JP6222373B2 - ニッケルペースト及びニッケルペーストの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極用として好適に用いることができるニッケルペースト及びニッケルペーストの製造方法に関する。
一般に、積層セラミックコンデンサ(以下、「MLCC」ともいう)の内部電極に用いられるニッケルペーストは、ビヒクル中にニッケル粉を混練して製造され、多くのニッケル粉の凝集体を含んでいる。ニッケル粉の製造プロセスにおける最終段階には、金属粉の製造方法(乾式法、湿式法)を問わず、乾燥工程を有するのが通常であり、この乾燥工程がニッケル粒子の凝集を促すため、得られるニッケル粉には乾燥時に生じた凝集体が含まれていることが一般的である。
近年の積層セラミックコンデンサは、小型で大容量化を達成させるために、内部電極層を伴ったセラミックグリーンシートの積層数を、数百から1000層程度にまで増加させることが要求されている。このため、内部電極層の厚みを従来の数μmレベルからサブミクロンレベルに薄層化する検討がなされてきており、それに伴い、内部電極用の電極材料であるニッケル粉の小粒径化が進められている。
しかしながら、小粒径になるほどニッケル粉の表面積は大きくなり、それに伴い表面エネルギーが大きくなって、凝集体を形成し易くなる。また、ニッケル超微粉等の金属超微粉は、分散性が悪く、凝集体が存在するようになると、セラミックコンデンサ製造時における焼成工程にてニッケル粉を焼結する際にセラミックシート層を突き抜けてしまうため、電極が短絡した不良品となる。また、たとえセラミックシート層を突き抜けない場合であっても、電極間距離が短くなることで部分的な電流集中が発生するため、積層セラミックコンデンサの寿命劣化の原因となっていた。
MLCCの内部電極用に用いられるニッケル超微粉スラリーとしては、例えば特許文献1に開示されているスラリーがある。具体的に、この特許文献1には、以下のような技術が開示されている。すなわち、先ず、金属超微粉水スラリー(金属超微粉濃度:50質量%)に特定の陰イオン界面活性剤を金属超微粉100質量部に対して0.3質量部の割合で添加したものに対して、プロセスホモジナイザー等を用いた分散処理を所定時間実施して、水中における金属超微粉の凝集体を一次粒子にまで分散させる。その後、有機溶媒として、例えばターピネオールを金属超微粉100質量部に対して10質量部添加する。これにより、金属粉を含むターピネオール層が連続層となって沈殿物となり、水は上澄みとして分離されて、金属超微粉有機溶媒スラリーが得られるというものである。
特開2006−63441号公報
上江田 他 化学と教育,Vol.40,No.2,(1992年)p114−117
しかしながら、特許文献1の方法では、ニッケル粉有機スラリーを作製するために、先ず、ニッケル粉水スラリーに直接、特定の陰イオン界面活性剤を添加し、次に有機溶媒と混合してニッケル粉を置換することによってニッケル粉有機スラリーを得る、という処理を行っており、ニッケル表面の酸化物層が十分に形成されていない湿式粉においては、表面に露出している金属ニッケルがルイス酸点として残存してしまい、例えばオレイルサルコシン等の界面活性剤ではその活性を封印できない。そのため、ペースト化において、エチルセルロースと水素結合による増粘現象を引き起こし、実用的には使用できないという大きな問題があった。
そこで、本発明は、粘度の経時変化がほとんどなく安定性に優れ、積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケルペースト及びニッケルペーストの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の種類と量の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を予め有機溶剤と共にニッケル粉の水スラリーに添加した後に、さらに、特定の種類と量のアミン系分散移行促進剤をそのスラリーに添加することにより、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
(1)本発明の第1の発明は、少なくとも、ニッケル粉と、分散移行促進剤と、有機溶剤と、バインダー樹脂とを含有するニッケルペーストであって、前記分散移行促進剤は、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるいずれか1種以上の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤、及びアミン系分散移行促進剤であり、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の含有量は、前記ニッケル粉100質量部に対して0.16質量部〜3.0質量部であり、前記アミン系分散移行促進剤の含有量は、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の0.2倍量〜4倍量であり、ニッケル濃度が50質量%〜70質量%であり、粘度が8Pa・s〜150Pa・sであり、カールフィッシャー法により測定される水分率が1質量%未満であることを特徴とするニッケルペーストである。
Figure 0006222373
(但し、一般式(1)、(2)において、nは、10〜20の整数である。一般式(3)において、m、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。)
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤が、ラウロイルサルコシン、ラウロイルメチル−β−アラニン、ミリストイルメチル−β−アラニン、ココイルサルコシネート、ミリストイルサルコシネート、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン、N−オレイル−N−メチルグリシン、N−パルミトレイン−N−メチルグリシン、N−バクセン−N−メチルグリシン、N−ネルボン−N−メチルグリシンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とするニッケルペーストである。
(3)本発明の第3の発明は、ニッケル粉の水スラリーに、有機溶剤と、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加した後に、アミン系分散移行促進剤をさらに添加してニッケル有機スラリーを形成するニッケル有機スラリー形成工程と、水層と有機層とに分離した前記ニッケル有機スラリーから該水層を分離して、有機層ニッケル有機スラリーを得る水分離工程と、前記有機層ニッケル有機スラリーにバインダー樹脂を添加して混錬する混練工程とを有し、前記ニッケル有機スラリー形成工程では、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるいずれか1種以上を添加し、前記ニッケル粉に対する前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量は、該陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の総分子断面積が該ニッケル粉の総表面積の1倍〜4倍となる量であり、前記有機溶剤の質量Sと前記ニッケル粉の水スラリー中の水の質量Wとの比であるS/Wが、0.02<S/W<0.4の関係を満たし、前記アミン系分散移行促進剤の添加量は、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量の0.2倍〜4倍となる量であることを特徴とするニッケルペーストの製造方法である。
Figure 0006222373

(但し、一般式(1)、(2)において、nは、10〜20の整数である。一般式(3)において、m、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。)
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、ラウロイルサルコシン、ラウロイルメチル−β−アラニン、ミリストイルメチル−β−アラニン、ココイルサルコシネート、ミリストイルサルコシネート、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン、N−オレイル−N−メチルグリシン、N−パルミトレイン−N−メチルグリシン、N−バクセン−N−メチルグリシン、N−ネルボン−N−メチルグリシンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とするニッケルペーストの製造方法である。
(5)本発明の第5の発明は、第3又は第4の発明において、前記混練工程では、前記バインダー樹脂を5質量%以上の濃度で含有するビヒクルとして添加することを特徴とするニッケルペーストの製造方法である。
本発明に係るニッケルペーストによれば、その粘度の経時変化がほとんどなく安定性に優れ、積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができる。
また、本発明に係るニッケルペーストの製造方法によれば、乾燥工程を含まないためニッケル粉の酸化を抑制することができ、乾燥凝集がなく、品質面でも安定したニッケルペーストを得ることができ、また同時に、有害物であるニッケル粉塵が発生しないため安全衛生上の観点からも優れている。そして、得られたニッケルペーストは、粘度安定性がきわめて高く、ポットライフの長いペーストとなるため、効率的に安定した品質を確保でき、コストを抑えることができる。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。また、本明細書において、「x〜y」(x、yは任意の数値)との表記は、特に断らない限り「x以上y以下」の意味である。
≪1.ニッケルペースト≫
本実施の形態に係るニッケルペーストは、少なくとも、ニッケル粉と、分散移行促進剤と、有機溶剤と、バインダー樹脂とを含有するニッケルペーストである。その分散移行促進剤は、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるいずれか1種以上の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤、及びアミン系分散移行促進剤である。
Figure 0006222373

(但し、一般式(1)、(2)において、nは、10〜20の整数である。一般式(3)において、m、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。)
このニッケルペーストでは、上述した陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の含有量が、ニッケル粉100質量部に対して0.16質量部〜3.0質量部であり、アミン系分散移行促進剤の含有量が、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の0.2倍量〜4倍量である。
また、ニッケルペースト中のニッケル濃度は、50質量%〜70質量%である。また、このニッケルペーストにおいては、粘度が8Pa・s〜150Pa・sであり、カールフィッシャー法により測定される水分率が1質量%未満である。
このようなニッケルペーストによれば、構成成分であるニッケル粉がより凝集の少ない状態で分散されており、例えば高積層セラミックコンデンサの内部電極用として好適に用いることができる。また、このニッケルペーストでは、粘度の経時的な変化がなく安定性に優れ、ポットライフの長いペーストとなるため、効率的に安定した品質を確保することができる。
[ニッケル粉]
ニッケル粉は、当該ニッケルペーストの構成成分であり、湿式法や乾式法等の製法を問わずに種々のニッケル粉を使用することができる。例えば、CVD法、蒸発急冷法、ニッケル塩やニッケル水酸化物等を用いた水素還元法等のいわゆる乾式法によるニッケル粉であってもよく、またニッケル塩溶液に対してヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉であってもよい。その中でも、湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉を使用することが好ましい。
また、ニッケル粉としては、平均粒径が0.05μm〜0.5μmの超微粒のものであることが好ましい。超微粒のニッケル粉は、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極の用途として好適に用いることができる。MLCCの内部電極として近年要求される薄層化に対応する観点からすると、好ましくは平均粒径が0.05μm〜0.3μm程度のニッケル粉を用いることが必要であり、特に1000層レベルの内部電極とするためには、平均粒径がサブミクロンのニッケル粉が必要とされ、0.05μm〜0.1μmのニッケル粉を用いることがより好ましい。
[分散移行促進剤]
分散移行促進剤は、ニッケル粉の表面に吸着してコートされ、ニッケルペースト中での分散性を向上させるように作用する。この分散移行促進剤としては、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤、及び、アミン系分散移行促進剤を含有している。ここで、本実施の形態に係る製造方法における条件でニッケルペーストを製造する場合には、配合した分散移行促進剤はニッケルペースト中にその全量が含有される。
ここで、ニッケル粉粒子の表面は、大気中では酸化され、また大気中の水により水和して水酸基が形成される。このことは、水中でも同様である。この表面に形成された水酸基は、ニッケルの場合には塩基性を示すため、当然ながら、末端にカルボン酸、サルコシン酸といった有機酸等の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤が強く吸着し、いわゆる中和反応によってニッケル粉表面を処理することができる。
しかしながら、ニッケル粉表面の一部には、金属ニッケルが露出した部分(以下、「金属ニッケル部」ともいう)もあり、その部分はルイス酸としてふるまう。そのため、このような金属ニッケル部には、末端にカルボン酸やサルコシン酸のような有機酸等の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を吸着させることができない。この金属ニッケル部は、加熱乾燥を伴わないスラリー状の湿式ニッケル粉で多くなっていることが知られており、一方で、湿式ニッケル粉を大気中で加熱乾燥すると、表面が酸化されて、このような金属ニッケル部は減少する。したがって、加熱乾燥工程を伴わない湿式法により得られるニッケル粉スラリーにおけるニッケル粉表面には、多くのルイス酸点が存在することになり、有機酸による表面処理だけでは、ペースト化で使用されるエチルセルロース等の水酸基を介して水素結合が形成されてしまい、その結果、ペーストの増粘という問題が生じてしまう。
そこで、本発明者は、末端にカルボン酸、サルコシン酸といった有機酸等の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤による表面被覆の後、塩基性物質であるアミン系分散移行促進剤による表面被覆をさらに施すようにすることで、そのルイス酸点を中和することができ、その結果としてペースト化されたときの増粘現象を抑えることができることを見出した。
(陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤)
先ず、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤としては、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表される、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤のうちいずれか1種以上を用いることができる。
Figure 0006222373
ここで、一般式(1)、(2)で表される化合物に関して、式中のnは、10〜20の整数である。また、一般式(3)で表される化合物に関して、式中のm、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。
このような陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、具体的には、ラウロイルサルコシン、ラウロイルメチル−β−アラニン、ミリストイルメチル−β−アラニン、ココイルサルコシネート、ミリストイルサルコシネート、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン、N−オレイル−N−メチルグリシン、N−パルミトレイン−N−メチルグリシン、N−バクセン−N−メチルグリシン、N−ネルボン−N−メチルグリシンからなる群から選ばれる1種を含有させることができ、またはこれらから選ばれる2種以上を組み合わせて含有させることもできる。
(アミン系分散移行促進剤)
次に、アミン系分散移行促進剤としては、特に限定されないが、末端に、1級、2級、3級アミノ基を有するアルキル、ポリアルキレンオキサイド等の構造を有するものを含有させることができる。例えば、オレイルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等を例示することができる。
[有機溶剤]
有機溶剤は、通常、導電ペースト用溶剤として用いられる溶剤であり、上述した分散移行促進剤を溶解することが可能な溶剤あれば、特に限定されない。その中でも、テルペンアルコール系、脂肪族炭化水素系等の有機溶剤であることが好ましい。
具体的に、テルペンアルコール系の有機溶剤としては、例えば、ターピネオール(テルピネオール)、ジハイドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール等が挙げられる。また、脂肪族炭化水素系の有機溶剤としては、例えば、n−デカン、n−ドデカン、ミネラルスピリット等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂としては、例えば、セルロース構造、セルロースエステル構造、及びセルロースエーテル構造から選ばれる構造を有し、カルボキシル基等の官能基(酸基)が導入されているものの、少なくとも1種類を含有させることができる。
[その他]
なお、本実施の形態に係るニッケルペーストには、その作用を損なわせない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。
具体的には、ペースト中におけるニッケル粉の分散性をより向上させるための分散剤や、粘度を調整するための粘度調整剤、チクソ性を高めるためのレオロジーコントロール剤等を添加することができる。
≪2.ニッケルペーストの製造方法≫
次に、ニッケルペーストの製造方法について説明する。本実施の形態に係るニッケルペーストの製造方法は、少なくとも、下記[A]〜[C]の3工程を有している。
すなわち、このニッケルペーストの製造方法は、
[A]ニッケル粉の水スラリーに、有機溶剤と、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加し、その後、アミン系分散移行促進剤をさらに添加してニッケル有機スラリーを形成するニッケル有機スラリー形成工程と、
[B]水層と有機層とに分離したニッケル有機スラリーから水層を分離して、有機層ニッケル有機スラリーを得る水分離工程と、
[C]有機層ニッケル有機スラリーにバインダー樹脂を添加して混錬する混練工程と、
を有している。以下に、各工程について詳細に説明する。
<[A]ニッケル有機スラリー形成工程>
工程[A]においては、ニッケル粉の水スラリー(ニッケル粉水スラリー)に、有機溶剤と、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加して攪拌、混合を行い、その後、その混合液にアミン系分散移行促進剤を添加して攪拌、混合を行うことによって、ニッケル有機スラリーを得る。
(ニッケル粉水スラリー)
ニッケル粉としては、上述したように、湿式法や乾式法等の製法を問わずに種々のものを使用することができ、例えば、ヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉を使用することが好ましい。
また、ニッケル粉としては、湿式法により作製された、平均粒径が0.05μm〜0.5μmの超微粒ニッケル粉を用いることが好ましい。平均粒径が0.05μm〜0.5μmの超微粒ニッケル粉は、積層セラミックコンデンサ内部電極用途として好適に用いられ、このようなニッケル粉を用いることによって、効果がより顕著に表れるようになる。
工程[A]においては、このような超微粒ニッケル粉を従来公知の方法により水中に分散させることによって、ニッケル粉水スラリーを得ることができる。
ニッケル粉水スラリー中のニッケル含有量としては、特に限定されないが、20質量%〜75質量%とすることが好ましい。含有量が20質量%未満であると、水分量が多くなりすぎ、ニッケル有機スラリーを得るために使用する有機溶剤も大量に使用することになる。また、ニッケル濃度が低くなるため、良好なニッケルペーストが生成されにくくなる。一方で、含有量が75質量%を越えると、水分量が少なくなり、有機溶剤との分離が不十分となって、水分が残留しやすくなってしまう。
(陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤)
陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤としては、上述したように、下記の一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるような特定構造を有する陰イオン界面活性剤のうちのいずれか1種以上を用いることができる。
Figure 0006222373
ここで、一般式(1)、(2)で表される化合物に関して、式中のnは10〜20の整数である。nの数が10より小さいと、親水性が強くなり、水が抜けにくくなる。一方で、nの数が20より大きいと、親油性になって水を除去しやすくなるものの、有機溶剤に溶けにくく効率的にニッケル粉の表面をコーティングできない。
例えば、一般式(1)で表される化合物において、n=10とした化学式で表される、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、具体的には下記式(1−1)のような化合物である。この化学式(1−1)で表される、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、化学名が「ラウロイルサルコシン」(分子式=C1529NO、CAS No.=97−78−9)である、市販されている陰イオン界面活性剤である。
Figure 0006222373
また、ココイルサルコシネート(一般式(1)、分子式:C1631NO)、ミリストイルサルコシネート(一般式(1)、分子式:C1733NO)、パルミトイルサルコシン(一般式(1)、分子式:C1937NO)、ステアロイルサルコシン(一般式(1)、分子式:C2243NO)等を例示することができる。
また、一般式(2)で表される陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、化学名「ラウロイルメチル−β−アラニン」(化学式:下記(2−1)、分子式:C1631NO、CAS No.21539−57−1、)や、化学名「ミリストイルメチル−β−アラニン」(化学式:下記(2−2)、分子式:C1835NO、CAS No.21539−71−9)等が具体的に挙げられる。
Figure 0006222373
Figure 0006222373
また、一般式(3)で表される化合物に関して、式中のm、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。m+nが12より小さいと、親油性が不足して水分の分離が不十分となる。一方で、m+nが20より大きいと、有機溶剤に溶解しにくくなる。
具体的に、一般式(3)で表される陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤としては、分子式がC2139NOであって下記(3−1)の化学式(但し、一般式(3)においてm=7、n=7のもの)で示される、化学名「N−オレイル−N−メチルグリシン」、分子式がC1935NO(但し、一般式(3)においてm=7、n=5のもの)である化学名「N−パルミトレイン−N−メチルグリシン」、分子式がC2139NO(但し、一般式(3)においてm=9、n=5のもの)である化学名「N−バクセン−N−メチルグリシン」、分子式がC2751NO(但し、一般式(3)においてm=13、n=7のもの)である化学名「N−ネルボン−N−メチルグリシン」、等を挙げることができる。
Figure 0006222373
(有機溶剤)
有機溶剤は、通常、導電ペースト用溶剤として用いられる溶剤であり、分散移行促進剤を溶解することが可能な溶剤あれば特に限定されないが、上述したように、テルペンアルコール系、脂肪族炭化水素系等の有機溶剤を用いることが好ましい。
テルペンアルコール系の有機溶剤としては、ターピネオール(テルピネオール)、ジハイドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール等が挙げられる。また、脂肪族炭化水素系の有機溶剤としては、n−デカン、n−ドデカン、ミネラルスピリット等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独、または2種以上を併せて用いることができる。
(アミン系分散移行促進剤)
上述したように、工程(A)では、ニッケル粉の水スラリーに、有機溶剤と陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加して混合した後に、その混合液に、アミン系分散移行促進剤をさらに添加する。
アミン系分散移行促進剤としては、上述したように、末端に、1級、2級、3級アミノ基を有するアルキル、ポリアルキレンオキサイド等の構造を有するものを用いることができる。例えば、オレイルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等を例示することができる。
(ニッケル有機スラリー)
工程(A)では、先ず、有機溶剤と、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを混合して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を含有した有機溶液(分散移行促進剤有機溶液)を得て、その後、この分散移行促進剤有機溶液とニッケル粉の水スラリーとを混合することによって、ニッケル有機スラリーを得る。次に、そのニッケル有機スラリーに対して、さらにアミン系分散移行促進剤を添加して混合することによって、ニッケル有機スラリーを得ることを特徴としている。
ここで、本実施の形態に係る製造方法においては、(i)陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量と、(ii)陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を溶解させる有機溶剤の量Sとニッケル粉水スラリー中の水分量Wとの比「S/W」と、(iii)アミン系分散移行促進剤の添加量と、が重要となる。これらの添加量及び比「S/W」を適切な範囲とすることによって、ニッケル粉の表面に分散移行促進剤を均一にコートすることができる。
(i)陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量について
本実施の形態に係る製造方法においては、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量を、その分散移行促進剤の総分子断面積がニッケル粉の総表面積の1倍〜4倍となる量とする。
具体的に、この陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量は、例えば、非特許文献1に記載されている方法で算出可能な、添加する陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の1分子あたりの分子断面積(吸着断面積ともいい、分子の平面への投影面積に相当する)を使用し、ここから、式「ニッケル粉の総表面積(m)×陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の単位分子断面積あたりの質量(g/m)」で計算される理論計算量X値(g)(このXが、「ニッケル粉の総表面積=陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の総分子断面積」となる陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の量である)を算出することで求めることができる。この理論計算量X値は、ニッケル粉の全表面に均一に吸着して被覆するのに最低限必要な分散移行促進剤量に相当する量とみなすことができる。
ここで、分子断面積は、一般的に、構造最適化されたファンデルワールス(vdw)半径表示の3次元分子模型を用意し、炭素原子等のvdw半径が既知の原子を測定したい分子と同一画面上に表示し、検量線とする。画像処理ソフトで検量線となる原子の“円”を構成しているドット数を計測し、その原子のvdw半径と円の面積とから、画面の1ドット当りの面積を求める。次に、断面積を測定したい分子のドット数を計算することによって分子断面積とすることができる。
なお、より具体的には、非特許文献1によれば、分散移行促進剤の立体配座のうち、最も安定な配座における断面積を分子断面積として算出することができる。この非特許文献1には、代表的な高級脂肪酸のステアリン酸を例とした分子断面積の算出方法が例示されている。この文献に示されたステアリン酸の構造式(a)と空間充填模型図(b)とから、ステアリン酸の断面図を作図している。断面積は、結合距離とvdw半径とを用いて方眼紙等に作図し、その紙を切り取って重量を計量することで求めることができる。
例えば、一般式(1)で表される陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として「ラウロイルサルコシン(分子式:C1529NO)」を一例とした場合、上述した非特許文献1に示された分子断面積の算出方法と同様にして算出してみたところ、そのラウロイルサルコシンの分子断面積は0.00182g/mであることが分かった。以下、その算出手順を具体的に説明する。
先ず、ラウロイルサルコシンの化学式からモル質量を求めると、256g/molとなる。すなわち、1分子の重さは4.25E−22(g)である。分子1個の断面積は、2.34E−15(cm)=2.34E−19(m)と算出される。ここで、ニッケル粉の表面1mを被覆するのに必要な分散移行促進剤であるラウロイルサルコシンの物量としては、個数で4.27E+18個であり、質量で1.82E−3gである。したがって、このことから、ラウロイルサルコシンの分子断面積は0.00182g/mと算出することができる。
また、使用する比表面積A(m/g)のNi粉n(g)の表面積はnAmであり、これらを乗じることによって、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるラウロイルサルコシンの理論計算量X値は、nA×0.00182(g)と算出することができる。
同様にして、例えば、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、「ラウロイルメチル−β−アラニン(分子式:C1631NO、CAS No.21539−57−1)の場合には、ニッケル粉の表面1mを被覆するのに必要な分散移行促進剤の量は0.00195g/mであることが分かった。また、「ミリストイルメチル−β−アラニン(分子式:C1835NO、CAS No.21539−71−9)の場合には、ニッケル粉の表面1mを被覆するのに必要な分散移行促進剤の量は0.00214g/mであることが分かった。このような算出方法により、本実施の形態に係る製造方法において使用することができる、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の理論計算量X値を算出することができる。
本実施の形態に係る製造方法においては、上述のようにして算出された理論計算量X値に基づいて、ニッケル粉の表面積に応じて理論計算量X値の1倍量〜4倍量の、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を添加する。陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量が理論計算量X値の1倍量未満であると、その分散移行促進剤によりニッケル粉表面を均一に覆うことができず、引き続き混錬処理を施して作製する有機ニッケルペースト中の水が残留してしまう。一方で、添加量が理論計算量X値の4倍量より多いと、その分散移行促進剤がニッケル粉表面に何層にも重なって被覆されるため、その際に水が抱き込まれて、かえって水の残留量が増加してしまう。
なお、分散移行促進剤の種類によって異なるものの、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量のみで規定すれば、ニッケル粉の表面1mを被覆するのに必要な陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量としては、0.00100g/m〜0.00900g/mであることが好ましく、0.00150g/m〜0.00900g/mであることがより好ましく、0.00182g/m〜0.00856g/mであることが特に好ましい。
(ii)有機溶剤の量Sと水分量Wとの比「S/W」
また、上述した陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、有機溶剤に溶解してからニッケル粉水スラリーに添加する。このとき、本実施の形態においては、有機溶剤とニッケル粉水スラリーとに関して、有機溶剤の質量Sとニッケル粉水スラリー中の水の質量Wとの比である「S/W」が、0.02<S/W<0.4の関係を満たすようにする。
ここで、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を直接ニッケル粉水スラリーに添加すると、その分散移行促進剤がミセル化してニッケル粉表面に効率よく吸着し難くなる。そのため、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を添加するに際しては、有機溶剤に一旦溶解させてからニッケル粉水スラリーに添加することが必要となる。
ニッケル粉に対して陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤をコートするにあたり、分散移行促進剤を溶解させた有機溶液(分散移行促進剤有機溶液)とニッケル粉水スラリーとの混合攪拌方法としては、特に限定されるものではなく、例えば公知の分散処理装置であるボールミル、ホモジナイザー、乳鉢、自動乳鉢、ニーダー、プラネタリーミキサー等を使用した方法を用いることができる。また、必要に応じて、真空ポンプ又はアスピレーターで減圧して、脱泡や脱水処理を施すようにしてもよい。また、加熱、冷却処理を行うようにしてもよい。
(iii)アミン系分散移行促進剤の添加量について
本実施の形態に係る製造方法においては、上述したように、ニッケル粉の水スラリーに、有機溶剤と陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加して攪拌、混合を行い、その後、この混合液にさらにアミン系分散移行促進剤を添加して攪拌、混合を行うことによって、ニッケル有機スラリーを得ることを特徴としている。
そして、そのアミン系分散移行促進剤の添加量としては、上述した陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量の0.2倍〜4倍となる量とする。
アミン系分散移行促進剤の添加量が、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量の0.2倍量未満の量であると、最終的に得られるニッケルペーストの経時変化を抑制することができない。一方で、アミン系分散移行促進剤の添加量が、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量の4倍量を超えた量であると、カールフィッシャー法による水分率が1質量%未満の良好なニッケルペーストを効果的に得ることができず、その効果を十分に奏し得ない。
<[B]水分離工程>
工程[B]では、水層と有機層とに分離したニッケル有機スラリーからその水層を分離して、有機層ニッケル有機スラリーを得る。
上述した工程[A]において混合攪拌によってニッケル有機スラリーを得ると、そのニッケル有機スラリー中のニッケル粉は、有機層に分散移行し、上澄みの水を従来公知の方法で分離除去することで、有機層ニッケル有機スラリーを得ることができる。
この工程で分離した有機層ニッケル有機スラリーには、15質量%〜50質量%程度の水分が残存しているが、本実施の形態に係る製造方法においては、この残存水分も次工程の混練工程[C]において効果的に低減させることができる。
<[C]混練工程>
工程[C]では、有機層ニッケル有機スラリーにバインダー樹脂を添加して混錬する。この工程[C]において、有機層ニッケル有機スラリーと、バインダー樹脂とを混練する、いわゆるフラッシングプロセスにより、スラリー中に残留した水分を効果的に分離除去することができる。これにより、具体的には、カールフィッシャー法により測定される水分率が1質量%未満であるニッケルペーストを得ることができる。
バインダー樹脂としては、特に限定されないが、有機溶剤に樹脂を溶解させて得られるビヒクルとして添加することが好ましい。ここで、ビヒクルは、樹脂を有機溶剤に溶解させることで得られるものであり、有機溶剤としては導電ペーストの用途に通常使用されているものでよい。
例えば、樹脂としては、セルロース構造、セルロースエステル構造、及びセルロースエーテル構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものを用いることができる。また、有機溶剤としては、上述した樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、テルペンアルコール系、脂肪族炭化水素系等の溶剤であることが好ましく、上述した工程[A]のニッケル有機スラリー形成工程にて用いられる有機溶剤と同様のものが好適に用いられる。
使用するビヒクルの濃度としては、特に限定されないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。濃度が5質量%未満であると、粘度が低くなり、混練時にトルクがかかりにくくなり、また水の分離が不十分となってニッケルペーストの残留水分量が多くなる可能性がある。なお、ビヒクルの濃度の上限値としては、特に限定されないが、例えば30質量%以下とすることができる。
また、混練方法としては、公知の方法を使用することができ、具体的にはロールミル、ボールミル、ホモジナイザー、ライカイ機、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練装置を用いた方法により行うことができ、特に限定されない。また、必要に応じて、真空ポンプ又はアスピレーターで減圧し、脱泡や脱水処理を施してもよい。また、加熱、冷却処理を行うことも可能である。
このように、ニッケル水スラリーに、有機溶剤及び樹脂を強制的に吸着させて、水を有機溶剤と置換し分離する「フラッシングプロセス」を適用することにより、得られるニッケルペーストの水分率をより効果的に低減させることができる。具体的には、カールフィッシャー法により測定される水分率を、より効率的に1質量%未満とすることができる。
なお、以上のようにして得られるニッケルペーストは、残留した水分を分離除去した後に、積層セラミックコンデンサの構成成分である誘電体として例えばチタン酸バリウム等を混合してもよい。さらに、分散性を上げるために、分散剤を添加することもでき、また粘度調整のために有機溶剤を添加することもできる。また、チクソ性を出すために、レオロジーコントロール剤等を添加して混練することもできる。
以上のように、本実施の形態に係る製造方法では、末端にカルボン酸、サルコシン酸といった有機酸等の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤による表面被覆の後、塩基性物質であるアミン系分散移行促進剤による表面被覆をさらに施すようにしているため、最終的に得られるニッケルペーストの経時的な粘度変化を生じさせず、粘度安定性に優れたペーストとすることができる。
このようにして得られたニッケルペーストによれば、例えば、小型化の要求が増している、高積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができる。
以下に、本発明の実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
≪評価方法≫
下記の実施例及び比較例に示す作製条件にて得られたニッケルペーストについて、以下の評価方法により評価を行った。
(残留水分率の測定)
得られたニッケルペーストについて、その水分率を、電量滴定式カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社製)を用いて、180℃における残留水分率(質量%)を測定した。
(乾燥膜密度の測定)
得られたニッケルペーストを、PETフィルム上にアプリケーターを用いて200μmの厚さに塗布し、120℃で40分間乾燥させた。得られた膜について、φ40mmになるように切り抜き、面積、膜厚、及び重量を測定し、これらのデータから乾燥膜密度を算出した。
(粘度の評価)
レオメーター(MCR−501,アントンパール社製)を用い、せん断速度4.0s−1、25℃におけるニッケルペーストの粘度(Pa・s)を測定した。また、ニッケルペーストを製造した日を初期値(1日目)とし、5日目、10日目、20日目における粘度測定の結果から増粘率(測定粘度/粘度初期値)を算出し、粘度の経時変化を評価した。
≪実施例及び比較例におけるニッケルペーストの作製≫
[実施例1]
(1)ニッケルペーストの作製
先ず、住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉水スラリー(水分量70%)300g(規格名:NR707、湿式還元法によるNi超微粉、平均粒径0.07μm、比表面積9.6m/g)を出発原料とした。
次に、有機溶剤としてジヒドロターピネオール(日本香料株式会社製)13.7gを用意し、その有機溶剤に、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として日油株式会社製のN−オレイル−N−メチルグリシン(商品名:オレオイルザルコシン221P)1.5gを溶解させて、分散移行促進剤有機溶液15.2gを調製した。
その後、ニッケル粉水スラリーに対して、調製した分散移行促進剤有機溶液15.2gを加え、エクセルオートホモジナイザー(日本精機株式会社製)で周速10m/sの回転速度で2分間混合攪拌して、理論計算値X値の1.5倍量の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤をニッケル粉にコートしたニッケル粉有機スラリーを得た。なお、このときの、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤を混合溶解させた有機溶剤の質量Sとニッケル粉水スラリー中の水の質量Wとの比であるS/Wは0.065であった。
さらに、アミン系分散移行促進剤としてポリオキシエチレン−ラウリルアミン(日油株式会社製)を用意し、ニッケル粉有機スラリーに対して1.5gの添加量で添加し、エクセルオートホモジナイザー(日本精機社製)で周速10m/sの回転速度で2分間混合攪拌した。これにより、2段階で分散移行促進剤をコートしたニッケル粉有機スラリーを得た。
なお、処理条件としては、ニッケル粉90gの表面積が9.6×90=864mであり、このニッケル粉の表面1mをコートするための陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量は、上述した通り0.00119g/mであり、理論計算量X値は864m×0.00119g/m=1.03gと算出され、実施例1で添加した陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシン1.5gは、理論計算量X値の1.5倍量である。また、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンは、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの添加量と同質量(1倍量)とした。
次に、有機溶剤のジヒドロターピネオールに、バインダー樹脂としてエチルセルロース(ダウケミカル社製,規格名:STD300)を投入し、攪拌しながら80℃に加熱してビヒクル(10.5質量%エチルセルロース)を調製した。そして、そのビヒクル25gと、上述のように作製した、分散移行促進剤をニッケル粉にコートしたニッケル粉有機スラリーとを、3本ロールを用いて十分に混錬し、その後ジヒドロターピネオールで希釈して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの含有量がニッケル粉100質量部に対して1.7質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がN−オレイル−N−メチルグリシンと同質量(1倍量)であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを得た。
(2)ニッケルペーストの評価
作製したニッケルペーストの試料について、上述した評価方法により、「残留水分率」、「乾燥膜密度」、及び「粘度」を測定して評価した。
その結果、残留水分率は0.89質量%と極めて少なかった。また、乾燥膜密度は、4.9g/cmという高い膜密度が得られた。また、粘度は、初期値が21.8Pa・sであり、20日経過しても増粘率は1.0で、粘度の増加は認められず、粘度は経時的に極めて安定していた。
[実施例2]
アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミン(日油株式会社製)の添加量を、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの添加量の0.5倍量である0.8gとしたこと以外は、実施例1と同様に処理して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの含有量がニッケル粉100質量部に対して1.7質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がN−オレイル−N−メチルグリシンの0.5倍量であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを作製した。
[実施例3]
アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミン(日油株式会社製)の添加量を、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの添加量の3倍量である4.5gとしたこと以外は、実施例1と同様に処理して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの含有量がニッケル粉100質量部に対して1.7質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がN−オレイル−N−メチルグリシンの3倍量であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを作製した。
[実施例4]
住友金属鉱山社製のニッケル粉水スラリー(水分量70%)300g(規格名:NR720、平均粒径0.2μm、比表面積4.4m/g)を用意し、これを出発原料として使用したこと以外は、実施例1と同様に処理して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシン(理論計算値X値=0.5g)の含有量がニッケル粉100質量部に対して0.8質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がN−オレイル−N−メチルグリシンと同質量(1倍量)であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを作製した。
[実施例5]
実施例1で使用した住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉水スラリー(水分量70%)300g(規格名:NR707、湿式還元法によるNi超微粉、平均粒径0.07μm、比表面積9.6m/g)を出発原料とし、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、N−オレイル−N−メチルグリシンからココイルサルコシネート(分子式:C1631NO,日進化成株式会社製,理論計算値X値=1.7g)に代えて理論計算量X値の1.5倍量で添加したこと以外は、実施例1と同様に処理して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるココイルサルコシネートの含有量がニッケル粉100質量部に対して1.7質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がココイルサルコシネートと同質量(1倍量)であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを作製した。
[実施例6]
実施例1で使用した住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉水スラリー(水分量70%)300g(規格名:NR707、湿式還元法によるNi超微粉、平均粒径0.07μm、比表面積9.6m/g)を出発原料とし、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、N−オレイル−N−メチルグリシンからミリストイルメチル−β−アラニン(分子式:C1835NO,日進化成株式会社製,理論計算値X値=1.7g)に代えて理論計算量X値の1.5倍量で添加したこと以外は、実施例1と同様に処理して、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるミリストイルメチル−β−アラニンの含有量がニッケル粉100質量部に対して1.7質量部で、アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミンの含有量がミリストイルメチル−β−アラニンと同質量(1倍量)であり、ニッケル濃度が60質量%であるニッケルペーストを作製した。
[比較例1]
アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミン(日油株式会社製)の添加量を、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの添加量の0.1倍量としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケルペーストを作製した。
[比較例2]
アミン系分散移行促進剤であるポリオキシエチレン−ラウリルアミン(日油株式会社製)の添加量を、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤であるN−オレイル−N−メチルグリシンの添加量の5倍量としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケルペーストを作製した。
≪評価結果のまとめ≫
下記表1に、上述した実施例1〜4、及び、比較例1、2のそれぞれで得られたニッケルペーストの評価結果をまとめて示す。
Figure 0006222373
表1に示す結果からも分かるように、実施例1〜4にて得られたニッケルペーストでは、その水分率はいずれも極めて少なく、乾燥膜密度も高い緻密な膜が得られた。また、これらのペーストには、凝集粉が存在しておらず分散性に優れていることが分かる。そして、得られたニッケルペーストは、ペースト作製後20日後であって粘度に変化がなく、極めて安定したペーストであることが分かる。
これに対して、実施例における作製条件と異なる条件で作製した比較例1及び2のニッケルペーストでは、経時的な粘度の変化を抑制できていないことが分かる。

Claims (5)

  1. 少なくとも、ニッケル粉と、分散移行促進剤と、有機溶剤と、バインダー樹脂とを含有するニッケルペーストであって、
    前記分散移行促進剤は、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるいずれか1種以上の陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤、及びアミン系分散移行促進剤であり、
    前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の含有量は、前記ニッケル粉100質量部に対して0.16質量部〜3.0質量部であり、
    前記アミン系分散移行促進剤の含有量は、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の0.2倍量〜4倍量であり、
    ニッケル濃度が、50質量%〜70質量%であり、
    粘度が、8Pa・s〜150Pa・sであり、
    カールフィッシャー法により測定される水分率が、1質量%未満である
    ことを特徴とするニッケルペースト。
    Figure 0006222373

    (但し、一般式(1)、(2)において、nは、10〜20の整数である。一般式(3)において、m、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。)
  2. 前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、ラウロイルサルコシン、ラウロイルメチル−β−アラニン、ミリストイルメチル−β−アラニン、ココイルサルコシネート、ミリストイルサルコシネート、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン、N−オレイル−N−メチルグリシン、N−パルミトレイン−N−メチルグリシン、N−バクセン−N−メチルグリシン、N−ネルボン−N−メチルグリシンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のニッケルペースト。
  3. ニッケル粉の水スラリーに、有機溶剤と、陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤とを添加した後に、アミン系分散移行促進剤をさらに添加してニッケル有機スラリーを形成するニッケル有機スラリー形成工程と、
    水層と有機層とに分離した前記ニッケル有機スラリーから該水層を分離して、有機層ニッケル有機スラリーを得る水分離工程と、
    前記有機層ニッケル有機スラリーにバインダー樹脂を添加して混錬する混練工程と
    を有し、
    前記ニッケル有機スラリー形成工程では、
    前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤として、下記一般式(1)、(2)、及び(3)で表されるいずれか1種以上を添加し、
    前記ニッケル粉に対する前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量は、該陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の総分子断面積が該ニッケル粉の総表面積の1倍〜4倍となる量であり、
    前記有機溶剤の質量Sと前記ニッケル粉の水スラリー中の水の質量Wとの比であるS/Wが、0.02<S/W<0.4の関係を満たし、
    前記アミン系分散移行促進剤の添加量は、前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤の添加量の0.2倍〜4倍となる量である
    ことを特徴とするニッケルペーストの製造方法。
    Figure 0006222373

    (但し、一般式(1)、(2)において、nは、10〜20の整数である。一般式(3)において、m、nは、m+n=12〜20の関係を満たす。)
  4. 前記陰イオン型界面活性剤構造を有する分散移行促進剤は、ラウロイルサルコシン、ラウロイルメチル−β−アラニン、ミリストイルメチル−β−アラニン、ココイルサルコシネート、ミリストイルサルコシネート、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン、N−オレイル−N−メチルグリシン、N−パルミトレイン−N−メチルグリシン、N−バクセン−N−メチルグリシン、N−ネルボン−N−メチルグリシンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載のニッケルペーストの製造方法。
  5. 前記混練工程では、前記バインダー樹脂を5質量%以上の濃度で含有するビヒクルとして添加することを特徴とする請求項3又は4に記載のニッケルペーストの製造方法。
JP2016550399A 2014-09-26 2015-09-25 ニッケルペースト及びニッケルペーストの製造方法 Active JP6222373B2 (ja)

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