本発明に係る研磨パッドの一実施形態について詳しく説明する。
本実施形態の研磨パッドは、湿熱処理により接着性を示す湿熱接着性樹脂を含む湿熱接着性繊維が互いに接着した不織繊維基材を含む、見掛け密度0.3〜0.9g/cm3、D硬度25〜65、且つテーバー摩耗(摩耗輪H−22、荷重4.9N、60rpm、500回)での磨耗減量が10〜600mgであるシートを研磨層として備える。
湿熱接着性繊維は湿熱処理により接着性を示す湿熱接着性樹脂を含む繊維であって、例えば、高温水蒸気や熱水に接触させる等の湿熱処理により接着性を帯び、湿熱接着性繊維同士、または、湿熱接着性繊維と湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維とを接着する繊維である。湿熱処理により湿熱接着性樹脂は軟化して流動したり変形したりするために繊維間を強固に接着することができる。また、研磨パッドの表面に湿熱接着性樹脂が存在する場合には、研磨時において研磨スラリーと接触したときに研磨面付近のみが軟化することによりスクラッチの発生を抑制する。また、疎水性が比較的高いポリウレタン等の高分子弾性体をバインダとして用いなくても繊維同士を固定することができるために、高分子弾性体による親水性の低下が抑制でき、非常に高い親水性を実現することにより、研磨層に付着した研磨屑などを水洗等により容易に除去することができる。さらに、厚み方向に付着量のばらつきが生じやすい高分子弾性体バインダを含有させなくてもよく、研磨層の厚さ方向の均一性が向上するため、パッドが磨耗しても研磨特性が安定となる。
湿熱接着性繊維を含む繊維ウェブは、湿熱処理により湿熱接着性繊維を他の繊維に接着させて不織繊維基材を形成しうる湿熱接着性繊維を含む繊維ウェブであればとくに限定なく用いられる。湿熱接着性繊維としては、湿熱接着性樹脂のみからなる繊維であっても、異なる種類の湿熱接着性樹脂同士を組み合わせて複合化された複合繊維であっても、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性樹脂と湿熱接着性樹脂を組み合わせて複合化された複合繊維であってもよい。また、湿熱接着性繊維と湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維とを組み合わせて用いてもよい。なお、湿熱処理の条件は特に限定されないが、例えば、70〜150℃、さらには90〜130℃、とくには80〜120℃程度の高温水蒸気や熱水に接触させるような条件が挙げられる。
湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体;カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体20〜100質量%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0質量%とを重合して得られる樹脂;セルロース又はその誘導体;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する樹脂;等が挙げられる。
なお、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体の具体例としては、例えば酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,酪酸ビニル,カプロン酸ビニル等が挙げられる。また、不飽和二重結合を有するその他の単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド,スチレン,メチルビニルエーテル,ビニルピロリドン,エチレン,プロピレン,ブタジエン等が挙げられる。また、カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸,(無水)マレイン酸,イタコン酸,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,4−ヒドロキシスチレン,メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドおよびビニルピロリドン等が挙げられる。また、セルロースの誘導体の具体例としては、例えば、メチルセルロースなどのアルキルセルロースエーテル,ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロースエーテル,カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロースエーテルまたはそれらの塩等が挙げられる。また、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどを共重合したポリエステルまたはポリウレタン等が挙げられる。なお、例えば、(メタ)アクリル酸のような表記は、メタアクリル酸またはアクリル酸を意味するものとする。従って、(メタ)アクリルアミドの表記はメタクリルアミドまたはアクリルアミドを意味する。
上述したような湿熱接着性樹脂は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体が、湿熱接着性に優れ、また、研磨時に吸水しても高い強度や耐摩耗性を維持する点から好ましい。なお、ビニルエステル基含有単量体とその他の単量体との重合体は、ケン化により主鎖骨格中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体単位とその他の単量体単位とを含む重合体中の、その他の単量体単位の共重合率としては、20〜60モル%、さらには、25〜55モル%、とくには、30〜50モル%であることが好ましい。
また、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体としては、酢酸ビニルとエチレンとの重合体のケン化物である、エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物(エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)とも称される)が特に好ましい。
EVOHのエチレン単位の共重合率としては、20〜60モル%、さらには25〜55モル%、とくには30〜50モル%であることが好ましい。エチレン単位の共重合率がこのような範囲である場合には、湿熱接着性は高いが熱水溶解性は低いという特異な性質が得られる。エチレン単位の共重合率が低すぎる場合には、低温の水や水性スラリーに容易に膨潤したりゲル化しやすいEVOHが得られる傾向があり、得られる研磨パッドの研磨速度が低下しやすくなる傾向がある。また、エチレン単位の共重合率が高すぎる場合には、吸湿性が低下することにより湿熱接着性が低下し、得られる研磨層の強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、エチレン単位の共重合率が30〜50モル%の範囲である場合には、得られる研磨層の耐久性や研磨速度がとくに優れる点から好ましい。
また、EVOHにおけるビニルエステル単位のケン化度(加水分解した割合)としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.9モル%、とくには95〜99.5モル%程度であることが好ましい。ケン化度が低すぎる場合には、熱安定性が低下することにより紡糸時に熱分解やゲル化を起こしやすくなる傾向がある。また、ケン化度が高すぎる場合には、ケン化に長時間要するなど生産性が低下するとともに顕著な改善効果が低い傾向がある。
また、湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維であることが、得られるシートの強度や硬さを調整しやすい点から好ましい。非湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド10,ポリアミド12,ポリアミド6−12,ポリアミド9T等のポリアミド系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;塩化ビニル系樹脂;スチレン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂;熱可塑性エラストマー等の非水溶性樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂が、とくにはポリエチレンテレフタレートが、EVOHのような湿熱接着性樹脂よりも融点が高く、耐熱性や繊維形成性に優れる点から特に好ましい。
湿熱接着性樹脂が複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂は、非湿熱接着性樹脂からなる繊維の表面に、その長手方向に連続するように被着されていることが好ましい。また、複合繊維の横断面の相構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型または多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型等が挙げられる。これらの中では、湿熱接着性樹脂が鞘部を形成し、非湿熱接着性樹脂または他の湿熱接着性樹脂繊維が芯部を形成し、湿熱接着性樹脂が繊維の表面を覆う芯鞘型構造であることが、湿熱接着性が高い点から好ましい。また、湿熱接着性繊維は、非湿熱接着性繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコートして形成されるような繊維であってもよい。
湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合割合は、湿熱接着性樹脂を少なくとも表面に有して湿熱接着性を維持する繊維であれば特に限定されず、複合繊維の横断面構造等に応じて適宜調整される。具体的には、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂が、25/75〜90/10、さらには35/65〜80/20、とくには40/60〜70/30、ことには45/55〜75/25程度であることが好ましい。なお、湿熱接着性樹脂の割合が低すぎる場合には、繊維の長手方向に連続して表面を覆いにくくなり、湿熱接着性が低下して、得られる研磨パッドの強度や耐久性、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、湿熱接着性樹脂の割合が高すぎる場合には、非湿熱接着性樹脂との複合化による強度や耐久性の向上効果が充分に得られなくなる傾向がある。
また、湿熱接着性繊維の捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、さらには5〜50個/25mm、とくには10〜30個/25mm程度であることが好ましい。
繊維ウェブを形成するための繊維成分は、湿熱接着性繊維に組み合わせて、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維を含んでもよい。非湿熱接着性繊維を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体等のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂等のアクリル系樹脂;ポリビニルアセタール系樹脂;ポリ塩化ビニル,塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体,塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体,塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体等のポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリスチレン,スチレン−メタクリル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド系樹脂やポリアミド6T,ポリアミド9T等の半芳香族ポリアミド系樹脂等のポリアミド系樹脂;ビスフェノール型ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの樹脂には、共重合可能なその他の単量体単位が含まれていてもよい。これらの樹脂の中では、ポリオレフィン系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリアミド系樹脂から選ばれる、湿熱処理で溶融または軟化して融着しない軟化点または融点が100℃以上の樹脂が好ましく、さらには、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点からポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂がとくに好ましく、ポリエステル系樹脂が最も好ましい。
非湿熱接着性繊維としては、とくに、湿熱処理等による加熱により捲縮が増加する、熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂が非対称または層状に複合化された繊維断面の相構造を有する複合繊維である、いわゆるバイメタル構造を有する潜在捲縮繊維を用いることがとくに好ましい。このようなバイメタル構造を有するような潜在捲縮繊維は、互いの樹脂の熱収縮率等の違いにより、加熱により捲縮を顕在化させる繊維である。潜在捲縮繊維は湿熱処理時に捲縮を顕在化させるために、湿熱接着性繊維とともに繊維ウェブに含有させることにより不織繊維基材の見掛け密度や硬度の調整に寄与する。
潜在捲縮繊維を形成する熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂としては、互いに熱収縮率または熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせであれば、特に限定なく用いられ、同系の樹脂の組み合わせや、異系の樹脂の組み合わせであってもよい。なお、同系の樹脂の組み合わせであることが密着性に優れる点からとくに好ましい。同系の樹脂を組み合わる場合には、例えば、少なくとも一種の樹脂を変性するために少量成分の変性用の単量体を共重合させ、その成分や割合を調整することにより融点、軟化点、結晶化度等を制御して熱収縮率や熱膨張率を調整できる。変性用の単量体の含有割合としては、1〜50モル%、さらには2〜40モル%、とくには3〜30モル%、ことには5〜25モル%程度であることが好ましい。このようにして、互いの樹脂の融点または軟化点の差が5〜150℃、さらには50〜130℃、とくには70〜120℃程度になるような組み合わせを選択することが好ましい。
このような潜在捲縮繊維を形成するための熱収縮率または熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせの具体例としては、例えば、ポリエステル系樹脂同士の組み合わせやポリアミド系樹脂同士の組み合わせが、さらにはポリエステル系樹脂同士の組み合わせ、とくにはポリエチレンテレフタレート(PET)と変性PETとの組み合わせが製造性と物性のバランスに優れている点から好ましい。なお、変性PETは、PETの構成成分であるエチレングリコールおよびテレフタル酸に、少量成分として、エチレングリコールール以外のジオール成分またはテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合することにより変性されたPETである。エチレングリコール以外のジオール成分の具体例としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど等が挙げられる。またテレフタル酸以外のジカルボン酸成分の具体例としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
非湿熱接着性繊維が熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂が複合化された潜在捲縮繊維である場合、その横断面の相構造としては、例えば、異なる相が隣り合う構造であるサイドバイサイド型または多層貼合型のようなバイメタル構造、相構造が非対称な偏芯芯鞘型構造または並列型構造、芯鞘型構造、海島型構造、ブレンド型構造、放射状貼合型や中空放射型のような放射型構造、ブロック型構造、ランダム複合型構造等が挙げられる。これらの中では、加熱による高い捲縮性を発現させ易い点からバイメタル構造や偏芯芯鞘型構造または並列型構造がとくに好ましい。このような潜在捲縮繊維は、加熱により、螺旋状やつるまきバネ状のようなコイル状の立体捲縮を顕在化または増加させる。
このような潜在捲縮繊維の捲縮数は、加熱前は0〜30個/25mm、さらには1〜25個/25mm、とくには5〜20個/25mm程度であり、加熱後は、30〜200個/25mm、さらには35〜150個/25mm、とくには40〜120個/25mm、ことには50〜100個/25mm程度であることが好ましい。
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維とを組み合わせて用いる場合、その質量比は特に限定されないが、得られる研磨層の硬度や剛性、表面平滑性、良好な研磨速度や平坦性、耐磨耗性等のバランスから、湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との合計量に対する非湿熱接着性繊維の含有割合は70質量%以下、さらには60質量%以下、とくには50質量%以下、ことには40質量%以下であることが好ましい。非湿熱接着性繊維は、単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維や非湿熱接着性繊維の平均繊度は特に限定されないが、0.1〜10dtex、さらには0.5〜7dtex、とくには1〜5dtexであることが、シートの生産性及び研磨パッドの研磨速度や耐久性、低スクラッチ性に優れる点から好ましい。
また、繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維や非湿熱接着性繊維の平均繊維長も特に限定されないが、例えば10〜100mm、さらには20〜80mm、とくには25〜75mm程度であることが好ましい。この範囲であれば、カード機による繊維間の開繊状態がより良好となり、各繊維が均一に分散した繊維ウェブを得ることができる。それにより均一な繊維絡合体を形成できるために、繊維間の距離が近くなる。その結果、湿熱処理によって繊維間の接着点となりやすい部位が数多く且つ均一に形成されることにより、湿熱接着性繊維の接着性が向上し、シートの機械的強度が充分に維持される。
繊維ウェブを形成する繊維の横断面の形状も特に限定されない。具体例としては、例えば、一般的な中実断面形状である丸型断面や、偏平状,楕円状,多角形状,3〜14葉状,T字状,H字状,V字状,ドッグボーン(I字状),中空断面等の異型断面等が挙げられる。
研磨層として用いられる不織繊維基材を含むシートの見掛け密度は0.3〜0.9g/cm3であり、0.32〜0.87g/cm3、さらには0.34〜0.84g/cm3、とくには0.36〜0.81g/cm3、ことには0.38〜0.78g/cm3であることが好ましい。見掛け密度が0.3g/cm3未満の場合には、研磨面の空隙に研磨スラリーが吸収されて被研磨面に供給されにくくなるため研磨速度が低下しやすく、剛性も低くなるために平坦性も低下する。一方、見掛け密度が0.9g/cm3を超える場合には、研磨層の研磨面の空隙が少なくなって研磨スラリーの保持性が低下するため研磨速度が低下し、被研磨面への追従性も低下するためにレンズなどの曲面の研磨が困難になる。なお、パッドの空隙は連通孔であっても独立孔であっても良いが、連通孔であることが研磨スラリーの保持性に優れるために好ましい。
また、乾燥状態における不織繊維基材を含むシートのD硬度は25〜65であり、27〜63、さらには30〜60、ことには32〜58であることが好ましい。D硬度が25未満の場合、吸水後の研磨層の硬度が低くなりすぎ、研磨速度や平坦性が低下する。また、D硬度が65を超える場合、吸水後においても研磨層の硬度が高くなりすぎ、被研磨面に傷が発生しやすい上、被研磨面の平滑性も低下しやすい。なお、シートのD硬度は見掛け密度と強く相関し、一般に見掛け密度が高いほどD硬度が高くなり、見掛け密度が低いほどD硬度も低くなる。また、EVOHやPETのように樹脂のガラス転移温度が室温よりも高い場合には、樹脂の違いによる影響は比較的小さい。したがって、繊維を構成する樹脂に応じて見掛け密度を適宜調整することにより、所望のD硬度とすることが可能である。
そして、研磨層の研磨面は、テーバー摩耗(摩耗輪H−22、荷重4.9N、60rpm、500回)での磨耗減量が10〜600mgであり、11〜550mg、さらには12〜500mg、とくには13〜450mg、ことには14〜400mgであることが好ましい。磨耗減量が600mgを超える場合には、繊維が抜けやすくなるために、研磨安定性が低下したり、脱落した繊維によりスクラッチを発生させやすくする。また、研磨パッドの寿命も短くなる。一方、磨耗減量が10mg未満の場合には、研磨面がスキン層が形成されているような状態になってパッド表面での繊維の毛羽立ちが少なくなるために、スラリー保持性が低下して研磨速度が低下する。また、研磨パッドの表面が硬くなるためにスクラッチが発生しやすくなる。なお、テーバー磨耗での磨耗減量は繊維同士の接着強度や繊維の強度に強く依存し、一般に繊維と繊維が強く接着しているほど、また、繊維の強度が高いほど磨耗減量が少なくなる。従って、湿熱処理や熱プレスを行う際の温度や圧力を高くして繊維間の接着を強固にしたり、繊維の繊度を太くしたりすることにより、テーバー磨耗での磨耗減量を低下させることができ、一方、湿熱処理や熱プレスを行う際の温度や圧力を低くして繊維間の接着を抑制したり、繊維の繊度を細くしたりすることにより、テーバー磨耗での磨耗減量を増加させることができる。このようにして、テーバー磨耗での磨耗減量を調整できる。
さらに、不織繊維基材中の繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、この接着点が厚さ方向に沿って、表面から中央部を経て裏面に至るまで、ほぼ均一に分布していることが好ましい。接着点が表層または内層に偏在する場合には、シートの特性が厚み方向で不均一になるために、研磨層が磨耗するにつれて研磨特性が変化する傾向がある。
また、不織繊維基材が潜在捲縮繊維を含む場合には、捲縮が顕在化した後の捲縮繊維の捲縮数が厚さ方向においてほぼ均一であることが好ましい。また、捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、10〜900μm、さらには20〜700μm、とくには30〜500μm、ことには40〜300μm、最も50〜200μmであることが研磨パッドの見掛け密度と硬度を好適な範囲に調整しやすく、製造も容易である点から好ましい。なお、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は形成されたコイルがルーズな形状を有し、言い換えれば捲縮数の少ない形状を有していることを意味する。また、コイル状に捲縮した複合繊維において、コイルの平均ピッチは、0.03〜5mm、さらには0.03〜2mm、とくには0.05〜1mm、ことには0.05〜0.5mm程度であることが好ましい。
また、上述した繊維成分には、本発明の効果を損なわない限り、例えば、熱安定剤,紫外線吸収剤,光安定剤,酸化防止剤等の安定剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等の添加剤を必要に応じて含有してもよい。また、本発明の効果を阻害しない限り、繊維の外部に熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,無機粒子等を必要に応じて含んでもよい。
次に、本実施形態の研磨パッドの製造方法の一例を説明する。
はじめに、上述したような湿熱接着性繊維を含む繊維ウェブを製造する。繊維ウェブの製造方法の具体例としては、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法を用いて溶融紡糸された繊維をそのまま積層するようにしてウェブ化する方法や、ステープル繊維をカーディングしてウェブ化するカード法やエアレイ法等の乾式法等、特に限定されない。これらの中では、特にステープル繊維を用いたカード法が好ましく用いられる。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
次に、得られた繊維ウェブを湿熱処理することにより繊維同士を接着させて不織繊維基材を形成する。具体的には、例えば、得られた繊維ウェブをメッシュコンベアで搬送しながら、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高温水蒸気(高圧スチーム)に接触させることにより繊維同士を接着させて不織繊維基材を得ることができる。
蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、繊維ウェブ中の繊維を大きく動かさずに繊維ウェブの内部に進入する。そして、繊維ウェブ中に蒸気流が進入することにより、繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維中の湿熱接着性樹脂が接着性を帯び、繊維同士が接着される。このような方法によれば、湿熱処理が蒸気による高速気流下で短時間で行われるために、繊維表面に対しては熱が充分に付与され、一方、繊維内部に対しては過剰な熱が伝わる前に湿熱処理が終了する。そのため、蒸気の圧力や熱により繊維の形態が完全には失われることがない。その結果、繊維ウェブの溶融または軟化による大きな変形等が生じることなく、厚み方向に均一に接着された不織繊維基材が得られる。
なお、上述したような繊維ウェブを湿熱処理することにより得られる不織繊維基材は、ニードルパンチ等の機械的交絡によらないために、繊維ウェブ面に対して平行に繊維を配列した状態を維持することができる。すなわち、繊維ウェブ面に対して垂直な厚さ方向に配向した繊維が少なくなる。厚さ方向に沿って配向した繊維が多い場合には、その周辺に繊維配列の乱れが生じるために、得られる研磨層の空隙の大きさや分布がばらつきやすくなったり、研磨面の表面粗さが大きくなって平坦性が悪化しやすい傾向がある。具体的には、例えば、研磨層の厚み方向の任意の断面を電子顕微鏡観察して得られる像において、厚さに対する30%以上の長さに連続して延びる繊維の本数の割合が10%以下であることが好ましい。
高温水蒸気の圧力は、繊維ウェブを湿熱処理することにより繊維同士を接着させうる限り特に限定されない。具体的には、例えば、0.05〜3MPa、さらには0.1〜2MPa、とくには0.2〜1.5MPa、ことには0.3〜1MPa程度であることが好ましい。蒸気の圧力や気流の速度が高すぎる場合には、繊維ウェブ中の繊維が動くことにより地合に乱れを生じたり、繊維形状を保持されない部分が生じたりする傾向がある。また、蒸気の圧力や気流の速度が低すぎる場合には、繊維ウェブを形成する繊維同士を接着させるのに充分な熱量が付与されなかったり、水蒸気が繊維ウェブを充分に通過せず厚さ方向に接着斑を生ずる場合がある。さらに、ノズルからの蒸気の均一噴出の制御が困難になる場合もある。高温水蒸気の温度としては、70〜150℃、さらには80〜140℃、とくには90〜130℃、ことには100〜120℃程度であることが好ましい。
また、繊維ウェブが、加熱により捲縮を生じる潜在捲縮繊維を含む場合には、高温水蒸気による処理により捲縮が発現しコイル状となる。高温水蒸気は気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体であるウェブ中の繊維を大きく移動させることなくウェブ内部へ進入する。このウェブ中への水蒸気流の進入作用によって、水蒸気流がウェブ内に存在する各繊維の表面を効率的に覆い、均一な熱捲縮の発現を可能にすると考えられる。また、乾熱処理に比べても、ウェブ内部の繊維に対して充分に熱を伝えることができるため、繊維ウェブの表面および厚さ方向における捲縮の程度が概ね均一になる。
このような湿熱処理により得られる不織繊維基材の見掛け密度としては、0.1〜0.7g/cm3、さらには0.12〜0.6g/cm3、とくには0.15〜0.5g/cm3、ことには0.2〜0.4g/cm3程度であることが好ましい。不織繊維基材の見掛け密度が低すぎる場合にはテーバー磨耗による減量が多くなり、研磨パッドの寿命や研磨安定性が低下する傾向がある。また、一方、不織繊維基材の見掛け密度が高すぎる場合には、繊維ウェブに蒸気が通過しにくくなりることにより、厚さ方向に接着斑が生じやすくなる傾向がある。
上述したような湿熱処理を行うための装置の構成としては、コンベアやローラを用いて繊維ウェブを搬送しながら、繊維ウェブを蒸気や熱水に接触させるような構成であれば特に限定されないが、代表的な構成を以下に説明する。
互いの間隔を任意に調整可能な、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとを備える一対のコンベア装置を準備する。そして、コンベア装置の片側のメッシュコンベアの背面に、他の側のメッシュコンベアに向けて略垂直に蒸気を噴射するように蒸気噴射装置を配置する。そして、このような装置構成の湿熱処理装置において、不織繊維基材が目的とする厚みになるように上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間隔を調整し、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間に繊維ウェブを介挿し、介挿した状態で繊維ウェブを搬送する。そして、搬送される繊維ウェブが蒸気噴射装置から噴射される蒸気に接触することにより、繊維ウェブを形成する繊維同士が接着されて不織繊維基材が形成される。
なお、背面に蒸気噴射装置が配されたメッシュコンベアに対向する、他の側のメッシュコンベアの背面には、必要に応じて蒸気を吸引排出するためのサクションボックスを配置してもよい。サクションボックスを配置することにより、繊維ウェブに蒸気を効果的に通過させることができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスとは一組のみであっても、例えばコンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配するように、複数組設けるような構成であってもよい。なお、コンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配する場合、上流側と下流側の蒸気噴射装置とサクションボックスとを互いに逆方向に向くように配置することが好ましい。このように配置することにより、繊維ウェブの表面及び裏面の両面から蒸気を通過させるために、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスを一組のみ配置する場合には、一度蒸気噴射装置で湿熱処理した繊維ウェブを、表裏を反転させて再度蒸気噴射装置で湿熱処理することにより、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、サクションボックスを配置しない場合には、その代わりにメッシュコンベアの背面にステンレス板などを設置して蒸気が抜けない構造にすることにより、一旦繊維ウェブを通過した蒸気がステンレス板で留められるために蒸気の保温効果によって接着斑が抑制される。
また、不織繊維基材の見掛け密度を調整するためには、目付け量を調整した繊維ウェブを用い、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間、またはローラーのギャップ等を調整して、所定の厚さに圧縮した状態で蒸気を噴射することが好ましい。特に、高密度のシートを得る場合には、繊維ウェブを充分に圧縮した状態で湿熱処理することが好ましい。また、メッシュコンベアの場合には、急激に繊維ウェブを圧縮することが難しいために、メッシュコンベアの張力を高く設定し、上流側から下流側に向かって徐々に上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとのクリアランスを狭めていくことが好ましい。なお、コンベアベルトやローラー表面の材質は、蒸気処理に耐えられるものであれば特に限定されず、耐熱処理したポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリアリレートや全芳香族系ポリエステル等の耐熱性樹脂であることが好ましい。
続いて、湿熱処理により得られた不織繊維基材を熱プレスや加熱ロール等を用いて見掛け密度をさらに高密度化してもよい。ただし、高温水蒸気による処理によって所望の見掛け密度となっている場合には、熱プレスや加熱ロール等による高密度化処理を行わなくてもよい。なお、熱プレスや加熱ロール等による高密度処理においては、加熱温度を繊維表面の樹脂の融点よりやや低い温度で行うことにより、表面にスキン層が形成されて厚さ方向に繊維の接着斑やシートの密度斑が発生することを抑制できる。例えば、熱プレスの条件としては、湿熱接着性繊維に含まれる湿熱接着性樹脂の融点よりも、3〜25℃、さらには5〜20℃、とくには7〜15℃低い温度で、1〜100MPa、さらには3〜50MPa、とくには5〜30MPaの圧力で行うような条件が挙げられる。この際、上記した熱プレスの前に、湿熱接着性樹脂の融点より好ましくは30〜100℃、さらには35〜90℃、とくには40〜80℃低い温度で、予備的に熱プレスを行ってもよい。このように二段階で高密度化を行うことにより、一段目で繊維の接着を防止しながらある程度高密度化し、二段目で繊維を接着させつつ高密度化することができる。この結果、スキン層形成の防止効果が一層高くなり、厚み方向にさらに均一に高密度化することができる。なお、このような高密度化する処理においても、蒸気処理を併用することができるが、その場合にも湿熱接着性樹脂が完全に溶融しないような温度に設定することが好ましい。
本実施形態で得られる研磨パッドの研磨層として用いられるシートは、湿熱接着性を示さない通常の熱接着繊維からなる繊維ウェブを、ニードルパンチの様な機械的絡合をした後に熱プレス処理を経て得られたシートに比べ、表面のみならず内部まで均一に繊維が接着されているため、研磨パッドの研磨層に適した表面や硬度、耐久性を実現できる。また、非湿熱接着性繊維からなる不織布にポリウレタン等の高分子弾性体を含浸して付与したシートと比べ、親水性が非常に高いため研磨層に付着した研磨屑などを水洗等により容易に除去できスクラッチの発生を抑制できる上、シートの見掛け密度や硬さの調整が容易でしかも厚み方向に均一であるため、研磨安定性に優れる上、研磨対象や研磨条件に合わせた変更も容易である。また、製造工程が短いために性状のばらつきも小さくなる。さらに、高温水蒸気雰囲気下に曝露されてその際に紡糸油剤などの繊維への付着物が洗浄されるため、水洗などの処理を別途行わなくても異物の含有が少ない特長も有する。
このようにして得られたシートは、必要に応じて、裁断、切削、スライス、打ち抜きなどにより所望の寸法、形状に加工することにより、研磨層とすることができる。研磨層の厚みは、研磨性能とパッド寿命の観点から、0.5〜4.0mm、さらには0.6〜3.5mm、とくには0.7〜3.0mm、ことには0.8〜2.5mmであることが好ましい。研磨層が薄すぎる場合には研磨パッドの寿命が短くなりやすい傾向がある。一方、研磨層が厚すぎる場合には、研磨パッドの曲げ剛性が大きくなり、取り扱いが難しくなる傾向がある。
また、研磨層の表面を、サンドペーパー、針布、ダイヤモンド等によりバフ処理しても良い。さらに、研磨層の表面に、研削やレーザー、エンボス加工などにより溝や穴などをしても良い。
本実施形態の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層パッドでも良く、研磨層の下に軟質層あるいは硬質層を備えた多層構造のパッドでも良い。積層は、公知の粘着剤あるいは接着剤を用いて行うことができる。
本発明の研磨パッドの研磨対象は特に制限されないが、半導体やハードディスク、液晶などの基板材料、あるいはレンズやミラーなどの光学部品などの研磨に特に適している。研磨は、公知の化学機械研磨用装置および研磨スラリーを用いて行うことができる。例えば、研磨定盤上に少なくとも研磨層を有する研磨パッドを貼り付け、研磨層表面に研磨スラリーを供給しながら、被研磨物(例えばウェハ)を押し当てて加圧し、研磨定盤と被研磨物をともに回転させて被研磨物を研磨することができる。研磨前や研磨中には、ダイヤモンドドレッサーやナイロンブラシ等のドレッサーを使用して研磨パッドをコンディショニングし、研磨パッドの表面を整えても良い。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」および「%」はことわりのない限り、質量基準である。
[製造例1]
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH、エチレン共重合率44モル%、ケン化度98.4モル%、融点165℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を準備した。この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、カード法により目付約850g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブを、コンベア装置とその経路に水蒸気を噴射させる水蒸気噴射装置とを備えた湿熱処理装置に移送した。
なお、コンベア装置は、50メッシュ,幅500mmのポリカーボネート製エンドレスネットからなる、上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとを備え、それらがそれぞれ同速度で同方向に進行し、かつ、互いの間隔を任意に調整可能な一対のメッシュコンベアを備える。また、コンベア装置の上流側には、下側メッシュコンベアの裏側に、搬送されるカードウェブに向かってネットを介して高温水蒸気を吹き付ける水蒸気噴射装置が配置されており、一方、上側メッシュコンベアの裏側にはサクション装置が配置されている。逆に、コンベアの下流側では、下側メッシュコンベアの裏側に同様のサクション装置が配置されており、上側メッシュコンベア内の裏側に同様の水蒸気噴射装置が配置されている。各水蒸気噴射装置は、コンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた複数の孔径0.3mmのノズルを有する。また、ノズルはメッシュコンベアのネットの裏側にほぼ接するように配置されている。このような構成によれば、カードウェブの表裏の両面に対して高温水蒸気が吹き付けられる。
各水蒸気噴射装置から0.4MPaの高温水蒸気を略垂直に噴出させることにより、搬送されるカードウェブに水蒸気処理を施した。なお、コンベアの搬送速度は3m/分であり、厚み約4mmの不織繊維基材が得られるように上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとの間隔を調整した。このようにして、湿熱性接着性繊維同士が湿熱接着して形成された見掛け密度0.21g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材が得られた。
そして、得られた不織繊維基材を、一段目の熱プレスとして、厚さ1.7mmのスペーサーを用いて120℃、15MPaの条件で5分間熱プレスを行った。、そして、さらに二段目の熱プレスとして、厚さ1.5mmのスペーサーを用いて、154℃,15MPaの条件で5分間熱プレスを行い、高密度化したシートを得た。次いで、シート表面を#60番手のサンドペーパーによりバフ掛けしてシートの厚みを1.4mmとした後、#320番手のサンドペーパーによりバフ掛けして表面を整え、シート1を製造した。シート1の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図1に示す。
[製造例2]
製造例1において、不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに147℃で行った以外は製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート2を製造した。
[製造例3]
製造例1において、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約550g/m2のカードウェブを作製した以外は同様の条件で、見掛け密度0.14g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材を、厚さ1.5mmのスペーサーを用いて156℃、15MPaの条件で5分間、一段階のみで熱プレスを行った以外は製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート3を製造した。
[製造例4]
製造例1において、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約1100g/m2のカードウェブを作製した以外は同様の条件で、見掛け密度0.28g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに145℃で行った以外は製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート3を製造した。
[製造例5]
製造例1において、3.0dtexの芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、繊度のみを1.7dtexに変更した芯鞘型複合ステープル繊維(51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を用いて、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約900g/m2のカードウェブを作製した以外は同様の条件で、見掛け密度0.23g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材を製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート5を製造した。
[製造例6]
製造例1において、芯成分がPET、鞘成分がEVOHである芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、芯成分がポリアミド6(PA6)、鞘成分がEVOH(エチレン共重合率48モル%、ケン化度98.9モル%、融点160℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(5.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=60/40、捲縮数21個/25mm)を用い、さらに、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約700g/m2のカードウェブを作製して見掛け密度0.17g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに150℃で行った以外は製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート6を製造した。
[製造例7]
製造例1において湿熱接着性繊維100質量%を用いて目付約850g/m2のカードウェブを作製した代わりに、製造例1で製造した湿熱接着性繊維80質量%と潜在捲縮繊維である非湿熱接着性繊維20質量%とを混綿したものを用いて目付約850g/m2のカードウェブを作製して見掛け密度0.22g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして得られた不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに156℃で行った以外は、製造例1と同様の条件で熱プレスシート7を製造した。なお、潜在捲縮繊維である非湿熱接着性繊維としては、PET樹脂と、変性モノマーとしてイソフタル酸20モル%およびジエチレングリコール5モル%を共重合させた変性PET樹脂とを複合化したサイドバイサイド型複合ステープル繊維(1.7dtex、51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数62個/25mm)を用いた。なお、他の製造例も同様に、捲縮数は、JISL1015(8.12.1)に準じて評価した。
[製造例8]
製造例1において湿熱接着性繊維100質量%を用いて目付約850g/m2のカードウェブを作製した代わりに、湿熱接着性繊維である、芯成分がPET、鞘成分がEVOHである芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=30/70、捲縮数20個/25mm)60質量%と潜在捲縮繊維である非湿熱接着性繊維40質量%とを混綿したものを用いて目付約1300g/m2のカードウェブを作製した以外は同様の条件で、見掛け密度0.31g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして得られた不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに156℃で行った以外は、製造例1と同様の条件で熱プレスしてシート8を製造した。なお、潜在捲縮繊維である非湿熱接着性繊維としては、PET樹脂と、変性モノマーとしてイソフタル酸15モル%を共重合させた変性PET樹脂とを複合化したサイドバイサイド型複合ステープル繊維(1.7dtex、51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数48個/25mm)を用いた。
[比較製造例1]
製造例1において、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約350g/m2のカードウェブを作製し、水蒸気処理の際に厚み約2.5mmの不織繊維基材が得られるように上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとの間隔を調整した以外は同様の条件で、見掛け密度0.14g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材を製造例1とは同様の条件で熱プレスしてシート9を製造した。
[比較製造例2]
製造例1において、目付約850g/m2のカードウェブの代わりに目付約1600g/m2のカードウェブを作製し、水蒸気処理の際に厚み約5.5mmの不織繊維基材が得られるように上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとの間隔を調整した以外は同様の条件で、見掛け密度0.27g/m3、厚み約4mmの不織繊維基材を得た。そして、得られた不織繊維基材の二段目の熱プレスを154℃で行う代わりに130℃で行った以外は同様の条件で熱プレスしてシート10を製造した。
[比較製造例3]
製造例1において、得られた不織繊維基材を、厚さ1.5mmのスペーサーを用いて90℃、15MPaの条件で5分間、一段階のみで熱プレスを行った以外は、製造例1と同様にしてシート11を製造した。
[比較製造例4]
比較製造例3において、90℃で熱プレスする代わりに、120℃で熱プレスした以外は同様にしてシート12を製造した。
[比較製造例5]
製造例4において、得られた不織繊維基材を厚さ1.5mmのスペーサーを用いて163℃、15MPaの条件で5分間熱プレスを行った以外は、参考例1と同様にしてシート13を製造した。
[比較製造例6]
製造例1において、芯成分がPET、鞘成分がEVOHである、湿熱接着性繊維である芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、非湿熱接着性繊維である、芯成分がPET、鞘成分が変性PET(イソフタル酸変性量32モル%、融点140℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を用い、さらに、カード法により目付約2600g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブをニードルパンチ処理することにより、目付け約900g/m2、厚み約3mm、見掛け密度0.29g/m3の不織繊維基材を得た。次いで、厚さ1.5mmのスペーサーを用いて140℃、15MPaの条件で5分間熱プレスを行って高密度化した。次いで、シート表面を#60番手のサンドペーパーによりバフ掛けしてシートの厚みを1.4mmとした後、#320番手のサンドペーパーによりバフ掛けして表面を整え、シート14を製造した。
[シート1〜14の評価]
上述して得られたシート1〜14の各種特性を以下のようにして評価した。
〈厚さ、目付け、見掛け密度〉
JIS L1913に準じて、厚さ(mm)および目付け(g/cm2)を測定し、これらの値から見掛け密度(g/cm3)を算出した。
〈デュロメータ硬さ〉
JIS K6253に準じたデュロメータ硬さ試験(タイプD)により、硬さを測定した。
〈テーバー磨耗〉
JIS K6264に従って測定した。なお、磨耗輪:H−22、荷重:4.9N、回転数60rpm、500回の条件で測定した。磨耗試験前の質量と磨耗試験後の質量との差である磨耗減量(mg)を求めた。
(平均曲率半径)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、シートの断面を100倍に拡大した撮影像を得た。撮影像に写っている繊維の中で、1周以上の螺旋(コイル)を形成している繊維について、その螺旋に沿って円を描いたときの円の半径(コイル軸方向から捲縮繊維を観察したときの円の半径)これを曲率半径とした。なお、繊維が楕円状に螺旋を描いている場合は、楕円の長径と短径との和の1/2を曲率半径とした。ただし、捲縮繊維が充分なコイル捲縮を発現していない場合や、繊維の螺旋形状が斜めから観察されることにより楕円として写っている場合を排除するために、楕円の長径と短径との比が0.8〜1.2の範囲に入る楕円だけを測定対象とした。なお、測定は、任意の断面について撮影したSEM画像について測定し、n数=50の平均値とした。
結果をまとめて表1および表2に示す。
[実施例1〜6、及び比較例1〜6:シリコン研磨性能評価]
製造例で得られたシート1〜3、4、6、7、9〜13及び市販品の研磨パッドの研磨性能を次のようにして評価した。なお、市販品の研磨パッドとしては、繊度3dtexのポリエチレンテレフタレート繊維に溶剤系ポリウレタン樹脂を含浸させて形成されている不織布タイプの研磨パッド(ニッタハース社製「SUBA400」,見掛け密度0.32g/cm3,D硬度21,テーバー磨耗量162mg)を用いた。「SUBA400」の断面のSEMの写真を図2に示す。
各シートの片面に、両面テープを貼り、直径が38cmの円形状の研磨パッドを作製した。そして、得られた各研磨パッドのシリコン研磨性能を次のようにして評価した。
研磨装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付けた。そして、研磨パッド回転数100rpm、ウェハ回転数99rpm、研磨圧力55kPaの条件で、酸化ケイ素砥粒を含有する研磨スラリー(フジミ社製「グランゾックス1302」)100質量部に対して、純水1900質量部を添加して混合した液を、200mL/分の速度で供給しながら、直径100mmの単結晶シリコンウェハ(密度2.33g/cm3)を120秒間研磨した。
そして、新たなシリコンウェハに交換して再度研磨する操作を繰り返し、同様にして合計20枚のシリコンウェハを研磨した。
そして、20枚目に研磨されたシリコンウェハについて、研磨速度、スクラッチの有無、ウエハ表面粗さを測定した。
〈研磨速度〉
研磨前および研磨後のウェハの質量を測定し、研磨前後の質量差と、ウエハの面積および密度より研磨速度を求めた。
〈スクラッチ〉
研磨後のウェハ表面を、キーエンス社製レーザー顕微鏡「VK−X200」を使用して倍率1000倍でランダムに20ヶ所観察して、傷の有無を確認した
〈ウエハ表面粗さ〉
研磨後のウエハ表面を、ザイゴ社製白色干渉顕微鏡「NewView6000」を使用して倍率2.5倍、測定範囲2.8mm×2.1mmの条件で、算術平均粗さ(Ra)および最大高低差(PV)を測定した。Raが小さいほど平滑性に優れており、またPVが小さいほど平坦性に優れている。
結果をまとめて表3に示す。
表3の結果から、製造例1〜7で得られたシートを用いた実施例1〜6で得られた研磨パッドはいずれもスクラッチが発生せず、また、研磨速度も速く、さらに、Ra及びPVの低かった。一方、見掛け密度及びD硬度が低い比較製造例1で得られたシート9を用いた比較例1で得られた研磨パッドは、研磨速度が極めて低かった。また、見掛け密度及びD硬度が高い比較製造例2で得られたシート10を用いた比較例2で得られた研磨パッドは、硬度が高すぎてスクラッチが発生し、また、Ra及びPVも高かった。また、熱プレスによる繊維同士の接着処理が不充分であったためにテーバー摩耗減量が多かった、比較製造例3で得られたシート11を用いた比較例3で得られた研磨パッド、及び比較製造例4で得られたシート12を用いた比較例4で得られた研磨パッドは研磨速度が低く、また、Ra及びPVも高かった。また、逆に、熱プレスによる繊維同士の接着処理が過剰であるために硬度が高く、テーバー摩耗減量も少なかった比較製造例5で得られたシート13を用いた比較例5で得られた研磨パッドは、砥粒が被研磨面に充分に供給できないために研磨速度が低く、また硬度が高すぎてスクラッチが発生し、さらにRa及びPVも高かった。
[実施例7〜12、及び比較例7〜12:ガラス研磨性能評価]
製造例で得られたシート1〜4、5、8,9、10、11、13、14及び市販品の研磨パッドのガラスの研磨性能を次のようにして評価した。なお、市販品の研磨パッドとしては、繊度3dtexのポリエチレンテレフタレート繊維に溶剤系ポリウレタン樹脂を含浸させて形成されている不織布タイプの研磨パッド(ニッタハース社製「SUBA400」,見掛け密度0.32g/cm3,D硬度21,テーバー磨耗量162mg)を用いた。
各シートの片面に、両面テープを貼り、直径が38cmの円形状の研磨パッドを作製した。そして、得られた各研磨パッドのガラス研磨性能を次のようにして評価した。
研磨装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付けた。そして、研磨パッド回転数100rpm、ウェハ回転数99rpm、研磨圧力45kPaの条件で、酸化セリウム砥粒を含有する研磨スラリー(昭和電工社製「GPL−C1010」)100質量部に対して、純水1900質量部を添加して混合した液を、120mL/分の速度で供給しながら、直径100mmの合成石英ガラスウェハ(密度2.20g/cm3)を120秒間研磨した。
そして、新たなガラスウェハに交換して再度研磨操作を繰り返し、同様にして合計20枚のガラスウェハを研磨した。
そして、20枚目に研磨されたガラスウェハについて、研磨速度、スクラッチの有無、ウエハ表面粗さを測定した。なお、シリコン研磨性能評価における測定方法と同様に行った。
結果をまとめて表3に示す。