JP5098039B2 - 化合物の結合効率が向上した絹糸 - Google Patents

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本発明は化合物の結合効率が向上した絹糸に関する。より詳しくは、本発明は、遺伝子組換え技術を用いて作出した遺伝子組換えカイコにより生産される、化合物の結合効率が向上した絹糸に関する。
絹糸は、優れた機械的特性、吸湿特性および消臭特性を有し、衣服原料として広く用いられている素材である。また絹糸は免疫寛容な天然繊維であり、生体親和性が高いため手術用縫合糸など特別な用途を有する素材でもある。こうした優れた特性を有する絹糸に、化学的に化合物を結合させ、修飾することでさらに高機能化を目指す検討が進められている。これまで、絹糸に対し化学修飾を行うことにより、血液親和性(特許文献1)、骨結合性(特許文献2)、細胞接着性(非特許文献1)を付与した例が報告されている。
絹糸を化学修飾する為には、絹糸を構成するポリペプチドのアミノ酸側鎖またはポリペプチド末端に対して目的化合物を結合させる必要がある。これまで、絹糸の修飾方法として酸無水物等の反応性試薬を利用する方法が報告されている(非特許文献2)。たとえば、酸無水物は、塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニン、ヒスチジン、またはポリペプチドのアミノ末端に結合できるので、当該酸無水物を介して、絹糸を構成するポリペプチドに目的化合物を導入することが可能となる。しかしながら、酸無水物による化学修飾の起点は、上記の絹素材中のリジン等の反応性アミノ酸に限られるため、その結果、導入される化合物の量も限られ、十分にその機能を絹素材に付与できない。そのため、化学修飾の起点となるアミノ酸種をさらに増やし、絹糸に対する修飾効率を向上させる試みとして、ビニル基を有するイソシアネートによる絹糸の修飾方法が報告されている(特許文献3)。この方法では、イソシアネートは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基という種々の官能基と結合可能であり、塩基性アミノ酸に加え、酸性アミノ酸、セリン、スレオニンといった幅広いアミノ酸側鎖と反応可能である。またビニル基を有しているため、絹糸ポリペプチドに共有結合したビニル基をラジカル重合開始点とし、化合物の効率的なグラフト重合が可能である。しかしながら、この方法によっても、絹糸に対する化学修飾は依然として絹糸表層のポリペプチド由来の官能基を起点とした反応であり、絹糸が本来有する構成タンパク質のアミノ酸配列および性質に制限されるものであった。
絹糸を構成するポリペプチドは、絹糸表層に局在するセリシンと、絹糸芯部のフィブロインに大きく分類される。セリシンは、セリンを主としてアスパラギン酸、グルタミン酸、リジンなどの極性アミノ酸を多く含むタンパク質であるので、セリシン層が付着したままの未精錬絹糸に対しては上述のような反応性試薬が容易に結合できる。しかしながら、セリシンは水やアルカリに対して容易に溶解するので、セリシンに結合させた化合物もまたセリシンの溶解とともに除去されてしまう可能性が高く、安定性に乏しい。特に絹糸の生体内での利用を目的とする際、絹糸からの修飾化合物や架橋剤の離脱は大きな問題となる。また、絹糸は、用途・目的によっては、未精錬のまま用いる場合もあるが、染色性や光沢性の向上のため、通常は表面のセリシンを除去する精錬処理を行なう。従って、精錬処理を行なうことを前提とした場合、セリシンを構成するアミノ酸を目的化合物による修飾の起点にはできない。一方、セリシンを除去した精練後の絹糸表面には水不溶性であるフィブロイン分子が存在している。フィブロインは巨大な繊維状タンパク質であり、中性アミノ酸であるグリシンとアラニンが全体の75%を占め、さらにセリン、チロシンを加えた4種類のアミノ酸で全組成の90%を占める。従って、セリシンを除去した精練絹糸の表面には化学修飾の起点となり得るアミノ酸側鎖由来の官能基が非常に少なく、化合物を結合させる際にはフィブロイン分子のアミノ末端あるいはカルボキシル末端しか利用できないため、効率的な絹糸の修飾を行なうことは困難である。したがって、この精練絹糸に対して効率的な修飾手段があれば、安定性に優れ、かつ堅牢度の高い修飾絹糸を提供することが可能となる。
近年、カイコの遺伝子組換え技術がトランスポゾンベクターを用いることにより可能であることが報告された(非特許文献3)。また目的遺伝子の発現を制御するプロモーターを、絹糸由来タンパク質のプロモーターを利用することで、絹糸への目的遺伝子の発現を制御可能であることが報告されており、また目的遺伝子をセリシンプロモーターまたはフィブロインプロモーター(H鎖プロモーターまたはL鎖プロモーター)に連結することで、絹糸セリシン層へ目的遺伝子を発現させるか、あるいはフィブロイン層に発現させるかを選択できることが報告されている(特許文献4〜6)。これらのカイコ遺伝子組換え技術を用いて、これまでサイトカイン(特許文献5)、コラーゲン(特許文献7)、ワクチン(特許文献8)などの医薬上有用なタンパク質を生産可能なカイコの作出が報告されている。しかしながら、これらは有用タンパク質の高生産を目的として宿主としてカイコを用いたにすぎず、カイコ遺伝子組換え技術により絹糸の改質を試みたものではない。
特開2001-89973号公報 特開平10-127752号公報 特開2000-119964号公報 特開2001-161214号公報 特開2003-325188号公報 特開2004-254681号公報 特開2004-16144号公報 特開2005-97229号公報 Biomaterials, 67, 559-570 (2003) Polymeric Materials, 10, 7734 (1996) Nature Biotechnology, 18, 81-84 (2000)
従って、本発明では、カイコ遺伝子組換え技術を用い、化合物結合効率が向上した絹糸を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、化学反応の起点となる特定のアミノ酸の繰り返し配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子をカイコ染色体に導入して遺伝子組換えカイコを作製したところ、該遺伝子組換えカイコは、化合物の結合効率が向上した絹糸をフィブロイン層に産生できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を20%以上含むポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする絹糸。
(2) 前記ポリペプチドが、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸とその他のアミノ酸との繰り返し配列を含むことを特徴とする、(1)に記載の絹糸。
(3) 前記ポリペプチドが、G-X(Gはグリシン、Xはアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の絹糸。
(4) 前記ポリペプチドが、配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の絹糸。
(5) 絹糸が、精練操作によりセリシンが除去されていることを特徴とする、(1)〜(4)に記載の絹糸。
(6) 前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の絹糸。
(7) アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を20%以上含むポリペプチドをコードする遺伝子の5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子を結合させ、かつ3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子を結合させたことを特徴とする遺伝子。
(8) フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、またはセリシンプロモーターの下流に制御可能に連結されている、(7)に記載の遺伝子。
(9) (7)または(8)に記載の遺伝子が染色体に組み込まれた遺伝子組換えカイコ。
(10) (9)に記載の遺伝子組換えカイコを作製し、得られた遺伝子組換えカイコの繭を採取することを特徴とする、絹糸の製造方法。
本発明によれば、カイコ遺伝子組換え技術により、通常の絹糸に比べて化合物との結合効率が向上し、しかも絹糸本来の素材的特性を保持した絹糸が提供される。本発明の絹糸は、化学修飾の起点となる官能基を有する特定のアミノ酸組成を増加させたポリペプチドをフィブロイン層に有するので化合物が効率的に結合でき、かつフィブロイン層は水不溶性であるため結合が安定である。したがって、本発明の絹糸は、結合させる化合物の種類に応じて生体適合性、物質吸着性、染色堅牢度などが向上した高機能・高付加価値な絹糸として有用である。
1.化合物の結合効率が向上した絹糸
本発明の絹糸は、化学修飾の起点となる特定のアミノ酸組成を増加させたポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする。上記の特定のアミノ酸とは、反応性のアミノ酸側鎖を有するアミノ酸であって、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸をいう。なかでも、カルボキシル基を有するアスパラギン酸、グルタミン酸、アミド基を有するアスパラギン、グルタミン、アミノ基を有するアルギニン、リジンが好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミンがより好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸が最も好ましい。
上記のアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸(以下、「特定アミノ酸1種」という)は、現在の遺伝子組換えカイコ技術において絹糸に過剰発現させることが可能な遺伝子産物の発現量を考慮すると、フィブロイン層のポリペプチドに20%以上含まれることが絹糸の化合物結合効率を十分に向上させる上で好ましい。特定アミノ酸1種を20%以上含むポリペプチドとは、ポリペプチドを構成するアミノ酸数を100個とした際に、当該特定アミノ酸1種を20個以上含むポリペプチドのことをいう。
上記ポリペプチドは、天然由来のポリペプチドあるいは人為設計されたポリペプチドのいずれでもよい。天然由来のポリペプチドは、これをコードする遺伝子の生物学的安定性が保証されている。一方、人為設計されたポリペプチドは、特定アミノ酸1種のみで構成することも可能であり、より特定アミノ酸の導入の効果が期待できる。
上記ポリペプチドは、天然由来のポリペプチド、人為設計されたポリペプチドのいずれの場合も、その配列中に特定アミノ酸1種を20%以上含んでいれば、配列には特に制限はない。人為設計されたポリペプチドの配列は、特定アミノ酸1種を20%以上含む天然由来のポリペプチドの配列をタンデム化し、繰り返した配列であっても、特定アミノ酸1種を連続的にまたは間欠的に繰り返した配列であってもよい。しかしながら、特定アミノ酸1種を連続的に繰り返した単純な配列は、一般には、DNAのカイコ生体内での安定性に欠ける場合が多いため、遺伝子導入用ベクターの構築が困難となる。したがって、特定アミノ酸1種とその他のアミノ酸との繰り返し配列であることが好ましい。
ここで、その他のアミノ酸としては、非極性アミノ酸から選ばれる1種が挙げられ、例えば、フィブロイン層での組成比が高いグリシンまたはアラニンが好ましく、グリシンがより好ましい。
従って、本発明において特定アミノ酸1種とその他のアミノ酸との繰り返し配列の好適な具体例は、グリシン(G)と特定アミノ酸(X)との繰り返し配列であって、G-X(Gはグリシン、Xはアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列である。上述のような特定アミノ酸1種とグリシンから構成される繰り返し配列とすることで、絹糸本来のアミノ酸組成を大幅に改変することなく、かつ所望の特定のアミノ酸組成のみを効果的に増加させることが可能となる。
本発明において、特定アミノ酸1種とその他のアミノ酸との繰り返し配列の繰り返し回数は、当業者が遺伝子操作上困難でない程度の回数であって、カイコを宿主として用いた場合、繰り返し配列をコードする遺伝子がカイコ宿主内において安定で、かつ該繰り返し配列を含むポリペプチドを生産できる限り、特に限定はされない。また、繰り返し配列を含むポリペプチドの水溶性が高い場合、絹糸表面から当該ポリペプチドが脱離してしまう可能性が高い。したがって、化合物を安定に絹糸表面上に結合させるためには、繰り返し回数を可能な限り増やし、ポリペプチド自身の水溶性が低くなるようにすることが好ましい。したがって、繰り返し回数は、カイコにおけるポリペプチドの生産効率と、ポリペプチド自身の水溶性を吟味して設定することが好ましい。
本発明では、特定アミノ酸(X)とグリシン(Gly)が交互に繰り返された配列(X-Gly)を96個以上含むポリペプチドが好適であり、具体的には、配列番号13〜18に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
2.絹糸製造のための組換え遺伝子、ベクター
本発明においては、上記ポリペプチドを遺伝子組換えカイコにより生産される絹糸に発現させるために、当該ポリペプチドをコードする遺伝子に、カイコにおいて発現させるためのプロモーターなどの発現制御領域、シグナル配列、ポリA配列を付加して組換え遺伝子を作製する。
本発明で使用可能なプロモーターとしては、絹構成タンパク質の発現を制御しているフィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、セリシンプロモーターから選ばれる1種のプロモーターであることが好ましい。上記プロモーターは、カイコ幼虫の成長過程で、絹糸腺組織の形成・発達とともに組織特異的に、それぞれの遺伝子発現を制御するプロモーターとして知られている。すなわち、上述のプロモーター下流に(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を含むポリペプチド配列を連結することで、絹糸腺組織においてポリペプチドを特異的に発現制御することが可能となる。さらに、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を含むポリペプチドが絹糸腺内腔に分泌されることによって、絹糸吐糸過程にフィブロインまたはセリシンといった絹糸構成タンパク質とともに絹糸に分泌される。本発明では、特にフィブロイン層にポリペプチドを局在させることを意図し、フィブロインH鎖プロモーター下流に(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を連結させることが好適に行われる。これによりフィブロインが発現している絹糸腺、特に後部絹糸腺に目的とするポリペプチドを発現させ、フィブロインとともに絹糸として生産することが可能となる。また、本発明のポリペプチドの後部絹糸腺から絹糸腺内腔への分泌は、フィブロインH鎖由来のN末端配列およびC末端配列の付加によって促進されることが期待できる。したがって、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列の末端にフィブロインH鎖由来の末端配列を翻訳可能な状態で連結した遺伝子をフィブロインH鎖プロモーター下流に連結することが好ましい。具体的には、前記フィブロインH鎖プロモーター下流に連結する遺伝子として、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子の5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子を結合させ、かつ3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子を結合させた組換え遺伝子が好ましい。また、フィブロインH鎖遺伝子のプロモーターとしてはGeneBank登録番号V00094の塩基番号255-574番目、GeneBank登録番号AF226688の塩基番号62118-62437番目などが挙げられるが、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を絹糸に過剰発現させることが可能なプロモーターであれば限定されるものではない。
また、組換え遺伝子をカイコに導入するためのベクターは、上記組換え遺伝子を含み、その組換え遺伝子をカイコ染色体に導入できるものであれば特に限定はされず、カイコ核多角体ウイルスベクター(BmNPV)、トランスポゾン由来のDNA配列を含んだベクターなどを用いることができるが、後者が好ましい。
トランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac(Nature Biotechnology 18,81-84,2000)、ショウジョウバエ由来のトランスポゾンであるmariner(Third International workshop on transgenesis of invertebrate organisms,p37-38,1999)、Minos(Insect Mol.Biol.9,277-281,2000)などが挙げられるが、piggyBacが好ましい。PiggyBacトランスポゾンとは、両端に13塩基対の逆位配列と、内部に約2.1kbpのORFを有するDNA転写因子である。トランスポゾン由来のDNA配列とは、例えば、piggyBac由来のDNA配列である、TTAA配列を含む一対の末端逆位反復配列をいい、ベクター内において上記遺伝子を挟んでその両側に挿入する。
また、ベクターには、必要に応じて、遺伝子組換えカイコのスクリーニングを容易にするため、蛍光タンパク遺伝子などのマーカー遺伝子を挿入してもよい。例えば、適切なプロモーター下流に結合された緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を、上記の1対のトランスポゾン由来のDNA配列間の適切な部位に導入すればよい。ここで用いるプロモーターとしては、カイコ細胞内で有効に働くプロモーターであれば特に限定はされないが、たとえばショウジョウバエの熱ショックタンパク質遺伝子のプロモーター、カイコアクチン遺伝子のプロモーター(Nature Biotechnology 18,81-84,2000)、ショウジョウバエの視神経で発現することが知られている3xP3プロモーターなどが挙げられるが、カイコアクチン遺伝子のプロモーター(Nature Biotechnology 18,81-84,2000)または3xP3プロモーターが好ましい。
3.遺伝子組換えカイコ
本発明の遺伝子組換えカイコは、上記特定アミノ酸1種と他のアミノ酸との繰り返し配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子、たとえば、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列をコードするDNAを含む遺伝子が染色体に導入され、上記繰り返し配列をフィブロイン層に含む繭糸を産生するカイコのこという。目的遺伝子をコードする遺伝子が導入される染色体上の遺伝子座位は、カイコの発生、分化、成長を阻害しない部位であれば、特に制限はない。
(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列の繭糸および絹糸への含量は特に限定されないが、化合物の結合効率を十分に向上させることが可能な発現量であり、また糸の強度特性を損なわない程度の発現量であることが好ましい。
遺伝子のカイコ染色体への導入方法としては、遺伝子が安定に染色体に組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に遺伝子が伝わるような遺伝子導入方法であれば特に制限はされず、例えば、ベクターをカイコガ(Bombyx mori)の卵にマイクロインジェクションする方法、遺伝子銃を用いる方法などを用いることができる。
また、前記ベクターが、トランスポゾン由来のDNA配列を含むベクターである場合は、トランスポザーゼ遺伝子を含むヘルパープラスミド(Nature Biotechnology 18, 81-84, 2000)を同時にカイコ卵にマイクロインジェクションする。このようなベクターとしては、例えばTrichoplusia ni cell line TN-368、Autographa californica NPV(AcNPV)、Galleria mellonea NPV(GmMNPV)由来のpiggyBacを含むベクター、好ましくはTrichoplusia ni cell line TN-368由来PiggyBacの一部を持つプラスミドpHA3PIG、pPIGA3GFP(Nature biotechnology 18,81-84,2000)などを用いることができる。
上記のようにして染色体に遺伝子を導入したカイコは、通常の条件で催青し、孵化した幼虫を5令まで飼育し成虫を得る(G0世代)。得られたG0成虫の雌雄を交配して卵を得、これらの卵を催青し、孵化させる。次に得られた幼虫、好ましくは1〜2令のカイコ(G1世代)の中から目的とする遺伝子組換えカイコを選抜する。遺伝子組換えカイコの選抜は、例えば、遺伝子導入用ベクター内にGFPなどのマーカー遺伝子を挿入した場合は、上記のG1世代カイコ幼虫の中から緑色蛍光を発する個体を選抜することによってより簡便に行うことができる。
目的遺伝子は、マイクロインジェクションされたカイコ卵から孵化し、成長した遺伝子組換えカイコの生殖細胞へ導入される。こうして得られた遺伝子組換えカイコの子孫は、その染色体上に目的遺伝子を安定に保持することが可能である。本発明で得られる遺伝子組換えカイコは、通常のカイコと同様な方法で、継代維持可能である。すなわち、卵を通常の条件で催青し、孵化した蟻蚕を人工飼料等へ掃立てし、通常のカイコと同様な条件で飼育することで5令カイコまで飼育できる。
本発明で得られる遺伝子組換えカイコは、通常のカイコと同様に蛹化し、繭を作ることができる。蛹の段階で雌雄を区別し、発蛾したのち雌雄を交尾させ、翌日採卵する。卵は通常のカイコ卵と同様に保存することが可能である。本発明の遺伝子組換えカイコは、こうした飼育を繰り返すことで継代することが可能であり、また、大量に増やすことが可能である。
本発明でいう遺伝子組換えカイコが生産する絹糸とは、上記で得られた遺伝子組換えカイコの吐糸した繭を採取することによって得ることができる。本明細書において、絹糸とは、カイコにより吐糸される繭、繭から調製された生糸、生糸を精錬して得られた絹糸、2粒以上の複数の繭からマルチフィラメントとして操糸された絹糸の全てを含む概念である。
絹糸は、未精練の絹糸あるいは精練された絹糸のいずれの絹糸でもよいが、本発明において絹糸は特定アミノ酸の繰り返し配列を含むポリペプチドをフィブロイン層に発現させるので、精練操作によりセリシンを除去した絹糸に対して化合物を修飾する方が好ましい。絹糸の精練方法としては、石鹸精練、アルカリ精練、酵素精練などが挙げられるが、フィブロイン層に含まれる特定アミノ酸の繰り返し配列が分解されにくい精練方法であることが好ましい。
4.目的化合物を結合させた絹糸
本発明によれば、前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とする絹糸が提供される。本発明でいう目的化合物としては、絹糸に導入した前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に結合可能な化合物あれば特に限定はされない。化合物には、たとえば、天然高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類など)、合成高分子(ポリ乳酸、ポリグリコール酸など)などが含まれ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸、デキストラン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。
結合させる化合物の種類によって、生体親和性、細胞付着性、生分解性、物質吸着性、染色性、保湿性、免疫賦活性、抗血栓性、血液凝固性、創傷治癒促進性、抗菌性などが付与された絹糸を得ることができる。得られた絹糸は、その特性に応じて、人工血管、人工神経管、人工靱帯、人工腱、人工皮膚、外科用補填剤、外科用補強剤、外科用縫合糸、創傷保護材、シーツ、フィルターなどの各種用途に利用できる。
本発明の絹糸に対して結合させる目的化合物として一般の染料化合物を用いることもできる。染料として、塩基性染料または酸性染料を用いた場合は、絹糸に導入した前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基(カルボキシル基またはアミノ基)とそれぞれイオン結合可能である。また反応性染料を用いた場合は、絹糸に導入した前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基(カルボキシル基またはアミノ基)とそれぞれ共有結合可能である。また分散染料を用いた場合は、適当な縮合剤を介して絹糸と共有結合可能である。したがって、本発明の絹糸は染料化合物の結合の起点となる官能基が増加しているため、種々の染料との結合効率を向上させることが可能となる。本発明の染料は、酸性染料、塩基性染料、反応染料、分散染料、天然染料など特に一般に繊維染色に用いられる染料であれば限定されるものではない。また、染料の絹糸に対する染着方法も限定されるものではない。
目的化合物の絹糸に対する結合方法は、イオン結合、共有結合、疎水性相互作用、水素結合などが挙げられるが、アミノ酸由来の官能基と強固な結合が可能なイオン結合または共有結合であることが好ましい。特定アミノ酸として塩基性アミノ酸であるリジンまたはアルギニンを用いた場合は、カルボン酸、スルホン酸基など酸性の官能基を有する化合物とイオン結合可能である。また特定アミノ酸として酸性アミノ酸であるグルタミン酸またはアスパラギン酸を用いた場合は、アミノ基、グアニジル基を有する塩基性の官能基を有する化合物と結合させることが可能となる。共有結合としては、アミノ基またはカルボキシル基と共有結合可能な反応基を有する化合物を作用させることが好ましい。当該反応基としては、イソシアネート基、マレイミド基、エポキシ基、カルボジイミド基、酸無水物などが挙げられるが、絹糸表面の上記特定アミノ酸由来の官能基と結合可能な化合物であれば、特に限定はされない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)フィブロインN末端領域をコードする遺伝子及びC末端領域をコードする遺伝子の調製
フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(配列番号1)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号62118〜63513番目:以下「HP領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマー1(配列番号2)とプライマー2(配列番号3)を用いたPCRにより、取得した。
プライマー1(配列番号2):
aagcttggcg cgccgggaga aagcatgaag taagttcttt aaat
プライマー2(配列番号3):
gcatttctag aggatccgac atcactccca aaatagtcct catcaaaatc attgatg
フィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(配列番号4)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号79099〜79995番目:以下「CA領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマー3(配列番号5)とプライマー4(配列番号6)を用いたPCRにより取得した。
プライマー3(配列番号5):
gcggtctaga gtcgaccgca gttacgacta ttctcgtcgt aacgtc
プライマー4(配列番号6):
cttgcggcgc gccacgacgt agacgtatag ccatcgggga tcaaagc
PCRはKODplus(東洋紡(株)製)を用いて添付のプロトコールに従って行った。
PCR反応液組成を下記表1に、PCR反応条件を下記表2にそれぞれ示す。PCR反応はBiorad社のDNAサーマルサイクラーを用いて行った。
Figure 0005098039
Figure 0005098039
各PCR反応産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、それぞれHP領域では1.4kbp、CA領域では0.9kbpのDNA断片を常法に従って抽出、精製した。これらのDNA断片をそれぞれAscIおよびXbaIで切断し、AscIサイトを導入したpUC19ベクターにタカラバイオ(株)のDNA Ligation Kit Ver.2を用いて16℃で終夜反応を行って連結した。得られたpUCベクター(pUC-HP-CA)を用いて常法に従って大腸菌を形質転換した。形質転換体にPCR断片が挿入されていることは、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることにより確認した。また、プラスミドをシーケンスすることによって、それに含まれるPCR断片がそれぞれの遺伝子であることを確認した。
(実施例2)特定アミノ酸の繰り返し配列をコードする遺伝子の調製および遺伝子組換えカイコ発現ベクターの調製
配列番号7〜12で表される特定アミノ酸の繰り返し配列をコードする遺伝子(配列番号7:Gly-Lysの繰り返し配列、配列番号8:Gly-Argの繰り返し配列、配列番号9:Gly-Aspの繰り返し配列、配列番号10:Gly-Gluの繰り返し配列、配列番号11:Gly-Asnの繰り返し配列、配列番号12:Gly-Glnの繰り返し配列、をぞれぞれコードする遺伝子)は、合成オリゴヌクレオチドを出発材料とし、SpeIとNheIの制限酵素を用いた切断、及びライゲーションを繰り返すことにより調製した。調製した遺伝子断片を、実施例1で調製したフィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(HP領域)とフィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(CA領域)を有するプラスミド(pUC-HP-CA)のBamHIとSalIサイトにクローニングした(図1)。ここで得られた発現カセット:HP-GX-CA(Xは特定アミノ酸であるK、R、D、E、N、Q)は、フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域/GX/フィブロインH鎖C末端領域・フィブロインH鎖ポリA領域を含む。
一方、遺伝子導入用プラスミドには、Trichoplusiani(イラクサキンウワバ)由来のトランスポゾンの末端逆位反復配列を含む、pigA3GFP(Nature Biotechnology 18, 81-84, 2000)を利用した。pigA3GFPは、米国特許第218185号に開示されるプラスミドp3E1.2よりトランスポザーゼ(transposase)をコードする領域を取り除き、その部分にA3プロモーター(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)及びpEGFP-N1ベクター(Clontech社製)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)及びSV40由来ポリA付加配列(GenBank登録番号U55762の塩基番号659〜2578番目)を挿入したベクターであり、このベクターは独立行政法人農業生物資源研究所より分与可能である。pigA3GFPのA3プロモーターの上流側にあるAscIを用いて前記のGX発現カセット(HP-GX-CA)を挿入し、pBAC-HP-GX-CAを得た。
図1に、上記で得られたGX発現カセット(HP-GX-CA)の構造、及びGX遺伝子導入用ベクター(pBAC-HP-GX-CA)の構築手順を示す。これらの発現カセットより、フィブロインH鎖遺伝子プロモーターの制御下で発現される、GXとフィブロインH鎖との融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号13〜18に示す(配列番号13:XがLys、配列番号14:XがArg、配列番号15:XがAsp、配列番号16:XがGlu、配列番号17:XがAsn、配列番号18:XがGln)。
(実施例3) 遺伝子組換えカイコの作製
実施例2で構築したベクター(pBAC-HP-GX-CA)6種類(GX: GK, GR, GD, GE, GN, GQ)
とピギーバックトランスポザーゼタンパク質を生産するDNA(pHA3PIG)を各200μg/ml含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)/5mMKCl溶液を調製し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。上記のpHA3PIG(Nature biotechnology 18,81-84,2000 農業生物資源研究所より分与可能)は、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列と5’フランキング領域、トランスポザーゼ遺伝子のリーダー配列を欠いており、その代わりにカイコアクチン遺伝子の5’フランキング領域とリーダー配列が組み込まれている。pHA3PIGはアクチンプロモーターの働きによりピギーバックトランスポザーゼタンパク質を作る機能を持つが、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列が欠損しているため自身のDNAは転移しない。
マイクロインジェクション後、カイコ卵より孵化した幼虫を飼育し、得られた成虫(G0)を群内で掛け合わせて得られた次世代(G1)をGFPの蛍光を指標として、目的遺伝子が染色体へ導入された遺伝子組換えカイコをスクリーニングした。
(実施例4) SDS-PAGE銀染色によるカイコ繭糸における特定アミノ酸の繰り返し配列の発現解析
実施例3で得られた遺伝子組換えカイコの繭糸における特定アミノ酸の繰り返し配列の発現を以下のようにしてSDS-PAGE銀染色により調べた。
GFPにより目的遺伝子の導入が確認されたカイコの繭糸を各10mg量り採り、60%LiSCN4mlを加え攪拌後、室温にて終夜静置し、繭糸を溶解した。この繭糸溶解液を8M尿素/2%SDS/5% 2-メルカプトエタノールにて10倍希釈したものをサンプルとした。得られたサンプルについて、SDS-PAGE(5-20%)で泳動分離した後、銀染色(和光純薬)にて染色を行った(図2)。
遺伝子組換えによって得られた6種類の繭糸を解析した結果、遺伝子組換えを行っていない絹糸である実験用品種(WIPND)および実用品種(白C)には存在しないバンドが、GD、GE、GQ、GNに関して検出された。GK、GRに関しては新規のバンドは全く検出されず、繭中に発現していない、あるいは発現していても発現量が非常に少ないことが示された。またGNに関しては、推定分子量よりかなり大きなサイズにバンドが確認されたが、GD、GE、GQに関しては、推定分子サイズとほぼ一致する箇所にバンドが確認された(図2、表3)。
Figure 0005098039
(実施例5) 絹糸アミノ酸組成の解析
(1) 遺伝子組換えカイコの繭糸の精錬
実施例3で得られた遺伝子組換えカイコ(G1)を野生カイコ(白C)と交配して得られた世代(G2)のうち、GE、GD、GQ遺伝子の導入が確認されたカイコの繭糸を煮繭し、紡糸した。得られた絹糸をマルセル石鹸溶液中で、100℃にて30分精錬を行った。この精錬後の繭糸(以下、「遺伝子組換え絹糸GX(XはE、D、Qのいずれかに対応)」という)を、70%エタノールでよく洗浄し、以下の実験に用いた。また実験用品種(WIPND)と野生カイコ(白C)と交配して得られたカイコの絹糸を比較(以下、「比較絹糸」という)として用いた。これらの絹糸を加水分解し、既報に準じてアミノ酸組成を決定した。比較絹糸および遺伝子組換え絹糸のアミノ酸組成および増減率を表4に示す。
Figure 0005098039
表4に示されるように、遺伝子組換え絹糸GE、GD、GQのアミノ酸組成と比較絹糸のアミノ酸組成を比較すると、グリシン、アラニン、セリン、チロシンのアミノ酸組成比率はほとんど変化がなかったのに対し、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミンのアミノ酸組成比率は変化が認められた。遺伝子組換え絹糸GEにおけるグルタミン酸のアミノ酸組成比率(1.29%)は、比較絹糸におけるグルタミン酸のアミノ酸組成比率(1.15%)より0.14%増加しており、遺伝子組換え絹糸GEのグルタミン酸は比較絹糸を基準とすると約12%増加したことを示す。また、遺伝子組換え絹糸GDにおけるアスパラギン酸のアミノ酸組成比率(2.0%)は、比較絹糸におけるアスパラギン酸のアミノ酸組成比(1.64%)より0.36%増加しており、遺伝子組換え絹糸GDのアスパラギン酸は比較絹糸を基準とすると約22%増加したことを示す。一方、遺伝子組換え絹糸GQは、グルタミン含量が増加しているはずであるが、アミノ酸組成解析の際の加水分解反応によりグルタミンおよびアスパラギンは、それぞれグルタミン酸、アスパラギン酸に変換され定量化される。したがって、遺伝子組換え絹糸GQにおけるグルタミンの増減は、グルタミン酸の数値で推定可能である。遺伝子組換え絹糸GQにおけるグルタミン酸のアミノ酸組成比(1.76%)は、比較絹糸におけるグルタミン酸のアミノ酸組成比(1.15%)より0.61%増加しており、遺伝子組換え絹糸GQのグルタミン酸は比較絹糸を基準とすると約53%増加したことを示す。遺伝子組換え絹糸GE、GDでは、それぞれの特定アミノ酸であるグルタミン酸、およびアスパラギン酸のアミノ酸組成が増加していることから、遺伝子組換え絹糸GQのグルタミン酸の増加は、アミノ酸繰り返し配列に起因するグルタミン配列の増加に伴うものだと考えられる。
以上の結果より、遺伝子組換え絹糸GD、GE、GQは、それぞれに対応する特定アミノ酸のみが選択的に増加していることが示された。
(実施例6) カルボジイミドを縮合剤として用いた絹糸の修飾効率
遺伝子組換え絹糸GD、GE、GQを用い、これらの絹糸に対する化学的な修飾効率を評価した。実施例5より遺伝子組換え絹糸GD、GEに関しては、それぞれの特定アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸が組成として増加していることが示された。これに伴って、精練絹糸表面に存在するカルボキシル基も増加していることが予想された。そこで実際に、絹糸表面のカルボキシル基に対する修飾効率が増加しているか検討した。修飾効率を評価するために、中性条件下でカルボキシル基に結合可能なカルボジイミドを用い、これを介してアミノ基を有する目的化合物の修飾を行った。アミノ基を有する目的化合物として、アミノ化ビオチン(ピアス社製)を用い、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識されたストレプトアビジン(ピアス社製)を結合させた。結合量の評価は、HRPの基質であるTMB(BioEX社製)の発色によって行った。比較として実施例5で用いた精練された比較絹糸を用い、このときの修飾効率を1として相対的な修飾効率を数値化した(表5)。その結果、GQに関しては、比較絹糸とほぼ同等の修飾効率であるのに対し、GD、GEに関しては修飾効率が、それぞれ5倍、4倍と大きく向上した。GQは遺伝子組換え絹糸であるものの、グルタミンとグリシンの繰り返し配列を導入している絹糸であり、グルタミン組成を向上させた絹糸である。したがって、遺伝子組換え絹糸GQの絹糸表面のカルボキシル基は比較絹糸とほぼ同等であるため、修飾効率の向上は見られなかったものと考えられる。一方、遺伝子組換え絹糸GE、GDに関しては、酸性アミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸の絹糸中の含量がそれぞれ増加し、修飾効率も向上したものと考えられる。
Figure 0005098039
(実施例7) 塩基性染料を用いた絹糸の染色
比較絹糸および遺伝子組換え絹糸GEおよびGD約10mgの試料を秤量し、染料(Basic Red 13)0.2g/L、酢酸1g/L、酢酸ナトリウム0.5g/Lを含む染色液200ml中で90℃、5時間染色した。染色後、試料を十分に水で洗浄し、デシケーター中で乾燥した。染色絹糸を精秤した後、ジオキサンの50vol%水溶液で染着染料を抽出した。分光光度計を用いて抽出液536.20nmの吸光度を測定し、各絹糸の染着量を求めた(表6)。その結果、GEでは比較絹糸と比較して染色効率が18%向上し、またGDでは比較絹糸と比較して染色効率が88%向上し、遺伝子組換えによる染色性向上効果が確認された。
Figure 0005098039
GX発現カセット(HP-GX-CA)の構造、及びGX遺伝子導入用ベクター(pBAC-HP-GX-CA)の構築手順を示す。 遺伝子組換え繭のSDS-PAGE銀染色(5-20%)を示す。矢印は遺伝子組換えに伴う発現産物。

Claims (7)

  1. 配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする絹糸。
  2. 絹糸が、精練操作によりセリシンが除去されていることを特徴とする請求項に記載の絹糸。
  3. 前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とす
    る、請求項1または2に記載の絹糸。
  4. 配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子の5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子を結合させ、かつ3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子を結合させたことを特徴とする遺伝子。
  5. フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、またはセリシンプロモーターの下流に制御可能に連結されている、請求項に記載の遺伝子。
  6. 請求項またはに記載の遺伝子が染色体に組み込まれた遺伝子組換えカイコ。
  7. 請求項に記載の遺伝子組換えカイコを作製し、得られた遺伝子組換えカイコの繭を採取することを特徴とする、絹糸の製造方法。
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