以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
[空気入りタイヤ]
図1は、この実施形態にかかる空気入りタイヤの子午断面図である。以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを備えている。
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延在する複数(本実施形態では4本)の主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延在するリブ状の陸部23が複数形成されている。また、図には明示しないが、トレッド面21は、各陸部23において、主溝22に交差するラグ溝が設けられている。陸部23は、ラグ溝によってタイヤ周方向で複数に分割されている。また、ラグ溝は、トレッド部2のタイヤ幅方向最外側でタイヤ幅方向外側に開口して形成されている。なお、ラグ溝は、主溝22に連通している形態、または主溝22に連通していない形態の何れであってもよい。
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で巻き上げられることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
カーカス層6は、各タイヤ幅方向両端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられてタイヤ径方向外側に延在され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6についての詳細は後述する。
ベルト層7は、少なくとも2枚のベルトプライ71、72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルトプライ71、72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルトプライ71、72は、互いのコードが交差するように配置されている。
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1で示すベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ径方向外側においてベルト層7全体を覆うように配置されたベルト補強層81と、当該ベルト補強層81のタイヤ径方向外側においてベルト層7全体を覆うように配置されたベルト補強層82と、当該ベルト補強層82のタイヤ幅方向外側においてベルト層7のタイヤ幅方向各端部をそれぞれ覆うように配置されたベルト補強層83とで構成されている。なお、ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト層7全体を覆うように配置される構成や、ベルト層7のタイヤ幅方向各端部をそれぞれ覆うように配置される構成のみ、またはこれらを適宜組み合わせた構成がある。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向両端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。なお、ベルト補強層8は、省略されても良い(図示省略)。
[カーカス層]
図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤのカーカス層を示す一部拡大子午断面図である。これらの図において、図2は、ビード部5の拡大断面図を示し、図3は、ショルダー部3の拡大断面図を示している。
上述した空気入りタイヤ1において、カーカス層6は、少なくとも2層(図1では、3層)で構成されており、熱可塑性シート(61、62、63)で形成されている。そして、熱可塑性シート(61、62、63)は、各層同士が重なる間にゴム層6aが配置されている。図2においては、熱可塑性シート(61、62、63)の各層同士が重なる間以外に、ビード部5の巻き上げ部分で最も外側となる熱可塑性シート61の外側にもゴム層6aが設けられた形態を示す。
熱可塑性シート(61、62、63)は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成されており、コードを有さないものである。
本実施形態で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
本実施形態で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などを挙げることができる。
このように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、少なくとも2層のカーカス層6が、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在されるとともにビードコア51のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられてタイヤ径方向外側に延在された空気入りタイヤ1において、カーカス層6は、熱可塑性シート(61、62、63)で形成されてなり、少なくとも熱可塑性シート(61、62、63)の各層同士が重なる間にゴム層6aが配置されている。
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成し、少なくとも各層間にゴム層6aを配置したことにより、一般的な空気入りタイヤに適用されるようなタイヤ幅方向に配置されるカーカスコードがコートゴムで被覆されたカーカス層6と同等にタイヤの骨格となる機能を有する。この熱可塑性シート(61、62、63)は、カーカスコードよりも軽量である。この結果、タイヤ重量をより軽減することが可能になる。
しかも、この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成したことにより、一般的な空気入りタイヤの内側に適用されるインナーライナーに求められる空気漏れ抑制機能を有する。この結果、インナーライナーを省略することが可能になり、タイヤ重量をより軽減することが可能になる。
さらに、この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成したことにより、カーカス層6において、カレンダー工程(ゴムのシーティング(シート加工)、織布へのゴムのコーティング(トッピング加工)などの操作を行う工程)を省略することができるため、タイヤの製造工程を簡素化することが可能になる。
なお、ゴム層6aの平均厚さは、0.05[mm]以上0.5[mm]以下であることが好ましく、0.10[mm]以上0.30[mm]以下であることがより好ましい。上記の下限によりゴム層6aの成形が容易となり、上記の上限によりタイヤ重量の増加を抑制できる。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、カーカス層6をなす熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の平均厚さが0.03[mm]以上1.00[mm]以下であり、かつ空気透過係数が3×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以上500×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることが好ましい。
ここで、平均厚さは、測定対象タイヤをタイヤ周方向に幅20[mm]から30[mm]でタイヤ幅方向に切断し、タイヤ幅方向の長さを少なくとも8等分し、カーカス層6を構成する熱可塑性シート(61、62、63)のそれぞれの厚みを測定し、単層分について平均化して得る。また、空気透過係数は、JIS K7126「プラスチックフィルムおよびシートの気体透過度試験方法(A)」に準じ、試験気体を空気(N2:O2=8:2)とし、試験温度を30[℃]として得る。
この空気入りタイヤ1によれば、熱可塑性シート(61、62、63)の上記厚さの規定によりタイヤの骨格となる機能を顕著に有し、かつ上記空気透過係数の規定によりインナーライナーの機能を顕著に有することから、タイヤ重量を軽減化する効果を顕著に得ることが可能になる。なお、インナーライナーの機能を兼ね、かつタイヤ重量を軽減化する効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の単層の平均厚さを0.05[mm]以上0.6[mm]以下とすることがさらに好ましく、インナーライナーの機能を兼ね、かつタイヤ重量を軽減化する効果をより顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の単層の平均厚さを0.08[mm]以上0.5[mm]以下とすることがより好ましい。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ゴム層6aは、熱可塑性シート(61、62、63)との剥離強度が50[N/25mm]以上400[N/25mm]以下であることが好ましい。
ここで、剥離強度は、JIS K6256に準じて測定して得る。
この空気入りタイヤ1によれば、ゴム層6aの上記剥離強度の規定により、カーカス層6間の接着性が向上し、結果としてタイヤの耐久性を向上することが可能になる。なお、剥離強度の上限は、400[N/25mm]を超えてもよいが、タイヤ成形時に供給装置の金属ドラムに密着してハンドリング性が低下する傾向となり修正し難くなるため、400[N/25mm]とした。なお、耐久性を向上する効果を顕著に得るため、ゴム層6aの剥離強度を75[N/25mm]以上400[N/25mm]以下とすることがさらに好ましく、耐久性をより向上しタイヤ成形時のハンドリング性をより向上する効果を顕著に得るため、ゴム層6aの剥離強度を100[N/25mm]以上300[N/25mm]以下とすることがより好ましい。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ゴム層6aは、下記式(1)中のR1、R2、R3、R4およびR5が、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1個以上8個以下のアルキル基で表される化合物およびホルムアルデヒドの縮合物と、メチレンドナーと、加硫剤とを含むゴム組成物であって、縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下であり、メチレンドナーの配合量がゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上80質量部以下であり、メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が、1以上4以下であることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、ゴム層6aの熱可塑性シート(61、62、63)との接着性を向上することが可能になる。すなわち、ゴム層6aの熱可塑性シート(61、62、63)に対する剥離強度が向上し、カーカス層6間の接着性が向上し、結果としてタイヤとしての耐久性を向上することが可能になる。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の室温における引張降伏強さが1[MPa]以上100[MPa]以下であることが好ましい。
ここで、引張降伏強さは、JIS K7113に規定の試験法で測定して得る。
この空気入りタイヤ1によれば、熱可塑性シート(61、62、63)の上記引張降伏強さの規定により、熱可塑性シート(61、62、63)を引っ張ったときの塑性変形を抑制して耐圧性を向上することが可能になる。耐圧性が向上することで、熱可塑性シート(61、62、63)の積層数を減少させ、タイヤ重量の軽減化を向上することが可能になる。なお、引張降伏強さの上限は、100[MPa]を超えてもよいが、インフレート成形時の熱可塑性シート(61、62、63)の拡大において形状が不均一になる傾向となるため、製造のし易さから、100[MPa]とした。なお、熱可塑性シート(61、62、63)の積層数を減少させ、かつ製造を容易とする効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の上記引張降伏強さを2[MPa]以上80[MPa]以下とすることがさらに好ましい。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の室温における破断伸びが80[%]以上500[%]以下であることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、例えば、リム組み作業時に工具などによりタイヤに局所的な歪みが生じても、熱可塑性シート(61、62、63)の破断を防ぐことができるため、従来のマウント(リム組み)装置を利用することが可能である。また、上記破断伸びの確保により実使用時のタイヤ耐久性も向上する。なお、破断伸びの上限は、500[%]を超えてもよいが、実現可能な範囲として規定した。なお、熱可塑性シート(61、62、63)の耐久性を確保する効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の破断伸びを100[%]以上500[%]以下とすることがより好ましい。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαと、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβとの関係が、1<β/α≦5の範囲を満たすことが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβを、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαよりも大きくすることで、タイヤ周方向は変形しやすく、タイヤ幅方向は変形しにくくなる。この結果、タイヤの接地形状(接地長)をより適切にすることができるので、操縦安定性を向上することが可能になる。
なお、熱可塑性シート(61、62、63)において、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαと、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβとの関係を、1<β/α≦5の範囲とするには、以下の方法がある。
例えば、延伸成形により熱可塑性シート(61、62、63)のタイヤ周方向とタイヤ幅方向との延伸率を異ならせ剛性を異ならせる。
さらに、熱可塑性シート(61、62、63)に異方性をもたせるために、熱可塑性シート(61、62、63)の任意の箇所に、切欠部、貫通孔、非貫通の凹部などを形成しても良い(図示省略)。
なお、図1の構成では、図2および図3に示すように、積層体60が、熱可塑性シートから成る3層のカーカス層61〜63を有している。そして、隣り合うカーカス層61、62;62、63の間に、ゴム層6aが挟み込まれている。これにより、ゴム層6aが保護材として機能して、隣り合うカーカス層61、62;62、63の相互接触が防止されている。
また、図2および図3の構成では、ゴム層6aが、積層体60の巻き返し部の外周面に配置されている。これにより、ゴム層6aが、保護材として機能して、巻き返し部の最外層にあるカーカス層61と、周辺部材(例えば、サイドウォールゴム41、リムクッションゴム53、ベルト層7のベルトプライ71、72、ベルト補強層81〜83など)との接触を防止している。
また、図2および図3の構成では、ゴム層6aが、積層体60の巻き返し部の内周面に配置されている。これにより、ゴム層6aが、保護材として機能して、巻き返し部の最内層にあるカーカス層63と、周辺部材(例えば、ビードコア51、ビードフィラー52など)との接触を防止し、また、巻き返し部の最内層にあるカーカス層63の本体部と巻き上げ部との自己接触を防止している。
また、図2および図3の構成では、ゴム層6aが、積層体60のタイヤ内腔部側の内表面全体に配置されているが、タイヤ内腔部側の内表面に限っては、ゴム層6aが配置されない領域があっても良い。これは、ゴム層6aがカーカス層61同士の相互接触を防止することを目的としている為である。さらに、カーカス層61〜63自身が、低い気体透過性を有する熱可塑性シートから成ることにより、インナーライナーとして機能する。
また、図1の構成では、図3に示すように、すべてのカーカス層61〜63の巻き上げ部におけるタイヤ径方向外側の端部が、ベルト層7の最大幅位置B1よりもタイヤ幅方向内側に配置されている。したがって、カーカス層61の端部が、カーカス層6の本体部とベルト層7との間に挟み込まれて配置されている。これにより、カーカス層61〜63が安定的に保持される。
ベルト層7の最大幅位置B1は、複数のベルトプライ71、72のうち最も幅広なベルトプライ71のタイヤ幅方向外側の端部の位置をいう。
しかし、これに限らず、少なくとも1層のカーカス層6の巻き上げ部の端部がベルト層7の最大幅位置B1よりもタイヤ幅方向内側に配置されれば足りる。例えば、一部のカーカス層6の巻き上げ部が、サイドウォール部4やビード部5で終端しても良い(図示省略)。かかる構成としても、カーカス層6が適正に保持される。
また、上記の構成では、カーカス層6の左右の巻き上げ部の端部のうち最もタイヤ幅方向内側にある端部C1、C1の距離CWと、ベルト層7の最大幅BWとが、0.10≦CW/BW≦0.95の関係を有することが好ましい(図1参照)。また、比CW/BWが、0.15≦CW/BW≦0.95の関係を有することがより好ましい。これにより、カーカス層6とベルト層7とのラップ幅が適正に確保されて、タイヤの耐圧性および耐久性が適正に確保される。
距離CWは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときの、カーカス層6の左右の巻き上げ部の端部C1、C1のタイヤ幅方向の距離として測定される。
ベルト層7の最大幅BWは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときの、最も幅広なベルトプライ71の左右の最大幅位置B1、B1のタイヤ幅方向の距離として測定される。
また、図3の構成では、積層された複数のカーカス層61〜63の端部が、相互に位置をずらして配置されている。これにより、複数のカーカス層61〜63の端部が同位置にある構成(図示省略)と比較して、グリーンタイヤ成形時におけるカーカス層61〜63の端部位置でのエア溜まりを低減できる。
[ビードフィラー]
近年では、タイヤを軽量化しつつ適正な剛性を確保するために、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドして成る熱可塑性エラストマー組成物から構成されたビードフィラーが提案されている。
一方で、空気入りタイヤでは、タイヤの操縦安定性能を向上させるべき課題がある。
特に、ビードフィラーが熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、高負荷条件(低圧、高荷重、高速などの条件)下の発熱により、ビードフィラーの物性が変化し易いという特有の問題があり、物性の温度依存性抑制が課題となっている。
そこで、この空気入りタイヤ1では、タイヤの操縦安定性能を向上させるために、以下の構成を採用する。
図2に示すように、この空気入りタイヤ1では、ビードフィラー52が、ベース521と、コード522とから構成される。
ベース521は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドして成る熱可塑性エラストマー組成物から成る。これにより、ビードフィラーがゴムから成る構成と比較して、ビードフィラー52の剛性が増加し、これにより、ビードフィラー52の体積の低減が可能となる。
また、ベース521のヤング率は、30[MPa]以上600[MPa]以下であることが好ましく、50[MPa]以上500[MPa]以下であることがより好ましく、60[MPa]以上200[MPa]以下であることがさらに好ましい。これにより、ビードフィラー52の耐久性が確保され、また、タイヤの乗心地性が確保される。
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の定義は、上記したカーカス層61〜63に用いられる熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物と同義である。
ヤング率は、JIS K6251に規定の試験法で測定される。
コード522は、ベース521に埋設されてタイヤ周方向に1周以上連続して延在する。例えば、コード522をベース521となる部材に埋設して成るストリップ材が用いられ、かかるストリップ材がビードコア51の外周に連続的に巻き回されて配置される。また、1本あるいは複数本のコード522が、タイヤ周方向に連続して巻き回されて配置される。
また、コード522は、有機繊維の複合体であることが好ましい。例えば、コード522が、ナイロン、ポリエステル、アラミド、ポリケトン、レーヨンなどであることが好ましい。しかし、これに限らず、コード522が、スチールコードであっても良い。
また、コード522が有機繊維から成る構成では、コード522の総繊度が、2000[dtex]以上8000[dtex]以下の範囲にあることが好ましい。また、コード522の外径が、0.40[mm]以上1.20[mm]以下の範囲にあることが好ましい。
また、コード522の軟化点が、190[℃]以上であることが好ましい。具体的には、コード522の軟化点が、ベース521の軟化点よりも高いことが好ましい。
軟化点は、JIS L1013の化学繊維フィラメント糸試験方法に従って測定される。
また、ビードフィラー52におけるコード522の体積率が、25[%]以上60[%]以下であることが好ましく、30[%]以上55[%]以下であることがより好ましく、40[%]以上50[%]以下であることがさらに好ましい。このとき、ベース521が隣り合うコード522、522の間に介在することにより、隣り合うコード522、522が相互に分離して配置されることが好ましい。これにより、隣り合うコード522、522が相互に接触して配置される構成と比較して、ビードフィラー52の耐久性が向上する。
コード522の体積率は、コード522の体積とビードフィラー52の総体積との比として算出される。
また、コード522が、ベース521と同一材料あるいはベース521に対して接着性を有する材料から成るコーティングを有することが好ましい。これにより、コード522とベース521との界面接着性が確保される。具体的には、グリーンタイヤ成形工程にて、予めコーティングを施されたコード522がビードコア51に巻き回されて配置される。なお、かかるコーティングは、上記のようにベース521と同一材料から構成されても良いし、例えば、レゾルシンホルマリン樹脂などの接着剤を用いても良い。
また、コード522の残留歪みが、1[%]以上7[%]以下の範囲にあることが好ましい。したがって、コード522が、テンションを有する状態でビードコア51の外周に配置される。このようにコードに所定の残留歪みを予め付与すると、タイヤが変形を受けずともコードが伸長状態となっている為、結果としてビードフィラーの剛性を高めることができ、タイヤの微小変形領域での応答性が向上し、操縦安定性能が向上する。ここで、1%未満だと、効果が殆ど得られず、7%より大きいと長期でのコード耐久性が低下する恐れがある為、上記の範囲が好ましい。また、1%以上5%以下が好ましく、2%以上5%以下がより好ましい。
コード522の残留歪みは、タイヤ製品状態を基準として測定される。
また、図1に示すように、ビードフィラー52の高さBFHと、タイヤ断面高さSHとが、0.25≦BFH/SHの関係を有することが好ましく、0.30≦BFH/SHの関係を有することがより好ましい。比BFH/SHの上限は、特に限定がないが、BFH/SH≦0.60であることが好ましく、BFH/SH≦0.50であることがより好ましい。これにより、タイヤの乗心地性能と低転がり抵抗性能とが両立する。
[タイヤ製造方法]
図4〜図7は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。これらの図は、グリーンタイヤ成形工程を模式的に示している。
空気入りタイヤ1の製造工程では、各種のタイヤ部材が成形機にかけられて、グリーンタイヤが成形される。
具体的には、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から成るベース材料521aにコード522を埋設して成るストリップ材52aが用いられる。かかるストリップ材52aは、例えば、ベース材料521aとコード522とを押し出し成形することにより製造できる。また、ストリップ材52aは、後述する巻き取り時に崩れないように、矩形状ないしは多角形状を有することが好ましい。また、図4では、ストリップ材52aが、1本のコード522をベース材料521aで埋設して成る構造を有している。しかし、これに限らず、ひき揃えられた複数本のコード522をベース材料521aで埋設して成る帯状体が用いられても良い(図示省略)。
次に、ビードコア51が成形ドラム(図示省略)に取り付けられ、成形ドラムが回転して、ストリップ材52aをビードコア51の外周に巻き取る。このとき、1本のストリップ材52aが用いられても良いし、複数本のストリップ材52aが同時に巻き取られても良い。そして、図4に示すように、ストリップ材52aがビードコア51の外周に多重に巻き付けられて、ビードコア51が形成される。このとき、ストリップ材52aが、幅方向に往復しつつ径方向に向かって巻き付けられても良いし、径方向に往復しつつ幅方向に向かって巻き付けられても良い。また、巻き付けられたストリップ材52aの型崩れを抑制するために、ストリップ材52aの外周に接着剤のコーティングが施されても良い。かかる接着剤は、ベース521と同一材料あるいはベース521に対して接着性を有する材料から成ることが好ましい。
なお、ストリップ材52aにおけるベース材料521aの平均ゲージは、ビードフィラー52におけるコード522の体積率に応じて適宜設定される。
次に、図5に示すように、ビードコア51およびビードフィラー52の組立体と、カーカス層61〜63と、サイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53を一体化したゴム部材とが、成形ドラムに配置されて相互に位置決めされる。
このとき、図6に示すように、カーカス層61〜63とゴム層6aとが予め交互に積層されて、積層体60が成形される。カーカス層61〜63を構成する熱可塑性シートは、グリーンタイヤ成形時にて、帯状部材であっても良いし、シームレスな円筒部材であっても良い(図示省略)。
次に、図7に示すように、ターンアップブラダ(図示省略)が用いられて、カーカス層61〜63、サイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53が、ビードコア51およびビードフィラー52の組立体を包み込むように幅方向外側に巻き上げられる。次に、上記の部材がターンアップブラダにより圧着されて、周方向に一様断面を有する環状部材が成形される。次に、この環状部材の外周に、ベルト層7を構成するベルトプライ71、72、ベルト補強層81〜83(図3参照)、トレッドゴムなどが配置されて、グリーンタイヤが成形される。
次に、このグリーンタイヤがタイヤ加硫モールド(図示省略)に充填される。そして、この加硫モールドが加熱され、グリーンタイヤの加硫が行われる。その後に、加硫後のタイヤが、タイヤ加硫モールドから引き抜かれて取り出される。
[変形例]
図8および図9は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図において、図8は、3本のコード522を撚り合わせて成る撚りコードを示し、図9は、図8に記載した撚りコードのA−A視断面図を示している。
図1の構成では、図2および図4に示すように、単独のコード522がビードコア51の外周に連続的に巻き回されて配置されている。
しかし、これに限らず、図8および図9に示すように、複数本のコード522を撚り合わせて成る撚りコードが用いられても良い。かかる撚りコードでは、軸方向にかかる圧縮剛性が増加するので、ビードフィラー52の剛性が高まる点で好ましい。
また、かかる撚りコードでは、充填材が撚りコードの中空部Xに充填されることが好ましい。これにより、撚りコードの中空部Xが埋まるので、ビードフィラー52の剛性が増加する。また、充填材は、ベース521と同一材料あるいはベース521に対して接着性を有する材料から成ることが好ましい。
また、図1の構成では、図2に示すように、カーカス層61〜63が、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドして成る熱可塑性エラストマー組成物から構成されている。また、カーカス層61〜63とゴム層6aとが交互に積層されて、積層体60が形成されている。かかる構成では、カーカス層61〜63が熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から成ることにより、タイヤを軽量化できる点で好ましい。
しかし、これに限らず、カーカス層6が、一般的な構造、例えば、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して成る構造を有しても良い(図示省略)。
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア51、51と、一対のビードコア51、51の径方向外側にそれぞれ配置される一対のビードフィラー52、52と、一対のビードコア51、51に架け渡されるカーカス層6(61〜63)とを備える(図1参照)。また、ビードフィラー52が、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドして成る熱可塑性エラストマー組成物から構成されると共に30[MPa]以上600[MPa]以下のヤング率を有するベース521と、ベース521に埋設されてタイヤ周方向に1周以上連続して延在するコード522とを備える(図2参照)。
かかる構成では、(1)ビードフィラー52が、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から成ることにより、ビードフィラーがゴムから成る構成と比較して、ビードフィラー52の剛性が増加し、これにより、ビードフィラー52の体積の低減が可能となり、タイヤを軽量化できる利点がある。また、剛性が増加するため、タイヤの操縦安定性能が向上する利点がある。
また、(2)コード522がベース521に埋設されることにより、ビードフィラー52が補強される。これにより、タイヤの操縦安定性能が向上する利点がある。特に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から成るビードフィラーは、高負荷条件(低圧、高荷重、高速などの条件)下にて、物性が熱によって大きく低下するという特有の問題があり、物性の温度依存性抑制が課題となっている。この点において、上記の構成では、コード522がビードフィラー52を補強するので、高負荷条件下にてタイヤの操縦安定性能が適正に確保される。
また、(3)コード522がタイヤ周方向に1周以上連続して延在することにより、タイヤ周方向にかかるビードフィラー52の剛性を効率的に補強できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、コード522が、有機繊維から成る。これにより、有機繊維よりも比重の重いスチールコードを有する構成と比較して、タイヤを軽量化できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、コード522の軟化点が、190[℃]以上である。これにより、高負荷条件下での熱に起因するビードフィラー52の物性の低下をより効果的に抑制できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、ビードフィラー52におけるコード522の体積率が、25[%]以上60[%]以下である。これにより、コード522の体積率が適正化される利点がある。すなわち、コード522の体積率が25[%]以上であることにより、コード522によるビードフィラー52の補強作用が適正に確保される。また、コード522の体積率が60[%]以下であることにより、隣り合うコード522、522の接触が抑制されて、ビードフィラー52の耐久性が向上する。
また、この空気入りタイヤ1では、コード522が、ベース521と同一材料あるいはベース521に対して接着性を有する材料から成るコーティングを有する。これにより、コード522とベース521との界面における接着性が適正に確保される利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、コード522の残留歪みが、1[%]以上7[%]以下である。これにより、コード522の残留歪みが適正化される利点がある。すなわち、コード522の残留歪みが1[%]以上であることにより、コード522によるビードフィラー52の補強作用が適正に確保される。また、コード522の残留歪みが7[%]以下であることにより、長期でのコード耐久性を確保できる。
また、この空気入りタイヤ1では、ビードフィラー52が、複数のコード522を撚り合わせてなる撚りコードを有する(図8および図9参照)。かかる撚りコードは、単体のコード522と比較して、圧縮方向の剛性が高い。これにより、コード522によるビードフィラー52の補強作用が効果的に向上する利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、ビードフィラー52が、上記の撚りコードの中空部X(図9参照)に充填される充填材を有する。これにより、撚りコードの圧縮方向の剛性が増加して、コード522によるビードフィラー52の補強作用が効果的に向上する利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、ビードフィラー52の高さBFHと、タイヤ断面高さSHとが、0.25≦BFH/SHの関係を有する(図1参照)。これにより、ビードフィラー52の高さBFHが適正に確保されて、タイヤの操縦安定性能が確保される利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層6(61〜63)が、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドして成る熱可塑性エラストマー組成物から成る(図2参照)。これにより、カーカス層6(61〜63)にインナーライナーの機能を付与できるため、タイヤが軽量化される利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層63とビードフィラー52との間に介在するゴム層6aを備え、且つ、カーカス層63とゴム層6aとの剥離強度が、50[N/25mm]以上400[N/25mm]以下の範囲内にある。これにより、カーカス層6とビードフィラー52との間の接着性が向上して、タイヤの耐久性が向上する利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、ゴム層6aが、上記した式(1)で表される化合物およびホルムアルデヒドの縮合物と、メチレンドナーと、加硫剤とを含むゴム組成物から成る。また、式(1)のR1、R2、R3、R4およびR5が、水素、ヒドロキシル基、または、1個以上8個以下の炭素原子数を有するアルキル基である。また、縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲内にある。また、メチレンドナーの配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上80質量部以下の範囲内にある。また、メチレンドナーの配合量と前記縮合物の配合量との比が、1以上4以下の範囲内にある。これにより、カーカス層6とビードフィラー52との間の接着性が向上して、タイヤの耐久性が向上する利点がある。
図10は、空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
この性能試験では、相互に異なる複数の試験タイヤについて、(1)荷重耐久性能、(2)低転がり抵抗性能および(3)操縦安定性能に関する評価が行われた。この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15 91Hの試験タイヤがJATMA規定の適用リムに組み付けられ、この試験タイヤにJATMA規定の最高空気圧および最大負荷が付与される。
(1)荷重耐久性能に関する評価は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム試験機を用いた低圧耐久試験により行われる。そして、走行速度を80[km/h]に設定して、タイヤが破壊したときの走行距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
(2)低転がり抵抗性能に関する評価は、ISO(国際標準化機構)に記載される条件にて試験タイヤの転がり抵抗が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
(3)操縦安定性能に関する評価は、前処理条件として試験タイヤを装着した試験車両にて所定のサーキットを1時間走行した後、テストドライバーが従来例を基準(5)とした10段階評価で官能評価を行う。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
実施例1〜11の試験タイヤは、図1の構成において、有機繊維コードをゴムで被覆して成るカーカス層(図示省略)、および、熱可塑性樹脂から成るカーカス層61〜63とゴム層6aとを積層して成る構造(図2参照)のいずれか一方を有する。また、ビードフィラー52が、ベース521およびコード522から成る(図2参照)。また、ベース521の材質が、熱可塑性樹脂であり、コード522の材質が、有機繊維であり、ナイロン、レーヨンおよびアラミドのいずれか1つである。また、ビードフィラー52が、単一のコード522を巻き回して成る構造(図2参照)、および、複数本のコード522を撚り合わせて成る構造(図8および図9参照)のいずれか一方を有する。
従来例1の試験タイヤは、ビードフィラーがゴムのみから成り、コードを有していない。従来例2の試験タイヤは、ビードフィラーが熱可塑性樹脂から成るが、コードを有していない。従来例3の試験タイヤは、ビードフィラーが、ゴムから成るベースと、コードとから構成される。
試験結果に示すように、実施例1〜11の試験タイヤでは、従来例1〜3の試験タイヤと比較して、荷重耐久性能、低転がり抵抗性能および操縦安定性能が両立することが分かる。