JP6300302B2 - カイコのセリシン1変異系統 - Google Patents

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本発明は、カイコのセリシン1遺伝子の特定の部位に変異が導入されたカイコのセリシン1変異系統に関する。
カイコ(Bombyx mori)の絹糸腺は、大量のタンパク質を短期間に合成できる能力を有している。そのため、近年、遺伝子組換えカイコを利用して、新しい性質を付与した絹繊維(以下、「機能性絹繊維」という)や有用物質を生産する方法が着目されている。
カイコの絹糸腺は、形態学的には図1で示すような左右1対の器官であり、それぞれは、前部絹糸腺、中部絹糸腺、及び後部絹糸腺の3つの領域で構成されている。後部絹糸腺細胞は、絹糸の繊維成分であるフィブロインを発現している。また中部絹糸腺細胞は、絹糸の被覆成分であり、ゼラチン様の糊状タンパク質セリシンを発現している。発現したフィブロインは、後部絹糸腺内腔中に分泌される。その後、中部絹糸腺内腔に移行し、そこでセリシンによって被覆され、絹糸として吐糸される(図1)。このように、セリシンは、フィブロインの周囲を取り巻いて、吐糸や繭の形成における潤滑剤又は接着剤として機能すると考えられている。
カイコの絹糸腺で機能性絹繊維を製造するには、目的の機能を有するタンパク質をフィブロインに付加した遺伝子組換えカイコを作出し、当該カイコが吐糸した絹糸から機能性絹繊維を分離、精製すればよい。機能性絹繊維を分離、精製するためには、絹糸に対してセリシンの除去を目的とした精練処理を行う必要がある。ところが、従来の精練方法では、堅牢なセリシンを溶解するために高温及びアルカリ処理が必須であり、加熱工程やアルカリ廃液の中和処理等に多大な手間やコストを要していた。さらに、このような強条件下での処理は、機能性絹繊維中に付加させた機能性タンパク質をも変性させ、その機能が失われてしまうという本質的な問題があった。それ故、目的の機能を失わせることなく機能性絹繊維を分離、精製する新たな精練方法の開発が求められていた。
絹糸から特定のタンパク質を効率的に除去する方法の一つとして、標的タンパク質を欠損した変異体の利用が挙げられる。実際、フィブロインの場合には、その合成経路に関与する遺伝子に変異を生じたフィブロイン変異系統として、セリシンカイコ系統(Nd系統、Nd-s系統及びNd-sD系統)が知られている。セリシンカイコ系統は、他のフィブロイン構成タンパク質が正常に発現しているにもかかわらず、ほとんど吐糸できないという特徴をもつ(非特許文献1)。これらの変異系統から作出された営繭性セリシンカイコ系統(セリシンホープカイコ系統)(非特許文献2及び3)は、吐糸可能なフィブロイン変異系統であり、セリシンのみからなる繭を営繭できるため、純粋なセリシンの生産系として利用されている(特許文献1)。
フィブロインと同様に、セリシンの合成能を欠失した組換えカイコ系統が利用可能になれば、絹糸におけるセリシンを欠失又は低減できることから、絹繊維の精練処理が不要になるか、又は従来よりも低温かつ低アルカリ性の穏やかな条件で処理できることが期待される。セリシン遺伝子は、現在セリシン1(Ser1)遺伝子、セリシン2(Ser2)遺伝子、及びセリシン3(Ser3)遺伝子の3種類のセリシンが知られている。このうち、営繭期に大量に発現する遺伝子は、中部絹糸腺の中区及び後区(図1)で発現するセリシン1遺伝子と中部絹糸腺の前区で発現するセリシン3遺伝子である(非特許文献4及び5)。ところが、セリシンに異常のあるカイコ系統は、これまでにセリシン3遺伝子の一部が欠損した系統が知られているのみであった(非特許文献6)。また、そのセリシン3変異系統は、営繭できるものの、その繭にはセリシン3が多量に包含されており、野生型カイコ系統の繭との間に明確な違いがみられなかった。また、セリシンは、上述のように吐糸時の潤滑剤として機能する。そのため当該分野では、セリシン1、2、3の中で最も発現量が高いセリシン1を欠失した遺伝子組換えカイコを作製しても吐糸できずにそのまま蛹化する「裸蛹」となるか、又は終齢幼虫のまま死亡する「不吐糸蚕」となり、継代による系統維持はできないと考えられていた。それ故に、絹糸中のセリシン1の量を制御できる継代可能なセリシン1変異体は、これまで知られていない。
特許第3374177号
Gamo T. et al., 1985, J. seric. Sci.Jpn, 54, 412-419. Tomita M., et al.,2003, Nat Biotechnol, 21:52-56. Tomita M., et al.,2007, Transgenic Res 16:449-465. Garel et al., 1997, Insect Biochem. Mol. Biol. 27: 469-477. Takasu et al., 2007, Insect Biochem. Mol. Biol. 37: 1234-1240. Gamo 1982, Biochem. Genet. 20: 165-177.
本発明は、絹糸中のセリシンの量を制御するために、カイコのセリシン遺伝子に変異を導入し、セリシンが欠失又はその量が低減した絹糸を吐糸可能な変異系統を作出し、それを提供することを課題とする。
上述のようにセリシン遺伝子に変異を導入した遺伝子組換えカイコを作出したとしても、変異遺伝子のホモ接合体は、吐糸できずに最終的には死亡するため、その系統を継代により維持することは困難である、というのが当該分野での通説であった。
本発明者らは、上記課題を解決するために、部位特異的なヌクレアーゼであるTALENを用いてセリシン1(以下、しばしば「Ser1」と表記する)遺伝子に様々な変異を導入したところ、Ser1遺伝子の特定の部位に変異を導入した場合に、その変異体はSer1が顕著に減少した絹糸を吐糸でき、かつ継代が可能となることを見出した。本発明は、当該知見に基づくものであって、以下を提供する。
(1)カイコの野生型Ser1遺伝子における第2イントロンのドナー領域にスプライス変異を生じさせる1〜4個の塩基の欠失、付加及び/又は置換の変異を含むSer1変異遺伝子を有するカイコのSer1変異系統。
(2)Ser1変異遺伝子が第2エクソンの3’末端領域に1〜15個の塩基の欠失、付加及び/又は置換の変異をさらに含む、(1)に記載のSer1変異系統。
(3)第2イントロンのドナー領域に含まれるドナー部位における1塩基の欠失、及び第2エクソンの3’末端を含む連続する3塩基の欠失を含む、(2)に記載のSer1変異系統。
(4)前記ドナー部位の1塩基の欠失がドナー部位を含む連続する3塩基の欠失及び当該欠失箇所への2塩基の付加に基づく、(3)に記載のSer1変異系統。
(5)配列番号5に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号6に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むSer1変異遺伝子を有する、(4)に記載のSer1変異系統。
(6)第2イントロンのドナー部位2塩基の欠失、並びに第2エクソンの3’末端を含む6塩基の欠失を含む、(2)に記載のSer1変異系統。
(7)前記第2エクソンにおける6塩基の欠失が第2エクソンの3’末端を含む連続する12塩基の欠失及び当該欠失箇所への6塩基の付加に基づく、(6)に記載のSer1変異系統。
(8)配列番号7に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号8に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むSer1変異遺伝子を有する、(7)に記載のSer1変異系統。
(9)Ser1変異遺伝子がホモ接合型である、(1)〜(8)のいずれかに記載のSer1変異系統。
(10)(9)に記載のカイコのSer1変異系統から得られる絹糸。
(11)(10)に記載の絹糸からセリシンを除いて得られる絹繊維。
本発明のカイコのSer1変異系統によれば、Ser1が欠失又はその量が減少した絹糸を吐糸する継代可能なカイコ変異系統を提供することができる。
本発明のSer1変異系統から得られる絹糸は、野生型カイコ系統の絹糸と比較してSer1が欠失又はその量が減少していることから、絹繊維を分離、精製する際の手間やコストを削減することができる。
本発明のSer1変異系統から得られる絹糸は、Ser1が欠失又はその量が減少していることから、従来の精練方法よりも穏やかな条件で処理することができる。そのため、絹繊維であるフィブロインに組換え遺伝子技術を用いて機能性タンパク質を付加した組換えタンパク質を失活させることなく、機能性絹繊維として調製することができる。
A:カイコの絹糸腺を示す概念図である。B:カイコの絹糸腺を構成する部位と各部位における絹糸の構造を示す図である。後部絹糸腺で生産及び分泌されたフィブロインは、中部絹糸腺から前部絹糸腺に移行する過程で、その表面に中部絹糸腺中区及び後区で生産及び分泌されたSer1に被覆され、その後、中部絹糸腺前区で生産及び分泌されたセリシン3にさらに被覆され、吐糸口から吐糸される。 A:カイコのSer1遺伝子の概念図である。e1〜e9は、それぞれエクソン1〜エクソン9の位置を、またi1〜i8は、それぞれイントロン1〜イントロン8の位置を示す。B:カイコのSer1遺伝子に由来するスプライスバリアントの構造を示す概念図である。(a)はSer1C、(b)はSer1D、(c)はSer1B、(d)はSer1A、そして(e)はSer1A'を示す。 カイコのSer1遺伝子における上流側の概念図(上)と、TALENの標的部位である第2エクソン及び第2イントロンの5’末端側の一部の塩基配列(下)を示す。 図中、e1〜e6pは、それぞれエクソン1〜エクソン6の5’末端側の一部の位置を、またi1〜i5は、それぞれイントロン1〜イントロン5の位置を示す。塩基配列中、大文字はエクソン、小文字はイントロンを表す。センス鎖及びアンチセンス鎖のそれぞれにおいて、太字斜体文字で示す配列I及びIIは、TALENが認識して結合する標的塩基配列である。下線部は制限酵素Ale1認識配列を示す。 A:TALEN発現用プラスミドの概念図を示す。B:本実施例で用いたTALENのDNA塩基配列認識部位のアミノ酸配列を示す図である。この図で示すDNA塩基配列認識部位は、下線部のアミノ酸配列に基づいて、図3のIで示したカイコのSer1遺伝子における第2エクソンの3’末端領域を認識し、結合するように構成されている。 G1カイコゲノムのSer1遺伝子変異導入領域におけるPCR増幅産物を制限酵素で切断した結果を示すアガロースゲル電気泳動図である。図中、矢頭はAle I未切断のPCR増幅産物の全長を、矢印はAle I切断されたPCR増幅産物の一部を示す。なお、WTは、野生型カイコ蛾区である。 Ser1変異系統のG1カイコに由来する繭の形状及びその繭におけるSer1量を示す図である。A及びBは、図5でSer1遺伝子への変異導入が確認された12蛾区のうちの2蛾区(52-2及び52-4)の結果を示す。繭の形状は、正常繭、薄皮繭、裸蛹、不吐糸蚕の4つに分類し、正常繭及び薄皮繭については、Ser1量についても正常又は欠失・減少で示した。 図6における2蛾区(52-2及び52-4)で得られたG1カイコの正常繭又薄皮繭から抽出したSer1のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。WTは、野生型カイコの繭から抽出したSer1のSDS-PAGEの結果である。 作出されたカイコのSer1変異系統における塩基配列を示す図である。この図では、Ser1変異遺伝子のTALENの標的部位であった第2エクソンの3’末端領域及び第2イントロンのドナー領域を含む3’末端領域の一部各塩基配列を示している。枠内は第2エクソンの領域を示す。大文字はエクソン、小文字はイントロンを表す。塩基配列中の「-(ハイフン)」は、野生型Ser1遺伝子(wt)の塩基配列と対比した時に、対応する塩基が欠失しているギャップを示す。52-2及び52-4における太字斜体文字は、変異領域内において塩基の欠失後に、新たに挿入されたと思われる塩基を示す。また、SDS-PAGE分析の結果から各Ser1変異系統における絹糸中のSer1が欠失又はその量が著しく少なくなっていた場合には〇で、野生型と同程度であれば×で示している。 G3ホモ接合型カイコSer1変異系統(52-2及び52-4)の繭から抽出したSer1のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。 G3ホモ接合型カイコSer1変異系統(52-4)に由来する繭の形状を示す図である。
1.セリシン1変異系統
1−1.概要
本発明の第1の態様は、カイコのSer1変異系統である。本発明のSer1変異系統は、野生型Ser1遺伝子の特定の部位に変異を有するカイコ変異系統で、Ser1の量が欠失、又は著しく減少した絹糸を吐糸することができる。それ故に、営繭可能であり、裸蛹や不吐糸蚕とならずに変異系統として継代することができる。
1−2.構成
「Ser1変異系統」とは、カイコの野生型Ser1遺伝子の特定の部位に変異を含むSer1変異遺伝子をゲノム上に有するカイコの変異系統をいう。
カイコの野生型Ser1遺伝子は、図2及び配列番号1に示すように、9つのエクソンと8つのイントロンで構成される(ただし、配列番号1において、nで示した塩基は、塩基配列が未だ決定されておらず、a、t、g、cのいずれの塩基であるかが不明である。またセリシン1は、繰り返し配列が多く、nの数も厳密ではない。)。このうち第3〜第6エクソンは、選択的スプライシングにより様々な組み合わせで選択される。それ故に、Ser1タンパク質は、現在までに5種類のスプライスバリアント(Ser1A、Ser1A'、Ser1B、Ser1C、Ser1D)が知られている。一方、第1、第2及び第7〜第9エクソンは、全てのスプライスバリアントに存在する。また、第1及び第2エクソンは、シグナルペプチドをコードすることが知られている。
本発明のSer1変異系統が有するSer1変異遺伝子は、野生型Ser1遺伝子の特定の部位に変異を含む。この特定の部位の変異とは、第2イントロンのドナー領域に、スプライス変異を生じさせる変異をいう。本明細書で「ドナー領域」とは、ドナー部位(gt)を含むイントロンの5’末端側の連続する2〜5塩基からなる領域をいう。「スプライス変異を生じさせる変異」とは、ドナー領域内における1〜4個、好ましくは1〜3個又は1若しくは2個の塩基の欠失、付加、置換、又はそれらの組み合わせであって、正規の(オーセンティクな)スプライス部位でのスプライシングを阻害する変異をいう。通常、2塩基からなるドナー部位のいずれか一方の塩基が欠失又は置換した場合、そのドナー部位を含むイントロンのスプライシングは阻害される。したがって、本発明における「スプライス変異を生じさせる変異」は、上記ドナー領域におけるドナー部位の少なくとも一方の塩基に変異を有することが好ましい。この変異によって、Ser1変異遺伝子は、mRNAスプライシングに異常を生じる結果、Ser1変異遺伝子産物において、フレームシフト、アミノ酸配列の付加又は欠失等の変異が生じる。
Ser1変異遺伝子は、前記第2イントロンのドナー領域における変異に加えて、特定の部位の変異として第2エクソンの3’末端領域に変異をさらに含むことができる。Ser1遺伝子上で第2エクソンは、第2イントロンの5’末端側に隣接している。本明細書で「3’末端領域」とは、第2エクソンの3’末端を含む連続する1〜15塩基からなる領域をいう。また、ここでいう「変異」とは、3’末端領域内における1〜15個、好ましくは1〜12個、1〜9個、1〜6個又は1〜3個の塩基の欠失、付加、置換、又はそれらの組み合わせの変異をいう。
上記第2イントロン及び第2エクソンにおける変異の例として、第2イントロンのドナー領域内に含まれるドナー部位における1塩基、すなわちg(グアニン)又はt(チミン)のいずれかの欠失、及び第2エクソンの3’末端を含む連続する3塩基(ACC)の欠失を含む変異が挙げられる。このとき、第2イントロンにおける前記ドナー部位の1塩基の欠失は、ドナー領域における塩基の欠失及び付加の結果であってもよい。例えば、ドナー領域においてドナー部位を含む連続する3塩基(gtg)の欠失及び当該欠失箇所への2塩基(tt)の付加に基づき、結果として見かけ上ドナー部位の1塩基(g)のみが欠失した変異であってもよい。この変異の具体例として、配列番号5に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号6に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むSer1変異遺伝子が挙げられる。
また、上記第2イントロン及び第2エクソンにおける変異の他の例として、第2イントロンのドナー部位2塩基(gt)の欠失、及び第2エクソンの3’末端を含む6塩基の欠失を含む変異が挙げられる。このとき、第2エクソンにおける6塩基の欠失は、3’末端領域における塩基の欠失及び付加の結果であってもよい。例えば、3’末端領域において3’末端を含む連続する12塩基(TCGGTCACCACC)の欠失及び当該欠失箇所への6塩基(GTAAGC)の付加に基づき、結果として見かけ上3’末端を含む6塩基のみが欠失した変異であってもよい。この変異の具体例として、配列番号7に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号8に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むSer1変異遺伝子が挙げられる。
Ser1変異系統は、前記Ser1変異遺伝子をカイコゲノム上に1つ有するヘテロ接合型であってもよいし、2つ有するホモ接合型であってもよい。Ser1変異遺伝子ホモ接合型のカイコ由来の絹糸が、本発明の目的とする性質を有する絹糸、すなわち、Ser1が欠失又はその量が著しく減少した絹糸であることから、ホモ接合型が好ましい。一方、ヘテロ接合体は、系統維持として利用できる。
従来のカイコのSer1変異系統は、吐糸できずに死亡するため、継代維持ができなかった。しかし、本発明のカイコのSer1変異系統は、野生型Ser1遺伝子の特定の部位、すなわち、少なくとも第2イントロンのドナー部位周辺に変異を導入することで、吐糸が可能となり、前記課題を解決することができた。このような変異を有するSer1変異系統が、従来のSer1変異系統と異なり、吐糸及び継代可能となった理由は現在のところ明らかではない。
1−3.作出方法
(1)Ser1遺伝子への変異導入
カイコの野生型Ser1遺伝子における第2イントロンのドナー領域や第2エクソンの3’末端領域への変異の導入は、当該分野で公知の遺伝子変異導入技術を用いることができる。
例えば、Ser1遺伝子における第2イントロンのドナー領域にスプライス変異を生じさせる1〜4個の塩基の欠失、付加及び/又は置換を導入する場合や、第2エクソンの3’末端領域に1〜15個の塩基の欠失、付加及び/又は置換を導入する場合には、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)(Cermak T, et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)、ZFN(Zinc Finger Nuclease)(Kim, Y.-G., et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1156-1160.)、又はCRISPR/Cas9システム(Cong, L. et al., 2013, Science, 339, 819-823.)のようなゲノム編集技術を用いればよい。これらの技術は、目的とする生物のゲノム上の所望の配列を切断して変異を導入することができる。例えば、TALENを用いる場合であれば、Ser1遺伝子の第2エクソンの3’末端領域及び第2イントロンのドナー領域のセンス鎖及びアンチセンス鎖のそれぞれを標的とするDNA塩基配列認識部位(リピート部位)を構築し、TALEN発現ベクター内に挿入する。続いて、調製したTALEN発現ベクターからin vitro転写法によってTALEN mRNAを合成した後、カイコの発生初期卵にインジェクションすればよい。なお、後述する実施例1でTALENを用いたSer1遺伝子への変異導入の具体例を示している。
また、Ser1遺伝子における第2エクソンの3’末端領域や第2イントロンのドナー領域に特定の塩基配列を有する変異を導入する場合、具体的には、例えば、第2エクソンの3’末端領域に配列番号5に示す塩基配列を有する欠失変異を、また第2イントロンのドナー領域に配列番号6に示す塩基配列を有する欠失及び付加変異を、導入する場合には、例えば、一本鎖DNAをドナーとする相同組換え法が利用できる(Chen, F., et al., 2011 Nat. Methods 9:753-755.)。この方法は、TALEN mRNA及びTALENによる切断部位近傍配列のそれぞれに相同性を有する数十塩基の一本鎖DNAを宿主カイコに同時にインジェクションすることによって、その一本鎖DNAをゲノムの目的の位置に挿入する方法である。カイコゲノム内へのSer1変異遺伝子導入は、変異Ser1遺伝子を有するプラスミドベクターを水やバッファー等の溶媒によって溶解又は希釈して、投与溶液を調製し、その投与溶液にトランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するヘルパーベクターを加えて、カイコの発生初期卵にインジェクションすればよい。また、変異を導入するカイコがヘルパーベクターを既に有する場合には、前記投与溶液をそのままカイコの発生初期卵にインジェクションすればよい。その後、プラスミドベクター中の選抜マーカーに基づいて形質転換体を選抜することによって、目的のSer1変異系統を得ることができる。
(2)Ser1変異系統ホモ接合型個体の作出
(1)でSer1変異遺伝子を導入したカイコでは、Ser1変異遺伝子がヘテロ接合型となっていることから、必要に応じて、Ser1変異遺伝子のホモ接合型個体を得てもよい。ホモ接合型個体は、同系交配又は兄妹交配を行い、指標となる形質に基づいて目的のホモ接合型個体を選抜すればよい。なお、本明細書において「同系交配」(sib mating)とは、対象とする変異遺伝子(ここではSer1変異遺伝子)が同一である個体間の交配をいう。また、「兄妹交配」とは、同腹の雌雄どうしで行う同系交配をいう。
1−4.効果
本発明のカイコのSer1変異系統によれば、Ser1が欠失又はその量が著しく減少した絹糸を吐糸できる。それ故に、営繭が可能であり、また継代によって系統維持が可能なカイコ変異系統を提供することができる。
2.絹糸
2−1.概要
本発明の第2の態様は、絹糸である。本発明の絹糸は、前記第1態様に記載のカイコのSer1変異系統におけるホモ接合型個体に由来する絹糸である。
2−2.構成
本発明の絹糸は、前記カイコのSer1変異系統のホモ接合型個体が吐糸する絹糸である。
本明細書において「絹糸」とは、カイコが吐糸する繊維状のタンパク質複合体をいう。野生型の絹糸は、繊維成分であるフィブロインとそのフィブロインを被覆する水溶性の糊状成分であるセリシンから構成される。フィブロインは、フィブロインH鎖(Fib H)、フィブロインL鎖(Fib L)及びp25/FHX(p25)の3つのタンパク質がFib H:Fib L:p25=6:6:1の比率で複合体(silk fibroin elementary unit; SFEU複合体)を形成して構成される。セリシンは、現在Ser1、Ser2又はSer3の3種類が知られており、繭糸にはSer1及びSer3が、幼虫期の足場糸にはSer2が含まれる。
本明細書における絹糸は、原則として、乾繭、及び煮繭後に製糸した状態の絹糸であって、精練処理を行っていない生糸である。
本発明の絹糸は、Ser1変異系統のホモ接合型個体に由来する絹糸であることから、野生型のカイコ絹糸と比較して、セリシン1が欠失しているか、又はその量が著しく少ないことを特徴とする。
2−3.効果
本発明の絹糸は、野生型カイコ系統の絹糸と比較して糊状成分であるセリシン1が欠失しているか、又はその量が著しく減少していることから、セリシンの溶解性が向上しており、煮繭条件を従来の条件よりも緩和することが可能となる。それによって、加熱に要するコストを低減し、また製糸作業の手間を軽減することができる。
また本発明の絹糸は、絹糸から絹繊維を分離、精製する際の精練工程における温度やアルカリ度を低く設定することができる。それによって、精練工程における加熱量、加熱時間及び精練に用いたアルカリ溶液の排水の処理量を低減し、精練作業の手間を軽減することが可能となる。
本発明の絹糸が機能性絹繊維を含む場合、従来法よりも穏やかな精練条件で、機能性絹繊維が有する機能を失活させることなく絹繊維を分離、精製することができる。
3.絹繊維
3−1.概要
本発明の第3の態様は、絹繊維である。本発明の絹繊維は、前記第2態様における絹糸からセリシンを除いて得られる。
3−2.構成
本発明の絹繊維は、第2態様の絹糸を処理して得られる絹繊維をいう。
本明細書において「絹繊維」とは、前記絹糸に対して精練処理等を行い、セリシンを除去した残りの成分をいう。この残りの成分の多くは、絹糸の繊維成分であるフィブロインである。本発明の絹繊維において、セリシンは完全に除去されていてもよいし、一部が残っていてもよい。
本発明の絹繊維は、機能性絹繊維を包含する。本明細書において「機能性絹繊維」とは、遺伝子組み換え技術を用いて目的の機能を付加した組換えフィブロインをいう。目的の機能を付加したフィブロインとは、変異を導入したフィブロインや他のタンパク質を融合したフィブロイン等をいう。例えば、蛍光タンパク質と融合させた蛍光フィブロイン(蛍光シルク)が挙げられる。
3−3.効果
本発明の絹繊維によれば、遺伝子組み換え技術により付加的な機能を付与された機能性絹繊維を、その機能を失うことなく提供することができる。
<Ser1変異系統の作出>
(目的)
カイコゲノム上のSer1遺伝子における第2エクソンの3’末端領域及び第2イントロンのドナー領域にTALENを用いて変異導入し、本発明のカイコのSer1変異系統を作出する。
(方法及び結果)
(1)カイコ系統及び飼育
カイコ系統には、茨城県農業生物資源研究所(日本)の遺伝子組換えカイコ研究開発ユニットで保存されている白眼非休眠系統(w1-pnd)を用いた。カイコの飼育には人工飼料
として、桑葉含有率の低いシルクメイトL4M(日本農産工業)又は桑葉含有率の高い原蚕種1〜3齢用(日本農産工業)、あるいは桑葉を用いた。
(2)TALEN標的部位の決定とTALEN発現用プラスミドの構築
Ser1遺伝子(図2A)は9個のエクソンを有し、選択的スプライシングによって少なくとも5種類のスプライスバリアントを生じる(図2B)。Ser1の全てのスプライスバリアントに対して変異を生じさせ、かつ機能的な領域を除去するために、全てのスプライスバリアントに共通する第2エクソンの3’末端領域及び第2イントロンのドナー領域をTALENの標的部位とした(図3)。第2エクソンの3’末端領域認識側(図3のI)を認識するTALENのDNA塩基配列認識部位の塩基配列を配列番号9に、また第2イントロンのドナー領域認識側(図3のII)を認識するTALENのDNA塩基配列認識部位の塩基配列を配列番号10に示す。なお、標的部位周辺に位置する制限酵素AleIの認識配列(図3下線部)を変異導入の有無の判定に用いた。
TALENのDNA塩基配列認識部位のクローニングは、Golden gate assembly kit(Addgene)を用いてCermak et al.(前述)の方法に従った。DNA認識部位以外の部分については、発明者らが構築したカイコ用TALEN発現ベクターpBlue-TALを用いた(Takasu Y, 2013., PLOS ONE 8: 9, e73458)。構築したTALEN発現用プラスミドの概念図を図4Aに、また第2エクソンの3’末端領域に対するTALENのアミノ酸配列を図4Bに示す。その後、HiSpeed Plasmid Midi kit(Qiagen)を用いてTALEN発現用プラスミドを精製した後、制限酵素Xba I(タカラバイオ)で処理して直鎖状にして、常法によりプロテイナーゼK処理を行い、RNaseや不純タンパク質を除去した。続いて、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール (25:24:1)処理によりプロテイナーゼKを失活させ、クロロホルム処理、エタノール沈殿処理、70%エタノールでの洗浄処理を行った。減圧乾燥後に精製した直鎖状TALEN発現用プラスミドを得た。
(3)TALEN mRNAの調製
得られた直鎖状TALEN発現用プラスミド1μgを鋳型DNAとして、mMESSAGE mMACHINE kit(life technologies)を用いてTALENのmRNAを調製した。mRNAの精製は、キットに添付の説明書に従って、LiCl沈殿法により行った。
(4)マイクロインジェクション
得られたTALENのmRNAを0.5μg/μLとなるようインジェクションバッファー(5 M KCl, 0.5 mM リン酸緩衝液pH7.0)に溶解した後、産下後5〜8時間のカイコ受精卵にTamura et al.(上述)の方法に従って3-5 nLをインジェクションした。その後、25℃でインキュベートして孵化させた。幼虫は、人工飼料シルクメイト原蚕種1〜3齢用(日本農産工業)を用いて飼育した。
(5)カイコ受精卵のサンプリングアッセイ
Ser1遺伝子のノックアウト効率の高い蛾区のみを選抜するために、以下の方法でサンプリングアッセイを実施した。まず、上記インジェクション後に飼育して得られたTALEN処理カイコG0(Generation 0)成虫どうしを交配させて、比較的産卵数の多い12蛾区を選択した。それぞれの蛾区から得られた孵化直前のG1卵(Generation 1)を採取し、そのうち50卵を用いてDNAzol(Life technologies)又はBlood and tissue genomic DNA extractionminiprep system(Viogene)を用いてゲノムDNAを抽出した。具体的な抽出方法については、それぞれに添付の説明書に従った。抽出したゲノムDNA 25ngを鋳型DNAとして、配列番号14及び配列番号15に示すプライマーセット及びKOD FX Neo(Toyobo)を用いて、Ser1における標的部位を含む435塩基の領域をPCRにより増幅した。得られた増幅産物を制限酵素AleIで処理した後、アガロースゲル(0.8% SeaKem GTG, 2.4% NuSieve GTG)電気泳動によりDNA断片を分析した。蛾区ごとのPCR増幅産物のAleIによる切断に基づいて、TALENによるSer1遺伝子への変異導入効率を検証した。
結果を図5に示す。PCR増幅産物は、選択した12蛾区の全てにおいて切断されなかった。これは、TALENにより全ての蛾区でSer1遺伝子に変異が導入されたことを示している。各蛾区の残りのG1卵を25℃でインキュベートしてG1カイコを孵化させた後、幼虫を人工飼料シルクメイト原蚕種1〜3齢用(日本農産工業)を用いて飼育した。
(6)G1カイコにおける繭形状及び絹糸中のSer1量
飼育したG1カイコに営繭させ、その繭形状を分類すると共に、繭を構成する絹糸に含まれるSre1量をSDS-PAGEで検証した。なお、G1段階では、各蛾区に複数の種類のSer1変異遺伝子および正常型遺伝子が混在している可能性があり、これらの遺伝子型についてホモ接合型個体及びヘテロ接合型個体が混在している。
I. 繭形状による分類
12蛾区のうち2蛾区(52-2及び52-4)を選択し、各蛾区で15頭のG1個体における営繭状態を確認した。営繭状態は、野生型カイコの繭と外見上の差異がほとんど見られない正常繭、野生型カイコの繭と比較して明らかに薄い薄皮繭、営繭せずに蛹化する裸蛹、及び吐糸できずに終齢幼虫のまま死亡する不吐糸蚕の4種に分類した。
II. SDS-PAGE
前記繭形状による分類で正常繭又は薄皮繭を形成したカイコが実際にSer1を欠失又はその量を減少した絹糸を吐糸しているか否かを確認するために、SDS-PAGEを行った。まず、繭内の蛹を取り出して保管し、得られた繭の繭層切片約30 mgを80℃に熱した1% 2-メルカプトエタノール含有8 M尿素水溶液に浸漬した。2〜3分間撹拌しながらセリシンを絹糸から抽出する処理を行った。得られた抽出液を20,000×gで2分間遠心分離し、25μLの上清に25μLのサンプルバッファー(0.1 M Tris HCl pH6.8, 1% SDS, 0.05% BPB, 1% 2-メルカプトエタノール)を混合して99℃で5分間加熱して、SDS-PAGE用試料とした。対照用として野生型カイコから得られた繭層切片を用いて、上記と同じ処理を行った。SDS-PAGEは、Green, MR and Sambrook, J, (2012) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法を参照した。泳動には5%の均一ゲルを用い、分子量マーカーとしてプレシジョン Plus プロテイン未着色スタンダード(Bio Rad)を使用した。泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルーで染色した。
G1カイコの繭形状による分類結果を図6に、また各繭のSDS-PAGEの結果を図7に示す。なお、図6では、図7のSDS-PAGEで判明した正常繭及び薄皮繭におけるSer1量の結果を「Ser1欠失・減少」及び「Ser1正常」と表記して反映させている。
図6Aで示すように、52-2蛾区では15個体中5個体が営繭し、そのうち3個体は正常繭、2個体は薄皮繭であった。ここで、図7に示すように正常繭3個体(52-2-1〜52-2-3)は、野生型の繭と同程度のSer1量が検出され、Ser1変異を有するもののSer1量に変化がないことが明らかとなった。一方、図7に示すように薄皮繭2個体(52-2-4〜52-2-5)は、Ser1量が著しく減少していた。したがって、これら2個体に対応する上記保管した蛹を、目的の変異を有するSer1変異個体として分離した。また、52-4蛾区では15個体中11個体が営繭し、そのうち5個体は正常繭、6個体は薄皮繭であった。図7に示すように、営繭した全ての繭の個体(52-4-1〜52-4-11;52-4-11のみ図示せず)でSer1量が著しく減少していた。したがって、これら11個体に対応する上記保管した蛹も、目的の変異を有するSer1変異個体として分離した。
(7)Ser1変異遺伝子の塩基配列決定
上記(6)で分離したSer1変異体個体の蛹を羽化させて、得られたG1カイコ成虫におけるSer1変異遺伝子のTALENの標的部位における塩基配列を決定した。
試料には、羽化したカイコ成虫の脚を1本採取して用いた。80μLのDNAzol(life technologies)で、添付の説明書に従って前記試料からカイコゲノムDNAを抽出した。Ser1遺伝子配列が明らかにされるまで、カイコ成虫は未交配のまま5℃で冷蔵保存した。続いて、抽出したゲノムDNA 25ngを鋳型DNAとして、配列番号16及び配列番号17に示すプライマーセット及びKOD FX Neo(Toyobo)を用いて、標的配列を含む187bpの領域をPCRにより増幅した後、ダイレクトシークエンスを行った。塩基配列決定は、上記配列番号16及び配列番号17に示すDNAをセンス鎖及びアンチセンス鎖のプライマーとしてBigDye terminator cycle sequence kit ver. 3.1(life technologies)を用いて添付の説明書に従って、ABI Prism 377(life technologies)で分析した。対照用として、野生型カイコ個体、及び52-2蛾区における正常繭由来の個体(52-2 Cont)を用いた。
図8に結果を示す。この図では、TALENの標的部位を含むSer1遺伝子の第2エクソン全長及び第2イントロンの5’領域の一部を示している。52-2蛾区及び52-4蛾区のG1カイコは、いずれもSer1遺伝子の第2エクソンの3’末端領域及び/又は第2イントロンのドナー領域に欠失、付加の変異を生じていた。一方、52-2 Contも、Ser1遺伝子の第2エクソンの3’末端領域に欠失を生じた。前述のように、52-2蛾区及び52-4蛾区のG1カイコはSer1量の著しく減少した繭を営繭したのに対して、52-2 Contは、野生型の繭と同程度のSer1量を有する繭を営繭した。この結果は、Ser1変異遺伝子であっても、第2イントロンのドナー領域にスプライス変異を生じさせる変異を有する場合に、Ser1量が著しく減少した絹糸を吐糸することができることを示している。
(8)Ser1変異系統G3ホモ接合型個体の作出
上記(7)で得られた52-2蛾区由来のSer1変異遺伝子を有するG1カイコ成虫を野生型と交配し、Ser1変異遺伝子のヘテロ接合型G2カイコを得た。続いて、G2カイコどうしを交配して、G3カイコを得た。このG3カイコ集団には、52-2蛾区由来のSer1変異ホモ接合型個体が理論上25%含まれる。営繭したG3カイコから蛹を取り出して繭を保存し、羽化した複数のG3カイコ成虫から脚を1本採取して、(7)と同様の方法でゲノムDNAを抽出した後、Ser1変異遺伝子のTALENの標的部位における塩基配列をダイレクトシークエンスを行って確認した。Ser1変異遺伝子をホモ接合で有する個体を選抜し、実施例1と同様の方法で、繭を構成する絹糸中のSer1量をSDS-PAGEで分析した。
結果を図9に示す。52-2蛾区由来のSer1変異遺伝子を有するカイコのG3ホモ接合型個体も絹糸中のSer1量が著しく減少していることが確認された。これにより、本発明のSer1変異は、ヘテロ接合体で維持可能であり、ホモ接合体にすることでSer1量が著しく減少した繭を得ることができることが立証された。
また、上記(7)で得られた52-4蛾区由来のSer1変異遺伝子を有するG1カイコ成虫どうしを交配し、Ser1変異遺伝子についてホモ接合型G2カイコを得た。同腹のG2カイコどうしを兄妹交配して得られたホモ接合型G3カイコを飼育して34頭に営繭させ、その繭形状を(6)と同様の方法で分類した。
結果を図10に示す。ほとんどの個体が正常繭又は薄皮繭を営繭することができた。そこで、これらのホモ接合型G3カイコの繭について(6)と同様の方法で絹糸中のSer1量をSDS-PAGEで分析した。その結果、正常繭又は薄皮繭は、全て絹糸中のSer1量が著しく減少していることが確認された。一部の個体のSDS-PAGE分析の結果を図9に示す。この図では、52-4蛾区由来のホモ接合型G3カイコにおける正常繭を示している。これらの結果から、52-4蛾区由来のSer1変異遺伝子を有するカイコのG3ホモ接合型個体も絹糸中のSer1量が著しく減少していることが確認された。また、52-4蛾区由来のSer1変異系統は、ホモ接合型での継代が可能であることが立証された。

Claims (10)

  1. カイコの野生型セリシン1遺伝子の第2イントロンのドナー部位における少なくとも1塩基、及び第2エクソンの3’末端に欠失、付加及び/又は置換の変異を含むセリシン1変異遺伝子を有するカイコのセリシン1変異系統。
  2. セリシン1変異遺伝子が第2エクソンの3’末端領域に1〜15個の塩基の欠失、付加及び/又は置換の変異をさらに含む、請求項1に記載のセリシン1変異系統。
  3. 前記ドナー部位における1塩基の欠失、及び第2エクソンの3’末端を含む連続する3塩基の欠失を含む、請求項2に記載のセリシン1変異系統。
  4. 前記ドナー部位の1塩基の欠失がドナー部位を含む連続する3塩基の欠失及び当該欠失箇所への2塩基の付加に基づく、請求項3に記載のセリシン1変異系統。
  5. 配列番号5に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号6に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むセリシン1変異遺伝子を有する、請求項4に記載のセリシン1変異系統。
  6. 第2イントロンのドナー部位2塩基の欠失、並びに第2エクソンの3’末端を含む6塩基の欠失を含む、請求項2に記載のセリシン1変異系統。
  7. 前記第2エクソンにおける6塩基の欠失が第2エクソンの3’末端を含む連続する12塩基の欠失及び当該欠失箇所への6塩基の付加に基づく、請求項6に記載のセリシン1変異系統。
  8. 配列番号7に示す塩基配列を有する第2エクソン及び配列番号8に示す塩基配列を有する第2イントロンを含むセリシン1変異遺伝子を有する、請求項7に記載のセリシン1変異系統。
  9. セリシン1変異遺伝子がホモ接合型である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のセリシン1変異系統。
  10. 請求項9に記載のカイコのセリシン1変異系統から得られる絹糸。
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