JP6049056B2 - 光学用セラミックスとその製造方法 - Google Patents

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本発明はレーザーロッド等の光学用セラミックスの粗面化に関する。
出願人は、単結晶と同等の透光度を有する多結晶の光学用セラミックスを製造することに成功した。例えば特許文献1(JP4878343B)で、透明な希土類ガリウムガーネット(Ln3Gd5O12:Lnは希土類元素)の製造方法を開示した。また特許文献2(JP2003-20288A)で、透明な希土類アルミニウムガーネット(Ln3Al5O12)の製造方法を開示した。ところで光学用セラミックスは全ての面が透明であることが望まれるのではなく、一部の面を粗面化して不透明にすることが望まれることがある。例えばレーザーロッドの場合、側面を粗面化して寄生発振を防止することが望まれる。
特許文献3(JPS63-211779A)は、Ndドープのレーザー用ガラスを1000メッシュのアルミナ粒子によりラッピングして表面を粗面化し、次いで100μm深さまで化学エッチングすることにより、粗面化により生じたマイクロクラックを除去することを開示している。なおラッピングは、液体に研磨剤を分散させ、研磨する面と基台との間に研磨剤を分散させた液を置き、研磨する面と基台との相対運動により研磨を行うこと等を意味する。そしてエッチングによりマイクロクラックを除去することにより、レーザーを高出力で動作させても、レーザー用ガラスが破壊されなくなると、特許文献3は記載している。
しかしながらセラミックスに化学エッチングを施すと、マイクロクラックの除去に対して粒界へのエッチングが先行してしまい、粗面部分の粒子に脱粒が起こってしまう。それにより、表面の平滑度が良好となってしまう問題が発生する。発明者の実験では、多結晶セラミックスのNd-YAGレーザーロッドの側面を粗面化した後、エッチングを施すと、表面粗さRaは0.2μm程度と小さくなってしまった。表面粗さは0.3μm以上から効果があり、好ましくは0.5μm以上である。また、化学エッチングはセラミックスの通常の製造プロセスとは異なるプロセスなので、エッチングプロセスの導入はセラミックスメーカーにとって負担になる。また適切なエッチング条件の選定が難しい。
JP4878343B JP2003-20288A JPS63-211779A
本発明の課題は、エッチングを用いずかつ簡単に、光学用セラミックスの表面を粗面化することにある。
本発明のレーザーロッド用の光学用セラミックスは、多結晶の透光性の焼結体からなり、側面に、光学用セラミックスの表面方向に沿って表面のグレインよりも大きな範囲に及ぶ相対的に大きな凹凸と、表面のグレインが凸化した相対的に小さな凹凸との2種類の凹凸を有し、かつ表面粗さRaが0.3μm以上である。
本発明の光学用セラミックスの製造方法では、粉体を成型及び焼結することにより多結晶の焼結体からなる透光性の光学用セラミックスを製造する工程と、
光学用セラミックスの表面の一部を、平均粒径が20μm以上の研磨剤により粗面化する工程と、
粗面化後の光学用セラミックスを熱処理することにより、前記表面の一部で、粗面化により生じたマイクロクラックを除去すると共に、光学用セラミックスの表面方向に沿って表面のグレインよりも大きな範囲に及ぶ相対的に大きな凹凸を形成し、さらに表面グレインを凸化する工程と、
光学用セラミックスの表面の他の一部を鏡面研磨する工程、とをこの順に行う。
本発明では、化学エッチングではなく、熱処理により、マイクロクラックを解消する。このためエッチング用の設備も、エッチング条件の選定も不要で、腐食性のエッチング液を取り扱う必要もない。なおこの明細書において、光学用セラミックスの製造方法に関する記載はそのまま光学用セラミックスにも当てはまる。研磨剤はアルミナ,SiC,ダイアモンド等を用い、サンドブラスト、研磨剤の押し付け、研磨剤を付着させたシートによる研磨等により粗面化し、サンドブラスト及び研磨剤の押し付けが特に好ましい。
好ましくは、光学用セラミックスは希土類アルミニウムガーネット、希土類ガリウムガーネットもしくは希土類酸化物であり、平均粒径が20μm以上の研磨剤により粗面化を行い、かつ1300℃以上1700℃以下で熱処理する。なおこの明細書では、粗面化した面の表面粗さを算術平均表面粗さRaで表す。表面粗さRaは一般に研磨剤の平均粒径よりも小さく、Raを1μm以上にするには、希土類を構成元素とするガーネットもしくは希土類酸化物の場合、平均粒径が20μm以上の研磨剤が必要である。また希土類を構成元素とするガーネットもしくは希土類酸化物の場合、セラミックスの表面で原子が自由に移動する温度(サーマルエッチングが始まる温度)が熱処理温度に適し、この温度は1300℃以上である。この一方で熱処理温度が1700℃を越えると、粗面化の効果が失われることがある。なおこの明細書では、希土類はYを含むものとする。
特に好ましくは、平均粒径が30μm〜300μmの研磨剤を光学用セラミックスの表面にサンドブラストもしくは押し付けることにより粗面化し、かつ真空中もしくは水素中1300℃〜1500℃で熱処理する。この時、粗面化した表面グレインが半球状に凸化する。これにより、サンドブラストもしくは押し付けることにより大きく粗面化した部分に、更に細かく粗面を形成することができ、より効率的に粗面化を行うことができる。希土類アルミニウムガーネット、希土類ガリウムガーネットもしくは希土類酸化物のセラミックス表面に、平均粒径が30μm〜300μmの研磨剤をサンドブラストもしくは押し付けることにより、表面粗さRaが1.5〜3μm程度に粗面化ができ、これを1300℃〜1500℃ですることにより、マイクロクラックを消滅させることができる。
実施例のレーザーロッドの斜視図 実施例のレーザーの部分切欠部着き側面図 実施例のレーザーロッドでの粗面化部分の表面粗さを示す特性図 変形例のレーザーロッドでの粗面化部分の表面粗さを示す特性図 実施例のレーザーロッドでの粗面化部分の電子顕微鏡写真
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明は実施例に制約されるものではなく、実施例を特許文献1等の公知技術と当業者に周知の事項に従って変更できる。
図1〜図5に実施例を示す。図1はレーザーロッド2の形状を示し、丸棒状でその両端面が鏡面4,4で、側面が粗面6をなしている。なお側面全体でなくその一部が粗面化されていても良い。また光学用セラミックスはレーザーロッド2に限らず、ディスク状、プリズム状、レンズ状等でも良いが、レーザーロッド以外のものはこの発明には含まれない。また粗面化する面は側面である。レーザーロッド2は例えばNd-YAGの多結晶セラミックスで、Y原子の1atm%がNd原子で置換され、セラミックスの平均粒子径は例えば1.3μm、焼成条件は例えば真空中で最高焼成温度が1800℃である。粗面6はRaが少なくとも0.3μm以上で、例えば0.5μm以上、好ましくは1μm以上必要である。Raを5μm超にするには研磨剤の粒径を大きくする必要があり、これはサンドブラスト、研磨剤の押し付け等の際にレーザーロッド2に深いクラックを発生させるので、Raは5μm以下が好ましい。Raは例えば0.3μm以上5μm以下で、好ましくは0.5μm以上5μm以下、特に好ましくは1μm以上3μm以下である。
図2はレーザー10を示し、レーザーロッド2と対向してXeランプ、LED等の励起光源14を配置し、内面を反射面とした容器14内にレーザーロッド2と励起光源14とを配置し、共振ミラー16,18を鏡面4,4と向かい合うように配置する。共振ミラー16は全反射用,共振ミラー18は部分反射用で、一部の光をレーザービームとして出力する。
レーザーロッド2の製造例を示す。特許文献2に準拠してYAGの多結晶光学用セラミックスを製造した。硝酸イットリウムと硝酸アルミニウムと硝酸ネオディウム(Y:Al:Ndはモル比で297:500:3)とを含む水溶液に、コロイダルシリカ(SiO2としてY3Al5O12 100wt%に対して0.04wt%)と尿素と濃硫酸とを加え、100℃で撹拌下に沈殿させ、濾過と水洗を繰り返してYAGの原料粉末を得た。なおYの1atm%がNdで置換されている。原料粉末に分散媒とバインダーとを加えて、直径4mm、長さ12mmのロッド状に成型し、1100℃で脱脂し、1800℃で真空中で10時間焼成して、光学用セラミックスとした。このセラミックスは、顕微鏡で破断面を観察した際の平均粒径が1.3μmであった。
セラミックスの側面にサンドブラストあるいは研磨剤の押しつけを行って粗面化した。次いで真空中で最高焼成温度に1時間保つように熱処理して、粗面化に伴うマイクロクラックを除去した。真空中に変えて水素中でも良い。焼成後に、セラミックスの両端面を表面粗さRa=0.1〜0.5nm、平坦度=λ/10(λ=633nm)に鏡面研磨し、図1に示すレーザーロッド2とした。各試料の表面粗さとレーザーロッドとしての性能を、表1に示す。試料1の表面粗さ計のデータを図3に(縦倍率2800倍)、試料3の表面粗さ計のデータを図4に(縦倍率1400倍)に示す。また試料1の表面の電子顕微鏡写真を図5に示す。図5のスケール全体が50μmで、セラミックスの表面には粗面化により大きな凹凸が生じると共に、表面のグレインが半球状に凸化していることが分かる。
表中、アルミナ170μm等は用いた研磨剤とその平均粒径を、レーザー発振性能での0.3W等はレーザーの発振閾値となる励起光源の出力を示す。24.8%等は発振閾値から励起光源の出力を増した際のスロープ効率を示し、これは励起光源出力の増加分当たりの発振出力の増加分である。また14W等はシングルモードでの最大出力を、40W等はマルチモードでの最大出力を示す。熱処理の欄が…の試料5に対しては粗面化処理のみを行い、熱処理を行わなかった。また試料6では、粗面化した側面を、エッチング液を濃硫酸と濃リン酸の1:1混合液として、170℃で120分間エッチングした。
粗面化後に化学エッチングを行うと、粗面化した面がRaが0.2μmまで平滑化され、これに伴ってレーザー発振でのスロープ効率と最大出力とが低下した。また、粗面化のみを行い、熱処理を行わない場合は、表面グレインが凸化しなかったため、レーザー発振でのスロープ効率と最大出力とが少し低下した。これに対して、粗面化後に熱処理を行うと表面のグレインが半球状に凸化した。このためセラミックスの表面はサンドブラスト等により大きく粗面化し、グレインの凸化によりさらに細かく粗面化する構造となった。なお粗面化後に熱処理を施しても、表面粗さRaは基本的に粗面化時のままであった。そしてレーザー発振でのスロープ効率と最大出力性能において、最良の結果が得られた。また熱処理は焼成炉で行えるので、追加の設備が不要である。さらに熱処理では、化学エッチングとは異なり、毒性の蒸気が発生したり、腐食性の液体を使用したりすることがない。サンドブラスト、研磨剤の押し付け等により粗面化した面を熱処理すると、その後の鏡面研磨時にレーザーロッドに欠けが発生したり、最大出力での発振時に割れが発生したりすることがなかった。
2 レーザーロッド
4 鏡面
6 粗面
10 レーザー
12 励起光源
14 容器
16,18 共振ミラー

Claims (3)

  1. 多結晶の焼結体からなる透光性の光学用セラミックスであって、
    側面に、光学用セラミックスの表面方向に沿って表面のグレインよりも大きな範囲に及ぶ相対的に大きな凹凸と、表面のグレインが凸化した相対的に小さな凹凸との2種類の凹凸を有し、
    かつ表面粗さRaが0.3μm以上である、レーザーロッド用の光学用セラミックス。
  2. 光学用セラミックスは希土類アルミニウムガーネット、希土類ガリウムガーネットもしくは希土類酸化物であることを特徴とする、請求項1の光学用セラミックス。
  3. 粉体を成型及び焼結することにより多結晶の焼結体からなる透光性の光学用セラミックスを製造する工程と、
    光学用セラミックスの表面の一部を、平均粒径が20μm以上の研磨剤により粗面化する工程と、
    粗面化後の光学用セラミックスを熱処理することにより、前記表面の一部で、粗面化により生じたマイクロクラックを除去すると共に、光学用セラミックスの表面方向に沿って表面のグレインよりも大きな範囲に及ぶ相対的に大きな凹凸を形成し、さらに表面グレインを凸化する工程と、
    光学用セラミックスの表面の他の一部を鏡面研磨する工程、とをこの順に行う光学用セラミックスの製造方法。
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