14塩基からなる標的塩基配列の3’側にシトシンを1塩基付加して15塩基としたUAS4を標的塩基配列とするUASTAL4を第1発現ユニットのTAL領域の一つとした。また、第2発現ユニットにおけるUAS4の塩基配列においてGAL4の認識に不要な塩基を2か所置換したUAS4m2(図6)及び4か所置換したUAS4m4(図6)を有するTAL認識配列を構築した。さらに、第1発現ユニットに含まれ、UAS4及びUAS4m2をそれぞれ特異的に認識できるUASTAL4-ARIIx2及びUASTAL4m2-ARIIx2をTAL領域として構築した。
前記TAL領域のクローニングは、実施例1と同様にGolden gate assembly kit(Addgene)を用いてCermakら(Cermak T., et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)の方法に準じた。また、前記TAL領域含む第1発現ユニットUASTAL4-ARII/pIB及びUASTAL4m2-ARIIx2/pIBは、実施例2に記載の方法に準じた。
UAS4-fLuc、UAS4m2-fLuc、及びUAS4m4-fLucを含む第2発現ユニットは、pUAS-fLucのPstI-HindIIサイトに、配列番号19で表される塩基配列からなるBsmBISer1UTR U及び配列番号50で表される塩基配列からなるBsmBISer1UTR LをアニーリングさせてなるBsmSer1UTRアダプターを挿入した後、当該ベクターのBsmBIサイトに、配列番号51で表される塩基配列からなるUAS4U及び配列番号52で表される塩基配列からなるUAS4LをアニーリングさせてなるUAS4U/UAS4L、配列番号53で表される塩基配列からなるUAS4Um2及び配列番号54で表される塩基配列からなるUAS4m2LをアニーリングさせてなるUAS4m2U/UAS4m2L、又は配列番号55で表される塩基配列からなるUAS4Um4及び配列番号56で表される塩基配列からなるUAS4m4LをアニーリングさせてなるUAS4m4U/UAS4m4Lをそれぞれ5個連結されるように繰り返し挿入した。
(2)ルシフェラーゼアッセイ
基本的な方法は、実施例1に記載の方法に準じた。ここでは、第1発現ユニット(GAL4/pIB、UASTAL4-ARIIx2/pIB、及びUASTAL4m2-ARIIx2/pIBと、第2発現ユニット(pUAS4-fLuc、pUAS4m2-fLuc、及びpUAS4m4-fLuc)を組み合わせてカイコ培養細胞BmN4にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った。
(結果)
図6に結果を示す。第1発現ユニットがGAL4を含む場合、第2発現ユニットはUAS4、UAS4m2、及びUAS4m4のいずれに対しても転写活性化能を示した。これはGAL4のGAL4認識配列に対する配列特異性が低いことを示している。一方、本発明のバイナリー遺伝子発現システムの構成を有するUASTAL4-ARIIx2は、UASTAL4の標的塩基配列を含むUAS4に対してのみ高い転写活性化能を示した。また、同様にUASTAL4m2-ARIIx2は、UASTAL4m2の標的塩基配列を含むUAS4m2に対してのみ高い転写活性化能を示した。これらの結果は、UASTALを用いた本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、標的塩基配列に対する配列特異性が高いことを示している。したがって、本発明のバイナリー遺伝子発現システムを用いることにより、複数の遺伝子の発現を別個に時間的又は空間的に制御可能であること、また、従来のGAL4/UASシステムとの互換性を維持していることを示唆している。
<実施例6:遺伝子組換えカイコにおけるバイナリー遺伝子発現システムの発現効率(1)>
(目的)
実施例2〜5では、カイコの培養細胞を用いて本発明のバイナリー遺伝子発現システムの発現効率を検証した。そこで、本実施例では、遺伝子組換えカイコを用いたときの本発明のバイナリー遺伝子発現システムの発現効率を検証する。
(方法)
(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット
本実施例では、カイコの中部絹糸腺におけるUASTAL3の転写活性化能について検証する。
・Ser1p-UASTAL3-ARII(xX)(ここで「X」は1、4又は6)の構築
中部絹糸腺特異的プロモーターであるセリシン1プロモーターに連結したUASTAL3-ARIIの第1発現ユニットを構築した。
まず、UAS下流にBsmBIサイトを導入するためのPCRを行った。具体的には、serUASPCRU(配列番号42)及びBlnBsmSerKL(配列番号57)をプライマーとし、pBac[SerUAS/3xP3EGFP](前述)を鋳型に用いて、PCRによりUASx5を増幅した。PCRの条件は、実施例2及び3に準じた。次に、増幅産物をBglII及びBlnIで消化し、得られたBglII-BlnI断片をpB-SerUAS(前述)のBglII-BlnIサイトに挿入した。このベクターを「Bsm-SerUASカセット」とした。
実施例2及び3で作製したpBlue-Bsm-UASTAL3-ARII、pBlue-Bsm-UASTAL3-ARIIx4及びpBlue-Bsm-UASTAL3-ARIIx6をBsmBI及びXbaIで消化し、得られた各BsmBI-XbaI断片をBsm-SerUASカセットのBsmBI-BlnIサイトに挿入した。続いて、SnaBI及びXbaIで消化し、UASTAL3-ARII等を含むSnaBI-XbaI断片を得た。そして、pBac[Ser1-GAL4/3xP3-DsRed]を同様にSnaBI及びXbaIで消化し、GAL4遺伝子を含むSnaBI-XbaI断片とUASTAL3-ARII等を含むSnaBI-XbaI断片を置き換えた。これにより、中部絹糸腺で特異的に発現を誘導する第1発現ユニットとしてpBac[Ser1-UASTAL3-ARIIx2/3xP3-DsRed]、pBac[Ser1-UASTAL3-ARIIx4/3xP3-DsRed]、及びpBac[Ser1-UASTAL3-ARIIx6/3xP3-DsRed]を得た。
・Ser1p-UASTAL3-VP16(xX)(ここで「X」は3又は6)の構築
中部絹糸腺特異的プロモーターであるセリシン1プロモーターに連結したUASTAL3-VP16の第1発現ユニットを構築した。基本的な方法は、前記Ser1p-UASTAL3-ARII(xX)の構築方法に準じて行った。
(2)UAS-EGFP第2発現ユニット
UASの下流にセリシン1遺伝子の分泌シグナル(配列番号58)をコードする塩基配列(配列番号59)と、その3’末端側に付加したクローニング用付加塩基配列(配列番号60)と目的の水溶性ペプチドDNAとしてのEGFP遺伝子(配列番号62)を結合し、その下流にセリシン1の3’UTR(配列番号63)を連結したpBacSerUAS-ser_sigEGFP/3xP3EGFPを構築した。
(3)遺伝子組換えカイコの作出
カイコの系統は、農業生物資源研究所で維持されている白眼・白卵・非休眠系統のw1-pnd系統を宿主系統として用いた。飼育条件は、25〜27℃の飼育室で、幼虫の全齢を人工飼料(シルクメイト原種1-3齢S、日本農産工)で飼育した。人工飼料は2〜3日毎に交換した(Uchino K. et al., 2006, J Insect Biotechnol Sericol, 75:89-97)。
遺伝子組換えカイコは、Tamuraらの方法(Tamura T. et al., 2000, , Nature Biotechnology, 18, 81-84)に従って作出した。
前記中部絹糸腺特異的第1サブユニット及びUAS-EGFP第2サブユニットを、それぞれトランスポゼースを発現するヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura T. et al., 2000, , Nature Biotechnology, 18, 81-84)と1:1 の割合で混合し、産卵後2〜8時間のカイコ卵にインジェクションした。第1発現ベクターの対照用としてpBac[Ser1-GAL4/3xP3-DsRed]を用いた。インジェクション後の卵は、加湿状態、25℃で孵化するまでインキュベートした。孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、兄妹交配を行った。得られた卵を第1サブユニットについては3xP3 DsRed2マーカー、また第2サブユニットについては3xP3EGFPマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、本発明の遺伝子組換えカイコの第1及び第2サブユニットを有する系統をそれぞれ得た。第1サブユニットと第2サブユニットをそれぞれ有する系統を交配し、一個体に両方の発現ユニットを有する系統を上記と同様に3xP3EGFPマーカー及び3xP3DsRed2マーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、中部絹糸腺特異的に発現をする遺伝子組換えカイコを、UASTAL3-ARIIで4系統、UASTAL3-ARIIx4で3系統、及びUASTAL3-ARIIx6で4系統、UASTAL3-VP16x3で2系統、及びUASTAL3-VP16x6で1系統得た。
(4)EGFPの定量
前記各遺伝子組換えカイコを飼育し、5齢6日目の吐糸直前に氷上で麻酔にかけ、背側を切開してピンセットで中部絹糸腺を傷つけないように摘出した(森靖編,カイコによる新生物学実験,三省堂, 1970,pp.249-255参照)。次に、中部絹糸腺1本当たり10 mLのPBS(pH 7.2)/1%Tween20/0.05%アジ化ナトリウムに入れて、室温で24時間振とうすることによって水溶性タンパク質を抽出した。得られた水溶性タンパク質抽出液を、2,000×gで10分間遠心し、上清を回収した。上清に含まれる水溶性タンパク質中のEGFPタンパク質濃度をReacti-Bind Anti-GFP Coated Plates(PIERCE)で測定した。具体的にはReacti-Bind Anti-GFP Coated Platesに上清液を100 μL添加し、室温で1時間静置した。PBS/0.05% Tween 20で3回洗浄した後、horseradish peroxidase-conjugated anti-GFP antibody (Rockland Immunochemicals)を添加して、室温で1時間静置した。PBS/0.05% Tween 20で3回洗浄した後、TMB Peroxidase EIA Substrate Kit (Bio-Rad)を用いて発色反応を行い、1N 硫酸を加えて反応を停止させた。発色をplate reader (SpectraMax 250; Molecular Devices)で定量した。標準曲線は、リコンビナントGFPタンパク質(タカラバイオ; Z2373N)の系列希釈液(1〜400pg/μL)を用いて作製した。
(結果)
図7に結果を示す。ARIIやVP16を複数回繰り返し融合したUASTAL3第1発現ユニットでは、従来のGAL4を用いた対照用第1発現ユニットと比較して、非常に高いEGFPの発現が観察された。特にARIIの4回繰り返したUASTAL3-ARIIx4を用いた場合、最大で約6倍の発現量が得られた。この結果から、カイコ培養細胞での結果と同様に、遺伝子組換えカイコにおいても本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、GAL4/UASシステムと比較して、目的遺伝子等の発現効率の向上に非常に有効であることが明らかになった。
<実施例7:遺伝子組換えカイコにおけるバイナリー遺伝子発現システムの細胞毒性>
(目的)
GAL4/UASシステムではGAL4を含む第1発現ユニットが宿主に対して細胞毒性を示す。そこで、本発明のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1発現ユニットの宿主に対する細胞毒性について検証する。
(方法)
遺伝子組換えカイコとして第1発現ユニットのpBac[Ser1-GAL4/3xP3-DsRed]を有するw1-pnd系統、及びpBac[Ser1-UASTAL3-ARIIx4/3xP3-DsRed]を有するw1-pnd系統を実施例4に記載の方法に準じて飼育し、各遺伝子組換えカイコが作った繭、蛹から、繭層重、営繭率、化蛹歩合を計算した。
また、各遺伝子組換えカイコの中部絹糸腺におけるタンパク質量をSDS-PAGEにより検出した。具体的には、各遺伝子組換えカイコの5齢6日目の幼虫から中部絹糸腺を摘出した。中部絹糸腺を1本あたり5 mLの20 mM Tris-HCl(pH 8.0)/8 M 尿素/2% SDS/25 mM DTTに入れ、一晩、室温で振とうし、絹糸腺タンパク質を抽出した。絹糸腺タンパク質5μLにH2O 27.5 μL、12.5μLのNuPAGE LDS Sample Buffer(life technologies)と5μLのNuPAGE Sample Reducing Agent(life technologies)を加え、70℃で10分間加温してSDS化した。SDS化したサンプルを4% SDS-PAGEゲルを用いて電気泳動した後、CBCで染色した。
(結果)
図8に繭層重、営繭率、化蛹歩合の結果を、また図9にSDS-PAGEの結果を示す。図8Aは繭層重を、図8Bは営繭率を、そして図8Cは化蛹歩合である。当該分野では、中部絹糸腺でGAL4を発現させると、GAL4による細胞毒性により、繭層重、営繭率、化蛹歩合、及び中部絹糸腺で発現するセリシン1の発現量などが低下することが知られている。
一方、本発明の第1発現ユニットpBac[Ser1-UASTAL3-ARIIx4/3xP3-DsRed]を有する(Ser1-UASTAL3-ARIIx4)は、GAL4と比較して繭層重、結繭率、化蛹歩合、及びセリシン1の発現量が顕著に回復することが明らかとなった。これは、本発明のUASTAL3-ARIIx4がGAL4と比較して宿主に対する細胞毒性が低いことを示唆している。
また、一般に繭層重や営繭率の低下は、繭から目的タンパク質を回収する場合の阻害要因となる。化蛹歩合の低下は、遺伝子組換えカイコの系統維持を困難にし、またセリシン1のタンパク質量の減少は、細胞の遺伝子発現効率の低下を意味する。したがって、これらの現象がGAL4と比較して回復した本発明の第1発現ユニットは、遺伝子組換えカイコにおける組換え遺伝子の発現に好適であることを示唆している。
<実施例8:遺伝子組換えカイコにおけるバイナリー遺伝子発現システムの組織別制御>
(目的)
本発明のバイナリー遺伝子発現システムがカイコ生体内において組織ごとに機能できることを検証する。
(方法)
(1)中部及び後部絹糸腺特異的第1発現ユニットの構築
中部絹糸腺特異的第1発現ユニットは、中部絹糸腺特異的プロモーターであるセリシン1プロモーターにUASTAL4-ARIIx4を連結したpBac[Ser1-UASTAL4-ARIIx4/3xP3-DsRed]とした。Ser1-UASTAL4-ARIIx4の具体的な構築方法は、実施例6の「(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット」に記載のSer1-UASTAL3-ARIIx4の方法に準じ、またUASTAL4の構築は実施例5に記載の方法に準じた。なお、UASTAL4は図6の結果で示したようにUAS4を認識する。
後部絹糸腺特異的第1発現ユニットは、後部絹糸腺特異的プロモーターであるフィブロインHプロモーターにUASTAL4m2-ARIIx4を連結したpBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/A3-KMO]とした。pBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/A3-KMO]の構築では、まずpBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/3xP3-DsRed]を作製した。FibH-UASTAL4m2-ARIIx4の具体的な構築方法は、実施例6の「(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット」に記載のSer1-UASTAL3-ARIIx4の方法に準じ、またUASTAL4の構築は実施例5に記載の方法に準じた。フィブロインHプロモーターは配列番号28に基づいて構築した。選択マーカーであるA3-KMOは、pBac[A3KMO, UAS](Kobayashi I., et al., 2007, J. Insect Biotechnol Sericol, 76:145-48)からA3プロモーター-KMO-SV40polyA付加配列をPCRで増幅してA3-KMOマーカーを作製した。最後にpBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/3xP3-DsRed]の3xP3-DsRedマーカーをA3-KMOマーカーと置換して、目的のpBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/A3-KMO]を得た。なお、UASTAL4m2は図6の結果で示したようにUAS4m2を認識する。
(2)中部及び後部絹糸腺特異的第2発現ユニットの構築
中部絹糸腺特異的第1発現ユニットと対を成す第2発現ユニットは、UAS4の下流に目的のタンパク質遺伝子としてのEGFP遺伝子(配列番号62)を連結し、その下流にセリシン1の3’UTR(配列番号63)を連結したpBacUAS4-EGFP/3xP3EYFPとした。pBacUAS4-EGFP/3xP3EYFPの構築では、まず、pBacUAS4-EGFP/3xP3EGFPを作製した。pBacUAS4-EGFPの具体的な構築方法は、実施例6の「(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット」に記載のpBacSerUAS-ser_sigEGFP/3xP3EGFPの方法に準じた。また、3xP3EYFPについては、Tada M. et al., 2015,. MAbs. 7(6):1138-1150に記載の方法に従い作製した。その後、pBacUAS4-EGFP/3xP3EGFPの3xP3EGFPマーカーを3xP3EYFPに置換して、目的のpBacUAS4-EGFP/3xP3EYFPを得た。
後部絹糸腺特異的第1発現ユニットと対を成す第2発現ユニットは、UAS4m2の下流に目的のタンパク質遺伝子としてのDsRed遺伝子を連結し、その下流にセリシン1の3’UTRを連結したpBacUAS4m2-DsRed/3xP3AmCyanとした。pBacUAS4m2-DsRed/3xP3AmCyanの構築では、まず、pBacUAS4m2-DsRed/3xP3EGFPを作製した。pBacUAS4m2-DsRedの具体的な構築方法は、実施例6の「(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット」に記載のpBacSerUAS-ser_sigEGFP/3xP3EGFPの方法に準じた。3xP3-AmCyanの具体的な構築方法は、Tada M. et al., 2015,. MAbs. 7(6):1138-1150に記載の方法に従い作製した。その後、pBacUAS4m2-DsRed/3xP3EGFPの3xP3EGFPマーカーを3xP3AmCyanに置換して、目的のpBacUAS4m2-DsRed/3xP3AmCyanを得た。
(3)遺伝子組換えカイコの作出
2組のバイナリー遺伝子発現システム、すなわち中部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムの第1発現ユニットであるpBac[Ser1-UASTAL4-ARIIx4/3xP3-DsRed]及び第2発現ユニットであるpBacUAS4-EGFP/3xP3EYFP、並びに後部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムの第1発現ユニットであるpBac[FibH-UASTAL4m2-ARIIx4/A3-KMO]、及びそれに対応する第2発現ユニットであるpBacUAS4m2-DsRed/3xP3AmCyanの計4つの発現ユニットをカイコに導入し、遺伝子組換えカイコを作出した。遺伝子組換えカイコの作出は、実施例6に記載の「(3)遺伝子組換えカイコの作出」の方法に準じた。
(4)絹糸腺の蛍光観察
2組のバイナリー遺伝子発現システムを有する遺伝子組換えカイコは、実施例6に記載の「(3)遺伝子組換えカイコの作出」に記載の方法で飼育し、5齢6日目の吐糸直前に氷上で麻酔にかけ、背側を切開してピンセットで絹糸腺を傷つけないように摘出した。これを固定せずに蛍光顕微鏡(オリンパスSZX16、GFP HQフィルター&RFPフィルター)で観察した。
(5)絹糸腺における目的タンパク質遺伝子の発現
摘出した絹糸腺を中部絹糸腺と後部絹糸腺に切り分けて、それぞれから常法によりtotal RNAを調製し、EGFPプライマーペア(配列番号64及び65)及びDsRedプライマーペア(配列番号66及び67)を用いてRT-PCRを行った。陰性対照にはバイナリー遺伝子発現システムを持たない宿主系統(w1-pnd系統)を用いた。
(結果) 結果を図10に示す。
図10−1は、2組のバイナリー遺伝子発現システムを有する遺伝子組換えカイコの絹糸腺の蛍光図を示す。中部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムは、目的タンパク質の遺伝子としてEGFP遺伝子を、また後部絹糸腺特異的バイナリー遺伝子発現システムは、目的タンパク質の遺伝子としてDsRed遺伝子をコードしていたが、A〜CよりEGFPは中部絹糸腺のみで、またDsRedは後部絹糸腺のみで発現していることが確認された。さらにD〜F及びG〜Iからも明らかなように、中部絹糸腺と後部絹糸腺の境界線においてもEFGPとDsRedの発現制御は顕著であり、蛍光レベルでは両者間で発現の漏れは見られなかった。
図10−2は、RT-PCRの結果である。レーン1の中部絹糸腺からはEGFP遺伝子の増幅断片のみが、またレーン2の後部絹糸腺からはDsRed遺伝子の増幅断片のみがそれぞれ確認された。この結果から、遺伝子発現レベルでも中部絹糸腺と後部絹糸腺において、それぞれで特異的に発現するEGFPとDsRedの発現の漏れは見られなかった。
以上の結果から本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、異なる組の各目的遺伝子の発現をカイコ生体内においてもそれぞれ組織特異的に制御することができることが立証された。
<実施例9:遺伝子組換えカイコにおけるバイナリー遺伝子発現システムの発現効率(2)>
(目的)
実施例6では、カイコ生体内での本発明のバイナリー遺伝子発現システムによる中部絹糸腺での発現効率を検証した。本実施例では、カイコ生体内での本発明のバイナリー遺伝子発現システムによる後部絹糸腺での発現効率を検証する。
(方法)
(1)後部絹糸腺特異的第1発現ユニット
後部部絹糸腺特異的プロモーターであるフィブロインHプロモーターにUASTAL3-ARIIを連結した第1発現ユニットpBac[FibH-UASTAL3-ARIIx4/3xP3-DsRed]を構築した。基本手順は、実施例6の「(1)中部絹糸腺特異的第1発現ユニット」に記載の方法に準じた。
(2)UAS-EGFP第2発現ユニット
UAS4の下流にEGFP遺伝子を結合し、その下流にセリシン1の3’UTRを連結したpBacUAS-sigEGFP/3xP3EYFPを構築した。
(3)遺伝子組換えカイコの作出
基本手順は、実施例6の「(3)遺伝子組換えカイコの作出」に記載の方法に準じた。
(4)EGFPの定量
基本手順は、実施例6の「(4)EGFPの定量」に記載の方法に準じた。
(結果)
図11に結果を示す。本発明の後部絹糸腺特異的なバイナリー遺伝子発現システムによれば、従来のGAL4を用いた対照用第1発現ユニットと比較して、いずれの系統も10倍以上高いEGFPの発現が観察された。この結果から、本発明のバイナリー遺伝子発現システムは、中部絹糸腺と同様に後部絹糸腺においても従来のGAL4/UASシステムと比較して、目的遺伝子等の発現効率の向上に非常に有効であることが示された。
なお、本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (10)

  1. 第1発現ユニット及び第2発現ユニットからなるバイナリー遺伝子発現システムであって、
    前記第1発現ユニットはプロモーター、及びその制御下に配置された、TALドメインをコードする塩基配列からなるTAL領域及びその下流に連結され転写活性ドメインをコードする塩基配列からなる転写活性領域を含み、ここで、
    前記TALドメインは、標的塩基配列を認識するN末端部位及びTAL-DNA塩基配列認識部位を含み、
    前記転写活性ドメインは、ARII又はVP16からなる転写活性単位が2〜10個連結された配列からなり、また
    前記第2発現ユニットは、TAL認識配列、及びその制御下に配置された目的遺伝子若しくはその断片を含み、ここで、
    前記TAL認識配列は、5'末端のt及びそれに続く主要標的塩基配列からなる前記標的塩基配列を5〜25個含む塩基配列からなり、
    前記第1発現ユニットのTALドメインにおいて、
    前記N末端部位は前記第2発現ユニットの前記標的塩基配列における5'末端のtを、また前記TAL-DNA塩基配列認識部位は前記第2発現ユニットの前記主要標的塩基配列を、それぞれ認識し、そして
    前記TAL-DNA塩基配列認識部位は前記主要標的塩基配列を構成するそれぞれの塩基に対して配列番号3で表されるアミノ酸配列からなり、
    前記第2発現ユニットのTAL認識配列において、
    前記主要標的塩基配列は
    (a)配列番号4で表される塩基配列、
    (b)配列番号5で表される塩基配列、及び
    (c)配列番号4又は5において配列番号6で表される塩基配列の1〜5個の塩基が置換された塩基配列
    のいずれかからなる、
    前記システム。
  2. 前記配列番号4で表される塩基配列が配列番号7で表される塩基配列である、請求項1に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
  3. 前記配列番号5で表される塩基配列が配列番号8で表される塩基配列である、請求項1に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
  4. 前記TAL認識配列は標的塩基配列を含む配列番号9で表される塩基配列が5〜25個連結された繰り返し配列からなる、請求項2又は3に記載のバイナリー遺伝子発現システム。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1発現ユニットを含むヒト個体以外の形質転換体。
  6. 請求項4に記載のバイナリー遺伝子発現システムにおける第2発現ユニットを除く、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイナリー遺伝子発現システムの第2発現ユニットを含むヒト個体以外の形質転換体。
  7. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のバイナリー遺伝子発現システムにおける第1発現ユニット及び第2発現ユニットを含むヒト個体以外の形質転換体。
  8. 前記形質転換体がチョウ目昆虫である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の形質転換体。
  9. 前記チョウ目昆虫がカイコである、請求項8に記載の形質転換体。
  10. 請求項5に記載の第1発現ユニットを有する形質転換体であるカイコと請求項6に記載の第2発現ユニットを有する形質転換体であるカイコとを交配させる工程、及び
    前記交配工程後に第1及び第2発現ユニットを有するカイコを選択する工程
    を含む目的遺伝子又はその断片の発現効率を増強したカイコの作出方法。
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