JP5098039B2 - 化合物の結合効率が向上した絹糸 - Google Patents
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(1) アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を20%以上含むポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする絹糸。
(2) 前記ポリペプチドが、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸とその他のアミノ酸との繰り返し配列を含むことを特徴とする、(1)に記載の絹糸。
(3) 前記ポリペプチドが、G-X(Gはグリシン、Xはアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列を含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の絹糸。
(4) 前記ポリペプチドが、配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の絹糸。
(5) 絹糸が、精練操作によりセリシンが除去されていることを特徴とする、(1)〜(4)に記載の絹糸。
(6) 前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の絹糸。
(7) アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸を20%以上含むポリペプチドをコードする遺伝子の5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子を結合させ、かつ3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子を結合させたことを特徴とする遺伝子。
(8) フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、またはセリシンプロモーターの下流に制御可能に連結されている、(7)に記載の遺伝子。
(9) (7)または(8)に記載の遺伝子が染色体に組み込まれた遺伝子組換えカイコ。
(10) (9)に記載の遺伝子組換えカイコを作製し、得られた遺伝子組換えカイコの繭を採取することを特徴とする、絹糸の製造方法。
本発明の絹糸は、化学修飾の起点となる特定のアミノ酸組成を増加させたポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする。上記の特定のアミノ酸とは、反応性のアミノ酸側鎖を有するアミノ酸であって、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、スレオニン、およびセリンからなる群より選ばれるいずれか1種のアミノ酸をいう。なかでも、カルボキシル基を有するアスパラギン酸、グルタミン酸、アミド基を有するアスパラギン、グルタミン、アミノ基を有するアルギニン、リジンが好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミンがより好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸が最も好ましい。
本発明においては、上記ポリペプチドを遺伝子組換えカイコにより生産される絹糸に発現させるために、当該ポリペプチドをコードする遺伝子に、カイコにおいて発現させるためのプロモーターなどの発現制御領域、シグナル配列、ポリA配列を付加して組換え遺伝子を作製する。
本発明の遺伝子組換えカイコは、上記特定アミノ酸1種と他のアミノ酸との繰り返し配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子、たとえば、(G-X)で表されるアミノ酸配列の繰り返し配列をコードするDNAを含む遺伝子が染色体に導入され、上記繰り返し配列をフィブロイン層に含む繭糸を産生するカイコのこという。目的遺伝子をコードする遺伝子が導入される染色体上の遺伝子座位は、カイコの発生、分化、成長を阻害しない部位であれば、特に制限はない。
本発明によれば、前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とする絹糸が提供される。本発明でいう目的化合物としては、絹糸に導入した前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に結合可能な化合物あれば特に限定はされない。化合物には、たとえば、天然高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類など)、合成高分子(ポリ乳酸、ポリグリコール酸など)などが含まれ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸、デキストラン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。
フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(配列番号1)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号62118〜63513番目:以下「HP領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマー1(配列番号2)とプライマー2(配列番号3)を用いたPCRにより、取得した。
プライマー1(配列番号2):
aagcttggcg cgccgggaga aagcatgaag taagttcttt aaat
プライマー2(配列番号3):
gcatttctag aggatccgac atcactccca aaatagtcct catcaaaatc attgatg
フィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(配列番号4)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号79099〜79995番目:以下「CA領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマー3(配列番号5)とプライマー4(配列番号6)を用いたPCRにより取得した。
プライマー3(配列番号5):
gcggtctaga gtcgaccgca gttacgacta ttctcgtcgt aacgtc
プライマー4(配列番号6):
cttgcggcgc gccacgacgt agacgtatag ccatcgggga tcaaagc
PCRはKODplus(東洋紡(株)製)を用いて添付のプロトコールに従って行った。
PCR反応液組成を下記表1に、PCR反応条件を下記表2にそれぞれ示す。PCR反応はBiorad社のDNAサーマルサイクラーを用いて行った。
配列番号7〜12で表される特定アミノ酸の繰り返し配列をコードする遺伝子(配列番号7:Gly-Lysの繰り返し配列、配列番号8:Gly-Argの繰り返し配列、配列番号9:Gly-Aspの繰り返し配列、配列番号10:Gly-Gluの繰り返し配列、配列番号11:Gly-Asnの繰り返し配列、配列番号12:Gly-Glnの繰り返し配列、をぞれぞれコードする遺伝子)は、合成オリゴヌクレオチドを出発材料とし、SpeIとNheIの制限酵素を用いた切断、及びライゲーションを繰り返すことにより調製した。調製した遺伝子断片を、実施例1で調製したフィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(HP領域)とフィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(CA領域)を有するプラスミド(pUC-HP-CA)のBamHIとSalIサイトにクローニングした(図1)。ここで得られた発現カセット:HP-GX-CA(Xは特定アミノ酸であるK、R、D、E、N、Q)は、フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域/GX/フィブロインH鎖C末端領域・フィブロインH鎖ポリA領域を含む。
実施例2で構築したベクター(pBAC-HP-GX-CA)6種類(GX: GK, GR, GD, GE, GN, GQ)
とピギーバックトランスポザーゼタンパク質を生産するDNA(pHA3PIG)を各200μg/ml含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)/5mMKCl溶液を調製し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。上記のpHA3PIG(Nature biotechnology 18,81-84,2000 農業生物資源研究所より分与可能)は、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列と5’フランキング領域、トランスポザーゼ遺伝子のリーダー配列を欠いており、その代わりにカイコアクチン遺伝子の5’フランキング領域とリーダー配列が組み込まれている。pHA3PIGはアクチンプロモーターの働きによりピギーバックトランスポザーゼタンパク質を作る機能を持つが、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列が欠損しているため自身のDNAは転移しない。
実施例3で得られた遺伝子組換えカイコの繭糸における特定アミノ酸の繰り返し配列の発現を以下のようにしてSDS-PAGE銀染色により調べた。
GFPにより目的遺伝子の導入が確認されたカイコの繭糸を各10mg量り採り、60%LiSCN4mlを加え攪拌後、室温にて終夜静置し、繭糸を溶解した。この繭糸溶解液を8M尿素/2%SDS/5% 2-メルカプトエタノールにて10倍希釈したものをサンプルとした。得られたサンプルについて、SDS-PAGE(5-20%)で泳動分離した後、銀染色(和光純薬)にて染色を行った(図2)。
(1) 遺伝子組換えカイコの繭糸の精錬
実施例3で得られた遺伝子組換えカイコ(G1)を野生カイコ(白C)と交配して得られた世代(G2)のうち、GE、GD、GQ遺伝子の導入が確認されたカイコの繭糸を煮繭し、紡糸した。得られた絹糸をマルセル石鹸溶液中で、100℃にて30分精錬を行った。この精錬後の繭糸(以下、「遺伝子組換え絹糸GX(XはE、D、Qのいずれかに対応)」という)を、70%エタノールでよく洗浄し、以下の実験に用いた。また実験用品種(WIPND)と野生カイコ(白C)と交配して得られたカイコの絹糸を比較(以下、「比較絹糸」という)として用いた。これらの絹糸を加水分解し、既報に準じてアミノ酸組成を決定した。比較絹糸および遺伝子組換え絹糸のアミノ酸組成および増減率を表4に示す。
以上の結果より、遺伝子組換え絹糸GD、GE、GQは、それぞれに対応する特定アミノ酸のみが選択的に増加していることが示された。
遺伝子組換え絹糸GD、GE、GQを用い、これらの絹糸に対する化学的な修飾効率を評価した。実施例5より遺伝子組換え絹糸GD、GEに関しては、それぞれの特定アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸が組成として増加していることが示された。これに伴って、精練絹糸表面に存在するカルボキシル基も増加していることが予想された。そこで実際に、絹糸表面のカルボキシル基に対する修飾効率が増加しているか検討した。修飾効率を評価するために、中性条件下でカルボキシル基に結合可能なカルボジイミドを用い、これを介してアミノ基を有する目的化合物の修飾を行った。アミノ基を有する目的化合物として、アミノ化ビオチン(ピアス社製)を用い、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識されたストレプトアビジン(ピアス社製)を結合させた。結合量の評価は、HRPの基質であるTMB(BioEX社製)の発色によって行った。比較として実施例5で用いた精練された比較絹糸を用い、このときの修飾効率を1として相対的な修飾効率を数値化した(表5)。その結果、GQに関しては、比較絹糸とほぼ同等の修飾効率であるのに対し、GD、GEに関しては修飾効率が、それぞれ5倍、4倍と大きく向上した。GQは遺伝子組換え絹糸であるものの、グルタミンとグリシンの繰り返し配列を導入している絹糸であり、グルタミン組成を向上させた絹糸である。したがって、遺伝子組換え絹糸GQの絹糸表面のカルボキシル基は比較絹糸とほぼ同等であるため、修飾効率の向上は見られなかったものと考えられる。一方、遺伝子組換え絹糸GE、GDに関しては、酸性アミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸の絹糸中の含量がそれぞれ増加し、修飾効率も向上したものと考えられる。
比較絹糸および遺伝子組換え絹糸GEおよびGD約10mgの試料を秤量し、染料(Basic Red 13)0.2g/L、酢酸1g/L、酢酸ナトリウム0.5g/Lを含む染色液200ml中で90℃、5時間染色した。染色後、試料を十分に水で洗浄し、デシケーター中で乾燥した。染色絹糸を精秤した後、ジオキサンの50vol%水溶液で染着染料を抽出した。分光光度計を用いて抽出液536.20nmの吸光度を測定し、各絹糸の染着量を求めた(表6)。その結果、GEでは比較絹糸と比較して染色効率が18%向上し、またGDでは比較絹糸と比較して染色効率が88%向上し、遺伝子組換えによる染色性向上効果が確認された。
Claims (7)
- 配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをフィブロイン層に有することを特徴とする絹糸。
- 絹糸が、精練操作によりセリシンが除去されていることを特徴とする請求項1に記載の絹糸。
- 前記ポリペプチドのアミノ酸側鎖の官能基に、目的化合物を結合させたことを特徴とす
る、請求項1または2に記載の絹糸。 - 配列番号13〜18のいずれかに示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子の5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子を結合させ、かつ3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子を結合させたことを特徴とする遺伝子。
- フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、またはセリシンプロモーターの下流に制御可能に連結されている、請求項4に記載の遺伝子。
- 請求項4または5に記載の遺伝子が染色体に組み込まれた遺伝子組換えカイコ。
- 請求項6に記載の遺伝子組換えカイコを作製し、得られた遺伝子組換えカイコの繭を採取することを特徴とする、絹糸の製造方法。
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