JP2023084919A - 不妊性チョウ目昆虫の生産方法及びチョウ目昆虫の不妊化剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】チョウ目昆虫を簡便、かつ安定的に、また効率的に不妊化でき、また生殖系列細胞にのみ異常をもたらす不妊化方法により不妊性チョウ目昆虫を生産する方法、及びその方法を実施可能な不妊化剤を提供する。【解決手段】宿主チョウ目昆虫におけるnanosP遺伝子の機能を喪失させる。【選択図】なし

Description

本発明は、不妊性チョウ目昆虫の生産方法及びその方法に用いるチョウ目昆虫の不妊化剤に関する。
遺伝子組換え技術に代表される遺伝子改変技術は、遺伝子やタンパク質の機能解析、及びタンパク質等の物質生産系において不可欠な技術である。従来、遺伝子組換え技術で使用する宿主生物には、主として大腸菌や酵母が利用されてきた。しかし、これらの生物はタンパク質等の大量生産を目的とした物質生産系としては好適とは言い難かった。
そこで、近年ではタンパク質の大量生産系宿主としてカイコ(Bombyx mori)が注目されている。カイコは、絹を生産するために古くから産業上利用されてきた昆虫であり、前蛹期に繭を作るため短期間で絹糸を大量に生産することができる。これは、カイコの絹糸腺におけるタンパク質生産能力の高さに基づく。この生産能力を利用して遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)を作出し、絹糸以外の有用タンパク質を大量生産する技術が注目されている。
一方、遺伝子組換え技術を用いた物質生産系では、遺伝子組換え生物の野外流出による遺伝子環境汚染の問題を伴う。カイコは飛翔能力を完全喪失しているためカルタヘナ法に基づく第一種使用、すなわち環境中への拡散を防止せずに行う使用が承認されている。しかし、飛翔能力を有し、外部から侵入し得る近縁種のクワコ(Bombyx mandarina)の雄とカイコの雌は交雑する可能性を排除できない。そのため、有用系統の維持や遺伝子組換え体の環境中への拡散を防止する上でも次世代が得られないカイコの不妊化技術の開発は産業上重要である。
昆虫を不妊化する方法は、従来、主に不妊虫放飼法(SIT:Sterile Insect Technique)における不妊虫の作製のため開発され、また実施されてきた。不妊化方法には、例えば、放射線照射方法が知られている。
放射線照射方法は、対象昆虫の生殖細胞にX線やγ線等の放射線を照射することで、精子不活化、産卵喪失、産卵数減少、及び交尾不能等を誘導し、対象昆虫を不妊化する方法である(非特許文献1、2)。しかし、この方法は照射施設を必要とする安全性等への懸念に加え、放射線照射が虫体の活力低下をもたらす懸念等の問題があった。
農林水産ジャーナル(1980)、3巻2号、p.32-34 化学と生物(1993)、vol.31、No.2、p.137-139
本発明の課題は、チョウ目昆虫を簡便、かつ安定的に、また効率的に不妊化でき、また生殖系列細胞にのみ異常をもたらす新たな不妊化方法を開発し、それを用いた不妊性チョウ目昆虫の生産方法、及びその方法を実施可能な不妊化剤を開発し、提供することである。
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意研究を行った結果、チョウ目昆虫に存在する4つのnanos遺伝子(nanosM遺伝子、nanosN遺伝子、nanosO遺伝子、及びnanosP遺伝子)のうち、nanosP遺伝子機能を阻害した場合に成虫卵巣内の成熟卵のほぼ完全な消滅、並びに精巣消滅等の生殖細胞系列形成不全に起因すると思われる顕著な異常が現れ、不妊になった。しかし、生殖系列細胞以外は正常であることも明らかになった。この現象を応用することでチョウ目昆虫を遺伝学的に不妊化することが可能となる。本発明は、当該知見に基づくもので以下を提供する。
(1)nanosP遺伝子の機能を阻害する工程を含む不妊性チョウ目昆虫の生産方法。
(2)前記遺伝子の機能阻害が遺伝子ノックアウト法を用いる、(1)に記載の生産方法。
(3)前記遺伝子ノックアウト法がゲノム編集法である、(2)に記載の生産方法。
(4)前記nanosP遺伝子が以下の(a)~(c)に示すアミノ酸配列からなるnanosPタンパク質をコードする塩基配列からなる、(1)~(3)のいずれかに記載の生産方法。
(a)配列番号1で示すアミノ酸配列、
(b)配列番号1で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、又は
(c)配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列
(5)前記nanosP遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、(4)に記載の生産方法。
(6)nanosP遺伝子の発現が阻害された不妊性チョウ目昆虫。
(7)前記機能阻害が各遺伝子の遺伝子ノックアウト法による、(6)に記載の不妊性チョウ目昆虫。
(8)前記遺伝子ノックアウト法がゲノム編集法である、(7)に記載の不妊性チョウ目昆虫。
(9)nanosP遺伝子の機能を阻害する遺伝子機能阻害剤を有効成分とするチョウ目昆虫の不妊化剤。
(10)前記遺伝子機能阻害剤が宿主ゲノム上のnanosP遺伝子を特異的に破壊するゲノム編集ツールからなる、(9)に記載の不妊化剤。
本発明の不妊性チョウ目昆虫の生産方法によれば、生殖系列細胞にのみに異常を有する不妊性チョウ目昆虫を簡便、かつ安定的に、また効率的に生産することができる。
また、本発明のチョウ目昆虫の不妊化剤によれば、所望する任意のチョウ目昆虫を容易、かつ安定的に、また効率的に不妊化させることができる。
カイコ雌成虫個体の卵巣を示す図である。Aは野生型の卵巣を、BはnanosPノックアウト個体の卵巣を、それぞれ示す。図中の矢印は発達した卵細胞を示す。 カイコ雄成虫個体の生殖器官を示す図である。Aは野生型の生殖器官を、BはnanosPノックアウト個体の生殖器官を、それぞれ示す。Aにおける図中の矢印は精巣を示す。一方、Bでは矢印で示す精巣が存在すべき位置に精巣が見られない。 交配後の野生型雌個体が産卵した卵を28℃にて5日間程度インキュベートした後の産卵台紙上の卵を示す図である。BはnanosPノックアウト雄個体と交配させた後に野生型雌個体が産卵した卵を、Aはその後野生型雄個体と交配させた同じ野生型雌個体が産卵した卵をそれぞれ示す。受精した卵は黒い色に変色した催青卵となる。
1.不妊性チョウ目昆虫生産方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、不妊性チョウ目昆虫の生産方法である。本発明の生産方法は、対象チョウ目昆虫におけるnanosP遺伝子の機能を阻害することで、その昆虫の生殖系列細胞の異常を誘導し、不妊性のチョウ目昆虫を生産することを特徴とする。
1-2.用語の定義
本明細書で頻用する用語の定義について以下で説明をする。
「チョウ目昆虫」とは、分類学上のチョウ目(Lepidoptera)に属する昆虫であって、チョウ又はガをいう。チョウには、タテハチョウ科(Nymphalidae)、アゲハチョウ科(Papilionidae)、シロチョウ科(Pieridae)、シジミチョウ科(Lycaenidae)、及びセセリチョウ科(Hesperiidae)に属する昆虫が含まれる。ガには、ヤママユガ科(Saturniidae)、カイコガ科(Bombycidae)、イボタガ科(Brahmaeidae)、オビガ科(Eupterotidae)、カレハガ科(Lasiocampidae)、ミノガ科(Psychidae)、シャクガ(Geometridae)、ヒトリガ科(Archtiidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)等に属する昆虫が含まれる。例えば、ガであれば、Bombyx属、Samia属、Antheraea属、Saturnia属、Attacus属、Rhodinia属に属する種、具体的には、カイコ、クワコ(Bombyx mandarina)、シンジュサン(Samia cynthia;エリサンSamia cynthia ricini及びシンジュサンとエリサンの交配種を含む)、ヤママユガ(Antheraea yamamai)、サクサン(Antheraea pernyi)、ヒメヤママユ(Saturnia japonica)、オオミズアオ(Actias gnoma)等が挙げられるが、本発明のチョウ目昆虫は、これらに限定はされない。好ましくはカイコである。
本明細書において「対象チョウ目昆虫」とは、本発明の不妊性チョウ目昆虫の生産方法を適用するチョウ目昆虫、又は本発明のチョウ目昆虫の不妊化組成物の投与対象となるチョウ目昆虫をいう。
本明細書において「不妊」とは、妊性の喪失又は著しい低下により、次世代個体を形成する繁殖能力が喪失又は減退していることをいう。本明細書の不妊は、限定はしないが、主として生殖系列細胞の異常により生じ得る。
本明細書において「不妊化」とは、正常状態の個体を不妊状態に変化させることをいう。
本明細書において「不妊性」とは、不妊状態であること、又は不妊の特徴を有することをいう。
本明細書において「生殖系列細胞」とは、生殖に直接関与する卵若しくは卵子及び精子と将来卵(卵子)と精子となる細胞をいう。具体的には、卵(卵子)及び精子、卵原細胞、卵母細胞、精原細胞、精母細胞、精細胞、及び将来前記細胞に分化する始原生殖細胞(Primordial Germ Cell: PGC)を含む。
本明細書において「生殖系列細胞(の)異常」とは、生殖系列細胞の消失等の形成不全、並びに形態及び性状の異常を言う。
本明細書において「遺伝子の機能を阻害する」又は「遺伝子機能の阻害」とは、遺伝子ノックアウトともいい、遺伝子を破壊し、その遺伝子がコードするタンパク質の機能を完全喪失させることをいう。具体的には、標的遺伝子の破壊が挙げられる。
本明細書で「発現ベクター」とは、タンパク質又は機能性核酸をコードする核酸分子を作動可能な状態で含み、その核酸分子の発現を制御できるベクターをいう。例えば、プラスミド等が挙げられる。また、本明細書で「作動可能な状態」とは、発現ベクター内で目的の核酸分子をプロモーターの制御下に配置することをいう。これにより、プロモーターの活性により目的の核酸分子の発現が開始される状態となる。
「ゲノム編集」とは、DNA切断酵素による二本鎖切断(double strand break:DSB)に伴うDNA修復機構等を利用して、ゲノム上の任意の位置で外来遺伝子の挿入(ノックイン)や標的遺伝子の破壊(ノックアウト)を行う遺伝子ターゲティング技術である。
1-3.方法
本発明の不妊性チョウ目昆虫の生産方法は、必須の工程として遺伝子機能阻害工程を含む。以下この工程を具体的に説明する。
1-3-1.遺伝子機能阻害工程
「遺伝子機能阻害工程」は、対象チョウ目昆虫におけるnanosP遺伝子の遺伝子機能を阻害する工程である。チョウ目昆虫ではnanosPタンパク質を機能喪失させることで生殖系列細胞の形成が阻害され、雌雄ともに不妊となることが本発明者らの研究結果から明らかになった。本工程では、その現象を利用して、対象チョウ目昆虫におけるnanosP遺伝子の機能を阻害し、その昆虫を不妊化させる。
「nanos遺伝子」(又はnos遺伝子)とは、nanosタンパク質をコードする遺伝子である。「nanosタンパク質」は、ジンクフィンガーモチーフを有する進化的に保存されたタンパク質である。ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いた研究からnanosタンパク質は始原生殖細胞(PGC)の生存・増殖等に機能すると考えられている(Keuckelaere E.D. et al., 2018, Cell Mol Life Sci., 75:1929-1946)。チョウ目昆虫では他の昆虫と異なり、4種のnanosパラログ(nanosM、nanosN、nanosO、及びnanosP)遺伝子が存在する(Nakao H., et al., 2008, Evolution & Development, 10(5): 548-554;Carter J-M, et al.,2015, PLoS ONE, 10: e0144471)。カイコでも同様に4種のパラログ遺伝子(それぞれBm-nosM、Bm-nosN、Bm-nosO、及びBm-nosP)が同定されており、組織発現の結果からBm-nosOタンパク質は始原生殖細胞の形成に重要なことが示唆されている。ゲノム編集技術を用いたBm-nosO遺伝子ノックアウトカイコの表現型から、卵形成異常の他、稀に成熟卵数の減少が認められ、Bm-nosOタンパク質は卵(生殖細胞)形成過程に関与していることが示唆された(Nakao H. and Takasu Y., 2019, Developmental Biology, 445:209-36)。一方、チョウ目昆虫における他のnanosパラログの具体的機能については未知である。
本明細書で機能阻害の対象となるnanosP遺伝子は、不妊化を目的とする対象チョウ目昆虫のnanosP遺伝子であれば、特に限定はしない。それぞれの種のnanosP遺伝子オルソログが対象となり得る。それらの塩基配列は、それぞれのnanosPタンパク質をコードする塩基配列であればよい。
例えば、対象チョウ目昆虫がカイコであれば、配列番号1で示すアミノ酸配列からなる野生型Bm-nosPタンパク質をコードする野生型Bm-nosP遺伝子、あるいは配列番号1で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、又は配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型Bm-nosPタンパク質をコードする変異型Bm-nosP遺伝子が挙げられる。前記野生型Bm-nosP遺伝子の具体的な例として配列番号2で示す塩基配列からなるBm-nosP遺伝子が挙げられる。なお、本明細書において「複数個」とは、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr,Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸群(Phe, Tyr, Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ポリペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。さらに「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じていずれか又は両方のアミノ酸配列にギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する他方のアミノ酸配列における同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。
本工程では、不妊化を目的とする対象チョウ目昆虫において、nanosP遺伝子の機能を阻害するための操作を行う。以下、遺伝子機能阻害方法について、具体的に説明をする。
A.遺伝子機能阻害方法
本明細書において「遺伝子機能阻害方法」は、標的遺伝子の機能を特異的に阻害する方法をいう。本方法では、標的遺伝子の機能が破壊されるため標的タンパク質の機能は完全に喪失される。チョウ目昆虫における特定の遺伝子の機能を阻害する方法は、当該分野で公知の方法を用いればよく、特に限定はしない。例えば、遺伝子ノックアウト法が挙げられる。
「遺伝子ノックアウト法」は、標的遺伝子のゲノム上の遺伝子配列を変更する又は欠失させることで遺伝子の機能を完全喪失する方法である。遺伝子ノックアウト法の具体的な例として、ゲノム編集法等が挙げられる。
「ゲノム編集法」とは、DNA切断酵素(ヌクレアーゼ)がゲノム上の特定の配列を認識してDNAを二本鎖切断(double strand break:本明細書では「DSB」と表記する)し、それによって生じるDNA修復機構を利用して、任意の位置で外来遺伝子の挿入(ノックイン)や標的遺伝子の破壊(ノックアウト)を行う遺伝子ターゲティング方法である。この方法で、ゲノム中の遺伝子を標的遺伝子として、簡便かつ特異的に、そして確実に破壊することが可能となる。ゲノム編集技術には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)法、TALEN法、及びCRISPR/Cas法が知られるが、本明細書ではいずれの方法を用いてもよい。以下、それぞれの方法について説明をするが、これらの方法を用いた遺伝子破壊技術は、いずれも当該分野で公知の技術であり、本明細書で使用するゲノム編集方法も標的遺伝子を効率的にノックアウトするためのキットやサポートツールが各ライフサイエンスメーカーから市販されており、それらを利用することもできる。
(i)ジンクフィンガーヌクレアーゼ法
「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN:Zinc-Finger Nuclease)法」は、DNA結合ドメインとしてのジンクフィンガードメインとFokIのヌクレアーゼドメインのような非特異的エンドヌクレアーゼドメインからなる人工DNA切断酵素を用いるゲノム編集技術である(Kim Y.G. et al., 1996, Proc Natl Acad Sci USA, 93: 1156-1160)。1つのジンクフィンガーモチーフが3塩基を認識して標的核酸に結合できるため、ジンクフィンガーモチーフを複数連結することで、連結個数の3倍数の塩基を特異的に認識して結合する。二量体で機能し、標的部位に結合後、エンドヌクレアーゼ活性により標的核酸の特定部位を二本鎖切断(DSB)する。
(ii)TALEN法
「TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)法」は、植物病原細菌であるXanthomonas属菌由来のTALエフェクター(TALE)タンパク質と非特異的エンドヌクレアーゼドメインを融合させた人工DNA切断酵素によるゲノム編集技術である(Christian M et al., 2010, Genetics, 186, 757-761; Cermak T, et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)。TALENは、DNA結合ドメインとして、例えば、配列番号3で示す34アミノ酸からなるDNA結合ユニットの繰り返しを含むTALEドメインとFokIのヌクレアーゼドメインのような非特異的エンドヌクレアーゼドメインからなるタンパク質である。このうち、DNAを切断する酵素活性を持つヌクレアーゼドメインは二量体で機能するため、TALENは、標的塩基配列における二本鎖切断(DSB)部位の上流側(5'側)近傍のDNA配列を認識するLeft-TALENとDSB部位の下流側(3'側)近傍のDNA配列を認識するRight-TALENからなる二量体で機能する。前記TALEドメインを構成するDNA結合ユニットは、N末端側から12位及び13位のアミノ酸残基に変異があり、2アミノ酸一組で、DNAを構成する4種の塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)のそれぞれを特異的に認識することができる。例えば、12-13位のアミノ酸残基がそれぞれ、N-I又はN-Nのときはアデニンを、N-Nのときはグアニンを、H-Dのときはシトシンを、そしてN-Gのときはチミンを認識する。DNA結合ユニットの繰り返し数は、標的塩基配列の塩基長に応じて変動することができる。TALEドメインを操作することで、ゲノム上の任意のDNA配列を標的とした遺伝子ターゲティングが可能となる。カイコ等のチョウ目昆虫におけるTALEN法を用いた遺伝子ノックアウト方法は公知の技術である。例えば、Takasu Y., et al., 2013, PLoS One 8, e73458に記載の方法を参考にすればよい。
(iii)CRISPR/Cas法
「CRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats /CRISPR associated proteins)法」は、細菌や古細菌においてウイルスやプラスミド等の外来DNA又はRNAを排除するように進化した獲得免疫システムを利用したゲノム編集技術であり、Cas9タンパク質を利用するCRISPR/Cas9法を始め、Cpf1、Cas13a等の他のCasタンパク質を用いたバリエーションが報告されている。細菌や古細菌は、侵入した外来DNA又はRNAを断片化後、ゲノム中のCRISPR領域内に挿入し、それを鋳型として約40bpのCRISPR RNA(crRNA)を合成する。crRNAは、直接又はトランス活性型RNA(tracrRNA)を介してヌクレアーゼ活性を有するCasタンパク質と結合してCRISPR/Cas複合体を形成する。CRISPR/Cas複合体はcrRNAを介して、それに相補的な塩基配列を有する標的DNA又はRNA配列に結合して、切断する。Casタンパク質としてCas9、Cpf1といった二本鎖ヌクレアーゼを用いた場合は、標的部位でDSBを誘導する。
CRISPR/Cas法を用いたDSBの誘導法として最も一般的なCRISPR/Cas9法では、標的遺伝子の一部に相補的な塩基配列を有するように設計されたcrRNAとtracrRNAとを結合した一本鎖ガイドRNA(single guide RNA:sgRNA)をCas9タンパク質と共に宿主細胞内に注入又は発現させることで、宿主ゲノムの標的遺伝子でのDSBを誘導することができる。標的遺伝子に対するsgRNAの設計等については公知の方法である。例えば、Hanna R. et al., 2020, Nat Biotechnol, 38: 813-823に記載の方法を参考にすればよい。
また、前述のように、CRISPR/Cas9法を利用した標的遺伝子を効率的にノックアウトするためのサポートツールが各ライフサイエンスメーカーから市販されており、それらを利用してもよい。
ゲノム編集法では、上記いずれの方法でも、二本鎖切断(DSB)部位は、相同組換又は非相同末端結合等のDNA修復機構によって修復される。相同組換(Homologous Recombination: HD;又はHomology-Directed Repair:HDR)は、DSB部位の5'側及び3'側周辺領域と相同又は同一な配列を利用した組換えにより遺伝子修復を行う機構である。一般に非相同末端結合に比べて頻度は低いものの、修復エラーが生じにくいという利点がある。ゲノム編集では、外来DNA配列をゲノム中の所定の部位、すなわちDSB部位にノックインする場合に主に利用される。非相同末端結合(non-homologous end joining:NHEJ)は、修復鋳型を必要とせず、修復効率が高く、またHDRと異なり、細胞周期全体にわたり修復可能な利点を有する反面、修復時に一定の割合でDSB部位を中心にInDelと呼ばれる塩基の欠失や挿入等の修復エラーが発生する。標的遺伝子内にDSB部位を設けることで、このInDelによりフレームシフト等を生じる結果、標的遺伝子のノックアウト状態を誘導することができる。また、標的遺伝子内に2か所のDSB部位を設けることで、それらDSB部位に挟まれた部分を欠失させ、結果として標的遺伝子のノックアウト状態を誘導することもできる。
(導入方法)
遺伝子機能阻害効果を得るためのゲノム編集ツールの導入方法は、in vitroで調製した該当タンパク質、又はそのタンパク質をin vivoで産生する合成RNA又は発現ベクターを宿主に投与すればよい。投与方法は、マイクロインジェクション等による注入投与等、当該分野で公知の方法を使用することができる。導入に用いる溶液中の編集ツールの濃度は、導入後の虫体(例えば卵)内に一定濃度以上が存在するようにすればよい。
マイクロインジェクションは、産卵後、核が細胞膜に取り込まれる表割前の産卵後2~8時間の卵に行うのが効果的である。なお、ゲノム編集ツールの導入時に、選抜マーカーとなる標識遺伝子を、ターゲット遺伝子にノックインするためのドナーコンストラクトとして同時導入してもよい。これによって、ゲノム編集の起こった個体の選抜が容易になる。カイコにおけるゲノム編集法を利用したノックイン法については、TAL-PITCh法として、TALENによる切断面のマイクロホモロジーを利用したノックイン技術について論文化されており、その方法を利用しても良い(Nakade, S. et al., 2014, Nature Communications, 5:5560)。
(確認及び選抜)
ゲノム編集法で処理した個体は、必要に応じてゲノム上の標的遺伝子におけるInDel(欠失又は挿入変異)を確認し、選抜することができる。確認方法は限定しない。例えば、ゲノム編集個体及び対照個体の一部からゲノムDNAを調製し、PCR等により標的配列におけるInDelの有無を確認する方法や、RT-PCR等により標的遺伝子の発現の喪失を確認する方法が挙げられる。上述したように、ゲノム編集処理時に標識遺伝子を選抜マーカーとしてノックインした場合であれば、その標識遺伝子の活性に基づいてゲノム編集個体を絞り込むことができる。
本明細書において「標識遺伝子」とは、標識タンパク質をコードする遺伝子である。標識タンパク質は、その活性に基づいて標識遺伝子の発現の有無を判別することのできるポリペプチドをいう。「活性に基づいて」とは「活性の検出結果に基づいて」という意味である。活性の検出は、標識タンパク質の活性そのものを直接的に検出してもよいし、標識タンパク質の活性によって生成される色素のような代謝物を介して間接的に検出してもよい。検出は、化学的検出(酵素反応的検出を含む)、物理的検出(行動分析的検出を含む)、又は検出者の感覚的検出(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚による検出を含む)のいずれであってもよい。
標識タンパク質の種類は、当該分野で公知の方法によってその活性を検出可能な限り、特に限定はしない。好ましくは検出に際して宿主であるチョウ目昆虫に対する侵襲性が低い標識タンパク質である。例えば、蛍光タンパク質、色素合成タンパク質、発光タンパク質、外部分泌タンパク質、外部形態を制御するタンパク質等が挙げられる。蛍光タンパク質、色素合成タンパク質、発光タンパク質、及び外部分泌タンパク質は、特定の条件下で視覚的に検出可能であり、チョウ目昆虫に対する侵襲性が低く、判別及び選抜が容易なことから特に好適である。
前記蛍光タンパク質は、特定波長の励起光をチョウ目昆虫に照射したときに特定波長の蛍光を発するタンパク質をいう。天然型及び非天然型のいずれであってもよい。また、励起波長、蛍光波長も特に限定はしない。具体的には、例えば、CFP、AmCyan、RFP、DsRed(DsRed monomer、DsRed2のような派生物を含む)、YFP、GFP(EGFP、EYFP等の派生物を含む)等が挙げられる。
前記色素合成タンパク質は、色素の生合成に関与するタンパク質であり、通常は酵素である。ここでいう「色素」とは、形質転換体に色素を付与することができる低分子化合物又はペプチドで、その種類は問わない。好ましくは個体の外部色彩として表れる色素である。例えば、メラニン系色素(ドーパミンメラニンを含む)、オモクローム系色素、又はプテリジン系色素が挙げられる。
前記発光タンパク質は、励起光を必要とすることなく発光することのできる基質タンパク質又は基質の発光を触媒する酵素をいう。例えば、イクオリン、酵素としてのルシフェラーゼが挙げられる。
(継代)
ゲノム編集による標的遺伝子の阻害効果は後代に継代される。本明細書において「後代」とは、ゲノム編集処理がなされた第1世代の子孫個体であって、ゲノム編集によってゲノム中に破壊された標的遺伝子を保有する個体をいう。後代の世代数は問わない。
2.不妊性チョウ目昆虫
2-1.概要
本発明の第2の態様は、不妊性チョウ目昆虫である。本発明の不妊性チョウ目昆虫は、nanosP遺伝子の機能が阻害されていることを特徴とする。その結果、雌雄共に妊性が減退又は喪失している。本発明の不妊性チョウ目昆虫は、第1態様に記載の不妊性チョウ目昆虫の生産方法によって作出することができる。
2-2.構成
不妊性チョウ目昆虫は、生殖系列細胞においてnanosP遺伝子の機能が阻害されていることを特徴とする。nanosP遺伝子の機能が阻害(ノックアウト)されていればよい。
前記遺伝子機能が阻害された不妊性チョウ目昆虫は、限定はしないが、第1態様に記載の不妊性チョウ目昆虫の生産方法における遺伝子ノックアウト法を経て得られた個体又はその後代の中でnanosP両アレルが機能喪失したホモ個体である。
不妊性チョウ目昆虫の種類は限定しないが、好ましくは産業上有用な昆虫、例えば、絹糸の採糸を目的とする種類、例えば、カイコ、クワコ、シンジュサン(エリサン)、ヤママユガ、サクサン、ヒメヤママユ、等が挙げられる。好ましくはカイコである。
不妊性チョウ目昆虫の発生段階については、限定しない。卵、幼虫、蛹、及び成虫のいずれであってもよい。ただし、不妊性という目的から、好ましくは本来生殖能力を有する成虫である。
本発明の不妊性チョウ目昆虫は、分子遺伝学的手法、及び/又は形質的特徴に基づいて妊性チョウ目昆虫と区別することができる。
分子遺伝学的手法に基づく区別は、例えば、nanosP遺伝子のゲノム上の有無や、その発現量について確認、又は検出すればよい。nanosP遺伝子のゲノム上の有無を確認する方法として、PCR法やサザンハイブリダイゼーション法等の当該分野で公知の方法が利用できる。本発明の不妊性チョウ目昆虫であれば、ゲノム上のnanosP遺伝子を含む領域を検出することができない等の指標により、野生型との区別が可能である。また、nanosP遺伝子の発現量を測定又は検出する方法として、RT-PCR法やノザンハイブリダイゼーション法等の当該分野で公知の方法が利用できる。本発明の不妊性チョウ目昆虫であれば、nanosP遺伝子の発現が失われることが期待される。
形質的特徴に基づく区別は、生殖器官を観察し、確認すればよい。本発明の不妊性チョウ目昆虫であれば、雌成虫の場合、腹腔中に存在する成熟卵はせいぜい2~3個であり、ほぼ産卵は見られない。また雄成虫の場合、精巣及び受精能の喪失が生じる。
3.チョウ目昆虫の不妊化剤
3-1.概要
本発明の第3の態様は、チョウ目昆虫の不妊化剤である。本発明の不妊化剤は、nanosP遺伝子の遺伝子機能を特異的に阻害する遺伝子機能阻害剤を有効成分として含む。本発明の不妊化剤を用いることで、所望する任意の種類のチョウ目昆虫を容易、かつ効率的に不妊化させることができる。
3-2.構成
本発明のチョウ目昆虫の不妊化剤の構成成分について説明をする。
3-2-1.有効成分
本発明のチョウ目昆虫の不妊化剤は、有効成分として遺伝子機能阻害剤を含む。
「遺伝子機能阻害剤」は、標的遺伝子であるnanosP遺伝子を遺伝子ノックアウト法によって特異的に破壊し、その機能を阻害する機能を有する。本発明の不妊化剤における遺伝子機能阻害剤は、ゲノム編集ツールで構成されている。
遺伝子機能阻害剤を構成するゲノム編集ツールは、ゲノム編集方法の種類により異なる。例えば、TALEN法であれば、標的nanosP遺伝子上で変異導入の標的とする塩基配列を認識し、結合するTALEドメインとFokIのヌクレアーゼドメインを含む1組のLeft/Right-TALEヌクレアーゼ又はそれらをコードする合成RNAあるいはコードする遺伝子を含む発現ベクター、及び必要に応じてnanosP遺伝子内にノックインしてnanosP遺伝子を破壊するドナーDNA等を構成ツールとして包含する。また、例えば、CRISPR/Cas9法であれば、標的nanosP遺伝子上で変異導入の標的とする塩基配列を認識し、結合するsgRNAとCas9タンパク質又はそれらをコードする合成RNAあるいはそれらをコードする遺伝子を含む発現ベクター等、及び必要に応じてnanosP遺伝子内にノックインしてnanosP遺伝子を破壊するドナーDNA等を構成ツールとして包含する。これらのツールは、TALEN法やCRISPR/Cas9法を用いて遺伝子ノックアウトを行うために各ライフサイエンスメーカーから市販されるサポートツールを利用してもよい。
3-2-2.その他の成分
本発明のチョウ目昆虫の不妊化剤は、前記有効成分の他にも必要に応じて昆虫学分野において許容可能な溶媒や担体を含んでいてもよい。「昆虫学分野において許容可能」とは、昆虫学分野において通常使用され、投与対象のチョウ目昆虫に対して無害であるか、又はほとんど影響を及ぼさないことをいう。
溶媒には、例えば、水若しくは水溶液、又はチョウ目昆虫に対して許容可能な有機溶剤が挙げられる。水溶液としては、例えば、バッファー(リン酸塩緩衝液や酢酸ナトリウム緩衝液等)、生理食塩水や等張液が挙げられる。
担体には、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
3-3.投与方法
本発明の不妊化剤のチョウ目昆虫への投与方法は、前記第1態様に記載した各遺伝子発現抑制剤の導入方法に準じて行えばよい。
<実施例1>
(目的)本発明の不妊性チョウ目昆虫の生産方法により得られる不妊性チョウ目昆虫の不妊性及び不妊化効率について検証する。
(方法)
(1)材料
宿主のチョウ目昆虫として国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO, Japan)で継代飼育しているカイコ(pnd系統)を使用した。
(2)nanosP遺伝子ノックアウトカイコの作出
本発明の不妊性カイコであるnanosPノックアウトカイコはTALEN法を用いて二つの方法により作出した。
第1の方法は、nanosPコード領域のN末端側を標的としてフレームシフトを誘発する方法である。N末端側のTALEN認識配列は配列番号4で示す塩基配列からなる1F及び配列番号5で示す塩基配列からなる1Rとした。なお、1R(配列番号5)はnanosPのアンチセンス鎖の配列となっている。後述する2R(配列番号7)も同様である。
第2の方法は、nanosPコード領域のN末端側及びC末端側のそれぞれに標的を設定し、コード領域内に大きな欠失を生じさせる方法である。第2の方法のN末端側のTALEN認識配列は、第1の方法と共通の配列番号4及び5とした。一方、C末端側のTALEN認識配列は配列番号6で示す塩基配列からなる2F及び配列番号7で示す塩基配列からなる2Rとした。
nanosPコード領域のN末端側及びC末端側のそれぞれの標的配列に対応するTALENコンストラクトを含むプラスミドを組換え大腸菌を用いて常法に従い作出した。各TALENコンストラクトは、TALENのコード領域の上流にT7プロモーター、カイコactin3遺伝子5'UTR、下流にSV40ターミネーター及びポリA配列を含み、in vitro T7合成系により、カイコ体(細胞)内でTALENタンパク質を産生可能なmRNA、すなわち1F mRNA、1R mRNA、2F mRNA、及び2R mRNAをそれぞれ発現できる。mRNAのin vitro合成は、調製した各プラスミドを、ポリA配列の下流で切断した後、mMESSAGE mMACHINE T7 kit(Ambion社)を用いて、添付のプロトコールに従って行った。得られた各mRNAを5mMリン酸緩衝液に懸濁し、終濃度0.2μg/μLに調製し、懸濁液を得た。第1の方法では、1F mRNA及び1R mRNAの2種類を含む懸濁液を得た。一方、第2の方法では、1F mRNA、1R mRNA、2F mRNA、及び2R mRNAの4種類を含む懸濁液を得た。
(3)カイコ卵へのインジェクション
nanosPノックアウトカイコの作出は、前記in vitro合成したmRNAを受精卵にインジェクションすることにより行った。インジェクションには、交尾後4℃に冷蔵していた雌のカイコを室温に戻した後、産卵紙の上で1時間産卵させた卵を用いた。産卵後2~4時間の間にガラス製のマイクロピペッターを用いて、調製した各懸濁液を数~数十nL/卵で各卵の後部域の腹側を狙ってマイクロインジェクションした。卵の腹側後部域は、将来生殖系列細胞の出現する領域であり、その部域へのインジェクションにより生殖系列細胞に遺伝子編集の起こる確率の上昇が期待された。インジェクション後は、注入孔を瞬間接着剤(ツリロン瞬間接着剤 多用途・速硬タイプ:アルファ商事)で塞いだ。その後、産卵台紙を速やかにシャーレに移して蓋をした。続いて、加湿状態にするため、タイトボックス内部に水で湿らせたキッチンタオルを敷き、その上に前記シャーレを配置して、タイトボックスに蓋をした。タイトボックスを25~28℃で卵が孵化するまで10日程度インキュベートした。
(4)ゲノム編集カイコの確認
孵化後の幼虫は、28℃の飼育室にて、全齢を人工飼料(シルクメイト原種1-3齢S、日本農産工業)で飼育した。人工飼料は適宜交換した。
インジェクション後に得られた成虫を野生型の成虫(pnd系統)と交尾させて産卵させた。得られた卵のうち数十個からDNAを、常法を用いて抽出し、nanosP遺伝子の編集の有無を確認した。編集の有無の調査方法にはPCR法を用いた。
前記第1方法の場合、編集部位を挟み込むように設計した配列番号8及び9からなるプライマーセットを用いて、前記抽出したDNAを鋳型にPCRを行った。PCR後、増幅産物をゲル電気泳動により分解し、nanosP遺伝子を含む遺伝子座のバンド数について確認した。nanosP遺伝子の編集が成功している場合には、前記調製したDNAはnanosP遺伝子を含む遺伝子座に関して編集型遺伝子座と野生遺伝子座を包含し得る。この場合、両遺伝子座の増幅産物の長さにほとんど差がなくても、実際には野生型遺伝子座と編集型遺伝子座の増幅産物間でヘテロデュープレックスが形成されるため、それがゲル内での移動度の違いとして反映され、複数のバンドが検出される。一方、nanosP遺伝子の編集が失敗している場合には、前記調製したDNAはnanosP遺伝子を含む遺伝子座に関して野生遺伝子座のみを包含し得る。したがって、電気泳動によって検出されるバンドは1本となる。
前記第2の方法の場合、2カ所の編集部位を一度に挟み込むように設計した配列番号8及び10からなるプライマーセットを用いて、前記抽出したDNAを鋳型にPCRを行った。PCR後、増幅産物をゲル電気泳動により分離し、nanosP遺伝子を含む遺伝子座のバンドパターン数について確認した。nanosP遺伝子の編集が成功している場合には、nanosP遺伝子を含む遺伝子座に関して比較的大きな欠失を生じるためゲル上で短いバンドの存在により確認することができる。
第1及び第2方法のいずれの場合にも編集されたバンドが認められたため、残りの卵を孵化させて編集個体が含まれていることが期待されるため、孵化させて飼育した。
(5)ノックアウトカイコの成虫生殖器官の表現型及び生殖能の確認
飼育して得られた成虫において、切断した一部の脚からDNAを抽出し、遺伝子編集の起こった個体を選別した。
第1の方法で得られたnanosP編集系統における編集部位の塩基配列を配列番号11に、また野生型における編集部位に相当する塩基配列を配列番号12に示す。この系統では、編集部位において配列番号13に示すCCCCからなる4塩基の欠失と配列番号14に示すATATGATAGAGTCTATCTATからなる20塩基の配列の挿入が認められ、これによって下流にフレームシフトが生じ、nanosPタンパク質の生成が阻害されると判断された。
第2の方法で得られたnanosP編集系統では編集部位に約1580塩基の欠失が認められ、nanosP ORFの大部分が失われる。それによって機能的なnanosPタンパク質が生成されないと考えられた。
続いてnanosPノックアウト個体における表現型の解析を行った。表現型の解析は、nanosPノックアウト個体について、発生、成長、生殖器官の形成、生殖能について行った。nanosPノックアウト個体はnanosP遺伝子編集アレルを有するヘテロ個体どうしを交配し、ホモ化することによって得た。
生殖器官の形成については、羽化した未交尾のnanosPノックアウト雌成虫から卵巣を摘出し、卵巣内の卵細胞を観察した。なお、カイコでは、通常、雌の羽化時に卵巣内の卵細胞のほとんどが成熟している。また、羽化後の未交尾のnanosPノックアウト雄成虫から生殖器官を摘出し、精巣の形態を観察した。
さらにnanosPノックアウト雄成虫を野生型の雌成虫(pnd系統)と交尾させて産卵させた。交尾後の雌個体から得られた卵において、催青卵(産卵数日後の卵発生に伴う着色卵)を受精卵として確認し、雄個体の生殖能を検証した。
(結果)
図1~3に結果を示す。いずれの図においてもnanosPノックアウト成虫個体と野生型成虫個体を対比させている。図1では雌成虫個体における卵巣の表現型の結果を、図2では雄個体における生殖器官の表現型の結果を、そして図3では雄成虫における生殖能の結果を示している。
(卵巣表現型)
図1Aで示すように、野生型雌成虫個体の卵巣では、ほとんどの卵細胞が発達して、粒状の成熟卵となっていた(図中の矢印はその数例を示す)。一方、図1Bで示すように、nanosPノックアウト雌成虫個体の卵巣では、発達した卵細胞がほとんどなく、まれに僅かに発達した卵細胞(矢印)が見られるのみであった。この結果は、nanosPノックアウト個体では成熟卵が形成されないことを示唆している。
(雄生殖器官表現型)
図2Aで示すように、野生型雄成虫個体の生殖器官では、輸精管の先端に矢印で示す1対の精巣が認められた。一方、図2Bで示すように、nanosPノックアウト雄成虫個体の生殖器官では、輸精管の先端に精巣が認められず、精巣そのものが欠失していた。この結果は、nanosPノックアウト個体では精巣が形成されないことを示唆している。
(生殖能)
図3Bで示すように、nanosPノックアウト雄個体と交配した後の野生型雌個体の産卵した卵は、産卵数も少ない上に、全て非催青卵だった。この雌個体が、機能的な受精卵を産生しうることは、nanosPノックアウト個体との交尾を経た産卵後、さらに野生型の雄個体と交尾させた後産卵した卵のほとんどが催青卵となっていたことにより確認した(図3A)。これらの結果は、nanosPノックアウト雄個体では生殖能が完全に喪失していることを示唆している。
以上、図1~3で示すように、nanosPはその発現を阻害することによって単独でチョウ目昆虫の不妊化を誘導できることが立証された。
(その他の表現型)
飼育過程を通じて生殖系列細胞以外の表現型(発生、成長、及び形態等)について観察したところ、不妊であること以外に特記すべき表現型の違いは見出されなかった。すなわち、通常通り、成長、脱皮・変態し、正常に繭をつくり、成虫となり、交尾行動にも変わるところはなかった。また、幼虫、成虫の大きさについても野生型との違いは認められなかった。

Claims (10)

  1. nanosP遺伝子の機能を阻害する工程を含む不妊性チョウ目昆虫の生産方法。
  2. 前記遺伝子の機能阻害が遺伝子ノックアウト法を用いる、請求項1に記載の生産方法。
  3. 前記遺伝子ノックアウト法がゲノム編集法である、請求項2に記載の生産方法。
  4. 前記nanosP遺伝子が以下の(a)~(c)に示すアミノ酸配列からなるnanosPタンパク質をコードする塩基配列からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の生産方法。
    (a)配列番号1で示すアミノ酸配列、
    (b)配列番号1で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、又は
    (c)配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列
  5. 前記nanosP遺伝子が配列番号2で示す塩基配列からなる、請求項4に記載の生産方法。
  6. nanosP遺伝子の機能が阻害された不妊性チョウ目昆虫。
  7. 前記機能阻害が各遺伝子の遺伝子ノックアウト法による、請求項6に記載の不妊性チョウ目昆虫。
  8. 前記遺伝子ノックアウト法がゲノム編集法である、請求項7に記載の不妊性チョウ目昆虫。
  9. nanosP遺伝子の機能を阻害する遺伝子機能阻害剤を有効成分とするチョウ目昆虫の不妊化剤。
  10. 前記遺伝子機能阻害剤が宿主ゲノム上のnanosP遺伝子を特異的に破壊するゲノム編集ツールからなる、請求項9に記載の不妊化剤。
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