本発明に係る研磨パッドの一実施形態について詳しく説明する。
本実施形態の研磨パッドは、湿熱処理により接着性を示す湿熱接着性樹脂を含む複数の湿熱接着性繊維を互いに接着した空隙率5〜35%のシートを研磨層として備える。
湿熱接着性繊維は湿熱処理により接着性を示す湿熱接着性樹脂を含む繊維であって、例えば、高温水蒸気や熱水に接触させる等の湿熱処理により接着性を帯び、湿熱接着性繊維同士、または、湿熱接着性繊維と湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維とを接着する繊維である。湿熱処理により湿熱接着性樹脂は軟化して流動したり変形したりするために繊維間を強固に接着することができる。そして、得られる研磨層の研磨面に湿熱接着性樹脂が存在することにより、研磨スラリーの水分を吸水して研磨面付近のみが軟化することによりスクラッチの発生を抑制する。
湿熱接着性繊維としては、湿熱接着性樹脂のみからなる繊維であっても、異なる種類の湿熱接着性樹脂同士を組み合わせて複合化された複合繊維であっても、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性樹脂と湿熱接着性樹脂を組み合わせて複合化された複合繊維であってもよい。なお、湿熱処理の条件は特に限定されないが、例えば、70〜150℃、さらには90〜130℃、とくには100〜120℃程度の高温水蒸気や熱水に接触させるような条件が挙げられる。
湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体;カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体20〜100質量%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0質量%とを重合して得られる樹脂;セルロース又はその誘導体;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する樹脂;等が挙げられる。
なお、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体の具体例としては、例えば酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,酪酸ビニル,カプロン酸ビニル等が挙げられる。また、不飽和二重結合を有するその他の単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド,スチレン,メチルビニルエーテル,ビニルピロリドン,エチレン,プロピレン,ブタジエン等が挙げられる。また、カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸,(無水)マレイン酸,イタコン酸,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,4−ヒドロキシスチレン,メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドおよびビニルピロリドン等が挙げられる。また、セルロースの誘導体の具体例としては、例えば、メチルセルロースなどのアルキルセルロースエーテル,ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロースエーテル,カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロースエーテルまたはそれらの塩等が挙げられる。また、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどを共重合したポリエステルまたはポリウレタン等が挙げられる。なお、例えば、(メタ)アクリル酸のような表記は、メタアクリル酸またはアクリル酸を意味する。従って、(メタ)アクリルアミドの表記はメタクリルアミドまたはアクリルアミドを意味する。
上述したような湿熱接着性樹脂は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体が、湿熱接着性に優れ、また、研磨時に吸水しても高い強度や耐摩耗性を維持する点から好ましい。なお、ビニルエステル基含有単量体とその他の単量体との重合体は、ケン化により主鎖骨格中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体単位とその他の単量体単位とを含む重合体中の、その他の単量体単位の共重合率としては、10〜60モル%、さらには、20〜55モル%、とくには、30〜50モル%であることが好ましい。
また、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体としては、酢酸ビニルとエチレンとの重合体のケン化物である、エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物(エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)とも称される)が特に好ましい。
EVOHのエチレン単位の共重合率としては、10〜60モル%、さらには20〜55モル%、とくには30〜50モル%であることが好ましい。エチレン単位の共重合率がこのような範囲である場合には、高い湿熱接着性を有するにもかかわらず、熱水溶解性は低いという特異な性質が得られる。エチレン単位の共重合率が低すぎる場合には、低温の水や水性スラリーに容易に膨潤したりゲル化しやすいEVOHが得られ、得られる研磨パッドの研磨速度が低下しやすくなる傾向がある。また、エチレン単位の共重合率が高すぎる場合には、吸湿性が低下することにより湿熱接着性が低下し、得られる研磨層の強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、エチレン単位の共重合率が30〜50モル%の場合には、研磨層の耐久性や研磨速度がとくに優れる点から好ましい。
また、EVOHにおける、ビニルエステル単位のケン化度(加水分解した割合)としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.9モル%、とくには95〜99.5モル%程度であることが好ましい。ケン化度が低すぎる場合には、熱安定性が低下することにより紡糸時に熱分解やゲル化を起こしやすくなる傾向がある。また、ケン化度が高すぎる場合には、ケン化に長時間要するなど生産性が低下する傾向がある。
また、湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維であることが、得られるシートの強度や硬さを調整しやすい点から好ましい。非湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド10,ポリアミド12,ポリアミド6−12,ポリアミド9T等のポリアミド系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;塩化ビニル系樹脂;スチレン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂;熱可塑性エラストマー等の非水溶性樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂が、とくにはポリエチレンテレフタレートが、EVOHのような湿熱接着性樹脂よりも融点が高く、耐熱性や繊維形成性とのバランスに優れる点から特に好ましい。
湿熱接着性繊維が複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂は、非湿熱接着性樹脂からなる繊維の表面に、その長手方向に連続するように被着されていることが好ましい。また、複合繊維の横断面の相構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型または多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型等が挙げられる。これらの中では、湿熱接着性樹脂が鞘部を形成し、非湿熱接着性樹脂または他の湿熱接着性樹脂繊維が芯部を形成し、湿熱接着性樹脂が繊維の表面を覆う芯鞘型構造であることが、湿熱接着性が高い点から好ましい。また、湿熱接着性繊維は、非湿熱接着性繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコートして形成されるような繊維であってもよい。
湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合割合は湿熱接着性を維持する限り特に限定されず、複合繊維の横断面構造等に応じて適宜調整される。具体的には、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂が、10/90〜90/10、さらには15/85〜85/15、とくには20/80〜80/20、ことには30/70〜70/30程度であることが好ましい。なお、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎる場合には、繊維の長手方向に連続して均一にその表面を覆いにくくなるため、また、接着性を示す湿熱接着性樹脂の量が少なくなるために湿熱接着性が低下する傾向がある。また、湿熱接着性樹脂の割合が多すぎる場合には、非湿熱接着性樹脂との複合化による強度や耐久性の向上効果が充分に得られなくなる傾向がある。
また、湿熱接着性繊維の捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、さらには5〜50個/25mm、とくには10〜30個/25mm程度であることが好ましい。
シートを形成するための繊維成分としては、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維を、本発明の効果を損なわない範囲で、湿熱接着性繊維に組み合わせて用いてもよい。非湿熱接着性繊維を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド系樹脂やポリアミド6T,ポリアミド9T等の半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンイソフタルアミド,ポリヘキサメチレンテレフタルアミド,ポリp−フェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド系樹脂等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂;アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体等のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂等のアクリル系樹脂;ポリビニルアセタール系樹脂等のポリビニル系樹脂;ポリ塩化ビニル,塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体,塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体,塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体等のポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール;ポリフェニレンサルファイド;レーヨンやアセテート等のセルロース系樹脂が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維とを組み合わせて用いる場合、その質量比は特に限定されないが、得られるシートの硬度や剛性、表面平滑性、良好な研磨速度や段差解消性、耐磨耗性等のバランスから、湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との合計量に対する非湿熱接着性繊維の含有割合は40質量%以下、さらには30質量%以下、とくには20質量%以下、ことには10質量%以下であることが好ましい。
繊維ウェブを形成する繊維の平均繊度は特に限定されないが、0.1〜10dtex、さらには0.5〜7dtex、とくには1〜5dtexであることが、シートの生産性及び研磨パッドの研磨速度や研磨均一性に優れる点から好ましい。
また、繊維ウェブを形成する繊維の平均繊維長も特に限定されないが、具体的には、例えば10〜100mm、さらには20〜80mm、とくには25〜75mm程度であることが好ましい。この範囲であれば、カード機による繊維間の開繊状態がより良好となり、各繊維が均一に分散した繊維ウェブを得ることができる。この為、繊維絡合も均一に形成でき、また繊維間の距離が近く湿熱処理によって繊維間の接着点となりやすい部位が数多く均一に形成されて湿熱接着性繊維の接着性が向上するために、シートの機械的強度が充分に維持される。
繊維ウェブを形成する繊維の横断面の形状も特に限定されない。具体例としては、例えば、一般的な中実断面形状である丸型断面や、偏平状,楕円状,多角形状,3〜14葉状,T字状,H字状,V字状,ドッグボーン(I字状),中空断面等の異型断面等が挙げられる。
本実施形態の研磨層となるシートの空隙率は5〜35%であり、7〜32%、さらには10〜30%、とくには12〜27%、ことには15〜25%であることが好ましい。空隙率が5%未満の場合には、研磨面に露出する空隙が少なくなるために研磨スラリーの保持性が低下して研磨速度が低下する。また、空隙率が35%を超える場合には、研磨面に露出する空孔が多くなりすぎ、また、連通孔が形成される。この場合には研磨スラリーが空孔から連通孔に吸収されて被研磨面に供給されにくくなることにより研磨速度を低下させる。さらに、研磨屑等が空隙を目詰りさせて堆積することにより被研磨面にスクラッチを発生させやすくする。なお、空隙率はシートの断面における、繊維や樹脂の形成する断面の占める面積を除いた空隙の面積の比率を示す。従って、空隙率は見掛け密度を繊維や樹脂の真比重で除して得られた値とほぼ一致する
シート中の空隙の大きさは断面を観察した際の空孔の長軸方向の長さが10〜150μm、さらには15〜120μm、とくには20〜100μm、ことには25〜80μmであることが好ましい。
また、シートの見掛け密度は、0.8〜1.2g/cm3、さらには0.82〜1.18g/cm3、とくには、0.84〜1.16g/cm3、ことには0.86〜1.14g/cm3程度であることが好ましい。見掛け密度が低すぎる場合には、研磨面の空隙に研磨スラリーが吸収されやすくなって被研磨面に供給されにくくなることにより、研磨速度が低下しやすくなる傾向がある。また、研磨面に露出する空隙に研磨屑等が目詰りして堆積することにより、被研磨面にスクラッチが発生しやすくなる傾向がある。一方、見掛け密度が高すぎる場合には、研磨面に露出する空隙が少なくなることにより、研磨スラリーの保持性が低下して研磨速度が低下する傾向がある。
また、乾燥状態におけるシートのD硬度は60〜80、さらには62〜79、とくには64〜78、ことには66〜77であることが好ましい。D硬度が低すぎる場合には、吸水時の研磨面の硬度が低くなりすぎることにより研磨速度や平坦性、段差解消性が低下する傾向がある。また、D硬度が高すぎる場合には、吸水時の研磨面の硬度が高くなりすぎることにより被研磨面にスクラッチが発生しやすくなる傾向がある。なお、シートのD硬度は見掛け密度と強く相関し、一般に見掛け密度が高いほどD硬度が高くなり、見掛け密度が低いほどD硬度も低くなる。また、EVOHやPETのように樹脂のガラス転移温度が室温よりも高い場合には、樹脂の違いによる影響は比較的小さい。したがって、繊維を構成する樹脂に応じて見掛け密度を適宜調整することにより、所望のD硬度に調整することができる。
さらに、シートは、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した像において、繊維の断面の輪郭総数に対して、他の繊維に接着されている繊維の断面の輪郭数の割合が90%以上、さらには92%以上、とくには94%以上、ことには96%以上であることが好ましい。他の繊維に接着されていない独立した繊維の数が多すぎる場合には、シートに連通孔が形成されやすくなり、研磨面の空隙から研磨スラリーが吸収されて被研磨面に供給される研磨スラリーが不足して研磨速度が低下しやすくなる。また、研磨面に露出する空隙に研磨屑等が目詰りしやすくなる。
さらに、繊維の断面の輪郭総数に対して、他の繊維に接着されている繊維の断面の輪郭数の割合が、厚さ方向に沿って、表面から中央部を経て裏面に至るまで、ほぼ均一であることが好ましい。厚み方向にばらつきがある場合には、シートの特性が厚み方向で不均一になるために、研磨層が磨耗するにつれて研磨特性が変化する傾向がある。
また、研磨層となるシートは通気性が極めて低いか、ほとんどないことが好ましい。具体的には、フラジール形法による通気度で1cm3/cm2/秒以下、さらには0.8cm3/cm2/秒以下、とくには0.6cm3/cm2/秒以下、ことには0.4cm3/cm2/秒以下であることが好ましい。通気度が高すぎる場合には研磨面の空隙に研磨スラリーが吸収されやすくなって被研磨面に供給されにくくなることにより、研磨速度が低下しやすくなる。また、研磨面に露出する空隙に研磨屑等が目詰りして堆積することにより、被研磨面にスクラッチが発生しやすくなる傾向がある。
また、上述した繊維成分には、本発明の効果を損なわない限り、例えば、熱安定剤,紫外線吸収剤,光安定剤,酸化防止剤等の安定剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等の添加剤を必要に応じて含有してもよい。また、本発明の効果を阻害しない限り、シートを形成する繊維成分の外部に熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,無機粒子等を含んでもよい。
研磨層の研磨面の表面粗さは、ダイヤモンドドレッサー等のドレッサーを使用してコンディショニング(目立て)することにより、研磨を行う際に算術平均粗さ(Ra)が1〜9μm、且つ最大高さ(Rz)が10〜90μmに調整されていることが好ましい。Raが1μm未満の場合、又はRzが10μm未満の場合には、研磨面のスラリー保持性が低くなり、研磨速度が低下する傾向がある。一方、Raが9μm超、またはRzが90μm超の場合には、平坦性や段差解消性が低下する傾向がある。特に、半導体デバイスの構成材料を研磨する場合には非常に高い平坦性や段差解消性が求められるため、Raが1〜6μm、且つRzが10〜60μm、さらにはRaが1.2〜5.5μm、且つRzが12〜55μm、とくにはRaが1.5〜5μm、且つRzが15〜50μm、ことにはRaが1.8〜4.5μm、且つRzが18〜45μmであることが好ましい。
次に、本実施形態の研磨パッドの製造方法の一例を説明する。
はじめに、上述したような湿熱接着性繊維を含む繊維のウェブを製造する。ウェブの製造方法の具体例としては、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法を用いて溶融紡糸された繊維をそのまま積層するようにしてウェブ化する方法や、ステープル繊維をカーディングしてウェブ化するカード法やエアレイ法等の乾式法等、特に限定されない。これらの中では、特にステープル繊維を用いたカード法が好ましく用いられる。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
次に、得られた繊維ウェブを湿熱処理することにより繊維同士を接着させて不織繊維基材を形成する。具体的には、例えば、得られた繊維ウェブをメッシュコンベアで搬送しながら、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高温水蒸気(高圧スチーム)に接触させることにより繊維同士を接着させて不織繊維基材を得ることができる。
蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、繊維ウェブ中の繊維を大きく動かさずに繊維ウェブの内部に進入する。そして、繊維ウェブ中に蒸気流が進入することにより、繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維中の湿熱接着性樹脂が接着性を帯び、繊維同士が接着される。このような方法によれば、湿熱処理が蒸気による高速気流下で短時間で行われるために、繊維表面に対しては熱が充分に付与され、一方、繊維内部に対しては過剰な熱が伝わる前に湿熱処理が終了する。そのため、蒸気の圧力や熱により繊維の形態が完全には失われることがない。その結果、繊維ウェブの溶融または軟化による大きな変形等が生じることなく、厚み方向に均一に接着された不織繊維基材が得られる。
なお、上述したような繊維ウェブを湿熱処理することにより得られる不織繊維基材は、ニードルパンチ等の機械的交絡によらないために、繊維ウェブ面に対して平行に繊維を配列した状態を維持することができる。すなわち、繊維ウェブ面に対して垂直な厚さ方向に配向した繊維が少なくなる。厚さ方向に沿って配向した繊維が多い場合には、その周辺に繊維配列の乱れが生じるために、得られる研磨層の空隙の大きさや分布がばらつきやすくなったり、研磨面の表面粗さが大きくなって段差解消性が悪化しやすい傾向がある。具体的には、例えば、研磨層の厚み方向の任意の断面を電子顕微鏡観察して得られる像において、厚さに対する30%以上の長さに連続して延びる繊維の本数の割合が10%以下であることが好ましい。
高温水蒸気の圧力は、繊維ウェブを湿熱処理することにより繊維同士を接着させうる限り特に限定されない。具体的には、例えば、0.05〜4MPa、さらには0.1〜3MPa、とくには0.2〜2MPa、ことには0.3〜1.5MPa程度であることが好ましい。蒸気の圧力や気流の速度が高すぎる場合には、繊維ウェブ中の繊維が動くことにより地合に乱れを生じたり、繊維形状を保持されない部分が生じる傾向がある。また、蒸気の圧力や気流の速度が低すぎる場合には、繊維ウェブを形成する繊維同士を接着させるのに充分に均一な熱量が付与されなかったり、水蒸気が繊維ウェブを充分に通過せず厚さ方向に接着斑を生ずる場合がある。さらに、ノズルからの蒸気の均一噴出の制御が困難になる場合もある。高温水蒸気の温度としては、70〜150℃、さらには80〜140℃、とくには90〜130℃、ことには100〜120℃程度であることが好ましい。
このような湿熱処理により得られる不織繊維基材の見掛け密度としては、0.1〜0.7g/cm3、さらには0.12〜0.6g/cm3、とくには0.15〜0.5g/cm3、ことには0.2〜0.4g/cm3程度であることが好ましい。不織繊維基材の見掛け密度が低すぎる場合には研磨面の表面粗さが大きくなって段差解消性が低下する傾向がある。また、一方、不織繊維基材の見掛け密度が高すぎる場合には、繊維ウェブに蒸気が通過しにくくなりることにより、厚さ方向に接着斑が生じやすくなる傾向がある。
上述したような湿熱処理を行うための装置の構成としては、コンベアやローラを用いて繊維ウェブを搬送しながら、繊維ウェブを蒸気や熱水に接触させるような構成であれば特に限定されないが、代表的な構成を以下に説明する。
互いの間隔を任意に調整可能な、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとを備える一対のコンベア装置を準備する。そして、コンベア装置の片側のメッシュコンベアの背面に、他の側のメッシュコンベアに向けて略垂直に蒸気を噴射するように蒸気噴射装置を配置する。そして、このような装置構成の湿熱処理装置において、不織繊維基材が目的とする厚みになるように上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間隔を調整し、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間に繊維ウェブを介挿し、介挿した状態で繊維ウェブを搬送する。そして、搬送される繊維ウェブが蒸気噴射装置から噴射される蒸気に接触することにより、繊維ウェブを形成する繊維同士が接着されて不織繊維基材が形成される。
なお、背面に蒸気噴射装置が配されたメッシュコンベアに対向する、他の側のメッシュコンベアの背面には、必要に応じて蒸気を吸引排出するためのサクションボックスを配置してもよい。サクションボックスを配置することにより、繊維ウェブに蒸気を効果的に通過させることができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスとは一組のみであっても、例えばコンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配するように、複数組設けるような構成であってもよい。なお、コンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配する場合、上流側と下流側の蒸気噴射装置とサクションボックスとを互いに逆方向に向くように配置することが好ましい。このように配置することにより、繊維ウェブの表面及び裏面の両面から蒸気を通過させるために、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスを一組のみ配置する場合には、一度蒸気噴射装置で湿熱処理した繊維ウェブを、表裏を反転させて再度蒸気噴射装置で湿熱処理することにより、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、サクションボックスを配置しない場合には、その代わりにステンレス板などを設置して蒸気が抜けない構造にすることにより、一旦繊維ウェブを通過した蒸気がステンレス板で留められるために蒸気の保温効果によって接着斑が抑制される。
また、不織繊維基材の見掛け密度を調整するためには、目付け量を調整した繊維ウェブを用い、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間、またはローラーのギャップ等を調整して、所定の厚さに圧縮した状態で蒸気を噴射することが好ましい。特に、高密度の成形体を得ようとする場合には、繊維ウェブを充分に圧縮した状態で湿熱処理することが好ましい。また、メッシュコンベアの場合には、急激に繊維ウェブを圧縮することが難しいために、メッシュコンベアの張力を高く設定し、上流側から下流側に向かって徐々に上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとのクリアランスを狭めていくことが好ましい。なお、コンベアベルトやローラー表面の材質は、蒸気処理に耐えられるものであれば特に制限はないが、耐熱処理したポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリアリレートや全芳香族系ポリエステル等の耐熱性樹脂であることが好ましい。
次に、所望の空隙率に調整するために、湿熱処理により得られた不織繊維基材を熱プレスや加熱ロール等を用いて高密度化する。なお、この場合、加熱温度を繊維表面の樹脂の融点よりやや低い温度で行うことにより、表面にスキン層が形成されて厚さ方向に繊維の接着斑やシートの密度斑が発生することを抑制できる。例えば、熱プレスの条件としては、湿熱接着性繊維に含まれる湿熱接着性樹脂の融点よりも、5〜30℃、さらには7〜25℃、とくには10〜20℃低い温度で、1〜100MPa、さらには3〜50MPa、とくには5〜30MPaの圧力で行うような条件が挙げられる。この際、上記した熱プレスの前に、湿熱接着性樹脂の融点より好ましくは30〜100℃、さらには35〜90℃、とくには40〜80℃低い温度で、予備的に熱プレスを行ってもよい。このように二段階で高密度化を行うことにより、一段目で繊維の接着を防止しながらある程度高密度化し、二段目で繊維を接着させつつ高密度化することができる。この結果、スキン層形成の防止効果が一層高くなり、厚み方向にさらに均一に高密度化することができる。なお、このような高密度化する処理においても、蒸気処理を併用することができるが、その場合にも湿熱接着性樹脂が完全に溶融しないような温度に設定することが好ましい。
以上のようにして、研磨パッドの研磨層として用いられるシートが製造される。得られたシートは、必要に応じて、裁断,切削,スライス,打ち抜きなどにより、研磨パッドに適した形状に加工されたのち研磨層として用いられる。このようにして得られたシートは、繊維ウェブを機械的に絡合させたり、熱プレスにより熱接着させたようなシートに比べて、全体的に均一に繊維が接着されているために均一性に優れるとともに、接着された繊維により低い空隙率、すなわち高密度に仕上げられているために、高い硬度や耐久性、表面平滑性が得られる。
このようにして得られたシートを研磨層として用いた研磨パッドは、研磨層のみからなる単層の研磨パッドとしても、研磨層の研磨面に対して反対側の面にクッション性を付与するために、発泡構造または無発泡構造を有するエラストマーシートやエラストマーを含浸させた不織布等からなる公知のクッション層を積層したような複層構造の研磨パッドとして用いてもよい。クッション層は、粘着剤や接着剤を用いてシートに積層される。クッション層のアスカーC硬度としては、30〜80であることが平坦性と研磨均一性に優れる点から好ましい。
研磨層の厚さは特に限定されないが、0.6〜4.0mm、さらには0.8〜3.5mm、とくには1.0〜3.0mm、ことには1.2〜2.5mmであることが研磨性能とパッド寿命の観点から好ましい。研磨層が薄すぎる場合には研磨パッドの寿命が短くなり、また、研磨装置の定盤や積層されたクッション層の影響を受けやすくなるために研磨層が摩耗するにつれて研磨性能が不安定になる傾向がある。また、研磨層が厚すぎる場合には剛性が高くなり、クッション層を積層しても研磨均一性が低下することがある。
また、研磨層の表面には、必要に応じて研削,レーザー加工,エンボス加工等により、研磨スラリーを保持させるための溝や穴を形成することが好ましい。このような溝や穴の深さとしては、研磨層の厚みに対して、30〜90%、さらには35〜85%、とくには40〜80%であることが、クッション層を積層した場合には特に、研磨均一性と平坦化性能のバランスに優れる点から好ましい。
このようにして得られた研磨層を備える研磨パッドは、例えば、シリコンウェハなどの半導体基板やガラス基板の研磨の他、半導体デバイスや液晶ディスプレイデバイスのような、基板上に絶縁膜や金属膜などが形成された基材の研磨に好ましく用いられる。研磨方法としては、化学機械研磨装置(CMP装置)と研磨スラリーを用いた化学機械研磨法(CMP)が好ましく用いられる。CMPとしては、例えば、CMP装置の研磨定盤に研磨層を備える研磨パッドを貼り付け、研磨層表面に研磨スラリーを供給しながら、研磨パッドに被研磨物を押し当てながら加圧し、研磨定盤と被研磨物をともに回転させることにより被研磨物の表面を研磨する方法が挙げられる。なお、研磨前や研磨中には、必要に応じて、ダイヤモンドドレッサー等のドレッサーを使用して研磨面をコンディショニングして整えることが好ましい。
次に、本発明に係る研磨パッド及びその製造方法を実施例により具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、実施例中の「部」および「%」は特にことわりのない限り、質量基準である。
[製造例1]
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH、エチレン共重合率44モル%、ケン化度98.4モル%、融点165℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を準備した。この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、カード法により目付約2500g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブを、コンベア装置とその経路に水蒸気を噴射させる水蒸気噴射装置とを備えた湿熱処理装置に移送した。
なお、コンベア装置は、50メッシュ,幅500mmのポリカーボネート製エンドレスネットからなる、上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとを備え、それらがそれぞれ同速度で同方向に進行し、かつ、互いの間隔を任意に調整可能な一対のメッシュコンベアを備える。また、コンベア装置の上流側には、下側メッシュコンベアの裏側に、搬送されるカードウェブに向かってネットを介して高温水蒸気を吹き付ける水蒸気噴射装置が配置されており、一方、上側メッシュコンベアの裏側にはサクション装置が配置されている。逆に、コンベアの下流側では、下側メッシュコンベアの裏側に同様のサクション装置が配置されており、上側メッシュコンベア内の裏側に同様の水蒸気噴射装置が配置されている。各水蒸気噴射装置は、コンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた複数の孔径0.3mmのノズルを有する。また、ノズルはメッシュコンベアのネットの裏側にほぼ接するように配置されている。このような構成によれば、カードウェブの表裏の両面に対して高温水蒸気が吹き付けられる。
各水蒸気噴射装置から0.6MPaの高温水蒸気を略垂直に噴出させることにより、搬送されるカードウェブに水蒸気処理を施した。なお、コンベアの搬送速度は3m/分であり、厚み約6mmの不織繊維基材が得られるように上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとの間隔を調整した。このようにして、湿熱性接着性繊維同士が湿熱接着して形成された厚み約6mmの不織繊維基材が得られた。
そして、得られた不織繊維基材を、厚さ2.5mmのスペーサーを用いて120℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.4mmのスペーサーを用いて、150℃,15MPaの条件で5分間の熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.0mmになるように両面からを均一に切削することによりシート1を得た。
[製造例2]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート2を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.3mmのスペーサーを用いて130℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.2mmのスペーサーを用いて152℃、15MPaの条件で5分間熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。次いで、シートの厚さが1.8mmになるように両面から均一に切削することによりシート2を得た。シート2の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図1に示す。
[製造例3]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート3を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.7mmのスペーサーを用いて90℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.6mmのスペーサーを用いて152℃、15MPaの条件で5分間熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.2mmになるように両面から均一に切削することによりシート3を得た。シート3の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図2に示す。
[製造例4]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート4を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.8mmのスペーサーを用いて153℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを一段階のみで行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.3mmになるように両面から均一に切削することにより、シート4を得た。
[製造例5]
3.0dtexの芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、繊度のみを1.7dtexに変更した芯鞘型複合ステープル繊維を用いた以外は製造例1と同様にして厚さ2.0mmのシート5を製造した。シート5の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図3に示す。
[製造例6]
芯成分がPET、鞘成分がEVOH(エチレン共重合率44モル%、ケン化度98.4モル%、融点165℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)の代わりに、芯成分がPET、鞘成分がEVOH(エチレン共重合率48モル%、鹸化度98.9モル%、融点160℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(5.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=30/70、捲縮数22個/25mm)を形成した以外は製造例1と同様にして不織繊維基材を得た。そして、さらに、不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート6を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.7mmのスペーサーを用いて90℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.6mmのスペーサーを用いて146℃、15MPaの条件で5分間熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.2mmになるように両面から均一に切削することによりシート6を得た。
[製造例7]
芯成分がPET、鞘成分がEVOHである芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、芯成分がポリアミド6(PA6)、鞘成分がEVOH(エチレン共重合率44モル%、鹸化度98.4モル%、融点165℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(5.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=70/30、捲縮数20個/25mm)を形成した以外は製造例1と同様にして不織繊維基材を得た。そして、さらに、不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を製造例4と同様の条件に変更した以外は製造例1と同様にしてシート7を製造した。すなわち、不織繊維基材を厚さ2.8mmのスペーサーを用いて153℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを一段階のみで行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.3mmになるように両面から均一に切削することによりシート7を得た。
[比較製造例1]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート8を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.1mmのスペーサーを用いて120℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.0mmのスペーサーを用いて158℃、15MPaの条件で5分間熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが1.7mmになるように両面から均一に切削することによりシート8を得た。
[比較製造例2]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート9を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ3.4mmのスペーサーを用いて120℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ3.3mmのスペーサーを用いて155℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.5mmになるように両面から均一に切削することによりシート9を得た。
[比較製造例3]
不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート10を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ4.1mmのスペーサーを用いて120℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ4.0mmのスペーサーを用いて155℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが2.5mmになるように両面から均一に切削することによりシート10を得た。シート10の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図4に示す。
[比較製造例4]
湿熱接着性繊維である、芯成分がPET、鞘成分がEVOHである芯鞘型複合ステープル繊維の代わりに、非湿熱接着性繊維の熱融着性繊維である、芯成分がPET、鞘成分が変性PET(イソフタル酸変性量32モル%、融点140℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を形成した以外は製造例1と同様にして不織繊維基材を得た。そして、さらに、不織繊維基材の熱プレス及び切削の条件を次のように変更した以外は製造例1と同様にしてシート11を製造した。具体的には、不織繊維基材を厚さ2.3mmのスペーサーを用いて130℃、15MPaの条件で5分間の熱プレスを行った後、厚さ2.2mmのスペーサーを用いて140℃、15MPaの条件で5分間熱プレスをさらに行うことにより、高密度化したシートを得た。次いで、シートの厚さが1.8mmになるように両面から均一に切削することによりシート11を得た。
[比較製造例5]
非湿熱接着性の熱融着性繊維として、芯成分がPET、鞘成分が変性PET(イソフタル酸変性量32モル%、融点140℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(3.0dtex、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を準備した。この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、カード法により目付約2500g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブをニードルパンチ処理することにより、目付け約2000g/m2、厚み約7mmの不織繊維基材を得た。このようにして得られた不織繊維基材を、厚さ2.2mmのスペーサーを用いて、136℃,15MPaの条件で5分間の熱プレスを行い、高密度化したシートを得た。そして、シートの厚さが1.8mmになるように両面から均一に切削することによりシート12を得た。
[比較製造例6]
EVOH(エチレン共重合率44モル%、ケン化度98.4モル%、融点165℃)の樹脂ペレットを単軸押出成形機に仕込み、T−ダイより押出し、厚さ2.5mmのシートを成形した。そしてシートの厚さが1.8mmになるように両面から均一に切削してシート13を得た。なお、シート13は空孔を全く有しない無発泡のシートであった。
[シート1〜13の評価]
シート1〜13の各種特性を以下のようにして評価した。
〈空隙率〉
シートの一部を切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)のサンプルを作成した。なお、観察用サンプルはシートを厚さ方向に3等分し、3等分して得られた表側部、内側部、裏側部のそれぞれの部分のサンプルを作成した。そして、SEMを用いて、各サンプルを200倍に拡大した撮影像を得た。この撮影像にトレース紙を重ね、透過光を用いて撮影領域と空隙部をトレースした。このトレース図を、イメージアナライザーを用いて、CCDカメラからコンピューターに取り込んだ。そして、画像処理ソフト「ImageJ」を用いて画像を二値化し、観察領域の総面積に対する空隙部の面積の割合をそれぞれ算出した。このとき、観察面の総計がそれぞれ10mm2以上となるように写真を追加して測定を行った。そして、3つの部位の平均値を空隙率とした。
<空孔の大きさ>
「空隙率」の測定と同様にして、3つの部位のシートの断面を200倍に拡大したSEM撮影像を得た後、空隙部をトレースした。このトレース図を、コンピューターに取り込み、それぞれの部位において、画像を二値化した後に任意の各30個の空孔について長軸方向の長さを測定し、その平均値を求めた。そして、3つの部位の平均値を空孔の大きさとした。
〈厚さ、目付け、見掛け密度〉
JIS L1913に準じて、厚さ(mm)および目付け(g/cm2)を測定し、これらの値から見掛け密度(g/cm3)を算出した。
〈デュロメータ硬さ〉
JIS K6253に準じたデュロメータ硬さ試験(タイプD)により、硬さを測定した。
〈繊維接着率〉
「空隙率」の測定と同様にして、3つの部位のシートの断面を200倍に拡大した、SEM撮影像を得た。そして、それぞれの部位において、撮影像に観察される繊維断面の輪郭の総数、及び、周囲に他の繊維の断面が少なくとも一つ以上接着されている繊維断面の輪郭数を計数し、輪郭総数に対する、他の繊維断面に接着している繊維断面の輪郭数の占める割合を次の式に基づいて算出した。
繊維接着率(%)=(他の繊維断面に接着している繊維断面の輪郭数)/(繊維断面の輪郭の総数)×100
なお、計数は、各撮影像において観察される繊維断面の輪郭は全て計数し、輪郭数が100未満の場合には、100以上になるように同じ部位の別の撮影像をさらに追加して行った。
なお、繊維同士が接着することなく単に接触しているだけの場合は、シートを切断したときに繊維の内部応力が解放されて分離する。従って、撮影像において接触している繊維は全て接着しているものとみなした。
〈通気度〉
JISL1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
〈捲縮数〉
JISL1015(8.12.1)に準じて評価した。
結果をまとめて表1に示す。
[実施例1〜5、及び比較例1〜4:銅膜研磨性能評価]
製造例で得られたシート1,3〜5,7,8,10〜12の研磨性能を次のようにして評価した。
各シートを直径38cmの円形状に切り出した。そして、切り出された円形状のシートの表面に、幅0.5mm、深さ0.8mmの溝を2.5mm間隔で同心円状に形成し、直径が38cmの円形状の研磨層を作製した。そして、得られた研磨層の裏面に、厚み1.0mm,アスカーC硬度50の発泡ポリウレタンシートをクッション層として貼りあわせることにより、研磨パッドを得た。そして、得られた各研磨パッドの銅膜研磨性能を次のようにして評価した。
研磨装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付けた。そして、ドレッサー回転数140rpm、研磨パッド回転数100rpm、ドレッサー荷重5Nの条件で、150mL/分の速度で純水を流しながらダイヤモンドドレッサーを用いて、研磨パッド表面を60分間コンディショニングした。なお、(株)エム・エー・ティー製「BC−15」を研磨装置として用い、ダイヤモンド番手#100、台金直径190mmの(株)アライドマテリアル製のダイヤモンドドレッサーを用いた。
そして、研磨パッド回転数100rpm、ウェハ回転数99rpm、研磨圧力24kPaの条件で、酸化ケイ素砥粒を含有する研磨スラリー(フジミ社製「PL7105」)100質量部に対して、純水200質量部および30%過酸化水素水10質量部を混合した液を、100mL/分の速度で供給しながら、初期膜厚1500nmの銅膜を表面に有する直径100mmのシリコンウェハをコンディショニングを行わずに60秒間研磨した。
そして、30秒間のコンディショニングを行った後、新たなウェハに交換して再度研磨及びコンディショニングを繰り返し、同様にして合計20枚のウェハを研磨した。
そして、20枚目に研磨された、銅膜を表面に有するシリコンウェハについて、研磨速度、研磨不均一性、スクラッチの有無、研磨面の表面粗さ及びパッド溝深さの変化を測定した。パッド溝深さの変化はパッドの耐摩耗性、すなわち使用可能時間の評価である。なお、研磨速度、研磨不均一性、スクラッチ、研磨面の表面粗さ及びパッド溝深さは次のようにして測定した。
〈研磨速度および研磨不均一性の測定〉
研磨前および研磨後の銅膜の膜厚をウエハ面内で各49点測定し、各点での研磨速度を求めた。なお、49点は、ウエハ中心1点、中心から15mmの同心円上で45°間隔で8点、中心から30mmの同心円上で22.5°間隔で16点、中心から45mmの同心円上で15°間隔で24点からなる。そして、49点の研磨速度の平均値を研磨速度とした。また、研磨不均一性は下式(1)により求めた不均一性により評価した。不均一性の値が小さいほど、被研磨面内で均一に研磨されており、研磨均一性が優れていることを示す。
不均一性(%)=(σ/R)×100 (1)
(ただし、σ:49点の研磨速度の標準偏差、R:49点の研磨速度の平均値を表す。)
なお、銅膜の膜厚は、ナプソン社製膜厚測定装置「RESISTAGE RT−80」を用いて測定した。
〈スクラッチ測定〉
研磨後の被研磨面をキーエンス社製レーザー顕微鏡「VK−X200」を使用して倍率1000倍でランダムに20ヶ所観察して、傷の有無を確認した。
〈研磨パッドの研磨面の表面粗さ〉
ミツトヨ社製表面粗さ測定器「サーフテストSJ−210」を用い、JIS2001に準拠して研磨直後の表面粗さを測定した。
〈パッド溝深さの減少量〉
使用可能時間の指標として、パッド中心から100mmの位置における溝深さをノギスで測定し、減少量を求めた。
結果をまとめて表2に示す。
表2の結果から、製造例1,3,4,5,7で得られたシートを用いた実施例1〜5で得られた研磨パッドはいずれもスクラッチが発生せず、また、研磨速度も高く、さらに、研磨不均一性も低かった。一方、空隙率が低い比較製造例1で得られたシート8を用いた比較例1で得られた研磨パッドは、研磨速度が低く、スクラッチも発生し、研磨不均一性も高かった。また、空隙率が高い比較製造例3で得られたシート10を用いた比較例2で得られた研磨パッドは、連通孔が存在するためにスラリーが充分に被研磨面に供給されないことにより、研磨速度が低かった。また、湿熱接着性繊維を用いずに作成された比較製造例4で得られたシート11または比較製造例5で得られたシート12を用いた比較例3または比較例4で得られた研磨パッドは、研磨不均一性が著しく高く、また、スクラッチも発生した。
[実施例6〜10、及び比較例5〜8:酸化ケイ素膜研磨性能評価]
製造例で得られたシート1〜3,5,6,8〜10,12の酸化ケイ素膜の研磨性能を次のようにして評価した。
各シートを直径38cmの円形状に切り出した。そして、切り出された円形状のシートの表面に、幅1.0mm、深さ1.0mmの溝を6.0mm間隔で同心円状に形成することにより研磨層を作成した。そして、得られた研磨層の裏面に、厚み1.0mm,アスカーC硬度50の発泡ポリウレタンシートをクッション層として貼りあわせて研磨パッドを作成した。そして、得られた各研磨パッドの酸化ケイ素膜研磨性能を次のようにして評価した。
研磨装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付けた。そして、ドレッサー回転数140rpm、研磨パッド回転数100rpm、ドレッサー荷重5Nの条件で、150mL/分の速度で純水を流しながらダイヤモンドドレッサーを用いて、研磨パッド表面を60分間コンディショニングした。なお、(株)エム・エー・ティー製「BC−15」を研磨装置として用い、ダイヤモンド番手#200、台金直径190mmの(株)アライドマテリアル製のダイヤモンドドレッサーを用いた。
そして、研磨パッド回転数100rpm、ウェハ回転数99rpm、研磨圧力24kPaの条件で、酸化セリウム砥粒を含有する研磨スラリー(日立化成社製「HS−8005」)100質量部に純水900質量部を混合した液を、100mL/分の速度で供給しながら、初期膜厚1000nmの酸化ケイ素膜(プラズマ化学蒸着により形成されたPETEOS酸化ケイ素膜)を表面に有する直径100mmのシリコンウェハをコンディショニングを行わずに60秒間研磨した。
そして、30秒間のコンディショニングを行った後、新たなウェハに交換して再度研磨及びコンディショニングを繰り返し、同様にして合計20枚のウェハを研磨した。
そして、20枚目に研磨された酸化ケイ素膜を表面に有するシリコンウェハについて、研磨速度、研磨不均一性、スクラッチの有無、研磨面の表面粗さ及びパッド溝深さの変化を測定した。なお、酸化ケイ素膜の膜厚をナノメトリクス社製膜厚測定装置「Nanospec Model5100」を用いて測定した以外は、銅膜研磨性能評価における測定方法と同様に行った。
結果をまとめて表3に示す。
[実施例11〜14、及び比較例9〜12:パターンウェハ研磨性能評価]
製造例で得られたシート1〜3,5,8,10,13及び市販品の発泡ポリウレタン研磨パッドのパターンウェハの研磨性能を次のようにして評価した。
製造例で得られた各シートを直径38cmの円形状に切り出した。そして、切り出された円形状のシートの表面に、幅1.0mm、深さ1.0mmの溝を6.0mm間隔で同心円状に形成し、直径が38cmの円形状の研磨層を作製した。そして、得られた研磨層の裏面に、厚み1.0mm,C硬度50の発泡ポリウレタンシートをクッション層として貼りあわせることにより、研磨パッドを得た。また、市販品の発泡ポリウレタン研磨パッドとしては、クッション層を下層に有する市販の発泡ポリウレタン研磨パッド(ニッタハース社製「IC1400」)に同様の溝を形成したものを用いた。そして、得られた各研磨パッドのパターンウェハ研磨性能を以下のようにして評価した。
研磨装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付けた。そして、ドレッサー回転数140rpm、研磨パッド回転数100rpm、ドレッサー荷重5Nの条件で、150mL/分の速度で純水を流しながらダイヤモンドドレッサーを用いて、研磨パッド表面を60分間コンディショニングした。なお、(株)エム・エー・ティー製「BC−15」を研磨装置として用い、ダイヤモンド番手#200、台金直径190mmの(株)アライドマテリアル製のダイヤモンドドレッサーを用いた。
そして、研磨パッド回転数100rpm、ウェハ回転数99rpm、研磨圧力24kPaの条件で、酸化ケイ素砥粒を含有する研磨スラリー(日立化成社製「HS−8005」)100質量部に純水1900質量部を添加して混合した液を、100mL/分の速度で供給しながら、初期膜厚1000nmでパターンのない酸化ケイ素膜(プラズマ化学蒸着により形成されたPETEOS酸化ケイ素膜)を表面に有する直径50mmのシリコンウェハをコンディショニングを行わずに60秒間研磨した。
そして、30秒間のコンディショニングを行った後、新たなウェハに交換して再度研磨及びコンディショニングを繰り返し、同様にして合計10枚のウェハを研磨した。
次に、線状の凸部と凹部が交互に繰り返し並んだ凹凸パターンを有する、SKW社製STI研磨評価用パターンウェハ「SKW3−2」を上記と同様の条件で1枚研磨した。なお、このパターンウェハは様々なパターンの領域を有するものであり、膜厚および段差の測定対象として、凸部幅100μmおよび凹部幅100μmのパターンを選択した。このパターンは凸部と凹部の初期段差が550nmであり、凸部がシリコンウェハ上に膜厚15nmの酸化ケイ素膜、その上に膜厚140nmの窒化ケイ素膜、さらにその上に膜厚700nmの酸化ケイ素膜(高密度プラズマ化学蒸着により形成されたHDP酸化ケイ素膜)を積層した構造であり、パターン凹部はシリコンウェハをエッチングして溝を形成した後に膜厚700nmのHDP酸化ケイ素膜を形成した構造である。このパターンウェハの研磨において、研磨によりパターン凸部の窒化ケイ素膜上に積層された酸化ケイ素膜が消失するまでの時間、及びその時点における凸部と凹部との段差を求めた。パターンウェハの研磨時間が短く、段差が小さいほど研磨速度と平坦性に優れているといえる。なお、パターンウェハの段差は、表面粗さ測定機((株)ミツトヨ製「SJ−400」)を用い、標準スタイラス、測定レンジ80μm、JIS2001、GAUSSフィルタ、カットオフ値λc2.5mm、およびカットオフ値λs8.0μmの設定で測定を行い、断面曲線から求めた。
結果をまとめて表4に示す。
表4の結果から、製造例1,2,3,5で得られたシートを用いた実施例11〜14で得られた研磨パッドはいずれも研磨速度が高いため研磨に要する時間が短く、また、研磨後の段差も小さく段差解消性にも優れていた。一方、空隙率が低い比較製造例1で得られたシート8を用いた比較例9で得られた研磨パッドは、研磨速度が低くなった。また、空隙率が高い比較製造例3で得られたシート10を用いた比較例10で得られた研磨パッドは、連通孔が存在するためにスラリーが充分に被研磨面に供給されないことにより研磨速度が低くなった上、研磨面の表面粗さが大きいために研磨後の段差も大きく段差解消性に劣っていた。また、空隙を全く有さない比較製造例6で得られたシート13を用いた比較例11で得られた研磨パッドは、スラリー保持性が低いために研磨速度が低くなった。