JP2011103816A - トランスジェニックカイコ - Google Patents

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Abstract

【課題】セリシンの合成が抑制され、かつセリシン層に目的タンパク質を簡便かつ一層効率よく産生させることができるトランスジェニックカイコを提供する。
【解決手段】中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ。
【選択図】なし

Description

本発明は、セリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ、及び該トランスジェニックカイコを用いた目的タンパク質の製造方法に関する。
カイコの繭は、カイコの幼虫が吐き出した繭糸が接着し合うことにより形成される。繭の主成分は絹タンパク質であり、一つの繭には約0.3〜0.5gもの絹タンパク質が含まれている。カイコは、繭を短時間で生産できることから、優れた絹タンパク質合成能力を備えているといえる。
繭に含まれる絹タンパク質の約20〜30%は接着特性を有するセリシンが占め、約70〜80%は繊維状のタンパク質であるフィブロインが占める。セリシンは中部絹糸腺で、フィブロインは後部絹糸腺で合成される。フィブロインの表面はセリシンで覆われた状態にあり、この状態の二本のフィブロインが、セリシンの接着特性により接着したものが繭糸である。該繭糸同士が、セリシンの接着特性により接着したものが繭である。このことから、繭は比較的単純な構成であるといえる。
また、絹タンパク質に含まれるセリシンは親水性のタンパク質であるため、セリシン層に含まれるセリシン以外の水溶性のタンパク質を簡単に抽出することができる。
本発明者らは、カイコの絹タンパク質の合成能力の高さ、繭の単純な構造、及びセリシンの親水性特性に着目し、これまでに、カイコの中部絹糸腺細胞において外来遺伝子を形質転換させることにより、目的とするタンパク質を繭のセリシン層に産生できるトランスジェニックカイコを作出してきた(特許文献1〜5)。
このようなトランスジェニックカイコの作出により、目的タンパク質を繭のセリシン層に保持させることができ、また、比較的簡単な抽出・精製処理を行うだけで、目的タンパク質を簡便かつ効率よく入手することが可能となった。
一方、目的タンパク質を繭のセリシン層に大量に生産させるためには、セリシンの合成組織である中部絹糸腺において、目的タンパク質をより高効率に発現させる必要がある。
特に、目的タンパク質の合成と競合するセリシンの合成量が抑制されたカイコが開発できれば、目的タンパク質の合成量を上昇させることができ、かつ得られた繭からの目的タンパク質の抽出・精製が、より容易になると考えられた。
特許第4271122号公報 特開2002−315580号公報 特開2004−16144号公報 特開2006−109772号公報 特開2008−125366号公報
そこで、セリシンの合成が抑制され、かつセリシン層に目的タンパク質を簡便かつ一層効率よく産生させることができるトランスジェニックカイコを提供することを目的とする。
本発明者らが当該課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者らはセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコの作出に成功した。そして、該トランスジェニックカイコを使用して目的タンパク質の発現を試みたところ、本発明者らはセリシン層に該目的タンパク質をより多く産生させること、さらに該目的タンパク質を簡便に抽出・精製することに成功した。本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
項1.中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ。
項2.セリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNAが形質転換された、項1に記載のトランスジェニックカイコ。
項3.前記セリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNAが、中部絹糸腺で該DNAを発現させることが可能なプロモーターの制御下に連結されたものである、項2に記載のトランスジェニックカイコ。
項4.前記プロモーターが、セリシンプロモーターである、項3に記載のトランスジェニックカイコ。
項5.繭に含まれるセリシンの含有量が、野生型カイコにより形成される繭中のセリシン含有量の80%〜10%である、項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
項6.さらに、目的タンパク質をコードするDNAが形質転換された、項1〜5のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
項7.前記目的タンパク質をコードするDNAが、中部絹糸腺で該DNAを発現させることが可能なプロモーターの制御下に連結されたものである、項6に記載のトランスジェニックカイコ。
項8.前記プロモーターが、セリシンプロモーターである、項7に記載のトランスジェニックカイコ。
項9.項6及び8のいずれかに記載のトランスジェニックカイコに繭を形成させる工程、及び得られた繭から、前記目的タンパク質を回収する工程を含有する、目的タンパク質の製造方法。
本発明によれば、カイコによるセリシンの発現を抑制することができる。このため、本発明によれば、セリシンの含有割合が低減した繭を得ることができる。
本発明のセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコは、さらに目的タンパク質をコードするDNAを形質転換することにより、セリシンの発現が抑制されていないカイコと比較して、セリシン層に目的タンパク質をより大量に含有する繭を形成することができる。これは、中部絹糸腺細胞において、目的タンパク質の合成・分泌と競合していたセリシンの合成が抑制されたため、細胞内での目的タンパク質の合成、及び繭のセリシン層への目的タンパク質の分泌が効率的に行われた結果であると考えられる。
また、カイコのライフサイクルは約45日間と短いため、本発明によれば、ほかの組換え動植物などを使用する方法と比較して、短時間で目的タンパク質を入手することができる。
このため、本発明によれば、目的タンパク質を簡便かつ一層効率良く入手することができる。
また、本発明によれば、目的タンパク質を繭のセリシン層に含有させることができるため、簡単な抽出・精製処理により、また変性させることなく、該目的タンパク質を回収することができる。さらに、繭のセリシン層から目的タンパク質を抽出する際、抽出の条件によっては、抽出液にセリシンが混入し、これが目的タンパク質の精製を困難にする場合もあるが、このような場合であっても、本発明のカイコによれば、セリシンの含有割合が低減した繭が得られるため、従来よりも純度の高い目的タンパク質をより容易に得ることができる。
また、本発明によれば、カイコを用いる点から、ほかの組換え動植物などを用いる方法と比較して、小規模で、かつウイルス等の混入の危険性が大きく低減された目的タンパク質を入手できる。このため、本発明によれば、医療や食品などの種々の分野にも安心して適用できる目的タンパク質を提供することができる。
図1は、セリシン1遺伝子から生成される分子種、及び各分子種のエクソンを示す。 図2は、pMSG1.1RベクターのNruIサイトにインサートDNAを挿入するモデル図を示す。 図3は、セリシン1ノックダウンカイコ作出用ベクターpMSG1.1R Ex8Reを示す。piggyBac-R:piggyBac 3’末端側配列、3XP3:眼や神経系で発現を引き起こすプロモーター、DsRed:赤色蛍光タンパク質遺伝子、SV40 pA:SV40由来ポリA付加シグナル、hr3:BmNP hr3、Pser:カイコセリシン1遺伝子プロモーター、FLpA:カイコフィブロインL鎖ポリA付加シグナル、piggyBac-L:piggyBac 5’末端側配列。 図4は、セリシン1ノックダウンカイコと野生型カイコの各繭におけるセリシン1の発現結果を示す。独立した9系統のセリシン1ノックダウンカイコSRW(系統No.1〜9)、および野生型繭の抽出液中のタンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって展開した様子を示した。各レーンは、左より分子量マーカー、セリシン1ノックダウンカイコSRW繭(系統No.1〜9)、野生型カイコ繭となる。矢印は最も高分子のセリシン1タンパク質サブタイプを示す。 図5は、SRW FHカイコの繭の解析結果を示す。野生型カイコ、作出したセリシン1ノックダウンカイコSRW、ヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF融合タンパク質合成トランスジェニックカイコFH、およびSRWカイコとFHカイコを交配したカイコSRW FHの繭の抽出液中のタンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって展開した様子を示した。泳動図、左より分子量マーカー、野生型カイコ繭1レーン、SRW繭2レーン、FH繭2レーン、およびSRW FH繭2レーンとなる。黒矢印は高分子セリシン1タンパク質サブタイプを、赤矢印はヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF融合タンパク質を示す。 図6は、SRW mAbカイコの繭の解析結果を示す。野生型カイコ、作出したセリシン1ノックダウンカイコSRW、マウスイムノグロブリンG合成トランスジェニックカイコmAb、およびSRWカイコとmAbカイコを交配したカイコSRW mAbの繭の抽出液中のタンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって展開した様子を示した。泳動図、左より分子量マーカー、SRW繭3レーン、mAb繭3レーン、SRW mAb繭3レーン、および野生型カイコ繭1レーンとなる。黒矢印は高分子セリシン1タンパク質サブタイプを、赤矢印はマウスイムノグロブリンGの重鎖を示す。なお、マウスイムノグロブリンGの軽鎖は、繭由来タンパク質と近似した分子量であるため明瞭に確認することはできなかった。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ
本発明のトランスジェニックカイコは、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されていることを特徴とする。
中部絹糸腺におけるセリシンの発現は、RNA干渉法、アンチセンス法、相同組換え法などの種々の遺伝子組換え技術を用いて抑制できる。
例えば、RNA干渉法は、人工的に導入または発現させた二本鎖RNAを利用して、該RNAと結合可能な配列を有するmRNAを分解し、該mRNAにより翻訳され得るタンパク質の発現を抑制する技術である。
このため、本発明においてRNA干渉法を利用する場合、本発明のトランスジェニックカイコは、中部絹糸腺細胞においてセリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を備えた配列を有する二本鎖RNAを細胞内に導入または細胞内で発現させることにより、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されている。従って、この場合、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が低減されたトランスジェニックカイコ、すなわちセリシンノックダウンカイコが作出される。
以下に、本発明のトランスジェニックカイコの代表例として、RNA干渉法によるものをより詳細に例示するが、本発明はこれに制限されず、種々の遺伝子組換え技術を用いて本発明のトランスジェニックカイコが作出される。アンチセンス法、相同組換え法などの種々の遺伝子組換え技術を用いる場合には、従来公知の方法に従うとともに、以下の説明を参考にして、トランスジェニックカイコを作出すればよい。
なお、本発明においてセリシンの発現の「抑制」とは、野生型のカイコと比較してセリシンの発現量が低減乃至セリシンが全く発現されていないことを意味する。
本発明のRNA干渉法により中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ(セリシンノックダウンカイコ)は、セリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNAをカイコに形質転換することにより作出できる。該トランスジェニックカイコにおいては、生体内で、RNA干渉能を備えた二本鎖RNAを前記DNAから発現させることができる。
前記「セリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNA」は、中部絹糸腺においてセリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合できるRNAを発現でき、かつRNA干渉法により中部絹糸腺細胞におけるセリシンの発現を抑制できるRNAを発現できる塩基配列であれば制限されない。
例えば、カイコのセリシンにはセリシン1とセリシン3の2種類があり、これらの遺伝子の塩基配列に基づいて、前記DNAの塩基配列を決定すればよい。セリシンとしては1及び3のどちらを選択してもよく、両者を選択してもよい。塩基配列は、例えばGenBankデータベースから入手することができる。繭糸におけるセリシンの存在量はセリシン1がセリシン3よりも圧倒的に多いことから、後述の実施例ではセリシン1を選択した。
セリシン遺伝子の塩基配列に基づき前記DNAの塩基配列を決定するにあたり、好ましくは、セリシン遺伝子におけるalternative splicingにより生成される分子種に見られるエクソンの配列に基づき、前記DNAの塩基配列を決定すればよい。該分子種は複数存在する。このため、分子種間に共通するエクソンを選択し、これをRNA干渉のターゲットとすれば、効率よくセリシンの発現が抑制され得る。従って、より好ましくは、前記alternative splicingにより生成される幾つかの分子種に共通するエクソンを選択し、該エクソンの塩基配列に基づき、前記DNAの塩基配列を決定する。さらに好ましくは、すべての分子種に共通するエクソンの塩基配列に基づき、前記DNAの塩基配列を決定すればよい。
以下に、セリシン1遺伝子に共通するエクソンの塩基配列に基づいて前記DNAの塩基配列を決定する場合を例に挙げて、より詳細に説明する。
セリシン1遺伝子からは、alternative splicingにより、セリシン1C(Ser1C)、セリシン1D(Ser1D)など図1に示されるような複数の分子種が生成される。そして、すべての分子種に共通するエクソンとしてはエクソン1、2及び7〜9が挙げられる。前述したように、すべての分子種に共通するエクソンを選択し、これをRNA干渉のターゲットとすれば、すべての分子種においてセリシンの発現が抑制され得、従って、効率よくセリシンの発現が抑制され得る。この点から、エクソン1、2及び7〜9の少なくとも1つのエクソンの塩基配列に基づき前記DNAの塩基配列を決定することが好ましい。さらに、各エクソンの中でも、以下の点から、エクソン8の塩基配列に基づき前記DNAの塩基配列を決定することがさらに好ましい。
エクソン8の大部分は、38アミノ酸の繰り返しから構成されるセリシンに特徴的なアミノ酸配列をコードしている。そのため、この繰り返し配列をコードする塩基配列をターゲットにすれば、長い2本鎖RNAから生成された短い2本鎖RNA(siRNA)が、該siRNAと相補的な配列をもつmRNAを認識するというRNA干渉のメカニズムから考えて、効率の高いセリシンの発現抑制が実現できると考えられる。後述の実施例ではエクソン8を含む配列(エクソン9の部分配列も含む)を選択し、これと相補的な塩基配列を前記DNAの塩基配列とした。
該DNAの塩基数は、該DNAが、中部絹糸腺においてセリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合できるRNAを発現でき、かつRNA干渉法により中部絹糸腺細胞におけるセリシンの発現を抑制できるRNAを発現できる限り制限されない。
例えば、該DNAの塩基数は18〜20,000塩基、好ましくは18〜5,000塩基が例示され、セリシン遺伝子の塩基配列や構造に応じて適宜変更すればよい。また、該DNAに基づき生成されたsiRNAの塩基数は、通常18塩基以上、好ましくは19〜30塩基、さらに好ましくは20〜25塩基、特に好ましくは21〜23塩基が例示される。
例えば、後述の実施例における該DNAの塩基配列は配列番号1等で表され、塩基数は1491塩基である。
該DNAのカイコへの形質転換は、前記DNAをカイコの染色体内に組み込ことが可能であり、かつ中部絹糸腺細胞から二本鎖RNAが転写され、該RNAによりセリシンの発現が抑制される限り、どのような方法を用いて行っても良い。例えば、トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターやバキュロウイルスベクターを用いトランスポゾンの転移機構を利用して形質転換を行う方法、カイコ染色体内の任意の配列を有したプラスミドベクターやバキュロウイルスベクターを用い相同組換えにより形質転換を行う方法等が例示される。
トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターとしては、昆虫由来のDNA型トランスポゾンを組込んだプラスミドベクターが例示され、昆虫由来のDNA型トランスポゾンとしてはpiggyBac、マリーナ(mariner, Insect Mol. Biol. 9, 145-155, 2000)、ミノス(minos, Insect Mol. Biol. 9, 277-281, 2000)等が例示される。
また、バキュロウイルスベクターとしては、AcNPV(Autographa californica nuclear polyhedorosis virus)ベクター、BmNPV(Bombyx morinuclear polyhedorosis virus)、CfNPV(Choristoneura fumiferana nuclear polyhedorosis virus)、OpNPV(Orgyia pseudotsugata nuclear polyhedorosis virus)、LdNPV(Lymantria dispel nuclear polyhedorosis virus)等が例示される。
該DNAのカイコへの形質転換は、好ましくは、トランスポゾンの転移機構を利用して形質転換を行う方法であり、さらに好ましくは、DNA型トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターを用いる方法である。
ベクターの構造としては、前記DNAをカイコの染色体内に組み込ことが可能であり、かつ中部絹糸腺細胞内で前記二本鎖RNAを形成できる限り制限されない。例えば、前記DNAと、該DNAと相補的な配列を有するDNAとを少なくとも有し、これらのDNAを、前記DNAは順向きで、前記DNAと相補的な配列を有するDNAは逆向きで備えており、さらにプロモーター制御により、中部絹糸腺において前記DNAを発現させることができる構造、すなわち前記二本鎖RNAを発現できる構造のベクターが例示される。
形成される二本鎖RNAは、各塩基が完全に対合していてもよく、二本鎖を形成でき、かつセリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合でき、かつRNA干渉能を発揮できる範囲を限度として不対合部分を有していてもよい。
使用されるプロモーターは、中部絹糸腺において前記DNAを発現させることができる限り、すなわち前記二本鎖RNAを発現できる限り制限されない。
プロモーターはベクターに内在ものであってもよく、外来のものであってもよい。例えば、該プロモーターとしてはセリシンのプロモーターが挙げられる。RNA干渉によりセリシン1の発現を抑制したい場合には好ましくはセリシン1遺伝子のプロモーターを選択し、セリシン3の発現を抑制したい場合には好ましくはセリシン3遺伝子のプロモーターを選択すればよい。
ここでいうプロモーターとは、例えば、セリシン1遺伝子またはセリシン3遺伝子の転写開始点から上流域に存在する転写を開始させるために必須な配列を含む領域を指す。実質的には、セリシン1遺伝子またはセリシン3遺伝子由来の塩基配列であって、その配列の下流に連結した前記DNAの中部絹糸腺細胞での転写を開始させることができる配列のことを指し、この条件に合う配列であれば、配列の塩基数などは限定されない。また、該配列は、プロモーターの転写活性を促進する、いわゆるエンハンサー配列を含んでいても良い。
該プロモーターには、さらに外来性のエンハンサーが連結されていてもよい。エンハンサーは、該プロモーターの転写活性を促進する塩基配列であれば、由来する遺伝子や塩基数は制限されず、従来公知のものを適宜選択しても良い。例えば、バキュロスウイルスhomologous regions由来のものが例示される(特許第4271122号公報、J. Biol. Chem. 272, 30724-30728, 1997、J. Virol. 61, 2091-2099, 1987)。
また、前記DNAと、該DNAと相補的な配列を有するDNAとは、リンカーを挟んで連結されていてもよい。前記リンカーとしては二本鎖RNAの発現を妨げない限り制限されないが、例えばヘアピン構造(ループ)を形成できる配列を有するものが挙げられる。また、ヘアピン構造(ループ)を形成でき、二本鎖RNAの形成を妨げないのであれば、リンカーの配列や塩基数には特に制限されない。例えば、リンカーの塩基数としては、10〜2,000塩基、好ましくは20〜500塩基が例示されるが、これらに限定されない。
また、該ベクターには、マーカー遺伝子が発現可能なように連結されていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば蛍光タンパク質の遺伝子を用いることができ、GFP(Green Fluorescent Protein)、EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、MGFP(Monster Green Fluorescent Protein)、DsRed(Discosoma sp. Red Fluorescent Protein)など従来公知のものを適宜選択すればよい。
トランスポゾンの形質転換機構を利用してカイコの形質転換が行われる場合は、該ベクターには、トランスポゾンの部分配列が組み込まれている必要がある。例えば、トランスポゾンとしてDNA型トランスポゾンを用いる場合、具体的には、ベクター内にDNA型トランスポゾンの末端に存在する一対の逆向き反復配列を組み込む。このようなベクターを用いる場合には、この一対の逆向き反復配列に挟まれた領域に、染色体に挿入する配列、すなわち、前記DNA、プロモーター、マーカー遺伝子等が組み込まれる。
トランスポゾンとしては、前記DNAをカイコに形質転換させることができる限り制限されず、前述のDNA型トランスポゾンであるpiggyBacが例示され、該トランスポゾンを伴うベクターとしては、後述する実施例において使用したpMSG1.1R Ex8Reが例示される。このようなトランスポゾンを用いる場合には、例えば、田村らの方法(Nature Biotechnol. 18, 81-84, 2000)に基づき行えばよい。本発明では該トランスポゾンに制限されず、前述のマリーナ、ミノス等のほかのトランスポゾンも使用でき、これらのトランスポゾンを使用する場合は、前述のpiggyBacを用いる方法を参考にすればよい。
該ベクターのカイコへの導入には、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを備えたベクター(すなわちヘルパープラスミド)を、従来公知の方法に従い、併用することが好ましい。ヘルパープラスミドとしてはpHA3PIG等が例示される。また、ヘルパープラスミドのかわりに、トランスポゾン転移酵素をコードするmRNAやトランスポゾン転移酵素タンパク質を用いることも可能である。
ヘルパープラスミドにおいて、トランスポゾン転移酵素を発現させるためのプロモーターはベクターに内在ものであってもよく、外来のものであってもよい。外来のものとしては、セリシンのプロモーター、カイコ・アクチンプロモーター、ショウジョウバエHSP70プロモーター等が例示される。また、ヘルパープラスミドにおいてもマーカー遺伝子が発現可能なように連結されていてもよく、前述と同様、GFP等のマーカー遺伝子を適宜選択すればよい。
このようなベクター等をカイコの卵(胚)に微量注入することで、前記DNA、すなわちセリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNAをカイコに導入することができる。ベクターは、例えば5mM KCl、0.5mMリン酸緩衝液、pH7.0などの溶液と混合したのち、カイコの卵(胚)に微量注入すればよい。
以下に、ベクターを利用して前記DNAをカイコに形質転換する具体的な手順について説明する。
まず、カイコの卵(胚)に、該ベクターを微量注入(濃度0.2μg/μl、液量約15〜20nl)し、25℃でインキュベートし、卵を孵化させる。孵化したカイコを25℃または室温において飼育し、得られた生殖可能なカイコ(F0)と野生型カイコとを、又は得られた生殖可能なカイコ同士を交配し、次世代(F1)卵塊を得る。ここから得られるトランスジェニックカイコの選別は、PCR法やサザンブロット法を利用して行うことができる。PCR法やサザンブロット法を利用した選別について、詳細には、例えば、幼虫の体液を採取し、血球からゲノムDNAを抽出し、このゲノムDNAに対し、形質転換された前記配列由来の配列を特異的に検出することができるPCR解析やサザンブロット解析を実施する。この解析により、形質転換された前記配列由来の配列を有するトランスジェニックカイコ、すなわち、セリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコを選別することができる。
また、前記ベクターを導入する際、ベクターに任意のマーカー遺伝子を発現可能なように連結させておくことにより、産卵日から数日後、該マーカー由来の特徴を有するカイコの卵を選別することにより、トランスジェニックカイコの卵を含む卵塊を得ることができる。また、次いで、得られた卵塊から孵化したカイコの飼育を25℃または室温で続けることにより、前述のマーカー遺伝子由来の特徴を有するカイコを選別することができる。
これにより、前記DNAをカイコに形質転換することができ、さらにセリシンノックダウンカイコを作出することができる。
前記ベクターの微量注入の際、例えばヘルパープラスミドを併用する場合、前記ベクターと同濃度のヘルパーベクターを混合して微量注入することが好ましい。
作出されたセリシンノックダウンカイコにおいて、セリシンの合成は抑制されている。絹タンパク質は管状の絹糸腺内腔を通過して吐糸されるが、この際、絹タンパク質の周囲に存在するセリシンは、絹糸腺内腔通過の際の潤滑油的役割も果たしていると考えられる。このため、絹タンパク質の吐糸がうまくいかず、繭が形成されないなどの問題が生じ得る場合には、前記セリシンノックダウンカイコにおけるセリシンの合成は完全に停止されていないことが好ましい。しかしながら、前記セリシンノックダウンカイコにおいて、例えば後述するように目的タンパク質を発現させた場合、その目的タンパク質の種類よって目的タンパク質自体が吐糸の際の潤滑油の役割を果たし、これにより、糸を吐かないなどの問題が生じない場合には、セリシンの合成は完全に停止していても良い。前記セリシンノックダウンカイコにおいて、好ましくは、セリシンの合成は完全に停止されていない。
このようにして得られたセリシンノックダウンカイコは、繭に含まれるセリシン量が通常の野生型カイコと比較して低減されているか、セリシンが全く発現していない。繭に含まれるセリシンの量は、好ましくは通常の野生型カイコの80%〜10%となっており、さらに好ましくは35%〜10%となっている。通常の野生型カイコにより形成される繭では、セリシンが約20〜30を占める。
なお、繭に含まれるセリシン量は、以下のようにして、測定及び比較できる。
ハサミ等で断片化した繭を、8 M尿素溶液(8 M Urea、50 mMトリス塩緩衝液、pH 8.0)中で、80℃、5分間加温して、繭に含まれるセリシンを溶解する。次に、溶解したセリシンを電気泳動にて展開し、タンパク質染色を行った後に、スキャナー等で画像を取り込む。さらに、画像解析ソフトを用いて、セリシンのバンド強度を測定する。野生型カイコおよびセリシンノックダウンカイコの繭において上記の解析を実施し、セリシンノックダウンカイコにおける繭重量あたりのセリシン減少率を算出する。
2. セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコ
本発明の、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコは、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されており、かつ形質転換された目的タンパク質をセリシン層に高発現可能であることを特徴とする。
目的タンパク質は制限されず、種々のものが選択できる。本発明において、目的タンパク質は、カイコの繭のセリシン層に産生される。セリシン層は親水特性を有するため、セリシン層に含まれる目的タンパク質が可溶性であれば、繭から容易に抽出することが可能である。一方、セリシンは、部分的に疎水性のβ構造を有するため、熱水、アルカリ、および強力なタンパク質変性剤等にて処理しなければ可溶化できない。従って、目的タンパク質の抽出・精製を容易にする観点から、目的タンパク質は、熱水、アルカリ、および強力なタンパク質変性剤等を用いなくても可溶化できるタンパク質であることが好ましい。
例えば、目的タンパク質としてはヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF(hepatocyte growth factor)融合タンパク質、マウスイムノグロブリンGタンパク質等が挙げられる。
本発明のトランスジェニックカイコは、セリシンの発現が抑制された前記トランスジェニックカイコ(すなわちセリシンノックダウン、以下、第1のトランスジェニックカイコと称することがある)と、目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコとを交配させることにより作出することができる。以下、このようにして作出されたカイコを、第2のトランスジェニックカイコと称することがある。
また、本発明のトランスジェニックカイコは、前記第1のトランスジェニックカイコに、目的タンパク質をコードするDNAをさらに形質転換させることにより作出することができる。以下、このようにして作出されたカイコを、第3のトランスジェニックカイコと称することがある。
また、本発明のトランスジェニックカイコは、目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させることにより作出したトランスジェニックカイコに、さらに前記RNA干渉法、アンチセンス法、相同組換え法などの遺伝子組換え技術を適用して、セリシンの発現を抑制させることにより作出することができる。以下、このようにして作出されたカイコを、第4のトランスジェニックカイコと称することがある。
以下、各トランスジェニックカイコについて説明する。
第2のトランスジェニックカイコ
本発明のトランスジェニックカイコは、セリシンの発現が抑制された前記第1のトランスジェニックカイコと、目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコとを交配させることにより作出することができる。
第1のトランスジェニックカイコは、前述の「1.中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ」の説明に従い作出できる。
前記目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコは、以下のようにして作出できる。
目的タンパク質をコードするDNAのカイコへの形質転換は、該DNAから目的タンパク質を発現できる限り、どのような方法を用いて行っても良い。例えば、トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターやバキュロウイルスベクターを用いトランスポゾンの転移機構を利用して形質転換を行う方法、カイコ染色体内の任意の配列を有したプラスミドベクターやバキュロウイルスベクターを用い相同組換えにより形質転換を行う方法等が例示される。
トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターとしては、昆虫由来のDNA型トランスポゾンを組込んだプラスミドベクターが例示され、昆虫由来のDNA型トランスポゾンとしては前述のpiggyBac等が例示される。また、バキュロウイルスベクターも、前述のAcNPVベクター、BmNPVベクター等が例示される。
目的タンパク質をコードするDNAのカイコへの形質転換は、好ましくは、トランスポゾンの転移機構を利用して形質転換を行う方法であり、さらに好ましくは、DNA型トランスポゾンの部分配列を有したプラスミドベクターを用いる方法である。
該ベクターにおいて、目的タンパク質をコードするDNAは、中部絹糸腺においてプロモーターの制御下で発現可能なように連結されている。
使用されるプロモーターは、目的タンパク質をコードするDNAを中部絹糸腺で発現できる限り制限されず、ベクターに内在ものであってもよく、外来のものであってもよい。
例えば、該プロモーターとしてはセリシンのプロモーターが挙げられ、詳細には、セリシン1のプロモーターやセリシン3のプロモーターが挙げられる。
例えば、交配される第1のトランスジェニックカイコのセリシンの発現抑制が、セリシン1のプロモーター制御下にある場合は、該目的タンパク質をコードするDNAも同様に、セリシン1のプロモーター制御下にあることが好ましい。これらのプロモーターの詳細は、前述の通りである。
該プロモーターには、さらに好適なエンハンサーを連結させてもよい。エンハンサーは、従来公知のものを適宜選択すればよい。例えば、エンハンサーとしては、バキュロスウイルスhomologous regions由来のものが例示される。
また、該ベクターには、マーカー遺伝子が発現可能なように連結されていてもよい。マーカー遺伝子としてはGFP、EGFP、MGFP、DsRedなど従来公知のものを適宜選択すればよい。
ベクターにトランスポゾンが組み込まれている場合、トランスポゾンとしては目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させることができる限り制限されず、前述と同様に、piggyBac、マリーナ、及びミノス等が例示される。piggyBacを使用する場合は、例えば、前述の田村らの方法に基づき、目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させればよく、これ以外のトランスポゾンを使用する場合は、piggyBacを用いる方法を参考にして形質転換させればよい。
ベクターがトランスポゾンを備えている場合、前記目的タンパク質をコードするDNA、プロモーター、マーカー遺伝子等は、前述と同様に、通常、一対のトランスポゾンに挟まれた状態にある。
また、ベクターがトランスポゾンを備えている場合、該ベクターのカイコへの導入には、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを備えたベクター(すなわちヘルパープラスミド)を、従来公知の方法に従い、併用することが好ましい。ヘルパープラスミドについては、前述のものが同様に適用される。また、ヘルパープラスミドのかわりに、トランスポゾン転移酵素をコードするmRNAやトランスポゾン転移酵素タンパク質を用いることも可能である。
目的タンパク質をコードするDNAを備えたベクターの例としては、特許第4271122号公報、特開2002−315580号公報、特開2004−16144号公報、特開2006−109772号公報に開示されているベクターが挙げられる。これらの情報に基づいて、ほかのベクターも構築でき、また目的タンパク質をコードするDNAを形質転換すればよい。また、特開2008−125366号公報に開示されているようなベクターを使用した場合には、目的タンパク質をコードするDNAに連結したバキュロウイルス・ポリヘドリンの5’非翻訳領域を構成する配列が存在することにより、mRNAから合成される目的タンパク質の翻訳を促進することができる。本発明はこれらの開示に限定されず、当業者であればこれらの公報及び従来公知の技術に基づき、適宜変更し実施することができる。
このようなベクターをカイコの卵(胚)に微量注入することで、目的タンパク質をコードするDNAをカイコに導入することができる。該ベクターは例えば5mM KCl、0.5mMリン酸緩衝液、pH7.0などの溶液と混合したのち、カイコの卵(胚)に微量注入すればよい。以下に、ベクターを利用して前記目的タンパク質をコードするDNAをカイコに形質転換する手順について説明する。
まず、カイコの卵(胚)に、該ベクターを微量注入(濃度0.2μg/μl、液量約15〜20nl)し、25℃でインキュベートし、卵を孵化させる。続いて、孵化したカイコを25℃または室温において飼育し、得られた生殖可能なカイコ(F0)と野生型カイコとを、又は得られた生殖可能なカイコ同士を交配し、次世代(F1)卵塊を得る。ここから得られるトランスジェニックカイコの選別は、PCR法やサザンブロット法を利用して行うことができる。また、前記ベクターを導入する際、ベクターに任意のマーカー遺伝子を発現可能なように連結させておくことにより、産卵日から数日後、該マーカー由来の特徴を有するカイコの卵を選別することにより、トランスジェニックカイコの卵を含む卵塊を得ることができる。また、次いで、得られた卵塊から孵化したカイコの飼育を25℃または室温で続け、前述のマーカー遺伝子由来の特徴を有するカイコを選別することができる。
トランスポゾンを備えたベクターを利用する場合は、例えば前記ベクターの微量注入の際、前記ベクターと同濃度のヘルパーベクターを混合して微量注入することが好ましい。
これにより、目的タンパク質をコードするDNAをカイコに形質転換することができ、すなわち目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたカイコを作出することができる。
このようにして作出された、目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコと、前記セリシンの発現が抑制された第1のトランスジェニックカイコとを交配させることにより、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコ作出することができる。
詳細には、交配可能な、前記目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコと、前記第1のトランスジェニックカイコとを交配し、次世代卵塊を得る。ここから得られるトランスジェニックカイコの選別は、PCR法やサザンブロット法を利用して行うことができる。例えば、幼虫の体液を採取し、血球からゲノムDNAを抽出する。このゲノムDNAに対し、前記目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコおよび前記第1のトランスジェニックカイコに含まれる外来DNAを特異的に検出することができるPCR解析やサザンブロット解析を実施する。この解析により、両方の外来DNAを有するトランスジェニックカイコ、すなわち、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコを選別することができる。また、前記ベクターを導入する際、ベクターに任意のマーカー遺伝子を発現可能なように連結させておくことにより、産卵日から数日後、該マーカー由来の特徴を有するカイコの卵を選別することにより、前期交配により得られたトランスジェニックカイコの卵を含む卵塊を得ることができる。また、次いで、得られた卵塊から孵化したカイコの飼育を続け、前述のマーカー遺伝子由来の特徴を有するカイコを選別することができる。前記目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコおよび前記第1のトランスジェニックカイコに、それぞれ異なったマーカー遺伝子を組み込んでおけば、両方のマーカー遺伝子由来の特徴を有するカイコを選別することにより、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコを選別することができる。
第3のトランスジェニックカイコ
本発明のトランスジェニックカイコは、前記第1のトランスジェニックカイコに、目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させることにより作出することができる。
第1のトランスジェニックカイコは、前述の説明に従い作出できる。
また、これらのトランスジェニックカイへの目的タンパク質をコードするDNAの形質転換は、前記「第2のトランスジェニックカイコ」において説明した、目的タンパク質をコードするDNAの形質転換方法に従い実施すればよい。
このようにすることにより、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコを作出することができる。
第4のトランスジェニックカイコ
本発明のトランスジェニックカイコは、目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させることにより作出したトランスジェニックカイコに、さらに前記RNA干渉法をはじめ、アンチセンス法、相同組換え法などの遺伝子組換え技術を適用して、セリシンの発現を抑制させることにより作出することができる。
目的タンパク質をコードするDNAを形質転換させたトランスジェニックカイコは、前記「第2のトランスジェニックカイコ」において説明した、目的タンパク質をコードするDNAの形質転換手順に従い実施すればよい。
また、このようにして得られたトランスジェニックカイコに対するRNA干渉技術等の適用は、前記「1.中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ」において説明した手順に従い実施すればよい。
このようにすることにより、セリシンの発現が抑制され、かつ目的タンパク質をコードするDNAが形質転換されたトランスジェニックカイコを作出することができる。
このようにして得られた第2〜4のトランスジェニックカイコの繭のセリシン層には、目的タンパク質が含まれている。また、このようにして得られたトランスジェニックカイコは、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が前述の通り抑制されており、かつ、形質転換された目的タンパク質をセリシン層に高発現している。
該トランスジェニックカイコは目的タンパク質を大量に発現することができ、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されていないカイコと比較して、目的タンパク質を約1.1〜10倍高く、好ましくは1.5〜10倍高く、さらに好ましくは2〜10倍高く発現することができる。すなわち、該トランスジェニックカイコは中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されていないカイコと比較して、目的タンパク質を繭中に、約1.1〜10倍高く、好ましくは1.5〜10倍高く、さらに好ましくは2〜10倍高く含有させることができる。本発明者らの経験から、中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されていないカイコにより形成される繭では、目的タンパク質が約0.01〜10.0%を占める。
なお、繭に含まれる目的タンパク質量は、以下のようにして、測定及び比較できる。
ハサミ等で断片化した繭を、8 M尿素溶液(8 M Urea、50 mMトリス塩緩衝液、pH 8.0)中で、80℃、5分間加温して、セリシン層に含まれる全てのタンパク質を溶解する。次に、溶解した全タンパク質を電気泳動にて展開し、タンパク質染色を行った後に、スキャナー等で画像を取り込む。さらに、画像解析ソフトを用いて、目的タンパク質のバンド強度を測定する。同時に、定量済みの任意のタンパク質標品を解析し、標品と目的タンパク質のバンド強度を比較することで、繭に含まれる目的タンパク質量を定量する。
本発明は、単にプロモーターやエンハンサー等の機能改善による目的タンパク質の大量発現に着目するのではなく、従来とは全く異なる観点から、すなわちセリシンの発現を抑制することにより目的タンパク質を大量に発現させようという新しい観点から完成されたものである。
また、本発明のトランスジェニックカイコによれば、セリシン層における目的タンパク質の高発現が可能であることから、タンパク質の立体構造を変性させることなく、簡便かつ一層効率よく目的タンパク質を取得することができる。
産生された目的タンパク質は、以下に説明する手法に基づき回収できる。
3.トランスジェニックカイコを用いた目的タンパク質の製造方法
本発明の目的タンパク質の製造方法は、前記トランスジェニックカイコに繭を形成させる工程(第1工程)、及び得られた繭から目的タンパク質を回収する工程(第2工程)を含有することを特徴とする。
前記第1工程における繭の形成は、通常の手順で飼育することにより、前記トランスジェニックカイコに繭を形成させればよい。
第2工程における目的タンパク質の回収は、繭から目的タンパク質を回収できる限り、従来の方法に基づき実施すればよい。
例えば、該トランスジェニックカイコが合成した目的タンパク質は、繭を構成する絹糸のセリシン層に分泌されている。前述したように、セリシン層は、親水性のセリシンより構成されており、この層に局在する目的タンパク質は、タンパク質を変性させてしまう溶液を用いることなく抽出することができる。セリシン層から目的タンパク質を抽出するための抽出液は、目的タンパク質の特性に応じて適宜選択すればよく、目的タンパク質の抽出が可能であるものならば特段の制限はない。目的タンパク質の特性に応じて、例えば、中性の塩類溶液であっても良く、界面活性剤や、その他、抽出を効率的に行うための試薬などが含まれる溶液であっても良い。これらの溶液、界面活性剤、試薬は公知のものが使用できる。
これらの抽出液を使用して繭から目的タンパク質を抽出するには、例えば、断片化した繭を好適な抽出液に浸し攪拌するなどの方法を用いることができる。また、抽出の前に、繭を微粉末化する処理を行っても良いし、抽出の際に超音波処理を行うなどの機械的処理を併用しても良い。
また、このような抽出処理後、必要に応じて、さらに精製処理を行い、抽出液から目的タンパク質を単離してもよい。精製処理についても、目的タンパク質の精製が可能である限りその方法は制限されず、抽出液から目的タンパク質を単離できる限り、当該公知の方法に基づき実施すればよい。例えば、塩析、濃縮、および種々のカラムクロマトグラフィーを組み合わせて、目的タンパク質を精製する。カラムクロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過等が必要に応じて選択される。また、目的タンパク質に、HisタグやFLAGタグなどの精製タグが連結されている場合には、タグに対してアフィニティーを有するカラムにより精製することもできる。
繭から目的タンパク質を抽出する条件によっては、抽出液中にセリシンが混入し、その後の目的タンパク質の精製を困難にする場合もある。しかしながら、本発明のトランスジェニックカイコにおいては、繭におけるセリシンの含有率が著しく低下しているため、セリシンが混入する抽出条件であってもセリシンの混入量は少なく、目的タンパク質の精製は容易となる。従って、このような抽出条件であっても、本発明によれば、従来より純度の高い目的タンパク質を容易に取得することができる。
以下、実施例によりこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例によって限定されるものではない。
本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
セリシン1の発現が抑制されたカイコ、すなわちセリシン1ノックダウンカイコを、以下に示す手順で作出した。
(1)セリシン1ノックダウンカイコ作出用ベクターの構築
本実施例においては、RNA干渉技術を利用して、セリシン1ノックダウンカイコ作出した。まず、セリシン1遺伝子の二本鎖RNAを中部絹糸腺で合成するトランスジェニックカイコを作出するため、カイコセリシン1遺伝子断片のクローニングを以下のように行った。
カイコセリシン1遺伝子のエクソン8及びエクソン9の一部のcDNA配列(塩基番号1737-3227 : GenBankデータベース登録番号(Accession Number)AB112021)を、フォワード用プライマー(配列番号2:TCCAATGTTGGTGGTTCCTCTCA)及びリバース用プライマー(配列番号3:TGAGCTGGAAGAAGCTCCTCCAC)を用いた、カイコ中部絹糸腺cDNAを鋳型とするPCRによって単離した。得られたPCR産物を、インビトロジェン社pCR-Blunt IIベクターに組込んだ。
得られたプラスミドベクターを鋳型として、5’末端にSacI/NruIサイトを付加したプライマー(配列番号4:GAGCTCTCGCGATCCAATGTTGGTGGTTCCTCTCA)、及び3’末端にSacIサイトを付加したプライマー(配列番号5:GAGCTCTGAGCTGGAAGAAGCTCCTCCAC)を用いたPCRによって、セリシン1 cDNA断片を単離した。得られたPCR産物はpCR-Blunt IIベクターに組込み、SacIで消化することによってセリシン1 cDNA断片を切り出した。
同様にして、前記得られたプラスミドベクターを鋳型として、5’末端にNruIサイトを付加したプライマー(配列番号6:TCGCGATCCAATGTTGGTGGTTCCTCTCA)及び3’末端にSacIサイトを付加したpCR-Blunt IIベクター配列由来のプライマー(配列番号7:GAGCTCCCAGTGAATTGTAATACGACTCACTA)を用いて、セリシン1 cDNA及びpCR-Blunt IIベクター由来配列(100 bp)からなるDNA断片を単離し、得られたPCR産物はpCR-Blunt IIに組込んだ。得られたベクターのSacIサイトに、上記、SacIによって切り出したセリシン1 cDNA断片を組込んだ。
その結果、順向きのセリシン1 cDNA断片A(配列番号1)、100 bpのpCR-Blunt IIベクター由来配列(linker)(配列番号8)、及び逆向きのセリシン1 cDNA断片B(配列番号9)が繋がったDNA配列を持つプラスミドが得られた。
そのプラスミドベクターをNruIで消化することによって得られたインサートDNAを、本発明者らがすでに報告している、セリシン1遺伝子のプロモーター制御により中部絹糸腺細胞で特異的に発現するpMSG1.1Rベクター(J. Biosci. Bioeng. 105, 595-603, 2008)のNruIサイトに挿入し(図2)、セリシン1ノックダウンカイコ作出用ベクターpMSG1.1R Ex8Reを構築した(図3)。なお、pMSG1.1Rベクターは、眼や神経系でDsRed(赤色蛍光タンパク質)を発現させるマーカー遺伝子を備えている。
(2)セリシン1ノックダウンカイコの作出
前記(1)で構築したpMSG1.1R Ex8Reプラスミドを精製した後、該プラスミドとヘルパープラスミドであるpHA3PIG(Nat. Biotechnol. 18, 81-84, 2000)を、プラスミド量が1:1になるようにそれぞれ混合し、さらにエタノール沈殿を行った後、それぞれの濃度が200μg/mlなるようにインジェクションバッファー(0.5 mMリン酸バッファー、pH 7.0、 5 mM KCl)に溶解した。これらのDNA溶液を、産卵後2〜8時間の前胚盤葉期のカイコ卵(カイコ胚)に、一つの卵あたり約15〜20nlの液量で微量注入した。以下に微量注入後の詳細を記す。
該実施例では、pMSG1.1R Ex8Reプラスミドを合計2,080個の卵に微量注入した。これらの卵を25℃でインキュベートしたところ、688個の卵が孵化した。孵化したカイコの飼育を25℃で続け、得られた生殖可能な成虫を交配し139グループのF1卵塊を得た。産卵日から5及び6日目のF1卵塊を蛍光実体顕微鏡で観察し、眼や神経系から赤色蛍光を発するトランスジェニックカイコの卵を選抜した。その結果、トランスジェニックカイコの卵を含む卵塊を7グループ得ることができた。得られた卵塊から孵化したカイコの飼育を続け、眼や神経系から赤色蛍光を発するトランスジェニックカイコを選抜し、セリシン1ノックダウンカイコ(SRWカイコ)を作出した。
(3)セリシン1ノックダウンカイコの繭の解析
(2)で得られたセリシン1ノックダウンカイコ(SRWカイコ)に作らせたF1繭10 mgをハサミで断片化した後、8 M尿素溶液(8 M Urea、50 mMトリス塩緩衝液、pH 8.0)1 mL中で、80℃、5分間加温してセリシン層を全溶解させ、セリシンタンパク質を抽出した。遠心分離によって繭断片を沈殿させ上清を回収した。得られた上清15μlを2-メルカプトエタノールを含むSDSサンプルバッファー5μlと混合し、5分間95℃で加熱し、試料を得た。また、野生型カイコの繭も同様の処理をした。
得られた試料について、4-20%ポリアクリルアミドゲル(アトー社)を用いて、定法により電気泳動を行い、試料中のタンパク質を分離した。電気泳動終了後、ゲル中のタンパク質をクマシーブリリアントブルーで染色した。染色後のゲルをスキャナーで取込むことにより画像化し、画像解析ソフトNIH image(米国National Institute of Health提供、http://rsb.info.nih.gov/nih-image/よりダウンロード)を用いて、セリシンサブタイプのうち最も高分子量(400〜500kDa)の分子種のバンド強度を定量化した。その結果、独立した9系統のSRWカイコ繭中におけるセリシン1タンパク質の発現量は、野生型のそれと比較して、野生型の1/3〜1/10に減っていた(図4)。
このことから、前記方法により、セリシン1の発現が有意に抑制されたトランスジェニックカイコ、すなわちセリシン1ノックダウンカイコ(SRWカイコ)を作出できたことは明らかである。
実施例2
前記実施例1で得られたSRWカイコを利用して、目的タンパク質の合成量を増加できたことを以下に示す。該実施例では、目的タンパク質として、ヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF(hepatocyte growth factor)融合タンパク質を選択した。
実施例1で得られたSRWカイコを、ヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF融合タンパク質合成トランスジェニックカイコ(FHカイコ)と交配させることにより、ヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF融合タンパク質を発現するセリシン1ノックダウンカイコ(SRW FHカイコ)を作出した。
具体的には、SRWを作製するためにもちいたpMSG1.1Rベクターは、眼でDsRed(赤色蛍光タンパク質)を発現させるマーカー遺伝子を有している。一方、FHカイコを作製するために用いたpMSG1.1MGベクター(FEBS J. 276, 5806-5820, 2009)は、眼でMGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現させるマーカー遺伝子を有している。SRWカイコとFHカイコの成虫を交配させ産卵させた。次いで、卵を25℃でインキュベーションすることにより孵化させ、孵化した幼虫を飼育した。幼虫が3令期になったところで、蛍光実態顕微鏡下で幼虫の単眼を観察し、単眼から赤色蛍光および緑色蛍光の両方を発しているカイコを選別し、SRW FHカイコを得た。
なお、ここで使用したFHカイコは、ヒトフィブロネクチンのコラーゲン結合領域及びヒトHGFからなる融合タンパク質(Biomaterials. 28, 1989-1997, 2007)を、セリシン1遺伝子のプロモーター制御により中部絹糸腺細胞で特異的に発現し、繭糸セリシン層へ分泌するトランスジェニックカイコである。該トランスジェニックカイコは、前記実施例1と同様にして、pMSG1.1MGベクターをヘルパープラスミドと共に卵に微量注入し、飼育し、眼で緑色蛍光を発するものを選択することにより作出した。
SRW FHカイコの繭を、実施例1と同じ方法で処理した。また、野生型カイコの繭、SRWカイコの繭、FHカイコの繭も、それぞれ同様に処理した。得られた各試料中のタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、泳動後のポリアクリルアミドゲルをクマシーブリリアントブルーで染色し、前述と同様にして、セリシン1由来のバンドをそれぞれ定量した。
その結果、SRW FHカイコの繭中のセリシン1の発現量は野生型カイコの1/3〜1/5に減っており(図5)、実施例1と同様の結果が得られた。続いて、ヒトフィブロネクチンのコラーゲン結合領域、・ヒトHGF融合タンパク質由来のバンドを定量したところ、SRW FHカイコの繭中の融合タンパク質の発現量は、FHカイコの2.5倍に上がったことが分かった(図5)。
このことから、内在性セリシン1遺伝子の発現抑制によって、セリシン1遺伝子のプロモーター制御により発現する目的タンパク質の発現量が上昇することが示された。すなわち、内在性セリシン1遺伝子の発現抑制によって、所望のタンパク質をより多量に発現できることが示された。
また、ヒトフィブロネクチンコラーゲン結合領域・ヒトHGF融合タンパク質の抽出・精製は、SRW FHカイコの繭を用いた場合には、従来のカイコの繭を用いた場合よりも容易に行うことができ、またロスも少なくできることが確認できた。
このことから、内在性セリシン1遺伝子の発現抑制によって、簡便かつ一層効率よく、所望のタンパク質を入手できることは明らかである。
実施例3
前記実施例1で得られたSRWカイコを利用して、目的タンパク質の合成量を増加できたことを以下に示す。該実施例では、目的タンパク質として、マウスイムノグロブリンGタンパク質を選択した。
該実施例では、組換えマウスイムノグロブリンGの重鎖および軽鎖をセリシン1遺伝子のプロモーター制御下で発現させることが可能なベクターを使用して、前述と同様にして卵に微量注入し、孵化、飼育、及びマーカー遺伝子由来の特徴に基づき選択することにより、目的タンパク質を中部絹糸腺細胞で特異的に発現し、セリシン層に分泌するトランスジェニックカイコ(mAbカイコ)を作出した。このようにして得られたmAbカイコを、前述と同様にしてSRWカイコと交配等させることにより、マウスイムノグロブリンGを発現するセリシン1ノックダウンカイコ(SRW mAbカイコ)を作出した。
その後、SRW mAbカイコの繭、野生型カイコの繭、SRWカイコの繭、mAbカイコの繭を前記実施例1と同様の方法で解析した。その結果、SRW mAbカイコの繭中のセリシン1の発現量は、野生型カイコのより1/3.2に減っていた(図6)。一方で、SRW mAbカイコの繭中の組換えマウスイムノグロブリンG重鎖の発現量は、mAbカイコの3.7倍に上昇した(図6)。
また、組換えマウスイムノグロブリンGの抽出・精製は、SRW mAbカイコの繭を用いた場合には、従来のカイコの繭を用いた場合よりも容易に行うことができ、またロスも少なくできることが確認できた。
このことから、内在性セリシン1遺伝子の発現抑制によって、セリシン1遺伝子のプロモーター制御により発現する所望のタンパク質の発現量が上昇することが示された。また、内在性セリシン1遺伝子の発現抑制によって、簡便かつ効率よく、所望のタンパク質を入手できることは明らかである。
配列番号2はフォワード用プライマーの塩基配列を示す。
配列番号3はリバース用プライマーの塩基配列を示す。
配列番号4は5’末端にSacI/NruIサイトを付加したプライマーの塩基配列を示す。
配列番号5は3’末端にSacIサイトを付加したプライマーの塩基配列を示す。
配列番号6は5’末端にNruIサイトを付加したプライマーの塩基配列を示す。
配列番号7は3’末端にSacIサイトを付加したpCR-Blunt IIベクター配列由来のプライマーの塩基配列を示す。
配列番号8は100 bpのpCR-Blunt IIベクター由来配列の塩基配列を示す。

Claims (5)

  1. 中部絹糸腺におけるセリシンの発現が抑制されたトランスジェニックカイコ。
  2. セリシン遺伝子から転写されるmRNAに結合可能であり、かつRNA干渉能を有するRNAをコードするDNAが形質転換された、請求項1に記載のトランスジェニックカイコ。
  3. 繭に含まれるセリシンの含有量が、野生型カイコにより形成される繭中のセリシン含有量の80%〜10%である、請求項1又は2に記載のトランスジェニックカイコ。
  4. さらに、目的タンパク質をコードするDNAが形質転換された、請求項1〜3のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
  5. 請求項4に記載のトランスジェニックカイコに繭を形成させる工程、及び
    得られた繭から、前記目的タンパク質を回収する工程、
    を含有する、目的タンパク質の製造方法。
JP2009262711A 2009-11-18 2009-11-18 トランスジェニックカイコ Pending JP2011103816A (ja)

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